説明

インクジェット記録装置

【課題】大型化やコストアップを伴うことなく、印字品質の低下を防ことができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】それぞれインクを吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する記録ヘッドを、記録媒体に対して前記複数のノズルの配列方向を横切る向きに走査させて画像を記録するインクジェット記録装置であって、単位領域の画像を形成するために前記記録ヘッドを前記記録媒体の共通領域に対して偶数回走査させ、前記偶数回の走査のそれぞれにおいて、複数のノズルのうちインクの吐出を許可されたノズルが、走査方向に向かって先細りとなる少なくとも一の基本ドット配置パターンを周期的に形成するように、複数のノズルのうちインクの吐出を許可するノズルを走査の進行に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の記録ヘッドと記録媒体との間の領域は、インクの運動量が周囲空気に渡されることにより引き起こされる気流や、キャリッジの走査により引き起こされる気流が互いに作用し、複雑な流れ場が形成されることがある。一般に、オンデマンド型のインクジェット記録装置では、画像を形成するインク滴が吐出される際、1つのノズルにて1イベントあたり単一のインク滴が形成されることは少ない。多くの場合、先頭に大きなインク滴が形成され、それに追従するようにそれよりも小さなインク滴が形成され、記録媒体へと向かい飛翔する。以後、先頭のインク滴を主滴、後続のインク滴をサテライトと称する。このサテライトがノズル列のノズル配列方向における流れを受け、主滴による記録媒体上ドットの隙間に着弾した場合、その領域は濃度の高い領域と視覚上で認識されるため、濃度ムラが目立ちやすくなる。
【0003】
このような気流に起因する濃度ムラを低減させるため、間引き率で交互には、インクジェット記録装置内のキャリッジに整流部材を設けて、記録ヘッドと記録媒体との間の気流を制御する技術を開示している。また、特許文献2は、マスクパターンによって間引かれた間引き画像データに従って記録媒体の共通の領域に画像をマルチパス記録する際に、ノズル配列方向の画像データの間引き率を交互に異ならせて気流の乱れを抑制する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−361858号公報
【特許文献2】特開2006−192892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、キャリッジに取り付ける整流部材による装置の大型化およびコストアップが避けられない。また、特許文献2に開示された技術では、ノズルの配列方向の間引き率が変化する箇所に濃度ムラが発生し、これが細いスジ状の濃度ムラを発生させる原因となりうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、装置の大型化、コストアップを抑制しつつ、記録ヘッドと記録媒体との間に発生する空気の乱れによる画像品質の低下を効果的に抑制できるインクジェット記録装置を提供することにある。
【0007】
本発明に係るインクジェット記録装置は、それぞれインクを吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する記録ヘッドを、記録媒体に対して前記複数のノズルの配列方向を横切る向きに走査させて画像を記録するインクジェット記録装置であって、単位領域の画像を形成するために前記記録ヘッドを前記記録媒体の共通領域に対して偶数回走査させる走査手段と、前記偶数回の走査のそれぞれにおいて、前記複数のノズルのうちインクの吐出を許可されたノズルが、走査方向に向かって先細りとなる少なくとも一の基本ドット配置パターンを周期的に形成するように、前記複数のノズルのうちインクの吐出を許可するノズルを走査の進行に応じて制御する吐出制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出されたインク滴のノズル配列方向の着弾位置を高精度に保つことが可能になり、装置の大型化やコストアップを伴わずに高品質な画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用される記録装置の記録部の一例を示す概略斜視図。
【図2】図1の記録ヘッドをノズル形成面側から見た図。
【図3】図1の記録装置の制御系の構成を示すブロック図。
【図4】本発明の記録方法を模式的に示す図。
【図5】本発明の実施例1に係る、往復スキャンの各々における印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す図。
【図6】実施例1により記録媒体上に形成されるドットの様子を示す説明図である。
【図7】従来の記録方法を説明するための図。
【図8】比較例1の往復スキャンの各々における印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す図。
【図9】比較例1で得られる画像の濃度ムラの様子を模式的に示す図。
