説明

インクジェット記録媒体

【課題】白色度が優れ、染料インク、および顔料インクによるインクジェット記録特性が良好であるインクジェット記録媒体の提供。
【解決手段】支持体の少なくとも片面に、顔料と結着剤とを含有するインク受理層を1層以上設けたインクジェット記録用紙において、前記インク受理層が、結着剤として重合度2000を超え、かつケン化度98%未満のポリビニルアルコール、更に蛍光増白剤として下記一般式(1)で表される4,4−ジ(トリアジノアミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体を顔料100質量部に対して1質量部以上含有するることを特徴とするインクジェット記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンターにより画像形成されるインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録方式は、種々の機構によりインクの小滴を吐出し、記録媒体上に付着させてドットを形成し、記録を行うものであり、ドットインパクトタイプの記録方式に比べて騒音がなく、またフルカラー化が容易である上、高速印字が可能であるなどの利点がある。一方、インクジェット記録に使用されるインクは、通常、直接染料や酸性染料などを用いた水性インクであるため、乾燥性が悪いという欠点がある。
【0003】
このようなことから、インクジェット記録媒体に要求される特性として、インク乾燥速度が速いこと、印字濃度が高いこと、インクの溢れや滲みがないこと、更に、インクの吸収により用紙が波打ちしないこと、印字画像の耐水性等が挙げられる。
【0004】
さらに、最近では高解像度のデジタルビデオ、デジタルカメラ、スキャナーおよびパーソナルコンピューターの普及により高精細の画像を取り扱う機会が多くなり、これらのハードコピーをインクジェットプリンターで出力する事が多くなっている。これに伴い、記録媒体に対する要求特性として、高い白色度が要求されている。
【0005】
そこで、インクジェット記録媒体の白色度を向上させる技術として、インク受理層にアニオン性蛍光増白剤を含有させる技術(例えば、特許文献1参照)が紹介されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−50532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたアニオン性蛍光増白剤をインク受理層用塗工液に配合した場合、塗工液の安定性が低下し、インク受理層に塗工ムラが発生するという問題があった。特に、ロールコーターを用いて塗工した際に著しく発生する。また、近年、顔料の分散技術が発達したことで顔料を色材とした顔料インクが普及しつつある。顔料インクで画像を記録すると保存性は良好であるが、染料インク用に設計された従来のインクジェット記録用紙に印字を行った場合、画像の発色性が劣ったり、色材(顔料)が記録紙表面から欠落するという問題があり、染料インク、顔料インクを用いて印字したいずれの場合においても発色性が良好なインクジェット記録媒体が望まれている。
【0008】
なかでも顔料インクを用いてインクジェット記録媒体に印字した場合、最表層のひび割れ状の欠陥(クラック)が少ないものほど良好な発色性を示す。クラックの少ない塗工層を得るためには、結着剤として使用するポリビニルアルコールとして鹸化度の低いものや重合度の高いものを使用することが紹介されており、対策のひとつと考えられるが、このようなポリビニルアルコールを配合して調製した塗料は、高速せん断時の流動性が極端に悪く、塗工工程において均一な塗工が困難で、紙面上に塗工ムラを生じることがあった。
【0009】
従って、本発明の目的は、白色度が優れ、染料インク、および顔料インクによるインクジェット記録特性が良好である上、インク受理層が均一に塗工され、結果として良好な塗工面感を併せ持つインクジェット記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題について鋭意検討した結果、インク受理層に特定の蛍光増白剤を含有させることにより、上記目的を達成することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明のインクジェット記録媒体は、支持体の少なくとも片面に、顔料と結着剤とを含有するインク受理層を1層以上設けたインクジェット記録用紙において、前記インク受理層が、結着剤として重合度2000を超え、かつケン化度98%未満のポリビニルアルコール、更に蛍光増白剤として下記一般式(1)で表される4,4−ジ(トリアジノアミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体を顔料100質量部に対して1質量部以上含有することを特徴とするインクジェット記録媒体である。
【0012】
【化1】


(式中、W、X、Y、Zは、スルホ基、スルホ基の1価の金属塩、またはアミノ基のいずれかを少なくとも1つ有する官能基を示し、W、X、Y、Zにおいては計4ヶのスルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩を有する)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インク受理層が均一に塗工され、高い白色度を有するインクジェット記録媒体を得ることができる。また、顔料として一次粒子径が5〜55nmで、かつ前記一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜2.2であるコロイダルシリカを含有することで染料インク、顔料インクのいずれを用いても記録画像の濃度(発色性)が高いインクジェット用記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
