説明

インク組成物、インクカートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物

【課題】 本発明の目的は、フタロシアニン系シアン染料を用いたインク組成物により作成される画像の室内保存性(耐ガス性)を、添加剤析出及びブロンズ現象を起こすことなく向上させることのできるインク組成物を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、特許請求の範囲に記載の一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩とを含み、前記フタロシアニン系シアン染料が、特許請求の範囲に記載の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であるインク組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作成される画像の室内保存性(耐ガス性)を向上させることのできるインク組成物、詳細には、画像の変退色を効果的に防止することのできるフタロシアニン系シアン染料含有インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、優れたシアン色等の画像を発色させるためのインク組成物として、フタロシアニン系シアン染料を用いたインク組成物が広く利用されている。また、昨今、このような画像を発色させるインク組成物を、他の色を発色させるための一又は二以上のインク組成物とともに用いて画像を形成し、得られた複数色からなる画像(カラー画像)を室内等において掲示することが普及している。
【0003】
しかし、このフタロシアニン系シアン染料を用いたインク組成物では、フタロシアニン系シアン染料が空気中に存在するオゾン、窒素酸化物や硫黄酸化物のような酸化性ガスに対する耐性、特に耐オゾン性に劣ることから、他色のインク組成物とともに複数色の画像を形成し、該画像を室内に掲示すると、該シアン染料から形成される画像が早期に変退色を起こすという問題があった。
【0004】
このようなフタロシアニンの変退色を防止するために、種々のインク組成物が開発されている。例えば、WO99/50363号公報には、銅フタロシアニン系シアン染料と、イミダゾール誘導体と、酸化防止剤、糖、4位に水酸基又はアミノ基を有するナフタレン−1−スルホン酸の何れかを含んでなるシアンインク組成物が、耐光性を向上させる手段として開示されている(特許文献1)。しかし、このインク組成物では、オゾンガスの耐性については評価されておらず、また、使用成分の分子内に水酸基、アミノ基があり、これに起因して、窒素酸化物(NOxガス)により画像が緑変又は黒変現象を起こすという問題がある。
【0005】
この課題に対し、本発明者らは鋭意研究を行った結果、フタロシアニン系シアン染料を用いたインク組成物に対し特定の芳香族スルホン酸又は/及びその塩を添加する事により、窒素酸化物による変褪色を起こすことなく、効果的に記録画像の耐オゾン性を向上できる事を見出した(特願2004−31869号)。しかしながら、更に研究を進めたところ、当該添加剤を用いたインク組成物において、時に、記録画像を長期間に渡って室温保管している間に、画像の表面にインク中の当該添加剤が析出してしまう場合があることがわかった。これは、例えば、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸2Na塩等、当該芳香族化合物のナトリウム塩やカリウム塩を用いた場合に見られた。インク中に含まれる該芳香族スルホン酸塩が少ない場合には添加剤が析出する現象は見られないが、添加剤量が低減するに従い、耐オゾン性も低下してしまうという課題があった。
【0006】
さらに、高温高湿環境下で印字を行なった場合に、ブロンズ現象が発生する場合も見られた。この場合も、インク中に含まれる該芳香族スルホン酸塩が少ない場合にはブロンズ現象は見られないが、添加剤量低減に従い、耐オゾン性が低下してしまうという課題があった。
【特許文献1】WO99/50363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、フタロシアニン系シアン染料を用いたインク組成物により作成される画像の室内保存性(耐ガス性)を、添加剤析出及びブロンズ現象を起こすことなく向上させることのできるインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究した結果、特定のフタロシアニン系シアン染料とともに、特定成分を含有させたインク組成物が、前記目的を達成し得ることの知見を得た。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、次の発明を提供するものである。
少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩とを含んでなり、前記フタロシアニン系シアン染料が、下記の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であることを特徴とするインク組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

(式中X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−Z及び−SO2−Zのいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基またはイオン性親水性基を表し、各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
1〜a4およびb1〜b4は、それぞれX1〜X4およびY1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属元素またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
但し、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。)
【0013】
また、本発明は、次の発明を提供するものである。
少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、下記の一般式(5)及び/又は(6)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩とを含んでなり、前記フタロシアニン系シアン染料が、下記の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であることを特徴とするインク組成物。
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

(式中X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−Z及び−SO2−Zのいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基またはイオン性親水性基を表し、各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
1〜a4およびb1〜b4は、それぞれX1〜X4およびY1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属元素またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
但し、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。)
【発明の効果】
【0017】
本発明のインク組成物は、添加剤析出及びブロンズ現象を起こすことなく、得られる画像の室内保存性(耐ガス性)を向上させることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のインク組成物について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態のインク組成物は、少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩とを含んでなり、前記フタロシアニン系シアン染料が、下記の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であることを特徴とする。
【化7】

