説明

インクジェット記録方法

【課題】下塗り層のタック性、インクの粘度、インクの硬化性、及び印刷した際の線幅の
いずれにも優れたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】表面粗さが1以上である被記録媒体上に、樹脂を含有する液を用いて下塗り
層を設ける工程と、前記下塗り層が設けられた前記被記録媒体の該下塗り層側に、下記一
般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であ
り、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表される化合物を含有する紫外線硬化型インクジェット用インクを、前記被記録媒体に
付着させる工程と、を含むインクジェット記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の
方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる
画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く
使用でき、ランニングコストが安い。
【0003】
近年、耐水性、耐溶剤性、及び耐擦性などの良好な画像を被記録媒体の表面に形成する
ため、インクジェット方式の記録方法において、紫外線を照射すると硬化する紫外線硬化
型インクジェット用インクが使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、発色濃度が高く、色相変化の少ないインクジェット記録媒体
と高濃度な記録画像が得られ、印画直後からの色相変化を抑制することが可能なインクジ
ェット記録方法を提供するために、ポリオレフィン樹脂(PP、PE)等の非吸水性支持
体上に、無機微粒子である気相法シリカと水溶性樹脂であるポリビニルアルコールとを含
有する少なくとも2層以上のインク受容層を有することが開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、高濃度で色差(色変わり)の発生が抑えられた画像を
得るため、無機微粒子、水溶性樹脂、及び架橋剤を含むインク受容層を支持体上に有する
インクジェット用被記録媒体及びその被記録媒体を搬送する搬送手段と、染料、水、及び
水溶性有機溶剤を含むインクを吐出する吐出手段と、被記録媒体に塗布されたインクを乾
燥する乾燥手段と、を備えたインクジェット記録装置、並びにこれを用いたインクジェッ
ト記録方法が開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献3には、高画質で耐擦性に優れた記録画像を得るため、顔料及
びバインダーを含有するインク受容層を設けたインクジェット用被記録媒体であって、イ
ンク受容層の最表層のグリセリンに対する接触角が45°以下であり、かつ、バインダー
として、ケン化度90モル%以下のポリビニルアルコール及びその変性物のうち少なくと
もいずれかを含有するインクジェット用被記録媒体、並びにこれを用いたインクジェット
記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−76179号公報
【特許文献2】特開2010−69870号公報
【特許文献3】特開2007−216509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された技術は、インクの硬化性、及び印刷した際
の線幅の少なくともいずれかにおいて劣るか又は改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、インクの硬化性及び印刷した際の線幅のいずれにも優れたインクジ
ェット記録方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、日本工業規格(JIS
B0601)を基に定義した表面粗さ(Rq値[二乗平方根高さ])が1以上である被
記録媒体上に、樹脂を含有する液を用いて下塗り層を設け、その後被記録媒体の当該下塗
り層側に、分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共に有する化合物を含有する紫外
線硬化型インクジェット用インクを付着させることにより、インクの硬化性及び印刷した
際の線幅のいずれにも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
表面粗さが1以上である被記録媒体上に、樹脂を含有する液を用いて下塗り層を設ける
工程と、前記下塗り層が設けられた前記被記録媒体の該下塗り層側に、下記一般式(I)

CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であ
り、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表される化合物を含有する紫外線硬化型インクジェット用インクを、前記被記録媒体に
付着させる工程と、を含む、インクジェット記録方法。
[2]
前記樹脂が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂のうち少なくともいずれかである、[1]
に記載のインクジェット記録方法。
[3]
前記下塗り層を設ける工程は、前記樹脂の分散液を用いて下塗り層を設けることを含む
、[1]又は[2]に記載のインクジェット記録方法。
[4]
前記下塗り層を設ける工程は、前記アクリル樹脂及び前記ウレタン樹脂のうち少なくと
もいずれかの分散液を塗布することを含む、[2]に記載のインクジェット記録方法。
[5]
前記下塗り層の厚みが5〜20μmである、[1]〜[4]のいずれかに記載のインク
ジェット記録方法。
[6]
0.7mg/inch2以下の条件で前記紫外線硬化型インクジェット用インクを前記
被記録媒体に付着させる、[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
[7]
前記紫外線硬化型インクジェット用インクが、該インクの総質量に対して10〜87質
量%のアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルを含有する、[1]〜[6]のいず
れかに記載のインクジェット記録方法。
[8]
前記紫外線硬化型インクジェット用インクの粘度が15mPa・s以下である、[1]
〜[7]のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の
実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することがで
きる。
【0013】
本明細書において、「硬化性」とは、光に感応して硬化する性質をいう。「タック性」
とは、綿棒で擦っても擦過痕がつかない性質をいう。より詳細にいえば、被記録媒体の面
のうち下塗り層がある方を指で触れてみて、その面の粘性(タック)によってその面が指
に付着しない性質をいう。
【0014】
本明細書において、「表面粗さ」とは、JIS B0601を基に定義した表面粗さ、
すなわちRq値(二乗平方根高さ)を意味する。ここで、JIS B0601は、ISO
4287に対応し、「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定
義及び表面性状パラメータ」(Geometrical Product Specifications (GPS) −Surface t
exture : Profile method−Terms, definitions and surface texture parameters)とい
う名称で表される規格である。このうち、二乗平均平方根高さ(Rq)は、基準長さにお
ける二乗平均平方根を表したものであり、表面粗さの標準偏差を意味する。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメ
タクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及び
それに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
本明細書において、「塗布」とは、面に塗りつけることを意味し、塗布の方法は限定さ
れないが、具体的にはローラーコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法
、及びインクジェット法などにより面に塗りつけることを意味する。
【0016】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、表面粗さ(Rq)が1以上であ
る被記録媒体上に、樹脂を含有する液(以下、「アンカー剤」ともいう。)を用いて下塗
り層を設ける工程(以下、「下塗り層形成工程」ともいう。)と、上記下塗り層が設けら
れた上記被記録媒体の当該下塗り層側に、分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共
に有する化合物を含有する紫外線硬化型インクジェット用インクを、上記被記録媒体に付
着させる工程(以下、「インク付着工程」ともいう。)と、を含むものである。以下、各
工程について詳細に説明する。
【0017】
〔下塗り層形成工程〕
下塗り層形成工程においては、Rqが1以上である被記録媒体上に、樹脂を含有するア
ンカー剤(下地剤)を用いてこれを塗布し、その後所望により乾燥させて、下塗り層を形
成する。アンカー剤の塗布は、ロールコーター等を用いて行えばよい。所望によりアンカ
ー剤を乾燥させる際の条件は、アンカー剤が十分乾燥する限り特に限定されないが、例え
ば、40〜60℃で3〜4分間乾燥させればよい。
【0018】
塗布後(乾燥させた場合は乾燥後)の下塗り層の厚みは、5〜20μmであることが好
ましく、5〜10μmであることがより好ましい。厚みが上記範囲内であると、インクの
硬化性及び印刷した際の線幅が一層優れたものとなる。
【0019】
(被記録媒体)
下塗り層形成工程において使用される被記録媒体は、表面粗さ(Rq)が1以上である
。Rqが上記範囲内であると、鉛筆で文字の記載ができるなど実用面で優れている。なお
、本明細書におけるRqの測定は、後述の実施例において用いた方法により行うものとす
る。
【0020】
上記の被記録媒体として、例えば、吸収性又は非吸収性の被記録媒体が挙げられる。本