<支持体>
支持体としては、透気性支持体、非透気性支持体のいずれも用いることができるが、透気性支持体を用いると、キャストコート法とりわけ凝固法にてインク受理層を形成させた場合により高い光沢感を容易に付与できるので好ましい。透気性支持体としては、特に紙(塗工紙、未塗工紙等)が好ましい。該紙の原料パルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)等を、単独または任意の割合で混合して使用することが可能である。
【0016】
前記紙のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。また、紙中に填料を含有させると紙の不透明度を向上させることができるため、填料を含有させることが好ましい。填料としては、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂填料等の公知の填料を使用することができる。
【0017】
<インク受理層>
次に、インク受理層について説明する。インク受理層は、以下の顔料、結着剤、蛍光増白剤、及びその他の成分を適宜含む塗工液を上記支持体に塗工して形成することができる。
【0018】
(インク受理層の結着剤)
本発明においては、結着剤としてポリビニルアルコールを用いる。ポリビニルアルコールはいずれのタイプのものを使用することができるが、ケン化度は98%未満であることが好ましい。なお、ケン化度が98%未満のものは部分ケン化ポリビニルアルコールや中間ケン化ポリビニルアルコールと呼ばれる。ケン化度が低いほどインク吸収性が向上する傾向にある。これは、ケン化度が低いほどポリビニルアルコールの親水性が高く、インクの吸収性も良好となるためと推察される。また、ケン化度が低いほど発色性が向上する傾向にある。この理由についてはケン化度が低いほど透明性が高く、そのために塗工層の透明性が高くなり、印字濃度が向上すると推察される。なお、ケン化度が低いほど塗料安定性が劣る傾向にあり、経時で塗工液が増粘(ひどい時にはプリン化)することがある。これは、ケン化度が低いほどシリカ(合成非晶質シリカ及びコロイダルシリカ)との相互作用が強くなるためと推測される。このため、ポリビニルアルコールのケン化度は80%以上であることが好ましい。これらポリビニルアルコールは2種類以上を併用することもできる。
【0019】
また、塗工液が増粘すると、塗工時に均一な塗工を行うことが著しく困難になることがある。とりわけ塗料に高いせん断応力が加わるブレード塗工やリバースロール塗工、バー塗工ではその傾向が顕著である。こうした条件で塗工を行うと、塗工層の厚さにむらが生じ、塗工紙の面感を著しく悪化させるので好ましくない。
【0020】
一方、ポリビニルアルコールの重合度が高いほど顔料インクの印字濃度が向上する傾向にあるため、顔料インクの発色性を向上するという観点からは重合度は2000を超えることが必要である。この理由としては、重合度が高くなるとよりバインダーが塗工層表面に残り易くなり、そのため塗工層のクラック(ひび割れ)が低減する。クラックが低減するとインク中の着色顔料が表面に留まり易くなり、発色性(印字濃度)が向上すると考えられる。また、重合度が高くなり過ぎると塗料の粘度が高くなって塗工が困難となるので、重合度は5000以下であることが好ましい。
【0021】
なお、本発明においては発色性や吸収性、光沢感を損なわない範囲で皮膜形成が可能な高分子化合物を結着剤として併用することができる。例えば、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カゼイン、ゼラチン、大豆タンパク、スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂及びこれらの誘導体等を用いることができる。結着剤の配合量は、顔料100質量部に対して、5〜30質量部であることが好ましいが、必要な塗工層強度が得られる限り、特に限定されるものではない。結着剤の配合量が多くなると顔料インクでインクジェット記録を行った際の発色性は向上する傾向にあるが、インク吸収性は低下する傾向にある。
【0022】
(蛍光増白剤)
本発明においては蛍光増白剤として、インク受理層に前記一般式(1)に示される4,4−ジ(トリアジノアミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体を配合する。前記一般式(1)においてW、X、Y、Zにおいてスルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩を4ヶ有する蛍光増白剤して具体的にはBLANKOPHOR UWS liquid(ケミラジャパン社製の商品名)、KAYAPHOR JB liquid(日本化薬製の商品名)、KAYAPHOR EXN liquid(日本化薬製の商品名)などがあげられる。これらは1種または2種以上を混合して使用することができる。本発明に使用する蛍光増白剤のインク受理層への混合比率は、顔料100質量部に対して質量固形分で1質量部以上であることが必須で、好ましくは1〜5質量部であり、さらに好ましくは1〜3質量部である。1質量部未満では白色度向上に効果が少なく、5質量部を超えると塗料の流動性が顕著に悪化し、著しく操業性を欠く傾向がある。
【0023】
