ウイルスのDLC8への結合を阻害するアフリカブタコレラウイルス由来の新規抗ウイルス性ペプチド
ウイルスのDLC8への結合を阻害する新規抗ウイルス性ペプチド。多くのウイルス由来の病原体は、感染サイクルのある時点において、ダイニンに基づく細胞内輸送機構を使用する。本発明は、主としてウイルスタンパク質と細胞のDLC8タンパク質との相互作用を阻害する干渉メカニズムによる、ダイニンシステムを使用するウイルスによってもたらされるウイルス感染を阻害することから構成される、新規抗ウイルス療法からなる。本発明は、その配列が、DLC8との結合ドメインに相当するウイルスタンパク質の全体又は部分配列を含む又はそれら配列からなるペプチドによる、この相互作用の機能の阻害を初めて開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗ウイルス性化合物の開発、並びに、動物又はヒトにおけるウイルス感染の防止又は治療にそれらを使用するための技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、細胞内寄生体であり、細胞内でそれらの複製サイクルが首尾よく行われ得るようにするために、特定の細胞の機能との統合性を必要とする。ダイニンは、様々なウイルスモデル、例えば、狂犬病ウイルス、ヒト単純ヘルペスウイルスタイプI又はヒト免疫不全ウイルス等におけるウイルス感染の様々なステップに関連する役割を有することが示されている。ダイニンは、微小管のモータータンパク質であり、微小管に関連する細胞内輸送及びエンドソーム経路に介在し、いくつかある機能の中でも特にその機能は、細胞内シグナルの様々な翻訳経路のモジュレーターである。ウイルスは、その内在化及び細胞内輸送のために、また、新しいビリオンが産生されるウイルスファクトリーを形成するため、並びに、これら及びその他のプロセスの協調に必要な細胞のシグナル伝達を制御するために、ダイニンを使用する。
【0003】
特に、アフリカブタコレラウイルス(ASFV)のタンパク質p54は、微小管のモーター複合体の一部である細胞性タンパク質(ダイニンと称される)と相互作用し、その機能は本質的に、細胞内輸送に関連する[1]。この相互作用は、ウイルスのp54タンパク質に対する潜在的な相互作用タンパク質に関してブタマクロファージcDNAライブラリー中の相互作用タンパク質を探索する、酵母(異種系)におけるダブルハイブリッドシステムを用いて見出された。p54のコード配列(E183L遺伝子)は、BA71V分離株の完全配列中に含まれ、NCBIデータベース中に登録番号UI8466で寄託されている。取得し陽性と同定されたクローンを配列決定することにより、それらが、DLC8、LC8、DLC1、DNLC1又はPIN(神経型一酸化窒素合成酵素の阻害タンパク質)と称される、8キロダルトン(kDa)の軽鎖ダイニンの完全なコード配列を含むことが発見された。Sus scrofaにおけるDLC8のコード配列は、NCBIデータベースに番号AF436777で寄託されている。これらの結果は、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降法及び共焦点顕微鏡による両成分の共局在化を含む別のタイプの技術を用いて確認された。それらの結果は、ASFVのp54タンパク質とDLC8との間の相互作用を裏付けるのみであった。
【0004】
DLC8は、進化的に遠い種間(線虫からヒトへ)で高度に保存されているヌクレオチドアミノ酸配列を有するタンパク質である[2,3]。細胞質のダイニンは、微小管を通じて様々な負荷を駆動する、分子モーターのファミリーである。それらは、細胞の外部から内部、核又は核周辺領域への、小胞、エンドソーム及び細胞小器官の輸送を担う。それらは大きな多タンパク質複合体であり、球状の頭部と、動きをもたらすために必要なエネルギーの生成を担うATPアーゼ活性とを有する1〜3個の重鎖により構成される。これらの重鎖には、様々な数の中間鎖及び軽鎖が結合している。後者は、輸送する負荷との直接の相互作用を担っている。これまでに、7つのファミリーの軽鎖が記述されており、その中に、我々はDLC8を見出し得る。DLC8は、インビボで二量体として配置されており、これにより、二つの単量体間で異なる配列からなる2つの同一の結合場所が存在し得る。
【0005】
細胞性タンパク質に関し、細胞性タンパク質との2タイプの選択的結合部位(それによってそれらが相互作用する)が、DLC8について発見されている[12,13]。モチーフの1つである(Lys/Arg)XThrThr(Xは任意のアミノ酸)は、ダイニンの中間鎖、プロアポトーシス分子Bim、Kid1及びSwallow転写因子及び様々な起源由来のいくつかのウイルスタンパク質等の一連の分子とDLC8を結合させる。この結合部位は、DLC8分子の2つの二量体の間に位置する。第2のモチーフは、GIy(Ile/Val)GlnValAspであり、これは、これまでに記述されているように、DLC8を、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)又は、ニューロンの足場タンパク質と結合させる。
【0006】
