説明

インスリン誘発性低血糖の予防および制御のための組成物ならびに方法

インスリンおよびグルカゴンの両方を含有する薬学的組成物は、インスリン誘発性低血糖の危険を減少させるか、または排除しつつ、糖尿病を制御し、そして処置するために投与され得る。1つの局面において、本発明は、糖尿病患者に投与した結果、糖尿病の治療上有効な制御を達成するだけではなく、低血糖を予防することも可能な量の、インスリンとグルカゴンの両方を含む薬学的組成物を提供する。処方物としては、例えば、皮下(s.c.)によるものを含む注射に適した処方物、経口投与に適した処方物、経皮投与に適した処方物、眼への投与に適した処方物、および吸入に適した処方物、が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮特許出願第60/584,449(2004年6月29日出願)の利益を主張し、この米国仮出願の内容全体を、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
(技術分野)
本発明は生物学、薬理学、および医学の分野に関する。特に、本発明は血糖値の制御のための組成物および組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
インスリンは、膵臓ランゲルハンス島のβ細胞によって、そしてグルカゴンは、α細胞によって産生される。インスリンの主な効果の1つは、肝臓のグルコース放出を抑制することおよび末梢のグルコース取り込みを刺激することによって、血中グルコースを低下させることである。内因性インスリンレベルは、真正糖尿病を患う一部の患者では、低いかあるいは検出不可能である可能性がある。外因性インスリンは通常、循環インスリンレベルが低いかあるいは効果がない場合に、高血糖を低下させるために投与される。グルカゴンは一般に、まず肝臓のグルコース放出を増加させ、それによって、血糖値を増大させることを含めて、インスリンの効果とは逆の効果を有する。グルカゴンレベルは、特に外因性インスリンを利用する患者において血糖値が低レベルに異常に落ちるときに、増大する傾向がある。
【0004】
糖尿病管理のための現在の目標としては、微小血管合併症を遅らせるかあるいは予防するために、通常の血糖値に近づけることが挙げられ、この目標の達成は、通常集中的なインスリン療法を必要とする。医師は、この目標を達成しようと努力する際、糖尿病患者における低血糖の頻度と重症度の実質的な増加に直面した。
【0005】
低グルコースレベルによって特徴付けられる低血糖は、自律神経系およびアドレナリン作用性の症状、ならびに神経系糖欠乏(neuroglycopenic)症状という結果になるが、これらの症状は、代表的に、軽率で過剰なインスリン投与の結果として発生する。現在、低血糖は、70mg/dl未満(例えば、50mg/dlより大きいかまたは60mg/dlより大きい)の血中グルコースとして定義される。低血糖の頻繁に再発する発作は、低血糖の無自覚に関連し、この低血糖の無自覚は、ときとして重篤な低血糖の発症にさらに寄与し得る。したがって、インスリンによって正常なグルコースレベルを達成する努力は、患者において種々の頻度および重症度の低血糖の発症をもたらし得る。低血糖およびその存在の認識欠如は、インスリン治療の深刻な合併症であり、これは、糖尿病患者において逆調節(counter−regulatory)(抗インスリン)応答障害が存在する場合、より高頻度およびより大きな重症度を伴って起こる。低血糖に通常反応する主な逆制御ホルモンの1つは、グルカゴンである。進行した1型および2型糖尿病を患う患者では、しばしば、急激な低血糖に対するグルカゴン応答が、損なわれているか、あるいは失われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(発明の要旨)
糖尿病を処置するための新規の方法、ならびにインスリン治療によって誘導される低血糖の危険を減少させるインスリンおよびグルカゴンの新規の調製物に対する必要性が、依然として存在する。本発明は、この必要性および他の必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの局面において、本発明は、糖尿病患者に投与した結果、糖尿病の治療上有効な制御を達成するだけではなく、低血糖を予防することも可能な量の、インスリンとグルカゴンの両方を含む薬学的組成物を提供する。処方物としては、例えば、皮下(s.c.)によるものを含む注射に適した処方物、経口投与に適した処方物、経皮投与に適した処方物、眼への投与に適した処方物、および吸入に適した処方物、が挙げられる。いくつかの実施形態において、この組成物は、s.c.投与のために構成され、そして5〜約20ng/kg/分(例えば、ヒトの1kgあたり毎分5ng以上〜20ngの有効性)のグルカゴンの投与のために十分なグルカゴンを含有する。1つの実施形態において、5〜約20ng/kg/分のグルカゴンは、1〜20単位のインスリンに対して投与される。例えば、投与される割合は、1時間に1回投与され得る。好ましい実施形態において、この組成物は、投与されるインスリンの各1〜2単位に対して5以上〜約20ng/kg/分の投与に適する。認識される通り、いくつかの実施形態においてグルカゴンおよびインスリンは別個の容器中に保持され得、そして同時に投与されないが、これら2つの間の適切な割合が、維持される。1つの実施形態において、これらの別個の容器は、グルカゴンおよびインスリンの投与(例えば、皮下に投与するため)に適した単一のデバイス中に収容される;別の実施形態において、2つのデバイスが、各薬剤に対して1つ使用される。
【0008】
別の局面において、ヒトおよび他の哺乳動物において、低血糖を誘導せずにか、または低血糖を誘導する、実質的に減少した危険性を伴って糖尿病を処置する方法が、提供される。1つの実施形態において、インスリンおよびグルカゴンを含有する組成物は、軽いか、中程度か、または重篤な低血糖の症状が現れる前に患者に投与される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、インスリン療法(集中的なインスリン療法が挙げられる)によって処置されるI型糖尿病患者における夜間の低血糖を予防するために実施される。この方法は、インスリンおよびグルカゴンの同時投与を包含し、このインスリンは、糖尿病の制御のために治療的に有効な量で投与され、このグルカゴンは、低血糖の予防のために治療的に有効な量で投与され、インスリンおよびグルカゴンの両方は、好ましくは同時にあるいは同時間に、すなわち互いの約4時間以内(レギュラーインスリン、LISPROインスリン、およびASPARTインスリンが使用される場合)、あるいは互いの約6時間〜12時間以内(より長く作用するインスリンが使用される場合)に投与され、そしていずれにせよ、臨床的に観察可能な低血糖の発症前に投与される。1つの実施形態において、グルカゴンは、インスリンが投与される前に投与される。別の実施形態において、インスリンは、グルカゴンが投与される前に投与される。1つの実施形態において、この方法は、糖尿病患者に対するインスリンおよびグルカゴンの同時投与によって、血糖レベルを70mg/dLより大きく、かつ180mg/dLより低く維持する工程を包含する。別の実施形態において、この方法は、1分間あたり約6ng/kgと18ng/kgとの間の量のグルカゴンをs.c.に投与する工程を包含する。1つの実施形態において、1〜20単位または2〜20単位のインスリンが、s.c.に6ng/kg/分と18ng/kg/分との間の量でグルカゴンを受容する糖尿病患者に投与される。別の実施形態において、この方法は、1分間あたり約8ng/kgと12ng/kgとの間のグルカゴンをs.c.にて投与する工程を包含する。1つの実施形態において、0.1単位〜2単位または2単位〜20単位のインスリンが、s.c.に8ng/kg/分と12ng/kg/分との間の量でグルカゴンを受容する糖尿病患者に投与される。別の実施形態において、このグルカゴンは、静脈内または皮下以外の手段によって投与され、そして上で提供されるs.c.投薬量と等価な用量が、投与される。
【0009】
別の局面において、高血糖でも低血糖でもない範囲の血糖値を維持するための方法が、提供される。これらの方法は、インスリンおよびグルカゴンの同時投与を包含する。
【0010】
別の局面において、本発明の方法に従うインスリンとの同時投与に適したグルカゴン処方物および改変されたグルカゴンが、提供される。
【0011】
別の局面において、低血糖を予防するために、キットが提供される。1つの実施形態において、これらのキットは、好ましくは、インスリン、グルカゴン、およびそれらの適切な組み合わせを同時に投与するための説明書を備える。
【0012】
別の局面において、これらのキットは、インスリン、グルカゴンの長時間作用性の形態、および使用のための説明書を備える。
【0013】
いくつかの局面において、低血糖の自覚喪失もしくは感受性喪失を、回復させるか、または予防するための方法が、提供される。この方法は、患者に対する低血糖の自覚を予防するか、または回復させるのに十分な期間にわたって、患者にグルカゴンの量を投与する工程を包含する。1つの実施形態において、この患者は、グルカゴンの投与と同時にインスリンを投与される。
【0014】
1つの局面において、薬学的処方物が提供され、この薬学的処方物は、ヒトまたは他の哺乳動物における、糖尿病の制御に有効な量のインスリン、および低血糖の予防に有効な量のグルカゴンを含む。この薬学的処方物は、皮下に投与されるように構成され、そしてインスリン対グルカゴンの割合は、代表的に、1単位のインスリン 対 40ミリ単位以上〜200ミリ単位の間のグルカゴンである。いくつかの実施形態において、このグルカゴンの量は、約50ミリ単位と100ミリ単位との間である。いくつかの実施形態において、このグルカゴンは、グルカゴンの長時間作用性の形態である。いくつかの実施形態において、このグルカゴンの長時間作用性の形態は、ヨウ素を含む。いくつかの実施形態において、長時間作用性の形態のグルカゴンは、プロタミンをさらに含む。
【0015】
別の局面において、低血糖を誘導せずにヒトまたは他の哺乳動物において糖尿病を処置する方法が、提供される。この方法は、糖尿病を制御するのに治療的に有効な量でインスリンを投与する工程を包含する。このインスリンは、0.5単位と20単位との間のインスリンの量であり得る。この方法は、さらに、低血糖の予防に治療的に有効な時間および量でグルカゴンを投与する工程をさらに包含する。このグルカゴンは、同時に投与され得、そして所望のグルカゴンの有効性のために、1分間に患者1kgあたり5ng以上と100ng以下との間の量であり得る。いくつかの実施形態において、投与されるグルカゴンの量は、所望のグルカゴンの有効性のために、1分間に患者1kgあたり6ngと18ngとの間の量であり得る。いくつかの実施形態において、このグルカゴンは、作用の延長した持続期間を有するグルカゴンである。いくつかの実施形態において、このグルカゴンは、リポソーム処方物中に含まれる。いくつかの実施形態において、このグルカゴンは、マイクロスフェア中に含まれる。いくつかの実施形態において、インスリンおよびグルカゴンの両方を含む処方物が投与される。いくつかの実施形態において、このインスリンおよびグルカゴンは、患者に対する薬物の投与を制御するポンプ中に含まれる。いくつかの実施形態において、このグルカゴンは、インスリンと同時に投与される。いくつかの実施形態において、グルカゴン対インスリンの割合は、約40ミリ単位以上〜200ミリ単位のグルカゴン 対 1単位のインスリンである。いくつかの実施形態において、2単位のインスリンが投与される。いくつかの実施形態において、10単位のインスリンが投与され、そして1分間に1kgあたり30ngと90ngとの間のグルカゴンが皮下に投与される。
【0016】
別の局面において、低血糖を予防する量のグルカゴンおよびインスリンの投与のためのキットが、提供される。このキットは、グルカゴンおよびインスリンを備える。このグルカゴンおよびインスリンは、1単位〜20単位のインスリン対32ミリ単位〜480ミリ単位のグルカゴンの割合である。このキットは、グルカゴンが低血糖の事象を予防するように、グルカゴンを同時に投与するための手段およびインスリンおよびグルカゴンを投与するための説明書をさらに備える。いくつかの実施形態において、グリセリン溶液中に完全に溶解された場合のグルカゴンの濃度は、1ミリリットルあたり500マイクログラムを超えるが、1ミリリットルあたり2000マイクログラム未満である。いくつかの実施形態において、このグルカゴンおよびインスリンは、1単位〜3単位のインスリン対32ミリ単位〜96ミリ単位のグルカゴンの割合である。いくつかの実施形態において、グルカゴンを皮下投与するための手段はポンプであり、そしてこのポンプは、約6ng/kg/分〜20ng/kg/分の間のグルカゴンを送達するように構成される。
【0017】
別の局面において、糖尿病の処置のための医薬の調製における、インスリンと組み合わせたグルカゴンの使用が提供される。グルカゴンは、低血糖の発症を予防するのに十分な量で使用され、グルカゴン 対 インスリンの割合は、40マイクログラム以上と500マイクログラム未満の間のグルカゴン 対 1単位〜20単位のインスリンである。いくつかの実施形態において、この量は、無自覚性低血糖の発症を予防するのに十分である。いくつかの実施形態において、インスリンの量は1単位と20単位との間であり、そしてグルカゴンの量は41ミリ単位と200ミリ単位との間である。いくつかの実施形態において、インスリン 対 グルカゴンの割合は、おおよそ、1単位と3単位との間のインスリン 対 40ミリ単位以上と約96ミリ単位以下との間のグルカゴンである。いくつかの実施形態において、このグルカゴンは、プロタミンをさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
インスリン治療される糖尿病患者(1型および2型の両方)において、低血糖を予防するか、あるいは低血糖の頻度および重症度を有意に低下させ得る方法および組成物が、提供される。1つの局面において、この方法および組成物は、低血糖のレベルを上回るグルコースレベルに調節しながら糖尿病を処置するために利用される。この方法および組成物は、しばしばインスリン投与と同時に起こる異常に低いグルカゴン応答を、補うかあるいは回復させ、それによって、低血糖を予防するために使用され得る。
【0019】
低血糖の予防を複雑にする1つの問題は、低血糖の反復性事象が低血糖の自覚の喪失をもたらす;したがって、たとえ最初は患者によって認められたとしても、患者が低血糖の症状を識別する能力は、やがて損なわれ得るかまたは失われ得る。したがって、低血糖の自覚の喪失を予防し得るか、または覆し得る組成物および方法が、所望される。これが達成され得る1つの方法は、インスリンが軽い低血糖の発症を予防するように作用する期間にわたって比較的低用量で、グルカゴン、または本明細書中に記載されるような血中グルコースレベルを上昇させる別の薬剤を投与することである。このことはまた、低血糖の自覚の喪失を覆すか、または予防するために使用され得る。
【0020】
1つの実施形態において、本発明は、血糖症管理を最適化し、低血糖の発生率を減らすかあるいは低血糖を予防するようなモル濃度比で組み合わせられる2つのホルモン(インスリンとグルカゴン)の薬学的処方物を提供する。別の実施形態において、この利益を達成するための、インスリンおよびグルカゴンの、同時ではあるが別々の投与のための方法および組成物が、提供される。反対に作用すると考えられてきた活性をもつ2つのホルモンの同時投与は、伝統的に、有益効果をもたないと思われてきたが、本発明の実施形態のいくつかは、一つには、このような投与により、インスリンにより提供されるグルコース調節という有益効果を減弱させずに、グルカゴンの効果を緩和するかまたは鈍化させることによって、低血糖を予防する有益効果が達成されるという認識から起こる。いくつかの実施形態において、低い量のグルカゴンは、インスリンを受容しているか、受容していたかまたは受容するつもりである患者に対して、継続的に投与される。したがって、インスリン投与に起因する低血糖およびその関連する症状の発症を予防するための高血糖因子(例えば、グルカゴン)の使用が,企図される。いくつかの実施形態において、高血糖薬剤(例えば、グルカゴン)は、医原性低血糖の発症を予防するために使用される。
【0021】
したがって、本発明の実施形態のいくつかは、糖尿病患者にインスリンとグルカゴンを同時投与することによって、低血糖の危険を低減させる、糖尿病を制御するための方法を提供する。1つの実施形態において、患者に、低血糖を予防するために治療的に有効な量のグルカゴンを投与することによって、インスリンで処置されており、かつ低血糖症状を患っていない糖尿病患者において、低血糖を予防する方法が、提供される。1つの実施形態において、グルカゴンは、インスリンと同時に投与される。別の実施形態において、このグルカゴンは、さらなるインスリンが投与される10分前〜数時間前に投与され、そしてより好ましくは、さらなるインスリンが投与される30分前〜60分前に投与される。他の実施形態において、このグルカゴンは、この患者が最後にインスリンを投与された後、あるいは約1分〜約4時間以内に投与される。1つの実施形態において、低血糖の予防は、被験体において明らかとなる低血糖に関連した症状を予防する工程を包含する。別の実施形態において、低血糖の予防は、約70mg/dLを上回るか、または約50mg/dL〜60mg/dLを上回る被験体の平均血中グルコースレベルを維持することによって達成される。好ましくは、この被験体の血糖値は、約140〜200より下に維持され、そして少なくとも約350mg/dLより下に維持される。好ましくは、この被験体の血糖値は、正常血糖が維持されるように維持される。
【0022】
本明細書の開示を考慮すれば、当業者に明らかなように、FDAにより承認されたものと、開発中のもの両方を含めて、インスリンの多くの異なる形態のいずれも、ならびにインスリンの多くの異なる投与経路のいずれも、現在開示される方法および処方物に使用され得る。さらに、グルカゴンの現在利用可能な処方物はいずれも、同様に、方法および処方物中で使用され得る。しかし、本開示以前には、グルカゴンは、低血糖を制御するために非経口的にしか投与されていなかったので、本開示は、遅延作用性グルカゴンおよび/または長時間作用性グルカゴンを含めた、本発明の実施形態のいくつかにより提供される利益の達成に特に適した、新規なグルカゴン誘導体、グルカゴンおよびグルカゴン誘導体の新規処方物を提供し、そしてグルカゴンおよびグルカゴン誘導体を投与する新規の処方物および方法を提供する。
【0023】
インスリンおよびグルカゴンの厳密な投薬量は、患者によって変わり、そして種々の因子に依存し、これらの因子としては、患者の年齢および性別、糖尿病の型および重症度、患者の既往歴(低血糖および高血糖の発症が挙げられる)、使用されるインスリンおよびグルカゴンの型などが挙げられるが、これらに限定されず、任意の患者に対する投薬量は、本開示を考慮して、当業者によって決定される。本発明の実施形態のいくつかにについての有益な効果は、通常、インスリンとグルカゴンの両方を、グルカゴンがI.V.で投与される場合、インスリン約1単位に対してグルカゴン約0.02〜40ミリ単位(0.02〜40マイクログラム)の割合で投与することによって達成され得る。インスリンの1単位は、代表的に、糖尿病の処置に関して使用される用語として定義される(例えば、約34.2マイクログラム〜約40マイクログラム)。インスリンの量はまた、国際単位(IU)で測定され得る。グルカゴン1単位は、1ミリグラムのグルカゴンに対応する。ひとつの実施形態において、この割合は、グルカゴンがI.V.で投与され、そしてインスリンがs.c.で投与される場合、1単位のインスリンに対して、0.2ミリ単位〜4.0ミリ単位(0.2〜4.0マイクログラム)のグルカゴンである。このグルカゴンが皮下に投与される場合、1単位のインスリンは、40ミリ単位以上〜200ミリ単位のグルカゴンの量において投与され得る(例えば、投与されるインスリンの各単位に対して、100kgの人間に1時間あたり40ミリ単位〜200ミリ単位)。別の実施形態において、インスリンの各単位に対して、48〜150mU、50〜120mU、または80〜100mUのグルカゴンが投与される。好ましい実施形態において、グルカゴンは皮下投与され、そしてその割合は、約1単位のインスリン対5ng/kg以上〜約20ng/kgのグルカゴンであり、このグルカゴンの量は、インスリン用量の有効性の期間の間に毎分投与される。1つの実施形態において、1単位のインスリンが投与され、そしてグルカゴンは、8〜12ng/kg/分の速度で投与される。例えば、1単位のインスリンと関連して、1時間に100kgの人間を処置するための標準的な用量が作製され得る。当業者によって認識されるように、この用量は、基本的なインスリンの割合のための用量であり得る。インスリンの食後のレベルが望まれる場合、この用量におけるグルカゴンの量は、それに応じて増加される。いくつかの実施形態において、グルカゴンは、5ng/kg/分以上と約20ng/kg/分未満との間の量で皮下に投与される。より好ましくは、この量は、皮下投与に関して、1分間に1あたり約8ng/kg/分と16ng/kg/分との間のグルカゴンである。当然に、当業者は、等価な量の他の用量(すなわち、代替的な方法によって投与される同じ有効量)がまた、本明細書中の教示を考慮して決定され得ることを認識する。当業者によって認識され、そして以下でより詳細に示されるように、この量は、高血糖を誘導せずに低血糖を予防するために必要とされるグルカゴンの量に対応するように調整され得る。したがって、いくつかの実施形態において、s.c.投与によってでさえ、投与されるグルカゴンの量は、インスリン誘発性低血糖の予防に有効であると記載される5〜20ng/kg/分より小さい値である。当業者によって認識されるように、本開示が、1型糖尿病に焦点を合わせる一方で、同様の方法および組成物が、2型糖尿病に対して使用され得る。一般的に、グルカゴンの量は、1型糖尿病に関して本明細書中で開示されるものを超えて数倍増加され得る。例えば、2型糖尿病は、さらにグルカゴンを1.5〜5倍要求し得、そして好ましくは、1型糖尿病より2〜3倍多いグルカゴンを含む。
【0024】
インスリンの現在利用可能ないずれかの形態(可溶性の組換え型ヒト(レギュラー)インスリン、ヒトインスリン類似体、例えば、牛、豚、および他の種から得られる動物インスリン、ならびに中時間および長時間作用性のインスリンを含む遅延放出形態が挙げられるが、これらに限定されない)は、本明細書中に開示される組成物および方法のために使用され得る。さらに、現在使用される投与経路、ならびにより新規の開発中の経路のいずれも使用され得る、これらの経路としては、皮下注射、筋肉内注射、および、静脈内注射、ならびに経口投与、口腔内投与、経鼻投与、経皮投与、舌下投与および肺気道(pulmonary airway)投与が挙げられるが、これらに限定されない。当該技術分野で公知の糖尿病を制御するためのインスリン投与のための代表的な用量および用量範囲が、いくつかの実施形態の方法および組成物における使用に適している。
【0025】
例えば、食事時(prandial)の短時間作用性インスリン(レギュラーインスリンおよびそのLISPRO誘導体、ASPART誘導体およびGLULISINE誘導体など)は、当該技術分野で周知であり、糖尿病を治療するために共通に使用される。このようなインスリンは、他の形態(NPH、LENTE、SEMI−LENTE、DETEMIR、ULTRA−LENTE、およびGLARGINE(LANTUS)、ならびにレギュラーインスリンと長時間作用性インスリンのあらかじめ混合された処方物が挙げられるが、これらに限定されない)に適用可能な様式で、実施形態を例示するために使用され得る。この例では、全部で3つの食事時の短時間作用性インスリンとされる分子量は、LISPROは5808、ASPARTは5825.8、GLULISINEは5823、およびレギュラーインスリンは5807で、類似している。グルカゴンに対する分子量は3483である。
【0026】
1型糖尿病では、食事時インスリン注射の通常の範囲は平均からの2つの標準偏差として近似され得、2〜20単位のインスリン用量範囲をもたらす。95%以上の1型糖尿病患者は、この範囲内の食事時インスリン用量を投与される。前述の3つの食事時インスリンは全て、皮下投与後1〜2時間以内にピーク血清濃度に達し、そして約5時間の有効性の持続時間を有する。
【0027】
現在では、低血糖は、約1mg(1単位)の用量で、グルカゴンの単一の注射剤により処置されるが、この用量は低血糖を制御するのに実際に必要な用量より大過剰であると決定されている。グルカゴンが皮下または筋肉内に投与される場合、血清グルカゴンは、1時間以内でピークに達し、その効果は数時間持続し得る。しかし、グルカゴンの現在市販される形態は、(単離されていてもインビボにおいても)液体形態において長時間安定でなく、そして1つの実施形態において、本発明は、より安定であるグルカゴンの新規の薬学的処方物および現在利用可能であるが幅広く使用されていないより安定な形態のグルカゴンを使用するための新規の方法を提供する。
【0028】
食事時インスリンおよび皮下投与されたグルカゴンの、ピーク血清レベルまでのそれぞれの時間、および作用の持続時間に一部基づき、皮下のインスリン薬物動態とグルカゴン薬物動態との間には、不整合が存在することが発見された。本発明の1つの実施形態は、患者に所望されるか、あるいは患者の利益になる場合にこの不整合を修正するために使用され得る、より長時間作用性のグルカゴン処方物およびグルカゴン誘導体を提供する。本明細書中で使用される場合、「より長時間作用性の」グルカゴンとは、標準のグルカゴン(天然抽出物またはrDNAにより産生される合成グルカゴンが挙げられる)を超える半減期を有するグルカゴンをいう。
【0029】
食事時インスリンの効果持続時間と類似する効果持続時間を達成するために必要とされる用量のグルカゴンを提供するために、基礎補充(basal replacement)用量に近い用量を用いることができる。静注による通常の基礎グルカゴン補充用量は、0.5〜0.75ng/kg/分であり、患者、インスリン用量、投与の方法(例えば、I.V.対s.c.)、および他の要因に依存して、0.10ほど〜5.00ng/kg/分(よりしばしば、0.10〜3.00ng/kg/分)という広範囲にわたるグルカゴン注入が有効であり得ると想定できる。例えば、s.c.投与において、本発明者らは、皮下注入によって投与されるグルカゴンのバイオアベイラビリティーが10%と同程度に低く、そしてボーラス皮下投与に関して約35%と同程度に低い場合、投与されるグルカゴンの量が、より高いものであり得ることを見出した。したがって、この用量は、5〜20ng/kg/分の速度でのグルカゴンの投与と等価な治療効果を得るために、それに応じて増加されるか、または減少される。インスリンのPKに整合させるために、これらのグルカゴン注入速度は、150分から300分までの期間継続される。いくつかの実施形態において、注入の期間は、約6時間以上(例えば、6〜7時間、7〜10時間、10〜15時間、15〜20時間、20〜24時間、またはそれ以上)続き得る。したがって、補充速度を最小時間および最大時間に掛け合わせて、全用量/kgが得られ得る。代表的な1型糖尿病患者の体重が50〜100kgの範囲内であり、食事時インスリンの皮下注射の用量の上下範囲が2単位と20単位の間であると仮定する場合、インスリン/グルカゴン比は下記の表1(s.c.投与に関する割合を示す)に示される通りに算出され得る。1つの実施形態において、上記と同じ計算が、初期に利用可能なグルカゴンのより低いレベルおよび後期に利用可能なグルカゴンのより高い量が存在することを考慮して、患者に投与するグルカゴンの遅延放出形態または持続放出形態の量を決定するために使用される。任意の時点において放出されるグルカゴンの量は、正確にわからないが、十分なグルカゴンが、投与される処方物から単位時間あたりに放出され、その結果、グルカゴンがI.V.によって投与される実施形態に関して、平均で約0.1〜5.0ng/kg/分が患者中に放出される。1つの実施形態において、患者、処置される糖尿病の型、および投与の様式に依存して、0.5倍、2倍、3倍、または4倍のグルカゴンが、任意の所定の単位時間において放出され得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、そして表1に示されるように、グルカゴンは皮下に投与され、そして約5.0ng/kg/分以上〜約30ng/kg/分の間、約6ng/kg/分〜25ng/kg/分の間、6ng/kg/分〜20ng/kg/分の間、または約8.0ng/kg/分〜約12.0ng/kg/分の間の量で投与される。