前記4,4−ジ(トリアジノアミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体を用いることで、インク受理層の塗工ムラ低減する理由は明らかではないが、蛍光増白剤中のスルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が多い場合には、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が少ない場合と比較して結着剤として塗料中に添加しているポリビニルアルコールとの分子間相互作用が弱まることが考えられる。なお、塗工液の流動性は高剪断粘度計で得られるレオグラムにより判断でき、レオグラムに乱れが生じると塗工液の流動性は悪く、高速せん断条件下での操業性は悪いと判断できる。具体的には、レオグラムに乱れが生じた剪断速度付近の剪断力が生じる塗工機を用いて塗工すると、塗工むらが顕著に発生し、面感の著しく劣った塗工紙が得られる。
【0024】
(インク受理層の顔料)
本発明における顔料としては、公知の無機微粒子や有機微粒子を用いることができ、例えば、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)や、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を用いることができる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。本発明においては、特に発色性の点からコロイダルシリカを含有することが好ましい。
【0025】
本発明で使用するコロイダルシリカは湿式法で合成された一次粒子径数nm〜100nm程度の合成シリカであり、凝集して非球状の二次粒子となる場合も含まれる。コロイダルシリカの一次粒子径を5〜55nm、好ましくは10〜40nmとする。一次粒子径が5nm未満であると、顔料インクを用いたインクジェットプリンターで印字した場合にはインク発色性の低下が大きくなる。一方、一次粒子径が55nmを超えると、粒子間の空隙は増えインク受理層のインク吸収性は良好となるが、不透明性が増大してくるため、インクジェット記録した際の染料インクの発色性が低下する。なお、粒子径が異なる2種以上のコロイダルシリカを併用することもできる。
【0026】
また、前記コロイダルシリカの一次粒子径に対する二次粒子径の比を1.5〜2.2とする。上記比が1.5〜2.2であると、顔料インク、染料インク共に発色性が著しく向上する。コロイダルシリカの一次粒子径及び二次粒子径はBET法や動的光散乱法等で測定できる。なお、本発明におけるコロイダルシリカは、通常その分散状態を顕微鏡で観察すると、球状の単一コロイダルシリカ(一次粒子)が2〜3個連なったものが多数観察される。これを便宜上、ピーナツ状と表す。この一次粒子連結個数を平均した値は、上記比にほぼ対応する。そして、本発明におけるコロイダルシリカは、房状や鎖状のコロイダルシリカ(顕微鏡観察すると、球状の単一コロイダルシリカが少なくとも5個以上、通常は10個以上連なるもの、上記比も5以上となる)を主とするものは含まない。ここでいう含まない、とは、顕微鏡観察した際に、房状のコロイダルシリカがまったく観察されないことをいうのでなく、一部房状のコロイダルシリカが観察されていてもよいが、マクロ的な物性である一次粒子径に対する二次粒子径の比を測定した値が2.5を超える(通常は5以上)ことをいう。
【0027】
前記コロイダルシリカは、アルコキシシランを原料としてゾルゲル法により合成し、合成条件によって一次粒子径(BET法粒子径)や二次粒子径(動的光散乱法粒子径)をコントロールするようにすることが好ましい。このようなコロイダルシリカとしては、扶桑化学工業社製の商品名クォートロンを上げることができる。
【0028】
本発明において、コロイダルシリカの好ましい配合割合は、インク受理層に含まれる全顔料中、30〜75質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜70質量%である。コロイダルシリカの配合割合が少ない場合には、顔料インクでインクジェット印字した際の発色性向上の効果が不十分となる傾向がある。また、配合量が多い場合には染料インクの発色性が低下する傾向があり、さらに、塗工した際の操業性が低下する場合がある。
【0029】
本発明においてはインク吸収性を向上するという点でコロイダルシリカに加えてさらに合成非晶質シリカを含有することが好ましい、合成非晶質はその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカに大別できる。湿式法で製造された合成非晶質シリカは顔料の透明性に関しては気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の顔料比率を高くすることができ、インク受理層の吸収性を高くできるのでインク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上するものと考えられる。
【0030】
インク受理層を均一に塗工できるという点で前記合成非晶質シリカは二次粒子径が1〜5μmであることが好ましい。また、BET比表面積は150〜500m/gであることが好ましい。
【0031】
本発明においては、インク受理層中に上述したコロイダルシリカと共に、沈降法シリカ及び/または気相法シリカを含有することが好ましい。気相法シリカを併用すると、理由は明らかではないが、ベタ印字した際のムラが良化する傾向にある。気相法シリカは、乾式法シリカ、或いはヒュームドシリカとも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化珪素などの揮発性シラン化合物の酸水素炎中における気相加水分解によって製造され、火炎の温度、酸素と水素の供給比率、原料の四塩化珪素供給量等の条件を変更することにより得られる。四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル株式会社からアエロジル、株式会社トクヤマからレオロシールQSタイプとして市販されており入手することができる。気相法シリカの平均一次粒径は5〜50nmであることが好ましい。