【化8】

【化9】

(式中X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−Z及び−SO2−Zのいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基またはイオン性親水性基を表し、各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
1〜a4およびb1〜b4は、それぞれX1〜X4およびY1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属元素またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
但し、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。)
【0019】
第1実施形態のインク組成物は、かかる構成からなるものであり、これにより、添加剤の析出やブロンズ発生等の不具合を起こすことなく、効果的にシアン画像の早期褪色を防止する事が出来る。延いてはこれにより、作成される画像品質を長期に渡って良好な状態に保つ事が可能となる。
【0020】
第1実施形態のインク組成物は、水又は、水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、少なくとも、前記の式(3)で表わされるフタロシアニン系シアン染料と、前記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を含有し、必要に応じ、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤やその他の添加剤を含んでなることができる。
【0021】
本実施形態のインク組成物で使用されるシアン染料、即ち、前記式(3)で示されるフタロシアニン系シアン染料について詳細に説明する。
【0022】
前記一般式(3)において、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立に、−SO−Zまたは−SO2−Zを表し、特に−SO2−Zが好ましい。
【0023】
Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、特に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、さらに置換アルキル基、置換アリール基が好ましく、置換アルキル基が最も好ましい。
【0024】
Zが表す置換または無置換のアルキル基は、炭素原子数が1〜30のアルキル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0025】
Zが表す置換または無置換のシクロアルキル基は、炭素原子数が5〜30のシクロアルキル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0026】
Zが表す置換または無置換のアルケニル基は、炭素原子数が2〜30のアルケニル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0027】
Zが表す置換または無置換のアラルキル基は、炭素原子数が7〜30のアラルキル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0028】
Zが表す置換または無置換のアリール基は、炭素原子数が6〜30のアリール基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0029】
Zが表すヘテロ環基としては、5員または6員環のものが好ましく、それらは更に縮環していてもよい。また、芳香族ヘテロ環であっても非芳香族ヘテロ環であっても良い。以下にZで表されるヘテロ環基を、置換位置を省略してヘテロ環の形で例示するが、置換位置は限定されるものではなく、例えばピリジンであれば、2位、3位、4位で置換することが可能である。ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾール、イソオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリンなどが挙げられる。中では芳香族ヘテロ環基が好ましく、その好ましい例を先と同様に例示すると、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾールが挙げられる。
これらは置換基を有していても良く、置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0030】
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基、カルボキシル基、またはスルホ基を表し、各々はさらに置換基を有していてもよい。
中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基およびスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0031】
1、Y2、Y3、Y4及びZがさらに置換基を有することが可能な基であるときは、以下に挙げたような置換基をさらに有してもよい。
【0032】
ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子);炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基、側鎖を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、側鎖を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルケニル基(上記基の具体的例として、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t−ブチル、2−メチルスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル):アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル);ヘテロ環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル);アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メチルスルホニルエトキシ);アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルボニルフェノキシ、3−メトキシカルボニルフェノキシ);アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド);アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ);アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ);ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド);スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ);アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ);アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ);アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ);スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド);カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル);スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル);スルホニル基(例えば、メチルスルホニル、オクチルスルホニル、フェニルスルホニル、4−メチルフェニルスルホニル);アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル);ヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ);アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ);アシルオキシ基(例えば、アセトキシ);カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ);シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ);アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ);イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド);ヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ);スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル);ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル);アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル);アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル);イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、4級アンモニウム基、スルホニルスルファモイル基およびアシルスルファモイル基);その他シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。これらの置換基の中でも、ヒドロキシ基、アルコキシ基、スルファモイル基、スルホンアミド基、アシルアミノ基、カルバモイル基、シアノ基およびイオン性親水性基が好ましく、中でもヒドロキシ基、スルファモイル基、イオン性親水性基が特に好ましい。
【0033】
一般式(3)においてa1〜a4、b1〜b4は、それぞれX1〜X4、Y1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数である。ここで、a1〜a4およびb1〜b4が2以上の整数であるとき、複数のX1〜X4およびY1〜Y4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0034】
1およびb1は、a1+b1=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a1が1または2を表し、b1が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa1が1を表し、b1が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0035】
2およびb2は、a2+b2=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a2が1または2を表し、b2が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa2が1を表し、b2が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0036】
3およびb3は、a3+b3=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a3が1または2を表し、b3が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa3が1を表し、b3が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0037】
4およびb4は、a4+b4=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a4が1または2を表し、b4が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa4が1を表し、b4が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0038】
Mは、水素原子、金属元素、金属酸化物、金属水酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。
【0039】
Mとしては、水素原子の他に、金属元素として、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。酸化物としては、VO、GeO等が挙げられる。 また、水酸化物としては、Si(OH)2、Cr(OH)2、Sn(OH)2等が挙げられる。さらに、ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl2、VCl、VCl2、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。なかでも、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0040】
また、一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物は、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L−M−Pc)または3量体を形成してもよく、そのとき複数個存在するMは、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。
【0041】
Lで表される2価の連結基は、オキシ基−O−、チオ基−S−、カルボニル基−CO−、スルホニル基−SO2−、イミノ基−NH−、メチレン基−CH2−、及びこれらを組み合わせて形成される基が好ましい。
【0042】
上記一般式(3)において、フタロシアニン化合物の分子量は750〜3000の範囲が好ましく、さらに995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0043】
一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物が、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L−M−Pc)または3量体を形成する場合において、好ましい分子量、例えば特に好ましい分子量は、上記記載の特に好ましい分子量(995〜1800の範囲)の2倍(2量体の場合)、または3倍(3量体の場合)である。ここで、上記2または3量体の好ましい分子量は、連結基Lを含んだ値である。
【0044】
一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物は、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4の少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。
【0045】
置換基としてのイオン性親水性基には、スルホ基(−SO3-+)、カルボキシル基(−CO2-+)、および4級アンモニウム基(−N+RR’R”X-)、アシルスルファモイル基(−SO2+-COR)、スルホニルカルバモイル基(−CON+-SO2R)、スルホニルスルファモイル基(−SO2+-SO2R)等が含まれる。好ましくは、スルホ基、カルボキシル基および4級アンモニウム基であり、特にスルホ基が好ましい。スルホ基、カルボキシル基、アシルスルファモイル基、スルホニルカルバモイル基およびスルホニルスルファモイル基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アルカリ金属イオン(例、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン)、アンモニウムイオン、有機カチオン(例、テトラメチルグアニジニウムイオン)、有機及び/又は無機アニオン(例、ハロゲンイオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン)が含まれる。なお、上記カッコ内のXは、水素原子または対イオン、R、R’、R”は置換基を表す。特にイオン性親水性基がスルホ基である場合には、これらXにおいて、印刷画像のブロンズ現象の抑制の点で、リチウムイオンが最も好ましい。
【0046】
一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物は、一分子中にイオン性親水性基またはイオン性親水性基を置換基として有する基が少なくとも1つ存在しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好となる。このような観点から、一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物としては、一分子中にイオン性親水性基を少なくとも2個有するものが好ましく、複数個のイオン性親水性基の少なくとも1個がスルホ基であるものがより好ましく、その中でも一分子中にスルホ基を少なくとも2個有するものが最も好ましい。
【0047】
上記一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい化合物は、下記(イ)〜(へ)の組み合わせを有する化合物である。
【0048】
(イ)X1〜X4に関しては、これらが、それぞれ独立に、−SO2−Zが好ましい。
(ロ)Zに関しては、これらが、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基であり、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、置換アルキル基が最も好ましい。
(ハ)Y1〜Y4に関しては、これらが、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
(ニ)a1〜a4はそれぞれ独立に1または2であることが好ましく、特に1であることが好ましい。b1〜b4はそれぞれ独立に、3または2であることが好ましく、特に3であることが好ましい。
(ホ)Mは、Cu、Ni、Zn、またはAlであることが好ましく、なかでもCuであることが最も好ましい。
(ヘ)フタロシアニン化合物の分子量は、750〜3000の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0049】
前記一般式(3)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0050】
一般式(3)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(7)で表される構造のフタロシアニン化合物がさらに好ましい。以下に、本実施形態で好適に用いられる一般式(7)で表されるフタロシアニン化合物について詳しく述べる。
【0051】
【化10】

