説明

インクジェット記録装置

【課題】水性インクの乾燥に消費されるエネルギー量を抑制しつつ高濃度のインク部分をも乾燥させる。
【解決手段】インクジェット記録装置は、水性インクを吐出して記録媒体に視覚的情報を記録するインクジェットヘッドと、予め設定された処理ラインに沿って記録媒体をインクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送機構と、処理ラインに対向する第1位置に配置され、水性インクが吐出された記録媒体に赤外線を照射する照射部と、処理ラインに対向する第2位置に、照射部に対して並列的に配置され、記録媒体から反射された赤外線を水性インクが吐出された記録媒体に向けて反射する反射板とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙などの記録媒体に水性インクを吐出して視覚的情報を記録するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点などから水性染料インク、水性顔料インク等の水性インクを吐出するインクジェット記録装置が普及している。インクジェット記録装置では、記録用紙(記録媒体)に吐出されたインクを迅速に乾燥させる必要があるが、インクの乾燥が不十分であると、乾燥していないインクが下流側の各種ローラなどに付着したり、インク付与後に重ね合わされた複数の記録用紙が互いに付着するなどといった問題が生ずる。
【0003】
そこでたとえば、文字、画像等の記録に係る原データから単純に求められるKCMY(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)の4色のインク量が、同一箇所について多い場合(たとえばインク量をドットの色濃度で換算したときに、各色につきそれぞれ網点面積率で100%の濃度となる場合)には、同一箇所に付与されるインク量を制限するという技術が知られており、そこでは、各色の合計濃度が、例えば、200%超えないようにインク量を抑制することも行われている。
【0004】
ところで、複数色の水性インクを吐出するインクジェット記録装置においても、他方式の記録装置と同様に、通常、見当合わせ用の目印となるトンボ(レジスターマーク)が記録媒体上に記録される。このようなレジスターマークは、見当合わせ作業、見当合わせ判定などに使用されるため、例えば、100umの非常に細い線幅で、かつ、極めて鮮明に描画される必要がある。このため、レジスターマークは、各色のインクが、吐出可能な濃度の最大値に相当する100%の濃度で用紙上にそれぞれ吐出される。従って、例えば、K、C、M、Yの4色の水性インクを吐出するインクジェット記録装置においては、記録用紙上に吐出されたレジスターマークの濃度は400%となる。したがって、非常に小さい面積の部分に、大量の水性インクが吐出されるためレジスターマークは、文字、画像等の部分に比べるとインクの乾燥性が著しく低下する。レジスターマークは、上記のように非常に細い線であるために、そのインク量を抑制すると実質的に目視できなってしまうことになり、レジスターマークのインク量を抑制して乾燥性を上げるという対策はとれない。
【0005】
一方、特許文献1のインクジェットプリンタでは、インク量の抑制とは別の観点から乾燥機能の向上を図っており、インク付与後の印記録用紙に赤外線を照射してインクの乾燥を促進している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−214761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1のような技術を用いても、既述したような高濃度のレジスターマークなどについては十分に乾燥されない場合がある。この特許文献1の技術を拡張してインクの乾燥能力を上げるためには、図5に例示するように、記録用紙Pの搬送路に沿って複数の赤外線照射部Rを配列することが必要となり、乾燥にかかるエネルギー消費が増大するといった問題が生ずる。
【0008】
