説明

インクジェット記録装置及び記録ヘッドの駆動方法

【課題】駆動周波数を低下させることなく、すなわち高速で、より小液滴を、安定して吐出することのできるインクジェット記録装置及び記録ヘッドの駆動方法を提供する。
【解決手段】駆動信号として、少なくとも圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルスと、第1の膨張パルスに続いて圧力室の容積を収縮させる収縮パルスと、収縮パルスに続いて圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスで構成され、第1の膨張パルスにより発生させられた最初の負圧のピーク値をM1、最初の負圧のピーク値M1に続く正圧のピーク値をP1、正圧のピーク値P1に続く負圧のピーク値をM2、としたとき、正圧のピーク値P1の位置が、1.45AL以下であり、かつ、
|M1/P1|≧0.45
を満足するインクジェット記録装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録装置及び記録ヘッドの駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノズルから微小なインク滴を吐出して記録媒体に着弾させることにより画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
近年、より高画質の画像を記録するために、ノズルの高密度化やインク滴の小液滴化が進められている。小液滴化すなわち記録ドット径を小さくする方法として、従来から、ノズル開口に連通する圧力室を、まず膨張させてから収縮させるという、所謂Pull−Push方式を用いることが一般に知られている。この方式によれば、インク滴の質量を少なくできるので、記録ドット径を小さくすることが可能であるといわれている。
【0004】
このPull−Push方式を用いたインクジェット記録装置として、圧電素子に電圧V1を時間t1印加して圧力室の容積を膨張させ、次いで電圧V2を時間t2印加して圧力室の容積を収縮させ、次いで電圧V3を時間t3印加して圧力室の容積を膨張させる駆動手段を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4161631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているような収縮パルス幅で駆動を行うと駆動パルスのエッジで発生する圧力波振動をうまく打ち消すことができず、圧力室内の残留振動が大きくなる。したがって、このままでは高周波駆動することは難しい。また、上記特許文献1の実施例では、最後に残留振動をキャンセルするための第2の収縮パルスを加えている。しかし、第2の収縮パルスを加えることにより波形全体が長くなり、駆動周波数の低下につながる。また、特許文献1の実施例に記載されているように第2収縮パルスを加えず、t2+t3=AL(AL:圧力室の音響的共振周期の1/2)としても十分残留振動を消滅させることができず、結果として駆動安定性が大きく低下する。駆動の十分な安定性を得ようとすると次の駆動までに残留振動が収まるまで十分な時間を空けなければならず、結果として駆動周波数が低下する。
【0007】
本発明は上記問題に鑑み、駆動周波数を低下させることなく、すなわち高速で、より小液滴を、安定して吐出することのできるインクジェット記録装置及び記録ヘッドの駆動方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、下記の構成により達成される。
【0009】
(1)駆動信号の印加により動作する圧力発生手段と、該圧力発生手段の動作により容積が膨張または収縮する圧力室と、該圧力室に連通したノズルと、を有する記録ヘッドと、駆動信号を発生させる駆動信号生成手段と、を有し、前記駆動信号生成手段からの駆動信号を前記圧力発生手段に印加することで前記圧力室の容積を膨張または収縮させ、前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録装置において、
前記駆動信号は、少なくとも前記圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルスと、該第1の膨張パルスに続いて前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルスと、該収縮パルスに続いて前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスで構成され、
前記駆動信号の各パルスの総和作用で発生させられた、前記圧力室内の最初の負圧のピーク値をM1、該最初の負圧のピーク値M1に続く正圧のピーク値をP1、該正圧のピーク値P1に続く負圧のピーク値をM2、としたとき、
前記駆動信号生成手段は、
前記正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から、1.45AL以下の時点であり、かつ、
|M1/P1|≧0.45
を満足するように、所定のパルス幅、とパルス電圧値を持った各パルスを発生することを特徴とするインクジェット記録装置。
【0010】
AL:圧力室の音響的共振周期の1/2
(2)前記駆動信号は前記正圧のピーク値P1と前記負圧のピーク値M2の関係が、
|M2/P1|<0.5
