説明

インクジェット記録装置、および記録ヘッドの温度制御方法

【課題】インク吐出量の変動を抑制できるとともに放射ノイズを低減できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】記録ヘッド1は、複数の吐出口12と、第1のパルス幅を有する第1のヒートパルス信号が入力されると第1のパルス幅を発熱時間としてインクを加熱して生成した気泡でインクを複数の吐出口12から吐出させる複数のヒータ14と、を有し、制御部30は、第1のヒートパルス信号を生成する直前に、または第1のヒートパルス信号を生成するときを除いて定期的に、複数の吐出口12からインクを吐出させない範囲内で第2のパルス幅を少なくとも1回以上更新するように第2のヒートパルス信号を複数回連続して複数のヒータ14の各々に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータでインクを加熱することによって発生した気泡でインクを吐出する記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置、および記録ヘッドの温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置には、ヒータでインクを加熱することによって気泡を発生させ、その気泡でインクを吐出口から記録媒体に向けて吐出するサーマルタイプがある。サーマルタイプのインクジェット記録装置では、一般的に、ヒータおよび吐出口を備える記録ヘッドはキャリッジに搭載され、この記録ヘッドの動作を制御する制御部は装置本体に配置されている。記録ヘッドを制御するための制御信号や記録ヘッドを駆動するための電力は、制御部からケーブルを通じて記録ヘッドに供給される。このとき、ケーブルには高電流が近接して流れるので、ケーブルがアンテナとして作用して放射ノイズが発生する。その結果、この放射ノイズで周辺機器が誤動作するという問題が起こりうる。そこで、ケーブルから放射されるノイズを抑制する方法が提案され、特許文献1に開示されている。特許文献1には、ケーブルを介してシリアル伝送される記録データやベースクロックの転送周期を発信元である制御部で可変とする技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、サーマルタイプのインクジェット記録装置において、ケーブルから放射されるノイズは、特許文献1に記載されているように記録データの転送時に発生するだけではない。サーマルタイプのインクジェット記録装置は、上述したように気泡でインクを吐出口から吐出する。このとき、1つの吐出口から吐出されるインク滴は微小なため、サーマルタイプのインクジェット記録装置では、一般的に、複数の吐出口が配列されたノズル列が記録ヘッド内に複数設けられている。各ノズル列で生成される気泡の成長は、温度に大きく影響され、各ノズル列から押し出されるインクの体積(以下、インク吐出量と呼ぶ)に反映される。そのため、インク吐出量はヒータ近傍のインク温度(以下、インク温度)の影響を強く受ける。インク温度が高い場合にはインク吐出量は多くなり、逆にインク温度が低い場合にはインク吐出量は少なくなる。さらに、記録中はヒータ近傍の温度が記録開始前に比べて上昇するという特徴もある。このように、インク温度のばらつきに伴いインク吐出量が変動すると、記録媒体に記録される画像に濃度むらが発生し、記録品位が悪化するおそれがある。そこで、記録開始の直前に、インク吐出時よりもパルス幅の短いヒートパルス信号を全てのヒータに与えることによって記録ヘッドをある温度まで加熱する温度制御方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−330654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した記録ヘッドの温度制御方法によれば、記録を行う際に気泡の成長のばらつきが緩和されるので、インク吐出量の変動が抑制される。しかし、従来の温度制御方法では、パルス幅が一定のヒートパルス信号を同じタイミングで全てのヒータに複数回連続して与えることが一般的である。