説明

インビボで結合組織を生成、修復、および/または維持するための方法

本発明は、対象において結合組織を生成、修復、および/または維持するための方法に関する。一実施形態において、本発明は、対象において軟骨組織を生成、修復、および/または維持するための方法に関する。本発明はまた、結合組織の分解および炎症から起こる対象における疾患を処置および/または予防する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象において結合組織を生成、修復、および/または維持するための方法に関する。本発明はまた、結合組織の分解および炎症から起こる対象における疾患を処置および/または予防する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
体内に存在し、単離されたときには多分化能性細胞を生じる非造血前駆細胞は、間葉系前駆細胞(MPC)と呼ばれる。より具体的には、精製されたMPCは、非常に多数の多分化能性細胞コロニーを形成する能力がある。
【0003】
Simmonsら(1994)は、STRO-1細胞表面マーカーを発現する細胞を選択することによる、新たに採取した骨髄細胞からのMPCの濃縮を記載している。272〜273頁で著者らが説明しているように、骨髄細胞は、CFU-Fを生じる能力がある、MPCをある割合で含むことが知られている。次には、これらのCFU-Fは、適切な条件下で、軟骨、骨、脂肪組織、線維組織、および骨髄支持性間質を含む広範な完全に分化した結合組織を生じる能力がある。
【0004】
MPCおよびCFU-Fは、典型的には、骨髄細胞に非常に低い発生率(典型的には、0.05%〜0.001%)で存在し、この希少性が、これまで、それらの研究への主要な制限となっていた。Simmonsら(1994)によって考察された重要な知見は、STRO-1陽性細胞を選択することによって、新たに単離した骨髄細胞からこれらのMPCを、ある程度濃縮し得るという同定であった。特に、STRO-1陽性細胞の選択は、夾雑造血前駆体を含まないMPC(および結果として得られるCFU-F)の単離を可能にした。
【0005】
WO 01/04268は、MPCを含むSTRO-1陽性細胞のこの画分内の亜集団を同定することによってMPCの濃縮のさらなる重要な進展を提供した。特に、WO 01/04268は、STRO-1陽性細胞集団の以下の3つのサブセットへの分類を記載する:STRO-1dull、STRO-1intermediate、およびSTRO-1bright。異なって分類された亜集団におけるCFU-Fのクローン形成アッセイにより、MPCの大部分がSTRO-1bright画分内に含まれることが実証された。
【0006】
WO 2004/085630は、初めて、MPCが血管周囲組織に存在することを開示している。この知見の利益の一つは、MPCを単離または濃縮することができる供給源組織の範囲を大きく拡大し、もはや、MPCの供給源を骨髄に制限することは有効ではないということである。WO 2004/085630に記載された方法によりMPCを単離することができる組織には、ヒト骨髄、歯髄、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、および心臓が挙げられる。血管周囲組織から単離されたMPCは、細胞表面マーカー3G5が陽性である。それゆえに、それらは、3G5マーカーを有する細胞について濃縮することによって、またはCD146(MUC18)、VCAM-1などの血管周囲細胞に存在する初期発生表面マーカーについて濃縮することによって、または高レベル発現の細胞表面マーカーSTRO-1について濃縮することによって、単離することができる。
【0007】
無血管性結合組織は、一般的に、かなりの運動を必要とする筋骨格系内の解剖学的部位に位置する。これらの自由可動結合部は、哺乳動物において関節の大部分を担っている。滑膜関節において、2つの対向する骨の接触表面は、長骨の表面を覆いかつ連結する関節包を裏打ちする細胞によって産生される滑液中の低摩擦潤滑物質の存在によりお互いの上を楽々と滑る硝子軟骨によって覆われている。脊柱において、関節結合は、水和ゼラチン状塊(髄核)を被包し、硝子軟骨に存在するものと類似した軟骨細胞様細胞が集合した軟質線維軟骨環(線維輪)による剛性椎骨の連結によって達成される。これらの無血管性結合組織の型および位置に関係なく、それらは全て、高い引っ張り強さを与える、線維性タンパク質、II型コラーゲンと共に水分子を吸収する高く負に帯電したプロテオグリカンに富む細胞外マトリックスを合成する細胞を含む。
【0008】
半月板および椎間板の内側の3分の2を占める硝子軟骨などの無血管性結合組織は、修復能力が限られており、傷害された場合、機能的に劣る線維軟骨性瘢痕組織の生成によって応答する可能性がある。加齢、遺伝的性質、ホルモン状態、および物理的傷害によって支配される多数の因子を通して、これらの無血管性結合組織は衰え、椎間板変性、背痛、および変形性関節症の広範な臨床問題に至る場合が多い。
【0009】
これらの結合組織の衰えから起こる症状を処置するために通常用いられる現在の医学療法は大部分、症状を生じる原因である根本的な病態を矯正することにはほとんど効果がなく、多くの場合、組織細胞外マトリックスの構成成分を合成する常在細胞の能力を下方制御することによってその問題を悪化させることさえある。理想的には、治療処置は、少なくとも軟骨保護であるが、さらに、マトリックス生合成を増強し、かつ傷害された結合組織の修復および回復をもたらす状態を提供するべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 01/04268
【特許文献2】WO 2004/085630
【特許文献3】WO 2006/032092
【特許文献4】US 2002/0022676
【特許文献5】US 4,352, 883
【特許文献6】US 5,827,735
【特許文献7】米国特許第5,643,192号
【特許文献8】米国特許第5,651,982号
【特許文献9】国際特許公開第WO96/17633号
【特許文献10】米国特許第4,983,393号
【特許文献11】米国特許第3,089,815号
【特許文献12】米国特許第6,468,527号
【特許文献13】WO94/29438
【特許文献14】WO97/21824
【特許文献15】WO97/21825
【特許文献16】WO 95/27071
【特許文献17】米国特許第5,693,531号
【特許文献18】米国特許第5,691,176号
【特許文献19】WO/2006/108229
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons (1984)
【非特許文献2】J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)
【非特許文献3】T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、1巻および2巻、IRL Press (1991)
【非特許文献4】D.M. GloverおよびB.D. Hames(編)、DNA Cloning: A Practical Approach、1〜4巻、IRL Press (1995および1996)
【非特許文献5】F.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの全ての更新を含む)
【非特許文献6】Ed HarlowおよびDavid Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory (1988)
【非特許文献7】J.E. Coliganら(編)、Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons (現在までの全ての更新を含む)
【非特許文献8】Pollard, J.W.およびWalker, J.M. (1997) Basic Cell Culture Protocols、第2版、Humana Press、Totowa、N.J.
【非特許文献9】Freshney, R.I. (2000) Culture of Animal Cells、第4版、Wiley-Liss、Hoboken、N.J.
【非特許文献10】Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、N.Y. (第3版、2000)
【非特許文献11】Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.、New York (1999)
【非特許文献12】Coffinら、「Retroviruses」、第9章、437〜473頁、Cold Springs Harbor Laboratory Press、1997
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、MPCの関節内投与が、既存の変形性関節症を有する関節に軟骨保護効果を与え、かつ滑膜関節、および椎間板の髄核において軟骨組織の生成および成長をもたらすという驚くべき所見を見出した。この所見は、MPCもしくはそれらの子孫、またはこれらのMPC由来の上清もしくは可溶性因子が、損傷した結合組織を保護または修復し、加えて、変性または傷害の部位に新しい機能性組織を生成するために用いることができることを示す。
【0013】
したがって、本発明は、結合組織の分解および/または炎症から起こる対象における疾患を処置および/または予防する方法であって、MPCおよび/もしくはそれらの子孫細胞ならびに/またはそれら由来の可溶性因子を対象に投与する段階を含む方法を提供する。
【0014】
本発明の一実施形態において、結合組織は、プロテオグリカンに富んでいる。結合組織は、軟骨、例えば、硝子軟骨であってもよい。別の実施形態において、疾患は結果として、軟骨に欠陥を生じる。
【0015】
別の実施形態において、方法は、MPCおよび/もしくはそれらの子孫細胞ならびに/またはそれら由来の可溶性因子を対象に投与する段階であって、MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子が欠陥に直接投与されない段階を含む。
【0016】
例えば、その関節を形成する骨の関節面上の軟骨の欠陥を処置または予防するために関節腔に投与してもよい。同様に、周囲の椎間板の欠陥を処置または予防するために椎間板腔に投与してもよい。別の例において、軟骨欠陥近くの部位に静脈内投与してもよい。
【0017】
MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子は、関節内注射によって投与してもよい。関節内注射は、軟骨欠陥または潜在的軟骨欠陥の部位に近い、身体の任意の関節に施してもよい。例えば、関節内注射は、膝関節、股関節、足関節、肩関節、肘関節、手関節、手指関節もしくは足の関節、または椎間板関節に施されてもよい。
【0018】
本発明の別の実施形態において、MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子の投与は、結果として、プロテオグリカンおよびII型コラーゲンに富む軟骨の保持または生成を生じる。プロテオグリカンおよびII型コラーゲンに富む軟骨の例は硝子軟骨である。好ましくは、本発明の方法によって保持または生成される軟骨は、線維軟骨ではなく、その線維軟骨は、I型コラーゲンに富み、II型コラーゲンが非常に少なく、かつ硝子軟骨よりプロテオグリカンの含有量が少ない。
【0019】
「結合組織の分解および/または炎症から起こる」疾患の例には、腱炎、背痛、肩回旋筋腱板変性、手根管症候群、ドケルバン症候群、変形性頸椎および/または腰椎椎間板症、腱交差症候群、反射性交感神経性ジストロフィー症候群(RSDS)、狭窄性腱鞘炎、上顆炎、腱滑膜炎、胸郭出口症候群、尺骨神経絞扼、橈骨管症候群、反復運動過多損傷(RSI)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。硝子軟骨の分解および/または炎症に関連する疾患の例には、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、および血清反応陰性関節炎、炎症性腸疾患または強直性脊椎炎を伴う関節炎、ならびに変性椎間板障害などの関節炎が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0020】
別の好ましい実施形態において、方法はさらに、ヒアルロン酸(HA)を投与する段階を含む。HAは、細胞、上清、および/または因子(複数可)と同じまたは異なる組成物において投与することができる。
【0021】
本発明はまた、MPCおよび/またはそれらの子孫細胞ならびにヒアルロン酸を含む組成物を提供する。
【0022】
本明細書に提示された結果は、移植された培養MPCによって放出される可溶性因子が結合組織保護、生成、および成長を支援することを初めて示す。
【0023】
したがって、本発明はまた、以下を含む組成物を提供する:
i)間葉系前駆細胞(MPC)および/またはそれらの子孫細胞由来の上清、または1つもしくは複数の可溶性因子、ならびに
ii)ヒアルロン酸。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、結合組織の分解および/または炎症から起こる対象における疾患を処置および/または予防するための間葉系前駆細胞(MPC)および/またはそれらの子孫細胞由来の上清、または1つもしくは複数の可溶性因子の使用を提供する。
【0025】
本発明は、広範囲の動物に適用できる。例えば、対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはヒツジなどの哺乳動物であってもよい。一実施形態において、対象はヒトである。
【0026】
本明細書を通して、単語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの語尾変化形は、述べられた要素、整数、もしくは段階、または要素群、整数群、もしくは段階群の包含を意味するが、いかなる他の要素、整数、もしくは段階、または要素群、整数群、もしくは段階群の排除も意味するものではないことは理解されているであろう。
【0027】
本発明は、以下、次の非限定的実施例によって、および添付の図を参照して記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1a】ヒアルロナン(HA)またはHAプラス異なる用量の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された関節についての半月板切除後12週間目の大腿軟骨および脛骨軟骨形態学スコアの平均±SDを示す図である。
【図1b】図1a参照。
【図2a】ヒアルロナン(HA)またはHAプラス異なる用量の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された関節についての半月板切除後12週間目の大腿骨および脛骨の骨棘スコアの平均±SDを示す図である。
【図2b】図2a参照。
【図3】異なる用量の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された動物についての軟骨形態学関節スコアの比率[HA/(MPC+HA)]を示す図である。比率=1である場合、両方の処置は効果が等しい。比率>1は、HAよりMPC+HAが優れていることを示す。
【図4】HA単独に対する異なる用量のMPC+HAを注射された動物についての骨棘スコアの比率[HA/(MPC+HA)]を示す図である。比率=1である場合、両方の処置は効果が等しい。比率>1は、HAよりMPC+HAが優れていることを示す。
【図5a】半月板切除後12週間目のヒアルロナン(HA)または1億個のMPC+HAを注射された関節の軟骨についての組織形態計測的に決定された局所的厚さスコアの平均±SEを示す図である。全脛骨軟骨領域を組み合わせると、HA+1億個MPC>HA(p<0.05)。
【図5b】図5a参照。
【図6】異なる用量の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された動物についてのマンキン改変関節組織病理学スコア合計の平均±SEの比率[HA/(MPC+HA)]を示す図である。比率=1である場合、両方の処置は効果が等しい。比率>1は、HAよりMPC+HAが優れていることを示す。
【図7a】半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目のHAおよびHA+1億個のMPCを注射された関節についての大腿軟骨および脛骨軟骨形態学スコアの平均±SDを示す図である。
【図7b】図7a参照。
【図8a】半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目のHAおよびHA+1億個のMPCを注射された関節についての大腿骨および脛骨の骨棘スコアの平均±SDを示す図である。
【図8b】図8a参照。
