説明

インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】記録メディア上と記録メディアの外側とにわたってインクを吐出する余白無し記録において、吐出するインクの量を削減しつつ、記録メディアの端部の画像濃度の低下を抑制する。
【解決手段】
記録メディアの端縁を検出し、それに基づいて、インクを吐出する領域を設定する。インクを吐出する領域のうち、記録メディアの端部と端縁よりも外側の領域とを含むはみ出し領域に関するインク量相当情報を求める(S1)。インク量相当情報に基づいて記録データ変換条件を選択する(S2)。記録メディアへインクを吐出するための記録データのうちはみ出し領域に対応する記録データを、選択された記録データ変換条件に従って変換する(S3)。記録メディアの、はみ出し領域以外の部分に対して、未変換の記録データに従ってインクを吐出し、はみ出し領域に対して、変換された記録データに従ってインクを吐出する(S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法において、余白無し記録を行う場合には、記録メディア上の領域全体と、記録メディアの端縁から外側にはみ出す領域とに、記録ヘッドからインクを吐出して画像の形成を行う。このような余白無し記録において、吐出するインクの総量を抑え、インクミストの発生を防ぐとともにインク消費量を削減するため、特許文献1に記載の方法では、以下の方策を採用している。すなわち、記録メディアの端縁を検出し、検出された記録メディアの端縁から外側にはみ出す領域においては、その領域に対応する記録データを間引き、その間引かれた記録データによって画像形成を行う。このように部分的に間引かれた記録データによって画像形成を行うことにより、記録メディアに吐出されるインク量の総量を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−152791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、記録メディアの端縁よりも外側の領域に対応する記録データのみを正確に間引くのは不可能であり、記録メディアの端縁の内側も僅かに含む領域に対応する記録データを間引くことになる。すなわち、記録メディアの搬送のばらつきによって画像形成の多少の位置ずれが発生する可能性が高いこと等を考慮すると、記録データが間引かれるのが、記録メディアの端部を僅かに含む領域になることは避けられない。その結果、記録メディアの端部においては、記録データが間引かれて記録密度が低くなった部分が生じてしまい、画像品位が低下するという問題がある。例えば、記録メディアの端縁から内側に0.2mm以下の範囲を含む領域において記録メディアに吐出するインクの量を50%削減した例では、色合いにもよるがこの領域において画像が薄くなっているのが視認された。
【0005】
本発明の目的は、記録メディア上とその外側とにわたってインクを吐出する余白無し記録において、吐出するインクの量を削減しつつ、記録メディアの端部の画像濃度の低下を抑制できるインクジェット記録方法および記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、記録メディア上と、記録メディアの少なくとも一部の端縁よりも外側とにわたってインクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法において、記録メディアの端縁を検出し、検出した端縁に基づいて、インクを吐出する領域を設定し、インクを吐出する領域のうち、記録メディアの端部と端縁よりも外側の領域とを含むはみ出し領域に関するインク量相当情報を求め、インク量相当情報に基づいて記録データ変換条件を選択し、記録メディアへインクを吐出するための記録データのうちはみ出し領域に対応する記録データを、選択された記録データ変換条件に従って変換し、記録メディアの、はみ出し領域以外の部分に対しては、未変換の記録データに従ってインクを吐出し、はみ出し領域に対しては、変換された記録データに従ってインクを吐出することを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明は、記録メディア上と、記録メディアの少なくとも一部の端縁よりも外側とにわたってインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、記録メディアの端縁を検出する端縁検出手段と、吐出インク量削減処理手段と、記録ヘッドとを含み、吐出インク量削減処理手段は、インクを吐出する領域のうち、記録メディアの端部と端縁よりも外側の領域とを含むはみ出し領域に関するインク量相当情報を求めるインク量相当情報計算部と、インク量相当情報に基づいて記録データ変換条件を選択する記録データ変換条件選択部と、記録メディアへインクを吐出するための記録データのうちはみ出し領域に対応する記録データを、選択された記録データ変換条件に従って変換する記録データ変換部と、を含み、記録ヘッドは、記録メディアの、はみ出し領域以外の部分に対しては、未変換の記録データに従ってインクを吐出し、はみ出し領域に対しては、変換された記録データに従ってインクを吐出することをもう1つの特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、具体的なインク量相当情報に基づいて、はみ出し領域に視認できるほど濃度が薄い部分が生じない範囲で、吐出されるインクの量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】記録メディアへ余白無し記録を行う方法を説明する説明図である。
【図2】本発明のインクジェット記録方法における吐出インク量削減処理と記録工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明のインクジェット記録装置の吐出インク量削減処理手段を示すブロック図である。
