説明

インパクト回転工具

【課題】駆動電源(電池)の電圧が低下した場合も安定した締付けトルクでの締付けを行うことができるインパクト回転工具の提供。
【解決手段】モータ出力によって打撃衝撃を加えるインパクト機構と、上記打撃を検出する打撃検出手段21と、モータ1の回転角を検出する回転角検出手段22と、打撃のタイミングとモータ回転角とから打撃速度を演算する打撃速度検出手段24と、打撃検出手段で検出された打撃数をカウントして所定打撃数になればモータを停止させる制御手段とを備える。制御手段は打撃速度検出手段で得られた打撃速度が所定打撃速度以下である時に所定打撃数を補正する。電源電圧が低下した時には打撃速度も低下することから、この打撃速度の低下があった時には所定打撃数を補正することで締付けトルク不足の発生を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナットなどのねじ類の締付け(及び緩め)作業に使用するインパクトレンチやインパクトドライバのようなインパクト回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インパクト回転工具は、モータ出力で回転させるハンマによって出力軸(アンビル)に回転方向の打撃衝撃を与えることで締付けを行うもので、高速回転・高トルクという作業性の良さから、建築現場や組立工場などで幅広く使われているが、このようなインパクト回転工具において、所望の締付けトルクに達すれば自動停止するシャットオフ機能を設けるにあたり、上記の打撃の回数をカウントしてこの打撃回数が所望の締付けトルクに対応する回数に達したかどうかで制御するものが特許文献1に示されている。
【0003】
ところで、インパクト回転工具の最大締付け力は駆動電源の電圧に依存することになる上記ハンマの回転速度(モータの回転速度)で決定されてしまう。このために上記の打撃回数のみを利用してシャットオフを行う場合、駆動電源が電池であって連続した作業によって電池電圧が徐々に低下した時、締付けトルクも徐々に低下してしまうことになり、工場等の主にボルト・ナット等の締付けトルクの管理が必要な工程でその管理ができなくなってしまう。
【特許文献1】特開平5−200677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、駆動電源の電圧が低下した場合も安定した締付けトルクでの締付けを行うことができるインパクト回転工具をことを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明に係るインパクト回転工具は、モータ出力によって出力軸に打撃衝撃を加えるインパクト機構と、該インパクト機構による打撃を検出する打撃検出手段と、モータの回転角を検出する回転角検出手段と、打撃検出手段で得られる打撃のタイミングと回転角検出手段によるモータ回転角とから打撃速度を演算する打撃速度検出手段と、前記打撃検出手段で検出された打撃数をカウントして所定打撃数になればモータを停止させる制御手段とを備えるとともに、上記制御手段は上記打撃速度検出手段で得られた打撃速度が所定打撃速度以下である時に上記所定打撃数を補正するものであることに特徴を有している。電源電圧が低下した時には打撃速度も低下することから、この打撃速度の低下があった時には所定打撃数を補正することで締付けトルク不足の発生を防ぐものである。
【0006】
上記制御手段は、第1の所定打撃速度から演算される打撃エネルギーと、検出した打撃速度から演算される打撃エネルギーとの差に所定打撃数を乗算した値を不足打撃エネルギーとしてこの不足打撃エネルギーを不足打撃数に換算し、前記所定打撃数に前記不足打撃数を加算して打撃数の補正を行うものが好ましい。より精度の高い補正をコストアップを招くことなく行うことができる。
【0007】
また、前記制御手段は、検出した打撃速度が前記第1の所定打撃速度以下の第2の所定打撃速度より低い時、モータを停止するとともに締付けトルク異常の発生報知を行うものであったり、モータを停止するとともにモータ起動を不可とするものであると、締付けトルク不足の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0008】
インパクト回転工具においては、電池電圧の低下に伴って同じ打撃回数でも締付けトルクは1打撃の打撃エネルギーが減少するために減少してしまうが、1打撃の打撃エネルギーは打撃速度と相関があるために、この打撃速度を検出し、この打撃速度に応じて打撃数を補正するものであり、このために安定した締付けトルクを実現できて、工場等の締付けトルク管理が必要な作業において有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、図2中の1は駆動源であるモータであり、その回転出力は減速機2によって減速されて駆動軸3に伝達される。この駆動軸3にはハンマー4がカム機構(図示せず)を介して連結されている。また、ハンマー4は出力軸を備えるアンビル5と係合しているとともに、ばね6によってアンビル5側に向けて付勢されており、これらハンマー4とアンビル5とばね6及び上記カム機構でインパクト機構が構成されている。
【0010】
