説明

インクジェット記録ヘッド用シールテープ及びシールテープを具備するインクジェット記録ヘッド

【課題】新規な粘着剤によるシールテープを用いた吐出口保護方法により、低コストで信頼性ある小液滴化されたインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【解決手段】インクジェット記録ヘッドの吐出口を保護するシールテープとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体を含む粘着剤層を有するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録動作を行うインクジェット記録方式に用いられるインクジェット記録ヘッドとその吐出口保護に用いられるシールテープに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリント方式は、インクの小滴を発生させ、それを紙等の被プリント媒体に付着せしめてプリントを行う記録方式である。この方式によれば、プリント時の騒音が極めて少なく、かつ高速プリントが可能であり、しかもインクジェット記録ヘッドを極めて小型化できる。従って、インクジェットプリント方式は、カラー化及びコンパクト化が容易であるプリント方式である。インクジェットプリント方式のひとつに発熱素子によってインクを発泡せしめ、この気泡の成長を利用してインクを吐出するタイプとしてバブルジェット(登録商標)方式がある。さらに、バブルジェット方式を改良した方式として、気泡を大気に連通させることで、液滴量を安定化させ、更なる小液滴化を実現したbubble through jet方式を用いたプリンタが実用化されている。
【0003】
ところで、物流時におけるインクジェット記録ヘッドの吐出口保護方法としては、キャップ状の保護部材を設ける方法、吐出口保護テープとして粘着テープ、あるいは、ホットメルトテープを使用する方法等が提案されている。
【0004】
特許文献1には、アクリル共重合体をイソシアナートにより架橋させたアクリル系架橋重合体を粘着剤として用いたシールテープによる吐出口保護方法が開示されている。このアクリル共重合体は、OH基を含有したアクリル酸アルキルエステルと、炭素数4〜9のアルキル鎖を持つアクリル酸アルキルエステルと、の共重合体から構成される。更に、特許文献1では、アクリル共重合体OH基にイソシアナートを架橋して高分子化させ、凝集力を高めることにより、粘着剤の耐インク性を向上させていた。加えて、特許文献1に開示されているインクジェット記録ヘッド側のシールテープの被着体面は、含フッ素低分子および高分子化合物で被覆され、高い撥水性を有していた。
【特許文献1】特開平5−77436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のイソシアナートにより架橋させたアクリル系架橋重合体を用いたシールテープによる吐出口保護方法には、以下のような問題が生じる場合があった。
【0006】
特許文献1に記載されている、イソシアナートにて架橋されたアクリル系架橋重合体を用いたシールテープを小液滴吐出する記録ヘッドに用いた場合、物流後に良好な印字が得られないことがあった。その主な原因として、シールテープを記録ヘッドの吐出口形成面(フェイス面や吐出口面ともいう)から剥離する際に、粘着剤が凝集破壊してフェイス面や吐出口にわずかに残存してしまう点が挙げられる。フェイス面に粘着剤が残存すると、吐出したインク滴がよれてしまい所望の位置にインクが着弾せずに画像の劣化を引き起こす場合がある。特に、銀塩写真と同等の高品位カラー記録を実現するために、インク液滴が約2pl(ピコリットル、10-12リットル)程度に小液滴化したインクジェット記録ヘッドにおいて吐出口保護方法の改善が望まれている。
【0007】
さらに、ヘッド製造上、インクジェット記録ヘッドの吐出口面の接触角が80〜105°と、それほど高い撥水性を有していない場合では、物流時に粘着剤と吐出口面がなじみ、徐々に剥離力(剥離に要する力)が上昇する。その結果、シールテープ剥離時に、吐出口部にダメージを与え変形やクラックを生じることもあった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題を解決するために、新規な粘着剤によるシールテープを用いた吐出口保護方法により、低コストで信頼性ある小液滴化されたインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録ヘッドは、吐出口保護用として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が金属キレート化合物により架橋されたアクリル系架橋重合体を粘着剤としたシールテープを用いることを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口と、前記吐出口を密封するためのシールテープと、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記シールテープは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体からなる粘着剤層を有し、該粘着剤層を介して前記吐出口が形成された部分に対して剥離可能に貼着されるものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のインクジェット記録ヘッド用シールテープは、基材と粘着剤層からなり、インクを吐出する吐出口を有するインクジェット記録ヘッドの前記吐出口を密封するためのシールテープにおいて、前記シールテープは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体からなる粘着剤層を有し、該粘着剤層を介して前記吐出口が形成された部分に対して剥離可能に貼着されるものである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインクジェット記録ヘッドの吐出口保護に用いるシールテープは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物により架橋反応せしめたアクリル系架橋重合体を主成分とする。これにより、物流後においてもフェイス面および吐出口に粘着剤残りが発生せず、高画質化を目的とした吐出口を小さくした小液滴化ヘッドの場合でも、着弾ズレが生じず高品質なインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【0013】