ウイルスタンパク質のダイニンへの結合に必要とされるアミノ酸残基を同定するために、p54タンパク質のいくつかの切断型断片を酵母系において発現させて試験することにより、DLC8との結合領域が、Tyr149とThr161との間に含まれる13アミノ酸(TyrThrThrThrValThrThrGlnAsnThrAlaSerGlnThr)のp54タンパク質のカルボキシ末端に位置することを調べた[1]。
【0007】
いくつかのウイルスは、宿主細胞内におけるそれらの感染サイクルの様々な場合において、軽鎖ダイニン(DLC8)を利用する。ペプスキャンと呼ばれる技術により、ウイルス由来の様々なタンパク質の直鎖状配列を擬したペプチドを合成して、濾紙上にブロットし、DLC8をプローブとすることにより、どの直鎖状配列がその相互作用に適当であるかを調べた[10]。適当といえるレベルには満たないと思われる直鎖状配列も、理論的には、DLC8との結合に適し得る。これらは、高い頻度でGln(Q)残基を含み、以下の配列において連続するT残基(Thr)を含む場合も多い:
−アフリカブタコレラウイルスのp54タンパク質のTyrAlaSerGlnThrモチーフ
−呼吸器合胞体ウイルスの結合糖タンパク質のTyrSerThrGlnThrモチーフ
−狂犬病ウイルス及びモコラウイルスのPタンパク質、ヒト単純ヘルペスウイルスのヘリカーゼ、アデノウイルスプロテアーゼ、又はA.mooreiエントモポックスウイルスのLysSerThrGlnThrモチーフ
−ヒトパピロウイルスのE4タンパク質、又はワクシニアウイルスポリメラーゼのLysGlnThrGlnThrモチーフ
−ヒトヘルペスウイルスの遺伝子U19のLysGlnThrGlnThrモチーフ
−ヒトコクサッキーウイルスのキャプシドのタンパク質のArgValMetGlnLeuモチーフ等。
【0008】
いくつかの直鎖状ウイルスタンパク質配列が、理論的にDLC8と結合し得ることが判明しているとしても、このことにより、これらの配列の全てが、天然の形態のタンパク質においてその相互作用に好適であり、又は、その分子がインビボでモーター複合体中に統合されるのに適しているはずであることが除外されるものではない。また、それらのウイルス配列は、ウイルス粒子中である程度露出されていることは実証されておらず、それらの推定結合部位が実際にDLC8と結合し得ることも実証されておらず、及び/又は、これらのウイルスタンパク質が、感染時にダイニンに接近し得る細胞内区画、例えば、細胞質ゾル(小胞体又はその他の離れた細胞小器官及び構造体ではない)中で合成されるか否かについても実証されていない。さらに、これらの直鎖状配列のいずれも、いかなる手段によっても所定のタンパク質のDLC8との結合を阻害し得ることが今日まで示されておらず、最終的に、この部位のブロッキングが感染の阻害をもたらし得ることには何の保証もない。実際、上述したように、DLC8分子あたり2つの推定結合部位が存在し、又、任意の所定のウイルスにより代替的に使用され得る、多くのその他の軽鎖及び中間鎖が存在する。要するに、これらの知見の何ひとつとして、この部位の阻害が相互作用を妨害することも、ウイルス感染を妨げ得ることも実証しておらず、上記配列が抗ウイルス性化合物として有用であり得ることを何ら保証しない。
【0009】
さらに、任意のペプチドが抗ウイルス剤として使用される候補であるためには、何らかの手段により、適切に細胞内環境に到達する必要があり、生細胞中において毒性が全くないか、毒性が非常に低いことが保証されねばならない。アミノ酸配列が、ウイルスタンパク質とDLC8との間の結合に関与すると認められ得るという事実は、それらの配列が一次(直鎖状)構造である場合、それらの直鎖状配列が、ウイルスタンパク質とDLC8との相互作用を阻害し得、したがって、それらのアミノ酸配列を含むペプチドが抗ウイルス性化合物として機能し得るということを除外するものではない。タンパク質−タンパク質相互作用をブロックするのに適したペプチド配列を設計するために、(例えば、それらの核磁気共鳴スペクトルにより)両方の相互作用面を分析すべきである。その理由は、直鎖状アミノ酸配列が、細胞内でより複雑な構造で折り畳まれている場合に、例えば、微小管モーター複合体と呼ばれる高分子複合体に結合している場合、DLC8又はウイルスタンパク質のいずれかとの結合に関与するアミノ酸残基を隠す場合があり、したがって、折り畳まれた二次構造のペプチドが何ら抗ウイルス活性を示し得ない、という事実に基づいている。また、インビトロ、又は、酵母のような異種系が結合に関与し得る規定された配列が、ウイルス粒子との関連で顕在化されない場合があり、且つ/又は、離れた細胞小器官及び構造体において合成される場合があり、このことにより、その配列は、哺乳動物細胞における感染時の細胞タンパク質へと接近し得ないこととなる。この場合の全てにおいて、理論的に相互作用をブロックし得るペプチドは、何ら抗ウイルス活性を示さないであろう。さらなる理由は、直鎖状ペプチドが、細胞の細胞質ゾル中に溶解している場合には、凝集体を形成し、その結果、DLC8又はウイルスタンパク質のいずれかとの結合を担うアミノ酸を再び隠してしまい得ることである。それらの凝集したペプチドは、いずれも抗ウイルス特性を示さないであろう。新規抗ウイルスペプチドの設計における別の重要な面は、非感染細胞におけるそれらの毒性に関する。市販の抗ウイルス性薬物は、好ましくは、非感染細胞の細胞生存性及び細胞増殖性に影響を与えることなく、ウイルス感染を防止及び/又は阻害する必要がある。最後に重要なこととして、本発明は、このモチーフ周辺のアミノ酸が、DLC8−ウイルスタンパク質結合領域(特に、それらの疎水性)に関与し、それらが、真の抗ウイルス性化合物とみなされるために、それらペプチドの結合阻害能において重要な役割を果たすことを見出した。ウイルスタンパク質のDLC8との結合の効率的阻害を達成する抗ウイルスペプチドは、細胞の細胞質ゾル中に十分に溶解されている必要があり、したがって、結合モチーフに隣接するアミノ酸の疎水性及びプロリン含量が重要である。
