説明

インターコネクタ用銅線の焼鈍方法

【課題】平角の断面形状を有する細長い線に成形された銅線の焼鈍処理において、加熱時間を短くしても、0.2%耐力の低減効果を奏するインターコネクタ用の銅線の焼鈍方法を提供する。
【解決手段】平角の断面形状を有する細長い線に成形された銅線を650℃以上1020℃以下かつ0.3秒以上5秒以下の条件で通電加熱又は誘導加熱することで、インターコネクタ用の銅線を焼鈍する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池のセルを接続するインターコネクタに用いられる銅線の焼鈍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュール10は、シリコンセル11とシリコンセル11を接続するインターコネクタ12とからなる(図4参照)。インターコネクタ12は、はんだメッキされた平角線条の導体である。
【0003】
インターコネクタ12は、はんだメッキを介して太陽電池のシリコンセル11と接続する。しかし、インターコネクタ12とシリコンセル11とは、熱膨張率が異なるため、はんだ接合時の熱影響により、熱膨張率の小さいシリコンセルに曲げ応力が発生し、シリコンセルに反りや破損が生じてしまうという問題がある。
【0004】
この問題を回避するために、インターコネクタの0.2%耐力を低減することが求められている。0.2%体力とは、機械的特性の一つの指標であり、インターコネクタの0.2%耐力が小さいほどシリコンセルの反りが低減する。
【0005】
従来、インターコネクタ12は、導体をダイス加工処理又はロール加工処理した後にスリット加工し、平角の断面形状を有する薄く細長い線条に成形し、得られた線条の導体に加熱処理とはんだメッキ処理を行って製造されている。
【0006】
スリット加工後の導体の加熱処理は、ダイス加工、ロール加工又はスリット加工によって、平角の断面形状を有する細長い線条に成形された導体内部のひずみを取り除き、組織を軟化するために行われるものであって、焼鈍処理として知られている手段である。
【0007】
特許文献1〜4には、平角の断面形状を有する細長い線条に成形された導体の0.2%耐力を大幅に低減するため、加熱処理として間接加熱方式を用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
特許文献1:特開2009−16593号公報
特許文献2:特開2009−27096号公報
特許文献3:特開2009−280898号公報
特許文献4:特開2010−141050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、平角の断面形状を有する細長い線条に成形された導体の0.2%耐力を大幅に低減するため、従来、間接加熱方式の加熱手段が用いられている。間接加熱を用いる理由は、特許文献4に記載されるように、間接加熱方式のほうが、導体に熱エネルギーを十分に与えることができるため、導体そのものを発熱体とする通電加熱又は誘導加熱のような直接加熱方式より有利であると考えられていたためである。
【0010】
また、一般的に、導体の0.2%耐力を低減するため加熱処理工程において、加熱処理に要する時間は短いほうが望ましい。
加熱時間に関し、特許文献4は、加熱時間を5秒から60秒とすることを開示する。加熱時間を短くする場合には、短時間に導体に十分な熱エネルギーを与えるために、加熱温度を高くすることが当然に考えられる。しかし、特許文献4には、加熱温度を高くしても、加熱時間が短いと、0.2%耐力の低減効果が十分でないことが記載されており、30秒以上の加熱時間が好ましいことが示されている。
【0011】
以上のことを鑑み、本発明は、加熱時間が短く、かつ、導体の0.2%耐力を低減できる焼鈍方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、銅線を650℃以上1020℃以下かつ0.3秒以上5秒以下の条件で通電加熱又は誘導加熱することを特徴とする、インターコネクタ用銅線の焼鈍方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の焼鈍方法により、加熱時間を大幅に短縮することができる。また、従来の焼鈍方法を具現化する装置においては、熱で柔らかくなったインターコネクタ用銅線を、加熱処理時間にわたって保持する手段を必要としていたが、本発明の方法を具現化するための装置においては、加熱時間が短いため、保持手段を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】通電加熱による本発明の焼鈍方法を示す概略図である。
【図2】誘導加熱による本発明の焼鈍方法を示す概略図である。
【図3】リングトランスタイプの誘導加熱による本発明の焼鈍方法示す概略図である。
【図4】太陽電池モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
本実施形態は、650℃以上1020℃以下かつ0.3秒以上5秒以下の条件で銅線を通電加熱又は誘導加熱する、インターコネクタ用銅線の焼鈍方法である。
【0017】
銅は、太陽電池の発電ロスを軽減するために、体積抵抗が小さい材料が望ましく、銅の種類として、高純度銅(純度99.9999%以上)、無酸素銅、リン脱酸銅又はタフピッチ銅のいずれを用いてもよいが、0.2%耐力を小さくするためには高純度銅が好ましい。
【0018】
銅材は、ダイス加工又はロール加工により平角状の断面を有する板に成形した後、スリット加工により、様々な幅の銅線に成形される。
【0019】
銅線は、通電加熱又は誘導加熱により、銅線の加熱温度を650℃以上1020℃以下、0.3秒以上5秒以下の条件で焼鈍処理される。銅線の焼鈍処理条件は、前記条件範囲内であれば、加熱温度が低い場合には、加熱時間を長くし、加熱温度が高い場合には、加熱時間を短くしてもよい。
なお、焼鈍処理は、銅の酸化を防止するために、窒素や希ガスから選ばれる不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0020】
焼鈍処理の加熱温度又は加熱時間のいずれかを上記条件の範囲外にするとインターコネクタの0.2%耐力が80MPa以上となり、メッキ処理を施すと0.2%耐力がさらに上昇し、100MPaを超えることになるため、実用上好ましくない。また、焼鈍処理の加熱温度又は加熱時間のいずれかが上記範囲外になると、靭性の指標の1つである伸び値が25%以下に低下するので実用上好ましくない。
たとえば、加熱温度が600℃の場合、0.2%耐力値は、80MPa以上になってしまう。1020℃の場合、加熱時間が5秒を超えると、伸び値が急速に低減する。
【0021】
加熱時間が5秒を超えると銅線の加熱領域が長くなるため、タワミ等により銅線の変形が発生しやすく、品質管理が難しくなるだけでなく、加熱処理時間短縮の観点からも好ましくない。
【0022】
焼鈍処理後のインターコネクタ用の銅線は、溶融はんだ浴を通し、表面にはんだメッキを行って、太陽電池用インターコネクタとする。
【0023】
通電加熱による焼鈍処理を行うための装置の具体例を図1〜図3に示す。
図1は、銅線に通電して焼鈍処理を行う装置の概略図である。以下、本発明において、外部トランスタイプの通電加熱装置という。
銅線Lの送り通路入口側及び出口側には、補助ロール1と導電性ロール2とが銅線Lを挟んで対向して配置されている。導電性ロール2には、低周波電極3及びトランス4が接続されており、導電性ロール2を介して通電され、銅線Lが加熱される。
加熱時間は、銅線Lの送り通路入口側から出口側までの距離と銅線Lの移動速度とにより制御される。加熱温度は、トランス4からの出力電流、出力電圧のいずれか又は双方により制御される。
【0024】
図2は、誘導加熱を利用した焼鈍処理装置の概略図である。
銅線Lは、加熱コイル5の内部を貫通し、銅線Lの送り通路入口側及び出口側で、補助ロール1と導電性ロール2とに挟まれて配置されている。加熱コイル5には、高周波電源6が接続されており、電磁誘導作用によって、加熱コイル5内では、銅線Lに渦電流が誘起され、銅線Lは発熱し加熱される。
加熱時間は、加熱コイル5の幅Wと銅線Lの移動速度とによって、制御される。加熱温度は、高周波電源6からの出力電流、出力電圧のいずれか又は双方により制御される。
