説明

インデン誘導体の製造方法

【課題】5,6位置換インデンを製造する過程において生成する構造異性体を効率的に分離することで、目的の5,6位置換インデンを高純度かつ高効率的製造方法の提供。
【解決手段】式(I)で表されるインデン誘導体の製造方法であって、


式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を前記式(I)で表されるインデン誘導体に変換する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5,6位に置換基を有するインデン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インデン誘導体はメタロセン錯体の配位子あるいはその中間体、単独重合や共重合のモノマー、医農薬原料あるいはその中間体として有用である。
【0003】
インデン誘導体を製造する方法は種々知られており、例えば、ベンゼン誘導体をインダノンへ変換し、さらにヒドラゾンへ誘導後、脱プロトン化を経て製造する方法(特許文献1)がある。
【0004】
この製造方法の中間体であるインダノンは、一般的にベンゼン誘導体と酸ハロゲン化物とのフリーデルクラフツ反応によるアシル化後、環化反応による方法やフェニルプロピオン酸誘導体を酸ハロゲン化物に変換後、環化反応による方法により製造される(非特許文献1)。かかる方法で5,6位置換インダノンを製造する場合、環化工程において、下記式のように、反応生成物は、構造異性体との混合物として得られる。

【0005】
一方、非特許文献2には、5,6位置換インダノンとその構造異性体との混合物を、そのままチオセミカルバゾンへ誘導することが記載されているが、5,6位置換体の分離には成功していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−005062号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Heterocyclic Chem., 24, 677(1987)
【非特許文献2】Eur. J. Medicinal chem., 43.1767(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる現状において、本発明の解決すべき課題、即ち本発明の目的は、5,6位置換インデンを製造する過程において生成する構造異性体を効率的に分離することで、目的の5,6位置換インデンを高効率で得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、5,6位置換インデンの新規製造方法を発見した。すなわち、本発明は、下記工程(1)〜(4)を含む下記式(I)で表される5,6位置換インデンの製造方法にかかるものである。


(式中、RおよびRは、同一または相異なり、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、または、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を示す。R、RおよびRは、同一または相異なり、水素原子、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数2〜20のアルケニル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数2〜20のアルキニル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基、
炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいシリル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルコキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基もしくはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいアミノ基、または
ヘテロ環式化合物残基を示す。)
工程(1):下式(II)、(II)’または(II)’’で表されるベンゼン誘導体を下式(III)で表されるインダノン誘導体とその構造異性体を含む混合物(A)に変換する工程

(式中、R、R、RおよびRは前記の通りである。Xは、ヒドロキシル基、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を示す。)

(式中、R、R、RおよびRは前記の通りである。)
工程(2):前記混合物(A)を、下式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体とその構造異性体を含む混合物(B)に変換する工程

