説明

インク供給系およびこれを備えた記録装置

【課題】良好に循環動作を行うことが可能な機構を備えたインク供給系およびこれを備えた記録装置を提供する。
【解決手段】インク供給系は、記録ヘッド100に設けられた第一液室101と、第二液室110と、ダイヤフラムポンプ121と、を有する。インク供給系は、第一液室101とダイヤフラムポンプ121とを連通させる流路135と、ダイヤフラムポンプ121と第二液室110とを連通させる流路137と、第二液室110と第一液室101とを連通させる流路136と、を有する。インク供給系は、ダイヤフラムポンプ121の駆動力により、第一液室101、流路135、ダイヤフラムポンプ121、流路137、第二液室110、流路136、第一液室101の順にインクを循環させる。インク供給系は、流路135の流路抵抗をHdとし、流路137の流路抵抗をHuとしの流路と、流路136の流路抵抗をHiとすると、Hi>|Hu―Hd|の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドを含む循環路にインクを循環させる機構を備えたインク供給系およびこれを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置(以下、単に「記録装置」ともいう。)は、用紙のような記録媒体を横切って往復運動するキャリッジに搭載されるインクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」ともいう。)を利用することが多い。一般的な記録装置では、記録ヘッドの往復運動に伴って、記録ヘッドが吐出口から記録媒体にインク滴を吐出するインク吐出動作(記録動作)を行う。これにより、記録媒体上にイメージや文字が形成される。記録ヘッドへのインクの補給は、インクを収容したインク補給容器(以下、「インクタンク」という。)からなされる。
【0003】
一般的な記録装置は、交換可能な搭載される接続部を有する。このような記録装置では、インクタンク内のインクは、該インクタンクの接続部に接続された柔軟性を有する中空の流体導管を経由して記録ヘッドに補給される。記録ヘッドは吐出口が重力方向下向きとなるように記録装置に搭載される。記録装置に搭載された記録ヘッドの内部の圧力は、インクが吐出口内にメニスカスを形成した状態で留まるように、所定の微負圧に保たれる。なお、本明細書では、大気圧より高い圧力を正圧、大気圧より低い圧力を負圧と言うこととする。
【0004】
記録ヘッド内に空気が混入している場合、記録装置に不具合が発生することがある。たとえば、記録ヘッド内の空気が吐出口内に導かれた場合、記録装置のインク吐出動作の際に吐出口からインク滴が吐出されない場合がある。また、空気は温度が高くなると膨張するため、記録ヘッド内を所定の微負圧にしようとしても、記録ヘッド内の空気が膨張することにより、記録ヘッド内が正圧になることがある。この場合、吐出口内でのインクのメニスカスが維持されず、インクが吐出口から漏れ出てしまう。
【0005】
記録ヘッド内への空気の混入はたとえば以下のような場合に発生する。
・インクタンクを交換する際に記録装置本体の接続部が大気に開放される場合
・空気が流体導管などのインクの流路を形成する物質そのものを長時間かけて透過する場合
・インク自体に溶存する空気が周囲条件の変化に伴い集積する場合
・インク吐出の際に吐出口から空気が入り込む場合
・記録ヘッド内の空気が温度の下降により収縮し、記録ヘッド内が大きな負圧となり、吐出口内でのインクのメニスカスが破壊される場合
記録ヘッド内の空気を除去する技術が、特許文献1に開示されている。
【0006】
図10は特許文献1に記載されたヘッドカートリッジ1の概略構成図である。ヘッドカートリッジ1は、記録ヘッド2と、インクタンク3と、インクタンク3から記録ヘッド2にインクを送るための供給管路4と、記録ヘッド2からインクタンク3にインクを戻すための還流管路5と、を有する。また、還流管路5には送液ポンプ6が設けられている。
【0007】
ヘッドカートリッジ1では、記録ヘッド2、還流管路5、インクタンク3、供給管路4により循環路が構成されている。ヘッドカートリッジ1では、送液ポンプ6を駆動させることにより、インクをこの循環路を循環させる泡循環動作を行う。記録ヘッド2内の空気は、この泡循環動作により、インクタンク3に送り出される。
【0008】
図10に示したヘッドカートリッジ1では、インクタンク3が記録ヘッド2の近傍に設けられている。そのため、ヘッドカートリッジ1が記録装置のキャリッジに搭載される際には、記録ヘッド2のみならずインクタンク3もキャリッジに搭載される。そのため、記録装置におけるインク吐出動作時にキャリッジが重くなる。キャリッジが重くなることは、キャリッジの動作が鈍くなる要因となる。したがって、記録装置は、キャリッジにインクタンク3を搭載しない構成であることが望ましい。
【0009】
図11は、キャリッジにインクタンクを搭載しない構成を有する記録装置のインク供給系の概略構成図である。図11に示したインク供給系では、キャリッジに搭載される記録ヘッド100Aから離れた位置にインクタンク200Aが設けられている。
【0010】
このインク供給系は、記録ヘッド100Aの内部の上側に設けられた第一液室101Aと、所定の微負圧に保たれるように構成された第二液室110Aと、を有している。第一液室101Aと第二液室110Aとは、流路136Aにより連通されており、第二液室110Aも第一液室101Aと同様に所定の微負圧に保たれている。第一液室101A内が所定の微負圧に保たれていると、吐出口105A内においてインクのメニスカスが維持される。
【0011】
