説明

インジウム吸着材とその製造方法、及びインジウム吸着方法

【課題】簡便かつ安価に高純度のインジウムを分離・回収し得る技術の提供。
【解決手段】インジウムに対する鋳型構造を有する高分子材料からなり、亜鉛に対するインジウムの吸着選択率が2.0以上であるインジウム吸着材を提供する。このインジウム吸着材は、インジウムが導入されたカルボキシル基を有する親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、前記水溶性モノマーを重合して得られる重合物を酸処理することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム吸着材に関する。より詳しくは、インジウムに対する鋳型構造を有する高分子材料からなるインジウム吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の液晶技術の急速な進展により、液晶の透明導電膜として利用されるITO(酸化インジウム錫)の需要が著しく伸びている。このITO膜の製造原料としてITOターゲット材が用いられている。従来、ITOターゲット屑等を原料としたインジウムの回収方法がいくつか提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「インジウム含有物を硝酸で浸出し硝酸インジウム溶液を得る第1工程と、第1工程で得られた溶液を有機溶媒によりインジウムイオンを抽出し、得られた抽出液を逆抽出してインジウム溶液を得る第2工程と、第2工程で得られた溶液を加水分解し、得られた水酸化インジウムを焙焼して酸化インジウムを得る第3工程と、からなることを特徴とする酸化インジウムの製造法」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、インジウム含有物を塩酸で溶解する溶解工程と、得られた溶解液にアルカリを加えて中和し、溶解液中の所定の金属イオンを水酸化物として析出させて除去する中和工程と、得られた中和後液に硫化水素ガスを吹き込み、次の電解工程に有害な金属イオンを硫化物として析出除去する硫化工程との後に、インジウムメタルを電解採取するインジウムの回収方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、ITOインジウム含有スクラップを塩酸で溶解して塩化インジウム溶液とする工程、該溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加してスクラップ中に含有する錫を水酸化錫として除去し、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加して水酸化インジウムとする工程、水酸化インジウムを濾過した後、硫酸を添加して硫酸インジウムとする工程との後に、インジウムを電解採取するインジウムの回収方法が開示されている。
【0006】
一方、本発明に関連し、ある種の被吸着物質を効率よく吸着させる担体として、鋳型構造を有する高分子材料が知られている。これは、被吸着物質あるいはその一部の構造に対する鋳型構造を有する高分子を調製することにより、被吸着物質を特異的に吸着しようとするものである。
【0007】
例えば、特許文献4には、エストロゲン化合物またはエストロゲン様物質に対する鋳型構造を有する高分子分離剤が開示されている。当該文献には、この分離剤は公知の方法に従って製造できると記載されている(当該文献段落「0011」参照)。ここでいう公知の方法とは、吸着対象となるエストロゲン化合物等(鋳型ゲスト)を重合性単量体と混合し重合させた後、鋳型ゲストを除去することにより、ゲスト化合物に対する鋳型構造を有する重合体を形成する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−091838号公報
【特許文献2】特開2000−169991号公報
【特許文献3】特開2002−69684号公報
【特許文献4】特開2000−135435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に開示される方法は、ITOスクラップ材等から高純度な無機酸インジウム溶液を製造できるとされている。しかしながら、この方法は、溶媒抽出法を利用するものであるため抽出と逆抽出を繰り返す複雑な工程が必要になり、また高価な溶媒を使用するためコスト面での問題がある。また、特許文献2や特許文献3に開示される方法においても、インジウムを分離、回収するためには、多種多量の酸やアルカリ、有機溶剤を用いる必要がある。
【0010】
また、これらの従来方法は、主にITOターゲット材の未使用分やスパッタリング装置付着分からのインジウムを回収する技術であって、使用後のターゲット材や、製造工程におけるガラス基板等の不良品からのインジウム回収はほとんどみられない。特に、スパッタリング装置付着分からのインジウム回収では、付着物をスパッタリング装置やチャンバーから擦り取って回収するため、その際に不純物が混入するという問題があった。
