説明

インダクタおよびその製造方法

【課題】 高温のリフローはんだ付けを行っても、その際の昇温によって磁性体コアの内部のコア部材間の接合部において接着強度の低下が生じない、信頼性の高いインダクタおよびその製造方法を得る。
【解決手段】 インダクタが複数の磁性体コア部材を接着剤によって互いに接合してなる磁性体コアにより構成される場合に、前記磁性体コア部材の各接合面の面粗さを、最大高さ粗さ(Rz)が8μm以上、十点平均粗さ(Rzjis)が4.5μm以上、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が70μm以下、算術平均粗さ(Ra)が0.4μm以上、二乗平方根粗さ(Rq)が2μm以下となるように規定する。この表面粗さを実現するために、焼結上がりの各磁性体コア部材の接合面に対してメッシュサイズが#100ないし#600の粒状研磨剤もしくはそれを含む研磨紙によって表面処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報機器、携帯端末機器、電源装置などの電子機器に好適に使用されるインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トランス、チョークコイルなどのインダクタは、フェライトや金属薄板の積層体からなる磁性体コア、導体による巻線、前記巻線に接続された端子、前記巻線もしくは前記端子を支持する構造部材などから構成されている。前記磁性体コアには、プレート型磁性体コアとポット型磁性体コアを接合したもの、E型磁性体コアとI型磁性体コアを接合したもの、2個のE型磁性体コア同士を接合したもの、あるいはドラム型磁性体コアとリング型磁性体コアを接合したものなど、様々な形状がある。
【0003】
このうちE型磁性体コアとI型磁性体コアを接合した場合の従来のインダクタの組立図の例を図5に示す。図5において、E字型の形状を有するE型コア部材51の中央部には巻線52が配置され、I字型の形状を有するI型コア部材53と接合固定される。前記巻線やその端子、磁性体コアを支持する構造部材については省略している。
【0004】
前記インダクタを構成する2つの磁性体コア部材を、互いに接合固定する方法の例について図6に示す。図6(a)は、特許文献1に示された組立方法の例について示す横断面図であり、コイル62が巻回された金属薄板の積層体であるコア61の周囲を、熱収縮性チューブもしくは熱硬化性テープ63にて覆い、これによりコア61を固定している。特許文献1におけるコアは、複数の金属薄板を互いに積層してなる構成であるが、コア部分の固定方法としては、図5に示したE型とI型の2種類の形状のコアを組み合わせた場合にもそのまま適用可能である。また、特許文献1は、トランスを発明の対象としたものであるが、コアの固定方法に関してはその他のインダクタにおいても技術的に特段の違いはない。
【0005】
また、図6(b)は特許文献2に示された組立方法の例について示す横断面図であり、E型磁性体64とI型磁性体65とを金属製の支持金具67によって固定しており、E型磁性体64の内部にはコイル66が巻回されている。特許文献2では、E型磁性体64とI型磁性体65との間に弾性部材が挿入されていて、それにより支持金具67による締め付け力の調整を図っている。なお、特許文献2もトランスを発明の対象としたものであるが、特許文献1と同様にコアの固定方法に関してはその他のインダクタにおいても技術的に特段の違いはない。
【0006】
さらに、図6(c)は特許文献3に示された組立方法の例について示す横断面図であり、E型コア68とI型コア69は樹脂フィラーおよび接着剤を含むペースト71により互いに接続固定されている。E型コア68の内部にはコイル70が巻回されており、ペースト71は磁石粉末を含むものでも、含まないものでもよい。ペースト71が磁石粉末を含む場合には磁性体ヨークの一部として、磁石粉末を含まない場合は磁性コアのギャップとして作用する。後者の場合にはペースト71の厚さを規定することでギャップの間隔を調整することができ、コアの磁気特性を精密に制御することができる。
【0007】
【特許文献1】特開平11−111531号公報
【特許文献2】特開平11−135332号公報
【特許文献3】特開2005−19176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、インダクタ等を構成するコアの従来の固定方法には以下の問題があった。まず、図6(a)、図6(b)に示す方法においては、用いられるコア部材の外側に熱収縮性チューブや熱硬化性テープ、および金属製の支持金具が設置されるためにインダクタ全体の外形寸法が大きくなってしまい、小型化に適さないという問題点があった。また、図6(c)に示す方法の場合は、形成されたインダクタを実際に回路基板に実装するためのリフローはんだ付け工程において、前記のペーストによるコアの接合箇所の接合強度が低下するという問題点があった。
