説明

インジケータ

【課題】所定の温度がどれくらいの時間対象物に加わったかどうかを測定できる機能と、温度が加わったことを目視で確認できる機能とを兼ね備えたインジケータを提供する。
【解決手段】インジケータ10は、着色層15上に互いに対向して第一の電極21及び第二の電極22が形成され、第一の電極21は固定端13で固定され、第二の電極22は高分子材料シート14の一辺に接着された可動式である。高分子材料シート14は、所定の温度で結晶化し、収縮、白濁する特性を持つ。高分子材料シート14の結晶化に伴う収縮により電極21及び22の電極間距離が変化するため、容量変化を読み取ることで、所定の温度がどれくらいの時間加わったかを測定することができるとともに、高分子材料シート14の白濁によりフィルム16の窓18を通して着色層15の色の見え方の変化を確認でき、それにより所定の温度が加わったことを確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインジケータに係り、特に所定の温度と時間で変色するように設計された熱時間積算型インジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
食品には、消費期限が記載されているが、これらは特定の製品の予測される保存状態(温度、湿度、日当たりなど)に基づいていなければならない。そのため、推奨される保存状態も明記されている。しかしながら、実際の保存状態は予測制御できないため、時間−温度積算型のインジケータが必要とされる。また、医療用の滅菌では、滅菌に必要な温度と時間が滅菌対象物に加わったかどうかを目視で確認するためのケミカルインジケータ(CI)が用いられている。CIは一般的に、滅菌可能な温度と時間(例えば121℃が20分加わった時点)で変色するように設計された色素が台紙に塗布されたものである。ある温度になると変色する、いわゆるサーモラベルはこういった時間加算はできない。
【0003】
インジケータとは、広義の意味では、表示器、指示器、指示計、標識、表示、指針、指標であり、測定対象も幅広いが、ここでは時間計測に使用し、作業者が目視によって簡易的に必要条件を満たしたかどうかが変色などによって確認できる時間インジケータの種類について説明する。
【0004】
時間インジケータは、2種類に大別される。一つは、時間のみでなく対象物に加わった累積熱露出を考慮したものである。これはインジケータの変化速度をある関数で温度とともに増加させることで達成される。このようなインジケータには、温度の変化に継続的に反応するものと、ある温度以下では変色しないというように閾値温度に到達することが必要とされるものとがある。例えば、滅菌業務に使用されているインジケータの場合、滅菌可能な温度以上での累積時間を加味する必要がある。これらは、一般的に「時間−温度インジケータ」や「熱時間積算型インジケータ」(Time-Temperature Indicator:TTI)と呼ばれる。もう一つは、感熱性がなく、経過時間の視覚的表示を与えるものであり、一般的に「タイマー」と呼ばれる。
【0005】
TTIは、腐敗が懸念される品目、例えば、食品、食品添加物、生物材料、薬品、化粧品などの期限モニタリングや、食品や医療現場における殺菌、滅菌など、ある温度以上が一定時間加わったことを作業者が目視で確認する際に大変有用である。一方、タイマーは腐敗が生じない品目、例えば、ある品目の交換、完了または更新する必要のある注意喚起として有用である。ただし、以上は応用例であってこれらに限るものではない。
【0006】
TTIやタイマーは、化学反応機構、拡散機構、毛管現象機構を用いて実現されている。時間インジケータは変色などによって目視で確認できるため、利用者が一目で不良を判断できる点は評価できる。しかし、変色度合いによって評価する場合、定量評価でないため、判定結果に個人差が出る可能性がある。したがって、色度計で定量化が行われている場合もあるが、色度計は高価であり、また、対象物が大量であると作業者の大きな負担となる。そこで、変色でなく、例えば毛管現象を利用し、細長い紙に液体が徐々に染み込んだ領域の長さによって、ある領域まで達した時点でアクセプトとするようなインジケータもある(住友スリーエム株式会社)。この方式であれば定量的な評価が可能である。
【0007】