を満足するように決められていることを特徴とする前記(1)に記載のインクジェット記録装置。
【0011】
(3)前記記録ヘッドはシェアモード型の記録ヘッドであることを特徴とする前記(1)又は前記(2)に記載のインクジェット記録装置。
【0012】
(4)前記第1の膨張パルスのパルス幅が1ALであり、前記収縮パルスのパルス幅が0.3AL以下であることを特徴とする前記(1)から前記(3)までのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【0013】
(5)前記ALが、4μsec以下であることを特徴とする前記(1)から前記(4)までのいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0014】
(6)駆動信号の印加により動作する圧力発生手段と、該圧力発生手段の動作により容積が膨張または収縮する圧力室と、該圧力室に連通したノズルと、を有する記録ヘッドの駆動方法において、
少なくとも前記圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルスと、該第1の膨張パルスに続いて前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルスと、該収縮パルスに続いて前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスで構成される前記駆動信号を生成し、前記駆動信号の各パルスの総和作用で発生させられた最初の負圧のピーク値をM1、該最初の負圧のピーク値M1に続く正圧のピーク値をP1、該正圧のピーク値P1に続く負圧のピーク値をM2、としたとき、
前記駆動信号が、
前記正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から1.45AL以下の時点であり、かつ、
|M1/P1|≧0.45 (AL:圧力室の音響的共振周期の1/2)
を満足するように、所定のパルス幅、とパルス電圧値を持った各パルスから構成されることを特徴とする記録ヘッドの駆動方法。
【0015】
(7)前記正圧のピーク値P1と前記負圧のピーク値M2の関係が、
|M2/P1|<0.5
を満足することを特徴とする前記(6)に記載の記録ヘッドの駆動方法。
【0016】
(8)前記第1の膨張パルスのパルス幅が1ALであり、前記収縮パルスのパルス幅が0.3AL以下であることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の記録ヘッドの駆動方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、駆動周波数を低下させることなく、すなわち高速で、より小液滴を、安定して吐出することのできるインクジェット記録装置及び記録ヘッドの駆動方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ライン型のインクジェット記録装置の構成を示す模式図である。
【図2】記録ヘッドユニットの記録ヘッドの配置例を示す図である。
【図3】記録ヘッドの外形、吐出幅及び千鳥配置の関係を示す図である。
【図4】記録ヘッドを示す図である。
【図5】シェアモード型の記録ヘッドのインク吐出時の作動を示す図である。
【図6】インクジェット記録装置のノズルからのインク滴の吐出の課程を示す図である。
【図7】実施例1の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図8】実施例2の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図9】実施例3の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図10】実施例4の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図11】比較例1の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図12】比較例2の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図13】比較例3の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図14】比較例4の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【図15】比較例5の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
<インクジェット記録装置>
図1は、ライン型のインクジェット記録装置1の構成を示す模式図である。
【0021】
図1に示すように、ロール状に巻かれた長尺状の記録媒体10は、図示しない駆動手段により巻き出しロール10Aから矢印X方向に繰り出され搬送される。長尺状の記録媒体10はバックロール20に巻回され支持されながら搬送される。記録ヘッドユニット30よりインクが記録媒体10に向け吐出され、画像データに基づいた画像形成が行われる。記録ヘッドユニット30は、記録媒体幅方向の吐出幅に対応した複数の記録ヘッド31を有している。なお、記録ヘッド31が記録媒体幅方向に移動可能となされ、記録媒体幅方向に移動しながら、インクを記録媒体10に向け吐出する構成であってもよい。
【0022】
