説明

インスリンの薬物動態を変化させる方法

本発明は、対象の皮膚の皮内区画中に、好ましくは皮内区画の皮膚脈管構造にインスリンを投与する方法に関する。本発明の方法は、インスリン送達の薬物動態および薬力学パラメータを増大させ、糖尿病の治療および/または予防において優れた臨床効果を有効にもたらす。本発明の方法は、非空腹時(すなわち、食後)と空腹時の血中グルコースレベルの両方の血糖調節を向上させ、したがって皮下インスリン送達を含むインスリン送達の従来からの方法と比べて糖尿病の治療、予防および/または管理における治療効果を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の皮膚の皮内区画中に、好ましくは皮内区画の皮膚脈管構造中にインスリンを投与する方法に関する。本発明の方法は、インスリン送達の薬物動態および薬力学パラメータを増大させ、糖尿病の治療および/または予防において優れた臨床効果を有効にもたらす。本発明の方法は、非空腹時(すなわち、食後)と空腹時の血中グルコースレベルの両方の血糖調節を向上させ、したがって皮下インスリン送達を含むインスリン送達の従来からの方法と比べて糖尿病の治療、予防および/または管理における治療効果を高める。
【背景技術】
【0002】
本願は、2002年5月6日および2002年6月20日にそれぞれ出願した米国仮出願第60/377,649号および第60/389,888号の優先権を主張する2003年5月6日に出願した米国特許出願第10/429,973号の優先権を主張するものであり、これらすべては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本願はさらに、2003年11月19日および2003年9月5日にそれぞれ出願した米国仮出願第60/523,831号および第60/500,956号の優先権を主張するものであり、これらすべては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
以下の記載は、本発明を理解する際に有用となることができる情報を含む。本明細書で提供する情報のいずれもがここに請求する発明、またはそれに関連する従来技術であることを認めるものではないし、特定してまたは暗黙的に参照した刊行物のいずれもが従来技術であることを認めるものではない。
【0004】
2.1 薬剤送達
診断薬や薬剤などの薬剤物質を効率よくかつ安全に投与することの重要性は、長く認識されてきている。すべての薬剤物質について重要であるとみなされているが、バイオテクノロジー産業から生じたタンパク質など大きな分子の十分な生体利用効率を得ることにより、効率よく再現性のある吸収を得るこの必要性が最近強調されてきている(例えば、非特許文献1を参照)。従来からの針の使用は、皮膚を介して投与することによりヒトおよび動物に薬剤物質を送達する一つの手法を長らくもたらしてきた。注射の容易さが向上し、従来からの針に伴う患者の不安および/または痛みが軽減する一方、皮膚を介した、再現性があり効果的な送達を実現するためにかなりの努力がなされてきた。さらに、特定の送達系は、針を全く排除し、イオン導入電流、エレクトロポレーション、サーマルポレーション(thermal poration)や超音波導入など、化学媒介物質または外部駆動力を利用して、角質層、皮膚の最外層を突破し、皮膚表面を介して物質を送達する。しかし、そのような送達系は、再現性よく皮膚の障壁を突破せず、または皮膚表面下の一定の深さに薬剤物質を送達せず、その結果、臨床的な結果が変化することがあり得る。したがって、針を用いるような角質層の機械的な突破は、皮膚表面を介する物質投与の最も再現性のある方法をもたらし、投与した物質の位置の調節および再現性をもたらすと考えられている。
【0005】
皮膚表面下で物質を送達する手法には、ほぼ専ら経皮投与、すなわち皮膚を介する皮膚下の部位への物質の送達が関与する。経皮送達には、皮下、筋内または静脈内の投与経路があり、筋内(IM)および皮下(SC)注射が最も一般的に使用されている。
【0006】
解剖学的に、身体の外側の表面は、外側の表皮と下にある真皮の2つの主要な組織層から形成され、それらは互いに皮膚を構成する(総説では、非特許文献2を参照)。表皮は、合計の厚さが75〜150μmの5層(layerまたはstratum)にさらに分けられる。表皮の下には真皮があり、それは2層を含み、最も外側の部分は真皮乳頭層と呼ばれ、深い方の層は真皮網状層と呼ばれる。真皮乳頭層は、広大な微小循環血およびリンパ管叢を含む。それと異なり、真皮網状層は比較的非細胞的でかつ無血管性であり、密な膠原性および弾性結合組織から形成される。表皮および真皮の下には皮下組織があり、それは下皮とも呼ばれ、結合組織および脂肪組織からなる。筋組織は、皮下組織の下にある。
【0007】
上記に示したように、皮下組織も筋組織も、薬剤物質の投与の部位として一般に使用されている。しかし、真皮は、物質の投与の部位として標的となることはまれであり、このことは、少なくとも一部は、皮内空間中に正確に針を刺すことが困難であることに起因し得る。さらに、真皮が、特に真皮乳頭層が高度な血管分布を有することが知られていても、本発明以前に、この高度な血管分布を利用して、皮下投与と比べて投与物質の高い吸収プロファイルを得ることができることは理解されなかった。
【0008】
皮下組織への投与後速やかに吸収されるので、小さな薬剤物質は従来から皮下投与されており、皮下投与によって簡単かつ予測可能な送達経路がもたらされる。しかし、小さな分子の投与の薬物動態を改善する必要性は理解されていなかった。標的組織の血管分布の程度に関わらず、タンパク質などの大きな分子は通常、毛細管上皮を介して十分に吸収されない。これらの物質の有効な皮下投与は、このように限定されている。
【0009】
皮膚表面下で、また皮内空間の領域中への投与の一つの手法は、マントーツベルクリン試験で日常的に使用されている。この手順では、27ゲージまたは30ゲージ針を用いて、精製タンパク質誘導体を浅い角度で皮膚表面に注射する(例えば、非特許文献3を参照)。しかし、注射の位置の不確実性の程度によって、いくつかの偽陰性の試験結果が生じ得る。さらに、その試験は、注射部位での応答を誘導する局所注射を使用しており、マントーの手法では、物質の全身投与のために皮内注射は使用されていない。
【0010】
いくつかのグループが「皮内」注射を特徴としているものによる全身投与について報告している。そのような一つの報告では、皮下注射と「皮内」注射として記載されたものとの比較研究が行われた(非特許文献4を参照)。試験薬剤物質は、分子量約3600のタンパク質であるカルシトニンであった。薬剤を皮内注射したと述べられていたが、その注射は4mmの針を使用し、基部から60度上がった状態であった。この結果、注射物質が深さ約3.5mmに位置し、血管の多い真皮乳頭層ではなく真皮網状層の低い部分または皮下組織の中に入ったはずである。実際、このグループが、皮下組織ではなく真皮網状層の低い部分の中に注射した場合、その物質が、血管が比較的少ない真皮網状層中でゆっくりと吸収され、または皮下領域中へと拡散して、皮下での投与および吸収と機能的に同じ結果となることが予想される。そのような実際上のまたは機能的な皮下投与により、最大血漿濃度に達した時間、各アッセイ時点での濃度、および曲線下の領域における皮下投与と皮内投与を特徴としたものとの間で相違点が無いという報告が説明されるであろう。
【0011】
同様に、Bressolleらは、「皮内」注射を特徴としたもので4mm針を用いてセフタジジムナトリウムを投与した(非特許文献5を参照)。この結果、皮膚表面下に深さ4mmに注射されて、実際上のまたは機能的な皮下注射となったはずであるが、セフタジジムナトリウムが親水性であり比較的低分子量であるので、この場合は皮下での吸収が良好であったことが予想される。
【0012】
他のグループが、皮内薬剤送達装置として記載されたものについて報告した(特許文献1)。注射は、遅い速度で行うことが指示され、注射部位は、表皮下の一部の領域、すなわち表皮と真皮の境界または、真皮もしくは皮下組織の内部とされた。しかし、この文献は、真皮中への選択的な投与を示唆する教示をもたらさず、そのような選択的な投与から得ることができるどんな可能な薬物動態の利点をもその文献から示唆されなかった。
【0013】
したがって、薬剤物質を投与するための効率が良く安全な方法および装置の継続的な必要性が依然として存在する。
【0014】
2.2 糖尿病
糖尿病は、広範囲の生理的及び解剖学的異常、例えば、インスリン分泌異常、グルコース動態の変化、脂質、炭水化物、およびタンパク質の代謝の変化、高血圧、神経障害、網膜障害、血小板活性の異常、ならびに血管疾患由来の合併症リスクの上昇を特徴とする。糖尿病患者は、遺伝的に2種類に分けられる。ケトアシドーシスを防止するのにインスリンに依存する患者は、インスリン依存性糖尿病(IDDM)または1型糖尿病に罹患している。ケトアシドーシスを防止するのにインスリンに依存しない糖尿病患者は、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)または2型糖尿病に罹患している。
【0015】
糖尿病は通常、1型と2型の2種類にさらに分類される。1次性糖尿病は、インスリン依存性糖尿病(IDDM1型)、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM2型)を含み、NIDDMはさらに、非肥満型NIDDM、肥満型NIDDMおよび若年者の成人型糖尿病を含む。1次性糖尿病は、関連する疾患が存在しないことを意味するが、2次性糖尿病では、他の何らかの同定可能な状態が糖尿病の症候群を引き起こし、または発症させる。2次性糖尿病の発症に寄与するかもしれない糖尿病の症候群の例には、膵疾患、ホルモン異常、薬剤または化学物質によって誘導される状態、および遺伝性症候群がある。
【0016】
この分類でのインスリン依存性は、インスリン療法と同等ではないが、患者が、インスリンの不在下で、ケトアシドーシスのリスクを有することを意味する。インスリン依存性および非インスリン依存性という用語は、生理的状態(それぞれ、ケトアシドーシス傾向のおよびケトアシドーシス抵抗性の状態)を述べるものであるが、1型および2型は、病原性の機構(それぞれ、免疫媒介性および非免疫媒介性)を指す。この分類を用いて、(1)1型インスリン依存性糖尿病[IDDM]、(2)2型非インスリン依存性糖尿病[NIDDM]、および(3)妊娠糖尿病という1次性糖尿病の主要な3形態が認められる。糖尿病の2次性形態は、膵疾患、ホルモン異常、遺伝性症候群他などの多数の状態を包含する。
【0017】
インスリン依存性糖尿病は、小児期または思春期にしばしば発症するが、NIDDMの発症は一般に、中年期または晩年期に起こる。NIDDMの患者は、通常は体重超過であり、糖尿病患者すべての90から95%を占める。IDDMは、ウイルス感染によって誘発されるかもしれない自己免疫プロセスによるβ細胞の破壊から生じる。NIDDMは、β細胞の機能が徐々に低下し、インスリンに対する末梢抵抗の程度が変化することを特徴とする。IDDMの年間頻度は、非白人男性での100,000人当たり10例から、白人男性での100,000人当たり16例である(例えば、非特許文献6を参照)。NIDDMの罹患率は年齢とともに、特に45歳の後に増加し、白人よりも黒人の間で、また南アフリカおよび英国に住んでいるインド人などの特定の集団で高い(例えば、非特許文献7を参照)。妊娠糖尿病は、米国で年間に妊婦すべての2.4%で生じる(例えば、非特許文献8を参照)。妊娠は、インスリン抵抗性の状態でもある。このインスリン抵抗性は妊娠糖尿病で悪化し、そのことにより、NIDDMに伴う妊娠の様々な高血圧性の症候群に患者を罹患させやすくするかもしれない(例えば、非特許文献9を参照)。
【0018】
IDDMの現在の治療法にはインスリン療法が含まれ、NIDDMでは、体重超過である患者における食事の変更、ならびに例えばグリピジド、グリブリドおよびグリペリミド(gliperimide)など、β細胞からのインスリン放出を刺激することによりそれらすべてが作用する血糖降下剤、ならびにインスリン抵抗性を軽減するメトホルミンおよびチアゾリジンジオンがある。しかし、最適な薬物動態パラメータを用いた有効なインスリン療法の必要性が依然として満たされていない。
【0019】
【特許文献1】米国特許第5,007,501号明細書
【特許文献2】国際公開第01/02178号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/02179号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6,494,865号明細書
【特許文献5】米国特許第6,569,143号明細書
【非特許文献1】Cleland et al., 2001 Curr. Opin. Biotechnol. 12: 212-219
【非特許文献2】Physiology, Biochemistry, and Molecular Biology of the Skin, Second Edition, L.A. Goldsmith, Ed., Oxford University Press, New York, 1991
【非特許文献3】Flynn et al., 1994 Chest 106:1463-5
【非特許文献4】Autret et al., 1991 Therapie 46:5-8
【非特許文献5】Bressolle et al., 1993 J. Pharm. Sci. 82:1175-1178
【非特許文献6】LaPorte et al., 1981, Diabetes 30: 279
【非特許文献7】Malter et al., 1985, Br. Med. J. 291: 1081
【非特許文献8】Freinkel et al., 1985, N. Engl. J. Med. 313: 96
【非特許文献9】Bardicef et al., 1995, Am. J. Gynecol. 172: 1009-1013
【非特許文献10】Arildsson et al., 2000 Microvascular Res. 59:122-130
【非特許文献11】Physiology, Biochemistry, and Molecular Biology of the Skin, Second Edition, L.A. Goldsmith, Ed., Oxford Univ. Press, New York, 1991, p. 1060
【非特許文献12】Wilhem, Rev. Can. Biol. 30:153-172, 1971
【非特許文献13】Skobe et al., 2000 J. Investig. Dermatol. Symp. Proc. 5:14-19
【非特許文献14】Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Pub. Co. N.J. current edition
【非特許文献15】DeFronzo et al., 1979, Am. J. Physiol. 237: 214-223
【非特許文献16】DCCT Res. Group, New England J. Med, 1993, 329: 977-86
【非特許文献17】Kannel et al., 1979, Circulation, 59: 8-13
【非特許文献18】Zimmerman, 2001, Am. J. Cardiol. 88 (Supp1): 32H-36H
【非特許文献19】American Diabetes Association, 2001, Diabetes Care, 24(4): 775-8
【非特許文献20】Verges et al., 2002, Diab. Nutr. Metab 15 (Suppl.): 28-32
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、皮膚の空間を直接標的とすることにより、インスリンを対象に、好ましくはヒトに送達するための非経口投与法の改良に関し、それによって、そのような方法は、投与したインスリンの薬物動態(PK)および薬力学(PD)パラメータを劇的に変化させる。その変化したPKおよびPDパラメータは、投与したインスリンの治療効果を高める。したがって、本発明の方法は、インスリン依存性糖尿病および/または非インスリン依存性糖尿病などの糖尿病の治療、予防および/または管理に特に有用である。本発明の方法は、糖尿病に伴う1つまたは複数の症状を改善する。
