説明

インクジェット記録媒体用バインダー組成物、インクジェット記録媒体用塗工組成物、インクジェット記録媒体及びインクジェット記録媒体の製造方法

【課題】光沢性、インク吸収性及び耐水性に加え、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度も優れる記録媒体を与え、製膜性が高いインクジェット記録媒体用バインダー組成物を提供する。
【解決手段】第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して得られるインクジェット記録媒体用バインダー組成物であって、前記重合開始剤として過硫酸塩及びアゾ化合物を併用することを特徴とするインクジェット記録媒体用バインダー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢性、インク吸収性及び耐水性に加え、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度も優れる記録媒体を与え、製膜性が高いインクジェット記録媒体用バインダー組成物、上記インクジェット記録媒体用バインダー組成物及び顔料を含むインクジェット記録媒体用塗工組成物、上記インクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層を有するインクジェット記録媒体並びに上記インクジェット記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、ノズルから飛翔されるインク液滴を記録媒体に付着させ、文字、画像等を記録媒体上に記録する。当該記録方式は高速化及び多色化が容易で、現像、定着等の処理が不要であり、プリンター、プロッター等の記録装置の記録方式として急速に普及している。当該記録方式で用いられる記録媒体は、通常、水性樹脂組成物を紙等の支持体上に塗布し、乾燥してインク受理層を形成して製造する。
高い光沢性、インク吸収性及び耐水性を有するインクジェット記録媒体を与えるため、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で第1の単量体の重合を行い、次いで、得られたラテックスに疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び第2の単量体を添加し、更に重合を継続して製造するインクジェット記録媒体用ラテックスが検討された(例えば、特許文献1参照)。近年、光沢性、インク吸収性及び耐水性に加え、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度も優れる記録媒体を与え、製膜性が高いバインダー組成物が求められようになってきた。しかしながら、このようなインクジェット記録媒体用バインダー組成物は提供されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開2008−213368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、光沢性、インク吸収性及び耐水性に加え、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度も優れる記録媒体を与え、製膜性が高いインクジェット記録媒体用バインダー組成物の提供である。本発明が解決しようとする別の課題は、上記インクジェット記録媒体用バインダー組成物及び顔料を含むインクジェット記録媒体用塗工組成物、上記インクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層を有するインクジェット記録媒体並びに上記インクジェット記録媒体の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合してインクジェット記録媒体用バインダー組成物を製造する際に、前記重合開始剤として過硫酸塩及びアゾ化合物を併用すると、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物は、第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して得られるインクジェット記録媒体用バインダー組成物であって、前記重合開始剤として過硫酸塩及びアゾ化合物を併用することを特徴とするものである。
上記過硫酸塩と上記アゾ化合物の好ましい使用割合は質量比で10/90〜90/10であり、更に好ましい当該使用割合は質量比で50/50〜20/80である。
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物の好ましい実施態様では、重合に用いた上記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の30質量%以上が、重合反応により形成された重合体に結合又は吸着している。
【0006】
本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物は、上記インクジェット記録媒体用バインダー組成物及び顔料を含む。
本発明のインクジェット記録媒体は、本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層を有する。好ましくは、本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層は、本発明のインクジェット記録媒体の最表層である。