加えて、金属キレート化合物により架橋反応を行うため、OH基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル共重合体を選択することができ、金属キレート化合物での架橋時に所望とする架橋度を安定して得ることが可能となる。すなわち、OH基を含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体の場合には、その調製時にOH基―COOH基の縮合反応に起因する架橋点の消失が生じ、所望の架橋度を安定して得ることが難しいことがある。これに対して、OH基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主体として選択すれば、かかる問題を回避でき、保存安定性や耐インク性の向上した粘着剤層を安定して得ることが可能となる。
【0014】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、マクロモノマーの共重合によりグラフトポリマー化する事により、アクリル系架橋重合体の凝集力が高まる。そのため、撥水性が劣る被着面からの剥離に際しても、粘着剤が凝集破壊せず粘着剤残りが発生しない。このことから、より吐出口が小さい小液滴化したインクジェット記録ヘッドにおいても、吐出口周囲に粘着剤残り等の原因で記録上の不具合を生じない高品質のインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明における実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用したインクジェット記録ヘッドの一例を示したものである。このインクジェット記録ヘッドは、インクタンク一体型であり、インクタンク内にインクが充填されており、更に吐出口表面には吐出口保護用のシールテープH1401が、少なくとも吐出口を覆って貼り付けられている。すなわち、図1は、シールテープによって吐出口が密封された梱包用の形態としてのインクジェット記録ヘッドを示している。もちろん、インクタンク別体型でも本発明は適用できることはいうまでもない。
以下、各構成要素を詳細に説明する。
【0017】
(記録ヘッド)
図2は、インクジェット記録ヘッドH1001の構成を示した斜視図、図3は分解斜視図である。インクジェット記録ヘッドH1001は、記録素子基板H1101、電気配線テープH1301、インク供給保持部材H1501、フィルタH1701〜H1703、インク吸収体H1601〜H1603、蓋部材H1901から構成されている。インク供給保持部材H1501と蓋部材H1901から、フィルタH1701〜H1703やインク吸収体H1601〜H1603を内蔵するインク収納部の筺体が形成されている。記録素子基板H1101には、サンドブラストや異方性エッチング等によりインク供給口が形成されている。さらに記録素子基板H1101上には、フォトリソ工程にてインク流路および吐出口が設けられており、吐出口形成面には撥水層が形成されている(不図示)。本発明にかかるシールテープが好適に適用される吐出口面(シールテープの被着表面)は、水の前進接触角は80〜105°であることが好ましい。図示した記録ヘッドでは、撥水層により水の前進接触角が100°に調整されている。
【0018】
電気配線テープH1301は、インクを吐出するための電気信号を記録素子基板H1101に印加する経路を形成したものであり、ポリイミドフィルム上へ銅配線を形成したものである。
【0019】
インク供給保持部材H1501は、樹脂成形により形成されており、そこに記録素子基板H1101と電気配線テープH1301が実装される。インクを保持し負圧を発生するための吸収体H1601〜H1603は、ポリプロピレン(PP)繊維を圧縮したものを用い、インク吸収保持部材H1501により形成される内部空間内へ挿入される。インク供給保持部材H1501と吸収体H1601〜H1603が当接しインク流路となる箇所には、記録素子基板H1101へゴミを浸入させないようフィルタH1701〜H1703が予め接合されている。蓋部材H1901はインク供給保持部材H1501の上部開口部に溶着される。
【0020】
物流時は、図1のように吐出口を保護するためにシールテープH1401とシールテープH1401を剥離しやすくするためのタグテープH1402が貼られる。シールテープH1401により吐出口が密封されることにより、吐出口の保護のみならず、物流時に生じる温度や圧力変動による吐出口からのインク漏れも防止される。
【0021】
(シールテープ)
本発明のシールテープは、基材となる樹脂フィルムと粘着剤層を有して構成されている。基材となる樹脂フィルムはシールテープとしての機能を提供できるものであれば良い。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどからなる樹脂フィルムが用いられる。好適には、ポリエチレンテレフタラートが挙げられる。樹脂フィルムの粘着剤層を設ける面には、粘着剤層の密着性向上のために、汎用的に用いられるプラズマ処理やコロナ放電処理などの表面処理を行なってもよい。基材の厚さは、7〜75μmの範囲から選択でき、好適には、12〜30μmとすることができる。加えて、前記粘着剤層の厚さは、5〜50μmの範囲から選択でき、好適には、10〜40μmとすることができる。