【0052】
前記一般式(7)において、X21、X22、X23およびX24は、それぞれ独立に、−SO−Zおよび−SO2−Zのいずれかを表し、特に−SO2−Zが好ましい。
Zに関しては、一般式(3)の中のZと同義であり、好ましい例も同じである。
【0053】
21〜Y28に関しては、それぞれ独立に一般式(3)の中のY1、Y2、Y3、Y4とそれぞれ同義であり、好ましい例も同じである。
21〜a24は、4≦a21+a22+a23+a24≦8、好ましくは4≦a21+a22+a23+a24≦6を満たし、かつそれぞれ独立に1または2の整数を表す。特に好ましくはa21=a22=a23=a24=1の場合である。
【0054】
Mは前記一般式(3)におけるMと同義である。
21、X22、X23、X24、Y21、Y22、Y23、Y24、Y25、Y26、Y27およびY28の少なくとも1つは、イオン性親水性基またはイオン性親水性基を置換基として有する基である。
イオン性親水性基の例は、一般式(3)におけるX1、X2、X3、X4の例と同義であり、好ましい例も同じである。
【0055】
一般式(7)で表されるフタロシアニン化合物は、イオン性親水性基またはイオン性親水性基を置換基として有する基が一分子中に少なくとも1つ存在しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好となる。このような観点から、一般式(7)で表されるフタロシアニン化合物は、一分子中にイオン性親水性基を少なくとも2個有するものが好ましく、複数個のイオン性親水性基の少なくとも1個がスルホ基であるものがより好ましく、その中でも一分子中にスルホ基を少なくとも2個有するものが最も好ましい。
【0056】
上記一般式(7)において、フタロシアニン化合物の分子量は750〜3000の範囲が好ましく、さらに995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
但し、本実施形態における一般式(7)で表されるフタロシアニン化合物が、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L−M−Pc)または3量体を形成する場合において、好ましい分子量、例えば特に好ましい分子量は、上記記載の特に好ましい分子量(995〜1800の範囲)の2倍(2量体の場合)、または3倍(3量体の場合)である。ここで、上記2または3量体の好ましい分子量は、連結基Lを含んだ値である。
【0057】
上記一般式(7)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい化合物は、下記(イ)〜(へ)の組み合わせを有する化合物である。
【0058】
(イ)X21〜X24に関しては、それぞれ独立に、−SO2−Zが好ましい。
(ロ)Zに関しては、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、置換アルキル基が最も好ましい。
(ハ)Y21〜Y28に関しては、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
(ニ)a11〜a14は、それぞれ独立に、1または2であることが好ましく、特にa11=a12=a13=a14=1であることが好ましい。
(ホ)Mは、Cu、Ni、Zn、またはAlであることが好ましく、なかでもCuであることが最も好ましい。
(ヘ)フタロシアニン化合物の分子量は、750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0059】
前記一般式(7)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0060】
一般式(7)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(8)で表される構造のフタロシアニン化合物がさらに好ましい。以下に、本発明で好適に用いられる一般式(8)で表されるフタロシアニン化合物について詳しく述べる。
【0061】
【化11】

