説明

インクジェット記録用インク、記録方法及び記録装置

【課題】セルロースを含有する普通紙等に対して多量のインクが付与されてもカールが問題とならず、高い駆動周波数で吐出を行う際の良好な周波数応答性、インクを長期間保存する際の保存安定性、記録ヘッドノズルに対する耐固着性とを高いレベルで維持しつつ、高精細な画像記録に対応し得るインクの提供。
【解決手段】水、色材、界面活性剤を含み、該界面活性剤の含有量が0.3質量%以上であり、式(i)のスクロース化合物を含むインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に適するインクジェット記録用インク(以下「インク」と略す)に関する。特には、セルロースを含有する被記録媒体に対して水系インクが多量に付与された場合にも、被記録媒体のカールが問題とならず、高い駆動周波数に対する良好な応答性、インクを長期間保存する際の保存安定性、インクジェット記録ヘッドの耐固着性を与えるインクに関する。又、前記インクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の被記録媒体に付着させて記録を行うものである。インクジェット記録方式には種々のものがあるが、例えば、吐出エネルギー供給手段として電気熱変換体を用い、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させるサーマル方式がある。このサーマル方式のインクジェット記録方法によれば、インクジェット記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化が容易に実現することができる。サーマル方式のインクジェット記録方法の特徴は、高解像度、高品質の画像を高速で記録できることにある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
近年、銀塩写真レベルの高品位なインクジェット記録画像に対応するために、単一のノズルから吐出させるインクの液滴のサイズが小さくなってきている。現在では、インクの液滴量が約5pl(ピコリットル)以下のインクジェットプリンタが市販されている。又、記録速度に関しても、より一層の高速化が求められてきており、それに伴ってより高い駆動周波数への対応や耐固着性の向上が急務である。又、インクを様々な環境で長期間放置する場合に、安定した吐出が得られるように常にインクを安定な状態に維持する、つまり、インクの保存安定性を向上することが必要である。
【0004】
一方、インクジェット記録に用いられるインクは、水を主成分とし、これに乾燥防止、インクジェット記録ヘッドのインク固着の発生を抑制する耐固着性向上等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有したものが一般的である。このようなインクを用いて普通紙や、微量コート紙等に代表されるセルロースを含有する被記録媒体に記録を行った場合、一定の面積以上の領域に短時間に多量のインクを付与すると、カールが生じるという問題が発生する。この問題は、従来の主流であった文字中心の記録に際しては、インクの付与量が比較的少ないため問題となっていなかった。しかし、セルロースを含有する普通紙等に、インターネットのホームページの画像付きの情報や写真画像のような、多量のインクを付与する必要がある記録に際しては、解決すべき重要な課題となっている。
【0005】
これに対して、各種カール防止溶剤を含有する水性インク組成物が提案されている(例えば、特許文献4、5参照)。これらの文献に開示されている技術によれば、耐カール性についてはある程度の効果が認められる。しかしながら、高い駆動周波数で吐出した時の応答性、耐固着性と耐カール性の両立については、更なる向上が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特公昭61−59912号公報
【特許文献3】特公昭61−59914号公報
【特許文献4】特開平6−157955号公報
【特許文献5】特開平11−12520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記したように今後の技術トレンドを背景とした課題に対し、インクジェット記録に用いるインクとしての基本特性についての検討を行った。具体的には、先ず、セルロースを含有する被記録媒体に対して多量のインクが付与されたとしても、被記録媒体のカールが問題とならず(耐カール性)、高い駆動周波数(具体的には10kHzを超えるような周波数)での吐出に対する良好な応答性(周波数応答性)の実現ができるインクの組成について検討を行った。更に、インクの長期間保存が可能となる保存安定性、インクジェット記録装置にインクを充填して画像形成に用いた場合にインクジェット記録ヘッドにおけるインク固着の発生が有効に抑制される耐固着性(ノズルの耐目詰り性)等を高いレベルで維持でき、高精細な画像記録に対応し得るインクの組成について精力的な検討を行った。以下に、上記した各課題の概要について述べる。
【0008】
1.耐カール性
普通紙に代表されるセルロースを含有する被記録媒体に水系インクを多量に付与すると、いわゆるカールという現象が生じ易く、場合によっては、紙が筒状に丸まってしまう。カールの発生は、抄紙段階で紙を乾燥する工程において、一定方向にテンションが加わった状態で水が蒸発し、セルロース間での水素結合が形成されることに起因していると考えられる。この状態の紙に水系インクが付着すると、水によりセルロース間の水素結合が壊れ、水によって結合部が置換されるが、その水が蒸発すると、再びセルロース間の水素結合が形成される。この再形成の際には、テンションが働いていないためインクの付着面側に紙が収縮し、その結果カールが発生するものと考えられる。
【0009】
上述のように、このカール現象は、文字を中心とした記録においては、被記録媒体へのインクの付与量が比較的少ないため生じにくかった。しかし、グラフィックの印刷頻度が増してきた昨今では、大きな問題となり、インクジェット記録においては、従来に比して格段の耐カール性の向上が求められている。特に、記録面積が15cm2以上のセルロースを含有する被記録媒体に、水系インク付与量が0.03〜30mg/cm2の範囲で、更には、0.1〜20mg/cm2の範囲で記録する際に、とりわけ耐カール性の向上に対する要求が大きい。
