説明

インスリン様増殖因子Iの製造方法

プロペプチドのC末端にそのN末端で結合したIGF−Iを含む融合タンパク質をコードする核酸を含有する発現ベクターを含む原核宿主細胞を培養すること(これにより、プロペプチドが、アミノ酸−Y−ProでそのC末端が終止し、ここで、Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択される)、該融合タンパク質を回収してIgAプロテアーゼで切断すること、および該IGF−Iを回収することを特徴とする、IGF−Iの製造方法。IGF−Iは、アルツハイマー病のような神経変性疾患の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン様増殖因子I(IGF−I)の製造方法、医薬組成物、および使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトインスリン様増殖因子(IGF−I)は、インスリンと構造的に関連した循環ホルモンである。IGF−Iは、末梢組織に及ぼす増殖ホルモンの作用の主要介在物質であると伝統的に考えられている。IGF−Iは、70個のアミノ酸からなり、ソマトメジンCとも呼ばれ、SwissProt No. P01343によって定義される。用途、活性および産生は、例えば、le Bouc, Y., et al., FEBS Lett. 196 (1986) 108-112; de Pagter-Holthuizen, P., et al., FEBS Lett. 195 (1986) 179-184; Sandberg Nordqvist, A.C., et al., Brain Res. Mol. Brain Res. 12 (1992) 275-277; Steenbergh, P.H., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 175 (1991) 507-514; Tanner, J.M., et al., Acta Endocrinol. (Copenh.) 84 (1977) 681-696; Uthne, K., et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 39 (1974) 548-554;欧州特許第0 123 228号;欧州特許第0 128 733号;米国特許第5,861,373号;米国特許第5,714,460号;欧州特許第0 597 033号;WO02/32449;WO93/02695に記載される。
【0003】
IGF−Iの機能の制御は、非常に複雑である。循環において、IGF−Iのたった0.2%が、遊離形態で存在するのに対し、大部分は、IGFに対して非常に高い親和性を有しかつIGF−Iの機能を調節するIGF結合タンパク質(IGFBP)へ結合する。因子は、プロテアーゼによるIGFBPのタンパク質分解等のIGF−Iを放出するメカニズムによって局所的に遊離され得る。
【0004】
IGF−Iは、発達中のおよび成熟した脳においてパラクリンの役割を担う(Werther, G.A., et al., Mol. Endocrinol. 4 (1990) 773-778)。インビトロでの研究では、IGF−Iが、ドーパミン作動性ニューロン(Knusel, B., et al., J. Neurosci. 10(1990) 558-570)およびオリゴデンドロサイト(McMorris, F.A., および Dubois-Dalcq, M., J. Neurosci. Res. 21 (1988) 199-209、McMorris, F.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 822-826、Mozell, R.L.,および McMorris, F.A., J. Neurosci. Res. 30 (1991) 382-390))を含む中枢神経系(CNS)におけるニューロンのいくつもの種類に関する強力な非選択的栄養剤であることが示されている(Knusel, B., et al., J. Neurosci. 10(1990) 558-570、Svrzic, D., および Schubert, D., Biochem. Biophys. Res. Commun. 172 (1990) 54-60)。米国特許第5,093,317号には、コリン作動性ニューロン細胞の生存が、IGF−Iの投与によって増強することが記載されている。IGF−Iが、末梢神経の再生を刺激し(Kanje, M., et al., Brain Res. 486 (1989) 396-398)、およびオルニチンデカルボキシラーゼ活性を亢進する(米国特許第5,093,317号)ことがさらに公知である。