【0022】
本発明のシールテープの有する粘着剤層を形成するための粘着剤には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体が含まれる。
【0023】
この(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体としては、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基含有モノマーと、から得られるモノマー単位を含む共重合体が好ましい。
【0024】
この共重合体のより好適な例としては、少なくとも、モノマー成分として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有モノマー及び共重合可能なマクロモノマーから構成される共重合体が挙げられる。これらの3つのモノマー成分の他に、必要に応じて、重合可能な他のモノマーを共重合させてもよい。
【0025】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸と、炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数2〜6のアルキル鎖(基)を有するアルコールとがエステル結合したものを挙げることができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、以下のものが挙げられる。
メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、イソアミルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート及びラウリルメタクリレートなど。
【0026】
また、シクロヘキシルアクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレートなども挙げることができる。これらは、全モノマー合計量に対して、より良好な粘着性、耐インク性及び剥離性を得る上で、好ましくは75〜96.9重量%の範囲内で用いられる。これらは、単独でも複数種組み合わせても前記範囲内であれば問題ない。
【0027】
カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート、5−カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸及びフマル酸などが挙げられる。カルボキシル基含有モノマーは、その1種を、あるいは2種以上の組合せで用いることができ、より良好な粘着性、耐インク性及び剥離性を得る上で、全モノマー合計量に対して、好ましくは0.1〜5重量%の範囲で用いられる。
【0028】
共重合可能なマクロモノマーは、末端に共重合可能な官能基を持つ比較的分子量の大きいモノマーである。マクロモノマーの例としては、末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリスチレン―アクリロニトリルなどが挙げられる。これらのマクロモノマーの数平均分子量は、2000〜20000の範囲にあることが好ましい。マクロモノマーは、その1種を、あるいは2種以上の組合せで用いることができる。マクロモノマーは、より良好な粘着性、耐インク性及び剥離性を得る上で、全モノマー合計量に対して、好ましくは、3〜10重量%の範囲で用いられる。マクロモノマーの共重合量が3重量%に満たないと充分な凝集力が得られず、耐インク性が発現しない場合がある。またマクロモノマーの共重合量が10重量%を超えると、重合中の粘度上昇が激しくなり、共重合体を含む塗工液の粘度が高すぎると、基材への良好な塗工性が得られない場合がある。
【0029】
この他共重合可能な不飽和モノマーとして、以下のものが上げられる。
2−メトキシエチルアクリレート、2エトキシエチルアクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ベンジルアクリレートなどの芳香族含有(メタ)アクリレート;ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート、8−ヒドロキシオクチルアクリレート、10−ヒドロキシデシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド;メタクリルアミド;酢酸ビニル;スチレン;α―メチルスチレン;及びアクリロニトリルなど。これら上記のもの1種以上を必要に応じて全モノマー合計量に対して10重量%まで加えることができる。
【0030】
好ましい組成を以下にまとめる。
・(メタ)アクリル酸アルキルエステル:75〜96.9重量%
・カルボキシル基含有モノマー:0.1〜5重量%
・共重合可能なマクロモノマー:3〜10重量%、及び
・その他共重合可能なモノマー:0〜10重量%。
【0031】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、例えば、上記のようなモノマーを反応溶媒に投入して、反応系内の空気を窒素ガスなどの不活性ガスで置換した後、重合開始剤の存在下に、加熱攪拌して重合反応させることにより製造することができる。ここで用いられる反応溶媒としては、有機溶媒が使用され、具体的には、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類などが挙げられる。また酢酸エチルおよび酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類なども挙げることができる。また、重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドおよびクメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系重合開始剤を使用することができる。