【0010】
2.周波数応答性
オンデマンド型インクジェット方式において、高い駆動周波数で連続して吐出させようとした場合、インクの物理的・化学的性質によってはインクのノズルへのリフィルが間に合わなくなり、リフィルされる前に次の吐出が始まってしまうことがある。この結果、吐出不良を起こしたり、吐出量が極端に低下したりする状況となる。又、この現象は、吐出させる液滴が小さいほどより顕著である。
【0011】
3.保存安定性
インクが低温及び高温の環境に放置された場合にも、凝集、増粘等の物性変化がなく、pHの変化やインク流通経路からの溶出物の影響がなく、いつも安定した吐出が得られるように、インクを安定な状態に維持することが重要である。尚、インクの保存安定性は、下記の耐固着性にも大きく影響する。
【0012】
4.耐固着性(ノズルの耐目詰り性)
又、ノズル先端で生じるインクの水分蒸発によって生じる別の問題には、水分蒸発によってノズル先端で生じる色材の固着による目詰まりの発生が挙げられる。耐固着性が悪化する具体例には、以下のような場合が考えられる。
(1)プリンタがある期間使用されないで放置されたとき。
(2)インクタンクとインクジェット記録ヘッドが一体型の場合において、インクジェット記録ヘッド自体がプリンタから外された状態で放置されたとき。
(3)インクタンクとインクジェット記録ヘッドが分離可能な形態では、インクタンクがプリンタから外された状態で放置されたとき。
【0013】
従って、本発明の目的は、セルロースを含有する普通紙等の被記録媒体に対して多量のインクが付与されたとしてもカールが問題とならず、高い駆動周波数で吐出を行う際の良好な周波数応答性、インクを長期間保存する際の保存安定性、記録ヘッドノズルに対する耐固着性とを高いレベルで維持しつつ、高精細な画像記録に対応し得るインクを提供することにある。又、本発明の他の目的は、高品位な画像を、安定に形成することのできるインクジェット記録方法を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、上記インクジェット記録方法に適用することのできるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記した種々の課題に対して、インクの組成について精力的な検討を行った結果、特定の性質を有した化合物を含む組成のインクが、上記目的を極めて高いレベルで達成できることを見出して本発明を為すに至った。上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、水、色材及び界面活性剤を含有するインクジェット記録用インクであって、上記界面活性剤の含有量が、インク全質量を基準としてインク中に占める割合が0.3質量%以上であり、更に、下記式(i)で示されるスクロース化合物が含有されてなることを特徴とするインクジェット記録用インクである。

(式中、R1〜R8は、水素原子、アルキル基及びアルキレンオキサイド基からなる群から選ばれる。ただし、R1〜R8の少なくとも何れか1つがアルキレンオキサイド基であり、該アルキレンオキサイド基が有するアルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数は1〜20個であり、且つ、該アルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数のうち、エチレンオキサイドユニットの割合が20.0%以上である。)
【0015】
又、本発明の別の実施形態は、上記構成のインクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるインクによれば、インクジェット記録に用いた場合に、セルロースを含有する被記録媒体に対して、多量のインクが付与されたとしてもカールが問題とならず、高い駆動周波数吐出時における良好な応答性、インクを長期間保存する際の保存安定性、インクジェット記録ヘッドに対する耐固着性等を高いレベルで維持しつつ、高精細な画像記録に対応することができる。より具体的には、記録面積が15cm2以上のセルロースを含有する被記録媒体に、インク付与量が0.03〜30mg/cm2の範囲で、更には、0.1〜20mg/cm2の範囲で記録した場合にも、被記録媒体のカールの発生を効果的に抑制することができる。また、高周波数吐出時の応答性については、とりわけ、サーマルインクジェット方式に本発明にかかるインクを適用して画像を形成した場合に、特にその効果が顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明にかかるインクは、水、色材、その含有量がインク全質量を基準としてインク中に占める割合が0.3質量%以上の界面活性剤、更に、下記式(i)で示されるスクロース化合物を含んでなることを特徴とする。

(式中、R1〜R8は、水素原子、アルキル基及びアルキレンオキサイド基からなる群から選ばれる。ただし、R1〜R8の少なくとも何れか1つがアルキレンオキサイド基であり、該アルキレンオキサイド基が有するアルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数は1〜20個であり、且つ、該アルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数のうち、エチレンオキサイドユニットの割合が20.0%以上である。)
【0018】
(式(i)で示されるスクロース化合物)
先ず、本発明にかかるインクを構成する式(i)で示されるスクロース化合物について説明する。上記式(i)中のアルキル基は、式(i)で示されるスクロース化合物が水に溶解する限りは何れのものでもよいが、炭素数1〜30程度の直鎖状或いは分岐鎖状のもので、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等が好ましい。これらのアルキル基は置換基を有してもよく、かかる置換基は、水溶性を与えるものが好ましく、具体的には水酸基等を挙げることができる。
【0019】
