説明

インジウム及び/又はガリウム含有酸化物

【解決手段】 Al、Si、P、Bから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する酸化物であって、更にIn及び/又はGaを含有し、かつ波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、280〜450nmの近紫外乃至青色の波長領域の発光を呈することを特徴とする酸化物。
【効果】 本発明の酸化物は、キセノン原子の共鳴線発光の147nmなど、真空紫外領域の光で励起したとき、効率良く波長280〜450nmの近紫外乃至青色領域の蛍光を示し、ブラックライト等の発光装置で、水銀フリー化などへの展開が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴的な蛍光特性を有するIn及び/又はGaを含有する酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムあるいはガリウムは、(Ga、In、Y)23:Euという組成の赤色発光蛍光体に使われたり(特許文献1:特公昭61−44117号公報)、La22S:Eu,Smで表される蛍光体にIn23として1000ppm以下添加することによって温度特性の改善効果を有する(特許文献2:特開2003−160785号公報)、Tb付活の希土類メタほう酸塩蛍光体の希土類元素の30原子%程度までを置換することで、真空紫外線励起での発光輝度を向上させる(特許文献3:特開2003−201475号公報)、あるいは2価のEuで付活された青色発光のアルミン酸塩、珪酸塩蛍光体に微量添加することで劣化抑制の効果がある(特許文献4:特開2003−342564号公報、特許文献5:特開2005−8764号公報)など、蛍光体に使用されている。しかし、ユウロピウム、テルビウム、セリウムなどのランタノイド元素やマンガンなどの発光元素を伴わずに、インジウム又はガリウムだけが添加された系の、光励起に対する応答、とりわけ蛍光特性については、その例が殆ど知られていない。
【0003】
【特許文献1】特公昭61−44117号公報
【特許文献2】特開2003−160785号公報
【特許文献3】特開2003−201475号公報
【特許文献4】特開2003−342564号公報
【特許文献5】特開2005−8764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、真空紫外領域の光で励起したとき、近紫外乃至青色の波長領域の蛍光を発するインジウム及び/又はガリウム含有酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、Al、Si、P又はBを含有する酸化物であって、更にIn及び/又はGaを含有したものが、波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、280〜450nmの近紫外乃至青色の波長領域の発光を呈し、ブラックライト等紫外発光機器などに用いる蛍光体として有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記の複合酸化物を提供する。
(1)Al、Si、P、Bから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する酸化物であって、更にIn及び/又はGaを含有し、かつ波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、280〜450nmの近紫外乃至青色の波長領域の発光を呈することを特徴とする酸化物。
(2)前記酸化物中の酸素を除いた構成元素のうち、Inが0.05原子%以上10原子%以下であり、89原子%以上がAl、Si、P、B、Y、Lu、Gd、Mgのうちから選ばれる1以上の元素で構成される(但し、少なくとも1種はAl、Si、P又はBである)ことを特徴とする(1)記載の酸化物。
(3)波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、発光エネルギーのピーク波長が300〜380nmの近紫外領域にあることを特徴とする(1)又は(2)記載の酸化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸化物は、キセノン原子の共鳴線発光の147nmなど、真空紫外領域の光で励起したとき、効率良く波長280〜450nmの近紫外乃至青色領域の蛍光を示し、ブラックライト等の水銀フリー化や、近紫外光で励起されて可視発光する蛍光体と組み合わせて、照明、表示、真空紫外光の監視など幅広い用途への展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る酸化物は、波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、波長280〜450nmの近紫外乃至青色の領域の発光、特に発光エネルギーのピーク波長が300〜380nmの近紫外領域にある発光を呈することを特徴とし、Al、Si、P、Bから選ばれる1種又は2種以上の元素を含有する酸化物であって、更にIn及び/又はGaを含有する酸化物(酸素酸塩又は複合酸化物)である。
【0009】