【0062】
一般式(8)のZ1、Z2、Z3、Z4に関しては、それぞれ独立に一般式(3)中のZと同義であり、好ましい例も同じである。
【0063】
1、q2、q3、q4は、それぞれ独立に、1または2の整数を表し、特に2であることが好ましく、その中でもq1=q2=q3=q4=2であることが最も好ましい。
31、a32、a33、a34は、それぞれ独立に、1または2の整数を表し、特に1であることが好ましく、その中でもa31=a32=a33=a34=1であることが最も好ましい。
【0064】
Mは、前記一般式(3)におけるMと同義である。
1、Z2、Z3およびZ4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。
イオン性親水性基の例は、前記一般式(3)におけるZの例と同義であり、好ましい例も同じである。
フタロシアニン化合物の分子量は、750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0065】
本発明で用いる一般式(3)で表される化合物の中では、下記一般式(4)で表される化合物が特に好ましい。
【0066】
【化12】

【0067】
式中、Mは一般式(3)におけると同義であり、R1〜R4はそれぞれ独立に−SO2Zを表す。Zは一般式(3)におけるZと同義であり、好ましい例も同じである。但し、4つのZのうち少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。
【0068】
上記化合物のうち、一般式(4)におけるMが銅元素であり、イオン性親水性基を置換基として有するZがスルホアルキル基である化合物がより好ましく、さらにはスルホ基が塩の状態であり、塩を形成する対カチオンがリチウムカチオンである化合物が好ましい。
【0069】
本実施形態で好適に用いることのできる下記一般式(9)で表されるフタロシアニン化合物は、例えば下記一般式(10)で表されるフタロニトリル化合物及び/又は下記一般式(11)で表されるジイミノイソインドリン誘導体とM−(Y)dで表される金属誘導体を反応させることにより合成される。なお、式中、Z及びZ1〜Z4は一般式(3)におけるZと同義であり、Mは一般式(3)におけるMと同義である。Yはハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を示し、dは1〜4の整数である。M−(Y)dで示される金属誘導体としては、Al、Si、Ti、V、Mn,Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Pt、Pbのハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。具体例としては塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アルミニウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、塩化マンガン、塩化鉛、酢酸鉛、塩化インジウム、塩化チタン、塩化スズ等が挙げられる。
【0070】
【化13】

【0071】
このようにして得られる前記一般式(9)で表される化合物は通常、R1(SO2−Z1)、R2(SO2−Z2)、R3(SO2−Z3)、R4(SO2−Z4)の各置換位置における異性体である下記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物の混合物となっている。
さらに、置換基の異なる2種類以上の一般式(10)及び/又は一般式(11)を用いて染料を調製する場合には、一般式(9)で表される化合物は、置換基の種類、位置が異なる染料混合物となっている。
【0072】
【化14】