実施形態のインクジェット記録方法は、水溶性であるアンカー剤の浸透が困難な非吸収性
被記録媒体から、水溶性であるアンカー剤の浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な
吸収性能を持つ被記録媒体に幅広く適用できる。ただし、当該アンカー剤を非吸収性の被
記録媒体に適用した場合は、紫外線を照射し硬化させた後に乾燥工程を設けること等が必
要となる場合がある。
【0021】
吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、水溶性であるアンカー剤の
浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙及び上質紙、インクジェット用紙(シリカ粒子や
アルミナ粒子から構成された吸収層、あるいはポリビニルピロリドン(PVP)等の親水
性ポリマーから構成された吸収層を備えたインクジェット専用紙)、並びに水溶性である
アンカー剤の浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙
、及びキャスト紙が挙げられる。
【0022】
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエ
チレン、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、及びポリエチレンテレフタレ
ート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、プラスチックを主原料とする
合成紙、鉄、銀、銅、及びアルミニウム等の金属類のプレート、並びにそれら各種金属を
蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、並びにステンレスや真鋳
等の合金のプレートが挙げられる。非吸収性被記録媒体の市販品として、例えば、ユポ(
登録商標)紙であるニューユポ「FGSシリーズ」(ユポ・コーポレーション社(Yupo C
orporation)製、合成紙、表面粗さ1.446)、PET50(K2411) PAT1
E(リンテック社(Lintec Corporation)製商品名、発泡PETフィルム、表面粗さ1.
112)が挙げられる。
【0023】
(アンカー剤)
本実施形態における下塗り層は、上記のアンカー剤(下地剤)を被記録媒体に塗布する
こと等により、設けることができる。
【0024】
上記アンカー剤に含まれる樹脂としては、以下に列記するものが好ましい。樹脂は1種
単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記樹脂としては、アンカー剤において従来用いられている熱可塑性樹脂を使用するこ
とができる。この熱可塑性樹脂の具体例として、以下に限定されないが、ウレタン樹脂又
はその共重合体、並びにポリ(メタ)アクリル酸エステル(アクリル樹脂)又はその共重
合体、ポリアクリロニトリル又はその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリル
アミド、及びポリ(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル系重合体、ポリエチレン、
ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、及びポリスチレン、並びにそれらの共
重合体、並びに石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、及びテルペン樹脂などのポリオレフ
ィン系重合体、ポリ酢酸ビニル又はその共重合体、ポリビニルアルコール(PVA)、ポ
リビニルアセタール、及びポリビニルエーテルなどの酢酸ビニル系又はビニルアルコール
系重合体、ポリ塩化ビニル又はその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、及びフ
ッ素ゴムなどの含ハロゲン系重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン又
はその共重合体、ポリビニルピリジン、及びポリビニルイミダゾールなどの含窒素ビニル
系重合体、ポリブタジエン又はその共重合体、ポリクロロプレン、及びポリイソプレン(
ブチルゴム)などのジエン系重合体、並びにその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、
及び天然高分子樹脂が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、タック性に一層優れるため、ウレタン樹脂又はその共重合体及び(メ
タ)アクリル系重合体のうち少なくともいずれかが好ましく、ウレタン樹脂及びアクリル
樹脂のうち少なくともいずれかがより好ましい。
【0027】
アンカー剤中の樹脂は、溶液又は分散液として含まれ得る。すなわち、上記の下塗り層
形成工程は、樹脂の溶液又は分散液を用いて下塗り層を設けることを含むことが好ましい
。当該分散液に含まれる樹脂としては、例えばエマルジョン及びサスペンジョンが挙げら
れる。また、上記溶液用の溶媒や上記分散液用の分散媒としては、例えば水及び有機溶剤
が挙げられる。上記分散液としては、分散媒として水が最大質量を占める水分散液、及び
分散媒として有機溶剤が最大質量を占める溶剤分散液が挙げられる。
上記の樹脂を含有する液の中でも、タック性などに優れるため、分散液が好ましく、こ
のうち水分散液がより好ましい。また、耐水性に優れるため、エマルジョンの水分散液で
ある水分散型エマルジョン、即ち水系エマルジョンがさらに好ましい。詳細に言えば、こ
れらの樹脂は、水不溶性の場合であっても水分散性は必要であるため、親水性部分と疎水
性部分とを併せ持つ重合体、即ち水系エマルジョン(水系の樹脂エマルジョン)であるこ
とが好ましい。熱可塑性樹脂として水系エマルジョンを使用する場合、その平均粒子径は
エマルジョンを形成する限り特に限定されないが、好ましくは150nm程度以下、より
好ましくは5nm〜100nm程度である。
【0028】
アンカー剤を分散液として用いる場合、分散させる樹脂としては、上記のアンカー剤に
おいて従来用いられている熱可塑性樹脂などが使用可能である。中でも、タック性に一層
優れるため、上記アクリル樹脂及び上記ウレタン樹脂のうち少なくともいずれかが好まし
い。
【0029】
なお、本明細書において、平均粒子径は、動的光散乱法を用いた粒度分析計により測定
される。エマルジョンに純水を加えて100倍に希釈し、ナノトラックUPA−EX15
0(日機装社(Nikkiso Co., Ltd.)製)を用いて測定される50%数平均粒子径を、平
均粒子径とする。
【0030】
水系エマルジョンの市販品としては、例えば、パテラコールRSI−001(DIC社製
商品名、ウレタン樹脂の水系エマルジョン、樹脂分30〜40%)、パテラコールRSI
−401(DIC社製商品名、アクリル樹脂の水系エマルジョン、樹脂分30〜40%)が
挙げられる。
【0031】
熱可塑性樹脂をエマルジョンの状態で得る場合には、樹脂粒子を水と混合することによ
って調製することができる。例えば、(メタ)アクリル系樹脂又はスチレン−(メタ)ア
クリル系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルの樹脂又はスチレン−(メ
タ)アクリル酸エステルの樹脂と、所望により(メタ)アクリル酸樹脂と、を水に混合す
ることにより得られる。
【0032】
また、熱可塑性樹脂のエマルジョンは、重合触媒及び乳化剤を存在させた水中で、樹脂
の単量体を乳化重合させることによっても得ることができる。乳化重合の際に使用される
重合開始剤、乳化剤、及び分子量調整剤は従来公知の方法に準じて使用できる。
【0033】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、
例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリ
ル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチ
ルヒドロキシパーオキシド、及びパラメンタンヒドロキシパーオキシドが挙げられる。重
合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。乳化剤としては、例えば
、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、又は
両性界面活性剤として用いられているもの、及びこれらの混合物が挙げられる。これらは
1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂は、粒子粉末としてアンカー剤中の他の構成成分と混合されてもよいが、
樹脂粒子を水媒体に分散させて、樹脂エマルジョンの形態とした後、アンカー剤の他の構
成成分と混合することが好ましい。アンカー剤の長期保存安定性を良好なものとするため
、上記樹脂粒子の平均粒子径は、5〜400nmの範囲が好ましい。
【0035】
上記樹脂は、アンカー剤の総質量(100質量%)に対して、固形分換算で20〜50
質量%の範囲で含まれることが好ましい。樹脂が少なすぎると、被記録媒体の表面に形成
されるアンカー剤の被膜(下塗り層)が薄くなり、硬化性及び線幅に劣る場合がある。こ
れらの樹脂が多すぎると、アンカー剤の保存中に樹脂の分散が不安定になったり、わずか
な水分の蒸発により樹脂が凝集・固化して均一な被膜(下塗り層)が形成できなくなる場
合がある。
【0036】
〔インク付着工程〕
インク付着工程では、インクジェットヘッドから所定の紫外線硬化型インクジェット用
インクを吐出し、上記下塗り層が設けられた上記被記録媒体の当該下塗り層側に付着させ
る。これにより、被記録媒体上に着色層(画像)のパターンが形成される。本工程を行う
ための装置としてインクジェット記録装置が使用可能であり、インクジェット記録装置の
具体例として、以下に限定されないが、PX−G5000(インクジェットプリンター、
セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製)が挙げられる。
【0037】
本工程におけるインク吐出時の条件として、記録解像度を360〜720dpiの範囲
とすることができる。液滴重量は1〜10ng/画素の範囲とすることができる。また、