この場合、放射ノイズが特定の周波数に集中し、その結果、温度制御時の方が記録時に比べ放射ノイズのピーク値が高くなる傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、インク吐出量の変動を抑制できるとともに放射ノイズを低減できるインクジェット記録装置、および記録ヘッドの温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明によるインクジェット記録装置は、第1のパルス幅を有する第1のヒートパルス信号を生成して出力し、前記第1のヒートパルス信号を生成する直前に、または前記第1のヒートパルス信号を生成するときを除いて定期的に、前記第1のパルス幅よりも短い第2のパルス幅を有する第2のヒートパルス信号を生成して出力する制御部と、前記第1および第2のヒートパルス信号を伝送するケーブルと、前記ケーブルを介して前記制御部に接続されている記録ヘッドと、を有し、前記記録ヘッドは、インクを吐出する複数の吐出口と、前記第1のヒートパルス信号が入力されると前記第1のパルス幅を発熱時間として前記インクを加熱することによって気泡を生成し、生成した気泡で前記インクを前記複数の吐出口から吐出させる複数のヒータと、を有し、前記制御部は、前記複数の吐出口から前記インクを吐出させない範囲内で前記第2のパルス幅を少なくとも1回以上更新するように前記第2のヒートパルス信号を複数回連続して前記複数のヒータの各々に出力する。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明による記録ヘッドの温度制御方法は、第1のパルス幅を有する第1のヒートパルス信号を、ケーブルを介して記録ヘッドに設けられた複数のヒータの各々に出力することによってインクを加熱して気泡を生成し、生成した気泡で前記インクを吐出する第1のステップと、前記第1のヒートパルス信号を生成する直前に、または前記第1のヒートパルス信号を生成するときを除いて定期的に、前記第1のパルス幅よりも短い第2のパルス幅を有する第2のヒートパルス信号を、前記ケーブルを介して複数回連続して前記複数のヒータの各々に出力する第2のステップであって、前記インクを吐出させない範囲内で前記第2のパルス幅を少なくとも1回以上更新する第2のステップと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、第2のヒートパルス信号がケーブルを介して記録ヘッドに複数回連続して出力されるときに、第2のパルス幅が少なくとも1回以上更新される。そのため、第2のヒートパルス信号がケーブルを伝送する際、ケーブルから発生する放射ノイズが特定の周波数に集中しにくくなる。よって、従来のようにパルス幅が一定のヒートパルス信号を複数回連続して出力する場合に比べ、ケーブルの放射ノイズを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1のインクジェット記録装置の要部構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態1のインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】ノズル列の配列状態を示す図である。
【図4】図2に記載のブロック図の一部をより詳細に示したブロック図である。
【図5】記録ヘッドの動作制御に関するタイミングチャートである。
【図6】実施形態1の温度制御用のヒートパルス信号の波形を示す図である。
【図7】ヒートパルス信号のパルス幅の違いによるノズル列の温度変化の状態を示すグラフである。
【図8】実施形態2のインクジェット記録装置の要部の制御構成を示すブロック図である。
【図9】パルス幅データの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の要部構成を示す斜視図である。また、図2は、本実施形態のインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0012】
本実施形態のインクジェット記録装置100では、記録ヘッド1がキャリッジ2に搭載されている。キャリッジ2は、ガイドシャフト3に沿って往復移動する。キャリッジ2の往復移動は、モータ駆動回路44(図2参照)で駆動されるキャリッジモータ5の駆動でプーリー6が回転し、プーリー6の回転力がベルト7に伝達されることによって行われる。記録ヘッド1は、キャリッジ2の往復移動に連動してインクを吐出することで、記録媒体4に1走査分の画像を形成する。
【0013】
記録ヘッド1による1走査分の記録が終了すると、モータ駆動回路43(図2参照)で駆動する搬送モータ19(図2参照)が、プラテン8上に位置する記録媒体4を、キャリッジ2の移動方向に直交する方向(図1の矢印A参照)に所定量だけ搬送する。次いで再びキャリッジ2の往復移動に連動して記録ヘッド1が次の1走査分の画像を形成する。これらの動作を繰り返すことにより、記録媒体4に記録される画像が完成する。
【0014】
図1に示すインクジェット記録装置100の正面右側には、記録ヘッド1のインク吐出状態を良好に保つための回復動作を行う回復ユニット10が設けられている。回復ユニット10には、記録ヘッド1をキャップするキャップ11などが設けられている。
