説明

インクタンク

【課題】複数の構成部品によって形成されたインクタンクであっても、複数の構成部品の接合部に外部からの衝撃が加わらないような、インクタンクを提供する。
【解決手段】インクタンクにおいて、記録ヘッドにインクを供給するための第1の構成部材22の底部33と第1と第2の構成部材の接合部21を結ぶ直線の接合部側の延長線上に、当該延長線をはみ出すような突出部32を設ける。これにより、インクタンクを床などの平面に落下させた場合でも、突出部32あるいは底部33は衝撃を受けるが、接合部21にはせん断力による力が直接加わらないように出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに装着され、インクを吐出する記録ヘッドにインクを供給するためのインクタンクに関する。特に、複数の構成部品を接合して形成された形態でありながら、外部からの衝撃に耐えうるようなインクタンクの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置(インクジェットプリンタ)は、低廉性や静粛性に優れた装置であり、近年広く普及している。インクジェットプリンタでは、パーソナルユースに対応するために装置の小型化が進められているが、それに伴って、インクを吐出する記録ヘッドにインクを供給するためのインクタンクの省スペース化も図られている。しかし、インクタンクそのものを小型化すると、記録ヘッドに供給可能なインクの量も削減されてしまうので、ランニングコストの点で好ましくない。よって、記録装置の空きスペースに適合するような形状でありながら、なるべく多くのインクを収容出来るようなインクタンクの構成が要求されている。
【0003】
特許文献1には、インクタンクを構成する複数の部材ごとにインク吸収体を充填し、これらを結合することにより1つのインクタンクを形成する内容が開示されている。
【0004】
図4(a)〜(c)は、特許文献1に開示されているインクタンクの構成を説明するための斜視図である。ここでは、記録ヘッドとインクタンクとが一体的に構成されるインクカートリッジを例に説明している。図4(a)は、インクタンク61と記録ヘッド63とをタンクホルダ62に装着する様子を示す分解斜視図である。
【0005】
インクを滴として吐出する複数の記録素子が形成された記録ヘッド63は、タンクホルダ62に対し、図のように取り付けられている。一方、インクタンク61は、タンクホルダ62の上部から、図のように挿入され装着される。タンクホルダ62には煙突状のインク受け入れ部64が設けられており、インク受け入れ部64の内部にはフィルタ65が配設されている。一方、インクタンク61の内部には、インク受け入れ部64と対応する位置に圧接体66が設けられている。インクタンク61をタンクホルダ62に装着することにより、インク受け入れ部64と圧接体66が結合し、相互の毛細管力でフィルタ65を介したインク流路が形成される。そして、記録ヘッドの吐出動作に伴ってインクが消費されても、インクタンク61から記録ヘッド63に適切にインクが供給される仕組みになっている。本例のインクタンク61はタンクホルダ62に対し着脱可能であるので、インクタンク62内のインクが消費されてしまった場合には、新たなインクタンク61に交換することが可能である。
【0006】
インクタンク61は、図4(b)に示すように、第1の構成部品67と第2の構成部品68が、それぞれの開口面が一致するように接着されることによって形成される。構成部品67および68の内部は、それぞれの構成部品の内部形状に適合するようなほぼ直方体の吸収体72および71が、各構成部品の内壁に収縮した状態で充填されている。2つの構成部品67および68が接着される前には、吸収体71および72は個々の開口部よりはみ出した状態になっている。しかし、これら構成部品67および68を接着させることにより吸収体71および72は圧縮され、図4(c)に示すように、相互に接触界面53を有しながらもインク貯留部として一体化する。
【0007】
以上説明したような、特許文献1の構成であれば、インクタンクの形状が多少複雑になったとしても、インクタンクを複数の構成部品によって形成しつつ、個々の構成部品の形状に合わせたインク吸収体を用意することが出来る。よって、完成されたインクタンクの内部において、デッドスペースが発生し難くなる。
【0008】
また、特許文献1のように特に複雑な形状を有する場合でなくても、複数の構成部品によってインクタンクを形成可能にしておくことは、生産工程上有意義な場合がある。
【0009】
図5は、2つの構成部品と1つのインク吸収体によって構成されるインクカートリッジの一例を説明するための図である。本例のインクカートリッジ20は、その製造工程において、記録ヘッドが既に備えられている第1の構成部品22に対し、これと等しい形状の開口部を有する第2の構成部品23を接合する。その後、両者の容積の和に応じた大きさの吸収体24を挿入し、更にインクを注入した後、蓋25を接合する。以上の工程によりインクカートリッジ20が完成する。
【0010】
このような製造工程であれば、同じ記録ヘッド、すなわち同じ第1の構成部品22に対して、様々な大きさの第2の構成部品23や吸収体24を用意しておくことにより、様々な容量を有するインクカートリッジを製造することが出来る。つまり、記録装置の種類や記録の用途に対応した複数種類のインクカートリッジであっても、第1の構成部品22の製造工程までを共通化できるので、少ない工程によって低コストに生産することが可能となる。
【0011】
【特許文献1】特開平8−224887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1や図5で示した例のように複数の構成部品によって形成されたインクタンク(インクカートリッジ)においては、その接合部が外部からの衝撃に弱いと言う欠点を有している。特に、記録装置に対して着脱可能な形態では、着脱の際に落下する危険もあり、この場合には個々の構成部品の接合部からインクタンクが破壊してしまう恐れがある。