【0073】
本実施形態に用いるシアン染料の例としては、特開2002−249677号、同2003−213167号、同2003−213168号公報のほか、特開2004−2670号公報に記載の該当する構造の化合物を挙げることができるが、特に好ましいものは下記表に挙げるものである。表1、表2に記載の化合物については、上記公報に記載の方法で合成できる。もちろん、出発化合物、色素中間体および合成方法について、これらに限定されるものではない。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
染料の含有量は、一般式(3)で表される化合物の種類、溶媒成分の種類等により決められるが、インク組成物全重量に対し、好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。0.1重量%以上とすることで、記録媒体上での発色性又は画像濃度を確保でき、10重量%以下とすることで、インク組成物の粘度調整が容易となり吐出信頼性や目詰まり性等の特性が容易に確保できる。
【0077】
本実施形態のインク組成物においては、上記のフタロシアニン系シアン染料を含有したインク組成物を用いて印刷した場合に見られる変退色(フタロシアニン系シアン染料が耐ガス性、特に耐オゾン性に劣ることに起因する現象)を抑制するために、特定のスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を少なくとも1種含有する。
【0078】
本実施形態は、かかる特定のスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を、前述したフタロシアニン系シアン染料と組み合わせて使用することにより、添加剤の析出及びブロンズ発生といった不具合を起こすことなく、オゾンガスに由来する画像の変褪色を抑止し、画像の耐褪色性を飛躍的に向上させたものである。
【0079】
本実施形態のインク組成物においては、フタロシアニン系シアン染料を含有したインク組成物を用いて印刷した場合に見られる変褪色(フタロシアニン系シアン染料が耐ガス性、特に耐オゾン性に劣ることに起因すると考えられる現象)を、添加剤析出及びブロンズ発生を起こすことなく軽減し、もしくは無くするために、前記一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を少なくとも1種含有する。
【0080】
本実施形態のインク組成物は、作用の詳細は不明であるが、1つ以上のスルホ基を有する芳香族スルホン酸化合物において、前記一般式(1)及び/又は(2)で表される様に当該化合物のリチウム塩を選択的に用いることにより、当該芳香族化合物の水溶性を向上させることができ、その結果として、当該芳香族化合物の記録媒体表面への析出及び印字物のブロンズを防止・抑止する効果が発現するのではないかと考える。これにより不具合無く印刷物の耐ガス性、とりわけ耐オゾン性を向上させる事が可能となる。
【0081】
本実施形態は、かかる一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を、前記のフタロシアニン系シアン染料と組み合わせて使用することにより、NOxガスに由来する緑変・黒変を起こすことなく、更には添加剤の析出やブロンズ現象を起こすことなく、オゾンガスに由来する画像の変褪色を抑止し、画像の耐褪色性を飛躍的に向上させたものである。
【0082】
また、本実施形態においては、水と前記フタロシアニン系シアン染料と前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を少なくとも1種含有するインク組成物であれば、シアンインク組成物は勿論のこと、例えば、ブラックインク組成物等のシアンとは異なる色のインク組成物であっても、ベタ印刷した場合に見られる変退色を効果的に防止することができる。これら各種のインク組成物を作製するためには、従来公知の他の染料と併用することができる。
【0083】
一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩としては、分子構造中にスルホ基を少なくとも1つ有する芳香族化合物のリチウム塩であればいかなるものでも良いが、スルホ基を2つ以上有するもの、特に、1,3−ベンゼンジスルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、ナフタレン−1,6−ジスルホン酸、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸、ナフタレン−2,7−ジスルホン酸及びナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸それぞれのリチウム塩からなる群より選択される少なくとも1種が、得られる画像の耐オゾン性、添加剤析出抑制及びブロンズ抑制の改善の点で好ましい。
【0084】
前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩は、当該塩の形で添加され、インク組成物中に含有されることも可能であり、また、該スルホ基を有する芳香族化合物とリチウム塩の形成に供し得る塩基とが別々に添加され、インク組成物中に含有されることも可能である。
【0085】
前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩の含有量は、該スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩の種類、染料の種類、溶媒成分の種類等により適宜決定されるが、インク組成物全重量に対し、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。
【0086】
本実施形態のインク組成物においては、フタロシアニン系シアン染料と、前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩との含有比率(前者:後者)は、効果的に耐ガス性を向上し且つインクの信頼性を確保する点で、1:0.1〜1:10、特に、1:0.2〜1:5の範囲内にあることが好ましい。
【0087】
フタロシアニン系シアン染料およびスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩の量を安定して溶解させるためには、インク組成物のpH(20℃)は8.0以上であることが好ましい。また、インク組成物が接する各種部材との耐材料性を考慮すると、インク組成物のpHは10.5以下であることが好ましい。これらの事項をよりよく両立させるためには、インク組成物のpHを8.0〜10.5、特に8. 5〜10.0に調整することがより好ましい。
【0088】
本実施形態のインク組成物は、さらに蒸気圧が純水よりも小さい水溶性有機溶剤及び/又は糖類から選ばれる保湿剤を含むことができる。
保湿剤を含むことにより、インクジェット記録方式において、水分の蒸発を抑制してインクを保湿することができる。また、水溶性有機溶剤であれば、吐出安定性を向上させたり、インク特性を変化させることなく粘度を容易に変更することができる。
【0089】
水溶性有機溶剤は、溶質を溶解する能力を持つ媒体を指しており、有機性で蒸気圧が水より小さい水溶性の溶媒から選ばれる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトニルアセトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、リン酸トリエチル等のエステル類、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、チオジグリコール等が望ましい。
また、糖類としては、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等が好ましい。
【0090】
保湿剤は、インク組成物全量に対して、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%の範囲で添加される。5重量%以上であれば、保湿性が得られ、また、50重量%以下であれば、インクジェット記録に用いられる粘度に調整しやすい。
【0091】
また、本実施形態のインク組成物には、溶剤として含窒素系有機溶剤を含んでなることが好ましい。含窒素系有機溶剤としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン,2−ピロリドン,N−メチル−2−ピロリドン,ε−カプロラクタム等が挙げられ、中でも、2−ピロリドンが好適に用いられることができる。それらは、単独または2種以上併用して用いられることもできる。
その含有量は、0.5〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜5重量%である。その含有量を、0.5重量%以上とすることで、添加することによる本発明における色材の溶解性向上を図ることができ、10重量%以下とすることで、インク組成物が接する各種部材との耐材料性を悪化させることがない。
【0092】
また、本実施形態のインク組成物には、インクの速やかな定着(浸透性) を得ると同時に、1ドットの真円度を保つのに効果的な添加剤として、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0093】
本実施形態に用いることのできるノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤として、具体的には、サーフィノール465、サーフィノール104(以上、Air Products and Chemicals Inc. 製)、オルフィンE1010、オルフィンPD001、オルフィンSTG( 以上、日信化学工業(株)製、商品名) 等が挙げられる。その添加量は好ましくは0. 1〜5重量%、更に好ましくは0. 5〜2重量%である。添加量を0. 1重量%以上とすることで、十分な浸透性を得ることができ、また、5重量%以下とすることで、画像のにじみの発生を防止し易い。
【0094】
本実施形態のインク組成物は、さらに、浸透性を向上できる点で、浸透促進剤を含んでなることが好ましい。該浸透促進剤として、グリコールエーテル類を添加することにより、より浸透性が増すとともに、カラー印刷を行った場合の隣合うカラーインクとの境界のブリードが減少し、非常に鮮明な画像を得ることができる。
【0095】
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。その添加量は3〜30重量%、好ましくは5〜15重量%である。添加量が3重量%未満であると、ブリード防止の効果が得られないおそれがある。また、30重量%を越えると画像ににじみが発生するばかりか、油状分離が起きるためにこれらのグリコールエーテル類の溶解助剤が必要となり、それに伴ってインクの粘度が上昇し、インクジェットヘッドでは吐出が難しくなる。
【0096】
さらに、本実施形態のインク組成物には、必要に応じて、トリエタノールアミンやアルカリ金属の水酸化物等のpH調整剤、尿素およびその誘導体等のヒドロトロピー剤、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤、防腐剤等が添加されてもよい。
【0097】
本実施形態のインク組成物の調製方法としては、たとえば、各成分を十分混合溶解し、孔径0. 8μm のメンブランフィルターで加圧濾過したのち、真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法などがある。
【0098】
(第2実施形態)
本発明に係る第2実施形態のインク組成物は、少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、下記の一般式(5)及び/又は(6)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩とを含んでなり、前記フタロシアニン系シアン染料が、下記の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であることを特徴とする。
【0099】
【化15】