【図9】半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された動物についての軟骨形態学関節スコアの比率[HA/(MPC+HA)]を示す図である。比率=1である場合、両方の処置は効果が等しい。比率>1は、HAよりMPC+HAが優れていることを示す。
【図10】半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された動物についての骨棘関節スコアの比率[HA/(MPC+HA)]を示す図である。比率=1である場合、両方の処置は効果が等しい。比率>1は、HAよりMPC+HAが優れていることを示す。
【図11】半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された動物についての修正マンキン関節軟骨組織病理学スコアの平均±SEの比率[HA/(MPC+HA)]を示す図である。比率=1である場合、両方の処置は効果が等しい。比率>1は、HAよりMPC+HAが優れていることを示す。
【図12】ヒアルロナン(HA)またはHA+異なる用量の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された関節からの膝蓋軟骨剛性の平均+/-SEを示す図である。*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。
【図13】ヒアルロナン(HA)または1億個の間葉系前駆細胞(MPC)+HAを注射され、半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目に屠殺された関節からの膝蓋軟骨剛性の平均+/-SEを示す図である。*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。
【図14】ヒアルロナン(HA)またはHA+異なる用量の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された関節からの膝蓋軟骨位相のずれの平均+/-SEを示す図である。*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。
【図15】ヒアルロナン(HA)またはHA+1億個の間葉系前駆細胞(MPC)を注射され、半月板切除後12週間目、24週間目、および52週間目に屠殺された関節からの膝蓋軟骨位相のずれの平均+/-SEを示す図である。*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。
【図16】半月板切除後12週間目の未処置の去勢された雄ヒツジおよび卵巣切除された雌ヒツジについての関節軟骨形態学スコアの比較の図であって、雌群におけるOA病変の有意に高い重症度を示している。
【図17】半月板切除後12週間目の未処置の去勢された雄ヒツジおよび卵巣切除された雌ヒツジについての関節骨棘スコアの比較の図であって、雌群における有意に高いスコアを示している。
【図18a】半月板切除後12週間目にヒアルロナン(HA)またはHA+1億個の間葉系前駆細胞(MPC)を注射された卵巣切除の雌ヒツジの関節からの半月板切除後36週間目の軟骨修正マンキン組織病理学スコアの平均±SDを示す図である。P値=HA対MPC+HA。これらの結果は、単回MPC注射が、脛骨軟骨より大きい程度で6カ月間にわたって大腿硝子軟骨の異常な組織病理学的スコアを低下させることを示している。
【図18b】図18a参照。
【図19】半月板切除後12週間目に関節内注射を施された半月板切除後36週間目の卵巣切除の雌ヒツジの関節についての軟骨修正マンキン組織病理学スコア合計の比率(HA/HA+MPC)を示す図である。比率=1の場合、MPC+HAはHAと等価である。比率>1の場合、MPC+HAはHA単独より保護性が高いことを示す。データ=平均±SEM。これらの結果は、単回MPC注射が、脛骨軟骨より大きい程度で6カ月間にわたって大腿硝子軟骨の異常な組織病理学的スコアを低下させることを示している。
【図20a】半月板切除(MX)後12週間目に注射されなかった関節と比較した、MX後12週間目にヒアルロナン(HA)または1億個の間葉系前駆細胞(MPC)+HAを注射された卵巣切除の雌ヒツジの関節からのMX後24週間目および36週間目の大腿軟骨修正マンキン組織病理学スコアの平均±SDを示す図である。P値は12週間目の注射なし対処置についてである。これらの結果は、単回MPC注射が6カ月間にわたって異常な組織病理学的スコアを低下させることを示している。
【図20b】図20aを参照。
【図21a】半月板切除後12週間目にヒアルロナン(HA)または1億個の間葉系前駆細胞(MPC)+HAを注射された卵巣切除の雌ヒツジの関節からの半月板切除後36週間目の大腿軟骨組織形態計測データを示す図である。示されたデータ=平均±SEM。P値=HA対MPC+HA。これらの結果は、単回MPC注射が、ヒアルロン酸より、6カ月間にわたってより多い硝子軟骨を生成することを示している。
【図21b】図21a参照。
【図21c】図21b参照。
【図22a】半月板切除(Mx)後12週間目に屠殺された非処置の雌ヒツジ、またはMx後12週間目にヒアルロナン(HA)もしくは間葉系前駆細胞(MPC)+HAを注射され、その後12週間後もしくは24週間後に屠殺された雌ヒツジからの関節の組織形態計測的に決定された大腿軟骨厚さの平均±SEMを示す図である。データは平均±SEMとして表される。P値は、12週間目の注射なしに対する処置である。これらの結果は、単回MPC注射が6カ月間にわたって硝子軟骨の厚さを増加させることを示している。
【図22b】図22a参照。
【図23a】半月板切除(Mx)後12週間目に屠殺された非処置の雌ヒツジ、またはMx後12週間目にヒアルロナン(HA)もしくは間葉系前駆細胞(MPC)+HAを注射され、その後12週間後もしくは24週間後に屠殺された雌ヒツジからの関節の組織形態計測的に決定された大腿軟骨面積を示す図である。データは平均±SEMとして表される。P値は、12週間目の注射なしに対する処置である。これらの結果は、単回MPC注射が6カ月間にわたって硝子軟骨を増加させることを示している。
【図23b】図23a参照。
【図24a】半月板切除(Mx)後12週間目に屠殺された非処置の雌ヒツジ、またはMx後12週間目にヒアルロナン(HA)もしくは間葉系前駆細胞(MPC)+HAを注射され、その後12週間後もしくは24週間後に屠殺された雌ヒツジの関節由来の大腿軟骨の総プロテオグリカン(PG)含有量の測定としての組織形態計測的に決定された積分グレースケール密度(IGD)を示す図である。データは平均±SEMとして表される。P値は、12週間目の注射なしに対する処置である。これらの結果は、単回MPC注射が6カ月間にわたってヒアルロン酸注射より有意に多いプロテオグリカン含有軟骨を生成することを示している。
【図24b】図24a参照。
【図25】全てのヒツジ群における間葉系前駆細胞(MPC)で処置された腰椎レベルの概略図である。
【図26】変性ヒツジ椎間板の髄核へのMPCおよびHAの注射後3カ月目および6カ月目の椎間板高の回復の平均を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[一般的な技術および選択された定義]
明確に他に定義がない限り、本明細書で用いられる全ての技術的用語および科学的用語は、(例えば、細胞培養、幹細胞生物学、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、および生化学における)当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有すると解釈されるものとする。
【0030】
他に指示がない限り、本発明で利用される組換えタンパク質、細胞培養、および免疫学的技術は、当業者によく知られた標準手順である。そのような技術は、J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、1巻および2巻、IRL Press (1991)、D.M. GloverおよびB.D. Hames(編)、DNA Cloning: A Practical Approach、1〜4巻、IRL Press (1995および1996)、ならびにF.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの全ての更新を含む)、Ed HarlowおよびDavid Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory (1988)、ならびにJ.E. Coliganら(編)、Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons (現在までの全ての更新を含む)などの出典における文献を通して記載および説明されている。
【0031】
本明細書に用いられる場合、用語「処置すること」、「処置する」、または「処置」とは、特定された状態の少なくとも1つの症状を低減または除去するのに十分な治療有効量の本明細書に定義された上清、可溶性因子、および/または細胞を投与することを含む。
【0032】
本明細書に用いられる場合、用語「予防すること」、「予防する」、または「予防」とは、特定された状態の少なくとも1つの症状の発生を停止または妨害するのに十分な治療有効量の本明細書に定義された上清、可溶性因子、および/または細胞を投与することを含む。
【0033】
本明細書に用いられる場合、用語「間葉系前駆細胞由来」とは、間葉系前駆細胞および/またはそれらの子孫細胞のインビトロ培養から産生される上清、および/または1つもしくは複数の可溶性因子を指す。
【0034】
本明細書に用いられる場合、用語「上清」とは、適切な培地、好ましくは液体培地における間葉系前駆細胞および/またはそれらの子孫細胞のインビトロ培養後に産生される非細胞物質を指す。典型的には、上清は、適切な条件および時間の下で培地において細胞を培養し、続いて、遠心分離などの過程によって細胞物質を除去することによって生じる。上清を、投与前にさらなる精製段階に供していてもよいし、供さなくてもよい。好ましい実施形態において、上清は、105個未満、好ましくは104個未満、より好ましくは103個未満の生細胞を含み、よりいっそう好ましくは生細胞を含まない。
【0035】
本明細書に用いられる場合、用語「1つまたは複数の可溶性」因子とは、培養中、MPCおよび/またはそれらの子孫細胞によって分泌される分子、典型的にはタンパク質を指す。
【0036】
[間葉系前駆細胞(MPC)または子孫細胞、およびそれら由来の上清または1つもしくは複数の可溶性因子]
本明細書に用いられる場合、「MPC」は、多数の多分化能性細胞コロニーを形成する能力がある非造血性STRO-1+前駆細胞である。
【0037】
間葉系前駆細胞(MPC)は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靱帯、腱、骨格筋、真皮、および骨膜に見出される細胞であり、中胚葉、内胚葉、および外胚葉などの異なる生殖系列に分化する能力がある。このように、MPCは、限定されるわけではないが、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織、筋組織、および線維性結合組織を含む多数の細胞型に分化する能力がある。これらの細胞が入る特定の分化系列決定経路および分化経路は、力学的影響、および/または成長因子、サイトカインなどの内因性生理活性因子、および/または宿主組織によって設定された局所微小環境条件からの様々な影響に依存する。このように、間葉系前駆細胞は、時が経てば、不可逆的に分化して表現型細胞を生じるであろう幹細胞または前駆細胞のいずれかである、分裂して娘細胞を生じる非造血前駆細胞である。
【0038】
好ましい実施形態において、MPCは、対象から得られた試料から濃縮される。用語「濃縮された」、「濃縮」、またはその語尾変化形は、1つの特定の細胞型の比率またはいくつかの特定の細胞型の比率が、未処理集団と比較した場合、増加している細胞の集団を記載するのに本明細書で用いられる。
【0039】
好ましい実施形態において、本発明に用いられる細胞はまた、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、CD45+、CD146+、3G5+、またはそれらの組合せである。好ましくは、STRO-1+細胞はSTRO-1brightである。好ましくは、STRO-1bright細胞は、加えて、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、および/またはCD146+の1つまたは複数である。
【0040】
一実施形態において、間葉系前駆細胞は、WO 2004/85630に定義されているような血管周囲間葉系前駆細胞である。
【0041】
細胞について所定のマーカーが「陽性」であると言及する場合、それは、マーカーが細胞表面に存在する程度に依存して、そのマーカーの低(loまたはdim)発現体または高(bright、bri)発現体のいずれかであり得、その用語は、細胞の色分類過程に用いられる蛍光または他の色の強度に関係する。lo(またはdimまたはdull)およびbriの識別は、分類されることになっている特定の細胞集団に用いられるマーカーとの関連において理解される。細胞について所定のマーカーが「陰性」であると本明細書で言及する場合、マーカーがその細胞によって全く発現していないことを意味するわけではない。マーカーがその細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現していること、およびそれが、検出可能に標識されている場合、非常に低いシグナルを生じることを意味する。
【0042】
本明細書に用いられる場合、用語「bright」は、検出可能に標識されている場合、相対的に高いシグナルを生じる、細胞表面上のマーカーを指す。理論に囚われるつもりはないが、「bright」細胞は、試料中の他の細胞より多くのその標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1によって認識される抗原)を発現していることが提案される。例えば、STRO-1bri細胞は、非bright細胞(STRO-1dull/dim)より、FACS分析によって測定されるようなFITCコンジュゲートSTRO-1抗体で標識されている場合、より大きな蛍光シグナルを生じる。好ましくは、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最もbrightに標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の実施形態において、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最もbrightに標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、または少なくとも約2%を構成する。好ましい実施形態において、STRO-1bright細胞は、2ログ光度高い発現のSTRO-1表面発現を有する。これは、「バックグラウンド」、すなわち、STRO-1-である細胞に対して計算される。比較すると、STRO-1dimおよび/またはSTRO-1中間細胞は、2ログ未満光度高い、典型的には、約1ログ光度高いまたは「バックグラウンド」未満光度の発現のSTRO-1表面発現を有する。
【0043】
本明細書に用いられる場合、用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリフォスファターゼの全アイソフォームを含むことが意図される。例えば、その用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)、および腎臓アイソフォーム(KAP)を含む。好ましい実施形態において、TNAPはBAPである。特に好ましい実施形態において、本明細書に用いられる場合のTNAPは、寄託アクセッション番号PTA-7282によりブダペスト条約の条項下、2005年12月19日、ATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞系によって産生されるSTRO-3抗体を結合することができる分子を指す。
【0044】
さらに、好ましい実施形態において、MPCは、クローン原性CFU-Fを生じる能力がある。
【0045】
かなりの割合の多分化能性細胞は、少なくとも2つの異なる生殖系列への分化の能力がある。多分化能性細胞がコミットされ得る系列の非限定的例には、骨前駆細胞;胆管上皮細胞および肝細胞について多分化能である肝細胞前駆体;オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトに発達するグリア細胞前駆体を産生することができる神経限定細胞;ニューロンに発達するニューロン前駆体;心筋および心筋細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵臓ベータ細胞系の前駆体が挙げられる。他の系列には、象牙芽細胞、象牙産生細胞および軟骨細胞、ならびに以下の前駆細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋細胞および骨格筋細胞、精巣前駆体、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、グリア、ニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトの細胞。
