説明

インクジェット記録用シート

【課題】印字部の保存性と白紙部の保存性とを両立するとともに、様々なインクジェット記録用シートの要求特性を満たしたインクジェット記録用シートを提供する。
【解決手段】支持体上の少なくとも一方の面側に、インク受容層を設けたインクジェット記録用シートにおいて、支持体とインク受容層の間に顔料および接着剤を少なくとも含有する下塗り層を有し、前記下塗り層が、顔料として二酸化チタンを含有し、前記インク受容層に、耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを微細なノズルから記録体表面に向かって噴出し、記録体表面上に画像を形成させるインクジェット記録方式は、記録時の騒音の少ないこと、フルカラー画像の形成が容易であること、高速記録が可能であること、および、他の印刷装置よりも記録コストが低いことなどの理由により、プリンター、ファクシミリ、プロッタ、帳票印刷等で広く利用されている。
【0003】
この水性インクは染料を用いた染料インクと顔料を用いた顔料インクとに分類され、鮮明性の点から主に染料インクが使用されている。しかし、近年は屋外展示用の大判のポスターなどにもインクジェット記録方式が使用されるようになってきたため、染料インクでは長期に展示すると紫外線、オゾン等により酸化され、画像が退色し見栄えが悪化して、充分な印字部の保存性が得られないという欠点が指摘されるようになってきている。
一方、顔料インクは印字部の耐光性、印字部の耐オゾン性、印字部の耐水性に優れるという特徴を有する代わりに、染料インクの染料の大きさに比べ、顔料インクの顔料粒子が非常に大きいために、従来の染料インク用のインクジェット記録用シートに顔料インクで印字を行うと鮮明な印字画像が得られないという問題があった。
そこで、染料インク用のインクジェット記録用シート、顔料インク用のインクジェット記録用シートのそれぞれが開発されているが、染料インクにも顔料インクにも良好な発色性を有するインクジェット記録用紙への要望が高かった。
また印字部の保存性改良に加えて、白地部(白紙部)の保存性、すなわち、インクジェット記録用紙やインクジェット記録物の保管や使用による時間・環境条件を経た場合に、白色度を良好に維持することも重要とされるようになってきた。記録物は印字部と白紙部から構成されるので、印字を鮮明に識別可能なまま保持するためには、上述した発色性を満たした上で、白紙部の白色度およびその保存性に優れることが求められるからである。
【0004】
染料インクで印刷した際の印字部の保存性(耐光性、耐オゾン性)を向上させる手段として、インク受容層中にヒンダードアミン系化合物等を含有するもの(例えば、特許文献1〜16参照)、等が提案されている。
【特許文献1】特開平7−314882号公報
【特許文献2】特開平12−62310号公報
【特許文献3】特開平11−170686号公報
【特許文献4】特開平12−263918号公報
【特許文献5】特開平12−280601号公報
【特許文献6】特開平12−280611号公報
【特許文献7】特開平13−88431号公報
【特許文献8】特開平13−121807号公報
【特許文献9】特開平13−270219号公報
【特許文献10】特開2002−127596号公報
【特許文献11】特開2002−137535号公報
【特許文献12】特開2002−144699号公報
【特許文献13】特開2002−211110号公報
【特許文献14】特開2002−240421号公報
【特許文献15】特開2003−182205号公報
【特許文献16】特開2004−358825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜16に記載のインクジェット記録用紙のように、ヒンダードアミン系化合物等を含有する方法では、印字部の保存性(耐光性、耐オゾン性)には一定の効果があるものの、白紙部の保存性についての改善はなされていない状況である。つまり、インクジェット記録用シートおよびその記録物を保存するために、クリアファイルに入れたり、テープを貼ったりすると、インクジェット記録用シートに含まれるヒンダードアミン系化合物自身が、クリアファイルやテープ中に含まれる劣化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤等)によって黄変してしまうため、インクジェット記録用シートおよびその記録物の長期保管に耐えられないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、印字部の保存性(耐光性および耐オゾン性)と白紙部の保存性(耐ファイル黄変性)とを両立するとともに、様々なインクジェット記録用シートの要求特性を満たしたインクジェット記録用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、支持体上とヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有したインク受容層との間に、二酸化チタンを含有した下塗り層を設けることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)支持体上の少なくとも一方の面側に、インク受容層を設けたインクジェット記録用シートにおいて、支持体とインク受容層の間に顔料および接着剤を少なくとも含有する下塗り層を有し、前記下塗り層が、顔料として二酸化チタンを含有し、前記インク受容層に、耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録用シートである。
(2)前記耐候性向上剤が、更に紫外線吸収剤を含むことを特徴とする(1)記載のインクジェット記録用シートである。