米国特許第5,861,373号およびWO93/02695には、患者の中枢神経系においてIGF−Iおよび/またはそのアナログの活性濃度を高めることによって、グリア細胞および/または非コリン作動性ニューロン細胞に主に影響する、中枢神経系に対する損傷または中枢神経系の疾病を治療する方法が記載されている。WO02/32449は、哺乳動物の鼻腔へ、IGF−Iまたはその生物活性のあるものを治療有効量含む医薬組成物を投与することによって、哺乳動物の中枢神経系において虚血性損傷を軽減または予防するための方法に関する。IGF−Iは、鼻腔を通じて吸収され、虚血事象と関連した虚血性損傷を軽減または予防するのに効果的な量で、哺乳動物の中枢神経系中へと輸送される。欧州特許第0874641号は、エイズ関連認知症、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、ピック病、ハンチントン病、肝性脳症、皮質基底神経節症候群(cortical- basal ganglionic syndrome)、進行性認知症、痙性不全対麻痺を有する家族性認知症、進行性核上麻痺、多発性硬化症、シルダーの脳性硬化症(cerebral sclerosis of Schilder)または急性壊死性出血性脳脊髄炎による中枢神経系におけるニューロン損傷を治療または予防するための医薬の製造のためのIGF−IまたはIGF−IIの使用であって、ここで、該医薬は、血液脳関門または血液脊髄関門の外側での該IGFの有効量の非経口的投与のための形態にある、使用を特許請求している。
【0005】
遊離IGF−Iの脳レベルおよび血清レベルの低下は、ADの散発性形態および家族性形態の病変形成と関連付けられてきた。さらに、IGF−Iは、Aβ誘発性神経毒性に対してニューロンを保護する(Niikura, T., et al., J. Neurosci. 21 (2001) 1902-1910、Dore, S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997) 4772-4777、Dore, S., et al., Ann. NY Acad. Sci. 890 (1999) 356-364)。近年、末梢投与されたIGF−Iが、ラットおよびマウスにおいて脳Aβレベルを低下できることが示された(Carro, E., et al., Nat. Med. 8 (2002) 1390-1397)。さらに、その研究は、トランスジェニックADマウスモデルにおいて、長期化したIGF−I治療が、脳アミロイドプラーク負荷を有意に低下させることを示した。これらのデータより、IGF−Iが、脳からAβを除去することによって、脳Aβレベルを低下させることができ、およびプラークが関連する脳の認知症を軽減できるという見解が強力に支持される。
【0006】
IgAプロテアーゼの認識部位は、Yaa−Pro.!.Xaa−Proと記載される。Yaaは、Pro(またはまれにAla、GlyもしくはThrとの組み合わせのPro、すなわち、Pro−Ala、Pro−Gly、もしくはPro−Thr)を表す。Xaaは、Thr、SerまたはAlaを表す(Pohlner, J. et al., Bio/Technology 10 (1992) 799-804、Pohlner, J. et al., Nature 325 (1987) 458-462および米国特許第5,427,927号)。天然の切断部位は、Wood, S.G. and Burton, J., Infect Immun. 59 (1991) 1818-1822によって同定された。ナイセリア・ゴノレー(Neisseria gonorrhoeae)(2型)由来の免疫グロブリンA1プロテアーゼのための合成ペプチド基質は、自己タンパク質分解部位Lys−Pro−Ala−Pro.!.Ser−Pro、Val−Ala−Pro−Pro.!.Ser−Pro、Pro−Arg−Pro−Pro.!.Ala−Pro、Pro−Arg−Pro−Pro.!.Ser−Pro、Pro−Arg−Pro−Pro.!.Thr−ProならびにIgA1切断部位Pro−Pro−Thr−Pro.!.Ser−ProおよびSer−Thr−Pro−Pro.!.Thr−Proである。
【0007】
WO2006/066891には、インスリン様増殖因子I(IGF−I)と1個または2個のポリ(エチレングリコール)基とからなる結合体が開示されている。この結合体は、該IGF−Iが、野生型IGF−Iアミノ酸配列のアミノ酸位置27、37、65、68の3個まで位置でアミノ酸変化を有し、それにより該アミノ酸の1個または2個がリジンであり、アミノ酸27が極性アミノ酸であるがリジンではなく、該リジンの第一級アミノ基を介してポリ(エチレングリコール)基と結合し、そして全体的な分子量が20〜100kDaであることを特徴とする。このような結合体は、アルツハイマー病のような神経変性疾患の治療に有用である。
【0008】
WO2006/074390は、IGF−I変異体、およびIGF−I変異体と特定の融合構成要素とを含む融合タンパク質を参照する。WO2006/074390は、特定のIGF−I変異体を参照する。