【図4】(A)はドットのオーバーラップが大きい場合の未変換の記録データによるドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図5】(A)は図4に示す記録データを50%に間引きするように変換した後のドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図6】(A)は図4の記録データを25%に間引きするように変換した後のドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図7】(A)は図4に示す記録データを12.5%に間引きするように変換した後のドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図8】(A)はドットのサイズが小さい場合の未変換の記録データによるドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図9】(A)は図8の記録データを50%に間引きするように変換した後のドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図10】(A)は大ドットと小ドットが混在する記録データによるドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図11】6段階の階調表示を行う際の各階調レベルごとのドットの配置を示す説明図である。
【図12】(A)はドットの濃度が薄い場合の未変換の記録データによるドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図13】(A)は図12の記録データを50%に間引きするように変換した後のドット位置を示す模式図、(B)はその画像濃度を示す模式図である。
【図14】本発明のインクジェット記録装置の要部を示す概略斜視図である。
【図15】図14に示すインクジェット記録装置の光学式センサを拡大して示す概略側面図である。
【図16】図14に示すインクジェット記録装置の制御系を示すブロック図である。
【図17】本発明のインクジェット記録方法を示すフローチャートである。
【図18】図16に示す制御系の要部をより詳細に示すブロック図である。
【図19】記録メディアのはみ出し領域を所定の領域ごとに分割した状態を示す説明図である。
【図20】本発明の第2の実施形態のインクジェット記録装置の制御系の要部をより詳細に示すブロック図である。
【図21】本発明の第2の実施形態のインクジェット記録方法を示すフローチャートである。
【図22】図21に示すインクジェット記録方法において色相の判定に用いられる計算結果の一例を示すグラフである。
【図23】記録メディアの記録データの間引きを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
本発明のインクジェット記録装置では、記録紙等の記録メディアに対してインク滴を吐出して画像を形成する。図1に示すように、記録メディアPに余白を残さない余白無し記録を行う場合には、記録メディアPの端部と、記録メディアの端縁よりも外側の領域とを含む領域(便宜上「はみ出し領域A」という)への記録に際して、記録データの変換を行なう。はみ出し領域Aは、記録メディアPの端縁400よりも外側の部分A1のみならず、端縁400よりも内側の部分(「端部」という)A2も含む。本実施形態では、記録データを変換するための変換条件(例えば変換テーブル)を複数設定しておき、その中から適切な変換条件をその都度選択する。そして、選択された変換条件に従って、はみ出し領域Aに対応する記録データを変換する。記録データの変換条件の選択は、インク量相当情報に基づいて行われる。ここでいうインク量相当情報とは、吐出されるインクの量と、それに相当するまたは対応するデータ(数値)等とを総称する表現である。具体的には、インク量相当情報の代表的なものとして、記録メディアPの所定の領域内に吐出されるインクの総量が挙げられる。また、インク量相当情報として、記録データのドットの数(カウント数)、個々のドットの大きさ、大小のドットが混在する場合のそれらの割合、インクの濃度、高濃度インクと低濃度インクのドットが混在する場合のそれらの割合、色相なども挙げられる。
【0012】
本発明のインクジェット記録装置では、図2,3に示すように、インク量相当情報計算部1が、インク量相当情報を計算する(S1)。計算されたインク量相当情報に基づいて、記録データ変換条件選択部2が、予め記憶された複数の変換条件の中から適切なものを選択する(S2)。記録データ変換部3が、選択された変換条件を実行して記録データを変換する(S3)。そして、記録ヘッドから記録メディアPに向かってインク滴を吐出して記録(画像形成)を行う(S4)。この記録時に、記録メディアPの中央部分(端部A2以外の部分)に対しては、与えられた記録データをそのまま利用して、すなわち未変換の記録データに従って画像形成を行う。一方、余白無し記録のために記録メディアPの端部A2とその外側の領域A1とを含むはみ出し領域Aにインク滴を吐出する際には、前記した記録データ変換部3によって変換された記録データに従って記録を行う。
【0013】
本発明によると、余白無し記録においてはみ出し領域Aに記録を行う際に、記録データを単純に間引くのではなく、インク量相当情報に基づいて適切に選択した変換条件に従って記録データを変換している。従って、その都度の記録データ自体や記録条件等を考慮して、記録メディアPの端部A2に形成された画像内に、視認できるほど濃度が薄い部分が生じない範囲で、吐出されるインクの量を減らすことができる。
【0014】
本明細書中では、各機能を明確にするために、インク量相当情報計算部1と、記録データ変換条件選択部2と、記録データ変換部3とを分けて説明しているが、必ずしもそれぞれが互いに独立した装置である必要はない。構成部品(電気部品等)の一部が共通していてもよく、また、複数の手段を兼ねた装置が存在していてもよい。
【0015】
以上、概略的に説明した本発明のインクジェット記録装置について、より詳細に説明する。まず、本発明に至った経緯について説明すると、従来は、余白無し記録において、はみ出し領域Aへ吐出するインク量を削減すると、前記したように画像濃度が低下した部分が生じていた。画像濃度を左右する要因の1つとして、記録メディアP上に形成されるドット(インク滴)のオーバーラップ量がある。ドットのオーバーラップ量が大きい場合には、吐出するインク量を削減するために記録データを間引いたとしても、画像の濃度低下は比較的小さい。これは、変換前のもともとの記録データによるとドット同士が大きくオーバーラップするので、記録データを間引いてドットが少なくなっても、記録メディアの表面のドット被覆率がさほど低下しないからである。例えば、オーバーラップ量が大きい場合の、変換前の記録データに基づくインク吐出位置を図4(A)に、インク吐出後の記録メディアの状態を図4(B)に示している。図4(B)を見ると、全面的に塗り潰され画像濃度が高い状態になることがわかる。この例では、各格子に2つのドットが形成されている。この状態から、図5(A)に示すように記録データを50%に間引きしたとしても、図5(B)に示すように画像濃度の低下はほとんど視認されない。これに対し、記録データを25%に間引きすると図6(A),(B)に示す状態になり、記録データを12.5%に間引きすると図7(A),(B)に示す状態になる。図6(A)に示す例ではドットが一方向にしかオーバーラップしておらず、図7(A)に示す例では、ドットが全くオーバーラップしていない。これらの例では、図6(B),7(B)に示すように、未着色のままの部分が残っており、画像濃度の低下が大きい。