(3)インク受容層中に、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の水溶性金属塩を含むことを特徴とする(1)又は(2)記載のインクジェット記録用シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、印字部の保存性(耐光性および耐オゾン性)と白紙部の保存性(耐ファイル黄変性)とを両立するとともに、様々なインクジェット記録用シートの要求特性を満たしたインクジェット記録用シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、印字部の保存性(耐光性および耐オゾン性)と白紙部の保存性(耐ファイル黄変性)とを両立するとともに、様々なインクジェット記録用シートの要求特性を満たしたインクジェット記録用シートを達成するために、支持体とインク受容層の間に顔料および接着剤を少なくとも含有する下塗り層を有し、前記下塗り層が、顔料として二酸化チタンを含有し、前記インク受容層に、耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録用シートである。
【0010】
例えば、特開2003−182205号公報(上記特許文献15)等に記載されているように、印字部の耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物を用いることは知られている。しかし、これら化合物を含有するインクジェット記録用シートを室内等で長期掲示した際、白紙部の黄変の原因となる。特に、インクジェット記録用シートを、クリアファイルに入れたり、テープを貼り、長期保管した際、非常に黄変しやすくなる。即ち、たとえヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物により印字部の保存性が向上しても、長期の保管および掲示に耐えられないという問題があった。
【0011】
本発明は、下塗り層に、顔料として二酸化チタンを含有し、インク受容層中にヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有することにより、白紙部において、高い白色度が得られ、かつ優れた保存性を得ることができる。この作用効果が得られる理由については、次のように考えられる。
【0012】
黄変の原因は、いずれもヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物自身の酸化によるものと考えられる。つまり、室内掲示の場合、光やオゾンによりヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物自身の酸化が促進され、また、クリアファイル内での保管、テープを貼った場合は、これらの中に含まれる劣化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤等)が酸化・黄変を促進してしまうと考えられる。
インクジェット記録用シートあるいはその記録物を、クリアファイルに入れ長期保管したりテープを貼り長期掲示すると、クリアファイルあるいはテープから劣化防止剤が揮発し、インク受容層表面に付着し、インク受容層中のヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物の酸化黄変を促進し、更にフェノール系酸化防止剤自身も酸化黄変されてしまい、結果としてインクジェット記録用シートあるいはその記録物が黄変してしまう。
【0013】
本発明では、支持体とヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有するインク受容層との間に、顔料として二酸化チタンを含む下塗り層を設けることにより、クリアファイル等からフェノール系酸化防止剤の劣化防止剤がインク受容層表面に付着しても、二酸化チタンの光・水・ガスの遮蔽効果により、ヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物の酸化黄変を防止することができると考えられる。
これにより、印字部の保存性と白紙部の保存性がともに向上し、長期間に渡る保管および掲示が可能となるのである。
また、二酸化チタンを含有する下塗り層を設けることにより、クリアファイル等から揮発・付着したフェノール系酸化防止剤自身の酸化・黄変も抑制でき、かつ、インクジェット記録用シートの黄変要因の一つであるカチオン性インク定着剤の酸化・黄変も抑制できるのである。
【0014】
このヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物自身の酸化・黄変を防止するため、本発明では、顔料として二酸化チタンを含有した下塗り層を設けることを特徴とする。なお、下塗り層を設けず、インク受容層に二酸化チタンを含有させると、白紙部の黄変防止には一定の効果があるが、印字発色性およびインク吸収性が非常に劣ってしまう。また、インク受容層中にヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物を含有させず、下塗り層中にヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物を含有させると、印字部の耐候性向上効果が期待できない。
【0015】
(層構成)
本発明は、支持体の少なくとも一方の面側に、下塗り層とインク受容層とを設けたインクジェット記録用シートである。
なお、本発明においては、支持体の他の面側にも同様の下塗り層およびインク受容層を設けても構わない。この場合、インクジェット記録用シートの両面で、本発明の効果を発揮することができる。
また、下塗り層およびインク受容層は、各々複数の層から構成されていてもよい。このとき、インク受容層は、支持体および下塗り層に対し最外側に位置する。
【0016】
(支持体)
本発明で使用する支持体としては、通常のインクジェット記録用シートとして使用できる支持体であれば特に限定されるものではなく、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙、箔紙、クラフト紙、バライタ紙、含浸紙、蒸着紙などの紙類、樹脂フィルム、合成紙、不織布等、あるいは樹脂フィルムをコート紙や上質紙等と接着剤を介して貼り合わせたもの、または紙に樹脂をラミネートしたもの等の樹脂被覆紙が使用される。特に、保存性に劣るパルプを主成分とした紙基材に適用すると、より効果が期待できる。
【0017】
