説明

インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】複数のノズル列を有するシリアル型のカラーインクジェット記録装置において、互いの使用ノズル領域に重複領域を設けながらも、インクの付与工程のばらつきに伴う色むらや光沢むらを招致させない、高画質な記録を実現する。
【解決手段】複数のノズル列の使用ノズル領域を部分的に重複させながら、各ノズル列間の使用ノズル領域の重複領域を搬送量の整数倍になるように設定する。これにより、全画像領域におけるインクの付与工程を一定にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリアル型のカラーインクジェット記録装置において、記録媒体に対するインクの付与順序に起因する色むらや光沢むらのような画像弊害を低減するための記録方法に関する。特に、インク色毎に用意された複数のノズル列夫々において、記録に使用するノズル領域を記録モードに応じて変更することにより、上記弊害を緩和する記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアル型のカラーインクジェット記録装置では、インク色ごとに用意された複数のノズル列を移動しながら記録媒体に向けてインクを吐出する記録走査と、記録走査の記録幅に応じた距離だけ記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に行うことにより画像を記録する。このようなインクジェット記録装置では、画質を向上させるためにマルチパス記録法を採用したり、記録時間を短縮するために双方向記録を行ったりすることが一般になっている。マルチパス記録では、1回の記録走査で記録可能な画像領域を、記録ヘッドの複数の記録走査によって段階的に画像を完成させる。そして各記録走査の間には、記録ヘッドの記録幅よりも短い距離の搬送動作を行う。このようなマルチパス記録を行えば、1つのノズルで記録するドットが主走査方向に連続することが無くなり、個々のノズルの吐出特性のばらつきを画像全体に分散させることが出来、画像全体の一様性を高めることが出来る。
【0003】
ところで、カラーのインクジェット記録装置では、記録媒体に対するインクを付与する順番が、画像の発色に影響を与えることが知られている。例えば、主走査方向に並列するシアンのノズル列とイエローのノズル列からそれぞれインクを吐出させて、同じグリーン画像を記録する場合、往路走査でシアン→イエローの順で画像が記録されれば、復路走査ではイエロー→シアンの順で画像が記録される。このように、インクの付与順序が逆転した2つの画像では、発色が異なりバンド単位の色むらが認識されてしまうことがある。
【0004】
但し、上述したようなマルチパス記録を行えば、記録媒体の単位領域は往路走査での記録と復路走査での記録の両方でインクが付与されるので、上記色むらも多少緩和される。しかしながら、インクの付与量が多い場合やマルチパス数が少ない場合には、色むらを完全に目立たなくすることは困難であり、マルチパス数を多くすればスループットは低下する。
【0005】
このような状況において、例えば特許文献1には、記録モードに応じて、搬送方向におけるノズル列の使用領域をインクごとに独立に変更する構成が開示されている。特許文献1によれば、例えば画質を重視する高画質記録モードでは、双方向記録を行っても記録媒体に対するインクの付与順が一定となるように、ノズル列における使用領域をインク色によって異なる位置に設定する。その一方、記録速度を重視する高速記録モードでは、各ノズル列の使用領域を最大限に広げて記録する。
【0006】
このような特許文献1によれば、色むらのない高画質モードと、出力速度の速い高速記録モードとの両方を、1つのインクジェット記録装置で実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−307672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、2つのノズル列の使用領域を搬送方向に完全に分離、すなわち重複させない構成は開示されているものの、3色以上の記録ヘッドを使用する場合の構成について具体的な説明はされていない。そして、このような特許文献1に記載の構成を、3色以上のノズル列を有する記録装置でそのまま実現しようとすると、個々のノズル列が有するノズル数に対し、高画質モードで実際に使用するノズル数が極めて少なくなり、記録時間が大幅に増大してしまう。
【0009】