また、第一液室101Aと第二液室110Aとは、流路135Aおよび流路137Aによっても接続されている。流路135Aと流路137Aとの間にはダイヤフラムポンプ121Aが設けられている。ダイヤフラムポンプ121Aは、流路135A内のインクを矢印A方向に流動させる。したがって、このインク供給系では、第一液室101A、流路135A、ダイヤフラムポンプ121A、流路137A、第二液室110A、流路136Aにより循環路が形成されている。このインク供給系では、ダイヤフラムポンプ121Aを駆動させることにより、インクをこの循環路を循環させて泡循環動作を行う。このインク供給系では、泡循環動作により、第一液室101A内の空気が第二液室110A内に送り出される。
【0012】
第一液室101A内から第二液室110A内に送り出された空気が第二液室110A内に溜まると、吸引装置330Aにより第二液室110A内の空気を吸引する吸引動作を行う。このインク供給系では、吸引動作により第二液室110A内の圧力が低くなると、インクタンク200Aから第二液室110A内にインクが供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−125667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図11に示したインク供給系では、泡循環動作中にも、吐出口105A内のインクのメニスカスを維持するために、第二液室110A内を所定の微負圧に保つ必要がある。
【0015】
泡循環動作中に、第二液室110Aが所定の微負圧よりも低い圧力となると、インクタンク200Aから第二液室110Aにインクが流入する。これにより、泡循環動作における循環路内でのインクの流れが妨げられる。
【0016】
また、泡循環動作中に、第二液室110A内が所定の微負圧よりも高い圧力となると、第一液室101A内も同様の圧力となり、吐出口105Aからインクが漏れ出してしまう。このように、このインク供給系において、良好に泡循環動作を行うためには、第一液室101A内の圧力を所定の微負圧に維持することが重要である。
【0017】
そこで、本発明は、良好に循環動作を行うことが可能な機構を備えたインク供給系およびこれを備えた記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明のインク供給系は、吐出口からインクを吐出する記録ヘッドの内部の上側に設けられた第一液室と、該第一液室に供給するインクを収容する第二液室と、該第二液室から前記第一液室にインクを供給する駆動力を付与するポンプと、前記第一液室と前記ポンプとを連通させる第一流路と、前記ポンプと前記第二液室とを連通させる第二流路と、前記第二液室と前記第一液室とを連通させる第三流路と、を有し、前記ポンプの駆動力により、前記第一液室、前記第一流路、前記ポンプ、前記第二流路、前記第二液室、前記第三流路、前記第一液室という順番にインクを循環させる循環動作を行う機構を備えたインク供給系において、前記第一流路の流路抵抗をHdとし、前記第二流路の流路抵抗をHuとし第一流路と、前記第三流路の流路抵抗をHiとすると、Hi>|Hu―Hd|の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好に循環動作を行うことが可能な機構を備えたインク供給系およびこれを備えた記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の概略構成図である。
【図3】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の概略構成図である。
【図4】図2等に示したインク供給系の循環路における位置と流路圧力との関係を示した図である。
【図5】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の説明図である。
【図6】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の説明図である。
【図7】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の概略構成図である。
【図8】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の概略構成図である。
【図9】図1に示したインクジェット記録装置のインク供給系の一例の概略構成図である。
【図10】一般的なインクジェット記録装置のヘッドカートリッジの概略構成図である。
【図11】一般的なインクジェット記録装置のインク供給系の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置500の概略構成図である。インクジェット記録装置500は流体導管250を経由して、取り替え可能なインクタンク200に接続される記録ヘッド100を含む。加圧ポンプ210によりインクタンク200から押し出されたインクは流体導管250を経由して記録ヘッド100に供給される。記録ヘッド100は、記録装置制御基板(不図示)の制御の下に記録面601上にインクを吐出することが可能である。スライド軸420により移動可能に支持されたキャリッジ410に搭載された記録ヘッド100は、キャリッジモーター450により付与された駆動力がCRベルト430およびプーリー440により伝達されて記録面601上を往復動する。
【0023】
チューブポンプ(不図示)などの吸引装置330(図2参照)を備えた回復系300は記録ヘッド100の往復動の動作幅より外側に位置している。回復系300は、吸引装置330により吐出口(不図示)からインクを吸引することで記録ヘッド100の吐出口付近の増粘インクを除去する。
【0024】
インクジェット記録装置500は、その下部にロール状の記録媒体600を回転自在に支持している。記録媒体600は、ガイド460およびLFローラー群470により引き出されてプラテン490の上面まで搬送される。記録ヘッド100はプラテン490の上面にある記録媒体600上を往復動しながらインクを吐出する。記録媒体600は、記録ヘッド100の往復動に伴って、LFローラー群470により間欠送りされる。このような動作により、記録ヘッド100は記録媒体600に連続的な記録を行うことができる。