【0010】
これらの全ての理由のために、ウイルスが細胞のダイニンを利用することを妨害することによる、すなわち、ウイルス起源の様々なタンパク質がダイニンを適当に利用することを可能にするその機能又は結合部位のいずれかをブロックすることによる、ウイルスの感染をブロックするための抗ウイルス戦略を作成する必要がある。しかしながら、いくつかの重複する部分アミノ酸配列(それらのウイルス中に存在する)は、DLC8に対する結合モチーフ、例えば、KSTQT又はGIQVDとして繰り返すが、ウイルス−DLC8相互作用が効率的に起こり得るか否かを評価するためには、隣接する残基を調べることも重要である。それらのアミノ酸における具体的な変化を、DLC8との相互作用を無効にするそれらの能力を評価した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
我々は、ウイルスモデル(アフリカブタコレラウイルス,ASFV)を用いることにより、DLC8−ダイニン系の妨害が、感染のブロックを引き起こし、そのことが、本発明の目的を構成する新規な抗ウイルス戦略のための主要な試験を提供することを示した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
我々は、相互作用に関与するタンパク質のいくつかの相互作用ドメインとその隣接配列を比較し、この情報を、対のタンパク質の相互作用の主要なアンタゴニストとして機能するペプチドを設計するために使用した。このペプチドは、相互作用するが、同時に、適切に細胞内環境に到達するためにタグ付けされており、又、抗ウイルス性化合物が、主として、上述の条件:所定の条件においてウイルスタンパク質−DLC8結合を特異的に阻害すること、細胞質ゾル中での接近可能性及び溶解性、凝集体形成が無いこと、及び、細胞生存率と増殖能に障害を及ぼさないこと(細胞毒性が無いこと)、を満たすべき全ての要件を満たすものである。
【0013】
結論として、本発明は、感染の成功に必要な工程としてウイルスがダイニン−DLC8と結合するその配列(全体又は部分)に基づいて設計された抗ウイルス性ペプチド化合物の使用を初めて開示し、それらのペプチドは、感受性を有する細胞においてウイルス感染を効率的に阻害し、明示可能な抗ウイルス効果を有することが示される。ウイルス−DCL8相互作用の阻害は、ウイルスによる細胞変性効果の阻害及び感染細胞数の劇的な減少に反映される。また、この化合物の抗ウイルス効果は、細胞あたりのウイルスゲノムコピーの減少(これは、細胞中に見られるウイルス複製の減少を反映する(単位ng/μl))に関し、定量的PCRを用いてそれらの相対効率を比較するよう定量的に測定し、その結果としてのウイルス生成及びウイルスタンパク質合成の有意な減少をも測定した。本発明は、感染の進行を防止する、様々なASFV分離株のp54配列に基づいて作製され、抗ウイルス療法の基礎となるペプチドにより例示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】抗ウイルス性ペプチドの設計。多様な起源由来の様々なウイルス分離株中に存在するウイルスASFVタンパク質p54の配列分析の比較に基づき、我々は、保存モチーフを含有させ、様々なウイルス分離株間で違いを有する、ウイルスタンパク質中に実際に存在する配列の中から、最も好ましい隣接配列を選択することにより、一連のペプチドを設計した(表1)。
【図2】相互作用のNMR動態及び活性ペプチドによる阻害。A,NMR解析のための15−N標識DLC8及びp54の取得及び精製。様々な滴定ポイントにおける15N−標識DLC8の1H−15N HSQCスペクトル;B,遊離DLC8;C,遊離DLC8(黒色スペクトル)と2等量(eq)の非標識p54(灰色スペクトル);D,遊離DLC8(黒色スペクトル)と5等量のペプチドPS19(配列番号2)及び2等量の非標識p54(灰色スペクトル);E,遊離DLC8(黒色スペクトル)と5等量のペプチドPS19及び2等量の非標識p54(灰色スペクトル)、及び、2等量の非標識p54(灰色スペクトル)。
【図3】ペプチドの細胞中への内在化の実証。アルギニンリッチ分子トランスポーターと結合した様々な濃度のペプチド構築物と共に1及び3時間インキュベートした、ベロ細胞中でのフルオレセイン標識ペプチドCOVA2(配列番号7)の分布(COVA2)。FITC標識されたペプチド(COVA2)は、100μMのペプチド濃度で細胞に100%内在化される。
【図4】細胞へのウイルス感染並びに本発明のペプチドCOVA1(配列番号6)の活性による感染の阻害の概略図。1.前の晩までに、5%DMEM中、9x104/cm2の密度で培養したベロ細胞。2.ペプチドの内在下のために、300μlの溶液を、DMEM SC中の0〜100μMの範囲の様々なペプチドと共に、37℃にて1時間添加する。3.1pf/細胞のBA71Vによる感染。4.37℃、2時間の吸収。5.11mlのDMEM SCを用いた2回の洗浄による残っているウイルスの除去。6.DMEM+ペプチド条件下での感染後6〜18時間後の感染の経過。7.感染細胞の検出。