本発明のインクジェット記録媒体の製造方法は、本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物を塗工して塗膜を形成する工程、上記塗膜を加熱加圧下にカレンダー処理する工程を実施する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物は、光沢性、インク吸収性及び耐水性に加え、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度も優れるインクジェット記録媒体を与え、その製膜性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】表面酸基量及び水相酸基量を求めるためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物は、第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び2種類の重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して製造する。
【0010】
上記第1及び第2のビニル系不飽和単量体は、特定の単量体に限定されず、インクジェット記録媒体用バインダー組成物の製造で従来使用されてきた単量体を使用する。
上記第1及び第2のビニル系不飽和単量体の具体例は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、p−スチレンスルホン酸、これらのナトリウム塩又はカリウム塩等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸、そのエステル、アミド等の誘導体;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸、そのエステル、無水物、アミド等の誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン等の共役ジエン;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等のビニル複素環化合物;等である。これらの単量体の1種又は2種以上が使用される。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び/又は「メタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリロニトリル」は、「アクリロニトリル」及び/又は「メタクリロニトリル」を意味する。
【0011】
エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸である。エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体の好適な具体例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の、エチレン性不飽和モノカルボン酸と炭素数1〜12のアルコールとのエステルである。エチレン性不飽和モノカルボン酸のアミド誘導体の具体例は、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等である。
【0012】
上記第1及び第2のビニル系不飽和単量体の重合方法は特定の方法に限定されないが、好ましい重合方法は乳化重合である。以下、上記第1のビニル系不飽和単量体の乳化重合を「第1段階の乳化重合」といい、上記第2のビニル系不飽和単量体の乳化重合を「第2段階の乳化重合」ということがある。上記第1段階及び第2段階の乳化重合時の単量体の反応容器への添加方法は特定の方法に限定されない。当該添加方法の具体例は、(a)単量体を一括して添加する方法、(b)単量体を乳化重合の進行に従って連続的又は断続的に添加する方法、(c)単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的又は断続的に添加する方法である。(a)〜(c)のいずれの方法も採用し得る。
【0013】
上記第1及び第2のビニル系不飽和単量体の全量に対する上記第1のビニル系不飽和単量体の使用割合は特定の範囲に限定されないが、好ましい当該使用割合は20〜80質量%であり、更に好ましい当該使用割合は30〜70質量%である。
上記第1のビニル系不飽和単量体として、共役ジエンを含有する単量体を用いた場合、本願発明の効果をより顕著に奏する。この場合の単量体組成は、好ましくは共役ジエン20〜80質量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜20質量%、より好ましくは共役ジエン40〜70質量%およびこれと共重合可能な他の単量体60〜30質量%である。
共役ジエンと共重合可能な他の単量体としては、前述のビニル系不飽和単量体の共役ジエン以外の単量体を適宜選択することができる。なかでも、他の単量体として、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体およびエチレン性不飽和モノカルボン酸の中から選択し、エチレン性不飽和モノカルボン酸を1〜8質量%の範囲で用いることが第1段階の乳化重合時の重合安定性に優れる点からも好ましい。
【0014】
上記第1段階の乳化重合で使用する重合開始剤は特定の重合開始剤に限定されない。当該重合開始剤の具体例は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;α、α’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物である。好ましい重合開始剤は無機過酸化物である。これらの重合開始剤を、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。これらの重合開始剤と亜硫酸ナトリウム等の還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤も使用できる。