【0009】
融合タンパク質を介したIGF−Iの組換え製造の方法は、例えば、欧州特許第0155655号および米国特許第5,158,875号から公知である。しかしながら、組換えで製造されたIGF−Iのミクロヘテロジェニティー(microheterogenity)が、しばしば見出される(Forsberg, G. et. al., Biochem. J. 271 (1990) 357-363)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高い純度および収量をともなう、原核生物における、そのN末端にメチオニンが付着していないIGF−Iの組換え製造の方法を提供する。本発明は、
a)プロペプチドのC末端にそのN末端で結合したIGF−Iを含む融合タンパク質をコードする核酸を含有する発現ベクターを含む原核宿主細胞を培養すること、
b)それによって、該プロペプチドが、アミノ酸−Y−ProでそのC末端が終止し、ここで、Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択されること、
c)該融合タンパク質を回収し、そして該融合タンパク質をIgAプロテアーゼで切断すること、および
d)該IGF−Iを回収すること
を特徴とする、IGF−Iの製造方法を含む。回収されたIGF−Iは、N末端に結合するメチオニン残基を含まない。
【0011】
本発明の好ましい実施態様は、配列番号2〜5に示されるペプチドからなる群より選択されるプロペプチドである。
【0012】
本発明のさらなる実施態様は、プロペプチドのC末端にそのN末端で結合したIGF−Iを含む融合タンパク質であり、ここで、該プロペプチドは、アミノ酸−Y−ProでそのC末端が終止し、ここで、Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択されることを特徴とする。−Y−Pro配列によって、プロペプチドは、該IGF−IからIgAプロテアーゼ処理によって分離されることが可能である。
【0013】
好ましくは、本発明による融合タンパク質は、式Met−X−His−X−Y−Pro−[IGF−I]を特徴とし、式中、
Metが、メチオニンを示し、
が、結合、セリンまたはアスパラギンであり、
Hisが、ヒスチジンであり、
nが、0〜6の数であり、
が、ペプチド配列番号6〜10からなる群より選択されるリンカーペプチドであり、
Proが、プロリンであり、および
Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択される。
【0014】
好ましくは、プロペプチドは、式Met−X−His−X−Y−Pro−によって示され、式中、
Metが、メチオニンを示し、
が、結合、セリンまたはアスパラギンであり、
Hisが、ヒスチジンであり、
nが、0〜6の数であり、
が、ペプチド配列番号6〜10からなる群より選択されるリンカーペプチドであり、
Proが、プロリンであり、および
Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択される。
【0015】
プロペプチドは、IGF−IのN末端(グリシン)にそのC末端で結合する。プロペプチドは好ましくは、30個までのアミノ酸長を有する。好ましくは、X1は結合である。好ましくはnは、0または6である。好ましくはX2は、ペプチド配列番号7である。好ましくはYは、Pro−Arg−Proである。
【0016】
本発明はさらに、本発明によるIGF−Iを、好ましくは医薬的に許容しうる担体とともに含有する医薬組成物を含む。
【0017】
本発明はさらに、本発明によるIGF−Iを含有する医薬組成物の製造方法を含む。
【0018】
本発明はさらに、ADの治療のための医薬の製造のための本発明によるIGF−Iの使用を含む。
【0019】
本発明はさらに、アミノ反応性IGF−Iの医薬有効量を、ADの治療を必要とする患者へ、好ましくは1週間に1〜2回の適用において投与することを特徴とする、ADの治療のための方法を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