【0046】
別の実施形態において、MPCは、培養により造血細胞を生じる能力はない。
【0047】
本発明は、インビトロ培養から生じるMPCおよび/またはそれらの子孫細胞(後者は増殖細胞とも呼ばれる)から得られる、またはそれらに由来する上清または可溶性因子の使用に関する。本発明の増殖細胞は、培養条件(培地中の刺激因子の数および/または型を含む)、継代数などに依存して幅広い種類の表現型を有し得る。特定の実施形態において、子孫細胞は、親集団から約2継代、約3継代、約4継代、約5継代、約6継代、約7継代、約8継代、約9継代、または約10継代後に得られる。しかしながら、子孫細胞は、親集団からいかなる数の継代後でも得ることができる。
【0048】
子孫細胞は、任意の適切な培地で培養することによって得ることができる。用語「培地」は、細胞培養に関連して用いられる場合、細胞を囲む環境の構成要素を含む。培地は、固体、液体、気体、または相および物質の混合物であってもよい。培地には、液体成長培地、および細胞成長を維持しない液体培地が挙げられる。培地には、寒天、アガロース、ゼラチン、およびコラーゲン基質などのゼラチン状培地も挙げられる。例示的な気体培地には、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体上で成長する細胞が曝される気相が挙げられる。用語「培地」はまた、たとえそれが細胞とまだ接触させたことがないとしても、細胞培養に用いることを意図される物質も指す。言い換えれば、細菌培養のために調製された栄養豊富な液体は培地である。同様に、水または他の液体と混合した場合、細胞培養に適するようになる粉末混合物は、「粉末化培地」と名付けてもよい。
【0049】
実施形態において、本発明の方法に有用な子孫細胞は、STRO-3抗体で標識された磁気ビーズを用いて骨髄からTNAP+ MPCを単離し、その後、単離された細胞を培養増殖することにより得られる(適切な培養条件の例として、Gronthosら、(1995)参照)。
【0050】
一実施形態において、そのような増殖細胞(子孫)(少なくとも5継代後)は、TNAP-、CC9+、HLAクラスI+、HLAクラスII-、CD14-、CD19-、CD3-、CD11a〜c-、CD31-、CD86-、CD34-、および/またはCD80-であり得る。しかしながら、本明細書に記載されたものと異なる培養条件下で、異なるマーカーの発現が変化する可能性がある。また、これらの表現型の細胞が増殖細胞集団で優位を占めることがあるが、この表現型(複数可)を有さない細胞はわずかな比率である(例えば、小さいパーセンテージの増殖細胞がCC9-であり得る)という意味ではない。一つの好ましい実施形態において、増殖細胞はまだなお、異なる細胞型に分化する能力を有する。
【0051】
一実施形態において、上清もしくは可溶性因子、または細胞それ自体を得るために用いられる増殖細胞集団は、細胞の少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%がCC9+である細胞を含む。
【0052】
別の実施形態において、上清もしくは可溶性因子、または細胞それ自体を得るために用いられる増殖細胞集団は、細胞の少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%がSTRO-1+である細胞を含む。
【0053】
さらなる実施形態において、増殖細胞は、LFA-3、THY-1、VCAM-1、ICAM-1、PECAM-1、P-セレクチン、L-セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD90、CD29、CD18、CD61、インテグリンβ6〜19、トロンボモジュリン、CD10、CD13、SCF、PDGF-R、EGF-R、IGF1-R、NGF-R、FGF-R、レプチン-R、(STRO-2=レプチン-R)、RANKL、STRO-1bright、およびCD146からなる群から選択されるマーカー、またはこれらのマーカーの任意の組合せを発現してもよい。
【0054】
一実施形態において、子孫細胞は、WO 2006/032092に定義されているような多分化能性増殖MPC子孫(MEMP)である。子孫が導かれ得るMPCの濃縮集団を調製するための方法は、WO 01/04268およびWO 2004/085630に記載されている。インビトロの状況において、MPCは、絶対的純粋な調製物として存在することはまれであり、一般的に、組織特異的にコミットされた細胞(TSCC)である他の細胞と共に存在する。WO 01/04268は、約0.1%〜90%の純度レベルで骨髄からそのような細胞を収集することに言及している。子孫が由来するMPCを含む集団は、ソース組織から直接収集してもよく、または代わりとして、それは、すでにエクスビボで増殖している集団であってもよい。
【0055】
例えば、子孫は、それらが存在する集団の全細胞の少なくとも約0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または95%を含む、実質的に精製されたMPCの収集され、増殖していない集団から得てもよい。このレベルは、例えば、TNAP、STRO-1bright、3G5+、VCAM-1、THY-1、CD146、およびSTRO-2からなる群から選択される少なくとも1つのマーカーが陽性である細胞について選択することによって、達成することができる。
【0056】
MEMPSは、それらがマーカーSTRO-1briが陽性であり、かつマーカーアルカリフォスファターゼ(ALP)が陰性である点で、収集されたMPCから区別することができる。対照的に、単離されたMPCは、STRO-1briおよびALPの両方が陽性である。本発明の好ましい実施形態において、投与される細胞の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%が、表現型STRO-1bri、ALP-を有する。さらなる好ましい実施形態において、MEMPSは、マーカーKi67、CD44および/またはCD49c/CD29、VLA-3、α3β1の1つまたは複数が陽性である。なおさらなる好ましい実施形態において、MEMPは、TERT活性を示さず、および/またはマーカーCD18が陰性である。
【0057】
MPC出発集団は、WO 01/04268またはWO 2004/085630で設定された任意の1つまたは複数の組織型、すなわち、骨髄、歯髄細胞、脂肪組織、および皮膚由来、またはおそらくより広範には、脂肪組織、歯、歯髄細胞、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靱帯、骨髄、腱、および骨格筋由来であってよい。
【0058】
本発明を実施するにおいて、任意の所定の細胞表面マーカーを有する細胞の分離は、いくつかの異なる方法によってもたらすことができるが、好ましい方法は、関係するマーカーに結合物質を結合させ、続いて、結合を示すものを分離することに依存し、その結合は、高レベル結合、または低レベル結合、または結合なしのいずれかである。最も便利な結合物質は、抗体(複数可)に基づいた分子であり、好ましくは、モノクローナル抗体であり、またはこれらの後者の作用物質の特異性によってモノクローナル抗体に基づいている。抗体は両方の段階に用いることができるが、他の作用物質も用いることができ、したがって、これらのマーカーについてのリガンドもまた、それらを有する、またはそれらを欠損する細胞を濃縮するために用いてもよい。
【0059】
抗体またはリガンドを、粗分離を可能にするために固体支持体に付着させてもよい。分離技術は、好ましくは、収集されるべき画分の生存度の保持を最大にする。効力の異なる様々な技術を用いて、比較的粗い分離を得てもよい。用いられる特定の技術は、分離の効率、付随した細胞傷害性、実施の容易さおよび速さ、ならびに洗練された装置および/または技術的熟練の必要性に依存する。分離のための方法としては、抗体コーティング磁気ビーズを用いる磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、および固体マトリックスに付着した抗体での「パニング」を挙げることができるが、それらに限定されるわけではない。正確な分離を提供する技術には、FACSが挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0060】
MPCを単離するための方法は、例えば、高レベル発現のSTRO-1を認識する、例えば、FACSを利用する固相ソーティング段階である第1段階を含むことが好ましい。より高いレベルの前駆細胞発現を生じるように、ただし、それが望まれるならば、特許明細書WO 01/04268に記載されているように、その後、第2ソーティング段階を続けることができる。この第2ソーティング段階は、2つ以上のマーカーの使用を含めてもよい。
【0061】
MPCを得る方法はまた、公知の技術を用いる、第1濃縮段階の前の細胞ソースの採取を含めてもよい。したがって、組織を摘出する。ソースの組織を構成する細胞を、その後、いわゆる単細胞懸濁液へと分離する。この分離は、物理的および/または酵素的手段によって達成することができる。
【0062】
いったん適切なMPC集団が得られたならば、それを、任意の適切な手段によって培養または増殖してMEMPを得てもよい。
【0063】
一実施形態において、細胞を、処置されるべき対象から採取し、標準技術を用いてインビトロで培養し、用いて、自家性または同種組成物としての対象への投与のための上清または可溶性因子または増殖細胞を得る。代替の実施形態において、株化ヒト細胞系の1つまたは複数の細胞を用いて、上清または可溶性因子を得る。本発明の別の有用な実施形態において、非ヒト動物(または、患者がヒトでない場合には、別の種由来)の細胞を用いて、上清または可溶性因子を得る。
【0064】
本発明は、任意の非ヒト動物種由来の細胞を用いて実施することができ、それらの種には、非ヒト霊長類細胞、有蹄動物、イヌ、ネコ、ウサギ目、齧歯類、鳥、および魚の細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。本発明を実行するのに用いることができる霊長類細胞には、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザル、および任意の他の新世界サルまたは旧世界ザルの細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。本発明を実行するのに用いることができる有蹄動物細胞には、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、水牛、およびバイソンの細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。本発明を実行するのに用いることができる齧歯類細胞には、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、およびアレチネズミの細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。本発明を実行するのに用いることができるウサギ目種の例には、家畜のウサギ、ジャックウサギ、野ウサギ、ワタオウサギ、カンジキウサギ、およびナキウサギが挙げられる。ニワトリ(Gallus gallus)は、本発明を実行するのに用いることができる鳥種の例である。
【0065】
本発明の方法に有用な細胞は、使用前、または上清もしくは可溶性因子を得る前に、貯蔵してもよい。真核細胞、特に哺乳動物細胞の保存および貯蔵のための方法およびプロトコールは、当技術分野においてよく知られている(例えば、Pollard, J.W.およびWalker, J.M. (1997) Basic Cell Culture Protocols、第2版、Humana Press、Totowa、N.J.; Freshney, R.I. (2000) Culture of Animal Cells、第4版、Wiley-Liss、Hoboken、N.J.参照)。間葉系幹細胞/前駆細胞またはそれらの子孫などの単離された幹細胞の生物活性を維持する任意の方法を本発明に関連して利用してもよい。一つの好ましい実施形態において、細胞は、凍結保存を用いることによって維持および貯蔵される。
【0066】
[投与および組成物]
(上清または可溶性因子)
本発明の方法は、MPC由来上清または可溶性因子を、典型的には、全身的に、またはインプラントもしくは装置内などの局所的に、投与する段階を含むことができる。
【0067】
一つの特定の実施形態において、本発明は、MPC由来上清または可溶性因子を対象に全身的に投与する段階を含む。例えば、上清または可溶性因子は、皮下または筋肉内注射によって投与することができる。
【0068】
本発明のこの実施形態は、特定の組織の生成または修復が望ましい全身性変性疾患の処置に有用であり得る。このようにして処置することができる全身性変性疾患の例には、骨粗鬆症もしくは骨折、または軟骨の変性疾患が挙げられる。
【0069】
MPC由来上清または可溶性因子はまた、組織の疾患または外傷または不全に起因する軟骨組織を修復または置換して正常とすることを必要とする患者を処置するために、または顔もしくは身体の他の外観を補強するためなどの美容的機能を提供するために用いることができる。処置は、新しい軟骨組織を生成する、および/または既存の軟骨組織を維持するために上清または可溶性因子の使用を必要とする場合がある。例えば、MPC由来上清または可溶性因子は、軟骨状態、例えば、関節リウマチもしくは変形性関節症、または軟骨への外傷もしくは外科的傷害を処置するために用いることができる。
【0070】
MPC由来上清または可溶性因子を含む懸濁液は、適当な注射用油性懸濁液として調製してもよい。適切な親油性溶媒または媒体には、ゴマ油などの脂肪油;またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル;またはリポソームが挙げられる。注射に用いることができる懸濁液はまた、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含んでもよい。任意で、懸濁液はまた、適切な安定剤、または高濃縮溶液の調製を可能にするために化合物の溶解度を増加させる作用物質を含んでもよい。
【0071】
滅菌注射溶液は、必要量の上清または可溶性因子を、上記で列挙された成分の1つまたは組合せと共に適当な溶媒に混合し、必要に応じて、濾過滅菌することにより調製することができる。一般的に、分散液は、基本的な分散媒および上記で列挙されたものからの必要とされる他の成分を含む滅菌媒体に上清または可溶性因子を混合することによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ滅菌濾過したそれらの溶液から活性成分と任意の追加の所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥および凍結乾燥である。本発明の代替の態様に従って、上清または可溶性因子は、その溶解性を増強する1つまたは複数の追加の化合物と共に製剤化してもよい。
【0072】
(細胞組成物)
一実施形態において、本発明の細胞組成物は、未分化細胞、すなわち、成長培地で培養されたような細胞として投与される。あるいは、細胞組成物は、培養後投与してもよい。
【0073】
本発明に有用な細胞組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与してもよい。本発明の組成物と共に投与することができる細胞には、他の多分化能性もしくは多能性細胞、または軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨内層細胞(bone lining cell)、幹細胞、もしくは骨髄細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。異なる型の細胞を、投与の直前もしくは少し前に、本発明の組成物と混合してもよく、または投与前にある期間、一緒に共培養してもよい。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態において、細胞組成物での治療の開始前に、患者を免疫抑制することが必ずしも必要なわけではなく、望ましいわけでもない。したがって、同種の、または異種のMPCもしくはそれらの子孫の移植でさえも、場合によっては許容される可能性がある。
【0075】