【図10】比較例1において記録媒体上に形成されるドットの様子を示す図。
【図11】本発明の実施例2に係る、往復スキャンの各々における印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す図。
【図12】本発明の実施例3に係る、往復スキャンの各々における印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す図。
【図13】本発明の実施例4に係る、往復スキャンの各々における印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す説明図である。
【図14】本発明の実施例5に係る、印字プロセス、各スキャンにおける印字パターン、各スキャンにより完成する印字パターンを示す図である。
【図15】本発明の実施例6に係る、往復スキャンの各々の印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す説明図である。
【図16】本発明の実施例7に係る、往復スキャンの各々の印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す説明図である。
【図17】本発明の実施例8に係る、往復スキャンの各々の印字パターンと、往復スキャンにより完成する印字パターンを示す説明図である。
【図18】本発明の実施例9におけるノズル列の構成を、記録媒体側から図示した説明図である。
【図19】本発明の実施例9で適用するノズル列A、B両列の往復の印字パターンを示す説明図である。
【図20】本発明の実施例9により得られる記録媒体上のドット配置を模式的に示す説明図である。
【図21】本発明の比較例2で適用するノズル列A、B両列の往復の印字パターンを示す説明図である。
【図22】本発明の比較例2により得られる記録媒体上のドット配置を模式的に示す説明図である。
【図23】本発明の実施例10で適用するノズル列A、B両列の往復の印字パターンを示す説明図である。
【図24】本発明の実施例10により得られる記録媒体上のドット配置を模式的に示す説明図である。
【図25】本発明の比較例3で適用するノズル列A、B両列の往復の印字パターンを示す説明図である。
【図26】本発明の比較例3により得られる記録媒体上のドット配置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。
【0011】
図1は、本発明が適用されるインクジェット記録装置(以下、記録装置ともいう)の一例の記録部の概略構成を示す斜視図である。図2は、記録ヘッドをノズル列形成面側から見た図である。図3は、図1の記録ヘッドのノズル配列方向の断面図である。図1に示すように、記録装置は、ガイド軸408に沿ってX方向に移動可能に構成されたキャリッジ403上に、記録ヘッド401を搭載している。
【0012】
キャリッジ403は非記録状態などの待機時には、図1のホーム・ポジション位置P1にある。404は紙送りローラであり、補助ローラ405とともに記録媒体407を狭持しつつ図の矢印の方向に回転し、記録媒体407をY方向に搬送する。また、406は給紙ローラであり、記録媒体を積載する不図示のトレーから記録媒体407の給紙を行うとともに、紙送りローラ404及び補助ローラ405と同様に記録媒体407を狭持する役割を果たす。記録ヘッド401は、図2に示すように、キャリッジの進行方向(X方向)を横切る(直交する)方向に複数のノズルNZが配列されたノズル列402を有する。
【0013】
次に、上記構成の記録装置の動作の一例について説明する。待機時には、ホーム・ポジション位置P1にあるキャリッジ403は、記録開始命令によりX方向に往復走査(スキャン)を開始し、記録ヘッド401の複数のノズルを記録データに従って選択的に駆動して記録媒体407上にインクを吐出して記録を行う。1回の往復走査による記録、すなわち、単位領域の記録が終了すると、キャリッジ403は元のホーム・ポジション位置P1に戻る。ここで、紙送りローラ404が矢印方向へ回転することにより、Y方向へ所定幅だけ記録媒体を搬送し、その後再びX方向へ走査による記録を開始する。このような記録走査と記録媒体の搬送とを交互に繰り返すことにより1枚の記録媒体への記録が行われる。
【0014】
次に、上記で説明したインクジェット記録ヘッドの制御系の構成について、図3を参照して説明する。図3において、ホストコンピュータ300は、記録装置に対して記録命令などの制御データと記録すべき画像データを送信すると共に、記録装置からステータス情報などを受信する。入出力インターフェイス301は、ホストコンピュータ300から送信された制御データ及び画像データを受信すると共に、ステータス情報などをホストコンピュータに対して出力する。CPU302は、装置全体を制御する。ROM303は、制御プログラムやフォントなどのデータが格納される。RAM304は、記録データを一時的に格納する記録バッファやCPUのワークエリアとして使用される。モータドライバ305は、キャリッジ403の移動や搬送ローラ、給紙ローラ駆動用などの各種駆動用モータ306を駆動する。ヘッドドライバ307は、記録ヘッド401を駆動する。ホストコンピュータ300から送信された画像データは、入出力インターフェイス301内の受信バッファに一時的に格納され、記録装置で処理可能な記録データに変換されてCPUに供給される。CPU302は、ROM303に格納されている制御プログラムに基づき、CPU302に供給された記録データを各インク単位に分割し、RAM304の記録バッファに一旦格納する。RAM304の記録バッファに格納された記録データは、各インクの記録素子列の駆動順序に合わせてCPU302に再度読み出され、実際の吐出タイミングに合わせてヘッドドライバ307に出力される。これにより、対応する記録ヘッドが駆動されてインクが吐出されて記録が行われる。