【0013】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、複数の構成部品によって形成されたインクタンクであっても、複数の構成部品の接合部に外部からの衝撃が加わらないような、インクタンクを提供することである。
【0014】
なお、本発明におけるインクタンクとは、記録ヘッドが一体化されているか否かを問わず、インクカートリッジの形態も含めた広義の意味で定義されるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題点を解決するため、本発明においては、記録ヘッドにインクを供給するための第1の構成部材と、前記第1の構成部材にインクを供給するための第2の構成部材と、前記第1の構成部材の開口部と前記第2の構成部材の開口部を接着することによって形成される接合部と、を有するインクタンクであって、前記第1の構成部材の底部と前記接合部を結ぶ直線の前記接合部側の延長線上に当該延長線をはみ出すように突出部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の構成部品を接合して形成された形態であっても、突出部あるいは底部は衝撃を受けるが、接合部にはせん断力による力が直接加わらないように出来る。これにより、インクタンクを床などの平面に落下させた場合でも、衝撃に耐えうるインクタンクを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例1)
図1(a)および(b)は、本実施例のインクカ−トリッジ20の構成を説明するための図であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は同図(a)のA方向から観察した場合の側面図である。本実施例のインクカートリッジの内部構成は、図5の分解図で説明した従来のインクカートリッジ20と同等であり、図5と同じ符号は同じ部材であることを示す。
【0018】
本実施例のインクカートリッジ20では、構成部材22および23共に略直方体をしており、その接合部は他の部分に比べて衝撃に弱い。特に、図1(a)において斜線で示した長手方向側の接合部21は、B方向からのせん断力に弱く、落下時には当該接合部からインクカートリッジ20が分裂してしまう恐れがある。
【0019】
よって、本実施例のインクカートリッジ20のインクを密封するための蓋25と第2の構成部材23の間には、突出部32を備えたフランジを設けている。突出部32のB方向への寸法は、図1(b)に示すように、突出部と底部33をと結んだ破線34に対して、接合部21がはみ出さないように設計されている。言い換えれば、第1の構成部材22の底部33と接合部21を結ぶ直線の接合部側の延長線上に、当該延長線をはみ出すように突出部32が設けられている。これにより、インクカートリッジ20を床などの平面に落下させた場合でも、突出部32あるいは底部33は衝撃を受けるが、接合部21にはB方向の力が直接加わらないようになっている。
【0020】
なお、本実施例の突出部32は、最も衝撃の影響を受けやすい長手方向の領域の接合部21を保護するために、長手方向の寸法条件のみが定められているが、接合部21の全周囲の領域を保護するような条件で、A方向への寸法が定められていてもよい。このようにすれば、インクカートリッジ20がどのような角度で落下しても、接合部全体を衝撃から保護しやすくなる。
【0021】
(実施例2)
図2(a)および(b)は、本実施例のインクカ−トリッジ40の構成を説明するための図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は同図(a)のA方向から観察した場合の側面図である。本実施例のインクカートリッジ40は、記録ヘッドが既に備えられている第1の構成部品42と、これと等しい形状の開口部を有し所定の寸法の突出部45を具えた第2の構成部品43が、接合して形成される。構成部品42および43の内部には、特許文献1に示されるように、それぞれの内部形状に適合するような吸収体が予め収容されており、2つの構成部品42および43が接着される前には、これら吸収体は個々の開口部よりはみ出している。構成部品42および43を接着させることにより2つの吸収体は圧縮され、相互に接触界面を有しながらもインク貯留部として一体化する。
【0022】
本実施例のインクカートリッジ40の第2の構成部材43の上端部には、図2(b)に示すように、突出部45が具えられている。突出部45のB方向への寸法は、実施例1と同様、突出部45と底部46を結んだ破線47に対して、接合部41がはみ出さないように設計されている。言い換えれば、第1の構成部材42の底部と接合部41を結ぶ直線の接合部側の延長線上に、当該延長線をはみ出すように突出部45が設けられている。これにより、インクカートリッジ40を床などの平面に落下させた場合でも、突出部45あるいは底部46は衝撃を受けるが、接合部41にはB方向の力が直接加わらないようになっている。
【0023】
本実施例の突出部45は、最も衝撃の影響を受けやすい長手方向の領域の接合部41を保護するために、長手方向のみに延在するように設けられているが、接合部の全周囲の領域を保護するように構成部材43の周囲全体からはみ出すように設けられていてもよい。このようにすれば、インクカートリッジ40がどのような角度で落下しても、接合部全体を衝撃から保護しやすくなる。
【0024】
(実施例3)
図3は、本実施例のインクカ−トリッジ80の構成を説明するための側面図である。本実施例のインクカートリッジ80は、記録ヘッドが既に備えられている第1の構成部品82と、これと等しい形状の開口部を備え当該開口部よりもB方向に大きな外壁を有する第2の構成部品83とが、接合して形成される。構成部品82および83の内部には、特許文献1に示されるように、それぞれの内部形状に適合するような吸収体が予め収容されているが、2つの構成部品82および83が接着される前には、これら吸収体は個々の開口部よりはみ出した状態になっている。構成部品82および83を接着させることにより2つの吸収体は圧縮され、相互に接触界面を有しながらもインク貯留部として一体化する。
【0025】