又、上記式中のアルキレンオキサイド基はアルキレンオキサイドユニット(以下、AOユニットとも称す)を有する基である。本発明においては、該アルキレンオキサイドユニットが、エチレンオキサイドユニット(以下、EOユニットとも称す)及びプロピレンオキサイドユニット(以下、POユニットとも称す)を共に含むものであることが好ましい。
【0020】
本発明におけるエチレンオキサイドユニット、プロピレンオキサイドユニットとは、下記に示す構造を有する有機基である。

【0021】
本発明で使用する前記式(i)で表わされるスクロース化合物は、上記に例示したようなアルキレンオキサイドユニットを1分子中に1〜20個有する。アルキレンオキサイドユニットを1分子中に1〜20個有するとは、R1〜R8が有するアルキレンオキサイドユニットの合計が1〜20個であることを意味する。ここで、アルキレンオキサイドユニットの総数が20を超えた化合物を使用した場合にも、カールの発生をある程度は抑制できる。しかし、インクの粘度が高くなり、高い駆動周波数で連続吐出させたときにインクのノズルへのリフィルが間に合わなくなる。この結果、リフィルされる前に次の吐出が始まってしまうことによる吐出不良が生じ、いわゆる高周波数吐出時の応答性に劣ったものとなる。
【0022】
又、本発明で使用する式(i)で表わされるスクロース化合物における、アルキレンオキサイドユニットの総数のうち、エチレンオキサイドユニットの割合が20.0%以上であることが必要である。これは、例えば、式(i)で表わされるスクロース化合物が、1分子中にアルキレンオキサイドユニットを20個有する場合に、その中のエチレンオキサイドユニットの総数が4個以上であることを意味する。ここで、エチレンオキサイドユニットの割合が20.0%未満である化合物を使用した場合にも、カールの発生を抑制する効果は得られる。しかし、式(i)で表わされるスクロース化合物の水溶性が低下することにより、インクの保存安定性が劣ったものとなる。これは、アルキレンオキサイドユニットの中でも、エチレンオキサイドユニットの水溶性が高いことによるものである。つまり、スクロース化合物が有するエチレンオキサイドユニットの割合が20.0%未満である場合、スクロース化合物の水溶性が低下し、析出等を起こすことにより、該スクロース化合物を含有するインクの保存安定性が低下することが原因であると考えられる。
【0023】
本発明に用いる1〜20個のアルキレンオキサイドユニットが付加したスクロース化合物としては、常法によって各種のものを合成できる。具体的には、例えば、下記式(i)におけるR1〜R8のそれぞれが、表1の(A)〜(H)に示した構造のものである化合物が挙げられる。これに該当する具体的な化合物は、表2に示す化合物1〜9が挙げられる。しかし、これらは例示化合物であって、本発明は、これらによって限定されるものではない。又、表2中のスクロース及び比較化合物1〜7は、本発明を特徴づけるスクロース化合物の規定から外れる化合物である。
【0024】
例えば、表2に示した化合物4を例にとって説明すると、R2、R5及びR8にEOユニットが3個ずつ付加しており、従って、1分子中のAOユニットの総数は9個となる。又、表2に示した比較化合物4を例にとって説明すると、R1及びR8にPOユニットが5個ずつ、R5にEOユニット2個及びPOユニット2個が付加している。従って、比較化合物4における1分子中のAOユニットの総数は14個、EOユニットの割合は14.3%となる。又、スクロースにはAOユニットが付加していない。
【0025】

【0026】

【0027】

【0028】
本発明にかかるインク中に含有される上記したような式(i)の化合物の量は、特に限定されないが、インク全質量を基準としてインク中に占める割合が0.5質量%〜40質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは、1質量%〜35質量%の範囲内、更には、2質量%〜30質量%の範囲内とすることが好ましい。その含有量が0.5質量%よりも少ないと、前記したカールの発生を抑制する効果が十分に得られない場合があるので好ましくない。一方、その含有量が40質量%よりも多いと、インクの粘度が増大し、吐出性が低下する場合があるので好ましくない。
【0029】
(水性媒体)
本発明にかかるインクは、水を必須成分とするが、インク中に占める水の割合は、インク全質量を基準として、30質量%以上であることが好ましく、又、95質量%以下であることが好ましい。又、本発明にかかるインクは、水とともに水溶性溶剤を併用した混合水性媒体を使用してもよい。水と併用される水溶性溶剤としては、以下のものが挙げられる。
【0030】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール及びn−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;
ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等のアミド類;
アセトン及びジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;
テトラヒドロフラン及びジオキサン等のエーテル類;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン重合体;
エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,5−ペンタンジオール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;
1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン及びトリメチロールプロパン等のトリオール類;
エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル及びトリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、ブチル)エーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル類;
トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;
スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、エチレン尿素、ビスヒドロキシエチルスルフォン及びジグリセリン等が挙げられる。
【0031】
上記した中でも、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量200〜1,000)、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、エチレン尿素及びトリメチロールプロパンを用いることが好ましい。特に、エチレン尿素は、最も好適である。本発明にかかるインクにおいて、水と併用される水溶性溶剤の種類や含有量は特に限定されない。インク中における水溶性溶剤の含有量は、インク全質量を基準として、例えば、3質量%以上を占める割合であることが好ましく、又、60質量%以下を占める割合であることが好ましい。
【0032】
(界面活性剤)
次に、本発明にかかるインクを構成する界面活性剤について説明する。本発明にかかるインクは、上記で述べたカールの発生を抑制する効果の他に、よりバランスのよい吐出安定性及び保存安定性を得るために、インク中に特定の含有量の界面活性剤を含有してなることを要する。具体的には、インク全質量を基準として、インク中に0.3質量%以上を占める割合で界面活性剤を含有することを必須とする。インク中に0.3質量%以上を占める割合で界面活性剤を含有することで、前記した式(i)で表わされるスクロース化合物がインク中に安定して存在することが可能となる。この結果、カールの発生を抑制する効果に加えて、吐出安定性及び保存安定性が共に優れたインクとすることができる。
【0033】
界面活性剤としては、下記に挙げるような、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれるもの、或いは、これらから選ばれる2種以上の混合物の何れのものも用いることができる。中でも、インク中に含まれる色材の極性と同じか、又はノニオン性の界面活性剤を使用することが好ましい。インク中における界面活性剤の含有量は、インク全質量を基準として、インク中に占める割合が0.3質量%〜5質量%であることが好ましく、特には、0.5質量%〜4質量%であることが好ましい。インク中における界面活性剤の含有量が0.3質量%を下回る場合は勿論、5質量%を上回る場合にも、上記した吐出安定性及び保存安定性の効果が得られない場合がある。
【0034】
[ノニオン性界面活性剤]
ノニオン性界面活性剤は特に限定されるものではないが、中でも、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン性界面活性剤のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値は、10以上である。
【0035】
[イオン性界面活性剤]
本発明で使用するイオン性界面活性剤としては下記に列挙したものが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0036】
<アニオン性界面活性剤>
脂肪酸塩、高級アルコール酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、高級アルコールリン酸エステル塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩等。
<カチオン性界面活性剤>
脂肪族アミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等。
<両性界面活性剤>
アミノ酸型、ベタイン型両性界面活性剤等。
【0037】
(その他の添加剤)
又、本発明にかかるインクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤等を添加することができる。添加剤の選択は、インクの表面張力が25mN/m以上、好ましくは28mN/m以上になるようにすることが好ましい。
【0038】
(色材)
次に、本発明にかかるインクを構成する色材について説明する。本発明においては、色材として染料及び顔料のいずれも使用できる。インク中への添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、インク全質量を基準として、インク中に占める色材の割合が0.1質量%以上15質量%以下の範囲とする。好ましくは、0.2質量%以上12質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上10質量%以下とする。
【0039】
本発明にかかるインクに用いることのできる染料としては、カラーインデックス(COLOR INDEX)に記載されている、水溶性の酸性染料、直接染料、塩基性染料及び反応性染料は、そのほとんど全てが使用できる。又、カラーインデックスに記載のないものでも、水溶性染料であれば何れも使用できる。本発明で使用することのできる上記染料の具体例を以下に挙げる。
【0040】
カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、イエローインクに使用される染料は、例えば、C.I.ダイレクトイエロー86、同132、同142、同144、同173や、C.I.アシッドイエロー17及び同23等が挙げられる。マゼンタインクに使用される染料としては、例えば、C.I.アシッドレッド35、同37、同52、同92及び同289等が挙げられる。シアンインクに使用される染料としては、例えば、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同90及び同103や、C.I.ダイレクトブルー86、同87及び同199等が挙げられる。ブラックインクに使用される染料としては、例えば、C.I.フードブラック2、C.I.ダイレクトブラック52、同154及び同195等が挙げられる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