【0015】
次に、本発明のインクの吐出制御について説明する。
サテライトは、主滴に比べると初速度が遅いことから主滴よりもキャリッジの走査方向に着弾することが多い。また、サテライトは主滴より軽量で気流の影響を受けやすいため、サテライトの着弾位置は、所望の着弾位置とのズレ量も大きくなる。そのため、インク滴の飛翔経路にノズルの配列方向の速度成分が形成されている場合には、主滴により形成されたドットの隙間にサテライトが着弾する場合がある。この領域は視覚上高濃度の領域と認識され、目立った濃度ムラとして印字物に現れる。
【0016】
インク滴の飛翔経路におけるノズルの配列方向の速度成分は、上述のように印字画像の劣化に大きな影響を与える。1スキャンでの印字領域を一様のドット密度で埋めていくような印字を行う場合、キャリッジの走査による気流と、インク滴の吐出による気流の相互作用により、吐出するノズル列の両端部から複雑な流れの構造が発生し、ノズルの配列方向の速度成分が発生する。やがて複雑な流れの構造はノズル列の両端から中央へと広がり、ノズル列全域にわたり形成される。これにはノズル列におけるノズルの配列方向の流れ成分も含まれるため、印字画像の劣化を引き起こす要因となる。この現象は、ノズルあたりの駆動周波数が高いときに起こりやすい現象である。
【0017】
ここで、ノズルの配列方向の速度成分を発達させない印字方法について考える。前記の様に一様ドット密度での印字とは異なり、非一様な印字パターンでの印字を行うことで気流を適切に制御する方法が考えられる。
【0018】
ここで、図7に従来の吐出制御方法を示し、図4に本発明の吐出制御の概要を示す。図7に示す従来の吐出制御方法では、ノズル列の両端から複雑な流れ領域0001a、0001bが発生し、これらはノズル列0002の中央へ向けて発達してゆく。最終的に複雑な流れ領域0001はノズル列全域を覆い、本領域のノズル列長手方向速度成分により印字物に濃度ムラが発生する。一方、本発明による吐出制御方法では、時間を追うごとにノズル列両端からその駆動(インク吐出)を停止していき、駆動されるノズルが所定数まで減ったところで、再び、駆動するノズルを元の数まで増やすことを繰り返す。すなわち、ノズル列の複数のノズルの駆動を、図4に示すように、時間の経過(走査の進行)に応じてノズル列両端から停止していくと、複数のノズルはのうちインクの吐出を許可されたノズルは、走査方向に向かって先細りとなる基本ドット配置パターンを描く。そして、駆動されるノズル(インク吐出を許可されたノズル)が所定数まで減ったところで、再び、駆動するノズルを元の数まで増やすことを繰り返すと、図4に示すような、先細りとなる基本ドット配置パターンが繰り返し(周期的に)形成される。これにより、ノズル列両端から発生する複雑な流れ領域0001の発達が抑制される。本発明の吐出制御方法では、従来の方法と比べ2倍の駆動を必要とするが、インク滴の着弾位置の精度を確保することが可能である。これには、空気の粘性が効果的に働いていると予想される。現在ターゲットとしているインクジェット記録装置のヘッド−記録媒体間の領域はニュートン流体として取り扱うことが可能で、速度勾配の大きな領域にせん断力が生じる。空気の粘性により、周辺の流れ場は均一化する方向へシフトし、複雑な流れ場の発達が低減できると考えられる。
【0019】
以下、上記した本発明の原理を具体化した本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明の適切な具体例であるため技術的に好ましい限定が付けられているが、本発明の思想に沿うものであれば、実施形態は本明細書の実施例に示した形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
本実施例1では、1スキャン分の印字パターンが、周期的に繰り返す二等辺三角形の基本ドット配置パターンBPで構成され、画像形成領域(共通領域)に対して往復1回ずつ、計2回のスキャン(偶数回走査)を行うことで画像を形成する。図5に入力の印字パターンを示す。図5(A)は往路の印字パターンBP1、図5(B)は復路の印字パターンBP2であり、図5(C)は往復2回の印字により完成する画像である。往路、復路ともにキャリッジ走査方向に頂点をもつ二等辺三角形により構成されている。本実施例では、ノズル列がノズル配列方向において複数の領域に分割され、各分割領域のノズルが二等辺三角形の基本ドット配置パターンBPを形成するように、各分割領域における複数のノズルのうちインクの吐出を許可するノズルを走査の進行に応じて制御する。なお、図5に示す印字パターンは、基本ドット配置パターンを構成するノズルのすべてからインクを吐出させて印字したものである。すなわち、画像データが一様濃度の画像の場合である。しかし、本発明はこれに限定されるわけではなく、画像データが非一様濃度の画像の場合、すなわち、インク吐出を許可されたノズルの一部からのみインクが吐出される場合にも適用可能である。