【0032】
上記の重合反応の反応温度は、通常50〜90℃、反応時間は通常は2〜20時間、好ましくは4〜12時間である。
【0033】
また、反応溶媒はモノマーの合計量100重量部に対して50〜300重量部の量で使用される。更に、重合開始剤は、通常は0.01〜10重量部の量で使用される。こうして反応させることにより本発明の粘着剤層を構成する共重合体は、反応溶媒に共重合15〜70重量%の量で含有される溶液又は分散液として得られる。
【0034】
本発明の粘着剤層を構成する共重合体の重量平均分子量は、40〜150万の範囲にあることが好ましい。上記範囲を逸脱して重量平均分子量が低いと粘着力が高くなりすぎるため再剥離性が著しく劣り、被着体への糊残りが容易に発生する場合がある。さらに、粘着剤層へのインクの浸入が容易となり、耐インク性が低下する場合がある。また、上記範囲を逸脱して重量平均分子量が高いと、粘着剤層と基材への密着が悪くなるため被着体への糊残りが生じやすくなり、さらに、粘着力が低くなるためシール性が悪くなる場合がある。
【0035】
シールテープの基材上へ塗工する際に、金属キレート架橋剤(金属キレート化合物)により(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を架橋させることにより、より優れた性能のシールテープとすることができる。金属キレート化合物としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属にアルコキシド、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等が配位した化合物等が挙げられる。この中でも特にアルミキレート化合物が好ましい。例えば、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート及びアルミニウムトリスアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0036】
金属キレート架橋剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して1〜20重量部の範囲で用いることが好ましい。この範囲から選択した量とすることで、粘着成分へのインクの浸入をブロックするのに有効な架橋構造をより良好に形成することができ、耐インク性を向上させることができる。さらに、この範囲から選択した量とすることで、粘着力を適度に制御して再剥離性を向上させることができる。また、この範囲から選択した量とすることで、インク中への溶出を起こすおそれのある過剰量の金属キレート化合物の投入を回避することができる。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を架橋させつつ、基材上に粘着層を形成する方法としては、基材上で金属キレートによる架橋反応を完了させる方法が好ましい。そのような方法の一例として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を、酢酸エチルなどの溶剤に溶解させた溶液とし、これに金属キレート化合物の必要量を添加して塗工液を調製し、基材上にこれを塗工し、加熱乾燥させる方法が利用できる。基材への塗工液の塗工量としては、加熱乾燥後の粘着剤層の層厚が、好ましくは5〜50μm程度、より好ましくは10〜40μm程度となるように選択することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
シールテープA(実施例1)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応装置への以下の各成分の仕込みを行った。
・ブチルアクリレート:80重量部。
・エチルアクリレート:15重量部。
・アクリル酸:2重量部。
・末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー(商品名:AA−6、東亞合成(株)製、Mn:6000):3重量部。
・酢酸エチル:150重量部。
【0039】
更に、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を加え、窒素気流中、68℃にて8時間重合反応を行った。反応終了後酢酸エチルにて希釈し、固形分20重量%に調整して粘度7000cP、重量平均分子量110万の共重合体液を得た。この共重合体液に、架橋剤としてアルミニウムトリスアセチルアセトネートを共重合体100重量部に対して3重量部加えて粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を厚さ25μmのポリエチレンテレフタラートフィルムに塗布し、加熱乾燥させて、粘着剤層厚30μmのシールテープAを得た。
【0040】
シールテープB(実施例2)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応装置への以下の各成分の仕込みを行った。
・ブチルアクリレート:80重量部。
・エチルアクリレート:10重量部。
・アクリル酸:2重量部。
・末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー(商品名:AA−6、東亞合成(株)製、Mn:6000):3重量部。
・2−ヒドロキシエチルアクリレート:5重量部。
・酢酸エチル:150重量部。
【0041】