【0025】
図3は、リングトランスタイプの誘導加熱を利用した焼鈍処理装置の概略図である。
銅線Lの送り通路入口側及び出口側には、補助ロール1と導電性ロール2とが銅線Lを挟んで対向して配置され、銅線Lの送り通路入口側と出口側との間には、低周波電源3を接続したリングトランス7が配置され、2つの導電性ロール2は、導電線8で接続されてショートしている。銅線Lに誘起された電圧により、導電性ロール2及び銅電線8を通して銅線Lに通電される。
加熱時間は、銅線Lの送り通路入口側から出口側までの距離と銅線Lの移動速度とにより制御される。加熱温度は、低周波電源3からの出力電流、出力電圧のいずれか又は双方により制御される。
【0026】
なお、図1〜図3において、銅線Lを1本だけで用いた例を用いて説明したが、一度に複数本の銅線を焼鈍処理の対象としてもよい。
【実施例】
【0027】
外部トランスタイプの通電加熱装置を用い、断面サイズ(0.2mm(厚み)×2mm(幅))の銅線を以下の条件で焼鈍処理を行った。
加熱温度600℃、加熱時間0.5、3及び5秒(参考例1〜3)、
加熱温度650℃、加熱時間0.5、3及び5秒(実施例1〜3)、
加熱温度800℃、加熱時間0.5、3及び5秒(実施例4〜6)、
加熱温度900℃、加熱時間0.5、3及び5秒(実施例7〜9)、
加熱温度1000℃、加熱時間0.3、3及び5秒(実施例10〜12)、
加熱温度1020℃、加熱時間0.3、3及び5秒(実施例13〜15)、
加熱温度1020℃、加熱時間10秒(参考例4)。
【0028】
なお、加熱時間が5秒を超える条件の焼鈍処理では、無酸素銅にたわみが発生し、変形が生じたため、インターコネクタの品質を維持することが困難であった。
【0029】
焼鈍処理後の無酸素銅とインターコネクタの0.2%耐力をJIS−Z−2241に従って測定した。また、インターコネクタの伸び値をJIS−Z−2201に従って測定した。それぞれの測定結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
加熱温度が650℃より低い参考例1〜3のインターコネクタの0.2%耐力は、いずれも、80Mpaを超えていたが、実施例1〜15においては、80Mpa未満であった。実施例1〜15においては、加熱処理温度が高いほど、また、処理時間が長いほど0.2%耐力が低くなる傾向にあった。
【0032】
焼鈍処理後の無酸素銅の0.2%耐力も、インターコネクタ同様、加熱処理温度が高いほど、また、処理時間が長いほど0.2%耐力が低くなる傾向にあった。
【0033】
伸び値は、実施例1〜15、参考例1〜3のいずれも25%を超えていた。
【0034】
実施例1〜15から、650℃以上1020℃以下の条件で通電加熱する焼鈍により、これまでの間接加熱で必要とされていた30秒以上の加熱時間を大幅に短縮することが可能であり、加熱時間が0.3秒以上5秒以下の範囲であれば、0.2%耐力にも悪影響を与えることがないため、優れた太陽電池用のインターコネクタを得ることが可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0035】
L:銅線
1:補助ロール
2:導電性ロール
3:低周波電源
4:トランス
5:加熱コイル
6:高周波電源
7:リングトランス
8:導電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅線を650℃以上1020℃以下かつ0.3秒以上5秒以下の条件で通電加熱又は誘導加熱する、インターコネクタ用銅線の焼鈍方法。
【請求項2】
前記通電加熱又は誘導加熱が不活性ガス雰囲気下で行われる、請求項1記載のインターコネクタ用銅線の焼鈍方法。
【請求項3】
前記銅線が、タフピッチ銅、無酸素銅、リン脱酸銅又は高純度銅から形成される平角の断面形状を有するものである、請求項1又は2記載のインターコネクタ用銅線の焼鈍方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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