説明

インクジェット記録媒体

【課題】インクジェット印字適性を損なわずに耐水性を向上させたインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】支持体の少なくとも一方の面に、顔料とバインダーとを含有するインク受理層を設け、該インク受理層上に疎水性シリカ微粒子を含有する撥水層が形成されているインクジェット記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、種々の作動原理によりインクの微小液滴を飛翔させて紙などの記録媒体に付着させ、画像・文字などの記録を行なうものであり、一般に着色剤として染料や着色顔料からなる低粘度の水性インクが用いられる。このため、インクジェット記録は、一般のオフセット印刷やグラビア印刷に比べ、画像耐水性が劣るという問題がある。画像耐水性の低下は、インクジェット画像記録後に、高湿下で長期間保存した場合や記録面上に水滴が付着した場合に画像が滲みやすいという問題であり、画像耐水性の向上が求められている。
【0003】
画像耐水性を向上させるために、カチオン性物質のような染料固着性物質(以下、「インク定着剤」という)を、記録媒体のインク受理層中に添加することが行われている。例えば、カチオン性ポリマーをインク受理層中に添加し、アニオン性の染料と結合させる方法が好ましく用いられている。このようなカチオン性ポリマーとして、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライドを用いた技術(特許文献1参照)、ポリアリルアミン類を用いた技術(特許文献2参照)が開示されている。
また、疎水性支持体上に、ポリアルキレンイミンを有する親水性バインダー層A、ポリビニルアルコールを有する親水性バインダー層Bを順に形成した技術(特許文献3参照)が開示されている。
さらに、水性カチオン樹脂と疎水性シリカを含有するインク受理層を有するインクジェット用記録媒体(特許文献4参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−114144号公報
【特許文献2】特開2003−80837号公報
【特許文献3】特開平9−193532号公報
【特許文献4】特開2003−191602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4記載の技術について本発明者が追試を行ったところ、耐水性は改善されるものの、インクジェット印字品質が低下することが判明した。
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、インクジェット印字適性を損なわずに耐水性を向上させたインクジェット記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、インクジェット記録媒体の表面に撥水性を付与すると、インクジェット印字適性を損なわず、印字後の滲みを防止して耐水性を向上させることができることを見出した。
「撥水・撥油の技術と材料」(株式会社シーエムシー発行 2008年12月)には、蓮の葉表面のようなナノレベルの凹凸構造は、接触角が極めて大きい(150度以上)高撥水性(超撥水性)を有していることが記載されている。又、特開2008-50380号公報には、アルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、塩酸、および水を含む撥水剤により撥水処理すると、上記した超撥水性が得られることが記載されている。
本発明において、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物及び疎水性シリカ微粒子を含有する撥水層が表面を不連続的に被覆し、支持体(又はその上層)の一部が撥水層で被覆されずに露出していると考えられ、これにより、インクジェット印字適性と耐水性とを両立できると考えられる。
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のインクジェット記録媒体は、支持体の少なくとも一方の面に、顔料とバインダーとを含有するインク受理層を設け、該インク受理層上に疎水性シリカ微粒子を含有する撥水層が形成されている。
【0008】
前記撥水層は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物及び前記疎水性シリカ微粒子を含有することが好ましい。
前記撥水層は、少なくともアルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、及び水を含む撥水剤塗料を塗布して形成されていることが好ましい。
前記撥水層表面は、水を用いて10秒後に測定した接触角が120度以上であることが好ましい。
前記支持体が紙であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクジェット印字適性を損なわず、耐水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のインクジェット印字評価に用いた罫線印字部の写真像を示す図である。
【図2】実施例1の滲み評価に用いた罫線印字部の写真像を示す図である。
【図3】比較例4のインクジェット印字評価に用いた罫線印字部の写真像を示す図である。