【図5】細胞変性効果による抗ウイルス及び対照ペプチドの抗ウイルス活性の比較。抗ウイルス性ペプチド(RS27−配列番号3−及びPS19−配列番号2−)の濃度を上昇させながら(列1及び2)、対照(RS28−配列番号5−及びSS20−配列番号4−)(列3及び4)、並びに、ペプチドの非存在下(列5)における、ASFVの細胞変性効果の阻害についての通常の顕微鏡(倍率100倍)による表示。
【図6】抗ウイルス性ペプチドの処理及び免疫蛍光による感染細胞数。図6Aは、ASFVのp30に対する抗体を用いて標識した、濃度を増加させた阻害剤(COVA2−配列番号7−)及び対照(RS28)と共にインキュベートした、6hpiの感染細胞のパーセンテージを示す。Bは、5μM及び50μMのCOVA2及びRS28ペプチドと共にインキュベートした感染細胞に対する免疫蛍光アッセイの代表的写真を示す。
【図7】抗ウイルス性ペプチドによる処理及びウイルスタンパク質の合成。様々な濃度のCOVA1(配列番号6)ペプチドを1及び3時間用いた、初期(p30)及び後期(p72)タンパク質合成の分析。Aは、p30及びp72タンパク質のウェスタンブロットの代表的ゲルを示し、Bは、密度計による、p30及びp72タンパク質の定量を示す。
【図8】抗ウイルス性ペプチドによる処理及び定量PCRによるASFウイルスDNAの定量。対照ペプチドRS28と比較した、増大濃度の阻害ペプチド(COVA1、PEP1−配列番号9−及びPEP3−配列番号8−)を用いた処理後の、16hpiのASFVのDNA複製に及ぼす影響。その他のDLC8結合配列(PEP1及びPEP3)を含むペプチドも本図面に表し、COVA1配列がより低いペプチド濃度から有効であることを示す。
【図9】ウイルス生成における抗ウイルス性ペプチドの影響。対照ペプチドRS28(白色四角)と比較し、増大濃度の阻害ペプチドCOVA1(黒色四角)を用いた、36hpi後に回収した、細胞内(A)及び細胞外(B)のウイルス力価に及ぼす影響。
【図10】化合物の細胞毒性の欠如。ベロ細胞の増殖指数は、様々な濃度の抗ウイルス性ペプチド(COVA1)及び対照ペプチド(RS28)を36時間インキュベートした後で変化しない。
【図11】ペプチドの内在化後の細胞構造の維持。様々な濃度のCOVA2ペプチドを用いて1及び3時間処理したベロ細胞の共焦点顕微鏡の代表的写真。写真は、非処理細胞において保存されている微小管の細胞骨格構造体(チューブリン)(左欄)及びFITC標識された増大濃度のペプチドで処理された細胞における構造体(右欄)を示す。
【図12】有糸分裂時における形態の維持及び紡錘体の形成。対照(A)及び阻害ペプチドCOVA1(B)を用いて処理したベロ細胞の共焦点顕微鏡の代表的写真。対照(A)及び(B)ペプチド処理された細胞両方の様々な段階の細胞分裂時に、チューブリン繊維は紡錘体を形成する。細胞生存度及び増殖能は、ペプチド処理によって影響されない。
【図13】フルオレセイン標識されたCOVA2ペプチドの細胞分布パターン。ペプチドは、DLC8のカーゴ(cargo)部位の1つと結合し、蛍光ペプチドは、細胞突出部(A)、細胞質輸送部位(A)、及び、DLC8が細胞分裂後の細胞小器官を再配置させる機能をする、有糸分裂後の娘細胞の細胞質(B)等の細胞の動的区画においてDLC8と明確に共局在化する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
多様な起源由来の様々なウイルス分離株中に存在するASFVタンパク質p54の配列分析比較に基づいて、我々は、多くのウイルス分離株中に保存されているコンセンサス配列と、異なるウイルス分離株間(図1)でこのタンパク質が違いをもたらすものの中から最も便利な隣接配列とを含むペプチドセット(表1)を設計した。長さ、疎水性及びプロリン含量が考慮された。プロリンは、溶液中及び凝集体中でcis/trans異性化を受け得る。いったんペプチドセットを選択したならば、我々は、それらのアミノ酸組成によって、可溶性かつ安定であることが予測されるものを合成し、細胞へとそれらを輸送するための配列をそれらに付して、次に、以下の方法によりそれらのペプチドを試験する。
【0016】
核磁気共鳴(NMR)技術は、様々なタンパク質間の相互作用表面の深度分析を可能にする。本発明においては、NMRによって、ASFVタンパク質p54とダイニン軽鎖(DLC8)との間の相互作用を分析した。この分析は、相互作用を詳細に知ることを可能にするデータを提供し、両タンパク質の三次元構造と両方の相互作用表面とを考慮することにより、相互作用に関与する残基を覆うために最適なペプチド配列を絞り込むことを可能にする。DLC8のNMRスペクトルを取得し、ウイルスp54の濃度を増大させながら、両タンパク質間の高親和性相互作用を示すこれらのスペクトルがどのように変化するか(化学シフト)を評価した。それらは相互作用に関与していることから、スペクトルから消えるDLC8の残基によって構成されるタンパク質の活性中心を決定することが可能であった。これらの残基は、以下の通りである:Trp54、Lys9、Ser88、Asn6l、Asn23、Asn33、Gly59、Ser86、Arg60、Glu15、及びTyr75。次に、我々は、相互作用表面に関与する残基と結合し得る及び残基を覆い得るペプチドを選択することができ、次に、この高親和性相互作用をブロックすることにより、どのペプチドが任意の濃度のウイルスタンパク質p54の任意のさらなる結合を防止し得るかについて試験した。