本発明のインクジェット記録用シートは、特定の材料を含む下塗り層を有する為、通常、インクジェット記録用シートのパルプとしては使用を敬遠される古紙再生パルプや機械パルプを紙基材に配合しても、白紙部の保存性に優れ、且つ白色度が高いインクジェット記録用シートを得ることができる。
【0018】
なお、サイズプレス等により、デンプン、ポリビニルアルコールあるいはカチオン樹脂等を表面に塗工・含浸させ、表面の平滑度の調節、強度の改善、印刷、筆記適性を向上させることも可能である。更に、紙基材の平滑性を高める為に、カレンダー法などで平滑化処理することも可能である。なお、支持体の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m程度である。
【0019】
(下塗り層)
[顔料]
本発明における下塗り層は、顔料及び接着剤を含有し、上述のように顔料として二酸化チタンを含有する。
二酸化チタンは、構造の違いで、ルチル型とアナターゼ型に分類され、一般にルチル型の方が高い白色度が得られ好ましいが、本発明の場合、どちらの型も有効である。二酸化チタンの二次粒子径は0.1μm〜2μmが好ましく、0.3μm〜1μmがより好ましい。粒子径が小さいと強度低下、インクの吸収性の低下、発色性の低下となる傾向にあり、粒子径が大きいと、画像の鮮明性が低下する傾向のあり、また平滑で均一な面が得られない。
【0020】
更に、下塗り層の顔料として二酸化チタンを使用すると、例えば、紙基材として古紙再生パルプを使用しても、高い白色度が得ることができ、鮮明な印字画像を得ることができるという利点もある。
【0021】
下塗り層には、本発明の効果を阻害しない範囲において、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、擬ベーマイト、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料を配合することができる。
【0022】
[接着剤]
本発明における下塗り層には、接着剤を含有する。
接着剤としては、特に限定されるものでく、例えば、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体等の水溶性樹脂、アクリル系重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、酢酸ビニル系重合体、およびスチレン−ブタジエン樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系樹脂等のエマルジョン型接着剤など、一般にインクジェット記録用として用いられている従来公知の接着剤が使用できる。中でも、アクリル系重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体及び酢酸ビニル系重合体から選ばれる少なくとも1種のエマルジョン型接着剤を組み合わせて用いることが好ましい。
【0023】
アクリル系重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単位を含む重合体が挙げられる。アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系単位の単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいし、その他の構成単位を含む共重合体であってもよい。アクリル系重合体として、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
エチレン−酢酸ビニル系共重合体としては、エチレンおよび酢酸ビニルを主成分とし、他のモノマーとして、例えば、アクリル酸2‐エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル、ビニールバーサテートのような酢酸ビニル以外の脂肪酸ビニル、さらには、アクリル酸のような官能基を含むモノマーを共重合させたものを例示できる。
酢酸ビニル系重合体としては、酢酸ビニル単位を含む重合体であればよく、ポリ酢酸ビニルが好ましい。
【0024】
なお、接着剤として、スチレン−ブタジエン樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系樹脂は、発色性が劣る傾向にあり、また経時的に白紙部の黄変が発生する傾向にある。また、澱粉、ポリビニルアルコールなどの水溶性接着剤を用いる場合、下塗り層用の塗液を調整する際に、高濃度の塗液に調整できず、塗工すると塗工量が少なく、目的とする白色度、白紙部の保存性と印字濃度を達成し難い傾向にある。これらの接着剤を用いる場合は、単独で使用せず、副成分として使用することが好ましい。
【0025】
顔料と接着剤の配合比としては、顔料100質量部に対して接着剤を2〜30質量部程度、好ましくは5〜20部程度である。接着剤の量が少ないと下塗り層の強度が低下し、他方、接着剤の量が多いと、インク吸収量が低下し、印字部の発色性が悪化すると共に白色度まで低下する傾向にある。
【0026】
[その他の成分等]
更に、下塗り層には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般の塗被紙製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、着色剤、蛍光増白剤、蛍光顔料、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。
下塗り層は、上記顔料、接着剤、および所望により無機顔料等を含む下塗り層塗工液を、紙基材の表面に塗工し、乾燥して形成することができる。下塗り層の塗工量(固形分)は、3〜20g/m程度、好ましくは5〜15g/m、より好ましくは7〜13g/mである。塗工量が過少であると、高い白色度が得られず、また黄変が生じやすくなり、過多であると、効果が飽和してしまうばかりか、層間強度が弱くなる傾向になる。
【0027】