【0031】
(表1.インスリン(sc)/グルカゴン(sc)重量比(ng/ng)および逆比[%表示])
【0032】
【表1】

表の項目の説明:
2U Ins/6ng/kg/分 Glucについて:合計2単位のインスリンが、所与の注入期間にわたって投与され、グルカゴンが、6ng/kg/分の速度で注入期間にわたって投与されることを意味する。50kgの人について150分に関して示される表中の2つの数字は、インスリンとグルカゴンとの重量比(絶対的な数字)、ならびにグルカゴン対インスリンの重量比(パーセントで表した数字)である(例えば、1.8=80000ng(2単位のインスリン)/750ng(50×1506グルカゴン);56.3%=1/1.8(パーセントで表した数字=逆比))。
【0033】
表1において、投与されるグルカゴンの量は、多くの患者について、投与されるインスリンの量(重量)の5.6%〜675%の範囲であるが、このグルカゴンは、インスリンの重量の225%未満にて投与されるか、またはインスリンの重量の225%未満で組成物中に存在する。当業者によって認識されるように、投与されるグルカゴンの量は、多くの要因に依存して変化し得る。したがって、インスリンに対するグルカゴンの%の範囲は、5.6%〜675%(例えば、188%以上〜675%未満)の間で変化し得る。1つの実施形態において、投与されるグルカゴンの量は、投与されるインスリンの量に対する割合として表され;例えば、投与されるグルカゴンの割合は、投与されるインスリンの量の5.6%〜11.3%であり得る。いくつかの実施形態において、投与されるグルカゴンの量は、投与されるインスリンの量の112%〜225%であり得る。以下の実施例7に示されるように、グルカゴンのこれらの量は、より低い用量範囲が高血糖の危険を伴わずに低血糖を予防するのに十分であり得ると考えられるような、高血糖へと近づく高い血中グルコースレベルを誘導し得る。より低い範囲または用量は、例えば、インスリンの重量の0.09%〜188%であり得る。当業者によって認識されるように、患者の重量は、乳児(例えば、2kg)から完全な大人(例えば、150kg〜200kgか、またはそれ以上)までで変化し得る。
【0034】
他の実施形態において、投与されるグルカゴンの量は、投与されるインスリンの量とは無関係に、重量または活性によるグルカゴンの量として記載され得る;例えば、1つの実施形態において、投与されるグルカゴンの量は、9時間の期間にわたって360〜900マイクログラムである。1つの実施形態において、投与されるグルカゴンは、s.c.で5ng/kg/分以上〜約30ng/kg/分の範囲である。1つの実施形態において、この量は、s.c.で、約8ng/kg/分〜約16ng/kg/分であるか、または約12ng/kg/分である。いくつかの実施形態において、実質的により低い値は、状況および投与の様式に依存して、同様に、十分であり得る。
【0035】
1つの実施形態において、低血糖は、約50〜60mg/dL未満の血中グルコースレベルであり、そして一般的に、約70mg/dL未満の血中グルコースレベルであり、そして高血糖は、約140〜200mg/dLより高い血中グルコースレベルである。1つの実施形態において、過剰な高血糖は、350mg/dLを上回る血中グルコースレベルとして定義される。グルカゴン対インスリンの割合およびそれぞれの量は、本発明の方法にしたがって、低血糖のレベルと高血糖のレベルとの間に血中糖レベルを効率的に保つために設定される。別の実施形態において、この血中グルコースレベルは、低血糖のレベルと過剰な高血糖のレベルとの間に維持される。別の実施形態において、この血中糖レベルは、高血糖のレベルと過剰な高血糖のレベルとの間に維持される。当業者によって認識されるように、このレベルは、正確に観察される必要はなく、そしてこれらの範囲を下回る軽微な下落またはこれらの範囲を上回るピークが、許容可能である。1つの実施形態において、患者に投与されるべき用量は、I.V.で投与されるグルカゴンの0.5〜0.75ng/kg/分の用量と、治療的に等価であるか、またはs.c.で5ng/kg/分を上回り、約20ng/kg/分までの用量(すなわち、s.c.投与を介する8〜16ng/kg/分のグルカゴン)と治療的に等価である。いくつかの実施形態において、インスリン以外の薬剤が、血中糖レベルを低下させるかまたは制御するために使用される場合でさえ、同じ量のグルカゴン(またはグルカゴン対インスリンの有効な割合)が、使用される。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、グルカゴンの血糖降下剤との同時投与が、本開示を考慮して企図される場合、インスリン以外の薬剤によって実施され得る。同様に、いくつかの実施形態において、グルカゴン以外の血糖上昇剤(hyperglycemic agent)が、インスリンで処置される糖尿病患者における低血糖の発症を予防するために使用される。いくつかの実施形態において、インスリンもグルカゴンも使用されず、そして糖尿病患者は、血糖上昇剤(血中糖レベルを上昇させる薬剤)および血糖降下剤(血中糖レベルを減少させる薬剤)の両方を同時に投与される。
【0036】
本発明の開示を考慮して当業者に認識されるように、患者に投与されるグルカゴン量またはインスリン量は、投与様式に依存して変化し得る。例えば、加えられるグルカゴンの量(またはインスリン対グルカゴンの割合)は、I.V.を介して投与される量の観点から記載され得る(本明細書中に参考として援用されるPCT公開番号WO2004/060387のとおり)。この量は、グルカゴンがどのように投与されるか(例えば、皮下的かまたは吸入を介するか)に依存して、大きく異なり得る。単純性のために、等価な結果を達成するために必要とされるグルカゴンの量は、「用量当量(dose equivalent)」として記載され得る。例えば、「s.c.で10ng/kg/分の用量当量」は、10ng/kg/分を患者に皮下投与することによって達成される結果と同じ結果を達成するために必要とされる量である。「I.V.投与に対するs.c.用量当量」は、その量のグルカゴン皮下投与によって達成される血中のグルコースまたはグルカゴンと同じ量を得るために必要とされる、静脈内に投与されるグルカゴンの量である。したがって、後者の表現において、投与の第1の方法は、投与される用量が別の投与様式の使用と等価であるものを記載し、そして列挙される投与の第2の様式は、実際に利用される投与の様式である。皮下に投与されるグルカゴンのI.V.用量当量は、上の表をPCT公開番号WO2004/060387の表1と比較することによって理解され得る通り、代表的に、I.V.投与について列挙される量より大きい。例えば、I.V.で送達される1単位は、一部の患者において0.1ng/kg/分である一方で、同じ効果のために皮下に送達される量は、それらの患者において8ng/kg/分であり得る。さらに、以下の実施例に記載される臨床試験において、インスリンで処置される糖尿病患者において高血糖を誘導するために投与する必要のあるグルカゴンの量は、一部の患者について、8〜16ng/kg/分の範囲であり(しかし、より低い用量が、同様に有効であると認められた)、したがって、単に低血糖を予防するために必要とされるグルカゴンの量は、一部の患者においてその範囲を下回る。本発明の開示が与えられることによって、当業者は、それぞれの状況において適切な量を決定し得る。
【0037】
当業者によって認識されるように、「投与されるグルカゴンの量」は、必ずしも患者の血流に実際に進入するグルカゴンの量ではない。むしろ、例えば、9ng/kg/分のグルカゴンをs.c.で患者に投与することは、最初の公知の量の最初の溶液が作製され、そしてその量に基づいて9ng/kg/分のグルカゴンが投与されることを意味する。投与前にグルカゴンの損失または分解が存在する場合、より少ないグルカゴンが患者に進入し、そして患者の血流および組織に進むにつれてグルカゴンの損失または分解が存在する場合、その有効治療用量はさらに低くなる。当業者によって認識されるように、活性でありかつ患者の循環に進入するグルカゴンの実際の量は、このような場合において、この例では9ng/kg/分より少ない。
【0038】
本開示を考慮して、当業者は、種々の投与方法または投与様式のための用量当量を決定し得る。この用量当量はまた、患者間および患者内の多様性ならびに薬物のバイオアベイラビリティーに依存して変化し得る。例えば、I.V.によって投与されるグルカゴンが、100%生物学的に利用可能であると仮定する場合、s.c.のボーラスによって投与される特定のグルカゴン処方物は、約35%のバイオアベイラビリティーを有し得、一方、連続的皮下注入によって投与される同じグルカゴン処方物は、以下の実施例で患者データによって示されるように、10%のバイオアベイラビリティーを有し得る。さらに、インスリンの投与の方法とグルカゴンの投与の方法との間の違いはまた、本明細書中で提供される方法および例について考慮され得、そしてこれらによって決定され得る。一方、これは、例えば、実施例7に示されるように、グルカゴンの種々の投与経路に従って、患者におけるインスリン、グルコースおよびグルカゴンの種々のアッセイによって決定され得る。
【0039】
本発明の多くの実施形態において使用するための薬学的組成物には、糖尿病の制御および低血糖の処置のための従来の方法に有用な組成物を含み得る。このような従来の方法には、この語句が本明細書で使われる場合、FDAの承認を得たもの、開発中のもの、およびS.V.EdelmanおよびR.R.HenryによるDiagnosis and Management of Type II Diabetes(第5版、PCI Publishers)(その全文が、本明細書中に参考として援用される)(その7章および8章が特に関連している)に記載されるものが挙げられる。本明細書で使用される場合、薬学的処方物または薬学的組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤、またはキャリアを含有し得る。語句「薬学的に受容可能な」は、キャリア、希釈剤、または賦形剤が、処方物の他の成分および投与設備(administration equiopment)と適合性でなければならないこと、かつレシピエントに有害でないことを意味する。薬学的に受容可能な賦形剤は、当該分野で周知である。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第19版、1995年、Gennavo編)を参照のこと。
【0040】
1つの実施形態において、グルカゴンまたは類似の物質は、緩衝液において投与される。適切な緩衝液は、約6.0〜約9.0の範囲のpHにその混合物を維持するが、グルカゴンの機能を妨害しないものである。緩衝液の例としては、Goode緩衝液、HEPES、Tris、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、Bis−Tris、ホスフェート、シトレート、アルギニン、ヒスチジンおよびTrisアセテートが挙げられるが、これらに限定されない。1種以上の適切な緩衝液の選択は、当業者の技術範囲内である。
【0041】
インスリン療法による糖尿病の制御、ならびにグルカゴン療法による低血糖の制御は、インスリンまたはグルカゴンの非経口投与を含み得る。非経口投与は、注射器(必要に応じてペン型注射器)によって、皮下注射、または筋肉内注射によって実施され得る。この方法のいくつかの実施形態は、このような方法論を使用して実施され得るが、上記の通り、低血糖の危険が最も大きいとき(概して、摂食の比較的長時間後、ただし投与されるインスリンがその効果を発揮し続ける期間内)にグルカゴンが存在するように、使用されるインスリンの持続時間とグルカゴンの作用の持続時間がより密接に適合することを確実にするようにグルカゴンを提供することが、場合によっては好ましい可能性がある。
【0042】
インスリンとグルカゴンの皮下投与が所望される場合、種々の方法が、糖尿病制御および低血糖の予防という利益を達成するために利用され得る。1つのこのような方法において、インスリンよりも作用の持続時間が短いグルカゴンは、インスリンが投与された後、約1〜4時間以内に投与される。大抵の低血糖の発症は、患者が最後に食事をしてから数時間後に開始し、多くの患者は、食事のすぐ前にインスリンを投与するので、この方法により利益が提供される。したがって、インスリンの数時間後に、ただし低血糖症状の発症の前にグルカゴンを送達することによって、本発明の方法の利益を達成し得る。特定の実施形態は、インスリンを長時間作用性のグルカゴンおよびその処方物と連続して投与することによって低血糖を誘導する危険の減少を伴って糖尿病を制御するための方法を提供する。したがって、1つの実施形態において、グルカゴンの長時間作用性の形態を有する組成物が、提供される。
【0043】
一般的に、長時間作用性の形態はまた、持続放出形態、延長放出形態または制御放出形態(または同様の用語)として公知である。1つの実施形態において、遅延して作用するかまたは緩徐に作用するグルカゴンは、グルカゴンの持続放出形態または長時間放出形態の特定の形態である。遅延して作用するグルカゴンは、長時間作用性グルカゴンの一般的な分類内である。なぜなら、遅延して作用するかまたは緩徐に作用するグルカゴンは、グルカゴンの投与後の期間の後にグルカゴンの活性が生じることを可能にするが;しかし、遅延作用性グルカゴンは、最初の投与において、より低い量で有効であり、そして長期にわたって有効性を増加させるからである。グルカゴン自体は、本質的に長時間作用性であり得るか、または延長された量の時間にわたってグルカゴンの放出させる他の成分と組合され得る。
【0044】
別の実施形態において、インスリンとグルカゴンは、同時に投与され得、インスリン、および必要に応じてグルカゴンは、代表的には皮下注射によって、非経口的に送達される。この方法において、好ましくは、作用持続時間がより長いグルカゴンが使用されるか、またはグルカゴンは、例えば、以下の実施例に示される通りの連続注入によるような、より長い作用持続時間を提供する経路により投与される。
【0045】
このようなグルカゴンとしては、以下に記載されるグルカゴン、グルカゴン処方物、および投与経路が挙げられるが、これらに限定されない:投薬量の影響の低下、および長時間作用性を提供するグルカゴンのリポソーム処方物を記載している米国特許出願公開第2002114829号および米国特許第6,197,333号および同第6,348,214号;経皮パッチを介するグルカゴンの送達を記載しているPCT特許公開第WO0243566号;高分子マイクロスフェア中の長時間作用性のグルカゴン処方物を記載している米国特許第5,445,832号;数週間測定される作用持続時間を有することが可能な徐放性のグルカゴンを記載しているPCT特許公開第WO0222154号;ならびにヨウ素化によるグルカゴン持続時間の延長を記載している米国特許第3,897,551号および英国特許第1,363,954号(これらの公開の各々は、その全体が本明細書中に参考として援用される)。一実施形態において、グルカゴンは、徐放性製剤またはデポー製剤(例えば、ポリエチレングリコールを含む)として投与される。
【0046】
タンパク質の放出および/または薬物動態学的特性を改変するための、当業者に公知である多くの技術が存在し、この改変としては、タンパク質に関連した代謝失活点に対応する部位におけるアミノ酸配列の改変が挙げられる。これらの技術および組成物としては、以下が挙げられる:タンパク質の「ペグ化(pegylation)」またはPEG修飾(例えば、PCT特許公開第WO0235957号、同第WO9831383号、および同第WO9724440号、EP特許出願公開番号EP0816381およびEP0442724、ならびに米国特許公報第2002/0115592号、同第5,234,903号、および同第6,284,727号を参照のこと);他のポリマーカプセル化(EP特許出願公開番号EP0684044を参照のこと);親油性修飾(米国特許公報第5,359,030号、同第6,239,107号、同第5,869,602号、および同第2001/0016643号、EP特許出願公開番号EP1264837、ならびにPCT特許公開第WO9808871号および同第WO9943708号を参照のこと);リポソーム中に処方すること(米国特許第6,348,214号および同第6,197,333号を参照のこと);血清アルブミン修飾(PCT特許公開第WO02066511号および同第WO0246227号ならびに米国特許第4,492,684号において、より詳細に議論される);エマルジョン、マイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノカプセル化、およびマイクロビーズの形態で処方すること(米国特許第4,492,684号、第5,445,832号、第6,191,105号、第6,217,893号、第5,643,604号、第5,643,607号、および第5,637,568号を参照のこと);リガンドを含む処方物(PCT特許公開第WO0222154号を参照のこと);ならびにヨウ素化(米国特許第3,897,551号を参照のこと)。
【0047】
1つの実施形態において、半減期を増大するヨウ素化法(米国特許第3,897,551号に記載される通り;形態I3Gを参照のこと)が使用される。ヨウ素化したグルカゴンは、ヨウ素化の程度に依存して、1時間と3時間との間という活性延長(グルコースレベルの上昇に関して測定される)を有する。1つの実施形態において、改変されたグルカゴンが混合物中のインスリンの約1.5重量%で存在する(1mlあたりのインスリン濃度をLISPRO処方物において一定に保つ)ように、LISPROインスリンおよびI3グルカゴンが混合される。改変されたグルカゴンのより長い持続効果に起因して、インスリンに対するグルカゴンのより小さい割合(重量による)は、一部の患者において低血糖を予防するために必要とされる。
【0048】
長時間作用性のグルカゴンの別の形態は、亜鉛−プロタミン−グルカゴン処方物である。このようなプロタミン亜鉛−グルカゴン処方物の例は、当該分野において公知である(例えば、Kaindlら、Verh Dtsch Ges Inn Med.、1972;78:1099−101;KaindlおよびKuhn、Z Gesamte Inn Med.、1972年12月、15;27(24):1097−8;ChristiansenおよびTonnensen、Med Scand.、1974年12月;196(6):495−6; Gambaら、Minerva Med.、1977年11月、3;68(53):3613−26;Kolleeら、Arch Dis Child.、1978年5月;53(5):422−4;KalimaおよびLempinen、Ann Chir Gynaecol.、1980年;69(6):293−5;Aynsley−Greenら、Arch Dis Child.、1981年7月;56(7):496−508;SchmidおよびWietholter、Dtsch Med Wochenschr.1982年11月、26;107(47):1809−11;DayおよびMastaglia、Aust N Z J Med.、1985年12月;15(6):748−50;Cederbladら、Horm Res.1998;50(2):94−8(これらの全ては、その全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。
【0049】
さらに、Pichlerら(Wien Klin Wochenschr 19:91(2):49−51(1979))は、グルカゴンの亜鉛プロタミン形態が上記薬物の実際の投与後3時間まで最大の効果を有し、4時間目以降に活性の減少を提示するのみであったたことを示した。したがって、亜鉛プロタミングルカゴンの有効半減期は、数時間の範囲である。
【0050】
1つの実施形態において、グルカゴンは、Tardingら(European Journal of Pharmacology、7:206−210(1969)(その全体が本明細書によって参考として援用される))に記載されるように、プロタミンを伴わずに亜鉛と組み合わされる。これはまた、グルカゴンの長時間作用性の形態を生じる。1つの実施形態において、この混合物は、亜鉛対グルカゴンの1対2の比を含む。
【0051】
1つの実施形態において、上記亜鉛プロタミングルカゴンは、インスリンのグルカゴンによる置き換えを除いて、亜鉛プロタミンインスリンが作製される方法と同様の様式で作製される。1つの実施形態において、亜鉛グルカゴンおよびプロタミン亜鉛グルカゴンは、Tardingら(European Journal of Pharmacology 7:206−210(1969))に記載される通りに作製される。例えば、グルカゴン亜鉛は、酢酸亜鉛緩衝液中に、1mlあたり1mgのグルカゴン、および1mlあたり0.05mgの亜鉛の最終濃度になるように凍結乾燥したグルカゴン亜鉛結晶を懸濁することによって作製され得る。あるいは、このプロタミン亜鉛グルカゴンは、プロタミンを含む酢酸亜鉛緩衝液中に、1mlあたり2mgのグルカゴン、1mlあたり0.15mgの亜鉛、および1mlあたり0.5mgのプロタミンの最終濃度まで凍結乾燥したグルカゴン亜鉛結晶を懸濁することによって調製され得る。
【0052】
本発明の方法において有用な組成物中のグルカゴンの中に含まれ得る薬剤の別の例としては、Gallowayらの米国特許第6,703,365号(2004年3月4日発行)にGLP−1と組み合わせて記載されるような硫酸プロタミンが挙げられる。その中に開示されるGLP−1の組み合わせは、増加した半減期を示し、そして同様に、増加した有効期間を示す。増加した半減期を示す任意のグルカゴンは、本発明の方法および組成物において有用であり得る。
【0053】
上記タンパク質の半減期が延長され得る別の方法は、「血清結合剤(serum binder)」の使用によるものである(例えば、結合子(connector)によるアルブミンのグルカゴンへの結合体化によって達成され得る)。1つの実施形態において、グルカゴンは、ある部分を含み、この部分は、インビボでその部分自体をアルブミンに結合させる。あるいは、グルカゴンは、そのグルカゴンを結合子に連結し得、次いでこの結合子が、インビボでグルカゴンをタンパク質(例えば、アルブミン)と結合させるように改変され得る。したがって、この改変されたグルカゴンは、そのまま患者に与えられ得、その後このグルカゴンは、宿主中でアルブミンと結合し、次にこのアルブミンが、このシステムにおいてグルカゴンの有用な寿命の延長を生じる。このアプローチは、Bridonらの米国特許公報第20030108568号(2003年6月12日公開)におけるGLP−1、および種々の他のタンパク質(例えば、Krantzらの米国特許第6,277,863号(2001年8月21日発行)、Ezrinらの米国特許第6,500,918号(2002年12月31日発行)、Krantzらの米国特許第6,107,489号(2000年8月22日発行)、Bridonらの米国特許第6,329,336号(2001年12月11日発行)、およびPoulettyらの米国特許第6,103,233号(2000年8月15日発行)(これらの全ては、その全体が参考として援用される)を参照のこと)に関する他の目的のために記載された。1つの実施形態において、グルカゴンとアルブミンとの間の結合は、ビオチンおよびアビジンまたはストレプトアビジンの補助によって生じる。別の実施形態において、グルカゴンは、マレイミド基および硫黄基(sulfur group)の使用によって他のタンパク質に結合され得る。このグルカゴンは、アルブミンだけでなく、任意の適切なタンパク質に結合され得る。
【0054】
1つの実施形態において、グルカゴンの延長放出形態は、グルカゴンのゲルベースの形態または原線維ベースの形態である。これらは、GratzerおよびDavies(European J.Biochem.、11:37−42(1969)(その全体が本明細書によって参考として援用される))に記載されるように調製され得る。
【0055】
延長放出グルカゴンの他の形態はまた、本発明の方法において使用するために企図される。長時間放出調製物は、複合体を形成するか、またはグルカゴンを吸収するポリマーを使用して作製され得る。制御された送達は、適切な高分子および高分子の濃度ならびに放出を制御する組み込みの方法を選択することによって発動され得る。例えば、分散制御された系が使用され得る。このような材料の例としては、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)、またはエチレンビニルアセテートコポリマーのようなポリマー材料の粒子が挙げられる。あるいは、これらのポリマー粒子による化合物の組み込みの代わりに、いくつかの実施形態の化合物を、例えば、コアセルべーション技術または界面重合(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセル)によって調製されるマイクロカプセル中に捕捉するか、またはコロイド性の薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)中に捕捉するか、またはマクロエマルジョン(macroemulsion)中に捕捉することが、可能である。このような教示は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980)に開示される。1つの実施形態において、薬物の溶解速度は、主に、薬物を封入するシェル(shell)の溶解によって制御される。
【0056】
1つの実施形態において、浸透圧性ポンプシステムは、グルカゴンの延長放出を提供するために使用され、このシステムは、浸透因子を有する貯蔵部に半透膜を横切って水が流入することによって、その薬物の放出速度を制御することを可能にする。別の実施形態において、イオン交換樹脂は、グルカゴンの放出を制御するために使用される
1つの実施形態において、グルカゴンの持続放出形態は、プレプログルカゴン[Lundら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.79:345−349(1982)]である。後にこのポリペプチドはプロセシングされて、プログルカゴンを形成し、その後このプログルカゴンは、グルカゴンおよび第2のペプチドへと切断される(Patzelt,C.ら、Nature、282:260−266(1979))。したがって、プレプログルカゴンまたはプログルカゴンのこの形態を投与することによって、グルカゴンの活性の発生を遅らせ得る。
【0057】