【0016】
図4,5に示す例から理解できるように、変換前のもともとの記録データにおけるドットのオーバーラップが大きい場合には、記録データを間引く割合が比較的大きくても、画像濃度があまり低下しない。これに対し、図示しないが、変換前のもともとの記録データにおけるドットのオーバーラップが小さい場合には、記録データを間引く割合が同程度であっても画像濃度が低下しやすい。このように、変換前のもともとの記録データにおけるドットのオーバーラップの大きさは、記録データを間引くことによる画像濃度の低下の程度に影響する。さらに、ドットのオーバーラップの大きさは、印字デューティーまたは記録メディアPの所定の領域へ吐出するインクの総量との間に相関関係がある。
【0017】
このような考察のもとに、本発明の一例としては、変換前のもともとの記録データに基づいて、記録メディアPの所定の領域へ吐出するインクの総量を求める。具体的には、インク量相当情報計算部1が、はみ出し領域Aにおける微小な所定の領域に関する記録データから、この領域に向けて吐出するインクの総量を算出する。そして、インクの総量からドットのオーバーラップの大きさを類推し、それに基づいて、記録データを間引く割合を決定する。例えば、図4〜7に示す例の場合には、記録データを50%程度に間引くことは可能であるが、25%以下に間引くことは好ましくない。従って、記録データを50%減らすように変換する。そして、記録メディアPに記録する際に、記録メディアPの中央部分(端部A2以外の部分)に対しては、変換前のもともとの記録データに基づいてインク吐出を行う。そして、記録メディアPの端部A2を含むはみ出し領域Aには、変換によって50%に間引きした記録データに基づいてインクを吐出する。これにより、はみ出し領域Aに対しては、インク吐出量を50%に削減しつつ、画像濃度がほとんど低下しないようにすることができる。この例では、吐出するインクの総量(とそれに基づいて類推されるドットのオーバーラップの大きさ)が、インク量相当情報として用いられている。
【0018】
画像濃度を左右する別の要因として、記録メディアP上に形成する個々のドット(インク滴)の大きさがある。ドットのサイズが小さい場合には、記録メディアP上に形成するドット数が多くてもドットのオーバーラップが小さく、記録データを間引くことによる画像濃度の低下が比較的大きくなりやすい。具体的には、図4に示す例に比べてドットのサイズが小さい場合の、インク吐出位置およびインク吐出後の視認状態が図8に示されている。そして、図8に示すようにドットのサイズが小さく、図5に示す例と同様に記録データを50%に間引きした場合を、図9に示している。図8(B)を見ると、図4(B)のように高画像濃度ではなく、未着色のままの部分が僅かに残っている。図9(B)を見ると、記録データを50%に間引きすることによって、未着色のままの部分がさらに大きくなり、画像濃度の低下が著しく、薄く見えることがわかる。このように、図8,9に示す例を図4,5に示す例と対比することによって、ドットのサイズの違いが画像濃度の低下に大きな影響を及ぼすことがわかる。
【0019】
従って、ステップS1(図2参照)におけるインク量相当情報として、ドットのサイズを用いることができる。特に、所定の領域に吐出されるインクの総量と、ドットのサイズ(径)とを求めて、それらをインク量相当情報として利用して、記録データの変換条件を選択することができる。これにより、記録データを適切に間引いて、画像濃度の低下を抑制できる範囲で、はみ出し領域におけるインク吐出量を可能な限り削減することができる。
【0020】
また、1つのインクジェット記録装置において、径の小さなドットと径の大きなドットを混在させて記録を行うものがある。例えば、画像中の濃度の薄い部分は、粒状感を小さくするために小さい径のドットで形成し、濃度の濃い部分は、少ないドット数で多量のインクを打ち込むために、大きい径のドットで形成することが一般的である。また、図10に示すように、ある方向において、径の小さなドットと径の大きなドットを交互に形成して記録を行うインクジェット記録装置もある。さらに、図11に示すように、サイズの異なる3種類のドットを用いて、無着色(レベル0)を含めて、濃度に応じて6段階の階調(レベル0〜レベル5)の着色を行うインクジェット記録装置もある。
【0021】
このようなインクジェット記録装置においては、所定の領域へ吐出するインクの総量が大きい場合には、ドットのオーバーラップが大きくなることに加えて、サイズの大きいドットを用いていることが推定される。従って、記録データの変換に伴う画像濃度の低下は比較的小さいと考えられ、インクを比較的大幅に削減するような変換条件を用いて記録データを変換することが可能である。
【0022】
ただし、インクジェット記録装置によっては、ドットのサイズと、所定の領域に吐出するインクの総量とが、あまり厳密な相関関係を有していない場合がある。そのような場合には、インク量相当情報として、所定の領域に吐出するインクの総量と、その領域内における各サイズのドットの比率、具体的には、各サイズのドットの数(カウント数)の比率またはインク量の比率とを用いることができる。従って、記録データ変換条件選択部2は、所定の領域に吐出されるインクの総量と、各サイズのドットの数の比率またはインク量の比率とに基づいて、記録データ変換条件を選択できる。例えば、大ドットの数と、中ドットの数および小ドットの数の合計との比率を求め、大ドットの数の比率が大きく、かつインクの総量も多い場合には、記録データを大幅に間引きすることができる。それにより、変換後の記録データに基づいて形成された画像も、濃度低下があまり目立たず、しかもインクの使用量をできるだけ削減することができる。ただし、大ドットの数の比率またはインクの総量があまり大きくない場合には、記録メディアPの端部A2において画像濃度が低い部分が目立たないように、記録データの間引きを小さめにする。
【0023】
画像濃度を左右するさらに他の要因としてインク濃度がある。インク濃度が高い場合には、前記したように、ドットのオーバーラップが大きければ記録データの間引きが比較的大きくても、画像の濃度低下は小さい。しかし、インク濃度が低い場合には、ドットのオーバーラップがある程度大きくても、記録データの間引きによる画像の濃度低下が比較的大きい。