下塗り層を形成するための塗工装置としては、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーターおよびダイコーター等の各種公知の塗工装置が挙げられる。塗工後に、マシンカレンダー、TGカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダーを用いて仕上げても良い。
【0028】
(インク受容層)
インク受容層は、顔料と接着剤を有し、更に、上述のように、耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有する。
【0029】
[耐候性向上剤]
耐候性向上剤としてインク受容層中に用いるヒンダードアミン系化合物としては、ヒンダードアミン構造を有する部位をその分子内に持つ化合物であり、例えば特開2003−182205号公報等に記載のものが挙げられ、その代表的な化合物は、ピペリジンの2位及び6位の炭素上の全ての水素がメチル基で置換された構造を有する2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの誘導体である。具体的には、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニルオキシエチル)−4−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらのヒンダードアミン系化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
耐候性向上剤としてインク受容層中に用いるヒンダードフェノール系化合物としては、一分子内に少なくとも3個のフェノール性水酸基を有するものが好ましいが、勿論これに限定されるものではなく、具体的な化合物として、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、オクチル化ジフェニルアミン等が挙げられる。これらのヒンダードフェノール系化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
通常、これらのヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物は、水に対して不溶性の液体または固体(粉体)、水分散体として入手可能である。液体又は粉体のものをインクジェット記録用シートに使用する場合には、水を溶媒としてサスペンジョン化、乳化したものを調整して使用する。一般に、ヒンダードアミン系化合物が、水を溶媒としてサスペンジョン化、乳化しやすいため、より好ましく用いられる。
【0032】
本発明では、耐候性向上剤として、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物に代表される紫外線吸収剤を更に併用して使用すると、印字部の耐光性及び耐オゾン性が更に向上するため好ましい。
【0033】
耐候性向上剤の配合量としては、顔料100質量部に対して、耐候性向上剤を1〜20質量部程度、好ましくは2〜10質量部程度である。耐候性向上剤の量が少ないと十分な耐候性向上効果が得られず、他方、耐候性向上剤の量が多いと、白紙部の保存性低下、塗膜強度の低下、インク吸収量の低下、印字部の発色性が悪化、といった様々な弊害が生じる可能性がある。
【0034】
[顔料]
インク受容層に含有する顔料は、シリカ(乾式、湿式、コロイダルシリカ)、酸化アルミニウム、擬ベーマイトアルミナシリケート、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、酸化錫、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、ゼオライト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント等、一般の塗被紙分野で公知公用の各種顔料を単独で又は2種以上混合して使用する。
【0035】
顔料の種類は、特に限定するものではないが、前記顔料の中では、特に発色性、インク吸収性から、シリカ、アルミナ、擬ベーマイトが好ましく選択され、中でも湿式シリカが最も良好である。
【0036】
[接着剤]
接着剤としては、特に限定されるものではなく、澱粉、ポリビニルアルコールなどの水溶性接着剤、アクリル系重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、酢酸ビニル系重合体、ウレタン系重合体、スチレン−ブタジエン系共重合体あるいはこれらのエマルジョン型接着剤等の一般にインクジェット記録用として用いられている従来公知の接着剤が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよく、2種以上の接着剤を併用してもよい。
なかでも、アクリル系重合体のエマルジョン型接着剤が好ましい。アクリル系重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単位を含む重合体が挙げられる。アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系単位の単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいし、その他の構成単位を含む共重合体であってもよい。アクリル系重合体として、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
また、アクリル系重合体のエマルジョン型接着剤と共に、ポリビニルアルコールを併用することが、顔料との接着性が良好であるので好ましい。
ポリビニルアルコールとしては、シラノール変性ポリビニルアルコールやカチオン化ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体も適宜使用できる。
なお、アクリル系重合体とポリビニルアルコールあるいはその誘導体を併用する場合、1:10〜2:1の比率で併用することが好ましく、1:5〜1:1の比率で併用することがより好ましい。
接着剤の含有量は、シリカ100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜40質量部であることがより好ましい。
