説明

インクジェット記録ヘッド

【課題】インクの吐出に伴うインク振動によるインク吐出不安定さを抑制するインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェット記録ヘッドおよびそれを用いた記録装置において、タンクから当該タンク内の液体を吐出する吐出部19への液体供給路が、吐出部19を有する記録ヘッドユニット5とタンクホルダーユニット4との接合によって、タンクから当該タンク内の液体を吐出する吐出部19への液体供給路が形成されており、この液体供給路に、気体を存在させるバッファ室が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙や布などの記録媒体に対しインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等のプリント装置は、画像情報に基づき被記録材上にドットパターンからなる画像を記録していくよう構成されている。前記プリント装置は、そのプリント方式により、インクジェット方式、ワイヤドット式、サーマル式、レーザービーム式等に分けることができ、そのうちインクジェット式はインクジェットヘッドを備え、そのヘッドは液路にインクを吐出させるために利用される吐出エネルギーを発生するエネルギー変換手段を有し、インクをインク供給口から液室を介して上記液路に導き、ここでインクにエネルギー変換手段から与えられた吐出エネルギーによりインクを飛翔液滴として被記録材に向けて飛翔させ、その着弾により記録が行われるよう構成されている。中でも熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェットヘッドは、記録用のインク滴を吐出して飛翔液滴を形成するためのインク吐出口を高密度に配列することが可能であるほか全体的にコンパクト化も容易であること等の利点があるため実用化されている。また近年においては高速記録の要求からインクジェットヘッドに配列されるノズル数も多ノズル化されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−210872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらインクジェット方式では流体であるインクを取り扱うために、インク振動により吐出ノズル内のメニスカス振動を大きく乱し画像品位の劣化を発生させることがある。特に高密度に多ノズル配列されたインクジェットヘッドにおいては単位時間あたりのインク移動量が多いため、吐出が停止された時のタンク系のインクの前方(ヘッド側)へ移動しようとする慣性力も大きくなり、この慣性力によりノズルに正圧がかかりメニスカスが飛び出した状態になる。このときに次の印字信号が入ると小さなインク滴が飛び散る、いわゆるスプラッシュ状の印字になってしまう。
【0005】
図12はインクジェットヘッドで所定の吐出をしたときの吐出パルスに対するインク流路内の圧力振動波形を示した図であり、図13は図12中のA区間(吐出開始前)、B区間(吐出動作中)、C区間(吐出停止直後)のメニスカスの様子を示すノズル断面図である。図12に示すように吐出停止後の流路内の圧力振動振幅aが大きく流路内圧が正圧になっており、この振動が次の吐出時のメニスカス振動を乱すことになる。詳しくは図12中のA期間では図13(A)に示すように安定したメニスカスMを形成しており、この状態でB期間のように吐出動作(発熱体53のパルス駆動)を行うと図13(B)のように良好な液滴50を生じる。そして吐出を停止した直後のC期間に入ると、吐出口51に向けての液移動の慣性により流路52内圧力が大きく正圧となり、図13(C)に示すように吐出口形成面に盛り上がった状態でメニスカスMが形成されたり、最悪は吐出口51よりインクが垂れ落ちる。したがって、前にも述べたように図13(C)の状態で次ぎの吐出を開始すると小さなインク滴が飛び散り、良好に画像形成を行えない。
【0006】
このような現象を解決する方法とし、フィルタ径やインク流路の変更により流抵抗調整を行いメニスカス振動を抑制することも行われている。しかし流抵抗を大きく設定すると吐出ノズルへのインク供給(リフィル)が間に合わなくなり吐出時に充分な吐出量が得られないために濃度不足を起こしたり、また流抵抗を小さくするとインクの供給は間に合うがメニスカス振動の振幅は逆に抑えられなくなり、設計範囲はかなり限定されてしまう。さらに別の方法として、共通液室にバッファ室を設け気泡を持たせることで圧力振動を吸収する方法がある(特開平6−210872号参照)。
【0007】
これは圧力振動を抑える手段として完全であるが、共通液室にバッファを設けるため、バッファ容積や形状にほとんど自由度がなくなってしまう。またノズル近傍に気泡が存在するため気泡の成長によりインクの不吐出が発生する危険性が高くなる。