【0015】
上記第1段階の乳化重合で使用する重合開始剤の使用量は、上記第1段階の乳化重合で使用する第1のビニル系不飽和単量体100質量部に対して、通常、0.1〜5質量であり、好ましくは0.5〜3質量である。第1段階の乳化重合を複数段で行う場合、使用する重合開始剤の全量を1段で添加しても、使用する重合開始剤の一部を1段で添加し、残部を2段以降で添加してもよい。各段における重合開始剤の添加方法は、一括添加、連続添加、分割添加のいずれでもよい。
【0016】
上記第1段階の乳化重合で使用する乳化剤は、特に限定されず、乳化重合において通常用いられるものを使用できる。具体的には、(1)ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム等のロジン酸塩;オレイン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのアルキルエーテル硫酸塩;などのアニオン性乳化剤、(2)ポリエチレングリコールのアルキルエステル、アルキルエーテル又はアルキルフェニルエーテルなどのノニオン性乳化剤、(3)塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性乳化剤、(4)ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの両性乳化剤、(5)ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の親水性合成高分子物質、(6)ゼラチン、カゼイン、水溶性でんぷん等の天然親水性高分子物質、(7)カルボキシメチルセルロース等の親水性半合成高分子物質;などが挙げられる。なかでも、アニオン性乳化剤が好適である。これらの乳化剤は、2種以上組み合わせて使用してもよい。
乳化剤の使用量は、上記第1段階の乳化重合で使用する第1のビニル系不飽和単量体100質量部に対して、通常、0.05〜15質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0017】
上記第1段階の乳化重合に際し、乳化重合で通常使用される分子量調整剤、分散剤、キレート剤等の副資材を、添加し得る。当該副資材の種類、使用量は限定されない。また、乳化重合において使用される水の量も特に限定されず、重合安定性に留意して適宜調節すればよい。水の使用量は、上記第1段階の乳化重合で使用する第1のビニル系不飽和単量体100質量部に対して、通常、70〜400質量部である。
分子量調整剤の具体例は、α−メチルスチレンダイマー;t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物である。これらの分子量調整剤を単独で、あるいは2種類以上組み合わせて使用できる。
【0018】
上記第1段階の乳化重合時の重合温度は特定の範囲に限定されない。当該重合温度は通常5〜95℃であり、好ましくは40〜95℃である。重合温度は、重合反応の進行に伴い、一定であっても、変化させてもよい。
上記第1段階の乳化重合時の重合転化率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは94質量%まで高めることが好ましい。
未反応単量体が残留している場合は、所望により、水蒸気蒸留や減圧蒸留などにより、未反応単量体を除去してもよい。
【0019】
以上のようにして、第1のビニル系不飽和単量体を重合してシード粒子が得られる。
シード粒子の体積平均粒子径は、特に限定されないが、30〜70nmの範囲にあることが好ましい。この体積平均粒子径は、用いる乳化剤の種類や使用量を調節することにより調整できる。
【0020】
上記第2段階の乳化重合で使用する上記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の具体例は、ポリビニルアルコールの各種変性物等のビニルアルコール系重合体;アクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸と酢酸ビニルとの共重合体けん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉等の澱粉誘導体等である。これらの中の1種又は2種以上が使用される。中でも、品質の安定性及び入手しやすさの観点から、好ましい疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、疎水基を有するビニルアルコール系重合体である。疎水基を有するビニルアルコール系重合体の具体例は、分子末端に疎水基を有するポリビニルアルコールである。これらの疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の1種又は2種以上が使用される。なお、本発明では、疎水基は、炭素数5以上の炭化水素基(脂肪族基、脂環基、芳香族基)を意味する。
【0021】
上記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の使用量は、特定の範囲に限定されない。好ましい当該使用量は、上記第2のビニル系不飽和単量体100質量部に対し3〜45質量部である。上記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、1,000〜500,000、好ましくは2,000〜300,000である。上記分子量が1,000より小さいと、重合時の分散安定効果が低くなる。上記分子量が500,000より大きいと、反応系の粘度が高くなり、重合が困難になる恐れがある。
【0022】