インクは、記録ヘッド31のインクの背圧を調整する中間タンク40から複数のインクチューブ43を介して記録ヘッド31毎に供給される。なお、本説明において、図中のインクチューブ43は、複数のインクチューブである。中間タンク40へのインク供給は、インクを貯留する貯留タンク50から供給管51の途中に配設された送液ポンプPで行われる。記録ヘッドユニット30により画像が形成された記録媒体10は、乾燥部90で乾燥が行われ、巻き取りロール10Bに巻き取られる。
【0023】
図2は、記録ヘッドユニット30の記録ヘッド31の配置例を示す図である。
【0024】
図2に示す記録ヘッドユニット30は、全ての記録ヘッド31がインクを一時的に貯留する中間タンク40(図1参照)に対して同じ高さに配置されている例である。1つの記録ヘッドで吐出できる吐出幅は記録ヘッドの外形寸法よりも狭いことから、隙間なく吐出するために複数の記録ヘッドを記録媒体搬送方向に対して千鳥配置している。図2に示す例では、記録媒体幅方向に吐出幅に対応した複数の記録ヘッドを2列の千鳥配置としている。
【0025】
図3は、記録ヘッド31の外形、吐出幅及び千鳥配置の関係を示す図である。記録ヘッド31の数及び千鳥配置の列数は、記録ヘッド31の吐出幅等により適宜設定されるものであり、この例に限定されるものではない。
【0026】
図4は、記録ヘッド31を示す図である。図4(a)はシェアモード型の記録ヘッド31のヘッドチップ310の一部断面で示す斜視図、図4(b)はチャネル配列方向からみた断面図である。
【0027】
図5は、シェアモード型の記録ヘッド31のインク吐出時の作動を示す図である。
【0028】
図4において、43はインクチューブ、22はノズル形成部材、23はノズル、24はカバープレート、25はインク供給口、26は基板、27は隔壁、Lは圧力室の長さ、Dは圧力室の深さ、W(図5参照)は圧力室の幅である。そして、圧力室28が隔壁27、カバープレート24及び基板26によって形成されている。
【0029】
記録ヘッド31は、図5に示すように、カバープレート24と基板26の間に、圧力発生手段であるPZT等の圧電材料からなる複数の隔壁27A、27B、27C、27Dで隔てられた圧力室28が多数並設されている。図5では多数の圧力室28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されている。圧力室28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)はインク供給口25を経て、インクチューブ43によって図示されていないインクタンクに接続されている。そして、各圧力室28内の隔壁27表面には両隔壁27の上方から基板26の底面に亘って繋がる電極29A、29B、29Cが密着形成され、各電極29A、29B、29Cは、異方導電性フィルム78とフレキシブルケーブル6を介して、駆動信号生成手段100に接続されている。
【0030】
各隔壁27は、ここでは図5の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bによって構成されているが、圧電材料は例えば符号27aの部分のみであってもよく、隔壁27の少なくとも一部にあればよい。
【0031】
駆動信号生成手段100は、複数の駆動パルスを含む一連の駆動信号を一画素周期毎に発生する駆動信号発生回路(図示せず)と、各圧力室毎に前記駆動信号発生回路から供給された駆動信号の中から各画素の画像データに応じて駆動パルスを選択して各圧力室に供給する駆動パルス選択回路(図示せず)とからなり、各画素の画像データに応じて圧力発生手段としての隔壁27を駆動するための駆動信号である駆動パルスを供給する。
【0032】
画像データを受信すると、制御部(図示せず)が記録媒体の搬送手段を制御すると共に、駆動信号発生回路に少なくとも圧力室28の容積を膨張させるパルスと圧力室の容積を収縮させるパルスを含む駆動パルスを有する駆動信号を発生させる。さらに、制御部は、画像データに基づいて、駆動パルス選択回路に選択すべき駆動パルスの情報を出力する。そして、駆動パルス選択回路は、上記情報に基づいて、駆動パルスを選択して隔壁27に供給する。これにより、記録ヘッド31のノズル23から、一画素周期内にインク滴を吐出させるようになっている。
【0033】
本実施の形態に係るインクジェット記録装置においては、隔壁27の駆動に際し、駆動信号生成手段100からの駆動信号が、圧力室28の容積を膨張させる第1の膨張パルスと、第1の膨張パルスに続いて圧力室28の容積を収縮させる収縮パルスと、収縮パルスに続いて圧力室28の容積を膨張させる第2の膨張パルスで構成され、各パルスのi番目の立ち上がりまたは立ち下がりエッジ部に対応する圧力室28内の液体の残留振動の圧力P(i)は、時間tに対して、次式で表せる。
【0034】
P(i)=Vi×Exp(−(t−ei)/τ)×Sin[2π×fr×(t−ei)]
ただし、τ:射出実験により求めた、固有の減衰定数
fr:1/(2AL)
AL:圧力室の音響的共振周期の1/2
Vi:駆動波形のi番目のエッジにおける電圧変化
P(i):駆動波形のi番目のエッジにより発生する圧力成分
ei:駆動波形のi番目のエッジが発生する時間
t:時間
従って、各パルスによって発生されるP(i)について各時間で総和ΣP(i)をとれば、圧力室28内の液体に掛かる圧力が求められる。前記各パルスの総和作用とは、このように各パルスの各エッジに対応する液体の残留振動の圧力が総和されて、実際の液体の圧力が形成されることを意味する。