【0024】
具体的には、図4に示す例に比べてインク濃度が低い場合の、インク吐出位置およびインク吐出後の視認状態が図12に示されている。そして、インク濃度が低く、図5に示す例と同様に記録データを50%に間引きした場合を、図13に示している。図12(B)を見ると、図4(B)のように高画像濃度ではなく、部分的に画像濃度が低い部分が残っている。図13(B)を見ると、記録データを50%に間引きすることによって、さらに画像濃度の低い部分が大きくなっている。このように、図12,13に示す例を図4,5に示す例と対比することによって、インク濃度が低いと画像濃度の低下が著しくなることがわかる。
【0025】
ハイライト画像の粒状感を抑えるために、比較的濃いインクと比較的薄いインクの両方を搭載したインクジェット記録装置がある。このようなインクジェット記録装置においては、インク濃度の影響を考慮する必要がある。具体的には、インク量相当情報計算部1が、所定の領域に吐出されるインクの総量に加えて、その領域内における高濃度のインクのドットと低濃度のインクのドットの比率、具体的には、各濃度のドットの数の比率またはインク量の比率とを用いることができる。従って、記録データ変換条件選択部2は、所定の領域に吐出されるインクの総量と、各濃度のドットの数の比率またはインク量の比率とに基づいて、記録データ変換条件を選択できる。例えば、高濃度のインクのドットのインク量と、低濃度のインクのドットのインク量との比率を求め、高濃度のインクのドットのインク量の比率が大きく、かつインクの総量も多い場合には、記録データを大幅に間引きすることができる。それにより、変換後の記録データに基づいて形成された画像も、濃度低下があまり目立たず、しかもインクの使用量をできるだけ削減することができる。ただし、高濃度のインクのドットのインク量またはインクの総量があまり大きくない場合には、記録メディアの端部A2において画像濃度が低い部分が目立たないように、記録データの間引きを小さめにする。
【0026】
このように、本発明では、インク量相当情報計算部1が計算したインク量相当情報に基づいて、記録データ変換条件選択部2が適切な変換条件を選択し、選択された変換条件に従って、記録データ変換部3がはみ出し領域Aに関する記録データを変換する。そして、インク量相当情報計算部1が算出するインク量相当情報として、所定の領域に吐出するインクの総量と、ドット数(カウント数)や、ドット数またはインク量の比率などを用いている。ただし、インク量相当情報はこれらに限られず、記録メディア上に形成されるドットのオーバーラップ量や、記録データ変換に伴う画像濃度低下の程度が大まかに推定できるものであれば、さまざまな情報であってよい。例えば、所定の領域に対する記録データのドット数がドットのオーバーラップ量と大まかな相関関係を有していれば、それをインク量相当情報として用いることで本発明の効果が得られる。また、ドット数やインク量と相関関係を有するその他のデータも同様に、インク量相当情報として用いることができる。例えば、所定の領域の画像の形成に用いられる記録データを計算した数値がドットのオーバーラップ量と相関関係を有している場合には、その数値をインク量相当情報として用いてもよい。具体例としては、画像形成を行う記録データが、レッド、グリーン、ブルーの各8ビット(諧調は0から255)からなる場合には、各色のビット数をインク量相当情報として用いてもよい。その際には、レッド、グリーン、ブルーのデータを加法混色系のシアン、マゼンタ、イエローのデータに変換するために、
(シアン)=255−(レッド)
(マゼンタ)=255−(グリーン)
(イエロー)=255−(ブルー)
の計算を行う。そして、所定の領域についての、各色のビット数の合計または平均がドットのオーバーラップ量と相関関係を有している場合には、その数値をインク量相当情報として用いてもよい。インクジェット記録装置の構成によっては、インクの総量と、異なるサイズのドットの数またはインク量の比率や、高濃度のインクのドットと低濃度のインクのドットの数またはインク量の比率とを組み合わせて用いてもよい。さらに、インク量相当情報として、高濃度のインクの量と低濃度のインクの量とを別々に用いて、記録データ変換条件の選択のために用いてもよい。
【0027】
次に、本発明のインクジェット記録装置の具体的な構成について説明する。
【0028】
[第1の実施形態]
(機構部の概略構成)
本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の機構部の概略を説明する。ここに例示するインクジェット記録装置は、記録メディアに対して記録ヘッドを移動させつつインクを吐出して記録を行う、いわゆるシリアル型のインクジェット記録装置である。
【0029】
図14に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置は、使用するインクの種類(例えばブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインク)にそれぞれ対応して設けられた複数のインクジェットカートリッジ101を有している。これらのインクジェットカートリッジ101は、それぞれ異なるインクをそれぞれ貯蔵するインクタンクと、それぞれのインクに対応した記録ヘッドと、から構成されている。インクジェットカートリッジ101は、図11に示されている3種類のサイズのドットを記録メディアP上に形成することができる。
【0030】
記録ヘッドの上流側と下流側には、図示しない給紙部から供給された記録メディアPを挟持しつつ回転する、互いに対向して配置された1対のローラからなる搬送ローラ対102,103がそれぞれ配置されている。これらのローラ対102,103によって、記録メディアPは所定量ずつ間欠的にY方向(副走査方向)に搬送される。
【0031】
4つのインクカートリッジ101が着脱可能に搭載されたキャリッジ104が、搬送ローラ対102,103による記録メディアPの搬送方向(Y方向)と直交する主走査方向(X方向)に往復移動可能である。キャリッジ104の一側面には、記録メディアPの位置を検知する光学式センサ(端縁検出手段)200が固定されている。図15に示すように、この光学式センサ200は、記録メディアPを保持するプラテン106へ向けて光を発する発光ダイオード201と、記録メディアPで反射された光の光量に応じた出力信号を送出するフォトダイオード202とを有する。発光ダイオード201から発せられた光は、記録メディアPでは反射されるが、プラテン106では殆ど反射されない。従って、この光学式センサ200を駆動しつつキャリッジ104を主走査方向へと移動させた時のフォトダイオード202の出力変化を見ることによって、記録メディアPの端縁400(図1参照)を検出することができる。なお、フォトダイオード202は、発光ダイオード201から発せられた光が記録メディアPで乱反射した光を受光するように、光軸をずらした位置に設置されている。これは、正反射光を受光した場合に記録メディアPの表面の微小な凹凸により記録メディアPの端縁位置を検知する精度が悪化するのを防止するためである。
