説明

インクジェット記録ヘッド、インクジェット記録ヘッドの製造方法および記録装置

【課題】記録ヘッドに設けられる複数の液体吐出基板同士の間、もしくは液体吐出基板の周囲に配されたプレートとの間にインクが溜まることなく、さらに、液体吐出基板の損傷などが生じないインクジェット記録ヘッドを提供すること。
【解決手段】樹脂507内部に空洞508を設けることで、隣り合う液体吐出基板200と液体吐出基板200の間に窪みを作ることなく、樹脂507の実質的な体積を減らしている。これによって液体吐出基板200間の窪みにインク等が溜まることが無く、製造工程や製品の使用環境における温度変化で樹脂が伸縮しても、空洞508が無く樹脂507で満たされている場合と比べて、液体吐出基板200に加わる外力を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等を記録媒体に吐出するインクジェット記録ヘッド、該インクジェット記録ヘッドの製造方法および記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に対してインクを吐出することで記録を行うインクジェット記録方式を採用した記録装置は、他の方式の記録装置と比較して高精細化が容易であり、しかも高速記録性および静寂性に優れ、且つ廉価であるという優れた特徴を有している。しかし、最近はパーソナルコンピュータやデジタルカメラ等の普及が著しく、画像出力機器としてのインクジェット記録装置ないしはインクジェット記録ヘッドには動作の安定化が求められている。
【0003】
図15(a)は、例えば特許文献1に開示されている従来のインクジェット記録ヘッドを示した概略上面図であり、図15(b)は図15(a)の側面の一部分を示した部分断面図である。支持部材1504にフレキシブル基板1502が接着されており、さらにその上にインクを吐出するための複数の微細なノズルを有した基板(以下、液体吐出基板という)1501が搭載されている。その液体吐出基板1501の周囲は封止剤1503で封止されている。この封止剤1503によって、液体吐出基板1501の側面がインクと接触すること、また、フレキシブル基板1502と液体吐出基板1501とを接続するリード端子がインクによって腐食することや外力によって断線すること等を防止している。
【0004】
ところで、インクジェット記録装置には特有の記録状態回復手段(以下、単に回復手段ともいう)が用いられる。インクジェット記録装置の場合、吐出口からインクが吐出される際に、微細なインク滴(インクミスト)が生じて、そのインク滴が記録ヘッドの吐出口形成面に付着したり、その他にも紙粉等の塵埃が吐出口形成面に付着することがある。このような付着物が原因になって、インクの吐出不良が引き起こされ、記録の高品位化が阻害される。そこで、それらの吐出不良の要因を取り除く手段として、ゴム等の弾性素材で作られたワイピング部材で液体吐出基板の吐出口形成面を払拭(以下、ワイピングともいう)してインク滴やゴミ等を取り除く回復手段が一般的に用いられている。
【0005】
液体吐出基板1501の寸法は一般に小さいこともあり、ワイピングの際には複数の液体吐出基板1501を1つのワイピング部材でワイピングするのが一般的である。しかし、このようなワイピングを行う場合、液体吐出基板1501と液体吐出基板1501との間の窪み部分1505にインクが溜まりやすい。
【0006】
図16は、液体吐出基板1501と液体吐出基板1501との間の窪み部分1505にインク1601が溜まった状態を示した図である。このようにして溜まったインク1601は、次回のワイピングによって凹部分からかき出されて吐出口面を汚し、その汚れが原因で記録不良を起こしたり、溜まったインクが記録時に紙面に落ちるなどの不具合を引き起こすおそれがある。
【0007】
一方、単一の液体吐出基板のみが使用される場合であっても、液体吐出基板の突出を防ぐ目的で周囲をプレートで囲う場合ある。この場合もワイピングの際には基板とプレートの間に窪みがあるとインクが溜まりやすい。
【0008】
このような現象を無くすためには、液体吐出基板1501同士、もしくは液体吐出基板とプレートの間にインクが溜まるような窪みが無いように封止剤1503で封止することが効果的である。
【0009】
【特許文献1】特開2006−56243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし窪みを無くすように封止材を充填した場合、次のような不都合が発生することがあった。
【0011】
図17および図18は、従来のインクジェット記録ヘッドにおいて、封止剤1503による内部応力α、βが発生した状態を示した図である。液体吐出基板1501同士の間の部分が平坦になるように封止を行う場合、比較的大量の封止剤1503を使用することになる。図17のように、複数の部材に対して密着性の高い封止剤1503を選定する場合、その封止剤1503は、硬化後の内部応力が大きい、あるいは線膨張係数が大きいものとならざるをえないことがある。これら、硬化後の内部応力αが大きい、あるいは線膨張係数が大きい封止剤は、製造工程における温度変化や、製品の使用環境における温度変化に基づく封止剤1503の伸縮によって、液体吐出基板1501に外力を加えて割ってしまうおそれがある。
【0012】