【0021】
本発明の方法に従ったインスリンの皮内送達は、血糖調節の向上をもたらし、それによって、皮下インスリン送達を含むインスリン送達の従来からの方法と比べて、糖尿病の治療、予防および/または管理における治療効果が高まる。好ましくは、本発明の方法は、低血糖事象を増加させずに血糖調節の向上をもたらす。特定の作用機構に拘泥するものではないが、本発明の皮内送達法を用いて実現される血糖調節の向上は、一部は、非空腹時(すなわち、食後)と空腹時の血中グルコースレベルの両方の調節に起因する。本発明の皮内送達法は、空腹時および/または食後の高血糖状態から、インスリン送達の従来からの方法より有効に血糖を低下させる。
【0022】
本発明の方法に従ったインスリンの皮内送達は、食後の高血糖状態を調節する際に特に有用である。本明細書において、「食後」は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、食事をした後(例えば、非空腹状態)の血漿グルコース濃度を指し、食事の2時間後にしばしば測定される(すなわち、食後2時間のグルコース)。本発明の皮内送達法は、インスリン送達後の最初の2時間以内に、好ましくは最初の1時間以内に食後のグルコースレベルを有効に調節する。特定の作用機構に拘泥するものではないが、本発明の方法に従った皮内インスリン送達の結果、インスリンが最初の1時間以内に全身に有効に吸収され、それによって食後グルコース(PPG)レベルが低下する。好ましくは、インスリン送達によって、PPGレベルが少なくとも20mg/dL、少なくとも30mg/dL、少なくとも40mg/dLまたは少なくとも50mg/dL低下する。好ましい実施形態では、本発明の方法に従った皮内インスリン送達によって、PPGレベルが45mg/dL低下する。
【0023】
本発明の方法に従って送達されたインスリンにより、皮下インスリン送達を含むインスリン送達の従来からの方法と比べて生物作用能が高くなる。生物作用能は一般に、身体に対する化学物質の強さ、およびそれが生物系に対してどれ程十分にまたはどれ程の距離で作用できるかを指す。本明細書において、生物作用能は、インスリンが生物系に対してどれ程十分にまたはどれ程の距離で作用できるかを指し、空腹時血中グルコースレベルおよび食後グルコースレベルを含めた血糖調節に影響を及ぼすその能力を含む。特定の作用機構に拘泥するものではないが、本発明の方法に従って送達されたインスリンの生物作用能の増大は、一部は、送達の最初の1時間以内に速やかに全身に吸収されることに起因する。
【0024】
本発明は、溶液型のインスリン(例えば、ヒューマログ(Humalog)(登録商標))、粒子型のインスリン、およびその混合物(例えば、ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標))を投与する方法を包含する。インスリン製剤は、それだけに限らないが、単量体、二量体および六量体の状態を含めて、異なる物理的結合状態のものでもよい。標準的な組換えDNA技術によってインスリンの化学的状態を改変して、異なる結合状態での異なる化学式のインスリンを作製してもよい。代わりに、pHやZn含有量などの溶液のパラメータを変化させて、異なる結合状態のインスリン製剤としてもよい。インスリンの吸収を変化させるインスリンの他の化学的改変、あるいは添加剤または賦形剤の添加も、本発明によって包含される。
【0025】
本明細書において、皮内投与は、物質が、循環性脈管構造とリンパ性脈管構造の両方を含む皮膚脈管構造に容易に到達し、毛細血管および/またはリンパ管中へと速やかに吸収されて全身で生体利用可能となるような方法での真皮へのインスリン投与を包含するものとする。主に少なくとも深さ約0.3mmで、より好ましくは少なくとも約0.4mmで、最も好ましくは約0.5mmで、最大で約2.5mmを超えない深さで、より好ましくは約2.0mmを超えない深さで、最も好ましくは1.7mmを超えない深さで物質を沈着させると、インスリンが速やかに吸収されると考えられる。好ましくは、インスリンは、1.75mm、1.5mmまたは1.25mmの深さで本発明に従って送達される。
【0026】
皮膚の空間、好ましくは皮膚脈管構造を直接標的とすると、本発明によって教示されるように、インスリンの効果がより速やかに開始されて提供される。本発明者らは、循環性およびリンパ性の微小毛細管に選択的に到達させる調節されたID投与により、インスリンを速やかに吸収させ全身に分布させることができ、それによって、インスリンがSC投与よりも速やかにその有益な効果を発揮することができることを発見した。本発明の方法は、インスリン送達を介する血中グルコース調節などいくつかの現在の治療法をより容易にする。
【0027】
皮内区画に、好ましくは皮膚脈管構造にインスリンを送達すると、インスリン送達の従来からの方法と比べて薬物動態が向上する。本発明によれば、薬物動態の向上は、従来からのインスリン送達と比較して、生体利用効率の増大、遅延時間(Tlag)の低下、Tmaxの低下、より速やかな吸収速度、より速やかな開始および/または一定量の投与化合物のCmaxの増大を意味する。生体利用効率とは、血液区画に到達した一定投与量の送達物質の総量を意味する。これは、濃度対時間のプロットにおける曲線下の面積として一般に測定される。「遅延時間」とは、送達物質の投与と、測定可能なまたは検出可能な血液または血漿レベルとなるまでの時間との遅延を意味する。Tmaxとは、化合物の最大血中濃度に到達する時間を表す値であり、Cmaxとは、一定の投与量および投与方法で到達した最大血中濃度である。開始の時間とは、Tlag、TmaxおよびCmaxの関数であり、これらのパラメータすべてが、生物学的効果を実現するのに必要な血液(または標的組織)濃度に達するのに必要な時間に影響を及ぼす。TmaxおよびCmaxは、グラフによる結果の視覚的な検討によって決定することができ、化合物の投与についての2つの方法を比較するのに十分な情報をしばしばもたらすことができる。しかし、多数の値は、当業者に知られている数学的モデルおよび/または他の手段を用いた動態分析によって、より正確に決定することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、インスリンの送達は、例えば、送達の量を調節して、単相の薬物動態プロファイル、例えば、好ましくは皮内での吸収および分布の1形態または1経路のみを用いて、薬剤濃度対時間のプロファイルを数学的に適合させることができる動態プロファイルを得ることによる調節された形で行う。
【0029】
さらに、粒子型と溶液型のインスリンの混合物を本発明の方法に従って投与したとき、インスリンの全身での利用の急速な開始を保持しながら、インスリンの循環を延長させることが可能であることが予期せず発見された。したがって、本発明の方法の特徴的な利点は、インスリンの薬物動態プロファイルが向上することであり、その薬物動態プロファイルは、二相の(または他相の)形態の送達のものと類似し(すなわち、吸収および分布の2つ以上の形態または経路を用いて、PKプロファイルを数学的に適合させることができ)、インスリンレベルの急速なかつ高いピークが開始されることを特徴とする最初のまたは初期の相と、インスリンの循環レベルが低い状態でより長い時間持続することを特徴とするその後の後期の相の両方を示す。
【0030】
本発明によれば、例えば、微小針を基礎とする注射および注入システム、または皮内空間を正確に標的とする、当業者に知られている任意の他の手段を用いて、直接の皮内(ID)投与を実現することができる。特定の装置は、2002年1月10日に公開された特許文献2、2002年1月10日に公開された特許文献3、2002年12月17日に発行された特許文献4、および2003年5月27日に発行された特許文献5に開示されているもの、ならびに図8〜10で例示されているものが含まれ、それらの文献すべては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明の方法を用いて、インスリン送達の従来からの方法と比べたときにインスリンの薬物動態を変化させることができる。本発明の方法を用いた薬物動態パラメータの向上は、微小装置に基づく注射システムだけでなく、ID空間への針のない(needle−less)または針を用いない(needle−free)液体または粉末の弾道的注射(ballistic injection)、マントー型ID注射、微小装置を介する増強型イオン導入や皮膚への液体、固体、または他の剤形の直接的な沈着など、他の送達システムも用いて実現することができる。
【0031】
本発明の他の利点は、インスリンのより急速な全身分布およびオフセットが実現されることである。本発明の方法はまた、インスリンのより高い生体利用効率を実現する助けとなる。その直接の利点は、生体利用効率の高いID投与によって、活性の低い薬剤を用いても同様の生物学的効果が得られることである。これによって、薬剤製造業者およびおそらく消費者にとって直接の経済的利益が得られる。同様に、生体利用効率が高いと、全体の投与量を減らし、投与量が高いことに伴う患者の副作用を軽減することができる。インスリンのより急速なオフセットによって、血糖低下の速度を低下させることができる。
【0032】
本発明のさらなる他の利点は、血漿中のインスリンの最大濃度がより高くなることである。本発明者らは、本発明の方法に従って投与されたインスリンがより速やかに吸収され、それによって血漿中の初期濃度がより高くなることを発見した。そのより速やかな開始により、より少ない量のインスリンを用いても到達されるCmax値がより高くなる。
【0033】
本発明の他の利点は、全身で吸収される前にインスリンが皮膚組織区画を通過しそこで捕捉されるときに起こされる物理的なまたは動的な障壁が除去されることである。経皮投与法と異なり、機械的手段による直接のID投与は、皮膚の動的障壁特性を克服し、インスリンの薬学上のまたは物理化学的特性、あるいはその製剤の添加剤によって制限されない。
【0034】
本発明のこれらの及び他の利点は、皮膚脈管構造を直接標的とし、皮膚の皮膚空間にインスリンの調節された送達を行うことによって実現される。本発明者らは、皮内空間を特定して標的とし、送達の速度およびパターンを調節することにより、インスリンによって示される薬物動態を意外にも向上させることができ、多数の状況で変化させ、臨床的な利点が得ることができることを発見した。そのような薬物動態調節は、IVによる到達手段を除いて、他の非経口投与経路では容易に得られ、または調節することができない。
【0035】
本発明の方法を用いて、ボーラスとしてまたは注入によって、インスリンを投与することができる。本明細書において、「ボーラス」という用語は、10分より短い時間内で送達される量を意味するものとする。「注入」とは、10分より長い時間にわたる物質の送達を意味するものとする。速度を調節する手段、例えばポンプを用いて、または速度を調節する特定の手段を用いずに、例えば使用者の自己注射で、ボーラス投与または送達を実施することができることが理解される。
【0036】
本発明のインスリン製剤は、皮内送達に適したどんな形態でもよい。一つの実施形態では、本発明の皮内インスリン製剤は、流動性のある注射可能な媒体の形態、すなわち注射器で注射することができる低粘性の製剤である。流動性のある注射可能な媒体は、液体でもよい。代わりに、流動性のある注射可能な媒体は、粒子物質が懸濁している液体であり、その結果、媒体がその流動性を保持して、注入可能かつ注射可能となり、例えば、注射器で投与することができる。本発明は、インスリンが粒子型である、すなわち、溶液中に完全には溶解していない製剤を包含する。いくつかの実施形態では、インスリンの少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも75%は、粒子型である。特定の作用形態に拘泥するものではないが、インスリンが粒子型である本発明の製剤は、インスリンの沈殿を促進する薬剤を少なくとも1種有する。本発明の製剤で使用することができる沈殿剤は、例えばプロタミンなどのタンパク質性のもの、陽イオンポリマー、あるいは例えば亜鉛、他の金属やポリマーなどの非タンパク質性のものでもよい。
【0037】
特定の実施形態では、本発明の方法に従って投与するインスリン製剤は、100U/mLのインスリンリスプロ(Insulin Lispro)(Eli Lilly & Company)である。好ましくは1〜50U、最も好ましくは10Uのインスリンリスプロを、本発明の方法で使用する。他の特定の実施形態では、本発明の方法に従って投与するインスリン製剤は、20Uの予め混合された50%インスリンリスプロ(ヒューマログミックス50/50(商標)、インスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%とを含有)である。
【0038】
10国際単位/mLから、500国際単位/mLまでを含む範囲のどんな溶液濃度でも、インスリンを製剤することができる。本発明は、好ましくは、本明細書で開示される1〜50Uのインスリン製剤の投与を包含する。本発明の方法を用いると、インスリン療法の従来からの方法と同じ治療効果を得るのに、より少ない投与量のインスリンしか必要としない。本発明の方法に従って送達されるインスリン製剤は、血清グルコースレベルを低下させる際に特に有効であり、糖尿病を治療および/または予防する従来からの方法と比べて治療効果が向上している。
【0039】
本発明の皮内インスリン製剤を、単位投与形態として調製することができる。1バイアル当たりの単位投与量は、0.1〜0.5mLの製剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本発明の皮内製剤の単位投与形態は、50μL〜100μL、50μL〜200μL、または50μL〜500μLの製剤を含んでもよい。必要なら、各バイアルに滅菌希釈剤を添加することにより、これらの製剤を所望の濃度に調整することができる。
【0040】
本発明は、ヒトまたは動物に対するインスリンのID送達の臨床的有用性を高める。皮内区画に、好ましくは皮膚脈間構造に送達することによって、ID送達の臨床的有用性が高まる。SCによる到達手段を必要とせずに、インスリンの取り込み率を高める方法を開示する。この効果は、Tmaxの短縮をもたらす。潜在的に付随する利点には、一定の単位投与量でのより高い最大濃度(Cmax)、より高い生体利用効率、薬物動態または生物学的効果のより急速な開始、および貯蔵効果の低下がある。
【0041】
本発明は、皮内空間を直接標的とすることによる、哺乳動物への、好ましくはヒトへのインスリンの送達によって、インスリン依存性糖尿病および/または非インスリン依存性糖尿病などの糖尿病を治療および/または予防するための方法を提供し、インスリンを皮内空間に投与する。いくつかの実施形態では、インスリンを真皮の上部領域(すなわち、皮膚脈管構造)に沈着させる。本発明の方法に従ってインスリンを皮膚脈管構造に注入した後、それはインスリン送達の従来からの方法、例えばSC注射により投与されるインスリンで観察されるより優れた、かつ臨床的に望ましい薬物動態を示す。
【0042】
どんな理論的作用機構にも拘泥するものではないが、皮膚脈管構造への投与後に観察される急速な吸収は、そこにある血管およびリンパ管の多くの叢の結果として実現されていると考えられる。本明細書で報告するその予想外の吸収の促進について可能な説明の1つは、インスリンが皮膚脈管構造に容易に到達するようにそれを投与した後、血流の増加とび毛細管浸透性が生じることである。例えば、3mmの深さまで針を刺して挿入すると血流が増加し、このことが、痛みの刺激とは無関係であるとみなされ、ヒスタミンの組織放出に起因することが知られている(例えば、非特許文献10を参照)。このことは、皮膚の損傷に応答して誘導される急性炎症応答によって一時的に血流が増加し、毛細管浸透性を起こすという観察結果と一致する(例えば、非特許文献11および非特許文献12を参照)。それと同時に、皮内層へ注射すると、間質圧が上昇することが予想される。間質圧が約−7mmHgの(「正常範囲」を超える)値から約+2mmHgまで上昇すると、リンパ管が膨張し、リンパ流が増加する(例えば、非特許文献13を参照)。したがって、皮内層への注射によって誘導される間質圧の上昇は、リンパ流の増加、および真皮に注射された物質の吸収の促進を誘導すると考えられる。
【0043】