本発明は、こうした問題を解決するためになされたもので、記録媒体に水性インクを吐出して記録するインクジェット記録装置において、水性インクの乾燥に消費されるエネルギー量を抑制しつつ高濃度のインク部分をも乾燥でき得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、第1の態様に係るインクジェット記録装置は、水性インクを吐出して記録媒体に視覚的情報を記録するインクジェットヘッドと、予め設定された処理ラインに沿って前記記録媒体を前記インクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送機構と、前記処理ラインに対向する第1位置に配置され、前記水性インクが吐出された前記記録媒体に赤外線を照射する照射部と、前記処理ラインに対向する第2位置に前記照射部に対して並列的に配置され、前記記録媒体から反射された前記赤外線を前記水性インクが吐出された前記記録媒体に向けて反射する反射板とを備えたことを特徴とする。
【0010】
第2の態様に係るインクジェット記録装置は、第1の態様に係るインクジェット記録装置であって、前記反射板のうち、前記記録媒体に対向する面には、前記記録用紙から反射された前記赤外線を乱反射する乱反射面が形成されていることを特徴とする。
【0011】
第3の態様に係るインクジェット記録装置は、第1または第2の態様に係るインクジェット記録装置であって、前記照射部は前記記録媒体の記録面に対して斜め方向に前記赤外線を照射し、前記反射板は、前記搬送機構によって搬送される前記記録媒体の前記記録面に対して平行に配置されていることを特徴とする。
【0012】
第4の態様に係るインクジェット記録装置は、第1から第3の何れか1つの態様に係るインクジェット記録装置であって、前記第1位置と前記第2位置とは、前記処理ラインの上流側と下流側とにそれぞれ設定されていることを特徴とする。
【0013】
第5の態様に係るインクジェット記録装置は、第1から第4の何れか1つの態様に記載されたインクジェット記録装置であって、前記記録媒体の前記記録面が受ける赤外線は、1)前記照射部から前記記録面に照射される第1照射線と、2)前記第1照射線が前記記録面と前記反射面とで1回ずつ反射して前記記録面に至る第2照射線と、3)前記第1照射線が前記記録面と前記反射面とで複数回ずつ反射して前記記録面に至る高次照射線とを含むことを特徴とする。
【0014】
第6の態様に係るインクジェット記録装置は、第5の態様に係るインクジェット記録装置であって、前記照射部の赤外線源と前記記録面との第1間隔よりも、前記反射板の反射面と前記記録面との第2間隔を狭くしてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1から第6の何れの態様に係るインクジェット記録装置によっても、記録媒体に照射された赤外線が、記録媒体により反射されて、さらに反射板によって記録媒体に向けて反射される。そして、反射板から反射された赤外線は、記録媒体上に吐出された水性インクに再度照射され得る。従って、該インクジェット記録装置によれば、赤外線を効率よくインクの乾燥に再利用することが可能となり、反射板を備えないインクジェット記録装置に比べて水性インクの乾燥に消費されるエネルギー量を抑制しつつ高濃度のインク部分をも乾燥し得る。
【0016】
請求項2の発明では特に、乱反射面を用いることより、一度赤外線が照射された場所にも、乱反射によって再度、赤外線を浴びる。このため、レジスターマークのようにインクの付与量が他の領域よりも特に多い箇所でも、インクの乾燥を効率的に行うことができる。
【0017】
請求項5および請求項6の発明では特に、高次反射をも生じさせることよって乾燥能力がさらに高まる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】図1に示された反射板の作用を説明するための図である。
【図3】乾燥装置の概略構成の一例を示す図である。
【図4】変形例に係るインクジェット記録装置の概略構成の一例を示す図である。
【図5】比較技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付され、下記説明では重複説明が省略される。また、各図面は模式的に示されたものであり、例えば、各図面における表示物のサイズおよび位置関係等は必ずしも正確に図示されたものではない。なお、図1から図5には方向の説明のために、直交するXYZの3軸が付されている。
【0020】
<実施形態について>
<インクジェット記録装置100Aについて>
図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置100Aの概略構成の一例を示す図である。また、図2は、図1に示された反射板2Aの作用を説明するための図であり、図2においては、反射板2Aが、反射板2Aの+X側から−X向きに観察された状態が示されている。
【0021】