よって、実際には、最も色むらが目立つ2つのインク色ではノズル列の使用領域が互いに重複しないようにしながらも、他のインク色については、別のインク色のノズル使用領域と部分的に重複するような構成が採用されている。しかしながら、本発明者らの鋭意検討によれば、このような場合、互いに重複する複数のノズル列間の重複量によっては、色むらや光沢むらが招致されるような場合が確認された。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、複数のノズル列を有するシリアル型のカラーインクジェット記録装置において、互いの使用領域に重複領域を設けながらも、インクの付与工程のばらつきに伴う色むらや光沢むらを招致させない、高画質な記録を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために本発明は、複数のノズルが所定の方向に配列されてなるノズル列の複数を、記録媒体に対して移動させる記録走査と、前記所定の方向に前記記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、記録モードを設定する手段と、前記ノズル列における前記記録媒体の中央の領域への記録に使用する使用ノズルを、設定された前記記録モードに従って、前記複数のノズル列ごとに設定する設定手段と、前記設定手段によって設定された使用ノズル領域からインクを吐出しながら前記複数のノズル列を前記所定の方向と交差する方向に移動させることにより、前記記録走査を実行する手段と、所定量の搬送量だけ前記記録媒体を前記所定の方向に搬送する、前記搬送動作を実行する手段とを備え、前記設定手段は、前記複数のノズル列の前記設定された前記使用ノズルが配置されている領域の間の前記所定の方向における重複領域の長さが、前記搬送量に対応する長さの整数倍になるように、前記複数のノズル列それぞれにおける前記使用ノズルを設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、記録媒体の各単位領域におけるインクの付与工程を一定にすることが出来るので、インクの付与工程のばらつきに伴う色むらや光沢むらを抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カラーインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置における制御の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】実施例1における使用ノズル領域の設定工程を示すフローチャートである。
【図4】(a)および(b)は高画質モードと高速モードのノズル使用領域を示す図である。
【図5】実施例1における高画質記録モードの記録状態を示す図である。
【図6】(a)および(b)は実施例1における比較例である。
【図7】(a)〜(c)は、本発明に適用可能或いは不可能な使用ノズル領域の設定形態の別例を示した図である。
【図8】(a)〜(c)は、縦レジずれを検出するためのテストパターン例を示す図である。
【図9】実施例2における使用ノズル領域の設定工程を示すフローチャートである。
【図10】(a)および(b)は使用ノズル領域の設定方法を説明するための図である。
【図11】(a)および(b)は、縦レジ補正値を反映した場合としない場合の記録状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の記録方法に係わる実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明を適応可能なカラーインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。本実施形態の記録装置は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色のインクによってカラー画像を記録するものとし、インク色に対応した4つのインクカートリッジ202が用意されている。個々のインクカートリッジ202は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのいずれかのインクが収容されたインクタンクと、当該タンクから供給されたインクを吐出する記録ヘッド201、とから構成されている。4つのインクカートリッジ202を搭載するキャリッジ106は、図のX方向(主走査方向)に往復移動可能になっており、記録ヘッド201はキャリッジ106の移動中に記録信号に従ってインクを吐出する。
【0016】
一方、給紙ローラ105と補助ローラ102からなる第1のローラ対と、搬送ローラ103と補助ローラ104からなる第2のローラ対は、記録ヘッド201によって記録が行われる領域の記録媒体107を平滑に保つように、記録媒体107を挟持している。また、記録ヘッド201による1回の記録主走査が完了すると、搬送ローラ105および給紙ローラ103が回転し、記録媒体107を所定量だけX方向とは交差するY方向(搬送方向)に搬送する。以上のような、記録ヘッドによる記録走査と搬送動作とを交互に行うことにより、記録媒体に段階的に画像が記録されて行く。
【0017】
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置における制御の構成を説明するためのブロック図である。記録制御部500は、記録動作に関わる記録装置全体の制御を行う領域である。主に、マイクロコンピュータ(MPU)401が、インターフェース400を介して入力された画像データに対し、ROM402に記憶されているプログラムに従って、ワークエリアとしてDRAM403を使用しながら各種処理を行っている。そして、処理後の画像データに従って、各種ドライバを駆動しながら、記録動作を実行している。このとき、ゲートアレイ404は、インターフェース400、MPU401、DRAM403間のデータの転送制御を行っている。
【0018】
モータドライバ408は、MPU401の制御のもと、搬送ローラ103或いは給紙ローラ105を回転させるための搬送モータ405を駆動する。
【0019】
モータドライバ407は、MPU401の制御のもと、キャリッジ106をX方向に移動させるためのキャリッジモータ406を駆動する。
【0020】
ヘッドドライバ409は、MPU401の制御のもと、記録ヘッド201からインクを吐出させるための駆動信号を発信する。
【実施例1】
【0021】
図3は、記録開始コマンドが入力された際に、記録制御部500が実行する記録モードおよび個々のノズル列の使用ノズル領域を設定する工程を示すフローチャートである。
【0022】
記録開始コマンドが入力されると、記録制御部500は、ステップR1において、インターフェース400を介して画像データを受信し、これを一度DRAM403に記憶する。続くステップR2では、画像データのヘッダを解析し、設定された記録モードを取得する。
【0023】
ステップR3では、取得した記録モードが高画質モードであるか否かを判断する。高画質モードである場合はステップR4へ進み、高画質モードでない場合はR6へ進む。
【0024】
ステップR4では高画質モードに準じ、記録方法を6パス双方向マルチパス記録に設定し、続くステップR5では、各ノズル列の使用領域を図4(a)のように設定する。一方ステップR6では、高速モードに準じ、記録方法を2パス双方向マルチパス記録に設定し、続くステップR7では、図4(b)のように、全ノズル列について全領域を使用領域に設定する。以上で本処理が終了する。
【0025】
図4(a)および(b)は、本実施例における高画質モードと高速モードのノズル使用領域を夫々示した図である。本実施形態の記録ヘッドは各ノズル列につきY方向に384個のノズルは配列されているものとする。ここでは説明を簡単にするため、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の3色ノズル列について示している。
【0026】
図4(a)は、高画質モードでの各ノズル列の使用ノズル領域を示している。ここでは、384個のノズルを、32ノズルずつの12ブロックにして示している。図において、塗りつぶした領域(各色6ブロック)が、実際にインクの吐出を行う使用ノズル領域であり、白で示した領域がインクの吐出を行わない非使用ノズル領域である。シアンのノズル列については、図の最上位から1番目〜6番目のブロックが使用ノズル領域になっている。イエローのノズル列については、最上位から5番目〜10番目のブロックが使用ノズル領域になっている。マゼンタのノズル列については、最上位から7番目〜12番目のブロックが使用ノズル領域になっている。この使用領域は記録媒体の中央部に対する記録を行う際に設定される使用領域であり、中央部は媒体の中心を含むこともできるが、必ずしも含んでいなくともよい。このcenterは記録時に既にシート状にcutされた状態である場合にはシート面の記録後にカットされる場合にはカットされた後のシートにおける幾何学的な中心(長方形の場合には重心)を意味する。記録媒体の先端、後端に対する記録において中央部よりも搬送量を小さく設定する記録を行う場合には、中央部に対して記録を行う際には連続して複数回行われる同回数の搬送の搬送量は最大となる。
【0027】
いずれのノズル列についても連続した6つのブロックが使用ノズル領域となっているが、Y方向における位置は異なっている。このとき、シアンの使用ノズル領域とマゼンタの使用ノズル領域は互いに重複していないが、イエローの使用ノズル領域はシアンの使用ノズル領域およびマゼンタの使用ノズル領域の夫々と部分的に重複している。図3のステップR5では、このように使用ノズル領域を設定する。
【0028】
図4(b)は、高速モードでの各ノズル列の使用領域を示した図である。高速モードでは、シアン、マゼンタ、イエローの全ノズル列について、全領域が使用領域になっている。図3のステップR7ではこのように使用ノズル領域を設定する。
【0029】
図5は、本実施例の高画質記録モードにおける記録状態を示す図である。本実施例の高画質記録モードは6パスのマルチパス記録であるので、各記録走査のたびに、記録媒体はノズル列の1/6すなわち2ブロック分ずつY方向に搬送される。図では、記録媒体に対するノズル列の位置を、各記録走査でY方向にずらしながら示している。ここで、記録媒体の1回の搬送量に対応した領域(2ブロック分の領域)を単位領域として定義すると、各単位領域は、記録ヘッド201による往路走査と復路走査の計6回の記録走査で、画像が完成されている。
【0030】
図において、第1の単位領域に着目すると、当該単位領域は第1記録走査から第6記録走査によって、記録が行われている。具体的に説明すると、第1記録走査では往路走査でマゼンタが付与され、第2記録走査では復路走査でイエローとマゼンタが付与されている。第3記録走査では、往路走査でイエローとマゼンタが付与され、第4記録走査では復路走査でシアンとイエローが付与されている。また、第5記録走査では往路走査でシアンが付与され、第6記録走査では復路走査でシアンが付与されている。つまり、第1の単位領域は、マゼンタ→イエローとマゼンタ→イエローとマゼンタ→シアンとイエロー→シアン→シアンの順でインクが付与されている。
【0031】
一方、第1の単位領域に隣接する第2の単位領域に着目すると、当該単位領域は第2記録走査から第7記録走査によって記録が行われている。具体的に説明すると、第2記録走査では復路走査でマゼンタが付与され、第3記録走査では往路走査でイエローとマゼンタが付与されている。第4記録走査では、復路走査でイエローとマゼンタが付与され、第5記録走査では往路走査でシアンとイエローが付与されている。また、第6記録走査では復路走査でシアンが付与され、第7記録走査では往路走査でシアンが付与されている。つまり、第2の単位領域も、マゼンタ→イエローとマゼンタ→イエローとマゼンタ→シアンとイエロー→シアン→シアンの順でインクが付与されている。
【0032】
このように、第1単位領域と第2単位領域のどちらについても、インクが付与される工程は、マゼンタ→イエローとマゼンタ→イエローとマゼンタ→シアンとイエロー→シアン→シアンと一定である。また、第3、第5、第7といった奇数番目の単位領域は第1単位領域と同じ工程で記録走査が行われ、第4、第6、第8といった偶数番目の単位領域は第2単位領域と同じ工程で記録走査が行われている。すなわち、図4(a)で説明した使用ノズル領域で、図5のような6パス双方向記録を行うと、全ての単位領域でインクの付与順序を統一することが出来る。
【0033】
図6(a)および(b)は、図4(a)および5で示した本実施例の高画質モードに対する比較例である。図6(a)は比較例における使用ノズル領域を示し、図6(b)は比較例における記録状態を示している。
【0034】
図6(a)を参照するに、比較例においても、全ノズル列において連続した6つのブロックが使用ノズル領域となっており、Y方向における位置はノズル列ごとに異なっている。ここで、シアンのノズル列とマゼンタのノズル列の使用ノズル領域は図4(a)で示した本実施例と同様であるが、イエローのノズル列の使用ノズル領域は、本実施例とは異なっている。本実施例ではイエローのノズル列の、最上位から5番目〜10番目のブロックが使用ノズル領域になっているが、比較例では、最上位から4番目〜9番目のブロックが使用ノズル領域となっている。
【0035】
このような比較例においても、6パスのマルチパス記録によって、図6(b)のように画像を記録することが出来る。そして、各単位領域については、インクの付与工程を統一させることが出来る。しかし、図6(b)の場合、1つの単位領域に、異なる付与工程で記録が行われる2つの領域が含まれてしまっている。
【0036】
具体的に説明する。図6(b)を参照するに、第1の単位領域に着目すると、当該単位領域は第1記録走査から第6記録走査によって、記録が行われている。但し、第1の単位領域に含まれるA領域とB領域では、インクの付与工程が異なっている。A領域では、第1記録走査の往路走査でマゼンタが付与され、第2記録走査では復路走査でイエローとマゼンタが付与されている。第3記録走査では、往路走査でイエローとマゼンタが付与され、第4記録走査では復路走査でシアンとイエローが付与されている。また、第5記録走査では往路走査でシアンが付与され、第6記録走査では復路走査でシアンが付与されている。
【0037】
これに対し、B領域では、第1記録走査の往路走査でマゼンタが付与され、第2記録走査では復路走査でマゼンタが付与されている。第3記録走査では、往路走査でイエローとマゼンタが付与され、第4記録走査では復路走査でシアンとイエローが付与されている。また、第5記録走査では往路走査でシアンとイエローが付与され、第6記録走査では復路走査でシアンが付与されている。
【0038】
すなわち、第2の記録走査においてA領域ではイエローとマゼンタが付与されるのに対し、B領域ではマゼンタのみが付与されている。また、第5の記録走査において、A領域ではシアンのみが付与されているのに対し、B領域ではシアンとイエローが付与されている。その結果、A領域のインクの付与工程は、マゼンタ→イエローとマゼンタ→イエローとマゼンタ→シアンとイエロー→シアン→シアンとなり、B領域ではマゼンタ→マゼンタ→イエローとマゼンタ→シアンとイエロー→シアンとイエロー→シアンとなる。このように、図6(a)で説明した使用ノズル領域で、図6(b)のような6パス双方向記録を行うと、全ての単位領域でインクの付与順序を統一することが出来なくなる。
【0039】
以上説明したような本実施例と比較例の差は、シアンやマゼンタに対する、イエローのノズル列の使用ノズル領域の設定の違いに起因する。すなわち、比較例においては、シアンとイエローの重複領域やマゼンタやイエローの重複領域が、記録媒体の搬送量の整数倍になっていないことから、1つの単位領域においてインク付与工程の異なる領域Aと領域Bが生成されてしまうのである。本発明者らは、鋭意検討の結果、このような現象に着目した。そして、複数のノズル列の使用ノズル領域を部分的に重複させる場合であっても、互いの重複領域が搬送ピッチと同調するように使用ノズル領域を設定すれば、全ての単位領域でインクの付与工程を統一させることが出来るという知見に至った。
【0040】
このような見解の下、本実施例の高画質モードでは、図4(a)のように、シアンとイエローの重複領域を2ブロック、マゼンタとイエローの重複領域を4ブロックとし、どちらも2ブロック分の搬送量の整数倍になるように設定した。これに対し比較例では、図6(a)のように、シアンとイエローの重複領域が3ブロック、マゼンタとイエローの重複領域が3ブロックとなり、どちらも2ブロック分の搬送量の整数倍にはなっていない。
【0041】
図7(a)〜(c)は、本実施例に適用可能な使用ノズル列の設定形態と、本実施例に適用することの出来ない使用ノズル列の設定形態の別例を示した図である。図7(a)では、シアンとイエローの重複領域が4ブロック、マゼンタとイエローの重複領域が2ブロックとなり、どちらも搬送量の整数倍になっている。よって、本実施例に適用可能な使用ノズル列の設定形態となる。一方、図7(b)では、シアンとイエローの重複領域が1ブロック、マゼンタとイエローの重複領域が5ブロックとなり重複領域が搬送量の整数倍になっていない。また、図7(c)は、シアンとイエローの重複領域が5ブロック、マゼンタとイエローの重複領域が1ブロックとなり、やはり重複領域が搬送量の整数倍になっていない。よって、図7(b)および(c)のような形態は、どちらも本実施例に適用することは出来ない。
【0042】
以上説明したように、本実施例においては、6パス双方向のマルチパス記録を行う高画質モードにおいて、複数のノズル列の使用ノズル領域を部分的に重複させながら、各ノズル列間の使用ノズル領域の重複領域を搬送量の整数倍になるように設定した。これにより、複数のノズル列の使用ノズル領域を搬送方向に互いに重複させる構成であっても、インクの付与工程のばらつきに伴う色むらや光沢むらを回避することが可能となった。
【実施例2】
【0043】
本実施例においても、図1および図2で説明したインクジェット記録装置を使用する。但し、本実施例では、上述した第1実施例の構成に加え、個々のノズル列のY方向の記録位置ずれも補正する。
【0044】
図1のように主走査方向(X方向)に複数のノズル列が並列配置されているインクジェット記録装置では、製造時の誤差などによって、個々のノズル列のY方向の位置に数画素程度のずれ(縦レジずれ)が生じてしまうことがある。このような場合、Y方向の同じ位置に記録を行っても、インク色間で記録位置にズレが生じてしまう。そこで、このような画像上のズレを補正するために、多くのインクジェット記録装置では、X方向に連続するラスタデータを実際に記録させるノズルの位置を、Y方向にシフトさせる構成が用意されている。このような記録位置ずれの調整をノズル列ごとに行うことにより、全インク色のY方向の記録位置を記録媒体上で一致させることが可能となる。
【0045】
図8(a)〜(c)は、2つのノズル列のY方向の記録位置ずれ量を検出するためのテストパターンの一例を示す図である。ここで、グレー丸は第1のノズル列で記録したドット、白丸は第2のノズル列で記録したドットを示している。テストパターンでは、図8(a)〜(c)のように、第1のノズル列の記録位置は固定したまま、第2のノズル列の記録位置をY方向に1画素ずつずらした複数のパターンを記録する。そして、例えばユーザの目視判断や備え付けの濃度センサの検出結果に基づいて、最も濃度が高いすなわち最も白紙領域が少ないパターンを選択する。ここでは、図8(a)が選択されることになる。そして、その後は、選択されたパターンの補正量(シフト量)を用いて実際の記録を行っていく。
【0046】
図9は、記録開始コマンドが入力された際に、本実施例の記録制御部500が実行する記録モードおよび使用ノズル領域を設定する工程を示すフローチャートである。
【0047】
記録開始コマンドが入力されると、記録制御部500は、ステップS1において、インターフェース400を介して画像データを受信し、これを一度DRAM403に記憶する。そして、ステップS2では、画像データのヘッダを解析し、設定された記録モードを取得する。
【0048】
続くステップS3では、取得した記録モードが高画質モードであるか高速モードであるかを判断する。高画質モードである場合はステップS4へ進み、高速モードである場合はS5へ進む。
【0049】
ステップS4では、上述した方法に従って予め取得されメモリに格納されている縦レジの補正値を取得する。その後ステップS5へ進み、高画質モードに準じ、記録方法を6パス双方向マルチパス記録に設定する。続くステップS6では、ステップS4で取得した縦レジ調整値とステップS5で設定した記録モードとから、各インク色のノズル列の適切な使用ノズル領域を求め、設定する。
【0050】
一方ステップS7では、高速モードに準じ、記録方法を2パス双方向マルチパス記録に設定し、続くステップS8では、実施例1と同様、図4(b)のように全ノズル列について全領域を使用領域に設定する。以上で本処理が終了する。
【0051】
図10(a)および(b)は、ステップS6における、使用ノズル領域の設定方法を説明するための図である。ここではイエローのノズル列がマゼンタのノズル列に対し、Y方向にdだけずれている状態を示している。
【0052】
図10(a)は、このような記録位置ずれを含んだまま、実施例1と同様の記録を行った場合の、各ノズル列の記録位置を示している。イエローの使用ノズル領域は最上位から5番目〜10番目のブロック、マゼンタの使用ノズル領域は最上位から7番目〜12番目のブロックとなっており、2つのノズル列の重複領域はデータ上は4ブロック分となっている。しかし、実際にはイエローのノズル列とマゼンタのノズル列はdだけずれているので、記録媒体での重複領域は4ブロック−dとなり、搬送量(2ブロック)の整数倍にはなっていない。すなわち、このまま6パス双方向のマルチパスを行うと、単位領域の中にインクの付与工程の異なる領域が発生してしまう。
【0053】
一方、図10(b)は、ステップS4で取得した縦レジ調整値に基づいて、使用ノズル領域を設定した場合の、各ノズル列の記録位置を示している。この場合、イエローの使用ノズル領域は、最上位から5番目〜10番目のブロックに対し、dだけシフトした位置に設定されている。このように使用ノズル領域を設定すると、記録媒体での重複領域は丁度4ブロックとなり、搬送量(2ブロック)の整数倍になる。
【0054】
図11(a)および(b)は、本実施例の高画質記録モードにおいて、縦レジ補正値を反映した場合と反映しなかった場合の記録状態を示す図である。縦レジ補正値を反映せず、使用ノズル領域を図10Aのように設定した場合、記録媒体での記録状態は図11(a)のようになる。単位領域の中に記録工程の異なる2つの領域が発生してしまい、色むらや光沢むらが招致されてしまう。
【0055】
一方、縦レジ調整値を反映し、使用ノズル領域を図10(b)のように設定した場合、記録媒体での記録状態は図11(b)のようになる。単位領域の中に記録工程の異なる領域が発生せず、色むらや光沢むらは招致されない。
【0056】
なお、本実施例の高速モードでは、記録位置ずれ補正を行っていないので記録位置ずれは発生してしまうことになる。これは、高速モードでは記録位置ずれに伴う画像品位の低下よりも、記録速度の向上を重視するためである。しかしながら、例えば2パスの双方向記録モードであっても、数ノズル分の非使用ノズルの存在を認めれば、使用ノズル領域の設定幅を数画素分の範囲で調整することが可能となる。このようすれば、実施例1で説明した2パス双方向の高速記録モードを、記録位置ずれを補正した状態で行うことが出来る。
【0057】
以上説明したように、本実施例においては、6パス双方向のマルチパス記録を行う高画質モードにおいて、複数のノズル列の使用ノズル領域を、Y方向の記録位置ずれを調整した上で、各色の使用ノズル領域の重複領域を搬送量の整数倍になるように設定した。これにより、Y方向の記録位置が互いにずれている複数のノズル列を使用する場合であっても、インクの付与工程のばらつきに伴う色むらや光沢むらを緩和することが可能となった。
【0058】
なお、以上では4色のインクを用いたカラーインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。複数のノズル列を主走査方向に配列したシリアル型のインクジェット記録装置であれば、ノズル列が2列であっても4列以上であっても、上記実施例を応用することが出来る。
【0059】
また、以上では、説明を簡単にするため、6パス双方向の高画質モードを2パス双方向の高速モードについて説明したが、無論本発明は更に多くの記録モードを有するインクジェット記録装置に適用することが出来る。どのような定義の記録モードであっても、複数のノズル列の重複領域が搬送量の整数倍になっているように個々のノズル列の使用ノズル領域を設定すれば、上記高画質モードで説明した効果を得ることは出来る。
【符号の説明】
【0060】
201 記録ヘッド
401 MPU
402 ROM
403 DRAM
404 ゲートアレイ
500 記録制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが所定の方向に配列されてなるノズル列の複数を、記録媒体に対して移動させる記録走査と、前記所定の方向に前記記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
記録モードを設定する手段と、
前記ノズル列における前記記録媒体の中央の領域への記録に使用する使用ノズルを、設定された前記記録モードに従って、前記複数のノズル列ごとに設定する設定手段と、
前記設定手段によって設定された使用ノズル領域からインクを吐出しながら前記複数のノズル列を前記所定の方向と交差する方向に移動させることにより、前記記録走査を実行する手段と、
所定量の搬送量だけ前記記録媒体を前記所定の方向に搬送する、前記搬送動作を実行する手段と
を備え、
前記設定手段は、前記複数のノズル列の前記設定された前記使用ノズルが配置されている領域の間の前記所定の方向における重複領域の長さが、前記搬送量に対応する長さの整数倍になるように、前記複数のノズル列それぞれにおける前記使用ノズルを設定することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録媒体における前記所定の方向の記録位置を調整するための補正値を、前記複数のノズル列ごとに取得する取得手段を更に備え、
前記設定手段は、設定された記録モードと、前記取得手段によって取得された前記補正値に従って、前記複数のノズル列間の前記使用ノズル領域の前記所定の方向における重複領域が、前記搬送量の整数倍になるように、前記使用ノズル領域を前記複数のノズル列のそれぞれで設定することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記複数のノズル列は、互いに異なる色のインクを吐出する3以上のノズル列であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記複数のノズル列は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを吐出する4列のノズル列であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記中央の領域は前記記録媒体の中心を含む領域であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
複数のノズルが所定の方向に配列されてなるノズル列の複数を、記録媒体に対して移動させる記録走査と、前記所定の方向に前記記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
記録モードを設定する工程と、
前記ノズル列における前記記録媒体の中央の領域への記録に使用する使用ノズルを、設定された前記記録モードに従って、前記複数のノズル列ごとに設定する設定工程と、
前記設定工程によって設定された使用ノズル領域からインクを吐出しながら前記複数のノズル列を前記所定の方向と交差する方向に移動させることにより、前記記録走査を実行する工程と、
所定量の搬送量だけ前記記録媒体を前記所定の方向に搬送する、前記搬送動作を実行する工程と
を有し、
前記設定工程は、前記複数のノズル列の前記設定された前記使用ノズルが配置されている領域の間の前記所定の方向における重複領域の長さが、前記搬送量に対応する長さの整数倍になるように、前記複数のノズル列それぞれにおける前記使用ノズルを設定することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録媒体における前記所定の方向の記録位置を調整するための補正値を、前記複数のノズル列ごとに取得する取得工程を更に有し、
前記設定工程は、設定された記録モードと、前記取得工程によって取得された前記補正値に従って、前記複数のノズル列間の前記使用ノズル領域の前記所定の方向における重複領域が、前記搬送量の整数倍になるように、前記使用ノズル領域を前記複数のノズル列のそれぞれで設定することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記複数のノズル列は、互いに異なる色のインクを吐出する3以上のノズル列であることを特徴とする請求項6又は7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記複数のノズル列は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを吐出する4列のノズル列であることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記中央の領域は前記記録媒体の中心を含む領域であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
コンピュータに、請求項6乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−56542(P2013−56542A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−179882(P2012−179882)
【出願日】平成24年8月14日(2012.8.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】