又、本発明においては、インクの色材として顔料を用いることもできる。黒色インクに使用される顔料としては、カーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック及びチャンネルブラック等のカーボンブラック顔料を用いることができる。特に、一次粒子径が15〜40nm、BET法による比表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5%〜10%の特性を持つものが好ましい。
【0042】
カラーインクに使用される顔料は、有機顔料が好適に使用される。具体的には、以下のものが挙げられる。
【0043】
具体的には、例えば、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー及びピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料;
リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット及びパーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料;
アリザリン、インダントロン及びチオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体;
フタロシアニンブルー及びフタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;
キナクリドンレッド及びキナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料;
ペリレンレッド及びペリレンスカーレット等のペリレン系顔料;
イソインドリノンイエロー及びイソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料;
ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ及びベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料;
ピランスロンレッド及びピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料;
チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド及びジオキサジンバイオレット等である。
【0044】
又、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、具体的には、以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー12、同13、同14、同17、同20、同24、同55、同74、同83、同86、同93、同97、同98、同109、同110、同117、同120、同125、同128、同137、同138、同139、同147、同148、同150、同151、同153、同154、同155、同166、同168、同180及び同185等;
C.I.ピグメントオレンジ16、同36、同43、同51、同55、同59、同61及び同71等;
C.I.ピグメントレッド9、同48、同49、同52、同53、同57、同97、同122、同123、同149、同168、同175、同176、同177、同180、同192、同202、同209、同215、同216、同217、同220、同223、同224、同226、同227、同228、同238、同240、同254、同255及び同272等;
C.I.ピグメントバイオレット19、同23、同29、同30、同37、同40及び同50等;
C.I.ピグメントブルー15、同15:1、同15:3、同15:4、同15:6、同22、同60及び同64等;
C.I.ピグメントグリーン7及び同36等;
C.I.ピグメントブラウン23、同25及び同26等である。
【0045】
本発明においては、中でも特に、以下のものが好ましい。C.I.ピグメントイエロー13、同17、同55、同74、同93、同97、同98、同110、同128、同139、同147、同150、同151、同154、同155、同180及び同185、C.I.ピグメントレッド122、同202及び同209、C.I.ピグメントブルー15:3及び同15:4である。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(分散剤)
上記に挙げたような顔料を水性媒体に分散させるための分散剤としては、水溶性であれば特に制約はない。具体的には、以下に挙げるような高分子分散剤が挙げられる。例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α−、β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、酢酸ビニル誘導体、ビニルピロリドン、ビニルピロリドン誘導体、アクリルアミド、及びアクリルアミド誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等である。
【0047】
中でも、本発明にかかるインクを調製する際に使用する特に好ましい高分子分散剤は、ブロック共重合体である。特に、熱エネルギーを用いたインクジェット記録ヘッドにて、高い駆動周波数、例えば、10kHz以上で駆動させる装置に使用するインクを調製する場合に、上記に挙げたようなブロック共重合体を用いることが好ましい。即ち、本発明にかかるインクの顔料の分散剤に、上記したような高分子分散剤を用いると、吐出性の向上効果はより顕著になる。
【0048】
上記したような分散剤のインク中における含有量は、インク全質量を基準として、0.5質量%〜10質量%の範囲を占める割合とすることが好ましい。より好ましくは0.8質量%〜8質量%の範囲、更には、1質量%〜6質量%の範囲を占める割合とすることが好ましい。即ち、分散剤の含有量がこの範囲よりも高い場合には、所望のインク粘度を維持するのが困難となるので好ましくない。
【0049】
次に、本発明にかかるインクジェット記録装置について、インクジェットプリンタを具体例として説明する。本発明にかかるインクジェット記録装置は、上記した本発明にかかるインクを収容してなるインクタンクと、該インクを吐出させるインクジェット記録ヘッドとを具備していることを特徴とする。図1は、吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッドとしての液体吐出ヘッド、及びこのヘッドを用いる液体吐出装置であるインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【0050】