【0032】
前記気相法シリカは、比表面積(BET法)が130m/g〜300m/gであるとインク受理層の透明性が高くなりかつ塗料に配合した際の安定性が良好である。比表面積が130m/gより小さい場合にはインク受理層の不透明性が増し、インクジェットプリンターで印字した場合の印字濃度が低下する等の不具合を生じる。一方比表面積が300m/gを越えるとインク受理層の透明性が良好となりインクジェットプリンターで印字した場合の印字濃度が高く良好であるが、塗料の安定性が劣る傾向にあり、塗工性に問題を生じる等の欠点が有る。
【0033】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜添加することができる。
【0034】
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコータ、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0035】
インク受理層の塗工量は、支持体の表面を覆い、かつ十分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整することができるが、発色性及びインク吸収性を両立させる観点から、片面当たり、固形分換算で5〜30g/mであることが好ましい。
【0036】
本発明において、インク受理層の塗工量を多く必要とする場合には、インク受理層を多層にすることも可能である。また、支持体とインク受理層の間にインク吸収性、接着性他各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。さらに、インク受理層を設けた面の反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【0037】
(キャストコート)
本発明においては、最表面のインク受理層をキャストコート法で形成することによって光沢を付与する。ここで、キャストコート法とは、湿潤状態にある塗工面を加熱した仕上げ面に圧着して乾燥する方法である。キャストコート法として、上記した直接法、リウェット法、ゲル化キャスト法(凝固法)を用いることができる。好ましくは、銀塩写真に匹敵する面感、光沢を付与することが可能であるという点でゲル化キャストコート法(凝固法)を用いてインク受理層を形成させることが好ましい。
【0038】
キャストコート法は、例えば以下のようにして行う。まず、インク受理層となる塗工液を基紙に塗布し、塗工層を形成する。次に、塗工液中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する処理液を塗工層に塗布し、塗工層を湿潤状態にさせる。そして、湿潤状態の塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧着し乾燥することにより、インク受理層を形成し、その表面に光沢を付与する。処理液を塗布する際の塗工層は、湿潤状態であっても乾燥状態であっても良いが、特に湿潤状態とした場合には鏡面仕上げ面を写し取りやすく、塗工層表面の微小な凹凸を少なくすることができるので、得られたインク受理層に銀塩写真並の光沢感を付与させ易くなる。処理液を塗布する方法としてはロール、スプレー、カーテン方式等が挙げられるが、特に限定されない。
【0039】
次に、ゲル化キャスト法を用いる場合について説明する。この方法は、上記キャストコート法において、上記塗工層を塗布後、未乾燥の塗工層を凝固液によってゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥するものである。凝固液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくい。
【0040】
凝固液は、湿潤状態の塗工層中の水系結着剤を凝固する作用を持ち、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、硫酸等のカルシウム、亜鉛、マグネシウム等の各種の塩が用いられる。特に、水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固液として硼酸と硼酸塩とを含有する液を用いることが好ましく、凝固液として硼酸及び/又は硼砂を含有する水溶液を用いることが最も好ましい。硼酸と硼酸塩とを混合して用いることにより、凝固時の固さを適度なものとすることが容易となり、インク受理層に良好な光沢感を付与できる。
【0041】
凝固液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えば、ロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0042】
又、上記インク受理層及び/又は凝固液には、必要に応じて剥離剤を添加することができる。剥離剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、剥離剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、剥離剤としての能力が最大限に発揮される。剥離剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。
【0043】
