説明

インクジェット記録媒体及びインクジェット記録画像の形成方法

【課題】染料系インクを用いたインクジェット記録を行った場合であっても、長期保存性に優れ、端部の画像変色が少なく、かつ画像記録特性の良好なインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】耐熱性基体、インク受容層、表面層をこの順に設けたインクジェット記録媒体であって、表面層は、熱溶融性樹脂を含む多孔質構造を有しインク受容層側に設けられた下層と、熱可塑性ラテックスを含む多孔質構造を有し最表面層として設けられた上層とからなることを特徴とするインクジェット記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録画像の保存性向上のためのインクジェット記録媒体に関する。更に、かかるインクジェット記録媒体を用いたインクジェット記録画像の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法による画像形成技術の向上により、さまざまな画像作製分野においてインクジェット記録方法が用いられている。近年、写真出力等の分野においても、銀塩方式の代替技術として普及し始めている。しかし、写真出力のように、画像を長期間保存する用途においては画像変色、画像擦過性、耐水性などが問題となる。この画像変色は、着色インクとして主に染料インクを用いる場合に顕著となる。この理由は、染料分子は紫外線や酸化性のガスにより分解し変色する場合があり、通常環境において長期間保存すると変色する場合があるためである。
【0003】
そこで、従来からこのような変色を起こさないインクジェット記録媒体の開発が行われてきた。特許文献1(特開平7−237348号公報)及び特許文献2(特開平8−2090号公報)には、画像の耐候性を向上させるために、インク受容層の上にさらにラテックス層を設けたインクジェット記録媒体が開示されている。これらのインクジェット記録媒体では、インクジェット記録後、ラテックス層を加熱して、透明皮膜化している。
【0004】
このように上記特許文献1及び2に記載の従来例では、画像形成後の加熱処理によって画像が形成されているインク受容層の表面を透明膜で覆うことにより、表面からの酸化性ガスの侵入を防ぐものである。このため、画像変色を低減することが可能となる。また、表面の透明膜により、耐水性や擦過性、更には光沢性においても改善されるという技術である。
【特許文献1】特開平7−237348号公報
【特許文献2】特開平8−2090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1及び2に記載のインクジェット記録画像であっても、写真のような長期保存性を求められる用途に対しては、要求される性能をいまだ十分に満たしてなかった。すなわち、上記特許文献1及び2に記載のインクジェット記録媒体を用いて得た記録画像を通常環境下で長期間、保存すると、記録画像の端部(縁の部分)で画像変色が顕著に発生するという問題が指摘されていた。この結果、インクジェット記録画像の周囲が変色して額縁のように変わってしまうという場合があった。
【0006】
この原因は、これらのインクジェット記録方法に用いる染料インクがオゾン(O3)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)などの酸化性ガスにより酸化分解され、変色したためと考えられる。すなわち、上記インクジェット記録画像は、画像表面に高分子ラテックスを加熱処理して得た透明樹脂層が形成されている。このため、画像を形成した表面からの酸化性ガスの侵入は防げるものの端部は被覆されていないため、長期間の保存により酸化性ガスが端部から徐々に内部に侵入し画像端部を変色させてしまったものと考えられる。
【0007】
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、インク受容層上に更に、特有の構造、材料から構成され互いに機能の異なる2つの表面層を設けることによって、上記課題を解決できることを発見した。すなわち、本発明の目的は、染料系インクを用いたインクジェット記録を行った場合であっても、長期保存性に優れ、端部の画像変色が少なく、かつ画像記録特性の良好なインクジェット記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のインクジェット記録媒体は、以下の構成を有する。
1.耐熱性基体、インク受容層、表面層をこの順に設けたインクジェット記録媒体であって、
前記表面層は、熱溶融性樹脂を含み、前記インク受容層側に設けられた多孔質構造の下層と、