1つの実施形態において、グルカゴンは、最初に活性なグルカゴンの放出を実質的に許容せず、その後、経時的なグルカゴンの少量の放出を許容する形態で投与される。グルカゴンのこのような形態は、薬物摂取の間に長い期間が生じかつ所望の結果がこの長い期間(例えば、夜間)の終わりまでの効果である場合に有用である。この形態は、グルカゴンタンパク質に関連する組成物、このグルカゴンが投与される、このグルカゴンが投与される経路および方法、ならびに本明細書中に記載される他の理由に起因して、グルカゴンタンパク質それ自体(すなわち、半合成のグルカゴン改変体)において固有であり得る。
【0058】
低活性レベルのグルカゴンは、いくつかの場合において望ましい。小容量の正確な量の(特に、長い時間にわたる)送達が困難であり得るので、グルカゴンの活性を低下させる成分を含有するグルカゴン組成物は、サンプルのより大きい容量の投与を可能にするいくつかの状況において望ましくあり得る。あるいは、より低い活性レベルを有するグルカゴンの改変体または変異体は、この結果を達成するために使用され得る。用語「グルカゴン」は、野生型グルカゴンおよびグルカゴンの改変体または誘導体の両方を、包含し得る。
【0059】
いくつかの実施形態において、本発明によって提供されるインスリン成分とグルカゴンの徐放形態との組み合わせは、本発明の方法において利用される。当業者によって理解されるように、この組み合わせは、上記インスリン成分または上記グルカゴン成分を投与するための、単一または複数の処方物および単一または複数の手段によって達成され得る。
【0060】
1つの実施形態において、非経口投与は、インスリンポンプの手段を用いて行われる。種々のインスリンポンプが利用可能であり一般に使用され、これらのポンプは、インスリンとグルカゴンとの組成物の送達(ならびに別の経路(例えば、経皮)によって送達されるグルカゴンを伴うインスリンの送達)に適する。このようなポンプとしては、例えば、Medtronic(例えば、MiniMed)、Animas Corporation、Disetronic、およびDanaによって市販されるポンプが挙げられるが、これらに限定されない。グルカゴンは、必要に応じてインスリンと一緒に投与され得、そしてグルカゴンが必要なときに投与され得る場合、短い持続期間の作用を有するグルカゴンが利用され得る。好ましい実施形態において、グルカゴンは、皮下に投与され、そして約5ng/kg/分以上〜30ng/kg/分までの間の量、約5.0ng/kg/分以上〜25ng/kg/分までの間の量、約8.0ng/kg/分〜20ng/kg/分の間の量、または約8.0ng/kg/分〜12.0ng/kg/分の間の量で投与される。グルカゴンのより低い用量は、一部の患者において低血糖を予防するために、皮下に投与され得る(0.1〜5ng/kg/分または2〜5ng/kg/分)。1つの実施形態において、用量は、過度な高血糖を引き起こさずに低血糖を予防する。高血糖は、正常範囲を上回る血中グルコースである。グルカゴンは、外来のグルカゴンの投与なしで存在し得ない血中グルコースを超えて血中グルコースを上昇させ得、そして好ましい実施形態において、この投与される用量は、低血糖に対してなお保護性であるが、低血糖に罹患していない患者において維持されるレベルを超えて僅かだけ上昇させる用量である。
【0061】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、インスリンの送達に適した新規の薬物送達デバイス(ポンプ)を提供し、これは、糖尿病の制御、そしてヒトの低血糖の制御のためのグルカゴンの送達のために用いられる(すなわち、このポンプは、インスリンとグルカゴンの両方を含有する)。このポンプは、インスリンとグルカゴンの両方を含有する貯蔵部を備え得る。他の実施形態において、このポンプは、2つの別々に制御される貯蔵部内にインスリンおよびグルカゴンを含む。低血糖の危険を減少させるためにヒト患者において糖尿病を制御する方法であって、上に記載される実施形態の1つのポンプを使用して、インスリンおよびグルカゴンの両方を糖尿病患者に投与する工程を包含する方法が、提供される。
【0062】
別の方法において、インスリンもしくはグルカゴンのいずれか、またはその両方は、経鼻または経肺スプレーとしての投与に、あるいは眼投与に適した粉末または液体である処方物中に提供される。このような種々の処方物が、インスリンおよびグルカゴンについて公知であり、本開示は、いずれか1つを独立して投与するためのこれらの公知の処方物を使用するための方法、および低血糖を誘発する危険を低下させながら糖尿病を制御するための、インスリンとグルカゴンの両方を含む実施形態において対応する処方物を投与するための方法を、提供する。
【0063】
経鼻投与、経肺投与または眼投与のための方法および処方物としては、以下の文献内のものが挙げられる:エアロゾル化されたインスリンおよびグルカゴンを記載しているPCT特許公開第WO0182874号および第WO0182981号;メレチトース希釈剤と共に吸入されるグルカゴンを記載している欧州特許出願公開EP1224929および米国特許第6,004,574号;経鼻投与に適したインスリン処方物およびグルカゴン処方物を記載している米国特許第5,942,242号;眼、鼻および鼻涙管、または吸入の投与経路に適した処方物を記載している米国特許第5,661,130号;インスリンの経鼻投与のための、またグルカゴンのための方法および処方物を記載している米国特許第5,693,608号;インスリンの経鼻および他の粘膜投与のための、またグルカゴンのための方法および処方物を記載している米国特許第5,428,006号、インスリンおよびグルカゴンの粘膜投与のための方法および処方物を記載している米国特許第5,397,771号;インスリンおよびグルカゴンの眼投与のための方法および処方物を記載している米国特許第5,283,236号;ならびに経鼻投与のためのグルカゴン処方物を記載している欧州特許出願公開EP0272097。これらの処方物に加えて、記載されるようなこれらの処方物を送達する方法がまた、企図される。
【0064】
1つの実施形態において、インスリンおよびグルカゴンを投与することによって、低血糖を誘発する危険を低下させながら糖尿病を制御するための組成物および方法であって、インスリンとグルカゴンの一方または両方が、経皮的(例えば、パッチ(必要に応じて、イオン泳動パッチから))かまたは経粘膜的(例えば、口腔内)に投与される組成物および方法が、提供される。経皮送達デバイスの製造および使用は、当該分野で周知である(例えば米国特許第4,943,435号および第4,839,174号、ならびに米国特許公報第US2001033858号を参照のこと)。グルカゴンの経皮送達、ならびに、グルカゴンの経皮処方物を記載している特許公報は、上に列挙されてきたが、米国特許第5,707,641号は、インスリンの経皮送達のための方法および処方物を記載する。
【0065】
さらに、上記方法の実施形態のいくつかは、本明細書に記載された治療有効量のインスリンおよび/またはグルカゴンの両方、ならびにそれらの用量等価物の経口投与によって実施され得る。インスリンの経口投与およびグルカゴンの経口投与のための方法および処方物としては、PCT特許公開第WO973688号に記載されているものが挙げられる。
【0066】
上記方法および処方物に使用されるインスリンおよび/またはグルカゴンは、類似した活性または効果を有する化合物および組成物によって、補われても置換されてもよい。例えば、グルカゴンは、グルカゴン模倣物(mimetic)またはグルカゴンの改変体で置換され得る。
【0067】
インスリンは、血糖降下剤(インスリン増感剤、DPP IVインヒビター、およびGLP1アナログが挙げられるが、これらに限定されない)、インスリン分泌促進物質によって置換されても補われてもよく、インスリン分泌促進物質としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:スルホニル尿素(例えば、アセトヘキサミド(DYMELOR)、クロルプロパミド(DIABINESE)、トラザミド(TOLINASE)、トルブタミド(ORINASE)、グリメピリド(AMARYL)、グリピジド(GLUCOTROL)、グリピジド持続放出型(GLUCOTROLXL)、グリブリド(DIABETA、MICRONASE)、微粉化グリブリド(GLYNASE、PRESTAB));メグリチニド(例えば、ナテグリニド(STARLIX)およびレパグリニド(PRANDIN));胃抑制ポリペプチド(GIP);グルカゴン様ペプチド(GLP)−1;モルフィリノグアニド(Morphilinoguanide)BTS67582;ホスホジエステラーゼインヒビター;およびコハク酸エステル誘導体;インスリン受容体活性化剤;(例えば、メトホルミン(GLUCOPHAGE)、トログリタゾン(REZULIN)のようなチアゾリジンジオン(TZD)、ピオグリタゾン(ACTOS)、およびロジグリタゾン(AVANDIA))のような、インスリン感作性ビグアナイド;非TZDペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)アゴニストGL262570;アカルボース(PRECOSE)およびミグリトール(GLYSET)などのα−グルコシダーゼインヒビター;グルコバンス(GLYBURIDEとGLUCOPHAGE)などの合剤;バナジウムのようなチロシンホスファターゼインヒビター、PTP−1Bインヒビター、および5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミドリボヌクレオシド(AICAR)を含めたAMPK活性化剤;ならびに、エキセンディン(EXENATIDE(合成のエキセンディン−4)およびアミリン(SYMLIN(登録商標)(プラムリンチド酢酸塩))、D−Chiro−イノシトール、変化型ペプチドリガンド(NBI−6024)、Anergix DB複合体、GABA阻害性メラノコルチン、グルコース低下剤(ALT−4037)、Aerodose(Aerogen)、インスリン模倣物、単独かまたはBP3(SOMATOKLINE)との複合体であるインスリン様成長因子−1、メトクロプラミドHCL(Emitasol/SPD 425)、motillde/エリスロマイシンアナログ、およびGAG模倣物のような他の薬剤。
【0068】
1つの実施形態において、グルカゴンの改変体が、企図される。このような改変体は、得られる改変体が本明細書中で要求されるように機能する限り、ネイティブなヒトグルカゴンの配列に対して、単一かまたは多くのアミノ酸の変更を含み得る(例えば、1個〜全てのアミノ酸が変更され得る)。1つの実施形態において、HELIX成分は、C末端において調整され、そして部分アゴニストは、「基礎の」入力より多くのものを提供するために組み合わされる。1つの実施形態において、活性化を制御するためのN末端における一時的なPEG修飾は、親和性を制御するためにC末端において導入される変異によって補完され得る。このような改変グルカゴン分子、得られるそれらの特性および活性の例は、当該分野において利用可能である。例えば、Sturmら(J.Med.Chem.41:2693−2700(1998))は、グルカゴン中の塩橋のいくつかについての一般的な構造機能の関連性を教示する。1つの実施形態において、この改変グルカゴンは、17位および18位におけるLysの置換、ならびに21位におけるGluの置換を有し、これらの置換は、500%の結合親和性および700%の相対的な効力を有する改変体を生じる。1つの実施形態において、改変グルカゴンアミドは、17位におけるLysの置換のみを有し、この置換は、220%の結合親和性および230%の効力を有する改変体を生じる。別の実施形態において、改変グルカゴンアミドは、17位におけるNleの置換、18位におけるLysの置換、および21位におけるGluの置換を有し、これらの置換は、150%の結合親和性および300%の効力を有する改変体を生じる。別の実施形態において、改変グルカゴン分子は、低い結合能または低い活性を示す。したがって、例えば、36%だけの通常の結合親和性および12%だけの通常の効力を有する、18位にリジンを有するグルカゴンアミド改変体が、使用され得る。別の例は、18位にPheを有するグルカゴン改変体であり、この改変体は、4.7%だけの通常の結合親和性および0.9%だけの相対的な効力を有する。
【0069】
1つの実施形態において、上記処方物の唯一の薬学的に活性な成分は、インスリンおよびグルカゴンである。1つの実施形態において、薬学的組成物(例えば、インスリンおよびグルカゴンの両方を含有する)は、エアゾールとして処方されず、そして/または塩酸トログリタゾンを含有しない(そしてあらゆるチアゾリジンジオンも含有しなくてもよい)。1つの実施形態において、処方物は、経口投与されず、そして/または経鼻投与されない。1つの実施形態において、この処方物の薬学的に活性な成分は、パッチによらずに経皮投与される。例えば、この活性成分は、クリームの使用によって投与され得る。
【0070】
上で議論される通り、低用量のグルカゴンとインスリンとの有効な同時投与は、インスリン誘発性低血糖の事象を予防するのに役立ち得る。これらの事象の予防は、種々の有利な結果を有する。
【0071】
繰り返される軽度〜中程度の低血糖の事象は、被験体による低血糖の自覚の喪失を生じ得る。したがって、被験体は、その被験体が低血糖の事象を実際に経験していることもはや感知できない可能性があり、このことは、より低血糖の事象が起こり得る危険を増加させる。したがって、上記の組成物および方法は、この起こっている危険を減少させるために最適化され得る。上記のインスリンとグルカゴンとの割合および低血糖の予防のために記載されるグルカゴンの量は、この状態を処置するのに十分であり得、そして本発明の方法は、特定の患者に対する所望の治療効果、送達の所望の様式、または所望の処方物を達成するために、投与される量を調整するための方法を含む。いくつかの実施形態において、グルカゴンとインスリンとの組み合わせは、被験体による低血糖の自覚の喪失を予防するために投与される。他の実施形態において、このグルカゴンおよびインスリンは、低血糖の自覚をその被験体に回復させるために投与される。これは、低血糖のさらなるエピソードが減少されるか、または予防されるように、ある量のグルカゴンを投与することによって達成され得る。この量は、例えば、皮下に投与される場合、8ng/kg/分〜16ng/kg/分に変化し得る。
【0072】
当業者によって認識されるように、これらの療法および組成物は、糖尿病を有する者に対してだけでなく、インスリンまたは他の低血糖を誘導する薬剤を受ける者に対しても有用であり得る。
【0073】
当業者によって認識されるように、軽度または中程度の低血糖のエピソードが、全て予防される必要はない。阻害される事象の量または%は、特定の状況および被験体によって変わり得、そしてこれらは、軽度/中程度の低血糖の事象の全てに対して、2〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜99%または99%を阻害することを含み得る。さらに、低血糖は、全ての場合において予防される必要はなく、そしていくつかの実施形態において遅らされ得る。任意の量の遅延が、有用であり得る(例えば、1〜10分間、10〜30分間、30〜60分間、60〜120分間、120〜300分間、300〜600分間またはそれ以上の遅延)。あるいは、さらなる1〜20%、20〜60%、60〜100%、100〜200%または200%〜10倍の遅延が、有用であり得る。さらに、低血糖に対する患者の感受性が、全て回復されるかまたは保存される必要はない(例えば、1〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜99%、もしくは99〜100%が、喪失から回復され得るか、または防止され得る)。「低血糖の感受性」または「無自覚性低血糖」は、低血糖の事象の出現を感知する個体の能力に基づく。例えば、無自覚性低血糖は、低血糖の事象(例えば、グルコースのレベルが、血液中で50mg/dLを下回って下降する)の1〜20%、20〜40%、40〜50%、50〜70%またはそれ以上を感知できないことであり得る。あるいは、低血糖の特定の症状を感知できないことはまた、無自覚性低血糖、および無自覚性低血糖が首尾よく処置される方法を決定するために使用され得る。徴候および症状としては、例えば、震え、めまい感、発汗、空腹感、頭痛、神経過敏(irritability)、蒼白な皮膚色、突然の不機嫌または態度の変化、ぎこちない動きまたは律動的(jerky)な動き、注意集中の困難、錯乱、および口のまわりの刺痛感が挙げられる。低血糖の種々の可能な分類の記載は、「Defining and Reporting Hypoglycemia in Diabetes」、Diabetes Care、28:1245−1249(2005)(その全体が本明細書によって参考として援用される)において見出され得る。特に、症候性の低血糖、無症候性の低血糖、およびおそらく症候性の低血糖は、70mg/dl以下の血漿グルコースレベルを含む。本明細書中に記載されるように、いくつかの状況において、血中グルコースのより低いレベルがまた、閾値として使用され得る。
【0074】
(キット)
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される組成物は、キット形態で提供される。1つの実施形態において、このキットは、グルカゴンのバイアル、インスリンのバイアル、投与のための手段(例えば、注射器またはポンプ)、ならびにグルカゴンおよびインスリンの投与のための説明書を備える。いくつかの実施形態において、このグルカゴンおよびインスリンは、単一のバイアル中に前もって混合される。他の実施形態において、このインスリンおよびグルカゴンは、注射器中で前もって混合される。特定の説明書は、例えば、低血糖の夜間の制御またはその他についての、このキットの望ましい使用に依存して変わる。この説明書は、本発明の開示およびこのキットに対して意図される特定の使用を仮定して、分野の当業者によって決定され得る。1つの実施形態において、この説明書は、本明細書中に開示される方法を記載する。
【0075】
例示的なキットは、グルカゴンおよび一緒にパッケージ化される以下の1つ以上を含む:(1)インスリン;(2)グルカゴンを再懸濁するかまたは希釈するための溶液(例えば、賦形剤)(3)グルカゴンおよび/またはインスリンを投与するためのデバイス;ならびに(4)説明書。1つの実施形態において、デバイス(3)は、グルカゴンを含み、そして/またはインスリンを含む。
【0076】
キットは、標準的な隔壁による封鎖を有する滅菌したバイアル内に粉末形態でグルカゴンを備え得る。1つの実施形態において、このバイアルは、1mgの凍結乾燥したグルカゴンと、49mgのラクトースと、pH(グルカゴンは、3より低いpHか、または9.5より高いpHにて溶解する)を調整するための塩酸との混合物を含む。このキットはまた、水と塩酸との混合物中に12mg/mlのグリセリンを含む、予め充填されたグリセリンの注射器を有する。第2の容器は、注射器中に液体形態で保存され得るインスリンの1mg/mL溶液を保持する。このキットは、1mLの希釈剤をこの予め充填されたグリセリンの注射器からこのバイアル中に注入することを使用者に説示する説明書をさらに有する。次いでこの説明書は、ある量のグルカゴン/グリセリン溶液をこのインスリンを含む注射器中に回収することを使用者に指示する。この量は、意図される使用および特定の使用者に依存して変化し、そして医師によって決定され得る。
【0077】
1つの実施形態において、上記注射器中に回収されるグルカゴンの容量は、注射されるインスリンの容量の0%〜5%の間である。このキットは、各々の使用ならびに個別化(customization)に関して、それぞれの使用者および状況に対して使用するべき量または割合を決定するのを可能にする表および/または図表を備え得る。
【0078】
次いで上記インスリンの注射器中の全用量が、注射され得る(小児は、代表的に、標準的な用量の50%を投与され、そして上記キットは、それに応じて改変され得る)。1つの実施形態において、このインスリンの注射器および上記グリセリンの注射器は、グルカゴン 対 注射されるインスリンの適切な割合を維持するためにグルカゴンの開始量がより低い場合、1つでありかつ同じである。別の実施形態において、このインスリン、グルカゴンおよびグリセリンは、このキット中に前もって混合される。説明書は、用いられる特定の実施形態に従って、適宜調整される。1つの実施形態において、このキットは、グルカゴンのキット、インスリンのキット、およびこの2つのキットを併用するための方法についての説明書を備える。当業者によって認識されるように、上で議論される組成物または方法の任意のものが、構成要素または説明書としてこのキット中に備えられ得る。したがって、例えば、投与の種々の方法、インスリンまたはグルカゴンの種々の組成物、および種々の緩衝液または溶媒は、このキットにおいて使用され得る。1つの実施形態において、インスリンを迅速に投与する手段は、グルカゴンをより緩徐に投与する手段と併用される。1つの実施形態において、このキットは、一組の説明書を伴う一形態のグルカゴンのみを備える。
【0079】
1つの実施形態において、上記説明書は、5ng/kg/分以上〜20ng/kg/分(例えば、6ng/kg/分〜16ng/kg/分)のグルカゴンを皮下に投与することを使用者に指揮し得る。このキットは、皮下投与のためのデバイスを備え得る。1つの実施形態において、グルカゴンの単位は、1時間あたりに摂取される1用量につき、50kgの人間に対して36マイクログラムの大きさの用量である。別の実施形態において、グルカゴンの単位は、各1時間あたりに摂取される1用量につき、100kgの人間に対して36〜96マイクログラムの大きさの用量である。これらの皮下の値は、一部の糖尿病患者において高血糖をもたらすのに十分であり得;したがって、いくつかの実施形態において、より少ないグルカゴンが、必要とされる(例えば、静脈内に投与される量と同様の量(0.1ng/kg/分〜5ng/kg/分か、またはそれより高い)。いくつかの実施形態において、このキットは、個体の年齢、体重、および性別に対する用量に関する説明書を備える。1つの実施形態において、この説明書は、将来の活動(例えば、就眠、摂食(例えば、食物の量および型)、着座または運動)を考慮して受ける用量についての情報を含む。当業者によって認識されるように、I.V.用量当量またはs.c.用量当量はまた、グルカゴンが別の様式で投与されるべき場合に使用され得る。いくつかの実施形態において、このキットは、インスリンと一緒に加えられるべきグルカゴンの単位用量を含む。例えば、単位用量は、100kgの被験体を1時間、低血糖から保護するのに十分であり得る、約50マイクログラムまたは100マイクログラム(またはミリ単位)であり得る。単位用量は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間またはそれより長い時間または日数のために調製され得る。より小さい者またはわずかな時間のためのより小さい用量がまた、企図される。
【0080】
(グルカゴンの単位用量)
1つの実施形態において、グルカゴンとインスリンとの混合物を提供するよりもむしろ、グルカゴン単独の単位用量が、インスリン誘発性低血糖を予防するために、必要に応じて被験体に直ちに投与可能であるように提供される。グルカゴン対インスリンの割合が、低くあり得る場合、単位用量中のグルカゴンの量はまた、低くあり得る。当業者によって認識される通り、各用量中のグルカゴンの実際の量は、個体の特性、個体が行うか、または行った考えられる活動、その用量が投与される方法およびグルカゴンの形態に依存する。したがって、下に記載される用量は、可能な用量のいくつかを代表するのみである。投薬量は、本開示を考慮して当業者によって決定され得る。
【0081】
グルカゴンの単位投薬形態は、投与のためのグルカゴンの離散量を含み、そして容器(例えば、バイアルもしくはアンプル、カートリッジ、注射器、吸入器、経皮パッチ、または他の容器もしくはパッケージ)中の錠剤、カプセル、または粉末の形式であり得る。s.c.投与に関して、単位用量中のグルカゴンの量は、例えば、100kgの者に対して0.036mg〜0.4mgであり得、この用量は、少なくとも1時間有効である。好ましくは、この単位用量は、約40マイクログラムと300マイクログラムとの間、およびより好ましくは約50マイクログラムと100マイクログラムとの間である。当然、これらの数は、処置される平均的な者の大きさおよび単位用量あたりに望まれる低血糖の予防の持続時間に基づいて調整され得る。例えば、徐放処方物によって、2〜3時間か、3〜5時間か、5〜8時間かまたはそれ以上にわたる放出に対して十分なグルカゴンを含むことは、特に有利であり得る。したがって、特定の状況において、より大きい用量が、可能である。s.c.投与によってでさえ、より低い量はまた、高血糖は一過性でさえ起こらないことを確実にするために使用され得る。
【0082】
単回の単位投薬形態は、本明細書中に記載されるようなグルカゴンの単回投与のために十分なグルカゴンを含む。単位投薬量は、特定の事象のために設計され得る。例えば、それらは、インスリンの投与の前後に使用するために設計され得る。あるいは、それらは、活動(例えば、摂食または運動または就寝)を考慮した投与のために設計され得る。投与されるべきグルカゴンの量が患者の種々の因子(例えば、生活様式および体重)に依存する場合、単位用量は、用量の調整の容易さのために、共通単位(universal unit)で表され得る。さらに、この単位が投与される方法はまた、各単位用量中に配置するグルカゴンの量を変え得る。実際に、これらの共通単位投薬量は、より小さい個々の部分へと分割される単位用量である。したがって、50kgの個体は、これらの共通単位用量の5個の部分を受け得る一方で、100kgの個体は、10個の部分を受け得る。これは、このグルカゴンの摂取の、より優れた個別化を可能にする。当然、グルカゴンのより低い量(例えば、I.V.投与と同様の量)はまた、血糖の上昇のより低いレベルが要求される場合に使用され得る。したがって、皮下投与についてであっても、単位用量は、例えば、0.036mgと0.2mgとの間であり得る。
【0083】
関連する局面において、1日単位投薬形態にあるグルカゴンの薬学的調製物が、提供される。1日投薬形態は、グルカゴンが、本明細書中に記載されるように、単一の日の間に複数回投与される場合を含んで、1日に対して十分なグルカゴンを含む。例えば、その日の間の食後における複数(例えば、2回または3回以上)のグルカゴン投与が存在し得る(例えば、実施例1および/もしくは夜間の低血糖の予防のための投与;または例えば、経皮パッチもしくはポンプを介する連続的な投与)。皮下投与に関して、960マイクログラム〜4800マイクログラムのグルカゴンは、1日にわたる投与のために提供され得る。1つの実施形態において、グルカゴンは、一度に投与される徐放形態である。別の実施形態において、グルカゴンは、例えば、4時間ごとに1個ずつ服用される6個の丸剤の形態である。
【0084】
関連する局面において、複数投薬形態にあるグルカゴンの薬学的調製物が、提供される。グルカゴンの複数投薬形態は、1日、2日、3日、4日、5日、もしくは6日、1週間か、またはさらに1週間を超えて投与するのに十分な用量を含み得る。1つの実施形態において、例えば、0.02mg〜0.036mgから1mgまでのグルカゴンは、そのグルカゴンが1日以上の過程にわたって別々の用量として投与されるべきである、説明書(例えば、標識)が付随した容器中に提供される。
【0085】
1つの実施形態において、グルカゴンの1日用量または複数用量は、液体賦形剤中に粉末を再懸濁することによって調製され、そして得られる溶液の部分は、その日(またはいくつかの複数用量形態の場合においては数日)の間の各投与にて投与され得る。.