このような液体吐出基板1501の割れを防止するためには、液体吐出基板1501の周囲を封止する封止剤1503の量を必要最小限に抑えればよい。しかし、インクが溜まるような窪みを無くす観点からは上述したように比較的大量の封止剤1503を使用せざるを得ず、すると液体吐出基板1501の損傷などの問題を生じることになる。
【0013】
また、図18のように、液体吐出基板1501同士の間の部分が平坦になるように封止剤1503によって封止した場合、記録時に封止剤1503がインクと接触して膨潤することがある。その場合にも応力βが発生して、液体吐出基板1501側面から封止剤1503が剥がれる恐れがある。このような不具合は特に液体吐出基板1501を極細化もしくは長尺化した場合に発生しやすい。
【0014】
よって本発明は、記録ヘッドに設けられる液体吐出基板同士、もしくは液体吐出基板とその周囲を囲むプレートの間にインクが溜まることなく、さらに、液体吐出基板の損傷などが生じないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そのため本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するための吐出口が設けられた液体吐出基板を備え、前記液体吐出基板は、吐出口が形成された面を具備する第1の部材と該第1の部材を支持する第2の部材とを有し、前記液体吐出基板の周囲を封止剤によって封止したインクジェット記録ヘッドにおいて、前記第2の部材の側面は前記封止剤によって封止されており、前記封止剤の内部には空洞が設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、吐出口を備えた面を具備する第1の部材と該第1の部材を支持する第2の部材とで液体吐出基板を形成する工程と、
インクを吐出して記録を行う前記液体吐出基板の周囲を封止剤によって封止する工程を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記第2の部材の側面を前記封止剤によって封止する封止工程と、前記封止剤の内部に予め定められた大きさの空洞を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のインクジェット記録装置は、上記インクジェット記録ヘッドを用いて記録を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、記録ヘッドの液体吐出基板同士の間、もしくは液体吐出基板とその周囲を囲むプレートとの間で、液体吐出基板の一部を形成する支持部材の側面が封止されるように封止剤によって封止し、その封止剤の内部に空洞を設ける。これによって、記録ヘッドの液体吐出基板同士の間にインクが溜まることなく、さらに液体吐出基板の損傷等が生じないインクジェット記録ヘッド、インクジェット記録ヘッドおよび記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用可能な記録装置の主要部を表わした斜視図である。記録を行う際には記録装置100の給紙位置から矢印P方向に記録媒体105を挿入する。挿入された記録媒体105は、その後搬送方向が反転されて、送りローラ106によって副走査方向である矢印R方向に送られる。そして、記録可能領域においてインクジェットカートリッジ104が主走査することで記録媒体105に記録が行われる。記録可能領域において記録媒体105の下側には、記録媒体105を適正位置に保持するためのプラテン107が設けられている。インクジェットカートリッジ104を搭載可能なキャリッジ101は、2つのガイド軸102、103によって保持されており、不図示の駆動モータによって主走査方向(矢印Q1、Q2方向)に走査を行う。記録装置の記録部では、キャリッジ101の主走査と記録媒体105の副走査とを交互に繰り返しながら、キャリッジ101に搭載されたインクジェットカートリッジ104の記録ヘッド(不図示)から記録媒体105に対してインクを吐出して記録が行われる。
【0020】
図2は、本実施形態のインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドともいう)201を示す概略斜視図である。記録ヘッド201は、インク等の液体を供給する液体供給部材204と、液体供給部材204から供給される液体が通る後述する液体供給路を有する支持部材202と、後述する液体供給穴を有したフレキシブル配線基板203とを備えている。さらに記録ヘッド201は、液体供給部材204から供給される液体を吐出可能にフレキシブル配線基板203上に設けられた複数の液体吐出基板200を備えている。また、液体供給部材204には、不図示のインクタンクが例えば着脱可能に取り付けられ、インクタンクからインク等を液体吐出基板200に供給するための供給路(不図示)が備えられている。
【0021】