また、近年、食品や医療の安全確保のため、物品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態であることを指すトレーサビリティが重要視されていることから、インジケータの情報をパーソナルコンピュータ(以下、PC)に取り込みたいといったニーズが高まっている。そのような場合にはインジケータの評価結果を作業者がPCに入力していることが多いのが現状であり、作業の省力化・無人化のため無線タグ(Radio Frequency Identification;RFID)が利用され始めている。
【0008】
RFIDは、バーコード等と同じ、自動認識・データキャリアの一種であり、バーコードでは2次元コードが光学的に読み取りを行うのに対して、RFIDは電波を使用する。RFIDは、バーコードと比較して、ダンボール箱などの遮蔽物があっても非接触で読み取り可能で、同時に複数のRFIDを読み取ることができ、一般に数百ビットのデータ書き込み/読み取りが可能などといった利点がある。
【0009】
ところで、従来から食品などの温度履歴を記録する機器として「温度ロガー」と呼ばれる機器が存在し、食品メーカにおいて製造工程や物流段階の温度管理に用いられて来たが、ケーブルでPCなどに接続しないとデータの吸い上げができない。また、本体が大きく日常的に多頻度でデータ収集を行うには障害となっていた。
【0010】
一方、温度センサ付きRFIDは非接触で温度採集の起動/停止/データの吸い上げができるという大きな利便性があり、ワンチップ化(1つのシリコンチップ上にRFID回路/温度センサを搭載)により小型化されると共に部品点数の削減から低コスト化にも期待が持たれている。温度センサとRFIDとの組み合わせによるインジケータは、特許文献1などに開示されている。
【0011】
図8は、特許文献1記載のインジケータの各例の断面図を示す。図8(a)に示すインジケータは、複数のチャネル4を画定する微細構造表面を有する基材1と、基材1の微細構造表面に近接配置された導電性層2と、絶縁体層3とで構成されている。チャネル4は流体が所望の一定速度で進行するように設計されている。導電性層2は、基材1の微細構造表面に近接配置されて、基材1のチャネル4を通って導電性あるいは誘電性の流体が移動する際、それと接触することで、抵抗、電流、電圧の変化として読み取ることができる。この導電性層2には図9に示すパターニングがあることが望ましいとされている。また、誘電性流体を用いる場合は図8(b)に示すように絶縁層5が設けられ、チャネル4の一部に電極を形成することで容量変化としても読み取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2008−516208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図8(a)の断面図に示す従来のインジケータは構造が複雑であり、同図(b)の断面図に示す従来の他の例のインジケータは更に構造が複雑である。
【0014】
また、温度センサ付きRFIDは、タグ自体を目視することによる確認はできず、読み取り機を持っていない作業者が直接確認することはできないため、迅速な処理が行えず、取り違えや誤認識の可能性もある。望ましくは、変色などのバロメータが作業者の目視によっても確認でき、かつ、電気信号として取り出せるRFIDである。
【0015】
ここで、目視用のTTIと、電気信号取り出し用の温度センサ付きRFIDの併用も考えられるが、二重のコストがかかること、両者の表示の対応が取れていないと判断基準が難しくなり誤判断に繋がるため、好ましくない。よって、TTIの情報がそのままRFIDの出力として取り出せる、RFID内蔵型TTIが最も望ましい形態といえる。また、食品や滅菌対象物一つ一つに使用することを想定すると低コストで作製できる材料、作製工程が求められる。
【0016】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、所定の温度がどれくらいの時間対象物に加わったかどうかを測定できる機能と、温度が加わったことを目視で確認できる機能とを兼ね備えたインジケータを提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明の他の目的は、低コストで簡単な構成のインジケータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明のインジケータは、基材と、基材の上方に互いに対向して形成された第一及び第二の電極と、第一及び第二の電極のどちらか一方若しくは両方に接するようにされ、所定の温度で収縮すると共に白濁する特性を持つ高分子材料シートと、高分子材料シートの収縮及び白濁に伴い色が変化し、その変化する色を識別させる手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