【0011】
さらに、フラットパネル・ディスプレイや導電膜のエッチング廃液からのインジウム分離や回収、リサイクルは、これまでほとんど行われておらず、これらから高純度のインジウムを回収し、商品価値の高い有価物としてリサイクルするための技術が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、簡便かつ安価に高純度のインジウムを分離・回収し得る技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題解決のため、本発明は、インジウムに対する鋳型構造を有する高分子材料からなり、亜鉛に対するインジウムの吸着選択率が2.0以上であるインジウム吸着材を提供する。
このインジウム吸着材は、インジウムが導入されたカルボキシル基を有する親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、前記水溶性モノマーを重合して得られる重合物を酸処理することにより得られる。
このインジウム吸着材において、前記親水性ポリマーへのインジウムの導入率は20%以上とすることが好適であり、また前記重合物における水溶性モノマーの含有率は40重量%以下とすることが好適である。さらに前記水溶性モノマーと前記架橋剤のモル比は100:1〜1:1とすることが好適となる。
本発明は、また、インジウムが導入されたカルボキシル基を有する親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、前記水溶性モノマーを重合する工程と、得られた重合物を酸処理する工程と、を含むインジウム吸着材の製造方法を提供する。
このインジウム吸着材の製造方法は、さらに前記親水性ポリマーにインジウム水溶液を吸収させる工程を含み得る。
このインジウム吸着材の製造方法において、前記インジウム水溶液の濃度は3mM以上とすることが好適であり、また前記親水性ポリマーの重量に対して前記水溶性モノマー及び前記架橋剤並びに前記重合開始剤の水溶液を1倍容量以上吸収させることが好適である。さらに、前記水溶性モノマーと前記架橋剤のモル比を100:1〜1:1とすることが好適となる。
本発明は、さらに、上記のインジウム吸着材に、インジウムを含む水溶液を接触させて、インジウムを吸着する方法をも提供する。
【0014】
本発明において、「インジウムに対する鋳型構造」とは、鋳型ゲストであるインジウムの存在下で重合性単量体を重合(鋳型重合)させた後、重合物からインジウムを除去することにより、重合物中に形成される構造をいうものとする。この鋳型構造は、インジウムを他の物質に比べて選択性高く保持し得る性質を有する。
【0015】
「親水性ポリマーへのインジウムの吸着選択率」とは、インジウム吸着材へのインジウムイオンとインジウム以外の金属イオンの吸着量の重量比(インジウムイオン吸着量/インジウム以外の金属イオン吸着量)と定義される。この吸着選択率が高い程、吸着材のインジウムに対する吸着選択性が高いといえる。
【0016】
「親水性ポリマーへのインジウムの導入率」とは、親水性ポリマーのカルボキシル基に導入されたインジウムの重量と親水性ポリマーの乾燥重量の比(インジウム重量/親水性ポリマー乾燥重量)と定義される。
【0017】
「重合物における水溶性モノマーの含有率」とは、親水性ポリマーに水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させた後の親水性ポリマーの重量(固形分重量)に対する吸収された水溶性モノマーの重量の比(水溶性モノマー重量/固形分重量)と定義される。「固形分重量」は、水溶液吸収後の親水性ポリマーの全重量から水分重量を引いた値である。固形分重量は、水溶液吸収前後の親水性ポリマーの重量と、水溶液中の水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の濃度と、から算出することができる。また、水溶性モノマー重量は、水溶液吸収前後の親水性ポリマーの重量増加分と、水溶液中の水溶性モノマーの濃度と、から算出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、簡便かつ安価に高純度のインジウムを分離・回収し得る技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。

1.インジウム吸着材
(1)インジウムに対する鋳型構造と吸着選択率
(2)親水性ポリマー
(3)水溶性モノマー・架橋剤・重合開始剤
2.インジウム吸着材の製造方法
(1)第1工程
(2)第2工程
(3)第3工程
3.インジウムの吸着方法

【0020】
1.インジウム吸着材
(1)インジウムに対する鋳型構造と吸着選択率