本発明の方法に従ったインスリンの皮内送達は、血糖調節の向上をもたらし、それによって、皮下インスリン送達を含むインスリン送達の従来からの方法と比べて、糖尿病の治療、予防および/または管理における治療効果が高まる。好ましくは、本発明の方法は、低血糖事象を増加させずに血糖調節の向上をもたらす。特定の作用機構に拘泥するものではないが、本発明の皮内送達法を用いて実現される血糖調節の向上は、一部は、非空腹時(すなわち、食後)と空腹時の血中グルコースレベルの両方の調節に起因する。本発明の皮内送達法は、空腹時および/または食後の高血糖状態から、インスリン送達の従来からの方法より有効に血糖を低下させる。
【0044】
本発明の方法に従ったインスリンの皮内送達は、食後の高血糖状態を調節する際に特に有用である。本明細書において、「食後」は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、食事をした後(例えば、非空腹状態)の血漿グルコース濃度を指す。非糖尿病患者では、空腹時の血漿グルコース濃度、例えば、8〜10時間の空腹状態で1晩経た後の濃度は、一般に70〜110mg/dLである。グルコース濃度は、食物の炭水化物が吸収される結果、食後約10分で上昇し始める。したがって、食後グルコース(PPG)プロファイルは、炭水化物の吸収、インスリンおよびグルカゴンの分泌、ならびに肝および末梢組織でのグルコース代謝に対するその協調作用によって決定される。血漿グルコース濃度のピークの大きさ及び時間は、それだけに限らないが、食事の時期、量および組成を含む様々なファクターに依存する。非糖尿病患者では、血漿グルコース濃度は、食事開始から約60分後にピークとなり、140mg/dLを超えることはまれであり、2〜3時間以内に食前のレベルに戻る。糖尿病患者、例えば内因性インスリンが分泌されない1型糖尿病患者では、ピークのインスリン濃度の時間および高さ、ならびに生じたグルコースレベルは、インスリン投与の量、型、および経路に依存する。2型糖尿病では、ピークのインスリンレベルは遅延し、PPGレベルを調節するのに不十分である。さらに、1型および2型糖尿病患者では、インスリンおよびグルカゴン分泌、肝でのグルコース取り込み、肝でのグルコース産生の抑制および末梢でのグルコース取り込みの異常などのさらなる合併症は、より高くより長いPPGの偏位、すなわち食前から食後のグルコース濃度の変化の一因となる。したがって、PPG濃度の上昇は、次善のグルコース調節の一因となる。
【0045】
本発明の皮内送達法は、インスリン送達後の最初の2時間以内に、好ましくは最初の1時間以内に食後グルコースレベルを有効に調節する。特定の作用機構に拘泥するものではないが、本発明の方法に従った皮内インスリン送達の結果、インスリンが最初の1時間以内に全身に有効に吸収され、それによってPPGレベルが低下する。好ましくは、インスリン送達によって、PPGレベルが少なくとも20mg/dL、少なくとも30mg/dL、少なくとも40mg/dLまたは少なくとも50mg/dL低下する。好ましい実施形態では、本発明の方法に従った皮内インスリン送達によって、PPGレベルが45mg/dL低下する。
【0046】
本発明の方法に従って送達されたインスリンにより、皮下インスリン送達を含むインスリン送達の旧来の方法と比べて生物作用能が高くなる。本発明の方法に従ってインスリンを送達すると、インスリン送達の従来からの方法と比べて、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%生物作用能が高くなる。本明細書において、生物作用能は、インスリンが生物系に対してどれ程十分にまたはどれ程の距離で作用できるかを指し、空腹時血中グルコースレベル、食後グルコースレベル、および身体によるグルコースの利用率を含めた血糖調節に影響を及ぼすその能力を含む。特定の作用機構に拘泥するものではないが、本発明の方法に従って送達されたインスリンの生物作用能の増大は、最初の1時間以内に速やかに全身に吸収されることに一部起因する。
【0047】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、食後グルコースレベルを調節し、それによって、それだけに限らないが、虚血性心疾患、心筋梗塞、脳卒中、網膜障害、神経障害および腎不全を含めて、糖尿病によって起こる微小血管または大血管の合併症の発症が防止され、または遅延する。特定の作用機構に拘泥するものではないが、食後の高血糖状態は、内皮の機能異常、およびアテローム発生における最初の段階の1つと関連する。
【0048】
さらに、粒子型と溶液型のインスリンの混合物を本発明の方法に従って投与したとき、インスリンの全身での利用の急速な開始を保持しながら、インスリンの循環の延長を実現することが可能であることが予期せず発見された。特定の理論に限るものではないが、溶液型のインスリンは、皮内投与したとき、インスリンの全身での利用の急速な開始の一因になるが、特定の形態のインスリンは、生物学的に活性な形態で直ちに利用されない。一つの理論に限るものではないが、インスリンの特定の製剤中に存在する沈殿剤(例えば、プロタミン)が拡散するにつれて、インスリンが溶液中に徐々に溶解するようになり、長時間にわたって全身に循環する。したがって、本発明は、ヒト対象の皮膚の皮内区画に、粒子型と可溶化型の両方のインスリンを含有するインスリン製剤を送達するステップを含む、ヒトを対象として、インスリンの全身での利用を皮下送達より急速に開始させながら、インスリンの循環の延長させる方法を包含するものである。
【0049】
本明細書において、特に示さない限り、「循環の延長」という用語は、本発明の方法を用いて送達されるインスリンの循環半減期が、皮内送達の他の方法(例えば、溶液型のインスリンの皮内送達)を用いて送達されるインスリンの循環半減期より長いことを意味する。さらに、その用語はまた、本発明の方法を用いて送達されるインスリンの循環半減期が、他の区画(例えば、皮下)に送達されるインスリンの循環半減期と少なくとも同等であり、またはそれより長いことをも意味する。
【0050】
他の実施形態では、本発明の方法を用いて投与する製剤中に含まれる粒子型と溶液型のインスリンの間の比率を変化させることによって、インスリンの放出速度を調節することができる。したがって、本発明はまた、ヒト対象中でインスリンの循環半減期を調節する方法をも包含し、その方法は、ヒト対象の皮膚の皮内区画に、粒子型と溶液型のインスリンの間の比率が変化する粒子型と溶液型の両方のインスリンを含む組成物を投与するステップを含む。したがって、本発明の方法は、全身での利用の急速な開始を同時に実現しながら、インスリンの循環半減期を調節する調節手段を提供する。
【0051】
さらに、本発明の方法を用いて、他の治療薬、特にタンパク質を基礎とする治療薬の循環半減期を、それらの開始を促進することによってその全身での利用を促進しながら同様に調節することができる。本発明の方法は、延長放出製剤に特に好ましい。したがって、他の実施形態では、本発明は、ヒト対象中で治療薬の循環半減期を調節する方法を包含し、その方法は、ヒト対象の皮膚の皮内区画に、粒子型と溶液型の治療薬の比率が変化する粒子型と溶液型の両方の治療薬を含む組成物を投与するステップを含む。特定の実施形態では、治療薬はタンパク質である。本発明の方法は、鎮痛剤、インターフェロンなどの腫瘍用薬剤、成長ホルモン、タンパク質受容体、治療用抗体、またはGCSF(ニューポジェン(Neupogen))やエポジェン(epogen)などの細胞増殖の刺激因子に特に好ましい。最も好ましい実施形態では、本発明の方法から利点が得られる薬剤は、PEG化型または貯蔵型である。
【0052】
本発明は、抗腫瘍剤を投与するための方法を提供する。そのような抗腫瘍剤には、サイトカイン、血管新生阻害剤、古典的な抗癌剤および治療用抗体を含む様々な薬剤が含まれる。本発明に従って使用することができるサイトカイン、免疫調節薬およびホルモンには、それだけに限らないが、インターフェロン、インターロイキン(IL−1、−2、−4、−6、−8、−12)および細胞増殖因子がある。
【0053】
本発明の方法および組成物で使用することができる血管新生阻害剤には、それだけに限らないが、アンギオスタチン(プラスミノーゲンの断片);抗血管新生性アンチトロンビンIII;アンギオザイム(Angiozyme);ABT−627;Bay12−9566;ベネフィン;ベバシズマブ;BMS−275291;軟骨由来抑制因子(CDI);CAI;CD59補体断片;CEP−7055;Col3;コンブレタスタチンA−4;エンドスタチン(コラーゲンXVIIIの断片);フィブロネクチンの断片;Gro−β;ハロフジノン;ヘパリナーゼ;ヘパリンヘキササッカリドの断片;HMV833;ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG);IM−862;インターフェロンα/β/γ;インターフェロン誘導タンパク質(IP−10);インターロイキン12;クリングル5(プラスミノーゲンの断片);マリマスタット;メタロプロテイナーゼ抑制因子(TIMP);2−メトキシエストラジオール;MMI270(CGS27023A);MoAb IMC−1C11;ネオバスタット;NM−3;パンゼム;PI−88;胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤;プラスミノーゲン活性化因子阻害因子;血小板因子4(PF4);プリノマスタット(Prinomastat);プロラクチン16kD断片;プロリファリン(Proliferin)関連タンパク質(PRP);PTK787/ZK222594;レチノイド;ソリマスタット(Solimastat);スクワラミン;SS3304;SU5416;SU6668;SU11248;テトラヒドロコルチゾール−S;テトラチオモリブデート;サリドマイド;トロンボスポンジン1(TSP−1);TNP−470;形質転換成長因子β(TGF−b);バスキュロスタチン;バソスタチン(カルレティキュリンの断片);ZD6126;ZD6474;ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI);およびビスホスホネートがある。
【0054】
本発明の方法に従って使用することができる他の抗癌剤には、それだけに限らないが、アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール;アクロニン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アムボマイシン(ambomycin);酢酸アメタントロン;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アンスラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン(asperlin);アザシチジン;アゼテパ(azetepa);アゾトマイシン(azotomycin);バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;塩酸ビサントレン;ビスナフィドジメシレート;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナールナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベタイマー(carbetimer);カルボプラチン;カルムスチン;塩酸カルビシン(carubicin hydrochloride);カルゼレシン;セラフィンゴール;クロラムブシル;シロレマイシン(cirolemycin);シスプラチン;クラドリビン;クリスナトールメシレート;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;デザグアニンメシレート;ジアジコン;ドセタキセル;ドキソルビシン;塩酸ドキソルビシン;ドロロキシフェン;クエン酸ドロロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;デュアゾマイシン(duazomycin);エダトレキセート;塩酸エフロルニチン;エルサミトルシン(elsamitrucin);エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;塩酸エピルビシン;エルブロゾール(erbulozole);塩酸エソルビシン(esorubicin hydrochloride);エストラムスチン;リン酸エストラムスチンナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン(etoprine);塩酸ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;リン酸フルダラビン;フルオロウラシル;フルロシタビン;ホスキドン;ホストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;塩酸ゲムシタビン;ヒドロキシ尿素;塩酸イダルビシン;イフォスファミド;イルモホシン;インターロイキン(組換えインターロイキン12、またはrIL12を含む);インターフェロンα2a;インターフェロンα2b;インターフェロンαn1;インターフェロンαn3;インターフェロンβIa;インターフェロンγIb;イプロプラチン;塩酸イリノテカン;酢酸ランレオチド;レトロゾール;酢酸ロイプロリド;塩酸リアロゾール;ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;塩酸ロソキサントロン;マソプロコール;メイタンシン;塩酸メクロレタミン;酢酸メゲストロール;酢酸メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキセート;メトトレキセートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;ミトカルシン(mitocarcin);ミトクロミン(mitocromin);ミトギリン(mitogillin);ミトマルシン(mitomalcin);マイトマイシン;ミトスパー(mitosper);ミトタン;塩酸ミトキサントロン;マイコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペグアスパルガーゼ;ペリオマイシン(peliomycin);ペンタムスチン(pentamustine);硫酸ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;塩酸ピロキサントロン;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン(prednimustine);塩酸プロカルバジン;ピューロマイシン;塩酸ピューロマイシン;ピラゾフリン(pyrazofurin);リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;塩酸サフィンゴール;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセートナトリウム;スパルソマイシン;塩酸スピロゲルマニウム;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌル;タリソマイシン;テコガランナトリウム;テガフール;塩酸テロキサントロン;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン(thiamiprine);チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;クエン酸トレミフェン;酢酸トレストロン(trestolone acetate);リン酸トリシリビン;トリメトレキセート;グルクロン酸トリメトレキセート;トリプトレリン;塩酸ツブロゾール;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;硫酸ビンエピジン(vinepidine sulfate);硫酸ビングリシネート(vinglycinate sulfate);硫酸ビンロイロシン(vinleurosine sulfate);酒石酸ビノレルビン;硫酸ビンロシジン(vinrosidine sulfate);硫酸ビンゾリジン(vinzolidine sulfate);ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;塩酸ゾルビシン(zorubicin hydrochloride)がある。