また、上記の目的を達成するため、本発明のインジケータは、第一及び第二の電極間の距離を、電気的変量の変化として読み取る読取手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所定の温度がどれくらいの時間、対象物に加わったかどうかを測定できる機能と、温度が加わったことを目視で確認できる機能とを兼ね備えたインジケータを、簡単な構成で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のインジケータの一実施の形態の初期状態の断面図、初期状態の上面図、最終状態の断面図及び最終状態の上面図である。
【図2】本発明のインジケータの実施例1の製作過程を説明する図である。
【図3】ポリ乳酸(PLA)フィルムを130℃等温加熱時の加熱時間に対する透過光強度を示す図である。
【図4】ポリ乳酸(PLA)フィルムを130℃等温加熱時の加熱時間に対する収縮率を示す図である。
【図5】PLA(LACEA H-100)の等温結晶化過程の一例を示す図である。
【図6】PLA(LACEA H-100)に3種の核剤、タルク、クレー、マイカを2%添加した材料における、結晶化による発熱ピークの時間を様々な等温仮定に対して示した図である。
【図7】本実施形態のインジケータとRFIDとを組み合わせた実施例2の外観図と、RFIDチップの一例のブロック図である。
【図8】特許文献1に記載のインジケータの一例の断面図である。
【図9】特許文献1に記載のインジケータの電極部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳述する。
【0023】
図1(a)、(b)、(c)及び(d)は、本発明になるインジケータの一実施の形態の初期状態の断面図、初期状態の上面図、最終状態の断面図及び最終状態の上面図を示す。同図(a)〜(d)に示すように、本実施の形態のインジケータ10は、基材11と、基材11上に設けられた着色層15と、着色層15上に互いに対向して形成された第一の電極21及び第二の電極22と、第一の電極21を固定する固定端13と、第二の電極22と一辺が接着された高分子材料シート14と、高分子材料シート14を着色層15上に固定する接着剤17と、これらを内包する外装フィルム16とで構成された熱時間積算型インジケータ(TTI)である。外装フィルム16には、窓18が設けてあり、着色層15上の透明な高分子フィルム14が白濁することによって透過率が低下し、高分子フィルム14を通して見る着色層15が白化して見える様子が窓18を通して目視で確認できる構成となっている。
【0024】
第一の電極21と第二の電極22とは互いに対向して配置されコンデンサの配置とされている。高分子材料シート14は、初期状態が透明であり、所定の温度で収縮すると共に白濁する特性を持つ。高分子材料シート14の収縮に伴って電極21と電極22との間の距離が変化するため、図1(c)に示すように電極21と電極22との間に隙間が開き、それらの電極間の容量が変化する。従って、上記の電極21と電極22とを含むコンデンサの容量変化を読取手段により読み取ることで、所定の温度がどれくらいの時間インジケータ10に加わったかを測定することができる。また、電極21と電極22との間が開放状態となるため、容量変化による経時変化を見る必要がなければ、電極21と電極22との導通の有無によって所定の温度が加わったことを確認することも可能である。
【0025】
また、所定の温度が加わることによる結晶化に伴い高分子材料シート14が白濁するため、観察者は肉眼により図1(d)のように窓18及び高分子材料シート14を通して着色層15を見ると白化して見える。このようにして、本実施の形態のインジケータ10は目視によっても温度履歴がわかる仕組みである。
【0026】