本発明に係るインジウム吸着材は、予めインジウムが導入されたカルボキシル基を有する親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、前記水溶性モノマーを重合して得られる重合物を酸処理することにより得られ、インジウムに対する鋳型構造を有している。従って、このインジウム吸着材は、高い選択性をもってインジウムを吸着することができる。インジウムの吸着選択率は、例えば、亜鉛に対して2.0以上、好ましくは3.0以上である。
【0021】
(2)親水性ポリマー
本発明に係るインジウム吸着材に用いられる親水性ポリマーは、カルボキシル基を有するモノマーを構成単位に含むポリマーであれば特に限定されない。さらに、カルボキシル基以外にも、例えば、水酸基やアミド基、スルホン酸基等のインジウムイオンを導入可能な官能基を有するモノマーを構成単位に含むポリマーであれば使用可能である。
【0022】
カルボキシル基を有するモノマーを構成単位に含むポリマーとしては、例えば、アクリル酸で代表される親水性ポリマーを用いることができる。アクリル酸からなる親水性ポリマーには、市販のポリマーを使用でき、例えばデンプンーアクリル酸グラフト系、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル-アクリル酸塩系のポリマーが採用され得る。これらの中で、デンプンーアクリル酸グラフト系が好適である。
【0023】
(3)水溶性モノマー・架橋剤・重合開始剤
本発明に係るインジウム吸着材に用いられる水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤は、従来公知のものを適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
水溶性モノマーとしては、アクリルアミドやメタクリルアミド、アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、各種のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドンや、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸及びそれらの塩や、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸及びそれらの塩や、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアミン及びそれらの塩(4級化物も含む)等の少なくとも1種類以上を用いることができる。
【0025】
架橋剤としては、メチレンビスアクリルアミドやメチレンビスメタアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、エチレンビスメタアクリルアミド、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルアクリルアミドなどの2官能型架橋性モノマー、あるいは、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンアクリレート、トリアクリルホルマール、ジアクリロイルイミド等の多官能型架橋性モノマーの一種類以上を用いることができる。
【0026】
水溶性モノマーと架橋剤には、それぞれアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドが好適に用いられる。
【0027】
重合開始剤としては、水溶性のものであればよく、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム、過酸化水素、tert‐ブチルヒドロパーオキシドなどの過酸化物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、硝酸第二セリウムアンモニウムなどのレドックス系開始剤、ビタミンC、2,2′‐アゾビス‐2‐アミジノプロパン塩酸塩、2,2′‐アゾビス‐2,4‐ジメチルバレロニトリル、4,4′‐アゾビス‐4‐シアノバレリン酸及びその塩などのアゾ化合物などを用いることができる。これらの重合開始剤は単独で、あるいは2以上を組み合わせて用いられ得る。
【0028】
2.インジウム吸着材の製造方法
本発明に係るインジウム吸着材の製造方法は、以下の工程からなる。
第1工程:
親水性ポリマーにインジウム水溶液を吸収させる工程。
第2工程:
インジウムが導入された親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、水溶性モノマーを重合する工程。
第3工程:
得られた重合物を酸処理する工程。
【0029】
(1)第1工程
第1工程は、親水性ポリマーにインジウム水溶液を吸収させ、親水性ポリマーのカルボキシル基にインジウムイオンを導入する工程である。
【0030】