【0017】
本発明は、ウイルスタンパク質の細胞ダイニンとの正確な相互作用が、膜から核周辺領域(正常細胞においてDLC8の最大の蓄積を生じる場所である、微小管形成中心、すなわち、MTOC、に相当する領域)へのウイルスの細胞内輸送を必然的に含む感染にとって重要であることを示し、ASFVによる感染の場合、その場所は、ウイルスファクトリーが位置し、新しいビリオンを組み立てて生じるように、ウイルスタンパク質が合成される場所である。
【0018】
最近では、上述のNMRを用いて行った研究により、p54中に存在する相互作用配列TyrThrThrThrValThrThrGlnAsnThrAlaSerGlnThr(配列番号13)を含むペプチドを予めDLC8に添加することによって、p54のDLC8への結合を阻害し得ることが、我々の研究室において実証することが可能となった。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、感染を防ぐために、ウイルスタンパク質配列、又はその一部を利用することによって、また、いくつかのケースにおいては、ウイルスタンパク質−ダイニン結合に対する抗ウイルス性ペプチドアンタゴニストによる、細胞タンパク質の結合部位の飽和によって、感染時のウイルスによるダイニンの利用を妨害することから構成される。かかるペプチドについて、本発明は、そのペプチド配列を用いて任意の起源の細胞を処理した場合に、それらが、ウイルスタンパク質と軽鎖ダイニンとの作用を妨害することを証明した。例えば、かかるペプチドとしては、以下の14アミノ酸:TyrThrThrThrValThrThrGlnAsnThrAlaSerGInThr(配列番号13)を含むものが挙げられ、また、その配列中、及び様々な動物ウイルスの類似する配列中、又はこのペプチドに機能的に類似する配列中の保存的アミノ酸の変更をも含む。重要なモチーフ(p54−DLC8間の相互作用を維持するアミノ酸配列、ThrAlaSerGlnThr−配列番号14−)に隣接する配列の疎水性が、DLC8へのこのペプチドの結合能を変化させることを見出した。ペプチド配列の設計は、DLC8の三次元構造によって示される疎水性の谷部に位置する特定の部位において、ペプチドはDLC8と結合する必要があるということを考慮すべきである。上述したように、理論的配列はDLC8と結合することが予想されるが、それらのうちのいくつかはDLC8と結合し、その他のものは結合しなかったという事実を考慮して、本発明は、NMRを用いてペプチド配列をさらに絞り込み、阻害ペプチドのセットを選択した。我々は、p54−DLC8相互作用が、それらのNMR相互作用動態によって規定されるように、高親和性相互作用であることを実証した。それでもなお、我々は、いくつかのペプチドを添加することにより、この高親和性相互作用をブロックすることができた。このことは、所定のペプチド配列との結合を妨げることにより、p54−DLC8相互作用を妨害し得ることを初めて示すこととなった(表1)。選択された最適なペプチド配列は、相互作用をブロックすることができたが、その他のものは、NMRにより分析されるp54とDLC8との間の相互作用動態を変化させない、対照ペプチドとして使用した。
【0020】
本発明の方法論的近似は、前記配列のいずれかを含むペプチド配列、又は、その配列中に保存的アミノ酸の変更を有するペプチド配列による任意の起源の任意の処理をも含む。それらは、それら配列の全ての保存的変化を含み、また、現在知られている全てのメカニズムは、これらのペプチドを細胞内に輸送することを目的としており、そのような例としては、以下を挙げることができる:細胞内に輸送される配列と結合した任意のペプチド(アミノカプロン酸又はアミノヘキシン酸付加等);リポソーム、又は、細胞中にペプチドを内在化させる機能を有する任意のその他のビヒクル、例えば、ベクター、特に、アデノウイルス又はレトロウイルス、プラスミド等のウイルスベクター等であって、好ましくは、それらのベクターはタグ配列に結合している。ペプチドによる処理は、ダイニン軽鎖、DLC8タンパク質、又は、それに含まれる任意のアミノ酸配列、又はモチーフ(Lys/Arg)XThrGlnThr又はGly(Ile/Val)GlnValAspを含む任意のペプチド、又はアミノ酸の保存的変更を有するそれらに由来する配列と共に予めインキュベートすることにより、ダイニンに関連する輸送体を使用するダイニン結合モチーフを多く供給するという目的を有する。保存的変更とは、そのタンパク質の負荷、形態又は形成を変更しないものとして規定される。同様に、本発明は、ペプチドを細胞内に内在化するために、その他のペプチド配列、ペプチド輸送体等と結合しているか、又は、リポソーム及びその他のビヒクルと共に供給される前記ペプチドのいずれかを含み、一般的に、任意の起源の細胞について輸送システムが現在知られている。
【0021】
発明の詳細な説明
