説明

インクジェット記録要素

支持体を有し、当該支持体上に(a)ヒュームドシリカの粒子と親水性バインダーとを含む多孔質ベース層、および(b)前記ベース層の上方に、コロイドシリカの粒子および親水性バインダーを含む任意選択的な多孔質光沢層を有し、ヒュームドおよびコロイドシリカの粒子がアニオン性であるインクジェット記録要素が開示される。かかるインクジェット記録要素上への印刷方法およびインクジェット記録要素の好ましい製造方法も開示される。当該インクジェット記録要素は、幾つかの実施態様において、画質の改善(合体の低減)、およびより高い染料インク光学濃度という利点を潜在的に有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録要素および当該記録要素への印刷方法に関する。より詳しくは、本発明は、限られたバインダー含有量でアニオン性ヒュームドシリカを含む下側ベース層を含み、任意選択的に、顔料系インクで印刷するための上側光沢層を含んで成る多孔質記録要素に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なインクジェット記録または印刷システムでは、ノズルから記録要素または媒体へ向けてインク液滴を高速で射出することでその媒体上に画像を生じさせる。インク液滴、または記録液は、一般的に色素や顔料などの記録剤と、多量の溶剤とを含む。溶剤またはキャリア液は、典型的には、水、一価アルコール、多価アルコールなどの有機物質、またはこれらの混合物から構成される。
【0003】
インクジェット記録要素は、典型的には、支持体を含み、支持体の少なくとも片面上に少なくとも一つのインク受容性層を有する。インク受容性層(IRL)には一般的に2つの種類がある。第1のタイプのIRLは、分子拡散によりインクを膨潤または吸収するために高い容量を有するポリマーの非多孔質コーティングを含む。それぞれアニオンまたはカチオン染料のための染料定着剤または媒染剤として機能するようにカチオン性またはアニオン性物質が典型的にはコーティングに添加される。このコーティングは、光学的に透明で非常に滑らかであり、高光沢「写真グレード」の受容体をもたらす。しかしながら、このタイプのIRLによる場合には、インクは通常IRL中にゆっくり吸収され、プリントは瞬間的に指触乾燥しない。
【0004】
第2のタイプのIRLは、無機、ポリマーまたは有機−無機複合材料粒子と、ポリマーバインダーと、染料定着剤または媒染剤などの添加剤とを含む多孔質コーティングを含む。これらの粒子は、様々な化学組成、大きさ、形状、および粒子内/粒子間多孔度を有するものであることができる。この場合、印刷液は、IRLの開放細孔に実質的に吸収され、瞬間的に指触乾燥状態になるプリントが得られる。
【0005】
多孔質層中の有機および/または無機粒子は、粒子間の間隔により細孔(pores)を形成する。粒子をまとめるためにバインダーが使用される。しかしながら、高い細孔容積を保つために、バインダーの量が制限されることが望ましい。多すぎるバインダーは粒子またはビーズ間の細孔を埋め始め、インク吸収を抑制するおそれがある。一方、少なすぎるバインダーは、コーティングの保全性(integrity)を低下させるおそれがあり、コーティングの保全性の低下はクラックの生成をもたらす。
【0006】
インクジェット印刷の質および濃度が増加するに伴って、インクジェット記録要素(「受容体(receiver)」とも呼ばれる)に適用されるインクの量は増加する。この理由から、パドリング(puddling)または合体(coalescence)および混色滲み(inter−color bleed)を防止するために媒体に十分なボイド容量を付与することが重要である。同時に、ユーザーに利便性を提供するために印刷速度がますます高まっている。そのため、増加した量のインクを収容するために十分な容量だけではなく、媒体は、単位面積・単位時間当たりのインク容積の点でますます多量のインク流束(ink flux)を処理することができなければならない。
【0007】
多孔質インクジェット記録要素は通常少なくとも2つの層:適用されたインクジェットインク中の液体のために主サンプ(main sump)としての、しばしばベース層と呼ばれる下側層と、しばしば光沢層、ときによって画像受容性層と呼ばれる任意選択的な上側層とを、この順序で支持体上に含む。これらの層は、さらに分割されていても、さらなる層が支持体と最上部の光沢層との間にコートされていてもよい。これらの層は、樹脂被覆または非樹脂被覆支持体上にコートされていてもよい。これらの層は、ロールコーティング、計量コーティング(スロットまたは押出コーティング、スライドまたはカスケードコーティング、あるいはカーテンコーティング)またはエアナイフコーティングなどの公知のコーティング法を使用して1または2以上のパスでコートされてもよい。非樹脂被覆紙上にコーティングする場合、滑らかな光沢表面を提供するために、キャストコーティングまたはフィルム転写コーティングなどの特殊なコーティング法を使用できる。光沢をある程度高めるために、圧力および任意選択的に熱を用いるカレンダリングを使用してもよい。
【0008】
近年、より高速印刷がインクジェットプリンターに要求されている。複数のインク液滴を非常に接近させて短時間で付着させる場合に問題が生じる。受容体の多孔度(porosity)が適切でないと、液滴が合体(coalesce)して、画質をひどく損なってしまう。コートされた層におけるバインダーの量は、インク記録要素の性能に重要である。多すぎるバインダーが存在する場合には、受容体の多孔度が減少して合体をもたらし、少なすぎるバインダーが存在する場合には、許容できないクラックの生成が観察される。
【0009】
Biらへの欧州特許第1,464,511号明細書には、樹脂被覆支持体上の2層インクジェット受容体が開示されている。最下層は、シリカ粒子をカチオン形態に変換するために塩化アルミニウム水和物により処理されたヒュームドシリカの分散体を含む。カチオン形態は処理後の+27ミリボルトを超えるゼータ電位により示される。カチオン性シリカ粒子分散体をホウ酸およびポリ(ビニルアルコール)と混合して最下層用のコーティング組成物を形成する。最上層用のコーティング組成物は、カチオン性コロイドシリカとグリセロールと少量のコーティング助剤の分散体から構成された。最上層および最下層は、1回のパスで同時にカスケードコーティングされたものである。すなわち同時コーティングが文脈の中に開示されている。最下層のコーティング量は28〜30g/m2であり、最上層のコーティング量は0.2g/m2であった。しかしながら、このタイプのインクジェット受容体には、高インクレベルが印刷された場合に画質が合体により損なわれるという問題がある。
【0010】
上記欧州特許第1,464,511号明細書の比較例4では、カチオン性ヒュームドシリカベース層とアニオン性コロイドシリカ上層を含む比較のためのインクジェット記録要素が作製され、試験された。
【0011】
Miyachiらの米国特許出願公開第2003/0224129号明細書には、上記欧州特許第1,464,511号に類似するインクジェット記録要素が開示されている。このインクジェット記録要素では、ヒュームドシリカであることができるコロイドシリカを主として含む層が、カチオン化無機粒子を含むベース層上に存在する。
【0012】
Scharfeらへの米国特許第7,015,270(B2)号には、ヒュームドシリカおよびカチオン性ポリマーを含むインクジェット記録要素が開示されており、このインクジェット記録要素を製造するために使用される分散体は正のゼータ電位を有する。
【0013】
層中への架橋剤の拡散によって、インク受容性層中のバインダーのための架橋剤を提供することが知られている。例えば、Riouらは米国特許第4,877,686号において、インクジェット印刷用の記録シートおよびその製造方法を述べている。コーティング組成物は、無機粒子などの充填剤と、ポリ(ビニルアルコール)などのポリヒドロキシポリマーバインダーを含む。コーティングプロセスにおいて、PVAはホウ砂によりゲル化または凝固される。このゲル化剤は、コーティングに先立ってベース材料上に付着されてもよい。代わりに、ゲル化剤をコーティング組成物中に導入することができるが、一時的に失活させなくてはならない。例えば、ホウ酸がコーティング組成物中に使用されてもよく、高pHベース層との接触により活性化される。この導入架橋剤プロセス(incorporated crosslinker process)の欠点は、ホウ酸がPVAを完全にはゲル化しないが、粘度の増加が予測され、粘度の増加はコーティング事象を通してコーティング品質に悪影響を及ぼし得るということである。Riouらの開示は、より規則的な形状のドットを提供することに主に関する。写真品質に求められる高プリント濃度および光沢はRiouらにより取り組まれていない。
【0014】
Kuroyamaらの欧州特許第493,100号明細書には、ホウ酸またはボレートが塗布された基材と、このホウ砂コーティング上に形成されたインクジェット記録層であって、合成シリカおよびポリ(ビニルアルコール)を含むインクジェット記録層とを含むインクジェット記録紙が開示されている。シリカは、湿式法シリカ、シリカゲル、または乾式法により得られた超微細シリカであることができる。典型的なシリカ材料は、高い表面積を有するが数ミクロン以上の大きな二次粒子サイズを有するシリカゲルである。これらの材料は、写真品質プリントに期待される高い光沢を提供しない。耐水性を高めるためにカチオン性電解質を添加することができ、このことは、カチオン性化学種と混和し得る組成物を示唆している。
【0015】
Liuらは、米国特許出願公開第2004/0022968号明細書において、基材上にa)バインダーおよびボレート誘導体のための下引き層と、b)架橋可能なポリマーと無機粒子、例えばカチオン性に変性されたヒュームドシリカまたはもともとカチオン性のヒュームドシリカを含む画像受容性層とを有するインクジェット記録要素が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0224129号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0022968号明細書
【特許文献3】米国特許第7,015,270号明細書
【特許文献4】欧州特許第0493100号明細書
【特許文献5】欧州特許第1464511号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、インク受容性層の過度のクラック生成(cracking)を防止しつつ、カラープリント濃度が改善され、合体(coalescence)が低減され、光沢が改善されたインクジェット受容体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記の課題のうちの1つまたは2つ以上を解消することを目的とする。簡単に要約すると、本発明の一側面によれば、インクジェット記録要素は、支持体および下記のインク受容性層:
(a)アニオン性ヒュームドシリカの粒子と、ホウ素含有化合物を含む架橋剤により架橋された一次バインダーとして親水性ヒドロキシル含有ポリマーとを含む多孔質ベース層であって、当該多孔質ベース層の乾燥質量は10〜35g/m2であり、当該多孔質ベース層中の全固形分に対するバインダーの質量百分率は5.0%よりも高く、かつ、15.0%未満である多孔質ベース層;および
(b)前記ベース層の上方の、アニオン性コロイドシリカの粒子および親水性バインダーを含み、1.0〜7.5g/m2の乾量を有する最上部の多孔質光沢層;
を有し、
コロイドシリカの粒子のメジアン一次粒子サイズが10nmから45nm未満であり、
アニオン性ヒュームドシリカの粒子およびアニオン性コロイドシリカの粒子が−15ミリボルト未満のゼータ電位を示す。
【0019】
換言すれば、ベース層中のヒュームドシリカおよび光沢層中のコロイドシリカは両方ともアニオン性の粒子である。好ましい実施態様において、光沢層中のコロイドシリカは親水性ポリマーバインダーを含み、架橋性化合物により架橋されている。別の好ましい実施態様において、コロイドシリカ光沢層は少なくとも1.5g/m2の乾燥量を有し、最上層中のコロイドシリカのメジアン粒子サイズは40nm未満である。
【0020】
本発明は、インクジェット記録要素において、画質の改善(合体の低減)と染料インク光学濃度が高いという利点を有する。かかる要素を製造するための本発明の方法は、前駆体分散体を取り扱いやすいということと、要素の1つまたは2つ以上の層において高い多孔度を有する要素の場合に改善された光沢および低減されたクラック生成を含む得られるインクジェット記録要素の特性が改善されるという利点を有する。インクジェット記録要素中のインク受容性層のためのアニオン性組成物が、対応するカチオン性配合物よりも良好な染料濃度を提供する傾向があるということは、特にカチオン性材料がインク受容性層用のアニオン性組成物よりも典型的に使用されるアニオン性染料をより容易に媒染することが予測されるため、非常に予想外である。また、驚くべきことに、実施例に示されているように、アニオン性ヒュームドシリカを含むアニオン性組成物が対応するカチオン性ヒュームドシリカよりも少ないバインダーを必要とする傾向がある。
【0021】
本明細書において本発明を説明する際に以下の定義が一般的に適用される。
本明細書では用語「多孔質層」を、適用されたインクを、液体拡散というよりもむしろ実質的に毛管作用によって吸収することにより特徴付けられる層を定義するために用いる。多孔度は、粒子間の間隔により形成される細孔(pores)に基づくが、多孔度は粒子対バインダー比に左右されることがある。層の多孔度は、限界顔料体積濃度(CPVC)に基づいて推定することができる。支持体上に1つまたは2つ以上の多孔質層(好ましくは実質的に全ての層)を有するインクジェット記録要素を、たとえ支持体が多孔質ではなくても、「多孔質インクジェット記録要素」と呼ぶことができる。
【0022】
特に断らない限り、本明細書で言及する粒子サイズは、数加重粒子サイズ(number weighted particle size)である。特に、コロイドシリカの場合に、メジアン粒子サイズは、当業者であれば分かるであろう高分解能TEM(透過型電子分光分析)画像を使用して電子分光分析法により求められた数加重メジアン(number weighted median)である。ここでは、各粒子の直径は、各粒子の等価投影面積と同じ面積を有する塩の直径である。コロイドシリカの場合に、ヒュームドシリカと比べて、コロイドシリカ粒子は、平均してその一次粒子サイズの2倍まで凝集することがあるが、一次粒子サイズの測定に過度に影響を及ぼさない。
【0023】
2つの母集団の粒子の混合物の場合には、その混合物のメジアン粒子サイズは、たんに、その混合物のメジアン粒子サイズである。典型的には、ある混合物における2つのメジアン粒子サイズが等質量の場合には、その混合物のメジアン粒子サイズは小さい方のメジアン粒子サイズを有する成分のメジアン粒子サイズに比較的より近い。
【0024】
通常用いられている方法は、粒子を球体として扱い、それに応じて結果が算出されるために、ヒュームド金属酸化物粒子の二次サイズを求めることは困難である。(分散体中のヒュームドシリカの一次粒子サイズは、コロイドシリカと同様にTEMにより測定できる。)ヒュームドシリカ粒子は球体でないが、一次粒子の凝集体から成る。ヒュームドシリカの場合に、メジアン二次粒子サイズは、水中に分散された希釈粒子の光散乱測定により求められ、NANOTRAC(Microtac Inc.)、MALVERNもしくはCILASの計器、または、本質的に同等の手段を使用して、レーザー回折または光子相関分光分析(PCS)技術を用いて測定される。特に断らない限り、粒子サイズは二次粒子サイズを指す。商業的製造業者により販売されている様々な製品中の無機粒子のメジアン粒子サイズは、通常、それらの製品に関する文献中に示される。しかしながら、製品間の正確な比較を行うために、ある特定の測定技術を検討しなくてはならないであろう。1つの試験法の使用によって、異なる試験法間での潜在的な変動がなくなる。
【0025】
インクジェット媒体における各層に関して、本明細書で使用される「上方(over)」、「上(above)」、「上側(upper)」、「下方(under)」、「下(below)」、「下側(lower)」等の用語は、支持体上の各層の順序を指すが、必ずしも当該各層が直接接していること、または中間層がないことを指していない。
【0026】
本発明に関して、用語「画像受容性層」は、顔料捕捉層、染料捕捉層、または染料および顔料捕捉層として用いられ、印刷画像が層に実質的に残る層を定義することを意図している。染料系インクの場合、画像を1つ以上の隣接する画像受容性層に任意選択的に残すことができる。
【0027】
本発明に関して、用語「光沢層」は、ベース層のみと比べてさらなる光沢を付与するインクジェット記録要素中の最上部の被覆層を定義することを意図している。それが画像受容性層である。
【0028】
本発明に関して、用語「ベース層」(時により、「サンプ層(sump layer)」または「インクキャリア液受容性層」とも言う)は、本明細書ではインクキャリア液のかなりの量を吸収する少なくとも1層のインク保持層の下方にある層を指すために用いる。使用の際、インク用のキャリア液のかなりの量、好ましくは、ほとんどは、乾燥されるまでベース層中に受容され、ベース層中にとどまる。ベース層は、画像受容性層の上にはなく、それ自体が画像含有層(顔料捕捉層または染料捕捉層)ではないが、染料の場合には、比較的少量のインク着色剤が画像受容性層を離れてベース層(たいてい上側部分)に入ることがある。好ましくは、ベース層は、下引き層を除いて支持体に最も近いインク保持層である。ベース層は、1または複数の画像受容性層の下方にある最も厚い層である。
【0029】
用語「下引き層」は、ベース層と支持体との間にある、5g/m2未満、好ましくは1g/m2未満の乾量を有する任意の層を指す。下引き層は、多孔質であっても非多孔質であってもよく、接着性を向上させるため、あるいは、拡散のために架橋剤を提供することなどの他の機能を達成するために使用できる。
【0030】
用語「インク受容性層」または「インク保持層」は、適用されたインク組成物を受容する、支持体の上方のいずれかおよび全ての層を包含し、これらの層は、後で乾燥によって除去されるとしても、インクジェット記録要素に画像を形成するために使用される、インクキャリア液および着色剤を含む1種または2種以上のインク組成物の任意の部分を吸収または捕捉する。インク受容性層は、従って、画像が染料および/または顔料によって形成される画像受容性層、ベース層、下引き層、または例えばインクジェット記録要素のベース層と最上層との間の任意の追加の層を含むことができる。典型的には、支持体の上方の全ての層はインク受容性である。インク受容性層がその上にコートされる支持体は、インクキャリア液を吸収してもよい。これに対し、インク受容性層は支持体上にコートされ、インクジェット記録要素の製造中にインク受容性層の全てがコートされる固体材料である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上記のように、本発明は、支持体上に、当該支持体の最も近くにある多孔質ベース層と、多孔質の上側光沢層とを含む多孔質のインクジェット記録要素に関する。支持体の最も近くにある多孔質ベース層および多孔質の上側光沢層は、任意選択的に、サブ層(sub−layers)、好ましくは直接隣接するサブ層に分割されていてもよく、その場合に、独立に、サブ層は個別的および集団として、厚さの要件を除いて、層についての特許請求の範囲に記載された要件を満たす。本明細書に記載の層は、好ましくは単層としてコーティングされる。
【0032】
一実施態様において、インクジェット記録要素は、下引き層などの厚さ1マイクロメートル未満の層が存在し得るということを除いて、支持体上の1つの多孔質ベース層および1つの上側光沢層から構成される。
【0033】
好ましい一実施態様において、未印刷インクジェット記録要素の60度光沢は少なくとも15ガードナー光沢単位、好ましくは少なくとも20ガードナー光沢単位である。
【0034】
好ましい一実施態様において、本発明は、順に、
(a)アニオン性ヒュームドシリカの粒子と、一次バインダーとして親水性のヒドロキシル含有ポリマーを含み、乾量が10〜35g/m2、好ましくは15〜25g/m2であり、親水性ヒドロキシル含有ポリマーがホウ素含有化合物を含む架橋剤により架橋されており、当該多孔質ベース層中の全固形分に対する全バインダーの質量百分率は5.0%よりも高く、かつ、15.0%未満、好ましくは12%未満、最も好ましくは10%未満である多孔質ベース層;および
(b)ベース層の上方の、アニオン性コロイドシリカの粒子および親水性バインダーを含み、1.0〜7.5g/m2の乾量を有する多孔質光沢層、ここで、アニオン性コロイドシリカの粒子のメジアン粒子サイズが10nmから45nm未満、好ましくは40nm未満、実施態様によっては都合のよい30nm未満、より好ましくは25nm未満である;
を含んで成るインクジェット記録要素に関する。
【0035】
ヒュームドシリカおよびコロイドシリカの両方の粒子は−15ミリボルト未満のゼータ電位を示す。