【0021】
図6に実施例1のパターンを適用した場合の往路印字時での記録媒体におけるドット形成の模式図を示す。図6において、横線で示されたドット2001aが往路で形成されたドットであり、縦線で示されるドット2001bが復路で形成されたドットである。実施例1では、いずれのサテライト2002a、2002bもノズルの配列方向への着弾ずれが小さく抑えられているのがわかる。これにより、主滴ドット2001の隙間に形成されるサテライトドット2002は少数となり、印字画像における濃度ムラは目立たない。
【0022】
(比較例1)
比較例1では、実施例1において二等辺三角形で構成された基本ドット配置パターンの半分の密度で、ドットを印字領域全体に一様に配置し往復1回ずつ、計2回のスキャンを行うことで画像を形成する。図8に入力の印字パターンを示す。図8(A)は往路、図8(B)は復路の印字パターンであり、図8(C)は往復2回の印字により完成する画像である。実施例1では、往路でドット形成していない領域を復路で補っていたので、実質的に実施例1と比較例1は、往復の2スキャンで同一の画像を形成しようとしている。比較例1では、印字開始とともにノズル列の両端付近から複雑な速度分布を持つ渦状の流体構造が発生し、ノズル列中央付近へと集合する。最終的には、ノズル列長手方向にわたり複数の大きな渦構造をもつようになり、その領域に引き寄せられるようにインク滴が運動をする。図9に比較例1により得られる画像の模式図を示す。印字画像には複数の濃度ムラがスジ状に現れる。図10に、図9中の長方形で示される範囲2100における記録媒体上のドット形成の模式図を示す。図10において、横線で示されるドットが往路で形成されたドットであり、縦線で示されるドットが復路で形成されたドットである。渦構造によりインク滴が引き寄せられる影響を受け、主滴ドット2001の隙間にサテライトドット2002が形成される。この領域は視覚的に濃度の高い領域と認識され、比較例1は画像品質の劣化が顕著となる形態である。
【実施例2】
【0023】
本実施例2では、1スキャン分の印字パターンを下底より短い上底を持つ台形状の基本ドット配置パターンBPで構成し、往復2回のスキャンにより画像を形成する。図11に入力の印字パターンを示す。基本ドット配置パターンBPは、ノズルの配列方向において、互いに離隔している。図11(A)は往路、図11(B)は復路の印字パターンであり、図11(C)は往復2回の印字により完成する画像である。往路、復路ともに下底より短い上底を持つ台形により構成されている。本実施例2においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。
【実施例3】
【0024】
本実施例3では、1スキャン分の印字パターンを実施例1と同様に二等辺三角形の基本ドット配置パターンで構成し、往復2回のスキャンにより画像を形成する。入力の印字パターンを図12に示す。図12(A)は往路、図12(B)は復路の印字パターンであり、図12(C)は往復2回の印字により完成する画像である。実施例1と異なる点は、ノズルの配列方向において、互いに隣接する複数の第1の二等辺三角形状パターンBP1と、隣接する第1の二等辺三角形状パターンBP1の頂点を結ぶ線分を底辺にもつ第2の二等辺三角形状パターンBP2を有する点である。これにより、ヘッドに配置された各ノズルの駆動回数が均一化されるため、ノズルの寿命延長の効果が期待できる。本実施例3においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。
【実施例4】
【0025】
本実施例4では、1スキャン分の印字パターンを実施例1と同様に二等辺三角形の基本ドット配置パターンで構成し、往復2回のスキャンにより画像を形成する。図13に入力の印字パターンを示す。実施例1と異なる点は、ノズルの配列方向に並ぶ基本ドット配置パターンの、同方向の寸法値が一様ではない点である。図13(A)は往路、図13(B)は復路の印字パターンであり、図13(C)は往復2回の印字により完成する画像である。本実施例4においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。実施例1を適用し、ノズル列にわたって印字画像の画質にムラが発生する場合などは本実施例4の様な基本ドット配置パターンの寸法を適切に調整することで、画質を保つことが可能となる。
【実施例5】
【0026】