熱可塑性ラテックスを含み、最表面層として設けられた多孔質構造の上層と、
を有することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【0009】
2.前記下層に含まれる熱溶融性樹脂は、融点が70℃以上であることを特徴とする上記1に記載のインクジェット記録媒体。
3.前記下層に含まれる熱溶融性樹脂の平均粒子径が、前記インク受容層の細孔径よりも大きく、かつ10μm以下であることを特徴とする上記1又は2に記載のインクジェット記録媒体。
【0010】
4.前記下層に含まれる熱溶融性樹脂が、オレフィン系樹脂であることを特徴とする上記1から3の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体。
5.前記インク受容層が、無機顔料を含み、かつその内部の細孔内にインクを吸収するインク吸収型のインク受容層であることを特徴とする上記1から4の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【0011】
6.インクジェット記録方法により、上記1から5の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体の表面層側に染料系インクを付与して、画像を形成する画像形成工程と、
前記画像形成工程後のインクジェット記録媒体に加圧加熱処理を行うことにより、前記表面層の上層に含まれる熱可塑性ラテックスを皮膜化し、かつ、前記表面層の下層に含まれる熱溶融性樹脂を前記インク受容層の細孔内に充填する工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録画像の形成方法。
【0012】
7.加熱加圧ローラにより、前記加圧加熱処理を行うことを特徴とする上記6に記載のインクジェット記録画像の形成方法。
8.サーマルヘッドにより、前記加圧加熱処理を行うことを特徴とする上記6に記載のインクジェット記録画像の形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクジェット記録媒体は、インク受容層上に、熱溶融性樹脂を含む多孔質構造の表面層の下層と、熱可塑性ラテックスを含む多孔質構造の表面層の上層とを有する。このため、インクジェット記録媒体上に染料系インクの画像を形成した後、加圧加熱処理を行うことにより上層を皮膜化処理すると共に、下層中に含まれる熱溶融性樹脂を溶融させてインク受容層の細孔内に充填することができる。この結果、このインクジェット記録画像を、長期保存性に優れ、端部(縁の部分)の画像変色が少なく、画像記録特性の良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のインクジェット記録媒体について詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録媒体は、耐熱性基体、インク受容層、表面層をこの順に有する。また、表面層は、熱溶融性樹脂を含む多孔質構造を有しインク受容層側に設けられた下層と、熱可塑性ラテックスを含む多孔質構造を有し最表面層として設けられた上層の2層を有する。
【0015】
図1に本発明のインクジェット記録媒体の一例の断面構造模式図を示す。このインクジェット記録媒体では、基材紙(耐熱性基体)1上にインク受容層2と、このインク受容層2上に2層からなる表面層3を有する。そして、表面層の下層4は少なくとも熱溶融性樹脂を含む多孔質構造となっており、表面層の上層5は多孔質構造の熱可塑性ラテックスから構成されている。
【0016】
本発明のインクジェット記録画像の形成方法では、上記インクジェット記録媒体を用いて以下のようにして、記録画像の形成を行うことができる。すなわち、表面層の上層は熱可塑性ラテックスを含むため、インクジェット記録後、加圧加熱処理により皮膜化して透明となる。
【0017】
ここで、「皮膜化」とは、インクジェット記録媒体の表面層の上層の多孔質構造が消失し、緻密化された状態に変化することをいう。従って、加圧加熱処理後のインクジェット記録媒体の表面及び断面構造を観察すると、インク受容層の表面(最表面層部分)に細孔構造のほぼ無い緻密な層が形成されている。なお、これらのインクジェット記録媒体の表面及び断面の構造形態は、一般的な電子顕微鏡等により観察することが可能である。
【0018】
更に表面層の下層は熱溶融性樹脂を含むため、これと同時に、加圧加熱処理によりインク受容層内へ熱溶融性樹脂が浸透してインク受容層の細孔を充填緻密化することができる。
【0019】