【0008】
本発明は上述の課題を解決すべく成されたもので、インクの吐出に伴うインク振動によるインク吐出不安定さを抑制するインクジェット記録ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、インクが供給される供給口と、該供給口から供給されたインクを保持する液室と、該液室から供給されたインクを吐出する吐出口と、を備えた記録ヘッドユニットと、
インクを収容するインクタンクが装着される装着部と、前記記録ヘッドユニットの使用状態における水平方向で前記供給口とは異なる位置に設けられた、前記インクタンクに収容されたインクを前記記録ヘッドユニットに供給するための導出口と、を備えたタンクホルダーユニットと、
を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記タンクホルダーユニットに接合され、該タンクホルダーユニットと共に、前記導出口から供給されたインクを前記供給口に流すインク供給路と、該インク供給路に接続され気体を保持するバッファ部と、を形成する供給路形成部材を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インク吐出のインク振動による流路内の圧力振動を抑え安定した吐出状態を保ち、常に高品位な画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のインクジェット記録ヘッドの第1の実施形態を示す模式的概略図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録ヘッドの例を吐出口側から見た模式的概略図である。
【図3】図1および図2に示したインクジェット記録ヘッドの例を示す模式的断面図である。
【図4】図1および図2に示したバッファ室の拡大図である。
【図5】本発明によるバッファ室を有するインクジェット記録ヘッドにおけるバッファ容積と流路内圧力の関係を示す図である。
【図6】本発明のインクジェット記録ヘッドの流路内圧力振動波形図である。
【図7】本発明のインクジェット記録ヘッドの第2の実施形態によるバッファ室周辺の拡大図である。
【図8】本発明のインクジェット記録ヘッドの第3の実施形態によるバッファ室周辺の拡大図である。
【図9】本発明のインクジェット記録ヘッドの第4の実施形態によるバッファ室の拡大図である。
【図10】本発明のインクジェット記録ヘッドの第5の実施形態の模式的断面図である。
【図11】図10に示したインクジェット記録ヘッドにおいてバッファ室を設けた流路形成部材を示す概略図である。
【図12】従来からのインクジェットヘッドで所定の吐出をしたときの吐出パルスに対するインク流路内の圧力振動波形を示した図である。
【図13】図12中のA区間(吐出開始前)、B区間(吐出動作中)、C区間(吐出停止直後)のメニスカスの様子を示すノズル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1および図2は本発明のインクジェット記録ヘッドの第1の実施の形態である記録ヘッドカートリッジを模式的に示す分解斜視図であり、特に図1はカートリッジのタンク装着側から見た図で、図2はカートリッジの吐出口側を見た図である。
【0014】
図1および図2で示す形態のヘッドカートリッジ1は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のカラー3色用とブラック(Bk)用の2つのインク吐出部19を有する記録ヘッドユニット5と、独立した4色(C,M,Y,Bk)のインクタンク7a,7b,7c,7dと、各タンク7a〜7dが装着される装着部を含むタンクホルダーユニット4と、装着された各色のインクタンク7a〜7dと各色のインク吐出部19を繋げるインク供給路を形成するための流路形成部材1とを備えている。
【0015】
流路形成部材1およびタンクホルダーユニット4の接合面にはそれぞれインク供給路用溝2A,2Bとこれに連通するバッファ室用溝3A,3Bとが彫り込まれており、流路形成部材1とタンクホルダーユニット4の接合時に、インク供給路用溝2A,2Bは管状のインク供給路を形成し、バッファ室用溝3A,3Bはバッファ室(バッファ部)を形成する。バッファ室はインク振動を吸収するためにインク供給路に分岐して設けられた、気体を存在させるための室(空間部)である。タンクホルダーユニット4の流路形成部材1の接合面に設けられたインク供給路用溝2Bには、タンクホルダーユニット4に装着された各色(C,M,Y,Bk)のインクタンク内に収容されたインクを導出させるための液体導出口(C)4a,液体導出口(M)4b,液体導出口(Y)4c,液体導出口(Bk)4dが形成されている。