本発明のインジウム及び/又はガリウム含有酸化物は、X線回折で同定される結晶相が、YPO4(鉱物名ゼノタイム)、YBO3、Y3Al512(通称YAG)、MgAl24(鉱物名スピネル)、Mg2SiO4(鉱物名フォルステライト)などである母結晶に、インジウム及び/又はガリウムが添加、付活された酸化物であることが好ましい。この場合、インジウム及び/又はガリウムは、かなりの量まで上記母結晶に固溶され得ると考えられる。
【0010】
本発明において、上記母結晶に添加される元素として、インジウムとガリウムのうちでは、インジウムの方が、蛍光の発光効率が良いのでより好ましい。
【0011】
本発明の酸化物中には、O、Al、Si、P、B、Y、Lu、Gd、Mg及びIn、Ga以外に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Ge、F、Cl、Sなどを含有することができるが、その量が多くなると、In又はGaを固溶し蛍光に寄与する相と異なる相が増えたり、紫外光に対する透明性が損なわれたりして蛍光発光効率を下げるおそれがあるので、好ましくない。従って、Oを除いた構成元素のうち、89原子%以上がAl、Si、P、B、Y、Lu、Gd、Mgのうちから選ばれる1以上の元素で構成される(但し、少なくとも1種はAl、Si、P又はBである)ことが好ましく、より好ましくは93原子%以上である。この比率の上限は特に制限されず、インジウム及び/又はガリウムを除いた全部が上記元素群で構成されていてもよい。
【0012】
なお、インジウム及び/又はガリウム、特にインジウムの付活量は、Oを除いた構成元素全体のうち、好ましくは0.05原子%以上、より好ましくは0.1原子%以上であり、10原子%以下が好ましく、より好ましくは7原子%以下である。インジウム及び/又はガリウムの含有量が少なすぎると蛍光が弱くなる場合があり、多すぎても利点はなく、固溶しきれず発光しない別の相をつくってしまう場合もあり、これら元素が高価であることを考えると好ましくない。
【0013】
この場合、酸素の含有量は、通常、上記金属の価数に応じた含有量をとることができる。
【0014】
次に、本発明の酸化物(酸素酸塩又は複合酸化物)の製造方法について述べる。
本発明の製造方法は特に制限されないが、原料として、本発明の酸化物を構成する各元素、即ちAl、Si、Y、Mg、In、Ga等それぞれの元素を含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、蓚酸塩など、更にりん酸アンモニウム、ほう酸、ほう酸アンモニウム、りん酸の粉体又は液体を混合して、この混合物を好ましくは900℃以上1800℃以下、より好ましくは1000℃以上1500℃以下で、好ましくは30分以上24時間以下、より好ましくは1時間以上8時間以下の条件下で加熱して反応させる方法が最も一般的で適用範囲が広く、好適に採用することができる。反応温度及び時間が上記範囲を下回ると、反応が十分に起こらないおそれがあり、上記範囲を超える場合は、不経済であるのみならず、反応物全体が焼結してしまい、粉末試料を得るのに大きなエネルギーを要する場合がある。
【0015】
一例として、りん酸イットリウムを用いるなど、本発明を構成する各元素のうちの一部を予め反応させておいたものを中間原料として用いることも、問題はなく有効な場合がある。
【0016】
各原料は、目標組成に応じて計量、混合するのが好ましいが、P及びBの原料については、目標組成よりやや多めに計量、混合することも良い場合がある。この場合、目標組成の1.5倍までの範囲が適当である。
【0017】
粉体同士を混合する方法については特に制限されず、乳鉢、流動混合機、傾斜回転式混合機などを用いて行うことができる。
【0018】
上記反応は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気、又は大気中の任意の雰囲気で行うことができるが、簡便さの点で大気中が好ましい。
【0019】
以上の反応を行った後、反応物を回収し、必要ならば解砕、混合して、目的とする複合酸化物を得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
65.3gの工業用75%りん酸(H3PO4 0.5モル含有)と純水4650cm3とを5リットルビーカに入れ、水浴中で70〜80℃に加熱しながら撹拌した。ここへ、YCl3水溶液(Y濃度0.833モル/dm3,体積300cm3)を撹拌しながら注ぎ込んだ。更に10分撹拌した後、沈殿をブフナーろうとで濾別し、次いで水洗し、回収後、大気中900℃で焼成した。これによりYPO4を得た。
このYPO4 8.91g、酸化インジウム(In23)(レアメタリック製4N品)0.208g、及びりん酸水素二アンモニウム(試薬特級(NH42HPO4、和光純薬工業(株)製)0.198gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉中で1200℃まで加熱し、3時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。この試料の一部をとって、酸で分解してICP発光分光分析を行った結果から求めた組成は、酸素以外の全元素を100%として、Y 47.5原子%、In 1.5原子%、P 51.0原子%であった。
【0022】
[実施例2]