【0015】
また、インクジェット記録装置100は、ガイドシャフト3に並行して延びるエンコーダスケール13(図1参照)と、キャリッジ2の背面に取り付けられている光学式のエンコーダセンサ45(図2参照)を備えている。インクジェット記録装置100では、エンコーダスケール13およびエンコーダセンサ45を用いてキャリッジ2の移動速度が検出され、検出値がキャリッジモータ5の駆動時にフィードバックされる。また、エンコーダスケール13で定められるキャリッジ2(記録ヘッド1)の位置情報がエンコーダセンサ45により読み取られる。そして、読み取り値を基準として所定の位置でインク滴を吐出することによって記録媒体4上に画像を形成することが可能になる。
【0016】
記録ヘッド1には、図3に示すように、複数の吐出口12が配列されたノズル列13を複数備えている。複数のノズル列13は、吐出口12の配列方向を揃えて複数の列をなすように並べられている。本実施形態では、記録ヘッド1には、12列のノズル列13が設けられ、各ノズル列13は640個の吐出口12で構成されている。12列のノズル列13には、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタおよびブラックの6色のインクが2列ずつ割り当てられている。記録ヘッド1には、複数(本実施形態では640個)のヒータ14(図2参照)が各吐出口12に対向して設けられている。各ヒータ14は、制御部30(図2参照)から個別に入力される記録用のヒートパルス信号(第1のヒートパルス信号)および温度制御用のヒートパルス信号(第2のヒートパルス信号)で発熱する。制御部30で生成された記録用のヒートパルス信号がケーブル9を通じて記録ヘッド1に与えられると、ヒータ14は記録用のヒートパルス信号のパルス幅(第1のパルス幅)を発熱時間してインクを加熱する。すると、インクは膜沸騰し、気泡が生成される。そして、気泡の成長または収縮によって生じる圧力変化によって、吐出口12からインクが吐出される。
【0017】
図4は、図2に記載のブロック図の一部をより詳細に示したブロック図である。図4に記載のブロック図は、制御部30の構成要素のうち、記録ヘッド1へ信号やデータを送信する構成要素を詳細に示している。図5は、記録ヘッド1の動作制御に関するタイミングチャートを示す。なお、図5(b)は、図5(a)に記載の領域Rを拡大して示している。
【0018】
制御部30から記録ヘッド1にデータを転送するタイミングを示すデータ転送トリガは、データ処理タイミング発生回路40の基準タイミングトリガ生成部46で生成される。基準タイミングトリガ生成部46は、CPU(Central Processing Unit)32からヘッド駆動イネーブル信号が入力されると、キャリッジ2の動作状態を判定して所定のタイミングトリガを生成する。このとき、基準タイミングトリガ生成部46は、エンコーダセンサ45からのエンコーダパルスの入力の有無でキャリッジ2が駆動しているか否か判定する。また、基準タイミングトリガ生成部46は、キャリッジ2の動作状態を示すキャリッジステータス信号の入力で記録ヘッド1を記録目的で駆動するか否か判定する。なお、キャリッジステータス信号は、CPU32から基準タイミングトリガ生成部46に入力される。
【0019】
キャリッジ2が動作中かつ、記録ヘッド1を記録目的で駆動する場合には、基準タイミングトリガ生成部46は、エンコーダパルスを基準としたリードトリガを生成する。このリードトリガは、記録解像度を示すトリガ解像度設定信号に基づいてエンコーダパルスを元に逓倍したパルスとなる。本実施形態では、150lpi(line per inch)のエンコーダパルスに対して1200dpi(dot per inch)のリードトリガが生成される。
【0020】
キャリッジ2が停止状態で、かつ温度制御の目的で記録ヘッド1を駆動する場合には、基準タイミングトリガ生成部46は、システムクロックを逓倍したリードトリガを生成する。本実施形態では、640個のヒータ14を40グループに分け、グループが同じ16個のヒータ14は記録ヘッド1に設けられたドライバ(不図示)によって同時に駆動される。そして、グループごとに連続的に40回ヒータ駆動することによって640個全てのヒータ14が駆動する。そのため、リードトリガは40回分の駆動が可能なように周期が設定される。本実施形態では1グループの駆動周期(データ転送トリガの周期)を1.6μsに設定するためにリードトリガの周期は64μsとなる。基準タイミングトリガ生成部46は、リードトリガを記録データ処理回路41に出力するとともに、データ転送トリガを記録ヘッド駆動制御回路42に出力する。
【0021】