他の抗癌剤には、それだけに限らないが、20−エピ−1,25ジヒドロキシビタミンD3;5−エチルウラシル;アビラテロン;アクラルビシン;アシルフルベン;アデシペノール(adecypenol);アドゼレシン;アルデスロイキン;ALL−TK拮抗剤;アルトレタミン;アンバムスチン;アミドックス(amidox);アミフォスチン;アミノレブリン酸;アムルビシン;アムサクリン;アナグレライド;アナストロゾール;アンドログラホリド;血管新生阻害剤;拮抗剤D;拮抗剤G;アンタレリクス;抗背方化形態形成タンパク質1;抗アンドロゲン、前立腺癌;抗エストロゲン;抗ネオプラストロン(antineoplaston);アンチセンスオリゴヌクレオチド;アフィジコリングリシネート;アポトーシス遺伝子調節因子;アポトーシス制御因子;アプリン酸;ara−CDP−DL−PTBA;アルギニンデアミナーゼ;アスラクリン(asulacrine);アタメスタン;アトリムチン;アキシナスタチン1(axinastatin 1);アキシナスタチン2;アキシナスタチン3;アザセトロン;アザトキシン(azatoxin);アザチロシン;バッカチンIII誘導体;バラノール(balanol);バチマスタット;BCR/ABL拮抗剤;ベンゾクロリン(benzochlorin);ベンゾイルスタウロスポリン;βラクタム誘導体;βアレチン(beta−alethine);ベタクラマイシンB;ベツリン酸;bFGF阻害剤;ビカルタミド;ビサントレン;ビスアジリジニルスペルミン;ビスナフィド;ビストラテンA(bistratene A);ビゼレシン;ブリフレート(breflate);ブロプリミン;ブドチタン;ブチオニンスルホキシミン;カルシポトリオール;カルホスチンC;カンプトセシン誘導体;カナリア痘IL−2;カペシタビン;カルボキサミド−アミノ−トリアゾール;カルボキシアミドトリアゾール;CaRest M3;CARN700;軟骨由来抑制因子;カルゼレシン;カゼインキナーゼ阻害剤(ICOS);カスタノスペルミン;セクロピンB;セトロレリクス;クロリン;クロロキノサリンスルホンアミド;シカプロスト;シスポルフィリン;クラドリビン;クロミフェンアナログ;クロトリマゾール;コリスマイシンA(collismycin A);コリスマイシンB;コンブレタスタチンA4;コンブレタスタチンアナログ;コナゲニン;クラムベシジン816(crambescidin 816);クリスナトール;クリプトフィシン8(cryptophycin 8);クリプトフィシンA誘導体;クラシンA(curacin A);シクロペンタンセラキノン(cyclopentanthraquinone);シクロプラタム(cycloplatam);シペマイシン(cypemycin);シタラビンオクホスファート;細胞溶解因子;サイトスタチン;ダクリキシマブ(dacliximab);デシタピン;デヒドロダイデムニンB(dehydrodidemnin B);デスロレリン;デキサメサゾン;デキシホスファミド(dexifosfamide);デクスラゾキサン;デクスベラパミル;ジアゾコン(diaziquone);ダイデムニンB;ダイドックス(didox);ジエチルノルスペルミン;ジヒドロ−5−アザシチジン;9−ジヒドロタキソール;ジオキサマイシン(dioxamycin);ジフェニルスピロムスチン;ドセタキセル;ドコサノール;ドラセトロン;ドキシフルリジン;ドロロキシフェン;ドロナビノール;デュオカルマイシンSA;エブセレン;エコムスチン;エデルホシン;エドレコロマブ;エフロルニチン;エレメン;エミテフル;エピルビシン;エプリステリド;エストラムスチンアナログ;エストロゲン作用剤;エストロゲン拮抗剤;エストラニゾール;リン酸エトポシド;エキセメスタン;ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フィルグラスチム;フィナスラリド;フラボピリドール;フレゼラスチン;フルアステロン(fluasterone);フルダラビン;塩酸フルオロダウノルニシン(fluorodaunorunicin hydrochloride);ホルフェニメクス;ホルメスタン;ホストリエシン;ホテムスチン;ガドリニウムテキサフィリン;硝酸ガリウム;ガロシタビン;ガニレリクス(ganirelix);ゼラチナーゼ阻害剤;ゲムシタビン;グルタチオン阻害剤;ヘプスルファム(hepsulfam);ヘレグリン;ヘキサメチレンビスアセトアミド;ヒペリジン;イバンドロン酸;イダルビジン;イドキシフェン;イドラマントン;イルモホシン;イロマスタット;イミダゾアクリドン;イミキモド;免疫賦活ペプチド;インスリン様成長因子1受容体阻害剤;インターフェロン作用剤;インターフェロン;インターロイキン;イオベングアン;ヨードドキソルビシン;4−イポメアノール(ipomeanol);イロプラクト(iroplact);イルソグラジン;イソベンガゾール(isobengazole);イソホモハリコンドリンB(isohomohalicondrin B);イラセトロン;ジャスプラキノリド;カハラリドF(kahalalide F);ラメラリン−Nトリアセテート;ランレオチド;レイナマイシン;レノグラスチム;硫酸レンチナン;レプトールスタチン(leptolstatin);レトロゾール;白血病阻害因子;白血球αインターフェロン;ロイプロリド+エストロゲン+プロゲステロン;リュープロリレン;レバミゾール;リアロゾール;直鎖ポリアミンアナログ;親油性二糖ペプチド;親油性白金化合物;リソクリンアミド7(lissoclinamide 7);ロバプラチン;ロンブリシン;ロメトレキゾール;ロニダミン;ロソキサントロン;ロバスタチン;ロキソリビン;ルルトテカン(lurtotecan);ルテチウムテキサフィリン;リソフィリン(lysofylline);溶解ペプチド;マイタンシン;マンノスタチンA;マリマスタット;マソプロコール;マスピン(maspin);マトリリシン阻害剤;マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤;メノガリル;メルバロン(merbarone);メテレリン;メチオニナーゼ;メトクロプラミド;MIF阻害剤;ミフェプリストン;ミルテフォシン;ミリモスチム;不整合二本鎖RNA;ミトグアゾン;ミトラクトール;マイトマイシンアナログ;メトナフィド;マイトトキシン線維芽細胞増殖因子−サポニン;ミトキサントロン;モファロテン;モルグラモスタム;モノクローナル抗体;ヒト絨毛性ゴナドトロピン;モノホスホリル脂質A+ミオバクテリウム(myobacterium)細胞壁sk;モビダゾール;多剤耐性遺伝子阻害剤;複数腫瘍抑制遺伝子1に基づく療法;マスタード抗癌剤;マイカペルオキシドB(mycaperoxide
B);マイコバクテリウム(mycobacterial)細胞壁抽出物;ミリアポロン(myriaporone);N−アセチルジナリン(N−acetyldinaline);N−置換ベンズアミド;ナファレリン;ナグレスチップ(nagrestip);ナロキソン+ペンタゾシン;ナパビン(napavin);ナフテルビン;ナルトグラスチム;ネダプラチン;ネモルビシン(nemorubicin);ネリドロン酸;中性エンドペプチダーゼ;ニルタニド;ニサマイシン(nisamycin);一酸化窒素調節因子;ニトロキシド抗酸化剤;ニトルリン(nitrullyn);O6−ベンジルグアニン;オクトレオチド;オキセノン(okicenone);オリゴヌクレオチド;オナプリストン;オンダンセトロン;オンダンセトロン;オラシン(oracin);経口サイトカイン誘導剤;オルマプラチン;オサラロン;オキサリプラチン;オキザウノマイシン(oxaunomycin);パクリタキセル;パクリタキセルアナログ;パクリタキセル誘導体;パラウアミン(palauamine);パルミトイルリゾキシン;パミドロン酸;パナキシトリオール;パノミフェン;パラバクチン(parabactin);パゼリプチン;ペグアスパルガーゼ;ペルデシン;ポリ硫酸ペントサンナトリウム;ペントスタチン;ペントロゾール(pentrozole);ペルフルブロン;ペルホスファミド;ペリリルアルコール;フェナジノマイシン;酢酸フェニル;ホスファターゼ阻害剤;ピシバニール;塩酸ピロカルピン;ピラルビシン;ピリトレキシム;プラセチンA(placetin A);プラセチンB;プラスミノーゲン活性化因子阻害因子;白金複合体;白金化合物;白金−トリアミン複合体;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニゾン;プロピルビスアクリドン;プロスタグランジンJ2;プロテアソーム阻害剤;プロテインAを基礎とする免疫調節因子;プロテインキナーゼC阻害剤;プロテインキナーゼC阻害剤;ミクロアルガル(microalgal);タンパク質チロシンホスファターゼ阻害剤;プリンヌクレオチドホスファターゼ阻害剤;プルプリン;ピラゾロアクリジン;ピリドキシル酸化ヘモグロビンポリオキシエチレン結合物;raf拮抗剤;ラルチトレキセド;ラモセトロン;rasファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤;ras阻害剤;ras−GAP阻害剤;脱メチル化レテリプチン;エチドロン酸レニウムRe186;リゾキシン;リボザイム;RIIレチンアミド;ログレチミド;ロヒツキン(rohitukine);ロムルチド;ロキニメクス;ルビジノンB1(rubiginone B1);ルボキシル(ruboxyl);サフィンゴール;サイントピン(saintopin);SarCNU;サルコフィトールA;サルグラモスチム;Sdi1擬態物;セムスチン;老化由来抑制因子1;センスオリゴヌクレオチド;シグナル伝達阻害剤;シグナル伝達調節因子;単鎖抗原結合タンパク質;シゾフィラン;ソブゾキサン;ナトリウムボロカプテート(sodium borocaptate);酢酸フェニルナトリウム;ソルベロール;ソマトメジン結合タンパク質;ソネルミン;スパルホス酸;スピカマイシンD;スピロムスチン;スプレノペンチン;スポンジスタチン1;スクワラミン;幹細胞阻害剤;幹細胞分裂阻害剤;スチピアミド(stipiamide);ストロメリシン阻害剤;スルフィノシン(sulfinosine);超活性血管作用性腸ペプチド拮抗剤;スラジスタ;スラミン;スワンソニン;合成グリコサミノグリカン;タリムスチン;タモキシフェンメチオジド;タウロムスチン;タザロテン;テコガランナトリウム;タガフール;テルラピリリウム(tellurapyrylium);テロメラーゼ阻害剤;テモポルフィン;テモゾロミド;テニポシド;テトラクロロデカオキシド;テトラゾミン(tetrazomine);タリブラスチン(thaliblastine);チオコラリン;トロンボポエチン;トロンボポエチン擬態物;チマルファシン;サイモポエチン受容体作用剤;チモトリナン;甲状腺刺激ホルモン;スズエチルエチオプルプリン;チラパザミン;二塩化チタノセン;トプセンチン(topsentin);トレミフェン;全能性幹細胞因子;翻訳阻害剤;トレチノイン;トリアセチルウリジン;トリシリビン;トリメトレキセート;トリプトレリン;トロピセトロン;ツロステリド;チロシンキナーゼ阻害剤;チロホスチン;UBC阻害剤;ウベニメクス;泌尿生殖洞由来増殖阻害因子;ウロキナーゼ受容体拮抗剤;バプレオチド;バリオリンB;ベクターシステム、赤血球遺伝子治療;ベラレソール;ベラミン(veramine);ベルジン(verdin);ベルテポルフィン;ビノレルビン;ビンキサルチン;ビタクシン;ボロゾール;ザノテロン(zanoterone);ゼニプラチン;ジラスコルブ;およびジノスタチンスチマラマーがある。好ましいさらなる抗癌剤は、5−フルオロウラシルおよびロイコボリンである。
【0055】
本発明の方法に従って投与することができる抗腫瘍薬の他の例には、それだけに限らないが、急性腎異種移植拒絶反応防止用の免疫抑制性のヒト化抗CD25モノクローナル抗体であるZENAPAX(登録商標)(ダクリズマブ)(Roche Pharmaceuticals、Switzerland);ネズミ抗17−IA細胞表面抗原IgG2a抗体であるPANOREX(商標)(Glaxo Wellcome/Centocor);ネズミ抗イディオタイプ(GD3イディオタイプ)IgG抗体であるBEC2(ImClone System);キメラ抗EGFR IgG抗体であるIMC−C225(ImClone System);ヒト化抗αVβ3インテグリン抗体であるVITAXIN(商標)(Applied Molecular Evolution/MedImmune);ヒト化抗CD33 IgG抗体であるSmart M195(Protein Design Lab/Kanebo);ヒト化抗CD22 IgG抗体であるLYMPHOCIDE(商標)(Immunomedics);ヒト化抗ICAM3抗体であるICM3(ICOS Pharm);霊長類化抗CD80抗体であるIDEC−114(IDEC Pharm/Mitsubishi);ヒト化抗CD40L抗体であるIDEC−131(IDEC/Eisai);霊長類化抗CD4抗体であるIDEC−151(IDEC);霊長類化抗CD23抗体であるIDEC−152(IDEC/Seikagaku);ヒト化CD3IgGであるSMART抗CD3(Protein Design Lab);ヒト化抗補体因子5(C5)抗体である5G1.1(Alexion Pharm);ヒト化抗TNFα抗体であるD2E7(CAT/BASF);ヒト化抗TNFαFab断片であるCDP870(Celltech);霊長類化抗CD4 IgG1抗体であるIDEC−151(IDEC Pharm/SmithKline Beecham);ヒト化抗CD4 IgG抗体であるMDX−CD4(Medarex/Eisai/Genmab);ヒト化抗TNFα IgG4抗体であるCDP571(Celltech);ヒト化抗α4β7抗体であるLDP−02(LeukoSite/Genentech);ヒト化抗CD4 IgG抗体であるOrthoClone OKT4A(Ortho Biotech);ヒト化抗CD40L IgG抗体であるANTOVA(商標)(Biogen);ヒト化抗VLA−4 IgG抗体であるANTEGREN(商標)(Elan);およびヒト抗TGFβ抗体であるCAT−152(Cambridge Ab Tech)がある。
【0056】
本明細書において、特に示さない限り、「循環半減期を調節する」という用語は、治療薬の循環半減期を延長または短縮することを意味し、その結果、その治療薬の活性持続時間がそれぞれ長くまたは短くなる。本発明では、両方の型を含む混合物中で、本発明の方法を用いて送達される粒子型と溶液型の治療薬の比率を変化させることにより、治療薬の循環半減期を調節することができる。原理上、粒子型と溶液型の比率が高いほど、循環半減期が長くなる。本発明の方法を用いて、当該技術分野の通常の技術を有する者、ならびに当該技術分野を熟知している者により、特定の薬剤の所望の循環半減期を容易に実現することができる。当該技術分野で知られている任意の方法、ならびに本明細書に記載の方法を用いて、治療薬の循環半減期を決定することができる。
【0057】
5.1.インスリン製剤
本発明は、即効型、作用時間中間型、および長時間作用型のインスリン製剤を含む、溶液型のインスリン、粒子型のインスリンおよびその混合物を投与する方法を包含し、これらは、任意の種から得ることもでき、あるいは当業者に知られている任意の組換えDNA技術、または新たなインスリンアナログを作製する任意の他の方法によって作製することもできる。表1に、使用可能なインスリン製剤およびその作用形態の非限定的な例を示し、そのすべてが本発明内に包含される。本発明の方法および製剤で使用するインスリン製剤は、1種または複数種のインスリン製剤の混合物でもよい。
【0058】
本発明は、溶液型のインスリン(例えば、ヒューマログ(登録商標))、粒子型のインスリン(例えば、ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標))、およびその混合物を投与する方法を包含する。インスリン製剤は、それだけに限らないが、単量体、二量体および六量体の状態を含めて、様々な物理的結合状態のものでもよい。標準的な組換えDNA技術によってインスリンの化学的状態を改変して、様々な結合状態での様々な化学式のインスリンを作製することができる。代わりに、pHやZn含量などの溶液のパラメータを変化させて、様々な結合状態のインスリン製剤とすることもできる。インスリンの他の化学的、生化学的または遺伝子改変も、本発明によって包含される。