【0038】
一般に接着剤として、エマルジョン型接着剤や水溶性接着剤など多数知られているが、鋭意検討した結果、アクリル系重合体のエマルジョン型接着剤を使用すると、染料インク、顔料インクのいずれで印刷しても鮮明な画像が得られ、また、白紙部の保存性にも優れるので好ましい。
因みに、インクジェット記録用シートに使用される代表的なエマルジョン型接着剤であるエチレン−酢酸ビニル系共重合体、酢酸ビニル系重合体、ウレタン系重合体、スチレン−ブタジエン系共重合体等は、いずれも印字発色性の面でアクリル系重合体に劣るものであり、また、ウレタン系重合体、スチレン−ブタジエン系共重合体は、白紙部が黄変し易くなり、保存性に劣るという問題がある。
また、澱粉、ポリビニルアルコールなどの水溶性接着剤のみを使用すると、十分な塗膜強度が得られないといった問題や、インク受容層の塗液を調製する際に、高濃度の塗液に調製できず、塗工すると塗工量が少なく、鮮明な画像を得ることが出来ないといった問題がある。
【0039】
[カチオン性インク定着剤]
本発明では、インク受容層中に、カチオン性インク定着剤を含有させると、より鮮明な画像を得るため、好ましい。
カチオン性インク定着剤としては、特に限定されるものではなく、
1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、
2)第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、3)ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン、5員環アミジン類、
4)ジシアンジアミド−ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン樹脂、
5)ジシアンジアミド−ポリエチレンアミン共重合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、
6)ジメチルアミン−エピクロルヒドリン共重合物、
7)ジアリルジメチルアンモニウム−SO共重合物、
8)ジアリルアミン塩−SO共重合物、
9)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、
10)アリルアミン塩の重合物、
11)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物、
12)アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物、
13)ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウムなどのアルミニウム塩
等の一般市販されているものが挙げられ、単独あるいは2種類以上で用いられる。
【0040】
カチオン性インク定着剤の配合量は、シリカ100質量部に対して5〜60質量部が好ましく、より好ましくは20〜50質量部の範囲で調節される。カチオン性インク定着剤が5質量部未満であると、画像の発色性の低下や、印字部の保存性の低下が起こりやすくなり、60質量部を超えると、インク吸収性の低下、印字ムラ、画像の鮮明性の低下が起こりやすくなる。
【0041】
[水溶性金属塩]
本発明では、インク受容層中に、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の水溶性金属塩を含有させると、印字部の発色がより向上し、また、白紙部の黄変をより防止するため、好ましい。これらの理由は定かでないが、水溶性金属塩がインクをより表層で捕捉するため印字部の発色が向上し、また、水溶性金属塩がインク受容層中のフリーラジカルを捕捉し酸化の原因となる物質を減じている、と推測する。
【0042】
水溶性金属塩の配合量としては、顔料100質量部に対して、好ましくは水溶性金属塩を1〜30質量部程度、より好ましくは2〜15質量部程度である。水溶性金属塩の量が少ないと十分な効果(印字部発色向上及び白紙部黄変防止)が得られず、他方、水溶性金属塩の量が多いと、塗膜強度の低下、印字部の耐水性の悪化が起こり易くなる。
【0043】
[その他の成分等]
インク受容層には、さらに一般の塗被紙製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。
本発明のインクジェット記録用シートでは、インク受容層に蛍光増白剤を実質的に含ませなくとも高い白色度を実現できる。そのため、白紙部の良好な保存性が得られる。
【0044】
このようなインク受容層は、上記の顔料、接着剤、耐候性向上剤、及び所望により水溶性金属塩、カチオン性インク定着剤、助剤を含むインク受容層塗工液を、支持体上に形成された下塗り層の表面に塗工し、乾燥して形成することができる。
インク受容層の塗工量は特に限定されるものではないが、2〜30g/mとするのが好ましく、5〜20g/mとするのがより好ましい。
塗工量が上記下限より少ないと、インク吸収性、画像の鮮明性、印字保存性が低下しやすく、塗工量が上記上限より多いと、塗膜強度や画像の鮮明性が低下しやすい。
なお、インク受容層は上述の通り複数層から構成されていてもよく、その場合、層間でインク受容層組成が異なっていてもよい。
【0045】
このインク受容層は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。塗工後に、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダーを用いて仕上げ処理を行ってもよい。更に、インク受容層用塗液を塗工後、湿潤状態であるうちに鏡面ドラムに圧接して乾燥を行う、所謂キャスト塗工法を採用して、光沢度を高めることもできる。
【0046】
なお、裏面(インク受容層を形成しない面)には、合成樹脂層、顔料と接着剤等からなる塗被層、帯電防止層等を設けてカール防止、印刷適性付与、及び/又は給排紙適性等を付与することも可能である。さらに裏面には各種公知の加工、例えば粘着加工、磁性体の積層や、難燃性、耐熱性、耐水性、耐油性、防滑性等を付与する後加工を施すことにより、用途適性を付加することも勿論可能である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。また、例中の部及び%は特に断らない限り、水を除いた固形分であり、それぞれ質量部及び質量%を示す。なお、以下「二次粒子径」は、平均二次粒子径を意味する。