しかしながら、他の例では、細胞治療を開始する前に患者を薬理学的に免疫抑制することが望ましい、または適当である場合がある。これは、全身的または局所的免疫抑制剤を用いて達成してもよく、またはカプセルデバイス中の細胞を送達することによって達成してもよい。細胞を、細胞および細胞の治療因子が必要とする栄養分および酸素に対して透過性があり、かつ免疫体液性因子および細胞に対してなお不透過性があるカプセルに被包してもよい。好ましくは、カプセルの材料は、低アレルギー誘発性で、標的組織中に容易かつ安定に位置し、埋め込まれる構造へ保護を加える。移植された細胞への免疫応答を低減または除去するためのこれらを始めとする手段は、当技術分野において知られている。代替方法として、細胞を、それらの免疫原性を低減するように遺伝子改変してもよい。
【0076】
(一般)
「治療有効量」とは、所望の効果に達するのに、必要な投薬および期間において、効果的な量を指す。
【0077】
「予防有効量」とは、細胞アポトーシスまたは組織損傷を防ぐまたは抑制するなどの所望の予防的結果に達するのに、必要な投薬および期間において、効果的な量を指す。
【0078】
投与されるべき上清もしくは可溶性因子、またはMPCもしくはそれらの子孫の量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重などの因子によって異なり得る。投与計画は、最適な治療応答を提供するように調整してもよい。例えば、単回ボーラス投与してもよいし、時間をかけて数個の分割用量を投与してもよいし、用量を、治療状況の緊急事態によって示されるのに比例して減少または増加してもよい。投与の簡便性および用量の均一性のために用量単位形で非経口組成物を製剤化することは有利である場合がある。本明細書で用いられる場合、「用量単位形」とは、処置される対象に対する単位用量として適した物理的に別々の単位を指す;各単位は、必要とされる薬学的担体と共同して所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の所定の量を含む。
【0079】
上清もしくは可溶性因子、またはMPCもしくはそれらの子孫が、薬学的に許容される担体または賦形剤を含む組成物の形態で投与され得ることは理解されるであろう。
【0080】
本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される担体」または「賦形剤」には、生理的適合性がある、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張性吸収遅延剤などが挙げられる。一実施形態において、担体は、非経口投与に適している。あるいは、担体は、静脈内、腹腔内、筋肉内、舌下、または経口投与に適するものとすることができる。薬学的に許容される担体には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射溶液または分散液の即席調製物のための滅菌粉末が挙げられる。薬学的活性物質のためのそのような媒質および作用物質の使用は、当技術分野においてよく知られている。任意の通常の媒質または作用物質が活性化合物と適合しない場合を除いて、本発明の薬学的組成物におけるそれらの使用が企図される。補足的活性化合物もまた、組成物に混合することができる。
【0081】
治療組成物は、典型的には、製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定であるべきである。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または他の秩序構造物として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、および適切なそれらの混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散液の場合は必要とされる粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により、維持することができる。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、または塩化ナトリウムを含むことは好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収については、吸収を遅らせる作用物質、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含むことによりもたらすことができる。さらに、徐放性製剤中、例えば、持続放出性ポリマーを含む組成物中に、刺激因子を投与してもよい。活性化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御性製剤など、急速な放出から化合物を保護する担体と共に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(PLG)などの生分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。そのような製剤の調製のための多くの方法は、特許化されている、または一般的に当業者に知られている。
【0082】
上清もしくは可溶性因子または細胞の組成物は、例えば、可溶性因子の徐放を提供するために、適切なマトリックスと組み合わせて投与してもよい。
【0083】
マトリックス材の選択は、生体適合性、生分解性、力学的性質、表面的な外観、および界面特性に基づいている。組成物のための可能なマトリックスは、生分解性で、かつ化学的に定義された硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ポリ乳酸、およびポリ酸無水物であり得る。他の可能な材料は、骨または皮膚コラーゲンなど、生分解性で、かつ生物学的に十分定義されている。さらなるマトリックスは、純粋なタンパク質または細胞外マトリックス成分で構成されている。他の可能なマトリックスは、焼結ヒドロキシアパタイト、バイオガラス、アルミン酸、または他のセラミックスなどの非生分解性で、かつ化学的に定義されている。マトリックスは、ポリ乳酸とヒドロキシアパタイト、またはコラーゲンとリン酸三カルシウムなどの上記の材料の型のいずれかの組合せで構成されてもよい。バイオセラミックスは、カルシウム-アルミン酸-リン酸などの組成、および加工を変化させて、ポアサイズ、粒子サイズ、粒子形、および生分解性を変化させることができる。
【0084】
MPC由来上清または可溶性因子、MPCまたはそれらの子孫は、修復または増強を必要としている部位へ、外科的に埋め込み、注射、(例えば、カテーテルまたはシリンジを通して)送達、または別な方法で直接的もしくは間接的に投与してもよい。MPC由来上清または可溶性因子の投与経路には、筋肉内、眼、非経口(静脈内を含む)、動脈内、皮下、経口、および経鼻の投与が挙げられる。特定の非経口投与経路には、筋肉内、皮下、腹腔内、脳内、心室内、脳室内、くも膜下腔内、大槽内、脊髄内、および/または脊髄周囲の投与経路が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態において、製剤は、例えば、US 2002/0022676; Ansethら、(2002)およびWangら、(2003)に記載されているような生体内原位置で重合可能なゲルを含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、ポリマーは、水、緩衝塩溶液、または水性アルコール溶液などの水溶液に少なくとも部分的に溶解でき、荷電側基またはその一価イオン性塩を有する。陽イオンと反応することができる酸性側基を有するポリマーの例は、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸のコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)、およびスルホン化ポリスチレンなどのスルホン化ポリマーである。アクリル酸またはメタクリル酸とビニルエーテルモノマーまたはポリマーの反応によって形成される酸性側基を有するコポリマーもまた用いることができる。酸性基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン化(好ましくはフッ素化)アルコール基、フェノール性OH基、および酸性OH基である。
【0087】
陰イオンと反応できる塩基性側基を有するポリマーの例は、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルイミダゾール)、およびいくつかのイミノ置換ポリホスファゼンである。ポリマーのアンモニウム塩または第四アンモニウム塩もまた、バックボーン窒素またはペンダントイミノ基から形成することができる。塩基性側基の例は、アミノ基およびイミノ基である。
【0088】
アルギナートは、水中、室温で、二価陽イオンとイオン架橋結合して、ハイドロゲルマトリックスを形成することができる。これらの穏やかな条件ゆえに、例えば、US 4,352, 883に記載されているように、アルギナートは、ハイブリドーマ細胞カプセル化のために最も一般的に用いられているポリマーである。US 4,352, 883に記載された過程において、カプセル化されるべき生物学的物質を含む水溶液は、水溶性ポリマーの水溶液に懸濁され、その懸濁液は、多価陽イオンとの接触により別々のマイクロカプセルへ形づけられる液滴へと形成され、その後、マイクロカプセルの表面は、ポリアミノ酸で架橋されて、カプセル化物質の周りに半透性膜を形成する。
【0089】
ポリホスファゼンは、交互の一重結合および二重結合によって隔てられた窒素およびリンからなるバックボーンを有するポリマーである。各リン原子は、2つの側鎖に共有結合している。
【0090】
架橋に適したポリホスファゼンは、側鎖基の大部分が酸性で、かつ二価または三価陽イオンと塩橋を形成する能力がある。好ましい酸性側基の例は、カルボン酸基およびスルホン酸基である。加水分解に安定なポリホスファゼンは、Ca2+またはAl3+などの二価または三価陽イオンによって架橋されるカルボン酸側基を有するモノマーから形成される。イミダゾール、アミノ酸エステル、またはグリセロール側基を有するモノマーを組み入れることによって加水分解により分解するポリマーを合成することができる。例えば、水性媒質中、室温またはそれ以下で、溶解多価陽イオンで架橋されて、ハイドロゲルマトリックスを形成する、ポリアニオン系ポリ[ビス(カルボキシラトフェノキシ)]ホスファゼン(PCPP)を合成することができる。
【0091】
生分解性ポリホスファゼンは、多価陽イオンと塩橋を形成する能力がある酸性側基、およびインビボ条件下で加水分解する側基、例えば、イミダゾール基、アミノ酸エステル、グリセロール、およびグルコシルである、少なくとも2つの異なる型の側鎖を有する。
【0092】
側鎖の加水分解は、ポリマーの浸食を生じる。加水分解する側鎖の例は、未置換および置換イミダゾール、ならびに、基がアミノ結合によってリン原子に結合している(両方のR基がこのように付着しているポリホスファゼンポリマーはポリアミノホスファゼンとして知られている)アミノ酸エステルである。ポリイミダゾールホスファゼンについては、ポリホスファゼンバックボーン上の「R」基の一部は、環窒素原子を通してバックボーンのリンに付着したイミダゾール環である。他の「R」基は、メチルフェノキシ基またはAllocockら、(1977)の学術論文に示された他の基などの加水分解に関与しない有機残基であり得る。ハイドロゲル材の合成方法、およびそのようなハイドロゲルを調製する方法は当技術分野において知られている。
【0093】
MPC由来上清または可溶性因子、MPCまたはそれらの子孫は、他の有益な薬物または生体分子(成長因子、栄養因子)と共に投与してもよい。他の作用物質と投与する場合、それらを、単一の薬学的組成物として一緒に、または別々の薬学的組成物として他の作用物質と同時にもしくは逐次的に(他方の作用物質の投与前かまたは投与後のいずれか)、投与してもよい。同時投与することができる生理活性因子には、抗アポトーシス剤(例えば、EPO、EPOミメティボディ(mimetibody)、TPO、IGF-IおよびIGF-II、HGF、カスパーゼ阻害剤);抗炎症剤(例えば、P38 MAPK阻害剤、TGF-β阻害剤、スタチン、IL-6およびIL-1阻害剤、PEMIROLAST、TRANILAST、REMICADE、SIROLIMUS、およびNSAID(非ステロイド系抗炎症薬;例えば、TEPOXALIN、TOLMETIN、SUPROFEN));免疫抑制/免疫調節剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤);mTOR阻害剤(例えば、SIROLIMUS、EVEROLIMUS):抗増殖剤(例えば、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル):コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン);モノクローナル抗IL-2Rα受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、ポリクローナル抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG);抗リンパ球グロブリン(ALG);モノクローナル抗T細胞抗体OKT3))などの抗体;抗血栓剤(例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、PPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)、アンチトロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、アンチトロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤、および血小板阻害剤);および抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェロール、コエンザイムQ-10、グルタチオン、L-システイン、N-アセチルシステイン)、ならびに局所麻酔剤が挙げられる。もう一つの例として、MPC由来上清または可溶性因子、MPCまたはそれらの子孫は、US 5,827,735に記載されているような瘢痕阻害因子と同時投与してもよい。
【0094】
結合組織の変性および/または炎症から起こる疾患を処置および/または予防する場合、上清、可溶性因子、または細胞は、軟骨保護剤と共に投与される。例としては、ポリ硫酸ペントサン(SP54およびCartrophen)、グリコサミノグリカンポリ硫酸エステル(Arteparon)、グリシアミノ-グリカン-ペプチド複合体(Rumalon)、およびヒアルロン酸(Hyalgan)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。さらなる例は、Verbruggen (2005)、ならびにRichetteおよびBardin (2004)によって記載されている。好ましい実施形態において、軟骨保護剤は、ヒアルロン酸である。
【0095】
(フィブリン糊)
フィブリン糊は、様々な臨床設定に用いられている外科的シーラントの類である。当業者が気づいているように、多数のシーラントが本明細書に定義された方法に有用である。しかしながら、本発明の好ましい実施形態は、フィブリン糊の使用に関する。
【0096】
本明細書に用いられる場合、用語「フィブリン糊」は、カルシウムイオンの存在下でフィブリンポリマーの架橋によって形成される不溶性マトリックスを指す。フィブリン糊は、フィブリンマトリックスを形成する生体組織もしくは生体液由来の、フィブリノーゲンまたはその誘導体もしくは代謝産物、フィブリン(可溶性モノマーまたはポリマー)、および/またはそれらの複合体から形成され得る。あるいは、組換えDNAテクノロジーによって産生される、フィブリノーゲンまたはその誘導体もしくは代謝産物、またはフィブリンから形成することができる。
【0097】
フィブリン糊はまた、フィブリノーゲンと(トロンビンおよび/または第XIII因子などの)フィブリン糊形成の触媒との相互作用によって形成することができる。当業者によって認識されているように、フィブリノーゲンは、(トロンビンなどの)触媒の存在下でタンパク分解性に切断され、フィブリンモノマーに変換される。その後、フィブリンモノマーは、架橋してフィブリン糊マトリックスを形成し得るポリマーを形成することができる。フィブリンポリマーの架橋は、第XIII因子などの触媒の存在により増強することができる。フィブリン糊形成の触媒は、血漿、フィブリノーゲンもしくはトロンビンを含む寒冷沈降物または他の血漿画分由来であり得る。あるいは、触媒は、組換えDNAテクノロジーによって産生することができる。
【0098】
凝塊が形成される速度は、フィブリノーゲンと混合されたトロンビンの濃度に依存する。酵素依存性反応であるので、温度が高ければ高いほど(最高37℃まで)、凝塊形成速度は速い。凝塊の引っ張り強さは、用いられたフィブリノーゲンの濃度に依存する。