図1において、インクジェットプリンタは、搬送装置1030、記録部1010、移動駆動部1006とを含んで構成されている。該搬送装置1030は、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる被記録媒体としての用紙1028を図中に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する。又、該記録部1010は、搬送装置1030による用紙1028の搬送方向Pに略直交する矢印S方向に、ガイド軸1014に沿って略平行に往復運動せしめられる。更に、移動駆動部1006は、記録部1010を往復運動させる駆動手段である。
【0051】
上記搬送装置1030は、互いに略平行に対向配置されている一対のローラユニット1022a及び1022bと、一対のローラユニット1024a及び1024bと、これらの各ローラユニットを駆動させるための駆動部1020とを備えている。かかる構成により、搬送装置1030の駆動部1020が作動状態とされると、用紙1028が、それぞれのローラユニット1022a及び1022bと、ローラユニット1024a及び1024bにより狭持されて、矢印P方向に間欠送りで搬送されることとなる。移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a、及び、プーリ1026bに巻きかけられるベルト1016、ローラユニット1022a及び1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018とを含んで構成されている。
【0052】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が矢印R方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。又、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図中に示した矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。更に、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0053】
記録部1010は、インクジェットカートリッジ(以下、単にカートリッジと記述する場合がある)1012Y、1012M、1012C及び1012Bが、各色、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック毎にそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。
【0054】
図2は、上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。図示した例におけるカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェット記録ヘッド100と、インクを収容するインクタンク1001とで主要部が構成されている。
【0055】
インクジェット記録ヘッド(液体吐出ヘッド)100には、インクを吐出するための多数の吐出口832が形成されている。インクは、インクタンク1001から図示しないインク供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(不図示)へと導かれるようになっている。図2に示したカートリッジ1012は、インクジェット記録ヘッド100とインクタンク1001とを一体的に形成し、必要に応じてインクタンク1001内に液体を補給できるようにしたものである。カートリッジ1012は、液体吐出ヘッド100に対し、インクタンク1001を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。尚、インクジェット記録ヘッドを備えたインクジェットカートリッジが記録ユニットである。
【実施例】
【0056】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、「%」とあるのは特に断りのない限り、質量基準である。
【0057】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
先ず、ベンジルメタクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価250、重量平均分子量3,000のAB型ブロックポリマーを作製した。更に、得られたブロックポリマーを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50%ポリマー水溶液を作製した。得られたポリマー水溶液を180g、C.I.ピグメントブルー15:3を100g及びイオン交換水220gを混合し、そして、機械的に0.5時間(30分間)撹拌した。次いで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を液体圧力約10,000psi(約70MPa)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してシアン色の顔料分散液1とした。得られた顔料分散液1は、その顔料濃度が10%であり、分散剤濃度は10%であった。
【0058】
(顔料分散液2)
顔料分散液1の調製で使用したと同様のポリマー水溶液を100g、C.I.ピグメントレッド122を100g、及びイオン交換水300gを混合し、そして機械的に0.5時間(30分間)撹拌した。次いで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を液体圧力約10,000psi(約70MPa)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してマゼンタ色の顔料分散液2とした。得られた顔料分散液2は、その顔料濃度が10%であり、分散剤濃度は5%であった。