【0100】
【化16】

【0101】
【化17】

(式中X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−Z及び−SO2−Zのいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基またはイオン性親水性基を表し、各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
1〜a4およびb1〜b4は、それぞれX1〜X4およびY1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属元素またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
但し、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。)
【0102】
第2実施形態のインク組成物は、かかる構成からなるものであるため、添加剤析出を起こすことなく、効果的にシアン画像の早期褪色を防止する事ができ、延いてはこれにより作成される画像の室内保存性(耐ガス性)を不具合無く向上させる事が可能となる。
【0103】
第2実施形態のインク組成物は、水又は、水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、少なくとも、前記の式(3)で表わされるフタロシアニン系シアン染料と、前記の一般式(5)及び/又は(6)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩を含有し、必要に応じ、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤やその他の添加剤を含んでなることができる。
【0104】
第2実施形態のインク組成物で使用されるシアン染料は、前述した第1実施形態のインク組成物で使用されるシアン染料と同様である。従って、本実施形態におけるシアン染料についての詳細は、前述した第1実施形態におけるシアン染料に係る事項が適宜適用される。
【0105】
本実施形態のインク組成物においては、上記のフタロシアニン系シアン染料を含有したインク組成物を用いて印刷した場合に見られる変退色(フタロシアニン系シアン染料が耐ガス性、特に耐オゾン性に劣ることに起因する現象)を抑制するために、3以上のスルホ基を有する特定の芳香族化合物及び/又はその塩を少なくとも1種含有する。
【0106】
本実施形態は、かかる3以上のスルホ基を有する特定の芳香族化合物及び/又はその塩を、前述したフタロシアニン系シアン染料と組み合わせて使用することにより、添加剤析出といった不具合を起こすことなく、オゾンガスに由来する画像の変褪色を抑止し、画像の耐褪色性を飛躍的に向上させたものである。
【0107】
本実施形態のインク組成物においては、フタロシアニン系シアン染料を含有したインク組成物を用いて印刷した場合に見られる変褪色(フタロシアニン系シアン染料が耐ガス性、特に耐オゾン性に劣ることに起因すると考えられる現象)を、添加剤析出を起こすことなく軽減し、もしくは無くするために、前記一般式(5)及び/又は(6)で表される3以上のスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩を少なくとも1種含有する。
【0108】
本実施形態のインク組成物は、作用の詳細は不明であるが、スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩として、前記一般式(5)及び/又は(6)で表されるような、スルホ基を3つ以上有するものを選択的に用いることにより、当該芳香族化合物の水溶性を向上させることができ、その結果として、当該芳香族化合物の記録媒体表面への析出を防止・抑制する効果が発現するのではないかと考える。これにより不具合無く印刷物の耐ガス性、とりわけ耐オゾン性を向上させる事が可能となる。
【0109】
本実施形態は、かかる一般式(5)及び/又は(6)で表される3以上のスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩を、前記のフタロシアニン系シアン染料と組み合わせて使用することにより、NOxガスに由来する緑変・黒変を起こすことなく、更には添加剤の析出を起こすことなく、オゾンガスに由来する画像の変褪色を抑止し、画像の耐褪色性を飛躍的に向上させたものである。
【0110】
また、本実施形態においては、水と前記フタロシアニン系シアン染料と前記3以上のスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩を少なくとも1種含有するインク組成物であれば、シアンインク組成物は勿論のこと、例えば、ブラックインク組成物等のシアンとは異なる色のインク組成物であっても、印刷した場合に見られる変退色を効果的に防止することができる。これら各種のインク組成物を作製するためには、従来公知の他の染料と併用することができる。
【0111】
一般式(5)及び/又は(6)で表される3以上のスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩としては、分子構造中にスルホ基を少なくとも3つ有する芳香族化合物及び/又はその塩であればいかなるものでも良いが、特に、ナフタレン−1,3,5−トリスルホン酸、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、ナフタレン−1,3,7−トリスルホン酸、ナフタレン−1,4,6−トリスルホン酸、ナフタレン−1,4,7−トリスルホン酸及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種が、得られる画像の耐オゾン性及び、添加剤析出抑制の改善の点で好ましい。更には、これら芳香族スルホン酸化合物のリチウム塩である場合が印刷画像のブロンズ抑制の点でも有効に作用することから、より好ましい。
【0112】
前記スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩の含有量は、該スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩の種類、染料の種類、溶媒成分の種類等により適宜決定されるが、インク組成物全重量に対し、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。
【0113】
本実施形態のインク組成物においては、フタロシアニン系シアン染料と、前記スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩との含有比率(前者:後者)は、効果的に耐ガス性を向上し且つインクの信頼性を確保する点で、1:0.1〜1:10、特に、1:0.2〜1:5の範囲内にあることが好ましい。
【0114】
本実施形態のインク組成物におけるpH、他の添加剤、例えば保湿剤、含窒素系有機溶剤、ノニオン系界面活性剤、浸透促進剤等及びそれらの含有量、インク組成物の調製方法については、前述した第1実施形態のインク組成物と同様であり、当該記載事項が本実施形態でも適宜適用される。
【0115】
本発明はまた、前述したインク組成物を少なくとも備えるインクカートリッジを提供することができる。本発明のインクカートリッジによれば、添加剤析出やブロンズ発生を起こすことなく、形成画像の室内保存性(耐ガス性)を向上させることができ、画像の早期の変褪色を効果的に防止することができるインクの運搬等、取り扱いの容易化を可能とする。
【0116】
次に、上述のインク組成物を用いた本発明の記録方法について説明する。本発明の記録方法はインク組成物を微細孔から液滴として吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方式がとりわけ好適に使用できるが、一般の筆記具用、記録計、ペンプロッター等の用途にも使用できることは言うまでもない。
【0117】
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【0118】
また、本発明の記録物は、上述のインク組成物を用いて記録されたもので、添加剤析出やブロンズ発生なく、形成画像の室内保存性(耐ガス性)に優れたものであり、印刷物品質を長期に渡って維持するものである。
【0119】
以下に、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
[実施例1〜14及び比較例1〜5]
【0120】
実施例1〜14及び比較例1〜5のインク組成物を、表3に示す配合割合で各成分を混合して溶解させ、孔径1μmのメンブランフィルターにて加圧濾過を行って、各インク組成物を調製した。
【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
【表5】