【0099】
フィブリン糊の使用ならびにその調製および使用のための方法は、米国特許第5,643,192号にHirshらによって記載されている。Hirshは、単一のドナーからのフィブリノーゲンおよびトロンビン成分の抽出、ならびにフィブリン糊として用いるこれらの成分のみの組合せを開示している。米国特許第5,651,982号のMarxは、フィブリン糊についての別の調製および使用方法を記載している。Marxは、哺乳動物において局所用シーラントとして用いる、リポソームを加えたフィブリン糊を提供している。創傷治癒のための局所フィブリノーゲン複合体(TFC)の調製および使用は当分野において知られている。The American Red Crossの国際特許公開第WO96/17633号は、フィブリノーゲン、トロンビン、および塩化カルシウムを含むTFC調製物を考察している。
【0100】
いくつかの刊行物は、治療剤の送達のためのフィブリン糊の使用を記載している。例えば、米国特許第4,983,393号は、アガロース、寒天、生理食塩水、グリコサミノグリカン、コラーゲン、フィブリン、および酵素を含む腟内挿入物として用いる組成物を開示している。さらに、米国特許第3,089,815号は、フィブリノーゲンおよびトロンビンで構成される注射用薬学的調製物を開示し、米国特許第6,468,527号は、身体内の特定の部位への様々な生物学的および非生物学的作用物質の送達を促進するフィブリン糊を開示している。
【0101】
(遺伝子改変細胞の作製)
一実施形態において、上清または可溶性因子の産生のための方法を含む、本発明の方法に用いられる細胞は遺伝子改変されている。好ましくは、細胞は、異種タンパク質を産生するように遺伝子改変される。典型的には、細胞は、異種タンパク質が細胞から分泌されるように遺伝子改変されるであろう。しかしながら、実施形態において、細胞は、(典型的には、RNAサイレンシングのための)dsRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、または(リボザイムまたはDNAザイムなどの)触媒性核酸などの非タンパク質コード機能性ポリヌクレオチドを発現するように改変することができる。
【0102】
遺伝子改変細胞は、改変細胞の成長を支持するのに十分な量の少なくとも1つのサイトカインの存在下で培養することができる。このように得られた遺伝子改変細胞は、直接用いてもよいし(例えば、移植に)、インビトロで培養および増殖させてもよいし、または後での使用のために貯蔵してもよい。改変細胞は、当技術分野においてよく知られた方法によって貯蔵してもよい、例えば、液体窒素中に凍結させてもよい。
【0103】
本明細書に用いられる場合、遺伝子改変は、本明細書に記載された細胞への外因性もしくは外来ポリヌクレオチドの導入、または細胞内の内因性遺伝子の改変を含むいかなる遺伝子改変方法も含む。遺伝子改変には、形質導入(インビトロまたはインビボのいずれかでの、宿主またはドナー由来の宿主DNAのレシピエントへのウイルス媒介性移入)、トランスフェクション(単離されたウイルスDNAゲノムでの細胞の形質転換)、リポソーム媒介性移入、エレクトロポレーション、リン酸カルシウムトランスフェクションまたは共沈殿などが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。形質導入の方法には、産生株細胞との細胞の直接的共培養(Bregniら、1992)、または適当な成長因子およびポリカチオンを含むもしくは含まないウイルス上清のみとの培養が挙げられる。
【0104】
外因性ポリヌクレオチドは、好ましくは、ベクターにおいて細胞へ導入される。ベクターは、好ましくは、挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含む。そのようなベクターを構築するための方法は、当技術分野においてよく知られている。例えば、適切な発現ベクターを構築するための技術は、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、N.Y. (第3版、2000);およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.、New York (1999)に詳細に記載されている。
【0105】
ベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および単純ヘルペスウイルスなどのウイルスベクター;コスミド;プラスミドベクター;合成ベクター;および当技術分野において典型的に用いられる他の組換え媒体が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。プロモーター、およびポリヌクレオチドが機能的に連結され得るクローニング部位の両方を含むベクターは、当技術分野においてよく知られている。そのようなベクターは、インビトロまたはインビボでRNAを転写する能力があり、Stratagene(La Jolla、Calif.)およびPromega Biotech(Madison、Wis.)などの供給元から市販されている。特定の例としては、Stratagene製のpSG、pSV2CAT、pXtl、ならびにPharmacia製のpMSG、pSVL、pBPV、およびpSVK3が挙げられる。
【0106】
好ましいベクターとしては、レトロウイルスベクター(Coffinら、「Retroviruses」、第9章、437〜473頁、Cold Springs Harbor Laboratory Press、1997参照)が挙げられる。本発明において有用なベクターは、当技術分野においてよく知られた手順によって組換えで作製することができる。例えば、WO94/29438、WO97/21824、およびWO97/21825は、レトロウイルスパッケージングプラスミドおよびパッケージング細胞系の構築を記載している。例示的なベクターには、pCMV6bおよびpCMV6c(Chiron Corp.)などのpCMV哺乳動物発現ベクター、pSFFV-Neo、ならびにpBluescript-Sk+が挙げられる。有用なレトロウイルスベクターの非限定的例は、マウス、鳥、または霊長類のレトロウイルス由来のものである。一般的なレトロウイルスベクターとしては、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLVベクター)に基づいたものが挙げられる。他のMoMLV由来ベクターには、Lmily、LINGFER、MINGFR、およびMINTが挙げられる。追加のベクターとしては、テナガザル白血病ウイルス(GALV)およびモロニーマウス肉腫ウイルス(MOMSV)および脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)に基づいたものが挙げられる。マウス幹細胞ウイルス(MESV)由来のベクターにはMESV-MiLyが挙げられる。レトロウイルスベクターにはまた、レンチウイルスに基づいたベクターが挙げられ、非限定的例として、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV-1およびHIV-2)に基づいたベクターが挙げられる。
【0107】
レトロウイルスベクター構築物を作製するにおいて、ウイルスのgag、pol、およびenv配列はウイルスから除去して、外来DNA配列の挿入のための余地を生み出すことができる。外来DNAによってコードされる遺伝子は、通常、末端反復配列(LTR)における強いウイルスプロモーターの調節下で発現する。適当な調節制御配列の選択は、用いられる宿主細胞に依存し、選択は、当業者の技能範囲内である。LTRのプロモーターに加えて、多数のプロモーターが知られている。非限定的例としては、ファージλPLプロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター;モロニーマウス肉腫ウイルス(MMSV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、または脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)のU3領域プロモーター;グランザイムAプロモーター;およびグランザイムBプロモーターが挙げられる。追加として、誘導性または多重調節エレメントを用いてもよい。適切なプロモーターの選択は、当業者にとって明らかであろう。
【0108】
gag、pol、およびenv機能がパッケージング細胞系によりトランスに提供される場合には、そのような構築物は、ウイルス粒子へ効率的にパッケージングすることができる。それゆえに、ベクター構築物がパッケージング細胞に導入される場合、細胞により産生されるgag-polおよびevnタンパク質は、ベクターRNAと組み合わさって、培地へ分泌される感染性バイロンを生じる。このように生じたウイルスは、感染し、標的細胞のDNAへ組み込むことができるが、それは必須のパッケージング配列を欠いているため、感染性ウイルス粒子を生じない。現在使用中のパッケージング細胞系の大部分は、別々のプラスミドでトランスフェクションされており、それぞれが必要なコード配列の1つを含み、そのため、複製能ウイルスが生じ得る前に、複数の組換え事象が必要である。あるいは、パッケージング細胞系がプロウイルスを有する。プロウイルスは無能にされているため、それが感染性ウイルスを構築するのに必要とされる全てのタンパク質を生じ得るが、それ自体のRNAはウイルスへパッケージングされ得ない。組換えウイルスから産生されたRNAが、代わりにパッケージングされる。それゆえに、パッケージング細胞から放出されるウイルス系統は、組換えウイルスのみを含む。レトロウイルスパッケージング系の非限定的例として、PA12、PA317、PE501、PG13、PSI.CRIP、RDI 14、GP7C-tTA-G10、ProPak-A(PPA-6)、およびPT67が挙げられる。
【0109】
他の適切なベクターには、アデノウイルスベクター(WO 95/27071参照)およびアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。これらのベクターは全て、当技術分野においてよく知られており、例えば、Stem Cell Biology and Gene Therapy、Quesenberryら編、John Wiley & Sons、1998;ならびに米国特許第5,693,531号および第5,691,176号に記載されている。アデノウイルス由来ベクターの使用は、それらが非分裂細胞に感染する能力がないため、特定の状況下では有利の可能性がある。レトロウイルスDNAとは違って、アデノウイルスDNAは、標的細胞のゲノムへ組み込まれない。さらに、外来DNAを有する能力は、アデノウイルスベクターにおいてレトロウイルスベクターよりはるかに大きい。アデノ随伴ウイルスベクターは、もう一つの有用な送達系である。このウイルスのDNAは、非分裂細胞へ組み込まれることができ、いくつかのポリヌクレオチドを、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて異なる細胞型へ導入することに成功している。
【0110】
いくつかの実施形態において、構築物またはベクターは、2つ以上の異種ポリヌクレオチド配列を含む。好ましくは、追加の核酸配列は、選択マーカー、構造遺伝子、治療遺伝子、またはサイトカイン/ケモカイン遺伝子をコードするポリヌクレオチドである。
【0111】
選択マーカーは、成功した遺伝子改変をモニターすることを目的として、およびDNAが組み込まれている細胞の選択のために、構築物またはベクターに含めてもよい。非限定的例として、G148またはヒグロマイシンなどの薬剤抵抗性マーカーが挙げられる。追加として、例えば、マーカーがHSV-tk遺伝子である、陰性選択を用いてもよい。この遺伝子は、細胞をアシクロビルおよびガンシクロビルなどの作用物質に対して感受性にさせる。NeoR(ネオマイシン/G148抵抗性)遺伝子は、一般的に用いられているが、遺伝子配列が標的細胞にまだ存在していない任意の便利なマーカー遺伝子を用いることができる。さらに非限定的例として、低親和性神経成長因子(NGFR)、増強蛍光緑色タンパク質(EFGP)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(DHFR)、細菌hisD遺伝子、マウスCD24(HSA)、マウスCD8a(lyt)、ピューロマイシンまたはフレオマイシンに対する抵抗性を与える細菌遺伝子、およびβ-ガラクトシダーゼが挙げられる。
【0112】
追加のポリヌクレオチド配列は、同じベクター上で細胞へ導入されてもよく、または第2のベクター上で宿主細胞へ導入されてもよい。好ましい実施形態において、選択マーカーは、ポリヌクレオチドと同じベクター上に含まれる。
【0113】
本発明はまた、内因性遺伝子が上方制御されて、結果として、野生型細胞と比較して、コードされたタンパク質の産生の増加を生じるように、内因性遺伝子のプロモーター領域を遺伝子改変することを含む。
【実施例】
【0114】
(実施例1:免疫選択されたMPCの増殖および上清の収集)
骨髄(BM)を2歳未満のヒツジから採取する。簡単には、40mlのBMを、前腸骨稜からリチウム-ヘパリン抗凝固剤含有チューブへと吸引する。BMMNCを、以前に記載されているように(Zannettinoら、1998)、Lymphoprep(商標)(Nycomed Pharma、Oslo、Norway)を用いる密度勾配分離によって調製する。4℃、30分間の400 x gでの遠心分離後、ホールピペットでバフィー層を取り出し、5%ウシ胎児血清(FCS、CSL Limted、Victoria、Australia)を含むハンクス平衡塩類溶液(HBSS; Life Technologies、Gaithersburg、MD)で構成される「HHF」中で3回、洗浄する。
【0115】
その後、TNAP+を、以前に記載されているように(Gronthosら、2003; Gronthosら、1995)、磁気活性化細胞ソーティングによって単離した。簡単には、約1〜3×108個のBMMNCを、HHF中10%(v/v)正常ウサギ血清からなるブロッキング緩衝液において氷上、20分間、インキュベートする。細胞を、STRO-3 mAbの10μg/ml溶液の200μlとブロッキング緩衝液中、氷上、1時間、インキュベートする。その後、細胞を、400 x gでの遠心分離によってHHF中、2回、洗浄する。HHF緩衝液中のヤギ抗マウスγ-ビオチン(Southern Biotechnology Associates、Birmingham、UK)の1/50希釈液を加え、細胞を氷上、1時間、インキュベートする。細胞を、上記のように、MACS緩衝液(1%BSA、5mM EDTA、および0.01%アジ化ナトリウムを追加した、Ca2+およびMn2+を含まないPBS)中、2回、洗浄し、0.9mlの最終容量のMACS緩衝液に再懸濁する。
【0116】
100μlストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec; Bergisch Gladbach、Germany)を細胞懸濁液に加え、氷上で15分間、インキュベートする。細胞懸濁液を2回、洗浄し、0.5mlのMACS緩衝液に再懸濁し、その後、ミニMACSカラム(MS Columns、Miltenyi Biotec)にロードし、0.5mlのMACS緩衝液で3回、洗浄して、STRO-3 mAb(アクセッション番号PTA-7282によりAmerican Type Culture Collection(ATCC)に2005年12月19日に寄託された-WO/2006/108229参照)を結合しなかった細胞を回収する。さらに1ml MACS緩衝液を添加した後、カラムを磁石から除去し、TNAP陽性細胞を陽圧によって単離する。各画分からの細胞のアリコートを、ストレプトアビジン-FITCで染色し、純度をフローサイトメトリによって評価することができる。
【0117】
初代培養物を、以前に記載されているように(Gronthosら、1995)、20%ウシ胎児血清、2mM L-グルタミン、および100μm L-アスコルビン酸-2-ホスフェートを追加したα-MEM中に接種することによってMACS単離TNAP+細胞から樹立する。
【0118】
細胞を、条件培地(上清)を収集することができる時点の5代継代まで培養した。
【0119】
(実施例2:去勢された成体雄ヒツジ(wether)の両側の内側半月板全切除によって誘導された初期OAのモデルにおける軟骨完全性への同種の免疫選択された間葉系前駆細胞(MPC)の用量依存性関節内効果に関する研究)