すなわち、本発明のインクジェット記録媒体を用いた場合、以下のようにしてインクジェット記録画像を形成することができる。
(1)まず、インクジェット記録媒体の表面層側に染料系インクを付与して、画像を形成する(画像形成工程)。この際、多孔質構造を有し染料インクの吸着性の無い表面層の上層及び下層中を染料インクが通過し、インク受容層に定着する。
(2)この後、加圧加熱処理を行う。この際、表面層の上層(最表面層)中に含まれる熱可塑性ラテックスが、軟化融着して透明な皮膜を形成する(皮膜化する)。同時に、表面層の下層中に含まれる熱溶融性樹脂が、溶融状態となり粘度が急激に低下するため、染料分子の定着しているインク受容層内に浸透する。
【0020】
本発明では、上記のようにして加圧加熱処理の終了後、熱溶融性樹脂がインク受容層内で固化してインク受容層内の細孔を充填化するため、インク受容層内の全体に定着した染料インクが熱溶融性樹脂により被覆された状態になる。このように熱溶融性樹脂により緻密化されたインク受容層は、端部も含めて内部への酸化性ガスの進入が抑制されるため、画像端部の変色耐性に優れるものとなる。更に、インク受容層の表面は、皮膜化した熱可塑性ラテックスの透明樹脂膜で覆われているため、その表面からの酸化性ガスの進入も防ぐことができる。従って、インクジェット記録画像を長期保存性に優れ、端部(縁の部分)の画像変色が少なく、画像記録特性の良好なものとすることができる。
【0021】
加圧加熱処理は、加熱加圧ローラによって行うことが好ましい。加熱加圧ローラは装置構成が簡易であり、画像形成後のインクジェット記録媒体に対して短時間で高温、高圧を付与することができる。また、加圧加熱処理は、サーマルヘッドによって行うことも好適である。サーマルヘッドを用いることによって、画像形成後のインクジェット記録媒体に付与する圧力、温度、及びこれらの処理時間を容易に制御することができる。
【0022】
加圧加熱処理時の加熱加圧条件については、下記の範囲で適宜選定することができる。
加熱温度は、処理速度から決まる総熱量と熱溶融性樹脂の溶融特性を勘案して決めることができる。すなわち、高速で処理する場合は熱源との接触時間が短いため加熱温度を高くし、低速で処理する場合は熱源との接触時間が長いため加熱温度を低くする。
【0023】
加圧条件については、この条件を制御することによって、熱溶融性樹脂のインク受容層内部への浸透状態を調節することができる。本発明では、インク受容層内の画像(染料系インク)が定着した表面に近い部分で熱溶融性樹脂を保持させて固体化することが好ましいため、高い圧力をかけてこの熱溶融性樹脂をインク受容層内に押し込むことが好ましい。具体的な圧力は、加熱加圧ロールの対向するプラテンローラーの硬度にもよるが、線圧として1.5N/cm以上、20N/cm以下で熱溶融性樹脂を浸透させることが好ましい。また、装置構成を大型化・複雑化させないといった観点から、線圧の上限を決めることができる。
【0024】
(表面層)
本発明の表面層は、上層と下層の2層を有する。この下層は、熱溶融性樹脂を含む多孔質構造を有しインク受容層側に設けられている。また、上層は熱可塑性ラテックスを含む多孔質構造を有し最表面層として設けられている。なお、この上層及び下層の「多孔質構造」とは、熱溶融性樹脂及び熱可塑性ラテックスの粒子状態が残っており、内部に空隙が形成されている状態であり、電子顕微鏡観察等により確認することができる。
以下、熱可塑性ラテックス及び熱溶融性樹脂について詳細に説明する。
【0025】
(a)熱可塑性ラテックス
本発明の「熱可塑性ラテックス」とは、溶媒中に粒子状態として分散可能な熱可塑性樹脂を表す。この熱可塑性ラテックスは、溶媒中で粒子の分散体として存在することができる。この熱可塑性ラテックスは、本発明のインクジェット記録媒体を形成する際には、皮膜化せず粒状の形状を維持するような条件で表面層の上層として形成される。このため、上層は内部に空隙を有する多孔質構造を有するものとなる。
【0026】
本発明の表面層の上層中に含まれる熱可塑性ラテックスとしては、下記のものを挙げることができる。
・塩化ビニル系、塩化ビニル−酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系、オレフィン−酢酸ビニル系、スチレン−ブタジエン系(SBR系)、アクリロニトリル−ブタジエン系(NBR系)、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系などのラテックス。
これらの熱可塑性ラテックスの中でも、インク透過性を考慮すると酢酸ビニル系のラテックスを用いることが好ましい。
【0027】