驚くべきことに、IgAプロテアーゼ、好ましくはナイセリア・ゴノレー由来のIgAプロテアーゼが、アミノ酸配列Y−Pro.!.Gly−Proを切断できることが見出された。Yは、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択される。好ましくはPro−Pro.!.Gly−ProまたはPro−Arg−Pro−Pro.!.Gly−Pro(配列番号11)が切断部位として有用である(.!.:切断位置)。本発明による処理のためのIgAプロテアーゼ切断部位は、アミノ酸コンセンサス配列Y−Pro.!.Gly−Proを有し、それにより、Gly−Proは、IGF−Iの最初の2個のアミノ酸である。Yは好ましくは、アミノ酸Pro、Pro−Ala、Arg−ProまたはPro−Arg−Proで終止するアミノ酸配列を表す。このようなYアミノ酸配列、特にPro−Arg−Proは、例えば、Ala−Pro−Arg−Pro(配列番号12)またはPro−Ala−Pro−Arg−Pro(配列番号13)にあるようなさらなるAla基またはPro−Ala基によって伸長されることが可能である。特に好ましいのは、切断アミノ酸配列Pro−Arg−Pro−Pro.!.Gly−Pro(配列番号11)、Pro−Ala−Pro.!.Gly−Pro(配列番号14)、Pro−Pro−.!.Gly−Pro(配列番号15)、Ala−Pro−Arg−Pro−Pro.!.Gly−Pro(配列番号16)またはPro−Ala−Pro−Arg−Pro−Pro.!.Gly−Pro(配列番号17)である。
【0021】
本発明によると、「IgAプロテアーゼ」という用語には、IgAを特異的に切断し、例えばナイセリア・ゴノレー(2型)由来のIgA1プロテアーゼなど、Kornfeld, S.J. and Plaut, A.G., Rev. Infekt. Dis. 3 (1981) 521-534に記載されるプロテアーゼが含まれる。独国特許第36 22 221(A)号、Koomey, J.M., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79 (1982) 7881- 7885、Bricker, J., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80 (1983) 2681- 2685、Pohlner, J., Nature 325 (1987) 458- 462、およびHalter, R., et al., EMBO J. 3 (1984) 1595-1601において記載されているような組換えIgAプロテアーゼも、まさに適している。好ましくは、該IgAプロテアーゼは、ナイセリア・ゴノレー由来のIgAプロテアーゼである。好ましくは、該ナイセリア・ゴノレー(2型)由来のIgA1プロテアーゼは、配列番号21を有する。
【0022】
本発明によるIGF−Iとは、ソマトメジンCとも呼ばれ、SwissProt No. P01343によって定義される、70個のアミノ酸からなるヒトタンパク質を指す。用途、活性および産生は、例えば、le Bouc, Y., et al., FEBS Lett. 196 (1986) 108-112、de Pagter-Holthuizen, P., et al., FEBS Lett. 195 (1986) 179-184、Sandberg Nordqvist, A.C., et al., Brain Res. Mol. Brain Res. 12 (1992) 275-277、Steenbergh, P.H., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 175 (1991) 507-514、Tanner, J.M., et al., Acta Endocrinol. (Copenh.) 84 (1977) 681-696、Uthne, K., et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 39 (1974) 548-554、欧州特許第0 123 228号、欧州特許第0 128 733号、米国特許第5,861,373号、米国特許第5,714,460号、欧州特許第0 597 033号、WO02/32449、WO93/02695に記載される。
【0023】
本発明によるIGF−Iは、IGF−I、C末端切断型IGF−I(3〜6個のアミノ酸の欠失)、R36A(位置36でのアラニンによるアルギニンの置換)、R37Aからなる群より選択されるIGF−Iを含む。好ましくは、該IGF−Iは、IgG由来の、好ましくはIgG1またはIgG4由来のヒトFcにそのC末端で結合する。
【0024】
C末端切断型IGF−I(3〜6個のアミノ酸の欠失)とは、C末端で3〜6個のアミノ酸の欠失した配列番号1のIGF−Iを示す。
【0025】
R36Aとは、アミノ酸位置36でアルギニンがアラニンによって置換された配列番号1のIGF−Iを示す。
【0026】
R37Aとは、アミノ酸位置37でアルギニンがアラニンによって置換された配列番号1のIGF−Iを示す。
【0027】
融合タンパク質をコードする遺伝子は、好ましくは、融合タンパク質が、必要条件に従って産生されることが可能であるよう、適切な(好ましくは誘導可能な)発現シグナルの調節下に置かれる。適切な原核細胞または真核(植物および動物)細胞は、タンパク質融合の産生のための宿主細胞として使用可能であるが、無細胞系も可能である。
【0028】