Dutyが10%以下の範囲(打ち込み量が0.7mg/inch2以下の範囲)である
ことが好ましい。なお、画質再現として濃淡が発生し、このうち淡部についてはDuty
が0%に近似する値をとり得るため、Duty(打ち込み量)の下限は特に制限されない

【0038】
また、インクの吐出の際、インクの20℃における粘度を、好ましくは15mPa・s
以下、より好ましくは8〜12mPa・sとすることが好ましい。インクの20℃下での
粘度が上記範囲内であれば、インクの温度を室温で、あるいはインクを加熱せずに吐出さ
せたとしても、吐出不良を防止することができる。
【0039】
本実施形態における紫外線硬化型インクは、通常のインクジェット記録用インクで使用
される水性インクより粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。かか
るインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を
与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。したがって、吐出時のインクの温度はできる
だけ一定に保つことが好ましい。
なお、上記の紫外線硬化型インクジェット用インクについては後述する。
【0040】
〔硬化工程〕
本実施形態のインクジェット記録方法は、上記インク付着工程により吐出し付着したイ
ンクに紫外線を照射して、上記インクを硬化する硬化工程をさらに含むことが好ましい。
このようにして、被記録媒体上で硬化したインクにより、塗膜(硬化膜)が形成される。
【0041】
上記硬化工程においては、被記録媒体上に吐出されたインクが、紫外線(光)の照射に
よって硬化する。これは、インクに含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して
、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始
種の機能によって促進されるためである。あるいは、紫外線の照射によって、重合性化合
物の重合反応が開始するためである。このとき、インクにおいて光重合開始剤と共に増感
色素が存在すると、系中の増感色素が紫外線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と
接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させ
ることができる。
【0042】
紫外線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、紫外線
硬化型インクジェット用インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハ
ライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が
強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも
非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザダ
イオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、紫外線硬化型インク
ジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0043】
ここで、発光ピーク波長が、好ましくは360〜420nmの範囲にある紫外線を照射
することにより、硬化可能であるような紫外線硬化型インクジェット用インクを用いるこ
とが好ましい。この場合、本実施形態におけるインクの組成に起因して低エネルギー且つ
高速での硬化が可能となる。
なお、上記の際、照射エネルギーは、300mJ/cm2以下が好ましく、150〜2
50mJ/cm2がより好ましい。上記照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて
算出される。
【0044】
本実施形態におけるインクの組成によって照射時間を短縮することができ、その場合、
印刷速度が増大する。他方、本実施形態におけるインクの組成によって照射強度を減少さ
せることもでき、その場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。その際の紫外線照
射には、UV−LEDを用いることが好ましい。このようなインクは、上記波長範囲の紫
外線照射により分解する光重合開始剤と、上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始す
る重合性化合物と、のうち少なくともいずれかを含むことにより得られる。なお、発光ピ
ーク波長は、上記の波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合で
あっても上記発光ピーク波長を有する紫外線の全体の照射エネルギーを上記の照射エネル
ギーとする。
【0045】
続いて、本実施形態における紫外線硬化型インクジェット用インクについて詳細に説明
する。
【0046】
[紫外線硬化型インクジェット用インク]
本実施形態のインクジェット記録方法に用いられる紫外線硬化型インクジェット用イン
クは、下記一般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であ
り、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表される化合物(以下、「モノマーA」という。)を含有する。
【0047】
以下、本実施形態における紫外線硬化型インクジェット用インク(以下、単に「インク
」ともいう。)に含まれるか、又は所望により含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0048】
〔重合性化合物〕
上記インクに含まれる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に
重合されて、印刷されたインクを硬化させることができる。
【0049】
(モノマーA)
本実施形態において必須の重合性化合物であるモノマーAは、分子中にビニル基及び(
メタ)アクリル基を共に有する化合物であり、上記一般式(I)で示される。このモノマ
ーAは、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と換言することができる。
【0050】
インクがモノマーAを含有することにより、インクの硬化性などを良好なものとするこ
とができる。
【0051】
上記の一般式(I)において、R2で表される2価の有機残基としては、炭素数2〜2
0の直鎖状、分枝状又は環状のアルキレン基、構造中にエーテル結合及びエステル結合の
少なくとも一方による酸素原子を有する炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11
の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n
−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基
、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブ
チレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン
基が好適に用いられる。
【0052】
上記の一般式(I)において、R3で表される炭素数1〜11の1価の有機残基として
は、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基、炭素数6〜11の置換され
ていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素
数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適
に用いられる。
【0053】
上記の有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む
基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である
場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以
下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原
子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0054】
上記の一般式(I)で表されるモノマーAの具体例としては、以下に限定されないが、
(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル
、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニ
ロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メ
チル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(
メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジ
メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)ア
クリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチ
ル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロ
キシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ
)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニ
ロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニル
メチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸
o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)
エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリ
ル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキ
シ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(
メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸
2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエト
キシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエト
キシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エ
チル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アク
リル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(
ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイ
ソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ
エトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ
)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプ
ロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロ
ピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ
)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)ア
クリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロ
ペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキ
シエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエト
キシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニル
エーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げ
られる。
【0055】
上記したものの中でも、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル
酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(
メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、
(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシ
ペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロ
キシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメ
チル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−
(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ
エトキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0056】
これらの中でも、低粘度で、引火点が高く、かつ、硬化性に優れるため、(メタ)アク
リル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルが好ましく、さらに、臭気が低く、皮膚への刺
激を抑えることができ、かつ、反応性及び密着性に優れるため、アクリル酸2−(ビニロ
キシエトキシ)エチルがより好ましい。
【0057】
(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸
2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエ
トキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、ア
クリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエ
トキシ)エチルが挙げられる。
【0058】
モノマーAは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
モノマーA、中でも特にアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルは、インクの総
質量(100質量%)に対し、好ましくは10〜87質量%含まれ、より好ましくは50
〜80質量%含まれる。含有量が上記範囲内であると、インクの低粘度化、硬化性の点で
特に優れたものとすることができ、かつ、硬化性をより優れたものとすることができる。
【0060】
上記一般式(I)で表されるモノマーAの製造方法としては、以下に限定されないが、
(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法B)、
(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法
(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化す
る方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステル類と水酸基含有ビニルエーテル類とをエ
ステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテル類と
をエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲ
ン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリ
ル酸エステル類とカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メ
タ)アクリル酸エステル類とアルキルビニルエーテル類とをエーテル交換する方法(製法
I)が挙げられる。
【0061】
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが
好ましい。
【0062】
(上記以外の重合性化合物)
上記以外の重合性化合物(以下、「その他の重合性化合物」という。)としては、従来
公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマ
ーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸
、クロトン酸、イソクロトン酸、及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸、並びにそれらの
塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々
の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタン
が挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上
記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(
メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)ア
クリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0063】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいても
よい。そのようなN−ビニル化合物として、例えば、N−ビニルカプロラクタム、N−ビ
ニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピ
ロリドン、及びアクリロイルモルホリン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0064】
その他の重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレ
ートが好ましく、2官能以上である多官能の(メタ)アクリレートがより好ましく、多官
能のアクリレートがさらに好ましい。特に、本実施形態におけるインクが、重合性化合物
として、上記所定量のモノマーAと分子内に脂環構造を有する重合性化合物及び分子内に
環状エーテル構造を有する重合性化合物のうち少なくともいずれかとに加えて、多官能ア
クリレートをも含むことで、密着性が一層良好なものとなる。
【0065】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イ
ソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)ア
クリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリス
チル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル
−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブ
トキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレー
ト、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコ
ール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェ
ノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−
ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(
メタ)アクリレート、及びラクトン変性可とう性(メタ)アクリレートが挙げられる。こ
れらの中でも、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。インク組成物がフェ
ノキシエチル(メタ)アクリレートを含有する場合、インク組成物中におけるその含有量
は、5〜50質量%が好ましく、10〜45質量%がより好ましい。フェノキシエチル(
メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であると、光重合開始剤等の溶解性をより良好
にすることができる。
【0066】
上記(メタ)アクリレートのうち、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ト
リエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)ア
クリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール
ジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロ
ピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレ
ート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(
メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール
Aのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)
アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(
メタ)アクリレート、並びに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリ
セリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロ
パントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート
、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリ
レート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトール
エトキシテトラ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)ア
クリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(
メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)ア
クリレート等のジペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、プロピオン
酸変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトー
ルヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート
、及びトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等のトリペンタエリスリト
ール骨格を有する(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールペンタ(メタ)ア
クリレート、テトラペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラペンタエ
リスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールオクタ(メタ)
アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、テトラペンタエ
リスリトールノナ(メタ)アクリレート、及びテトラペンタエリスリトールデカ(メタ)
アクリレート等のテトラペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ペン
タペンタエリスリトールウンデカ(メタ)アクリレート及びペンタペンタエリスリトール
ドデカ(メタ)アクリレート等のペンタペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アク
リレート、並びにこれらのエチレンオキサイド(EO)付加物及びプロピレンオキサイド
(PO)付加物のうち少なくともいずれか等、3官能以上の(メタ)アクリレートが挙げ
られる。
【0067】
これらの中でも、その他の重合性化合物は、上記のとおり、多官能(メタ)アクリレー
トを含むことが好ましい。多官能(メタ)アクリレートの中でも、上記のペンタエリスリ
トール骨格を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましく、ジペンタエリスリトールヘ
キサ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
がさらに好ましい。上記の場合、インクの粘度がより低下し、かつ、硬化性も一層良好な
ものとなる。
【0068】
上記その他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
上記その他の重合性化合物は、インクの総質量(100質量%)に対し、5〜40質量
%含まれるとよい。
【0070】
〔重合禁止剤〕
本実施形態におけるインクは、重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤として、以下に
限定されないが、例えば、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール
、ジ−t−ブチルパラクレゾール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、
3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,2’−メチレンビス(4−メチ
ル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフ
ェノール)、及び4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフ
ェノール化合物、p−ベンゾキノン、アントラキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノ
ン、p−キシロキノン、p−トルキノン、2,6−ジクロロキノン、2,5−ジフェニル
−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ
−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、2,5
−ジーブチルヒドロキノン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、モノメチルヒドロキノン、
及び2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン等のキノン化合物、フェニル−β−ナフチルア
ミン、p−ベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン、ジベ
ンジルヒドロキシルアミン、フェニルヒドロキシルアミン、及びジエチルヒドロキシルア
ミン等のアミン化合物、ジニトロベンゼン、トリニトロトルエン、及びピクリン酸などの
ニトロ化合物、キノンジオキシム及びシクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、フ
ェノチアジン等の硫黄化合物が挙げられる。
【0071】
〔光重合開始剤〕
本実施形態におけるインクは、光重合開始剤を含むことが好ましい。上述の重合性化合
物として光重合性の化合物を用いることにより、光重合開始剤の添加を省略することが可
能である。しかし、光重合開始剤を用いた方が、重合の開始を容易に調整することができ
、好適である。
【0072】
上記の光重合開始剤は、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在
するインクを硬化させて画像を形成するために用いられる。光重合開始剤としては、光の
エネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重
合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開
始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0073】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィン
オキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサント
ン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケ
トオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活
性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げ
られる。
【0074】
これらの中でも、特にインクの硬化性を良好にすることができるため、アシルフォスフ
ィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物のうち少なくともいずれかが好ましく、
アシルフォスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物がより好ましい。
【0075】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケ
タール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェ
ニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アン
トラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロ
ロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェ
ノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベン
ジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチ
ルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ク
ロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリ
ノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォス
フィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキ
サイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル
)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0076】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2
−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1
−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−
ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2
959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メ
チル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{
4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2
−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−
メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 3
69(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノ
ン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフ
ェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DA
ROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオ
キサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−
フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−
シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−
1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オク
タンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、I
RGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾ
イル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRG
ACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシ
エトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチ
ルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、Speedcure TPO(Lambso
n社製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本
化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、L
R8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0077】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい

【0078】
光重合開始剤は、紫外線硬化速度を十分に発揮させ、且つ、光重合開始剤の溶け残りや
光重合開始剤に由来する着色を避けるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対
し、5〜20質量%であることが好ましい。
【0079】
〔色材〕
本実施形態におけるインクは、色材をさらに含むことが好ましい。色材は、顔料及び染
料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0080】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を良好なも
のとすることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる

【0081】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャ
ネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化
チタンを使用することができる。なお、酸化チタンの市販品としては、例えば、CR60
−2(石原産業社(ISHIHARA SANGYO KAISHA, LTD.)製商品名)が挙げられる。
【0082】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等
のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キ
ナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタ
ロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キ
レート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニト
ロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0083】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとして、No.23
00、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、
MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Che
mical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven
5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以
上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega
1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Mo
narch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarc
h 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch
1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black F
W1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Colo
r Black FW18、Color Black FW200、Color B1a
ck S150、Color Black S160、Color Black S17
0、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex
140U、Special Black 6、Special Black 5、Sp
ecial Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(De
gussa)社製)が挙げられる。
【0084】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、
21が挙げられる。
【0085】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3
、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、3
7、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98
、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、
129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、
180が挙げられる。
【0086】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、
4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、2
1、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、4
8(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144