(b)熱溶融性樹脂
本発明における表面層の下層に含まれる熱溶融性樹脂について、以下に説明する。ここで、本発明の熱溶融性樹脂とは、樹脂の固体状態における結晶性が高く、融点を持ち、融点以上の温度においては溶融状態となる特性を示す樹脂材料である。熱溶融性樹脂は、画像形成後の加圧加熱処理時に、容易に溶融状態に達し液状となるか、又は溶融状態で低粘度化し、インク受容層内に容易に浸透可能なものである必要がある。また、この熱溶融性樹脂は、本発明のインクジェット記録媒体を形成する際には、熱溶融せず粒状の形状を維持するような条件で表面層の下層として形成される。このため、下層は内部に空隙を有する多孔質構造を有するものとなる。
【0028】
この熱溶融性樹脂としては、画像形成前に、表面層の下層中に多孔質構造を形成する点から、溶媒中に微細分散が可能な材料であることが好ましい。また、熱可塑性ラテックスと均一に混合する点で、熱溶融性樹脂は水系溶媒に分散可能なものがより好ましい。
【0029】
画像形成後の加圧加熱処理の条件としては、記録画像への熱ダメージやプロセスの簡便さ等を考慮して、加熱温度が180℃以下であることが好ましく、90℃以上、150℃以下とすることがより好ましい。従って、熱溶融性樹脂としては180℃以下の融点を持ち、溶融状態で低粘度となる材料を用いることが好ましい。この溶融状態での粘度としては3000mPa・s以下であることが好ましい。また、表面層形成のための乾燥時に熱溶融性樹脂を溶融させないため、熱溶融性樹脂の融点としては70℃以上であることが好ましい。
【0030】
以上の特性の一部又は全部を満たす熱溶融性樹脂として、本発明ではオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。このオレフィン系樹脂としては、以下のものを用いることができる。
・カルナバワックス、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、マイクロクリスタリンワックスなどのワックス系樹脂。
・ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂などのオレフィン−酢酸ビニル系樹脂。
・オレフィン−アクリル系樹脂、オレフィン−ポリエステル系樹脂。
【0031】
これらのオレフィン系樹脂の中で、低分子量型低密度ポリエチレン、低分子量型高密度ポリエチレン、低分子量型ポリプロピレン、低分子量エチレン−酢酸ビニル系樹脂を用いることがより好ましい。これらのオレフィン系樹脂を用いることにより、インクジェット記録方法による画像形成の適正化を図ることができる。
【0032】
熱溶融性樹脂の平均粒子径としては、10μm以下であることが好ましい。熱溶融性樹脂の平均粒子径が10μmより大きくなると、表面に塊状物が残ってしまい外観上、好ましくない。平均粒子径の好ましい下限は、表面層の下層となるインク受容層の構造によって異なるが、インク受容層内の細孔径より大きいことが好ましい。すなわち、インク受容層には、インク吸収性の観点から表面にサブμmからμmオーダーのクラックや微細な細孔が存在する。このため、表面層の下層を構成する熱溶融性樹脂(加圧加熱処理前)の粒子径が、これらインク受容層の細孔の大きさより小さい場合、表面層形成時にインク受容層内部に熱溶融性樹脂の粒子が入り込んでしまう。この結果、インク吸収を阻害してしまうこととなってしまう。このため、熱溶融性樹脂の平均粒子径の下限としては、インク受容層内の細孔径より大きいことが好ましい。
【0033】
なお、インク受容層内の細孔径分布は、窒素分子等によるガス吸着法又は水銀圧入法により測定することができる。すなわち、数10ナノメートルオーダーの細孔分布の測定にはガス吸着法を、100ナノメートルより大きい細孔分布の測定には水銀圧入法を用いる。また、熱溶融性樹脂の粒度分布は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0034】
本発明の表面層の下層中には、熱溶融性樹脂を含んでいる必要があるが、これ以外にも熱可塑性ラテックスを含み、熱溶融性樹脂と熱可塑性ラテックスの混合物とすることもできる。この場合の、下層中の熱溶融性樹脂の含有量としては、50質量%よりも多いことが好ましい。また、この場合、配合する熱溶融性樹脂と熱可塑性ラテックスの平均粒子径の比も重要となる。ここで、加圧加熱処理時に、下層中に含まれる熱溶融性樹脂をインク受容層内に良好に浸透させるためには、熱可塑性ラテックスよりも熱溶融性樹脂の平均粒子径の方が大きくなっている方が好ましい。この理由は、熱可塑性ラテックスと熱溶融性樹脂の平均粒子径が揃っているほど、両樹脂が接触する表面積が多くなるため、加圧加熱時に両者が混ざって、熱溶融性樹脂がインク受容層内に浸透しにくくなってしまうためである。