(式中、R、R、RおよびRは前記したとおりであり、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を示す。)
工程(3):前記混合物(B)から、前記式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を分離する工程
工程(4):前記式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を前記式(I)で表されるインデン誘導体に変換する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、5,6位置換インデンを製造する過程において生成する構造異性体を効率的に分離することで、インダノンをインダノールへ変換する工程を経る場合と比較して、目的の5,6位置換インデンを高効率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、R、R、R、RおよびRにおけるハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基とは、直鎖状もしくは分岐状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ペンタデシル基、n−エイコシル基が挙げられる。これらのアルキル基はいずれも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を置換基として有していてもよい。ハロゲン原子を置換基として有する炭素原子数1〜20のアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、ヨードメチル基、ジヨードメチル基、トリヨードメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、クロロエチル基、ジクロロエチル基、トリクロロエチル基、テトラクロロエチル基、ペンタクロロエチル基、ブロモエチル基、ジブロモエチル基、トリブロモエチル基、テトラブロモエチル基、ペンタブロモエチル基、パーフルオロプロピル基、パークロロプロピル基、パーブロモプロピル基、パーフルオロブチル基、パークロロブチル基、パーブロモブチル基、パーフルオロペンチル基、パークロロペンチル基、パーブロモペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パークロロヘキシル基、パーブロモヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パークロロヘプチル基、パーブロモヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パークロロオクチル基、パーブロモオクチル基、パーフルオロノニル基、パークロロノニル基、パーブロモノニル基、パーフルオロデシル基、パークロロデシル基、パーブロモデシル基、パーフルオロドデシル基、パークロロドデシル基、パーブロモドデシル基、パーフルオロペンタデシル基、パークロロペンタデシル基、パーブロモペンタデシル基、パーフルオロエイコシル基、パークロロエイコシル基、パーブロモエイコシル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜4である。
【0012】
、R、R、RおよびRにおけるハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。また、これらのシクロアルキル基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有していてもよい。シクロアルキル基の炭素原子数は、好ましくは3〜8である。
【0013】
、R、RおよびRにおける炭素原子数2〜20のアルケニル基は、直鎖状もしくは分岐状のいずれでもよく、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ブテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2 −ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基が挙げられる。また、これらのアルケニル基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有していてもよい。アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜5である。
【0014】
、R、RおよびRにおける炭素原子数2〜20のアルキニル基は、直鎖状もしくは分岐状のいずれでもよく、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、3−メチル1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基が挙げられる。また、これらのアルキニル基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有していてもよい。アルキニル基の炭素原子数は、好ましくは、2〜10であり、より好ましくは2〜5である。
【0015】
、R、R、RおよびRにおける炭素原子数7〜20のアラルキル基は、ベンジル基、(2−メチルフェニル)メチル基、(3−メチルフェニル)メチル基、(4−メチルフェニル)メチル基、(2,3−ジメチルフェニル)メチル基、(2,4−ジメチルフェニル)メチル基、(2,5−ジメチルフェニル)メチル基、(2,6−ジメチルフェニル)メチル基、(3,4−ジメチルフェニル)メチル基、(3,5−ジメチルフェニル)メチル基、(2,3,4−トリメチルフェニル)メチル基、(2 ,3 ,5 −トリメチルフェニル)メチル基、(2,3,6−トリメチルフェニル)メチル基、(3,4,5−トリメチルフェニル)メチル基、(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル基、(2,3,4,5−テトラメチルフェニル)メチル基、(2,3,4,6−テトラメチルフェニル)メチル基、(2,3,5,6 −テトラメチルフェニル)メチル基、(ペンタメチルフェニル)メチル基、(エチルフェニル)メチル基、(n−プロピルフェニル)メチル基、( イソプロピルフェニル)メチル基、(n−ブチルフェニル)メチル基、(sec−ブチルフェニル)メチル基、(tert−ブチルフェニル)メチル基、(イソブチルフェニル)メチル基、(n−ペンチルフェニル)メチル基、(ネオペンチルフェニル)メチル基、(n−ヘキシルフェニル)メチル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基が挙げられる。また、これらのアラルキル基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有していてもよい。アラルキル基の炭素原子数は、好ましくは7〜12である。
【0016】
、R、R、R、RおよびRにおける炭素原子数6〜20のアリール基は、例えば、フェニル基、2−トリル基、3−トリル基、4−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2,3,4,5−テトラメチルフェニル基、2,3,4,6−テトラメチルフェニル基、2,3,5,6−テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、エチルフェニル基、n−プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、sec−ブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、n−ペンチルフェニル基、ネオペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、n−オクチルフェニル基、n−デシルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、n−テトラデシルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。また、これらのアリール基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有していてもよい。アリール基の炭素原子数は、好ましくは6〜11である。
【0017】