【0048】
(実施例1)
[紙基材A]
軽質炭酸カルシウム20部を、広葉樹晒クラフトパルプ(ろ水度400mlCSF)100部のスラリー中に添加し、カチオン澱粉1部、無水アルケニルコハク酸系中性サイズ剤0.2部を添加し、十分に混合して抄紙原料とし、長網多筒式抄紙機を用いて水分を10%まで乾燥させ、サイズプレスで酸化澱粉の7%溶液を両面で4g/m塗布、乾燥し、水分7%まで乾燥させて米坪200g/mの紙基材Aを製造した。
【0049】
[下塗り層塗工液A]
顔料として二酸化チタン(堺化学社製、商品名:R−21、二次粒子径0.5μm、ルチル型)100部、接着剤としてアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376、エマルジョン型接着剤)10部および酸化澱粉(王子コーンスターチ社製、商品名:エースA、水溶性接着剤)5部を、水中で分散し、下塗り層塗工液Aを得た。
【0050】
[インク受容層塗工液A]
耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−335)10部、顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)100部、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部およびアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)20部、カチオン性インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP101)30部、水溶性金属塩として硫酸亜鉛水溶液(和光純薬工業社製、硫酸亜鉛7水和物を水に溶かして5%として使用、分子量287.56)10部を水中で分散し、インク受容層塗工液Aを得た。
【0051】
[インクジェット記録用シートの作製]
紙基材A上に、下塗り層塗工液Aを塗工量が10g/mとなるように塗工、乾燥した後、インク受容層塗工液Aを塗工量が10g/mとなるように塗工、乾燥し、インクジェット記録用シートを作製した。
【0052】
(実施例2)
[紙基材B]
軽質炭酸カルシウム20部を、広葉樹晒クラフトパルプ(ろ水度400mlCSF)70部および新聞古紙を脱墨処理したパルプ(ろ水度250mlCSF)30部の混合スラリー中に添加し、カチオン澱粉1部、無水アルケニルコハク酸系中性サイズ剤0.2部を添加し、十分に混合して抄紙原料とし、長網多筒式抄紙機を用いて水分を10%まで乾燥させ、サイズプレスで酸化澱粉の7%溶液を両面で4g/m塗布、乾燥し、水分7%まで乾燥させて米坪200g/mの紙基材Bを製造した。
【0053】
[インクジェット記録用シートの作製]
実施例1の紙基材Aを、紙基材Bに変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0054】
(実施例3)
[インク受容層塗工液B]
耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−335)10部、顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)100部、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部およびアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)20部、カチオン性インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP101)30部を水中で分散し、インク受容層塗工液Bを得た。
【0055】
[インクジェット記録用シートの作製]
実施例2のインク受容層塗工液Aを、インク受容層塗工液Bに変更した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0056】
(実施例4)
[インク受容層塗工液C]
耐候性向上剤としてヒンダードフェノール系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−802)10部、顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)100部、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部およびアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)20部、カチオン性インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP101)30部、水溶性金属塩として硫酸亜鉛水溶液(和光純薬工業社製、硫酸亜鉛7水和物を水に溶かして5%として使用、分子量287.56)10部を水中で分散し、インク受容層塗工液Cを得た。
【0057】
[インクジェット記録用シートの作製]
実施例2のインク受容層塗工液Aを、インク受容層塗工液Cに変更した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0058】
(実施例5)
[インク受容層塗工液D]
耐候性向上剤としてヒンダードフェノール系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−802)5部およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−301)5部、顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)100部、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部およびアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)20部、カチオン性インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP101)30部、水溶性金属塩として硫酸亜鉛水溶液(和光純薬工業社製、硫酸亜鉛7水和物を水に溶かして5%として使用、分子量287.56)10部を水中で分散し、インク受容層塗工液Dを得た。