このように、本実施の形態のインジケータ10によれば、固定された第一の電極21と可動式の第二の電極22とを対向させてコンデンサの配置とし、可動式の第二の電極22は所定の温度で結晶化し、収縮、白濁する特性を持つ高分子材料シート14の長方形の一辺に接着させる。そして、高分子材料シート14の結晶化に伴う収縮により電極21及び電極22の電極間距離が変化するため、容量変化を読み取ることで、所定の温度がどれくらいの時間加わったかを測定することができるとともに、白濁を呈することにより目視でも温度が加わったことが確認できる熱時間積算型インジケータを実現できる。また、簡易的には電極21及び電極22の電極間の導通の有無によって確認することも可能である。前記特許文献1記載のインジケータとは、この構成において異なっており、本実施形態によれば、より簡単な構成で実現することができる。
【0027】
なお、図1の構成は一例であり、各構成部材の配置や大きさなどは任意である。途中で温度が下がると結晶化は止まるため、確実に所定の温度が所定の時間加わった時点で結果を示す。また、上記の実施の形態では、高分子材料シートは電極22に接するようにしているが、固定端13を入れ替えて電極21に接するように構成することも可能であり、あるいは電極21と電極22の両方に接するように構成することも可能である。また、電極21及び電極22の間の距離の変化を、容量変化の代わりに電圧変化、電流変化、あるいは抵抗変化として読み取ることも可能である。要は電極21及び電極22の間の距離の変化を、何らかの電気的変量の変化として読み取れればよい。
【0028】
更に、着色層15を設ける代わりに、高分子材料シート14及び基材11の一方、又は両方が着色されるものを使用すると共に、カバー16の少なくとも一部分が充分に透明であり、カバー16、基材11、高分子材料シート14の透明度及び着色を、高分子材料シートの収縮及び白濁が進むに従って観察者が肉眼で観察できる構成としてもよい。本発明は、高分子材料シートの収縮及び白濁に伴い色の見え方が変化し、その変化する色を識別させる手段を有していればよい。
【実施例1】
【0029】
次に、上記実施の形態のインジケータ10の実施例1について説明する。基材11は使用材料に特に指定はないが、熱膨張の小さいシート状のものが望ましい。例えば、ガラス、熱膨張率5ppm/℃程度の低熱膨張のポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株):カプトン EN−Aタイプ)、低熱膨張多層材料(日立化成(株):MCL-E-679F(R))などが挙げられる。また、使用温度に対して十分ガラス転移温度が高い材料にする必要がある。
【0030】
電極21、22は導電性のあるシートであればよく、アルミ箔などの金属箔、金属箔と積層一体となった樹脂や紙などのシート、金属粉末を含む樹脂フィルム、不織布や布に導電性のある粉末を塗布したものなども同様の機能を持つと考えられる。金属片や表面が導電性コーティングされた部材であってもよい。
【0031】
固定端13は基材11または着色層15に強固に接着できるものがよく、熱膨張が少ない接着剤を用いるのが望ましい。ただし、高分子材料シート14が結晶化してしまうほどの高温での焼成が必要な接着剤は使用できない。従って、例えば、精密UV硬化接着剤(NTTアドバンストテクノロジ(株):AT4291A,20ppm/℃、ハイソル(株):Vitralit, 2665 27ppm/℃)などが使用できる。
【0032】
高分子材料シート14は結晶化によって白濁する高分子材料で構成され、結晶化温度や結晶化速度によって選定される。結晶性高分子材料は例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられ、これらは、分子量、分子量分布、分子構造、不純物などにより結晶化温度・速度が異なる。また、結晶化速度は核剤の添加により速くすることができるが、初期状態が白くなり透過率が低くなってしまうため添加量は適宜調節が必要である。
【0033】
着色層15は高分子材料シート14の白濁度合いで色の違いが確認し易い色であるのが好ましい。着色層15は基材11上に印刷によって形成されるか、または有色の着色層15が基材11上に貼り合せられていてもよく、基材11自体が色を有している場合にはなくてもよい。使用温度で退色や変色・変質しない耐熱インクが使用できる。さらに、熱が伝わり易い熱伝導シートを用いることが望ましく、カーボングラファイトシート(ハイビットジャパン(株))は熱膨張が7.0ppm/℃と小さい熱伝導シートであり色が濃いので本用途には適している。ゲル状の放熱シートは、表面の摩擦係数が大きく高分子材料シート14が結晶化して収縮するのを妨げる可能性があることと、伸縮性が高いため高分子材料シート14の結晶化に伴う伸縮による変移量を打ち消してしまう可能性があるため好ましくない。