、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177
、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245
、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43
、50が挙げられる。
【0087】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、1
5、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、
60、65、66、C.I.バット ブルー 4、60が挙げられる。
【0088】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメ
ントグリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.
ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,3
8,40,43,63が挙げられる。
【0089】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は300nm以下が好ましく、50〜25
0nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インクにおける吐出安定性
や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することがで
きる。ここで、本明細書における平均粒子径は、上述の動的光散乱法により測定される。
【0091】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定
されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。
前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,
142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I
.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94
、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,3
3,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレ
ッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,
15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック
19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレ
ッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35
が挙げられる。
【0092】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
色材の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%の範囲で
あるとよい。
【0094】
〔分散剤〕
本実施形態におけるインクが顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため
、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分
散剤などの顔料分散物を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例と
して、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマ
ー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ
ウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及
びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品
として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、LUBRIZOL社製のソルスパーズ
シリーズ(Solsperse 36000等)、BYK社製のディスパービックシリーズ
、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0095】
〔スリップ剤〕
本実施形態におけるインクは、スリップ剤(界面活性剤)をさらに含んでもよい。スリ
ップ剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエ
ステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル
変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いること
が特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV35
00、3510、3530、3570(以上、BYK社製)を挙げることができる。
【0096】
〔その他の添加剤〕
本実施形態におけるインクは、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよ
い。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸
透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添
加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、
キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0097】
このように、本実施形態によれば、インク受容層(下塗り層)のタック性、インクの粘
度、インクの硬化性、及び印刷した際の線幅のいずれにも優れたインクジェット記録方法
を提供することができる。さらに言えば、本実施形態のインクジェット記録方法は、下塗
り層を介在させて被記録媒体を平滑にすることで被記録媒体へのインクの浸透速度を制御
したり、インクの被記録媒体に対する親和性(濡れ性)をある程度抑制させることで接触
角を制御したりすることを特徴とする。そして、これにより、ユポ紙や上質紙といった被
記録媒体における空孔や繊維の隙間に起因した、インクの浸透による滲み(ブリード)、
埋まり不良(被記録媒体の地色が見える状態)、及び硬化不良を抑制することができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこ
れらの実施例のみに限定されるものではない。
【0099】
[使用材料]
下記の実施例及び比較例において使用した材料は、以下の通りである。
〔重合性化合物〕
・アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA〔商品名〕、日本触媒社
(Nippon Shokubai Co., Ltd.)製商品名、以下では「VEEA」と略記した。)
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(NKエステルA−DPH〔商品名〕、新
中村化学工業社製、以下では「DPEHA」と略記した。)
・ビスコート#192(フェノキシエチルアクリレート、大阪有機化学工業社(OSAKA OR
GANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製商品名、以下では「PEA」と略記した。)
・2−メトキシエチルアクリレート(2−MTA〔商品名〕、大阪有機化学工業社製、以
下では「MOEA」と略記した。)
・ジプロピレングリコールジアクリレート(APG−100〔商品名〕、新中村化学工業
社製、以下では「DPGDA」と略記した。)
・トリプロピレングリコールジアクリレート(APG−200〔商品名〕、新中村化学工
業社製、以下では「TPGDA」と略記した。)
・N−ビニルカプロラクタム(BASF社製、表1では「NVC」と略記した。)
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(BASF社製商品名、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイ
ル)−フェニルフォスフィンオキサイド、固形分100%、以下では「819」と略記し
た。)
・DAROCURE TPO(BASF社製商品名、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジ
フェニル−フォスフィンオキサイド、固形分100%、以下では「TPO」と略記した。

・KAYACURE DETX−S(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名
、以下では「DETX−S」と略記した。)
〔スリップ剤〕
・シリコーン系表面調整剤 BYK−UV3500(ポリエーテル変性アクリル基を有す
るポリジメチルシロキサン、BYK社製商品名、以下では「UV3500」と略記した。)
〔重合禁止剤〕
・p−メトキシフェノール(関東化学社(KANTO CHEMICAL CO., INC)製、以下では「M
EHQ」と略記した。)
〔顔料〕
・IRGALITE BLUE GLVO(カラーインデックス名:ピグメントブルー
15、BASF社製商品名、以下では「シアン」と略記した。)
〔分散剤〕
・Solsperse 36000(LUBRIZOL社製商品名、以下では「Sol36000
」と略記した。)
〔被記録媒体〕
・ユポ(登録商標)紙 FGS80(ユポ・コーポレーション社(Yupo Corporation)製
、合成紙、表面粗さ1.446)
・PET50A(リンテック社(Lintec Corporation)製商品名、PET透明フィルム、
表面粗さ0.145)
