説明

インクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録装置において、記録媒体に適したインク打ち込み量のプロファイルを設定できるとともに、記録媒体の膨潤による記録ヘッドとの擦れを生じないようにする。
【解決手段】記録ヘッドと記録媒体の距離である紙間距離を測定し(S806)、この測定値と規定値との比較に基づいてインクの最大打ち込み可能量を判定する(S807)。そして、最大打ち込み可能量に基づくインクの打ち込み可能範囲からインクの最大打ち込み量を選択し(S808)、選択されたインク打ち込み量をユーザメディアに対する設定値として、記録データを作成する際のプロファイル情報を作成する(S809)。以上のように、予め設定されている記録媒体以外の記録媒体が使用される場合に、紙間距離によってインクの打ち込み可能量の範囲が決定することから、設定された打ち込み量で記録が行われ時にヘッドと記録媒体が擦れることを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、詳しくは、装置で用いる記録媒体が持つインク受容特性に合ったインク打ち込み量を設定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタなどでは、一般に、画像処理において、記録に用いる記録媒体に応じて予めインク打ち込み量が定められたルックアップテーブルを用いて記録データの生成を行い、記録媒体におけるインク滲みなどの画質劣化が生じないようにしている。このようなプロファイル設定の一例として、記録に用いられるものとして想定される記録媒体をいくつか設定し、設定された記録媒体に対して、インク受容量が各々最適となるように、インク打ち込み量が定められた各々のプロファイルを設定するものがある。
【0003】
しかし、このように用いる記録媒体の種類が予め設定されている装置では、その設定された記録媒体以外の記録媒体(以下では、ユーザメディアともいう)を使用する場合には良好な画質の記録が実現されない場合がある。これに対し、特許文献1は、予めユーザメディアに複数のインク打ち込み量のパターンを記録し、このパターンに基づいて、ユーザメディアに対して適切なプロファイを設定することを提案している。これにより、記録媒体におけるインクのにじみやあふれを低減して画質劣化のない記録を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−334934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたプロフィルの設定では、テストパターンにおいて発生するインクのにじみや濃度ムラからその記録媒体の最大インク打ち込み量を求め、この最大の打ち込み量を用いてユーザメディア用のプロフィルを設定する。このため、特許文献1に記載の技術では、ユーザメディアを用いた記録におけるにじみなどの問題を抑制することはできても、同様に打ち込まれたインクによって引き起こされる問題である、記録媒体の膨潤を生じる場合がある。
【0006】
図1は、この膨潤の問題を説明する図である。同図に示すように、記録媒体の膨潤によって記録媒体が変形し、一部が記録ヘッドに擦れることがある。記録ヘッド101からインク103が吐出されて記録媒体102に着弾し記録媒体102のインク吸収層に吸収される。その結果、記録媒体102は、インクを吸収する前の状態102aから、吸収後の状態102bに変化する。その結果、記録ヘッド101が移動する際に、変形で記録ヘッドのとの距離が小さくなった部分に擦れを生じることがある。そして、このような擦れがあると記録ヘッドが損傷する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、記録媒体に適したインク打ち込み量のパラメータ(プロファイル)を設定できるとともに、記録媒体の膨潤による記録ヘッドとの擦れを生じないようにすることができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明では、インクを吐出する記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査し、インクの打ち込み量のデータに基づいて生成される記録データに基づいて当該記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体にテストパターンを記録するテストパターン記録手段と、テストパターンが記録された記録媒体と記録ヘッドとの距離を検出する距離検出手段と、前記検出した距離に基づいて、テストパターンを記録したインクの最大打ち込み量を求める打ち込み量取得手段と、前記求めた最大打ち込み量に基づいて、前記テストパターンを記録した記録媒