【0036】
ゼータ電位は、粒子の表面電荷の測定値であり、例えば、粒子の表面に付着する任意の物質によりシフトし得る。ゼータ電位は、分散体中の粒子のずり面上の電位を意味すると理解されている。粒子が表面上に酸基または塩基性基を有する分散体において、pH値を設定することにより電荷を変化させることができる。ゼータ電位に関連して重要な値は、電荷のゼロ点と見なすことができる粒子の等電点(IEP)である。IEPは、ゼータ電位がゼロであるpH値を与える。二酸化ケイ素のIEPはpH3.8未満である。pH値とIEPの間の差が大きいほど、分散体がより安定である。
【0037】
同じ材料の粒子は同じ表面電荷符号を有するので、互いに反発する。しかしながら、ゼータ電位が小さすぎる場合には、反発力は粒子のファンデルワールス引力を相殺することはできず、フロキュレーション、場合によっては粒子の沈殿をもたらす。
【0038】
ゼータ電位は、当該技術分野で知られている任意の方法により決定でき、好ましくは、例えば分散体のコロイド振動電流(CVI)を求めることにより、またはその電気泳動移動度を求めることにより決定できる。本発明の組成物のゼータ電位は、Malvern Instrument ZETASIZER NANO−ZSにより測定した。分散体を適切なpHの水で希釈し、良好な分散体となるように振とうした。
【0039】
光沢層中のコロイドシリカ粒子を、表面積BET表面測定によりさらに評価することができる。コロイドシリカ粒子の場合の好ましい表面積は50g/m2を超える。様々なコロイドシリカ製品の中で比較的表面積が大きいものは、より直径の小さい粒子と関連付けられる傾向がある。本明細書で用いる場合、BET表面積測定は、S.Brunauer,P.H.EmmetおよびTellerのJ.Am.Chemical Society,vol.60,第309頁(1938)の窒素吸着法に基づく。
【0040】
上記のとおり、インク受容性層中のバインダーの量が制限されていることが望ましい。なぜなら、インクジェット媒体にインクを適用したときに、液体キャリア(典型的には水性)はバインダーを膨潤させて細孔を閉じる傾向があり、滲みまたは他の問題を引き起こすことがあるからである。従って、好ましくは、ベース層は、望ましい多孔度を保つために、ベース層におけるバインダーの最大量未満のバインダーを含み、好ましくはクラック生成および他の望ましくない特性を防止するまたは無くすのに十分な最低限の量よりも多いバインダーを含む。
【0041】
ホウ素含有化合物により架橋可能ないかなる好適な親水性ヒドロキシル含有ポリマーも、インクジェット記録要素のベース層(任意選択的に光沢層)における一次バインダーとして使用できる。
【0042】
少なくともベース層において使用される架橋可能な親水性ヒドロキシル含有ポリマーは、例えば、ポリ(ビニルアルコール)、部分加水分解ポリ(酢酸ビニル/ビニルアルコール)、または、ヒドロキシエチルメタクリレートを含むコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートを含むコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートを含むコポリマー、ヒドロキシエチルセルロースなどのヒドロキシセルロースエーテルなどであることができる。好ましい一実施態様において、ヒドロキシル基を含む架橋可能なポリマーは、部分加水分解ポリ(酢酸ビニル/ビニルアルコール)または変性もしくは未変性PVA、またはヒドロキシ基を含む単量体反復単位を主に(50モル%超)含む、より好ましくはかかる単量体反復単位を少なくとも70モル%含むPVAのコポリマーなどの、ポリ(ビニルアルコール)である。
【0043】
一般的に、一次バインダーとして、「PVA」とも本明細書では呼ぶポリ(ビニルアルコール)を使用した場合に特に良好な結果が得られる。上記のように、用語「ポリ(ビニルアルコール)」は、変性および未変性ポリ(ビニルアルコール)、例えばアセトアセチル化、スルホン化、カルボキシル化学PVAなどを包含する。PVAのコポリマー、例えばエチレンオキシドを有するものも一次バインダーとして好ましい。
【0044】
本発明において好ましく使用されるポリ(ビニルアルコール)としては、ポリ酢酸ビニルを加水分解することにより調製される通常のポリ(ビニルアルコール)、および、アニオン性基または非カチオン性基を有するポリ(ビニルアルコール)などの変性ポリ(ビニルアルコール)も挙げられる。
【0045】
一実施態様において、酢酸ビニルを加水分解することにより調製されるポリ(ビニルアルコール)の平均重合度は好ましくは少なくとも300であるが、より好ましくは1000〜10,000であり、あるいは、好ましい粘度は、20℃で、4質量%の濃度で水中において少なくとも30cPであり、より好ましくは40cPである。ポリ(ビニルアルコール)の鹸化率は好ましくは70%〜100%であるが、より好ましくは75%〜95%である。
【0046】
より少ない量の補助的な非親水性(疎水性)バインダーを各種組成物中に含めてもよい。好ましいポリマーは水溶性であるが、様々な理由からラテックスポリマーを含めてもよい。(本明細書において使用する場合に、用語「一次(primary)」とは全バインダーの50質量%を超えることを意味する。)
【0047】
好ましい一実施態様において、上記の補助的なポリマーバインダーが一次バインダーと異なる場合には、当該補助的なポリマーバインダーは混和性、好ましくは水溶性の親水性ポリマー、例えばポリ(ビニルピロリドン)、ゼラチン、セルロースエーテル、ポリ(オキサゾリン)、ポリ(ビニルアセトアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アルキレンオキシド)、スルホン化またはリン酸化ポリエステルおよびポリスチレン、カゼイン、ゼイン、アルブミン、キチン、キトサン、デキストラン、ペクチン、コラーゲン誘導体、コロジオン、寒天、アロールート、グアー、カラギーナン、トラガカント、キサンタン、ラムサン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリウレタン、酢酸ビニル−エチレンコポリマー、エチレン−塩化ビニルコポリマー、酢酸ビニル−塩化ビニル−エチレンターポリマー、アクリル類、それらのポリマー、コポリマーもしくは誘導体など、あるいはこれらの組み合わせであることができる。
【0048】
好ましい疎水性材料としては、例えば、ポリ(スチレン−co−ブタジエン)、ポリウレタンラテックス、ポリエステルラテックス、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、n−ブチルアクリレートとエチルアクリレートのコポリマー、酢酸ビニルとn−ブチルアクリレートのコポリマーなどが挙げられる。親水性バインダーとラテックスバインダーとの混合物、例えばポリ(ビニルアルコール)とポリ(スチレン−co−ブタジエン)ラテックスの混合物が有用であることがある。
【0049】
ホウ素含有架橋剤に関し、最も好ましくは、ボレートまたはボレート誘導体などのホウ素含有化合物を下引き層中に含め、ベース層中に拡散させて、少なくともベース層中の架橋可能なバインダーを架橋させる。
【0050】
インクジェット記録要素の下引き層において使用されるボレートまたはボレート誘導体は、例えば、ホウ砂、四ホウ酸ナトリウムなどであることができ、ホウ酸のように酸性のホウ素含有化合物でないことが好ましい。
【0051】
一実施態様において、架橋性化合物は四ホウ酸ナトリウム十水和物(ホウ砂)、ホウ酸ナトリウム、およびホウ酸の誘導体などのホウ酸塩、ホウ酸無水物などであり、ベース層中のバインダーとしてのポリ(ビニルアルコール)、すなわち「PVA」と組み合わせて使用される。この組み合わせは、特に有利であることが見出された。PVAとホウ砂は相互作用して溶液中に高粘度のまたはゲル化した混合物を形成し、これは乾燥によって架橋コーティングを形成する。一実施態様によると、ホウ砂をウェブ上に予めコートし、次に、PVAを含む水性コーティング組成物を適用する。このコーティング組成物に由来する水がホウ砂を溶解し、これによりホウ砂がコーティング中に拡散して、組成物が迅速に増粘することが可能となる。
【0052】
ホウ素含有化合物、例えば、ボレートまたはボレート誘導体は、ベース層のバインダーの質量の12質量%以下の量で下引き層において使用することが好ましい。かかる乾燥した下引き層の上へのベース層のコーティングの際に、下引き層中のボレートまたはボレート誘導体のほとんどがベース層中に拡散してベース層中のバインダーのほとんどを架橋させる。なぜなら、かかる拡散は典型的には速いからである。
【0053】
ベース層にさらなる機械的耐久性を与えるために、上記バインダーに作用するホウ素を含有しない架橋剤を少量で、少なくともベース層用のコーティング組成物に添加することができる。かかる添加剤は層の凝集強度をさらに高めることができる。カルボジイミド類、多官能アジリジン類、アルデヒド類、イソシアネート類、エポキシド類、ビニルスルホン類、ピリジニウム、ピリジリウムジカチオンエーテル、メトキシアルキルメラミン類、トリアジン類、ジオキサン誘導体、クロムアルム、硫酸ジルコニウムなどの架橋剤を使用することができる。従って、ホウ素を含有しない架橋剤をホウ素含有架橋剤と併用することができる。
【0054】
上記のとおり、ベース層の乾量は少なくとも10g/m2であり、より好ましくは15〜25g/m2、最も好ましくは17g/m2〜24g/m2である。ベース層の乾量がより低いと、観察される合体のいかなる増加も、ベース層組成物を調節してベース層の吸収容量を増加させることまたは受容体の濡れ性を改善することによって相殺できる。例えば、ベース層へのフルオロ界面活性剤の添加によって、低いベース層被覆量で合体を低減できる。また、中間層の形態で吸収容量を付加することによって合体を低減できる。ベース層の組成物への他の可能な調節としては、粒子の表面積を変えることおよび/または他の粒状材料の添加が挙げられる。
【0055】
ベース層は、その他の多孔質インク保持層の下方、少なくとも光沢層の下方に位置し、インクジェット記録要素に適用された液体キャリアのかなりの量を吸収するが、染料または顔料を、たとえ吸収したとしても、上方の1または複数の層よりもかなり少ない量で吸収する。
【0056】
本発明のインクジェット記録要素の一実施態様において、ベース層の厚さは上側光沢層の厚さの少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは少なくとも6倍、最も好ましくは少なくとも9倍である。
【0057】
ベース層中の無機粒子は、別々に調製され、次いで混合された2つの異なる母集団のヒュームドシリカの混合物を含むことができる。
【0058】
好ましくは、ベース層中のアニオン性ヒュームドシリカ(またはケイ素含有混合酸化物ヒュームド粒子)は、ベース層中の無機粒子の全質量の少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%を構成する。
【0059】
ベース層は、ヒュームドシリカに加えて、少量の1種または2種以上の他の非カチオン性無機粒子をさらに含むことができ、もしあるとすれば、例えば、コロイドシリカ、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛など、および/またはこれらの混合物を含むことができる。他の有用な非カチオン性無機粒子の例としては、クレイおよび炭酸カルシウムなどが挙げられる。好ましくは、いかなる任意選択的な非凝集コロイド粒子も、粒子サイズを除き、多孔質光沢層について先に述べたようなアニオン性コロイド(非凝集)シリカを含む。
【0060】
上記無機粒子に加えて、ベース層は、独立に、非カチオン性有機粒子、例えばポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリ(ブチルアクリレート)などを含んでよい。好ましくは、ベース層中の実質的に全ての粒子が300nm以下のメジアン一次および二次粒子サイズを有する。
【0061】
好ましくは、ベース層中の1種または2種以上の他の非カチオン性無機材料は、酸化ケイ素含有材料の粒子を構成し、金属またはケイ素原子の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%はケイ素であり、酸素または他の非金属もしくは金属原子と組み合わされている。
【0062】
好ましい実施態様において、ベース層は、5〜15.0質量%のバインダーを含む。ベース層は、親水性および疎水性バインダーの両方を含むことができる。最も好ましくは、ベース層中のバインダーはポリ(ビニルアルコール)である。さらに、ベース層が、ポリ(ビニルアルコールを架橋する架橋剤をさらに含むことが好ましい。)
【0063】
一実施態様において、ベース層は、コーティング組成物の全質量の0.1〜5%、好ましくは0.8〜2%の量でフルオロ界面活性剤をさらに含む。好ましいフルオロ界面活性剤は、米国特許出願公開第2007/0013947号明細書に開示されているような、非イオン性の、線状の、パーフルオロ化されたポリエトキシル化アルコールである。実施態様によっては、かかるフルオロ界面活性剤は、光沢および合体を改善することができる。
【0064】
ベース層上の多孔質層は、適用されたインクの液体成分が当該ベース層中に認め得るほどに浸透するための通路を提供することができる相互に連通しているボイドを含む。これによって、ベース層は乾燥時間に寄与することが可能となる。非多孔質層または独立気泡を含む層は、下層が乾燥時間に寄与することを可能にしない。
【0065】
インクジェット記録要素は好ましくは、ベース層中に、50nm以下、好ましくは5〜40nmの平均一次粒子サイズを有するヒュームドシリカを含むが、ヒュームドシリカは、凝集して、好ましくは300nm以下、より好ましくは150〜250nm以下のメジアン二次粒子サイズをとる。
【0066】
ベース層は、本発明におけるアニオン性シリカ粒子の表面電荷またはゼータ電位に影響を及ぼすカチオン性材料、例えばカチオン性ポリマー、ヒドロキシル含有多価金属塩、例えば塩化アルミニウム水和物またはシランカップリング剤が存在しないことにより特徴づけられる。「存在しない」とは、ここでは、アニオン性シリカ粒子のゼータ電位を、−15ミリボルトよりも正側のゼータ電位に大きく変化させるのに十分なカチオン性基が存在する限界未満として定義される。用語「カチオン性ポリマー」は、例えば、少なくとも1つの第4級アンモニウム基、ホスホニウム基、第1級、第2級または第3級アミン基の酸付加物を有するポリマー、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミンまたはポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ジシアンジアミド縮合物、ジシアンジアミド−ポリアミン共縮合物またはポリアミド−ホルムアルデヒド縮合物などを包含する。
【0067】
好ましくは、本発明において、ヒュームドシリカは、コロイドシリカと同様、粒子中の金属またはケイ素原子の少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%がケイ素であり、酸素または他の非金属の非ケイ素原子と組み合わされていることにより特徴付けられる。例えば、得られる表面がアニオン性である限り、様々なドーパント、不純物、出発物質の組成の変化、表面剤および他の変性剤をその調製中に限られた量で酸化ケイ素に導入することができる。ゼータ電位の要件が満たされる限り、ヒュームドシリカは混合金属酸化物を含むことができる。例えば、Scharfeらへの米国特許第7,015,270号明細書およびBatz−Sohnらへの米国特許第6,808,769号明細書を参照されたい。酸化ケイ素混合酸化物粒子は、例えば、チタン、アルミニウム、セリウム、ランタンまたはジルコニウム原子を含むことができる。混合酸化物は、混合酸素−金属間/酸素−非金属結合の形成を伴って原子レベルで酸化物粒子の均質な混合物を包含する。
【0068】
酸化ケイ素粒子は、湿式法により製造された粒子と乾式法(気相法)により製造された粒子に大きく分けることができる。後者のタイプの粒子は、ヒュームドまたは熱分解法粒子とも呼ばれている。気相法では、火炎加水分解法およびアーク法が商業的に使用されている。用語「火炎加水分解」は、燃料ガス(好ましくは水素)と酸素との反応により生成した火炎の気相中での金属またはヒュームドシリカ金属化合物の加水分解を意味すると理解されている。高分散の非多孔質一次粒子がまず形成され、一次粒子は反応が続くにつれて合体してアグリゲート(aggregates)を形成し、それらのアグリゲートはさらに集合してアグロメレート(agglomerates)を形成し得る。好ましい一実施態様において、これらの一次粒子のBET表面積は5〜600m2/gである。ヒュームドシリカは気相法で製造されるのに対して、コロイドシリカはそうではなく、乾式法により製造されたヒュームドシリカと、比較的より多孔質であるシリカゲルなどの湿式法により製造された他のシリカとを区別することができる。
【0069】
ヒュームド粒子は、本明細書において「コロイドシリカ」と呼ぶ非ヒュームドまたは湿式法粒子と異なる特性を示す。ヒュームドシリカの場合には、これは、表面上のシラノール基の密度の差によるであろう。ヒュームド粒子は、高ボイド比を有する3次元構造を形成するのに好適である。
【0070】
ヒュームドまたは熱分解法粒子は、より小さな一次粒子のアグリゲートである。一次粒子は多孔質でないけれども、アグリゲートはかなりのボイド容積を含み、そのため、迅速な液体吸収が可能である。これらのボイド含有アグリゲートは、アグリゲート粒子を密に充填して、コーティングの粒子間ボイド容積を最小化する場合でも、コーティングがかなりの液体吸収能力を保持することを可能にする。例えば、本発明において選択的な任意使用のためのヒュームドシリカは、Batz−Sohnらへの米国特許第6,808,769号明細書、Morrisらへの米国特許第6,964,992号明細書、およびReganへの米国特許第5,472,493号明細書に記載されている。ヒュームドシリカの例は、下記実施例に示されており、例えばCabot Corp.から商標群CAB−O−SILシリカまたはDegussaから商標群AEROSILシリカで商業的に入手可能である。
【0071】
ヒュームドシリカは、比較的より低い表面積を有するものほど、それらのバインダー必要量が少ないので好ましいが、表面積が低すぎるヒュームドシリカは光沢を低下させる。一実施態様において、150〜350m2/gの範囲が好ましく、170〜270m2/gの範囲がより好ましい。
【0072】
ベース層の上方は上側光沢層で被覆される。当該光沢層中のボイドは、インクが当該ベース層中に認め得るほどに浸透するための通路を提供する。これによって、ベース層は乾燥時間に寄与することが可能となる。従って、光沢を生じるインク受容性層中のボイドは開いており(相互に連通しており)、好ましくは(しかし必須ではない)、最適な中間層の吸収のためのベース層中のボイドと同様なまたは僅かに大きいボイドサイズを有する。
【0073】
一実施態様において、上側光沢層は、当該層中の全固形分を基準として10質量%未満のバインダーを含む。上側光沢層中のバインダーは、ベース層におけるのと同じバインダーから選択できる。この場合も、ポリ(ビニルアルコール)が好ましいバインダーである。
【0074】
光沢層は、本発明におけるシリカ粒子の表面電荷またはゼータ電位に影響を及ぼすカチオン性材料、例えばカチオン性ポリマー、ヒドロキシル含有多価金属塩、例えば塩化アルミニウム水和物またはシランカップリング剤が存在しないことにより特徴づけられる。「存在しない」とは、ここでは、アニオン性シリカ粒子のゼータ電位を、−15ミリボルトよりも正側のゼータ電位に大きく変化させるのに十分なカチオン性基が存在する限界未満として定義される。
【0075】
好ましくは、光沢層中のコロイドシリカは、光沢層中の無機粒子の少なくとも80%、より好ましくは90%を構成する。
【0076】
用語「コロイドシリカ」は、分散してコロイドとなる二酸化ケイ素を含む粒子を意味する。かかるコロイド粒子は、特徴として、実質的に球形の一次粒子である。数および凝集が比較的限られたより大きな粒子である一次粒子のアグリゲートは、個々の材料およびその単分散性または多分散性に応じて、少量で存在することができるが、より大きな粒子ほど数加重メジアン粒子サイズに及ぼす影響は比較的少ない。これらのコロイドシリカの例は下記実施例に記載されており、Nissan Chemical Industries、Degusa、Grace Davison(例えばSYLOJETおよびLUDOXの商標群で)、Nalco Chemical Co.などの多くの製造業者から商業的に入手できる。典型的には、コロイドシリカは、もともと、その粒子表面に存在するシラノール基に由来するプロトンの損失によるアニオン電荷を有する。かかる粒子は、典型的には、長期間にわたって粒子が分散体から沈殿しない分散体またはゾルから生じる。最も商業的に入手可能なコロイドシリカゾルは、コロイドシリカを製造するために使用されたケイ酸ナトリウムに少なくとも部分的に由来する水酸化ナトリウムを含む。