本工程では、所定濃度に調製したインジウム水溶液に親水性ポリマーを攪拌しながら所定時間浸漬させることで、親水性ポリマーにインジウム水溶液を吸収させる。このとき、親水性ポリマーはインジウム水溶液を吸収して膨潤し、親水性ポリマーのカルボキシル基にインジウムイオンが導入される。
【0031】
インジウム水溶液には、例えば硫酸インジウム水溶液等が用いられる。インジウム水溶液の濃度は、3mM以上が好適である。インジウム水溶液の濃度をこの数値範囲に設定することにより、親水性ポリマーへのインジウムの導入率を20%以上として、得られるインジウム吸着材の吸着選択性を高めることができる。一方、インジウム水溶液の濃度が数値範囲より低くなると、親水性ポリマーのインジウムイオンの導入率が低くなり、フリーのカルボキシル基の比率が高くなることから、インジウム吸着材の吸着選択性が低くなってしまう。
【0032】
インジウムイオン水溶液は、親水性ポリマーの乾燥重量に対して400倍容量以上のインジウムイオン水溶液中に浸漬することで吸収させることが出来る。インジウム水溶液の吸収量が少なくなると、親水性ポリマーを均一に膨潤させることが難しくなるためである。
【0033】
(2)第2工程
第2工程は、前工程においてインジウムが導入された親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、水溶性モノマーの重合反応を行なう工程である。
【0034】
本工程に先立っては、親水性ポリマーに水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を十分量吸収させるため、インジウム水溶液浸漬後の親水性ポリマーを水溶液から取り出し、乾燥させておくことが望ましい。
【0035】
親水性ポリマーの乾燥は、親水性ポリマーが浸漬されたインジウム水溶液を吸引ろ過してゲルを分離し、分離したゲルを温風乾燥、フリーズドライあるいは減圧乾燥等の乾燥方法で乾燥することによって行うことができる。
【0036】
本工程では、所定濃度に調製した水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液(以下、「水溶性モノマー等の水溶液」ともいう)に親水性ポリマーを攪拌しながら所定時間浸漬させることで、親水性ポリマーに水溶性モノマー等の水溶液を吸収させる。このとき、乾燥後の親水性ポリマーは水溶性モノマー等の水溶液を吸収して膨潤する。
【0037】
親水性ポリマーの膨潤は、親水性ポリマーをポリマーに対して200倍容量以上の水溶性モノマー等の水溶液中に浸漬して行うことが好ましい。これにより、親水性ポリマーに水溶性モノマー等の水溶液を均一に吸収させることができる。また、親水性ポリマーにはポリマーに対して1倍容量以上の水溶性モノマー等の水溶液を吸収させることが望ましい。
【0038】
水溶性モノマーと架橋剤のモル比は、通常100:1〜1:1、好ましくは20:1〜5:1である。架橋剤の添加量がこの数値範囲より少ないと、インジウム吸着材の吸着選択性が低下する。また、架橋剤の添加量がこの数値範囲より多いと、インジウムを含む各種金属イオンの吸着量自体が低下してしまう。
【0039】
重合開始剤の使用量は、水溶性モノマーに対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜8重量%である。
【0040】
重合反応は、水溶性モノマー等の水溶液から膨潤後の親水性ポリマーを取り出した後、通常の反応条件によって行うことができる。重合反応により、水溶性モノマーと架橋剤との架橋重合が進行する。このとき、親水性ポリマーのカルボキシル基に導入されたインジウムイオンが鋳型ゲストとなって、重合物中にインジウムに対する鋳型構造となるべき構造が形成される。
【0041】
反応時間、温度、溶存酸素濃度、使用する装置等の重合条件は、使用する水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の種類によって適宜最適な条件に設定される。重合温度は、生成する高分子水溶液の転移温度以上の温度(通常0〜100℃)とされる。重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0042】
なお、重合物における水溶性モノマーの含有率は40重量%以下とされることが好適である(後掲「表1」参照)。
【0043】
(3)第3工程
第3工程は、前工程で得られた重合物を酸処理することによって、重合物中からインジウムイオンを除去する工程である。
【0044】
重合物の酸処理は、必要に応じて反応後に得られた重合物を蒸留水等で洗浄した後、酸水溶液に浸漬することによって行うことができる。酸水溶液への浸漬により、親水性ポリマーのカルボキシル基に導入されたインジウムイオンが脱離、溶出されて、重合物中にインジウムイオンに対する鋳型構造が完成される。
【0045】
処理に用いる酸は有機酸あるいは無機酸であってよいが、好ましくは無機酸、特に好ましくは塩酸が用いられる。なお、酸水溶液の濃度は、0.01〜1N(規定)、好ましくは、0.1Nである。酸水溶液の量は、浸漬する重合物の重量に対して1000倍容量以上が目安である。