グルカゴンに加えて、上記単位投薬形態、1日投薬形態または複数投薬形態は、他の成分(例えば、賦形剤、緩衝液、安定剤、キャリアなど、および他の薬学的に活性な因子)を含み得る。1つの実施形態において、上で議論されるように、上記単位用量は、インスリンまたはインスリン分泌促進物質を含む。
【0086】
グルカゴンの複数用量(例えば、複数の1日用量)は、箱、バブルラップまたは他の周知な形式中に、一緒にパッケージ化され得る。
【0087】
一般的に、上記投薬形態は、標識されるか、または適切な投薬のための説明書を伴う。例えば、1日投薬形態は、容器中の単位用量の数および/または重量もしくは容量を示すために標識され得る。投薬形態はまた、標識され得るか、またはそうでなければ調製が意図される患者の年齢を表示し得る。例えば、投薬形態は、成人、15歳を超える小児、10歳を超える小児、5歳を超える小児などに適するとして表示され得る。
【0088】
1つの実施形態において、上のグルカゴンの投薬のいずれかは、持続放出性のグルカゴンを含み得る。このような実施形態において、この投薬は、本明細書中に開示されるように、血中グルコースレベルを所望の範囲内に維持するために、本明細書中に開示されるように適切に調整される。
【0089】
(グルカゴン溶液)
従来の方法(例えば、約1mg/mlの溶液を生じる)に従って調製される処方物を使用する低用量(例えば、0.01U未満)のグルカゴンの投与は、不便であり得る。したがって、いくつかの実施形態において、より低い濃度のグルカゴン溶液が、作製され、そして/または投与される。この文脈において使用される場合、投与は、自己投与(注射によるか、ポンプを使用する注入によるかまたは他の方法によるかにかかわらず)および別の方法による投与を含む。種々の実施形態において、グルカゴンは、約0.25mg/ml未満(例えば、約0.2mg/ml未満、約0.1mg/ml未満、約0.05mg/ml未満、約0.01mg/ml未満、またはさらに約0.005mg/ml未満)のグルカゴンの濃度を有する溶液として投与される。このような量は、I.V.投与について適切であり得、そして用量当量の量は、投与の他の方法のために与えられ得る。例えば、投与の方法がs.c.注射である場合、グルカゴンの濃度は、より高いものであり得る(少なくとも約0.01mg/ml、もしくは0.05mg/ml、もしくは0.2mg/ml、0.5mg/ml、または約0.5mg/mlと2mg/mlとの間のグルカゴン)。いくつかの実施形態において、これらの用量は、長い期間にわたって低い量でその用量を投与し得るデバイス(例えば、ポンプ)と組み合わされる。
【0090】
グルカゴンは、任意の薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤中に再懸濁され得る。
【0091】
1つの実施形態において、グルカゴンの薬学的に受容可能な処方物は、この処方物がI.V.で投与される場合、約0.25mg/ml未満、約0.2mg/ml未満、約0.1mg/ml未満、約0.05mg/ml未満、約0.01mg/ml未満、またはさらになお約0.005mg/ml未満の濃度を含むか、または投与の他の方法についての用量当量の量を含む。例えば、皮下に投与される組成物に関して、グルカゴンの薬学的に受容可能な処方物は、0.5mg/mlと2mg/mlとの間のグルカゴンを含む。
【0092】
関連する実施形態において、治療的使用のためのグルカゴン処方物を調製する方法は、I.V.投与のために約0.25mg/ml未満、約0.2mg/ml未満、約0.1mg/ml未満、約0.05mg/ml未満、約0.1mg/ml未満、またはさらになお約0.05mg/ml未満の濃度でグルカゴンを含む溶液を生じる量で、グルカゴン(例えば、上に記載されるような、単回の単位用量のグルカゴン、1日用量のグルカゴンまたは複数用量のグルカゴンが挙げられるが、これらに限定されない)を含有する組成物に水性溶液を添加する工程を提供し、そしてその工程を包含する。2〜10倍(またはそれ以上)高い濃度は、投与の他の方法(例えば、皮下投与)のために使用され得る。この溶液は、他の薬剤(薬学的に活性および/または薬学的に不活性の両方)を含み得る。
【0093】
1つの実施形態において、上記グルカゴン溶液は、患者に送達するためのデバイス中に装填されるか、または含まれる。いくつかの実施形態において、このデバイスは、少なくとも約0.1ml、少なくとも約0.2ml、少なくとも約0.3ml、少なくとも約0.4ml、少なくとも約0.5ml、または0.5ml以上のグルカゴン溶液を含む。
【0094】
関連する局面において、糖尿病を有するヒト被験体に対する投与または自己投与のさらなる工程が、提供される。1つの実施形態において、この被験体は、低血糖の症状を示さない。1つの実施形態において、ヒトは、成人である。1つの実施形態において、ヒトは、10歳より年長であり、そして必要に応じて15歳より年長である。1つの実施形態において、この被験体は、胃の病気に罹患していない。
【0095】
1つの実施形態において、上記のグルカゴン溶液のいずれかは、持続放出性のグルカゴンを含み得る。このような実施形態において、上記投薬量は、本明細書中に記載される所望の範囲内に血中グルコースレベルを維持するために、本明細書中に開示されるように、適切に調整される。
【0096】
本明細書中に開示される方法および組成物は、ヒトの患者、ならびに他の哺乳類(例えばラット、マウス、ブタ、ヒト以外の霊長類、その他)を治療するために用いられ得る。いくつかの実施形態において、ヒト患者は、小児または年少者であり、一実施形態において、ヒト患者は、成人である。ある実施形態において、患者は、I型糖尿病患者である。1つの実施形態において、患者は、II型糖尿病患者である。1つの実施形態において、患者は、不安定型の、I型、またはII型糖尿病患者である。1つの実施形態において、ヒト以外の哺乳類は、糖尿病の研究のための動物モデル(例えばZucker diabetic−fatty(ZDF)ラットおよびdB/dBマウス)である。
【0097】
本明細書中に提供される例の多くおよび説明の多くは、明示的に、低用量のグルカゴンの皮下投与に関する一方で、他の局面がまた、開示される。例えば、本明細書中に記載される皮下の用量は、一般的に、5ng/kg/分より大きく、かつ20ng/kg/分未満である一方で、他の用量がまた、本明細書中に記載される種々の実施形態に対して企図される。例えば、I.V.投与またはs.c.投与についての0.1ng/kg/分〜5ng/kg/分の用量(特に、グルカゴンの長時間作用性の形態(例えば、亜鉛プロタミン)と、種々のキットと、単位用量との組み合わせにおける)が、5ng/kg/分以上〜20ng/kg/分の用量または5ng/kg/分以上〜30ng/kg/分の用量と共に企図される。さらに、下に示されるように、s.c.グルカゴンの4ng/kg/分の用量、およびより低い用量はまた、低血糖を予防するか、または遅らせるのに有効であり得る。したがって、いくつかの実施形態において、低血糖を予防するか、または遅らせるために皮下に投与される用量は、約0.1〜5ng/kg/分、1ng/kg/分、1〜2ng/kg/分、2〜3ng/kg/分、3〜4ng/kg/分、4〜5ng/kg/分、5ng/kg/分以上、5〜6ng/kg/分、6〜8ng/kg/分、8〜12ng/kg/分、12〜16ng/kg/分、16〜20ng/kg/分、または20〜30ng/kg/分である。単位用量に対応する量、投与のための他の用量、またはキットがまた、企図される。例えば、100kgの者に対する4ng/kg/分でのグルカゴンの1時間あたりの単位用量は、24マイクログラムのグルカゴンであり、そして1時間あたりの薬学的組成物は、24マイクログラムのグルカゴンおよび1〜3単位のインスリンを含む。当業者によって認識されるように、開示される用量のいずれかは、1時間あたりの単位用量、または本明細書中に記載され、本開示によって与えられる他の局面へと変えられ得る。これは、用量の量(例えば、0.1〜30ng/kg/分または6〜16ng/kg/分)、インスリンの存在および量(例えば、0単位または2〜20単位)、患者の大きさ(例えば、3〜200kg)、ならびに所望の有効性の時間の数(例えば、0.5〜24またはそれ以上)に依存し得る。
【0098】
以下の実施例は、本発明の例示的な実施形態を記載し、そして任意の様式に限定することを意図しない。
【実施例】
【0099】
(実施例1.糖尿病の制御および低血糖の予防のための、非経口的なグルカゴンとインスリンの同時投与)
北アメリカ市場で現在利用できるグルカゴンは、Eli Lilly & CoまたはBedford Labs(Novo)で生産されるrDNA由来のヒトグルカゴンである。以下の4つの商標名が、公知である:Glucagon Diagnostic Kit(Lilly)、Glucagon Emergency Kit(Lilly)、Glucagon Emergency Kit for Low Blood Sugar(Lilly)、およびGLUCAGEN(Bedford Labs)。
【0100】
Novoは、北アメリカ以外でも、独自の名前でグルカゴンを生産している。Novoは酵母内でそのグルカゴンを生成し、LillyはE.coli内でそのグルカゴンを生成している。以下の実施例は、種々の経路を介して投与されるこのような市販品として入手できるグルカゴンおよびインスリンを使用する本方法のいくつかの実施を例示する。
【0101】
Lillyグルカゴンは、代表的に、キットの形態で提供される。このキット内のグルカゴンは、標準的なゴムで密封されたネックを備える無菌バイアル内の粉末の形態である。このバイアルは、1mgの凍結乾燥したグルカゴンと、49mgのラクトースと、pH(グルカゴンは、3より低いpHか、または9.5より高いpHにて溶解する)を調整するための塩酸との混合物を含む。患者は、バイアルに、あらかじめ充填された注射器(水と塩酸の混合物中の12mg/mlグリセリンを含有する)からの1mlの希釈剤を注入する。このバイアルを、溶液が透明になるまで振る。この液体を注射器に戻し、全用量を注入する(小児には通常、標準用量の50%を投与する)。
【0102】
グルカゴンは、皮下経路、筋肉内経路、および静脈内経路によって、非経口的に投与されるが、当業者には理解される通り、その薬物動態学的特性は異なる。最大血漿濃度は、皮下投与の約20分後に達成される。インビボの半減期は、8分〜18分の範囲となる。約8ng/mlのピーク血漿濃度は約20分後に達成され、グルコースレベルは投与後ほぼすぐに上昇し始め、高いグルコースレベルは投与後約1時間半の間持続する。インスリン誘発性の昏睡を有する患者は、代表的に、グルカゴン投与後15分以内に意識を回復する。低血糖を処置するために投与される場合、非経口グルカゴンは、第一に、肝臓によるグルコースの放出の増大(グリコーゲンのグルコースへの変換および糖新生による新規のグルコースの形成)を通して血清グルコース利用能を増大させることによって、これを行う。
【0103】
使用されている幅広い種々のインスリン投薬レジメンが存在する。使用されるレジメンは、1型糖尿病と2型糖尿病のどちらが処置されるかどうかに、また、処置される個人に特有の多数の因子に依存する。以下の非経口的に(通常皮下に)投与されるインスリンの合剤を用いてインスリンを置き換えることは、通常の医療である:急速な開始/短時間作用持続時間(LISPRO(HUMALOG)またはASPART(NOVOLOG))、より遅い開始/短時間作用持続時間(レギュラーヒトインスリン)、中間の持続時間(NPHまたはLENTE)、長時間作用持続時間(ULTRALENTE)、BASULIN(Bristol Myers Squibb)および、24時間のピークの無い持続時間(GLARGINE(LANTUS)およびDETEMIR)。
【0104】
投薬レジメンは、かなり複雑であり得る。例えば、代表的な1日2回のレジメンは、朝食および夕食の前に短時間作用性および中間の持続時間のインスリンを投与することを含み得る。したがって、任意の24時間の期間全体にわたって基礎インスリンレベルを提供するだけでなく、得られるインスリンプロフィールは、予想される食後のグルコース放出におおむね相当する多くのピークを有する。これは、図1に例示され、図1は、レギュラーインスリンと中時間作用インスリンの混合物についての理想的な薬物動態を示す。このグラフは、1日2回のインスリンレジメンの効果を示す:朝食および夕食の前の、レギュラー(実線)および中時間作用性のLENTEまたはNPH(点線)インスリンの1日2回の投与は、注射後のインスリンのピーク、ならびに中時間作用性のインスリンの注射後1日を通した比較的一定の基線レベルのインスリンを提供する。
【0105】
インスリンレベルは、注射の部位および深さ、局所血流量、インスリン注射の総体積およびタイプ、ならびに当業者により認識される他の因子などの因子に応じて、個人間で、また同じ個人の間でもかなり変化し得る。したがって、インスリンの皮下の吸収において、有意な患者間および患者内の変動が存在し得、このことは、低血糖の可能性を含む血清グルコースの変動の可能性が増大する。
【0106】
急速開始インスリンおよびほとんどまたは全くピークの見られない長時間作用性のインスリンの出現により、GLARGINE(LANTUS);また、DETEMIRは、開発中の長時間作用性のインスリンである;さらに、ULTRALENTEは、長時間作用性のインスリンであるが、大抵の患者では、若干のピーク効果を有する傾向がある)、より正確にインスリンレベル(したがって血糖値)を管理することが可能になった。基本的な方法論は、基礎インスリンおよび食事時インスリンを、作用の開始速度および持続時間の異なるインスリン調製物の併用に置換すること。これは、この目的で市販されている、開始の異なる別々に投与されるインスリン(例えば、GLARGINEおよびLISPRO)の使用、または種々の予め混合された処方物の使用(例えば、70/30は、NPH70%とレギュラー30%とを組み合わせたもの)を含み得る。
【0107】
グルカゴンが、投与される時点は、インスリン作用が、最も無競争的(unopposed)である時点、例えば、血清グルコース利用能が十分でない場合に有意なインスリン作用が持続する時点の前、間、あるいは直前である。したがって、循環インスリンとグルコースレベルとの間のミスマッチ(グルコース利用能に対するインスリン効果の相対的な過剰)が存在する場合はいつでも、インスリン誘発性低血糖が発生し得る。
【0108】
(A.非経口的に投与されるインスリン)
(i)GLARGINE/LISPRO/ASPART/GLULISINEインスリン
この例示的な実施例に関して、患者(実際の臨床試験を記載する実施例における患者への任意の言及を除いて、本明細書で言及する全ての患者は架空であり、実在の人物とのいずれの類似点も偶然の一致による)は50歳、体重75kgの成人男性であり、血液が5Lであり、2型糖尿病に罹患し、インスリン療法(付随する経口的な併用療法なし)を用いている。この患者は、10年間を越えてインスリンを使用しており、低血糖に対するグルカゴン応答は最小である。この患者のインスリンレジメンは、食事時刻に投与される(摂取される炭水化物の量に応じて)5単位と10単位との間のLISPRO(HUMALOG)、ASPART(NOVOLOG)、GLULISINE(APIDRA)の食事時インスリン注射に加えて、就寝時刻に投与される20単位の投薬レベルのGLARGINE(LANTUS)皮下注射を使用する基礎インスリン補充を含む。
【0109】
この患者のインスリンプロフィールは非常に単純であり、食事時LISPRO(HUMALOG)、ASPART(NOVOLOG)、GLULISINE(APIDRA)インスリン注射に相当するピークにより中断される平坦な線(GLARGINE(LANTUS)によって与えられる基礎レベル)である。このインスリンプロフィールを、図2に示す。この患者において、低血糖の危険は、代表的に、食事の2時間後と5時間後の間に起こる。グルカゴンの投与が、低血糖発症の可能性を予防するのに最も効果的かつ有効であるのは、この期間中である。非糖尿病患者において、グルカゴンは通常、炭水化物の食事後に(グルコースレベルの増大に応答して)下がり、その後、グルコースレベルが通常に戻ると回復する。1型糖尿病患者(および5年以上の2型糖尿病患者)では、低い血清グルコースに対するグルカゴン応答は、制限される。したがって、インスリンが、血清グルコース濃度を基礎レベル未満に十分低下させると、確実に低血糖となる。
【0110】
低血糖の症状は、代表的に、50mg/dl未満、時として40mg/dl未満のグルコースレベルの糖尿病患者に観察される。通常の個体において、グルカゴン放出は、グルコースレベルがこの低水準に下がる前に、増大(約40pg/ml以上(例えば、約60pg/ml以上に増大する))し、そして低血糖の症状の発症を防ぐ。しかし、グルカゴンの産生(または調節)は、多くのインスリン処置されている糖尿病患者において欠けている。したがって、陥りやすい期間の間にこれらのレベルに達するためにグルカゴンを投与する工程は、低血糖発作の重症度を予防するかまたは減ずる。
【0111】
予防を提供するために必要とされるグルカゴンのs.c.用量は、いくつかの実施形態において、基礎インスリンレベルに対して約6〜20ng/kg/分であり、そしてインスリンのより高いレベルに対しては、比例的に、より高い量である。
【0112】
したがって、本方法に従って、この患者は、食事の後に41〜90マイクログラムのグルカゴンを皮下に投与される。同様の用量を2回、その後2時間の間、1時間ごとに投与する。これは、2時間、3時間、および4時間での3回の投与をもたらし、食事の2時間後から開始して3時間の間、低血糖からの保護を提供する。低血糖の危険および程度は、(ある程度)インスリン用量依存性であるので、インスリンとグルカゴンの両方を含む処方物によって、より低い割合のグルカゴン(5.6%)が使用され得る。この例において、食事の2時間後に投与される用量由来のグルカゴン濃度は、1時間後にほぼ基礎レベルに下がることとなるが、この用量に起因する血中グルコースの上昇は、1時間より長く持続し、第2の用量が効果を発揮するための時間を与える。同じ薬物動態が、グルカゴンの第3の用量にあてはまる。代替的な実施形態において、グルカゴンの2用量またはさらに1用量を、投与し得る。
【0113】
この実施例は、単純な基礎インスリンおよび食事時インスリンモデルを使用するが、現在実施されるすべての投薬レジメンに適用可能であることは、当業者によって理解される。グルカゴン注射のタイミング(および頻度)は、患者が低血糖に最も陥りやすい期間(すなわちインスリン作用とグルコース利用能が最も不釣合いである時点)に適合するように調節され得る。
【0114】
(ii)NPH/ヒトインスリン
代表的な糖尿病患者は、63歳、体重75kgの成人男性であり、2型糖尿病に18年間罹患し、併用インスリン療法(付随する経口的な抗糖尿病治療なし)を用いている。過去において、この患者は、代表的に、グリブリドおよびグリピジドを含む経口の抗糖尿病的薬物療法を使用していたが、これらを、この患者の血清グルコースレベルが、一貫して250mg/dl以上となったときに中止し、インスリンを開始する。この患者は、ある1つの型または別の型のインスリンを10年間を超えて使用しており、そして非増殖性網膜症、1.9mg/dlの血清クレアチニンおよび60ml/分のクレアチニンクリアランスを伴う軽度のじん臓機能障害、軽度のタンパク尿症、両足における遠位性の左右対称である神経障害、および労作性狭心症の徴候を発症した。この患者のインスリンレジメンは、代表的に、終日の基礎インスリン有効範囲に加えて、昼食および夕食(および夜食)に対する食後の適度な有効範囲を提供することを意図する、朝食の前に20単位、かつ夕食の前に15単位の皮下のNPHインスリンの分割混合(split−mixed)レジメンを含む。さらに、この患者は、これらの食事の前に(食事の前の血清グルコースのレベルならびに食事の規模および炭水化物含量に依存して)、6単位と10単位の間のレギュラーインスリンを注射する。
【0115】
この患者のインスリンプロフィールは、図1に示されるものと同様であり、レギュラーインスリンの食事時注射に由来する、より急速でないピークおよびより遅い減衰、ならびに1日2回の中時間作用性NPHインスリンによる、より遅い開始および遅延した減衰効果を有する。この患者の空腹時のグルコースレベルは、代表的に、90〜130mg/dlの範囲に十分に制御されるが、この患者の食後1〜2時間のグルコースレベルは、最適状態に及ばず、一般に180〜240mg/dlの範囲となる。グリコシル化ヘモグロビンは、7.9%(正常範囲4〜6%)に上昇する。食後のグルコースレベルを低下させるために、この患者の食事時レギュラーインスリンの朝食または夕食時の用量を増大する努力は通常、しばしば昼食の1〜2時間前かまたは夕食の数時間後に軽度から中度の重症度の、頻繁な断続的な低血糖を伴う。低血糖のこれらのエピソードは、特にこの患者の食事が遅れる場合、かなり深刻になり、そして発汗、震え、悪心、および頭痛の症状と結びつき得る。この患者は、今までインスリン誘発性低血糖による昏睡を経験したことがなかったが、これが起こるといけないので、インスリン投薬を増大させたくはない。この患者は、インスリン誘発性低血糖による昏睡が起こった場合、この患者の運転免許証を失い得るか、またはおそらく夜間警備員としての仕事を失い得ることを恐れている。この患者の糖尿病の長い履歴および重大な合併症の存在に起因して、この患者は低血糖に対する損なわれたグルコース対抗制御(特に、和らげられたかあるいは欠如したグルカゴン応答として明らかとなる)を示すこと、が予測される。
【0116】
この患者において、循環インスリンレベルが、空腹時のレベルを上回ってさらに増大するが、(消化管吸収および肝臓産生からの)グルコース利用能が最小限である場合、低血糖の危険は通常、食事の3時間後と5時間後の間が最も大きい(遅い食後低血糖)。低血糖の発症の前に、グルカゴンの投与が、循環グルコース利用能を増大することによって、低血糖発症の可能性を予防するのに最も効果的かつ有効であるのは、この期間の間である。糖尿病にかかっていない人では、インスリンとグルカゴンは両方とも、グルコースの産生と利用を釣り合わせて正常血糖を維持するように、食事後に厳重に調節される。インスリン効果は、当然に顕著であり、グルカゴンレベルは、この低血糖の可能性を相殺するために上昇する。
【0117】
ある方法の1つの実施形態に従って低血糖の発現を予防するために、この患者は、皮下に投与される36〜96ミリ単位のグルカゴン(必要に応じて、上で記載されるような、Eli Lilly’s Glucagon Emergency Kitを使用する)を、各食事の2から3時間後に投与される。1つの実施形態において、グルコース測定値により、グルコースレベルが低血糖レベルに近づいていることが示される場合に、グルカゴンが加えられる。この投与は、上に記載されるように、3時間と5時間との間に、必要とされる保護を提供する。
【0118】
この例示的な実施例は、単純な基礎インスリンおよび食事時インスリンモデルを使用するが、実質的に現在実施される全てのインスリン投薬レジメンに適用可能であることが、当業者によって理解される。グルカゴン注射は、最適に時間調節され、そして使用されるインスリンレジメンに依存して変化するが、インスリン作用が比較的に無競争的であると予測される期間に、持続性のグルカゴンレベルに達するように設計される。
【0119】
この仮定的な実施例において、この状況は、1日を通して数回起こる傾向がある。例えば、低血糖は、注射されたレギュラーインスリンの吸収の「最後」が、中時間作用NPHからのピークインスリン利用能と組み合わされた場合に起こりやすい。この状況は、(主に腸の吸収および肝臓の産生からの)血清グルコース利用能が、最小であるか、あるいは減少している場合に、朝食の数時間後に起こる。同様の状況はまた、夕食前、就寝前、および夜中にしばしば起こる。このように、すべてのインスリン投薬レジメンについて、グルカゴン注射のタイミングは、使用されるインスリンの薬理学的特徴およびタイミングに依存して変わり得る。
【0120】
投与されるグルカゴンのグルコース−上昇可能性を相殺するために、その低血糖期間の間に作用するインスリンの用量は、正常血糖を維持するために、いくぶん増加され得る。しかし、グルカゴンの増加した利用能は、上で記載されるような特定の状況下で、インスリンの過剰なグルコース低下作用に対する緩衝作用または緩和作用を提供し、そして低血糖が和らげられるか、または予防される。
【0121】
(B.ポンプによって投与されるインスリン)