【0077】
前記コロイド粒子の平均金属組成は、ケイ素が少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%である。この計算には、ベース層中のヒュームドシリカについて先に記載したように、ケイ素を一金属元素と見なした。
【0078】
光沢層は、少量の1種または2種以上の他の非カチオン性無機粒子、もし存在するなら、ヒュームドシリカ、酸化チタンおよび/またはそれらの混合物をさらに含んでよい。いかなる任意選択のアグリゲート粒子も、多孔質ベース層について先に記載(粒子サイズ以外の事項)したようなアニオン性ヒュームドシリカを含むことが好ましい。酸化亜鉛、酸化錫などのアニオン性コロイド粒子も好適である。
【0079】
上記の無機粒子に加えて、光沢層は独立に非カチオン性有機粒子またはビーズ、例えばベース層について先に記載したものなどを含んでよい。艶消しビーズとして使用される粒子を除いて、ベース層中の実質的に全ての粒子が45nm以下の平均一次粒子サイズを有することが好ましい。
【0080】
光沢層中の1種または2種以上の非カチオン性無機粒子が酸化ケイ素含有材料の粒子を含み、金属またはケイ素原子の少なくとも80%がケイ素であり、酸素または他の非金属または金属原子と組み合わされていることが好ましい。
【0081】
本発明におけるインク受容性層に、記録要素としての個々の使用に応じて従来の添加剤を含めてもよい。インクジェット記録要素のインク受容性層中に任意選択的に含めることのできるかかる添加剤としては、架橋剤、レオロジー調節剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、殺生物剤、滑剤、染料、蛍光増白剤、および他の従来公知の添加剤が挙げられる。インクジェット記録要素が他の画像記録製品または画像記録装置の駆動または搬送機構と接触するということを考慮して添加され、艶消し粒子などのような添加剤が関心のある特性を低下させない程度にインクジェット記録要素に添加される。また、添加剤は、アニオン性シリカと適合するものであるべきである。
【0082】
インクジェット記録要素は、顔料系インクまたは染料系インクの一方、または両方に適合するように特別に作ることができる。顔料系インクの場合、上側光沢層は、顔料捕捉層として機能することができる。染料系インクの場合には、ここの実施態様、層の厚さ、粒子組成物、バインダーなどに応じて、上側光沢層および下側ベース層の両方、またはそれらの上側部分が画像を含む。
【0083】
用語「顔料捕捉層」は、本明細書では、使用の際に、画像を印刷するために使用されるインクジェットインク組成物中の顔料着色剤の好ましくは少なくとも75質量%、より好ましくは実質的に全てが顔料捕捉層中に保持されることを意味するために用いる。
【0084】
インク保持層のための支持体は、普通紙または樹脂被覆紙から選択することができる。好ましくは、樹脂被覆紙は、両面のポリオレフィンコーティング、より好ましくはポリエチレンを含む。本発明において使用される支持体の厚さは12〜500μm、好ましくは75〜300μmであることができる。
【0085】
必要に応じて、支持体に対するベース層の密着性を高めるために、ベース層を支持体に適用するのに先立って、支持体または下引き層の表面をコロナ放電処理してもよい。
【0086】
本発明のインクジェット記録要素は、当該技術分野で知られている従来の製造技術により製造できる。特に好ましい方法において、下引き層を1つのステーションにおいて単層でコーティングし、そしてベース層および任意選択的な光沢層を含むさらなるコーティング層の全てを1つのステーションで同時にコーティングする。一実施態様において、インクジェット記録要素全体をシングルコーティングパス(single coating pass)でコーティングする。
【0087】
用語「シングルコーティングパス」または「1回のコーティングパス」は、1または2つ以上の層を、任意選択的に1つまたは2つ以上のステーションでコーティングすることを含むコーティング作業を意味する。このコーティング作業は、インクジェット記録要素をロールに巻く前に行われる。インクジェット記録材料をロールに巻く前および巻いた後であるがインクジェット記録材料を2回目のロールに巻く前に再びさらなるコーティング工程が行われるコーティング作業は2パスコーティング作業と呼ぶ。
【0088】
用語「後計量法(post−metering method)」は、本明細書では、コーティングされた過剰の材料を除去することによって、コーティング組成物をコーティング後に計量する方法と定義する。
【0089】
「直接計量法(direct metering method)」とも呼ぶ用語「前計量法(pre−metering method)」は、本明細書では、コーティング前に、例えばポンプにより、コーティング前にコーティング組成物を計量する方法と定義する。
【0090】
前計量法は、例えば、カーテンコーティング、押出ホッパーコーティング、スライドホッパーコーティングなどから選択できる。
【0091】
好ましい一実施態様において、2つのインク受容性層が、好ましくはカーテンコーティングによって、同時にコートされる。
【0092】
好ましい一実施態様において、インクジェット記録要素の製造方法は以下の工程:
(a)支持体を用意する工程;
(b)支持体上に、
(i)ベース層用の第1のコーティング組成物、当該第1のコーティング組成物は、アニオン性ヒュームドシリカ粒子と、当該第1のコーティング組成物中に含まれない化合物を架橋することにより実質的に架橋されうる親水性バインダーとを含む;および
(ii)光沢層用の第2の任意選択的コーティング組成物、当該第2の任意選択的コーティング組成物はアニオン性コロイドシリカの粒子とバインダーを含む;
の順序で、これらの組成物を同時にコーティングする工程;および
(c)工程(b)に先立って支持体を、少なくともベース層中に拡散してベース層中の少なくとも親水性バインダーを実質的に架橋する架橋性化合物を含む下引き組成物で処理する工程;
を含み、ここで、ヒュームドシリカの粒子とコロイドシリカの粒子は、−15ミリボルト未満のゼータ電位を示し、第1および第2のコーティング組成物中の全固形分に対するバインダーの百分率が5質量%〜15.0質量%(15.0質量%を含まない)である。
【0093】
下引き組成物は任意選択的に、バインダーを含んでいても、あるいは、水などの液体キャリアをたんに含んでいてもよい。
【0094】
好ましくは、架橋性化合物はホウ素を含み、例えば架橋性化合物はホウ砂またはボレートを含むことができる。
【0095】
当該方法の好ましい一実施態様において、ベース層中の親水性バインダーはポリ(ビニルアルコール)またはその誘導体もしくはコポリマーを含む。
【0096】
光沢層中のバインダーは、第2の組成物中に含まれていない架橋性化合物により実質的に架橋されることができ、架橋性化合物も光沢層中に拡散して光沢層中のバインダーを実質的に架橋することができる。
【0097】
そのため、一実施態様において、支持体は、少なくともベース層中に拡散してベース層中の少なくとも親水性バインダーを実質的に架橋する架橋性化合物を含む下引き組成物による工程(b)に先立って処理される。この場合に、架橋性化合物は、ベース層の厚さなどの様々な因子に依存して、任意選択的な上側光沢層中にある程度移行しうる。
【0098】
ベース層と任意選択的な上側光沢層などとの間に、さらなる中間層を、上記の従来の前計量コーティング手段によりコーティングすることができる。好ましくは、ベース層および任意選択的な光沢層は、インク受容性要素中の1.0g/m2 を超える乾量を有する2つの層である。
【0099】
本発明の別の側面は、(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンターを用意する工程、(b)前記インクジェットプリンターに上記インクジェット記録要素を装填する工程、(c)前記インクジェットプリンターに顔料系インクジェット組成物を装填する工程;および(d)前記デジタルデータ信号に応答して、インクジェットインク組成物を使用してインクジェット記録要素上に印刷する工程を含む、インクジェット印刷方法に関する。
【0100】
本発明のさらに別の側面は、少なくとも3つの着色顔料系インク組成物、例えばシアン、イエローおよびマゼンタを含む顔料系インクジェットインクセットとの組み合わせで本発明のインクジェットジェット受容体を含むパッケージされた製品セットに関する。かかる製品は、インク組成物とインクジェット受容体が画像印刷中に望ましく適合するように、写真品質画像を印刷する際に使用に供されるように消費者に商業的に入手可能であるように作ることができる。本発明のインクジェット記録要素は、その裏側に、インクジェットプリンターによる検出が可能なインディシア(indicia)が存在することによりさらに特徴付けられる。かかるインディシアは、画像を印刷するときに使用される個々のインクジェット受容体に対して推奨されるプリンター設定とすることにより望ましい結果がさらに改善されるように光学的検出器などの手段により検出できる。このシステムによって、ユーザーはより簡便により高いプリント品質を達成することが可能となる。
【0101】
好ましい実施態様において、インクジェットインク組成物は、画質を損なわずに少なくとも5.0×10-4mL/cm2/秒の速度でインクジェット記録要素上に適用される。このインク流束は、1インチあたり1200×1200ピクセルのアドレス可能な解像度で、42秒間に1ピクセルあたり10.35ピコリットル(pL)という平均インク量で写真を印刷することに相当し、複数の被覆パスによる所定のピクセルの印刷は4秒未満で完了する。
【0102】
本発明の記録要素に画像形成するために使用されるインクジェットインクは当該技術分野においてよく知られている。インクジェット印刷において使用されるインク組成物は、典型的には、溶剤またはキャリア液体、染料または顔料、保湿剤、有機溶剤、洗剤、増粘剤、防腐剤などを含む液体の組成物である。溶剤またはキャリア液体は、単に水であるか、または多価アルコール類などの他の水混和性溶剤と混合された水であることができる。多価アルコール類などの有機材料が支配的なキャリアまたは溶剤液体であるインクも使用できる。特に有用なものは、水と多価アルコール類の混合溶剤である。染料が、かかる組成物に使用される場合には、それらは、典型的には、水溶性の直接染料または酸性タイプの染料である。かかる液体組成物は、例えば、米国特許第4,381,946号明細書、第4,239,543号および第4,781,758号明細書を含む先行技術において広範に記載されている。
【0103】
インクジェット印刷の分野において知られているインク組成物は、常温常圧で液体、固体またはゲル状態にある水系(aqueous−based)または溶剤系(solvent−based)であることができる。水系インク組成物は溶剤系インクと比べてより環境に優しく、しかも、ほとんどのプリントヘッドが水系インクとの使用に合わせて設計されているので、水系インク組成物が好ましい。
【0104】
インク組成物は顔料、染料、ポリマー染料、染料添加ラテックス粒子、またはいかなる他のタイプの着色剤、あるいはこれらの組み合わせで着色されていてもよい。顔料系インク組成物は、他のタイプの着色剤から作られた印刷画像と比べて、そのプリント画像により高い光学濃度およびより良好な耐光性と耐オゾン性を付与するので、顔料系インク組成物が好ましい。当該インク組成物中の着色剤は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、グレー、レッド、バイオレット、ブルー、グリーン、オレンジ、ブラウン等であることができる。
【0105】
インクジェット印刷での1つの課題は様々なタイプのインクジェット受容体上に生成される画像の安定性および耐久性である。一般的に、インク着色剤として顔料を使用するインクは、マイクロポーラスの写真光沢受容体上に印刷された場合、光退色および環境汚染物質による退色について、染料系インクと比べて優れた画像安定性を提供する。良好な物理的耐久性(例えば耐摩耗性)を得るために、顔料系インクはインク組成物中にバインダーポリマーを添加することにより改善することができる。
【0106】
本発明の印刷法またはパッケージされた製品において有用なインク組成物は水系のものである。水系は、本明細書において、インク組成物中の液体成分の大部分が水であり、好ましくは50%超が水、より好ましくは60%超が水である。
【0107】
インク組成物において有用な水組成物は、インク組成物がプリントヘッドのノズル内で乾燥し、固まることを防止するため、インク組成物中の成分の溶解を促進するため、または印刷後の画像記録要素中へのインク組成物の浸透を促進するために、保湿剤および/または補助溶剤を含んでもよい。水性系インク組成物に使用される保湿剤および補助溶剤の代表例としては、(1)メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソ−ブチルアルコール、フルフリルアルコールおよびテトラヒドロフルフリルアルコールなどのアルコール;(2)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−プロパンジオール、糖類および糖アルコール、並びにチオグリコールなどの多価アルコール;(3)エチレングリコールモノメチルエ−テル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの、多価アルコールから誘導された低級モノ−およびジ−アルキルエーテル;(4)尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの窒素含有化合物;および(5)2,2’−チオジエタノール、ジメチルスルホキシドおよびテトラメチレンスルホンなどの硫黄含有化合物が挙げられる。
【0108】
本発明の印刷法またはパッケージされた製品セットにおいて、インク組成物は顔料系である。なぜなら、かかるインクは、他のタイプの着色剤から生成された印刷画像と比べて、印刷画像を、より高い光学濃度と、光およびオゾンに対する良好な耐性を有するものとする。使用できる顔料としては、例えば、米国特許第5,026,427号、第5,086,698号、第5,141,556号、第5,160,370号および第5,169,436号明細書に開示されているものなどが挙げられる。顔料の実際の選択は、個々の用途並びに色再現および画像安定性などの性能要件に依存する。
【0109】
本発明の印刷方法およびパッケージ製品セットにおける使用に好適な顔料としては、例えば、アゾ顔料、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、アゾ顔料レーキ、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、ベンゾイミダゾロン顔料、ジスアゾ縮合顔料、金属錯体顔料、イソインドリノンおよびイソインドリン顔料、多環式顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラピリミドン顔料、フラバントロン顔料、アンタントロン顔料、ジオキサジン顔料、トリアリールカルボニウム顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、二酸化チタン、酸化鉄、およびカーボンブラックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
使用できる顔料の典型例としては、カラーインデックス(C.I.)ピグメントイエロー1,2,3,5,6,10,12,13,14,16,17,62,65,73,74,75,81,83,87,90,93,94,95,97,98,99,100,101,104,106,108,109,110,111,113,114,116,117,120,121,123,124,126,127,128,129,130,133,136,138,139,147,148,150,151,152,153,154,155,165,166,167,168,169,170,171,172,173,174,175,176,177,179,180,181,182,183,184,185,187,188,190,191,192,193,194;C.I.ピグメントレッド1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,21,22,23,31,32,38,48:1,48:2,48:3,48:4,49:1,49:2,49:3,50:1,51,52:1,52:2,53:1,57:1,60:1,63:1,66,67,68,81,95,112,114,119,122,136,144,146,147,148,149,150,151,164,166,168,169,170,171,172,175,176,177,178,179,181,184,185,187,188,190,192,194,200,202,204,206,207,210,211,212,213,214,216,220,222,237,238,239,240,242,243,245,247,248,251,252,253,254,255,256,258,261,264;およびC.I.ピグメントブルー1,2,9,10,14,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,15,16,18,19,24:1,25,56,60,61,62,63,64,66、架橋アルミニウムフタロシアニン顔料;C.I.ピグメントブラック1,7,20,31,32;C.I.ピグメントオレンジ1,2,5,6,13,15,16,17,17:1,19,22,24,31,34,36,38,40,43,44,46,48,49,51,59,60,61,62,64,65,66,67,68,69;C.I.ピグメントグリーン1,2,4,7,8,10,36,45;C.I.ピグメントバイオレット1,2,3,5:1,13,19,23,25,27,29,31,32,37,39,42,44,50、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0111】
分散剤もしくは界面活性剤なしで分散可能である自己分散性顔料も、本発明の印刷法またはパッケージされた製品セットにおいて有用である。このタイプの顔料は、酸化/還元などの表面処理、酸/塩基処理、またはカップリング剤による官能化などの表面処理にかけられたものであるので、別個の分散剤を必要としない。上記表面処理によって、顔料の表面にアニオン性基、カチオン性基または非イオン性基を付与することができる。たとえば、米国特許第6,494,943号および第5,837,045号明細書を参照。自己分散性のタイプの顔料の例としては、Cab−O−Jet 200aおよびCab−O−Jet 300a(Cabot Specialty Chemicals,Inc.製)ならびにBonjet CW−Ia、CW−2aおよびCW−3a(Orient Chemical Industries,Ltd.製)が挙げられる。特に、本発明の印刷方法またはパッケージされた製品セットにおいて使用されるインクセットに自己分散性カーボンブラック顔料インクであって、本発明の譲受人に譲渡された米国特許仮出願60/892137号明細書に開示されているように、無機塩基で中和された酸基を含有する水溶性ポリマーと、11質量%を超える揮発性表面官能基を含むカーボンブラック顔料とを含むインクを使用できる。
【0112】
インクジェット印刷の技術分野で知られているいずれの方法でも、本発明の印刷方法およびパッケージされた製品セットで有用な顔料系インク組成物を調製することができる。有用な方法は、通常、(a)顔料を1次粒子へと分割するために分散または粉砕する工程、ここで、1次粒子は、微粒子系でもっとも小さい同定可能な細分化されたものとして定義される、および(b)使用濃度インクを生成させるために、工程(a)からの顔料分散体を残りのインク成分で希釈する希釈工程、の2つの工程を含む。
【0113】
粉砕工程(a)は、媒体ミル、ボールミル、二本ロールミル、三本ロールミル、ビードミル、およびエアジェットミルのようないずれかのタイプの粉砕ミル、磨砕機、または液体交流チェンバーを用いて行うことができる。粉砕工程(a)では、顔料が、当該顔料分散液を工程(b)で希釈するために使用される媒体と典型的に同じか類似する媒体中に任意選択的に懸濁される。不活性な粉砕媒体が、顔料を一次粒子まで砕きやすくするために、粉砕工程(a)中に任意選択的に存在する。不活性な粉砕媒体としては、ポリマービーズ、ガラス、セラミックス、金属、および例えば米国特許第5,891,231号明細書に記載されているようなプラスチックが挙げられる。粉砕媒体は、工程(a)で得られる顔料分散液あるいは工程(b)で得られるインク組成物のいずれかから取り除かれる。
【0114】