したがって、本発明の目的は、ウイルスタンパク質のDLC8との結合と競合し得る、様々なウイルス分離株由来のP54配列から選択されるペプチドの抗ウイルス性組成物である。特に、それらのペプチドは、タンパク質及びウイルスのDLC8との結合をインビトロ及びインビボで効率的に防止し、したがって、ウイルス感染を阻害する必要がある。それらのペプチドの中から、ウイルスタンパク質配列又はDLC8配列自体のいずれかより単離された、ウイルスタンパク質−DLC8相互作用に関与する配列に関連するペプチドが選択され得る。それに由来する任意のペプチド(特に、保存的アミノ酸置換を有するもの)も、本発明に含まれ得る[14:Taylor,W.R.]。
【0022】
選択されたペプチドは、DLC8とのウイルス−タンパク質の相互作用の阻害は別として、抗ウイルス保護が求められる細胞とインキュベートする場合、毒性を示さない必要がある。さらに、ウイルスタンパク質又はダイニン軽鎖(DLC8)のいずれかより単離される、DLC8とのウイルスタンパク質の結合に関与する単離ペプチドの多くは、凝集する及び二量体を形成する傾向を示す。それが起こる場合、ペプチドの結合能は非常に低く、結合能が消失さえし得る。その二量体形成及び/又は凝集は、疎水性、全長及びプロリン含量を考慮しながら、それらのペプチド配列中のいくつかのアミノ酸を変更することにより容易に回避することができる。本発明は、それらの変更について詳しく調べ、凝集又は二量体形成を示さず、ウイルス感染が防止又は治療される必要がある細胞に対する毒性が低い、DLC8と高い親和性を示す競合的結合により、DLC8とのウイルスの結合を妨害するペプチドのファミリーを選択した。
【0023】
さらに、選択されたペプチドは、例えば、8個のアルギニンからなるテール部を有し、それらのペプチドが、ウイルス感染を防止又は治療すべき細胞内に侵入することを容易にしている。
【0024】
選択されたペプチドのファミリー(PS19、COVA1、COVA2、PEP1及びPEP3)、それらは全て、P54に関連する配列の一部に由来し、DLC8との結合を担う。本発明のペプチドのファミリーは、配列番号14によって表され、配列番号14のアミノ酸の少なくとも1つの保存的置換によってそれに由来する任意のその他のペプチドを含む。配列番号1によって表されるペプチドのサブファミリーは、細胞へのそれらの非毒性により、特に興味深い。
【0025】
配列番号14又は配列番号1のいずれかにより表されるファミリーのうちの少なくとも1つのペプチドを含む本発明の抗ウイルス性組成物は、任意のその他の活性化合物及び/又は薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤をさらに含んでもよい。
【0026】
ウイルス感染の中で、本発明の抗ウイルス性組成物によって治療され得るものは:ASFV、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、エントモポックスウイルスA.moorei、ワクシニアウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト単純ヘルペスウイルス、モコラウイルス又はAIDSウイルスであり得る。
【0027】
本発明の別の目的は、以下の工程を含むことを特徴とする、抗ウイルス性化合物の選択方法及びそれらの有効性の評価方法に存在する:
a)適当な細胞内送達配列がタグ付けされているか、又は、そのペプチド配列を発現するベクターによって形質転換されている、リポソーム等の既知の送達方法と組み合わせられ、DLC8と結合し得る化合物と細胞培養物とを、予めインキュベート又は予め混合する工程、
b)工程a)において予めインキュベート又は混合された細胞培養物とウイルスを接触させて配置する工程、
c)一定時間後の細胞内のウイルス感染レベルを検出及び定量する工程、
d)DLC8と結合し得る化合物と共に予めインキュベート又は予め混合させることなく、ウイルス感染させた細胞培養物で到達した前記ウイルス感染レベルとの比較を行う工程。
【0028】
本発明の別の主題は、以下の工程を含むことを特徴とする、抗ウイルス性化合物の選択方法及びそれらの有効性の評価方法に存在する:
a)DLC8と結合し得る配列、その部分配列又は、DLC8と結合し得る配列又はその部分配列の少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換により産生される類似配列を含む化合物とウイルスとを、予めインキュベート又は予め混合する工程、
b)工程a)において予めインキュベート又は混合されたウイルスを細胞培養物と接触させて配置する工程、
c)一定時間後の細胞内のウイルス感染レベルを検出及び定量する工程、
d)工程a)の化合物と予めインキュベート又は予め混合させることなく、ウイルス感染させた細胞培養物で到達した前記ウイルス感染レベルとの比較を行う工程。
【0029】
また、本発明のその他の目的は、ダイニン輸送システムと関連する、細胞内のウイルス経路の研究に関する。DLC8と結合し得る一連のペプチドを標識することにより特徴付けられる研究方法もまた本発明の範囲であり、それらペプチドは、例えば、直接蛍光顕微鏡により検出され得る。標識マーカーとして、以下の、細胞研究において利用可能ないずれも選択することができる:フルオレセイン、ローダミン又はその他の蛍光及び非蛍光マーカー、例えば、ビオチン、ヘマグルチニン、c−myc等。二次抗体等が検出用タグとして優先的に使用される。
【0030】
最終的に、本発明は、軽鎖ダイニン(DLC8)スペクトルの変化を測定することによる、リガンドのDLC8との結合の阻害を評価するための方法にも関する。