図3は、本実施形態で用いる液体吐出基板200を表わした斜視図である。また、図4は、液体吐出基板200の一部を拡大して示した図である。液体吐出基板200は、吐出口407を備えた第1の部材303とその第1の部材303を支持する第2の部材302からなっている。第1の部材303は、その表面に開口する吐出口407と連通するインク流路が内部に形成されている流路形成部材である。そしてSi基板302の中央部に表面から裏面まで貫通する液体供給口301が開口しており、表面には複数の電気熱変換素子403が所定の位置に配置されている。そして、液体吐出基板200には、電気熱変換素子に対応する発泡室409や吐出口407が樹脂等の部材で形成されている。さらに液体吐出基板200の吐出口407を有する面と反対の面には、液体吐出基板200の電気熱変換素子403に電力や記録信号を外部から送るための裏面電極(不図示)が形成されている。
【0022】
図5(a)は、本実施形態のインクジェット記録ヘッド201の断面図であり、図5(b)は、その上面図である。
【0023】
支持部材202の所定の位置には、その裏面から表面へ貫通して、液体吐出基板200にインク等を供給するための液体供給路501が形成されている。また、フレキシブル配線部材502は、外部からの電力や電気信号を液体吐出基板200に伝えるものであり、その表面の所定の位置に、液体吐出基板200の裏面に設けた裏面電極503と接続するための電極端子504が配置されている。また、フレキシブル配線部材502には、液体吐出基板200の液体供給口301に対応する液体供給穴505が形成されている。そして、電極端子504と液体吐出基板200の裏面電極503とは、金属バンプ506を介して接合されており、隣り合う液体吐出基板200と液体吐出基板200の間には、接着剤または封止剤等の樹脂507が設けられている。そして、本実施形態の記録ヘッドには図5に示すように、隣り合う液体吐出基板200と液体吐出基板200の間の樹脂507の内部には空洞508が設けられている。空洞508は予め定められた大きさを有している。ここで、予め定められた大きさとは、空洞全体が封止剤の表面より内部に存在できる大きさであって、且つ封止剤で封止する際に混入したような気泡のような大きさの空洞より大きなものである。
【0024】
このように、樹脂507内部に空洞508を設けていることで、隣り合う液体吐出基板200と液体吐出基板200との間にインクが溜まるような窪みを作ることなく、樹脂507の実質的な体積を減らすことができる。これによって液体吐出基板200間の窪みにインク等が溜まることが無くなる。また、製造工程や製品の使用環境における温度変化で樹脂が伸縮しても、樹脂の実質的な体積が小さいために、伸縮時の体積変化量は小さく、空洞508が無く樹脂507で満たされている場合と比べて液体吐出基板200に加わる外力を低減させることができる。
【0025】
次に、空洞508を有した記録ヘッド201の製造方法について説明する。
図6(a)から図6(e)は、本実施形態の記録ヘッド201の製造方法を示した図である。図6(a)は、本実施形態の記録ヘッド201の製造における最初の工程であり、支持部材202の上にフレキシブル配線部材502が、支持部材202の液体供給路501とフレキシブル配線部材502の液体供給穴505が連通するように接着固定される。
【0026】
図6(b)は図6(a)の次の工程を示した図である。液体吐出基板200をフレキシブル配線部材502上に位置決めして配置し、フレキシブル配線部材502の電極端子504と液体吐出基板200の裏面電極503とを金属バンプ506を介して超音波接合や熱圧着などの接合方法により互いに接合する。このとき金属バンプ506は、あらかじめ液体吐出基板200の裏面側に形成してもよいし、フレキシブル配線部材502の電極端子側に形成してもどちらでもよい。
【0027】
図6(c)は図6(b)の次の工程である。隣り合う液体吐出基板200の間に充填する樹脂507内部に空洞508を設けるため、液体吐出基板200の間のほぼ中央の部位に、液体吐出基板200の長手方向に沿って液体吐出基板200より長く型材601を所定量塗布してから硬化させる。型材601の断面形状が空洞508の断面形状になるため液体吐出基板200間の距離や液体吐出基板200の厚さに応じて最適形状の型材601にする。また、この型材601は液状の樹脂でディスペンサにより塗布するが、ドライフィルム状の樹脂でフォトリソグラフィにより形状を形成してもよい。なお、本発明は本実施形態で示した工程順に限ることなく、型材601の形成工程と樹脂507の塗布工程は液体吐出基板200の配置工程の前後どちらでもよい。ただし、型材601としてドライフィルムを使用する場合は、ドライフィルムの貼り付け工程やフォトリソグラフィ工程により液体吐出基板200にダメージを与える可能性も考えられるので、液体吐出基板200の配置工程より先に型材601の形成を行うことが好ましい。
【0028】
図6(d)は図6(c)の次の工程を示した図である。液体吐出基板200の外周部と、隣り合う液体吐出基板200の間に、型材601の長手方向の両端部または一方の端部が外部に露出するように樹脂507を、Si基板302の側面が封止されるまで充填させて硬化させる。また、さらに充填して液体吐出基板200の吐出口を備える面(第1の部材303の表面)に達するまで充填させてもよい。樹脂507の充填工程を液体吐出基板200の配置工程より先に行うことも出来る。しかし、液体吐出基板200が予め配置されている方が塗布量調整しやすいため、液体吐出基板200の配置後に行う方が容易である。
【0029】