本実施例5の印字プロセスと各スキャンにおける印字パターンを図14(A)に示す。記録媒体中に、媒体搬送方向にノズル列の2倍の長さをもつ画像形成領域2200が存在し、該画像形成領域2200へ単色のベタ印字を行う。画像形成領域2200のキャリッジ走査方向長さについては特に限定はない。図14には、各スキャンでのヘッドと画像形成領域2200の相対的な位置関係が示されており、画像形成領域2200から見た位置関係で作図されているが実際には画像形成領域2200が図の上下方向に移動する。印字プロセスは、往、復、往、復、往の5回のスキャンにて行われる。各スキャンにより完成する印字パターンを図14(B)に示す。記録媒体の搬送ローラは1度のスキャン毎に、ノズル列の1/2の長さだけ記録媒体を搬送する。このため、画像形成領域2200中の任意の領域は図中でのノズル列上側半分に配置されたノズルによる印字、下側半分に配置されたノズルよる印字が1度ずつ行われる。これにより、ノズル固有の吐出偏向の影響による画像劣化を防止する効果がある。本実施例5においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。
【実施例6】
【0027】
本実施例6では、1スキャン分の印字パターンを直角三角形状の基本ドット配置パターンで構成し、往復2回のスキャンにより画像を形成する。入力の印字パターンを図15に示す。基本ドット配置パターンの3つの辺の寸法を数百ミクロン程度の比較的小さな値とすることで、ノズルの配列方向の速度成分の発達を抑制する効果が得られる。図15(A)は往路、図15(B)は復路の印字パターンであり、図15(C)は往復2回の印字により完成する画像である。本実施例6においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。
【実施例7】
【0028】
本実施例7では、1スキャン分の印字パターンを、走査方向に向かって曲線状に先細りとなる形状の基本ドット配置パターンで構成し、往復2回のスキャンにより画像を形成する。入力の印字パターンを図16に示す。図16(A)は往路、図16(B)は復路の印字パターンであり、図16(C)は往復2回の印字により完成する画像である。本実施例7においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。
【実施例8】
【0029】
本実施例8では、1スキャン分の印字パターンを二等辺三角形の基本ドット配置パターンで構成し、画像形成領域に往復1回ずつ、計2回のスキャンを行うことで画像を形成する。入力の印字パターンを図17に示す。図17(A)は往路、図17(B)は復路の印字パターンであり、図17(C)は往復2回の印字により完成する画像である。基本ドット配置パターンは、往路、復路ともに二等辺三角形状により構成されている。実施例1とは、完成させる画像は濃度が一定ではない点が異なる。濃度が一様でない画像を形成する本実施例8においても、インク滴飛翔領域におけるノズル列長手方向の速度成分の発達は抑制される効果が得られ、印字画像上の濃度ムラを低減することが可能である。
【実施例9】
【0030】
本実施例9では、近接する複数のノズルを有するヘッド構成において印字を行う。本実施例9におけるノズル構成に関して、ヘッドから記録媒体側へ透視した模式図を図18に示す。隣り合うノズル列A3000とノズル列B3001は、互いに254μm離れて配置されているが、この距離は固有の値に限定されるものではない。また、ノズルピッチΔnが42.4μmとしているが、Δnは固有の値に限定されるものではない。また、ノズル列A3000とノズル列B3001はノズル列長手方向にΔn/2のズレ量を持って配置されているが、このズレ量の値はΔn/2で限定されるものではない。また、図14ではノズル列A3000、ノズル列B3001双方とも列長27.14mmとしているが、列長は固有の値に限定に限定されるものではない。
【0031】
本実施例9ではノズル列A3000およびノズル列B3001で、往復合わせて同数のドットを記録媒体上に打ち込み、ベタ画像を形成する。ノズル列A3000およびノズル列B3001に与えるドット配置パターンを図19に示す。
【0032】
図19(A)はノズル列A3000により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図19(B)はノズル列B3001により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図19(C)はノズル列A3000により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図19(D)はノズル列B3001により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、それぞれ図示している。
【0033】
ノズル列A3000、ノズル列B3001各々に与えるドット配置パターンは、互いの二等辺三角形型のドット配置パターンがノズル列長手方向に逆位相となっている。本実施例9により記録媒体上に形成されるベタ画像の一部を、図20に模式的に示す。ノズル列A3000とノズル列B3001の互いのマスクパターンが逆位相となっているため、一方のノズル列のスキャン間のつなぎ目にもう一方のノズル列のパターンがドットを形成することで、記録媒体上に現れるパターンの浮き出しは目立たない。
【0034】
(比較例2)
