説明

インクジェット記録装置及び記録方法

【課題】必要以上にスループットを低下させることなく、かつ供給可能電力量を最大限に用いる。
【解決手段】複数の記録素子を具備し、該記録素子に駆動パルスが与えられて電流が流れることによって記録を行う記録ヘッドを、記録媒体上を走査させることで当該記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、記録ヘッドの駆動条件を取得する駆動条件取得部401と、記録ヘッドの記録媒体上の1回の走査における任意の領域それぞれについて、記録を示すデータの数を検出する記録ドット数検出部402と、駆動条件取得部401にて取得された駆動条件と、ドット数検出部402にて検出されたデータの数とに基づいて算出される、1回の走査にて記録ヘッドに流れる電流値に応じて、インクジェット記録装置における記録媒体への記録方法を決定する記録方法制御部404とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及び記録方法に関し、特に、記録ヘッドに対する供給可能電力量を効率的に利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、ホストコンピュータから送られてくる画像データの内容によって記録量が大きく左右される。例えば、記録紙の同一ページ内においても、記録箇所に応じて記録密度に分布が存在する。この場合、記録ヘッドの駆動に必要な電力も記録密度に応じて変動する。この電力が記録装置の許容する電力量を超える場合、記録品質の低下等の弊害が発生する可能性がある。
【0003】
このような電力変動にも影響を受けず安定した記録を可能とするためには、比較的大きな容量の電源及びこの大容量電源の入出力に耐える回路を備えることが必要とされるが、このような記録装置は大型で高価なものとなる恐れがある。
【0004】
また、記録ヘッドがその記録装置にて許容される最大限の密度で記録するような画像は、全体のごくわずかに過ぎない。大半は、より低密度の画像を低周期の駆動出力で記録するものである。そこで、安価で小型化を実現しようとする記録装置では、所定範囲に対する記録ドット数に応じて記録方法を制御することによって、単位時間に消費する電力を制限する方法が採用されている。すなわち、低密度な画像データの場合には高速記録を保ち、高密度記録が必要な箇所においては記録品質を補償するような、別の記録方法が採用されている。
【0005】
例えば特許文献1には、複数の記録素子を紙送り方向に配列し、この記録素子列を紙送りと直交する方向に走査して記録を行う記録装置において電力を節約する記録方法が開示されている。ここでは、1行をn行ずつのブロックに分割し、記録素子を駆動するための記録素子駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、この駆動信号発生手段からの記録素子駆動信号を計数入力とし、各ブロック中に画像を記録するのに必要な記録ドット数を計数する計数手段と、この計数手段による各ブロックの計数値が予め設定した複数の段階のどの段階に含まれるかを検出する検出手段と、この検出手段の出力を受けて1行中において記録ドット数が最大となるブロックにおける計数手段の計数値の段階に応じてその1行の印字速度を選択する選択手段とを具備する記録装置が開示されている。この文献に開示される技術は、主にワイヤドット方式や、ラインプリンタを考慮して提案されたものであり、1行の印字速度を低下させることによって単位時間に消費する電力を低減させるものである。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術においては、1回の走査で記録可能な領域を分割してなる複数のブロック夫々について、記録を示すデータの数を検出し、このデータの数と複数の閾値とを比較する。この比較結果に基づき、記録ヘッドの走査速度及び記録走査数を決定する。これにより、電源の最大容量を超える電流が流れる画像を記録する場合に、複数の走査速度や分割記録態様の中から最適な記録方法を選択するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭62−41114号公報
【特許文献2】特開2006−7759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の技術は、走査中の記録ドット数をある領域ごとに検出することにより、電源の供給可能電力量を超えるかどうかを判定し、供給可能電力量を超えると判定された場合に、供給可能電力量を超えないような記録方法に変更する技術である。これは記録される画像の特性に応じて変化する電流値に着目して供給可能電力量と比較している。
【0009】