【0025】
図2は本実施形態に係るインクジェット記録装置のインク供給系の概略構成図である。なお、
インクタンク200は、柔軟部材で形成された袋体202および該袋体202を密閉するケース205で構成される。インクタンク200は、袋体202およびケース205に対して気密に設けられたゴム栓201で密閉されている。流体導管250の一端は鋭利な中空管であるインク針203に接続され、該インク針203がゴム栓201に差し込まれている。これにより、インクタンク200の袋体202に収容されたインクを、インク針203を介して流体導管250に導出させることが可能になる。ケース205には、加圧ポンプ210が接続されている。加圧ポンプ210は密閉状態のケース205に空気を送り込むことで、袋体202の周囲を加圧し、袋体202内のインクを流体導管250に導出させる。
【0026】
記録ヘッド100は吐出口105が重力方向下方を向くように配置されている。記録ヘッド100は、吐出口105の重力方向上側に第一液室101を備え、後述する第二液室110重力方向上部に第一流路135(チューブ)等を介して接続されている。
【0027】
また、インクジェット記録装置500には、インク吐出動作時に、良好なインク吐出を行えるように第一液室101を所定の微負圧に保つための第二液室110が設けられている。第二液室110の重力方向上部から引き出されている第二流路137(チューブ)は後述するダイヤフラムポンプ121に接続されている。また、第二液室110の重力方向下部から引き出されている第三流路136(チューブ)は記録ヘッド100の第一液室101に接続されている。流路135の記録ヘッド100に対する接続および流路136の記録ヘッド100に対する接続は、それぞれ、着脱可能な一対のゴム栓138および針139によりなされている。
【0028】
上述のように、第一流路135は第一液室101とダイヤフラムポンプ121を連通させ、第二流路137はダイヤフラムポンプ121と第二液室110とを連通させ、第三流路136は第二液室110と第一液室101を連通させている。
【0029】
第一液室101は、内部に供給フィルターを備えたインク流路102を有し、流路136内のインクは、針139、インク流路102の順に通って、第一液室101内に導かれる。インク流路102は、吐出口105の列方向に対して斜め上方に形成されており、その重力方向上部に排出フィルターを備えた排出流路103が設けられている。つまり、第一液室101内の空気は、インク流路102の傾斜により重力方向上方に導かれ排出流路103付近に溜まる。
【0030】
第二液室110は流体導管250からのインクの流入口である供給口113を有している。第二液室110は、その内部に、負圧を発生させる機構を有している。第二液室110を形成する隔壁の一部は可撓性部材111によって構成されている。第二液室110の内部には、可撓性部材111を外向きに変形させるように付勢する可撓部バネ112が設けられている。
【0031】
可撓性部材111は可撓部バネ112によって外側に膨らまされている。可撓部バネ112が、可撓性部材111を、第二液室110内の容積を増加させる方向に変形させることによって、第二液室110内が所定の微負圧に保たれている。本実施形態では、第二液室110内の圧力を、大気圧よりも約80mmAq低い値に設定している。つまり、第二液室110内の圧力の設定値は−80mmAqである。
【0032】
上述したように、第二液室110の可撓性部材111および可撓部バネ112は、第二液室110内ならびに第一液室101内を所定の微負圧にするための負圧発生機構を構成する。
【0033】
第一液室101と第二液室110とは液密状態にある。そのため、第二液室110内を所定の微負圧(−80mmAq)にすると、第二液室110との高低差がT2(mm)である第一液室101内の圧力は、インクが流れていない静的状態では、−(80−T2)mmAqとなる。T2(mm)は、80mmより小さい値である。たとえば、T2(mm)が30mmであるとすると、第一液室101内の圧力が−50mmAqとなり、吐出口105内に良好なインクのメニスカスが形成される。
【0034】
供給口113と、該供給口113を開閉する供給開閉弁160とは、インク供給制御手段を構成する。供給制御弁160は負圧発生機構を構成する可撓性部材111や可撓部バネ112と連動して供給口113を開閉する。アーム161を介して可撓性部材111の動作に伴って動作する供給制御弁160は、可撓部バネ112と供給制御弁バネ115との2つのバネ部材から力を受けて供給口113を開閉する。
【0035】
吐出口105からのインクを吐出する記録ヘッド100のインク吐出動作による第一液室101内のインクの減少により第二液室110内の圧力は低くなる。第二液室110内の圧力が所定の微負圧より低くなると、可撓性部材111が内側から受ける可撓部バネ112と供給制御弁バネ115による力が、可撓性部材111が外側から受ける大気からの押圧力より小さくなる。そうすると、可撓性部材111は、第二液室110の容積が小さくなるように変形する。この可撓性部材111の変形に伴い、アーム161が回動するとともに、供給制御弁160が移動して供給口113を開放する。
【0036】
供給制御弁160が供給口113を開放すると、加圧されたインクが流体導管250から第二液室110内に流入する。第二液室110内にインクが流入してゆくと、第二液室内の圧力が、徐々に増加してゆき、やがて再び所定の微負圧となる。第二液室110内の圧力が所定の微負圧となると、可撓性部材111が外向きに変形するとともに、供給制御弁160が閉塞される。
【0037】