膝関節半月板または半月状軟骨は、関節軟骨潤滑を向上させる役割も果たし、関節結合中の横安定化も提供する、体重を支える重要な構造である。断裂または変性した半月板の外科的除去、すなわち、半月板切除術は、一般的な整形外科的処置であるが、後年の変形性関節症(OA)のリスクの増加と関連していることが知られている(Englund、2004)。外科的に切除された半月板によって前に占有されていた空間における関節滑膜の機械的捕捉は、半月板レプリカの部分的再生をもたらすことが知られている(Moonら、1984)。しかしながら、イヌにおける実験的半月板切除研究の結果により、これらの置換構造が、本来の半月板よりはるかに劣る生体力学的性質をもつ線維組織から本質的に成っていたことが示されている(Ghoshら、1983)。さらに、半月板切除の6カ月後、これらの実験動物の関節におけるOA発症の程度が比較的重症であり、関節軟骨の再成長した構造によって提供される限定的な機能的保護が確認された(Ghoshら、1983a)。OAの大動物および小動物のモデルにより、ヒト患者を用いて得ることが困難である、この疾患の発症中に起こる関節組織における空間的および時間的変化の長期的評価が可能になった(SmithおよびGhosh、2001 )。メリノ種ヒツジにおいて、外側または内側半月板切除は、OAに典型的な、生化学的、生体力学的、および組織病理学的変化を確実に再現することが示された(SmithおよびGhosh、2001 )。ヒツジOAモデルもまた、術後処置の様々なモダリティの結果を調査するために広く用いられているが(Ghosh、1991; SmithおよびGhosh、2001)、今まで、半月板再成長およびOAの進行、ならびにこれらの事象が、関節内間葉系前駆細胞(MPC)治療によってどのように影響され得るかを評価するために用いられたことはない。
【0120】
本発明者らの以前の研究により、メリノ種ヒツジにおける両側の内側半月板全切除(BTM)が、結果として、進行性で、かつ初期ヒト変形性関節症(OA)の発症を刺激する関節軟骨(AC)、軟骨下骨、および滑膜組織における病理学的変化を生じたことが示された。本発明者らは、以前に、潜在的疾患修飾性OA薬を評価するためにこの動物モデルを用いた。
【0121】
(方法)
36匹の去勢した成体メリノ種雄ヒツジにおいてBTMを行った。BTMの2週間後、2mLの高分子量ヒアルロナン(HA)または2mLのHAに懸濁させた2mLの同種Stro-3+ MPCのいずれかを関節にランダムに注射した。以下の4つの用量のMPCを研究した:A群=1千万個のMPC [n=6]、B群=2千5百万個のMPC [n=6]、C群=1億個のMPC [n=18]、およびD群=1億5千万個のMPC [n=6]。A、B、およびD群は、BTM後12週間目に屠殺し、一方、C群はBTM後12週間目[n=6]、24週間目[n=6]、および52週間目[n=6]に屠殺した。
【0122】
剖検において、2人の盲検観察者により、BTM関節の両方の内側コンパートメントを、AC病変および骨棘(OP)について0〜4のスケールを用いてスコア化した。滑膜組織および5mm幅の冠状骨軟骨スライスを、大腿骨および脛骨の正中線から取り出し、加工し、引用された方法を用いて組織病理学的変化(Littleら、1997)および組織形態学的分析(Cakeら、2003)についてスコア化した。
【0123】
全関節からの無傷の膝蓋骨を、関節軟骨の剛性および位相のずれを測定するために組織分布的な生体力学的押し込み研究(biomechanical indentation studies)に供した(Appleyardら、2003)。
【0124】
処置効果についての統計的解析はクラスカル-ワリスノンパラメトリック解析を用いて、特定の群間比較についてはマンホイットニーUパラメトリック解析を用いて行い、p<0.05を有意とみなした。
【0125】
各群のMPC+HA注射された関節およびHA注射された関節についての群平均間比較についての統計的解析は、等分散両側スチューデントT検定を用いて行い、p<0.05を有意とみなした。
【0126】
各群のMPC+HA注射された(処置された)関節およびHA注射された関節由来の膝蓋軟骨間比較についての統計的解析は、独立T検定を用いて行い、p<0.05を有意とみなした。
【0127】
(結果)
BTM後12週間目の肉眼的形態学的スコアは、AC完全性およびOP形成へのMPCの用量依存性効果を示した;1億個のMPCがHA単独と比較して最も効果的な軟骨保護的用量として現れた(図1および2)。ACスコア合計比率(HA+MPC)/(HA)は1億>1億5千万>2千5百万=1千万を示し、OP比率は1億=2千5百万>1千万>1億5千万個のMPCであった(図3および4)。統計学的に有意な(SS)より低いスコアは、総大腿骨および脛骨ACについて観察され(p=0.02)、p=0.052が、HA単独と比較したC群MPC大腿軟骨について観察された(図1)。
【0128】
C群MPC+HA脛骨プラトーの組織形態学的分析により、ACが、中央領域(p=0.057)および外側領域(p=0.028);全領域(p=0.01)において対応するHA-ACより厚いことが明らかにされた(図5)。C群MPC+HA関節由来のAC切片についての修正マンキンスコア平均は、対応するHA切片より低かったが、SSではなかった。さらに、各群からのHA注射された関節および反対側のHA+MPC注射された関節についてのマンキンスコア合計の比率を計算し、プロットした場合、1億個用量のMPCが最も効果的であることが全く明らかであった(図6)。
【0129】
関節軟骨完全性の保持に関する1億個のMPC用量の持続可能性の問題については、注射後22週間目および50週間目、すなわち、半月板切除後24週間目および52週間目に組織の形態学的、組織学的、および生体力学的性質を調査することによって取り組んだ。図7および8から明らかなように、HAおよびHA+1億個のMPCについての形態学的スコアの平均値間の差は、この期間にわたって減少するが、24週間目における治療効果のいくつかの証拠がある。最長52週間の間、骨棘スコアを抑制するにおいて細胞のより強い効果を示したHA/MPC+HAデータにより、この見解は支持される(図10および11)。他方、マンキン組織病理学スコアについての類似したプロットにより、52週間目までに、MPCの保護効果が喪失することが示された(図11)。
【0130】
全動物群の関節由来の膝蓋軟骨に関する生体力学的押し込み研究は、形態学的および組織学的データと概して一致する。しかしながら、軟骨の剛性は、軟骨の厚さによって影響され、その厚さは、時間と共に正常化するが、傷害の初期相において肥厚性であり得る。2千5百万個および1億個のMPC群について測定された膝蓋軟骨の剛性が、他の研究から最も多い損傷組織を示した1千万個および1億5千万個のMPC群より有意に低かったことから、この状況が本モデルに起こっている可能性がある(図12および13)。この解釈は、対応するHA注射された関節と1億5千万個のMPC用量の両方と比較して1億個のMPC群からの膝蓋骨について有意に低かった位相ずれデータによって支持された(図14)。さらに、12週間目に観察された位相ずれ平均値は、半月板切除後24週間目および52週間目に有意に増加していることが見出され、6〜12カ月を超えると、注射されたMPCの有用な治療効果の喪失が確認された(図15)。位相ずれは、軟骨細胞外マトリックスの分子集合を反映し、角度(位相)が小さければ小さいほど、弾性、およびそれに従って変形から回復できる能力が大きくなる(Cakeら、2005)。
【0131】
1億個のMPCを注射された関節について観察された軟骨保護効果は、時間とともに減少した;BTM後12週間目および24週間目に認められた陽性効果は52週間目までに喪失した。
【0132】
滑膜組織病理学変調の証拠はなかった。これらの動物に行われた臨床的および肉眼的臓器病理学により、MPCの全身性有害作用のいかなる証拠も示されなかった。
【0133】
(結論)
これは、本発明者らが知る限りでは、初期OAのモデルにおける軟骨完全性への同種MPCの有益な治療効果の最初の報告である。MPCは、成長因子およびサイトカインを放出し、かつまた、他の細胞によるTNF-αの産生を抑制し、一方で、抗炎症性サイトカイン(例えば、IL-4、IL-10)を上方制御することが知られている。これらのMPCのパラ分泌活性は、新しいマトリックスの軟骨細胞生合成を刺激することができるが、異化メディエーターの局所産生および活性を減弱することもできる。1億個のMPCが軟骨保護性があるというこの研究における所見は、そのような作用機構と一致した。これらのヒツジを用いた研究において生じたデータにより、1億個のMPCの単回の関節内注射によって媒介される軟骨保護効果の持続期間が処置から6〜12カ月間であることが示され、このことは、複数回注射がOA患者の長期管理に必要とされる可能性があることを示唆する。
【0134】
HAの関節内注射が変形性膝関節症の処置に広く用いられているが、この治療が軟骨保護性であるという証拠は限られている(Ghoshら、2002)。しかしながら、関節内HA治療は、OAにおいて症状軽減し、それは作用発現が遅いが、関節内コルチコステロイドを用いるより長く持続することが報告されている(Bellamyら、2006)。
【0135】
(実施例3:卵巣切除の雌ヒツジの後膝関節の両側の内側半月板全切除により誘導された重症変形性関節症のモデルにおける軟骨完全性へのヒアルロナン(HA)または1億個の間葉系前駆細胞(MPC)+HAの関節内注射の相対的治療効果)
膝関節半月板は、正常な関節結合中、損傷から関節軟骨(AC)を保護するのに重要な役割を果たしている(Arnoczkyら、1988)。傷害後のヒトにおける半月板の全部または部分の切除は、一般的に、ACの早期変性および変形性関節症(OA)の進行を生じる(Jorgensenら、1987;Roosら、1998;およびMcNicholasら、2000)。実験的研究により、ヒツジにおける片側または両側の半月板全切除はまた、ACの早期破壊およびOAの早期発症をもたらすことが示されている(Ghoshら、1990; Appleyardら、1999、およびGroshら、1993c)。
【0136】
半月板切除された関節におけるACの機能不全は、軟骨への高限局的ずり応力の負担の結果であるため、両側半月板切除は、反対側の手術していない後肢を用いて支持的に無痛で体重を支えることができる片側半月板切除より、軟骨変性のより速い進行を誘導することが見出された(Ghoshら、1993aおよび1993b; Appleyardら、2003; Littleら、1997、ならびにOakleyら、2004)。さらに、両側半月板切除術を受けた卵巣切除の雌ヒツジはまた、主として循環からの軟骨保護性ホルモン、エストロゲンの枯渇により、成体の去勢された雄(wether)より進行性の高いOAを起こすことが示されている(Parkerら、2003)。これらの理由によって、卵巣切除および両側半月板切除された雌ヒツジは、抗OA剤の疾患修飾活性を研究するためのOAの大動物モデルとして好まれる(Ghoshら、1993; Smithら、1997; Burkhardtら、2001; Hwaら、2001、およびCakeら、2000)。それゆえに、卵巣切除/両側半月板切除されたヒツジのOAモデルが本調査のために選択された。その目的は、プロテオグリカンが豊富な軟骨の成長または再生の誘導および軟骨保護への関節内(IA)投与された同種間葉系前駆細胞(MPC)の効果を、現在用いられている抗OA治療、IAヒアルロナン(HA)と比較して評価することであった。
【0137】
(方法)
公表されている方法を用いて3カ月前に卵巣切除を受けた18匹の成体メリノ種雌ヒツジにおいて両側半月板全切除(BTM)を行った(Cakeら、2004)。BTMに用いられた手術手順および手術後療法は、実施例2に記載された去勢された雄ヒツジBTM研究について記載されたものと同一であった。
【0138】
BTMから12週間後、6匹の雌ヒツジを屠殺し、残りの12匹の半月板切除された雌ヒツジの後膝(膝)関節にランダムに、2mLの高分子量HAまたは2mLのProfreeze(登録商標)プラス2mLのHAに懸濁された1億個のMPCのいずれかを注射した。このMPC+HAの用量は、BTM雄ヒツジモデルにおいて最も有益な軟骨保護効果を与えることが実施例2で示された。半月板切除され、かつ注射された雌ヒツジを、BTM後24週間目および36週間目、すなわち、HAまたはMPC+HA関節内注射後12週間目および24週間目に屠殺する6匹の2つの群に分けた。AC関節不安定化の応答への性別の効果を測定するために、6匹の未処置の去勢された雄ヒツジにもまた、BTMを行い、半月板切除後12週間目に屠殺した。
【0139】
剖検において、関節を開き、半月板を除去し、内側大腿骨および脛骨プラトーを撮影した。記録された画像を、軟骨への肉眼的形態学的変化について2人の盲検観察者により、0〜4のスケールを用いてスコア化した。膝蓋上滑膜ひだおよび5mm幅の冠状骨軟骨スライスを各関節の大腿骨および脛骨の正中線から取り出し、組織学的切片の調製用に加工した。軟骨組織病理は、以前に記載されているように(Littleら、1997)、修正マンキンスコアリングシステムを用いて2人の盲検観察者によって評価された。滑膜組織病理は、Cakeら、2008によって最近記載された判断基準を用いてスコア化された。
【0140】
マンキンスコアリングに用いたのと同じ軟骨塊からの組織学的連続切片をまた、以前に記載されているように(Cakeら、2000; Cakeら、2004)、組織形態学的分析に利用した。この技術は、寸法に関する定量的データおよびトルイジンブルー染色ACのプロテオグリカン含有量の指標を生じるためのコンピュータ支援画像解析(ImagePro Plus v.3.0、Media Cybernetics)を用いる。簡単には、染色された切片の画像を、Microtek Slidescanner 35t plus(Microtek Model No. PTS-1950)によって1300dpiの解像度で取得し、その後、パーソナルコンピュータ上のImage J(登録商標)ソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いて解析した。大腿骨および脛骨切片のデジタル画像を、内側、中央、および外側領域へ細区画し、各領域が、軟骨切片の全領域の約3分の1を表す。システムの空間的較正を、10×10mm高精度網線をスキャンすることにより達成した。このスケールは、その後、インポートされた画像の各領域の長さ(mm)および面積(mm2)を定量するために用いられた。切片の平均厚さについては、面積を長さで割ることによって決定した。TB染色軟骨切片の光学密度(OD)は、平均濃淡値(MGV)(合計濃淡値/ピクセル数)として得られ、プロテオグリカン含有量の指標とみなされた。積分グレースケール密度(IGD)は、MGV×切片の領域面積として計算された。用いられたグレースケールシステムは、独立しては、既知のPG含有量のTB染色切片に対して較正されなかったが、全ての組織学的切片は、同じミクロトーム上で切断され、同じ厚さであり、同じ染色プロトコールを用いるグループとして処理された。それゆえに、軟骨染色の差は、絶対的というよりむしろ相対的である。全ての関節からの無傷膝蓋骨を、屠殺から1時間以内に取り出し、すぐに凍結し、関節軟骨の剛性および位相ずれを測定する局所的生体力学的押し込み研究より前に貯蔵した(Appleyardら、2003)。
【0141】
形態学的および組織学的スコアリングシステムによって評価された、処置結果(HA対HA+MPC)、または処置対BTM後12週間未処置の対照における差を同定する統計的解析を、クラスカル-ワリスのノンパラメトリック解析を用いて、群間差の比較についてはマンホイットニーUノンパラメトリック解析を用いて行い、p<0.05を有意とみなした。
【0142】
デジタル化された組織学的切片の組織形態学的分析により生じたデータを、等分散両側スチューデントT検定を用いて評価し、p<0.05を有意とみなした。異なる処置に関する、およびBTM後の時間の間での膝蓋軟骨生体力学的パラメータの統計的解析は、独立T検定を用いて計算し、p<0.05を有意とみなした。
【0143】
(結果)
BTM後12週間目の未処置雌ヒツジ由来の関節における軟骨浸食および骨棘形成の肉眼的形態学的評価により、このOAモデルが、同じ手術手順を受けた半月板切除の去勢された雄と比較して、疾患のより侵襲的かつ重症の型を示すことが確認された。この未処置の雌対照群について、大腿骨についての平均軟骨形態学的スコアは、このパラメータを評価するために用い最大スコアの87%であり、脛骨については75%であった。同じ手術手順を受けた未処置の半月板切除後12週間目の去勢された雄由来の関節について得られた肉眼的形態学的スコアは、卵巣切除の雌ヒツジについてより有意に低く(図16および17)、これは両側の外側半月板切除術を用いての以前の観察と一致した所見である(Parkerら、2003; Cakeら、2004)。
【0144】
いずれの処置も、ベースラインの未処置の半月板切除後12週間目の雌ヒツジと比べ、24週間目および36週間目により低い平均大腿骨形態学的軟骨スコアを生じたが(データ示さず)、MPC処置とHA処置の関節の間で有意差は検出されなかった。本発明者らは、これを、この重症OAモデルにおいて、肉眼的形態学的病変(浸食および骨棘スコア)の重症度が、これらのパラメータを感度が低すぎて治療の差を検出できないものにしていることを意味すると解釈する。
【0145】