、R、RおよびRにおけるシリル基とは炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいシリル基であって、ここでハイドロカルビル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基といった直鎖状もしくは分岐状のアルキル基または、フェニル基などのアリール基が挙げられ、ハロゲン化ハイドロカルビル基とは、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有する上記ハイドロカルビル基である。かかるシリル基としては、例えば、メチルシリル基、エチルシリル基、フェニルシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジフェニルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−n−プロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリ−n−ブチルシリル基、トリ−sec−ブチルシリル基、トリ−tert−ブチルシリル基、トリ−イソブチルシリル基、tert−ブチル−ジメチルシリル基、トリ−n−ペンチルシリル基、トリ−n−ヘキシルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリフェニルシリル基が挙げられる。ハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基の炭素原子数は、好ましくは炭素原子数1〜4である。
【0018】
、R、RおよびRにおける炭素原子数1〜20のアルコキシ基は、直鎖状もしくは分岐状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−エイコシルオキシ基が挙げられる。また、これらのアルコキシ基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有していてもよく、例えば、パーフルオロメトキシ基、パーフルオロエトキシ基、パーフルオロプロポキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロペンチルオキシ基、パーフルオロヘキシルオキシ基、パーフルオロオクチルオキシ基、パーフルオロドデシルオキシ基、パーフルオロペンタデシルオキシ基、パーフルオロエイコシルオキシ基が挙げられる。アルコキシ基の炭素原子数は、好ましくは炭素原子数1〜10であり、より好ましくは1〜4である。
【0019】
、R、RおよびRにおける炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基は、例えば、ベンジルオキシ基、(2−メチルフェニル)メトキシ基、(3−メチルフェニル)メトキシ基、(4−メチルフェニル)メトキシ基、(2,3−ジメチルフェニル)メトキシ基、(2,4−ジメチルフェニル)メトキシ基、(2,5−ジメチルフェニル)メトキシ基、(2,6−ジメチルフェニル)メトキシ基、(3,4−ジメチルフェニル)メトキシ基、(3,5−ジメチルフェニル)メトキシ基、(2,3,4−トリメチルフェニル)メトキシ基、(2,3,5−トリメチルフェニル)メトキシ基、(2,3,6−トリメチルフェニル)メトキシ基、(2,4,5−トリメチルフェニル)メトキシ基、(2,4,6−トリメチルフェニル)メトキシ基、(3,4,5−トリメチルフェニル)メトキシ基、(2,3,4,5−テトラメチルフェニル)メトキシ基、(2,3,4,6−テトラメチルフェニル)メトキシ基、(2,3,5,6−テトラメチルフェニル)メトキシ基、(ペンタメチルフェニル)メトキシ基、(エチルフェニル)メトキシ基、(n−プロピルフェニル)メトキシ基、(イソプロピルフェニル)メトキシ基、(n−ブチルフェニル)メトキシ基、(sec−ブチルフェニル)メトキシ基、(tert−ブチルフェニル)メトキシ基、(n−ヘキシルフェニル)メトキシ基、(n−オクチルフェニル)メトキシ基、(n−デシルフェニル)メトキシ基、(n−テトラデシルフェニル)メトキシ基、ナフチルメトキシ基、アントラセニルメトキシ基が挙げられる。また、これらのアラルキルオキシ基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を置換基として有していてもよい。アラルキルオキシ基の炭素原子数は、好ましくは7〜12である。
【0020】
、R、RおよびRにおける炭素原子数6〜20のアリールオキシ基は、例えば、フェノキシ基、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2,3−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、3,4−ジメチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、2,3,4−トリメチルフェノキシ基、2,3,5−トリメチルフェノキシ基、2,3,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,5−トリメチルフェノキシ基、2,4,6−トリメチルフェノキシ基、3,4,5−トリメチルフェノキシ基、2,3,4,5−テトラメチルフェノキシ基、2,3,4,6−テトラメチルフェノキシ基、2,3,5,6−テトラメチルフェノキシ基、ペンタメチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、n−プロピルフェノキシ基、イソプロピルフェノキシ基、n−ブチルフェノキシ基、sec−ブチルフェノキシ基、tert−ブチルフェノキシ基、n−ヘキシルフェノキシ基、n−オクチルフェノキシ基、n−デシルフェノキシ基、n−テトラデシルフェノキシ基、ナフトキシ基、アントラセノキシ基が挙げられる。また、これらのアリールオキシ基はいずれもフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を置換基として有していてもよい。アリールオキシ基の炭素原子数は、好ましくは炭素原子数6〜11である。
【0021】
、R、RおよびRにおけるアミノ基とは炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいアミノ基であって、ここでハイドロカルビル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基といった直鎖状、分岐状もしくは環状の基、または、フェニル基などのアリール基が挙げられ、ハロゲン化ハイドロカルビル基とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子を置換基として有する上記ハイドロカルビル基である。かかるアミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−tert−ブチルアミノ基、ジ−イソブチルアミノ基、tert−ブチルイソプロピルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基、ジ−n−デシルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビストリメチルシリルアミノ基、ビス−tert−ブチルジメチルシリルアミノ基が挙げられる。ハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基の炭素原子数は、好ましくは炭素原子数1〜4である。
【0022】
、R、RおよびRにおけるヘテロ環式化合物残基としては、例えば、ピリジル基、4,6−ジメチルピリジル基、2,6−ジメチルピリジル基、フラニル基、5−メチルフラニル基、2,5−ジメチルフラニル基、チオフェニル基、5−メチルチオフェニル基、2,5−ジメチルチオフェニル基が挙げられる。
【0023】
およびRとして、好ましくは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基であり、最も好ましくはエチル基である。
【0024】
、RおよびRとして、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいシリル基であり、より好ましくは、水素原子、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0025】
かかる一般式(I)の化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる(以降、本明細書中において、式中のMeはメチル基を、Phはフェニル基を示す。)。