【0034】
外装フィルム16は、物品の一部または全てをカバーし、可撓性、半剛性または剛性であって、物品の動作を妨げないようなものを選択するのが好ましく、プラスチックをはじめとする様々な材料から作製することができる。一体構造、または例えば2ピースを結合することにより形成されたマルチピース構造でもよく、結晶化によって白濁する進行度合いが見える透明な窓18を備えた不透明材料で作製することができる。模様を備えた透明材料から作製してもよいが、一部は、進行度合いが見える窓18を設けるために、模様がないようにすべきである。内包する物品への接合は、感圧接着テープの基材11へのラミネーションをはじめとする様々な方法が考えられる。
【0035】
次に、高分子材料シート14としてポリ乳酸(PLA)(三井化学(株):LACEA H-100)を用いた場合の本発明のインジケータの具体例について図2と共に説明する。
【0036】
図2(a)に示すように、高分子材料シート14の厚みを0.4mm、長さを25mmとし、高分子材料シート14の一辺の端面に電極22として銅を150nm程度真空蒸着により形成する。銅の下地としてクロムを10nm程度敷いてもよい。固定端13は、例えば厚さ0.4mm、長さ5mmのガラスシートを用い、固定端13の一辺の端面に電極21として同様に銅を真空蒸着する(図2(b))。固定端13は、図2(c)のように接着剤17で着色層15と全面でしっかりと固定する。
【0037】
一方、図2(a)に示す高分子材料シート14は基材11上に設けられた着色層15と接着剤17で一部のみ接着させる。このとき、図2(c)に示すように電極21と電極22が接するようにする。最後に図2(d)に示すように、外装フィルム16でパッケージングする。インジケータ10の動作を妨げないよう、高分子材料シート14を含むインジケータ10の上面には外装フィルム16との接着部は設けず、例えば図2(d)のように基材11の底面を固定するフィルム16を更に設け、インジケータ10の周辺部とで接着する。以上が作製方法である。
【0038】
なお、電極作製方法は真空装置を用いなくとも、無電界メッキや、金属箔を貼り付けるなどが考えられる。
【0039】
200℃のホットプレート上に置かれたガラス基板上にPLAのペレットを乗せて融かし、ペレット上からさらにもう一枚のガラス基板を押し付けて薄膜状に成型後急冷し、PLAフィルムを高分子材料シート14として作製した。このPLAフィルムの厚みは0.4mmであり、縦10mm×横25mmの大きさにカットした。これを130℃のオーブンに入れて30分、60分、90分後の透過率と収縮率を測定した。図3は、このPLAフィルム(高分子材料シート14)の透過光強度の測定結果、図4は、このPLAフィルム(高分子材料シート14)の収縮率の測定結果を示す。図3に示すように、結晶化に伴い、透過率はほぼリニアに低下している。見た目でも光散乱により、非常に白くなっているのが分かった。また、図4の収縮率もほぼリニアに変化し、90分で初期の長さの約3%短くなった。従って、130℃がどれだけの時間印加されたかを白化度合いと電極21及び電極22間距離の変化を表す容量変化から読み取ることができる。
【0040】
図5は、LACEA H-100の等温結晶化過程を示す。なお、以下のデータは西部工業技術センター研究報告No.50(2007) 号:46、頁:73-75に掲載のものである。
【0041】
PLAに結晶核剤としてタルクT2(株式会社勝光山研究所:SK-C)をPLAに対し2%配合したペレットを200℃で溶融した後、所定の温度まで急冷し、ある温度で15分間保持したとき(等温結晶化過程)の熱分析を行った。PLAのみでは、Iで示すように85℃の等温過程では発熱ピークが見られず結晶化が起こっていない。一方、PLAに核剤としてタルクT2を添加したものでは、IIで示すように約2分の位置に発熱のピークが現れ、結晶化が起こっているものと思われる。より高温の105℃での等温過程で比較するとPLAにおいてもIIIで示すように11分付近にブロードなピークが観察され、ゆっくりではあるが結晶化が起こっていると考えられる。また、タルクT2を添加したPLAではIVで示すように1分に鋭いピークが見られ結晶化が急速に起こっていることがわかる。
【0042】