体と同じ種類の記録媒体を記録に用いるときの、打ち込み量のデータを生成するためのテーブルを作成するテーブル作成手段と、を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、記録媒体に適したインク打ち込み量のテーブルを設定できるとともに、記録媒体の膨潤による記録ヘッドとの擦れを生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】記録媒体に対するインク打ち込みによる膨潤の問題を説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置のプリンタコントローラの構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示したプリンタエンジン301の構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は、図3に示したプリンタエンジン301の主に動作する部分を示す斜視図であり、(b)は、そのうち記録ヘッド部の構成を示す斜視図である。
【図5】(a)は、本実施形態に係る、インクの打ち込み量を決定するためのテストパターンを示す図であり、(b)は、上記テストパターンにおいて測定される紙間距離を上記打ち込み量に対応させて示す図である。
【図6】(a)および(b)は、それぞれテストパターンの他の例を示す図である。
【図7】(a)、(b)は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の表示部における、ユーザメディアに対するインクの打ち込み量を決定する際の表示例を示す図である。
【図8】同じく、(a)、(b)は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の表示部における、ユーザメディアに対するインクの打ち込み量を決定する際の表示例を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るインクの膨潤を考慮した最大打ち込み量に基づく設定外退き録媒体用のプロファイル作成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
図2は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置のプリンタコントローラの構成を示すブロック図である。プリンタコントローラ201は、パーソナルコンピュータ等のホスト装置から記録指示と記録用の画像データとを受信し、受信した画像データをプリンタエンジンで記録可能な2値画像データに変換し、プリンタエンジンへと出力する。プリンタコントローラ201において、CPU203は、プリンタコントローラ201の全体の制御を司り、RAM部221又はROM部222または記憶装置220に格納されている制御プログラムを、順次読み出し、実行する。この制御プログラムには、図9にて後述される、本発明の一実施形態に係る、記録媒体の膨潤を考慮したプロファイル作成処理のプログラムも含まれている。すなわち、CPU203は、ネットワークインターフェース部208の制御、操作部制御部205と表示部制御部206とを介する操作部215と表示部216との制御を実行する。また、CPU203は、受信した画像データを画像形成データに変換するための画像処理部204の制御や、生成された画像形成データをプリンタエンジンへ転送するためのプリンタエンジンインタフェース部214の制御等を実行する。
【0013】
画像処理部204は、ホスト装置から受信した画像データを、プリンタエンジンで記録可能な2値画像データに変換する。また、2値画像データに変換する際の画像処理では、後述する本発明の一実施形態にかかる記録媒体に対応したプロファイルに従って変換を行う。具体的には、画像データとしてのRGB信号データをCMYBkのインク色データに変換するための色分解テーブルが、記録媒体の膨潤を考慮した最大インク打ち込み量に基づいて作成される。
【0014】
操作部制御部205は、操作部215における操作に応じてCPU203との間で情報の授受を行う。表示部制御部206は、表示部216に表示制御信号を出力する。ネットワークインターフェース部208は、ネットワークを介して接続されたパーソナルコンピュータやワークステーション等のホスト装置との間でデータの送受信を行う。または、ネットワークに接続された同型のインクジェット記録装置と情報共有を行う際のデータの送受信を行う。シリアル通信制御部209は、シリアル通信インターフェース218bを介して、画像形成コントローラASIC202に接続されているRTC部218を制御する。
【0015】