分散剤は、顔料を一次粒子に砕き易くするために、粉砕工程(b)に任意選択的に存在してもよい。工程(a)で得られる顔料分散体または工程(b)で得られるインク組成物の場合は、粒子の安定性を維持して沈降を防止するために、分散剤が任意選択的に存在してよい。使用に好適な分散剤としては、インクジェット印刷分野で通常用いられているものが挙げられるが、これらに限定されない。水性顔料系インク組成物の場合に、有用な分散剤としては、例えば、米国特許第5,679,138号明細書、第5,651,813号明細書、第5,985,017号明細書に記載されているような、ドデシル硫酸ナトリウム、またはオレイルメチルタウリン酸カリウムもしくはナトリウムなどのアニオン性、カチオン性または非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0115】
ポリマー分散剤も知られており、水性顔料系インク組成物において有用である。ポリマー分散剤は、粉砕工程(a)前に、またはその工程中に顔料分散体に添加することができ、ホモポリマーおよびコポリマー;アニオン性、カチオン性またはノニオン性ポリマー;あるいはランダム、ブロック、分枝状またはグラフトポリマーなどのポリマーが挙げられる。粉砕操作に有効なポリマー分散剤としては、親水性および疎水性部分を有するランダムおよびブロックコポリマー(例えば、米国特許第4,597,794号、第5,085,698号、第5,519,085号、第5,272,201号、第5,172,133号または第6,043,297号明細書を参照)、並びにグラフトコポリマー(例えば米国特許第5,231,131号、第6,087,416号、第5,719,204号または第5,714,538号明細書を参照)が挙げられる。
【0116】
着色剤相とポリマー相を有する複合着色剤粒子も水性顔料系インクにおいて有用である。複合着色剤粒子は、顔料の存在下でモノマーを重合させることによって調製される(例えば、米国特許出願公開第2003/0199614号、第2003/0203988号または第2004/0127639号明細書参照)。マイクロカプセル型顔料粒子も有用であり、樹脂フィルムで被覆された顔料粒子から成る(例えば、米国特許第6,074,467号明細書参照)。
【0117】
本発明の印刷方法またはパッケージされた製品セットで有用なインク組成物において使用される着色剤は、いかなる効果的な量で存在しても良く、一般的には、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜6質量%の量である。
【0118】
インクジェットインク組成物は、無機粒子やポリマー粒子のような非着色粒子を含んでもよい。かかる粒子状添加剤の使用は、過去数年に亘って増加してきており、特に写真品質の画像形成に向けられたインクジェトインク組成物において増加している。例えば、米国特許第5,925,178号明細書には、画像記録要素上での光学濃度および顔料粒子の耐引掻き性を改善するために、顔料系インクに無機粒子を用いることが記載されている。別の例では、米国特許第6,508,548号明細書に、印刷画像の耐光性および耐オゾン性を改善するために、染料系インク中に水分散性ポリマーラテックスを使用することが記載されている。
【0119】
インク組成物は、印刷画像の光沢差、耐光性および/または耐オゾン性、耐水性、耐摩耗性および他の種々な特性を向上させるために、無機またはポリマー粒子のような非着色粒子を含んでいてもよい(例えば、米国特許第6,598,967号または第6,508,548号明細書参照)。無着色粒子を含み、そして着色剤を含まない無色のインク組成物も使用できる。たとえば、米国特許出願公開第2006/0100307号明細書には、水性媒体およびマイクロゲル粒子を含有するインクジェット用インクが記載されている。無色インク組成物は、当該技術分野で、色間のにじみを減少させ、普通紙上の耐水性のために、カラーインク組成物の下、上、またはカラーインク組成物とともに印刷される「定着剤」または不溶化性の流体(insolubilizing fluids)として使用されることが多い(たとえば、米国特許第5,866,638号または第6,450,632号明細書を参照)。また、無色インクは、印刷画像をオーバーコートするために使用され、通常、耐引っ掻き性および耐水性を改善するために使用される(たとえば、米国特許出願公開第2003/0009547号明細書または欧州特許第1022151号明細書を参照)。また、無色インクは、印刷画像の光沢不均一さを減少させるために使用される(たとえば、米国特許第6,604,819号明細書、米国特許出願公開第2003/0085974号、第2003/0193553号および第2003/018926号明細書を参照)。
【0120】
インクにおいて有用な無機粒子の例としては、アルミナ、ベーマイト、クレイ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、焼成クレイ、アルミノシリケート、シリカ、または硫酸バリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
水系インクの場合に、インクに有用なポリマーバインダーとしては、ポリマー化学の技術分野の当業者によく知られている、付加ポリマーあるいは縮合ポリマーのいずれかとして一般的に分類される水分散性のポリマーが挙げられる。ポリマー種の具体例としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエーテル、ポリカーボネート、多酸無水物、およびそれらの組み合わせからなるコポリマーが含まれる。かかるポリマー粒子は、アイオノマー性、フィルム形成性、非フィルム形成性、可融性、または高度に架橋されたものであってよく、広範囲の分子量およびガラス転移温度を有していてもよい。
【0122】
有用なポリマー粒子の具体例としては、商標名Joncryl(S.C.Johnson Co.)、Ucar(登録商標)(Dow Chemical Co.)、Jonrez(Mead Westvaco Corp.)、およびVancryl(Air Products and Chemical, Inc.)の下に市販されているスチレン−アクリルコポリマー;商標名Eastman AQ(Eastman Chemical Co.)の下に市販されているスルホン化ポリエステル;ポリエチレンまたはポリプロピレン樹脂エマルジョンおよびポリウレタン(例えば、Witco製のWitcobonds)が挙げられる。これらのポリマー粒子は、それらが典型的な水性系インク組成物に混和性であり、それらが印刷画像を物理的な摩耗、光およびオゾンに対して顕著に耐久性のあるものとするので好ましい。
【0123】
インク組成物で有用なことがある非着色粒子およびバインダーは、いかなる効果的な量で存在してもよく、一般的には0.01〜20質量%、そして好ましくは0.01〜6質量%の量である。この非着色粒子の的確な選択は、印刷画像の個々の用途および性能要件に依存する。
【0124】
インク組成物は、水溶性ポリマーバインダーを含んでもよい。インク組成物に有用な水溶性ポリマーは、それらがインクの水相もしくは組み合わされた水/水溶性溶剤相に溶解するという点で、ポリマー粒子と区別される。用語「水溶性」は、本明細書では、ポリマーが水に溶解する場合、かつポリマーが少なくとも一部中和されている場合、得られる溶液が、視覚的に透明であることを意味する。インク組成物に有用な水溶性ポリマーは、それらがインクの水相または混合した水/水溶性溶剤相に溶融性であるという点で、ポリマー粒子とは相違する。この種のポリマーとしては、非イオン性、アニオン性、両イオン性およびカチオン性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーの代表例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチルオキサゾリン、ポリエチレンイミン、ポリアミドおよびアルカリ可溶性樹脂、ポリウレタン(例えば、米国特許第6,268,101号明細書に見られるもの)、ポリアクリル酸、スチレン−アクリルメタクリル酸コポリマー(例えば、S.C.Johnson Co.製のJoncryl 70、Mead Westvaco Corp.製のTruDot(登録商標)IJ−4655、およびAir Products and Chemicals Inc.製のVancryl 68Sなど)が挙げられる。
【0125】
本発明の印刷方法またはパッケージされた製品セットで有用なインクセットのインクで使用することができる水溶性アクリル系ポリマー添加剤ならびに水分散性ポリカーボネート系もしくはポリエーテル系ポリウレタンの例は、同時係属の本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願60/892158号明細書および米国特許出願第60/892171号明細書に記載されている。また、インクセットのインクに有用なポリマーバインダー添加剤は、たとえば、米国特許出願公開第2006/0100307号および第2006/0100308号明細書に記載されている。
【0126】
好ましくは、インクセットのインクによって所望の色間にじみの印刷物をもたらすことができるように、インクの静的表面張力および動的表面張力が制御される。特に、マイクロポーラス写真光沢紙上および普通紙上の両方で色間にじみに対する性能が許容できるようにするために、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの顔料系インクならびに無色保護インクを含むインクセットの全てのインクに関して、10ミリ秒の表面寿命(surface age)での動的表面張力は好ましくは35mN/m以上になるべきであり、一方、イエローインクおよび無色保護インクの静的表面張力は、インクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびブラックインクの静的表面張力よりも少なくとも2.0mN/m低くなるべきであり、そして、無色保護インクの静的表面張力は、イエローインクの静的表面張力よりも少なくとも1.0mN/m低くなるべきであることが判った。好ましい実施態様では、イエローインクの静的表面張力は、透明保護インクを除いてインクセットにおける他の全てのインクよりも少なくとも2.0mN/m低く、透明保護インクの静的表面張力は、イエローインクを除いてインクセットにおける他の全てのインクよりも少なくとも2.0mN/m低い。
【0127】
界面活性剤が、インクの表面張力を適当なレベルに調整するために添加されてよい。当該界面か製剤は、アニオン性、カチオン性、両性またはノニオン性であってよく、インク組成物の0.01〜5質量%の量で使用される。好適なノニオン性界面活性剤の具体例には、線状または第2アルコールのエトキシレート(例えばUnion Carbide製のTergitol(登録商標)15−SおよびTergitol(登録商標)TMN系およびUniquema製のBrij(登録商標)シリーズ)、エトキシル化アルキルフェノール(例えばUnion Carbide製のTriton(登録商標)シリーズ)、フルオロ界面活性剤(例えばDuPonc製のZonyl類、3M製のFluorad類)、脂肪酸エトキシレート、脂肪酸アミドエトキシレート、エトキシル化およびプロポキシル化ブロックコポリマー(例えばBASF製のPluronic(登録商標)およびTetronic(登録商標)シリーズ)、エトキシル化およびプロポキシル化シリコーン系界面活性剤(例えば、CK Witco製のSilwet(登録商標)シリーズ)、アルキルポリグリコシド(例えばCognis製のGlucopons(登録商標))およびアセチレン系のポリエチレンオキシド界面活性剤(例えばAir Products製のSurfynol類)が挙げられる。
【0128】
アニオン性界面活性剤の例としては、カルボキシレート(例えばエーテルカルボキシレートおよびスルホスクシネート)、サルフェート(例えばドデシル硫酸ナトリウム)、スルホネート(例えばドデシルベンゼンスルホネート、α−オレフィンスルホネート、アルキルジフェニルオキシドジスルホネート、脂肪酸タウレートおよびアルキルナフタレンスルホネート)、ホスフェート(例えば、Dexter ChemicalのStrodex(登録商標)などのアルキルおよびアリールアルコールのホスフェートエステル)、ホスホネートおよびアミンオキシド界面活性剤およびアニオン性フッ素化界面活性剤が挙げられる。両性界面活性剤の例としては、ベタイン、スルテイン、およびアミノプロピオネートが挙げられる。カチオン性界面活性剤の例としては、第4アンモニウム化合物、カチオンアミンオキシド、エトキシル化脂肪酸アミンおよびイミダゾリン界面活性剤が挙げられる。上記界面活性剤のさらなる例は、「McCutchen’s Emulsifiers and Detergents:1995年、North American Editor」に記載されている。
【0129】
水性インク中でのカビ、菌類のような微生物の成長を抑制するため、殺生物剤をインクジェットインク組成物に加えてもよい。インク組成物用の好ましい殺生物剤は、0.0001〜0.5質量%の最終濃度でのProxel(登録商標)GXL(Zenaca Specialities Co.)である。インクジェットのインク組成物に任意に存在してもよい付加的な添加剤としては、増粘剤、導電率向上剤、コゲーション防止剤、乾燥剤、水褪せ防止剤、色素溶解剤、キレート化剤、バインダー、光安定剤、粘調剤、緩衝材、防カビ剤、カール防止剤、安定剤および消泡剤が挙げられる。
【0130】
水性インク組成物のpHは、有機または無機の酸または塩基を添加して調整されてもよい。有用なインクは、使われる色素や顔料のタイプに応じて、好ましくは、pH2〜10を有する。典型的な無機酸としては、塩酸、リン酸および硫酸が挙げられる。典型的な有機酸としては、メタンスルホン酸、酢酸および乳酸が挙げられる。典型的な無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物およびカーボネートが挙げられる。典型的な有機塩基としては、アンモニア、トリエタノールアミンおよびテトラメチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0131】
インク組成物の実際の選択は、噴射されるプリントヘッドの特定の利用や性能要求に左右される。感熱および感圧ドロップオンデマンド型のプリントヘッドおよびコンティニュアスプリントヘッドには、それぞれ、インクジェット印刷の分野で周知な、信頼性があって正確なインクの噴射を達成するために、異なる一連の物性をもつインク組成物を必要とする。許容可能な粘度は、典型的には、20cP以下であり、好ましくは1.0〜6.0cPの範囲である。
【0132】
カラーインクジェット印刷の場合、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクが、減法混色系として機能を果たすことが意図されているジェット用インクセットに最小限必要である。画像の中の領域を暗くしたり、テキストなどの白黒の文書を印刷したりするのに必要なインクを減らすために、ブラックインクがそのインクセットに追加されることが非常に多い。マイクロポーラス写真光沢紙受容体上および普通紙受容体上の両方で印刷することが必要性であるので、インクセットに複数のブラックインクが存在することが望まれる場合がある。この場合、複数のブラックインクのうちの1つはマイクロポーラス写真光沢紙受容体上の印刷により適するようにしてもよく、別のブラックインクは普通紙上の印刷により適するようにしてもよい。受容体のタイプに対して望ましい印刷濃度、印刷光沢、および耐スマッジ性に基づいて、この目的のための別個のブラックインク調製物の使用を正当化することができる。
【0133】
他のインクをインクセットに追加することができる。これらのインクには、明るいもしくは薄いシアン、明るいもしくは薄いマゼンタ、明るいもしくは薄いブラック、レッド、ブルー、グリーン、オレンジ、グレーなどがある。追加のインクは画質に対して有益であり得るが、それにより、システムが複雑になり、システムのコストが増える。最後に、インクをほとんど受け入れない、またはインクを全く受け入れない印刷画像の領域に対する、光沢均一性、耐久性および耐汚染性を提供する目的のために、無色インク組成物をインクジェットインクセットに追加することができる。かなりの量の着色剤含有インクで印刷された画像領域に対してでさえも、追加の利益をともなって、無色インク組成物をこれらの領域に加えることができる。上述の目的のための保護インクの例が、米国特許出願公開2006/0100306号および第2006/0100308号明細書に記載されている。
【0134】
典型的には、インクジェット印刷において使用される着色剤は、アニオン性の性質を有する。染料系印刷システムでは、染料分子はアニオン性部分を含む。顔料系印刷システムでは、分散された顔料はアニオン性部分で官能化されている。着色剤は、最大限の画像濃度を提供するように、インクジェット受容体の表面付近に固定されるべきである。顔料系印刷システムでは、インクジェット受容体は、表面付近のインク顔料粒子の有効な捕捉をもたらすように、トップ層において最適な細孔サイズを有するように作られる。従来技術で知られている染料系印刷システムは受容体のトップ層または複数の層中に定着剤または媒染剤を必要とする。多価金属イオンおよび不溶性カチオン性ポリマーラテックス粒子は、アニオン性染料のための有効な媒染剤を提供する。顔料系印刷システムおよび染料系印刷システムは両方とも広く利用可能である。ユーザーの簡便さの観点で、従来技術で知られている汎用の多孔質インクジェット受容体が最も上側の1または複数の層中に染料定着剤を含む。
【0135】
本明細書に開示する記録要素は主にインクジェットプリンターに有用であると言及したが、それらはペンプロッターアセンブリ用の記録媒体としても使用できる。ペンプロッターは、インク溜めと接触した状態にある毛細管の束からなるペンを使用して記録媒体の表面に直接書き込むことにより機能する。
【0136】
以下の例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0137】
インクの調製:
本発明のインクセットの顔料ベースのインクおよび比較のインクを調合するために、それぞれのカラーインク用の顔料分散体が、下記に示すような記述にしたがって最初に作製された.
【0138】
シアン顔料分散体:
顔料の濃度が20%、オレイルメチルタウレート(KOMT)が顔料に基づいて25質量%になるように、ピグメントブルー15:3、オレイルメチルタウレート(KOMT)のカリウム塩および脱イオン水の混合物を、50mmの平均直径を有するポリマービーズとともに混合容器の中に装入した。分散ブレードを使用して混合物を20時間以上粉砕し、そして、空気を除去するために放置した。ろ過により粉砕媒体を取り除き、得られた顔料分散体を脱イオン水で約10%顔料に希釈し、シアン顔料分散体を得た。
【0139】
マゼンタ顔料分散体:
ピグメントブルー15:3の代わりにピグメントレッド122を使用し、KOMTの量を顔料に基づいて30質量%に設定した点を除いて、シアン顔料分散体のために使用した工程を使用した。
【0140】
イエロー顔料分散体:
ピグメントブルー15:3の代わりにピグメントイエロー155を使用した点を除いて、シアン顔料分散体のために使用した工程を使用した。
【0141】
第1の黒顔料分散体:
ピグメントブルー15:3の代わりにピグメントブラック7を使用した点を除いて、シアン顔料分散体のために使用した工程を使用した。
【0142】
画像耐久性および光沢均一性などの望ましい性質を与えるために、顔料分散体に加えて、ポリマーバインダー成分をインクに添加する。以下の例で、インクに添加された特定のポリマー添加剤およびポリマービーズは、以下のものである。
【0143】
アクリルポリマー:滴定法によって測定された135の酸価、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定された7160の質量平均分子量および4320の数平均分子量を有するベンジルメタクリレート/メタクリル酸コポリマー。85%の中和度を有するように、水酸化カリウムでそのポリマーを中和する。
【0144】
ポリウレタンバインダー:イソホロンジイソシアネートならびにポリヘキサメチレンカーボネートジオールおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸の組み合わせを用いて調製された、質量平均分子量26100、酸価76である、100%の酸基が水酸化カリウムで中和されたポリカーボネート系ポリウレタン。
【0145】
マイクロゲル粒子:79nmの第50パーセンタイル粒子サイズを有するメチルメタクリレート/ジビニルベンゼン/メタクリル酸粒子の水性懸濁液。
【0146】
少なくとも1時間攪拌しながら成分を単純に混合し、続いて1.2ミクロンろ過を行うことによって、インクを調製した。下記インクセットの表は、インクセットのインクにおけるそれぞれの成分の相対質量を示す。Orient製のCW−3カーボンブラック顔料分散体を供給された状態で使用した点を除いて、全ての顔料を上記に従って調製された分散体として添加した。インクに添加した分散体の量を、顔料が表1および表2に示される顔料の質量パーセントになるように調節した。アクリルポリマー添加剤、ポリウレタンバインダー添加剤およびマイクロゲル懸濁液の量も、ポリマーまたはマイクロゲル粒子がインクセットの表に示される質量パーセントになるように調節した。
【0147】
【表1】