【0035】
(インク受容層)
本発明のインク受容層としては、表面層を透過してくる染料系インクの吸収性を高める必要から、その内部の細孔内に染料系インクを吸収するインク吸収型のインク受容層であることが好ましい。このインク受容層は、比表面積の大きな無機顔料と、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくとも一方を主成分として構成される。無機顔料としては、軽質炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、合成アルミナ、非晶質シリカ等が用いられる。これらの中でも、特にインク吸収性の面から合成アルミナ、非晶質シリカを好適に用いることができる。無機粒子の比表面積としては、50m2/g以上、350m2/g以下のものを使用することが好ましい。また、無機粒子の平均粒子径としては、0.05μm以上、1μm以下のものを使用することが好ましい。
【0036】
水溶性樹脂、水分散性樹脂としては、例えば、澱粉、ゼラチン、カゼインおよびそれらの変性物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、完全または部分ケン化のポリビニルアルコールまたはその変性物(カチオン変性、アニオン変性、シラノール変性など)、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸またはその共重合体、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体、ポリエステル系樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。また、これらの水溶性樹脂、水分散性樹脂は単独又は複数種を混合して用いることができる。
【0037】
本発明において、耐熱性基材上にインク受容層を設けるために、一般的な塗工装置を用いることができる。この塗工装置としては例えば、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ショートドゥエルコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、サイズプレス等の各種装置をオンマシンまたはオフマシンで使用することができる。
【0038】
(耐熱性基体)
本発明の耐熱性基体としては、紙基体又は耐熱性フィルム基体等を用いることができる。紙基体を構成するパルプとしては、例として天然パルプ、合成パルプを用いることができるが、一般的に天然パルプが用いられる。天然パルプは塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素漂白の通常の漂白処理並びにアルカリ抽出又はアルカリ処理をしたものを用いることができる。また、必要に応じて、過酸化水素、酸素等による酸化漂白処理等、及びこれらの組み合わせ処理を施した針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、針葉樹・広葉樹混合パルプの木材パルプを用いることができる。また、クラフトパルプ、サルファイトパルプ、ソーダパルプ等のほか、再生パルプ等の各種のものを用いることができる。
【0039】
原紙中には、紙料スラリー調製時に各種の添加剤を含有させることができ、サイズ剤として、脂肪酸金属塩、脂肪酸、ロジン誘導体等を含有させるのが良い。
【0040】
また、耐熱性フィルム基体としては例えば、以下の材料からなるフィルムを用いることができる。
・ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレートコポリマー、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル。
・ポリプロピレンなどのポリオレフィン。
・ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂・塩化ビニルコポリマー、アクリル樹脂、ポリエーテルスルフォン。
【0041】
また、本発明のインクジェット記録媒体は、裏面(耐熱性基体側)にも上記熱可塑性ラテックスの層を設けることが好ましい。このように裏面に熱可塑性ラテックスの層を設けることによって、インクジェット記録媒体の耐水性、強度をさらに向上させることができる。
【0042】
(染料系インク)