ハンマー4とアンビル5とはばね6による付勢で係合していることから、アンビル5側に負荷がかかっていない時、モータ1の回転をハンマー4はそのままアンビル5側に伝達している。しかし、負荷トルクが大きくなれば、ハンマー4がばね6に抗して後退し、この後退によってアンビル5とハンマー4との係合が外れたならば、上記ばね6による付勢と上記カム機構による誘導でハンマー4は回転しながら前進してアンビル5に回転方向の打撃衝撃(インパクト)を加える。
【0011】
図2中の10は制御回路、11はモータ駆動回路、12は駆動電源である充電池、13はトリガスイッチであり、該トリガスイッチ13の操作によりモータ1のオンオフがなされるとともにその操作量に応じてモータ1の回転数が調整される。
【0012】
また、このインパクト回転工具においては、ハンマ4によるアンビル5の打撃がなされた時にこれを検出する打撃検出手段21と、上記モータ1の回転角を検出する回転角検出手段22と、着座検出手段23と、打撃速度検出手段24とを備えている。なお、着座検出手段23と打撃速度検出手段24は本例では制御回路10における演算部で構成している。
【0013】
打撃検出手段21は打撃音をとらえるマイク、あるいは打撃衝撃を感知する加速度センサ等で構成されるもので、打撃衝撃が加えられたタイミングを検出する。
【0014】
回転角検出手段22はモータ1の回転角を検出するもので、モータ1がブラシモータの場合はモータ1に付加する回転センサ(例えば周波数ジェネレータ)であり、モータ1がブラシレスモータの場合はロータの位置を検出する位置検出センサ(ホール素子)等で構成する。
【0015】
着座検出手段23は、ねじまたはボルトの頭部が被締付け部材に接する着座を検出するためのもので、モータ1の回転速度と打撃間のモータ回転量とから締付けトルクを推定して、この推定締付けトルクが所定値に達したかどうかで検出するものとしている。
【0016】
なお、本発明では着座については上記の演算によって求める推定締付けトルクに基づいて判定を行い、最終の締付けトルクは着座後の打撃数をカウントすることで判定しているが、この理由は後述する。
【0017】
上記着座検出手段23による締付けトルクの推定は、1打撃ごとの運動エネルギーの収支をもとにしたもので、ハンマ4の打撃がアンビル5に与えるエネルギーと、締付けで消費されたエネルギーとが略等しいという関係を利用したもので、今、部材によって決定される着座付近のねじの回転角度θと締付けトルクTの関係が図3のような関数T=τ(θ)で表せるとし、ハンマ4による打撃がアンビル回転角θ1・・・θNの各地点で発生したものとすると、関数τを区間〔θ1,θ2〕で積分した値E1は、締付け作業に消費されたエネルギーであり、θ1地点でハンマ4がアンビル5を打撃してアンビル5に与えたエネルギーに等しいことになる。従って区間〔θN+1,θN〕における平均の締付けトルクTはエネルギーEnと打撃間回転角θn=(θn+1−θn)とから、
T=En/θn …(1)
と求めることができる。
【0018】
上記エネルギーEnは、前記打撃速度検出手段24が打撃間のアンビル回転角を打撃間隔で除す演算を行うことによって得る打撃速度ωnと、既知であるアンビル5の慣性モーメントJaとから、
En=1/2×Ja×ωn2 …(2)
と求めることができる。なお、アンビル回転角θは、ここでは打撃間のモータ回転角と減速機2の減速比及びハンマ4が1回転する間にアンビル5を何回打撃するかの関係から算出している。
【0019】
図4にボルト締付け時のトルク変化を示す。金属締結のためのボルト締付け作業の場合、図から明らかなように、打撃衝撃の印加毎に締付けトルクは徐々に上昇していく。また、打撃衝撃毎のボルトの回転角は徐々に減少していき、最終的には微小な角度変化になってしまう。前記の推定締付けトルクTを求める演算では、打撃衝撃毎のボルト(アンビル5)の回転角を用いているために、この回転角が微小で変化の小さい領域になると、誤差が大きくなって、実際の締付けトルク(図中イ)とは異なる締付けトルク(図中ロ)が推定されることになる。高精度、高分解能の回転角センサをアンビル5に取り付けてもよいが、工具自体が大きく重くなり、作業性能を大きく悪化させる上に、構成も複雑になって高価になってしまう。
【0020】
一方、着座したかどうかを打撃数に基づいて判定することは難しく、上記推定締付けトルクを基に判定する方が精度が高くなる上に、着座するまでは打撃衝撃毎のボルトの回転角の精度の高い検出も容易であることから、ここでは前述のようにして求めている推定締付けトルクTが予め設定した所定値Ts以上になった時を着座と判定し、最終の締付けトルクは着座後の打撃数が所望の締付けトルクに対応する所定打撃数になったかどうかで判定するものとしている。着座後はボルトが安定した締付け状態になるために図5に示すように締付けトルクも安定したものとなる。
【0021】
ここにおいて、打撃数を基に目標締付けトルクに達したかどうかを判定する場合、その繰り返し精度は前述のように電源電圧の低下により悪化してしまう。ちなみに図6は同一打撃数での締付けトルクと電池電圧の関係を示している。
【0022】