図6(e)は図6(d)の次の工程を示した図である。型材601が樹脂507から露出した部分から除去液を用いて樹脂に覆われた部分も含めて溶解して除去する。このようにして樹脂507の内部に空洞508を形成する。なお、型材601は樹脂に限らず、自身で形が形成できて、その後溶解等により除去できる材料であれば樹脂以外の材料を用いてもよい。
【0030】
なお、本実施形態では液体吐出基板同士の間に空洞508を設けたが、これに限定するものではなく、必要があれば他の部分に空洞を設けてもよい。
【0031】
図7は、本実施形態の変形例を示した図である。本実施形態では支持部材202の表面にフレキシブル配線部材502を配置しているが、図7に示すように支持部材と配線部材が一体的に形成された積層配線基板701を用いてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、液体吐出基板200の裏面側に電極を設けて電気的な接続を行っているが液体吐出基板200の表面側に電極を設けて電気的な接続を行ってもよい。
【0033】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。
図8は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す概略斜視図である。本実施形態の記録ヘッドは、フレキシブル配線部材は用いずに、電極配線層などを積層した形態の配線基板701を用いた構成になっている。そして、配線基板701に接着したプレート801によって液体吐出基板200が配列された部分の外周が囲まれており、プレート801は、液体吐出基板200の吐出口を有する面とプレート801の上面とが同じ高さになるように設けられている。
【0034】
図9(a)から図9(c)は、本実施形態の記録ヘッドに設けられた空洞901の状態がわかるように示した図であり、図9(a)は図8のIXA−IXA断面図を、図9(b)は図9(a)の上面図を、図9(c)は図8のIXC−IXC断面図をそれぞれ示している。本実施形態では、液体吐出基板200と液体吐出基板200との間およびプレート801と液体吐出基板200との間を樹脂507によって封止している。そして樹脂507は、液体吐出基板200の吐出口を備える面(第1の部材303の表面)に達するまで充填させてもよい。図9(a)のα部を拡大した図20のように、液体吐出基板200のSi基板302の側面が封止されるまで充填されているものであってもよい。ここで、液体吐出基板200と液体吐出基板200との間およびプレート801と液体吐出基板200の間の樹脂507内部に空洞901が設けられている。そして、この樹脂507内部の空洞と連通するように、プレート801にも各空洞に対応する溝902が設けられており、樹脂507内部の空洞901が外部と連通している。本実施形態における空洞901の形成方法は第1の実施形態を同様である。
【0035】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では液体吐出基板200の外周も、プレート801と樹脂507によって平坦化されており、液体吐出基板200が突出していないため、紙詰まりの際などに液体吐出基板200に与えるダメージを低減することができる。
そのため図19に示すように液体吐出基板が1つの場合においても同様の効果を得ることが出来る。
【0036】
図10は、本実施形態の変形例を示す図である。
図10の変形例では、液体吐出基板200同士の間隔を広くして配置して、液体吐出基板200同士の間にプレート801の一部が入るように構成されている。そして、その液体吐出基板200同士の間のプレート801の一部とそれぞれの液体吐出基板200との
間に樹脂507が充填されており、その樹脂507の内部に空洞901が設けられている。この図10のような構成によっても本発明の目的を達成することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、プレート801は積層型の配線基板701に接着されているが、これに限定するものではなく、プレート部分をも一体に形成してなる積層型基板を用いてもよい。また、本実施形態では積層型の配線基板701を用いる構成としたが、第1の実施形態のようにフレキシブル配線部材を用いた構成としてもよい。
【0038】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。
図11(a)は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの断面図を、図11(b)はその上面図をそれぞれ示している。
【0039】
本実施形態の記録ヘッドは、第2の実施形態と同様、フレキシブル配線部材は用いずに積層型の配線基板701を用いた構成になっている。そして、本実施形態のインクジェット記録ヘッドも第1および第2の実施形態と同様に、樹脂507の内部に空洞1101を有しているが、その形成方法が他の実施形態とは異なる。配線基板701の中央部には、空洞1101に繋がる貫通孔1102が形成されており、空洞1101はこの貫通孔1102を用いて形成される。
【0040】
以下に、本実施形態の記録ヘッドの製造方法を説明する。
図12(a)から図12(d)は、本実施形態の記録ヘッドを製造する工程を順に示した図である。以下、製造方法を工程順説明する。
【0041】
図12(a)に示す工程において、積層配線基板701上に液体吐出基板200を位置決めして配置して、液体吐出基板200の裏面電極503と積層配線基板701の電極端子504とを、金属バンプ506を介して接合する。
【0042】
図12(b)に示す工程において、液体吐出基板200同士の間および液体吐出基板200の外周部に、ディスペンサ等を用いて樹脂507を適量塗布する。このとき液体吐出基板200同士の間部分への塗布では、貫通孔1102が覆われるように塗布し、図12(b)に示すように樹脂上面は窪んだ状態になる。樹脂507の粘度によっては貫通孔1102に流れ込むことも考えられるため、貫通孔1102の開口部の寸法は樹脂1102が流れ込まない寸法にすることが望ましい。
【0043】
図12(c)に示す工程において、気体を透過可能であり液体は透過しないシート1201で、両方の液体吐出基板200および液体吐出基板200同士の間の樹脂507で塗布部を覆うように被覆する。
【0044】
次に図12(d)に示す工程において、加熱ツール1202でシート1201を加熱しながら液体吐出基板200に押し付けて密着させる。そして、積層配線基板701の貫通孔1102から空気を導入することによって樹脂507に圧力をかける。この圧力によって樹脂507は上方へと押し上げられ、同時にシート1201と樹脂507との間にできている空間1204の空気はシート1201を透過して加熱ツール1202の逃げ溝1203から外部へと放出される。
【0045】
図13は、加熱ツール1202を示した図である。図13のように逃げ溝1203は、空間1204の空気が外部へと逃げることが可能に設けられている。空間1204の空気が外部へと逃げることによって、液体吐出基板200同士の間の樹脂507は、シート1201へ押し付けられる状態になり、この状態で樹脂507が自ら形状を保持できる程度まで、加熱ツール1202によって加熱を続ける。このようにして形成された樹脂507は、その内部に所定の大きさの空洞1101を有し、かつその上面は液体吐出基板200の吐出口を有する面と同一面となる面を有したものとなる。樹脂507の硬化が完了したら、加熱ツール1202およびシート1201を除去して、本実施形態の記録ヘッドが完成する。
【0046】
なお、加熱ツール1202で加熱する上記方法の代わりに、樹脂507に光反応性の樹脂を用いて、紫外線等で硬化させる方法を用いても良い。この場合にはシート1201に光透過性のものを用いればよい。
【0047】
また、本実施形態においては貫通孔1102から空気によって加圧することにより空洞1101を形成する方法を示したが、第1の実施形態で述べた、型材を用いて空洞1101を形成して貫通孔1102からその型材を除去する方法を用いてもよい。
【0048】
さらに、型材を樹脂507から露出させる必要が無いため、空洞1101の長さを液体吐出基板200よりも短くすることが出来る。また図14に示すように、貫通孔1401を間欠的に配置し、空洞を間欠的に形成することも出来る。このように空洞を短くする、もしくは間欠的に形成することは、空洞の周囲および内部に、樹脂507による壁を多く形成することになるので、樹脂507の強度を確保し、外部からの衝撃などにより樹脂507に破損が生じる不具合を防ぐ効果がある。この場合も、空洞の体積を適切に設定することで、本発明の目的とする空洞の効果を得ることができる。
【0049】
なお、本実施形態においては、積層型の配線基板701を使用する構成を示したが、その代わりに支持部材とフレキシブル配線部材を貼り合わせたものを利用することも出来る。ただし、特に狭ピッチで液体供給口を形成する場合においては、各層ごとに任意の形状に加工して積層できる積層配線基板の方が、貫通孔の形状、位置において、支持部材とフレキシブル配線部材の組み合わせよりも自由度が高いため、本構成には好適である。
【0050】
また、樹脂507の塗布工程を液体吐出基板200の配置工程よりも先に行うこともできるが、前述の通り、液体吐出基板200の吐出口面と、樹脂507の高さを揃えるには、液体吐出基板の配置工程よりも後の方が容易である。
【0051】
なお、インクを吐出する方式としては、ピエゾ素子などの電気機械変換体を用いて吐出するものや、発熱抵抗体などの電気熱変換体を備え、インクを加熱して膜沸騰を生じさせて、その作用によってインクを吐出するもの等、適宜のものを採用することができる。
【0052】
また、本実施形態では2つの液体吐出基板を用いた記録ヘッドの構成示したが、これに限定するものではなく、単一、もしくは2つ以上の複数の液体吐出基板が用いられた記録ヘッドであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を適用可能な記録装置の主要部を表わした斜視図である。
【図2】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す概略斜視図である。
【図3】第1の実施形態で用いる液体吐出基板を表わした斜視図である。
【図4】液体吐出基板の一部を拡大して示した図である。
【図5】(a)は、第1の実施形態の記録ヘッドの断面を示した図であり、(b)は、第1の実施形態の記録ヘッドの上面を示した図である。
【図6】(a)から(e)は、図2の記録ヘッドの製造方法を示した図である。
【図7】第1の実施形態の変形例を示した図である。