記録データ処理回路41は、CPU32から吐出モード信号が入力されると、その吐出モード信号に応じて、RAM(Random Access Memory)34からデータバスを介して、記録用のデータまたは温度制御用のデータを選択して読み込む。なお、記録用のデータは、インクジェット記録装置100に接続されている周辺機器(例えば、パーソナルコンピュータ)からI/F回路(インターフェース回路)31を通じてRAM34に格納される。記録データ処理回路41は、基準タイミングトリガ生成部46から入力されたリードトリガのタイミングに合わせてデータを読み込む。1回のリードトリガで読み込むデータ量は、1ノズル列分の640ビットであり、読み込まれたデータは、記録ヘッド駆動制御回路42のデータ転送部421へ転送される。データ転送部421は、記録データ処理回路41から入力されたデータを40分割して保存する。データ転送部421は、データ転送トリガが入力されるたびに、記録ヘッド1の40個のドライバに対して40分割した16ビットのデータを順次転送する。このようにして40回のデータ転送を繰り返すことでRAM34から読み込まれた640ビットのデータ転送が完了する。
【0022】
記録ヘッド駆動制御回路42は、ノズル列13の数だけ存在し、駆動対象となる各ヒータ14に対してヒートパルス信号(HE)と、シリアルクロック(CLK)に同期させたデータ及び駆動ドライバ番号を出力する。ここで、記録ヘッド駆動制御回路42の動作内容について、記録動作(第1のステップ)と、温度制御動作(第2のステップ)とで分けて説明する。まずは記録動作時の動作内用について説明する。
【0023】
(記録動作)
記録ヘッド駆動制御回路42は、図4に示すように、データ転送部421と、パルスパラメータ設定レジスタ422と、パルス生成部423と、乱数発生器48と、を有する。パルス生成部423は、データ転送トリガを受信すると、ノズル温度データ及び同時吐出数データから、最適なパルスパラメータをパルスパラメータ設定レジスタの中から選択する。ノズル温度データは、各ノズル列13の温度を定常的に検出する温度センサ(不図示)の検出値に基づいてCPU32が生成する。また、同時吐出数データは、インクが同時に吐出される吐出口12の数を示し、RAM34に格納されている記録用のデータに含まれている。パルスパラメータ設定レジスタ422で選択されるパラメータとは、図5に示すパルス開始タイミング(S)、パルス間隔(F)、及びヒートパルス信号のパルス幅(W1、W2)である。これらのパラメータは、ノズル温度データ及び同時吐出数データの各々に対応付けたパルスパラメータテーブルを構成している。このパルスパラメータテーブルでは、インクが同時に吐出する吐出口数やノズル列13の温度が変化してもインク吐出量が一定になるように最適なパラメータが一意に選択される構成となっている。なお、図5ではラッチ信号(LT)の1周期あたりにヒートパルス信号がイネーブルになる回数(ヒータ14の通電回数)が2回あるが、温度やその他の吐出条件に応じて1回(W2=0)であってもよい。パルスパラメータテーブルは、記録ヘッド1のノズル温度や同時吐出数の変化に対応してデータ転送トリガごとにパルスパラメータの変更が可能なように、ハードウェアテーブルで構成されるのが望ましい。更には、記録ヘッド1が交換された際に、記録ヘッド1の製造上のばらつきに起因する吐出量変化にパルスパラメータの変更で対応可能なように、書き換え可能な構成がより望ましい。パルスパラメータテーブルに格納されているパラメータは、時間の値でもよいし、システムクロック等の基準クロックに対するカウント数でもよい。パルス生成部423は、ヒートパルス信号を生成するためのパラメータを上述のパルスパラメータテーブルから選択して読み出し、カウンタ47でパルスのハイレベルとローレベルを切り替えるタイミングを、システムクロックを基準としてカウントする。このようにして、記録用のヒートパルス信号(第1のヒートパルス信号)が生成される。そして、パルス生成部423は、生成したヒートパルス信号をデータ転送トリガに同期して記録ヘッド1へ転送する。さらに、データ転送部421は、記録データ処理回路41から転送される記録用のデータにドライバ番号を付加する。そして、データ転送部421は、ドライバ番号が付加された記録用のデータをシリアルクロック(CLK)に同期させて記録ヘッド1へ転送する。転送されたデータは、転送終了時にラッチ信号(LT)をアサートさせて記録ヘッド1でラッチされる。ラッチされたデータは、ヒートパルス信号と論理積演算(AND)することでヒータ14が駆動する。すると、インクは膜沸騰し、気泡が生成される。そして、気泡の成長または収縮によって生じる圧力変化によって、吐出口12からインクが吐出される。
【0024】
(温度制御動作)