この実施例において、実施例1.A.iに記載される患者は、この患者のインスリン所要量を投与するために、ポンプを使用する。実施例1.A.iのように1日1回のGLARGINE(LANTUS)によって基礎インスリンを投与する代わりに、この患者のインスリンポンプは、急速開始インスリン(例えばLISPROまたはASPART)の連続的な流れを提供するようにプログラムされる。この実施例において、この患者は、食事前グルコースレベルならびに摂取される炭水化物およびカロリーの量に従って、食事時に5単位と10単位との間の用量でASPARTを投与する。その後この患者は、この方法に従って、食事の2時間後にグルカゴンを投与(例えば、Bedford LabのGLUCAGEN製品を使用して)し、そしてさらなる2時間の間、1時間ごとにこの投与を繰り返す。この量は、s.c.に送達される、約36マイクログラム〜96マイクログラムのグルカゴンであり得る。このグルカゴンは、皮下に投与される。実施例1.A.iに記載される通り、この投与は、2時間と5時間との間の低血糖からの保護を提供する。当業者によって認識されるように、このグルカゴンはまた、ポンプを介して投与され得る。代替的な実施例において、グルカゴンの量は、インスリンの単位に従ってスケールアップされ、したがって36〜96マイクログラムが、インスリンの単位に従って使用される。
【0122】
(C.[パッチおよび局所用クリームを含めて]経皮的に投与されるインスリン)
この実施例において、患者は、62歳の、痩せた、6年間継続する2型糖尿病患者である。この患者は、最初に、1日2回20mgのグリブリドで、その後、1日2回1グラムのメトホルミンを加えて処置されたが、空腹時および食後の血中グルコースは、一貫して200〜350mg/dlの範囲であった。この患者は、インスリンが必要であると医師に勧告される。経口的な抗糖尿病的薬物療法を中断し、この患者の終日の基礎インスリン補充の必要量を提供するため、GLARGINE(LANTUS)インスリン15単位を就寝前に投与する。食後のインスリンは、2〜6単位の急速に作用するインスリンを提供するために、経皮パッチにより投与される(パッチは、2単位ずつ利用できる;この実施例は、パッチの使用を言及するが、本発明の実施形態を行うために、クリームまたはローション剤などの他の手段によって、経皮的に送達されるインスリンまたはグルカゴンを用いて、実質的に同様の方法論が使用され得ることが、当業者によって認識される)。あるいは、この患者は、1日1回のGLARGINEの代わりに24時間の基礎インスリン補充パッチを与えられる。基礎インスリン補充パッチは、1日を通して安定した連続吸収および低い一定の血清インスリンレベルを提供するために設計される独特の処方物内にインスリンを含有するものである。空腹時の血漿グルコースの持続的な上昇に起因して、医師は、GLARGINEインスリンのこの患者の用量を、6ヶ月かけて24単位に、経皮パッチを4から10単位に次第に増大させる。GLARGINEおよび経皮インスリン投薬のこの増加に伴い、3ヶ月以内に、空腹時のグルコースレベルは、70〜110mg/dl、食後1〜2時間後のグルコースレベルは130〜180mg/dlの範囲であった。
【0123】
患者は、食事の30〜60分前に、急速作用性インスリンパッチを適用する。このタイミングは、食事の吸収がインスリンパッチ吸収の動態および作用と一致するように選択される。この患者は、上で示した通りのほぼ通常の血糖制御を示すが、早朝から、通常午前1時または2時に、低血糖に陥り始める。このような時間には、この仮想的な患者は、しばしば困惑し、過敏になり、時々不安になる。これらの事象の間にされるフィンガースティック(fingerstick)グルコースの数回の計測では、35〜40mg/dlの血中グルコース値が認められ、ジュースの摂取で、症状を迅速に解決する。高血糖のこれらの期間を制御するために、医師は、GLARGINEの夕方の用量を段階的に減少させるが、これは、血糖制御の悪化を伴い、そして主に、食事前のグルコースレベルの上昇を伴う。
【0124】
本発明の方法のいくつかの実施形態に従って、ほぼ正常な血糖を回復するだけでなく早朝の低血糖症状を予防するために、医師は、GLARGINEインスリンを、就寝時刻において24単位に戻し、23:00頃までのGLARGINEの注射の直後に、意図した保護の18ng/kg/分における皮下のグルカゴン(Bedford Labsグルカゴン製品を使用する)の投与を定める。グルカゴンの投与の時間は、第一に吸収速度に依存するが、これは速く、15〜30分以内にピークレベルに到達し、作用の持続時間は約2〜3時間である。1つの実施形態において、「高い通常の基礎レベル」に近い血漿グルカゴンは、この期間の間に維持されGLARGINEインスリンからのインスリンの無競争的作用または夕方(夕食前)のパッチの遅延された作用を予防する。例えば、120〜160mg/dlより高いグルコースレベルが、企図される。代替的な実施形態において、血糖症のレベルの下端は、血中グルコースレベルに対する目標として設定される。この治療は、上で述べた通り、GLARGINE注射の約3時間後、低血糖からの必要とされる保護を提供する。この患者の糖尿病レジメンに就寝時刻のグルカゴンを加えることで、早朝の低血糖のエピソードはおさまり、終日のほぼ正常な血糖が維持されるはずである。当業者によって認識されるように、s.c.用量当量のグルカゴンまたはi.v.用量当量のグルカゴンはまた、インスリンと同じ様式(例えば、パッチまたはクリームを介して経皮的に)で投与され得る。
【0125】
(D.[経肺、口腔内、経鼻、および舌下を含めて]吸入によるインスリン)
この実施例は、患者が皮下注射によってではなく吸入によってインスリンを投与することを除いて、実施例1.A.iと同様である。インスリンが、これらの方法に従って、口腔内、経鼻的、または舌下的に投与される場合、同様の方法が適用されるが、用量当量の量が適用されることは、当業者によって理解される。患者は、GLARGINE(LANTUS)を介してこの患者の基礎必要量を投与し続けるか、あるいはインスリン吸入器を利用して基礎インスリン必要量を投与する。患者は、インスリン吸入器(経肺、経鼻的、口腔内、または舌下的のいずれか)を使用して、(皮下投与により投与される5単位と10単位との間に等しい)食事時インスリン必要量を投与する。
【0126】
これらの方法によれば、その後患者は、食事の2時間後、およびその後1時間ごとにさらに2回、皮下に45マイクログラムのグルカゴン(必要に応じてLilly’s Glucagon kitを使用する)を投与する。この患者は、皮下にグルカゴンを投与することとなる。実施例1.A.iに記載される通り、これは、2時間と5時間の間の低血糖からの必要とされる保護を提供する。当業者によって認識されるように、このグルカゴンはまた、用量当量の量で、吸入を介して投与され得る。当業者によって認識されるように、投与されるグルカゴンの正確な量は、変化し得、そして下の実施例8に示される方法を介して、種々の量のインスリンに対して決定され得る。
【0127】
(実施例2.糖尿病の制御および低血糖の予防のための、インスリンとポンプによるグルカゴンの同時投与)
1つの実施形態において、インスリンは、本発明の方法によるポンプによって投与され得る。米国内外の市場には、本発明の方法の使用に適した、市販品として入手できる(あるいは間もなく入手できるようになる)多くのポンプがある。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
・ANIMAS(IR−1000およびIR−1200)
・DELTEC(Cozmoポンプ)
・DISETRONIC(H−TRONplusおよびD−TRONplus)
・LIFESCAN & DEBIOTECH(開発中のMEMSインスリンポンプ)
・MEDTRONIC MINIMED(PARADIGMインスリンポンプおよび508インスリンポンプ)
・MEDTRONIC MINIMED(2007埋め込み型インスリンポンプシステム(EUのみ))
インスリンおよびグルカゴンの両方がポンプにより(別々の貯蔵部から)投与されるべきである場合、本発明の方法の実施において、多数の構成を使用され得る。代表的な
構成は、以下の通りである:
(1)各薬物が、カニューレ挿入の前に統合される2本の別々のラインを通して送達される、単一のポンプと2つの貯蔵部を備える単一のデバイス(二貯蔵部ポンプについては、例えば、米国特許第5,474,552号を参照のこと);
(2)各薬物が、それぞれが独立してカニューレ挿入される2本の別々のラインを通して送達される、単一のポンプと2つの貯蔵部を備える単一のデバイス;
(3)各薬物が、カニューレ挿入の前に統合される2本のラインを通して送達される、2つの独立したポンプと2つの貯蔵部を備える単一のデバイス;
(4)各薬物が、それぞれが独立してカニューレ挿入される2本の別々のラインを通して送達される、2つの独立したポンプと2つの貯蔵部を備える単一のデバイス;
(5)各薬物が、カニューレ挿入の前に統合される2本の別々のラインを通して送達される、各々が単一のポンプと1つの貯蔵部を備える2つのデバイス;ならびに
(6)各薬物が、独立してカニューレ挿入される2本の別々のラインを通して送達される、各々が単一のポンプと1つの貯蔵部を備える2つのデバイス。
【0128】
他の構造も可能であり、本発明の実施形態の実施は、上に挙げたデバイスおよびデバイス構造に制限されないことが、当業者によって理解される。例えば、外部ポンプを使用して成し遂げられているものとほとんど全く同じように、埋込型ポンプを使用され得る。
【0129】
上の実施形態(1)により、カニューレ挿入時の患者への外傷が最小限になり、コストが低下し、注入が単純化され、複雑さが最小限になる。この実施形態では、単一ポンプは、各貯蔵部(各々が、濃度の異なる、2種のホルモンのうちの1種を含有する)から適当な体積を送達するようにプログラムすることができる。このようなポンプの例は、本明細書中に提供される。
【0130】
代表的なインスリンポンプにおいて、内部ポンプ機構は通常、内部貯蔵チャンバー(貯蔵部)から薬物を汲み出すために、また、送達ラインを通して、次いでカニューレまたはマイクロカニューレを介して患者にこのような薬物を送達するために、シリンダ内の往復運動のために取り付けられたソレノイドにより作動されるピストンを有する、電磁気で駆動される脈動ポンプを備える。
【0131】
ポンプインスリンと共に使用する送達ラインは、代表的に、長さが0.5から1メートルであり、内腔直径は、1ミリメートルの1/10の桁(デッドボリュームは、1ミリリットルの1/10の桁、すなわち約10IUのインスリン)であるので、新規の薬物の体への到達とポンプの注入開始時間との間の時間遅れは、相当(約半日)である可能性がある。
【0132】
この遅延を減少させるために、1つの実施形態は、薬物の切り替えの間の時間のずれをかなり短くし得る、長さがかなり短くかつ/または内腔直径が非常に小さいラインを備えるポンプを提供する。本発明はまた、2つの送達ラインに作用する蠕動型のポンプも提供する。
【0133】
1つの実施形態は、ポンプと、ポンプの直前に2つ、直後に2つの、4つ一組の弁とを備えるシステムを提供する。この弁は、一対ずつ操作される場合、どちらの薬物をポンプで汲み出すかを制御する。1つの実施形態において、2本のラインが、カニューレ挿入の時点で統合されることによって、ずれまたは(デッドボリューム)時間が排除される。電子工学的に作動される超小型弁に必要な余分の空間は、最小限であり、ほとんど容積や費用を加えず、市販されているデバイスを使用して組み立てられ得る。4つ未満の弁の使用を含むさらなる可能性については、後述する。
【0134】
本方法のいくつかにおける使用に適した経済的なポンプシステムは、MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)として公知であるマイクロポンプであり、商標名Chronojetで、Debiotechによって、糖尿病に関して開発されている。単一のデバイスにおいて、このようなマイクロポンプを2つ使用することは、既存の設計に対して、ほとんど容積を加えず、最小限の費用のみを加える。上記の通り、2つの送達ラインは、皮膚を刺し、薬物を送達するために使用されるカニューレまたは同様の微細針デバイスに連結する場所で、(2つの薬物が直接接触するという意味で)統合され得る。
【0135】
1つの実施形態において、単一の内腔が分割された(2つの内腔)ラインが、2本の物理的に別々のラインの代わりに使用される。この方法は、患者が、2つではなく1つの可撓性送達ラインを経由すればよいという利点を有する。あるいは、その全長に沿って物理的に付着した2本の標準のラインは、同じ利点をもたらすために本方法のいくつかの実施形態に従って使用され得る。
【0136】
したがって、1つの実施形態において、上記ポンプは、1つではなく2つの薬物貯蔵部を有するように改変された、現在使用されているインスリンポンプであり、これらの薬物貯蔵部は、それぞれ、単一の(または二つの)ポンプ、ならびに2つの薬物の投与の量および相対的タイミングを管理するための単一の制御システムによって、独立して管理される。上記の通り、デバイスは、いくつかの実施形態において、1つ、2つ、または4つの弁および適当な連結管を含むことができる。本方法のいくつかに従って使用され得るデバイスの概略図を、図3、4および5に示す。図3において、インスリン貯蔵部(1)およびグルカゴン貯蔵部(2)は、ポンプ(3)と流体連通であるラインを有し、4つの弁(6)および(7)を経由し、内腔が分割された送達ライン(4)を介してカニューレ(5)へつながる。弁(6)が開き、弁(7)が閉じる場合、インスリンだけが汲み出される。弁(6)が閉じ、弁(7)が開く場合、グルカゴンだけが汲み出される。このように、単一のポンプが、患者にインスリンまたはグルカゴンを、同時にまたは別々に送達するために使用され得、液体がカニューレで(すなわち送達の時点で)のみ混じるだけである内腔が分割された送達ラインを通す送達の長所によって、2つの物質の混合が最小限となる。図4では、インスリン貯蔵部(1)およびグルカゴン貯蔵部(2)は、ポンプ(3)と流体連通であるラインを有し、2つの弁(6)および(7)を経由し、内腔が分割された送達ライン(4)を介してカニューレ(5)へつながる。これらは、インスリン経路またはグルカゴン経路のいずれか(ただし、1度に1つのみ)が開くことが可能な双方向(2−way)弁である。2つの流体の少量の混合が、ポンプを通してラインの小さい範囲で起こるが、代表的な汲み出し体積と比較した場合、これは取るに足らない体積である。このように、グルカゴンおよびインスリンは、このラインにおいて、最小限の混合およびデッドスペースで、患者に送達できる。図3に開示された記載済みの構造に対するこの構造の利点は、動作にわずか2つの弁だけが必要であることである。図5では、この構成は、図4に開示されたものと同様である。しかし、この場合、2つの弁(6)および(7)は、単一の作動機構を有する単一のデバイスに統合されている。このように、この機構は、できるだけ安価かつ単純に保たれ、所望の結果を達成するために、1つの弁および1つのポンプのみが必要とされる。
【0137】
基礎レベルのインスリンを送達するためにポンプをセットすること、また、必要に応じて食事時インスリンを投与するために手動で割り込むことは、患者にとって、ポンプで送達されるインスリンを用いる通常の慣行である。
【0138】
1つの実施形態において、グルカゴン送達は、適当な期間にわたって(例えば、食事時インスリンを送達するための手動の命令の3時間後から5時間後の間に連続的に)自動的に投与される。このような一連の事象を生じるために必要な制御論理は、ポンプにプログラムすることができる。
【0139】
(A.ポンプにより投与されるインスリン)
この実施例は、本方法のいくつかを、ポンプに基づく投与を使用して、どのように実施できるかについて説明する。代表的な仮想的な患者は、35歳、体重75kgの成人男性であり、15歳から1型糖尿病を患っており、診断された時からインスリン療法を使用している。この患者は、多くの異なるインスリンレジメンを以前に受けていたが、血糖制御は最適ではなかった。最近の5年間で、この患者は、重大な非増殖性網膜症、軽度の腎不全、および高血圧を発症し始め、この患者の7.8%の現在のグリコシル化ヘモグロビンレベルからの血糖制御を改良することが可能でない限り、これらの合併症が急速に進行し続けることが懸念されている。つい最近まで、この患者は、就寝時刻にULTRALENTE 22単位、および食事と間食のそれぞれ直前にLISPROインスリン4〜8単位を摂取していた。ULTRALENTEの用量は、インスリンの基礎補充を提供するように調節されるが、食事時LISPROの用量は、一般的な注射前血清グルコースならびに各食事の総カロリーおよび炭水化物含量によって変化する。
【0140】
1日4〜6回、グルコメーターによる毛細血管の血中グルコースの自動モニタリングを行ったが、この患者の血糖制御はしばしば不安定であり、200mg/dlの範囲の高い値から時折の低血糖まで変動する。その前年、この患者は、昏睡または昏睡に近い状態を伴う重篤な低血糖の発作を3回有した。2回は仕事中に、他の1回はハンドボールの試合の後に起こった。すべて、他の人の援助が必要であり、運動後の場合には、医療補助者によるグルカゴンの筋肉内投与が必要であった。
【0141】
インスリンポンプ療法を使用する場合、ポンプにより連続供給が提供され、長期間にわたって基礎インスリンがシミュレートされるので、短時間作用性のインスリンが、通常使用される。この実施例では、患者は、この患者に最適なインスリンとしてASPART(NOVOLOG)を使用する。ポンプ、貯蔵部、および制御機構(この具体例の場合では、MEDTRONIC MINIMED PARADIGM INSULIN PUMP)は、患者の身体の種々の部位(最も一般的には、例えばベルト上)に取り付けられ得、この患者の腹部、大腿、または腕(男性は、通常上腹部を選ぶのに対して、女性は、注入部位を、より下の腹部にする傾向がある)に挿入されたマイクロカニューレに、可撓性プラスチック管によって連結される。
【0142】
患者は、デバイスが50分ごとにインスリン1IU(1日につき20の単位)を送達するようにプログラムする。患者が日中食事をする場合、この患者は、デバイスがこの患者の食事状況(食事前グルコース、総カロリー、および炭水化物含量)にふさわしい量(3単位と8単位との間)のインスリンを放出するようにプログラムする。この患者は、必要なインスリンボーラスのサイズを選ぶために、デバイス上の適当なボタンを押すことによって、(あるいは、利用可能な場合、遠隔制御デバイスを使用することによって)これを行う。
【0143】
プログラム可能なインスリン注入ポンプの使用後、患者は、血糖制御の著しい改善を達成し得、食事前のグルコースレベルは70〜110mg/dl、食後の(1〜2時間)レベルは120〜160mg/dlの範囲となり、グリコシル化ヘモグロビンは6.4%となる。しかし、この患者は、フィンガースティックグルコースを測定するまで自分では多くの場合認識しない頻繁な軽度〜中程度の低血糖のエピソードに悩まされ続ける。これらの低いグルコース値の多くは、30〜40mg/dlの範囲である。この患者の妻や友人は、時々、この患者が不適切な挙動を示すが、食品またはジュースの摂取によって改善されると話している。
【0144】
1型糖尿病の期間が長いこと、およびしばしば認識されない頻繁な低血糖のため、この患者は、グルカゴンが欠乏し、グルコース対抗調節の重大な障害をもち、また、低血糖に対するエピネフリン応答が著しく弱められている。すなわち、この患者は、異常に低い血中グルコース、およびその結果起こる可能性があるそれに付随する危険性に対する有効な応答を開始することができない。さらに、この患者は、低血糖の無自覚を示し、これは、頻繁に再発性の低血糖を伴い、重篤な低血糖発症の危険を増大させる。低い血中グルコースを認識するこの患者の体の機構が不完全であるので、血中グルコースが危険なほど低いときも、この患者は気付かない。これは、継続期間の長い糖尿病で一般的なシナリオであり、正常または正常に近い血糖制御を達成する努力が、このような個人で試みられる場合、最も一般的に現れる。頻度の増大に対する懸念、および低血糖のエピソードの重症度、およびこの患者が頻繁にそれらを認識できないことのため、この患者は、低い血中グルコースを減少させるために、血糖制御を「緩める」ことを真剣に考えている。この患者は、これは、微小血管合併症の増大を含む有害な結果をもたらす可能性があると理解しているが、重篤な低血糖の危険性がより大きく、より差し迫っていることを感じている。
【0145】
この仮想的な患者は、この患者の終日の血糖症が糖尿病にかかっていないレベルに近づく限り、微小血管合併症の発症の危険が最小になるという理解に基づいて、可能な限りの最良の血糖制御を達成しようと努力している。現在利用できる最も高度かつ柔軟性のある形のインスリン送達システムを採用し、推奨された目標に対する血糖制御の有意な改善を達成したことにもかかわらず、この患者は、低血糖の頻繁かつ潜在的に危険な発作によって悩まされている。この状況を軽減し、さらに、この患者が同じレベルの血糖制御を維持できるようにするために、本明細書中に提供される方法が用いられ、そして1つの実施形態において、第2のポンプデバイス(第1のデバイスと同一であり得るが、インスリンカートリッジの代わりにグルカゴンカートリッジを有する)が使用される。このデバイスは、独立してカニューレ挿入され、必要に応じて、グルカゴンの連続的皮下注入のために、独立して制御される。
【0146】
1つの実施形態において、患者は、以下の通りに実施するように指導される。食事をとった後、患者は、食事時インスリン(3〜8単位)を投与し、同時に、グルカゴンポンプが3時間にわたって、皮下に1時間あたり162μgのグルカゴンを投与するようにプログラムし、この食事時インスリンの投与の2〜3時間後に開始するように時間調節する。1つの実施形態において、上記の指導は、低血糖の制御のための組成物を備えるキット中に含まれる。この実施例において、実施例1.A.iiでとは異なり、グルカゴンの連続放出は、グルカゴンの単回の皮下注射よりもピークの外観および減衰期が少ない滑らかなプロフィールをもたらす。この患者の最も低血糖に陥りやすい期間の間にグルカゴンの利用能が増大することにより、このような事象の可能性と重症度は両方とも実質的に減少する。皮下投与されたグルカゴンのグルコース上昇可能性を相殺するために、注入されるインスリンの投薬量を増大させて、グルカゴン投与の期間の間に正常血糖を維持し得る。このようにグルカゴンを投与することによって、患者は、低血糖のエピソードの危険を予防するために、インスリンの無競争的作用に対するクッションまたは緩衝剤として働くのに十分なグルカゴンを提供される。このように、グルカゴンの投与は、患者が、頻繁な重い低血糖の過剰な危険を伴わずに優れた血糖制御を維持することを可能にする。
【0147】
(B.非経口的に投与されるインスリン)
1つの実施形態において、グルカゴンは、ポンプによって投与され、そしてインスリンは、非経口的に(ポンプまたは他の皮下投与によることを含めて)投与される。1つの実施形態において、インスリン投与に適したポンプはまた、グルカゴン投与に適している。インスリンは、実施例1.A.iに記載される通りに非経口的に投与できる。しかし、実施例1.A.iに記載される通りにグルカゴンを注入するのではなく、ポンプを、食事の2時間後と5時間後の間に連続的にグルカゴンを送達するようにプログラムする(または作動させる)。放出されるグルカゴンの全量は、その3時間にわたって約121ミリ単位〜324ミリ単位であり、これは、低血糖からの保護を提供するのに十分である。
【0148】
(C.[パッチおよび局所用クリームを含めて]経皮的に投与されるインスリン)
1つの実施形態において、インスリンは、本発明の実施において、経皮的に投与され得る。実施例1.Cに従って、患者は、経皮パッチ(またはクリーム)を使用することによって、この患者のインスリン必要量を投与する。しかし、患者は、その実施例に記載される通りに非経口的にグルカゴンを投与するのではなく、グルカゴンを投与するためにインスリンポンプ(インスリンでなくグルカゴンを含有する)を使用して、早朝の低血糖を予防する。寝る前に、患者は、ポンプが01:00と02:00との間の時間(この患者が低血糖に最も陥りやすい期間)の間に、皮下に投与されるべき50ミリ単位〜120ミリ単位のグルカゴンを送達するようにプログラムする。そうすることにより、患者は、睡眠中に低血糖が起こる危険を伴わずに、本発明の実施形態の方法を用いて正常血糖を維持することが可能である。
【0149】
(D.[経肺、口腔内、経鼻、および舌下を含めて]吸入により投与されるインスリン)
実施例1.A.iに従って、患者は、皮下注射によってではなく吸入によってインスリンを投与する。同様の方法は、インスリンが口腔内、経鼻的、または舌下的に投与される場合に使用され得ることが、当業者によって理解される。患者は、GLARGINE(LANTUS)を介して自身の基礎必要量を投与し続けるか、あるいは、インスリン吸入器を利用して基礎インスリン必要量を投与する。患者は、インスリン吸入器を使用して、この患者の食事時インスリン必要量(皮下投与により投与される5単位と10単位の間に等しい)を、(経肺、経鼻、口腔内、または舌下的に)投与することとなる。しかし、実施例1.A.iに記載される通りにグルカゴンを注入する代わりに、インスリンポンプ(インスリンではなくグルカゴンを含有する)を、食事の2時間後から5時間後の間に連続的にグルカゴンを皮下に送達するようにプログラムする(あるいは作動させる)。放出されるグルカゴンの全量は、この3時間にわたって121ミリ単位〜500ミリ単位であり、これは、患者を、最も陥りやすい期間中に低血糖から保護するために十分である。