本発明による方法の好ましい実施態様は、宿主細胞が、組換えDNAまたは組換えベクターで形質転換され、ここで、該DNAまたはベクターは、本発明による融合タンパク質をコードする遺伝子の少なくとも1つのコピーを含有し、そして形質転換された細胞は、適切な培地中で培養され、融合タンパク質をコードする遺伝子は、該形質転換された細胞中で発現し、融合タンパク質はIgAプロテアーゼで切断され、そしてIGF−Iが単離されることを特徴とする。
【0029】
本発明による融合タンパク質の発現は、例えば、リジンを含まないβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の断片との融合によってDNAレベルで改良されることが可能であり、すなわち、Yは、リジンを含まないβ−ガラクトシダーゼタンパク質の一部を含有する。融合タンパク質の発現を亢進させるための他の代替例は、当業者に公知である。発現産物の精製および分離は、他のポリペプチド、特に高電荷のポリペプチドもしくはタンパク質(例えば、ポリ(Lys,Arg))または高い親和性で特定の物質へ結合することが可能なポリペプチドもしくはタンパク質(例えば、ストレプトアビジン)との融合によって容易になり得る(例えば、欧州特許第0 089 626(A)号、欧州特許第0 306 610(A)号)。特に好ましいリンカーペプチドは、好ましくはN末端側でSHHHHHH(配列番号18)、NHHHHHH(配列番号19)またはHHHHHH(配列番号20)が先行するペプチド配列番号6〜10である。
【0030】
本発明は、本発明による融合タンパク質をコードし、およびIgAプロテアーゼ切断部位が、プロペプチドとIGF−Iとの間の接合領域中に組み込まれる(組換え)核酸も提供する。
【0031】
本発明による組換えDNAは、分子生物学の分野の当業者に公知の方法で得ることができる。このために、IGF−Iのアミノ酸配列をコードするDNA配列を含有するベクターは通常、この遺伝子の5’末端の領域中の制限エンドヌクレアーゼで切断され、所望の配列を含有するオリゴヌクレオチドと再度結合される。
【0032】
さらに、本発明は、本発明による組換えDNAの少なくとも1つのコピーを含有する組換えベクターも提供する。原核生物におけるタンパク質発現のためのベースとして適切なベクターは、当業者に公知である。このベクターは好ましくは、本発明による組換えDNAの高い発現が可能となるベクターである。ベクター上の組換えDNAは好ましくは、誘導可能な発現シグナルの調節下にある(例えば、λ、tac、lacまたはtrpプロモーター)。
【0033】
本発明によるベクターは、染色体外に存在し得(例えば、プラスミド)、および宿主生物体(例えば、λバクテリオファージ)のゲノム中に組み込まれ得る。本発明によるベクターは、好ましくはプラスミドである。各場合において、特定の宿主生物体における遺伝子発現に適しているベクターは、分子生物学の分野の当業者に公知である。前記ベクターは、真核ベクターであり得るが、好ましくは原核ベクターである。原核生物における本発明によるDNAの発現に適したベクターの例は、例えば、市販のpUCベクターおよびpURベクターである。
【0034】
本発明は、本発明による組換えDNAでおよび/または本発明による組換えベクターで形質転換された細胞、好ましくは原核細胞、特に好ましくは大腸菌(E.coli)細胞も提供する。
【0035】
融合タンパク質が、原核生物中で発現する場合、不活性のやや溶け難い凝集体(屈折体、封入体)が形成される。したがって、融合タンパク質は、その活性型形態へと形質転換されなければならない。当業者になじみのある手法を使用して(例えば、欧州特許第0 219 874(A)号、欧州特許第0 114 506(A)号、WO84/03711参照)、まず、変性剤の添加によって可溶化が実施された後、再生および所望の場合さらなる精製工程が実施される。
【0036】
IgAプロテアーゼで切断されるべきIGF−I融合タンパク質の処理に必要な条件は、重要ではない。しかしながら、この過程において、IGF−I融合タンパク質とIgAプロテアーゼとの重量比が1:1〜100:1であることが好ましい。反応は好ましくは、pH6.5〜8.5のバッファー水溶液中で行う。バッファー濃度は好ましくは、50〜500mmolの範囲にあり、所望の場合、0〜100mmol/Lの塩化ナトリウムを添加する。切断は好ましくは、室温で少なくとも60分間から5日まで、好ましくは24〜72時間実施される。
【0037】
可溶化、再生およびIgAプロテアーゼによる切断の後、このように得られた切断産物は好ましくは、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび/またはサイズによる分画によって精製される。このように生じたIGF−Iは、位置−1においてメチオニンを含まない。
【0038】
医薬製剤