【0026】
また、これらの化合物の5,6位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物も挙げられる。
【0027】
一般式(I)の化合物として、好ましくは、5,6−ジエチルインデンやその5,6位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物であり、より好ましくは5,6−ジエチルインデンである。
【0028】
以下、本発明における化合物(I)の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0029】
工程(1)は、一般式(III)

(式中、R、R、RおよびRは前記の通りである。)で表されるインダノン誘導体とその構造異性体を含む混合物(A)を製造する工程である。
【0030】
かかるインダノン誘導体(III)として、例えば、下記の化合物が挙げられる。

【0031】
また、これらの化合物の5,6位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物も挙げられる。
【0032】
一般式(III)の化合物として、好ましくは、5,6−ジエチル−1−インダノンやその5,6位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物であり、最も好ましくは5,6−ジエチル−1−インダノンである。
【0033】
前記インダノン誘導体は、通常、一般式(II)、(II)’または(II)’’

(式中、R、R、RおよびRは前記の通りであり、Xは、ヒドロキシル基、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される化合物を出発原料あるいは中間体とした環化反応により合成することができる。
【0034】
かかる化合物(II)としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。

【0035】
また、これらの化合物のエチル基が置換したフェニル基上の3,4位をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物やこれらの化合物の塩素原子を臭素原子やヨウ素原子に変更した化合物も挙げられる。
【0036】
一般式(II)の化合物として、好ましくは、3−クロロ−1−(3,4−ジエチルフェニル)−1−プロパノンやそのフェニル基上の3,4位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物であり、より好ましくは、3−クロロ−1−(3,4−ジエチルフェニル)−1−プロパノンである。
【0037】
化合物(II)’として、例えば下記の化合物が挙げられる。

【0038】
また、これらの化合物のエチル基が置換したフェニル基上の3,4位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物も挙げられる。
【0039】
一般式(II)’の化合物として、好ましくは、1−(3,4−ジエチルフェニル)−プロパ−2−エン−1−オンやそのフェニル基上の3,4位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物であり、より好ましくは、1−(3,4−ジエチルフェニル)−プロパ−2−エン−1−オンである。
【0040】
化合物(II)’’として、例えば下記の化合物が挙げられる。

【0041】
また、これらの化合物のエチル基が置換したフェニル基上の3,4位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物やこれらの化合物の塩素原子をヒドロキシル基、臭素原子、ヨウ素原子に変更した化合物も挙げられる。
【0042】
一般式(II)’’の化合物として、好ましくは、3−(3,4−ジエチルフェニル)−プロパノイルクロリドやそのフェニル基上の3,4位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物であり、より好ましくは、3−(3,4−ジエチルフェニル)−プロパノイルクロリドである。
【0043】
化合物(II)、(II)’または(II)’’の環化反応は、特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて行うことができる。例えば、化合物(II)、(II)’または(II)’’と濃硫酸、ポリリン酸、フッ化水素酸などの酸またはアルミニウム、ガリウム、アンチモン、鉄、錫、チタン、亜鉛等の塩化物や臭化物といったルイス酸の存在下で行えばよく、好ましくは濃硫酸または塩化アルミニウムを用いればよい。ルイス酸の使用量としては、化合物(II)、(II)’または(II)’’に対して、0.1〜5モル当量であり、好ましくは0.1〜1.5モル当量である。
【0044】
反応温度は、−78℃〜170℃の温度範囲であればよく、好ましくは−10℃〜100℃である。
【0045】
反応時間は、生成物の収率が最も高くなる時間まで行えばよく、通常30分〜48時間であり、好ましくは30分〜5時間である。
【0046】
本反応で用いる溶媒は、当該反応条件において安定かつ不活性であれば特に制限されるものではなく、混合溶媒を用いてもよい。また、反応に酸を用いる場合は、それをそのまま溶媒として用いることもできる。溶媒として好ましくは、ニトロメタン、二硫化炭素、ジクロロメタン、濃硫酸である。溶媒の使用量は、化合物(II)、(II)’または(II)’’の濃度範囲が、0.001〜5mol/L、より好ましくは0.1〜2mol/Lとなるような範囲で行うことができる。
【0047】
本反応は、空気、ヘリウム、アルゴンまたは窒素雰囲気下で行うことができ、好ましくは、窒素またはアルゴン雰囲気下である。
【0048】
本反応では圧力の影響は無視できるため、大気圧下で反応を行うのが一般的である。
【0049】
上記反応では、一般に環化位置の異なる構造異性体が副生するため、得られる生成物は、化合物(III)とその構造異性体とを含む混合物(A)となる。化合物(II)または(II)’からは、化合物(III)と対応する置換基を有する4,5位置換インダノンとの混合物を与え、化合物(II)’’からは、化合物(III)と対応する置換基を有する6,7位置換インダノンとの混合物を与える。すなわち、混合物Aは、化合物(III)と4,5位置換インダノンを含む混合物もしくは化合物(III)と6,7位置換インダノンを含む混合物を示す。
【0050】
反応終了後は、混合物(A)を精製することが好ましいが、次工程に悪影響のある化合物が残存していなければ、特に精製する必要はない。精製方法としては、上記反応を行う際に一般的に行われる方法であれば、特に制限されるものではないが、例えば、反応溶液を塩酸水溶液または氷水に対して加え、次にトルエン、ジクロロメタン、酢酸エチル、ジエチルエーテルといった有機溶媒で抽出を行い、塩基性水溶液による洗浄後、溶媒を除去する。塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液または炭酸水素カリウム水溶液が好ましい。
【0051】
工程(2)は、前記混合物(A)を、下式(IV)

(式中、R、R、R、RおよびRは前記の通りである。)で表されるヒドラゾン誘導体とその構造異性体を含む混合物(B)へ変換する工程である。
【0052】
かかる化合物(IV)としては、例えば、下記の化合物が挙げられる(式中、Tolは4−トリル基を示す。)。