【0059】
治療の目的では、インスリンの投与量および濃度は、単位(U)で表される。インスリンの1単位は、空腹時のウサギで血中グルコースの濃度を45mg/dL(2.5mM)に低下させるのに必要な量と同じである。現在の国際標準は、ウシおよびブタのインスリンの混合物であり、1mg当たり24Uを含有する。インスリンの同種製剤は、1mg当たり25〜30mgを含有する。通常、最も市販されているインスリンの製剤は、濃度100U/mL(0.6mM)の溶液または懸濁液で供給されている。本発明は、1〜50U、好ましくは少なくとも10U、最も好ましくは50Uのインスリンを、皮内空間に、好ましくは真皮乳頭層に投与するステップを包含する。本発明の方法を用いると、インスリン療法の従来からの方法と同じ治療効果を得るのに、より少ない投与量のインスリンしか必要としない。本発明の方法に従って送達されるインスリン製剤は、血清グルコースレベルを低下させる際に特に有効であり、糖尿病を治療および/または予防する従来からの方法と比べて治療効果が向上している。
【0060】
インスリンの製剤は、それだけに限らないが、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマなどを含めた異なる動物種に由来するものでもよい。標準的な組換えDNA技術によってインスリンの化学的状態を改変して、異なる結合状態での異なる化学式のインスリンを作製することができる。代わりに、pHやZn含量などの溶液のパラメータを変化させて、異なる結合状態のインスリン製剤とすることもできる。市販されているインスリンの製剤は、通常中性pHの緩衝液中に溶解した規則(レギュラー)結晶性亜鉛インスリンである。この製剤は、作用開始が速く、例えば0.3〜0.7時間であるが、活性の持続時間が短く、例えば5〜8時間である。インスリン製剤の非限定的な例は、ヒューマリンR(Humulin R)(登録商標)(Lilly & Company)、ノボリンR(Novolin R)(登録商標)、アクトラピッド(Actrapid)、ヴェロスリン(Velosulin)、セミレンテ(Semilente)である。セミレンテとレギュラーインスリンの吸収動態は同様であるが、セミレンテは作用持続時間が長く、すなわち12〜16時間である。過去数年間にわたって、作用時間が非常に短いインスリンアナログであるリスプロ(Lispro)(ヒューマログ(登録商標))およびアスパルト(Aspart)(ノボラピッド(NovoRapid)(登録商標))の使用が増えてきており、これらは作用開始およびピークも短いが、作用の持続時間も短い。最も頻繁に使用される他の製剤は、中間のプロタミン含有ハーゲドルン(NPH)インスリン(イソフェンインスリン懸濁液)およびレンテインスリン(インスリン亜鉛懸濁液)である。NPHインスリンは、リン酸緩衝液中の亜鉛およびプロタミンとの複合体のインスリンの懸濁液である。レンテインスリンは、酢酸緩衝液中の結晶化インスリンと無晶性インスリンの混合物であり、インスリンの溶解性を低下させる。本発明の方法で使用される製剤用の粒子または懸濁液インスリンの非限定的な例には、NPHイレチン(Iletin)II、レンテイレチンII、プロタファン(Protaphane)NPH、レンタード(Lentard)、モノタード(Monotard)、ミックスタード(Mixtard)、ヒューマリンN、ノボリンN、ノボリンL、ヒューマリンL、ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)、ヒューマログ(登録商標)NPLがある。
【0061】
ウルトラレンテインスリン(持続型インスリン亜鉛懸濁液)、プロタミン亜鉛インスリン懸濁液およびグラルギン(Glargine)(Lantus(登録商標))など作用時間が非常に長いインスリンの投与も、本発明に包含される。それらは作用開始が非常に遅く、作用のピークが長く比較的「平坦」である。このインスリンは、1日中低い基底濃度のインスリンを供給する。これらの製剤の非限定的な例には、ウルトラレンテイレチンI、PZIイレチンIIがある。
【0062】
【表1】

【0063】
いくつかの実施形態では、本発明のインスリン製剤は、治療上有効な量のインスリン、および1種または複数種の他の添加剤を含む。本発明のインスリン製剤に使用することができる添加剤には、例えば、湿潤剤、乳化剤、インスリンの四次構造を変化させる薬剤、またはpH緩衝剤がある。本発明のインスリン製剤は、糖類やポリオールなどの1種または複数種の他の賦形剤を含んでもよい。製剤上許容される担体、希釈剤、および他の賦形剤のさらなる例は、非特許文献14に示され、そのすべては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明は、インスリンが粒子型である、すなわち、溶液中に完全には溶解していない製剤を包含する。いくつかの実施形態では、インスリンの少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも75%は、粒子型である。特定の作用形態に拘泥するものではないが、インスリンが粒子型である本発明の製剤は、インスリンの沈殿を促進する薬剤を少なくとも1種有する。本発明の製剤で使用することができる沈殿剤は、例えばプロタミンなどのタンパク質性のもの、陽イオンポリマー、あるいは例えば亜鉛、他の金属やポリマーなどの非タンパク質性のものでもよい。
【0065】
送達するまたは投与するインスリンの形態には、製剤上許容される希釈剤または溶媒中のその溶液、乳剤、懸濁剤、ゲル剤、懸濁したまたは拡散した微小およびナノ粒子、ならびに同じもののin−situ形成賦形剤(in−situ forming vehicle)などの粒子が含まれる。本発明のインスリン製剤は、皮内送達に適したどんな形態でもよい。一つの実施形態では、本発明の皮内インスリン製剤は、流動性のある注射可能な媒体の形態、すなわち注射器またはインスリンペン(insulin pen)で注射することができる低粘性の製剤である。流動性のある注射可能な媒体は、液体でもよい。代わりに、流動性のある注射可能な媒体は、粒子物質が懸濁している液体であり、その結果、媒体がその流動性を保持して、注入可能でかつ注射可能となり、例えば、注射器で投与することができる。特定の実施形態では、本発明の方法に従って投与するインスリン製剤は、100U/mLのインスリンリスプロ(Eli Lilly & Company)である。好ましくは1〜50U、最も好ましくは10Uのインスリンリスプロを本発明の方法で使用する。他の特定の実施形態では、本発明の方法に従って投与されるインスリン製剤は、20Uの予め混合された50%インスリンリスプロ(ヒューマログミックス50/50(商標)、インスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%とを含有)である。
【0066】
本発明の皮内インスリン製剤を、単位投与形態として調製することができる。1バイアル当たりの単位投与量は、0.1から0.5mLの製剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本発明の皮内製剤の単位投与形態は、50μL〜100μL、50μL〜200μL、または50μL〜500μLの製剤を含んでもよい。必要なら、各バイアルに滅菌希釈剤を添加することにより、これらの製剤を所望の濃度に調整することができる。本発明の方法に従って投与するインスリン製剤は、皮内空間に負荷がかかり過ぎてSC区画など1つまたは複数の他の区画に分割され得る量では投与されない。
【0067】
5.2.インスリン製剤の投与
いくつかの実施形態では、本発明は、好ましくは皮内空間、特に皮膚脈管構造を、それを完全に通過させずに直接的にかつ選択的に標的とすることにより、本明細書に記載および例示されたインスリン製剤を、対象の皮膚の皮内区画に皮内送達する方法を包含する。上記に記載の方法に従ってインスリン製剤を調製した後、通常その製剤を皮内送達用の注射装置、例えば注射器またはインスリンペンに移す。インスリンは、バイアルやカートリッジなど、皮内送達用に特別に設計されている市販の製剤でもよい。当該技術分野で知られている、または2002年1月10日に公開された特許文献2、および2002年1月10日に公開された特許文献3で開示されている任意の皮内装置および方法を用いて、本発明のインスリン製剤を投与する。
【0068】
本発明は、一部は、本明細書に記載および例示されたインスリン製剤を、皮内区画、特に皮膚脈管構造に送達すると、例えば糖尿病治療に対する治療および臨床上の効果がもたらされるという本発明者らの発見に基づいている。本発明のインスリン製剤は、皮内空間内での吸収取り込み率が高い。
【0069】
皮内空間を標的としてインスリン製剤の皮内投与を行う実際の方法は、通り過ぎずに皮内空間内の標的とする所望の深さまでそれが対象の皮膚に貫入する限り重要でない。ほとんどの場合、その装置は、深さ約0.5〜2mmまで皮膚に貫入する。本発明は、単一のまたは複数の針アレイで使用する、従来からの知られている型すべての注射針、カテーテルまたは微小針を包含する。皮膚到達手段は、弾道的注射装置を含めた針のない装置を含んでもよい。本明細書において「針」および「複数針」という用語は、どんな斜面を有しても、または先端を有していなくても、そのような針様構造をすべて包含するものとする。本明細書において、微小針という用語は、そのような構造が事実上円筒形であるとき、30ゲージ以下の、通常約31〜50ゲージの構造を包含するものとする。したがって、微小針という用語に包含される非円筒形構造は、直径が同等のものであり、錐体状、長方形、八角形、楔形、および他の幾何学的形状のものを含む。それらも、どんな斜面、斜面の組合せを有してもよく、先端を欠いてもよい。また、本発明の方法は弾道的液体注射装置、粉末噴出送達装置、圧電、起電力、電磁気援助型送達装置、気体援助型送達装置をも含み、それらは皮膚に直接貫入して、送達するためのアクセスを与え、または皮膚空間内の標的の位置に直接物質を送達する。
【0070】
しかし、好ましくは、その装置は、皮内空間内の所望の深さでの皮膚の貫入を調節するための構造的手段を有することが好ましい。これは、最も典型的には、針を取り付ける支持構造または台の形をとることができる皮膚到達手段の柄と結合した広い領域または受け口によって実現する。皮膚到達手段である微小針の長さは、製作プロセスの間に変更することが容易であり、長さ2mm未満で通常作製する。微小針はまた、注射または注入中の痛みおよび他の感覚をさらに軽減するために、非常に鋭く非常に小さなゲージでもある。個々の単一内腔の微小針としてそれらを本発明で使用することもでき、あるいは、送達の速度または一定の時間中に送達する物質の量を増大させるために、直線アレイまたは二次元アレイ中に複数の微小針を集めまたは組み立てることもできる。その針は、末端、側部またはその両方からその物質を放出することができる。保持器や収容器など様々な装置に微小針を組み込むことができ、それらを使用して貫入の深さを制限することもできる。送達前の物質を含む貯蔵器、あるいは圧力下で薬剤もしくは他の物質を送達するポンプまたは他の手段に、本発明の皮膚送達手段を組み込むこともできる。代わりに、皮膚到達手段を収容する装置を、そのような追加的構成装置と外部で連結することもできる。
【0071】
その皮内投与方法は、皮内空間を正確に標的とする、微小針に基づく注射および注入システムまたは任意の他の手段を含む。その皮内投与方法は、微小装置に基づく注射手段だけでなく、皮内空間への針のないまたは針を用いない液体または粉末の弾道的注射、マントー型皮内注射、微小装置を介する増強型イオン導入や皮膚への液体、固体、または他の投与形態の直接沈着など、他の送達方法をも包含する。
【0072】
特定の実施形態では、前方に針の先端を有する針カニューレを含む、図8〜10で例示されているものなどの装置を用いて本発明の製剤を投与し、その針カニューレは、薬剤送達手段中に含まれる物質と液体で連通しており、針カニューレの周囲に制限部分を含み、その制限部分は、皮膚結合部分を含み、その針カニューレの針の先端がその制限部分から皮膚結合部分を越えて約0.5mmから約3.0mm延びて、その針カニューレは、その制限部分の皮膚結合表面の平面と相対的な方位角が固定され、針の先端を動物の皮膚に挿入して、皮膚の表面を、その制限部分の皮膚結合表面と結合させ、その結果、その制限部分の皮膚結合表面が、動物の皮膚の真皮層への針カニューレの先端の貫入を制限し、針カニューレの先端を介して薬剤送達装置から動物の皮膚へと物質を放出する。
【0073】
特定の実施形態では、皮内マントー型注射を用いて、対象の皮膚の皮内区画に、好ましくは皮膚脈管構造に本発明のインスリン製剤を投与する(例えば、非特許文献3を参照、その文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。特定の実施形態では、下記の例示的な方法を用いて、対象の皮膚の皮内区画に、本発明のインスリン製剤を送達する。第5.1.節で開示されている方法に従って調製したインスリン製剤を、注射器、例えばラテックスを含まない1mL注射器中に20ゲージ針で吸引し、注射器を充填した後、それを皮内投与用の30ゲージ針と置換する。対象、例えばマウスの皮膚を、可能な最も浅い角度で上方を向く針の斜面に接近させ、皮膚を堅く引っ張る。次いで、0.1〜10秒にわたって、典型的な「小疱」を形成させながら注射内容物をゆっくりと押し入れ、続いてその針をゆっくりと抜き出す。好ましくは、注射部位は1箇所だけ用いる。他の特定の実施形態では、インスリンはカートリッジ内に貯蔵され、特定のインスリンペンにそれを取り付ける。次いで、30〜34ゲージの微小ペン針を、カートリッジの隔壁に取り付け、上記の実施形態と同一の方法で使用する。
【0074】
「薬物動態の向上」とは、例えば、最大血漿濃度に達する時間(Tmax)、最大血漿濃度の大きさ(Cmax)または最小限検出可能な血中もしくは血漿濃度を誘発する時間(Tlag)などの標準的な薬物動態パラメータによって測定される薬物動態プロファイルが向上することを意味する。吸収プロファイルの向上とは、そのような薬物動態パラメータによって測定される吸収がより高まることを意味する。薬物動態パラメータの測定、および最小限有効な濃度の決定は、当該技術分野で日常的に行われている。得られた値は、例えば、皮下投与や筋内投与などの標準的な投与経路との比較によって向上したとみなされる。そのような比較では、必ずしも必須ではないが、皮内層への投与、および皮下投与などの基準部位への投与は、同じ投与レベルで、すなわち同じ量および濃度の薬剤ならびに同じ担体で、かつ単位時間当たりの量および体積に関して同じ投与速度で行うことが好ましい。したがって、例えば、100μg/mlなどの濃度、および1分当たり100μLの速度での、5分間にわたる真皮への一定の薬剤物質の投与は、同じ100μg/mlの濃度、および1分当たり100μLの速度での、5分間にわたる皮下空間への同じ薬剤物質の投与と比較することが好ましい。
【0075】
上記で述べたPKおよびPDの利点は、皮膚の毛細管床を正確に直接標的とすることによって最もよく実現される。これは、例えば、外径約250ミクロン未満、および露出長2mm未満の微小針システムを用いることによって実現される。鋼鉄、ケイ素、セラミック、および他の金属、樹脂、ポリマー、糖、ポリマー、糖、生体物質および/または生分解性物質、ならびに/あるいはその組合せを含めた様々な物質の既知の方法を用いて、そのようなシステムを構築することができる。
【0076】
皮内投与法の特定の特徴によって、臨床上有用なPK/PD、および投与の正確性がもたらされることが判明している。例えば、針の出口を皮膚内に入れると、PK/PDパラメータが著しく影響を受ける。斜面を有する従来からのまたは標準的なゲージの針の出口は、露出高(出口の垂直の高さ)が比較的大きい。皮内空間内の所望の深さまで針の先端を入れてもよいが、針の露出高が大きいことから、送達した物質が、皮膚表面により近い、非常に浅い深さで沈着する。その結果、物質が、皮膚自体が発する背圧、および注射または注入からの蓄積した液体から生じた圧力により皮膚から流出し、皮下組織など皮膚のより低圧の領域へと漏出する傾向となる。すなわち、大きな露出高を有する針の出口を深く入れると依然として効率よく密封されるが、同じ露出高の出口を皮内空間内で浅く入れるとき、効率よく密封されない。通常、針の出口の露出高は、0〜約1mmである。露出高が0mmの針の出口は、斜面がなく、針の先端にある。この場合、その出口の深さは、針の貫入の深さと同じである。針の側面を通る斜面または開口部によって形成される針の出口は、露出高が測定可能である。単一の針が、皮膚空間への物質の送達に適した開口部または出口を複数有してもよいことが理解される。