インクジェット記録装置100Aは、記録用紙(「記録媒体」とも称される)1に対してインクジェット方式により水性インクを吐出して、画像や文字などの視覚的情報を記録用紙1上に記録する装置である。記録用紙1としては、例えば、オフセット印刷用の記録用紙、該記録用紙などの用紙上に光沢を有するコート層を形成するためのコート剤が塗布された、いわゆる写真用紙、マット紙などのコート紙などが想定されるが、普通紙であってもかまわない。
【0022】
インクジェット記録装置100Aは、例えば、インクジェット部41、乾燥装置42A、搬送系駆動装置44、排紙装置45、給紙装置46、搬送ローラ51、52、および搬送ベルト55などを主に備えて構成されている。
【0023】
○排紙装置45、給紙装置46、および搬送ベルト55:
給紙装置46には、複数枚の記録用紙1が備えられており、記録用紙1は、枚様式により給紙装置46から搬送ベルト55上に給紙される。搬送ベルト55上に給紙された記録用紙1は、搬送ベルト55によって矢印X1(−X向き)に搬送されて、排紙装置45によって、例えば、吸引されることなどにより搬送ベルト55から引き離されて排紙装置45内の排紙トレイに収納される。
【0024】
○搬送系駆動装置44、搬送ローラ51、52:
搬送系駆動装置44は、モータなどの不図示のアクチュエータおよび動力伝達系などを主に備えて構成されている。搬送系駆動装置44は、図示されていない制御部からの制御に応じて搬送ローラ51(52)を駆動して矢印R1(R2)の方向に回転させることにより、搬送ベルト55を矢印X1、X2方向に移動させる。
【0025】
すなわち、搬送系駆動装置44、搬送ローラ51(52)、および搬送ベルト55は、予め設定された処理ラインに沿って記録用紙1をインクジェット部41、および乾燥装置42Aに対して−X方向に相対的に搬送する搬送機構として動作する。なお、該制御部は、予め格納されたソフトウェアプログラムに従ってインクジェット記録装置100Aの各部を所定のタイミングで制御することによりインクジェット記録装置100A全体の動作制御を司る。
【0026】
○インクジェット部41:
インクジェット部41は、インクジェットヘッド17K、17C、17M、17Yなどを主に備えて構成されている。インクジェットヘッド17K、17C、17M、17Yは、例えば、ピエゾ式、サーマル式、または電磁バルブ式などにより実現されるインクジェット方式によってインク9K、9C、9M、9Yをそれぞれ吐出する。インク9K、9C、9M、9Yは、それぞれK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色の、例えば、水性染料インク、水性顔料インク等の水性インクである。
【0027】
インクジェット部41における各インクジェットヘッドは、Z軸方向にそれぞれ移動可能に構成されており、制御部からの制御に応じて、記録用紙1に対してZ軸方向に相対的に移動しつつ各色の水性インクをそれぞれ吐出して記録用紙1に画像などを記録する。
【0028】
なお、図1に示されるインクジェット記録装置100Aにおいては、−X方向に向かってインク9K、9C、9M、9Yの順にインクが吐出されるように各インクジェットヘッドが配置されているが、該配置の順序は変更されてもよい。また、インクジェットヘッドの個数の増減によりインクジェット部41から吐出される水性インクの種類が増減されてもよい。
【0029】
○乾燥装置42A:
乾燥装置42Aは、水性インクが吐出された記録用紙1の紙面(「記録面」とも称される)に対して斜め方向から赤外線6を照射する照射部5と、反射板2Aとを主に備えて構成されている。反射板2Aは、赤外線6が記録用紙1から反射された赤外線7を水性インクが吐出された記録用紙1に向けて赤外線8として反射する。乾燥装置42Aは、制御部からの制御に応じて、記録用紙1上に吐出されたインク10に赤外線7および赤外線8を照射することによって、インク10を乾燥させ、記録用紙1上に画像などを記録する。なお、反射板2Aと照射部5とは1つの部品としてユニット化されてもよい。
【0030】
インクジェット部41と乾燥装置42Aとは記録用紙1が搬送される処理ラインの上流側と下流側とにそれぞれ配置されている。また、乾燥装置42Aにおける照射部5と反射板2Aとは、該処理ラインの上流側の第1位置と下流側の第2位置とにそれぞれ配置されている。なお、照射部5と反射板2Aとは、該処理ラインの下流側と、上流側とにそれぞれ配置されたとしても本発明の有用性を損なうものではないが、該構成の採用においては、各インクジェットヘッドへの赤外線の入射を防止可能な機構を、別途、設けることが望ましい。