【0032】
(制御系)
図16は、図14に示すインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。コントローラ300は、インクジェット記録装置全体の制御を行う主制御部である。このコントローラ300は、CPU(central processing unit)301、ROM(read only memory)303、RAM(random access memory)305等を有している。CPU301は例えばマイクロコンピュータである。ROM303は、プログラムや所要のテーブルなどの固定データを格納している。RAM305は、記録データを展開する領域や作業用の領域等を構成する。このコントローラ300とインターフェース(I/F)312を介して接続されているホスト装置310は、記録データの供給源としての機能を有するものであり、記録データの作成や処理等を行うコンピュータなどである。さらに、ホスト装置312は、画像読み取り用のリーダ部としての機能を有するものであってもよい。このようなホスト装置312から送出される記録データや、その他のコマンドや、ステータス信号等は、インターフェース312を介して、コントローラ300との間で送受信される。
【0033】
また、コントローラ300には、入力のための操作部320と、各種のセンサ群330と、モータドライバ350,360と、ヘッドドライバ340とが接続されている。操作部320は、種々のデータや指令を入力する機構である。センサ群330は、前記した光学式センサ200を含んでいる。モータドライバ350は、キャリッジ104の駆動源である主走査モータ350を作動させるものであり、モータドライバ360は、2組の搬送ローラ対102,103を回転駆動する副走査モータ360を作動させるものである。ヘッドドライバ340は、各ヘッドカートリッジ101の記録ヘッド104内の吐出用ヒータを駆動する。より詳細には、ヘッドドライバ340は、記録データを、吐出用ヒータの位置に対応させて配列させるシフトレジスタと、このシフトレジスタから出力される記録データをラッチするラッチ回路とを有する。さらに、ヘッドドライバ340は、ラッチ回路から出力された駆動タイミング信号に同期して吐出用ヒータを作動させる論理回路素子と、ドットの形成位置を合わせるために駆動タイミング(吐出タイミング)を適切に設定するタイミング設定部等を有する。
【0034】
(処理手順)
以上説明した構成において画像形成を行う際の、記録までの処理について説明する。
【0035】
ホスト装置310にて作成された画像データは、インターフェース312を介してコントローラ300に送られ、RAM305に設けられたプリントバッファに展開される。この後、記録開始指令が入力されると、図17のステップS11〜S14の処理を実行し、その後、記録動作(S15)を開始する。
【0036】
すなわち、記録開始指令に応じて、コントローラ300は、図示しない給紙機構を駆動して、上流側の搬送ローラ対102へと記録メディアPを給送する。その後、上流側の搬送ローラ対102は、給送された記録メディアPを、記録ヘッドと対向するプラテン106上へ搬送する(ステップS11)。ここで、コントローラ300は、光学式センサ200を駆動させるとともに、キャリッジ104を主走査方向に往復動作させる。光学式センサ200からの信号を受けて、コントローラ300は、プラテン106上に搬送される記録メディアPの各端縁400を検知する(ステップS12)。そして、主走査方向(X方向)において記録メディアPが存在する範囲(以下「記録メディアPの範囲」と称する)と、後述する吐出インク量削減処理の対象領域の設定を行う(ステップS13)。この記録メディアPの範囲は、記録装置のプラテン106(図15参照)と同一平面上に設定される座標に基づいて規定される。
【0037】
記録メディアPの範囲は、光学式センサ200によって検出された記録メディアPの両側方の端縁上の少なくとも1点ずつから得られたデータと、記録メディアPのサイズに関するデータとから決定できる。ただし、この決定方法は一例であり、その他の方法を用いることも可能である。例えば、記録メディアPの前側端縁または後側端縁を検出する追加のセンサを設け、追加のセンサから得られたデータと、光学式センサ200から得られたデータとを用いて、記録メディアPの範囲を決定することも可能である。実際に搬送された記録メディアPの範囲を決定することができる方法であれば、その他の方法も採用可能である。
【0038】
次に、コントローラ300は、設定された記録メディアPの範囲に基づき、後述する記録データの吐出インク量削減処理の対象領域を設定する。すなわち、図1に示すように、記録メディアPの端縁400から内側に位置する端部A2と、端縁から外側の部分A1とを含むはみ出し領域Aを、吐出インク量削減処理の対象領域として設定する。具体的には、図1において最外側の線402に囲まれた範囲が、予め記録メディアPのサイズより大きめに設定された記録データの存在する範囲であって、インクを吐出する領域である。本実施形態においては、記録メディアPの搬送精度および寸法誤差などを考慮して、記録データの存在する範囲を設定している。この記録データの存在する範囲を示す線402と、記録メディアPの端縁400との間の領域が、端縁より外側の部分A1である。コントローラ300は、記録メディアPの範囲に基づき、端縁検出手段(光学式センサ200)の検出精度等を考慮して、端縁400よりも内側に一定距離だけ入り込んだ位置(図1に示す線401までの範囲)を境界とする範囲(端部A2)を設定する。前記したように、端部A2と、記録メディアPの端縁より外側の部分A1とを合わせた領域が、吐出インク量削減処理の対象領域(はみ出し領域A)である。この吐出インク量削減処理の対象領域(はみ出し領域A)を記憶部に記憶させておく。なお、端縁検出手段の検出精度を向上させて、記録メディアP上の端部A2をできる限り小さくすることが望ましい。例えば、端部A2を、端縁400からの距離が0.2mm以下の範囲程度に抑えることができれば、吐出インク量削減処理におけるインク量の削減率を上げるのに有利である。