BTM後12週間目の未処置群からの軟骨についての修正マンキン組織病理スコアは、形態学的に評価された軟骨損傷の程度と一致していることが見出された(図16および17)。形態学的パラメータと対照的に、36週間目に、MPC+HAを受けた卵巣切除の雌ヒツジの大腿軟骨についての修正マンキンスコア合計の平均は、HA単独を受けた関節についての対応するスコアより低く、HA単独より有意に低い細胞数(p=0.01)、およびプロテオグリカンについてのより強い領域間トルイジンブルー(IT TB)染色の傾向(p=0.06)を示した(図18)。これらの効果は、脛骨軟骨についてはあまり顕著ではなかった(図18)。
【0146】
HA注射された関節に対して半月板切除後36週間目におけるMPC+HA注射について観察されたより低い修正マンキン組織病理学軟骨スコアは、2つの関節内処置についての平均修正マンキンスコア合計の比率が決定されると、際立った(図19)。各比率は、同じ動物の2つの処置された関節から得られたので、比率=1は、両方の処置が等しく効果的であることを示す。しかしながら、比率>1については、MPC+HA処置がより有益であると言うことができる。図19から明らかであるように、大腿軟骨について得られた比率の平均は、BTM後36週間目における1より有意に高い(1.71)が、2つの処置についての脛骨軟骨比率(1.12)は、ほんのわずかにMPC+HA注射された群を支持している(図19)。
【0147】
次に、本発明者らは、時間をかけてマンキンスコアへの処置の効果を調べた。時間をかけての大腿軟骨への効果の有意差が、半月板切除後24週間目および36週間目、すなわち、注射後12週間目および24週間目におけるMPC+HAとHA単独の処置治療群の間に見出された(図20)。MPC+HAを受けた群において、24週間目および36週間目における平均スコアは、12週間目のベースラインより漸進的に低かった。これは、12週間目の未処置群に対して、24週間目における細胞クローニング(P=0.01)のスコアの低下および向上、ならびに36週間目における細胞数(P=0.04)およびプロテオグリカン(PGs)についての領域間トルイジンブルー染色(P=0.04)のスコアの低下および向上によるものであった(図20)。そのような向上はHA単独群では見られなかった。関節内処置群のいずれについても滑膜病理スコア間の有意差は観察されなかった。
【0148】
組織形態学的分析方法を用いた、BTM後36週間目における注射された関節からの大腿顆の3つの領域(内側、中央、および外側)についての軟骨厚さ、PG含有量の指標としてのTB染色の軟骨の厚さ、面積および強度の分析は、図21に示されている。BTM後36週間目までに、処置群間の有意差は明らかであった。MPC+HA注射された関節からの大腿軟骨は、対応するHA注射された関節の軟骨より有意に厚く(図21A)、かつ有意に大きい面積を占めた(図21B)。MPC+HA注射された関節からの大腿軟骨のより大きな容積は、TB染色された切片の積分されたグレースケール密度から決定されるプロテオグリカンのより高い含有量を伴う(図21C)。
【0149】
再び、これらのパラメータを時間に基づいた分析で比較すると、時間をかけての大腿軟骨への効果の有意差が、半月板切除後24週間目および36週間目、すなわち、注射後12週間目および24週間目においてMPC+HA処置とHA単独処置の治療群間で見出された。同じ組織形態学的方法を用いて、本発明者らは、半月板切除後12週間目に投与されたMPC+HA注射が、HA単独より、その12週間後および24週間後(すなわち、BTM後24週間目および36週間目に)に、漸進的により高いプロテオグリカン豊富な大腿軟骨の成長または再生を生じたことを実証することができた(図22〜24)。このように、12週間目にMPC+HAを注射された半月板切除された雌ヒツジの関節からのBTM後24週間目および36週間目における大腿軟骨は、半月板切除後12週間目の未処置の関節からのベースライン値より、有意に厚く(図22)、かつ一般的に、より大きい面積を有した(図23)。HA注射された関節由来の大腿軟骨の切片からスキャンされた対応する領域は、12週間目の未処置の対照に対して統計的に有意な変化を実証することができなかった(図22および23)。大腿軟骨の切片のPG含有量の測定値として積分されたグレースケール密度は、BTM後12週間目の未処置群由来の関節の同じ軟骨領域に対して、HA注射された関節およびMPC+HA注射された関節の両方について有意に高かったが、MPC+HAに誘導された変化の大きさが、HA単独より有意に大きかった(図24)。MPC+HA群は、ベースラインと比較して、36週間目においてほとんど60%多いプロテオグリカン豊富な大腿骨組織を発生し(P<0.001)、この軟骨成長速度はプラトー期に達することがなく、HA単独群は、プラトー期に達し、約30%だけ多い組織を発生した。これは、MPC+HAでの処置が、ベースラインおよびHA処置単独のいかなる一時的効果に対しても、経過観察の24週間にわたって、プロテオグリカン豊富な軟骨の有意に大きい増加(すなわち、軟骨の成長および/または再生)を刺激したことを示した。
【0150】
注射された関節由来の膝蓋軟骨に関する押し込み研究の結果は、2つの処置について軟骨の生体力学的性質のいかなる差も実証できなかったが、半月板切除後経過した時間およびBTM後12週間目の未処置群に対しての変化は同定された。半月板切除後24週間目におけるMPC+HA由来の膝蓋軟骨の剛性は、12週間目(P=0.05)および36週間目(P<0.01)においてより有意に高かった(データ示さず)。しかしながら、両方の処置は、24週間目と比較して36週間目においてより厚い膝蓋軟骨を生じ(P=0.001)、24週間目はまた、12週間目の未処置対照より低かった(P=0.01)。24週間目および36週間目における両方の処置群についての膝蓋軟骨位相のずれは、12週間目の未処置対照より高かった(P=0.001)(データ示さず)。
【0151】
(考察)
本研究は、卵巣切除された雌ヒツジにおける両側の内側半月板切除が、3カ月後、関節軟骨に、進行性重症OAと一致している病理学的変化を誘導したことを示している。このように、大腿軟骨および脛骨軟骨についての肉眼的形態学スコアは、最大スコアの87〜70%であった。興味深いことに、同じ手術手順を受け、同時(12週間目)に屠殺された去勢された雄は、卵巣切除された雌について観察されたものより重症度が低い軟骨病変を示した。軟骨病理の程度はまた、初期OAの割当と一致している、この群について観察された高い修正マンキン組織病理スコア総計を反映していた(Littleら、1997)。以前の研究は、閉経後の女性におけるOAの強い関連性を同定しており、それは、循環からのエストロゲンの枯渇により説明され(Roosら、2001; Pelletierら、2007、およびNevittら、1996)、卵巣切除された雌ヒツジにおける研究によって支持され(Parkerら、2003およびCakeら、2004)、他のより最近の研究により、脂肪由来のホルモン、レプチンが、軟骨破壊およびOAを媒介するにおいてより重要な役割を果たしている可能性があることが示唆されている(Dumondら、2003およびTeichtahlら、2005)。それゆえに、BTM後の3カ月間は、HAまたはMPC+HAの関節内注射の、これらの作用物質の投与後12週間目および24週間目における軟骨病理の進行速度への相対的効果の評価についての出発点としてみなされた。
【0152】
この研究の結果より、2mLのHAおよび2mLのProfreeze(登録商標)(市販抗凍結剤)に分散した1億個のMPCの、確立した重症OAを有する関節への単回関節内注射が、24週間の介在期間を超えて、関節病理の進行を遅らせ、2mLのHAの単回注射より大きい程度で、プロテオグリカン豊富な軟骨の成長および/または再生を増強し得ることが示された。驚くべきことに、MPCによって媒介された成長/再生および軟骨保護効果は、試験されたパラメータの大部分について、投与後24週間目において、12週間後よりも著しいことが観察され、まだプラトー期に達していない漸進的効果を示した。この所見についての理由は、現在明らかではないが、MPCによって放出されるTGF-βスーパーファミリーのメンバーなどの成長因子、例えば、BMP(Ahrensら、1993; Aggarwalら、2005)が、内側半月板切除により関節にわたって課せられた力学的ストレスの変化に対する軟骨の同化(代償性)相を支援していた可能性がある。この見解は、BTM後12週間目における処置の開始時点よりMPC注射された群においてプロテオグリカンについてのより高い容積およびより強い染色の存在を実証する組織形態学的データによって支持された。これらのマトリックス変化は、軟骨細胞生合成の増加と一致している。重要なことには、同化パラメータの大きさが、一般的に、HA単独よりむしろMPC+HAを受けた動物の軟骨においてより大きいことが見出された。力学的過負荷に対するこの軟骨応答を維持し、かつ増強までもするMPCの能力は、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の多くを含むOAの多くの伝統的な処置により媒介される軟骨細胞代謝への既知の抑制効果と対照をなす(McKenzieら、1976; Ghosh、1988; Brandt、1993および1993a; Huskissonら、1995)。
【0153】
複数回の関節内HA注射は、30年よりも長い間、膝OAの管理のための治療として用いられている。この型の処置が臨床的に症状軽減を与えることがコンセンサスであるが、最近の概説および発表されたHA臨床試験のメタ分析は、関節内注射に関連したより強いプラシーボ効果、盲検調査員の困難性、および公表バイアスに基づいてこの結論の妥当性を疑問視している(Brandtら、2000; Loら、2003)。関節内HAが任意の軟骨保護活性または軟骨再生活性を示すかどうかも論議の的になっている。しかしながら、広範な動物調査では、片側および両側の半月板切除によって誘導されたウサギおよびヒツジのOAモデル、ならびにイヌの前十字靱帯切断によって誘導されたOAモデルにおいて、HAが鎮痛炎症効果および疾患修飾効果を表すことが示されている。異なる分子量のHAでの前臨床および実験に基づいた臨床研究と共にこれらのデータの考察は再検討されている(Ghoshら、2002)。
【0154】
本研究において、単独またはMPCとの併用でのHAの単回関節内注射のみを評価した。本発明者ら自身のデータに基づいて、本発明者らは、MPC+HA併用によって与えられる持続性成長効果および再生効果、ならびに軟骨保護効果はMPCによって媒介されたと結論づける。このことにおいては、一方の関節がHAを受け、反対側の関節が同量のHAに加えて抗凍結剤、Profreeze(登録商標)中のMPCを受けたため、本研究の設計は各動物がそれ自身の対照としての役割を果たすことを可能にした。本研究において両方の膝関節が同時に外科的に不安定化され、かつ注射されたため、関節軟骨に作用する体重負荷の力学的ストレスの大きさおよび性質が両方の関節において同じであったと本発明者らは確信する。
【0155】
本研究から、本発明者らは、既存の重症OAをもつヒツジの関節へのMPC+HAの単回関節内投与が、ベースラインの処置前およびHA注射された対照に対して、処置後24週間目における軟骨細胞外マトリックスの増加によって顕在化されたように、プロテオグリカン豊富な軟骨の成長または再生を生じる。
【0156】
(実施例4:免疫選択されたMPCを用いるヒツジ椎間板再生研究)
(方法)
本研究のために、36匹の同年齢のメリノ種の去勢された雄ヒツジ(月齢約18〜24カ月)を用いた。全36匹のヒツジにおいて、3つの隣接椎間板(L3-L4、L4-L5、L5-L6)に約0.1mlの滅菌生理食塩水中の1.0 IUコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社、日本)を注射し、NPのPGを分解し、除去した。残りの椎間板(L1-L2およびL2-L3)はコンドロイチナーゼABCを注射されず、対照としての役割を果たした。コンドロイチナーゼABCの投与から15週間(±3週間)後、等容量のヒアルロン酸(Euflexxa(登録商標)、(Ferring Pharmaceuticals))と混合した、ProFreeze(商標)寒剤(NAO)中のMPC(0.5×106個)またはProFreeze(商標)NAO単独(Lonza Walkersville Ltd.)を、図25に模式的に同定された椎間板のコンドロイチナーゼABC処理した髄核に投与した。それぞれの実験群を、Table 1(表1)に概要を示しているように、3カ月後および6カ月後に屠殺した。
【0157】
【表1】

【0158】
動物については、以下の時点において誘導麻酔下で腰椎の側面単純X線写真を撮った:0日目(コンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社、日本)の注射)、被験物質投与の日(椎間板変性の誘導後15±3週間目)、および被験物質の注入後3カ月目および6カ月目。X線写真の評価を、IVDの前部、中央部、および後部からの測定値を平均し、(Masudaら、2004)によって記載されているように、それを隣接椎体高の平均で割ることによって計算された椎間板高の指標(DHI)を用いて行った。
【0159】
以下の時点において誘導麻酔下で腰椎のMRIを撮った:0日目(コンドロイチナーゼABC[生化学工業株式会社、日本]の注射)、被験物質投与の日(椎間板変性の誘導後15±3週間目)、および被験物質の注入後3カ月目および6カ月目。椎間板を、Pfirrmann分類システム(Pfirrmannら、2001)を用いてMRIスキャンから段階付けした。
【0160】
組織化学的および生化学的分析のために指定された脊髄運動分節を、骨のこぎりを用いて軟骨終板近くで頭側および尾側の椎体を切り開くことによって単離した。これらの脊髄切片をHistochoice(登録商標)中にひとまとめにして56時間、固定し、5%中性緩衝ホルマリン中10%ギ酸を数回、取り替えて、2週間、常に撹拌しながら、Faxitron HP43855A X線キャビネット(Hewlett Packard、McMinnville、USA)を用いて完全な脱灰が確認されるまで、脱灰した。
【0161】
約5mm厚さの脱灰された検体の複数の矢状スライスを、標準組織学的方法により段階的エタノール溶液に通して脱水し、パラフィン蝋に包埋した。4μm厚さのパラフィン切片をSuperfrost Plusガラス顕微鏡スライド(Menzel-Glaser)上にマウントし、85℃で30分間、その後、55℃で一晩、乾燥させた。その後、切片をキシレン中で脱パラフィンし(4回交換×2分間)、段階的エタノール洗浄(100〜70% v/v)から水道水まで通して再水和させた。矢状スライスから調製された全ての塊からの1つの切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。コード化された切片を、無関係の組織病理学者が調べ、酵素注射のみを施されたそれらのレベルの組織学的特徴と、酵素注射され、その後、MPCを受けたものと比較した。Table 2(表2)に示されているように、4点半定量的段階付けシステムを用いて、椎間板全体の顕微鏡的特徴を評価した。(一般的なグリコサミノグリカン種についての)アルシアンブルーおよび(硫酸コンドロイチン種に特異的な)サフラニンOを含む追加の着色染色もまた調製して、椎間板マトリックス合成の程度を示した。
【0162】
免疫組織化学手順もまた、以前に記載されているように(Melroseら、2003; Melroseら、2002; Melroseら、2000; Melroseら、2002a; Merlroseら、1998; Panjabiら、1985; Raceら、2000; Smit、2002)、Sequenzaカセットおよび使い捨てCoverplate免疫染色システムを用いて行った。内因性ペルオキシダーゼ活性を最初に、組織切片を3%H2O2とインキュベートすることによってブロックした。その後、それを、20mM Tris酢酸緩衝液、pH8.0中コンドロイチナーゼABC(0.25U/ml)で37℃で、1時間、リン酸緩衝液、pH5.0中ウシ精巣ヒアルロニダーゼ1000U/mlで37℃で、1時間、続いて、20mM Tris-HCl、pH7.2、0.5M NaCl(TBS)中3回洗浄、またはプロテイナーゼK(DAKO S3020)で室温、6分間の組合せで前消化し抗原エピトープを露出させた。その後、組織を20%ブタ血清中、1時間、ブロッキングし、大小のプロテオグリカンおよびコラーゲンに対するいくつかの一次抗体で探索した(Table 3(表3))。陰性対照切片もまた、一次抗体を省略するか、または対象となる真正の一次抗体の代わりに無関係のアイソタイプ適合性一次抗体を用いるかのいずれかで処理した。(必要に応じて)市販(DAKO)のアイソタイプ適合性マウスIgG(DAKOコードX931)またはIgM(DAKOコードX942)対照抗体をこの段階に用いた。DAKO製品X931およびX942は、哺乳動物組織において存在することも誘導可能でもない酵素であるアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)グルコースオキシダーゼに対するマウスモノクローナルIgG1(クローンDAK-G01)抗体およびモノクローナルIgM(クローンDAK-G08)抗体である。西洋わさびペルオキシダーゼまたはアルカリフォスファターゼ結合二次抗体を、基質としてTBS中の0.05%3,3'-ジアミノベンジジンジヒドロクロライドおよび0.03%H2O2、Nova RED、ニトロブルーテトラゾリウム/5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸/ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(NBT/BCIP/INT)、またはNew Fuchsinを用いる検出に用いた。染色されたスライドを、明視野顕微鏡により調べ、Leica MPS 60顕微鏡写真機デジタルカメラシステムを用いて撮影した。