【0009】
従来の回路基板のはんだ付け接合においては、鉛含有はんだが用いられていたが、近年は電気製品に対する環境配慮が要求されており、それに伴い製品の電子回路には鉛を含有しない、鉛フリーはんだを用いることが求められている。しかし、鉛フリーはんだは従来のはんだに比べて融点が数十℃高いために、リフローはんだ付けにおける昇温温度も従来よりも上昇させる必要がある。このため、従来のはんだ付けリフロー工程で接着剤による接合箇所に問題がない場合でも、新しいリフロー工程の実施後はその接着強度が低下するという問題が起きる可能性がある。図6(c)に示すインダクタのコアの接着においても、この接着力の低下が生じる懸念があり、その対策が求められていた。
【0010】
従って、本発明の目的は、インダクタの構造中に外形寸法の増大を招くような構成要素を設けずに、インダクタを回路基板に実装する工程において、リフローはんだ付け工程における昇温温度の上限が上昇しても磁性体コアを構成する複数の磁性体コア部材間で十分な接着強度を保つことのできる、信頼性の高いインダクタおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、発明者は本発明のインダクタにおいて、磁性体コアを構成する各コア部材の接着面の表面積を増加させることにより接着強度を高めることができることを見出した。接着面の凹凸を大きくすると同時に凹凸の繰り返し間隔を狭めることにより接着面における表面積は増加する。このことからコア部材の製造工程において、焼結上がりの状態でのコア部材の接合予定面に表面処理を実施して表面粗さを増大させることで、接着剤による接合後のインダクタの接合強度を向上させることができ、これによりインダクタの耐熱温度を向上させて鉛フリーはんだによるリフローはんだ付け工程に対応させることができる。
【0012】
前記コア部材の接合面の表面粗さの範囲を規定するには凹凸の大きさ(高さ)に相当する最大高さ粗さ(Rz)と、粗さ曲線の平均長さ(RSm)(前記凹凸の凸部の繰り返し間隔に相当する)の範囲を定めればよいが、その他に算術平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rzjis)、二乗平方根粗さ(Rq)の範囲を定めることで、表面粗さのばらつきが偏りを持たないための条件を設定できる。なおこれら5項目のパラメータは、日本工業規格(JIS)B0601:2001において製品の表面性状を規定する数値として定められたものである。
【0013】
また、各コア部材同士の接合のための接着剤の塗布方法、および上記接着強度の向上に適したインダクタのコア部材の材質についても規定する。
【0014】
即ち、本発明のインダクタは、接合面を有する複数の磁性体コア部材の前記接合面どうしを互いに対向させて接合することで閉磁路を構成する1組の磁性体コアと、前記磁性体コアに配置される巻線から構成されるインダクタにおいて、前記複数の磁性体コア部材が有する各接合面の面粗さとして、最大高さ粗さが8μm以上、十点平均粗さが4.5μm以上、粗さ曲線要素の平均長さが70μm以下、算術平均粗さが0.4μm以上、二乗平方根粗さが2μm以下であって、前記互いに対向した各接合面間の接合が、接着剤によりなされていることを特徴とするインダクタである。
【0015】
また、本発明のインダクタは、前記接着剤が、前記互いに対向する接合面、および各接合面の近傍に塗布されて接合されてなることを特徴とするインダクタである。
【0016】
さらに、本発明のインダクタは、前記接合面を有する複数の磁性体コア部材のうちの1個以上が、Ni−Znフェライト系磁性材料により形成されていることを特徴とするインダクタである。
【0017】
さらに、本発明のインダクタは、互いに組み合わされることで1組の磁性体を構成する複数の磁性体コア部材に対して、前記磁性体コア部材が各々有している接合面に、メッシュサイズが#100ないし#600の研磨粒子からなる粒状研磨剤、もしくは前記研磨粒子を含む研磨紙のいずれかを用いて表面処理を実施し、前記各接合面の面粗さを、最大高さ粗さが8μm以上、十点平均粗さが4.5μm以上、粗さ曲線要素の平均長さが70μm以下、算術平均粗さが0.4μm以上、二乗平方根粗さが2μm以下となし、前記1組の磁性体コア部材の間に巻線を配置し、各磁性体コア部材の前記面粗さを有する接合面どうしを互いに対向させ、接着剤により接合することで磁性体コアに閉磁路を構成することを特徴とするインダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、インダクタを構成する各磁性コア部材間の接合面の面粗さを規定することにより、その接着剤による接合強度を高めることができる。そのため、前記インダクタを回路基板に実装する工程において、従来よりも高いはんだ付け温度が要求される鉛フリーはんだによるリフローはんだ付けを実施しても十分な接着強度を保つことができる。