【0053】
また、これらの化合物の5,6位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物やこれらの化合物の4−トリル基を、フェニル基、2−トリル基、3−トリル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基に変更した化合物も挙げられる。
【0054】
一般式(IV)の化合物として、好ましくは、5,6−ジエチル−1−インダノン p−トルエンスルホニルヒドラゾンやその5,6位の置換基をメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基に変更した化合物であり、より好ましくは、5,6−ジエチル−1−インダノン p−トルエンスルホニルヒドラゾンである。
【0055】
化合物(IV)を含む構造異性体混合物(B)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて行うことができる。例えば、混合物(A)とp−トルエンスルホニルヒドラジン、ベンゼンスルホニルヒドラジン、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンヒドラジンといったヒドラジン、好ましくはp−トルエンスルホニルヒドラジンを反応させればよい。このとき、反応系中に塩酸、p−トルエンスルホン酸などの酸またはピリジンなどの塩基が存在してもよい。ヒドラジンの使用量は、混合物(A)に対して、1.0モル当量以上必要であり、1.0〜2.0モル当量の範囲で用いるのが好ましい。
【0056】
反応温度は、−10℃〜100℃の温度範囲であればよく、好ましくは0℃〜80℃である。
【0057】
反応時間は、生成物の収率が最も高くなる時間まで行えばよく、通常30分〜120時間であり、好ましくは30分〜48時間反応を行えばよい。
【0058】
本反応で用いる溶媒は、当該反応条件において安定かつ不活性であれば特に制限されるものではなく、また、混合溶媒を用いてもよい。好ましくは、メタノールやエタノールといったアルコール類、ジエチルエーテル、アセトニトリルである。溶媒の使用量としては混合物(A)に対して、0.001〜5 mol/L、より好ましくは0.1〜2 mol/Lとなるような範囲で行うことができる。
【0059】
本反応は、ヘリウム、アルゴンまたは窒素雰囲気下で行うことができ、好ましくは、窒素またはアルゴン雰囲気下である。
【0060】
本反応では圧力の影響は無視できるため、大気圧下で反応を行うのが一般的である。
【0061】
上記反応で得られる生成物は、化合物(IV)とその構造異性体とを含む混合物(B)となる。すなわち、混合物(B)は、化合物(IV)と4,5位置換ヒドラゾンを含む混合物もしくは化合物(IV)と6,7位置換ヒドラゾンを含む混合物を示す。
【0062】
工程(3)は、前記混合物(B)から、化合物(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を分離する工程である。
【0063】
反応終了後、混合物(B)が析出する場合は、混合物(B)を濾取した後、有機溶媒を用いて洗浄することで化合物(IV)を得ることができる。また、混合物(B)が析出しない場合や混合物(B)が濾液に残存する場合は、反応溶液または濾液から溶媒を除去した後に洗浄を行ってもよい。
【0064】
洗浄方法としては、例えば、有機溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンといったハロゲン化ハイドロカルビル溶媒、好ましくはジクロロメタンに混合物(B)を加え、0℃〜100℃の温度範囲で、30分〜12時間撹拌し、不要成分を十分に溶解させた後に濾過すればよい。フィルター上の固体に、前記溶媒を加えてさらに洗浄することもできる。
【0065】
洗浄に用いる有機溶媒の量は、混合物(B)中の不要成分が抽出され、かつ、化合物(IV)が完全に溶解しない量であればよく、例えば、混合物(B)の固体重量に対して、0.5倍〜500倍であり、好ましくは、等量〜100倍である。
【0066】
前記洗浄操作において、濾液や洗液に化合物(IV)が残存する場合は、溶媒を除去した後、前記洗浄操作を繰り返すことで、さらに化合物(IV)を得ることもできる。
【0067】
工程(4)はヒドラゾン誘導体(IV)をインデン誘導体(I)に変換する工程であるが、本反応は特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて行うことができる。例えば、化合物(IV)を塩基と反応させた後、プロトン化剤を加えて反応を停止させればよい。また、反応を停止させる前に求電子剤を反応させてもよい。求電子剤を反応させずに、反応を停止させた場合は、化合物(I)におけるRは水素原子となり、求電子剤を反応させた場合は、用いる求電子剤に応じた置換基となる。
【0068】
本反応で使用する塩基としては、例えば、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムブトキシド、リチウムジイソプロピルアミドといった有機アルカリ金属塩や水素化リチウム、水素化カリウムといった金属水素化物が挙げられる。塩基は化合物(IV)に対して、2.0モル当量以上必要であり、2.0〜3.0モル当量の範囲が好ましい。
【0069】
反応温度は、−78℃〜100℃の温度範囲であればよく、好ましくは、−78℃〜80℃である。
【0070】
反応時間は、生成物の収率が最も高くなる時間まで行えばよく、通常、30分〜24時間好ましくは、30分〜5時間反応を行えばよい。
【0071】
上記塩基との反応において使用できる溶媒は、当該反応条件において安定かつ不活性であれば特に制限されるものではなく、また、混合溶媒を用いてもよい。例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテルといったエーテル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタンといった脂肪族ハイドロカルビル溶媒,トルエン、キシレンといった芳香族ハイドロカルビル溶媒が挙げられる。溶媒の使用量としては化合物(IV)に対して、0.001 mol/L〜10 mol/L、好ましくは0.1 mol/L〜2 mol/Lである。
【0072】
本反応は、ヘリウム、アルゴンまたは窒素雰囲気下で行うことができ、好ましくは、窒素またはアルゴン雰囲気下である。
【0073】
本反応では圧力の影響は無視できるため、大気圧下で反応を行うのが一般的である。
【0074】
求電子剤としては、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、臭化ベンジル、臭化アリルといったハロゲン化ハイドロカルビル、トリメチルクロロシランといったハロゲン化シラン、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチルといったスルホン酸エステルが挙げられる。求電子剤の使用量は、化合物(IV)に対して、1.0モル当量以上必要であり、1.0〜2.0モル当量の範囲で用いるのが好ましく、反応条件は、化合物(IV)と塩基との反応と同様の条件で行うことができる。
【0075】