【0150】
(実施例3.糖尿病の制御および低血糖の予防のための、混合されたグルカゴンならびにインスリンのポンプによる同時投与)
本発明の方法のいくつかの実施形態はまた、インスリンとグルカゴンとの両方の混合物のポンプベースの投与を用いて実施され得る。この方法は、本来遅延性の使用されるインスリンの量に正比例する低血糖からの保護を提供する。これはまた、1日を通して、そして特に、食後に、基礎レベルのグルカゴンを補充する。これはまた、ポンプにより投与される基礎インスリンと共に投与される。この実施形態は、現在利用でき、実施例2に記載される標準のポンプを使用して実施され得る。1つの違いは、使用されるインスリンカートリッジが、インスリンとグルカゴン(必要に応じて改変された放出グルカゴン)の混合物を含有することである(グルカゴン成分は、41〜96mUの間であり、所望の保護(低血糖の予防)の各時間に投与される)。いくつかの実施形態において、皮下に投与されるグルカゴンの量は、所望の保護の1分間あたり約6ng/kg〜所望の保護の1分間あたり約20ng/kgであり、そしていくつかの実施形態において、12ng/kg/分である。
【0151】
その後、インスリン/グルカゴン混合物は、ポンプ(基礎および食事時インスリンの両方について)によって投与される。得られるグルカゴン(改変されたグルカゴン)血漿濃度を、インスリンプロフィール上へ書き入れる(ただし、使用されるグルカゴン改変体の減衰特性を含む)。これを、図7に例示する。この方法は、必要とされる感受性な期間にわたって、低血糖からの保護を提供する。1つの実施形態において、ポンプは、グルコースセンサー(米国特許第5,474,552号を参照のこと)を備える。
【0152】
(実施例4.糖尿病の制御および低血糖の予防のための、グルカゴンならびにインスリンの経口的な同時投与)
大きな分子(例えばタンパク質)の経口送達は、当該分野で周知である。代表的に、これは、経腸投与(米国特許第5,641,515号を参照のこと)を含む。1つの実施形態において、同様の方法が、経口的にグルカゴンを送達するために使用される。インスリンとグルカゴンの混合物の経口送達を使用する代表的なシナリオにおいて、患者は、食事の最高1時間前までに、自身の食事に適したインスリンを含有する腸溶錠を摂取する。インスリン成分は、一旦放出を始めると、迅速に開始するように設計される。グルカゴン成分は、インスリン成分より後(1つの実施形態において、2〜3時間後)に放出するように設計される。必要に応じて、半減期の長い改変されたグルカゴンを使用して、グルカゴンレベルが長期間にわたって確実に上昇しているようにすることができる。このように投与される場合、グルカゴンは、低血糖を予防するために、正確にかつ適切に時間調節される。別の実施形態において、患者は、本明細書に記載される方法のいずれかを使用してインスリンを投与し、低血糖を予防するために、例えば、各々の食事と共に、必要に応じてグルカゴンピルを投与する。
【0153】
(実施例5.グルカゴン懸濁物のための組成物およびそれを特徴付ける方法)
この実施例は、グルカゴンの保存に有用であることが見出された本発明の1つの実施形態の1つの組成物、およびグルカゴンを保存するためのこの組成物がグルカゴンに対して所望の程度の安定性を提供することを検証するための、本発明の1つの実施形態の方法を示す。GlucaGen(登録商標)を、注入ポンプカートリッジにおいて、注射用水中の5%マンニトール中に200μg/mLおよび500μg/mLで混合した。この溶液を、設定した持続時間について30℃に保った。設定した持続時間の後、そのpHおよび残ったグルカゴンの%を、試験した。この残ったグルカゴンの%を、HPLC分析によって決定した。この結果を、200μg/mLのGlucaGen(登録商標)については表2、および500μg/mL GlucaGen(登録商標)については表3において下に示す。結果は、3セットの試験から得たものであり、このデータを、平均±s.e.m.として表す。
【0154】
【表2】

【0155】
【表3】

調製の時点において全ての溶液は、透明かつ無色であった。これらの溶液は、適合性研究を全体を通して、透明かつ無色なままであった。可視的な粒子は、観察されなかった。かなりの量のグルカゴンが、高濃度および検査した時間(24時間を含む)の全てにおいてでさえ、このマンニトール溶液中に残存する。さらに、より高い濃度のグルカゴンは、残りのグルカゴンのより高い相対的%をもたらした。したがって、この組み合わせは、グルカゴンを有用な期間維持するのに十分であるようである。
【0156】
(実施例6.グルカゴン懸濁物のための組成物およびそれを特徴付ける方法)
この実施例は、本発明の1つの実施形態の組成物、およびこのような組成物がグルカゴン溶液の寿命を決定するために分析され得る1つの方法を示し、このグルカゴン溶液は、活性な使用(すなわち、「長持ちする(wear)」使用)に直面する。5%マンニトール溶液中の200μg/mLおよび500μg/mLのGlucagon Infusateのサンプルを、調製した。各Glucagon Infusateサンプルの約3mLのアリコートを、三つ組で、個々のカートリッジに添加した。カートリッジを、10回反転し、そして0.5mLのアリコートを、「時間0(Time Zero)」として各々HPLC分析のためにから取り出した。充填したカートリッジを、50RPMに設定したPlatform Shaker上に配置し、そして30°Cにて24時間インキュベートした。3時間、6時間、9時間、12時間および24時間にて、これらのカートリッジを、オーブンから取り出し、10回反転し、そして0.5mLのアリコートを、HPLC分析のために各々から分配した。外観およびpHをまた、各時点において記録した。
【0157】
調製の時点において全ての溶液は、透明かつ無色であった。これらの溶液は、適合性研究を全体を通して、透明かつ無色なままであった。可視的な粒子は、観察されなかった。さらなる結果を、表4および表5に示す。
【0158】
【表4】

【0159】
【表5】

50RPMにおける継続的な振盪によって、5%マンニトール中の200μg/mLのGlucaGen(登録商標)は、30℃で12時間保存した後に、25%のグルカゴンの喪失を示し、そして30℃で24時間保存した後に、25%のグルカゴンの喪失を示した。5%マンニトール中の500μg/mLのGlucaGen(登録商標)は、24時間に対して、7%の喪失を示した。したがって、より低い濃度(例えば、200μg/mL)のグルカゴンによってでさえ、かなりの量のグルカゴンが、長期間の後に溶液中に残存する。さらに、より大きい濃度のグルカゴンは、処方物の活発な24時間の振盪を経た後でさえ、より安定な処方物を生じるようである。
【0160】
1つの実施形態において、グルカゴンおよびその改変体は、高濃度で保存される。高濃度は、例えば、100マイクログラム/mLより大きいものであり得る。1つの実施形態において、高濃度は、200μg/mL以上、200〜300μg/mL、300〜400μg/mL、400〜500μg/mL、500μg/mL、500〜600μg/mL、600〜800μg/mL、800μg/mLまたはより大きいμg/mL(飽和(または過飽和)の限界まで)のグルカゴンである。1つの実施形態において、より低い活性の形態のグルカゴンは、より高い濃度にて保存される。これは、グルカゴン溶液のより大きい安定性を可能に、そしてより大きい容量のグルカゴン溶液をレシピエントに対して投与させる
(実施例7.非常に低い用量(VLD)のグルカゴンは、インスリン処置した糖尿病患者における高い血中グルコースに対して使用され得る)
この実施例は、患者の血中グルコースレベルを上昇させるための、投与の特定の経路を介して患者に低用量のグルカゴンを適用することの有効性を示す。この実施例は、グルカゴンおよびグルコースの血液レベルを増加させるのに必要とされるグルカゴンのレベルを調べた臨床試験を記載する。下でより詳細に説明される通り、これらの結果は、本発明のいくつかの実施形態の方法が、インスリン誘発性低血糖を回避するために使用され得ることを示す。
【0161】
(A.0.8ng/kg/分〜4ng/kg/分のグルカゴン)
1型糖尿病を有する6人の患者を、夜間の滴定期間において、90〜120mg/dlの血中グルコースレベルに一晩安定化した。90〜120mg/dLのこの範囲における血中グルコースレベルの安定化を、一般的に0.65単位/時間〜1.4単位/時間の間で変動したインスリンの用量を使用して達成した。
【0162】
翌朝、これらの患者に、連続的注入ポンプによって、0.8〜4.0ng/kg/分の範囲でグルカゴンを皮下に投与した。(具体的な用量は、患者の常用量のインスリンにしたがって0.8ng/kg/分、1.6ng/kg/分、2.4ng/kg/分、3.2ng/kg/分および4.0ng/kg/分のグルカゴンであった)。この範囲内の各用量レベルを、2時間〜3時間で注入した。このより低い用量(0.8〜4.0ng/kg/分)のグルカゴンの下で、これらの患者のグルカゴンレベルまたはグルコースレベルにおける明白な一貫した傾向は、存在しなかった。
【0163】
(B.8ng/kg/分〜16ng/kg/分のグルカゴン)
患者の血中グルコースレベルを90mg/dlと120mg/dlとの間に維持した夜間の滴定期間を経験した後、6人の患者を、8〜16ng/kg/分の範囲でグルカゴンを投薬した。グルカゴンを、連続的注入ポンプによって皮下に投与した。投与された具体的な用量は、8ng/kg/分、12ng/kg/分および16ng/kg/分であった(各用量レベルを、3時間で注入した)。患者を、グルカゴンの投与前に、連続的な皮下のポンプ投与によって、インスリンの患者の標準的な基礎レベルに維持した。
【0164】
3人の患者において、12ng/kg/分のグルカゴンの9時間にわたる皮下注入は、100〜200pg/mlの範囲で6〜8時間持続した、増大した血漿グルカゴンレベルをもたらした(図8を参照のこと)。12ng/kg/分の用量でのピーク平均血漿レベルは、185pg/mlであった。これらの患者の血中グルコースレベルはまた、実質的に増大した(図9を参照のこと)。これは、持続性の、非常に低い用量のグルカゴンが、血中グルコースレベルを制御可能に増大させる所望の結果で、長時間にわたって患者に対して効率的に投与され得ることを明白に示した。
【0165】
2人の患者を、16ng/kg/分の皮下のグルカゴンによって、9時間処置した。両方の被験体において、16ng/kg/分での投薬は、ピーク血漿グルカゴンレベル12ng/kg/分の用量によって達成されたピーク血漿グルカゴンレベルより高いピーク血漿グルカゴンレベルを生じた(図8を参照のこと)。両方の被験体において、このピークレベルは、注入の最初の3時間の間に達成され、次いで12ng/kg/分の用量において認められたレベルまで減少する傾向にあった。16ng/kg/分の用量レベルにおいて、このピーク平均血漿レベルは、約254pg/mLであった。この注入の後半部分の間のグルカゴンレベルの低下にもかかわらず、グルコースレベルは、この注入の経過全体にわたって増大したままであった(図8〜図11を参照のこと)。16ng/kg/分の用量にて達成されたグルコースレベルは、一般的に、12ng/kg/分のより低い用量において達成されたグルコースレベルより高かった(図9を参照のこと)。
【0166】
上記の被験体を、一般的に、空腹時の評価期間全体を通して、インスリンの被験体の基礎の割合に維持した。投与したインスリンは、患者の間で、そして時間をかけて、1時間あたり0.5単位から1.8単位まで変動した。グルコースレベルは、早ければグルカゴン注入を開始した30分後に上昇し始めた。平均して、この上昇は、このグルカゴン注入全体を通して持続した。
【0167】
これらの結果は、非常に低い用量の連続的に投与したグルカゴンが、低血糖を経験しないインスリン処置した患者において、血中グルコースレベルを増加させるために使用され得ることを示した。
【0168】
これらのデータは、8〜16ng/kg/分の範囲にあるグルカゴンの用量の投与が約100〜200+pg/mLの範囲で血漿グルカゴンレベルの増加を生じること、およびこれらのレベルがかなりの期間にわたって維持され得ることを支持した。グルカゴンについての正常な参照範囲は、50〜150pg/mLである。当業者によって認識されるように、これらの結果は、グルカゴンの低く、連続的な投薬が、糖尿病患者において、血中グルコースレベルを増大させ得、したがってそれらの患者において低血糖を予防する手段を提供することを示す。これらの結果は、増大した血中グルコースレベルを誘導するのに必要とされるグルカゴンの量を示す。当業者は、より低いグルカゴン用量が他の患者において、低血糖を予防するために使用され得るが、8ng/kg/分の用量およびここで例示される、より高い用量が、低血糖を予防するのに有効であることを認識する。実際の最小量は、患者の間で変動し得、そして所定の本発明の開示、当業者は、この最小量は、特定の患者に対するものであることを容易に決定し得る。
【0169】
興味深いことに、12〜16ng/kg/分の量のVLDグルカゴンによって、本発明の実施例において達成されるレベルは、実験的に誘導した低血糖の状態に対する応答において非糖尿病患者で認められるレベルと同様である。
【0170】
以下の実施例は、これらの用量のグルカゴンがどのようにして、インスリンの負荷(challenge)(すなわち、そうでなければ患者において低血糖を誘導するインスリンの用量)が存在する場合でさえ、低血糖を予防し得るのかを示す
(実施例8.グルカゴンによるインスリン誘発性低血糖の予防)
この実施例は、インスリン誘発性低血糖(この実施例に関して、50mg/dlより低い血中グルコース)が、低用量の連続的に投与したグルカゴンによって予防される得ることを示す。この研究を、3つの診察(visit)において準備した。第1の診察は、任意のグルカゴンを供給せずに、この被験体に投与されるインスリンの量を増加させる工程を包含し;この被験体の血中グルコースレベルを、モニタリングした。この第1の研究は、これらの患者において低血糖を誘導するのに必要とされるインスリンの負荷を定義した。次の2つの診察において、2つの異なる用量のグルカゴンを、これらの患者に投与し、そしてこれらの患者の血中グルコースレベルをモニタリングして、グルカゴンが、そうでなければインスリンの負荷によって誘導された任意の低血糖を予防したか否か、またはそれを遅らせたか否かを決定した。したがって、第1の診察において測定したグルコースレベルと、後者の2つの診察において測定したグルコースレベルとを比較することによって、グルカゴンが低血糖を予防したか否かを決定し得る。
【0171】
第1の診察の間、各被験体の基礎インスリンの割合を、(90分間毎に50%の増加(例えば、1.0単位/時間の基礎の割合から、90分間について1時間あたり1.5単位まで、90分間について2.0まで、2.5まで)で)上向きに滴定して、低血糖(50gm/dl未満の血中グルコース)を誘導した。1人の患者についての結果を、四角で表される診察1と共に図12に示す。より低い集合の線は、被験体に投与したインスリンの増加または減少をトレースする。投与するインスリンを、12:30の後に、注入(および投与するグルコース)の基礎の割合に戻した;したがって、12:30の後のスパイクは、予想されるべきである。血糖値は、50mg/dLと350mg/dLとの間で変動し得た。50mg/dLより低いグルコースレベルを、低血糖を示すと見なした。
【0172】
診察2、および3の間に、被験体は、用量が、インスリン誘発性低血糖を防ぐか否か、または第1の外来患者において観察された低血糖の発症に対して、時間を遅らせるか否かを決定するために、種々の用量のグルカゴンの連続的な注入(午前7:00での開始、および午後4:00前後の終了)を受けた。グルコースレベルに対する作用の発生は、約60〜90分なので、グルカゴン注入を、インスリン注入を強める1時間前に開始した。
【0173】
2つの異なる用量(8ng/kg/分の用量(三角)および16ng/kg/分の用量(円))のグルカゴンを、調べた。血中グルコースレベルに対するこれらの低用量の連続的なグルカゴンの結果を、図12に示す。図12に示されるように、8ng/kg/分の用量のグルカゴン(三角)は、グルカゴンを投与しなかった試験と比較して、血中グルコースのより高いレベルを維持した。再び、コントロール線(グルカゴンなし、増加性のインスリンのみ、四角)は、12:30にて効率的に終了し;グラフ上のこの時点の後、インスリンを投与せず、したがって、比較は、7:00と12:30との間でなされるべきである。低血糖は、約2時間遅延した。
【0174】
図12に示されるように、16ng/kg/分の用量(円)は、実質的に、コントロールレベルを超え、そして8ng/kg/分(三角)のグルカゴン用量さえも超えて血中グルコースレベルを維持した。さらに、8ng/kg/分の用量が、低血糖を予防し、そして、50mg/dLを超える血中グルコースレベルを維持し得た一方で、16ng/kg/分の用量は、100mg/dLにより近い血中グルコースレベルを維持した。このことは、これらの範囲の両方の有用性、用量依存性を示す。
【0175】
このグラフのより低い部分(すなわち、図12において50mg/dlの線より下方に示される三角、四角、および円)におけるこれらの線は、この試験の時間にわたるインスリン注入における工程を表す。したがって、より下方の四角で示した線は、診察1の間のインスリンレベルを示し、そしてより下方の円で示した線およびより下方の三角で示した線は、それぞれ、診察3の間および2の間のインスリンレベルを示す。
【0176】
別の患者において、8ng/kg/分の用量の効果は、図12に示される効果ほど明白なものではなかった。したがって、この患者は、低血糖を予防するために、より高い用量または注入速度を必要とする。これは、16ng/kg/分の用量のデータによって示され、このデータは、第1の患者について図12に示されるものと同様の効果(すなわち、200mg/dlを上回って増大した血中グルコースレベル)を示した。
【0177】
上記の試験したグルカゴンレベルに加えて、より低いレベルのグルカゴンの有効性をまた、同様のプロトコールを使用して試験した。調べた別の患者において、上記の実験を、より低い用量(4.0ng/kg/分)のグルカゴンおよびわずかに低い上限のインスリン(インスリンの基礎の割合の1.5倍)を用いて繰り返した。これらの結果を、図13に示す。そのグラフにおいて認められ得るように、第1の診察(菱形)の間のBRIの増加が、より低い血中グルコースレベル(四角)を生じた一方で、第2の診察における4ng/kg/分のグルカゴンの投与(アスタリスク)は、インスリンレベルが増加した場合(円)でさえ、増大した血中グルコースレベル(「X」)を維持し、そして血中グルコースレベルの減少を遅らせるのに役立った。この患者において、4.0ng/kg/分のグルカゴンの存在は、低血糖を予防して発生させないのに十分であったが、そうでなければインスリンの上昇したレベルが、低血糖を誘導していた。
【0178】
低血糖を予防するために低用量のグルカゴンを投与することによる上記の同定された利点に加えて、皮下に投与したグルカゴンについて、この投薬スケジュールに対する長期の利点が存在するようである。血中グルコースレベルは、投与されるグルカゴンが中止された後でさえ増大したままであった(図12の午後4:00以降の部分を参照のこと)。したがって、グルカゴンの連続的な投与は、長期間の増大した血中グルコースレベルを維持するために必要とされない。
【0179】
上記の方法論は、特定の患者に投与するためのグルカゴンの適切な量を決定するために使用され得る。例えば、より大きい量のインスリン(例えば、1時間あたり2〜10単位、10〜20単位、20〜30単位またはそれ以上のインスリン)をこの様式において摂取する患者を試験する工程が使用されて、低血糖を予防するために、グルカゴンについての適切な投薬レジメンが決定され得る。上記の実施例において、インスリンの量を、1.5倍〜約2.5倍まで増加させる。1つの実施形態において、インスリンの量の増加に比例してグルカゴンの量を増加し、その後、新しいグルカゴン用量が、低血糖を予防するために補正されるか否かを(上記の方法論を介して)決定する。この様式において、特定の患者に対するグルカゴンの適切な投薬量を決定し得る。当業者は、この相関は100%比例的である必要がないこと、およびある程度の慣習的な実験が最終的な値を最適化するのに有用であり得ることを認識し得る。したがって、実際にどの程度頻繁にグルカゴンが投与される必要があるのかを理解するために、投薬スケジュールを決定する上記の実施例を使用し得る。いくつかの実施形態において、恒常的な投与以外に、グルカゴンは、99%〜90%、90%〜80%、80%〜60%、60%〜40%、40%〜20%、20%〜10%、10%〜1%またはそれ未満の時間だけ投与される。
【0180】
当業者によって認識されるように、投与の方法におけるバリエーション(例えば、パッチ、吸入、局所用クリーム、I.V.など)がまた、この方法論を使用して調べられ得る。さらに、当業者によって認識されるように、この方法論は、患者に対するグルカゴンの投与の適切なタイミングを決定するために改変され得る。例えば、このグルカゴンは、インスリンレベルが調整される1時間前に投与され得、そして90分以上に増加されても45分以下に減少されてもよい(例えば、グルコースの血液レベルの良好な制御が維持されるか否かを決定するために)。当業者によって理解されるように、投与の時間および投与の方法は、用量の必要条件に影響し得る。したがって、種々の添加剤の重要性をまた、上記の方法論によって調べ得る。
【0181】
(実施例9.低血糖の予防のためのVLDグルカゴンの量を決定する)
この実施例は、本発明の方法にしたがって投与されるグルカゴンが、所望の血中グルコースレベルの維持において所望の役割を果たすこと示すための臨床試験を記載する。この方法はまた、インスリン誘発性低血糖を予防するための特定の患者に対する投与について、インスリン対グルカゴンの最適な割合を決定する手段を提供する。
【0182】
被験体は、夕方に報告し、そして約1700時〜1800時に標準的な食事をとる.被験体に、炭水化物の計算に基づき、被験体のポンプによって被験体の常用量のインスリンをボーラスすることを指示する。2000時にて、別のポンプ(ポンプ2)を、腹部の対側において、インスリン注入と同じ速度で注入される生理食塩水を用いて開始する。2200時頃から、被験体は、絶食し、そしてCSIIによって、インスリンの被験体の通常の基礎用量にある。血漿グルコースを、夜間を通して毎時間(または必要な場合には、より頻繁に)、YSIを用いて確認する。この血漿グルコースを、基礎インスリンの速度の調整、そして必要な場合には、IV 5%デキストロースの使用(この血漿グルコースが90mg/dlを下回って減少する場合)およびIVインスリンの使用(被験体の血漿グルコースが160mg/dlを超えて増加する場合)によって、約100mg/dlと125mg/dlとの間に維持する。
【0183】
0700時から0800時まで、ベースラインの血液サンプルを、引き出し、血漿グルコースレベル、遊離脂肪酸レベル、ケトン体レベル、グルカゴンレベルおよびインスリンレベルについて試験した。0800時にて、被験体は、低血糖の制御を誘導するために、被験体のインスリンポンプ1によって被験体の通常の基礎用量のインスリンを2回受容する。アニマポンプ2によって、被験体は、腹部の反対側においてVLDグルカゴンを受容する。投与されるグルカゴンの用量を、これまでの研究に基づいて個別化する。選択した用量は、それぞれ個々の研究被験体において高血糖(>180mg/dl)を引き起こさない最も高い用量である。
【0184】
0800時から1200時まで、血液を、そしてYSI血漿グルコースを決定する。血液をまた、遊離脂肪酸レベル、ケトン体レベル、グルカゴンレベルおよびインスリンレベルを測定するために0800時から1200時まで15〜30分毎に引き出す。CSII(インスリン持続皮下注入法)を介して基礎用量よりもずっと高いインスリンを受容するにもかかわらず、これらの研究被験体の血漿グルコースレベルは、高い基礎用量のインスリンのグルコース低下効果を相殺するグルカゴンの同時持続皮下注入に起因して、低血糖のレベル(<60mg/dl)まで減少しない。この研究の間に、被験体の血漿グルコースが、減少し始め、そして一貫して90mg/dlを下回って低下する(この2つが連続して起きる)ことが見出される場合、連続的なグルカゴン注入の用量を、この血漿グルコースの低下に対抗するために、25%増やして滴定する。一方、この被験体の血漿グルコースが増加し始め、そして1時間で25%を超えて上昇する場合、グルカゴン注入の用量を、この血中グルコースの増加に対抗するために、25%減らして滴定する。したがって、この試験は、少量のグルカゴンとインスリンとの組み合わせがインスリン誘発性低血糖を予防し得ることを示す。このインスリンおよびこのグルカゴンの両方は、皮下に投与され得る。