【0016】
流路形成部材1とタンクホルダーユニット4の貼り合わせは、インク供給路周囲及びバッファ室周囲がリークしないよう貼り合わせる必要があり、本実施形態においては流路形成部材1のインク供給路側溝2A及びバッファ室側溝3Aに沿って溶着リブ(図4参照)を設け、超音波溶着により接合を行った。これにより、インク供給路周囲及びバッファ室周囲のシールをシリコンシーラント剤等で行う場合よりもインク供給路及びバッファ室への気体透過率を抑えることができ、気体の成長によりインク供給路へ泡が混入して不吐出が発生するのを防ぐことができる。実際に本実施形態の35℃/dry環境下の72hr放置試験において、インク供給路を塞ぐ気体の成長は見られなかった。
【0017】
また、流路形成部材1と記録ヘッドユニット5にはそれぞれ液体供給口が形成されている。記録ヘッドユニット5の液体供給口はカラー3色(C/M/Y)を吐出するインク吐出部内の各色の独立した共通液室(不図示)に繋がる液体供給口(C)6a,液体供給口(M)6b,液体供給口(Y)6cと、ブラック(Bk)を吐出するインク吐出部内の共通液室に繋がる液体供給口(Bk)6dとからなる。一方、流路形成部材1の液体供給口は記録ヘッドユニット5の液体供給口6a〜6dの各々に対応する液体供給口(C)1a,液体供給口(M)1b,液体供給口(Y)1cと、液体供給口(Bk)1dとからなる。
【0018】
タンクホルダーユニット4と流路形成部材1と記録ヘッドユニット5とを接合した状態では、C用タンク7aのシアンインクはタンクホルダーユニット4の液体導出口(C)4a、流路形成部材1の液体供給口(C)1a、C用のインク供給路および記録ヘッドユニット5の液体供給口(C)6aを通ってカラー3色用のインク吐出部内のC用共通液室に供給可能となる。他のタンク7b〜7dについても同様に、所定のタンクから該タンク内のインクを吐出する吐出部の共通液室へ、各色独立したインク供給経路が形成される。
【0019】
なお、図1及び図2では図を簡略化するために、ブラックインク用の液体導出口4dと連通するインク供給路のみにバッファ室を分岐して接続した様子を示したが、他のC,M,Yのインク色用のインク供給路にもバッファ室が形成されている。
【0020】
図3は本発明に適用可能なタンク、タンクホルダーユニットおよび流路形成部材からなるインク供給系と記録ヘッドユニットとに形成されるインク供給経路の一例を示す模式的断面図であり、インクはインクタンク7からフィルタ11を介してインク供給路9を通り共通液室10に供給される。なお、図3は図1および図2に示した各部品を接合したときの断面図ではなく、本発明の構成によって形成される、タンクから共通液室へのインク供給経路を模式的に図示しただけである。符号20は基板上に半導体プロセスを用いて吐出エネルギー発生素子としての発熱抵抗素子(吐出用ヒータ)16が形成されたヒーターボードを指し示している。共通液室10に供給されたインクは、ヒータ16に対応して設けられたインク流路21を通り、発熱抵抗素子16による膜沸騰で発生する気泡の圧力波により吐出口から吐出される。
【0021】
また本実施形態では、図3に示すように記録用紙Pの上方に在る記録ヘッドユニット5よりインク液滴をほぼ重力方向に吐出して記録用紙Pに画像を記録する記録装置を採用しており、タンクホルダーユニット4への流路形成部材1の接合で形成されるインク供給路9と、インク供給路9からバッファ室に連通する連通流路とは重力方向と直交する方向(水平方向)となるように設けられている。これにより、バッファ室によるインク振動の抑制を重力成分の影響を考慮しないで達成することができる。但し、図3に示す形態では記録ヘッドユニット5よりインク液滴をほぼ重力方向に吐出して記録を行う装置を示したが、本発明は記録時に少なくともバッファ室およびこれに連通するインク供給路9からの連通流路とが水平方向に形成されていればよく、記録滴の吐出方向は重力方向と交差する方向にあっても構わない。
【0022】
図4は上述したバッファ室をより詳しく説明するために一例として、図2中の液体導出口(Bk)4dが形成されたインク供給路用溝2Bと連通するバッファ室用溝3B周辺を拡大した図である。この図を参照すると、タンクホルダーユニット4の流路形成部材1の接合面におけるバッファ室用溝3Bは、連通流路22によりインク供給路用溝2Bと連通するよう形成されている。これと同様に、図1に示したように流路形成部材1のタンクホルダーユニット4の接合面のバッファ室用溝3Aも、連通流路22によりインク供給路用溝2Aと連通するよう形成されている。また、タンクホルダーユニット4および流路形成部材1の各接合面にはインク供給路用溝、バッファ室用溝、および連通流路を囲むような溶着リブ31を有する面部(溶着面部)が設けられている。
【0023】