添加物を含まないPLAを用いた場合、図5にIIIで示したように105℃で加熱し始めて4分後程度から結晶化し始め、11分後に最も結晶化速度が速くなる。その後も結晶化速度は遅くなりつつも徐々に進行し続けている。また、シートの透過率は結晶化によって白化し図3に示した時間変化と同様の傾向となることが予想される。従って、透過率から105℃が何分間程度加わったかを目視または色度測定器などを用いて確認することができる。さらに結晶化は図4に示す熱収縮を伴うため、徐々に電極21及び電極22間の距離が広がり容量が変化する。従って、例えば、105℃が12分間加わったことを確認するインジケータとして添加物を含まないPLAを用いた構成を使用すれば、12分後の透過率が所定の透過率より高い場合や、容量が所定より大きい場合、温度が105℃に満たなかったことや、途中で温度が低下したことを意味する。
【0043】
また、図5にIVで示すようにタルクT2を添加した場合は105℃印加後1分で急激に結晶化している。この様に、ある温度で一気に白化する材料は、数十分の熱履歴を見るようなものとしては使用できないが、サーモラベルとしての用途には好適である。熱収縮により電極21及び電極22間が断線するため、導通の有無によって所定温度に達したかどうかを簡単に確認することができる。
【0044】
図6は、PLAに3種の核剤、タルクT2、クレーC2(株式会社勝光山研究所:Tクレー)、マイカM2(株式会社山口雲母工業所:A-11)を2%添加した材料における、結晶化による発熱ピークの時間を様々な等温仮定に対してプロットした図である。このように結晶化速度は核剤の添加によって異なる。PLAは約95〜120℃で結晶化するが、結晶化速度が最も速くなるのは11分程度と遅い。
【0045】
一方、核剤を添加したPLAは、例えば90℃において1〜7分程度と速くなっており、核剤の添加によって結晶化が促進されている。また、核剤の添加によって、結晶化ピークが現れる温度範囲も広がりPLA単体よりも低温・高温側で結晶化が起こり易くなっている。以上より、所望の結晶化特性を得るには材料を選定使用することに加え、同じ材料であっても核剤の添加により所望の結晶化温度・結晶化速度を得ることができる。
【実施例2】
【0046】
RFIDとは Radio Frequency Identification の略で、電波を利用した認証(認識)技術の総称であるが、最近では電波による非接触通信とICチップを利用した認証の組み合わせがRFID技術の主流になりつつあるため、「RFID=ICチップを利用した非接触認証技術」を意味するものとして使用されている。
【0047】
RFIDはタグやラベル状に加工されたアンテナ付ICチップを人や物に付与し、そこに記憶された情報をリーダ/ライタと呼ばれる装置で読み取ることで、物体認識や個人認証などを行うものである。RFIDを利用する利点としては、1つは認識対象物に接触することなく非接触で認証が行えるという点であり、もう1つは、そのような非接触認証を複数の対象に対して同時に行える複数同時認証という点である。これらの特長により、現在人の手により行われている多くの業務オペレーションを自動化、あるいは簡素化することができるため、莫大なコストを削減が可能であり、さらに、人為的なミスの防止やシステムのリアルタイム性が向上することにより、情報の質が向上し、企業リソースの正確な把握や、迅速な意思決定を支援するものとしても期待されている。
【0048】
温度センサとRFIDとの組み合わせは、前記特許文献1等により開示されている。本発明のインジケータの変化は、容量変化や抵抗変化として読み取ることが可能であるため、RFIDと組み合わせることで物品管理をスムーズに行うことができる。本発明のインジケータと組み合わせるRFIDは低コストで実現可能なパッシブタグであることが望ましい。パッシブタグはタグ側に電源を持たず、リーダ/ライタから照射された電波を利用して電力とする。
【0049】
本実施の形態のインジケータの実施例2は、図1の実施の形態の熱時間積算型のインジケータ(TTI)10とRFIDとを組み合わせた構成であり、図7(a)はその構成図、図7(b)は、RFIDタグ回路の一例のブロック図を示す。なおこのRFIDの構成は、特開2007-111137号公報記載の「バッテリーレス型RFIDタグを用いた温度管理機能付き棚札システム」を参考にしている。
【0050】
図7(a)において、本実施形態のTTI10は、RFIDチップ31に接続されている。RFIDチップ31は、リーダ/ライタとの交信のためのアンテナ32を含むRFIDタグ33で構成されている。ここでRFIDチップ31は図7(b)のブロック図で示される。