記録ヘッド100からインクを連続して吐出する連続吐出動作では、供給制御弁160は間欠的に供給口113の開閉を繰り返す。これにより、インクは、インクタンク200から流体導管250を介して第二液室110に安定して供給される。そして、第二液室110内のインクは、流路136を介して記録ヘッド100に供給される。
【0038】
記録ヘッド100の第一液室101は、流路135を介して、ダイヤフラムポンプ121に接続されている。ダイヤフラムポンプ121はその内部の圧力を第一液室101内の圧力より低くすることにより、排出流路103を介して第一液室101内のインクを吸い込む。本実施形態ではダイヤフラムポンプ121を用いたが、同様の機能を果たす他のポンプを用いてもよい。
【0039】
本実施形態では、第一液室101、流路135、ダイヤフラムポンプ121、流路137、第二液室110、流路136、第一液室101という順番にインクが流れる循環路が形成されている。本実施形態では、ダイヤフラムポンプ121により付与された駆動力によって、インクを当該循環路で循環させる循環動作(以下、「泡循環動作」という。)を行う。これらの構成全体が、インクを循環させるためのインク循環機構を構成している。
【0040】
ダイヤフラムポンプ121が駆動させられると、第一液室101に混入した空気が第二液室110内に送り出される。ダイヤフラムポンプ121は、その容積を繰り返し拡大縮小させる2つのダイヤフラム122を備えている。ダイヤフラム122は柔軟部材(たとえばゴムなど)で形成され、その容積を増加させる方向または減少させる方向に変形することができる。
【0041】
ダイヤフラムポンプ121の2つのダイヤフラム122は、一方の容積を増加させるときには、他方の容積を減少させるように変形し、循環路全体の容積を常に一定に保つようにしている。したがって、ダイヤフラム122の変形によっては第二液室110内の圧力が変化しない。
【0042】
流路135には第一の開閉弁131が設けられ、ダイヤフラムポンプ121の2つのダイヤフラム122の間には第二の開閉弁130が設けられている。
【0043】
第一の開閉弁131は、第一液室101からダイヤフラムポンプ121へのインクの流れを許容し、ダイヤフラムポンプ121から第一液室101へのインクの流れを阻止する第一の一方向弁である。第二の開閉弁130は、流路135から流路137へのインクの流れを許容し、流路137から流路135へのインクの流れを阻止する第二の一方向弁である。
【0044】
ダイヤフラムポンプ121、第一の開閉弁131、第二の開閉弁130は、第一液室101の排出流路103から流出したインクや空気などの流体を第二液室110に収集する還流手段を構成する。
【0045】
第二液室110の重力方向上部には、第二液室110内の空気を排出するための空気抜き流路181が設けられている。空気抜き流路181は排出口114を介して第二液室110に接続されている。排出口114の重力方向上部には、排出口114および空気抜き流路181の開閉を行う押圧弁117が設けられている。押圧弁117は、排出口114の重力方向上部に押圧ゴム118を接離することで、排出口114の開閉を行う。押圧ゴム118は押圧付勢バネ119によって排出口114に付勢されている。
【0046】
排出口114は押圧弁117のみならず気液分離手段であるフロート弁150によっても開閉される。フロート弁150の開閉動作機構にはフロート140の浮力を用いられている。第二液室110にインクが充填されフロート140の位置が高くなると、フロート140がフロートシール142を閉塞する。これにより、フロート弁150は閉じる。そして、記録動作により第二液室110内のインクが減った場合、フロート140の位置が下がると、フロート弁150が開く。
【0047】
空気抜き流路181の下流側には負圧源である吸引装置330が設けられている。吸引装置330は回復系300の一部としてノズルキャップ310の吸引にも用いられる。吸引装置330は、ノズルキャップ310による吸引と、空気抜き流路181による吸引と、を2つの開閉弁312,322の開閉により切り替えられる。なお、ノズルキャップ310による吸引は、吐出口105の回復、すなわち吐出口105内の増粘インクの除去のために行われる。
【0048】
次に、泡循環動作における、第一液室101内の空気を第二液室110内へ送り出す動作について説明する。
【0049】
図3は、第一液室101内に空気が溜まった状態を示している。図2では、循環路内の、インクで満たされた部分をハッチングで示し、空気で満たされた部分を白抜きで示している。空気が所定量溜まり、残検ピン106(たとえば、導電性のあるSUSなどの金属材料でピン状に形成されたものである)により検出されると、インクジェット記録装置本体のCPU(不図示)は泡循環動作を行わせる命令を出す。そうすると、まず、第二液室110の泡抜き(空気抜き)を行い、第二液室110内の空気を除去する(動作は後述する)。図3はこの状態を示している。
【0050】
図3に示した状態から、不図示の駆動手段によりダイヤフラムポンプ121を駆動させる。2つのダイヤフラム122は、容積の膨張および収縮の位相が反対になるように駆動させられる。そうすると、2つの一方向弁である開閉弁130,131の作用により図3の矢印A方向にインクが流れる。これにより、第一液室101内の圧力が低下し、第一液室101内のインクや空気も排出流路103を介して流路135へ流動する。
【0051】
このままダイヤフラムポンプ121を駆動させ続けると、第一液室101内のインクおよび空気は、流路135から、ダイヤフラムポンプ121を介して第二液室110に流れ込む。その時、第一液室101から流出したインクおよび空気と等量のインクが、第二液室110から、流路136、インク流路102を介して、第一液室110内に供給される。
【0052】
第二液室110内にインクおよび空気が流入すると、第二液室内では、比重の小さい空気は重力方向上部に、比重の大きいインクは重力方向下部に溜まり、空気とインクとの分離(気液分離)が行われる。このように、泡循環動作を行うと、空気は循環路内の第二液室110内に溜まり、該第二液室110内で気液分離する。この泡循環動作は、あらかじめ決められた回数(ダイヤフラムポンプ121の駆動回数に相当する回数)行なわれる。