本発明の染料系インクは典型的には、水、水溶性染料、水溶性有機溶剤及びその他の成分として例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等を含有する。
【0043】
この水溶性染料としては,カラーインデックス(COLOUR・INDEX)に記載されている水溶性の酸性染料、直接染料、反応性染料であれば特に限定はない。また、カラーインデックスに記載のないものでもアニオン性基,例えばスルホン基、カルボキシル基等を有するものであれば特に制限はない。
【0044】
本発明の染料系インク中に使用する水溶性有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド等のアミド類,アセトン等のケトン類,テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類,エチレングリコール,プロピレングリコール,ブチレングリコール,トリエチレングリコール,1,2,6−ヘキサントリオール,チオジグリコール,ヘキシレングリコール,ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類,エチレングリコールメチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類,エタノール,イソプロピルアルコール,n−ブチルアルコール,イソブチルアルコール等の1価アルコール類の他,グリセリン,N−メチルー2−ピロリドン,1,3−ジメチルーイミダゾリジノン,トリエタノールアミン,スルホラン,ジメチルサルホキサイド等が用いられる。染料系インク中の上記水溶性有機溶剤の含有量について特に制限はないが、1質量%以上、50質量%以下が好ましく、2質量%以上、30質量%以下がより好ましい。この他、必要に応じて、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤、蒸発促進剤等の添加剤を配合してもかまわない。
【0045】
また、以上、説明した成分の他に、更にアニオン性の界面活性剤又はアニオン性の高分子物質を添加してもよい。アニオン性界面活性剤の例としてはカルボン酸塩型,硫酸エステル型,スルホン酸塩型,燐酸エステル型等,―般的なものが問題無く使用できる。また、アニオン性高分子の例としてはアルカリ可溶型の樹脂、具体的には、ポリアクリル酸ソーダあるいは高分子の―部にアクリル酸を共重合したもの等を挙げることができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例、比較例により本発明の実施形態について更に詳しく説明する。
(実施例1)
(紙基体の作製)
原料パルプとして広葉樹漂白クラフトパルプを使用し、抄造後、線圧60kg/cmでマシンカレンダー処理して、坪量150g/m2、密度0.95g/cm3である紙基体(耐熱性基体)を製造した。
【0047】
(インク受容層の形成)
無機顔料としてアルミナ水和物を用い、その調整を以下の通りに行った。米国特許明細書第4242271号明細書に記載された方法にしたがってアルミニウムオクタキシドを合成し、これを加水分解してアルミナスラリーを製造した。このアルミナスラリーをアルミナ水和物の固形分が5質量%になるまで水を加えた。次に、80℃に昇温して10時間、熟成反応を行った後、これをスプレー乾燥してアルミナ水和物を得た。
【0048】
更に、このアルミナ水和物をイオン交換水に混合・分散し、硝酸によりpH10に調整した。これに熟成時間を5時間として熟成してコロイダルゾルを得た。このコロイダルゾルを脱塩処理した後、酢酸を添加して解膠処理を行った。
【0049】
上記アルミナ水和物のコロイダルゾルを濃縮して15質量%の溶液を得た。一方、これとは別にポリビニルアルコール(商品名:PVA117、クラレ社製)をイオン交換水に溶解して10質量%の溶液を得た。この2種の溶液をアルミナ水和物の固形分とポリビニルアルコールの固形分が質量比で10:1になるように混合し、攪拌して分散液を得た。この分散液を上記紙基体上に乾燥塗工量30g/m2となるように塗工した後、乾燥してインク受容層を形成した。
【0050】
(表面層の形成)
上記で得たインク受容層上に、表面層の上層及び下層として、以下の材料を塗工し、A4版サイズのインクジェット記録媒体を得た。ここで乾燥後の塗布質量は、表面層の下層は5g/m2とし、上層は3g/m2とした。
上層:
(熱可塑性ラテックス) 塩化ビニル−酢酸ビニル系ラテックス(商品名:ビニブラン602、日信化学工業社製)
下層:
(熱溶融性樹脂) 水分散型ポリエチレンワックス(商品名:HI−DISPER A332、岐阜セラック製造所社製、粒子径2.5μm、溶融粘度1000mPa・S)。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様にして、紙基体(耐熱性基体)とその上にインク受容層を作製した。
(表面層の形成)
上記で得られたインク受容層上に、表面層の上層及び下層として、以下の材料を塗工し、A4版サイズのインクジェット記録媒体を得た。ここで乾燥後の塗布質量は、表面層の下層は6g/m2とし、上層は3g/m2とした。
上層:
(熱可塑性ラテックス) 塩化ビニル−酢酸ビニル系ラテックス(商品名:ビニブラン602、日信化学工業社製)
下層:
(熱溶融性樹脂) 水分散型ポリエチレンワックス(商品名:HI−DISPER A212、岐阜セラック製造所社製、粒子径2.5μm、溶融粘度1000mPa・S ) 80質量部
(熱可塑性ラテックス) 塩化ビニル−酢酸ビニル系ラテックス(商品名:ビニブラン602、日信化学工業社製) 20質量部。
【0052】
(実施例3)
実施例1と同様にして、紙基体(耐熱性基体)とその上にインク受容層を作製した。
(表面層の形成)
上記で得られたインク受容層上に、表面層の上層及び下層として、以下の材料を塗工しA4版サイズのインクジェット記録媒体を得た。ここで乾燥後の塗布質量は、表面層の下層は5g/m2とし、上層は3g/m2とした。
上層:
(熱可塑性ラテックス) 塩化ビニル−酢酸ビニル系ラテックス(商品名:ビニブラン602、日信化学工業社製)
下層:
(熱溶融性樹脂) 水分散型カルナバワックス(商品名:SL535E、エレメンティスジャパン社製)。
【0053】
(実施例4)
実施例1と同様にして、紙基体(耐熱性基体)とその上にインク受容層を作製した。
(表面層の形成)
上記で得られたインク受容層上に、表面層の上層及び下層として、以下の材料を塗工しA4版サイズのインクジェット記録媒体を得た。ここで乾燥後の塗布質量は、表面層の下層は5g/m2とし、上層は3g/m2とした。
上層:
(熱可塑性ラテックス) 塩化ビニル−酢酸ビニル系ラテックス(商品名:ビニブラン602、日信化学工業社製)
下層:
(熱溶融性樹脂) 水分散型エチレン酢酸ビニル樹脂(商品名:ケミパールV300、三井化学社製、粒子径6μm)。
なお、上記実施例1〜4により作製したインクジェット記録媒体の断面層構成を電子顕微鏡により観察した。この結果、表面層の上層と下層はそれぞれ内部に約10μmの粒子を有しており、これらの粒子間に空隙が存在する多孔質構造を確認することができた。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様にして、紙基体(耐熱性基体)とその上にインク受容層を作製した。
(表面層の形成)
表面層として、以下の成分比となるように塗工液を混合し、アルミナ層上に乾燥塗工量7g/m2となるように多孔質ラテックス層を形成して、A4版サイズのインクジェット記録媒体を得た。
【0055】
(熱可塑性ラテックス) :塩化ビニル−酢酸ビニル系ラテックス(商品名:ビニブラン602、日信化学工業社製) 70質量部
(熱可塑性ラテックス):アクリル樹脂ラテックス(商品名:ビニブラン2706、日信化学工業社製) 30質量部。
なお、上記実施例1〜4及び比較例1において、(熱可塑性ラテックス)及び(熱可塑性ラテックス)として記載した材料は、この材料中の全部又は一部がそれぞれ(熱可塑性ラテックス)及び(熱可塑性ラテックス)に該当する。
【0056】
(画像形成)
実施例及び比較例で得られたインクジェット記録媒体に対してキヤノン製インクジェットプリンタ(商品名:BJ−F870)で印字を行った。
【0057】
(加圧加熱処理)
上記実施例及び比較例で得たインクジェット記録媒体を用い、上記のように画像形成を行った後、A4サイズの印字記録物を金属ローラとシリコンゴムローラからなる一対のローラ間に通して加圧加熱を行った。なお、この際、加熱温度は150℃とした。また、加熱処理は、画像表面を離型フィルムでカバーして行った。
【0058】
(1)画像性評価
上記画像形成の際、印字条件として1インチ辺りのドット印字解像度(dpi)を1200dpiとし、8パスの往復走査によって画像を完成させる8パスの双方向印字とした。ここで、印字パーセントは1200×1200dpiを100%とした。
以下の各印字パーセントからなる合計200%の混色パッチを印字した。
C(シアン)、M(マゼンダ):各10%
LC(淡シアン)、LM(淡マゼンダ):各40%
Y(イエロー):100%
そして、以下の基準に従って、目視により画像評価した。
○:ビーディングの発生なし
×:ビーディング及びにじみが多量に発生。