反応を停止させるためのプロトン化剤としては、例えば、希塩酸、希硫酸といった希酸、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムといった無機塩の水溶液、メタノール、エタノール、tert−ブタノールといったアルコール類、フェノール、2,6−ジメチルフェノールといったフェノール類、水が挙げられる。プロトン化剤の使用量は、用いた塩基の量に対して過剰量であればよい。また、酸や無機塩を用いる場合、その濃度も任意に設定できるが5〜10%程度が好ましい。この処理時の温度は−10〜40℃、好ましくは0〜20℃である。
【0076】
プロトン化剤による処理方法は、特に限定されるものではないが、例えば、プロトン化剤を反応溶液に滴下、もしくは、反応溶液をプロトン化剤に滴下した後、エーテル、トルエン、ジクロロメタン、酢酸エチルといった有機溶媒により抽出する。抽出液を塩基性水溶液により洗浄した後、溶媒を除去する。塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液または炭酸水素カリウム水溶液が好ましい。
【0077】
ここで得られた化合物(I)は用途に応じて精製してもよい。精製の方法は特に制限されるものではなく、化合物(I)の性状や目的とする純度に応じて、任意に選択することができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を下記の実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。反応に使用した有機溶媒は、乾燥、脱気したものを用いた。
【0079】
化合物の同定はNMRスペクトルや質量スペクトルの測定により行った。NMRスペクトルは、核磁気共鳴装置(日本電子社製、JNM−AL400)を用い室温にて測定した。化学シフト値は、テトラメチルシランを基準とした。質量スペクトルは、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製、GCMS−QP5000/QP5050A)を用いて下記条件により測定した。
(1)測定カラム:DB−1(Agilent Technologies社製)
長さ60m、I.D.:0.25mm、Films:0.25μm
(2)測定:100℃〜300℃(10℃/分)300℃ 20分間保持
(3)イオン化:EI(電子イオン化)法
【0080】
生成物の純度は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC−2010)を用いて下記条件により測定した。
(1)カラム:DB−1(Agilent Technologies社製)
長さ30m、I.D.:0.25mm、Films:0.25μm
(2)測定:100℃〜300℃(10℃/分)300℃ 5分間保持
【0081】
実施例1
5,6−ジエチルインデンの合成
(1)3−クロロ−1−(3,4−ジエチルフェニル)−1−プロパノンの合成
窒素置換した200 mL三口フラスコに塩化アルミニウム29 g(217 mmol)とニトロメタン58 mLを仕込み、10 ℃まで冷却した後、1,2−ジエチルベンゼン26g(純度92%、181 mmol)と3−クロロプロパノイルクロリド25g(純度98%、190 mmol)の混合溶液を滴下した。この溶液を室温まで昇温し、1時間撹拌した。反応溶液を、氷を加えた濃塩酸へ撹拌しながら注ぎ、酢酸エチルで有機物を抽出した。分液後、水層をさらに酢酸エチルで抽出した。全ての抽出液を合わせ、炭酸水素ナトリウム、飽和食塩水の順にそれぞれ2回洗浄した後、有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。減圧下、揮発成分を留去することで、3−クロロ−1−(3,4−ジエチルフェニル)−1−プロパノン(化合物(II))を含む褐色オイルを得た。収量は41 g(純度92%, 166 mmol)であり、収率は91%であった。得られた3−クロロ−1−(3,4−ジエチルフェニル)−1−プロパノンは特に精製せず、そのまま次の反応に用いた。
H NMR(CDCl)δ 1.24 (t, 3H), 1.25 (t, 3H), 2.70 (q, 4H), 3.43 (t, 2H), 3.43 (t, 2H), 7.25 (d, 1H), 7.72 (d, 1H), 7.77 (s, 1H)
質量スペクトル 224(M
【0082】
(2)ジエチルインダノンの構造異性体混合物(A)の合成(工程1)
窒素置換した200 mL三口フラスコに3−クロロ−1−(3,4−ジエチルフェニル)−1−プロパノン 41 g(純度92%, 166 mmol)と濃硫酸88 mLを仕込み、90 ℃まで昇温した後、2時間撹拌した。反応溶液を、撹拌しながら氷に注ぎ、酢酸エチルで有機物を抽出した。分液後、水層をさらに酢酸エチルで抽出した。全ての抽出液を合わせ、炭酸水素ナトリウム、飽和食塩水の順にそれぞれ2回洗浄した後、有機層を活性炭で処理した。活性炭を濾別し、濾液を硫酸ナトリウムにより乾燥した。減圧下、揮発成分を留去することで、5,6−ジエチルインダノンと4,5−ジエチルインダノンを含む褐色オイルを得た。収量は25 g(異性体比 68:32、5,6−ジエチルインダノン含有率62%)であり、収率は73%であった。
5,6−ジエチルインダノン
H NMR(CDCl)δ 1.25(t,3H),1.27(t,3H)、2.65〜2.76(m,6H),3.08(quasi-t,2H),7.28 (s, 1H), 7.58 (s, 1H)
4,5−ジエチルインダノン
H NMR(CDCl)δ 1.19(t,3H),1.26(t,3H),2.65〜2.76(m,6H),3.08(quasi-t,2H),7.22(d,1H),7.56(d,1H)
質量スペクトル 188(M
【0083】
(3)5,6−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンの構造異性体混合物Bの合成(工程2)
窒素置換した200 mL三口フラスコに5,6−ジエチルインダノンと4,5−ジエチルインダノンを含む混合物(A)25g(純度 91 %、122 mmol、異性体比 68:32)とメタノール 290 mLを加えた。ここに、p−トルエンスルホニルヒドラジン 28g(純度97%、147 mmol)とピリジン 4 g(純度99%、51 mmol)を加え、室温で2日間撹拌した。このとき、5,6−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンと4,5−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンを含む黄白色固体(混合物(B))が析出した。
【0084】
(4)5,6−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンの分離(工程3)
析出した固体を濾別した後、1Lフラスコに移した。ここにジクロロメタン500 mLを加え室温で撹拌し、4,5−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンを含む不要成分を抽出した。この懸濁液を濾過し、回収した固体を減圧下乾燥することで、5,6−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾン(化合物(IV))を白色固体として得た。収量は22 g(62 mmol、異性体含有率 <5%)であり、収率は51%であった。