本比較例2においても前記実施例9と同様に、近接する複数のノズルを有するヘッド構成において印字を行う。本比較例2におけるノズル構成は、図18に示される構成と同様である。
【0035】
本比較例2ではノズル列A3000およびノズル列B3001で、往復合わせて同数のドットを記録媒体上に打ち込み、ベタ画像を形成する。ノズル列A3000およびノズル列B3001に与えるドット配置パターンを図21に示す。
【0036】
図21(A)はノズル列A3000により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図21(B)はノズル列B3001により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図21(C)はノズル列A3000により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図21(D)はノズル列B3001により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、それぞれ図示している。
【0037】
ノズル列A3000、ノズル列B3001各々に与えるドット配置パターンは、互いの二等辺三角形型のドット配置パターンがノズル列長手方向に同位相となっている。本比較例2により記録媒体上に形成されるベタ画像の一部を、図22に模式的に示す。ノズル列A3000とノズル列B3001の互いのマスクパターンが同位相となっているため、両ノズル列のパターンのつなぎ目が同位置となり、記録媒体上に現れるパターンの浮き出しが目立つ。
【実施例10】
【0038】
本実施例10においても前記実施例9と同様に、近接する複数のノズルを有するヘッド構成において印字を行う。本実施例10におけるノズル構成は、図18に示される構成と同様である。
【0039】
本実施例10ではノズル列A3000およびノズル列B3001で、往復合わせて同数のドットを記録媒体上に打ち込み、ベタ画像を形成する。ノズル列A3000およびノズル列B3001に与えるドット配置パターンを図23に示す。
【0040】
図23(A)はノズル列A3000により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図23(B)はノズル列B3001により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図23(C)はノズル列A3000により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図23(D)はノズル列B3001により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、それぞれ図示している。
【0041】
ノズル列A3000、ノズル列B3001各々に与えるドット配置パターンは、走査方向を上底、他方を下底と定義する台形において、下底より短い上底を持つ台形であるドット配置パターンが適用され、かつ互いの台形のドット配置パターンがノズル列長手方向に逆位相となっている。本実施例10により記録媒体上に形成されるベタ画像の一部を、図24に模式的に示す。ノズル列A3000とノズル列B3001の間で台形型のマスクパターンが逆位相となっているため、一方のノズル列のスキャン間のつなぎ目にもう一方のノズル列のパターンがドットを形成することになり、パターンの浮き出しは目立たなくなる。さらに、両列間でのインクの吐出に起因する気流の干渉が抑制され、スキャン間でのマスクのつなぎ目付近での着弾位置のズレが低減されるので記録媒体上に現れるパターンの浮き出しが低減されている。
【0042】
(比較例3)
本比較例3においても前記実施例9と同様に、近接する複数のノズルを有するヘッド構成において印字を行う。本比較例3におけるノズル構成は、図18に示される構成と同様である。
【0043】
本実施例10ではノズル列A3000およびノズル列B3001で、往復合わせて同数のドットを記録媒体上に打ち込み、ベタ画像を形成する。ノズル列A3000およびノズル列B3001に与えるドット配置パターンを図25に示す。
【0044】
図25(A)はノズル列A3000により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図25(B)はノズル列B3001により往方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図25(C)はノズル列A3000により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、図25(D)はノズル列B3001により復方向印字時に打ち込むドット配置パターンを、それぞれ図示している。
【0045】
ノズル列A3000、ノズル列B3001各々に与えるドット配置パターンは、走査方向を上底、他方を下底と定義する台形において、下底より短い上底を持つ台形であるドット配置パターンが適用され、かつ互いの台形のドット配置パターンがノズル列長手方向に同位相となっている。本比較例3により記録媒体上に形成されるベタ画像の一部を、図26に模式的に示す。ノズル列A3000−ノズル列B3001間で台形型のマスクパターンが同位相となっているため、両ノズル列のパターンのつなぎ目が同位置となり、記録媒体上に現れるパターンの浮き出しが目立つ。さらに、両列間でのインクの吐出に起因する気流が干渉し、スキャン間でのマスクのつなぎ目付近での着弾位置のズレが顕著となるため、記録媒体上に現れるパターンの浮き出しが強調される。