【0031】
○照射部5:
照射部5は、例えば、赤外線を放射する赤外線放射管(赤外線源)3と、赤外線放射管3から放射された赤外線を反射して搬送ベルト55の方向に偏向する反射鏡4とを主に備えて構成される。赤外線放射管3は記録用紙1の紙面に対して平行に配置された直管であり、その管長方向は記録用紙1の紙面の幅方向(Z方向)である。そして赤外線放射管3から搬送ベルト55上の記録用紙1に向けて直接放射される赤外線と、反射鏡4から反射された赤外線とは赤外線6を構成し、赤外線6は、記録用紙1に照射される。赤外線6は、平行光線として照射されることが望ましいが、平行光線でないとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0032】
記録用紙1上のインク10に照射された赤外線6は、インク10に吸収されてインク10の温度を上昇させることによりインク10に含まれる水分を蒸発させてインク10を乾燥させる。ここで、オフセット印刷においては、紫外線硬化インクも使用される。紫外線硬化インクは、紫外線によりモノマーの重合反応で硬化するため水の乾燥は不要であるが高価である。このため、インクジェット記録装置100Aにおいては、水性インクが使用され、乾燥用に赤外線が使用される。
【0033】
一方、図1、図2に示されるように、レジスターマークの周辺部、あるいは画像を形成する網点の隙間などの、記録用紙1上のインク10が存在しない部分に照射された赤外線6は、その大部分が赤外線7として反射され、反射板2Aの−Y側の面に入射する。なお、記録用紙1上のインク10が存在しない部分に照射された赤外線6のうち赤外線7として反射されなかった赤外線は、記録用紙1に吸収される。そして、該吸収により記録用紙1の温度は上昇し、発生した熱は、インク10部分に伝導されて、インクの乾燥に寄与する。しかし、記録用紙における熱の伝導速度は低速であるため、該寄与の程度は、インク10部に赤外線6が直接照射される場合に比べると低くなる。
【0034】
水は、紫外線や可視光より赤外線をよく吸収することが知られている。また、紫外線の波長は、赤外線に比べてかなり短いため、記録用紙1に照射された紫外線は、記録用紙1の内部に潜り込んで内部で散乱してしまい、記録用紙1の表面から反射されにくい。このため、記録用紙1からの反射性の観点においてもインクジェット記録装置100Aの照射部5においては、赤外線の採用が望ましい。
【0035】
○反射板2A:
反射板2Aは、記録用紙1から反射された赤外線7を、水性インクが吐出された記録用紙1に向けて赤外線8として乱反射する反射板である。反射板2Aは、搬送ベルト55などの搬送機構によって搬送される記録用紙1の紙面に対して平行に配置されており、反射板2Aの記録用紙1に対向する面には、記録用紙1から反射された赤外線7を乱反射する乱反射面21が形成されている。また、反射板2Aの基材としては、例えば、各種の金属、硝子、樹脂などが採用される。
【0036】
赤外線8が照射されるインク10は、赤外線8が照射される地点よりも上流側において赤外線6が照射されることにより、既にある程度乾燥されている。従って、赤外線6の一部が再利用された赤外線8が、該インク10に再び照射されれば、赤外線8のみが照射される場合に比べて、より高濃度のインク10を乾燥させることができる。なお、記録用紙1から反射された赤外線が乱反射面21によって記録用紙1に向けて再度反射される現象が2回以上生じるとしても、照射部5からの赤外線をさらに有効に再利用できるので本発明の有用性を損なうものではない。これについては、高次照射に関する事項として後に詳述する。
【0037】
乱反射面21は、微小凹凸曲面あるいは法線方向が種々の方向にランダムに向いた微小平面などの微小な要素面の集合が基材表面に形成された反射面である。乱反射面21は、基材の表面が、例えば、エッチング処理、サンドブラスト処理、または精密切削処理などによって処理された後、例えば、アルミニウムなどの赤外線の反射特性が良好な金属材料が、メッキ、蒸着などの手法によって基材の表面にコーティングされることなどにより形成される。
【0038】
インクジェット部41から吐出される各水性インクの記録用紙1上での1ドットのサイズは、30um程度であるため、乱反射面21を構成する個々の微小要素面の大きさは、数10um〜100umに設定されることが望ましい。また、乱反射面21が数10umよりもさらに小さい大きさの面の集合によって構成されるとすると、凹凸面などにゴミが詰まりやすく、乱反射面21の反射特性の経時劣化などの問題が生ずる。このため、メンテナンス性の観点からも乱反射面21の個々の要素面の大きさは、数10um〜100umに設定されることが望ましい。