【0185】
上記の方法論によって、種々の形態のグルカゴン処方物および投与の方法をまた、試験し得る。したがって、グルカゴンまたはグルカゴンの模倣物もしくは改変体、あるいはそれらの処方物のための送達の、最適なタイミングおよび様式を決定し得る。これらの方法を使用して、本明細書中に開示される方法および組成物に対する他の血糖降下物質および血糖上昇物質の適合性を試験し得る。
【0186】
(実施例10.夜間の低血糖を予防する)
この実施例は、例えば、グルカゴンの組成物、グルカゴン改変体の組成物、またはそれらの処方物が、ヒトにおいて平坦な(blunt)インスリン誘発性である夜間の低血糖を予防するのに有効であることを示すための1つの方法を示す。さらに、この実施例は、夜間の低血糖を予防するために、グルカゴンまたはグルカゴンの改変体もしくは処方物のいずれかの有効性を試験するための方法を提供する。
【0187】
標準化した夕食(1800時頃)の2時間後、被験体は、第1のポンプを介して夜間の低血糖の発症を誘導するために、被験体の標準用量の2倍のインスリンを受容する。2200hにて、被験体は、第2のポンプ(CSI)を介してグルカゴンの注入を受ける。その後、血中グルコースレベルを夜間を通してモニタリングする。適切な用量のグルカゴンは、血中グルコースレベルが低血糖のレベルまで減少することを妨げる。このグルカゴンおよびインスリンの両方は、皮下に投与され得る。
【0188】
(実施例11.低血糖の自覚の喪失を予防するために低用量のグルカゴンを投与する)
インスリンを摂取する被験体における低血糖の自覚の喪失を予防するために、5ng/kg/分以上〜約16ng/kg/分のグルカゴンを、血中グルコースレベルが望ましくない低血糖のレベル(例えば、50mg/dL未満)に入ることを妨げるように、被験体に対して皮下に投与する。投与される用量が十分であることを決定するために、血中グルコースレベルを、被験体のグルコースレベルが特定の点(例えば、50mg/dL未満)を下回って下落しないことを確保するために、試験期間の荷置ける種々の時点全体を通して測定し得る。このような検査をまた使用して、患者に投与するグルカゴンの用量を最適化し得る。グルカゴンの投与は、長期(すなわち、低用量のグルカゴンの予防的投与の間中)にわたり、患者は、低血糖を回避し、したがって、インスリンの長期の使用によって繰り返される低血糖のエピソードに起因する低血糖の無自覚を発症しない。
【0189】
(実施例12.低血糖の自覚を回復させるために低用量のグルカゴンを投与する)
低血糖の自覚の喪失に罹患する患者を、その患者が、その患者の血中グルコースレベルが70mg/dlの血中グルコースを下回って下落した場合を同定し得るか否かを決定するスクリーニングによって同定し得る。一旦同定されると、その後、血中グルコースレベルが、あるレベル(例えば、例えば、50mg/dL未満)に下降することを妨げるために、適切な用量のグルカゴンをこの被験体に対して皮下に投与し、1つの実施形態において、その用量は、8〜16ng/kg/分である。
【0190】
血中グルコースレベルを、被験体のグルコースレベルが、低血糖の程度まで下落しなかったことを決定するために、種々の時点全体を通して取得し得る。これらの測定値をまた、患者に投与するグルカゴンの量を最適化するために使用し得る。このグルカゴンの投与によって、この患者は、より少ない低血糖のエピソードを経験し、そしてこの患者の低血糖の自覚は、改善する。この患者の低血糖の自覚を、上に記載されるように、その患者が、その患者の血中グルコースレベルが特定の程度(例えば、70mg/dl)を下回る場合を同定し得るか否かを決定することによって試験する。
【0191】
種々の用量、種々の形態の処方物、および適用(投与)の種々の方法を、至適用量または処方物もしくはは投与の方法が低血糖の予防に最適であるか否かを決定するために、全て上の方法論を使用して試験し得る。
【0192】
(実施例13.[パッチおよび局所用クリームを含めて]糖尿病の制御および低血糖の予防のためのインスリンと経皮的なグルカゴンの同時投与)
治療薬の送達のための経皮パッチの使用は、ますます一般的になっている。パッチは、血流に、ある薬物を送達する非侵襲性かつ簡単な方法を提供する。ニコチンおよびホルモン補充療法は、おそらくこの技術の最もよく知られている使用である。経皮パッチによる薬物送達の特徴の1つは、送達の速度が通常一定であり、長い期間(パッチが着用される限り)持続するということである。この特徴は、長い期間の平坦なプロフィールが理想的である痛み管理(FENTANYL)およびニコチン補充療法の分野において、有益であることが判明している。この特徴により、経皮パッチは、インスリンまたはグルカゴンの基礎補充に適したものとなる。PCT特許公開第WO0243566号(参照により本明細書に組み込む)を参照のこと。
【0193】
速効性のパッチもまた、公知である。1時間よりかなり短い時間での血流へのタンパク質(特にインスリン)の経皮送達は、米国特許第5,707,641号(本明細書中に参考として援用される)に報告されている。同じ方式で、同様の処方物を使用して他のタンパク質を送達する能力もまた、詳述されている。したがって、グルカゴンを、このような方式で投与し得る。
【0194】
インスリンパッチの開発は、第二相試験が現在進行中であるカナダのHelix BioPharma、およびドイツのIDEAによって、現在進められている。IDEAの技術(TRANSFEROME(登録商標))は、表皮のバリアを通して、ペプチドなどの大きい分子を輸送することに関する。図6は、浸透の場合(より大きいかあるいはより小さい脂肪親和性の物質に対して、それぞれ、上と下の灰色の曲線)、またはTRANSFEROME(登録商標)介在性の浸透の場合(黒線および黒丸)の、経皮輸送の速度に対する分子量および脂肪親和性の影響を例示する。灰色の黒丸は、経皮パッチ中の市販薬に相当する。技術にかかわらず、経皮的に効率的にペプチドを輸送する能力は、証明され、また、切迫している。特に、インスリンとグルカゴンは両方とも、経皮的に送達され得、したがって、経皮パッチおよび同様のデバイスを使用して実施される本発明いくつかの実施形態を提供し得る。
【0195】
パッチの種々の可能な構造およびマトリックス(matrix)は、意図される使用の具体的な様式に従って選択される特定の型で利用され得る。例えば、2つの基本的な型のインスリンマトリックス(基礎インスリン補充のためのものと、食事時インスリン補充のためのもの)を使用され得る。グルカゴンパッチは、低血糖からの保護のための食後のグルカゴン、または基礎グルカゴン補充を提供するために処方できる。1つの実施形態において、本発明は、同じマトリックス内に一緒に、あるいは補助マトリックス(sub−matrix)内に別々に、これらの基本的な型の組み合わせを含むパッチマトリックスを使用して実施できる。
【0196】
したがって、以下のパッチマトリックスは、いくつかの実施形態の実施において有用であり得る:
・基礎インスリン補充のためのインスリンを含有するマトリックス;
・食事時インスリン補充のためのインスリンを含有するマトリックス;
・基礎グルカゴン補充のためのグルカゴンを含有するマトリックス;
・低血糖からの食後の保護のためのグルカゴンを含有するマトリックス;
・食事時インスリン補充のためのインスリンと低血糖からの食後の保護のためのグルカゴンを含有するマトリックス;
・インスリンとグルカゴン両方の基礎補充のためのインスリンおよびグルカゴンを含有するマトリックス;ならびに
・2つ以上の補助マトリックス(各補助マトリックスは、上記のマトリックスのうちの1つである)からなるマトリックス。
【0197】
パッチに代わるものとして、局所用クリームを使用され得る。
【0198】
食事時インスリンマトリックスについては、LISPRO(HUMALOG)、ASPART(NOVOLOG)、またはGLULISINE(APIDRA)などの短時間作用性のインスリンを使用し得る。食事時インスリンマトリックスは通常、その開始の速度に応じて、食事時刻に、あるいは食事時刻の前のある時間に適用される。パッチをほぼ食事時刻に適用するために、開始までの時間が最小限である食事時インスリンパッチを使用され得る。開始までの時間は、処方物のインスリン濃度および性質に依存する。例えば、インスリンの単純な湿式(wet)マトリックスは、米国特許第5,707,641号に従って処方されるインスリンパッチよりも開始が遅い。分子の大きさが、経皮パッチからのバイオアベイラビリティーに影響を与えるので、単量体のインスリンは、より速く作用し、より大きいクラスターのインスリン分子より容易に吸収される。
【0199】
食事時インスリンの送達を管理する多くの異なる方法を、利用し得る。例えば、異なる濃度のパッチを、一定の期間使用し得、患者によって選択される濃度は、摂取される炭水化物の量に依存する。パッチを着用する時間を、固定することもできる。パッチは、除去する時に必ずしも消耗されているというわけではない、すなわち、その使用の最初から最後まで一定の濃度を送達する可能性もある。別の実施例として、単一の濃度の食事時パッチを、以下の通りに使用することができる。パッチが着用される時間は、摂取される炭水化物の量に応じて変化する。パッチが除去する時に必ずしも消耗されているというわけではない。すなわち、その使用の最初から最後まで一定の濃度を送達する可能性もある。
【0200】
別の実施例として、一定用量のインスリンを含有する食事時パッチを用いることができる。自己消耗性のパッチの利点は、それを除去しなかったことが、それ自体で低血糖の危険を生じないことである。このようなパッチは、除去時には実質的に消耗されており、注入の速度は前倒しとなるであろう。1つの実施形態において、使用する食事時インスリンパッチは、可変的なインスリン濃度(摂取される炭水化物の量にふさわしい)を有し、非常に開始が速く(好ましくは即時、長くて1時間)、一定時間(好ましくは3時間と5時間の間から)の後で除去されるかあるいは不活性化され、食事時刻に(あるいは食事時刻の1時間前よりも遅い時刻に)活性化される。食事時グルカゴンパッチは、パッチに関する開始の速度に応じて、食事時刻に、あるいは食事後のある所定時刻に適用される。開始の速度は、使用するグルカゴンの濃度と、使用する処方物の性質の両方により決定される。例えば、グルカゴンの簡単な湿式マトリックスは、米国特許第5,707,641号に記載される技術に従って処方されるグルカゴンパッチよりも開始が遅いことが予測される。
【0201】
1つの実施形態において、グルカゴンの放出ピークが適用の2時間後と5時間後の間のある時間に到達されるように、グルカゴンパッチが構築される。このパッチは、食事時に適用される。このパッチ中のグルカゴンの量は、患者に送達するのに十分な量であり、その量は、皮下に投与されるグルカゴンからなる5ng/kg/分以上〜30ng/kg/分、およびさらにより好ましくは、皮下に投与されるグルカゴンからなる8ng/kg/分〜16ng/kg/分と等価である。
【0202】
多くの異なるパッチ構造を、使用し得る。これらとしては、以下が挙げられる:
・単一区画(compartment)内に単一のマトリックスまたは一連の補助マトリックスを含有するパッチ、
・2つ以上の別々の区画(各々が、独自のマトリックスまたは一連の補助マトリックスを含有する)を含有するパッチ(このパッチは、単回の単位として活性化または不活性化される)、ならびに
・2つ以上の別々かつ独立した区画(各々が、独自のマトリックスまたは一連の補助マトリックスを含有する)を含有するパッチ(各区画が独立に活性化または不活性化される)。
【0203】
他のパッチ構成を、使用し得、本発明の実施は、上記の構成に限定されない。
【0204】
(A.[パッチおよび局所用クリームを含めて]経皮的に投与されるインスリン)
(i)[パッチおよび局所用クリームを含めて]経皮的に投与されるインスリン、および皮下注射によって投与されるインスリン
この実施例において、食事時インスリンと食事時グルカゴンのみが、経皮パッチにより投与される。これは、以下を含めた種々の方法で達成できる:(i)混合されたグルカゴンとインスリンの単一のマトリックスの使用;(ii)2つの補助マトリックス(1つはインスリンを含有し、もう1つはグルカゴンを含有する)を備える単一の区画の使用;(iii)2つの区画(一方はインスリンを含有し、他方はグルカゴンを含有する)を含有する単一のパッチの使用(両区画が同時に活性化または不活性化される);ならびに(iv)2つの別々のパッチ(または単一のパッチ内の2つの区画)(一方はインスリンを含有し、他方はグルカゴンを含有する)の使用(各パッチまたは区画が独立に活性化または不活性化される)。基礎インスリンは、GLARGINEまたはULTRALENTEなどの長時間作用性のインスリンの皮下注射によって、実施例1.A.iに記載される通りに非経口的に送達される。1つの実施形態において、方法(i)が、使用される。所望の薬物動態を達成するために、異なるマトリックスが使用される場合、方法(ii)または(iii)を使用され得る。インスリン開始とグルカゴン開始のタイミングがずれる場合、方法(iv)を使用され得る。
【0205】
この例示例では、上の方法(ii)を使用する。使用者が、食事時(または好ましくは食事時刻の前1時間内)に食事時パッチを活性化させることによって、補助マトリックスが両方とも同時に活性化する。一定濃度のパッチが使用される場合、使用者は、摂取される炭水化物の量に比例する期間の後、パッチを除去する。可変的な濃度パッチが使用される場合、使用者は一定期間の後、通常、食事の1時間後と3時間後との間にパッチを除去する。1つの実施形態において、一定の濃度が使用される。このような実施形態において、投与されるグルカゴンの量を、投与されるインスリンの量と共に増大させることができる。
【0206】
(ii)[パッチおよび局所用クリームを含めて]経皮的に投与されるインスリン
この実施例では、インスリンとグルカゴンは両方とも、経皮的に投与される。2つの異なる型のパッチ(または独立に作動される区画)を、利用し得る。1つのパッチ(または区画)は、24時間の期間にわたって基礎インスリンを補充するように設計されたマトリックスを含有する。開始時間が、食事時刻(またはほぼ食事時刻)に食事時パッチを適用する(あるいは食事時区画を活性化する)のに適している別々の補助マトリックス中に食事時インスリンとグルカゴンの両方を含有する単一のパッチ(または区画)を、使用し得る。
【0207】
1つの実施形態において、4つの独立に作動可能な(actuable)区画を含有する単一デバイスを、使用する。1つは、基礎インスリンを含有し、適用する時に活性化され、24時間活性なままにされる。その他の3区画は、同じ区画内の別々の補助マトリックスに食事時インスリンおよびグルカゴンを含有し、各区画は、食事時に別々に活性化され、食事後ある時間に不活性化され、活性化時間は、摂取される炭水化物の量と比例する。
【0208】
食事を開始する時(または食事の最高1時間前までのある時間)に、患者は、[例えば、パッチと皮膚との間の密封プラスチックシールを引き離すことによって]これらの食事時区画の1つを活性化し、このプロセスによって、インスリンおよびグルカゴンの経皮注入が開始する。その後のある時間(摂取される炭水化物の量に正比例する期間)に、[例えば、区画を活性化するために使用されるバリアを置き換えることによって、あるいはパッチの端からその区画を完全に除去することによって]食事時区画は不活性化される。インスリン補助マトリックス中のインスリン処方物は、短時間作用性のインスリンであり、このパッチは、迅速な開始用に設計される。グルカゴン補助マトリックス中のグルカゴン処方物は、区画の活性化の1時間後と3時間後の間に血流中で効果的な濃度に到達するように設計されるので、実施例13.A.iに記載される通り、周期の適当な部分での、低血糖からの保護を提供する。
【0209】
代替的な実施形態において、1日につき3回以上の食事を考慮に入れる単一デバイスは、3つ以上の食事時区画を考慮に入れることによって、容易に考案できる。代替的な実施形態において、上に記載されるように、食事時薬物を、完全に別々の(独立に作動される)食事時パッチに含有させることが可能である。代替的な実施形態において、食事時パッチは、それぞれ独立に活性化および不活性化させ得るように、別々のインスリン区画およびグルカゴン区画からなり得る。
【0210】
インスリンとグルカゴンのための別々の独立に制御された区画を含有する単一デバイスは、7つの別々の区画を有することが可能であり、1つは基礎インスリン用、3つは食事時インスリン用、3つは食事時グルカゴン用である。基礎パッチは、基礎インスリンを補充する(24時間着用した後に交換する)ように設計されている。使用されるインスリンは、経皮送達に適した任意のインスリンであり得る。基礎インスリン区画はまた、各24時間の期間にわたって基礎グルカゴンを供給するために、十分な量のグルカゴンを(混合して、あるいは補助マトリックス中に)必要に応じて含有し得る。これは、1日を通して、特に睡眠中に、低血糖から保護するという有益効果を有する。
【0211】
上記パッチ中のグルカゴンの量は、患者に送達するのに十分な量であり、その量は、皮下に投与されるグルカゴンからなる5ng/kg/分以上〜30ng/kg/分(例えば、皮下に投与されるグルカゴンからなる6ng/kg/分以上〜20ng/kg/分、および別の例については、皮下に投与されるグルカゴンからなる8ng/kg/分〜16ng/kg/分)と等価である。より大きい量のグルカゴン、0単位以上〜3単位のインスリンが投与される場合に存在し得る。例えば、より大きい量のグルカゴンは、3単位〜20単位のインスリンが1時間で適用される場合に存在し得る。あるいは、同じ量のグルカゴンが、インスリンの量に関係なく存在する。
【0212】
(B.[経肺、口腔内、経鼻、および、舌下を含めて]吸入によって投与されるインスリン)
この実施例では、インスリンを、上に記載されるような吸入により送達する。吸入を(非経口的に送達される基礎)食事時インスリン送達の用途のみで使用し得るか、またはすべてのインスリンを、吸入により送達し得る。患者は、吸入によって、(1つまたは複数の操作で)、この患者の食事に適した量のインスリンを投与する。この患者は、必要に応じて、食事の後、この患者のインスリンを必要に応じて増大し得る。
【0213】
グルカゴンを、実施例13.A.iに記載されるパッチにより投与する。パッチ(または単一パッチにおける一連のグルカゴン区画)を、皮膚に付着させ、パッチまたは(副区画)を、食事時間に活性化させる。グルカゴンは、2時間後に効果的な量で体内に存在しさえすればよいので、パッチを、開始が遅くなるように設計する。パッチは、4時間着用した後除去されるが、体内に残存するグルカゴンは、2〜5時間の必要な期間にわたって低血糖からの保護を提供するために十分である。
【0214】
1つの実施形態において、本明細書中に記載される通り、パッチ中のグルカゴンは、長時間作用性のグルカゴン(例えばヨウ化グルカゴン)である。改変されたグルカゴンによってもたらされる保護は、2〜5時間の必要な期間にわたって依然として確実に提供されるが、ここでは、パッチを、いくつかの実施形態において、より短い時間着用すればよい。
【0215】
別の実施形態において、使用者は、経皮パッチと同様に作用する経皮クリームによって、グルカゴンを適用し得る(皮下に投与されるグルカゴンからなる少なくとも約8ng/kg/分〜16ng/kg/分と等価な量を、このクリームによって投与し得る)。このようなクリームの処方は、パッチ内で使用される処方物と異なり得るが、本質的に同じ機能を果たし得る。グルカゴンをこのように投与する場合、皮膚上で乾燥した、またバイオアベイラビリティーの減少したグルカゴンの供給を防ぐため、リポソームまたはTRANSFEROME(登録商標)内にグルカゴンを封入することが有利であり得る。
【0216】
(C.非経口的に投与されるインスリン)
実施例1.A.iに従って、患者のインスリン必要量を、非経口投与により満たす。グルカゴンを、実施例13.A.iに記載される通りのパッチによって投与する。パッチ(または単一パッチ内の一連のグルカゴン区画)を皮膚に付着させ、これらのパッチまたは(副区画)を、食事時に活性化させる。グルカゴンは、2時間後に効果的な量で体内に存在しさえすればよいので、パッチを、開始が遅くなるように設計する。パッチは、4時間着用した後除去されるが、体内に残存するグルカゴンは、2〜5時間の必要な期間にわたって低血糖からの保護を提供するのに十分である。
【0217】
1つの実施形態において、本明細書中に記載される通り、パッチ内のグルカゴンは、長時間作用性のグルカゴン(例えばヨウ化グルカゴン)である。改変されたグルカゴンによってもたらされる保護は、2〜5時間の必要な期間にわたって依然として確実に提供されるが、ここでは、パッチを、より短い時間着用すればよい。
【0218】
代替的な実施形態において、使用者は、経皮パッチと同様に作用する経皮クリームによって、グルカゴンを適用し得る。このようなクリームの処方は、パッチ内で使用される処方物と異なり得るが、本質的に同じ機能を果たす。グルカゴンをこのように投与する場合、グルカゴンが皮膚上で乾燥しないように、またバイオアベイラビリティーを低下させないように、リポソームまたはTRANSFEROME(登録商標)内にグルカゴンを封入することが有利であり得る。
【0219】
(D.ポンプによって投与されるインスリン)
この実施例において、患者のインスリン必要量を、実施例2に記載される通りのポンプにより投与する。グルカゴンを、実施例13.A.iに記載される通りのパッチにより投与する。パッチ(または単一パッチ内の一連のグルカゴン区画)を、皮膚に付着させ、これらのパッチまたは(副区画)を、食事時に活性化させる。グルカゴンは、2時間後に効果的な量で体内に存在しさえすればよいので、パッチを、開始が遅くなるように設計する。パッチは、4時間着用した後除去されるが、体内に残存するグルカゴンは、2〜5時間の必要な期間にわたって低血糖からの保護を提供するのに十分である。
【0220】
1つの実施形態において、本明細書中に記載される通り、パッチ内のグルカゴンは、長時間作用性のグルカゴン(例えばヨウ化グルカゴン)である。改変されたグルカゴンによってもたらされる保護は、2〜5時間の必要な期間にわたって依然として確実に提供されるが、ここでは、パッチを、より短い時間着用すればよい。
【0221】
代替的な実施形態において、使用者は、経皮パッチと同様に作用する経皮クリームによって、グルカゴンを適用し得る。このようなクリームの処方は、パッチ内で使用される処方物と異なり得るが、本質的に同じ機能を果たす。グルカゴンがこのように投与される場合、グルカゴンが皮膚上で乾燥しないように、またバイオアベイラビリティーを低下させないように、リポソームまたはTRANSFEROME(登録商標)内にグルカゴンを封入することが有利であり得る。
【0222】
(実施例14)
([経肺、口腔内、経鼻、および舌下を含めて]糖尿病の制御および低血糖の予防のための、インスリンと吸入によるグルカゴンの同時投与)
多くのドライパウダー吸入技術は、現在開発中であり、以下のものが含まれる:AradigmのAERx(登録商標)、Inhale TherapeuticsのExubera(登録商標)、AlkermesおよびEli LillyのAIR、Insulin Technosphers(Mannkind/PDC)、ならびにAerogenおよびDisetronicのAerodose。肺胞(そこで血流に吸収されることができる)にインスリンを送達するための方法およびデバイスは、米国特許第5,997,848号、同第6,131,567号、同第6,024,090号、同第5,970,973号、同第5,672,581号、同第5,660,166号、同第5,404,871号、および同第5,450,336号に記載されている。エアロゾル巨大分子送達を可能にするために克服されなければならなかった主な問題点は以下の通りであった:低いシステム効率(バイオアベイラビリティー);低い薬物質量/吸入(喘息を比較参照せよ);および不十分な投薬再現性。
【0223】