【0148】
インクセットの表に記載した静的および動的表面張力値は約25℃で測定されたものである。
【0149】
インクセットからのシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、最初のブラックインクおよび無色保護インクをKODAK No.10の5つのチャンバカラーインクカートリッジの適切なチャンバー内に入れた。第2のブラックインクをKODAK No.10の1つのチャンバブラックインクカートリッジ内に入れた。各カートリッジを、次にKODAKモデル5100サーマルインクジェットプリンターに取り付け、次に標準的なインク印刷工程によって、カートリッジからのインクをプリントヘッド流路に通す。KODAK ULTRA PREMIUM STUDIO GLOSS受容体上に印刷する場合に、インクセット1に対して最適化された印刷モードを使用して印刷を行うことができる。
【0150】
評価方法:
被覆された試料のクラック生成を視覚的に評価した。未印刷試料の光沢を20度および60度で測定した。印刷速度およびインクレイダウンが最大化されるように選択したドライバー設定(KODAK ULTRA PREMIUM STUDIO光沢紙選択)でKODAK EASYSHARE 5100インクジェットプリンターを使用して試料を印刷した。合体、またはべた色パッチでの局所的な濃度の不均一性を視覚的に評価し、1(視覚的になし)から5(選択したプリンターモードが非常に高いインク流束から「(flooding)」までであるがフラディングを含まない非常に高いインク流束をもたらす条件下で観察される著しい合体)までのスケールで等級付けした。4以下の等級は印刷用途によっては許容可能であるとみなすことができる。インクがあふれ、しかも合体した試料は5よりも高い等級をつけた。
【0151】
特に断らない限り、下記の試料の調製の際の全ての量はコーティングされたときに乾量を指す。
【0152】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【0153】
例1
樹脂被覆紙支持体に、ホウ砂(0.16g/m2)およびPVP(K−90)ポリ(ビニルピロリドン)バインダー(0.16g/m2)を含む下引き層をコーティングし、乾燥させた。下引きされた支持体の上に、アニオン性ヒュームドシリカ(AEROSIL 200)の分散体(Degussa W7520)とPVA(日本合成KH20)とDHD(0.8%)とフルオロ界面活性剤ZONYL FS300(1%)を含む水性コーティング組成物(固形分17.9%)をコーティングした。全乾量は19.4g/m2 であった。この組成物中のPVAの相対割合を表1に示す。シリカ分散体がこの乾量の残りを構成する。フルオロ界面活性剤の不在下に、アニオン性ヒュームドシリカの代わりにカチオン性ヒュームドシリカ(AEROSIL 200)の分散体(Degussa WK7525)を含む比較用の水性コーティング組成物も調製し、同じ下引きされた支持体上にコーティングした。下記表1において、光沢P(20度)の欄は、上記のインクセットの表に記載した無職保護インクで印刷されたパッチの20度での光沢を指し、光沢Yは同様に上記のインクセットの表のイエロー顔料系インクで印刷されたパッチを指す。
【0154】
【表2】