【図4】比較例3の滲み評価に用いた罫線印字部の写真像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録媒体について説明する。
【0012】
(支持体)
支持体は特に限定されず、透明支持体であっても不透明支持体であっても良い。透明支持体としては、例えば、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル等のプラスチックフィルム類が挙げられる。不透明支持体としては、例えば、上質紙、中質紙、印画紙原紙、画用紙、画彩紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、クラフト紙、ラミネート紙、含浸紙、合成紙などの紙が適宜用途に応じて使用できる。
支持体として、フィルム類のようにインク吸収性をほとんど有しないものを使用する場合、支持体上にインク受理層を設けることが必須であり、さらに適宜、インク受理層の塗工量を多くしたり、インク受理層中にインク吸収性の高い顔料を配合するとよい。特に、インクジェットプリンターが高解像度であるほど、単位面積当たりのインク打ち込み量が大きくなるので、記録媒体(インク受理層)のインク吸収容量を大きくする必要がある。
【0013】
(撥水層)
撥水層は、支持体の少なくとも一方の面に形成されている。又、支持体表面に後述するインク受理層が形成され、インク受理層の表面に撥水層が形成されている。
撥水層は、疎水性シリカ微粒子を含有することが必須である。疎水性シリカ微粒子としては、日本アエロジル株式会社製の商品名アエロジルR972、972V、R972CF、R974、R812、R805、RX200、RX300、RY200などが挙げられ、特にアエロジルR972、RX200、RX300が好ましい。疎水性シリカ微粒子の平均粒径は、1〜100nmが好ましく、5〜20nmがより好ましい。この粒径範囲であれば、撥水層表面にnmレベルの望ましい凹凸を付与することができる。
疎水性シリカ微粒子は、非晶質シリカの表面に疎水性付与処理がなされたものである。疎水性付与処理としては、例えば、非晶質シリカにテトラメチルシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシ基含有シラン、ジメチルジクロロシラン、オクチルシランなどの有機ケイ素化合物やアミノ基含有有機化合物などを添加し、加水分解等で変性する方法が挙げられる。得られる疎水性シリカは、非晶質シリカ表面の−OH基が、有機ケイ素化合物などと化学反応したものであり、その粒子表面にアルキル基などの疎水性基を有している。そのため、高い疎水率を示す。
撥水剤塗料中の疎水性シリカ微粒子の濃度は、2質量%以上が好ましく、2〜4質量%がさらに好ましい。疎水性シリカ微粒子の濃度が2質量%未満になると、支持体表面をシリカ微粒子が十分に被覆しないので超撥水性が得られない。一方、疎水性シリカ微粒子の濃度が4質量%を超えると、シリカ微粒子による皮膜にクラックが入る恐れがあるので好ましくない。
【0014】
撥水層は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物及び上記疎水性シリカ微粒子を含有する。以下のように少なくともアルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、及び水を含む撥水剤塗料を用いると、接触角が大きく撥水性の高い撥水層を容易に形成することができ、この場合の撥水層は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物及び疎水性シリカ微粒子を含有することになる。又、上記した撥水剤塗料を用いると、撥水層が表面を不連続的に被覆し、支持体(又はその上層)の一部が撥水層で被覆されずに露出していると考えられ、これにより、インクジェット印字適性と耐水性とを両立できると考えられる。
特に、水を用いて10秒後に測定した撥水層表面の接触角が120度以上であると、撥水性が高くなり、耐水性を更に向上させることができるので好ましい。接触角が120度未満であると、印字後の滲み防止効果が不十分となる場合がある。
【0015】
(撥水層の形成)
少なくともアルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、及び水を含む撥水剤塗料を用い、撥水層を形成することが好ましい。
この撥水剤塗料は、テトラアルコキシシランの加水分解反応(下記式(1))によって、−SiOHの脱水反応(下記式(2))を生じさせ、さらに脱アルコール反応(下記式(3))により生成した−Si−O−結合(下記式(4))により、疎水性シリカ粒子の粒子間が結合(ネッキング)され、その結果として、nmレベルの凹凸を形成するとともに膜強度を向上すると推測される。
【0016】
式(1):加水分解反応
【化1】

式(2):脱水反応
【化2】

式(3):脱アルコール反応
【化3】

式(4):−Si−O−結合
【化4】

【0017】
上記撥水剤塗料に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられるが、沸点を考慮するとエタノールが好ましい。
上記撥水剤塗料に用いるテトラアルコキシシランは、アルコキシ基の炭素数1〜8程度が好ましいが、アルコキシ基がメトキシ基又はエトキシ基であることがより好ましく、アルコキシ基がエトキシ基であると最も好ましい。