ところが、走査中に記録ヘッドに流す電流値は、画像の特性だけでなく、記録ヘッドの駆動条件によっても変化する。例えば、顔料インクを用いた場合、ヒータ上にコゲや堆積物等が付着していくことにより吐出効率が低下するため、初期状態に比べて経時的に駆動エネルギーを増加させることがある。そのため、同じ画像であっても初期状態と長期間使用された状態では、インクを吐出するために記録ヘッドに流す電流値は変化する。
【0010】
また、吐出性能を安定させるために、インクによっては高めの駆動エネルギーに設定する場合もあり、記録ヘッドに流れる電流値が変化する。さらに、記録ヘッド製造時のヒータ抵抗のばらつきによっても、記録ヘッドに流れる電流値を変化させる。
【0011】
しかしながら、上述した従来の技術においては、画像の特性による電力の変化にのみ着目しており、記録ヘッドの駆動条件は考慮していなかったため、電力が最大となる駆動条件を予め設定しておく必要があった。そのため、実際の電力量よりも検出される電力量が大きな値となり、本来供給可能電力量に余裕がある場合でも、必要以上にスループットを低下させることが起きていた。
【0012】
本発明は、上述したような従来の技術が有する課題に鑑みてなされたものであって、必要以上にスループットを低下させることなく、かつ供給可能電力量を最大限に用いることが可能なインクジェット記録装置及び記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、
複数の記録素子を具備し、該記録素子に駆動パルスが与えられて電流が流れることによって記録を行う記録ヘッドを、記録媒体上を走査させることで当該記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドの駆動条件を取得する駆動条件取得手段と、
前記記録ヘッドの記録媒体上の1回の走査における任意の領域それぞれについて、記録を示すデータの数を検出する記録ドット数検出手段と、
前記駆動条件取得手段にて取得された駆動条件と、前記ドット数検出手段にて検出されたデータの数とに基づいて算出される、1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値に応じて、前記インクジェット記録装置における記録媒体への記録方法を決定する記録方法制御手段とを有する。
【0014】
また、複数の記録素子を具備し、該記録素子に駆動パルスが与えられて電流が流れることによって記録を行う記録ヘッドを、記録媒体上を走査させることで当該記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置における記録方法であって、
前記記録ヘッドの駆動条件を取得する処理と、
前記記録ヘッドの記録媒体上の1回の走査における任意の領域それぞれについて、記録を示すデータの数を検出する処理と、
前記取得された駆動条件と、前記検出されたデータの数とに基づいて算出される、1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値に応じて、前記インクジェット記録装置における記録媒体への記録方法を決定する処理とを有する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明においては、画像の特性だけでなく、記録ヘッドの駆動条件を考慮して記録方法を決定しているため、記録ヘッドに流れる電流値を常に正確に検出することができ、無駄に画質やスループットが低下することなく、かつ供給可能電力量を最大限に用いることできる。特に、顔料インク等のヘッドの特性が経時変化しやすいプリンタの場合等において大きな効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の実施の一形態を示す模式図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の電気的構成を示すブロック図であり、(a)は全体のブロック図、(b)は(a)に示したCPUのブロック図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置における記録方法の一実施例を説明するためのフローチャートである。
【図4】吐出される最小パルス幅Pthから実際の駆動パルス幅への変換テーブルを示す図である。
【図5】記録素子のランクと記録素子に流れる電流値Iopとの関係を表すグラフであり、(a)は記録素子のランクと記録素子の抵抗値(Ω)との関係を表したグラフ、(b)は記録素子の抵抗値と記録素子に流れる電流値Iopとの関係を表すグラフである。
【図6】記録素子のランクから記録素子に流れる電流値を算出するための変換テーブルを示す図である。
【図7】ドットカウントのためのブロックを説明するための模式図である。