【0155】
表1中の評価結果は、バインダーの相対量が8〜12.5%であるときにアニオン性ヒュームドシリカのコーティング組成物を用いて、全乾量19g/m2 のクラックのない単層コーティングが得られることを示している。同じ表面積を有するカチオン性に変性されたヒュームドシリカを含むクラックのないコーティングをもたらすためには、バインダーの相対量を少なくとも20%まで増加させなくてはならない。驚くべきことに、未印刷領域の光沢も、保護インクもしくはイエロー顔料系インクで印刷された領域の光沢も、アニオン性シリカ配合物の場合よりも著しく高かった。さらに、カチオン性に変性されたシリカに使用したより高いバインダーレベルは、製造規模でコーティングするためのコーティング組成物中の固形分の低減を必要とすることがある。
【0156】
例2
両側にポリエチレン樹脂コーティングを有する紙を含む支持体を、全固形分0.6%で、ポリ(ビニルアルコール)(PVA,CELVOL 103)、スチレン−ブタジエンラテックス(DOW CP692NA)および四ホウ酸ナトリウムを1:1:2の比で含む水性組成物をコーティングすることによりその片側を処理し、乾燥させて0.32g/m2 の乾燥被覆量とした。
【0157】
アニオン性ヒュームドシリカ(AEROSIL 200)の分散体(DEGUSSA W7520)と7.5%のPVA(日本合成KH20)と0.75%の1,4−ジオキサン−2,3−ジオール(DHD)と1%のフルオロ界面活性剤(ZONYL FS300)を含むベース層用の第1の水性コーティング組成物(固形分17.9%)と、アニオン性コロイドシリカ(Grace Davison SYLOJET 4000AとLUDOX TM−50の1:1混合物)と8%のスクシニル化ゼラチン(GELITA IMAGEL MS)と架橋剤(0.8%の1,4−ジオキサン−2,3−ジオール(DHD))とコーティング助剤(1%のZONYL FS300)を含む光沢層用の第2の水性コーティング組成物(固形分10%)とを下引き層上に同時にコーティングし、それぞれ21.5g/m2および2.2g/m2の乾量の層を得、乾燥させて本発明の試料I−4を形成した。
【0158】
比較用試料C5〜C9は、上記と同様に処理された支持体を使用した。ベース層用のカチオン性ヒュームドシリカ(カチオン性に変性されたAEROSIL 130)を含む分散体(DEGUSSA WK7330)とPVA(日本合成KH20)と2.5%の1,4−ジオキサン−2,3−ジオール(DHD)と0.5%のホウ酸と1.85%のコーティング助剤(10G,DIXIE CHEMICAL)を含む第1の水性コーティング組成物(固形分17.9%)と、カチオン性コロイドシリカ(Grace Davison SYLOJET 4000C)と3.5%のポリビニルアルコール(日本合成GH23)と1%の1,4−ジオキサン−2,3−ジオール(DHD)と1%のZONYL FS300を含む光沢層用の第2の水性コーティング組成物(固形分10%)と下引き層上に同時にコーティングし、それぞれ21.5g/m2および2.2g/m2の乾量の層を得た。ヒュームドシリカ含有層について、PVAレベルを変え、釣り合いをとるようにヒュームドシリカレベルを調節した。比較用試料C5〜C9で使用したPVAの量を下記表2に示す。結果を下記表2に示す。
【0159】
【表3】