以下、図4を代表して説明すると、連通流路22は記録装置本体による吸引回復時や記録ヘッド吐出時のインク流動方向(図4中矢印方向)に対して該インク流動方向の上流側へ90度(垂直)以上の角度を持つように形成している。さらに、バッファ室用溝3Bは容積拡大部23と連通流路22によりインク供給路用溝2Bに向かって絞り込まれる形状で構成されている。連通流路22の断面積はバッファ室断面積より小さいことがより好ましい。この形状により、流路形成部材などを接合して完成したヘッドカートリッジにおいて、インク供給路内インク流動時にバッファ室内にインクが流れ込み、バッファ室内の気体がインクに置換されてしまうことを防止することができる。本実施形態においては該角度を120度で行ったところ、本体吸引時及びインク吐出においてバッファ室内の気体がインクに置換されてしまうことはなかった。
【0024】
また、インク振動の吸収性は存在する気体の容積によっても大きく変化する。図5はバッファ容積と吐出停止時に発生する流路内圧力振動振幅の関係を示す図である。この時の吐出条件は、吐出ノズル304ノズル、駆動周波数18kHzであり、流量は約9g/minで行った。この図からわかるようにバッファ容積が増えるに従い流路内の圧力振動振幅が小さくなっている。通常、流路内の圧力はインク停止状態(ノズルでのメニスカス保持力とインクタンクの発生する負圧の均衡状態)において、インクタンクの発生する負圧により静負圧がかかっている状態にある。図5における流路内圧力の0点は流路内が前記静負圧領域と正圧状態との境界となる点を示している。流路内が正圧状態のときノズルのメニスカスが飛び出した状態になり、このときに印字信号が入力されると印字品位を乱す結果となる。本実施形態においては、バッファ室容積が6mm3以上において良好な印字結果を得ることができた。ただし、ヘッドの吐出ノズル数や駆動周波数など仕様の違いによってはそれ以下であってもよい。本形態においては流路形成部材1にバッファ室を設けていることで容積を大きくとることができるとともに、形状的にも成形時のアンダカットなどを気にすることなく自由な形状が可能となる。
【0025】
また、バッファ室が熱源であるヒーターボードより離れているため、バッファ室内の気体が発熱抵抗素子の駆動による熱の影響を受けることがない。従って、例えば長尺ヘッドのように熱量が大きく、バッファ室内の気体の量が多い場合であっても所望の性能を維持することができる。
【0026】
図6は本実施形態においてバッファ室容積を12mm3設けた場合の流路内圧力振動波形を示す概略図である。印字停止後の圧力振動振幅が従来ヘッドの場合(図12参照)に比べ抑えられていることがわかる。
【0027】
バッファ室内の気体は特に低温度環境下においてインクに溶解する。これによりバッファ室内の気体が消失しすべてインクに置換されたとすると、インク振動は吸収されずメニスカス振動は大きく乱れてしまう。空気の水に対する溶解度から計算すると、本実施形態における溶解量は0℃ 1atm環境下で3.4mm3でありバッファ室内の気体が消失することはない。実際に5℃ 360hrの保存においてバッファ室内の気体が消失することはなく、保存後も良好な印字品位を得ることができた。またバッファ室の内壁に対し、撥水処理により撥水性を持たせることによってもバッファ室内の気体保持保証を高めることができる。
【0028】
次に、上述した第1の実施の形態と異なる形態の例を挙げ、異なる点のみを説明する。
【0029】
(第2の実施の形態)
図7は本発明の第2の実施の形態によるバッファ室周辺の構成を示す拡大図であり、ここでは第1の実施の形態と異なる点のみ説明する。特に図7では図4に示したバッファ室用溝3Bの変形例を示した。すなわち、タンクホルダーユニット4と流路形成部材1の接合で形成されるバッファ室は、少なくとも2つの容積拡大部23及び24を有しており、互いに容積拡大部よりも絞られた連通流路22及び25により連通されている。また溶着リブ31は図4の構成に加えて容積拡大部23及び連通流路25の周囲にも形成されている。連通流路22及び25の断面積はバッファ室となる容積拡大部23及び24の断面積より小さいことがより好ましい。この構成により、完成したヘッドカートリッジ輸送中のイレギュラー的な減圧や振動によりバッファ室23にインクが流れ込み、バッファ室内の気体が消失することを連通流路22及び25における圧力損失の影響により防止することが可能となる。
【0030】
(第3の実施の形態)
図8は本発明の第3の実施の形態によるバッファ室周辺の構成を示す拡大図であり、ここでは第1の実施の形態と異なる点のみ説明する。
【0031】