【0059】
(顔料分散液3)
先ず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価300、重量平均分子量4,000のAB型ブロックポリマーを作製した。更に、得られたブロックポリマーを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50%ポリマー水溶液を作製した。上記のポリマー水溶液を110g、C.I.ピグメントイエロー128を100g及びイオン交換水290gを混合し、そして機械的に0.5時間(30分間)撹拌した。次いで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を液体圧力約10,000psi(約70MPa)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。更に、上記で得た顔料分散液3を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してイエロー色の顔料分散液3とした。得られた顔料分散液3は、その顔料濃度が10%であり、分散剤濃度は6%であった。
【0060】
(顔料分散液4)
先ず、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸及びエトキシエチレングリコールメタクリレートを原料として、常法により、酸価350、重量平均分子量5,000のABC型ブロックポリマーを作製した。更に、得られたブロックポリマーを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50%ポリマー水溶液を作製した。上記のポリマー水溶液を60g、カーボンブラックを100g及びイオン交換水340gを混合し、そして機械的に0.5時間(30分間)撹拌した。次いで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を液体圧力約10,000psi(約70MPa)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去して黒色の顔料分散液4とした。得られた顔料分散液4は、その顔料濃度が10%であり、分散剤濃度は3.5%であった。
【0061】
<インクの調製>
表3に示す成分を十分に混合した後、フィルタにて加圧濾過し、実施例1〜8のインクを調製した。又、表4に示す成分を十分に混合した後、フィルタにて加圧濾過し、比較例1〜8のインクを調製した。
【0062】

【0063】

【0064】
<評価>
実施例1〜8及び比較例1〜8の各インクを、下記のようにして評価した。図1に、評価項目(3)及び(4)で使用したインクジェット記録装置を示した。尚、ここで用いたインクジェット記録ヘッドは、1,200dpiの記録密度を有し、1ドット当たりの吐出体積は4plであった。
【0065】
[評価項目]
(1)周波数応答性
キヤノン製インクジェット記録ヘッド評価装置を用いて、駆動周波数0.1kHzで吐出させ、徐々に周波数を上げていき、吐出液滴が主滴の存在しない形状になり、不安定な吐出になった時点で周波数を測定した。そして、この値を用いて、下記の基準で判定した。評価結果を表5に示した。
A:10kHzを超える
B:5kHz以上10kHz以下
C:5kHz未満
【0066】
(2)保存安定性
各インクをテフロン(登録商標)製容器に入れ、60℃の恒温槽に1ヶ月間放置した。その後、キヤノン製インクジェット記録ヘッド評価装置を用いて、駆動周波数0.1kHzで吐出させ、徐々に周波数を上げていき、吐出液滴が主滴の存在しない形状になり、不安定な吐出になった時点で周波数を測定した。そして、この測定値を用いて、下記の基準で判定した。評価結果を表5に示した。
A:10kHzを超える
B:5kHz以上10kHz以下
C:5kHz未満
【0067】
(3)耐固着性(ノズルの耐目詰り性)
35℃、湿度10%環境下でプリンタに搭載している記録ヘッドを本体から外して1週間放置した後、プリンタに装着して、通常の回復動作で印字が回復可能か否かをチェックした。評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。
A:1回の本体回復動作で回復する
B:数回の本体回復動作で回復する
C:本体回復動作で回復しない
【0068】
(4)耐カール性
A4サイズのPB Paper(キヤノン製)に紙の上下左右2cmを残し、ベタ印字を行った。得られた記録物を25℃、湿度55%の環境下に置き、1時間後、及び10日後にカール量を測定し、カールの発生の状態を評価した。記録物の紙が凹方向にカールした場合を+(プラス)カール、凸方向にカールした場合を−(マイナス)カールとし、カールした記録物の先端から、記録物の接地面までの距離を定規で測定した。評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。
尚、この際の記録面積は431.8cm2であった。又、実施例のインクの比重は、全てのインクにおいて約1.1g/mlであった。前記した条件における被記録媒体に対するインクの付与量は、1.42mg/cm2である。
【0069】
AA:±10mm以内
A:±10mmより大きく、±25mm以内
B:±25mmより大きく、±40mm以内
C:紙の先端が紙面内側に反り返った状態
D:紙の先端が紙面内側にまるまった状態
【0070】

【0071】
上記表5に示した評価(1)〜(4)の結果より、実施例1〜8のインクを用いた評価結果は、何れも、良好な、周波数応答性、保存安定性、耐固着性(ノズルの耐目詰り性)及び耐カール性を備えたものであることが確認された。
【0072】
これに対して、比較例1のインクを用いた結果より、アルキレンオキサイドユニットが付加していないスクロース化合物を含むインクは、実施例のインクと比べて耐カール性が十分でないことが確認された。又、比較例2及び3のインクを用いた結果より、アルキレンオキサイドユニットが20個以上付加したスクロース化合物を含むインクは、初期(1時間後)の耐カール性は良好であるものの、ある程度時間が経過した後(10日後)の耐カール性はやや劣り、又、実施例のインクと比べて、周波数応答性、保存安定性、耐固着性が十分でないことが確認された。