【図8】スキャン中に記録ヘッドに流れる電流値を算出するための、記録ヘッドの駆動条件を取得して更新するまでの処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
まず、本発明のインクジェット記録装置の全体的な構成及び動作について説明する。
【0019】
図1は、本発明のインクジェット記録装置の実施の一形態を示す模式図であり、記録媒体に記録を行う部分を示す。
【0020】
本形態は図1に示すように、記録を行う記録媒体1を、それぞれが一対のローラからなる搬送ローラ3,4で挟み込み、これら搬送ローラ3,4が回転することにより記録媒体1を副走査方向に移動させる構成となっている。記録ヘッド5はプラテン10に対向する面に吐出口を備えている。また、記録ヘッド5が着脱可能に取り付けられるキャリッジ6が、キャリッジ駆動手段(不図示)によってプーリ8a,8bが回転し、このプーリ8a,8bに掛け回されたベルト7によってガイドシャフト9に沿って動く。これにより、記録ヘッド5は、記録媒体1に対して走査(以下、主走査と称する)しながらインク滴を吐出する。なお、記録ヘッド5はインク供給装置(不図示)に結合され、インクが供給されている。プラテン10は記録ヘッド5の下方に設けられ、記録時には記録媒体1が、プラテン6と記録ヘッド5の間に位置するとともに、プラテン10に保持されることにより、記録媒体1と記録ヘッド5との間隔が適正になるように保持される。また、図1には示されていないが、このインクジェット記録装置は、記録媒体1を搬送ローラ3,4まで供給する記録媒体供給手段と、記録ヘッド5の吐出口周りの状態を適正に保つための回復手段と、記録が終わった記録媒体1を取り出す記録媒体排出手段とを備えている。
【0021】
上記のように構成されたインクジェット記録装置においては、記録開始の指令信号が入力されると、記録媒体供給手段(不図示)により記録媒体1が搬送ローラ3,4に供給され、その後、記録信号に応じて、搬送ローラ3,4によって記録媒体1上の記録開始位置が記録ヘッド5に対向する位置になるように記録媒体1が搬送される。続いて、キャリッジ6及びこれに取り付けられた記録ヘッド5が主走査しながら記録媒体1上にインク滴を吐出することにより記録が行われる。その後、搬送ローラ3,4によって記録媒体1が所定量搬送され(以下、この動作を、副走査と称する)、キャリッジ6及び記録ヘッド5が再び主走査を行いながら記録媒体1上にインク滴を吐出する。この副走査と主走査の繰り返しにより、記録媒体1に記録が行われた後、記録媒体1が排出される。なお、記録媒体1としては紙が良く用いられるが、その他の素材であっても構わない。また、OHPシートやコンパクトディスク、さらには、インクジェットを用いたDNAチップ製造装置やディスプレー製造装置の場合、それぞれに適した材質からなる基板であっても良い。
【0022】
図2は、図1に示したインクジェット記録装置の電気的構成を示すブロック図であり、(a)は全体のブロック図、(b)は(a)に示したCPU302のブロック図である。
【0023】
図1に示したインクジェット記録装置は図2(a)に示すように、ホストコンピュータ301に接続されたものであり、CPU302と、メモリ304と、入出力部305とを有している。さらに、インクジェット記録装置は、記録ヘッド駆動用ドライバ306と、モータ駆動用ドライバ307と、回復機構用ドライバ308と、記録ヘッド309と、キャリッジモータ310と、給紙モータ311と、搬送ローラ駆動モータ312とを有している。
【0024】
CPU302は、マイクロプロセッサ等で構成されており、入出力部305を介してホストコンピュータ301から入力された各種情報(例えば文字ピッチ、文字種類等)に従い、メモリ304に格納された制御プログラムを起動し、各駆動部を駆動させる。
【0025】
メモリ304は、本願発明における駆動条件記憶手段となるものであって、CPU302によって実行される制御プログラムや各種データを格納しているROMや、CPU302のワークエリアとして使用されると共に記録画像データ等の各種データの一時記憶等を行うRAM等によって構成されている。RAMは、CMYK夫々の2値の記録データを格納するためのプリントバッファを含む。各色のプリントバッファ夫々には、吐出を示す2値データと非吐出を示す2値データとで構成される各色の2値の記録データが格納される。プリントバッファに格納された各色の2値データはCPU302によって読み出され、読み出された各色の2値データは記録ヘッド309へ送信される。記録ヘッド309は、こうして送信された各色の2値データに基づいて記録を行う。
【0026】