次に、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を加え、窒素気流中、68℃にて8時間重合反応を行った。反応終了後酢酸エチルにて希釈し、固形分20重量%に調整して粘度7000cP、重量平均分子量100万の共重合体液を得た。この共重合体液に、架橋剤としてアルミニウムトリスアセチルアセトネートを重合体100重量部に対して3重量部加えて粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を厚さ25μmのポリエチレンテレフタラートフィルムに塗布し、加熱乾燥させて、粘着剤層厚30μmのシールテープBを得た。
【0042】
シールテープC(実施例3)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応装置への以下の各成分の仕込みを行った。
・ブチルアクリレート:51.5重量部。
・シクロヘキシルアクリレート:40重量部。
・アクリル酸3.5重量部。
・末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー(商品名:AA−6、東亞合成(株)製、Mn:6000):5重量部。
・酢酸エチル:150重量部
次に、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を加え、窒素気流中、68℃にて8時間重合反応を行った。反応終了後酢酸エチルにて希釈し、固形分20重量%に調整して粘度6500cP、重量平均分子量80万の共重合体液を得た。この共重合体液に、架橋剤としてアルミニウムトリスアセチルアセトネートを共重合体100重量部に対して3重量部加えて粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を厚さ25μmのポリエチレンテレフタラートフィルムに塗布し、加熱乾燥させて、粘着剤層厚30μmのシールテープCを得た。
【0043】
シールテープD(実施例4)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応装置への以下の各成分の仕込みを行った。
・ブチルアクリレート:65重量部。
・エチルアクリレート25重量部。
・アクリル酸3.5重量部。
・メタクリル酸1.5重量部。
・末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー(商品名:AA−6、東亞合成(株)製、Mn:6000):5重量部。
・酢酸エチル:150重量部。
次に、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を加え、窒素気流中、68℃にて8時間重合反応を行った。反応終了後酢酸エチルにて希釈し、固形分20重量%に調整して粘度6800cP、重量平均分子量80万の共重合体液を得た。この共重合体液に、架橋剤としてアルミニウムトリスアセチルアセトネートを共重合体100重量部に対して6重量部加えて粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を厚さ25μmのポリエチレンテレフタラートフィルムに塗布し、加熱乾燥させて、粘着剤層厚30μmのシールテープDを得た。
【0044】
以下比較例として、シールテープE〜Gを示す。
シールテープE(比較例1)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応装置への以下の各成分の仕込みを行った。
・ブチルアクリレート80重量部。
・アクリロニトリル10重量部。
・2−ヒドロキシエチルアクリレート10重量部。
次に、これらをトルエンと酢酸ブチルの混合溶液中で、ベンゾインパーオキシドを触媒として85℃にて8時間溶液重合した。これによって重量平均分子量30万の重合体液を得た。該重合体液からモノマーと低重合物を除くために、エタノールを用いて溶剤と共にモノマーと低重合物を除去し、乾燥した。この重合体液を改めてトルエンと酢酸エチルの混合溶剤中に溶解させ、さらにジシクロヘキシルメタンジイソシアナートを、重合体100重量部に対し10.1重量部加えて粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を厚さ25μmのポリエチレンテレフタラートフィルムに塗布し、加熱乾燥させて、粘着剤層厚30μmのシールテープEを得た。
シールテープF(比較例2)
前述のシールテープEの製造工程において、高分子量化を行い重量平均分子量70万の重合体液により粘着剤組成物を製造し、基材及び粘着剤層厚などは同様にしてシールテープFを得た。
シールテープG(比較例3)
前述のシールテープEの製造工程において、付加反応により得たジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン粘着剤により粘着剤組成物を製造し、基材及び粘着剤層厚などは同様にしてシールテープGを得た。
【0045】
以下に、評価方法及び結果を示す。(表1参照)
シールテープA〜Gを所望の大きさに切断し、前述したインクジェット記録ヘッドH1001の吐出口面に貼り付けた。該インクジェット記録ヘッドは、2plのインクを吐出するよう設計され、その吐出口径はΦ10μmである。この吐出口をシールしたインクジェット記録ヘッドを梱包した後、落下試験や60℃加熱試験を行ったが、どのシールテープにおいてもインク漏れは生じなかった。その後、印字検査を行うと、表1に示すように、本実施例のシールテープA、B、C、およびDではインクの着弾ズレも無く良好な印字が得られた。また、吐出口付近を走査型電子顕微鏡により観察した結果においても粘着剤残りは観察されず、本発明の効果が有効であることが確認された。他のシールテープE、F及びGでは、吐出口付近に粘着剤残りが生じ、その結果吐出口のつまりや吐出したインク滴のヨレなどが発生し、良好な印字結果を得ることはできなかった。また、シールテープGにおいては剥離強度が強かったために、剥離時にノズルを構成している樹脂層にクラックが生じて一部を破壊してしまい吐出することができず、印字不可であった。