【0031】
以下の実施例は、本願に含まれる関連する発明を実行する好ましい実施形態であり、範囲を限定することなく、当業者がそれらの関連する発明を、過度の努力を必要とせずに再現することを可能にすることのみを目的として示される。
【0032】
実施例:p54及び、細胞の8kDaのダイニン軽鎖(DLC8)の間の相互作用を妨げるペプチドによる、アフリカブタ熱ウイルス(ASFV)による感染の阻害
【0033】
1.1. 材料
1.1.1 使用した細胞株及び培地
本実施例を通じ、ベロ細胞株をモデルとして使用してきた。感染及びペプチドの内在化の試験は、異数性で培養中に無制限に増殖するこの確立された細胞株において展開した。それは成体アフリカミドリザルの腎臓(Cercopithecus)に由来し、第84113001番に登録されており、European Collection of Cell Cultures(ECACC)を通じて入手した。それらの形態は線維芽細胞型で、常に20未満の工程で用い、凍結保存を保ち、かつ、使用まで液体窒素中に小分けした。この細胞株を、30分間、56℃で不活化した5%ウシ胎仔血清(BFS, Lonza)を補充したDulbecco修飾イーグル培地(DMEM, Lonza)、4mM グルタミン(invitrogen)、200lU/mlのペニシリン及び100mMのストレプトマイシン(Invitrogen)を用いて培養した。細胞の培養条件は、37℃、5%CO2雰囲気であった。定常的に、これらの細胞を1週間に2回、Nunclon(登録商標)(Nunc)にて被覆された75cm2のEasy−T−Flasks培養フラスコ中、1:6で継代培養した。
【0034】
特定の試験要件に応じて、いくつかの形態でDMEM培地を補充した。すなわち、抗生物質、グルタミン又はSBFを含まないものを用いる場合に、我々はDMEM SCと称する。先の段落中に記述された濃度において、別の添加剤を維持して2%のSBFを加える場合、我々は、2%DMEMと称する。
【0035】
寒天プレートのためには、ダルベッコ2X(Gibco)培地を用いた。
【0036】
1.1.2. 使用したウイルス分離株
感染の阻害試験に用いたアフリカブタ熱ウイルスの分離株は、ベロ細胞株での成長に採用されたBA71Vであった[4]。ウイルスのストックを、100μlのアリコートで、−80℃、15%ウシ胎仔血清を補充したDMEM培地中に保存した。それらの使用時に、必要なアリコートを、37℃のバス中で迅速に解凍して、氷中に保存した。
【0037】
1.1.3. 使用した代替可能な材料
・ウイルス分離株のアリコートを保存し、ベロ細胞株を液体窒素中で維持するための、容量1mlのcryotubes(Nalgene)。
・最大容量1000、200及び20μlのマイクロピペット(Gilson)。
・1000、200及び20μl容量の、汚染の可能性を回避するための、フィルター付きでRNaseフリーのマイクロピペットチップ(Arc)。
・容量1.5mlのRNAseフリーのチューブ(Eppendorf)。
・4、6、12及び24ウェルマルチウェル培養プレート(Nunc)。
・直径12mmのカバースリップ(Gever Labs)。
・通常の長方形のスライドグラス(Gever Labs)。
・タンパク質のためのニトロセルロース薄膜、9×7cm(GE Healthcare)。
・Whatmanの濾紙、9×7cm。
【0038】
1.1.4. 使用した抗体及び色素原
・抗p30モノクローナル抗体:Dr.Jose Angel Martinez Escribanoのラボラトリーにて開発され、ASFVの初期タンパク質であるp30を特異的に認識及び検出する。
・E.coliの異種系で発現させた10個のヒスチジン残基に結合させたDLC8タンパク質を用いて免疫したウサギにおいて取得し、後に精製した抗DLC8ポリクローナル抗体。我々の研究室で生成した。
・抗αチューブリンモノクローナル抗体(Sigma)。
・抗p72モノクローナル抗体(抗p73):Ingenasaにより販売されており、後期構造タンパク質の主としてASFVのp72又はp73を特異的に認識及び検出する。
・Alexa594蛍光色素(Molecular Probes)へとコンジュゲートさせたマウス抗IgG抗体。
・Alexa488蛍光色素(Molecular Probes)へとコンジュゲートさせたマウス抗IgG抗体。
・HRPペルオキシダーゼ(GE Healthcare)へとコンジュゲートさせたマウス抗IgG抗体。
・HRPペルオキシダーゼ(GE Healthcare)へとコンジュゲートさせたウサギ抗IgG抗体。
【0039】
1.1.5. その他の試薬
・Triton X−100(Sigma)
・Tween 20(Sigma)
・リン酸緩衝液(PBS)
・BSA,ウシ血清アルブミン(Sigma)
・ECL化学発光試薬(GE Healthcare).
・RNAseフリーの水(Ambion).
・作業表面及び材料からRNAse活性を除くためのRNAseZAP溶液(Ambion)
・フルオレセインを保存するためのマウント試薬であるProLong
・核酸の挿入色素原試薬としてのHoechst3332(Sigma)
・β−メルカプトエタノール、SDS、Trisベース(Sigma)
・NP−40(Fluka)
・NaCl(Duchefa biochemicals).