EEPROMコントローラ210は、CPU203からの読み出し要求に応じて、必要な制御信号を生成し、EEPROM部219に予め格納されているデータを読み出し、システムバスブリッジ223を介して、読み出した内容をCPU203に送り返す。また、EEPROMコントローラ210は、CPU203からの書き込み要求に応じて、EEPROM部219の内容を書き換える。
【0016】
記憶装置制御部211は、記憶装置の制御を行い、また記憶装置にデータを送信する制御と、記憶装置が出力するデータを受信する制御を行う。記憶装置220は、例えばハードディスク(HDD)や光磁気ディスク等で構成され、ホスト装置から転送された画像データの格納や過去の記録における履歴を記憶している。また、記録媒体に対するプロファイルを記憶しており、設定されている記録媒体以外のユーザメディアに関するプロファイルを記憶することができる。
【0017】
RAMコントローラ212は、CPU203と各ブロックとからの読み出し要求や書き込み要求に応じて、必要な制御信号を生成し、RAM部221への書き込み、RAM部221からの読み出しを実行する。また、ROM部222がフラッシュメモリ等の電気的に書き換え可能なデバイスで構成されている場合、ROMコントローラ213は、必要な制御信号を発生し、ROM部222の内容を書き換える。
【0018】
プリンタエンジンインタフェース部214は、プリンタコントローラ201とプリンタエンジンとの間で、データを送受信するブロックである。そして、プリンタエンジンインタフェース部214は、画像処理部204で生成され、RAM部221に格納されている2値画像データを、RAMコントローラ211を介して、順次読み出し、プリンタエンジンに転送する。
【0019】
操作部215は、インクジェット記録装置の動作を設定するボタンに連動するスイッチで構成され、これらスイッチの状態を、電気信号として出力する。操作部215には、動作モードを切り替えるオンラインボタンやメニュー画面の表示を指示するメニューボタン、メニュー画面から項目を選択するための上下左右方向の十字ボタン、選択項目を確定するOKボタンを有する。また、操作部215は、記録の停止を指示するストップボタンと、記録用紙の給紙方法を選択する給紙選択ボタンとを有する。表示部216は、インクジェット記録装置の動作状態を表示し、また、操作部215のメニューボタン等の操作によって、メニュー画面を表示する。
【0020】
プリンタエンジン301は、以上の構成を有するプリンタコントローラ201から送出された2値画像データに基づいて、記録媒体に画像を記録する記録機構である。
【0021】
図3は、図2に示したプリンタエンジン301の構成を示すブロック図である。図3において、エンジン制御部302は、プリンタエンジン301における各制御部303、304および305を介して各駆動ブロックの制御を行う。
【0022】
ヘッド制御部303は、記録データに基づき駆動信号などを記録ヘッド部306に送りインクを吐出させる。モータ制御部304は、記録媒体を搬送させる紙搬送モータ308、記録ヘッド部306を走査させるためのキャリッジモータ307、記録ヘッド部306を昇降させ記録媒体との距離の調整を行うヘッド昇降モータ312の制御を行う。センサ制御部305は、紙間距離検出部309、インク残量検出部310、カバー開閉検出部311に接続され、各検出部のセンサ検出を制御する。エンコーダーセンサ部310は、エンコーダ部材を読み取り、読み取った情報をセンサ制御部に通知する。カバー開閉検知部311は、インクタンクカバーや、キャリッジ部上部のカバーの開閉を検出してセンサ制御部に通知する。
【0023】
紙間距離検出部309は、記録ヘッド部306と記録媒体との距離(以下、「紙間距離」ともいう)を検出し、検出した紙間距離の情報を通知する。
【0024】
センサ制御部305は、以上説明したヘッド制御部303、モータ制御部304、と同様にエンジン制御部302に接続され、エンジン制御部302はセンサ制御部305での各センサが検出したデータや情報をプリンタコントローラに送信する。
【0025】
図4(a)は、図3に示したプリンタエンジン301の主に動作する部分を示す斜視図であり、図4(b)は、そのうち記録ヘッド部の構成を示す斜視図である。
【0026】
図4(a)において、プリンタエンジンの動作機構は、キャリッジ401、給紙ローラ402、排紙ローラ403、エンコーダ部材404を備えている。また、キャリッジおよび給紙・排紙ローラを駆動させるための駆動機構(不図示)や記録ヘッドを昇降するための駆動機構(不図示)を備えている。
【0027】
キャリッジ401には、図3に示した記録ヘッド部を構成する記録ヘッド405が着脱自在に搭載されており、キャリッジ401を移動させることにより、記録ヘッド405による記録媒体に対する走査を行うことができる。また、キャリッジ401には、エンコーダ部材404を読み取るための、エンコーダーセンサ406が設けられている。キャリッジを駆動させるキャリッジ駆動機構は、モータとタイミングベルトを有して構成される。