【0160】
表2中の結果により実証されているように、本発明者は、インク受容性層中にアニオン性ヒュームドシリカを含み、そして光沢層中にアニオン性コロイドシリカを含む本発明の記録要素を、インク受容性層のバインダー含有量を低くして、クラックを生成させずにコーティングできることを見出した。その結果、顔料系インクを用いて、合体の低減がもたらされる。
【0161】
例3
光沢層のコーティング組成物を固形分15%に変え、レイダウンを変えたことを除き、例2におけるコーティング試料I−4についての手順に従って、一連のコーティングを調製した。コーティングの試料を上記のように評価した。試験結果を下記表3に示す。
【0162】
【表4】

【0163】
表3に実証されているように、合体のわずかな増加が5g/m2 を超える光沢層乾量で見られる。
【0164】
例4
光沢層のアニオン性コロイドシリカタイプの混合物を単一成分Grace Davison SYLOJET 4000Aに置き換え、光沢層中のゼラチンバインダーをポリ(ビニルアルコール)に置き換え、インク受容性層中のバインダーレベルが7質量%であったことを除き、例2におけるコーティング試料I−4についての手順に従って、一連のコーティングを調製した。コーティングの試料を上記のように評価した。光沢層およびインク受容性層の被覆量を下記表4に示すように変えた。
【0165】
【表5】

【0166】
表4中の結果から、本発明の幾つかに実施態様についての好ましい範囲を示しており、少なくとも17g/m2のインク受容性層が、より少ない乾量の層と比べて合体を低減することを実証している。低いベース層乾量で観察された合体の増大は、吸収能力または濡れを増大させるようにベース層組成物を調節することによってさらに相殺することができる。例えば、下記例13に示されているように、ベース層中のフルオロ界面活性剤の量を増加させると、低ベース層被覆量で合体を低減することができる。組み合わされたベース層と光沢層の全乾量は25g/m2 を超えて増加し、受容体は製造中にクラックをより生成しやすくなる。光沢コート被覆量はクラック生成に対して比較的大きな効果があるのに対し、インク受容性層の乾量は画質に比較的大きな影響を及ぼす。
【0167】
例5
光沢層のアニオン性コロイドシリカタイプの混合物を単一成分Grace Davison SYLOJET 4000Aに置き換え、光沢層の乾量を3.2g/m2 に設定したことを除き、例2におけるコーティング試料I−4についての手順に従って、一連のコーティングを調製した。インク受容性層のバインダーレベルを下記表5に示すように変えた。
【0168】
【表6】