【0124】
なお、表3中に示すインク組成物の各成分はインク組成物全量に対する各成分の重量%を示し、残量は水である。
【0125】
上記の実施例1〜14及び比較例1〜5に記載のインク組成物を、インクジェットプリンタEM−930C(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、これの専用カートリッジ(Cyan)室に充填し、インクジェット専用記録媒体(PM写真用紙:セイコーエプソン株式会社製)に印字して、以下の各評価を行った。
【0126】
≪耐オゾン性試験≫
上記のカートリッジを用い、OD(Optical Density)が、0.9〜1.1の範囲に入るように印加Dutyを調整して印刷を行って得られた印刷物を、オゾンウェザーメータOMS−H型(商品名、(株)スガ試験機製)を用い、24℃、相対湿度60%RH、オゾン濃度20ppmの条件下にて、印刷物を12、18、24時間、曝露した。
曝露後、それぞれの印刷物のODを、濃度計(Spectrolino:Gretag社製)を用いて測定し、次式により光学濃度残存率(ROD)を求め、下記判定基準により、評価した。
【0127】
ROD(%)=(D/D0)×100
D:曝露試験後のOD
D0:曝露試験前のOD
(但し、測定条件は、Filter:Red、光源:D50、視野角:2度)
【0128】
[判定基準]
評価A:RODが90%以上
評価B:RODが80%以上90%未満
評価C:RODが70%以上80%未満
評価D:RODが70%未満
【0129】
≪耐添加剤析出性試験≫
印加Duty100%で印刷を行って得た印刷物を、25℃、50%RHの環境に2週間、4週間、6週間放置した。
放置後、印刷物を目視観察し、印加部表面に析出物の発生が認められるかどうかを見た。
【0130】
[判定基準]
評価A:析出物なし。
評価B:僅かに白っぽく見える部分はあるが、析出物として明確には認められない。実用上問題無いレベル。
評価C:印加表面が白っぽくなるが、析出物は認識できない。許容できるレベル。
評価D:明確に印加表面が白く、析出物の発生が容易に確認出来る。
【0131】
≪耐ブロンズ性≫
1インチ平米当たり1.5〜2.2mgの打ち込み量になるように印加Dutyを調整して得た印刷物を、光沢度計(PG−1M:日本電色工業株式会社製)を用いて測定し(測定角度60°)、光沢度を求めた。印字は、20℃、55%RHと32℃、75%RHの2つの環境で行った。
得られた光沢度と以下の式から得た値をブロンズの判定基準とした。
光沢度(印刷物)−光沢度(記録媒体)
【0132】
[判定基準]
評価A:15未満
評価B:15以上35未満
評価C:35以上55未満
評価D:55以上
【0133】
≪耐目詰り性試験≫
インクをインクジェットプリンタEM−930C(セイコーエプソン株式会社製)に充填後、10分間連続して印刷し、ノズルからインクが吐出していることを確認して、印字を停止した。これを、ヘッドにキャップしない状態で、40℃、25%RHの環境に2週間放置した。放置後、ノズルのクリーニング操作を行い、その後印字を行った。カスレ、抜けなどの不良印字がなく、初期と同等の印字が可能となるまでのクリーニング操作の回数で、そのインクの目詰まり特性を評価した。
【0134】
[判定基準]
評価A:1〜5回のクリーニング操作で初期と同等の印字が得られる場合
評価B:6〜10回のクリーニング操作で初期と同等の印字が得られる場合
評価C:11〜15回のクリーニング操作で初期と同等の印字が得られる場合
評価D:16回以上ののクリーニング操作によっても初期と同等の印字は不可能
【0135】
得られた評価結果を表4に示す。
【0136】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、フタロシアニン系シアン染料を用いたインク組成物であって、形成画像の室内保存性(耐ガス性)を向上させることができ、添加剤の析出及びブロンズ発生といった不具合を起こすことなく、画像の早期変褪色を効果的に防止することができるインク組成物、並びにこれを用いたインクカートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物として、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩とを含んでなり、前記フタロシアニン系シアン染料が、下記の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であることを特徴とするインク組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−Z及び−SO2−Zのいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基またはイオン性親水性基を表し、各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
1〜a4およびb1〜b4は、それぞれX1〜X4およびY1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属元素またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
但し、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。)
【請求項2】
前記式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料が、下記の式(4)で表されるフタロシアニン系染料である、請求項1に記載のインク組成物。
【化4】