【0018】
撥水剤塗料中の成分の好ましい配合割合は、アルコール70〜80質量%、テトラアルコキシシラン5〜15質量%、疎水性シリカ微粒子2〜4質量%、及び水8〜12質量%である。
撥水剤塗料は、アルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、塩酸、および水を混合攪拌し、超音波処理を行うことによって調製するのが好ましい。さらに好ましくは、アルコールと疎水性シリカ微粒子を30分以上混合攪拌し、更に30〜60分程度超音波処理した後、テトラアルコキシシラン、塩酸、水を添加して2.5〜24時間程度混合攪拌し、30〜60分程度超音波処理を行って撥水剤塗料を調製する。塩酸は、テトラアルコキシシランの加水分解反応の触媒として働き、撥水剤塗料のpHを2〜3に調整することが好ましい。水は純水が好ましい。
撥水剤塗料としては、特開2006-232870号公報、特開2008-50380号公報に記載されているものが好ましい。
【0019】
支持体上に撥水層を設ける方法としては、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター、サイズプレス等の公知の塗工装置により撥水剤塗料を塗布する方法が挙げられる。
また、撥水剤塗料に支持体を浸漬した後、支持体を引き上げ、乾燥することによって撥水層を設けることもできる。このとき、引き上げ後の乾燥は、常温でも加温下でもいずれでもよい。常温の場合、乾燥に時間がかかるが、インクジェット記録媒体に熱をかけたくない場合に適する。加温の場合、80〜150℃程度で行ない、加温下で乾燥を行なうことでインクジェット記録媒体の耐久性が向上するという利点もある。
【0020】
(インク受理層)
支持体の片面又は両面にインク受理層を設け、インク受理層の表面に撥水層を設けても良い。インク受理層に用いる顔料としては、合成シリカ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト等のアルミナやアルミナ水和物、ゼオライト、プラスチックピグメント等が挙げられる。特に、これらのうち、粉落ちしない範囲の塗工量で目的とするインク吸収性を確保する観点から、吸油量が100〜300cc/100gである顔料を使用することが好ましい。特に合成シリカが好ましく用いられる。
また、インク受理層に用いられるバインダー(結着剤)としては、酸化デンプン、エステル化デンプン、酵素変性デンプン、カチオン化デンプン等のデンプン類;カゼイン、大豆タンパク等のタンパク質類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;鹸化度の異なる各種ポリビニルアルコール及びその誘導体等の水溶性高分子化合物;アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、塩化ビニリデンエマルジョン、スチレン・ブタジエンラテックス、アクリロニトリル・ブタジエンラテックス、ポリエステルディスパーション等の水分散性高分子化合物等が挙げられるが、支持体との接着力が強く、乾燥後に皮膜を形成するものであれば特にこれらに限定されるものではない。これらのバインダーは単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0021】
使用する顔料の種類によりバインダーの添加量はある程度変化するが、特に、顔料100質量部あたりのバインダーの配合量を5〜60質量部とすることが好ましい。バインダーの配合量が5質量部より少ないとインク受理層の表面強度が不十分となり、60質量部より多いとインク吸収性が不十分となる。
また、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤等を、インキ吸収性を損なわない範囲で適宜インク受理層に添加することができる。
【0022】
インク受理層の塗工量は、支持体のインク吸収容量とのバランスで決定できるが、片面当たり5〜40g/mの範囲であればよい。インク受理層の塗工量が5g/mより少ないと、支持体としてインク吸収性の非常に良好なものを使用しても、支持体とインク受理層の界面でインク吸収性の速度差が発生し、混色系の画像で滲みが顕著に認められる場合があるので好ましくない。また、インク受理層の塗工量が40g/mより多いと、インクが深く浸透し過ぎるので色再現性が劣る事に加え、わずかな外力によってインク受理層が粉状に離脱する粉落ち現象が生じたり、印字部を擦ることによってインク受理層が脱落する等、表面強度が不十分となる場合があるので好ましくない。
また、インク吸収性向上の観点から、多層構造のインク受理層を設けてもよい。インク受理層を多層構造にする場合、最表層のインク受理層をインクジェットインクの定着層として機能させるため、最表層のインク受理層に水溶性金属塩を含有させると共に、最表層のインク受理層の塗工量が3g/m以上であることが好ましい。
【0023】
インク受理層を支持体上に設ける手段としては、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター、サイズプレス等の公知の塗工装置を、オンマシン又はオフマシンで使用できる。又、支持体上、及び所定のフィルム上にそれぞれインク受理層を設けた後、それぞれの塗工面を貼り合わせる転写法等を使用してインク受理層を形成することもできる。さらに、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の各種カレンダー装置を単独使用又は併用し、インク受理層の表面仕上げをしてもよい。