【0059】
(2)酸化性ガスによる退色性評価
オゾンガス環境下での保存における画像退色性の評価を行った。なお、この際、オゾンガス試験機としてスガ試験機(株)製オゾンウェザーメーターOMS−Sを使用した。保存条件は、オゾン濃度3ppm、保存時間10時間とした。画像はRGBデータとして、(R,G,B)=(0,0,0)の黒ベタ画像を形成して、評価に用いた。そして、オゾンガス試験前後の黒ベタ画像表面の色相変化(ΔE)と、オゾンガス試験後の端部(縁の部分)の変色幅を以下の基準に従って評価した。
(画像表面)
○:ΔE≦3
×:ΔE>3
(画像端部)
○:変色幅≦1mm
△:1mm<変色幅≦2mm
×:2mm<変色幅
上記の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果より、本発明の上層、下層の表面層を設けた実施例1〜4のインクジェット記録媒体では、画像性及び退色性(表面)が共に「○」となっている。このため、優れた画像特性を有すると共に、インクジェット記録媒体表面からの退色が起こっていないことが分かる。更に、実施例1〜4のインクジェット記録媒体では、退色性(端部)が「○」又は「◎」となっており、インクジェット記録媒体端部からの退色も起こっていないことが分かる。これに対して、比較例1のインクジェット記録媒体表面では、退色性(端部)が「×」となっており、端部からの退色が起こっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明におけるインクジェット記録媒体の断面模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1:基材紙
2:インク受容層
3:表面層
4:表面層の上層
5:表面層の下層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性基体、インク受容層、表面層をこの順に設けたインクジェット記録媒体であって、
前記表面層は、熱溶融性樹脂を含み、前記インク受容層側に設けられた多孔質構造の下層と、
熱可塑性ラテックスを含み、最表面層として設けられた多孔質構造の上層と、
を有することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記下層に含まれる熱溶融性樹脂は、融点が70℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記下層に含まれる熱溶融性樹脂の平均粒子径が、前記インク受容層の細孔径よりも大きく、かつ10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記下層に含まれる熱溶融性樹脂が、オレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
前記インク受容層が、無機顔料を含み、かつその内部の細孔内にインクを吸収するインク吸収型のインク受容層であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
インクジェット記録方法により、請求項1から5の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体の表面層側に染料系インクを付与して、画像を形成する画像形成工程と、
前記画像形成工程後のインクジェット記録媒体に加圧加熱処理を行うことにより、前記表面層の上層に含まれる熱可塑性ラテックスを皮膜化し、かつ、前記表面層の下層に含まれる熱溶融性樹脂を前記インク受容層の細孔内に充填する工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録画像の形成方法。
【請求項7】
加熱加圧ローラにより、前記加圧加熱処理を行うことを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録画像の形成方法。
【請求項8】
サーマルヘッドにより、前記加圧加熱処理を行うことを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録画像の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−188931(P2008−188931A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27886(P2007−27886)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】