上記第2段階の乳化重合で使用する重合開始剤は、過硫酸塩及びアゾ化合物である。過硫酸塩の具体例は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等である。アゾ化合物の具体例は、α、α’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等である。上記過硫酸塩及びアゾ化合物を、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
過硫酸塩及びアゾ化合物の使用量は、それぞれ、上記第2段階の乳化重合で使用する第2のビニル系不飽和単量体100質量部に対して、通常、0.1〜5質量であり、好ましくは0.5〜3質量である。第2段階の乳化重合を複数段で行う場合、使用する重合開始剤の全量を1段で添加しても、使用する重合開始剤の一部を1段で添加し、残部を2段以降で添加してもよい。各段における重合開始剤の添加方法は、一括添加、連続添加、分割添加のいずれでもよい。
上記過硫酸塩及び上記アゾ化合物の使用割合は、質量比で、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは50/50〜20/80の範囲である。この範囲で併用すると、本願発明の効果をより顕著に奏する。
【0023】
第2のビニル系単量体は、前述のものから適宜選択すればよいが、なかでも、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびエチレン性不飽和多価カルボン酸の中から選択することが好ましい。特に、第2のビニル系単量体として、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体およびエチレン性不飽和多価カルボン酸の中から選択することが好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体70〜95質量%およびエチレン性不飽和多価カルボン酸30〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0024】
第2のビニル系単量体の添加方法は、特に限定されないが、第2のビニル系単量体、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物および水を混合・撹拌して得られる乳化物の形態で、反応器に連続的に添加することが好ましい。なお、第2のビニル系単量体の一部に、アゾ化合物を溶解して、その溶液を反応器に添加してもよい。
【0025】
乳化重合で通常使用される分子量調整剤、分散剤、キレート剤等の副資材を、上記第2段階の乳化重合時に添加し得る。当該副資材の種類、使用量は限定されない。上記第2段階の乳化重合を複数段で行う場合、必要に応じて使用する副資材の添加時期及び添加方法も限定されない。また、乳化重合において使用される水の量も特に限定されず、重合安定性に留意して適宜調節すればよい。
【0026】
分子量調整剤の具体例は、α−メチルスチレンダイマー;t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物である。これらの分子量調整剤を単独で、あるいは2種類以上組み合わせて使用できる。
【0027】
上記第2段階の乳化重合時の重合温度は特定の範囲に限定されない。当該重合温度は通常5〜95℃であり、好ましくは50〜95℃である。重合温度は、重合反応の進行に伴い、一定であっても、変化させてもよい。
重合を停止する際の重合転化率は、特に限定されないが、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0028】
以上のようにして、本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物が得られる。
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物は、重合に用いた上記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の30質量%以上、好ましくは50質量%以上が、重合反応により形成された重合体に結合又は吸着しているものであることが好ましい。このようなものであれば、カチオン性物質を含むインクジェット記録媒体用塗工組成物であっても、凝集物の発生もなく、塗工に適した組成物が得られる。
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物に含まれる粒子の体積平均粒子径は、通常、40〜150nm、好ましくは50〜130nmである。粒子の体積平均粒子径が前記範囲にあると、光沢性とドライピック強度のバランスにより優れるインクジェット記録媒体が得られる。
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物に含まれる粒子のガラス転移温度は、好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜50℃である。粒子のガラス転移温度が前記範囲にあると、ドライピック強度に優れる上に、印字部の耐傷性にも優れるインクジェット記録媒体が得られる。
【0029】
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物のpHは、特に限定されないが、塩基性化合物又は酸性化合物を添加することにより、適宜調整できる。塩基性化合物は、特に限定されないが、好ましい塩基性化合物は、アンモニア、アミンである。アミンの具体例は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン等である。これらの塩基性化合物の1種又は2種以上を使用する。他の塩基性化合物の具体例は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等である。バインダー組成物のpHを低下させる酸性化合物の具体例は、炭酸ガス、塩酸、硝酸、硫酸等である。上記塩基性化合物及び酸性化合物の使用量は、特に限定されない。