次に、温度制御動作時の記録ヘッド駆動制御回路42の動作について説明する。パルス生成部423は、CPU32から温度制御イネーブル信号の入力があったときに温度制御用のヒートパルス信号(第2のヒートパルス信号)を生成する。なお、CPU32は、記録用のヒートパルス信号を生成する直前に温度制御イネーブル信号をパルス生成部423に送信する。なお、CPU32は、記録用のヒートパルス信号を生成するときを除いて定期的に、温度制御イネーブル信号をパルス生成部423に送信することとしてもよい。温度制御用のヒートパルス信号のパルス幅(第2のパルス幅)は、インクを各吐出口12から吐出させないようにするため、記録用のヒートパルス信号のパルス幅の約4〜7割の範囲内である。このようにパルス幅の短いヒートパルス信号を一定期間用いてヒータ14を通電することによって記録ヘッド1の温度を所望の温度まで上昇させる。なお、CPU32は、温度センサの検出値がしきい値(目標温度)を上回った場合、すなわち記録ヘッド1の温度を下降させる必要がある場合には、記録ヘッド駆動制御回路42に対してヒータ14への通電を停止する旨の制御信号を送信する。
【0025】
温度制御用のヒートパルス信号も記録用のヒートパルス信号と同様にパルスパラメータとしてパルス幅W1、W2(図5(b)参照)を有する。本実施形態では、パルス幅W1、W2は、乱数発生器48で生成され、パルス生成部423に入力される。乱数発生器48は、記録用のヒートパル信号のパルス幅よりも小さくて互いに異なる複数の数値のいずれかをデータ転送トリガのタイミングに合わせてランダムに選択する。乱数の生成方法は、ロジック的に擬似乱数を発生させる回路を用いてよいし、アナログ的に乱数を発生させる回路を用いても良い。乱数の出力範囲は、記録用のヒートパルス信号のパルス幅の7割となる数を最大値とし、このパルス幅の4割となる数を最低値とする。パルス生成部423は、記録動作時と同様に、各パルスパラメータに用いて温度制御用のヒートパルス信号を生成する。図6は、本実施形態の温度制御用のヒートパルス信号(HE)とラッチ信号(LT)を示す。図6に示すように、温度制御用のヒートパルス信号のパルス幅は、インクを吐出口12から吐出させない範囲内で少なくとも1回以上更新(変調)されている。
【0026】
本実施形態では、上述したように、記録を行っていない(インクを吐出していない)ときに温度制御用のヒートパルス信号で各ヒータ14が発熱しているので、記録ヘッドが一様に加熱されている。そのため、記録を行う際に気泡の成長のばらつきが緩和されるので、インク吐出量の変動を抑制できる。また、温度制御用のヒートパルス信号のパルス幅は、少なくとも1回以上更新されている。そのため、温度制御用のヒートパルス信号がケーブル9を伝送する際、ケーブル9から発生する放射ノイズが特定の周波数に集中しにくくなる(分散する)。よって、従来のようにパルス幅が一定のヒートパルス信号を複数回連続して出力する場合に比べ、ケーブル9の放射ノイズを低減することが可能となる。
【0027】
なお、本実施形態では、各ノズル列13の温度によってパルス幅の変調幅(乱数値の範囲)を変えても良い。図7は、ヒートパルス信号のパルス幅の違いによるノズル列の温度変化の状態を示すグラフである。図7において、破線は、記録用のヒートパルス信号のパルス幅の7割のパルス幅をヒータ14の発熱時間とした場合を示す。一方、実線は記録用のヒートパルス信号のパルス幅の5割のパルス幅をヒータ14の発熱時間とした場合を示す。図7に示すように、温度制御用のヒートパルス信号のパルス幅、つまりヒータ14の発熱時間によって目標温度まで上昇するのに必要な上昇時間が異なる。そこで、温度変化の状態が同じノズル列13が複数存在する場合には、これらのノズル列13に対してパルス幅が変調するタイミングごとに一律に規格化された範囲で乱数を出力するように乱数発生器48を設定する。これにより、各ノズル列13の上昇時間のばらつきを緩和することが可能となる。また、各ノズル列13の温度上昇のスピードに偏りがある場合には、温度上昇が速いノズル列13のパルス幅を、温度上昇が遅いノズル列13のパルス幅よりも短いパルス幅となるように乱数発生器48を設定する。これにより、温度上昇のスピードが異なる複数のノズル列13を、ほぼ同じタイミングで目標温度へ到達させることが可能となる。
【0028】
ここで、上述した本実施形態のインクジェット記録装置を、キヤノン株式会社の大判インクジェットプリンタiPF6100に適用して放射ノイズを測定した実験結果について説明する。なお、放射ノイズは、電波暗室内で測定対象物から10m離れた位置の電界強度を測定する、いわゆる10m法で測定した。実験において、従来のように全てのノズル列をパルス幅が一定のヒートパルス信号で連続して加熱した場合、ヒートパルス信号の周波数の8逓倍の周波数である60.5MHzにおける垂直成分のQP値が29.5(dBμV/m)であった。一方、本実施形態のようにパルス幅を変調したヒートパルス信号で連続して加熱した場合では、垂直成分のQP値が27.0(dBμV/m)となり、従来に比べ2.5dB減少した。