酸化マグネシウム(MgO)(500A、宇部マテリアルズ(株)製)2.02g、酸化アルミニウム(大明化学製タイミクロンTM−DA)5.00g、及び酸化インジウム0.278gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉中で1250℃まで加熱し、3時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。実施例1と同様にして求めた組成は、Mg 33.3原子%、Al 65.4原子%、In 1.3原子%であった。
【0023】
[実施例3]
酸化イットリウム(Y23、信越化学工業(株)製4N−UU品)6.44g、酸化アルミニウム5.10g、酸化インジウム0.416g、及びふっ化バリウム(試薬特級BaF2、和光純薬工業(株)製)0.701gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉中で1500℃まで加熱し、3時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。実施例1と同様にして求めた組成は、Y 34.8原子%、Al 61.0原子%、In 1.8原子%、Ba 2.2原子%、F 0.2原子%であった。
【0024】
[実施例4]
酸化マグネシウム3.79g、酸化インジウム0.416g、ふっ化リチウム(試薬特級LiF、和光純薬工業(株)製)0.117g、及び酸化珪素(SiO2)(1−FX、龍森社製)3.01gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉中で1200℃まで加熱し、4時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。実施例1と同様にして求めた組成は、Mg 62.7原子%、Si 33.3原子%、In 2.0原子%、Li 1.8原子%、F 0.2原子%であった。
【0025】
[実施例5]
酸化イットリウム10.84g、酸化インジウム0.555g、及びほう酸(試薬特級H3BO3、和光純薬工業(株)製)6.80gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉中で1120℃まで加熱し、3時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。実施例1と同様にして求めた組成は、Y 47.3原子%、In 2.0原子%、B 50.7原子%であった。
【0026】
[比較例1]
実施例1の中間段階で得られたYPO4を9.19gとって、アルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉中で1200℃まで加熱し、3時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。実施例1と同様にして求めた組成は、Y 49.0原子%、P 51.0原子%であった。
【0027】
[比較例2]
酸化インジウムを使用せず、酸化アルミニウムの使用量を5.10gにしたことの他は実施例2と同様にして、粉末試料を得た。実施例1と同様にして求めた組成は、Mg 33.3原子%、Al 66.7原子%であった。
【0028】
[蛍光特性の測定]
実施例1〜5、比較例1,2の各試料について、分光計器(株)製真空紫外域吸光・蛍光測定装置を用い、147nmの光で励起したときの蛍光スペクトルを測定した。インジウムを含有しない比較例1,2の試料は、観測にかかる水準の蛍光を示さなかった。実施例1〜5については、147nm励起での蛍光ピークにおける蛍光の励起スペクトルも測定した。以上の結果について、表1に示す。
更に、スペクトルの例として、実施例1の試料発光ピークにおける励起スペクトル及び励起スペクトルのピークで励起したときの発光スペクトルを図1に示す。ここで、励起スペクトルは339.8nmの発光に対するものであり、発光スペクトルは161.8nmの光で励起したときのものである。なお、図1中で390nmのところに見られる段差は、分光系の切り替えのためにやむを得ず現れるもので、実際の発光ピークではないと考えられる。
【0029】
【表1】

注:1)実施例1を100として規格化。
2)発光強度がピークの半分になるピーク両側の波長の差。
3)励起ピークで励起時の発光強度/147nmで励起時の発光強度
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1の試料の蛍光スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、Si、P、Bから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する酸化物であって、更にIn及び/又はGaを含有し、かつ波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、280〜450nmの近紫外乃至青色の波長領域の発光を呈することを特徴とする酸化物。
【請求項2】
前記酸化物中の酸素を除いた構成元素のうち、Inが0.05原子%以上10原子%以下であり、89原子%以上がAl、Si、P、B、Y、Lu、Gd、Mgのうちから選ばれる1以上の元素で構成される(但し、少なくとも1種はAl、Si、P又はBである)ことを特徴とする請求項1記載の酸化物。
【請求項3】
波長200nm以下の真空紫外光で励起したとき、発光エネルギーのピーク波長が300〜380nmの近紫外領域にあることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化物。

【図1】
image rotate