【0030】
本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物には、染料、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、染料定着剤等の添加剤を配合することができる。上記添加剤の使用量は、特定の範囲に限定されない。
【0031】
本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物は、上記インクジェット記録媒体用バインダー組成物および顔料を含む。
【0032】
上記顔料の具体例は、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料;中空粒子、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント等の有機顔料等である。好ましい顔料は無機顔料であり、特に好ましい顔料はシリカである。上記顔料の配合量は、インクジェット記録媒体用バインダー組成物の固形分100質量部に対して、好ましくは、100〜2,000質量部、更に好ましくは200〜1,500質量部の範囲である。
【0033】
本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物には、顔料以外に、顔料分散剤、染料、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、染料定着剤等の添加剤を配合することができる。上記添加剤の使用量は、特定の範囲に限定されない。
【0034】
本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物の調製方法は特に限定されない。一般的には、分散機を用い、本発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物及び顔料、並びに必要に応じて配合されるその他の添加剤や水を混合する。本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物の全固形分濃度は、通常、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。
【0035】
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体の少なくとも一方の面に、前記のインクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層(塗膜)を有する。本発明のインクジェット記録媒体は、本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物を直接支持体へ塗布して支持体に一層のインク受理層を形成する構成としてもよく、支持体上に一層のインク受理層を含む複数の層を形成した構成としてもよい。アンカー層をインク受理層の下に形成し得るし、光沢層をインク受理層の上に形成し得る。好ましくは、本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物から形成される塗膜は、本発明のインクジェット記録媒体の最表面に形成される。
【0036】
インクジェット記録媒体を構成する支持体は特に限定されず、インクジェット記録媒体の使用目的及び記録装置に応じて適宜選択される。上記支持体の具体例は、新聞原紙、上質原紙、中質原紙等の原紙;原紙上にポリビニルアルコール、澱粉等が塗工された塗工紙;顔料を主成分とする塗工層が設けられたコート紙、アート紙、キャスト紙等の塗工紙;合成紙(ポリプロピレン樹脂ベースの多層フィルム、紙の両面をポリエチレンで被覆した紙等);ポリエステルフィルム、塩ビフィルム等の樹脂フィルム;金属製、ガラス製又はセラミック製等の支持体;等である。好ましい支持体は、原紙、塗工紙、合成紙である。
【0037】
本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物を支持体上に塗布する方法は特に限定されない。当該塗布方法で使用するコーターの具体例は、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーター等である。インクジェット記録媒体用塗工組成物を支持体上に塗布した後、通常、50〜150℃の範囲の温度で加熱し、乾燥する。本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物の支持体への塗布量(乾燥後)も特に限定されないが、通常、1〜50g/m2、好ましくは3〜30g/m2である。塗膜の厚み(乾燥後)は、通常、10〜40μmである。
【0038】
本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物からなる塗膜を、加熱加圧下にカレンダー処理することが好ましい。上記カレンダー処理は、本発明のインクジェット記録媒体表面に平滑性及び光沢を与える。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。本発明は、これらの実施例のみに限定されない。以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りがない限り、質量基準である。
以下の実施例及び比較例で測定された各種物性の測定法は、次のとおりである。
【0040】