【図8】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す概略斜視図である。
【図9】(a)は図8におけるIXA−IXA断面図であり、(b)は、第1の実施形態の記録ヘッドに設けられた空洞の状態がわかるように示した図であり、(c)は、図8におけるIXC−IXC断面図である。
【図10】第2の実施形態の変形例を示す図である。
【図11】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す図であり、(a)は、断面図を、(b)は、上面図をそれぞれ示している。
【図12】(a)から(d)は、第3の実施形態の記録ヘッドを製造する工程を順に示した図である。
【図13】加熱ツールを示した図である。
【図14】第3の実施形態の変形例を示す図である。
【図15】(a)は、従来のインクジェット記録ヘッドを示した概略上面図であり、(b)は従来のインクジェット記録ヘッドの側面の一部分を示した部分断面図である。
【図16】従来の記録ヘッドにおいて、液体吐出基板と液体吐出基板との間の凹んだ部分にインクが溜まった状態を示した図である。
【図17】従来の記録ヘッドにおいて、封止剤による内部応力が発生した状態を示した図である。
【図18】従来の記録ヘッドにおいて、封止剤による内部応力が発生した状態を示した図である。
【図19】第2の実施形態の変形例を示す図である。
【図20】図9(a)のα部を拡大して示した図である。
【符号の説明】
【0054】
200 液体吐出基板
201 記録ヘッド
202 支持部材
502 フレキシブル配線部材
504 電極端子
506 金属バンプ
507 樹脂
508 空洞
601 型材
701 配線基板
801 プレート
1101 空洞
1102 貫通孔
1201 シート
1202 加熱ツール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための吐出口が設けられた液体吐出基板を備え、前記液体吐出基板は、吐出口が形成された面を具備する第1の部材と該第1の部材を支持する第2の部材とを有し、前記液体吐出基板の周囲を封止剤によって封止したインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記第2の部材の側面は前記封止剤によって封止されており、
前記封止剤の内部には空洞が設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記第2の側面を封止する封止剤は、前記第1の部材の吐出口が形成された面と同一面を形成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記液体吐出基板を囲むプレートを備え、前記液体吐出基板と前記プレートとの間の部分は、前記封止剤によって封止されており、前記部分の封止剤の内部にも空洞が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
吐出口を備えた面を具備する第1の部材と該第1の部材を支持する第2の部材とで液体吐出基板を形成する工程と、
インクを吐出して記録を行う前記液体吐出基板の周囲を封止剤によって封止する工程を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記第2の部材の側面を前記封止剤によって封止する封止工程と、
前記封止剤の内部に予め定められた大きさの空洞を形成する工程と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記封止工程は、前記第1の部材の吐出口を備えた面と同一面を形成するように前記封止剤を導入する工程であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドを製造するための製造方法であって、前記封止剤の内部に前記空洞を形成する工程を具えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記空洞を形成する工程は、前記空洞を設ける部位に型材を配置する工程と、前記封止剤を配置した後に前記型材を除去する工程とを有することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記空洞を形成する工程は、液状の前記封止剤を配置した後に、前記空洞を設ける部位に外部から空気を導入することで、前記空洞を形成するとともに、前記液体吐出基板の吐出口を備えた面と同一面となる前記封止剤の面を形成する工程を有することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記液体吐出基板を支持する部材に、前記空気を導入するための貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドを用いて記録を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−273183(P2008−273183A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74020(P2008−74020)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】