【0028】
本実施形態の記録媒体407は、ロール状の記録用しであり、ロール紙スプーラー408で固定されるとともに、記録動作に伴って記録ヘッド405の走査領域へ給紙される。なお、記録媒体は、ロール状のものである必要はなく、例えば、所定のサイズのカット紙でもよいことはもちろんである。
【0029】
給紙・排紙ローラを駆動させる紙送り駆動機構は、2つ以上のモータとローラ、タイミングベルト、ローラの回転数を検出するセンサを有して構成され、プリンタエンジン制御部の制御に従い、記録媒体の給紙と、排紙を行う。ここで、プリンタエンジン制御部は、各センサにより検出されたローラの回転数などの検出結果から、用紙の紙送り長さを算出する。
【0030】
記録ヘッドを昇降させる駆動機構はモータとベルトを有して構成され、プリンタエンジン制御部の制御に従い、記録ヘッドを昇降させて紙間距離を調整する。
【0031】
図4(b)に示すように、キャリッジ401には、記録ヘッド405が搭載され、また、エンコーダーセンサ406が設けられる他、紙間距離検出部409が設けられる。また、記録ヘッド405は、同図に示すように、インクを吐出するための複数のノズルを配列したノズル列410を有し、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)のインクを吐出する4つのノズル列401が設けられている。
【0032】
図4(b)に示す紙間距離検出部409は、記録ヘッド405の検出部409が設けられた面であるノズルの配設面と、このノズル配設面に対向する記録媒体407との間の距離(紙間距離)を検出することができる。この紙間距離検出部409は、例えばレーザ方式のセンサを備えたものである。すなわち、対象物である記録媒体にレーザを照射しその反射した光の一部が受光レンズを介して光位置検出素子上にスポット像を結ぶ。そして、所定の基準のスポット位置対する、測定するときのスポットの位置の差に応じて紙間距離を求めることができる。なお、紙間距離を測定するための構成および方法は上記の例に限られないことはもちろんである。例えば、紙間距離検出部として超音波センサなどでも構わない。そして、超音波センサを用いる場合は、センサヘッドから超音波を発信し、対象物から反射してくる超音波を再度センサヘッドで受信し、この音波の発信から受信までの時間を計測することにより対象物の位置を検出しその距離を算出することができる。
【0033】
図5(a)は、本実施形態に係る、インクの打ち込み量を決定するためのテストパターンを示す図であり、図5(b)は、上記テストパターンにおいて測定される紙間距離を上記打ち込み量に対応させて示す図である。
【0034】
このテストパターンは、図9にて後述されるように、本実施形態のインクジェット記録装置において設定されている記録媒体以外の記録媒体であるユーザメディアを用いるときにそのユーザメディアに記録される。図5(a)に示すように、テストパターンは、インクジェット記録装置で用いられるインクの色ごとに記録され、また、打ち込み量(記録デューティー)が、80%、100%、120%、140%、160%、180%、200%のパッチからなるものである。そして、それぞれの打ち込み量のパッチは、記録時の記録モードで記録される。図5(a)は、各パッチ領域を2回の走査で記録しそれぞれの打ち込み量となる、2パス記録モードの例を示している。ここで、インクの打ち込み量は、記録媒体の単位領域に打ち込まれるインク量(打ち込み量あるいは記録デューティーともいう)として規定されるものである。より具体的には、単位領域を構成する画素の総てにそれぞれインクが1回打ち込まれる打ち込み量が100%であり、上記画素の総てにそれぞれインクが2回打ち込まれる打ち込み量が200%である。
【0035】
図5(b)に示す、テストパターンのパッチごとの紙間距離(変位量)は、シアン(C)インクの各パッチについて測定されたものの一例を示している。この例は、打ち込み量が160%以上となると許容変動範囲を超えることを示している。すなわち、紙間距離が所定量を超えて記録ヘッドと擦れを生じるおそれがあることになる。この結果から、Cインクの最大インク打ち込み可能量は140%と判断する。この最大インク打ち込み量に基づいて、図9にて後述するように、各色インクの打ち込み量を定める、ユーザメディア用のルックアップテーブル(プロファイル)が作成される。
【0036】