・PET50(K2411) PAT1E(リンテック社(Lintec Corporation)製商品
名、発泡PETフィルム、表面粗さ1.112)
【0100】
なお、各被記録媒体の表面粗さは、レーザー顕微鏡 VK−9700(KEYENCE社製商
品名)を用いて、被記録媒体の表面を観察し、表面の二乗平均平方根高さ(Rq値)を読
み取ることにより測定した。
【0101】
[例1〜23]
〔紫外線硬化型インクジェット用インクの調製〕
下記表1に記載の成分を、表1に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し、こ
れを常温で1時間混合撹拌して完全に溶解させた。これを、さらに5μmのメンブランフ
ィルターでろ過して、組成1〜8の各紫外線硬化型インクジェット用インクを得た。
【0102】
【表1】

【0103】
〔アンカー剤の準備及び下塗り層の形成〕
まず、市販品である、パテラコールRSI−001(DIC社製商品名、ウレタン樹脂の
水系エマルジョン、樹脂分30〜40%)を「アンカー剤1」とし、パテラコールRSI
−401(DIC社製商品名、アクリル樹脂の水系エマルジョン、樹脂分30〜40%)を
「アンカー剤2」とした。
【0104】
次に、カチオン変性ポリビニルアルコール(PVA−C−318AA クラレ社(KURA
RAY CO.,LTD)製、カチオン性基2モル%)10質量%と超純水90質量%とを混合して
PVA水溶液(樹脂分30%)を調製し、これを「アンカー剤3」とした。
【0105】
アンカー剤1、アンカー剤2、及びアンカー剤3をそれぞれ、下記表3及び表4に示す
被記録媒体上にロールコーターで塗布し、その後100℃で2分間乾燥させて、下塗り層
を形成した。乾燥後の下塗り層の厚みは、下記表3及び表4に示すとおりである。
【0106】
[評価項目]
各実施例及び比較例で調製した紫外線硬化型インクジェット用インクについて、以下の
方法によりタック性、粘度、密着性、及び収縮性を評価した。
【0107】
〔タック性〕
上記のように各アンカー剤を乾燥させて得られた下塗り層の表面を、ジョンソン・エン
ド・ジョンソン(Johnson & Johnson)社製のジョンソン綿棒で擦った。このとき、綿棒
に下塗り層が付着するか、又は被記録媒体上の下塗り層に擦り傷が付いた場合に、タック
が有る(タック性に劣る)と判定した。なお、擦る回数は往復10回とし、擦る強さは1
00g荷重とした。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表3及び表4に示す。
A:アンカー剤乾燥後、下塗り層表面にタックが無かった。
B:アンカー剤乾燥後、下塗り層表面にタックが有った。
【0108】
〔インク粘度〕
各インクの粘度を、E型粘度計(東機産業社(TOKI SANGYO CO.,LTD.)製)を用いて、
温度20℃、回転数10rpmの条件下で測定した。評価結果を下記表3及び表4に示す

AA:10mPa・s以下、
A:10mPa・s超15mPa・s以下、
B:15mPa・s超。
【0109】
〔インク硬化性〕
インクジェットプリンター PX−G5000(セイコーエプソン社(Seiko Epson Co
rporation)製商品名)を用いて、上記の各紫外線硬化型インクジェット用インクをそれ
ぞれのノズル列に充填した。常温、常圧下で、各被記録媒体(例1〜14は被記録媒体の
下塗り層側)上に、記録解像度720dpi×720dpi、液滴重量10ng/画素、
及びDuty10%(打ち込み量0.52mg/inch2)の条件で、画像を印刷した

上記の印刷と共に、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置内のUV−LEDから、
照射強度が400mW/cm2であり、且つ波長が395nmである紫外線を照射してベ
タパターン画像を硬化させた。なお、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなく
なった時点で硬化したものと判断した。
評価は、硬化の際に要した紫外線の照射エネルギーを算出することにより行った。照射
エネルギー[mJ/cm2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW
/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、
紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(
KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて行った。
評価基準は以下のとおりである。A及びBが実用上許容できる評価基準である。評価結
果を下記表3及び表4に示す。
A:200mJ/cm2以下、
B:200mJ/cm2超300mJ/cm2以下、
C:300mJ/cm2超400mJ/cm2以下、
D:400mJ/cm2超。
【0110】
〔線幅〕
調製した紫外線硬化型インクジェット用インクを、720dpiの解像度及びインク重
量10ng/画素で、1ライン吐出させた時の線幅最大値を測定し、これを線幅とした。
線幅の評価基準は、以下の埋まり評価及びブリード評価を考慮して設けた。
埋まり評価は、記録解像度720dpi×720dpi、液滴重量10ng/画素、及
びDuty100%の条件で、テストパターンを印刷した。○が実用上許容できる評価基
準である。
×:被記録媒体の地色が見えた。
○:被記録媒体の地色が見えなかった。
ブリード評価は、埋まり評価と同じテストパターンを印刷した。○及び△が実用上許容
できる評価基準である。
×:目視によりパターンの周囲にインクの滲みが見られた。
△:パターンの周囲に、目視では滲みが見られなかったが顕微鏡での観察により滲みが見
られた。
○:顕微鏡での観察で滲みが見られなかった。
【0111】
線幅、埋まり、及びブリードの各評価基準の対応は、下記表2のとおりである。
【0112】
【表2】

【0113】
上記表2より、AA、A、及びB−1が実用上許容できる評価基準である。評価結果を
下記表3及び表4に示す。
【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
上記の表3及び表4より、VEEAを含有する組成1〜5は本来硬化性が優れるが表面
粗さの大きい被記録媒体に記録する場合、インクが拡がり、酸素阻害を受けるため、硬化
性に劣ると推測される。アンカー剤を塗り、インクの拡がりを抑えると良好な硬化性が得
られる。VEEAを含有しない組成6〜8においてアンカー剤を用いると、拡がりを抑え
る効果は同様であるが硬化性に劣り、かつ、拡がりを抑えても硬化性を良好にすることが
できないことが分かった。また、被記録媒体のユポ、K2411の表面に対して鉛筆(三
菱鉛筆社製、ユニHB)で文字を記載したところ記載ができたが、PET50Aに対して
は文字の記載ができなかった(被記録媒体の非インク付着領域を使用)。
【0117】
また、例1及び例9と例15及び例20とから、表面粗さが1未満である被記録媒体(
PET50A)を用いた場合、アンカー剤の有無に関わらず評価結果が同じであるのに対
し、表面粗さが1以上である被記録媒体(ユポ)を用いた場合、アンカー剤を用いること
でインクの硬化性及び線幅が顕著に優れることが分かった。
【0118】
なお、上記の結果には示していないが、下塗り層(アンカー剤)の厚さが20μmを超
える系でインクジェット記録を行ったところ、塗布後の乾燥時間が30分以上となり、若
干効率性が悪いことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さが1以上である被記録媒体上に、樹脂を含有する液を用いて下塗り層を設ける
工程と、
前記下塗り層が設けられた前記被記録媒体の該下塗り層側に、下記一般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であ
り、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表される化合物を含有する紫外線硬化型インクジェット用インクを、前記被記録媒体に
付着させる工程と、を含む、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記樹脂が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂のうち少なくともいずれかである、請求項
1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記下塗り層を設ける工程は、前記樹脂の分散液を用いて下塗り層を設けることを含む
、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記下塗り層を設ける工程は、前記アクリル樹脂及び前記ウレタン樹脂のうち少なくと
もいずれかの分散液を塗布することを含む、請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記下塗り層の厚みが5〜20μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のイン
クジェット記録方法。
【請求項6】
0.7mg/inch2以下の条件で前記紫外線硬化型インクジェット用インクを前記
被記録媒体に付着させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法

【請求項7】
前記紫外線硬化型インクジェット用インクが、該インクの総質量に対して10〜87質
量%のアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルを含有する、請求項1〜6のいずれ
か1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記紫外線硬化型インクジェット用インクの粘度が15mPa・s以下である、請求項
1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−179817(P2012−179817A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44776(P2011−44776)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】