【0046】
上記実施形態では、いわゆるシリアルヘッドタイプのインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、これに限定されるわけではなく、ラインヘッドタイプのインクジェット記録装置にも適用可能である。
【0047】
また、上記実施形態では、べた画像を形成する場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、べた画像以外の画像データにも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
401・・・記録ヘッド
402・・・ノズル列
NZ・・・ノズル
BP・・・基本ドット配置パターン
3000 1対の近接ノズル列のうち、走査往方向に位置するノズル列A
3001 1対の近接ノズル列のうち、走査復方向に位置するノズル列B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれインクを吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する記録ヘッドを、記録媒体に対して前記複数のノズルの配列方向を横切る向きに走査させて画像を記録するインクジェット記録装置であって、
単位領域の画像を形成するために前記記録ヘッドを前記記録媒体の共通領域に対して偶数回走査させる走査手段と、
前記偶数回の走査のそれぞれにおいて、前記複数のノズルのうちインクの吐出を許可されたノズルが、走査方向に向かって先細りとなる少なくとも一の基本ドット配置パターンを周期的に形成するように、前記複数のノズルのうちインクの吐出を許可するノズルを走査の進行に応じて制御する吐出制御手段と、を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記吐出制御手段は、各走査において、前記複数のノズルの配列方向において複数の前記基本ドット配置パターンを形成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記複数の基本ドット配置パターンは、前記複数のノズルの配列方向において、互いに隣接していることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記複数の基本ドット配置パターンは、前記複数のノズルの配列方向において、互いに離隔していることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記複数の基本ドット配置パターンは、互いに形状の異なる複数の基本ドット配置パターンを含むことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記基本ドット配置パターンは、三角形状を有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記基本ドット配置パターンは、前記複数のノズルの配列方向において互いに隣接する複数の第1の二等辺三角形状パターンと、隣接する前記第1の二等辺三角形状パターンの頂点を結ぶ線分を底辺にもつ第2の二等辺三角形状パターンを有することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記基本ドット配置パターンは、直角三角形状を有することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記基本ドット配置パターンは、台形状を有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記基本ドット配置パターンは、走査方向に向かって曲線状に先細りとなることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
該インクジェット記録ヘッドにおいて、
近接するノズル列双方にキャリッジ走査方向に頂点を持つ二等辺三角形であるドット配置パターンが適用され、かつ該近接するノズル列同士で各々定められた二等辺三角形のドット配置がノズル列長手方向に逆位相となること
を特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
該インクジェット記録ヘッドにおいて、
近接するノズル列双方にキャリッジ走査方向を上底、他方を下底と定義する台形において、下底より短い上底を持つ台形であるドット配置パターンが適用され、かつ該近接するノズル列同士で各々定められた二等辺三角形のドット配置がノズル列長手方向に逆位相となること
を特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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