【0046】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)および(b)は、本発明の一実施形態であるシールテープを貼りつけたインクジェット記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図2】(a)および(b)は、本発明のインクジェット記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図3】図2に示すインクジェット記録ヘッドの分解図である。
【符号の説明】
【0048】
H1001 インクジェット記録ヘッド
H1101 記録素子基板
H1301 電気配線テープ
H1401 シールテープ
H1402 タグテープ
H1501 インク吸収保持部材
H1601 吸収体
H1701 フィルタ
H1901 蓋部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口と、前記吐出口を密封するためのシールテープと、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記シールテープは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体からなる粘着剤層を有し、該粘着剤層を介して前記吐出口が形成された部分に対して剥離可能に貼着されるものである
ことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基含有モノマーと、共重合可能なマクロモノマーと、を共重合させることによって得られることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを75重量%以上96.9重量%以下と、
前記カルボキシル基含有モノマーを0.1%重量以上5重量%以下と、
前記共重合可能なマクロモノマーを3%重量以上10重量%以下と、
その他共重合可能なモノマーを0%以上10重量%以下と、
の割合で共重合させることによって得られることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1以上12以下のアルキル鎖を持つことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量は、40万以上150万以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記粘着剤層中の金属キレート化合物が、アルミキレート系架橋剤であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して1重量部以上20重量部以下を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記シールテープの被着表面における水の前進接触角が80°以上105°以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
基材と粘着剤層からなり、
インクを吐出する吐出口を有するインクジェット記録ヘッドの前記吐出口を密封するためのシールテープにおいて、
前記シールテープは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体からなる粘着剤層を有し、該粘着剤層を介して前記吐出口が形成された部分に対して剥離可能に貼着されるものである
ことを特徴とするインクジェット記録ヘッド用のシールテープ。
【請求項9】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基含有モノマーと、共重合可能なマクロモノマーと、を共重合させることによって得られることを特徴とする請求項8に記載のシールテープ。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを75重量%以上96.9重量%以下と、
前記カルボキシル基含有モノマーを0.1%重量以上5重量%以下と、
前記共重合可能なマクロモノマーを3%重量以上10重量%以下と、
その他共重合可能なモノマーを0%以上10重量%以下と、
の割合で共重合させることによって得られることを特徴とする
請求項9に記載のシールテープ。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1以上12以下のアルキル鎖を持つことを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載のシールテープ。
【請求項12】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量は、40以上150万以下であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載のシールテープ。
【請求項13】
前記粘着剤層中の金属キレート化合物が、アルミキレート系架橋剤であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して1重量部以上20重量部以下を含有することを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載のシールテープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−38670(P2007−38670A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188285(P2006−188285)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】