1つの関連する因子は、効率(バイオアベイラビリティー)である。バイオアベイラビリティーは、第一に、投与される薬物の性質よりむしろエアロゾル粒度に依存する(大抵の既存のシステムは、投与される薬物のうちの10%〜20%を肺胞に送達するに過ぎない)。送達される薬物が実際に肺胞に到達した場合、そのバイオアベイラビリティーは、問題となる薬物とはほとんど無関係に、非常に高い。インスリンを送達することに関係する技術的問題(および解決法)は、グルカゴンを送達することについてのそれらと同様であるので、インスリンの送達を可能にする解決法は、グルカゴンのような同じようなサイズの巨大分子に、直接適用できる。1つの実施形態は、インスリンとグルカゴンを混合することにより調製される乾いた粉末状の処方物を提供する。インスリンを送達するための吸入器の使用は、主として、食事時目的での迅速なインスリンを供給することを目的とする。長時間作用性のインスリンを、所望される場合、吸入によって送達し得る。
【0224】
いくつかの実施形態は、以下を含めた多くの方法で、吸入器を使用して実施され得る:別々の吸入器内のインスリンおよびグルカゴンを用いて;1つの吸入器内の一定の比で混合したインスリンとグルカゴンを用いて;インスリンとグルカゴンが別々に投与されるデュアルチャンバー吸入器を用いて;インスリンとグルカゴンが同時に投与されるデュアルチャンバー吸入器を用いて。食事時吸入器は通常、急速作用性インスリンを含有するので、基礎インスリンの送達については(インスリンポンプが)不適当である。食事時インスリンと基礎インスリンの両方が吸入により送達されるべきである場合、別々のポンプまたはチャンバーを提供し得る。
【0225】
(A.[経肺、口腔内、経鼻、および舌下を含めて]吸入によって投与されるインスリン)
仮想的な患者は、ULTRALENTEを用いて、就寝時刻に投与される20単位の投薬レベルで、皮下注射によって基礎インスリンを投与する。あるいは、この患者は、吸入によって、同じ薬物を(20単位という1日のバイオアベイラビリティーを提供することとなる用量で)投与することを選択し得る。この患者が日中何度も、例えば、就寝時刻に加えて食事時刻に吸入器によって、基礎用量を投与することはまた、有益であり得るか、または望まれ得る。皮下送達と比較した場合、インスリンが有意な血清濃度を達成するまでにわずかな遅延(約20分)があるので、使用者は、食事をする約20分前に、食事時インスリン所要量を投与する。この患者は、定量吸入器によって、25単位と50単位との間のインスリン(バイオアベイラビリティー約20%と想定)を投与することによって、これを行う。
【0226】
吸入器は、用量変更可能であってもよく(米国特許第5,970,973号、同第5,672,581号、同第5,660,166号、同第5,404,871号、および同第5,450,336号を参照)、各操作の際に予め設定された一定の用量を送達する、現在使用されている喘息用デバイスと同様であってもよい。どちらの型が使用されても、多回の操作でインスリンを投与することが、望まれ得る。そうすることにより、患者は、食事開始後のある時点で用量を「補給する」ことによって、この患者の食事の予想量ではなく、この患者が実際に摂取する炭水化物の量に応じて吸入を調整し得る。さらに、吸入投与は、操作によって変化する傾向があり、多回の操作による送達は、平均化または平滑化効果を有するので、インスリンを投与するために使用する操作が多いほど、それに対応する用量信頼性(再現性)が良好になる。
【0227】
食事の2時間後と5時間後との間に起こる、吸入されるインスリンの使用に関連する低血糖を予防するために、グルカゴン吸入器を用いて、食事の2時間後と5時間後の間に、5ng/kg/分以上〜16ng/kg/分の吸入によって投与されるグルカゴンのs.c.用量当量のグルカゴンを投与する。1つの実施形態において、各タイプのインスリンための異なる吸入器およびグルカゴンのための異なる吸入器を、使用する。1つの実施形態において、(食事時インスリン、グルカゴン、および/または必要に応じて基礎インスリン用の)少なくとも2つの薬物チャンバーを備える、独立した操作の可能な単一の吸入器を使用する。
【0228】
(B.非経口的に投与されるインスリン)
実施例1.A.1に従って、患者は、基礎および食事時インスリンを非経口的に投与する。LISPROインスリンの使用に関連する低血糖の危険は通常、食事の2時間後と5時間後の間に起こるので、グルカゴン吸入器を用いて、食事後2時間と5時間の間に、6ng/kg/分〜16ng/kg/分(すなわち、6ng/kg/分〜16ng/kg/分の皮下に投与されるグルカゴンによる血中グルコースに対する効果と、同じ効果を得る吸入による量)s.c.用量当量のグルカゴンを投与する。あるいは、遅延開始性の、長時間作用持続性の改変されたグルカゴン(例えばヨウ化グルカゴン)を、グルカゴン吸入器内に使用し、食事時インスリンと共に食事時に投与する。
【0229】
(C.ポンプにより投与されるインスリン)
実施例2.Aに従って、基礎および食事時インスリンを、ポンプによって送達する。低血糖の危険は2時間後から3時間後に起こるので、患者は、食事の2時間後に吸入器によってグルカゴンを投与する。この患者は、2時間、3時間、および4時間の時点で定量吸入器から1パフ(puff)を投与し、それによって、感受性な期間中の保護を提供する。1操作あたりの用量は、5ng/kg/分以上〜16ng/kg/分の量のs.c.用量当量に相当する。あるいは、遅延開始性の、長時間作用持続性の改変されたグルカゴン(例えばヨウ化グルカゴン)を、グルカゴン吸入器内に使用し、食事時インスリンと共に食事時に投与する。
【0230】
(D.[パッチおよび局所用クリームを含めて]経皮的に投与されるインスリン)
実施例3.A.iiに従って、患者は、経皮パッチによって、あるいは局所用クリームによって、インスリン(基礎と食事時の両方)を投与する。低血糖の危険は2時間後から3時間後に起こるので、患者は、食事の2時間後に吸入器によって、グルカゴンを投与する。この患者は、2時間、3時間、および4時間の時点で定量吸入器から1パフを投与し、それによって、感受性な期間中の保護が提供される。1操作あたりの用量は、5ng/kg/分以上〜16ng/kg/分のグルカゴンの量のs.c.用量当量に相当する。あるいは、遅延開始性の、長時間作用持続性の改変されたグルカゴン(例えばヨウ化グルカゴン)を、グルカゴン吸入器内に使用し、食事時インスリンと共に食事時に投与する。
【0231】
(実施例15.糖尿病の制御および低血糖の予防のための、混合された非経口的なグルカゴンとインスリンの同時投与)
実施例1では、インスリンとグルカゴンは、非経口的に別々に投与された。本発明の1つの実施形態において、2つの薬物は、混合された形で同時に投与される。インスリンとグルカゴンは、どちらの生成物も、あるとしてもほとんど相互作用も劣化もせずに混合できる。糖尿病にかかっていない人では、炭水化物の食事の後、インスリン放出の増加後に、それに付随してグルカゴン放出が増加すること(実際には炭水化物の摂取の後、腸により誘発された血糖の初期の上昇によるグルカゴン放出の初期の低下後の放出の回復)が通常分かっている。インスリン産生のあとにグルカゴン産生が続くこのパターンは、比較的に決まった関係を呈する。
【0232】
(5ng/kg/分以上〜30ng/kg/分のs.c.用量当量で食事の2時間後と5時間後との間の低血糖を予防することが)望まれる場合、グルカゴンが必要な期間にわたって保護を提供することを確実にするため、それが必要な濃度で存在するように、混合物内のグルカゴン成分の量を増大され得る。あるいは、遅延開始性のグルカゴン処方物を使用され得る。1つの実施形態において、グルカゴンの処方物は、遅延放出性かつ持続放出性である[例えば、2から3時間遅延し、約3時間以上にわたって放出する]。例えば、本明細書中で考察される処方物のいずれかが、使用され得る。
【0233】
この実施例では、半減期を増大するヨウ素化法(米国特許第3,897,551号に記載される通り;I3G形を参照のこと)を使用する。LISPROインスリンおよびI3グルカゴン改変されたグルカゴンが混合物中のインスリンの重量に対して約1.5%で存在する(1mlあたりのインスリン濃度を本発明者らのにおいて一定に保つ)ように、LISPROインスリンとが混合される。改変されたグルカゴンのより長い持続効果のため、インスリンに対するグルカゴンの(重量による)割合は、より小さいことが必要である。
【0234】
仮想的な患者は、その後、標準の方法で、食事時に5単位と10単位(そこに含有されるインスリンに関して測定)の間のインスリン−グルカゴン処方物を投与する。そうすることで、この患者は5ng/kg/分以上〜16ng/kg/分のs.c.用量当量の改変されたグルカゴンを投与する。改変されたグルカゴンのより長い作用を考えると、これは、実施例1.Aに記載されるのと同じ保護を提供する(改変されたグルカゴンは、標準のグルカゴンと比較して、グルコースレベルに対して例えば二倍の効果を有すると想定)。このように投与されるグルカゴンは、必要とされる2時間と5時間の間で連続的に有効である。
【0235】
(実施例16:糖尿病の制御および低血糖の予防のための、[パッチおよび局所クリームを含めて]混合された経皮的なグルカゴンとインスリンの同時投与)
この実施例では、インスリンおよびグルカゴンの両方は、経皮送達により投与される。食事時インスリンとグルカゴンは、同じマトリックスまたはクリーム内に混合される。2つの異なる型のパッチ(または独立に作動される区画)を、使用できる。一方のパッチ(または区画)は、24時間にわたって基礎インスリンを補充するように設計されたマトリックスを含有することとなる。このパッチは、5ng/kg/分から20ng/kg/分までのs.c.用量当量のグルカゴンを患者に送達するような量のグルカゴンを含み得る。他方のパッチ(または独立に制御された区画)は、実施例3.A.iに記載されたように機能し、単一のマトリックス内の食事時グルカゴンおよびインスリンを提供する。パッチを作動させると、インスリンは非常に急速に有効な血漿レベルに到達するのに対し、グルカゴンは2〜3時間後に有効なレベルにようやく到達するように、グルカゴンとインスリンの開始時間を合わせる。パッチは、食事時に、好ましくは食事の最高1時間前に適用される。
【0236】
1つの実施形態において、4つの独立に操作可能な区画(1つは、基礎インスリンを含有し、適用する時に活性化され、24時間活性なままにされ、その他の3つの区画は、同じマトリックス内に食事時インスリンとグルカゴンを含有し、各区画は、別々に食事時刻(またはほぼ食事時刻)に活性化され、食事後のある時間に不活性化され、活性化の時間は、摂取される炭水化物の量に比例する)を含有する単一デバイスが使用される。食事を開始する時(または食事の最高1時間前まで)に、患者は、(例えば、パッチと皮膚との間の密封プラスチックシールを引き離すことによって)これらの食事時区画の1つを活性化し、このプロセスによって、混合されたインスリンとグルカゴンの経皮注入が開始する。その後のある時間(摂取される炭水化物の量に正比例する期間)に、(例えば、区画を活性化するために使用されるバリアを置き換えることによって、あるいはパッチの端からその区画を完全に除去することによって)食事時区画は不活性化される。
【0237】
食事時区画中の合わされたインスリンとグルカゴンの処方物は、短時間作用性のインスリンを含有し、このパッチは、インスリンの迅速な開始のために設計される。グルカゴン成分は、成分の活性化後1時間と3時間の間に、血流内中で有効な濃度に到達するように設計されているので、周期の適当な部分での低血糖からの保護を提供する。
【0238】
代替的な実施形態において、1日につき3回以上の食事を考慮に入れ、3つ以上の食事時区画を含有する単一デバイスを使用され得る。基礎パッチは、基礎インスリンを補充するように設計されている(24時間着用した後に交換する)。使用されるインスリンは、経皮送達に適したどんなインスリンであってもよい。使用されるインスリンの寿命が比較的長いことによって、パッチの寿命の間のインスリン吸収の変動が最小限になるので、短時間作用性のインスリンよりも中間の持続時間インスリンを使用する方が、好都合である可能性がある。基礎インスリン区画はまた、各24時間の期間にわたって基礎グルカゴンを供給するために、(混合された)十分な量のグルカゴンを必要に応じて含有し得る。これは、1日を通して、特に睡眠中に、低血糖から保護するという有益効果を有する。
【0239】
(実施例17.糖尿病の制御および低血糖の予防のための、[経肺、口腔内、経鼻、および舌下送達を含めて]吸入による、混合されたインスリンとグルカゴンの同時投与)
本発明の実施形態は、インスリンと混合されたグルカゴンの、吸入による送達のための方法および薬学的組成物を提供する。この実施例では、長時間作用性のグルカゴン(例えば、米国特許第3,897,551号(例えば、I2Gまたはプロタミン亜鉛グルカゴン)に記載される通りのヨウ化グルカゴンなどを、LISPROインスリンと混合し、代表的なインスリン吸入器(例えば特許米国特許第5,970,973に開示される通りのもの)によって送達する。基礎インスリンは、実施例1Aに記載される通り、皮下注射によって標準の方法で送達してもよいし、吸入器によって送達してもよい。基礎グルカゴン補充を提供するために、グルカゴンを、必要に応じて持続放出製剤のこの処方中に必要に応じて含み得る。
【0240】
使用されるインスリン粉末は、改変されたグルカゴンの含量が、1単位〜3単位の使用されるインスリンについて5ng/kg/分以上〜20ng/kg/分、および好ましくは8ng/kg/分〜16ng/kg/分の間のs.c.用量当量であるように、改変されたグルカゴンと混合される。より大きい比例的な量のグルカゴンは、より大きい量のインスリンが使用される場合に使用され得る(しかし、グルカゴンの量は、使用されるインスリンの量に関係なく一定のままであり得る)。この量は、この特定の実施形態に対するこれまでの実施例のけっかに照らして、必要な場合に調製され得る。患者は、食事時に、組み合わされたインスリンとグルカゴンを投与し、5単位と10単位の間に等しい全身性(systemic)インスリンを提供する。
【0241】
本発明を、具体的な実施形態に関して詳述してきたが、あとに続く特許請求の範囲に示す通り、当業者であれは、改変形態および改良形態も、本発明の範囲および趣旨内にあることが分かるであろう。本明細書に引用されるすべての刊行物および特許文献を、(このような刊行物または文書が、参照によって本明細書に組み込まれることを、それぞれ個々に示されるかのごとく)参照により本明細書に組み込む。刊行物および特許文献の引用は、このようないずれの文書も、関連する従来技術であるということを承認する意図ではなく、その内容または日付に関していかなる承認も与えない。本明細書中に提供される定義は、列挙される参考文献または他に見出される定義を支配する。本発明は、ここまで明細書および実施例によって本発明を記述してきたが、当業者であれば、本発明は、種々の実施形態で実施することができ、前述の説明および実施例が、説明のためのものであり、以下の特許請求の範囲を限定するものではないことを認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】図1は、レギュラーインスリンと中時間作用する(LenteまたはNPH)インスリンの混合物の理想的な薬物動態を例示するグラフである。
【図2】図2は、実施例1、Part A(i)に記載される通りの、食事時(prandial)LISPRO(HUMALOG)インスリン注射に相当するピークにより中断される、非常に単純で平坦な線のグラフ(GLARGINE(LANTUS)によって与えられる基礎レベル)を示す、仮想的な患者のインスリンプロフィールを例示するグラフである。
【図3】図3は、実施例2に記載される実施形態の実施のために設定される薬物送達ポンプの概略図である。
【図4】図4は、実施例2に記載される実施形態の実施のために設定される薬物送達ポンプの概略図である。
【図5】図5は、実施例2に記載される実施形態の実施のために設定される薬物送達ポンプの概略図である。
【図6】図6は、浸透の場合(より大きいかあるいはより小さい脂肪親和性の物質に対して、それぞれ、上と下の灰色の曲線)、またはTRANSFEROME(登録商標)が介在する浸透の場合(黒線および黒丸)の、経皮輸送の速度に対する分子量および脂肪親和性の影響を例示する図である。点状の黒丸は、経皮パッチの市販薬に相当する。
【図7】図7は、グルカゴンおよびインスリンが、混合された処方物で投与される場合に対応するピーク(食事時インスリンおよびグルカゴン注入に相当する)により中断される、両方の薬物についての非常に単純で平坦な線グラフ(基礎インスリンおよびグルカゴン注入)を示す、実施例3に記載される通りの仮想的な患者のインスリンおよびグルカゴンプロフィールを例示するグラフである。
【図8】図8は、実施例7に記載される通りの、平均グルカゴンレベルに対する連続的なグルカゴン注入の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例7に記載される通りの平均グルコースレベルに対する連続的なグルカゴン注入の効果を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例7に記載される通りの、平均グルコースレベルおよび平均グルカゴンレベルに対する、12ng/kg/分での連続的なグルカゴン注入の効果を比較するグラフである。
【図11】図11は、実施例7に記載される通りの、平均グルコースレベルおよび平均グルカゴンレベルに対する、16ng/kg/分での連続的なグルカゴン注入の効果を比較するグラフである。
【図12】図12は、増加性のインスリンレベル(約1単位〜約2.7単位)に対する、種々のグルカゴン(0ng/kg/分、8ng/kg/分、および16ng/kg/分のグルカゴン)の効果を比較するグラフである。このグラフは、実施例8に記載される通り、低用量のグルカゴンがインスリン誘発性低血糖を予防し得ることを示す。
【図13】図13は、実施例8に記載される通り、血糖値に対する低用量のグルカゴンの効果を示し、そしてそれがどのように低血糖を予防し得るのかを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的処方物であって、以下:
糖尿病の制御に有効な量のインスリン;および
ヒトまたは他の哺乳動物における低血糖の予防に有効な量のグルカゴン、
を含み、該薬学的処方物が、皮下に投与されるように構成され、そしてインスリン 対 グルカゴンの割合が、約1単位のインスリン 対 40ミリ単位以上〜200ミリ単位との間のグルカゴンである、薬学的処方物。
【請求項2】
グルカゴンの前記量は、約50ミリ単位と100ミリ単位との間である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記グルカゴンは、グルカゴンの長時間作用性形態である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記グルカゴンの長時間作用性形態は、ヨウ素を含む、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記グルカゴンの長時間作用性形態は、亜鉛を含む、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記グルカゴンの長時間作用性形態は、プロタミンをさらに含む、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
ヒトまたは他の哺乳動物において低血糖を誘導せずに糖尿病を処置する方法であって、該方法は、以下:
糖尿病の制御のために治療的に有効な量でインスリンを投与する工程であって、該インスリンが、インスリンの0.5単位と20単位との間の量のインスリンである、工程;ならびに
低血糖の予防のために治療的に有効な時間および量でグルカゴンを投与する工程であって、該グルカゴンが、皮下に投与され、そして投与されるグルカゴンの量が、1分間につき患者1kgあたり、5ng以上と100ng以下との間の所望のグルカゴンの有効性である、工程、
を包含する、方法。
【請求項8】
投与されるグルカゴンの前記量は、1分間につき患者1kgあたり、6ngと18ng未満との間の所望のグルカゴンの有効性である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グルカゴンは、作用の長い持続時間を有するグルカゴンである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記グルカゴンは、リポソーム処方物中に含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記グルカゴンは、マイクロスフェア中に含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
インスリンおよびグルカゴンの両方を含む処方物を投与する工程を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記インスリンおよびグルカゴンは、患者に対する薬物の投与を制御するポンプ中に含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記グルカゴンは、インスリンと同時に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
グルカゴン 対 インスリンの割合は、約40ミリ単位以上〜200ミリ単位のグルカゴン 対 1単位のインスリンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
2単位のインスリンが、投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
10単位のインスリンが、投与され、そして1分間につき患者1kgあたり、30ngと90ngとの間のグルカゴンが、皮下に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
低血糖を予防する量のグルカゴンおよびインスリンの投与のためのキットであって、該キットは、以下:
グルカゴン;
インスリンであって、該グルカゴンおよびインスリンが、1単位〜20単位のインスリン 対 32ミリ単位〜480ミリ単位のグルカゴンの割合である、インスリン;
皮下にグルカゴンを投与する手段;および
該グルカゴンが低血糖の事象を予防するようにインスリンおよびグルカゴンを投与するための説明書、
を備える、キット。
【請求項19】
グリセリン溶液中に完全に溶解されたグルカゴンの濃度は、1ミリリットルあたり500マイクログラムを超えるが、1ミリリットルあたり2000マイクログラム未満である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記グルカゴンおよびインスリンは、1単位〜3単位のインスリン 対 32ミリ単位〜96ミリ単位のグルカゴンの割合である、請求項18に記載のキット。
【請求項21】
皮下にグルカゴンを投与するための前記手段は、ポンプであり、そして該ポンプは、約6ng/kg/分〜20ng/kg/分の間のグルカゴンを送達するように構成される、請求項18に記載のキット。
【請求項22】
糖尿病の処置のための医薬の調製におけるインスリンと組み合わせたグルカゴンの使用であって、グルカゴンが、低血糖の発症を予防するのに十分な量で使用され、グルカゴン対インスリンの割合が、40マイクログラム以上と500マイクログラム未満のグルカゴン 対 1単位〜20単位のインスリンである、使用。
【請求項23】
前記量は、無自覚性低血糖の発症を予防するのに十分である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
インスリンの量は、1単位と20単位との間であり、そしてグルカゴンの量は、41ミリ単位と200ミリ単位との間である、請求項22および請求項23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
グルカゴンに対するインスリンの前記割合は1単位と3単位との間であり、グルカゴンの量は、40ミリ単位以上と約96ミリ単位以下との間である、請求項22および請求項23のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
前記グルカゴンは、プロタミンをさらに含む、請求項22〜25のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−505087(P2008−505087A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519344(P2007−519344)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/022812
【国際公開番号】WO2006/004696
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(505236654)ディオベックス, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】