【0073】
又、比較例4のインクを用いた結果より、式(i)で表わされるスクロース化合物の代わりにエチレングリコールを含むインクは、良好な周波数応答性、保存安定性、耐固着性を示すものの、実施例のインクと比べて、耐カール性が十分でないことが確認された。又、比較例5のインクの結果より、式(i)で表わされるスクロース化合物の代わりに、カール現象を抑制することが一般に知られているトリメチロールプロパンを含むインクは、耐カール性を示すものの、実施例のインクと比べて、周波数応答性、保存安定性、耐固着性が十分でないことが確認された。
【0074】
又、比較例6及び7のインクを用いた結果より、式(i)で表わされるスクロース化合物に付加しているエチレンオキサイドユニットが全くないか、或いはアルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数のうち、エチレンオキサイドユニットの割合が20.0%未満である場合、良好な耐カール性を示すものの、保存安定性が十分でないことが確認された。又、比較例8のインクを用いた結果より、式(i)で表わされるスクロース化合物を含むが、界面活性剤の含有量がインク全質量を基準として0.3質量%未満である場合、初期(1時間後)の耐カール性は得られるものの、ある程度時間が経過した後(10日後)の耐カール性はやや劣り、又、周波数応答性、保存安定性、耐固着性が共に十分でないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】液体吐出ヘッドを搭載可能なインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【図2】液体吐出ヘッドを備えたインクジェットカートリッジの一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
100:インクジェット記録ヘッド
832:吐出口
1001:インクタンク
1006:移動駆動部
1008:ケーシング
1010:記録部
1010a:キャリッジ部材
1012:カートリッジ
1012Y、M、C、B:インクジェットカートリッジ
1014:ガイド軸
1016:ベルト
1018:モータ
1020:駆動部
1022a、1022b:ローラユニット
1024a、1024b:ローラユニット
1026:回復ユニット
1026a、1026b:プーリ
1028:用紙
1030:搬送装置
P:用紙の搬送方向
R:ベルトの回転方向
S:用紙の搬送方向と略直交する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、色材及び界面活性剤を含有するインクジェット記録用インクであって、
上記界面活性剤の含有量が、インク全質量を基準としてインク中に占める割合が0.3質量%以上であり、
更に、下記式(i)で示されるスクロース化合物が含有されてなることを特徴とするインクジェット記録用インク。

(式中、R1〜R8は、水素原子、アルキル基及びアルキレンオキサイド基からなる群から選ばれる。ただし、R1〜R8の少なくとも何れか1つがアルキレンオキサイド基であり、該アルキレンオキサイド基が有するアルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数は1〜20個であり、且つ、該アルキレンオキサイドユニットの1分子中の総数のうち、エチレンオキサイドユニットの割合が20.0%以上である。)
【請求項2】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤である請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記アルキレンオキサイドユニットが、エチレンオキサイドユニット及びプロピレンオキサイドユニットを含む請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
サーマルインクジェット用である請求項1〜3の何れか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
セルロースを含有する被記録媒体に対してインクジェット記録ヘッドを用いてインクを付与することによって画像を形成するインクジェット記録方法において、該インクとして請求項1〜4の何れか1項に記載のインクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
被記録媒体の記録面積が15cm2以上であり、該被記録媒体に対してインクの付与量が0.03〜30mg/cm2の範囲である請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記インクの付与量が、0.1〜20mg/cm2の範囲である請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記被記録媒体が、セルロースを含有する普通紙である請求項5〜7の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
インクジェット記録ヘッドが、サーマルインクジェット記録ヘッドである請求項5〜8の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項1〜4の何れか1項に記載のインクを収容しているインクタンクと、該インクを吐出させるインクジェット記録ヘッドとを具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記インクジェット記録ヘッドが、サーマルインクジェット記録ヘッドである請求項10に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−188664(P2006−188664A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332474(P2005−332474)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】