【0039】
はみ出し領域Aを設定した後に、コントローラ300は、はみ出し領域に対応する記録データを変換する。後で詳細に説明するが、この記録データを変換する処理が吐出インク量削減処理である(ステップS14)。
【0040】
それから、キャリッジ104を主走査方向へと移動させるとともに、記録ヘッドから記録メディアPへインクを吐出して記録を行う(ステップS15)。この際に、記録メディアPの端部A2よりも内側の領域(はみ出し領域以外の部分)には、ホスト装置310から供給された記録データをそのまま用いて記録を行う。しかし、図1に示す線401よりも外側の領域、すなわちはみ出し領域Aについては、変換された記録データに基づいて記録を行う。
【0041】
(吐出インク量削減処理)
ここで、本発明の主な特徴である吐出インク量削減処理について詳細に説明する。吐出インク量削減処理は、記録データを変換することによって行う。この吐出インク量削減処理を含む画像処理において、主にホスト装置310とコントローラ300によって実行される各機能を、図18のブロック図にそれぞれ示している。ただし、必ずしもそれぞれが互いに完全に独立した装置である必要はない。構成部品(電気部品等)の一部が共通していてもよく、また、複数の手段を兼ねた装置が存在していてもよい。
【0042】
ホスト装置310の一部である画像処理手段900は、RGB(赤、緑、青)の24ビットの記録データ910が入力されると、それを記録色の数と同じ数の中間記録データに分解する。コントローラ300の一部であるエンジン部901は、供給された記録データに基づいて記録ヘッド104を駆動して、記録メディアPへの記録を行わせる。
【0043】
具体的には、画像処理手段900にRGBの24ビットの記録データ910が入力されると、記録する色ごとに色補正処理部902で色補正処理を実施する。それから、色分解処理部903で、各色(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K))の8ビットの記録データをそれぞれ生成する。すなわち、色補正処理部902と色分解処理部903が、RGBの24ビットの記録データ910をCMYKの8ビットの記録データに変換する。続いて、出力γ補正および量子化処理部906がγ補正を行い、誤差拡散法を用いた量子化処理を行って、縦横それぞれ600dpi(1インチ(2.54cm)あたり600ドット)の密度で、各色6段階の階調の中間記録データを生成する。この6段階の階調が、図11に示す階調レベル0〜5に相当する。
【0044】
続いて、エンジン部901の吐出インク量削減処理手段920が吐出インク削減処理を行う。吐出インク削減処理は、前記したように、記憶部908に記憶されている図1の線401と線402とに囲まれたはみ出し領域Aに対する記録データを対象として行う。まず、インク量相当情報計算部1が、図19に示すように、はみ出し領域Aを、微小な所定の領域410ごとに区切る。例えば、縦1画素×横5画素の領域を所定の領域410とする。そして、インク量相当情報計算部1が、その所定の領域における各階調のドットを生成するためのカウント数(ドット数)を求める。前記したように中間記録データが各色についてレベル0〜5である場合のカウント数の一例を、以下の表1に示す。なお、図11に示すように、1画素において、階調レベル0のカウント数は0、階調レベル1のカウント数は1、階調レベル2〜3のカウント数は2、階調レベル4のカウント数は3、階調レベル5のカウント数は4である。
【0045】
【表1】

【0046】
このように、インク量相当情報計算部1が、所定の領域410に関し、中間記録データに基づいて各階調レベルごとにカウント数を求め、各画素のカウント数を合計する。このカウント数の合計をインク量相当情報として用いる。
【0047】
次いで、記録データ変換条件選択部2が、インク量相当情報計算部1が算出したインク量相当情報、すなわちカウント数の合計から、記憶部904に予め記憶されているテーブルに基づいて、本実施形態において適切な記録データ変換条件を選択する。テーブルの一例を以下の表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示されている各変換条件の内容を以下の表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
この記録データの変換条件の選択は、インク量相当情報(カウント数の合計)から推定されるドットのオーバーラップ量および記録データの変換に伴う画像濃度の低下の程度に応じて、インク量削減の程度を選択するものである。
【0052】
記録データ変換条件選択部2が、表2のテーブルに従って、インク量相当情報(カウント数の合計)から変換条件を選択すると、記録データ変換部3が、選択された変換条件を実行して記録データを変換する。表3に示す変換条件によると、所定の領域内の各画素の中間記録データの階調レベルを、インク使用量がより少ない階調レベルに変換することにより、吐出するインク量を削減する。表3に示す変換条件は、所定の領域内の水平方向の位置を表すカラムと、所定の領域内の各画素に対応する中間記録データの階調レベルと、それを変換した後の階調レベルとを示している。この変換条件のカラムはC0〜C3の4つであるため、所定の領域の水平方向の画素数が4より大きい場合には、これらのカラムが繰り返して使用される。複数のカラムに対して異なる変換を行うのは、インク量の削減率をより細かく設定するためである。表3に示す変換条件1によるとインク量の削減率は約50%であり、変換条件2によるとインク量の削減率は約40%であり、変換条件3によるとインク量の削減率は約30%である。
【0053】
さらに、記録データ展開部911が、記録データを、図11に示されているドット配置となるように、縦横1200dpi(1インチ(2.54cm)あたり1200ドット)の2値の記録データに展開する。展開される記録データは、記録データ変換部3によって変換されたはみ出し領域Aの記録データを含む。これにより、インクの吐出と非吐出とを定める2値データが得られる。このCMYKの2値データはプリントバッファ907に格納される。その後、プリントバッファ907から読み出された記録データに基づいて、ヘッドドライバ340が記録ヘッド104を駆動してインクの吐出を行い、記録メディアPへの記録を行う。
【0054】
本実施形態では、はみ出し領域Aへの記録データを、インク量相当情報(カウント数の合計)に基づいて適切に選択した変換条件(表3参照)に従って変換している。従って、記録メディアPの端部A2に形成された画像内に視認できるほど濃度が薄い部分が生じない範囲で、吐出されるインクの量を減らすことができる。