【0039】
なお、乱反射面21に代えて、例えば、平面の反射面などが採用されたとしても、照射部5から照射される赤外線6を、インク10の乾燥に再利用できるので本発明の有用性を損なうものではない。同様に、乱反射面21に代えて、例えば、互いに周期が異なる複数の正弦波面の列が所定の方向に順次配置された反射面などが採用されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0040】
一方、反射板2Aにランダムな微小凹凸面、あるいは法線方向がランダムな微小平面などによって構成された乱反射面21が形成された場合には、乱反射面21から反射される赤外線8の進行方向は、図1に示されるように、XY平面において種々の方向成分をランダムに有する。同様に、赤外線8の進行方向は、図2に示されるように、YZ平面においても種々の方向成分をランダムに有する。従って、記録用紙1上に吐出されたインク10が、レジスターマークのように特定の方向性を有するマークを形成するとしても、また、特定の方向性を有さない一般的な画像などを形成するとしても、乱反射面21から反射された赤外線8を、インク10を乾燥させるために有効に再利用することができる。従って反射板2Aに形成される反射面としては、乱反射面21の採用が望ましい。
【0041】
ここで、照射部5から照射された赤外線6が、記録用紙1、または反射板2Aなどの反射体によって反射される度に、反射された赤外線の強度は、低下していく。該低下の度合いは、反射体の反射率などに依存する。反射体の反射率が高ければ高いほど、照射部5から照射される赤外線6の再利用の効率が高められる。具体的には、記録用紙1の反射率は、例えば、70%〜95%であることから、乱反射面21の反射率は、例えば、90%以上に設定されることが望ましい。従って、乱反射面21の反射率は、例えば、アルミナなどに梨地加工や、曇り止め加工が施された反射物などの反射率に比べて、高く設定されることとなる。
【0042】
また、記録用紙1と乱反射面21との距離が遠ければ遠いほど、反射時の赤外線パターンの広がりによって赤外線の単位面積当りの強度が低下する。また、記録用紙1と乱反射面21との距離が近ければ近いほど、後述する高次照射を生じさせ易くなる。このため、記録用紙1と乱反射面21との距離は、例えば、100mm以下、好ましくは20mm以下などに設定されるとともに、記録用紙1と乱反射面21との接触を防止するために、例えば、5mm以上に設定される。
【0043】
一般に、照射部5から記録用紙1の紙面に直接に照射された赤外線6を1次照射線としたとき、記録用紙1の紙面と乱反射面21とでそれぞれ一回ずつ反射して記録用紙1の紙面に至る赤外線は2次照射線であり、記録用紙1の紙面と乱反射面21でそれぞれ複数回反射されて(つまりこれらの間の空間を複数回往復して)記録用紙1の紙面に至る赤外線は高次照射線となる。
【0044】
上記のように、記録用紙1の紙面と乱反射面21との間の間隔空間を複数回往復することによって、2次照射線だけでなく高次照射線をも生じさせることが好ましいが、反射板2Aの反射面を乱反射面21Aとすることにより、記録用紙1の搬送方向X1についての反射板2Aの長さを余り長くしなくても、そのような高次照射線を生じさせやすくなる。乱反射の場合には反射方向が広がるため、記録用紙1の搬送方向X1における反射板2Aの長さが比較的短くても、高次照射に適した方向へと反射する成分(記録用紙1の紙面の法線方向に比較的近い角度に反射する成分)がその中に含まれるからである。
【0045】
一方、乱反射面ではなく正反射面を用いつつ高次照射線を生じさせる場合には、反射板2のサイズ、配置位置および配置方向(姿勢)は、照射部5から記録用紙1の紙面に直接に照射された赤外線6(1次照射線)の光路を基準とした簡単な幾何光学計算で決定できる。たとえば赤外線6として平行光が発生するとともに、反射板の反射面を記録用紙1の紙面に対して間隔Dで平行に配置する場合には、赤外照射部5から記録用紙1の紙面への赤外線6(1次照射線)の入射角をθとする(ただし記録用紙1の紙面への直角入射をθ=0とする)と、反射板の反射面と記録用紙1の間の間隔空間を赤外線が1回往復する都度、記録用紙1の搬送方向X1に、L=2D・tanθだけ赤外線の光路が(反射を繰り返しつつ)進行する。従って、搬送方向X1についての反射板の長さが、L=2D・tanθ以上(好ましくは2L以上)に設定されれば、高次照射線が生じ得る。他の幾何学的配置の場合も、同様の幾何光学的な計算によって、高次照射線を生じさせる条件を定めることができる。