本実施例のインクカートリッジ80の第2の構成部材83には、先述した実施例に示したような突出部は特に備えられていない。しかし、第2の構成部材83のB方向における外壁の寸法が、第1の構成部材82と接続する開口部の幅よりも大きく、当該外壁の部分と底部86を結んだ破線84に対して、接合部81がB方向にはみ出さないように設計されている。言い換えれば、第1の構成部材82の底部と接合部81を結ぶ直線の接合部側の延長線上に、当該延長線をはみ出すように第2の構成部材の外壁が成型されている。すなわち、本実施例では、第2の構成部材83の外壁が、実施例1および実施例2の突出部の役割を果たし、インクカートリッジ80を床などの平面に落下させた場合でも、接合部81にはB方向の力が直接加わらないようになっている。
【0026】
本実施例の第2の構成部材83は、最も衝撃の影響を受けやすい長手方向の領域の接合部81を保護するために、B方向のみの寸法が定められているが、接合部81の全周囲の領域を保護するような条件で、A方向への寸法が定められていてもよい。このようにすれば、インクカートリッジ80がどのような角度で落下しても、接合部全体を衝撃から保護することが可能となる。
【0027】
以上説明した3つの実施例では、略直方体を有する2つの構成部材を組み合わせることによって形成されるインクカートリッジを例に説明してきたが、本発明は更に多くの構成部材を組み合わせることによって形成されるインクタンクにも対応可能である。この場合、接合部も更に多く存在することになるので、それぞれの接合部に対応して突出部を設けてもよいし、1つの突出部によって複数の接合部を保護できるようにしてもよい。
【0028】
また、インクタンクは、特許文献1のように、タンクホルダに対して着脱可能な形態であってもよいし、上述したように構成されたインクタンクを、インクジェット記録装置に備えられた記録ヘッドに装着する形態であってもよい。また、記録ヘッドは装置内を移動しながら記録動作を行うが、これにインクを供給するインクタンクは装置の固定位置に装着され、チューブなどのフレキシブルな材料を介してインク供給が行われるような形態であっても本発明の効果は得られる。
【0029】
さらに、接合部(開口部)は必ずしも長方形でなくても構わない。接合部の断面がより複雑な形状をした構成であっても、その接合部の周囲のうち、より直線距離が長く、せん断力に弱い部分を保護するような位置に、上述したような突出部が備えられていれば、本発明は有効に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)および(b)は、本発明の実施例1のインクカ−トリッジ20の構成を説明するための図である。
【図2】(a)および(b)は、本発明の実施例2のインクカ−トリッジ40の構成を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例3のインクカ−トリッジ80の構成を説明するための側面図である。
【図4】(a)〜(c)は、特許文献1に開示されているインクタンクの構成を説明するための斜視図である。
【図5】2つの構成部品と1つのインク吸収体によって構成されるインクカートリッジの一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
20 インクカートリッジ
21 接合部
22 第1の構成部材
23 第2の構成部材
24 吸収体
25 蓋
32 突出部
33 底部
34 破線
40 インクカートリッジ
41 接合部
42 第1の構成部材
43 第2の構成部材
45 突出部
46 底部
47 破線
80 インクカートリッジ
81 接合部
82 第1の構成部材
83 第2の構成部材
84 破線
86 底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドにインクを供給するための第1の構成部材と、
前記第1の構成部材にインクを供給するための第2の構成部材と、
前記第1の構成部材の開口部と前記第2の構成部材の開口部を接着することによって形成される接合部と、
を有するインクタンクであって、
前記第1の構成部材の底部と前記接合部を結ぶ直線の前記接合部側の延長線上に当該延長線をはみ出すように突出部が設けられていることを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記突出部は、前記接合部のうちの最も直線距離が長い領域において、前記第1の構成部材の底部と前記領域を結ぶ直線の延長線上に当該延長線をはみ出すように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記突出部は、前記接合部の全周囲の領域において、前記第1の構成部材の底部と前記領域を結ぶ直線の延長線上に当該延長線をはみ出すように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項4】
インクを密封するための蓋を更に有し、
前記突出部は前記蓋に設けられているフランジであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項5】
前記突出部は前記第2の構成部材に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項6】
前記突出部は前記第2の構成部材の外壁であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項7】
前記第1の構成部材は前記記録ヘッドを備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項8】
インクジェット記録装置に備えられた前記記録ヘッドに着脱可能に装着されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインクタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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