【0053】
次に、泡循環動作の際の各流路内の圧力について説明する。
【0054】
ここで第一液室101からダイヤフラムポンプ121までの流路135の流路抵抗をHd(Pa・sec/m3)とする。ダイヤフラムポンプ121から第二液室110までの流路137の流路抵抗をHu(Pa・sec/m3)とする。第二液室110から第一液室101までの流路136の流路抵抗をHi(Pa・sec/m3)とする。そして、流路135,136,137のインクの平均流量をQ(m3/sec)とする。静的な状態における第二液室110内の所定の微負圧を−Pf(Pa)とし、第一液室101とダイヤフラムポンプ121との高低差をTd(m)とする。インクの密度をρ(kg/m3)とし、重力加速度をg(m/s2)とする。
【0055】
ダイヤフラムポンプ121は、入口側の圧力と出口側の圧力との合計で、(Hu+Hi+Hd)×Qの圧力を発生させている。
【0056】
泡循環動作におけるダイヤフラムポンプ121の流路137側への押し出し圧力は、(Hu+Hi+Hd)×Q/2(Pa)と表すことが可能である。そうすると、ダイヤフラムポンプ121の出口側(流路137側)の圧力Pdo(Pa)は、以下の式(1)で表される。
【0057】
do=(Hu+Hi+Hd)×Q/2−Pf−ρ×g×(Td−T2) …(1)
また、泡循環動作におけるダイヤフラムポンプ121の流路135からの吸い込み圧力は、−(Hu+Hi+Hd)×Q/2(Pa)と表すことが可能である。そうすると、ダイヤフラムポンプの入口側(流路135側)の圧力Pdi(Pa)は、以下の式(2)で表される。
【0058】
di=−(Hu+Hi+Hd)×Q/2−Pf−ρ×g×(Td−T2) …(2)
一方、ダイヤフラムポンプ121と第二液室110との間の圧力差Pd2(Pa)は、以下の式(3)で表される。
【0059】
d2=Hu×Q−ρ×g×(Td−T2) …(3)
また、第二液室110と第一液室101との間の圧力差P21(Pa)は、以下の式(4)で表される。
【0060】
21=Hi×Q−ρ×g×T2 …(4)
また、第一液室101とダイヤフラムポンプ121との間の圧力差P1d(Pa)は以下の式(5)で表される。
【0061】
1d=Hd×Q+ρ×g×Td …(5)
図4は、泡循環動作を行っていない静的状態および泡循環動作を行っている循環状態における循環路内の各位置を横軸とし、当該位置における圧力を縦軸として表したグラフである。実線は静的状態を示し、破線は循環状態を表している。一点鎖線は印字状態(インク吐出動作時の状態)を表すが、印字状態におけるインクの流れは第二液室110から第一液室101までなので、印字状態におけるダイヤフラムポンプ121の入口および出口の圧力は静的状態と同様である。
【0062】
静的状態とは、インクが流れていない状態、すなわち、泡循環動作もインク吐出動作も行っていない状態であり、静的状態では、各部分の圧力と、単位体積あたりのインクの重力と、大気圧と、が釣り合っている。図4において、ダイヤフラムポンプ121における圧力は黒丸で示し、第二液室110における圧力は黒四角で示し、第一液室101における圧力は黒三角で示している。
【0063】
前述したように、インクは、泡循環動作時に、ダイヤフラムポンプ121、第二液室110、第一液室101、ダイヤフラムポンプ121の順に流れる。図4のグラフに示すように、泡循環動作時において、圧力が最も高くなるダイヤフラムポンプ121の出口を最上流とすると、循環路の下流ほど圧力が低くなる。そして、循環路の最下流にあるダイヤフラムポンプ121の入口での圧力Pdiが最も低くなる。
【0064】
泡循環動作時の各位置の圧力について説明する。
【0065】
泡循環動作時の第二液室110内の圧力P2(Pa)は、以下の式で表される。
【0066】
2=Pdo−Pd2
この式に、式(1)および式(3)を代入すると、P2は式(6)で表される。
【0067】
2=(−Hu+Hi+Hd)×Q/2−Pf …(6)
また、泡循環動作時の第一液室101の圧力P1(Pa)は、以下の式で表される。
【0068】
1=Pdo−Pd2−P21
この式に、式(1)、式(3)および式(4)を代入すると、P1は式(7)で表される。
【0069】
1=(−Hu−Hi+Hd)×Q/2−Pf+ρ×g×T2 …(7)
式(7)における第2項と第3項の和[−Pf+ρ×g×T2]は、静的状態における第一液室101内の所定の微負圧に相当する。
【0070】
本実施形態では、以下の2つの条件を同時に満たすことにより、良好な泡循環動作を可能とする。
【0071】
第1の条件は、吐出口105からインクが漏れ出すことを防止するために、第一液室101内の圧力P1を常に負圧に保つことである。第1の条件を満たすためには以下の式(8)を満たす必要がある。
【0072】
1<0 …(8)
第2の条件は、大気圧が可撓部バネ112と供給制御弁バネ115に打ち勝って、供給口113が開放され、インクタンク200から第二液室110内にインクが流入しないようにすることである。第二液室110内にインクタンク200からインクが流入することは、泡循環動作において、第一液室101内の空気を第二液室内に送り出す際の妨げとなる。第2の条件を満たすためには以下の式(9)を満たす必要がある。
【0073】
2>−Pf …(9)
ここで、Qは正の値であり、かつ、[−Pf+ρ×g×T2]の値は負であることを考慮すると、式(10)が成り立てば、式(7)の右辺は正の値となり、式(8)が満たされる。
−Hu−Hi+Hd<0 …(10)
したがって、式(10)が満たされれば、第1の条件が満たされる。
【0074】
また、Qは正の値であり、かつ、−Pfの値は負であることを考慮すると、式(11)が成り立てば、式(6)の右辺は−Pfより小さくなり、式(9)が満たされる。