【0059】
[インクジェット記録用シートの作製]
実施例2のインク受容層塗工液Aを、インク受容層塗工液Dに変更した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0060】
(比較例1)
[インクジェット記録用シートの作製]
紙基材B上に、インク受容層塗工液Aを塗工量が10g/mとなるよう塗工、乾燥し、下塗り層を有さないインクジェット記録用シートを作製した。
【0061】
(比較例2)
[インク受容層塗工液E]
顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)100部、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部およびアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)20部、カチオン性インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP101)30部を水中で分散し、インク受容層塗工液Eを得た。
【0062】
[インクジェット記録用シートの作製]
実施例2のインク受容層塗工液Aを、インク受容層塗工液Eに変更した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0063】
(比較例3)
[インクジェット記録用シートの作製]
紙基材B上に、インク受容層塗工液Eを塗工量が10g/mとなるよう塗工、乾燥し、下塗り層を有さないインクジェット記録用シートを作製した。
【0064】
(比較例4)
[下塗り層塗工液B]
顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)100部、接着剤としてアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376、エマルジョン型接着剤)10部および酸化澱粉(王子コーンスターチ社製、商品名:エースA、水溶性接着剤)5部を、水中で分散し、下塗り層塗工液Bを得た。
【0065】
[インクジェット記録用シートの作製]
実施例2の下塗り層塗工液Aを、下塗り層塗工液Bに変更した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0066】
(比較例5)
[インク受容層塗工液F]
耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−335)10部、顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、二次粒子径6.2μm)50部および二酸化チタン(堺化学社製、商品名:R−21、二次粒子径0.5μm、ルチル型)50部、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部およびアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)20部、カチオン性インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP101)30部を水中で分散し、インク受容層塗工液Fを得た。
【0067】
[インクジェット記録用シートの作製]
比較例4のインク受容層塗工液Aを、インク受容層塗工液Fに変更した以外は、比較例4と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0068】
(比較例6)
[下塗り層塗工液C]
耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLX−335)10部、顔料として二酸化チタン(堺化学社製、商品名:R−21、二次粒子径0.5μm、ルチル型)100部、接着剤としてアクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376、エマルジョン型接着剤)10部および酸化澱粉(王子コーンスターチ社製、商品名:エースA、水溶性接着剤)5部を、水中で分散し、下塗り層塗工液Cを得た。
【0069】
[インクジェット記録用シートの作製]
比較例2の下塗り層塗工液Aを、下塗り層塗工液Cに変更した以外は、比較例2と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
【0070】
(比較例7)
[インクジェット記録用シートの作製]
紙基材B上に、インク受容層塗工液Fを塗工量が10g/mとなるよう塗工、乾燥し、下塗り層を有さないインクジェット記録用シートを作製した。
【0071】
[評価]
各実施例、比較例で得られたインクジェット記録用シートの白色度、白紙部の保存性(ファイル黄変防止、テープ黄変防止)、印字濃度、印字部の保存性(耐光性、耐オゾン性)を、以下に示す方法で評価した。
なお、評価にあたって、インクジェット記録用シートへの印字は、
プリンターA:市販の染料インクジェットプリンター(キヤノン社製 商標:PIXUS iP8600、印字モード:マットフォトペーパー/きれい)、
プリンターB:市販の顔料インクジェットプリンター(エプソン社製、商標:PX−G920、印字モード:フォトマット紙/高精細)、
プリンターC:市販の顔料インクジェットプロッター(ヒューレット・パッカード社製、商標:DesignJet5500PS、インク:顔料インク使用、印字モード:最高品質)、
の3機種で行った。
【0072】
[白色度]
インクジェット記録用シートのインク受容層側の白紙部の白色度を、JIS−P8123で規定される方法に従い測定を行った。