【0029】
(実施形態2)
本実施形態のインクジェット記録装置について説明する。なお、実施形態1で説明したインクジェット記録装置100と同様な構成については詳細な説明を省略する。
【0030】
図8は、本実施形態のインクジェット記録装置の要部の制御構成を示すブロック図である。図8では、記録ヘッド1へ信号やデータを送信する構成要素を詳細に示している。本実施形態のインクジェット記録装置は、温度制御の動作内容が実施形態1で説明したインクジェット記録装置100と異なる。以下、本実施形態のインクジェット記録装置における温度制御時の記録ヘッド駆動制御回路42の動作について説明する。
【0031】
本実施形態では、パルス生成部423は、温度制御用のヒートパルス信号のパルス幅を、データ格納部51に格納されているパルス幅データ50から読みだす。
【0032】
図9は、パルス幅データの構成を示す図である。パルス幅データ50は、図9に示すように、記録用のヒートパルス信号のパルス幅よりも小さくて互いに異なる複数の数値をノズル列ごとに順序づけて示す。具体的には、12列のノズル列13を識別するためのノズル列番号に対応付けて、各ノズル列13の6回分(6周期分)のパルス幅を示す数値がそれぞれAddress0〜Address5に格納されている。なお、ヒートパルス信号の残り2つのパルスパラメータであるパルス開始タイミング(S)及びパルス間隔(F)は、予め330nsが設定されている。また、データ転送トリガの周期は1.6μsとしている。本実施形態では、記録ヘッド駆動制御回路42は、12列のノズル列13にそれぞれ対応する12回路ある。各記録ヘッド駆動制御回路42のパルス生成部423は、パルス幅データ50から各回のパルス幅を、ノズル列番号ごとにアドレスの順序に従って読みだす。例えば、図3に示す12列のノズル列のうち左端のノズル列13に対応するパルス生成部423は、パルス幅データ50における「ノズル列1」に対応するAddress0からAddress5までの数値をパルス幅として読みだす。なお、データ格納部51には、アドレスカウンタ49が組みこまれている。アドレスカウンタ49は、パルス生成部423がデータ転送トリガのタイミングに合わせてパルス幅データ50を参照するたびにアドレスに1を加算する。そして、カウンタが5まで進むと、次のデータ転送トリガで0に戻る。これにより、データ格納部51では、データ転送トリガが入力されるたびにAddress0からAddress5に格納された数値が各パルス生成部423に出力される。パルス生成部423は、この数値をパルス幅とするヒートパルス信号を生成する。そして、パルス生成部423は、生成したヒートパルス信号をデータ転送トリガごとに記録ヘッド1へ転送する。なお、本実施形態ではAddress更新のタイミングをデータ転送トリガとしているが、リードトリガや他の周期トリガを用いて更新させても良い。
【0033】
本実施形態では、温度制御用のヒートパルス信号(第2のヒートパルス信号)のパルス幅(第2のパルス幅)は、データ格納部51に格納されているパルス幅データ50から読みだされる。パルス幅データ50では、各回における12列のノズル列13のパルス幅が互いに異なるように設定されている。また、各ノズル列13のパルス幅は、毎回異なるように設定されている。これにより、本実施形態においても、温度制御用のヒートパルス信号はそのパルス幅を変調しながら複数回連続して出力されている。そのため、ケーブル9から発生する放射ノイズが特定の周波数に集中しにくくなるので、従来に比べ、ケーブル9の放射ノイズを低減することが可能となる。
【0034】
また、本実施形態では、図9に示すように、パルス幅データ50を構成する複数の数値を順序(アドレス)ごとに複数のグループに分けたときの各グループにおける数値の総和が「1584」で一定になっている。これにより、温度制御用のヒートパルス信号を複数回連続して出力する際、電源の負荷が毎回同じになるので安定した動作環境となる。
【0035】
更に、本実施形態では、パルス幅データ50において各ノズル列13に対応して順序づけられている数値の総和は、列の位置に応じて異なっている。具体的には、本実施形態においても、実施形態1と同様に、ノズル列13は、図3に示すように吐出口12の配列方向を揃えて12の列をなすように並べられている。この列の両端に位置する端部ノズル列は、周囲に他のノズル列が存在する列の中央に位置する中央ノズル列に比べ温度上昇のスピードが遅くなる。そこで、本実施形態では、端部ノズルの識別番号を示す「ノズル列1」、「ノズル列12」の各々に対応して順序づけられている数値の総和が、中央ノズル列の識別番号を示す「ノズル列6」に対応して順序づけられている数値の総和よりも多くなっている。これにより、温度上昇のスピード差が是正されるので、各ノズル列の温度をほぼ同じタイミングで目標温度へ到達させることが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 記録ヘッド