【0055】
インク量相当情報を求める所定の領域410のサイズが大きいと、各領域ごとの画像濃度の違いがモザイク状に視認されやすくなる。一方、所定の領域410のサイズが小さいと、各領域内の画素数が少なくなりすぎるため、インク量の削減率をあまり細かく設定することができない。本発明は所定の領域410のサイズを限定するものではないが、本実施形態においては、前記したように縦1画素×横5画素のサイズと長方形の形状が、画像濃度の違いを視認しにくい程度に抑えつつ、インク量の削減率をできるだけ大きくするのに有利であった。
【0056】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前記した第1の実施形態と異なる事項についてのみ述べ、第1の実施形態と共通する事項については説明を省略する。
【0057】
第1の実施形態のインクジェット記録装置は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いて、3種類の吐出量のインク滴を吐出できるものである。そして、吐出インク量削減処理として、6段階の階調レベルの中間記録データについて変換処理を行い、はみ出し領域Aに吐出するインクの量を削減している。これに対し、第2の実施形態のインクジェット記録装置は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタの6色のインクを用い、1種類の吐出量のインク滴を吐出可能なものである。そして、吐出インク量削減処理として、2値の記録データについて変換処理を行い、記録データを間引くことによってはみ出し領域Aに吐出するインクの量を削減している。インク量相当情報としては、微小な所定の領域の総ドット数、色相、濃淡レベルを用いている。
【0058】
図20は、吐出インク量削減処理を含む画像処理において、主にホスト装置310とコントローラ300によって実行される各機能を、ブロック図として示している。ただし、必ずしもそれぞれが互いに完全に独立した装置である必要はない。構成部品(電気部品等)の一部が共通していてもよく、また、複数の手段を兼ねた装置が存在していてもよい。
【0059】
本実施形態では、第1の実施形態と異なり、出力γ補正および量子化処理部906が、縦横それぞれ1200dpi(1インチ(2.54cm)あたり1200ドット)の記録密度で、2値の中間記録データを生成する。2値の記録データとは、図4〜10に示すように、階調表示のない白と黒の2パターンによる表示を意味する。
【0060】
そして、本実施形態では、図21に示すように、はみ出し領域Aを、縦2画素×横10画素の微小な所定の領域に区切り、インク量相当情報計算部1が、その所定の領域内のドットを生成するためのカウント数を求める(S21)。このカウント数が、インク量相当情報である。そして、求めたカウント数を、表4に示すテーブルに基づいて評価する(S22)。
【0061】
【表4】

【0062】
表4のテーブルには、所定の領域の記録データのカウント数を全色について合計した総和Dを、6つのレベル(総ドット数条件)に分類している。
【0063】
また、本実施形態では、色相もインク量相当情報として用いるため、以下の計算を行う。以下の計算においては、発色が薄いライトシアンとライトマゼンタにはそれぞれ係数0.4を掛けて、シアンおよびマゼンタのカウント数に加えている。
K=(ブラックのカウント数)
C=(シアンのカウント数)+((ライトシアンのカウント数)×0.4)
M=(マゼンタのカウント数)+((ライトマゼンタのカウント数)×0.4)
Y=(イエローのカウント数)
引き続いて、以下の計算を行う。
C’=C−Min(C,M,Y)
M’=M−Min(C,M,Y)
Y’=Y−Min(C,M,Y)
K’=K+Min(C,M,Y)
Min(C,M,Y)はC,M,Yのうちの最小値を示している。これは、シアンとマゼンタとイエローのインクを混ぜると無彩色になる傾向を補正して、色相判定するための計算である。C,M,Yのうちの最小値を引くことにより、グレーの成分を排除して色相成分を残すことができる。逆に、無彩色であるKにはC,M,Yのうちの最小値を足すことにより、無彩色全体の数値を得る。これらの計算結果の一例を図22に示している。
【0064】
ここで、C’,M’,Y’のうち数値が最大の色を第1の色(1st color)として、次に数値が大きい色を第2の色(2nd color)とする。この第1の色と第2の色を用いて、彩度を示す数値Sを以下の式により算出する。
S=√((第1の色)2)+((第2の色)2
これらの数値を用い、予め設定されたテーブル(表5参照)に基づいて、色相を判定する。
【0065】
【表5】

【0066】
表5のテーブルによると、無彩色成分K’が彩度成分S以上である場合には、色相をグレーと判定する。そして、無彩色成分K’が彩度成分Sよりも小さい場合には、第1の色と第2の色の組み合わせとそれらの大小関係とに基づいて、色相をそれぞれ判定する(S23)。
【0067】
さらに本実施形態では、インクの濃淡もインク量相当情報として用いる。そのため、所定の領域における、濃いインクであるブラック、シアン、マゼンタ、イエローのカウント数の総和Nと、薄いインクであるライトシアン、ライトマゼンタのカウント数の総和Tとを比較する。表6に示すように、濃いインクのカウント数の総和Nと薄いインクのカウント数の総和Tとの比較結果によって、濃淡レベルを設定する(S24)。
【0068】
【表6】

【0069】
ここでは、インクの濃淡を4つのレベルに分類している。
【0070】
以上説明したように、表4に示すテーブルに従って判定されたカウント数の総和Dに関するレベル(総ドット数条件)と、表5に示すテーブルに従って判定された色相と、表6に示すテーブルに従って判定された濃淡レベルとが決まる。そこで、これらの3つの条件をインク量相当情報として用い、変換条件を選択する(S25)。具体的には、本実施形態の変換条件は、ドット数を減らす(間引きする)程度を決める間引きパターンのことである。本実施形態では、表7に示すように、7通りの間引きパターン(記録データ変換条件)を予め記憶させておく。
【0071】
【表7】

【0072】
前記した3つの条件(インク量相当情報)に対応する間引きパターンの選択は、予め作成しておいた3次元ルックアップテーブルを用いて行う。この3次元ルックアップテーブルは、多くの色について、記録データの間引きパターンを変えて記録したサンプルを多数作成し、間引きによる画像濃度の低下が目立たず、インク量の削減率ができるだけ大きくなるケースを実験的に求めることにより作成できる。ただし、こうして作成した3次元ルックアップテーブルは、サイズが巨大なので本明細書中には記載しない。