−Hu+Hi+Hd>0 …(11)
したがって、式(11)が満たされれば、第2の条件が満たされる。
【0075】
以上より、第1の条件と第2の条件とが同時に満たされるためには、式(10)と式(11)とが同時に成り立てばよい。そこで、式(10)と式(11)とをまとめると、式(12)が導かれる。
i>|Hu−Hd| …(12)
なお、式(12)の右辺は(Hu−Hd)の絶対値を表している。
【0076】
したがって、上述した第1の条件と第2の条件とを同時に満たすためには、式(12)が満たされていればよい。
【0077】
泡循環動作時にダイヤフラムポンプ121の出口や第二液室110が、正圧となるか、負圧となるかは、式(1)、式(6)、式(11)からわかるように、各流路抵抗Hの値と流量Qの値とによって決まる。
【0078】
たとえば、泡循環動作の時間を短くするために流量Qを大きくすると、ダイヤフラムポンプ121の出口の圧力Pdoは、式(1)より正圧となることがわかる。図4に示したグラフでは、圧力が0となる箇所(0点)は、ダイヤフラムポンプ121の出口と第二液室110の間(流路137中)にある。
【0079】
一方、第一液室101とダイヤフラムポンプ121の入口は、式(2)、式(7)、式(10)からわかるように、各流路抵抗や流量Qに関係なく負圧である。
【0080】
以下に、式(12)を成立させるための条件を例示する。
【0081】
一般的に、流路の長さをL(m)とし、流路の直径をd(m)とし、流体の粘度をμ(Pa・sec)とすると、流路内の圧力損失ΔP(Pa)は、ハーゲン・ポアズイユの法則から、円周率をπとして、式(13)に示すように表される。
【0082】
ΔP=Q×128×μ×L/(π×d4) …(13)
流路抵抗Hは、式(13)における流量Qの係数となるものであるため、式(14)に示すように表される。
【0083】
H=128×μ×L/(π×d4) …(14)
式(14)から、流路抵抗Hは、供給路の長さLに比例し、流路の径dの4乗に反比例することがわかる。
【0084】
本実施形態では、前述したとおり、流路135の流路抵抗がHdであり、流路136の流路抵抗がHiであり、流路137の流路抵抗がHuである。流路抵抗Hdは、排出流路103(排出フィルターを含む)の流路抵抗を含むものとなり、流路抵抗Hiはインク流路102(供給フィルターを含む)の流路抵抗を含むものとなる。
【0085】
フィルターの抵抗は、式(14)と同一の形式ではないが、フィルターの圧力損失は、式(13)と同様に流量Qと粘度μに比例する。そのため、フィルターについては、流路の長さに相当する形式的なみかけ長さL、流路の直径に相当する形式的なみかけ直径dを、それぞれ換算して、式(14)に代入することにより流路抵抗Hを求めることができる。
【0086】
また、流路抵抗Hを調整するための方法には、流路内にフィルターを設ける方法や、流路内に小孔を有するオリフィス部材を設ける方法がある。
【0087】
以下に、本実施形態の具体例を示す。
【0088】
流路135,136,137の長さを、それぞれL135、L136、L137と示し、流路135,136,137の直径dをそれぞれd135、d136、d137と示すこととする。排出流路103のみかけ長さをL103と示し、みかけ直径をd103と示すこととする。インク流路102のみかけ長さをL102と示し、みかけ直径をd102と示すこととする。各値は以下のとおりとした。
【0089】
135=0.35m
136=0.2m
137=0.05m
103=0.0001m
102=0.0001m
135=0.001m
136=0.002m
137=0.0005m
103=0.00012m
102=0.00025m
インクの粘度はμ=0.003Pa・secとした。
【0090】
式(14)に各値を代入すると、式(14)より、Hi,Hu,Hdは以下の値となる。
【0091】
i=128×0.003×0.2/(π×0.0024)+128×0.003×0.0001/(π×0.000254)=4.7×109
u=128×0.003×0.05/(π×0.00054)=98×109
d=128×0.003×0.35/(π×0.0014)+128×0.003×0.0001/(π×0.000124)=102×109
ここで、式(12)の右辺に各値を代入すると以下の値になる。
【0092】
|Hu−Hd|=|98×109−102×109|=4.0×109
上記のとおり、Hi=4.7×109であるので、式(12)が満たされている。このように、各値を適宜設定することにより、式(12)を成立させることが可能である。
【0093】
図5(a)はダイヤフラムポンプ121が第二液室110より低い位置にある場合のインク供給系の概略構成図である。図5(b)は、図5(a)に示したインク供給系において、泡循環動作を行っていない静的状態および泡循環動作を行っている循環状態における循環路内の各位置を横軸とし、当該位置における圧力を縦軸として表したグラフである。実線は静的状態を示し、破線は循環状態を表している。一点鎖線は印字状態を表すが、印字状態におけるインクの流れは第二液室110から第一液室101までなので、印字状態におけるダイヤフラムポンプ121の圧力は静的状態と同様である。
【0094】
図2では、第一液室101、第二液室110、ダイヤフラムポンプ121の順に高くなるように配置され、図5(a)では、第一液室101、ダイヤフラムポンプ121、第二液室110の順に高くなるように配置されている。これらの場合、静的状態では、泡循環動作における循環路全域が負圧となる。図5(b)に示したグラフでも、図4に示したグラフと同様に、圧力が0となる箇所(0点)は、ダイヤフラムポンプ121の出口と第二液室110の間にある。
【0095】