【0051】
図7(b)において、アンテナ32はリーダ/ライタと電磁波による無線通信を行うため、同調回路34に接続され、キャリア周波数に同調させて共振回路を構成する。同調回路34の後段には、リーダ/ライタのアンテナから送信された電磁波がRFIDタグのアンテナ32を通過した時に発生する誘導起電力の電圧波形を検波し、その誘導起電力を半波又は全波整流して直流電圧を取り出すための整流回路35に接続される。
【0052】
次に、整流回路35の後段には、検波したキャリアを分周してシステム用のクロックを生成するためのクロック生成回路36と、信号受信時においてキャリアから信号を取り出す復調動作や、信号送信時においてスイッチング素子(図示せず)により変調動作のための変復調回路37が接続される。また、変復調回路37の後段には、変復調回路37の制御や、不揮発性メモリであるFRAM(Ferroelectric RAM:米国Ramtron社の登録商標)39に対するRFIDチップ31の固有ID情報及び本実施の形態のTTI10にて検出した容量、抵抗、電圧、電流のいずれかの信号のデータの書込み又は読出し制御を行うためのロジック回路38を接続する。また、本実施の形態のTTI10から出力される容量、抵抗、電圧、電流のいずれかの信号をA/D変換して適正なデジタル値に変換するA/Dコンバータ(図示せず)と、TTI10と接続するためのインターフェース回路40が、ロジック回路38とFRAM39に接続されている。なお、FRAM39は強誘電体型の不揮発性メモリであり、回路電源がオフになってもRFIDチップ31の固有ID情報等のデータは消失することはない。使用する周波数は、通信距離や用途によって様々であり、それに見合った周波数帯を使用すればよい。
従来のTTIは視覚的な化学的インジケータであり、変色によるインジケータは精度が低かった。また、その代替は電子機器であり表示のための電子ディスプレイを必要とし、高価で、大きく、電源を必要とした。
【0053】
これに対し、本発明のインジケータは電子機器に比べ極めて低コストで作製可能である。さらに、本実施の形態の熱時間積算型インジケータ(TTI)をRFIDと組み合わせた実施例2の構成とすることにより、対象物に所定の温度で所定の時間加わったかを変色により直接目視にて確認できるだけでなく、その変色の情報がそのままRFIDの出力として取り出せるため、遠隔でも確認することができ、また、本実施の形態のTTIの抵抗変化をメモリに記録すれば温度履歴を読み取ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のインジケータは医療機器の高圧蒸気滅菌において、滅菌が可能な温度と時間が滅菌対象物に加わったかどうかを目視で確認するために、滅菌可能な温度と時間で変色するように設計された熱時間積算型インジケータとして使用できる。
【符号の説明】
【0055】
10 熱時間積算型インジケータ(TTI)
11 基材
13 固定端
14 高分子材料シート
15 着色層
16 外装フィルム
17 接着剤
18 窓
21、22 電極
31 RFIDチップ
32 アンテナ
34 同調回路
35 整流回路
36 クロック生成回路
37 変復調回路
38 ロジック回路
39 FRAM(Ferroelectric RAM)
40 インターフェース回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上方に互いに対向して形成された第一の電極及び第二の電極と、
前記第一及び第二の電極のどちらか一方若しくは両方に接するようにされ、所定の温度で収縮すると共に白濁する特性を持つ高分子材料シートと、
前記基材と前記高分子材料シートとの間に設けられた色を識別させる手段と
を備えることを特徴とするインジケータ。
【請求項2】
前記第一及び第二の電極間の距離を、電気的変量の変化として読み取る読取手段を備えることを特徴とする請求項1記載のインジケータ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−93110(P2012−93110A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238483(P2010−238483)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】