本発明において、インク受理層の塗工量を多く必要とする場合には、インク受理層を多層にすることも可能である。また、基紙とインク受理層の間にインク吸収性、接着性その他の各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。さらに、インク受理層を設けた面の反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。又、特に断らない限り、以下に記載する「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0045】
[実施例1]
カナダ標準濾水度(CSF)285mlの広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)100部からなるパルプスラリ−にタルク10部、硫酸アルミニウム1.0部、合成サイズ剤0.1部、歩留向上剤0.02部を添加した支持体を抄紙機で抄紙するに際し、デンプンを両面に片面当り固形分で2.5g/mとなるように塗布して、坪量170g/mの原紙を得た。この原紙に下記のアンダー層用塗工液をブレードコーターで片面に塗工量が15g/mとなるように塗工して140℃で送風乾燥した。次いでさらにアンダー層を塗工した面にロールコーターでキャスト用塗工液Aを10g/m塗工し、塗工層が湿潤状態にあるうちに、凝固液(1)を用いて、凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に圧着して鏡面を写し取り、195g/mのインクジェット記録用紙を得た。
<アンダー層用塗工液>
顔料として、合成シリカ(ファインシールX−37:株式会社トクヤマ製の商品名)100部にラテックス(LX438C:住友化学工業株式会社製の商品名)5部及びポリビニールアルコール(PVA117:株式会社クラレ社製の商品名)24部、サイズ剤(ポリマロン360:荒川化学工業株式会社製の商品名)5部、インク定着剤(ポリフィックス700:昭和高分子株式会社製の商品名)5部配合して濃度25%の水性塗工液を調製した。
<キャスト層用塗工液A>
顔料として、平均一次粒子径が23nmで、二次粒子/一次粒子径の比が2.2のコロイダルシリカ(クォートロンPL−2:扶桑化学工業株式会社製の商品名)を60部、比表面積が279m/gで平均粒子径2.8μmの沈降法シリカ(ファインシールX−37:株式会社トクヤマ製の商品名)を30部、比表面積が200m/gの気相法シリカ(アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製の商品名)を10部、バインダーとしてケン化度88%、重合度3500のポリビニールアルコール(PVA235:株式会社クラレ製の商品名)を6部、鹸化度95%、重合度1700のポリビニルアルコール(PVA617:株式会社クラレ製の商品名)を6部、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が6ヶである蛍光染料(KAYAPHOR JB liquid :日本化薬株式会社製の商品名)を1.5部、離型剤を2部(HP−65:明成化学工業株式会社製の商品名)、消泡剤0.2部を配合して濃度23%の塗工液を調整した。
<凝固液(1)>
硼砂を2%(NaO)、ホウ酸を4%(HBO)、離型剤(HP−65:明成化学工業株式会社製の商品名)0.2%を配合して凝固液を調整した。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が6ヶである蛍光染料(BLANKOPHOR UWS liquid:ケミラジャパン社製の商品名)を1.5部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0047】
[実施例3]
実施例1において、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が6ヶである蛍光染料(KAYAPHOR EXN liquid:日本化薬株式会社製の商品名)を1.5部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0048】
[実施例4]
実施例2において、バインダーとして鹸化度88%、重合度2400のポリビニルアルコール(PVA224:株式会社クラレ製の商品名)を6部、ケン化度95%、重合度1700のポリビニルアルコール(PVA617:株式会社クラレ製の商品名)を6部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を得た
【0049】
[実施例5]
実施例1において、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が6ヶである蛍光染料(KAYAPHOR JB liquid:日本化薬株式会社製の商品名)を3部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、スルホン基の数が4ヶである蛍光染料(BLANKOPHOR P liquid 01:ケミラジャパン社製の商品名)を1.5部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0051】
[比較例2]
実施例4において、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が4ヶである蛍光染料(BLANKOPHOR P liquid 01 :ケミラジャパン社製の商品名)を1.5部とした以外は実施例4と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0052】
[比較例3]