このように、構造中に外形寸法の増大を招く構成材料を持たず、信頼性の高いインダクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態によるインダクタについて、表および図に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明のインダクタの分解斜視図であり、ポット型磁性体コアとプレート型磁性体コアを接合した場合の例について図示したものである。この例において、インダクタはポット型磁性体コア1、プレート型磁性体コア2、巻線3および金属製の部材である端子4a、4bにより構成されている。前記端子4aは固定部5と巻線端の保持部6a、6bから構成され、固定部5は前記プレート型磁性体コア2に固定されている。さらに巻線3の巻線端部3a、3bは、先端がコの字型に形成されている巻線端の保持部6a、6bによりかしめられ、はんだ付け処理により接続固定されている。ここで、ポット型磁性体コア1およびプレート型磁性体コア2はフェライト系磁性材料からなり、接合面1a、1bおよび接合面2aは表面処理されて接着剤による接合に好適な表面に加工されている。
【0021】
図2は図1に示されるポット型磁性体コアとプレート型磁性体コアの例において、表面処理を実施する領域の説明図である。図2においてハッチングにて示した接合面1a、1b、2aの領域に表面処理を施す。この表面処理は少なくとも接着剤により接合される箇所に施されていればよく、加工の容易さに応じて、表面処理を行う箇所を設定すればよい。図2の場合では、ポット型磁性体コア1の中足部と外足部の接合面と、プレート型磁性体コア2の内側の全面に表面処理を施している。
【0022】
図3および表1は、磁性体コアに実際に表面処理を施した実施例と表面処理のない従来例の試料を作製し、各々に接着剤を塗布して乾燥硬化させた後に鉛フリーリフローはんだ付けの昇温条件と同等の昇温処理を実施して、その表面粗さと接着力について比較した結果である。比較した条件は、表面粗さに関しては、最大高さ粗さ(Rz)、十点平均粗さ(Rzjis)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)、算術平均粗さ(Ra)、二乗平方根粗さ(Rq)の5項目であり、これら試料に対して破壊試験を実施して引っ張り強度を測定した。上記の引っ張り強度は、磁性体コアの接合面に対する接着剤の塗布の方法によって影響を受けることが判明しており、互いに対向する接合面のみならず各接合面の近傍にも塗布を行っている場合には経験的に特に大きくなる。この理由は定量的には未解明である。しかし、引っ張り応力による破断の開始点は、一般に、この側面部に最初に発生すると予想されるので、接合面の側面部が接着剤に覆われた構成となることで、この破断の開始点が発生しにくくなるなどの理由が考えられる。
【0023】
【表1】

【0024】
図4は表面処理を施した場合の磁性体コアの表面の断面について示す説明図であり、図4(a)〜図4(d)における曲線の長さは、接合面の表面積に対応している。コア部材の接合面において、粗さ曲線の平均長さ(RSm)が短いほど、また最大高さ粗さ(Rz)が大きいほどこの曲線は長くなり、接着の条件が良好となることを示している。図4(d)の条件の場合が最も優れている(○印を付記)が、図4(b)、図4(c)に示した条件(△印を付記)においても表面粗さが比較的大きくなるために使用可能である。図4(a)の場合(×印を付記)は表面処理を行わない従来の場合に相当し、この条件の磁性体コアは接着強度が低いために使用できない。
【0025】
図4をもとに好適な表面処理の条件について考察する。#100による表面処理の場合は、表1から粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の改善効果が見られるだけではなく、算術平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rzjis)の値が向上しており、表面の凹凸の繰り返し間隔と凹凸の深さの両方が向上していることになる。つまり、表面処理なしの場合を図4(a)とすると、図4(b)および図4(c)の場合の中間の状態になったと考えられる。一方#600による表面処理の場合は粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の値のみが著しく向上し、その他の算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)、十点平均粗さ(Rzjis)の値はいずれも表面処理なしの場合よりも低下している。これは図4(c)の場合に相当していると考えられる。これらはいずれも図4(d)に相当する理想的な状態ではないが、引っ張り強度に関しては十分な向上が見られ、これらの表面処理がインダクタを構成するコアの接合強度を高める上で有効であると判断される。
【0026】