(式中、Mは一般式(3)におけると同義であり、R1〜R4はそれぞれ独立に−SO2Zを表す。Zは一般式(3)におけると同義である。但し、4つのZのうち少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。)
【請求項3】
前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩が、スルホ基を2つ以上有する、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記フタロシアニン系シアン染料が、リチウムイオンを対イオンとして含む基を有する、請求項1〜3の何れかに記載のインク組成物。
【請求項5】
前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩が、1,3−ベンゼンジスルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、ナフタレン−1,6−ジスルホン酸、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸、ナフタレン−2,7−ジスルホン酸及びナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸それぞれのリチウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3記載のインク組成物。
【請求項6】
前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩を、インク組成物全量に対して0.1〜10重量%含んでなる、請求項1〜5の何れかに記載のインク組成物。
【請求項7】
前記フタロシアニン系シアン染料と、前記スルホ基を有する芳香族化合物のリチウム塩との含有比率が、1:0.1〜1:10の範囲内にある、請求項1〜6の何れかに記載のインク組成物。
【請求項8】
少なくとも、水と、フタロシアニン系シアン染料と、下記の一般式(5)及び/又は(6)で表されるスルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩とを含んでなり、前記フタロシアニン系シアン染料が、下記の式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料であることを特徴とするインク組成物。
【化5】

【化6】

【化7】

(式中X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−Z及び−SO2−Zのいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基またはイオン性親水性基を表し、各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
1〜a4およびb1〜b4は、それぞれX1〜X4およびY1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属元素またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
但し、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。)
【請求項9】
前記式(3)で表されるフタロシアニン系シアン染料が、下記の式(4)で表されるフタロシアニン系染料である、請求項8に記載のインク組成物。
【化8】

(式中、Mは一般式(3)におけると同義であり、R1〜R4はそれぞれ独立に−SO2Zを表す。Zは一般式(3)におけると同義である。但し、4つのZのうち少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。)
【請求項10】
前記スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩が、ナフタレン−1,3,5−トリスルホン酸、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、ナフタレン−1,3,7−トリスルホン酸、ナフタレン−1,4,6−トリスルホン酸、ナフタレン−1,4,7−トリスルホン酸及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8又は9に記載のインク組成物。
【請求項11】
前記スルホ基を有する芳香族化合物の塩が、アルカリ金属塩である、請求項8〜10の何れかに記載のインク組成物。
【請求項12】
前記スルホ基を有する芳香族化合物の塩が、リチウム塩である、請求項11に記載のインク組成物。
【請求項13】
前記スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩を、インク組成物全量に対して0.1〜10重量%含んでなる、請求項8〜12の何れかに記載のインク組成物。
【請求項14】
前記フタロシアニン系シアン染料と、前記スルホ基を有する芳香族化合物及び/又はその塩との含有比率が、1:0.1〜1:10の範囲内にある、請求項8〜13の何れかに記載のインク組成物。
【請求項15】
更に、ノニオン系界面活性剤を含んでなる、請求項1〜14の何れかに記載のインク組成物。
【請求項16】
前記ノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である、請求項15記載のインク組成物。
【請求項17】
前記ノニオン系界面活性剤をインク組成物全量に対して0.1〜5重量%含んでなる、請求項15又は16に記載のインク組成物。
【請求項18】
更に、浸透促進剤を含んでなる、請求項1〜17の何れかに記載のインク組成物。
【請求項19】
前記浸透促進剤が、グリコールエーテル類である、請求項18に記載のインク組成物。
【請求項20】
20℃におけるインク組成物のpHが、8.0〜10.5である、請求項1〜19の何れかに記載のインク組成物。
【請求項21】
インクジェット記録方法において用いられる、請求項1〜20の何れかに記載のインク組成物。
【請求項22】
前記インクジェット記録方法が、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法である、請求項21に記載のインク組成物。
【請求項23】
請求項1〜22の何れかに記載のインク組成物を少なくとも備えることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項24】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として請求項1〜22の何れかに記載のインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項25】
請求項1〜22の何れかに記載のインク組成物を用いて記録されたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2006−249277(P2006−249277A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68738(P2005−68738)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】