【0035】
この圧力室内の液体に掛かる圧力で、第1の膨張パルスにより発生させられた最初の負圧のピーク値をM1、最初の負圧のピーク値M1に続く正圧のピーク値をP1、正圧のピーク値P1に続く負圧のピーク値をM2、としたとき、
正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印か開始から、1.45AL以下の時点であり、
|M1/P1|≧0.45
を満足することを特徴としている。
【0036】
なお、本願明細書でいう、第1の膨張パルスとは、実際の吐出に主に寄与する収縮パルスの前に与えられる駆動波形をいい、第2の膨張パルスとは収縮パルスの後に与えられるものをいう。これらパルスは、0.5μsec程度の時間の間に与えられる電圧変化であるステップパルスとして与えてもいいし、ある程度長い時間でただし一定の電圧変化方向でのスロープの電圧変化として与えてもよい。
【0037】
また、各パルスはオシロスコープなどの電気信号の形(波形)を表示するための計測器で計測して測定できる。
【0038】
また、上記の膨張−収縮−膨張の一連のパルスの前後には本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、主の収縮のパルスより弱い駆動パルス、つまり圧力波しか生じない範囲で他の収縮、または膨張のパルスを加えてもよく、例えばノズル付近のインクの乾燥による粘度増加の目詰まり、デキャップを目的とした、インク液面を揺らすための、いわゆる揺らし波形として、膨張−収縮を加えてもよい。
【0039】
また、同様に、連続で射出する際には、本発明の効果を損なわない範囲で連続してこれら波形を、5AL、6AL周期等で駆動することができる。
【0040】
上記のように駆動することにより、駆動周期を短く、すなわち高速で、より小液滴を、安定して吐出することができるようになる。
【0041】
図6は、インクジェット記録装置のノズルからのインク滴の吐出の課程を示す図である。同図(a)は1・AL後、同図(b)は略1.5・AL後、同図(c)は略2・AL後、同図(d)は5・AL後の状態を示している。
【0042】
まず、同図(a)に示すように、膨張パルスによって圧力室28の容積を膨張させ、1・AL後には、インク60はノズル23の面より引き込まれたメニスカス状態となる。次いで、同図(b)に示すように、略1.5AL後に液滴を形成しつつ、吐出を開始する。次いで、同図(c)に示すように、略2AL後にほぼ液滴の形成が終了し、次いで、同図(d)に示すように、略5AL後には液滴の吐出が終了する。
【0043】
本態様は、吐出に際し、液滴を引きちぎるように駆動パルス制御をおこなうことで小液滴化を行うものである。具体的には、圧力波の積分が速度となるので、1.5ALより前に圧力を与え、液滴をちぎるように駆動することで小液滴化を達成するものである。
【0044】
なお、本態様の「前記正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から、1.45AL以下の時点」にするには、まず、作製して得られたヘッドのALの大きさ程度の膨張パルスを加え、十分な負の圧力を加えた後に、収縮させて、かつ、この収縮パルスを好ましくは1/2ALより短い時間のうちに、また膨張させることでピーク値P1の位置を制御できる。
【0045】
更に好ましくは、1/4AL以内で膨張させることによって圧力波の位相を大きく変更し前記正圧のピーク値P1の位置を、第1膨張パルス印加開始から、1.3AL以下に変更して液量を小さくしやすくなる。
【0046】
ただし、これをあまり短くすると、図6(c)の引きちぎるためのタイミングが早すぎるために液滴柱がまだ太く、千切れにくくなる傾向があり、且つそのときに発生する総和の圧力波は、始めの負圧が反転し正圧になり加わるのだが、位相がずれすぎて総和の圧力が小さくなりすぎて、やはり千切れにくくなるし、電圧を高くする必要が出てくる。
【0047】
そのため、目的の小液滴を得るために、「前記正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から、1.45AL以下であり、かつ、
|M1/P1|≧0.45」
を同時に満たす必要がある。
【0048】
|M1/P1|は最初の膨張パルスと次の収縮パルスの比率、つまり駆動波形の電圧比を変えることで制御できる。ここで、第1の膨張パルスの電圧と、第2の膨張パルスの電圧は、駆動信号発生手段を簡素化するために、同一であることが好ましい。
【0049】
|M1/P1|を0.45以上にするには、第1の膨張パルス:収縮パルスの電圧比は2:1より小さくして、1:1に近づけていき、|M1/P1|の値を少しずつ大きくすることで可能である。
【0050】
しかし、単純に両パルスの電圧比を近づけて、収縮パルスの比率を大きくしすぎると、液滴量がだんだん押し出されて増えて行き、本発明の小液滴化の効果を得られにくくなる。
【0051】
つまり、これらを適宜制御して、本態様の条件を満足するように各パルスのパルス幅とパルス電圧値を決めることで始めて本発明の課題を達成できるのである。
【0052】
すなわち、第1の膨張パルス、収縮パルス、第2の膨張パルスの順で駆動する際に、収縮パルスを短く設定し、すなわち収縮パルス後に早めに第2の膨張パルスを与え、吐出の正方向の圧力波の途中で負方向の波を発生させて、液滴を引きちぎり、小液滴化を達成すると共に、過渡的に残留する圧力波を早期に減衰させ、安定した高周波駆動を可能とするものである。