なお、ここでは、記録媒体のインクを打ち込んでいない部分と記録ヘッドとの紙間距離を基準とし、その基準との差が紙間距離の変動として求められる。また、各パッチのサイズは、パッチの面積が大きいほど膨潤による変形が大きいため、各パッチの面積ができるだけ大きくなるように記録媒体の幅を最大限に使用するサイズとすることが好ましい。一方、パターン記録のために記録媒体を複数用いるのは不経済となる場合がある。そこで、対象となる装置において実際の記録に際して生じうる、膨潤による記録媒体の最大の変形がどの程度であるかに応じて、パッチのサイズを定めるようにすることができる。
【0037】
図6(a)および(b)は、それぞれテストパターンの他の例を示す図である。このうち、図6(a)は、1つのインク色について複数の記録モードそれぞれのテストパターンを1枚のユーザメディアに記録した例を示している。詳しくは、所定領域の記録を完成する走査回数である、パス数ごとにテストパターンが記録される。このテストパターンによれば、記録モード間での膨潤の差が分かり、その比較をすることができる。また、記録媒体の膨潤による変形(変位)は時間の経過とともに変化し、基本的に時間の経過とともに大きくなる。記録の際のパス数が多いとその分記録時間が長いため変形量が大きくなる、そこで、上記のようにパス数毎のテストパターンを形成可能とすることにより、時間変化による影響を考量した打ち込み量の設定が行うことができる。
【0038】
図6(b)は、テストパターンの打ち込み量ごとのパッチの配列方向を記録媒体の搬送方向としたものであり、打ち込み量の少ないパッチを先に記録可能なものである。この場合、先に記録した打ち込み量の少ないパッチから順次紙間距離検出による打ち込み量判定を行い、測定した紙間距離が規定値を超えた場合は、それ以降、そのインク色について打ち込み量を増やしたパッチは記録しないようにすることもできる。図6(b)に示す例は、M(マゼンタ)インクの打ち込み量が160%で、BK(ブラック)インクが180%で規定値を超えており、次の打ち込み量のパッチは記録されていない。この結果、Mインクの最大打ち込み可能量は140%であり、BKインクは160%が最大打ち込み可能量となる。その他の色のインクは200%の打ち込み量で紙間距離の検出により規定値との判定を行いインクの最大打ち込み量の算出を行う。
【0039】
なお、上記の例では、テストパターンにおける紙間距離の測定をユーザメディアの搬送方向に対して横方向にて行う例を示したが、テストパターンに対して縦方向に紙間距離の測定を行うようにしてもよい。縦方向の紙間距離の測定も行えることによって、ユーザメディアの用紙繊維の目による膨潤の影響がより考慮した想定結果を得ることが可能となる。このように複数の種類のテストパターンを記録できるようにすることにより、設定外のユーザメディアに対するインク打ち込み量の選択の幅を広げることができる。
【0040】
また、テストパターン上の紙間距離の測定を行うときは、基本的にヘッドの位置を記録媒体から可能な範囲で大きく離した位置で行うようにすることにより記録ヘッドの擦れが紙間距離の測定時に起こることを低減できる。しかし、記録ヘッドの位置を記録媒体から大きく離せない場合などは、図6(b)に示すようなテストパターンを記録するようにする。これにより、インクの使用量を抑えるとともに打ち込み量を決定するためのテストパターン記録及び紙間測定時の記録ヘッドの擦れを予防することができる。
【0041】
また、上記の例では、インクが打ち込まれていない状態の紙間距離を基準としてインクの打ち込みによる変化量に所定値を設定して最大打ち込み可能量を算出するものとした。しかし、変化量ではなく記録ヘッド部と記録媒体の距離自体に所定値を設定してインクの最大打ち込み可能量を検出してもよい。または両方の所定値によりインクの最大打ち込み可能量の検出が出来るようにしてもよい。
【0042】
また、インク色やパス数に対応したテストパターンを複数段にて記録するようにしても構わない。また、例では示していないがテストパターンの生成サイズを設定できるようにしても良い。さらに、上記の例ではテストパターンをインク色毎に記録モードに対応したパス数で形成したものや、全ての記録モードでのパス数毎に記録するものを示したが、インクを混ぜた2次色や4次色などでの形成も行うことが可能である。
【0043】
また、事前の評価によりメディアによらず影響の大きい色やパス数が分かっている場合は、影響の大きいテストパターンを生成し紙間距離の測定を行うようにしても良い。
【0044】
図7(a)、(b)および図8(a)、(b)は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の表示部における、ユーザメディアに対するインクの打ち込み量を決定する際の表示例を示す図である。
【0045】
図7(a)は、インクの打ち込み量を決定する際に行う紙間距離検出の規定値(所定値)を設定するときの表示部における表示例を示している。具体的には、規定値を自動設定にて設定するか、ユーザがカスタムで設定を行うか、の選択画面を表示している。