【0077】
注射または注入の圧力を調節することにより、ID投与中に生じる高い背圧を克服することができることも判明している。液体の境界面上への圧力を直接的に一定にすることによって、より一定の送達速度を実現することができ、吸収を最適化し、薬物動態を向上させることができる。送達の速度および容量を調節して、送達部位での膨れの形成を防止し、皮膚到達手段を押すことに由来する、皮膚からのおよび/または皮下領域中への背圧を防止することもできる。これらの効果を得るのに適した送達の速度および容量は、通常の技術のみを用いて実験的に決定することができる。複数の針の間隔を大きくすると、液体の分布が広がり、送達速度が増しまたは液体の容量が大きくなる。さらに、ID注入または注射によって、インスリンの初期血漿レベルが従来からのSC投与よりもしばしば高くなることが判明している。このことによって、ID経路を介して投与するインスリンの投与量を小さくすることができる。
【0078】
本発明の実施に有用な投与法は、ヒトまたは動物の対象へのインスリンのボーラス送達と注入送達をいずれも含む。ボーラス投与とは、単一の容量単位で、比較的短時間にわたって、通常は約10分未満で送達する単一の投与である。注入投与は、選択された速度で、比較的長時間にわたって、通常は約10分を超えて液体を投与するステップを含み、その速度は一定でもよく変化してもよい。物質を送達するために、皮内空間内で直接の標的到達をもたらす皮膚到達手段を対象の皮膚に隣接して置き、物質または複数の物質を皮内空間へと送達しまたは投与し、そこで、その物質は局所で作用することもでき、あるいは血流により吸収され全身に分布することもできる。皮膚到達手段は、送達する物質または複数の物質を含む貯蔵器と連結することができる。
【0079】
貯蔵器から皮内空間への送達は、送達する物質または複数の物質に、外圧もしくは他の駆動手段を適用せずに受動的に起こすこともでき、および/または、圧力もしくは他の駆動手段を適用して能動的に起こすこともできる。好ましい圧力発生手段の例には、ポンプ、注射器、インスリンペン、エラストマー膜、ガス圧、圧電、起電力、電磁気もしくは浸透圧によるポンピング、または皿ばね、または洗浄機、あるいはそれらの組合せがある。所望の場合、物質の送達の速度を、圧力発生手段により変化させて調節することができる。その結果、その物質が皮内空間に入り、臨床上効果的な結果を得るのに十分な量および速度で吸収される。
【0080】
本明細書において、「臨床上効果的な結果」という用語は、診断上および治療上有用な応答を両方含めた、インスリンの投与から得られる臨床上有用な生物学的応答を意味する。例えば、疾患または状態の診断試験または予防または治療は、臨床上効果的な結果である。そのような臨床上効果的な結果には、インスリンを注射した後の糸球体ろ過圧測定などの診断結果が含まれる。
【0081】
5.3.治療効果の判定
当業者に知られている、または本明細書に記載されている任意の標準的な方法を用いて、本発明のインスリン製剤の治療効果を判定することができる。本発明のインスリン製剤の治療効果を判定するアッセイは、動物を基礎とするアッセイを含めて、in vivoを基礎とするアッセイでもよく、in vitroを基礎とするアッセイでもよい。好ましくは、本発明の製剤の治療効果は、臨床で使用される段階で判定される。
【0082】
いくつかの実施形態では、好ましくは当業者に知られている標準的な方法を用いて定量的に、インスリン送達の薬物動態および薬力学パラメータを決定する。好ましい実施形態では、本発明の方法を用いたインスリン送達の薬物動態および薬力学特性を、他の従来形態のインスリン送達、例えばSC送達と比較して、本発明の方法に従って投与したインスリンの治療効果を明らかにする。本発明の方法に従って測定することができる薬物動態パラメータには、それだけに限らないが、Tmax、Cmax、Tlag、AUCなどが含まれる。特定の実施形態では、決定される薬物動態パラメータは、最大血清インスリンリスプロ濃度(INSmax)、INSmaxに達する時間(TINSmax)、規定の時間区間におけるグルコース注入速度下の面積(例えば、AUCIns0〜0.5h、AUCIns0〜1h、AUCIns0〜2h、AUCIns0〜4h、AUCIns0〜6h)、およびCペプチドの濃度がある。本発明の方法で測定することができる他の薬物動態パラメータには、例えば、半減期(t1/2)、排出速度定数および部分的AUC値がある。
【0083】
当業者に知られている標準的な統計試験を、得られた薬物動態および薬力学パラメータの統計分析に使用することができる。分析する変数には、例えば、薬力学的測定値(得られたグルコース注入速度に基づく)、および血清Cペプチド濃度および薬物動態的測定値(血清インスリンリスプロ濃度に基づく)がある。
【0084】
グルコースクランプ条件下で測定することができる主要な薬力学的評価項目は、インスリン注射後2時間以内のグルコース注入速度曲線下面積(AUCGIR)(AUCGIR0〜2h)である。測定することができる他の薬物動態的評価項目は、やはり測定することができる時間にわたる血中グルコースの全体的な低下である。薬物動態評価では、下記のパラメータを算出することができる:最大グルコース注入速度(GIRmax)、GIRmaxに達する時間(TGIRmax)、規定の時間区間におけるグルコース注入速度下の面積(AUCGIR0〜1h、AUCGIR0〜2h、AUCGIR0〜4h、AUCGIR0〜6h)、初期および後期の最大グルコース注入速度の半分に達する時間(初期および後期TGIR50%)。
【0085】
2つの異なる経路、例えばIDおよびSCによる投与後に記録したグルコース注入速度(GIR)を使用して、薬力学的パラメータを評価することができる。これらの測定から、0〜6時間(および他の時間区間)のグルコース注入速度対時間曲線下の面積、最大グルコース注入速度、および最大グルコース注入速度に達する時間を決定することができる。簡単な薬力学的測定値の推定に、GIRプロファイルに対する多項式関数の当てはめを使用することができる。一定の間隔に注入された累積グルコース量など、他のパラメータを決定することができる。
【0086】
本発明の方法に従ったインスリン送達の薬物動態および薬力学パラメータを決定する例示的な方法は、グルコースクランプ法である(例えば、非特許文献15を参照、その文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。簡潔に述べると、グルコースクランプ法は、頻繁に採取する血中グルコース試料の値からの負のフィードバックを使用して、グルコース注入を調整して正常血糖を維持する。したがって、グルコース注入速度は、投与した任意のインスリンの薬力学効果の尺度となる。
【0087】
特定の実施形態では、本発明は、薬物動態プロファイルをSC送達のそれと比較することによる、本発明の方法に従って投与したインスリンリスプロの治療効果の判定を含む。インスリンリスプロの治療効果を判定する例示的なアッセイは、以下のステップを含む:インスリンリスプロ(例えば、100U/mLを10U)を、31G、1.25mmの針で;または31G、1.5mmの針で、31G、1.75mmの針で、あるいはSCでヒトに投与する。好ましくは、8時間グルコースクランプ法を使用して正常血糖状態を維持し、クランプの間のウォッシュアウト期間は3〜20日でもよい。試料を収集して、血清インスリンリスプロの濃度、ならびにCペプチドのレベルおよび濃度を決定することができる。好ましくは、試料収集は、投与の2時間前から行い、投与後6時間継続する。ラジオイムノアッセイなど、当業者に知られている任意の方法を用いて、インスリンリスプロおよびCペプチドの血清濃度を決定することができる。好ましくは、試料収集後1時間以内に、2〜8℃、3000rpmで血液試料を少なくとも15分間遠心する。収集管の血清を移して血清レベルの分析を行う。グルコースクランプ法のグルコース注入速度をモニターすることができる。正常血糖クランプ法は、好ましくは、6時間継続して、所望のクランプレベルまで血中グルコース濃度を安定化する(例えば、長時間作用性インスリンの試験では少なくとも12時間続ける)べきである。
【0088】
それだけに限らないが、大腿、腹部、胸のまたは胸部の三角筋、前腕および前腕背部の皮膚領域を含めて、皮内投与のどんな注射部位をも、本発明の方法に使用することができる。
【0089】
本発明は、空腹時血漿グルコースレベル(FPG)および非空腹時FPGを測定する、当該技術分野で知られているどんな方法をも包含する。FPGは通常、米国糖尿病協会(ADA)および世界保健機関(WHO)によって提供される指針により示されている目標レベル内に維持されている(例えば、非特許文献16および非特許文献17を参照、その文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。FPGおよび食前グルコース測定値は、当業者に知られている標準的な方法を用いて決定され、本発明の方法内に包含される。いくつかの実施形態では、長期にわたる平均グルコース値は、ヘモグロビンA1cレベル(HbA1c)を測定することによって決定され、それは、ヘモグロビンが赤血球中で糖鎖付加される程度の尺度であり、総ヘモグロビン濃度の百分率として表される。HbA1cレベルは、不可逆的なかつ時間および濃度依存的な形で赤血球がグルコースにさらされることを反映し、食前と食後の血糖状態をいずれも含めた過去2〜3ヶ月間の平均血中グルコース濃度の指標となる。
【0090】
PPGを測定する、当該技術分野で知られているどんな方法も、本発明の方法に包含される。そのような方法は、当業者に知られている(例えば、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20を参照、その文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。PPGレベルは、好ましくは食後1時間以内に、より好ましくは90分以内に、最も好ましくは2時間以内に決定する。
【0091】
目標FPGおよびPPGの指針は、ADAおよびWHOによって提供され、したがって、本発明の方法を実施している当業者なら、本発明の方法に従って所望される目標レベルを決定することができる(例えば、非特許文献16および非特許文献17を参照)。例えば、ADAの指針では、目標のFPG測定値が<120mg/dL(6.7mmol/L)であり、HbA1cレベルが<7%であり、2時間PPGレベルが<180mg/dL(<10mmol/L)であることが要求される。EASDおよびAACEの他の指針では、2時間PPGが<140mg/dLであり、HbA1cレベルが<6.5%であることが要求される。
【0092】
5.4.予防的および治療的使用
本発明は、糖尿病に関係する症状を治療し、管理しまたは改善するための、対象への、好ましくは哺乳動物への、最も好ましくはヒトへのインスリン製剤の投与を使用する治療の方法および/または予防の方法を提供する。本発明の方法は、糖尿病または任意の関連状態の治療および/または予防に有用である。対象は、好ましくは、非霊長類、例えばウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットや、霊長類、例えばカニクイザルなどのサル、ヒトなどの哺乳動物である。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0093】
本発明の方法および製剤によって治療することができる糖尿病および糖尿病関連状態には、それだけに限らないが、血中グルコースレベル上昇の存在、例えば、1型と2型の両型および妊娠糖尿病を含む真性糖尿病などの高血糖異常、ならびに肥満、コレステロールの上昇、腎関連異常、心血管異常など他の高血糖に関係する異常を特徴とする糖尿病がある。本発明の方法および製剤を用いて治療および/または予防することができる他の型の糖尿病には、例えば、若年者の成人型糖尿病、異常インスリン症、他の内分泌疾患に伴う糖尿病(クッシング症候群、末端肥大症、グルカゴノーマ、原発性アルドステロン症、黒色表皮腫に伴うインスリン抵抗性糖尿病、脂肪萎縮性糖尿病、β細胞毒素によって誘発される糖尿病、例えば栄養または毒素因子と関係する慢性膵炎などの熱帯性糖尿病、膵疾患または手術に伴う糖尿病、例えばプラダーウィリ(Prader−Willi)症候群などの遺伝性症候群に伴う糖尿病、内分泌障害に伴う糖尿病など)がある。本発明の方法を用いて治療することができる他の糖尿病類似状態には、高血圧、脂質異常および心血管疾患と関係する代謝性症候群や多嚢胞性卵巣症候群など、血中グルコースの上昇を伴うまたは伴わないインスリン抵抗性の状態がある。
【0094】
本発明の方法を使用して、例えば、グルコースレベルを低下させ、糖耐性を高め、肝でのグルコースの利用を増加させ、血中グルコースレベルを正常化し、肝の脂肪酸酸化を刺激し、肝の中性脂肪の蓄積を低下させ、糖耐性を正常化し、インスリン抵抗性を治療または予防することができる。本明細書において、「正常化する」とは、許容されるまたは健常者の平均の範囲まで血中グルコースレベルを低下させることを意味し、その範囲は、対象の正常な平均血中グルコースレベルの10%以内、好ましくは8%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0095】
本発明の方法は、糖尿病およびその関連状態に伴う1種または複数種の病態生理学的状態の治療および管理における治療効果を高める。本発明の方法および製剤を用いて改善することができる病態生理学的状態には、それだけに限らないが、高血糖状態、大血管疾患、微小血管疾患、神経障害、およびケトアシドーシスがある。本明細書において、高血糖状態とは、当該技術分野におけるその通常のかつ習慣的な意味を有し、通常は糖尿病に伴う異常に高い血中グルコースレベルを指す。高血糖状態は、インスリン分泌のレベルが低下し、および/またはインスリンがグルコースをエネルギーに転換できず、その結果脂質代謝が付随して変化することから生じ得る。本明細書において、大血管疾患とは、当該技術分野におけるその通常のかつ習慣的な意味を有し、動脈壁の内膜における粥状硬化、および中膜における石灰化の発生率の増加、早期発生ならびに重症度の増大を指す。本明細書において、微小血管疾患とは、毛細血管の基底膜の異常を指し、層が付加され、その結果層板の厚さが増すことを特徴とする。本明細書において、神経障害とは、知覚ニューロンおよび運動ニューロン、神経根、脊髄、ならびに自律神経系に関与する神経の、脱髄およびシュワン細胞変性を伴う分節性の損傷を指す。本明細書において、ケトアシドーシスとは、インスリンレベルの低下に起因するケトンの蓄積を指す。
【0096】
本発明の方法および製剤は、糖尿病またはその関連状態に伴う1種または複数種の症状を軽減し、または消失させる際に治療上有効である。本発明の方法に従って軽減し、または消失させることができる症状には、それだけに限らないが、視力障害、疲労、悪心、細菌感染および真菌感染を引き起こすことができる症候性高血糖;腎障害;知覚欠損、麻痺、刺痛、四肢の知覚異常などを引き起こす多発性知覚神経障害;足の潰瘍、および関節の問題がある。
【0097】
本発明は、当業者に知られている現在のおよび実験的な療法も含むがそれだけに限らない、糖尿病またはその関連異常の治療および/または予防のための、当該技術分野で知られている1種または複数種の他の療法と併用する、本明細書に記載の製剤の皮内送達を包含する。いくつかの実施形態では、糖尿病またはその関連異常の治療または予防のための、治療上または予防上有効な量の1種または複数種の他の治療薬と併用して、本発明の製剤を投与することができる。糖尿病またはその関連異常の治療または予防のための治療薬の例には、それだけに限らないが、FPGレベルを低下させる薬剤、およびPPGレベルを低下させる薬剤がある。FPGレベルを低下させる薬剤の例には、それだけに限らないが、スルホニル尿素(例えば、グリピジド)、メトホルミン、αグルコシダーゼ阻害剤(例えば、アカルボース、ミクリトール)、チアソリジンジオン(Thiasolidinedione)がある。PPGレベルを低下させる薬剤の例には、それだけに限らないが、レパグリニド、ネチグリニデム(Netiglinidem)、ピオグリタゾン、ロシグリタゾンがある。