【0053】
更に、「前記正圧のピーク値P1と前記負圧のピーク値M2の関係が、
|M2/P1|<0.5」
となるように制御することは、前記の膨張−収縮の、第2膨張パルスを短くすることで制御できる。このパルスを長くしすぎると液滴が大きくなる上に、吐出後のメニスカスのあふれが大きく、また高速安定性が劣るようになり好ましくない。
【0054】
なお、AL(Acoustic Length)とは、上述したように、圧力発生室の音響的共振周期の1/2である。このALは、電気・機械変換手段である隔壁27に矩形波のパルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。本実施形態の記録ヘッドのALは2.4(μs)であるが、この値は、ヘッドの構造やインクの粘度等に依存して決まるものである。
【0055】
また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの電圧の立ち上がり始め又は立ち下がり始めの10%から波高値電圧からの立ち下がり始め又は立ち上がり始めの10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0056】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて例証する。
【実施例】
【0057】
実験の、共通の条件を以下に示す。
記録ヘッド :図4に示す記録ヘッド(ノズル数:256、ノズル径:25μm)
AL :2.4μs
インク :溶剤インク
(粘度10mPa・s、表面張力28mN/m(25℃))
減衰定数 :7μs
駆動周期 :15KHz
駆動時間 :連続10秒
上記の条件で、以下に示す種々の駆動信号(駆動パルス)波形を与え、吐出実験を行った。
【0058】
なお、減衰定数は、以下のようにして求めた。
【0059】
上記条件のインクを用い、圧力波のキャンセルが最も良好で安定な射出のできる駆動信号波形とし、駆動周期を5・AL〜10・ALまで0.5・AL刻みで変化させて射出速度の変動を測定した。また、測定の際に膨張パルスと収縮パルスの電圧比を変化させ、各駆動周期のうち最も安定した電圧比を求めた。これらの結果、電圧比が、2:1のとき、駆動周期の変化に対し最も安定(±10%以内)し、即ち、このときに圧力波が最も減衰した。次に、これらの実験結果に相当する条件となる減衰定数τを求めた。
【0060】
より具体的には、上記の圧力室内の液体の残留振動の、時間tに対する圧力Pの変化の式に駆動信号波形、電圧比、ALの値を代入し、τを変化させて、計算結果の圧力波のキャンセルが最も良好な減衰定数τを求めた。
【0061】
以下の本実験におけるインク及び記録ヘッドは、減衰定数として、このようにして求めた7μsを用いた。
【0062】
(実施例1)
図7は、実施例1の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図7(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図7(b)は、図7(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0063】
なお、図7以降の図においては、時間−電圧値の駆動信号波形の図は、正電圧側が膨張パルス、負電圧側が収縮パルスである。
【0064】
実施例1は、第1の膨張パルスの幅を1・AL、収縮パルスの幅を0.2・ALとしたものである。
【0065】
なお、本例を含む以下の圧力波形の減衰を示す図は、前記駆動信号波形のi番目の立ち上がりまたは立下りエッジ部に対応する、圧力室内の液体の残留振動の、時間tに対する圧力の変化を、
P(i)=Vi×Exp(−(t−ei)/τ)×Sin[2π×fr×(t−ei)]
ただし、τ:射出実験により求めた、固有の減衰定数
fr:1/(2AL)
AL:圧力室の音響的共振周期の1/2
Vi:駆動波形のi番目のエッジにおける電圧変化
P(i):駆動波形のi番目のエッジにより発生する圧力成分
ei:駆動波形のi番目のエッジが発生する時間
t:時間
で表して、その総和ΣP(i)を図示したものである。
【0066】
図中Aが第1の膨張パルスにより発生させられた最初の負圧のピークであり、このピークの値がM1である。また、Bが最初の負圧のピークAに続く正圧のピークであり、このピークの値がP1である。また、Cは正圧のピーク値Bに続く負圧のピークであり、このピークの値がM2である。
【0067】
また、圧力波形の減衰を示す図においては、全て、正圧のピーク値P1を2として規格化して示してある。
【0068】
(実施例2)
図8は、実施例2の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図8(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図8(b)は、図8(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0069】
実施例2は、第1の膨張パルスの幅を1・AL、収縮パルスの幅を0.4・ALとしたものである。
【0070】
(実施例3)