IGF−Iは、混合物として、または例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーもしくはサイズ排除クロマトグラフィーによって分離される異なる種として投与されることが可能である。本発明の化合物は、当業者に公知である、医薬組成物の製造方法に従って処方されることが可能である。このような組成物の製造のために、本発明によるIGF−Iは、医薬的に許容しうる担体との混合物中で、好ましくは医薬組成物の所望の成分を含有する水溶液に対する透析または透析濾過によって組み合わされる。このような許容しうる担体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, 1990, Mack Publishing Company, Oslo et al.編集(例えばp.1435〜1712)に記載される。典型的な組成物は、本発明に従った物質の有効量、例えば約0.1〜100mg/mLを、適切な量の担体とともに含有する。組成物は、非経口的に投与され得る。本発明によるIGF−Iは、好ましくは腹腔内、皮下、静脈内または鼻内適用を介して投与される。
【0039】
本発明による医薬製剤は、当該分野で公知の方法に従って調製されることが可能である。通常、IGF−Iの溶液は、医薬組成物中で使用されるよう企図されたバッファーに対して透析または透析濾過され、所望のタンパク質終濃度は、濃縮または希釈によって調整される。
【0040】
以下の例および配列は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。変更が、本発明の精神から逸脱することなく、記載の手法においてなされ得ることが理解される。アミノ酸の名称は、1文字コード(例えば、R)または3文字コード(例えば、Arg)のいずれかを使用して略記される。R36Aとは、アミノ酸アルギニン36がアラニンによって置換されているIGF−I変異体を意味する。
【0041】
配列表
配列番号1 ヒトIGF−Iのアミノ酸配列(SwissProt P01343由来のアミノ酸49〜118)
配列番号2 好ましいプロペプチドのアミノ酸配列
配列番号3 好ましいプロペプチドのアミノ酸配列
配列番号4 好ましいプロペプチドのアミノ酸配列
配列番号5 好ましいプロペプチドのアミノ酸配列
配列番号6〜10 リンカー
配列番号11〜17 切断配列
配列番号18〜20 その他
配列番号21 ナイセリア・ゴノレー(2型)由来のIgA1プロテアーゼのアミノ酸配列
【実施例】
【0042】
実施例1
有用な発現ベクターおよびE. coli株は、欧州特許第0 972 838号に記載されている。E. coliクローンから、発現している融合タンパク質が選択的寒天プレート上で増殖し、1個の接種ループを(100mLの)選択培地へ移し、37℃で13時間、光学密度(578nm)が2〜4になるまで培養する。この培養物を氷上でさらに6時間保存した後、主要培養物の自動接種を37℃で実施する。IGF−I変異体の発現は、1.0mM IPTGの添加とともに50の光学密度(578nm)で開始する。全体的な発酵は、16時間まで持続する。SDS−PAGEゲル上の産物のタンパク質バンドの容積測定強度をIGF標準物質のバンドと比較することによって、タンパク質の量を濃度測定で測定する。培養ブロスを遠心分離によって回収する。
【0043】
精製された封入体(IB)材料を得るために、標準物質の発酵から回収されたバイオマスを次の手法で処理する。0.3g/100g生物乾燥重量のリゾチームおよび5U/lg生物乾燥重量のベンゾナーゼを20分間インキュベートし、ホモジナイズする。30U/lg生物乾燥重量のベンゾナーゼを添加し、37℃で60分間インキュベートする。0.5L/LのBrijバッファーを添加し、室温で30分間インキュベートする。遠心分離後、300mLのTris−EDTA−バッファー/100g生物湿重量(精製されたIB湿重量)中にペレットを再懸濁し、室温で30分間インキュベートし、遠心分離する。6.8Mグアニジン−HCl、0.1M TrisHCl、0.1M DTT、pH8.5中で1g/LのIBを室温で一晩可溶化する。濁った溶液を6.8Mグアニジン−HCl、0.1M TrisHCl、pH8.0に対して透析する。透析後、遠心分離によって不溶性成分を除去する。プロIGF−I溶液を0.8Mアルギニン、0.1M TrisHCl、0.1Mグアニジン−HCl、1mM GSH、1mM GSSH、pH8.5中へ室温で50倍希釈することによって、フォールディングを実施する。2時間後、溶液に2M塩化ナトリウムを補充し、濾過し、2M NaCl、0.8Mアルギニン、0.1M TrisHCl、0.1Mグアニジン−HCl、pH8.5を含有するバッファーで室温で平衡化したHICカラム(Butyl Sepharose 4 Fast Flow; GE, Amersham Biosciences)へ、10mL/分の流速で適用する。ベースラインに到達するまでカラムを平衡化バッファーで洗浄した後、平衡化バッファーで開始し、0.1M TrisHCl、5%エチレングリコール、pH8.5を含有するバッファーで終了する直線勾配の10カラム容積で溶出する。