9 ケーブル
12 吐出口
14 ヒータ
30 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパルス幅を有する第1のヒートパルス信号を生成して出力し、前記第1のヒートパルス信号を生成する直前に、または前記第1のヒートパルス信号を生成するときを除いて定期的に、前記第1のパルス幅よりも短い第2のパルス幅を有する第2のヒートパルス信号を生成して出力する制御部と、前記第1および第2のヒートパルス信号を伝送するケーブルと、前記ケーブルを介して前記制御部に接続されている記録ヘッドと、を有し、
前記記録ヘッドは、インクを吐出する複数の吐出口と、前記第1のヒートパルス信号が入力されると前記第1のパルス幅を発熱時間として前記インクを加熱することによって気泡を生成し、生成した気泡で前記インクを前記複数の吐出口から吐出させる複数のヒータと、を有し、
前記制御部は、前記複数の吐出口から前記インクを吐出させない範囲内で前記第2のパルス幅を少なくとも1回以上更新するように前記第2のヒートパルス信号を複数回連続して前記複数のヒータの各々に出力する、インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドは、前記複数の吐出口が配列されたノズル列を複数備えている、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1のパルス幅よりも小さくて互いに異なる複数の数値のいずれかをランダムに選択する乱数発生器と、前記乱数発生器で選択された数値を前記第2のパルス幅として前記第2のヒートパルス信号を生成するパルス生成部と、を有する、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1のパルス幅よりも小さくて互いに異なる複数の数値を前記ノズル列ごとに順序づけて示したパルス幅データを格納するデータ格納部と、前記パルス幅データから前記ノズル列ごとに前記順序に従って前記複数の数値を読みだし、読みだした数値を前記第2のパルス幅として前記第2のヒートパルス信号を生成し、生成した第2のヒートパルス信号を前記ノズル列に対応付けて前記複数のヒータの各々に出力するパルス生成部と、を有する、請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記パルス幅データにおいて、前記複数の数値を前記順序ごとに複数のグループに分けたときの各グループにおける数値の総和が一定である、請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記複数のノズル列は、前記複数の吐出口の配列方向を揃えて複数の列をなすように並べられ、
前記パルス幅データにおいて、前記複数の列の両端に並べられているノズル列の各々に対応して順序づけられている数値の総和は、前記複数の列の中央に並べられているノズル列に対応して順序づけられている数値の総和よりも多い、請求項4または5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
第1のパルス幅を有する第1のヒートパルス信号を、ケーブルを介して記録ヘッドに設けられた複数のヒータの各々に出力することによってインクを加熱して気泡を生成し、生成した気泡で前記インクを吐出する第1のステップと、
前記第1のヒートパルス信号を生成する直前に、または前記第1のヒートパルス信号を生成するときを除いて定期的に、前記第1のパルス幅よりも短い第2のパルス幅を有する第2のヒートパルス信号を、前記ケーブルを介して複数回連続して前記複数のヒータの各々に出力する第2のステップであって、前記インクを吐出させない範囲内で前記第2のパルス幅を少なくとも1回以上更新する第2のステップと、を有する、記録ヘッドの温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−20469(P2012−20469A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159727(P2010−159727)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】