一方、図6(a)では、ダイヤフラムポンプ121、第一液室101、第二液室110の順に高くなるように配置されている。この場合には、ダイヤフラムポンプ121付近が正圧となる。しかし、第一液室101および第二液室110を含め、第二液室110から第一液室101に至るまでの範囲は負圧である。図6(b)に示したグラフでは、図4および図5(b)に示したグラフと異なり、圧力が0となる箇所(0点)は、第二液室110と第一液室101の間にある。
【0096】
式(12)は、流路抵抗Hの大小関係のみによるものであり、その他のパラメータに依存するものではない。したがって、図2、図5(a)、図6(a)のいずれの場合においても、流路抵抗Hのみを考慮すればよい。
【0097】
したがって、式(12)を満たすように流路抵抗を設定すれば、泡循環動作時において、吐出口105からインクが漏れ出すことと、インクタンク200から第二液室110にインクが流入することと、を防止できる。そのため、上述したようなインクの循環機構によれば、第一液室101内の空気抜き(泡抜き)を良好に行うことができる。これにより、第一液室101の泡抜き不良に起因する印字不良を防止できる。
【0098】
第一液室101の圧力P1は、式(8)のとおり、負圧であることが必要条件であるが、吐出口105内でインクのメニスカスを保持できる圧力−Ph(図4参照)より低くなると、吐出口105内のインクが第一液室101内に吸い込まれてしまう場合がある。この場合、吐出口105内の全てのインクが第一液室101内に吸い込まれると、吐出口105内は空気で満たされる。そのため、吐出口105内の空気が第一液室101内に入り込む可能性がある。この場合、泡循環動作を行っても第一液室101内に空気が吸い込まれ続けるため、第一液室101内の空気を除去することができない。
【0099】
この事態を防止するためには、−Ph<P1が成立している必要があり、すなわち以下の式(15)を満たしている必要がある。
【0100】
−Ph<P1<0 …(15)
式(15)のP1に式(7)を代入すると以下のようになる。
【0101】
−Ph<(−Hu−Hi+Hd)×Q/2−Pf+ρ×g×T2<0
式(11)を考慮すると、流量Qは以下の式(16)で表すことができる。
【0102】
Q<2×(−Ph+Pf−ρ×g×T2)/(−Hu−Hi+Hd) …(16)
となる。したがって、流量Qは式(16)を満足することが望ましい。
【0103】
また、インク吐出動作中の記録ヘッド100の第一液室101へのインクの供給を考慮すると、流路136の流路抵抗Hiは小さいことが望ましい。これは、流路136の流路抵抗Hiが大きいと、インク吐出動作にて第一液室101内のインクを消費した後の第一液室101へのインクの供給が遅れるからである。また、これに伴い、第一液室101の負圧が増し、吐出口105でのインクのメニスカスが破壊されることもありうる。
【0104】
次に、流路136の流路抵抗Hiの上限について説明する。記録ヘッド100において吐出口105から良好に吐出可能な第一液室101内の圧力−Pt(Pa)は、様々な条件により変化する。本実施形態では、第一液室101内の圧力−Pt(Pa)はおおむね−300(Pa)(≒−300mmAq)程度であった。第一液室101内の圧力−Pt(Pa)を決定する為の条件は、たとえば、吐出口105の大きさや数などの物理的条件や、インクの粘度や表面張力や密度などの流体の物性的条件や、周辺雰囲気の温度などの環境的条件である。
【0105】
インク吐出動作中における第一液室101内の圧力は、−Ptよりも大きくしなければならず、その圧力をP2t(Pa)とすると、P2t(Pa)は以下の式(17)のように表すことができる。
【0106】
2t=−Hi×Qi−Ps …(17)
ここで、Qi(m3/s)はインク吐出動作中に第二液室110から第一液室101に流れるインクの流量示している。−Ps(Pa)は、静的状態における第一液室101内の圧力である。圧力−Ps(Pa)は以下の式(18)のように表すことができる。
【0107】
−Ps=−Pf+ρ×g×T2 …(18)
インク吐出動作中に、記録ヘッド100によって正常にインクを吐出するための条件は、以下の式(19)で表される。
【0108】
−Pt<P2t<0 …(19)
式(19)に式(17)を代入すると以下の式が導かれる。
【0109】
−Pt<−Hi×Qi−Ps
ここで、Qiは正であるから、以下の式(20)が成立する。
【0110】
i<(Pt−Ps)/Qi …(20)
である。式(20)に式(18)を代入すると、式(21)が成立する。
【0111】
i<(Pt−Pf+ρ×g×T2)/Qi …(21)
つまり、Hiの上限は、吐出動作時の第一液室101内の圧力Ptと、静的状態での第一液室内の圧力−Pfと、印字状態での流量Qiにより決まる。
【0112】
式(21)を満足するよう流路抵抗Hiを設定するには、式(12)を満足させる場合と同様に、流路136の直径および長さを適宜決定することで実現できる。
【0113】
その一例を挙げると、微負圧−Pf=−830(Pa)(−80(mmAq)に相当する。)、第二液室の第一液室に対する高さT2=0.03(m)、−Pt=−3000(Pa)、ρ=1060(kg/m3)、Qi=8×10-8(m3/sec)とする。これらの値を式(21)に代入すると、式(22)が導かれる。
【0114】
Hi<31×109 …(22)
式(22)を満たすように、式(14)の流路136の長さLおよび直径dの値を設定すればよい。
【0115】
上述したL136、d136、L102、d102の値を式(12)に代入すると、Hi=4.7×109となり、式(22)を満たしている。
【0116】
次に、泡循環動作の終了後の動作について説明する。
【0117】