以上の接合強度の改善効果は、表面処理に用いたメッシュサイズが#100もしくは#600の場合のみに現れるのではなく、両者のメッシュサイズの中間の場合にも同様の効果が得られるものと考えられる。中間のメッシュサイズによる処理では、上記4項目のパラメータは両者の中間の値となると考えられ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)については#100の場合よりも優れるとともに、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)、十点平均粗さ(Rzjis)については表面処理なしの場合よりも若干増大するか、もしくは#600の場合ほどの低下が生じない結果になると考えられる。また、引っ張り強度については、図3における#100および#600の結果に違いがあまり見られないことから、両者とほぼ同等の値となると推定される。
【0027】
以上の結果をもとに、接合面の表面粗さを定める前記の各パラメータの範囲を規定すると、最大高さ粗さ(Rz)が8μm以上、十点平均粗さ(Rzjis)が4.5μm以上、算術平均粗さ(Ra)が0.4μm以上、そして粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が70μm以下の条件の場合に、前記磁性体コアの接合面での接合強度が十分となると考えられる。しかし、これらの条件のみでは接合面の表面における凹凸が大きいほど好適と言えるが、実際には、凹凸が極端に大きい場合には磁性体コアの接合面での互いの噛み合わせが確保できないという不具合が発生する。このため表面の起伏の激しさを規定するパラメータである二乗平方根粗さを用いて、接合面にて噛み合わせの不具合が発生しない範囲を規定すると、二乗平方根粗さ(Rq)が2μm以下であることが必要である。
【0028】
また、上記磁性体コアの接合面に対する接着剤の供給の方法もその接合強度に影響を与える。接着剤は各磁性体コア部材の接合面に供給するだけではなく、その近傍の領域にも併せて供給することで、接合強度がより高まることが判明している。この場合には、特に接合強度のばらつきが小さくなるという効果がある。接着剤の供給方法は、対象領域に熱硬化型の接着剤をスプレー方式にて塗布する方法が適しており、接着剤の供給後に各磁性体コア部材を熱硬化温度まで昇温することで接着剤の硬化を完了する。この方法により、その後のリフローはんだ付けにおいても接合部の接着強度が低下しない、信頼性の高いインダクタを作製することが可能である。
【0029】
以上記したインダクタ用の磁性体コア部材の接着剤による接合は、材質がNi−Znフェライトの場合に好適に実施できることが望ましい。Ni−Znフェライトは特に高周波特性に優れているためにそれを用いたインダクタは小型化が可能であり、そのため回路基板に実装されてリフローはんだ付けを受ける部材として多く用いられるためである。また本発明による解決手段は磁性体コア部材間の接合領域の表面積を増加させることであるため、使用する接着剤の種類に依らず実施することが可能である。そのため一般的な熱硬化性接着剤を使用した場合には常に良好な接着強度を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0031】
表1に示すように、試料として合計9組のインダクタ用磁性体コアの部材を用意した。各コア部材は図1に示す形状のポット型磁性体コアおよびプレート型磁性体コアで、両者を組み合わせて磁性体コアを構成する。各コア部材はNi−Znフェライトを焼結して成形固化したものである。これら試料を3組ずつ3種類に分け、それぞれの接合面に対して下記の処理を実施した。
【0032】
表1に示した試料1〜3は、各コア部材の接合面をメッシュサイズが#600の研磨紙によって研磨し乾式の表面処理を行ったもの、試料4〜6は同様にメッシュサイズが#100の研磨紙によって接合面を研磨したもの、試料7〜9は焼結後の各コア部材の接合面に対して何の加工も行っていない、焼結上がりの状態のものである。各試料についてその表面粗さを規定する、最大高さ粗さ(Rz)、十点平均粗さ(Rzjis)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)、算術平均粗さ(Ra)、二乗平方根粗さ(Rq)の5項目のパラメータを測定した。#600および#100による表面処理を実施した試料は、表面処理なしの場合に比べて粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が短くなり、接着条件が向上していることが分かる。特に、より細かい研磨粒子を用いた場合である#600による処理の場合は、3試料の平均で41.3μmとなっており、改善が著しい。
【0033】