【0073】
[白紙部の保存性(ファイル黄変防止)]
インクジェット記録用シートを、クリアファイル(キングジム社製、品番:132CH)に入れ、40℃80%RH(湿度)環境下で、1週間静置させた。静置前および静置後の、シートのインク受容層側の白紙部の色相b*値を測定した。測定には、スガ試験機社製分光白色度測色計SC−10WNを使用した。次いで、次式に従い、Δb*値を算出した。
Δb*値=|静置後のb*値|−|静置前のb*値|
白紙部の保存性(ファイル黄変防止)を、次の基準で評価した。
◎:Δb*値が3未満であり、黄変していない。
○:Δb*値が3以上6未満であり、殆ど黄変していない。
Δ:Δb*値が6以上10未満であり、黄変している。
×:Δb*値が10以上であり、非常に黄変している。
【0074】
[白紙部の保存性(テープ黄変防止)]
インクジェット記録用シートに、セロテープ(ニチバン社製、品番:4051P−24)を貼り、40℃80%RH(湿度)環境下で、1週間静置させた後、塗膜が剥れないようテープを取り、静置前および静置後の、テープを取った後の部分の、シートのインク受容層側の白紙部の色相b*値を測定した。測定には、スガ試験機社製分光白色度測色計SC−10WNを使用した。次いで、次式に従い、Δb*値を算出した。
Δb*値=|静置後のb*値|−|静置前のb*値|
白紙部の保存性(テープ黄変)を、次の基準で評価した。
◎:Δb*値が3未満であり、黄変していない。
○:Δb*値が3以上6未満であり、殆ど黄変していない。
Δ:Δb*値が6以上10未満であり、黄変している。
×:Δb*値が10以上であり、非常に黄変している。
【0075】
[印字濃度]
財団法人日本規格協会発行の画像(「高精細カラーディジタル標準画像XYZ/JIS−SCID」、識別記号:S6、画像名称:カラーチャート)を上記の3機種で印字し、ブラックの最高色調部を、GretagMacbeth社製RD−914にて、印字濃度を測定した。
【0076】
[印字部の保存性(耐光性)]
プリンターAを用い、市販の画像処理ソフトで、マゼンタの吐出量が80%となるよう調節し印字した記録物を、65℃40%RH(湿度)環境下で照度100Kluxのキセノンランプを72時間照射し、印字濃度を測定した。
印字部の保存性(耐光性)を、次の基準で評価した。
○:濃度変化が20%未満
△:濃度変化が20%以上30%未満
×:濃度変化が30%以上
【0077】
[印字部の保存性(耐オゾン性)]
プリンターAを用い、市販の画像処理ソフトで、マゼンタの吐出量が80%となるよう調節し印字した記録物を、24℃60%RH環境でオゾン濃度2.5ppm雰囲気中に24時間放置し、印字濃度を測定した。
印字部の保存性(耐オゾン性)を、次の基準で評価した。
○:濃度変化が20%未満
△:濃度変化が20%以上30%未満
×:濃度変化が30%以上
【0078】
【表1】

【0079】
上記表1の結果から、本発明に係る下塗り層が顔料として二酸化チタンを含有し、インク受容層が耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有する実施例1〜5は、白紙部の保存性と印字部の保存性が両立し、長期掲示および保存が可能であり、インクジェット記録用シートの要求特性に優れているが判明した。
また、支持体に新聞古紙を脱墨処理したパルプを配合した実施例2と配合していない実施例1より、古紙再生パルプを用いた場合でも、インクジェット記録用シートの性能が維持されることが判明した。
特に、水溶性金属塩を含有した実施例2は、水溶性金属塩を含有しない実施例3より、白紙部の保存性、印字部の保存性、印字濃度が向上し、インクジェット記録用シートの性能が、より優れることが判明した。
更に、耐候性向上剤として紫外線吸収剤を併用した実施例5は、紫外線吸収剤を併用していない実施例2より、印字部の保存性が優れることが判明した。
一方、下塗り層を有さない比較例1では、白紙部の保存性が非常に劣り、白紙部の白色度も劣ることが判明した。
ヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有しない比較例2は、印字部の保存性が劣り、下塗り層を有さず、ヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物も含有しない比較例3は、印字部の保存性と白紙部の白色度が劣ることが判明した。
下塗り層の顔料としてシリカを含有した比較例4は、白紙部の保存性が劣り、二酸化チタンをインク受容層中に含有した比較例5及び比較例7は、インクの吸収が非常に劣ることが判明した。
耐候性向上剤を、下塗り層中に含有させ、インク受容層中に含まない比較例6は、印字部の保存性が劣ることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上の少なくとも一方の面側に、インク受容層を設けたインクジェット記録用シートにおいて、支持体とインク受容層の間に顔料および接着剤を少なくとも含有する下塗り層を有し、前記下塗り層が、顔料として二酸化チタンを含有し、前記インク受容層に、耐候性向上剤としてヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録用シート。
【請求項2】
インク受容層に、更に紫外線吸収剤を含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用シート。
【請求項3】
インク受容層中に、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の水溶性金属塩を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録用シート。

【公開番号】特開2006−248121(P2006−248121A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70200(P2005−70200)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】