(1)バインダー組成物のカチオン安定性
固形分濃度を20質量%に調整したバインダー組成物10質量部に、固形分換算で1質量部のカチオン樹脂(住友化学工業(株)製スミレーズレジン1001)を添加して十分に分散させ、混合状態を観察し、下記基準に従って判定した。
A;凝集物の発生が観察できない。
B;僅かな凝集物を観察できる。
C;多量の凝集物を観察できる。
【0041】
(2)バインダー組成物のpH
バインダー組成物のpHを、pH計((株)堀場製作所製pH METER M−12)を用いて、20℃で測定した。
【0042】
(3)バインダー組成物中の粒子の体積平均粒子径
バインダー組成物中の粒子およびシード粒子の体積平均粒子径を、光散乱回折粒径測定装置(コールター社製LS−230)を用いて、バインダー組成物の体積基準の粒度分布に基づき、算術平均して計算される平均粒子径として求めた。
【0043】
(4)バインダー組成物中の粒子を構成する共重合体のガラス転移温度
バインダー組成物中をアルミ皿上に採取し、常温で乾燥後、更に40℃で真空乾燥して重合体試料を得た。当該試料のガラス転移温度を、高感度示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製RDC220)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0044】
(5)バインダー組成物中の粒子を構成する共重合体のゲル量
固形分濃度を20質量%に調整したバインダー組成物を枠付きガラス板に流延し、20℃で乾燥して、膜厚0.3mmのフィルムを得た。当該フィルムを約4cm四方の正方形に切断し、切断されたフィルムの質量Aを精秤した。その後、切断されたフィルムを80メッシュの金網籠に入れ、20℃のトルエン100mlに24時間浸漬した。次いで、金網籠に残るフィルムを100℃で減圧乾燥してから精秤し、トルエン不溶解分量を計算した。
【0045】
(6)バインダー組成物の固形分濃度
約3gのバインダー組成物をアルミ皿にとって精秤した後、105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させた。得られた乾燥物の質量を測定し、質量比からバインダー組成物の固形分濃度を算出した。
【0046】
(7)バインダー組成物の粘度
バインダー組成物の粘度をB型粘度計(東京計器(株))を用いて25℃で測定した。
【0047】
(8)バインダー組成物中の粒子を構成する重合体に結合又は吸着しているアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の割合(グラフト効率)
固形分濃度を20質量%に調整したバインダー組成物を枠付きガラス板に流延し、20℃で乾燥して、膜厚0.3mmのフィルムを得た。当該フィルムを約4cm四方の正方形に切断し、切断されたフィルムの質量Aを精秤した。その後、切断されたフィルムを325メッシュの金網籠に入れ、当該金網をソックスレー抽出装置の上部に設置し、蒸留水300mlをソックスレー抽出装置の下部にあるフラスコに加え、100℃で100時間還流した。次いで、金網籠中のフィルム残渣を蒸留水で洗浄し、100℃で減圧乾燥し、残留物の質量Bを測定した。使用したアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物に対する、バインダー組成物中の粒子を構成する共重合体に結合又は吸着しているアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の割合(グラフト効率)を式(1)から計算した。
{[C−(A−B)]×100}/C(%) (1)
【0048】
(9)バインダー組成物の製膜性
固形分濃度を24質量%に調整したバインダー組成物をNo.24のワイヤーバーを用いてガラス板に塗布し、20℃で72時間乾燥し、得られた塗膜の状態を目視で観察し、下記基準で評価した。
A;滑らかな連続塗膜を観察できる。
B;僅かな亀裂、穴等がある不連続な塗膜を観察できる。
C;多くの亀裂、穴等がある不連続な塗膜を観察できる。
【0049】
(10)バインダー組成物中の粒子を構成する共重合体の表面酸基量及び水相酸基量
固形分濃度を2%に調整したバインダー組成物を50gを、蒸留水で洗浄された150mlのガラス容器に入れた。当該ガラス容器を溶液伝導率計(京都電子工業(株)製CM−117、使用セルタイプ:K−121)にセットし、当該バインダー組成物を攪拌した。攪拌は塩酸の添加が終了するまで継続された。0.1規定の水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製試薬特級)を、当該バインダー組成物の電気伝導度が2.5〜3.0mSになるように、当該バインダー組成物に添加してから6分経過後、当該バインダー組成物の電気伝導度(開始時の電気伝導度)を測定した。次いで、0.1規定の塩酸(和光純薬工業(株)製試薬特級)0.5mlを、当該バインダー組成物に添加し、30秒後に電気伝導度を測定した。当該操作を、バインダー組成物の電気伝導度が開始時の電気伝導度以上になるまで30秒間隔で繰り返し行った。
【0050】
電気伝導度(mS)を縦軸、添加された塩酸の累計量(mmol)を縦軸にプロットし、図1に示される、3つの変曲点を有するグラフを得た。3つの変曲点における横軸の値は、小さい方から順にそれぞれP1、P2、P3とし、塩酸の添加が終了したときの横軸の値をP4とした。近似曲線L1が0−P1区分のデータから、近似曲線L2がP1−P2区分のデータから、近似曲線L3がP2−P3区分のデータから、近似曲線L4がP3−P4区分のデータから、最小自乗法によりそれぞれ求めた。L1とL2の交点の横軸座標をA1(mmol)、L2とL3の交点の横軸座標をA2(mmol)、L3とL4の交点の横軸座標をA3(mmol)とした。ラテックスに含まれる微粒子を構成する共重合体1g当たりの表面酸基量及び水相酸基量を、以下に示す式により求めた。