【0046】
自動設定とした場合は、記録ヘッドを記録媒体から可能な範囲で上昇させて離し、紙間距離が最も広くなるように規定して許容変動量を50%に設定する。カスタム設定を選択した場合は、インクの最大打ち込み量を算出するための規定値として、記録ヘッド部と記録媒体の距離の規定値を設定する画面を表示してユーザに操作部より規定値を入力促す。次に、基準面(インク打ち込みがない状態)から打ち込みによる変化量の規定値を入力する画面を表示してユーザに規定値の入力を促す。
【0047】
図7(b)は、インクの打ち込み量を決定する際に記録するテストパターンの記録モード設定のための表示例を示している。同図に示すように、記録媒体に対してユーザが選択可能で記録装置で実行可能な記録モードが総てに対してテストパターン記録を行うか、ユーザが使おうとしている記録モードのみについてテストパターン記録を行うかの選択画面を表示する。なお、同様の表示例として、図6(b)にて示したような、テストパターンの記録方向を記録媒体の搬送方向とし、先にインクの打ち込み量の少ないパターンから記録することも選択可能である。
【0048】
図8(a)は、設定外のユーザメディアに対する打ち込み量を決定する際に、判定した最大打ち込み可能量を用いて記録媒体に実際に記録を行うときの打ち込み量の決定方法を選択するための表示例を示している。先ず、紙間距離の検出によって得られた各インク色の打ち込み量を自動で設定するか、カスタムで設定するかの選択画面を表示する。そして、例えば、自動設定が選択された場合は、全て最大打ち込み可能量に設定することでできるだけ大きな色域が確保できるようにする。一方、カスタム設定が選択された場合は、各インク色の中でもっとも低い最大打ち込み可能量に合わせた設定、あるいは各インク色で個別の設定を可能とする表示を行う。すなわち、ユーザが表示された設定可能な打ち込み量の範囲から範囲内の値を入力して設定可能な表示を行う。本実施形態では、図9にて後述されるように、このように定められた各インク色の最大打ち込み量に基づいて色分解テーブル(プロファイル)を作成する。
【0049】
図8(b)は、設定外のユーザメディアに関して決定した打ち込み量に基づいて作成したプロファイルをインクジェット記録装置内の記憶装置に記憶しておくか否かを選択するための表示例を示している。設定外のユーザメディアについてプロファイルを作成することにより、その同じ記録媒体をその後も使用することがある場合、再度テストパターンの記録や紙間距離の検出などを行わなくても済む。このためにプロファイルを記憶するか否かの選択画面を表示する。記憶するよう選択がされた場合は、設定値をユーザによって後で判別可能なように名前を付けて個人ユーザ用の領域か全ユーザ用の領域に記憶するかの選択画面を表示する。そして、プロファイルを作成して選択された領域に保存された旨を通知する表示を行う。
【0050】
図9は、以上説明した本実施形態に係るインクの膨潤を考慮した最大打ち込み量に基づく設定外退き録媒体用のプロファイル作成処理を示すフローチャートである。この処理は、所定のプログラムに従ってCPU203が実行する。
【0051】
本処理は、インクジェット記録装置に初期登録されていない設定外の記録媒体であるユーザメディアを使用するときに行われる処理である。なお、インクジェット記録装置の記憶装置220には、過去にユーザが登録した設定外のユーザメディアに対するプロファイル情報が記憶されている。このプロファイル情報には、各インク色のインク打ち込み量の設定値、各インク色のインク打ち込み量設定可能範囲、インク打ち込み量可能範囲の算出に用いた規定値の設定値、ユーザにより登録された設定外のユーザメディアに対する名称が含まれている。
【0052】
先ず、ステップS801で、インクジェット記録装置の記憶装置220に設定外のユーザメディアに対するプロファイル情報が記憶されているか否かを確認する。記憶されている場合はステップS802へ進み、記憶されていない場合はステップS803に進む。
【0053】
ステップS802では、記憶されているプロファイル情報のリストを表示部216で表示する。これに対し、ユーザは、記憶されているプロファイル情報のリストにユーザが指定する、設定外のユーザメディアに対するプロファイル情報が存在するかを確認する。そしてプロファイル情報が存在する場合は、操作部215を介して使用するプロファイルの名称を選択する。この選択入力があると、ステップS808に進む。一方、プロファイル情報が存在しない場合、ユーザは操作部215を介してプロファイル情報なしを選択する。この選択入力があるとステップS803に進む。
【0054】