図9は、実施例3の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図9(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図9(b)は、図9(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0071】
実施例3は、第1の膨張パルスの幅を1・AL、収縮パルスの幅を0.1・ALとしたものである。
【0072】
(実施例4)
図10は、実施例4の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図10(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図10(b)は、図10(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0073】
実施例4は、第1の膨張パルスの幅を1・AL、収縮パルスの幅を0.4・ALとし、第2の膨張パルスのあとに、更に収縮パルスを追加したものである。
【0074】
(比較例1)
図11は、比較例1の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図11(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図11(b)は、図11(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0075】
比較例1は、第1の膨張パルスの幅を1・AL、収縮パルスの幅を0.6・ALとしたものである。
【0076】
(比較例2)
図12は、比較例2の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図12(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図12(b)は、図12(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0077】
比較例2は、膨張パルスと収縮パルスの電位の絶対値を同じとし、第1の膨張パルスと第2の膨張パルスを1・ALとし、収縮パルスの幅を0.33・ALとしたものである。
【0078】
(比較例3)
図13は、比較例3の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図13(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図13(b)は、図13(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0079】
比較例3は、膨張パルスと収縮パルスの電位の絶対値を同じとし、第1の膨張パルスと第2の膨張パルスを1・ALとし、収縮パルスの幅を0.66・ALとしたものである。
【0080】
(比較例4)
図14は、比較例4の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図14(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図14(b)は、図14(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0081】
比較例4は、膨張パルスと収縮パルスそれぞれ1回のみとし、膨張パルスと収縮パルスを1・AL、膨張パルスと収縮パルス間に1・ALの無通電時間を挿入し、正圧のピークに続く負圧のピークを収縮パルスでキャンセルするようにしたものである。
【0082】
(比較例5)
図15は、比較例5の駆動信号波形と、この駆動信号が与えられたときの圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。図15(a)が駆動信号波形であり、横軸が時間、縦軸が電圧値である。図15(b)は、図15(a)に示す駆動信号波形を加えたときの、圧力室内の圧力波形の減衰を示す図である。
【0083】
比較例5は、膨張パルスと収縮パルスを連続させ、1回のみとし、膨張パルスを1・AL、収縮パルスを2・ALとし、膨張パルスと収縮パルスの電位の絶対値を2:1としたものである。
【0084】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜5の結果を、以下の(表1)にまとめて示す。
【0085】
なお、(表1)では、M1及びM2はそれぞれ、正圧のピーク値であるP1を2として規格化した値で示してある。
【0086】
また、液滴体積の測定は、上記条件で液滴を吐出させ、採取したインクを計量し1dotあたりの液滴体積に換算した。液滴体積の評価基準は、3pl以下を○とし、3plを超えるものを×とした。
【0087】
また、高速安定性は、上記実験条件の駆動周期及び駆動時間での吐出(15万回)を行った際の、不吐出回数の比率を算出した。評価基準は、不吐出回数が0%の場合を◎、1%未満の場合を○、1%〜5%未満の場合を△、5%以上の場合を×とした。
【0088】
【表1】

【0089】
(表1)に示したように、正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から、1.45AL以下の時点であり、かつ、|M1/P1|≧0.45、を共に満たす場合に、吐出の高速安定性と小液滴化の両立が可能なことがわかる。
【0090】