共重合体1g当たりの表面酸基量(mmol/g)=A2−A1
共重合体1g当たりの水相酸基量(mmol/g)=A3−A2
【0051】
(11)光沢
インクジェット記録シートの表面及び印刷部分の光の反射率(%)を、JIS Z8741に基づき、変角光沢計(村上色彩技術研究所社製GM−3D型)を使用して、入射角60、75度、反射角60、75度の条件で測定した。数値が大きいほど、光沢が優れている。
【0052】
(12)印字濃度
黒(K)、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)のそれぞれのインクを、インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PM−870C)を用いてインクジェット記録シートにべた塗り印刷した。印刷物の各インクのべた部の印字濃度を、マクベスインク濃度計(Gretagmacbeth社製D19C)を用いて測定し、各インクについての印字濃度を単純平均した。数値が高いほど、印字濃度が濃い。
【0053】
(13)耐水性
ブラックインクの文字を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PM−870C)を用いて印刷し、30℃の水を印刷部分に滴下して1時間放置した。その後、水滴が残存する場合、ウェスで吸い取り、表面状態、にじみ等の印字状態を目視で観察し、耐水性を以下の基準で評価した。
A;にじみ、発色濃度及び表面状態の変化が殆ど観察されない。
B;にじみ、発色濃度及び表面状態の低下が観察されるが、実用レベルである。
C;にじみ、発色濃度及び表面状態の低下が観察され、実用レベルではない。
【0054】
(14)インク吸収性
印字直後から5、10、15、20、25、30秒後に印字面に上質紙を貼り合わせ、インクの上質紙への転写を目視で観察し、インクの吸収性を以下の基準で評価した。
A;転写は5秒以内で起きなくなる。
B;転写は5秒超〜10秒以内で起きなくなる。
C;転写は10秒超〜30秒以内で起きなくなる。
【0055】
(15)印字画像の鮮明性
インクジェット記録シートへの印字を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PM−870C)を用いて、23℃、相対湿度65%の条件下で行い、印字画像の鮮明性を目視により以下の基準で評価した。
A;印字画像が非常に鮮明でコントラストが明確である。
B;印字画像が鮮明であるが、コントラストが明確でなくぼけている。
C;印字画像が鮮明でなく、ぼけている。
【0056】
(16)インク滲み耐性
インクジェット記録シートへの印字を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PM−870C)を用いて、23℃、相対湿度65%の条件下で行い、印字の滲み具合を以下の基準で評価した。
A;光学顕微鏡により僅かな滲みだしが観察されるが、当該滲みだしは画像品質に影響しない。
B;僅かな滲みだしが目視される。
C;画像全体に亘って滲みだしが目視され、画像品質が劣る。
【0057】
(17)印字部耐傷性
インクジェット記録シートの印刷部分の光の反射率を測定するために当該シートを搬送した後、当該シートを目視し、擦り傷の程度を以下の基準で評価した。
A;擦り傷を観察できない。
B;1〜2本の弱い擦り傷を観察できる。
C;シート全面に強い擦り傷があり、プリント品質が劣る。
【0058】
(18)ドライピック強度
タック値12の印刷インク0.4cm3をゴムロールに付着させたRIテスター((株)明石製作所製)を用いてインクジェット記録シートに1回重ね塗りした。紙面の剥がれ(ピッキング)状態を観察し、5点法で評価した。点数が高いほど、ドライピック強度が高い。
【0059】
実施例1
インクジェット記録媒体用バインダー組成物の製造
イオン交換水115.0部、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム1.6部、重炭酸ナトリウム0.06部、エチレンジアミン四酢酸ナトリム0.02部を耐圧反応容器に添加し、これらを攪拌しながら、2,4−ジニトロクロロベンゼン0.06部、t−ドデシルメルカプタン0.06部、スチレン15.2部及びメタクリル酸0.8部を反応系に添加した。次いで、上記反応容器内部を窒素で置換し、1,3−ブタジエン24.0部を添加して乳化させた。その後、反応系を攪拌しながら、52℃に昇温し、過硫酸カリウム0.12部を添加して第1段階の乳化重合を開始させた。重合転化率が85%に達した時点から更に3時間反応を継続し、重合転化率が98%に達した時点で反応を終了した。その後、減圧下で未反応単量体を除去し、重合体ラテックスシードを得た。当該ラテックスシードの固形分濃度は25.6%であり、当該ラテックスシード中の粒子の体積平均粒子径は54.5nmであった。
イオン交換水203.0部、片末端に疎水基(炭素数12の炭化水素基)を有するポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−MP102)(以下、「疎水基を有するPVA」という。)10.0部、メタクリル酸メチル27部及びアクリル酸ブチル27部を別の反応容器に添加し、攪拌して、単量体乳化物を得た。
【0060】