ステップS803では、設定外のユーザメディアに対するインク打ち込み量を設定するためのテストパターンの記録についての設定を行う。具体的には、図7(b)に示したROM部222に記憶しているテストパターン記録方法のリストを表示部216で表示する。ユーザは表示部に表示されたリストから1つの方法を操作部215を介して選択する。この選択入力に応じて、選択されたテストパターンの記録方法をRAM部に記憶してステップS804に進む。
【0055】
ステップS804では、記録ヘッドと記録媒体の紙間距離の測定値に対して比較・判断に用いる規定値(所定値)を設定する。すなわち、図7(a)に示した規定値設定のための表示を表示部216によって行う。これに対し、ユーザは、表示部216に表示された表示に対して、操作部215を介して規定値を設定・入力する。この入力に応じて、設定された規定値を記憶装置220に記憶してステップS805に進む。
【0056】
ステップS805では、ユーザメディアにステップS803で設定した記録方法に応じたテストパターンを記録する。具体的には、RAM部221に記憶されたテストパターンの画像データをROM部220からRAM部221に展開して画像処理部204にて記録データに変換する。そしてエンジンインターフェース部214を介してプリントエンジン制御部302に記録データを送る。プリントエンジン制御部302は、記録データに基づいてヘッド制御部303、モータ制御部304、センサ制御部305に信号を送ることにより駆動制御を行い、テストパターンを記録する。
【0057】
次に、ステップS806では、ステップS805で記録したテストパターン上で紙間距離の検出を行う。詳しくは、プリンタエンジン制御部302が、ヘッド制御部303、モータ制御部304、センサ制御部305に制御信号を送ることにより駆動制御を行い、記録媒体に記録したテストパターンに沿って紙間距離検出部409を走査させる。これにより、テストパターンの紙間距離の検出を行い、検出した測定値はセンサ制御部を通してプリンタエンジン制御部に送る。プリンタエンジン制御部は、測定値のデータ送られてきたことをCPU203に通知するとともに測定値のデータを記憶装置に送り、記憶装置は測定値のデータを記憶する。同時にエンコーダーセンサよるキャリッジの位置情報のデータも同様に記憶装置に送り記憶してステップS807に進む。
【0058】
ステップS807では、ステップS806で検出した測定値と、ステップS804で設定した所定値との比較判定を行う。すなわち、上記測定値が所定値以上か否かを判断してインクの最大打ち込み可能量を求め、インクの打ち込み可能範囲を算出する。すなわち、CPU203は、記憶装置220に記憶されている紙間距離の測定値と設定された紙間距離の所定値との比較を行うとともに、キャリッジの位置情報をもとにテストパターンのインク打ち込み量が何%の時点で所定値以上となったかを判別する。次に、判別した結果からインクの最大打ち込み可能量を算出してインクの打ち込み量可能範囲を求め、記憶装置に記憶させる。以上の処理をインク色ごとに行う。
【0059】
次に、ステップS808で、記憶装置に保存されている各インク色のインク打ち込み量可能範囲内からインクの最大打ち込み量を取得する。具体的には、表示部に記憶装置に記憶されている各インク色の打ち込み量可能範囲を示し(図8(a))、ユーザに打ち込み量の設定を求める表示する。これに対し、ユーザは、表示された打ち込み量可能範囲を確認して、操作部を介して打ち込み量の設定を選択して入力を行う。この選択入力(打ち込み量取得)があると、ステップS809へ進む。
【0060】
ステップS809では、選択されたインク打ち込み量をユーザメディアに対する設定値として、記録データを作成する際のプロファイル情報を作成する。本実施形態では、特許文献1に記載されているように、本装置に既に設定されている種類の記録媒体に対応した色分解テーブルのうち、ステップS808で選択したそれぞれのインク色の最大打ち込み量に最も近い2つの最大打ち込み量を持つテーブルを選択する。そして、その2つのテーブル値を補間することによって、本ステップの色分解テーブルを作成する。なお、テーブルの作成はこの形態に限られないことはもちろんである。ステップS808で求めた最大打ち込み量を打ち込み量の上限値とするという条件の下で、通常のテーブル作成と同様にパッチを記録しその測色結果に基づいてテーブルを作成するようにしてもよい。
【0061】
次に、ステップS810では、作成された設定外のユーザメディアに対するプロファイル情報を一度だけの使用に用いるか、同種の設定外のユーザメディアを使用する場合に再度設定値を利用できるように記憶装置に登録しておくかを選択する。表示部にプロファイル情報の登録実行の有無の選択を表示する(図8(b))。これに対し、ユーザは操作部を介してインクジェット記録装置の記憶装置内にプロファイル情報を登録するか否かを選択する。登録する旨の選択入力があると、ステップS811に進む。また、登録しないことが選択された場合は、本処理を終了する。
【0062】
ステップS811では、表示部にプロファイル情報の登録名称を入力するように表示する(図8(b))。これに対し、ユーザは記憶装置に登録するプロファイル情報の名称を操作部より入力を行う。CPUは入力された名称で記憶装置にプロファイル情報の登録を行った後、本処理を終了する。
【0063】
以上のように、予め設定されている記録媒体以外の記録媒体が使用される場合に、紙間距離の検出を用いた方法でユーザメディアに対するインクの打ち込み可能量の範囲を算出し、プロファイルの作成を行う。このようにインクの打ち込み量の可能範囲を求める際に、ユーザによる目視や画像読み取り装置で形成した画像を読み込んで正常な画像との比較等を行う必要がなくなり、より簡易にユーザメディアに対するインクの打ち込み量を設定することが可能になる。また、ヘッドと記録媒体の紙間距離を検出し、この紙間距離によってインクの打ち込み可能量の範囲が決定することから、設定された打ち込み量で記録が行われ時に記録ヘッドと記録媒体が擦れてしまうことを防止できる。
【0064】
(その他の実施形態)
以上説明した実施形態は、記録ヘッドを記録媒体に対して走査して記録を行ういわゆるシリアルタイプの記録装置に関するものであるが、本発明の適用はこの形態に限られないことはもちろんである。搬送される記録媒体の幅にわたってノズルを配列し、搬送される記録媒体に対して固定的に設けられた記録ヘッドからインクを吐出するフルラインタイプの記録装置にも本発明を適用することができる。以上のように記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査して記録を行うシリアルまたはフルラインタイプの装置では、記録ヘッドまたは記録媒体を移動させることにより、テストパターンにおける紙間距離を測定することができる。
【符号の説明】
【0065】
101、405 記録ヘッド
201 プリンタコントローラ
203 CPU
204 画像処理部
215 操作部
216 表示部
220 記憶装置
221 RAM部
222 ROM部
301 プリンタエンジン
306 ヘッド部
309、409 紙間距離検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査し、インクの打ち込み量のデータに基づいて生成される記録データに基づいて当該記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体にテストパターンを記録するテストパターン記録手段と、
テストパターンが記録された記録媒体と記録ヘッドとの距離を検出する距離検出手段と、
前記検出した距離に基づいて、テストパターンを記録したインクの最大打ち込み量を求める打ち込み量取得手段と、
前記求めた最大打ち込み量に基づいて、前記テストパターンを記録した記録媒体と同じ種類の記録媒体を記録に用いるときの、打ち込み量のデータを生成するためのテーブルを作成するテーブル作成手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記テストパターンを記録する記録媒体は、当該インクジェット記録装置において予め使用する記録媒体として設定されている記録媒体とは異なる種類の記録媒体であり、ユーザによって指定されるものであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記作成されたテーブルを記憶する記憶手段をさらに具えたことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
テストパターン記録手段は、当該インクジェット記録装置で実行可能な記録モードでテストパターンを記録することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記打ち込み量取得手段は、前記距離検出手段が検出した距離が所定値以上か否かを判別する判別手段を有し、前記判別手段が前記検出した距離が所定値より小さいと判別したときは、前記テストパターン記録手段は、当該判別に係る距離が検出されたテストパターンより打ち込み量を多くしたテストパターンを記録し、前記判別手段が前記検出した距離が所定値以上であると判別したときは、前記打ち込み量取得手段は、当該判別に係る距離に基づいて最大打ち込み量を求めることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−111922(P2013−111922A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262071(P2011−262071)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】