入出力部305は、ホストコンピュータ301からの多値データを入力し、また、ホストコンピュータ301側へインクジェット記録装置の状態を出力する。入出力部305に入力された多値データは、CPU302によって上述した2値データに変換される。
【0027】
記録ヘッド駆動用ドライバ306は、CPU302からの駆動指令に従い、記録ヘッド309の駆動を制御する。
【0028】
記録ヘッド309は、図1に示した記録ヘッド5に相等するものであって、複数の記録素子(不図示)が所定方向に配列されてなり、この記録素子に駆動パルスが与えられて電流が流れることによって記録を行う。具体的には、記録素子としては電気熱変換素子等を用いることができる。電気熱変換素子は、通電することにより熱エネルギーを発生する。この熱によりインクが膜沸騰を起こし、これにより生じる気泡の圧力により吐出口からインクが吐出されることで記録が行われる。
【0029】
モータ駆動用ドライバ307は、キャリッジ6を駆動させるためのキャリッジモータ310や、記録媒体1を給紙するための給紙モータ311や、搬送路ローラ3,4を駆動させるための搬送ローラ駆動モータ312等、各種駆動部のモータの駆動をCPU302からの駆動指令に従い制御する。
【0030】
回復機構用ドライバ308は、吸引ポンプなどの回復機構を駆動させる。
【0031】
また、CPU302は図2(b)に示すように、駆動条件取得部401と、記録ドット数検出部402と、比較部403と、記録方法制御部404とを有している。
【0032】
駆動条件取得部401は、記録ヘッド309の記録素子に流れる電流値と、この記録素子に与えられる駆動パルスの幅とを記録ヘッド309の駆動条件として取得する。また、取得した記録ヘッド309の駆動条件をメモリ304に記憶し、規定の記録ドットカウント毎に、記録素子に流れる電流値と駆動パルスの幅とを取得し、メモリ304の内容を更新する。
【0033】
記録ドット数検出部402は、記録ヘッド309の記録媒体1上の1回の走査における任意の領域それぞれについて、記録を示すデータの数を検出する。
【0034】
比較部403は、記録ヘッド309の記録媒体1上の1回の走査にて記録ヘッド309に流れる電流値と、記録ヘッドに対する供給可能電力量に応じた閾値とを比較する。
【0035】
記録方法制御部404は、記駆動条件取得部401にて取得された駆動条件と、ドット数検出部402にて検出されたデータの数とに基づいて算出される、1回の走査にて記録ヘッド309に流れる電流値に応じて、インクジェット記録装置における記録媒体1への記録方法を決定する。具体的には、比較部403における比較結果において、上述した1回の走査にて記録ヘッド309に流れる電流値が上述した閾値を超えている場合、インクジェット記録装置における記録媒体1への記録方法を、記録ヘッド309に対する供給電力量が小さくなるようなものに変更する。
【0036】
(実施例1)
上述した構成に基づき、本発明の実施例について説明する。
【0037】
本実施例では、単一色のみの記録を実行する記録モードの説明を行う。詳しくは、記録ヘッド309の1回の走査で記録可能な単一色の配列幅に対応した記録媒体上の領域を分割してなる複数のブロックそれぞれについて、実際に記録されるドットの数をカウントする。そして、そのカウントされたドットの数と、その時の記録ヘッド309の駆動条件とに基づいてインクジェット記録装置における記録媒体への記録方法(具体的には、記録ヘッドの走査速度及び走査回数)を決定する。
【0038】
図3は、本発明のインクジェット記録装置における記録方法の一実施例を説明するためのフローチャートである。
【0039】
まず、駆動条件取得部401が、記録ヘッド309の駆動条件を取得する(ステップ101)。電力量に影響を与える記録ヘッド309の駆動条件は、主に駆動パルスの幅と記録素子に流れる電流値である。これらの値はメモリ304のROM内に格納されており、最適なタイミングで更新していく。以下に、駆動パルスの幅と記録素子に流れる電流値の取得の仕方について説明する。
【0040】
記録ヘッド309にとっての最適な駆動パルス幅Pwはインクの種類毎に異なり、さらにインクジェット記録装置の使用期間によっても変化する。各色それぞれの駆動パルスの幅は、インクを吐出するのに必要な最小のエネルギー量であるパルス幅Pthを基準にしてどれだけのエネルギーを与えるかで、予め設定されている。そのため、パルス幅Pthをプリンタ本体で実測することで、各色の駆動パルスの幅を見積ることが可能である。
【0041】
図4は、吐出される最小パルス幅Pthから実際の駆動パルス幅への変換テーブルを示す図である。
【0042】
図4に示すように、駆動パルス幅設定1〜3はそれぞれ、吐出される最小パルス幅Pthを基準にして1.2倍、1.3倍、1.4倍のパルス幅になるように設定されている。各色毎に駆動パルス幅設定1〜3が割り当てられており、各色の駆動パルスの幅を見積もることで、記録ヘッド309に流れる電流値を算出する。ただし、図4に示すテーブルの値は、あくまでも一例であり、本発明を限定するものではない。吐出される最小パルス幅Pthを実測する手法は特に制限を受けない。また、記録される画像によって記録ヘッド309の電圧降下分をパルス幅で補償するような制御を行う場合や、記録ヘッド309の温度によって吐出される最小パルス幅が変化する分をパルス幅で補償するような制御を行う場合は、そのパルス幅分も考慮することが望ましい。
【0043】
また、記録ヘッド309の記録素子に流れる電流値Iopは、おおよそ記録ヘッド309の製造時のヒータの抵抗値ばらつきによって決まっており、記録ヘッド309の製造時に記録ヘッド309内のROMに書き込まれるヒータ抵抗値Rに相当する記録素子のランクから算出することができる。
【0044】
図5は、記録素子のランクと記録素子に流れる電流値Iopとの関係を表すグラフであり、(a)は記録素子のランクと記録素子の抵抗値(Ω)との関係を表したグラフ、(b)は記録素子の抵抗値と記録素子に流れる電流値Iopとの関係を表すグラフである。
【0045】
このような記録素子のランクは、記録ヘッド309の製造時に記録素子の抵抗値に基づく量を記録ヘッド309内のROMに書き込み出荷される。
【0046】
記録素子に流れる電流値Iopは以下の関係式が成り立っている。
【0047】
Iop=E/R
ここで、Iop[A]:記録素子に流れる電流値、E[V]:記録素子に印加される電圧値、R[Ω]:記録素子の抵抗値とする。
【0048】
図5に示した関係により記録素子のランクから記録素子に流れる電流値が算出される。
【0049】
図6は、記録素子のランクから記録素子に流れる電流値を算出するための変換テーブルを示す図である。
【0050】
図6に示す変換テーブルをメモリ304内のROMに備えることにより、記録ヘッド毎に記録素子の抵抗値がばらつく場合においても、記録素子に流れる電流値を正確に求めることが可能となる。なお、図6に示すテーブルにおける値は、あくまでも一例であり、本発明を限定するものではない。
【0051】
次に、記録ドット数検出部402が、記録を示すデータの数となるブロック毎のドット数を検出する(ステップ102)。
【0052】
図7は、ドットカウントのためのブロックを説明するための模式図であり、ブラック用プリントバッファの内部の様子を示す。
【0053】
図7に示したものにおいては、プリントバッファには記録ヘッド309の1回の走査で記録可能な領域に対応するブラック用記録データが格納される。このブラック用記録データは、ブラックインクの吐出を示す2値データと非吐出を示す2値データとで構成される。ここでは、記録ヘッド309の1回の走査で記録可能な領域に対応する記録データとして、副走査方向640dot×主走査方向4800dot(600dpi)の領域に対応する記録データが格納されるものとする。
【0054】
幅(図7に示すものにおいては640dot)×主走査方向の記録範囲幅(図7に示すものにおいては4800dot)の領域を主走査方向にN個に分割することにより得られる単位領域を、ドットカウント単位である「ブロック」として定めている。本実施例においては、主走査方向の記録範囲幅8インチ(600dpiで4800ドット)をN=75で分割しており、1つのブロックの大きさは副走査方向640dot×主走査方向64dot(600dpi)となっている。各ブロックにおける縦640dot×横64dotの領域には、吐出“1”を示すデータあるいは非吐出“0”を示すデータが対応付けられている。
【0055】
S1〜SNは、1番目からN番目の各ブロックの吐出“1”のデータのみをカウントして得られる、記録を示すデータ数(駆動回数)の総和である。このようにブロック毎に記録を示すデータ(吐出“1”を示すデータ)をカウントする。
【0056】
記録を示すデータのカウント手法については特に制限を受けないが、ここでは、好適な一例について説明する。1番目からN番目の複数ブロックのうち、ドットカウント処理の対象となるブロックを注目ブロックとして選択する。次に、注目ブロックに格納されたブラック用記録データを所定の単位で読み出す。ここで、「所定の単位」がブロックの大きさに一致するのであれば、注目ブロックに格納されたブラック用記録データを1回だけ読み出す。そして、その読み出したデータのうち記録を示すデータの数をカウントすれば、そのカウント値が注目ブロックのドットカウント数となる。一方、「所定の単位」がブロックの1/Mの大きさ(例えば、16dot×16dot)に相当するのであれば、注目ブロックに格納されたブラック用記録データを所定の単位に分けてM回読み出す。そして、そのM回夫々において記録を示すデータの数をカウントし、これらM回のカウント値を加算する。その加算値が注目ブロックのドットカウント数となる(米国特許第6155663号明細書参照)。
【0057】
このように、記録ヘッド309の駆動条件と、各ブロックにおけるドットカウント数とによって算出される電流値は、単位時間当たりに記録ヘッド309に流れる電流値に相当する(ステップ103)。すなわち、記録ヘッド309の駆動条件と、各ブロックにおけるドットカウント数とに基づいて、1回の走査にて記録ヘッド309に流れる電流値が算出されることになる。
【0058】
そして、比較部403が、この電流値Iと、予め決められた単位時間あたりの記録ヘッド309への供給可能電力量に対応する閾値Imaxとを比較する(ステップ104)。これにより、単位時間あたりの記録ヘッド309の消費電力が、単位時間あたりの記録ヘッド309への供給可能電力量を超えるか否かを判定する。
【0059】
なお、スキャン中の電流値Iは以下の関係式により算出される。
【0060】
I=(Iop×Pw×Nnzl×Fop)/Npass
ここで、Iop[A]:記録素子に流れる電流値、Pw[s]:駆動パルス幅、Nnzl:駆動ノズル数、Fop[1/s]:駆動周波数、Npass:パス数とする。
【0061】
そして、単位時間あたりの記録ヘッド309に流れる電流量が、記録ヘッド309への供給可能電力量を超えている場合は、記録方法制御部404が、インクジェット記録装置における記録媒体への記録方法を変更する(ステップ105)。具体的には、供給可能電力量を超えないように記録ヘッド309に対する供給電力量が小さくなるような記録方法に変更する。例えば、記録ヘッド309への供給可能電力量を超えない記録方法とは、キャリッジスピードを低下させる方法や、走査回数を増やして記録する、分割記録方法等があり、供給可能電力量を超えなければ特に記録方法に制限はない。また、切り替える記録走査スピードをさらに複数段階用意したり、分割記録における分割数をさらに多く設定したりすることも可能である。この場合には、その数に応じて自由に記録方法の数も増やし、それぞれの条件で算出した閾値との比較を行い最終的な記録方法を決定すればよい。
【0062】
その後、変更した記録方法によって記録を開始する(ステップ106)。
【0063】
また、単位時間あたりの記録ヘッド309に流れる電流量が、記録ヘッド309への供給可能電力量を超えていない場合は、上述したような記録方法の変更を行わずに、通常の記録方法で記録を開始する。
【0064】
以上説明したように本実施例によれば、記録ヘッド309の駆動条件と、各ブロックにおけるドットカウント数とから記録ヘッド309に流れる電流値が正確に検出できるようになり、限られた電源容量を最大限に利用しつつ、極力画質と記録スピードを低下させない記録を実行することが可能となる。
【0065】
(実施例2)
実施例1では、ヘッド駆動条件と画像特性からスキャン中にヘッドに流れる電流値を算出して、それを供給可能電力量に応じた閾値と比較することで、記録方法を選択する方法を示した。実施例2では、例えば顔料インクのように、記録素子上にコゲや堆積物等が付着していくことにより、初期状態に比べて経時的に駆動条件が変化していく場合に関するものである。なお、本実施例は顔料インクのみに限ったものではなく、経時的にインクの吐出効率が変化するようなインクに対して有効である。
【0066】
図8は、スキャン中に記録ヘッドに流れる電流値を算出するための、記録ヘッドの駆動条件を取得して更新するまでの処理を説明するためのフローチャートである。
【0067】
記録ヘッド309の最適な駆動条件はインクの吐出回数に応じて変化していく。そのため、記録ドット数検出部402において累積記録ドット数をカウントしていき、既定のドット数を超えた場合に(ステップ201)、駆動条件取得部401において駆動条件を取得する。駆動条件取得部401においては、上記同様に、吐出する最小パルス幅を測定することにより駆動パルス幅を算出し(ステップ202)、また、記録素子の抵抗値を取得することにより記録素子に流れる電流値を取得する(ステップ203)。
【0068】
そして、駆動条件取得部401は、メモリ304内のROMに記憶されたヘッド駆動条件を更新する(ステップ204)。既定のドット数は、インクの特性を鑑みて設定し、特に吐出効率が大きく変化するインクに対しては、頻繁にヘッド駆動条件を更新していくのが望ましい。
【0069】
以上説明したように、記録ヘッド309の駆動条件が経時的に変化する場合においても、本実施例の構成をとることにより、常に、概ね正確なスキャン内電流値を検出することが可能となり、限られた電源容量を最大限に利用しつつ、極力画質と記録スピードを低下させない記録を実行することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1 記録媒体
3,4 搬送ローラ
5 記録ヘッド
6 キャリッジ
7 ベルト
8a,8b プーリ
9 ガイドシャフト
10 プラテン
301 ホストコンピュータ
302 CPU
304 メモリ
305 入出力部
306 記録ヘッド駆動用ドライバ
307 モータ駆動用ドライバ
308 回復機構用ドライバ
309 記録ヘッド
310 キャリッジモータ
311 給紙モータ
312 搬送ローラ駆動モータ
401 駆動条件取得部
402 記録ドット数検出部
403 比較部
404 記録方法制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子を具備し、該記録素子に駆動パルスが与えられて電流が流れることによって記録を行う記録ヘッドを、記録媒体上を走査させることで当該記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドの駆動条件を取得する駆動条件取得手段と、
前記記録ヘッドの記録媒体上の1回の走査における任意の領域それぞれについて、記録を示すデータの数を検出する記録ドット数検出手段と、
前記駆動条件取得手段にて取得された駆動条件と、前記ドット数検出手段にて検出されたデータの数とに基づいて算出される、1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値に応じて、前記インクジェット記録装置における記録媒体への記録方法を決定する記録方法制御手段とを有するインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記駆動条件取得手段は、前記記録素子に流れる電流値と、前記駆動パルスの幅とを前記記録ヘッドの駆動条件として取得し、
前記1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値と、当該記録ヘッドに対する供給可能電力量に応じた閾値とを比較する比較手段を有し、
前記記録方法制御手段は、前記比較手段における比較結果において、前記1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値が前記閾値を超えている場合、前記記録方法を、前記記録ヘッドに対する供給電力量が小さくなるようなものに変更するインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置において、
前記駆動条件取得手段にて取得された前記記録ヘッドの駆動条件を記憶する駆動条件記憶手段を有し、
前記駆動条件取得手段は、規定の記録ドットカウント毎に、前記記録素子に流れる電流値と前記駆動パルスの幅とを取得し、前記駆動条件記憶手段を更新するインクジェット記録装置。
【請求項4】
複数の記録素子を具備し、該記録素子に駆動パルスが与えられて電流が流れることによって記録を行う記録ヘッドを、記録媒体上を走査させることで当該記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置における記録方法であって、
前記記録ヘッドの駆動条件を取得する処理と、
前記記録ヘッドの記録媒体上の1回の走査における任意の領域それぞれについて、記録を示すデータの数を検出する処理と、
前記取得された駆動条件と、前記検出されたデータの数とに基づいて算出される、1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値に応じて、前記インクジェット記録装置における記録媒体への記録方法を決定する処理とを有する記録方法。
【請求項5】
請求項4に記載の記録方法において、
前記記録素子に流れる電流値と、前記駆動パルスの幅とを前記記録ヘッドの駆動条件として取得し、
前記1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値と、当該記録ヘッドに対する供給可能電力量に応じた閾値とを比較する処理を有し、
前記比較した結果において、前記1回の走査にて前記記録ヘッドに流れる電流値が前記閾値を超えている場合、前記記録方法を、前記記録ヘッドに対する供給電力量が小さくなるようなものに変更する記録方法。
【請求項6】
請求項5に記載の記録方法において、
前記取得された前記記録ヘッドの駆動条件を記憶手段に記憶する処理を有し、
規定の記録ドットカウント毎に、前記記録素子に流れる電流値と前記駆動パルスの幅とを取得し、前記記憶手段を更新する記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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