【0098】
特定の実施形態では、糖尿病の治療に有用な1種または複数種の他の治療薬と同時に、哺乳動物に、好ましくはヒトに本発明の製剤を投与する。「同時に」という用語は、予防薬または治療薬を正確に同時に投与することに限らず、むしろ、本発明の製剤が他の薬剤と一緒に作用して、その他の形で投与した場合より大きな利点をもたらすことができるような時間区間内で、順番に本発明の製剤と他の薬剤を哺乳動物に投与することを意味する。例えば、それぞれの予防薬または治療薬を同時に投与してもよく、任意の順番で、異なる時点で順次投与してもよいが、同時に投与しない場合、所望の治療または予防効果をもたらすように十分近い時間で投与すべきである。任意の適当な形態で、任意の適切な経路によって各治療薬を別々に投与することができる。種々の実施形態では、1時間未満の間隔で、約1時間の間隔で、約1時間から約2時間の間隔で、約2時間から約3時間の間隔で、約3時間から約4時間の間隔で、約4時間から約5時間の間隔で、約5時間から約6時間の間隔で、約6時間から約7時間の間隔で、約7時間から約8時間の間隔で、約8時間から約9時間の間隔で、約9時間から約10時間の間隔で、約10時間から約11時間の間隔で、約11時間から約12時間の間隔で、24時間を超えない間隔で、または48時間を超えない間隔で、予防薬または治療薬を投与する。好ましい実施形態では、2種以上の構成成分を、同じ時間内に投与する。
【0099】
他の実施形態では、約2日から4日の間隔で、約4日から6日の間隔で、約1週間の間隔で、約1から2週間の間隔で、または2週間を超える間隔で、予防用または治療用の製剤を投与する。好ましい実施形態では、いずれの薬剤も依然として活性である時間枠で予防薬または治療薬を投与する。当業者なら、投与する薬剤の半減期を決定することによって、そのような時間枠を決定することができる。
【0100】
特定の実施形態では、本発明の予防用または治療用の製剤を、対象に循環的に投与することができる。サイクリング療法では、第1の薬剤をしばらくの間投与し、その後第2の薬剤および/または第3の薬剤をしばらくの間投与し、この一連の投与を反復する。サイクリング療法は、1種もしくは複数種の療法に対する耐性の発生を減らし、一療法の副作用を回避もしくは軽減し、および/または治療効果を高めることができる。
【0101】
特定の実施形態では、約3週間未満の周期で、2週間毎に約1回、10日毎に約1回、または毎週約1回、予防用または治療用の製剤を投与する。1周期は、1周期毎に約90分間、1周期毎に約1時間、1周期毎に約45分間にわたる、注入による治療薬または予防薬の投与を含むことができる。各周期は、少なくとも約1週間の休止、少なくとも約2週間の休止、少なくとも約3週間の休止を含むことができる。投与する周期の数は、約1から約12周期であり、より典型的には約2から約10周期であり、より典型的には約2から約8周期である。
【実施例】
【0102】
6.1.健常男性被験者の非盲検無作為化5方向交差試験における、BD微小針システムで皮内注射したインスリンリスプロ対皮下注射したインスリンリスプロの薬物動態的薬力学的特性の比較
この試験の第1の目的は、BD微小針注射システムを用いて送達したインスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)10Uの薬物動態的薬力学的効果を、皮下送達したものと比較することであった。その試験の第2の目的は、皮下送達と比較した、微小針注射後の相対的な生体利用効率によって反映される、インスリンリスプロの皮内送達に最適な針の長さを評価することであった。さらに、その試験は、その送達システムの被験者内での再現性を決定するように設計された。
【0103】
試験計画:健常な男性ボランティア10名を、無作為化試験に使用した。各被験者(年齢18から45歳、BMI<27kg/m)を、5種の異なる治療:(a)インスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)10Uを、31Ga、1.25mmの針で投与;(b)インスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)10Uを、31Ga、1.5mmの針で投与;(c)インスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)10Uを、31Ga、1.75mmの針で投与;(d)インスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)10Uを、31Ga、1.5mmの針で投与;(e)インスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)10Uを皮下投与、からなる治療の順序に対して無作為化した。
【0104】
下記で論じる8時間グルコースクランプ法の手順ですべての治療について試験した(非特許文献15も参照)。クランプの間のウォッシュアウト期間は3〜20日であった。グルコースクランプ法を用いて、薬剤投与後に正常血糖状態を維持した。試料を収集して血清のインスリンリスプロおよびCペプチドの濃度を決定し、グルコースクランプ法のグルコース注入速度を記録した。すべての検査に対してそれらの試料収集およびモニター期間において、すべての治療法は同じであった。試験薬投与後、正常血糖クランプ法の手順を6時間(+所望のクランプレベルまで血中グルコース濃度を安定化するためのベースライン期間2時間)継続した。
【0105】
全体的な試験計画を下記に図示する。
【0106】
【表2】

【0107】
材料および供給源:BD微小針システムは、GMPに従って製造されたものであった。使用したインスリンは、インスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Companyより)として3.0mlカートリッジで市販され、地元の薬局から購入した。
【0108】
投与および投与法:各被験者は、検査2、3、4、5および検査6で、(上記に記載の無作為化の順序によって決定した)可能なID治療の1種およびs.c.治療を受けた。1晩約12時間の絶食後に試験薬剤を投与した。グルコースクランプの安定化後、午前中にBD微小針システムによる投与を行った。注射部位は、右大腿の4分割した右上部であった。BD微小針システムによる投与では、被験者の大腿をアルコールで清拭し、乾燥させた。経験のある医療従事者が、患者の皮膚に対して微小針を刺し、インスリンリスプロ10Uを皮内注射した。注射が成功すると、皮膚の上に液体が見えず、触知可能な液体が皮内空間に認められる。皮膚の表面上の液体がかなり多い場合、その注射は失敗とみなし、その治療期間はその日で終了した。注射部位をスポンジで染みをつけ、この手順の前後に精密スケールでそれを評価した。これは、その部位から何らかの漏出があるかどうかを決定するために行った。投与は、治験責任者によって指名された、臨床部門の適切な資格のある構成員によって行われた。被験者が試験から離脱し入れ替わった場合、新たな被験者に、同じ治療の順序を割り当てた。少なくとも1つの治療を完了したすべての被験者のデータを分析に使用した。各投与後、安全性、薬物動態、および薬力学の測定値を評価した。試験の性質上、この試験は非盲検で行った。試験期間中、治験責任者の評価の際に試験結果の解釈に潜在的に干渉し、インスリンの作用、グルコースの利用、または低血糖状態からの回復への臨床的に重大な干渉を起こすことが知られているすべての薬剤の常習的使用は禁じられた。
【0109】
薬力学的測定:被験者は5日の別々の日に正常血糖クランプ法の手順を5回受けた。各試験の持続時間は、約9時間であった。すべてのクランプ試験は、1晩(約12時間)の絶食後に行った。
【0110】
グルコースクランプ法の手順:各治療の前に被験者を約12時間(水を除いて)絶食させ、治療の完了までそれを続けた。激しい運動、喫煙、およびアルコール摂取は、臨床試験施設にそれぞれ入る前の24時間は許可されなかった。治療の朝は、被験者はコーヒー、茶、またはカフェイン含有飲料を飲むことを許可されなかった。試験は午前中に開始した。血中グルコース、Cペプチドおよび血清インスリンリスプロ濃度測定用の血液試料収集のために、17ゲージのPTFEカテーテルを前肘静脈に挿入した。その線は、0.15mmol/L(0.9%)の滅菌食塩水で開存を維持した。同じ腕の背側の手または手首の静脈に逆方向にカニューレ挿入して、18ゲージのPTFE二管式カテーテルを挿入し、それをバイオステーター(Biostator)のグルコース検出器に接続した。カテーテルを挿入した手を空気温度約55℃まで温めた。反対側の腕では、第3の静脈に18ゲージのPTFEカテーテルでカニューレ挿入し、グルコース(20%水溶液)を注入した。同じカニューレで、インスリンのヒューミンスリンノーマル(Huminsulin Normal)(レギュラーヒトインスリン、100U/mL、Eli Lilly and Companyより)を、試験の間中、注入速度0.15mU/kg/分で静脈内に注入して、内因性のインスリン分泌を排除した。このインスリンは、特異的なリスプロインスリンアッセイに干渉しない。両方のグルコースクランプ試験の目標レベルは5mmol/Lであった。20%グルコースの速度可変型静脈内注入によって、クランプレベルを一定に保った。必要な静脈の線の挿入後、バイオステーターで、静脈内グルコース注入の注入速度を変化させることによって、クランプレベルを目標値に自動的に一定に保った。2時間のベースライン期間後、0時点で、BD微小針システムまたは皮下注射によってインスリンリスプロを投与した。試験薬によって誘発された薬力学的応答についてさらに6時間試験した(かつ記録した)。食物摂取はこの間許可されなかったが、水は所望通りに摂取することができた。
【0111】
サンプルサイズおよびデータ分析方法:合計10名の被験者が5治療日をすべて完了した。試験検査を5回完了しなかった被験者はいずれも入れ替わった。この予備的な試験のサンプルサイズを選択して、記述データを得た。投与形態の間の統計的な有意差を見出すことは、この試験の主要な目的ではない。すべての比較は、フィッシャーの正確確率検定(両側)を用いて、名目上の有意差レベル0.05で行ったが、p値が0.10未満となった比較についても、差を示唆するものとして検討した。すべての信頼区間は、両側の95%信頼区間として計算した。
【0112】
薬物動態分析:薬物動態の評価では、下記のパラメータを算出した:最大血清インスリンリスプロ濃度(INSmax)、INSmaxに達する時間(TINS)、規定の時間区間におけるインスリン濃度対時間曲線下の面積(AUCIns0〜1h、AUCIns0〜2h、AUCIns0〜4h、AUCIns0〜6h)、およびCペプチドの濃度がある。半減期(t1/2)、排出速度定数(λz)や他の部分的AUC値など他の薬物動態パラメータも含めて決定されるパラメータを、適当とみなされる場合に算出することができる。パラメータは、試験に登録されている個々の各被験者について算出した。この評価項目の第1の分析は、2種の微小針治療の被験者内での変動を比較することであった。被験者間での変動の比較は、第2の分析であった。
【0113】
薬力学的分析:主要な薬力学的評価項目は、薬剤投与後2時間以内のグルコース注入速度曲線下面積(AUCGIR)(AUCGIR0〜2h)であった。薬物動態評価では、下記のパラメータを算出した:最大グルコース注入速度(GIRmax)、GIRmaxに達する時間(TGIRmax)、規定の時間区間におけるグルコース注入速度曲線下の面積(AUCGIR0〜1h、AUCGIR0〜2h、AUCGIR0.4h、AUCGIR0〜6h)、初期および後期の最大グルコース注入速度の半値に達する時間(初期および後期TGIR50%)。2つの異なる経路による適用後に記録したグルコース注入速度(GIR)を使用して、薬力学的パラメータを評価した。これらの測定から、0〜6時間(および他の時間区間)のグルコース注入速度対時間曲線下の面積、最大グルコース注入速度、および最大グルコース注入速度に達する時間を使用した。簡単な薬力学的測定値の推定に、GIRプロファイルに対する多項式関数の当てはめを使用することができた。標準的な統計試験を使用して、得られた薬力学的パラメータの統計分析を行った。適切な場合に、データの自然対数変換を行って、確実にデータがほとんど正常に分布するようにした。部分的AUC値など、適切とみなされる場合にさらなるグルコース測定値を分析した。
【0114】
結果
BD微小針システムを用いて、深さを変化させて、具体的には深さ1.25mm、1.5mm、および1.75mmでインスリンリスプロを皮内注射した。ID送達したインスリンの薬物動態的薬力学的パラメータを、インスリンの皮下送達と比較した。ID送達した、全身で利用可能なインスリンの作用開始は、SCと比較して3種すべての深さでより急速である(図1)。SCに対してIDでは、最大濃度に達する時間はより短く(Tmax)、得られる最大濃度はより高い。注射の深さが1.75mmまたは1.5mmであるときに、最高のCmaxが得られる。さらに、SC送達と比較して、ID送達後のインスリンの生体利用効率がより高かった(図1および2)。
【0115】
図3AおよびBに、投与したインスリンに対する薬力学的生物学的応答を示し、これはインスリンの存在に起因する血中グルコースの低下を補うためのグルコース注入速度の上昇によって測定されたものである。すべての深さでのID送達は、グルコース注入速度によって測定される血中グルコースレベルのより速く大きな変化を示す。しかし、グルコース注入速度として測定される最大グルコース応答レベルは、ID送達とSC送達の間で類似していた。
【0116】
6.2.健常男性被験者の非盲検無作為化3方向交差試験における、BD微小針システムで皮内注射した混合済み50%インスリンリスプロ(リスプロ50%およびリスプロ−プロタミン50%)対皮下注射した混合済み50%インスリンリスプロの薬物動態的薬力学的特性の比較
この試験の第1の目的は、1.5mmBD微小針注射システムで適用した混合済み50%インスリンリスプロ(ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)、100U/mL中にインスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%と含有、Eli Lilly and Company)20Uの薬物動態的薬力学的効果を、皮下から適用した混合済み50%インスリンリスプロ20Uと比較することであった。
【0117】
試験計画:健常な男性被験者10名を、無作為化試験に使用した。各被験者を、3種の異なる治療:(a)混合済み50%インスリンリスプロ(ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)、100U/mL中にインスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%と含有、Eli Lilly and Companyより)20Uを、31Ga、1.5mmの針で投与;(b)混合済み50%インスリンリスプロ(ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)、100U/mL中にインスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%と含有、Eli Lilly and Company)20Uを皮下注射;(c)混合済み50%インスリンリスプロ(ヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)、100U/mL中にインスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%と含有、Eli Lilly and Company)20Uを、31Ga、1.5mmの針で投与、からなる治療の順序に対して無作為化した。
【0118】
上記に記載の12時間グルコースクランプ法の手順ですべての治療について試験した。クランプの間のウォッシュアウト期間は3〜20日であった。グルコースクランプ法を用いて、薬剤投与後に正常血糖状態を維持した。試料を収集して血清のインスリンリスプロおよびCペプチドの濃度を決定し、グルコースクランプ法のグルコース注入速度を記録した。すべての検査に対してそれらの試料収集およびモニター期間において、すべての治療法は同じであった。正常血糖クランプ法の手順を12時間(+所望のクランプレベルまで血中グルコース濃度を安定化するためのベースライン期間2時間)継続した。