【0046】
乱反射および正反射のいずれの場合も、反射板の反射面と記録用紙1の紙面との間隔は狭くする方が、高次照射線が生じやすい。比較基準として、記録用紙1の紙面の法線方向についての、赤外線放射管(赤外線源)3と記録用紙1の紙面との間隔(第1間隔)を一定とした条件下では、反射板の反射面と記録用紙1の紙面との第2間隔を上記第1間隔よりも狭く設定した方が、高次照射線を生じさせやすくなる。
【0047】
上述したように、インクジェット記録装置100Aにおいては、記録用紙1に照射された赤外線6が、記録用紙1により反射されて、さらに反射板2Aによって記録用紙1に向けて反射される。そして、反射板2Aから反射された赤外線8は、記録用紙上に吐出された水性インクに照射され得る。従って、インクジェット記録装置100Aによれば、赤外線を効率よくインクの乾燥に再利用することが可能となり、反射板2Aを備えないインクジェット記録装置に比べて水性インクの乾燥に消費されるエネルギー量を抑制しつつ高濃度のインク部分をも乾燥し得る。
【0048】
ここで、図3は、乾燥装置42Bの概略構成の一例を示す図である。インクジェット記録装置100Aにおける乾燥装置42Aに代えて、乾燥装置42Bが採用されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。乾燥装置42Bは、乾燥装置42Aの反射板2Aが反射板2Bに置き換えられた構成を有する。反射板2Bの各面のうち記録用紙1に対向する面は、乱反射面21と同様の構造を有する乱反射面22によって構成されている。
【0049】
反射板2Aは、記録用紙1の紙面に対して平行に配置されている。一方、反射板2Bは、記録用紙1の搬送方向である矢印X1方向(−X方向)に沿った照射部5と反射板2Bの距離が遠くなるにつれて、記録用紙1からの反射板2Bの距離が徐々に小さくなるように、記録用紙1に対して斜めに配置されている。
【0050】
記録用紙1と乱反射面22との距離が遠ければ遠いほど、反射時の赤外線パターンの広がりによって乱反射面22から記録用紙1に照射される赤外線の単位面積当りの強度が低下する。しかし、反射板2Bにおいては、乱反射面22での赤外線の反射が行なわれる度に、記録用紙1と乱反射面22との距離が小さくなっていく。このため、乾燥装置42Bでは、乱反射面での赤外線の反射回数に応じて低下する該単位面積当りの赤外線強度の低下の度合いを、乾燥装置42Aに比べて低減することができる。また、反射板2Bが記録用紙1に対して傾いているので、乾燥装置42Bでは、記録用紙1と乱反射面22との間に入り込む赤外線6、赤外線7の光線量を乾燥装置42Aに比べてより増大させる構成を採用し得る。なお、具体的には、反射板2BとXZ平面とが交差する角度は、例えば、10度〜20度程度(ただし、反射板2BとXZ平面の法線方向が一致するときの該角度は0度)に設定される。
【0051】
<変形例について>
<インクジェット記録装置100Bについて>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0052】
図4は、変形例に係るインクジェット記録装置100Bの概略構成の一例を示す図である。インクジェット記録装置100Aに代えて、インクジェット記録装置100Bが採用されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。インクジェット記録装置100Bは、ロール紙状の記録用紙(記録媒体)1にインクジェット部41から水性インクを吐出して画像等を記録する装置である。インクジェット記録装置100Bでは、インクジェット記録装置100Aにおける排紙装置45、給紙装置46、および搬送ベルト55が除去されるとともに、搬送ローラ53が追加され、乾燥装置42Aに代えて乾燥装置42Cが採用されている。
【0053】
また、インクジェット記録装置100Bの記録用紙としては、ロール紙の記録用紙1が採用されている。記録用紙1は、その一端が搬送ローラ51に巻き付けられて固定されるとともに、他端が搬送ローラ53に巻き付けられて固定されることにより、搬送ローラ51から搬送ローラ52を経て搬送ローラ53に渡って張架されている。記録用紙1は、搬送ローラ51が矢印R1方向に回転することにより搬送ローラ51から送り出されたのち、搬送ローラ52の矢印R2方向への回転によって搬送方向を変更され、搬送ローラ53の矢印R3方向への回転によって搬送ローラ53に巻き取られる。すなわち、インクジェット記録装置100Bにおいては、記録用紙1の搬送機構は、搬送系駆動装置44、搬送ローラ51、52、53などによって構成される。