このために打撃数をカウントしてこの打撃数が目標締付けトルクに対応する所定打撃数に達した時にシャットオフを行う制御を行うにあたり、前記式(2)中の打撃速度ωnを監視し、この打撃速度ωnに応じて所定打撃数を補正するものとしている。
【0023】
すなわち、図1において、ステップS104が着座判定、ステップS105〜S110が打撃数に基づくシャットオフ動作を示しており、着座と判定されれば、制御手段10は打撃検出手段23が検出する打撃信号で打撃数をカウントする。
【0024】
そして、所定打撃数で停止する前の打撃速度が第1の所定打撃速度(本来電池電圧が正常な場合での打撃速度)以上であれば、打撃数が所定打撃数に達した時点(S112)でシャットオフ動作に移るが、上記打撃速度が第1の所定打撃速度未満であれば、所定打撃数の補正を行う。
【0025】
この補正は、第1の所定打撃速度から演算される打撃エネルギーと、検出演算で求めた打撃速度から演算される打撃エネルギーの差に所定打撃数を乗算した値を不足打撃エネルギーとし、この不足打撃エネルギーを不足打撃数に変換して、前記所定打撃数に不足打撃数を加算して補正打撃数を求めることで行っており、そして打撃数が補正打撃数に至れば(S109)モータ1を停止させてシャットオフを行っている。ちなみに上記不足エネルギーの算出(不足エネルギー=((第1の所定打撃速度)2−(実際の打撃速度)2)×所定設定打撃数)は、打撃間回転角が微小でほぼ一定である場合、打撃速度の2乗が締付けトルクに比例すると考えられることに基づいたものであり、不足エネルギーからの不足打撃数の変換は、
不足打撃数=補正係数×不足エネルギー÷(実際の打撃速度)2
によって行っている。打撃速度が低くなればなるほど不足打撃数も多くなるために、より精度の高い補正を行うことができる。上記補正係数はインパクト回転工具によって異なる任意の定数である。
【0026】
なお、検出された打撃速度があまりにも低いと、図7に示すように、打撃数を補正しても目標とする締付けトルクに達することができなくなるために、図1のフローチャートには示していないが、補正打撃数の打撃を行っても目標締付けトルクが実現できなくなる第2の所定打撃速度S2(図7参照:第2の所定打撃速度S2<第1の所定打撃速度S1)以下の打撃速度となってしまった時には、モータ1を停止するとともに、作業者に図2に示す報知手段14によって光もしくは音(ブザー)等で電源電圧が不足していることを報知して電池交換を促すものとするのが好ましい。また、電池交換がなされるまではモータ1を起動させることができないようにしておくと、締付けトルク不足による作業不良を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の一例の動作を示すフローチャートである。
【図2】同上のブロック図である。
【図3】同上の締付けトルクと回転角の関係の説明図である。
【図4】同上の締付けトルクと回転角及び推定締付けトルクの関係の説明図である。
【図5】同上の締付けトルクと回転角及び打撃数の関係の説明図である。
【図6】同上の締付けトルクと電池電圧の関係の説明図である。
【図7】同上の締付けトルクと打撃速度の関係の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 モータ
4 ハンマー
5 アンビル
10 制御回路
21 打撃検出手段
22 回転角検出手段
24 打撃速度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ出力によって出力軸に打撃衝撃を加えるインパクト機構と、該インパクト機構による打撃を検出する打撃検出手段と、モータの回転角を検出する回転角検出手段と、打撃検出手段で得られる打撃のタイミングと回転角検出手段によるモータ回転角とから打撃速度を演算する打撃速度検出手段と、前記打撃検出手段で検出された打撃数をカウントして所定打撃数になればモータを停止させる制御手段とを備えるとともに、上記制御手段は上記打撃速度検出手段で得られた打撃速度が所定打撃速度以下である時に上記所定打撃数を補正するものであることを特徴とするインパクト回転工具。
【請求項2】
上記制御手段は、第1の所定打撃速度から演算される打撃エネルギーと、検出した打撃速度から演算される打撃エネルギーとの差に所定打撃数を乗算した値を不足打撃エネルギーとしてこの不足打撃エネルギーを不足打撃数に換算し、前記所定打撃数に前記不足打撃数を加算して打撃数の補正を行うものであることを特徴とするインパクト回転工具。
【請求項3】
前記制御手段は、検出した打撃速度が前記第1の所定打撃速度以下の第2の所定打撃速度より低い時、モータを停止するとともに締付けトルク異常の発生報知を行うものであることを特徴とする請求項1または2記載のインパクト回転工具。
【請求項4】
前記制御手段は、検出した打撃速度が前記第1の所定打撃速度以下の第2の所定打撃速度より低い時、モータを停止するとともにモータ起動を不可とするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインパクト回転工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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