H NMR(CDCl)δ 1.20(t,3H),1.22(t,3H), 2.41(s, 3H),2.63−2.66(m,6H),3.02(m,2H),7.09(s, 1H),7.53(s,1H),7.30(d,2H),7.91(d,2H)
【0085】
(5)5,6−ジエチルインデンの合成(工程4)
窒素置換した200 mL三口フラスコに5,6−ジエチルインダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾン24g(67 mmol)と1,2−ジメトキシエタン 280 mLを仕込み、フラスコを水冷しながらn−BuLiのヘキサン溶液 84 mL(1.60 mol/L, 135 mmol)を滴下した。反応溶液を還流温度まで昇温した。2時間撹拌した後、反応溶液に水60 mLを加え、反応を停止させた。分液後、水層をさらに酢酸エチルで抽出した。全ての抽出液を合わせ、飽和食塩水で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下揮発成分を留去した。得られた褐色懸濁液をヘプタンで抽出、濾過し、濾液をシリカゲルに通過させた。シリカゲルをヘプタンで洗浄した後、濾液と洗液を合わせて減圧下、溶媒を留去することで、5,6−ジエチルインデンを無色オイルとして得た。収量は8.8 g(純度98%、48 mmol、異性体含有率 <2%)であり、収率は72%であった。1,2−ジエチルベンゼンからの収率は、24%であった。
H NMR (CDCl)δ1.23(t,3H),1.24(t,3H),2.68(q,4H),3.33(m,2H),6.45−6.47(m,1H),6.82−6.85(m,1H),7.21(s,1H), 7.27(s,1H)
質量スペクトル 172(M
【0086】
比較例1
5,6−ジエチルインダノンの精製
実施例1(2)と同様の方法により得られた5,6−ジエチルインダノンと4,5−ジエチルインダノンの混合物0.74 g(純度74%、異性体比 57:43)を、ヘプタン/酢酸エチル(8/1)混合溶液を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、5,6−ジエチルインダノンと4,5−ジエチルインダノンの混合物 0.072 g(異性体比 88:12, 回収率 12%(5,6−ジエチルインダノン基準))および0.28 g(異性体比 59:41, 回収率 30%(5,6−ジエチルインダノン基準))として得られた。
【0087】
比較例2
5,6−ジエチルインダノールの合成と精製
窒素置換した100 mLシュレンク管に実施例1(2)と同様の方法により得られた5,6−ジエチルインダノンと4,5−ジエチルインダノンの混合物 3.5g(純度96%、18 mmol、異性体比 59:41)、水素化ホウ素ナトリウム 1.3g(35 mmol)とテトラヒドロフラン 16 mLを仕込み、シュレンク管を10℃まで冷却した。この溶液にメタノール9 mLを滴下した後、反応溶液を室温まで昇温した。2時間撹拌した後、反応溶液を氷17 gに加え、反応を停止させた。分液後、水層をさらに酢酸エチルで抽出した。全ての抽出液を合わせ、水、飽和食塩水でそれぞれ2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下揮発成分を留去したところ、5,6−ジエチルインダノールと4,5−ジエチルインダノールの混合物を黄色オイルとして得た。粗収量 3.4 g(純度 99%, 18 mmol,異性体比 59:41)。粗収率 99%。この黄色オイルをヘキサン/酢酸エチル(5/1)混合溶液を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、5,6−ジエチルインダノールと4,5−ジエチルインダノールとの混合物として得られた。収量は1.2 g(異性体比 74:26、5,6−ジエチルインダノール含有率73%)であり、収率は35%であった。
【0088】
比較例3
5,6−ジエチルインデンの合成と精製
比較例2と同様の方法により得られた5,6−ジエチルインダノールと4,5−ジエチルインダノールの混合物 1.7 g(純度 81%,7.3 mmol,異性体比 69:31)、トルエン20 mLを仕込み、この溶液に室温でp−トルエンスルホニルクロリド 1.6g(8.1 mmol)およびピリジン1.9 mLを加えた。この溶液をトルエン還流温度まで昇温し、3時間撹拌した。反応溶液を5%塩酸20mLに加え、反応を停止し、分液後、水層をさらに酢酸エチルで抽出した。全ての抽出液を合わせ、5%塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水の順にそれぞれ2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下揮発成分を留去したところ、5,6−ジエチルインデンと4,5−ジエチルインデンの混合物を褐色オイルとして得た。粗収量は1.8gであった。この褐色オイルオイルをヘキサン/酢酸エチル(5/1)混合溶液を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、さらに、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーに再度精製したところ、5,6−ジエチルインデンと4,5−ジエチルインデンの混合物として得られた。収量は0.5 g(異性体比 85:15、5,6−ジエチルインデン含有率 67%)であり、収率は32%であった。1,2−ジエチルベンゼンからの収率は、21%であった。
【0089】
比較例4
5,6,7,8−テトラヒドロベンズ[f]インダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンの合成
1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンを出発原料とし、実施例1(1)および(2)に記載の方法により、5,6,7,8−テトラヒドロベンズ[f]インダノンと4,5,6,7−テトラヒドロベンズ[e]インダノンとの異性体混合物(異性体比 37:63)を合成した。該異性体混合物を用いて、実施例1(3)および(4)に記載の方法により、ヒドラゾンへ誘導後、異性体分離操作を行ったところ、5,6,7,8−テトラヒドロベンズ[f]インダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンと4,5,6,7−テトラヒドロベンズ[e]インダン−1−p−トルエンスルホニルヒドラゾンの混合物を得た(異性体比 37:63)。
5,6位のアルキル基部分が環構造となるヒドラゾンでは、異性体を分離することが困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるインデン誘導体の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含む前記製造方法。