【0046】
酸水溶液への浸漬時間は、温度条件等によって変化するが、通常3時間が目安である。なお、温度は室温が好適である。
【0047】
本工程の後、酸処理した重合物を中性(pH:7)になるまで洗浄する。この際、洗浄をアルカリ水溶液(例えば、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液)で行ってpH調整しても良いが、最終の洗浄は蒸留水で仕上げる。洗浄後、温風乾燥、フリーズドライあるいは減圧乾燥等の乾燥方法で乾燥し、インジウム吸着材を得る。
【0048】
ここでは、カルボキシル基を有するモノマーを構成単位に含むポリマーに予めインジウムイオンを導入した後、このポリマーに水溶性モノマー水溶液を吸収させ鋳型重合を行なうことによって、インジウム吸着材となる重合体を得る方法を説明した。本発明に係るインジウム吸着材となる重合体を得るための別法としては、カルボキシル基を有する水溶性モノマーをインジウム水溶液と混合し、これに架橋剤及び重合開始剤の水溶液を添加して鋳型重合を行なう方法も考えられる。
【0049】
3.インジウムの吸着方法
本発明に係るインジウム吸着材は、インジウムに対する鋳型構造を有し、高い選択性をもってインジウムを吸着する。そのため、この吸着材は、液体中に他の金属イオンと混在するインジウムイオンを選択的に吸着させて、高純度に回収するために利用できる。
【0050】
例えば、使用済みITOターゲット材やITOを含む使用済みフラットパネルディスプレイ(FPD)の粉砕物を酸で溶出した溶出液をインジウム吸着材に接触させる。これにより、溶出液中に混在する複数の金属イオンの中からインジウムイオンを選択的に吸着材に吸着させる。そして、インジウムイオン吸着後の吸着材を公知の電界精錬方法(例えば、特開平6−248370号公報参照)の原料に用いて、インジウムを高純度に回収する。
【0051】
また、インジウムの回収は、インジウムイオン吸着後の吸着材を水や酸で処理し、インジウムイオンを再び溶離させることによって行うこともできる。この場合、吸着剤を再度利用することができため、より経済的である。
【0052】
本発明に係るインジウム吸着材によれば、インジウムイオンが含まれる液体に接触させた吸着材を電界精錬あるいは水や酸で再溶出することにより、簡便な工程で安価に高純度のインジウムを回収することができる。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
1.インジウム吸着材の製造
以下の工程に従って、インジウム吸着材を製造した。
(1)第1工程
アクリル酸からなる親水性架橋ポリマー(AAcゲル)として、市販の吸水性樹脂(ST−500:三洋化成工業品株式会社)を使用した。500mlのナス型フラスコに、AAcゲル乾燥物300mgと、5mMに調整したIn(SOの水溶液200mlを混合し、室温下で24時間攪拌を行った。
【0054】
その後、静置により沈殿したAAcゲルと水溶液を吸引ろ過で分離し、ゲルは蒸留水で洗浄後、フリーズドライにより乾燥を行うことで白色粉末を得た。なお、浸漬前後の水溶液中のインジウムの濃度を測定(ICP−MSによる測定)することで、AAcゲルに導入されたインジウムイオン量を算出したところ、2.51mmol/g(28.8重量%:対乾燥AAc重量)であった。
【0055】
(2)第2工程
次に、水溶性モノマーであるアクリルアミド(AAm)と架橋剤であるメチレンビスアクリルアミド(MBA)、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(APS)をそれぞれ1.5mM、0.015mM、0.015mMに溶解した混合溶液25mlにインジウムを導入した乾燥AAcゲル100mgを添加して室温下で浸漬攪拌することで膨潤させた。この時、乾燥AAcゲルの重量に対して1.19倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は11.2重量%)。
【0056】
膨潤ゲルをネジ型試験管に投入し、窒素置換を行ってから密閉して60℃で24時間重合を行った。
【0057】
(3)第3工程
次に、試験管からゲルを取り出し蒸留水にて洗浄を行った後、0.1Nの塩酸水溶液200mlに浸漬し室温下で3時間攪拌を行った。
【0058】
さらに、蒸留水にてpHが7になるまで洗浄を行い、0.01NのNaOH水溶液200mLに5分間浸漬させた後、再度蒸留水にてpH7になるまで洗浄を行った。その後、ゲルをフリーズドライにて乾燥を行うことで、白色粉末のインジウム吸着剤131mgを得た。
【0059】
2.吸着試験
得られたインジウム吸着剤10mgを、5mMの濃度にインジウムと亜鉛のイオンを溶解させた混合水溶液10mlに投入し、4時間室温下にて攪拌を行った。インジウム吸着剤投入前後の水溶液中の各イオンの濃度を測定(ICP−MS)することで、吸着剤に吸着された両イオン量を算出した。
【0060】
その結果、インジウムは1.01mmol/g、亜鉛は0.31mmol/gとなり、インジウムイオンに対して高い選択吸着性が確認された(In/Znの吸着選択率:3.25)。
【0061】
【表1】

【0062】
<実施例2>
1.インジウム吸着材の製造
第1工程においてAAcゲル乾燥物に吸収させるIn(SOの水溶液を4mMとした以外は実施例1と同様にしてインジウム吸着材を製造した。
【0063】
第1工程において、AAcゲルに導入されたインジウムイオン量は、2.37mmol/g(27.2重量%:対乾燥AAc重量)であった。
【0064】
また、第2工程では、乾燥AAcゲルの重量に対して1.88倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は16.6重量%)。
【0065】
2.吸着試験
得られた吸着剤の金属イオンの吸着効果を実施例1と同様の方法で確認した。その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム0.73mmol/g、亜鉛0.30mmol/gであり、インジウムイオンに対して高い選択吸着性が確認された(In/Znの吸着選択率:2.43)。
【0066】
<実施例3>
1.インジウム吸着材の製造
第1工程においてAAcゲル乾燥物に吸収させるIn(SOの水溶液を3mMとした以外は実施例1と同様にしてインジウム吸着材を製造した。
【0067】
第1工程において、AAcゲルに導入されたインジウムイオン量は、1.81mmol/g(20.8重量%:対乾燥AAc重量)であった。
【0068】
また、第2工程では、乾燥AAcゲルの重量に対して5.47倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は36.6重量%)。
【0069】
2.吸着試験
得られた吸着剤の金属イオンの吸着効果を実施例1と同様の方法で確認した。その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム1.25mmol/g、亜鉛0.41mmol/gであり、インジウムイオンに対して高い選択吸着性が確認された(In/Znの吸着選択率:3.05)。
【0070】
<比較例1>
1.インジウム吸着材の製造
第1工程においてAAcゲル乾燥物に吸収させるIn(SOの水溶液を2.5mMとした以外は実施例1と同様にしてインジウム吸着材を製造した。
【0071】
第1工程において、AAcゲルに導入されたインジウムイオン量は、1.46mmol/g(16.8重量%:対乾燥AAc重量)であった。
【0072】
また、第2工程では、乾燥AAcゲルの重量に対して36.9倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は78.1重量%)。
【0073】
2.吸着試験
得られた吸着剤の金属イオンの吸着効果を実施例1と同様の方法で確認した。その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム0.35mmol/g、亜鉛0.30mmol/gであり、インジウムイオンに対する選択吸着性は低かった(In/Znの吸着選択率:1.23)。
【0074】
<比較例2>
1.インジウム吸着材の製造
第1工程においてAAcゲル乾燥物に吸収させるIn(SOの水溶液を2mMとした以外は実施例1と同様にしてインジウム吸着材を製造した。
【0075】
第1工程において、AAcゲルに導入されたインジウムイオン量は、1.07mmol/g(12.3重量%:対乾燥AAc重量)であった。
【0076】
また、第2工程では、乾燥AAcゲルの重量に対して65.1倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は85.8重量%)。
【0077】
2.吸着試験
得られた吸着剤の金属イオンの吸着効果を実施例1と同様の方法で確認した。その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム0.09mmol/g、亜鉛0.22mmol/gであり、インジウムイオンに対する選択吸着性は認められなかった(In/Znの吸着選択率:0.41)。
【0078】
<比較例3>
1.インジウム吸着材の製造
第1工程においてAAcゲル乾燥物に吸収させるIn(SOの水溶液を1mMとした以外は実施例1と同様にしてインジウム吸着材を製造した。
【0079】
第1工程において、AAcゲルに導入されたインジウムイオン量は、0.41mmol/g(4.7重量%:対乾燥AAc重量)であった。
【0080】
また、第2工程では、乾燥AAcゲルの重量に対して78.4倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は87.6重量%)。
【0081】
2.吸着試験
得られた吸着剤の金属イオンの吸着効果を実施例1と同様の方法で確認した。その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム0.09mmol/g、亜鉛0.19mmol/gであり、インジウムイオンに対する選択吸着性は認められなかった(In/Znの吸着選択率:0.47)。
【0082】
<比較例4>
1.インジウム吸着材の製造
第1工程を省略し、第2工程においてインジウムを導入していない乾燥AAcゲルにモノマー水溶液を吸収させた以外は実施例1と同様にしてインジウム吸着材を製造した。
【0083】
第2工程では、乾燥AAcゲルの重量に対して76倍容量の混合液が吸収された(ゲル全体に対してアクリルアミド成分の含有率は87.3重量%)。
【0084】
2.吸着試験
得られた吸着剤の金属イオンの吸着効果を実施例1と同様の方法で確認した。その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム0.14mmol/g、亜鉛0.43mmol/gであり、インジウムイオンに対する選択吸着性は認められなかった(In/Znの吸着選択率:0.33)。
【0085】
<比較例5>
市販のイオン交換樹脂(アンバーライトIR120B Na:オルガノ株式会社)を用いて、インジウムイオンと亜鉛イオンの混合溶液における両イオンの吸着効果を実施例1と同じ要領で検討した。
【0086】
その結果、吸着剤に吸着されたイオン量はインジウム0.80mmol/g、亜鉛1.00mmol/gとなり、インジウムイオンに対する選択吸着性は認められなかった(In/Znの吸着選択率:0.80)。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係るインジウム吸着材は、液体中に他の金属イオンと混在するインジウムイオンを選択的に吸着する。従って、このインジウム吸着材は、ITOターゲットの屑やスパッタリング装置付着分、FPDの粉砕物や導電膜のエッチング廃液等から高純度にインジウムを回収するために利用できる。また、このインジウム吸着材を用いれば、従来方法とは異なり、多種多様の酸やアルカリ、有機溶剤を用いることなくインジウムを回収できるため、回収工程の簡略化及び低コスト化、化学薬品や水の省資源化に寄与できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムに対する鋳型構造を有する高分子材料からなり、亜鉛に対するインジウムの吸着選択率が2.0以上であるインジウム吸着材。
【請求項2】
インジウムが導入されたカルボキシル基を有する親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、前記水溶性モノマーを重合して得られる重合物を酸処理することにより得られる請求項1記載のインジウム吸着材。
【請求項3】
前記親水性ポリマーへのインジウムの導入率が、20%以上である請求項2記載のインジウム吸着材。
【請求項4】
前記重合物における水溶性モノマーの含有率が、40重量%以下である請求項2又は3記載のインジウム吸着材。
【請求項5】
前記水溶性モノマーと前記架橋剤のモル比が100:1〜1:1である請求項2〜4のいずれか一項に記載のインジウム吸着材。
【請求項6】
インジウムが導入されたカルボキシル基を有する親水性ポリマーに、水溶性モノマー及び架橋剤並びに重合開始剤の水溶液を吸収させ、前記水溶性モノマーを重合する工程と、
得られた重合物を酸処理する工程と、を含むインジウム吸着材の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記親水性ポリマーに、インジウム水溶液を吸収させる工程を含む請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記インジウム水溶液の濃度を3mM以上とする請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記親水性ポリマーの重量に対して、前記水溶性モノマー及び前記架橋剤並びに前記重合開始剤の水溶液を、1倍容量以上吸収させる請求項7又は8記載の製造方法。
【請求項10】
前記水溶性モノマーと前記架橋剤のモル比を100:1〜1:1とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のインジウム吸着材。
【請求項11】
請求項1記載のインジウム吸着材に、インジウムを含む水溶液を接触させて、インジウムを吸着する方法。

【公開番号】特開2011−62594(P2011−62594A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213044(P2009−213044)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】