第1の実施の形態で図4を参照して説明したとおり、タンクホルダーユニットおよび流路形成部材の各接合面にインク供給路用溝、バッファ室用溝、および連通流路を囲むような溶着リブ31を有する面部(溶着面部)を設けることにより、溶着接合により形成されるインク供給路およびバッファ室の内外を確実に遮断した。これに加えて、本形態では、インク供給路溶溝2Bとこれに分岐する連通流路22との接続部分の溶着リブ31の位置を図8中に丸で囲ったA部に示すように、インク供給路溶溝2Bおよび連通流路22の側に第1の実施形態に比べて近づけ、溶着リブ31内側の溶着面を狭くした。
【0032】
この形態によれば、完成したヘッドカートリッジが搬送中や保存時にいかなる姿勢になっていても、イレギュラー的な振動、衝撃等により溶着リブ31内側の溶着面を通じてバッファ室23へとインクが流れ込み、バッファ室内の気体が消失することを防止することができる。また、図8のA部のような形態を上述した第2の実施の形態にも適用すれば、バッファ室内の気体保持保証を一層高めることができる。
【0033】
(第4の実施の形態)
図9は本発明の第4の実施の形態によるバッファ室周辺の構成を示す拡大図である。ここでは第1の実施の形態と異なる点のみ説明する。
【0034】
バッファ室は図4、図7、図8等のようにインク供給路の片側のみに接続されているものに限らず、図9に代表して表すように、インク供給路用溝2Bのバッファ室用溝3Bが接続された側とは反対側にも容積拡大部26を設け、容積拡大部26とインク供給路用溝2Bを容積拡大部26よりも絞られた連通流路27により接続した形態であってもよい。
【0035】
この形態によれば、完成したヘッドカートリッジが搬送中や保存時にいかなる姿勢になっていても、イレギュラー的な振動、衝撃等によりバッファ室へとインクが流れ込み、バッファ室内の気体が消失することの発生確率が低く抑えられる。
【0036】
もちろん、インク供給路の両側にバッファ室を本形態(図9)のように1つずつ形成する構成、又は複数形成する構成を、図7の形態と図8の形態のいずれか又は両方と組み合わせるように適用してもよい。この様にすれば、バッファ室内の気体保持保証を一層高めることができる。但し、インク供給路の両側のバッファ室にそれぞれ接続する連通流路については少なくとも一つが記録ヘッド吐出時等のインク流動方向に対し90度以上の角度を持つように形成されていればよく、その他の連通流路の角度は特に同じ角度にする必要はなく、装置への装着形態などに応じた最適値に設定されていればよい。
【0037】
(第5の実施の形態)
図10は本発明のインクジェット記録ヘッドの第5の実施の形態を示す模式的断面図である。図10中の符号28は流路形成部材1とホルダユニット4との間に貼り合わされる別の流路形成部材を差し示しており、この流路形成部材28には気体を存在させるためのバッファ室29が設けられている。図11は流路形成部材28の概略斜視図である。バッファ室29はインク供給路に向かって紋り込まれる形で形成されており、タンクホルダーユニット4との間に僅かなクリアランス30を有している。つまり、バッファ室とインク供給路を連通する連通流路であるクリアランス30の断面積はバッファ室29の断面積より充分小さい。このような構成ではインクは瞬時にこのクリアランス部周囲全周をシールするためバッファ室29において気液交換は行われず、バッファ室内に気体を保持することができる。このとき、バッファ室周囲においてリークが無いようにタンクホルダーユニット4と流路形成部材28は接合されている必要がある。
【0038】
本実施形態においては流路形成部材28およびタンクホルダーユニット4の貼り合わせはバッファ室29の周囲の接合面に溶着リブを設け、超音波溶着で行った。この構成においては、インク供給路2に対し気体を存在させるバッファ室を平面的に設けることがスペース等の関係で不可能である場合、高さ方向の変更だけでバッファ室を設けることが可能であり、ヘッドをコンパクト化できるメリットがある。このような形態と上述した第1から第5の実施の形態の各々を適宜組み合わせることで、記録ヘッドユニットとタンクホルダーユニットの間のインク供給路にバッファ室を設ける自由度が高くなる。
【0039】
以上で説明したように、本発明によれば、以下の効果を奏する。タンクから当該タンク内の液体を吐出する吐出部への液体供給路が、吐出部を有する記録ヘッドユニットとタンクホルダーユニットとの接合によって形成されるインクジェット記録ヘッドおよびそれを用いた記録装置において、前記液体供給路に、気体を存在させるバッファ室を接続していることにより、インク吐出のインク振動による流路内の圧力振動を抑え安定した吐出状態を保ち、常に高品位な画像を得ることが可能となる。
【0040】
また、前記液体供給路および前記バッファ室を、前記タンクホルダーユニットと1つ又は複数の供給路形成部材との接合によって形成することで、液体供給経路やバッファ室の形状や配置位置の自由度が増す。
【0041】
また、前記液体供給路を重力方向と直交する方向になるように構成していることにより、バッファ室によるインク振動の抑制を重力成分の影響を考慮しないで達成することができる。
【0042】
また、前記バッファ室と前記液体供給路を接続する流路を、タンクから吐出部へ向かう流動方向に対し上流側へ90度以上の角度をもって配することにより、インク供給路内インク流動時にバッファ室内にインクが流れ込み、バッファ室内の気体がインクに置換されてしまうことを防止することができる。さらに、前記バッファ室と前記液体供給路を接続する流路の断面積を前記バッファ室の断面積より小さくすると、バッファ室内の気体の消失をより効果的に防止できる。また、前記バッファ室の内壁を撥水処理しておくことによっても、バッファ室内の気体保持保証を高めることができる。
【符号の説明】
【0043】
1、28 流路形成部材
1a 液体供給口(C)
1b 液体供給口(M)
1c 液体供給口(Y)
1d 液体供給口(Bk)
2A、2B インク供給路用溝
3A、3B バッファ室用溝
4 タンクホルダーユニット
4a 液体導出口(C)
4b 液体導出口(M)
4c 液体導出口(Y)
4d 液体導出口(Bk)
5 記録ヘッドユニット
6a 液体供給口(C)
6b 液体供給口(M)
6c 液体供給口(Y)
6d 液体供給口(Bk)
7 インクタンク
7a インクタンク(C)
7b インクタンク(M)
7c インクタンク(Y)
7d インクタンク(Bk)
9 インク供給路
10 共通液室
11 フィルタ
13 タンクジョイントシール
14 吐出ユニットジョイントシール
15 ベースプレート
16 ヒータ
17 インク液滴
20 ヒーターボード
21 インク流路
22、25、27 バッファ室連通流路
23、24、26 バッファ室容積拡大部
29 バッファ室
30 クリアランス
31 溶着リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが供給される供給口と、該供給口から供給されたインクを保持する液室と、該液室から供給されたインクを吐出する吐出口と、を備えた記録ヘッドユニットと、
インクを収容するインクタンクが装着される装着部と、前記記録ヘッドユニットの使用状態における水平方向で前記供給口とは異なる位置に設けられた、前記インクタンクに収容されたインクを前記記録ヘッドユニットに供給するための導出口と、を備えたタンクホルダーユニットと、
を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記タンクホルダーユニットに接合され、該タンクホルダーユニットと共に、前記導出口から供給されたインクを前記供給口に流すインク供給路と、該インク供給路に接続され気体を保持するバッファ部と、を形成する供給路形成部材を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記インク供給路は、前記インクタンクから供給されたインクを前記供給口に供給する開口を備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記使用状態において、前記インク供給路と、該インク供給路と前記バッファ部とを接続する流路とが、互いに水平方向に配されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記インク供給路と前記バッファ部とを接続する流路は、前記インク供給路に対して垂直に延びている、または、垂直よりも前記インク供給路のインクの流動方向の上流側に向かって延びていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記インク供給路と前記バッファ部とを接続する流路の前記インク供給路に対する接続方向、に垂直な方向に関する、前記流路の断面積は、前記バッファ部の前記流路に対する接続方向、に垂直な方向に関する、前記バッファ部の断面積より小さいことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記バッファ部の内壁は撥水処理されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−161934(P2011−161934A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124333(P2011−124333)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【分割の表示】特願2001−267308(P2001−267308)の分割
【原出願日】平成13年9月4日(2001.9.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】