【0119】
全体的な試験計画を下記に図示する。
【0120】
【表3】

【0121】
投与および試料収集:各被験者は、無作為な形で大腿に3回注射を受け、1.5mm、31GaのID注射器からボーラスの形で(投与時間10〜20秒で)2回注射され、標準的なインスリン注射器(30G、8mm)から対照SC投与を1回受けた。重複したID注射を計画して被験者内の変動を試験した。血中インスリンレベルおよびCペプチドレベルを、投与後12時間モニターし、標準的な臨床アッセイの手順により定量した。正常血糖グルコースクランプを用いて、IVグルコース注入により、インスリン投与後12時間の間、血中グルコースを一定に維持した。インスリンの代謝活性に起因する、正常血糖を維持するためのグルコース注入速度(GIR)の上昇を、薬力学的効果の主要なマーカーとして記録した。試料収集、データ分析を含む他の方法はすべて、上記の実施例で記載のように行った。
【0122】
結果
平均血漿インスリンレベルおよびGIR速度中央値のグラフを、図4および5に示す。この試験は、ID投与を介して投与した粒子の薬物動態(PK)および/または薬力学(PD)を表すものである。リスプロミックスのID投与は、(実施例6.1で示す)リスプロ溶液と同様の効果、すなわち、速い作用開始(小さいTmax)、高いAUC(生体利用効率)、高いCmaxを示す。IDの取り込みの機構は、ほとんどの溶液で機能すると思われるが、それが粒子でそのように機能するかどうかは不明であったので、この結果は予想されなかった。その速やかな取り込みにもかかわらず、ID送達は、12時間まで作用時間の持続を依然として示す。活性時間の持続が、局在化した皮膚または他の組織での貯蔵、あるいは取り込まれ全身に分布した後のインスリン粒子の緩徐な溶解によるものであるかどうかは不明である。ID送達は、遅い時点(>8時間)でPD効果の低下を示し、このことから、SC送達に対して、遅い相ではインスリン活性が低下することが示唆される。このことは、分割混合療法を受けている糖尿病患者にしばしば生じる早朝の低血糖状態の発生を低下させることにより、療法に対する潜在的な利点を有し得る。
【0123】
6.3.食後グルコースに対する皮内インスリン送達の効果
この分析の第1の目的は、食後グルコースレベルに対する皮内インスリン送達の効果を評価することであった。その分析は、BD微小針注射システム(深さ1.5mm)を用いて送達したインスリンリスプロ(100U/mL、Eli Lilly and Company)10Uの皮内送達の効果に焦点を当て、皮下送達したインスリンリスプロと比較した。上記の実施例6.1のデータを用いて、示した時期(例えば、0〜10分は「10」、11〜20分は「20」など)について、1.5mm微小針を用いたID送達によりインスリンを投与された被験者と、皮下注射によりインスリンを投与された被験者のインスリンレベルのAUCにおける差であるΔインスリンを決定した。微小針を用いた患者の血中グルコースに対するΔインスリンの効果を判定するために、ISFまたはインスリン感受性ファクター(insulin sensitivity factor)を決定した。ISFは(AUCではなく)インスリン単位で決定し、インスリンリスプロでは、これは通常、「1500の規則」、すなわち1500を1日の総インスリン量で割ることによって決定する。1型糖尿病の典型的な患者では、1日の総インスリン量は約60Uであるので、ISFは、25mg/dL/単位インスリンである。実施例6.1のデータから、インスリン10単位でAUCが780となり、すなわち、78AUC単位は、1インスリン単位と同等である。したがって、AUC単位で決定されるISFは、0.33mg/dL/AUC単位であった(表2の最後の列を参照)。ISF値を使用して、余剰インスリンから予想される余剰のグルコース低下量を決定した。インスリン作用の25分の遅延を利用した。図6に、皮下注射、皮内注射のインスリンレベル、および2種の送達形態の間の差を示す。
【0124】
表3に、1型糖尿病患者での予想されるインスリンレベルに対する追加のインスリンの効果を示す。皮下インスリンの列は、糖尿病患者でしばしば認められるデータである。食後、グルコースは急速に上昇し、60〜90分でピークとなり、次いでインスリンが作用するにつれて、次の数時間にわたって低下する。IDインスリンと示した列は、追加のおよび初期のインスリン作用(表2の最後の列)を考慮して、追加のインスリンのグルコース低下効果を予測するものである。2時間で測定したグルコース値に対する効果は、約60mg/dLであった。図7にその効果をプロットする。
【0125】
図6および7(ならびに添付した表2および3)に示すように、皮内インスリン送達により、送達してから最初の1時間以内で、皮下インスリン送達と比べて生物作用能が60%高くなる。最初の1時間以内で、インスリンは速やかに吸収され、総インスリンの25%を占める。したがって、皮内インスリン送達は、PPGレベルの調節に有効である。
【0126】
SC送達と比較したID送達インスリンの生物作用能を6時間にわたって測定した間に、ID投与後最初の1時間以内で生物作用能の最も劇的な上昇が観察された(図7を参照)。皮内送達したときのインスリンの生物作用能のこの劇的な上昇により、食後グルコースレベルが著しく低下し、血糖調節がより厳密となる。したがって、インスリンの皮内送達により、従来からの経路の投与、例えば皮下送達と比べたときに著しい治療上の利点が得られる。
【0127】
したがって、前記の記載および図面は本発明の実施形態を表すものであるが、添付した特許請求の範囲で規定される本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、その中で様々な追加、変更、置換を行うことができることが理解されるであろう。特に、本発明の趣旨または不可欠な特徴を逸脱することなく、他の特定の形態、構造、配置、割合で、他の成分、材料、および構成要素を用いて本発明を具体化することができることは、当業者に明らかであろう。本発明の原理を逸脱することなく特定の環境および操作上の必要に特に適合した、本発明の実施に使用する構造、配置、割合、物質および構成要素ならびにその他の多数の変更を用いて本発明を使用することができることが当業者に理解されるであろう。したがって、現在開示した実施形態は、すべての点で限定的ではなく例示的とみなされるべきであり、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、前記の記載には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】ID対SCで送達したインスリンリスプロの薬物動態プロファイルを示す図である。3種の異なるIDの深さで皮膚にインスリンを送達した後の経時的なインスリンリスプロレベルを示し、SC送達で得られたプロファイルと比較する。SC注射に対しては、30Ga、8mmの標準的なインスリン注射器および針を、ピンチアップ(pinch up)技術とともに使用した。
【図2】インスリンリスプロの生体利用効率を示す図である。この棒グラフは、深さ1.25mm、1.5mm(重複の結果)、1.75mmでインスリンをID投与した、またはインスリンをSC投与した後の生体利用効率を示す。絶対AUCを明灰色で示し、%AUCを暗灰色で示す。
【図3A】ヒューマログの薬力学的プロファイルを示す図である。被験者10名の平均における正常血糖グルコースクランプで必要なグルコース注入速度を示す。パネルAは生データである。
【図3B】ヒューマログの薬力学的プロファイルを示す図である。被験者10名の平均における正常血糖グルコースクランプで必要なグルコース注入速度を示す。パネルBはその充填曲線(filled curve)である。
【図4】インスリンヒューマログ(登録商標)50/50ミックスのプロファイルを示す図である。深さ1.5mmにID送達した、インスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%とを含有するヒューマログミックス50/50(商標)の血漿インスリンレベルを、SC送達したインスリンと比較した。
【図5】皮内ヒューマログ(登録商標)50/50ミックスの薬力学的プロファイルを示す図である。深さ1.5mmにID送達した、インスリンリスプロを50%と、インスリンリスプロのプロタミン懸濁液を50%とを含有するヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)のレベルに応答するグルコースクランプで必要な血中グルコースを、SC送達したインスリンと比較した。
【図6】食後血中グルコースに対するインスリンのID送達の効果を示す図である。1.5mm針でインスリンリスプロを皮内送達した後の薬物動態および薬力学のデータに基づいて、食後グルコースレベルを算出した。
【図7】初期インスリンレベルの上昇の分析:ID送達とSC送達の比較を示す図である。経時的なインスリンリスプロレベルを、ID送達およびSC送達で算出した。IDの深さ1.5mmで皮膚に送達したインスリンリスプロのデータを示す。SC注射に対しては、30G、8mmの標準的なインスリン注射器および針を、ピンチアップ技術とともに使用した。
【図8】針装置を示す図である。本発明に従って設計された針の組立品の分解透視図である。
【図9】針装置を示す図である。図8の実施形態の部分的な断面図である。
【図10】針装置を示す図である。図9の実施形態を注射器本体に取り付けて注射装置としたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.25mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
インスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.5mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
インスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.75mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記インスリン製剤は溶液型であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記インスリン製剤はヒューマログ(登録商標)であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記インスリン製剤は粒子型であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記インスリン製剤はヒューマログ(登録商標)ミックス50/50(商標)であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記送達した、全身で利用可能なインスリンの作用開始は、皮下送達と比べてより急速であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
皮下送達と比べて血中グルコースレベルのより速く大きな変化が生じることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
インスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.25mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含み、前記インスリン製剤は、溶液型と粒子型の混合物を含み、前記粒子型は、前記製剤全体の約1%から約99%であることを特徴とする方法。
【請求項11】
インスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.5mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含み、前記インスリン製剤は、溶液型と粒子型の混合物を含み、前記粒子型は、前記製剤全体の約1%から約99%であることを特徴とする方法。
【請求項12】
インスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.75mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含み、前記インスリン製剤は、溶液型と粒子型の混合物を含み、前記粒子型は、前記製剤全体の約1%から約99%であることを特徴とする方法。
【請求項13】
粒子型のインスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.25mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
粒子型のインスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.5mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
粒子型のインスリン製剤をヒト対象に投与する方法であって、前記インスリン製剤が深さ1.75mmに沈着するように、前記インスリン製剤を前記ヒト対象の皮膚の皮内区画へと送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記投与したインスリンは、皮下送達と比べて、低いTmax、高いCmax、および高い生体利用効率を有することを特徴とする請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記インスリンの生物作用能は、皮下送達と比べて60%高いことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記送達したインスリンによって、食後グルコースレベルが少なくとも20mg/dL低下することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記送達したインスリンによって、食後グルコースレベルが少なくとも30mg/dL低下することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記送達したインスリンによって、食後グルコースレベルが少なくとも45mg/dL低下することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
ヒト対象でインスリンの循環の延長を誘発する方法であって、前記ヒト対象の皮膚の皮内区画中に、粒子型と溶液型の両方のインスリンを含むインスリン製剤を送達するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
送達され全身で利用可能なインスリンの作用開始は、皮下送達と比べてより急速であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ヒト対象中でインスリンの循環半減期を調節する方法であって、前記ヒト対象の皮膚の皮内区画中に、粒子型と溶液型の両方のインスリンを含む組成物を投与するステップを含み、粒子型と溶液型の前記治療薬の比率は変化することを特徴とする方法。
【請求項24】
ヒト対象中で治療薬の循環半減期を調節する方法であって、前記ヒト対象の皮膚の皮内区画中に、粒子型と溶液型の治療薬の両方を含む組成物を投与するステップを含み、粒子型と溶液型の前記治療薬の比率は変化することを特徴とする方法。
【請求項25】
送達され全身で利用可能な治療薬の作用開始は、皮下送達と比べてより急速であることを特徴とする請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記治療薬はタンパク質であることを特徴とする請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−517768(P2007−517768A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532794(P2006−532794)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/014033
【国際公開番号】WO2004/101023
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】