(式中、RおよびRは、同一または相異なり、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、または、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を示す。R、RおよびRは、同一または相異なり、水素原子、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数2〜20のアルケニル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数2〜20のアルキニル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基、
炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいシリル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルコキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基もしくはハロゲン化ハイドロカルビル基を置換基として有していてもよいアミノ基、または
ヘテロ環式化合物残基を示す。)

工程(1):下式(II)、(II)’または(II)’’で表されるベンゼン誘導体を下式(III)で表されるインダノン誘導体を含む構造異性体混合物(A)に変換する工程

(式中、R、R、RおよびRは前記の通りである。Xは、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を示す。)

(式中、R、R、RおよびRは前記の通りである。)
工程(2):前記構造異性体混合物(A)を、下式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を含む構造異性体混合物(B)に変換する工程

(式中、R、R、RおよびRは前記したとおりであり、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を示す。)
工程(3):前記構造異性体混合物(B)から、前記式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を分離する工程
工程(4):前記式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を前記式(I)で表されるインデン誘導体に変換する工程
【請求項2】
工程(3)において、ハロゲン化ハイドロカルビル溶媒を用い、前記式(IV)で表されるヒドラゾン誘導体を単離することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
およびRが、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(1)におけるベンゼン誘導体が一般式(II)または(II)’で表されるベンゼン誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。