更に、上記条件下の実施例1〜4をみたとき、正圧のピーク値P1と負圧のピーク値M2の関係が、|M2/P1|<0.5、より好ましくは、|M2/P1|<0.3、にすることで、更なる高速安定性と小液滴化が達成できることがわかる。また、同様に、収縮パルスのパルス幅を0.3・AL以下とすることで、更なる高速安定性と小液滴化を達成できることがわかる。
【符号の説明】
【0091】
1 インクジェット記録装置
10 記録媒体
20 バックロール
23 ノズル
24 カバープレート
25 インク供給口
26 基板
27 隔壁
28 圧力室
30 記録ヘッドユニット
31 記録ヘッド
40 中間タンク
43 インクチューブ
50 貯留タンク
51 供給管
90 乾燥部
100 駆動信号生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号の印加により動作する圧力発生手段と、該圧力発生手段の動作により容積が膨張または収縮する圧力室と、該圧力室に連通したノズルと、を有する記録ヘッドと、駆動信号を発生させる駆動信号生成手段と、を有し、
前記駆動信号生成手段からの駆動信号を前記圧力発生手段に印加することで前記圧力室の容積を膨張または収縮させ、前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録装置において、
前記駆動信号は、少なくとも前記圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルスと、該第1の膨張パルスに続いて前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルスと、該収縮パルスに続いて前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスで構成され、
前記駆動信号の各パルスの総和作用で発生させられた、前記圧力室内の最初の負圧のピーク値をM1、該最初の負圧のピーク値M1に続く正圧のピーク値をP1、該正圧のピーク値P1に続く負圧のピーク値をM2、としたとき、
前記駆動信号生成手段は、
前記正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から、1.45AL以下の時点であり、かつ、
|M1/P1|≧0.45
を満足するように、所定のパルス幅、とパルス電圧値を持った各パルスを発生することを特徴とするインクジェット記録装置。
AL:圧力室の音響的共振周期の1/2
【請求項2】
前記駆動信号は前記正圧のピーク値P1と前記負圧のピーク値M2の関係が、
|M2/P1|<0.5
を満足するように決められていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドはシェアモード型の記録ヘッドであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1の膨張パルスのパルス幅が1ALであり、前記収縮パルスのパルス幅が0.3AL以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記ALが、4μsec以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
駆動信号の印加により動作する圧力発生手段と、該圧力発生手段の動作により容積が膨張または収縮する圧力室と、該圧力室に連通したノズルと、を有する記録ヘッドの駆動方法において、
少なくとも前記圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルスと、該第1の膨張パルスに続いて前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルスと、該収縮パルスに続いて前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスで構成される前記駆動信号を生成し、前記駆動信号の各パルスの総和作用で発生させられた最初の負圧のピーク値をM1、該最初の負圧のピーク値M1に続く正圧のピーク値をP1、該正圧のピーク値P1に続く負圧のピーク値をM2、としたとき、
前記駆動信号が、
前記正圧のピーク値P1の位置が、第1膨張パルス印加開始から1.45AL以下の時点であり、かつ、
|M1/P1|≧0.45 (AL:圧力室の音響的共振周期の1/2)
を満足するように、所定のパルス幅、とパルス電圧値を持った各パルスから構成されることを特徴とする記録ヘッドの駆動方法。
【請求項7】
前記正圧のピーク値P1と前記負圧のピーク値M2の関係が、
|M2/P1|<0.5
を満足することを特徴とする請求項6に記載の記録ヘッドの駆動方法。
【請求項8】
前記第1の膨張パルスのパルス幅が1ALであり、前記収縮パルスのパルス幅が0.3AL以下であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の記録ヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−25679(P2011−25679A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140260(P2010−140260)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】