【0073】
表7に示す間引きバターンは、横方向において、間引かずにインク吐出する画素(「1」と表記)と、間引いてインク吐出しない画素(「0」と表記)とを区別して示している。
【0074】
具体的に記録データを間引く動作(記録データ変換S26)を、図23を参照して説明する。図23には、はみ出し領域Aを細分化した所定の領域410の各画素を示している。本実施形態では上段左側から矢印の方向に記録データにおけるインク吐出の指示の有無を調べる。そして、インク吐出の指示がある場合には、表7に示すテーブルの間引きパターンを参照して、そのインク吐出の指示に従ってインクを吐出するか、あるいは指示を無視してインク吐出を行わないかを決める。インク吐出の指示があるたびにテーブルを参照し、その都度、各間引きパターン中の参照する位置を1つずつ右へずらしていく。記録データの存在しない位置まできたら、次は次段の左端のデータに戻る。このように、所定の領域の画素にインク吐出の指示があるたびに、間引きパターンの参照する位置を進めることにより、インク量の削減をより正確に行うことができる。
【0075】
このように所定の領域410内において、各色のドットの形成を、表7に示す間引きパターンに従って行うが、複数の色において記録データを間引く位置が集中すると、画像濃度の低下を招く可能性がある。そこで、各色ごとに、間引きパターンの、最初に参照する位置を変えてもよい。すなわち、各色のドットに関して最初に間引きパターンを参照する際に、表7に示すテーブルの間引きパターンの最も左端の欄を参照するのではなく、右側にいくつかずらした欄を参照するように設定することができる。このように、各色のドットに関して最初に参照する欄を、表7に示す間引きパターンにおいていくつかずらすように設定した例を、表8に示している。
【0076】
【表8】

【0077】
これによると、例えば、シアンのドットに関して最初に間引きパターンを参照する際には、最も左の欄の表示を参照し(ずらし量0)、ライトシアンのドットに関して最初に間引きパターンを参照する際には、左から5番目の欄の表示を参照する(ずらし量4)。こうすることによって、間引き位置が偏らないようにすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 インク量相当情報計算部
2 記録データ変換条件選択部
3 記録データ変換部
104 記録ヘッド
200 光学式センサ(端縁検出手段)
400 端縁
410 所定の領域
920 吐出インク量削減処理手段
A はみ出し領域
A1 端縁よりも外側の部分
A2 端部
P 記録メディア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録メディア上と、該記録メディアの少なくとも一部の端縁よりも外側とにわたってインクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記記録メディアの前記端縁を検出し、検出した前記端縁に基づいて、インクを吐出する領域を設定し、
前記インクを吐出する領域のうち、前記記録メディアの端部と前記端縁よりも外側の領域とを含むはみ出し領域に関するインク量相当情報を求め、
前記インク量相当情報に基づいて記録データ変換条件を選択し、
前記記録メディアへインクを吐出するための記録データのうち前記はみ出し領域に対応する記録データを、選択された前記記録データ変換条件に従って変換し、
前記記録メディアの、前記はみ出し領域以外の部分に対しては、未変換の前記記録データに従ってインクを吐出し、前記はみ出し領域に対しては、変換された前記記録データに従ってインクを吐出する、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記記録データ変換条件は、インクの吐出量を削減するように前記記録データを変換する条件である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記記録データの変換は、ドットの間引きを行うこと、または各ドットの階調レベルを低くすることである、請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インク量相当情報は、少なくとも前記記録メディアの所定の領域内における、吐出されるインクの総量と、ドットの数と、ドットのオーバーラップ量と、インクの濃度と、色相とのうちの少なくとも1つ、または、それらのうちの少なくとも1つと相関関係を持つ情報である、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記インク量相当情報は、前記記録メディアの所定の領域内に吐出されるインクの総量と、ドットの数と、個々のドットの大きさと、大きさの異なるドットの混在する割合と、インクの濃度と、濃度の異なるインクのドットの混在する割合と、色相とのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
記録メディア上と、該記録メディアの少なくとも一部の端縁よりも外側とにわたってインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録メディアの前記端縁を検出する端縁検出手段と、吐出インク量削減処理手段と、記録ヘッドとを含み、
前記吐出インク量削減処理手段は、インクを吐出する領域のうち、前記記録メディアの端部と前記端縁よりも外側の領域とを含むはみ出し領域に関するインク量相当情報を求めるインク量相当情報計算部と、前記インク量相当情報に基づいて記録データ変換条件を選択する記録データ変換条件選択部と、前記記録メディアへインクを吐出するための記録データのうち前記はみ出し領域に対応する記録データを、選択された前記記録データ変換条件に従って変換する記録データ変換部と、を含み、
前記記録ヘッドは、前記記録メディアの、前記はみ出し領域以外の部分に対しては、未変換の前記記録データに従ってインクを吐出し、前記はみ出し領域に対しては、変換された前記記録データに従ってインクを吐出する
インクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図12】
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【図13】
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