キャスト層用塗工液Aとして、顔料として、平均一次粒子径が23nmで、二次粒子/一次粒子径の比が2.2のコロイダルシリカ(クォートロンPL−2:扶桑化学工業株式会社製の商品名)を60部、比表面積が279m/gで平均粒子径2.8μmの沈降法シリカ(ファインシールX−37:株式会社トクヤマ製の商品名)を20部、比表面積が200m/gの気相法シリカ(アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製の商品名)を20部、バインダーとして鹸化度95%、重合度1700のポリビニルアルコール(PVA617:クラレ株式会社製の商品名)を12部、ケン化度99%、重合度500のポリビニルアルコール(PVA105:株式会社クラレ製の商品名)を6部、スルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が4ヶである蛍光染料(BLANKOPHOR P liquid 01:ケミラジャパン社製の商品名)を1.5部、離型剤を2部(HP−65:明成化学工業株式会社製の商品名)、消泡剤0.2部を配合して濃度25%の塗工液を調整した。それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0053】
[比較例4]
比較例3において、バインダーとしてケン化度95%、重合度1700のポリビニルアルコール(PVA617:株式会社クラレ製の商品名)を8部、ケン化度99%、重合度500のポリビニルアルコール(PVA105:株式会社クラレ製の商品名)を4部とした以外は比較例3と同様にしてインクジェット記録用紙を得た。
【0054】
<評価>
各実施例及び比較例のインクジェット記録媒体の白色度、インクジェット印字濃度、および塗工液の安定性、塗工ムラを、以下の方法で評価した。
(1)操業性
3本リバースロールコーターにおける操業において
○:塗工速度25m/分以上において均一な面感が得られる
△:塗工速度20m/分以上−25m/分未満において均一な面感が得られる
×:塗工速度20m/分において均一な面感が得られない
(2)塗工むら
キャストコーターで塗工した際の、塗工ムラを下記の基準で評価した。
◎:塗工むらがなく、かつきわめて平滑な反射面感のもの
○:塗工むらがないもの。反射面感は平滑ではなく、ぎらつきがみられる
×:塗工ムラが有るもの
(3)写像性
写像性測定器(スガ試験機株式会社製ICM-1T)を用い、60°反射測定(入射光60°、反射光60°受光)を測定した。得られた値(60°鏡面写像性)について、以下の基準で写像性の優劣を判断した。
◎:写像性75%以上
○:写像性65%以上75%未満
△:写像性55%以上65%未満
×:写像性55%未満
上記△で表示した写像性55%以上であれば、実用上問題なく、数値が高いほど優れる。◎評価の75%以上では、写像性がきわめて優れる、といえる。
(4)コロイダルシリカの粒径測定
a)一次粒子径の測定
試料の比表面積(窒素吸着法)を測定し、以下の(1)式に従い一次粒子径を計算によ
り求めた。
d=6000/(ρ×S) (1)
但し、(1)式中、d:一次粒子径(nm)、ρ:シリカの密度(=2.2g/m)、S:比表面積S(m/g)を表す。
【0055】
b)二次粒子径の測定
MALVERN INSTRUMENTS社製のZETASIZER 3000HSAを用いて測定した。
【0056】
【表1】


表1から明らかなように、実施例1〜5の本発明のインクジェット記録媒体では、面感にきわめて優れ、写像性が高い、あるいはきわめて高い光沢紙を得ることができた。一方、重合度2000を越え、鹸化度が88%であるポリビニルアルコールおよびスルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩の数が4ヶである蛍光染料をともに配合した比較例1および比較例2では操業性がきわめて悪く、結果として良好な面感および写像性をもつ優れた光沢紙を得ることはできなかった。また、重合度2000を超えるポリビニルアルコールを配合しなかった比較例3および比較例4は、操業性および面感は良好であったが、光沢紙の表面に微細なクラックが発生し、写像性が高い光沢紙は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも片面に、顔料と結着剤とを含有するインク受理層を1層以上設けたインクジェット記録用紙において、前記インク受理層が、結着剤として重合度2000を超え、かつケン化度98%未満のポリビニルアルコール、更に蛍光増白剤として下記一般式(1)で表される4,4−ジ(トリアジノアミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体を顔料100質量部に対して1質量部以上含有することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【化1】


(式中、W、X、Y、Zは、スルホ基、スルホ基の1価の金属塩、またはアミノ基のいずれかを少なくとも1つ有する官能基を示し、W、X、Y、Zにおいては計4ヶのスルホ基及び/またはスルホ基の1価の金属塩を有する)
【請求項2】
インク受理層の顔料として一次粒子径が5〜55nmで、かつ前記一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜2.2であるコロイダルシリカを含有することを特徴とする請求1記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2010−83044(P2010−83044A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255540(P2008−255540)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】