一方、最大高さ粗さ(Rz)は、表面処理なしの場合の平均が13.55μmであったが、#100による処理の場合には、この値の平均は12.93μmと若干であるが低くなっている。これは、表面処理によって突出した凸の領域が研削されたためと推定される。しかし、算術平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rzjis)の値は、#100による表面処理の場合にはいずれも増大しており、メッシュの粗い表面処理を施した時には表面の凹凸の平均的な大きさ(深さ)は増大することが分かる。一方、メッシュの細かい#600による処理の場合には、最大高さ粗さ(Rz)、算術平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rzjis)の値はいずれも小さくなっている。
【0034】
これら3種類の表面状態の試料を実際に接着剤により接合し、鉛フリーはんだによるリフローはんだ付けに相当する昇温を行った後に、各試料について引っ張り強度試験を実施した結果を示したグラフが図3である。このグラフから#100および#600による表面処理の場合は、いずれも表面処理なしの場合に比べて接合強度が約50%向上していることが分かる。また、#100による表面処理の場合は、#600の場合よりも引っ張り強度のばらつきが若干改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のインダクタの分解斜視図。
【図2】本発明のインダクタの磁性体コアにおける表面処理を行う箇所に関する説明図。
【図3】本発明のインダクタの実施例に関して、表面処理の方法と、接合した各磁性体コア間の引っ張り強度との関係のグラフ。
【図4】本発明の実施例において磁性体コアの表面処理を行う場合の表面の断面を示す説明図。図中のRSmは粗さ曲線の平均長さ、Rzjisは十点平均粗さを表す。4(a)は粗さ曲線の平均長さが長くてかつ十点平均粗さが小さい場合、図4(b)は粗さ曲線の平均長さが長くて十点平均粗さが大きい場合、図4(c)は粗さ曲線の平均長さが短くて十点平均粗さが小さい場合、図4(d)は粗さ曲線の平均長さが短くて十点平均粗さが大きい場合を示す図。
【図5】E型磁性体コアとI型磁性体コアを接合した従来のインダクタの組立図の例を示す図。
【図6】図5に示すインダクタを構成する2つの磁性体コア部材を互いに接合固定する方法の例を示す図。図6(a)は特許文献1の例による磁性体コア部材の横断面図、図6(b)は特許文献2の例による磁性体コア部材の横断面図、図6(c)は特許文献3の例による磁性体コア部材の横断面図。
【符号の説明】
【0036】
1 ポット型磁性体コア
2 プレート型磁性体コア
1a,1b,2a 接合面
3 巻線
3a,3b 巻線端部
4a,4b 端子
5 固定部
6a,6b 巻線端の保持部
51 E型コア部材
52 巻線
53 I型コア部材
61 コア
62 コイル
63 熱収縮性チューブもしくは熱硬化性テープ
64 E型磁性体
65 I型磁性体
66 コイル
67 支持金具
68 E型コア
69 I型コア
70 コイル
71 ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合面を有する複数の磁性体コア部材の前記接合面どうしを互いに対向させて接合することで閉磁路を構成する1組の磁性体コアと、前記磁性体コアに配置される巻線から構成されるインダクタにおいて、
前記複数の磁性体コア部材が有する各接合面の面粗さとして、
最大高さ粗さが8μm以上、十点平均粗さが4.5μm以上、粗さ曲線要素の平均長さが70μm以下、算術平均粗さが0.4μm以上、二乗平方根粗さが2μm以下であって、
前記互いに対向した各接合面間の接合が、接着剤によりなされていることを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記接着剤が、前記互いに対向する接合面、および各接合面の近傍に塗布されて接合されてなることを特徴とする請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記接合面を有する複数の磁性体コア部材のうちの1個以上が、Ni−Znフェライト系磁性材料により形成されていることを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項4】
互いに組み合わされることで1組の磁性体を構成する複数の磁性体コア部材に対して、
前記磁性体コア部材が各々有している接合面に、メッシュサイズが#100ないし#600の研磨粒子からなる粒状研磨剤、もしくは前記研磨粒子を含む研磨紙のいずれかを用いて表面処理を実施し、
前記各接合面の面粗さを、最大高さ粗さが8μm以上、十点平均粗さが4.5μm以上、粗さ曲線要素の平均長さが70μm以下、算術平均粗さが0.4μm以上、二乗平方根粗さが2μm以下となし、
前記1組の磁性体コア部材の間に巻線を配置し、各磁性体コア部材の前記面粗さを有する接合面どうしを互いに対向させ、接着剤により接合することで磁性体コアに閉磁路を構成することを特徴とするインダクタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate