説明

インクジェット記録装置

【課題】 印刷品質を重視した印刷と、印刷速度を重視した印刷とを適宜選択する。
【解決手段】 ノズル開口からインク滴を吐出させるインク滴吐出用駆動信号と、ノズル開口からインク滴が吐出しない程度にメニスカスを、少なくとも2種類の強度により振動させるための第1、及び第2の微小振動誘起用駆動信号とを発生する駆動信号発生回路11と、印刷モードに対応して第1、または第2の微小振動誘起用駆動信号を圧力発生手段に印加する制御手段10とを備え、記録用紙に形成されたドットの目立ち易すさに応じてメニスカスの微小振動の強さを選択する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術の分野】本発明は、インクジェット記録ヘッドを用いた記録装置のノズル開口の目詰まり防止技術に関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェット記録ヘッドは、複数のノズル開口と、各ノズル開口に連通する圧力発生室とを備え、印刷信号に対応して圧力発生室を膨張、収縮させてインク滴を発生させる関係上、インク滴を吐出するノズル開口には新しいインクが順次供給されるため、目詰まりの虞がほとんどないものの、例えば上下端等のノズル開口のようにインク滴吐出の機会が極めて低いものは目詰まりを生じやすい。
【0003】このため、印刷動作を一定時間継続した場合には、記録ヘッドを非印刷領域のキャッピング手段まで待避させ、ここで圧電振動子に駆動信号を印加してキャップに向かってすべてのノズル開口からインク滴を吐出させる、いわゆるフラッシング動作の他に、印刷期間中に所定の周期でインク滴を吐出しない程度の微小な駆動信号を印加してノズル開口のメニスカスを振動させることが行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、フルカラー印刷に対応したインクジェット記録装置にあっては、黒、シアン、マゼンタ、イエロ、さらには濃色系、及び淡色系のものが使用され、各インクの組成が微妙に異なるため、メニスカスの微小振動により却って目詰まりに至るまでの時間を速めたり、また微小振動誘起用駆動信号はインク滴吐出用駆動信号間に印加する必要上、印刷のスループットを低下させる等の問題がある。本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは印刷品質を重視した印刷と、印刷速度を重視した印刷とを適宜選択することができインクジェット記録装置を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】このような問題を解消するために、ノズル開口からインク滴を吐出させるインク滴吐出用駆動信号と、ノズル開口からインク滴が吐出しない程度にメニスカスを、少なくとも2種類の強度により振動させるための第1、及び第2の微小振動誘起用駆動信号とを発生する駆動信号発生手段と、印刷モードに対応して第1、または第2の微小振動誘起用駆動信号を前記圧力発生手段に印加する制御手段とを備えるようにした。
【0006】
【作用】記録用紙に形成されたドットの目立ち易すさに応じてメニスカスの微小振動の強さを選択することにより、印刷品質を重視した印刷と、印刷速度を重視した印刷とを適宜選択することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。図1は、本発明のプリンタの印刷機構周辺の構造を示すものであって、キャリッジ1は、タイミングベルト2を介してパルスモータ3に接続されていて、ガイド部材4に案内されて記録用紙5の紙幅方向に往復動するように構成されている。
【0008】キャリッジ1の記録用紙5と対向する面には、圧電振動子や発熱素子により圧力発生室を加圧してブラック、イエロ、マゼンタ、シアンのインク滴をノズル開口から吐出するインクジェット記録ヘッド6が設けられ、インクタンク、この実施例では上面に着脱可能に設けられたインクカートリッジ7から各色のインクが供給される。
【0009】非印字領域には休止中に記録ヘッド6のノズル開口を封止する一方、印刷動作中に行なわれるフラッシング動作による記録ヘッド6からのインク滴を受けるキャッピング装置8が設けられている。
【0010】図2は、上述の記録ヘッド6を駆動する制御装置の一実施例を示すもので、制御手段10は、ホストからの印刷指令信号や印刷データを受けて後述する駆動信号発生回路11、ヘッド駆動回路12、及びキャリッジ駆動回路13を制御して記録ヘッドからインク滴を吐出させて印刷動作を実行させるとともに、微小振動記憶手段14のデータに基づいてメニスカスに少なくとも強弱2種類で微小振動させるものである。
【0011】駆動信号発生回路11は、記録ヘッド6からインク滴を吐出させるのに必要な電圧値V1の台形状のインク滴吐出用の駆動信号(図3(イ))と、メニスカスを微小振動させる微小振動誘起用駆動信号(図3(ロ)、(ハ))を発生するものである。
【0012】微小振動誘起用駆動信号は、図3(ロ)、(ハ)に示すごとく、基本的にはインク滴吐出用駆動信号(イ)と同様に台形状の信号として構成されているものの、インク滴を吐出させない程度の振動を誘起させるために電圧値V2、V3や勾配α’、α”が低く抑えられている。これらの電圧値V2、V3、勾配α’、α”は、微小振動記憶手段14に格納されていて、制御手段10がこのデータを参照して駆動信号発生回路11を制御することにより調整される。
【0013】つぎにこのように構成された装置の動作を、ノズル開口の目詰まり具合が印刷品質に大きく影響を与えるカラー印刷に例を採って説明する。外部装置から印刷データが入力すると、制御手段10は、印刷データの種類を判定し、■印刷用紙の種類、つまり普通紙か、カラー印刷用紙か■印刷に使用するドット径の大小を判定する。印刷モードの判定が終了してカラー印刷が開始されると、制御手段10は、印刷用紙とドット径により、強弱いずれかのメニスカスの微小振動を選択、設定する。すなわち、少なくともカラー印刷用紙が選択されていたり、大きな径のドットにより印刷するモードが選択されていて、個々のドットが目立ちやすい場合には、振幅の大きな微小振動をメニスカスに生じさせるように微小振動誘起用駆動信号を選択する。
【0014】この状態で印刷データが入力すると、駆動信号発生回路11により生成されたインク滴吐出用駆動信号S1が、ヘッド駆動回路12を介して記録ヘッド6に出力され、記録ヘッド駆動回路12によりオンとされたスイッチング素子Sを介して圧力発生素子Pに印加され、記録ヘッド6からインク滴が吐出する。
【0015】そして図4に示したように次の印刷タイミングとの間に、制御手段10は、駆動信号発生回路11からメニスカスに強い微小振動を生じさせる微小振動誘起用駆動信号S2を出力し、スイッチング素子Sを介して記録ヘッド6の全ての圧力発生素子Pに印加する。これにより、記録ヘッド6の全てのノズル開口のメニスカスが大きく振動するため、ノズル開口近傍の増粘したインクが圧力発生室の増粘していないインクと置換されて目詰が未然に防止される。
【0016】したがって、次の印刷周期が到来した時点では増粘や目詰まりを来していないノズル開口からインク滴を吐出することができて、比較的目立ちやすいドットを、正確なサイズと、正確な位置に印刷して印刷品質の低下を防止することができる。
【0017】一方、普通紙や、また小さな径のドットによる印刷するモードが選択されていて、個々のドットが比較的目立たない場合には、制御手段10は、振幅の小さな微小振動をメニスカスに生じさせるモードを選択、設定する。
【0018】これにより、ノズル開口での若干の目詰まりに関わりなく印刷を継続させて記録用紙全体としての印刷品質に低下を招くことなく、また微小振動によるメニスカスの残留振動の短縮により、インク滴吐出用駆動信号を短い周期で出力して高速印刷を実行することができる。
【0019】なお、上述の実施例においては記録媒体の種類、または印刷に使用するドット径によりメニスカスの振動の強度を選択しているが、ドットの位置ずれやサイズのばらつきが目立つ要因、たとえばインクの発色性、キャリッジ1の移動速度、印刷密度の高低に合わせてメニスカスの振動強度や振幅を選択することもできる。
【0020】つまり、1印字パス内に比較的発色性の高いインク、例えばシアンやマゼンタによるドットが多く形成される印刷データが入力した場合、またインク滴の飛行速度の低下が大きなドットずれを引き起しやすいキャリッジの高速移動での高速印刷モードが選択されている場合、さらには印刷データに含まれる色数が少ない場合や、ベタ画像のように高密度印刷の場合には、やはり個々のドットが目に付きやすいから、メニスカスに強い微小振動を与え、インク滴を確実に吐出させるようにする。
【0021】なお、上述の実施例においてはメニスカスの振幅を変えることにより振動の強弱を調整しているが、図4に示したように微小振動誘起後、次にインク滴を吐出するまでの時間ΔTを調整することによってもメニスカスによるノズル開口の目詰まり解消効果を実質的に調整することができる。すなわち、微小振動誘起直後にはノズル開口の目詰まりが確実に解消されており、時間ΔTが長くなるにつれてノズル開口のインクの粘度が上昇し出す。
【0022】
【発明の効果】以上、説明したように本発明においては、ノズル開口からインク滴を吐出させるインク滴吐出用駆動信号と、ノズル開口からインク滴が吐出しない程度にメニスカスを、少なくとも2種類の強度により振動させるための第1、及び第2の微小振動誘起用駆動信号とを発生する駆動信号発生手段と、印刷モードに対応して第1、または第2の微小振動誘起用駆動信号を前記圧力発生手段に印加する制御手段とを備えるようにしたので、記録用紙の種類や、ドットのサイズ、インクの発色度、印刷密度に対応してメニスカスを最適な状態で微小振動させることができ、印刷品質を重視した印刷と、印刷速度を重視した印刷とを適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されるインクジェット記録装置の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例を示す装置のブロック図である。
【図3】図(イ)乃至(ハ)は、それぞれ圧力発生手段に印加する駆動信号を示す波形図である。
【図4】メニスカスの微小振動誘起用駆動信号とインク滴吐出用駆動信号との関係を示すタイミング図である。
【符号の説明】
1 キャリッジ
5 記録用紙
6 インクジェット記録ヘッド
7 インクカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ノズル開口からインク滴を吐出させるインク滴吐出用駆動信号と、ノズル開口からインク滴が吐出しない程度にメニスカスを、少なくとも2種類の強度により振動させるための第1、及び第2の微小振動誘起用駆動信号とを発生する駆動信号発生手段と、印刷モードに対応して第1、または第2の微小振動誘起用駆動信号を圧力発生手段に印加する制御手段とを備えてなるインクジェット記録装置。
【請求項2】 前記印刷モードが、記録用紙の種類である請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】 前記印刷モードが、インク滴吐出用駆動信号により形成するドットのサイズである請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】 前記印刷モードが、発色性の高いインクの使用量である請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】 前記印刷モードが、印刷に使用する色数である請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】 前記印刷モードが、印刷密度である請求項1に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2000−280464(P2000−280464A)
【公開日】平成12年10月10日(2000.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−91178
【出願日】平成11年3月31日(1999.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】