【0054】
乾燥装置42Cは、照射部5(赤外線放射管3、反射鏡4)と、反射板2Cとを主に備えて構成されている。反射板2Cは搬送ローラ52のローラ面と平行に配置されており、搬送ローラ52と対向する反射板2Cの面には乱反射面23が形成されている。乾燥装置42Cは、吐出されたインク10が付着した記録用紙1が搬送ローラ52によって搬送方向を変更される際に、搬送ローラ52上において記録用紙1に付着したインク10を、乾燥装置42Aと同様に、照射部5からの赤外線を用いて乾燥させる。
【0055】
乾燥装置42Cが採用されれば、配置スペースを要する反射板2Cを鉛直方向(Y方向)に沿って配置することができるので、乾燥装置42Cを備えたインクジェット記録装置100Bは、設置面積をインクジェット記録装置100Aに比べて減少させ得る。
【0056】
また、この発明のインクジェット記録装置での記録媒体は、水性インクでの記録が可能であるとともに、赤外線の反射性を有していれば、紙以外の材料で形成された記録媒体であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
100A,100B インクジェット記録装置
1 記録用紙(記録媒体)
2A,2B,2C 反射板
3 赤外線放射管
4 反射鏡
5 照射部
6,7,8 赤外線
9K,9C,9M,9Y,10 インク
17K,17C,17M,17Y インクジェットヘッド
21,22,23 乱反射面
42A,42B,42C 乾燥装置
51,52,53 搬送ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクを吐出して記録媒体に視覚的情報を記録するインクジェットヘッドと、
予め設定された処理ラインに沿って前記記録媒体を前記インクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送機構と、
前記処理ラインに対向する第1位置に配置され、前記水性インクが吐出された前記記録媒体に赤外線を照射する照射部と、
前記処理ラインに対向する第2位置に前記照射部に対して並列的に配置され、前記記録媒体から反射された前記赤外線を前記水性インクが吐出された前記記録媒体に向けて反射する反射板と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット記録装置であって、
前記反射板のうち、前記記録媒体に対向する面には、前記記録用紙から反射された前記赤外線を乱反射する乱反射面が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたインクジェット記録装置であって、
前記照射部は前記記録媒体の記録面に対して斜め方向に前記赤外線を照射し、
前記反射板は、
前記搬送機構によって搬送される前記記録媒体の前記記録面に対して平行に配置されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つの請求項に記載されたインクジェット記録装置であって、
前記第1位置と前記第2位置とは、前記処理ラインの上流側と下流側とにそれぞれ設定されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1つの請求項に記載されたインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体の前記記録面が受ける赤外線は、
1) 前記照射部から前記記録面に照射される第1照射線と、
2) 前記第1照射線が前記記録面と前記反射面とで1回ずつ反射して前記記録面に至る第2照射線と、
3) 前記第1照射線が前記記録面と前記反射面とで複数回ずつ反射して前記記録面に至る高次照射線と、
を含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたインクジェット記録装置であって、
前記照射部の赤外線源と前記記録面との第1間隔よりも、前記反射板の反射面と前記記録面との第2間隔を狭くしてあることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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