【0024】
また、上記インク受理層を設ける前に、支持体表面に、水溶性高分子添加剤、帯電防止剤、吸湿性物質、顔料、pH調整剤、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を含有する塗布液を、タブサイズ、サイズプレス、ゲートロールコーター又はフィルムトランスファーコーター等で、オンマシン又はオフマシンで塗工してもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中の「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
まず、各実施例及び比較例において得られたインクジェット記録媒体の評価を以下のようにして行った。
【0026】
<インクジェット印字評価>
インクジェット記録媒体の撥水層表面に、セイコーエプソン社製 PM-970C(印刷モード;普通紙/きれい)にて罫線を印字し、印字部を目視にて比較評価した。評価が◎又は○であれば実用上問題はない。
◎:印字が鮮明であり、印字抜けやカスレ・滲みなど認められない。
○:印字抜けやカスレ・滲みなど認められない。
△:印字抜けやカスレ・滲みなどが認められる。
×:印字が不鮮明であり、印字抜けやカスレ・滲みなどが認められる。
<滲み評価>
撥水性試験法(JIS L 1092)を参考にして、撥水層を上にしてインクジェット記録媒体を45度の傾斜台に設置し、水滴(1ml)を滴下させ、水滴が接触し転がった部分の滲みについて目視にて比較評価した。評価が◎又は○であれば実用上問題はない。
◎:滴下水で、滲みが全く認められない。
○:滴下水接触部で、滲みがほとんど認められない。
△:滴下水接触部で、滲みが認められる。
×:滴下水接触部で、滲みが著しく認められる。
【0027】
<接触角の測定>
動的接触角測定機(systemab製、商品名:FIBRO DAT1100、FIBRO)を用い、撥水層表面に4μlの蒸留水を滴下し、それぞれ0.1秒後、1秒後、10秒後の接触角を測定した。
<透気抵抗度の測定>
Japan TAAPI 紙パルプ試験方法 No.5−2:2000に従い、王研式平滑度透気度試験器により測定した。
【0028】
<実施例1>
広葉樹クラフトパルプ(L−BKP)90部及び針葉樹クラフトパルプ(N−BKP)10部を混合叩解してカナダ標準濾水度350mlとしたパルプに対し、カチオン化デンプン4部、アニオン化ポリアクリルアミド0.3部、及びアルキルケテンダイマー乳化物0.5部を添加し、長網抄紙機を用いて常法により抄紙した。次いで、前乾燥を行った後、燐酸エステル化デンプン5%とポリビニルアルコール0.5%の塗布液を、サイズプレスを用いて乾燥重量が4g/mとなるように原紙の両面に塗布し、マシンカレンダー処理を施して、坪量100g/mの支持体を得た。
この支持体の片面に、バーブレードコーターを用い、以下に示す下層インク受理層用の塗液1を固形分で片面あたり10g/mとなるように塗布した後、カレンダー装置を用いて線圧80kg/cmで処理した。更に、塗液1を塗布した面に、バーブレードコーターを用い、以下に示す上層インク受理層用の塗液2を固形分で片面あたり5g/mとなるように塗布した。その後、下層インク受理層と上層インク受理層の合計水分含有量が5%となるまで乾燥し、カレンダー装置を用いて線圧100kg/cmで処理し、坪量115g/mのインクジェット記録媒体(撥水処理前)を得た。
【0029】
塗液1:合成シリカ(トクヤマ製の製品名X−12)100部、ポリビニルアルコール(クラレ製の製品名PVA117)35部、及び水640部
塗液2:合成シリカ(トクヤマ製の製品名X−12)100部、ポリビニルアルコール(クラレ製の製品名PVA117)35部、水溶性マグネシウム塩(硫酸マグネシウム7水和物(無水物分))及び水640部
塗液1,2とも水以外はいずれも固形分配合量
【0030】
上記したインクジェット記録媒体のインク受理層の表面に、以下に示す撥水剤塗料をメイヤーバー(No.4)を用いてバーコート塗布して105℃にて1分間乾燥させる撥水コート処理を2回行い、撥水層を形成した。
撥水剤塗料:エタノール:76.9%、テトラエトキシシラン:10.3%、疎水性シリカ(商品名:RX200、日本アエロジル社製):3%、1N塩酸:1%、水:8.8%
【0031】
<比較例1>
上記撥水コート処理を1回のみ行ったこと以外は、実施例1とまったく同様にしてインクジェット用記録媒体を作成した。
【0032】
<比較例2>
上記撥水コート処理を行わなかったこと以外は、実施例1とまったく同様にしてインクジェット用記録媒体を作成した。
【0033】
<比較例3>
上記塗液1及び塗液2に、それぞれインク定着剤(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、商品名:PAS−H−10L、日東紡績製)を5部ずつ配合してインク受理層を塗工し、さらに上記撥水コート処理を行わなかったこと以外は、実施例1とまったく同様にしてインクジェット用記録媒体を作成した。
【0034】
<比較例4>