イオン交換水10.3部を上記ラテックスシードに添加して攪拌しながら80℃に昇温し、更にイタコン酸5.0部を添加して溶解させた後、重合開始剤として過硫酸カリウム0.38部をイオン交換水14.0部に溶解した水溶液と、α、α’−アゾビスイソブチロニトリル0.2部をメタクリル酸メチル0.5部及びアクリル酸ブチル0.5部に溶解した溶液とを添加し、さらに上記単量体乳化物を連続添加し、第2段階の乳化重合を開始させた。上記単量体乳化物の連続添加は150分間かけて終了した。上記単量体乳化物の添加終了後、さらに乳化重合を120分間行い、冷却により反応を終了させた。得られた組成物の重合転化率は98%であった。未反応単量体を当該組成物から減圧下で除去し、固形分濃度を24%に調整して、インクジェット記録媒体用バインダー組成物を得た。その物性を表1に示す。
【0061】
インクジェット記録媒体用塗工組成物の製造
固形分換算で0.1質量部のカチオン樹脂(住友化学工業(株)製スミレーズレジン1001)を、カチオン性コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスAK-YL、固形分濃度31%、粒子径80nm、pH4.0、粘度9.5mPa・s)100部(固形分換算)に添加し、分散機で十分に混合した。その後、固形分が15部となる量の上記インクジェット記録媒体用バインダー組成物を得られた分散物に添加して10分間分散し、固形分濃度が29%となるようにイオン交換水を添加し、インクジェット記録媒体用塗工組成物を製造した。
【0062】
インクジェット記録シートの製造
上記インクジェット記録媒体用塗工組成物を、坪量80g/m2の三菱製紙(株)製IJフォーム紙に乾燥後の質量が16〜17g/m2程度となるように塗工し、100℃で60秒間乾燥し、塗工紙を得た。当該塗工紙を23℃、相対湿度65%の条件下で一晩調湿し、ミニカレンダーを用いて、80℃、線圧75kg/cmの条件で2回カレンダー処理し、インクジェット記録シートを得た。当該インクジェット記録シートの性能が表2に示されている。
【0063】
実施例2及び3、比較例1及び2
第2段階の乳化重合で使用する単量体の種類とその使用量、重合開始剤の種類と量、及びアゾ化合物を溶解する単量体の種類と量を表1に示すように変更し、インクジェット記録媒体用塗工組成物の塗工量を表2に示すように変更する以外は、実施例1と同じ操作を行った。
なお、実施例2のインクジェット記録媒体用バインダー組成物については、バインダー組成物中の粒子を構成する共重合体の表面酸基量及び水相酸基量の測定は行わなかった。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例1〜3のインクジェット記録媒体用バインダー組成物の製膜性は高く、これらを使用して得たインクジェット記録シートは、優れた光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度を有していた。一方、第2段階の乳化重合時に過硫酸カリウムを使用しなかった比較例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物のカチオン安定性は低く、当該バインダー組成物を使用してインクジェット記録媒体用塗工組成物を製造できなかった。第2段階の乳化重合時にα、α’−アゾビスイソブチロニトリルを使用しなかった比較例2のインクジェット記録媒体用バインダー組成物の製膜性は低く、当該バインダー組成物を使用して得たインクジェット記録シートの印字部耐傷性及びドライピック強度は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のインクジェット記録媒体は、インクジェット記録方式による記録媒体として特に有用であるが、オフセット印刷、フレキソ印刷等の水性インキ印刷用シートとしても利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して得られるインクジェット記録媒体用バインダー組成物であって、前記重合開始剤として過硫酸塩及びアゾ化合物を併用することを特徴とするインクジェット記録媒体用バインダー組成物。
【請求項2】
上記過硫酸塩と上記アゾ化合物の使用割合が質量比で10/90〜90/10である、請求項1に記載されたインクジェット記録媒体用バインダー組成物。
【請求項3】
上記過硫酸塩と上記アゾ化合物の使用割合が質量比で50/50〜20/80である、請求項2に記載されたインクジェット記録媒体用バインダー組成物。
【請求項4】
重合に用いた上記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の30質量%以上が、重合反応により形成された重合体に結合又は吸着している、請求項1〜3のいずれか1項に記載されたインクジェット記録媒体用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載されたインクジェット記録媒体用バインダー組成物及び顔料を含むインクジェット記録媒体用塗工組成物。
【請求項6】
請求項5に記載されたインクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層を有するインクジェット記録媒体。
【請求項7】
請求項5に記載されたインクジェット記録媒体用塗工組成物が塗工されて形成された層を最表面に有する、請求項6に記載されたインクジェット記録媒体。
【請求項8】
請求項5に記載されたインクジェット記録媒体用塗工組成物を塗工して塗膜を形成する工程、
上記塗膜を加熱加圧下にカレンダー処理する工程、を実施するインクジェット記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−158858(P2010−158858A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3461(P2009−3461)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】