図7に示す状態で、不図示の駆動手段により開閉弁312を閉塞した状態で開閉弁322を開き、さらに、加圧ポンプ210によりインクタンク200内を加圧状態にし、押圧弁117を開く。そして、不図示の駆動手段により空気抜き流路181が負圧になるように吸引装置330を駆動させる。そうすると、第二液室110内の空気が図8の矢印B方向へ流れ、第二液室110内は負圧になる。第二液室110内が負圧になると、第二液室110内も負圧になり、上述したように、供給制御弁160が開き、流体導管250を通って、インクタンク200内のインクが第二液室110に流れ込む。
【0118】
この時、第二液室110内が負圧になるため、流路136により接続される第一液室101も負圧になり、吐出口105から空気が入り込んでしまう恐れがある。これを防止するため、供給制御弁160が開く圧力は、吐出口105内のインクのメニスカスを破壊し空気を取り入れてしまう圧力より低くならないように設定する。
【0119】
吐出口105内のインクのメニスカスを破壊力は、吐出口105の径、ノズル数、インクの物性(表面張力や粘度など)などにより異なる。記録ヘッド100では、第一液室101内の圧力を約−6kPa以上に設定し、供給制御弁160の開く第二液室110内の圧力を約−830Pa(≒−80mmAq)に設定することで、吐出口105内のインクのメニスカスの破壊を防止できた。この供給制御弁160の開く圧力の値は、可撓部バネ112と供給制御弁バネ115による弾性力により調整可能である。
【0120】
上述の方法により、吐出口105内のインクのメニスカスを保たれつつ、インクが第二液室110に入り、第二液室110内における液面が上昇する。この液面の上昇に伴ってインクに浮遊しているフロート140も上昇し、第二液室110がインクで満たされると、図9に示すように、フロート弁150がフロート140により閉じられる。
【0121】
フロート弁150が閉じられると、第二液室110が空気抜き流路181からフロート140によって隔てられ、吸引装置330の吸引力により、第二液室110内の圧力が減少することがなくなる。したがって、インクがインクタンク200から流体導管250を介して第二液室110に供給されることもなくなる。
【0122】
この状態で、吸引装置330の駆動を止め、不図示の駆動手段により押圧弁117を閉塞する。このとき、空気抜き流路181は負圧状態であるため、開閉弁322および開閉弁312を開放し、空気抜き流路181を大気圧に戻す。
【0123】
以上説明したように、本実施形態に係る記録装置100では、ダイヤフラムポンプ121を駆動力とする泡循環動作を行うことにより第一液室101内に混入した空気を除去可能である。具体的には、第一液室101に混入した空気を第二液室110内に溜め、第二液室110内に溜めた空気を除去するとともに、第二液室110内にインクを供給する。
【0124】
このとき、上述したように、流路135の流路抵抗Hdと、流路137の流路抵抗Huと、流路136の流路抵抗Hiと、を所定の関係を満たすように設定することにより良好に第一液室101内の空気抜き動作を行うことができる。つまり本実施形態では、吐出口105からインクを漏れ出させることなく、かつ、インクタンク200から第二液室110インクを流入させることなく空気抜き動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0125】
100 記録ヘッド
101 第一液室
105 吐出口
110 第二液室
111 可撓性部材
112 可撓部バネ
121 ダイヤフラムポンプ
135 流路
136 流路
137 流路
140 フロート
150 フロート弁
160 供給制御弁
200 インクタンク
250 流体導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口からインクを吐出する記録ヘッドの内部の上側に設けられた第一液室と、該第一液室に供給するインクを収容する第二液室と、該第二液室から前記第一液室にインクを供給する駆動力を付与するポンプと、前記第一液室と前記ポンプとを連通させる第一流路と、前記ポンプと前記第二液室とを連通させる第二流路と、前記第二液室と前記第一液室とを連通させる第三流路と、を有し、前記ポンプの駆動力により、前記第一液室、前記第一流路、前記ポンプ、前記第二流路、前記第二液室、前記第三流路、前記第一液室という順番にインクを循環させる循環動作を行う機構を備えたインク供給系において、
前記第一流路の流路抵抗をHdとし、前記第二流路の流路抵抗をHuとし第一流路と、前記第三流路の流路抵抗をHiとすると、
i>|Hu―Hd
の関係を満たすことを特徴とするインク供給系。
【請求項2】
前記第二液室は、前記第一液室内を大気圧より低い圧力にするための負圧発生機構を備えている、請求項1に記載のインク供給系。
【請求項3】
前記ポンプはダイヤフラムポンプである、請求項1または2に記載のインク供給系。
【請求項4】
前記記録ヘッドからインクを吐出するインク吐出動作中の前記第一液室の圧力をPtとし、前記インク吐出動作も前記循環動作も行っていない静的状態のときの前記第一液室の圧力をPsとし、前記インク吐出動作中に前記第二液室から前記第一液室に流れるインクの流量をQiとすると、
i<(Pt―Ps)/Qi
の関係を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載のインク供給系。
【請求項5】
記録ヘッドの吐出口から記録媒体にインクを吐出することによって該記録媒体に記録を行う記録装置において、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインク供給系を有することを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−218358(P2012−218358A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88201(P2011−88201)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】