逆相高速クロマトグラフィー(rpHPLC)によって、溶出した画分を分析する。正確に形成されたSS架橋を有するタンパク質を含有する画分をプールした。反応混合物にナイセリア・ゴノレー(2型)由来のIgA1プロテアーゼを補充し(重量比1:50)、室温で一晩インキュベートする(図2参照)。反応混合物を50mM酢酸(pH4.5)で1:2に希釈した後、50mM酢酸で平衡化された陽イオンIECカラム(MacroCap SP support; GE, Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)へ適用するか、またはSEC Superdex(商標)200(General Electric)へ適用する。ベースラインに到達するまでカラムを洗浄した後、50mM酢酸で開始し、1M塩化ナトリウムを補充された50mM酢酸で終了する直線勾配の20カラム容積で溶出する。溶出した画分をSDS−PAGEによって分析した。IGF−Iの分子サイズを有する単一バンドを含有する画分をIGF−1としてプールする。静的光散乱検出を有する分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、トリプシン消化のMS分析、Asp−N消化のMS分析および分析用陽イオンIECまたはSECによって、IGF−Iの同一性を確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)プロペプチドのC末端にそのN末端で結合したIGF−Iを含む融合タンパク質をコードする核酸を含有する発現ベクターを含む原核宿主細胞を培養すること、
b)それによって、該プロペプチドが、アミノ酸−Y−ProでそのC末端が終止し、ここで、Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択されること、
c)該融合タンパク質を回収し、そして該融合タンパク質をIgAプロテアーゼで切断すること、および
d)該IGF−Iを回収すること
を特徴とする、IGF−Iの製造方法。
【請求項2】
前記IGF−Iが、IGF−I(配列番号1)、C末端切断型IGF−I(3〜6個のアミノ酸)、R36A、R37Aからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記IGF−Iが、IgG由来のヒトFcにそのC末端で結合することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロペプチドが、式:
Met−X−His−X−Y−Pro−
によって示され、式中、
Metが、メチオニンを示し、
が、結合、セリンまたはアスパラギンであり、
Hisが、ヒスチジンであり、
nが、0〜6の数であり、
が、ペプチド配列番号6〜10からなる群より選択されるリンカーペプチドであり、
Proが、プロリンであり、および
Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択される
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
プロペプチドが、アミノ酸−Y−ProでそのC末端が終止し、ここで、Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択されることを特徴とする、プロペプチドのC末端に結合したIGF−Iを含む融合タンパク質。
【請求項6】
前記プロペプチドが、30個までのアミノ酸長を有することを特徴とする、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
式:
Met−X−His−X−Y−Pro−[IGF−I]
を特徴とし、式中、
Metが、メチオニンを示し、
が、結合、セリンまたはアスパラギンであり、
Hisが、ヒスチジンであり、
nが、0〜6の数であり、
が、ペプチド配列番号6〜10からなる群より選択されるリンカーペプチドであり、
Proが、プロリンであり、および
Yが、Pro、Pro−Ala、Pro−Gly、Pro−Thr、Ala−Pro、Gly−Pro、Thr−Pro、Arg−Pro、またはPro−Arg−Proからなる群より選択される、
請求項5または6に記載の融合タンパク質。

【公表番号】特表2010−501606(P2010−501606A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525970(P2009−525970)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007539
【国際公開番号】WO2008/025527
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】