【0163】
【表2】

【0164】
【表3】

【0165】
線維輪および髄核の試料を、細かいさいの目状に切った処理塊から切離し、既知の湿重量の組織帯域の代表的な部分を一定の重量まで凍結乾燥した。乾燥した組織の3連分(1〜2mg)を、6M HCl中、110℃で16時間、加水分解し、中和された消化物のアリコートを、組織コラーゲン含有量の測定としてヒドロキシプロリンについてアッセイした(Sakaiら、2005)。乾燥組織の3連分(約2mg)もまた、パパインで消化し、可溶化組織のアリコートを、PGの測定として異染色性色素、1,9-ジメチルメチレンブルーを用いて硫酸化グリコサミノグリカンについてアッセイする(Sakaiら、2005)。
【0166】
運動分節を、生理食塩水浸漬ガーゼに包み、二倍の厚さのポリエチレン袋に密封し、生体力学的試験まで-30℃で凍結した。この処理は、組織の生体力学的特性を変化させないことが示されている(Panjabiら、1985)。生理的負荷を近似する規定のコンピュータ制御状態下で軸圧縮、屈曲、伸展、横曲げ、および軸ねじりにおける各椎間板の剛性を測定する生体力学的試験を行った(Panjabiら、1985; Raceら、2000; Smit、2002; Wilkeら、1999)。試験プロトコールの完全な詳細は他の所で文書化されている(Panjabiら、1985; Raceら、2000; Smit、2000; Wilkeら、1999)。試験用の検体(機能的脊柱単位、FSU)は、2つの隣接する椎骨、介在する椎間板、および付随した靱帯を含んだ。脊柱あたり以下の3つのFSUを試験した:C-ABCのみで分解されただけのレベル、椎間板がC-ABCで分解され、かつその後、ヒアルロン酸のみで処理されたレベル、ならびにC-ABCで分解され、かつその後、ヒアルロン酸およびMPCで処理された中心的レベル。各FSUを2つのアルミニウム合金カップにマウントし、3つのボルトと低温硬化ポリメチルメタクリレート歯科用セメント(Vertex SC Self Curing、Dentimex BV、Zeist、Holland)で固定した。椎間板の正中線が水平に位置することを確実にするように注意した。カップの1つにおいて、だぼを脊柱管を通って穴へ置くことによって運動分節をカップの中央に置く。全ての試験は、37℃に維持された生理食塩水の水浴中で行った。試験開始前に、各FSUを、水和の再現可能状態に達するまで、0.5Mpaのストレスまであらかじめ負荷する。これは、各試験前のベースラインとして用いた。0.5MPaの前負荷ストレスは、リラックスした状態を刺激し、椎間板内圧力のインビボ測定に基づいた。
【0167】
力学的試験は、全ての3つの面において同時モニタリングおよび力の制御を可能にする「自由度6」の負荷セルを備えたModel 8511 Dynamic Servohydraulic Materials Testing Machine (INSTRON Pty Ltd、High Wycombe、UK)を用いて実施した。その機械は、データを記録および分析もするパーソナルコンピュータおよび特注設計のソフトウェアによって制御された。試験データを、軸方向負荷制御かまたはねじり制御のいずれかで5つの正弦波0.1Hz負荷サイクルの最終からの安定なヒステリシスにおいて得た。実施した試験は、純軸圧縮、左および右の横曲げ、組み合わせた屈曲/伸展、ならびに純軸ねじりであった。
【0168】
200Nまでの純軸圧縮をFSUに生じさせ、その負荷には曲げおよび屈曲をほとんど伴わなかった。全ての圧縮試験は、頭側のカップ表面上への点接触を用いて実施した。曲げの中立軸(NAB)は、ごくわずかな曲げに達するように、検体を保持するアルミニウム合金カップ上の点を通して関節に周期性負荷を加えることにより、決定された。この試行錯誤過程は、厳正な点負荷接触を用いてのできる限り純軸圧縮に近づくことを可能にする。検体間のわずかな可変性にもかかわらず、この点は、脊柱管より約10mm前方だが椎間板重心よりわずかに後方の矢状面に見出される。10mm前方および後方にマークを付け、かつ曲げ試験のためのオフセット負荷を位置づけるためにNABの左側および右側にマークを付けた。200Nの最大圧縮負荷を各点に加え、2Nmの曲げおよび200Nの軸圧縮を生じた。
【0169】
保存的な曲げおよび圧縮負荷は、椎間板、後部要素、終板、および他の靱帯構造が損傷されてないことを保証するように選択された。純曲げはこの負荷方法を用いて生じなかった。その代わり、曲げおよび軸圧縮の組合せは、組み合わされた屈曲/伸展および横曲げ試験のために存在した。これは、インビボ負荷が純曲げを生じることはめったになく、むしろ圧縮および曲げの組合せを生じることを考慮すれば、正当化されたと本発明者らは考える。いずれの負荷の場合にしても、全ての負荷は、各検体に一貫して加えられ、力学的応答の直接的比較を可能にした。
【0170】
ねじれ試験については、5Nmの純軸ねじれを加える。これは、他の研究から推定され、かつ適用されたトルクの生理学的範囲内であった。各FSUへ純ねじれを与える、新規の特注設計のねじれ試験システムを用いる。このシステムは、ボールスクリュー/スラストプレート機構を用いて、インストロンアクチュエータの軸方向変位量を純回転に変換する。X-Y軸受けテーブルは、FSUが、試験中、それに課せられる回転の固定中心を有さないことを確実にする。回転の中心は軸回転中、一定ではないので、これは重要である。下部カップをトルク変換器に固定し、上部カップをX-Y軸受けテーブルおよびボールスクリュー/スラストプレート機構に固定した。
【0171】
全ての試験は、最初は無傷のFSUで行った。いったん完了したならば、椎間板を、小さな弓のこ刃を用いて後部要素を切り開き、神経孔を貫通して後方に切ることによって、単離した。これは、関節突起間関節ならびに棘間および棘上靱帯を切り開き、椎間板、後縦靱帯および前縦靱帯を無傷のままにしておく。関節突起間関節間の接触がないことを確実にするためにより一層後方に楔型に切れ目を入れた。その後、全ての試験を、単離された椎間板上で繰り返した。
【0172】
データ分析は、5番目の負荷サイクル中の線形領域における剛性、ヒステリシスおよびひずみエネルギー、ならびに中立帯の程度などのパラメータを含んだ。対照レベルからのデータは、変性/MPC注射のレベルと比較し、反復測定分散分析は、生体力学的パラメータのそれぞれについて行った。
【0173】
(結果)
MPC注射された群における全ての動物は、正常な体重を維持し、実験の持続期間にわたって有害な副作用の証拠を示さなかった。
【0174】
コンドロイチナーゼABC注射された椎間板において、この酵素によるPGの枯渇は、3カ月後、全ての注射された椎間板において椎間板高指標(DHI)の38%減少を生じた。この椎間板高の損失は、処置前の髄核の変性状態を確認し、これまでMPC前DHIと呼ばれている。変性椎間板へのHAまたはMPC+HA注射後3カ月目は、MPC前DHIに対してDHIの少しの有意な増加も生じることができなかった(図26)。しかしながら、処置後6カ月目までには、MPC+HAを注射された椎間板は、対応する3カ月スコアに対してDHIの52%の平均増加を示した(群1)(図26およびTable 4(表4))。対照的に、HA単独を注射された椎間板は、同じ期間にわたってDHIスコアの23.1%平均改善を示しただけであった(図26およびTable 4(表4))。重要なことには、低MPC+HA注射された椎間板の平均DHIは、処置後6カ月目には、コンドロイチナーゼABC注射されていない(すなわち、非変性)対照椎間板についてのDHAスコアに匹敵した(図26)。
【0175】
HAまたはMPC+HA注射後6カ月目対3カ月目についての統計的解析はTable 4(表4)に示されている。
【0176】
実験的に作製された変性IVDの髄核への高分子量ヒアルロン酸(HA)などの適切な担体と共のヒツジMPCの投与は、椎間板高の回復によってX線写真上で評価されるように、椎間板細胞外マトリックスの再生を促進することが本実験で示されている。この解釈は、負荷が与えられた脊柱において、椎間板高がNPおよび内側輪内の高濃度のマトリックスプロテオグリカンの存在によって維持され、マトリックスプロテオグリカンが、それらの結合した水分子と共にこの構造に高い膨潤圧を与えるという仮定に基づいている。実際、これらの実験の開始時点における椎間板変性を誘導するためのコンドロイチナーゼABCの使用は、NP細胞外マトリックスからプロテオグリカンの大部分を分解および除去するこの酵素の能力に依存していた。
【0177】
今まで得られたデータにより、MPCによって媒介された治療効果は比較的ゆっくりとした過程であることが示唆されている。本研究において、0.5×106個のMPCの用量が特に効果的であった。
【0178】
本実験は、MPCを椎間板に注射した後6カ月目に終了したが、低用量MPC注射について得られた椎間板高回復のレベルは、コンドロイチナーゼABC注射されていない内部対照について観察された値に近いことが見出され、NP再構成の最大程度はこの期間の間に達成されたことを示唆した。
【0179】
多数の変形および/または改変を、広く記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示された本発明になすことができることは当業者に認識されているであろう。それゆえに、本実施形態は、全ての点において例示としてみなされるべきであり、限定的とみなされるべきではない。
【0180】
本明細書で議論および/または参照された全ての刊行物は、全体として本明細書に組み入れられている。
【0181】
本明細書に含まれているいかなる文書の考察、行為、材料、装置、物品なども、本発明についての状況を提供することを目的とするのみである。それは、本出願の各特許請求の範囲の優先日前にそれが存在していたので、これらの事柄のいずれかまたは全部が先行技術基盤の一部を形成する、または本発明の関連分野においてありふれた一般的な知識であるという承認としてとられるべきではない。
【0182】
【表4】

【0183】
(参考文献)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合組織の変性および/または炎症から起こる対象における疾患を処置および/または予防する方法であって、MPCおよび/もしくはそれらの子孫細胞ならびに/またはそれら由来の可溶性因子を対象に投与する段階を含む方法。
【請求項2】
結合組織がプロテオグリカンに富んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
結合組織が軟骨である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
疾患が結果として、軟骨に1つまたは複数の欠陥を生じる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子が軟骨欠陥へ直接投与されない、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子が関節腔に投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
関節腔が、膝関節、股関節、足関節、肩関節、肘関節、手関節、手指関節もしくは足の関節、または椎間板関節にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子が関節内注射によって投与される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
MPCおよび/もしくは子孫細胞ならびに/または可溶性因子の投与が、プロテオグリカンに富んでいる軟骨の保存または生成を生じる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
プロテオグリカンに富んでいる軟骨が硝子軟骨である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
疾患が、腱炎、背痛、肩回旋筋腱板変性、手根管症候群、ドケルバン症候群、変形性頸椎および/または腰椎椎間板症、腱交差症候群、反射性交感神経性ジストロフィー症候群(RSDS)、狭窄性腱鞘炎、上顆炎、腱滑膜炎、胸郭出口症候群、尺骨神経絞扼、橈骨管症候群、反復運動過多損傷(RSI)、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、血清反応陰性関節炎、炎症性腸疾患または強直性脊椎炎を伴う関節炎、ならびに変性椎間板障害である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ヒアルロン酸(HA)を投与する段階をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
i)間葉系前駆細胞(MPC)および/またはそれらの子孫細胞由来の上清、または1つもしくは複数の可溶性因子、ならびに
ii)ヒアルロン酸
を含む組成物。
【請求項14】
i)間葉系前駆細胞(MPC)および/またはそれらの子孫細胞、ならびに
ii)ヒアルロン酸
を含む組成物。
【請求項15】
対象において結合組織を生成、修復、および/または維持するための、間葉系前駆細胞(MPC)および/またはそれらの子孫細胞由来の上清、または1つもしくは複数の可溶性因子の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18a】
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【図18b】
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【図19】
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【図20a】
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【図20b】
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【図21a】
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【図21b】
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【図21c】
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【図22a】
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【図22b】
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【図23a】
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【図23b】
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【図24a】
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【図24b】
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【図25】
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【図26】
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【公表番号】特表2010−535715(P2010−535715A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519309(P2010−519309)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001137
【国際公開番号】WO2009/018613
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(505362089)アンジオブラスト・システムズ・インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】