【0169】
表5中の結果から、28g/m2 を超えるベース層乾量はクラック生成の増大をもたらすことがあるのに対し、相対乾燥バインダー含有量の増大は合体を増加させる傾向がある。
【0170】
例6
ホウ砂含有処理層がポリビニルピロリドン(K−90,ISP Corp.)と四ホウ酸ナトリウムの1:1混合物を含んでいたことを除き、例2におけるコーティング試料I−4についての手順に従って、処理された支持体を作製した。インク受容性層用のカチオン性ヒュームドシリカの分散体を用いて一連のコーティングを作製した。市販の分散体WK7330(AEROSIL 130の分散体,Degussa)に由来するカチオン性シリカが82.6%、ポリ(ビニルアルコール)(KH−20)が12.5%、ジヒドロキシジオキサンが2.5%、ホウ酸が0.5%、および10G界面活性剤が1.9%となるように、水性カチオン性コーティング組成物A(全固形分17.9%)を調製した。
【0171】
WK7330の代わりにWK7525(Degussa製のAEROSIL 200)を使用したことを除いて組成物Aと同じ処方に従ってカチオン性コーティング組成物Bを調製し、そして、ポリ(ビニルアルコール)バインダーレベルを15%に増加させ、それに応じてシリカのレベルを低下させたことを除いて組成物Bと同じ処方に従ってカチオン性コーティング組成物Cを調製した。光沢層用の水性カチオン性コーティング組成物は、固形分10%とし、カチオン性コロイドシリカシリカ(Grace Davisonから入手可能なSYLOJET 4000C分散体に由来)を83.8%、カチオン性ヒュームドシリカ(WK7330,Degussa)を10%、ポリ(ビニルアルコール)(KH20)を4%、ジヒドロキシジオキサンを1.1%、およびZONYL FS300界面活性剤を1.1%含んでいた。
【0172】
インク受容性層について21.5g/m2 の乾燥コーティング量および光沢層について2.2g/m2 の乾燥コーティング量となるように、インク受容性層用のカチオン性コーティング組成物と光沢層用のカチオン性コーティング組成物とを一緒に同時にコーティングすることによって、一連のコーティング試料C−9〜C−11を作製した。さらに、光沢層中のバインダーをポリ(ビニルアルコール)に変え、そして、カチオン性の比較例で使用したのと同じホウ砂処理層に層をコーティングしてコーティング試料I−24を得たことを除き、例2における試料I−4と同じ組成のアニオン性コーティングを作製した。
【0173】
【表7】

【0174】
表6に示した結果から、アニオン性シリカを含む層の場合よりもカチオン性シリカを含むインク受容性層の場合に、アニオン性シリカを使用する処方と比べてバインダー含有量を高くすることに加えて、より大きな粒子サイズが好ましいことが判る。合体およびクラック生成の程度は、本発明で使用されるアニオン性層について見られるものに近づくことができるが、染料濃度はそれほど高くない。
【0175】
例7
この例は、本発明の様々な例および比較例で使用したシリカ粒子のゼータ電位を実証する。ゼータ電位は、Malvern ZETASIZER NANO−ZSを使用して測定した。結果を下記表7に示す。
【0176】
【表8】

【0177】
表7中の結果から判るように、本発明で使用したアニオン性シリカ分散体は、−15ミリボルトよりも負側のゼータ電位を有する。カチオン性シリカ分散体は+15ミリボルトを超えるゼータ電位を有する。
【0178】
例8
例3で使用したものに対応するベース層および光沢層用のアニオン性コーティング組成物を調製した。例6で使用したものに対応するベース層用および光沢層用のカチオン性コーティング組成物を調製した。溶融物を室温で攪拌しながら組み合わせて混和性を評価した。観察結果を表8に示す。
【0179】
【表9】

【0180】
これらの観察結果は、うまく同時コーティングを行うには、コーティング組成物中の粒子は同じ電荷を有するべきであることを示唆している。
【0181】
例9
光沢層の乾量を3.2g/m2に増加させたことを除いて例I−4と同様にコーティングを作製した。逐次コーティング法により比較用のコーティングを作製した。すなわち、画像受容性層をコーティングし、乾燥させ、次に光沢層を最上部にコーティングし、乾燥させた。印刷光沢をKODAK EASYSHARE 5100プリンターを使用して評価した。シアン、マゼンタ、イエローおよび保護インクのパッチを印刷し、次に、各パッチの20度光沢を測定し、値を平均化した。結果を表9に示す。
【0182】
【表10】

【0183】
表9に示したアニオン性シリカコーティング組成物の場合の同時および逐次コーティング法の結果は、未印刷および印刷光沢が、好ましい同時コーティング法の場合に優れており、合体が減少することを実証している。特定の理論に束縛されるわけではないが、本発明者は、同時コーティング法は受容体の光沢層とベース層の界面におけるミクロ構造を十分に変えて、顔料系インクを用いた場合の印刷光沢を著しく改善し、合体を減少させると推測する。
【0184】
例10
例3の場合のようにベース層用および光沢層用のアニオン性コーティング組成物を調製し、例6におけるようにベース層用および光沢層用のカチオン性コーティング組成物を調製した。試料I−4で述べたようなホウ砂含有下引き層上にベース層をそれぞれコーティングし、乾燥させた。乾燥したアニオン性ベース層に、その後、カチオン性光沢組成物をコーティングし、乾燥させ、一方、カチオン性ベース層には、その後、アニオン性光沢組成物をコーティングし、乾燥させた。比較のために、カチオン性のベース層および光沢層組成物と同様に、アニオン性のベース層組成物および光沢層組成物も同時にコーティングし、乾燥させた。例2におけるように試料を評価した。結果を表10に示す。
【0185】
【表11】

【0186】
表10に示した結果は、本発明で使用したアニオン性の構造体I−27が、カチオン性に変性されたシリカを含む構造体C−12〜C−14と比べて、非常に良好な光沢で最も少ない量の合体をもたらしたことを実証している。
【0187】
例11
異なる表面積を有するアニオン性ヒュームドシリカ粒子に由来する別のアニオン性ヒュームドシリカ分散体を使用し、ベース層中のバインダーレベルを10%に増加させた最高表面積シリカ(試料I−31)を除き、試料I−24と同様に一連のコーティングを調製した。分散体(全てDegussaから入手)およびそれらの対応するシリカ粒子は、それぞれ、W7525(AEROSIL 90)、W7330N(AEROSIL 130)およびW7622(AEROSIL 300)であった。試料をクラック生成および未印刷光沢について評価した。結果を表11に示す。
【0188】
【表12】

【0189】
表11に示した結果は、インク受容性層において有用なアニオン性ヒュームドシリカの好ましい比表面積は、光沢のある受容体の場合に、150m2/g〜350m2/gであることを実証している。試料I−31の不十分なクラック生成挙動および低光沢は、バインダーレベルを増加させることにより解消することができたが、粘度の上昇は、コーティング組成物の固形分を減少させることを必要とし、そのため、コーティングを遅くし、より生産性の低い乾燥速度が必要となるので、この選択肢は製造上の観点からあまり魅力的でない。
【0190】
例12
インク受容体中のバインダーの相対質量を7.5%から7.0%に低下させ、そして一連の市販入手可能なアニオン性コロイドシリカ粒子を光沢層用のコーティング組成物で置き換えたことを除き、例2における試料I−4に対する手順に従って一連のコーティングを調製した。製造業者から提供された特性および粒子サイズを下記表12に示す。幾つかのアニオン性場合に、市販入手可能なコロイドシリカ分散体は1つ以上の粒子サイズを有する。
【0191】
【表13】

【0192】
表12に示した結果は、12nm〜75nmの範囲内のメジアン粒子サイズを有するコロイドシリカ粒子を含む光沢層が、高流束で顔料系インクにより印刷された場合に、適切な未印刷光沢および低い程度の合体をもたらすことを実証している。
【0193】
例13
PVAの量、フルオロ界面活性剤ZONYL FS300の量および合計質量を変えたことを除き、例6の試料I−24におけるものと同様に一連のコーティングを調製した。KODAK EASYSHARE 5100プリンターを使用して印刷することによって、光沢を測定し、合体を評価した。結果を表13に示す。
【0194】
【表14】

【0195】
このデータは、バインダーレベルとフルオロ界面活性剤レベルと光沢と合体の間の複雑な関係を示している。バインダーレベルが増大するにつれて、フルオロ界面活性剤の存在下で光沢が減少するが、フルオロ界面活性剤なしでは光沢はわずかに減少する。フルオロ界面活性剤は常に合体を改善するが、あるバインダーレベルで、用途によっては、フルオロ界面活性剤なしでも、合体および光沢が十分なことがある。
【0196】
例14
ベース層被覆量が23.7g/m2 であり、光沢層被覆量が3.2g/m2であり、インク受容性層中に使用したポリ(ビニルアルコール)タイプを加水分解度および分子量の点で変えたことを除き、試料I−4の手順に従って一連のコーティングを調製した。分子量は、典型的には、20℃の4%水溶液の粘度により当該技術分野で評価され、その値は製造業者により提供される。クラック生成の程度を視覚的に評価し、未印刷光沢を測定した。結果を下記表14に示す。
【0197】
【表15】

【0198】
表14に示した結果は、好ましいポリ(ビニルアルコール)バインダーは20℃の4%水溶液中で30cP以上の粘度をもたらすのに十分に高い分子量を有し、しかも、ベース層の厚さを制限することまたはバインダーの量を増加させることなどのコーティング組成物中に他の変化を生じずに、好ましい耐クラック性、光沢およびアニオン性ヒュームドシリカの分散体との混和性をもたらすために約90以下の加水分解度を有することを実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録要素であって、支持体および下記のインク受容性層:
(a)アニオン性ヒュームドシリカの粒子と、ホウ素含有化合物を含む架橋剤により架橋された一次バインダーとして親水性ヒドロキシル含有ポリマーとを含む多孔質ベース層であって、当該多孔質ベース層の乾量は10〜35g/m2であり、当該多孔質ベース層中の全固形分に対する全バインダーの質量百分率は5.0%よりも高く、かつ、15.0%未満である多孔質ベース層;および
(b)任意選択的に、前記多孔質ベース層の上方の、アニオン性コロイドシリカの粒子および親水性バインダーを含み、0.2〜7.5g/m2 の乾量を有する最上部の多孔質光沢層;
を有し、
アニオン性ヒュームドシリカの粒子およびアニオン性コロイドシリカの粒子が−15ミリボルト未満のゼータ電位を示し、
当該インクジェット記録要素中のインク受容性層は、支持体および任意選択的な下引き層の上の、多孔質ベース層のみからなるか、あるいは多孔質ベース層と最上部多孔質光沢層からなる1つまたは2つの多孔質層からなる、インクジェット記録要素。
【請求項2】
アニオン性ヒュームドシリカの粒子のメジアン一次粒子サイズが40nm未満である、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項3】
前記多孔質ベース層の乾量が、最上部の多孔質光沢層の乾量の少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは少なくとも6倍、最も好ましくは少なくとも9倍である、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項4】
最上部の多孔質光沢層中のアニオン性コロイドシリカの粒子が、別々に製造され、次いで混合された2つの異なる母集団のコロイドシリカの混合物から構成される、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項5】
多孔質ベース層中のアニオン性ヒュームドシリカが、多孔質ベース層中の全無機粒子の少なくとも70質量%を構成する、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項6】
前記多孔質ベース層が12質量%未満のバインダーを含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項7】
前記多孔質ベース層中のポリマーが変性または未変性ポリ(ビニルアルコール)またはそれらのコポリマーを含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項8】
前記多孔質ベース層中のポリマーがポリ(ビニルアルコール)を含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項9】
前記ポリ(ビニルアルコール)が少なくとも70%の加水分解度を有する、請求項8に記載のインクジェット記録要素。
【請求項10】
前記多孔質ベース層がさらにフルオロ界面活性剤を含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項11】
アニオン性コロイドシリカの粒子のメジアン一次粒子サイズが30nm未満である、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項12】
最上部の多孔質光沢層が、最上部の多孔質光沢層中の全固形分に基づいて10質量%未満のバインダーを含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項13】
最上部の多孔質光沢層が、カチオン性ポリマーを含まないことにより特徴付けられる、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項14】
最上部の多孔質光沢層中のアニオン性コロイドシリカが、当該最上部の多孔質光沢層中の全無機粒子の少なくとも70質量%を構成する、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項15】
前記支持体がセルロース紙を含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項16】
前記支持体が樹脂被覆紙を含む、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項17】
支持体および任意選択的な下引き層の上の、多孔質ベース層および最上部の多孔質光沢層から成る、請求項1に記載のインクジェット記録要素。
【請求項18】
(A)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンターを用意する工程、
(B)前記インクジェットプリンターに請求項1に記載のインクジェット記録要素を装填する工程、
(C)前記インクジェットプリンターに顔料系インクジェット組成物を装填する工程;および
(D)前記デジタルデータ信号に応答して、インクジェットインク組成物を使用してインクジェット記録要素上に印刷する工程、
を含む、インクジェット印刷方法。
【請求項19】
請求項1に記載のインクジェット記録要素と、少なくとも3つの着色インク組成物を含む顔料系インクジェットインクセットとを含むパッケージされた製品。

【公表番号】特表2011−502824(P2011−502824A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533065(P2010−533065)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/012153
【国際公開番号】WO2009/061354
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】