上記撥水コート処理を行なわず、その代わりにインク受理層表面にフッ素系離型剤スプレー(ダイキン工業社製の製品名ダイフリー)を噴射した後、自然乾燥させて撥水処理を行ったこと以外は、実施例1とまったく同様にしてインクジェット用記録媒体を作成した。
【0035】
<実施例2>
PPC用紙(日本製紙社製の製品名;リボンPPC用紙 ナチュラル100(中性再生紙))の片面に、実施例1と同一の撥水剤塗料をメイヤーバー(No.4)を用いてバーコート塗布し、105℃にて1分間乾燥させる撥水コート処理を2回行った。
【0036】
<比較例5>
上記撥水コート処理を1回のみ行ったこと以外は、実施例2とまったく同様にしてインクジェット用記録媒体を作成した。
【0037】
<比較例6>
上記撥水コート処理を行わなかったこと以外は、実施例2とまったく同様にしてインクジェット用記録媒体を作成した。
【0038】
得られた結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、支持体(又はそのインク受理層)上に撥水コート処理を2回行って撥水層を設けた実施例1,2の場合、インクジェット印字評価及び滲み効果が共に優れていた。又、実施例1,2の場合、水を用いて10秒後に測定した接触角が120度以上であると共に、透気抵抗度が100秒を超えており、撥水層が表面を不連続的に被覆し、支持体(又はそのインク受理層)の一部が撥水層で被覆されずに露出していると考えられる。このため、撥水性が高いにも関わらず支持体の透気性が損なわれず、インクジェット印字評価及び滲み効果を両立することができると考えられる。
【0041】
一方、支持体(又はそのインク受理層)上に撥水コート処理を1回のみ行った比較例1,5の場合、及び撥水コート処理を1回も行わなかった比較例2,6の場合、水を用いて10秒後に測定した接触角が120度以下となり、滲み効果が劣化した。なお、撥水コート処理を1回とした比較例1の方が、撥水コート処理を2回とした実施例1より透気抵抗度が低い理由は、支持体の撥水性が不十分になって紙層内部に水が吸収されるためと考えられる。
又、比較例6は、撥水コート処理を行わなかったにも関わらず、10秒後の接触角が高くなったが、これは、実施例2、比較例5、比較例6の支持体に用いたPPC用紙が、もともとの撥水性が高いためである。又、比較例5の10秒後の接触角が比較例6より低くなっている理由は、PPC用紙に対して1回の撥水コートを行うと、吸液、乾燥工程で、原紙構造が変化したためと考えられる。そして、比較例5にもう1回(合計2回)撥水コート処理した実施例2の場合、原紙構造が変化しても、それを上回る撥水効果を撥水層が発揮したものと考えられる。
【0042】
撥水層を設けず、その代わりにインク受理層中にインク定着剤を含有させた比較例3の場合、水を用いて10秒後に測定した接触角が0度となり、滲み効果が劣化した。接触角が0度になった理由は、インク定着剤が表面に存在するため、水滴の吸収が早くなったためと考えられる。
フッ素系の撥水層を設けた比較例4の場合、10秒後の接触角が120度以上に高いにも関わらず、インクジェット印字評価及び滲み効果が劣化した、これは、実施例の撥水層に比べ、フッ素系の撥水層は連続層となっているため、インクジェット印字がフッ素系の撥水層上に保持され(撥水層から内部に浸透せず)、滴下水が直接インクジェットインクに作用し、滲みが発生したためと考えられる。
【0043】
なお、図1は、実施例1のインクジェット印字評価に用いた罫線印字部の写真像を示し、図2は実施例1の滲み評価に用いた罫線印字部の写真像を示す。
又、図3は、比較例4のインクジェット印字評価に用いた罫線印字部の写真像を示し、図4は比較例3の滲み評価に用いた罫線印字部の写真像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも一方の面に、顔料とバインダーとを含有するインク受理層を設け、該インク受理層上に疎水性シリカ微粒子を含有する撥水層が形成されているインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記撥水層は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物及び前記疎水性シリカ微粒子を含有する請求項1記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記撥水層は、少なくともアルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、及び水を含む撥水剤塗料を塗布して形成されている請求項1又は2記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記撥水層表面は、水を用いて10秒後に測定した接触角が120度以上である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
前記支持体が紙である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−196922(P2012−196922A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63734(P2011−63734)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【Fターム(参考)】