・Ultra pure low melting point agarose(Invitrogen)
【0040】
1.1.6. 使用したペプチド
ASFV p54タンパク質中の先に記述されるDLC8結合モチーフを含む各種のペプチド、及び、陰性対照として使用するための無関係の配列の別の一連のペプチド(RS27及びSS20ペプチド)を設計した。それらの全てを表1中に記述する。あるペプチドにおいては、以下のようにいくつかの変更が含まれる:
・細胞中へのペプチドの内在化を増加させる目的による、N末端における8個のアルギニン残基(R)の付加[6](RS27;RS28;COVA1;COVA2;PEP3;PEP1)
・蛍光顕微鏡観察により直接的に示される、N末端でのフルオレセインへのコンジュゲート(COVA2;PEP3;PEP1)
・ペプチドの脱離を助け、その凝集を回避するための特定の残基の置換(COVA1、COVA2、PEP1及びPEP3)
・DLC8と相互作用する(PEP3)p54の能力を維持するその部分のための、
ThrAlaSerGlnThrモチーフ内部の残基の置換[1]
【0041】
本実施例に使用される全ての設計されたペプチドは、Sigma−Genosysにより合成した。それらの精製は、全ての場合で純度90%を上回る程度が得られるHPLCによって行われた。ひとたび合成され、精製されると、ペプチドは凍結乾燥物としてラボラトリーに受領された。
【0042】
【表1】
【0043】
1.2. 方法
1.2.1 配列比較分析
異なる領域中に存在するp54及び、Genbank(NCBI)中に登録されたASFウイルスのラボラトリー分離株の配列を、BLASTデータベース上にプロットし、Local Alignment Search Toolを用いて比較した。各種の分離株に由来する各種の配列から、保存されているモチーフと、最も適切な隣接配列が得られた。このペプチド設計のために、鎖長、疎水性及びプロリン含量が考慮された。プロリンは、溶液中及び凝集体中でcis/trans異性化を受け得る。ペプチドの疎水的な特性は、純化及び沈殿の促進のためには難しいものでもあり得る。いったんペプチドのセットを設計し、我々は、それらのアミノ酸組成によって、可溶性かつ安定であることが予測されたものを合成するよう選択し、細胞へとそれらを輸送するための配列(後述されるような8個のアルギニンテール部)をそれらに付した。
【0044】
1.2.2. 核磁気共鳴
N15による標識と、ASFVタンパク質p54及びDLC8の精製の後に、核磁気共鳴スペクトルを取得した。この実験に用いた方法は、化学シフト摂動法と称される。まず、両方のタンパク質を精製し、DLC8に関し、Lo等,1998により報告されたものとスペクトルを比較する(図2)。
【0045】
1.2.3 ペプチドの操作
分子量に従って(表1参照)、ペプチドを、相当する程度の純度のmQ及び滅菌度のH2O容量中に再懸濁して、5mMの濃度の保存溶液を得た。溶液の濁りを回避するためには特別に注意を払い、クロスコンタミネーションの可能性を防ぐために、チップは常にフィルターを伴って使用した。20μlのアリコートを調製し、それらを使用時まで−80℃で保存した。それらを使用するために、解凍はゆっくりと、氷中で行った。
ペプチドを含む希釈標準溶液は、それらの分解を避けるために、細胞培養物へと添加する直前に、DMEM SC培地中の保存溶液から0〜100μMの範囲の濃度で、常に滅菌状態で調製した。
【0046】
1.2.4 細胞培養物中のペプチドによる、p54−DLC8相互作用のブロッキング
実験の前夜、9×104個のベロ細胞を24ウェルプレート中に培養した。翌朝、細胞をDMEM SC中で洗浄し、存在する培地を、各種ペプチドを各種濃度で含む300μlの溶液で置換した。ペプチドと細胞とのインキュベーションは、1時間、37℃、5% CO2にて行い、その後細胞をASFVにて感染させた。細胞を感染させるために、存在する細胞培養液を除去し、細胞あたり1プラークフォーミングユニット(pfu)の感染多重度が得られるために相当する量を含む2% 350μl/ウェルに置き換えた。感染は所望の時間まで、37℃、5%CO2にて行わせることが可能であった。
【0047】
吸着時間(2時間、37℃)後、DMEM SCにて2回洗浄することにより残留するウイルスを除去し、最終的に細胞を、相当する濃度のペプチドを含む300μlの新鮮なDMEM SC中に入れた。実験毎に、解析すべき感染のパラメータに応じて、所望される期間、37℃にて感染を継続させた。このプロセスを図4中に概略で示す。
【0048】
1.2.5 間接的免疫蛍光(IIF)による、ASFVに感染した細胞の検出
予め各種のペプチドに曝した細胞における、ASFVに感染した細胞の検出を、感染6時間後に実行した。ASFVに感染したそれらの細胞を免疫蛍光によって検出するためのIIFの技術は通常的なものであった。概略すれば、細胞を、1mlのPBSで洗浄し、次いで3.8%のPBS−パラホルムアルデヒド溶液にて、室温、10分間固定した。次いで、残留したパラホルムアルデヒドを、1mlのPBSで細胞を3度洗浄することによって除いた。0.2%のPBS−Triton X−100を用いて、15分間、室温にて、細胞膜の透過性を上昇させた。さらにPBSにて3回洗浄後、37℃にて、ブロッキング溶液(3%PBS−BSA)中、45分間、細胞をインキュベートした。検出すべきウイルス抗原として、ASFV p30[5]の初期タンパク質を選択し、PBSで1:200に希釈した抗p30抗体を用いて、1時間、37℃、その検出を行った。細胞をPBSにて3度洗浄し、それらを、PBSで1:300に希釈したマウス抗lgG抗体を有する溶液で、30分間室温にてインキュベートした。細胞をPBS中で洗浄し、最終的にHoechst 3332を有する細胞核のマーキングを取り込ませた。最後に、マウント液としてProlongを用いて、細胞を含むカバースリップをスライド上に載せた。調製物を通常の蛍光顕微鏡(Leica)にて観察し、ウイルス抗原p30に関して陽性の細胞数を計数した。
【0049】
1.2.6. ASFVによる感染の間のウェスタンブロットによる、ウイルスタンパク質の合成の解析
解析されるべきウイルスタンパク質は、感染の最初の段階で発現される初期ASFV p30タンパク質[5]、及び、感染の後期で発現されるp72タンパク質(場合によりp73とも称する)[7、8]であった。ウェスタンブロットは細胞上で行われ、50μlの凍結RIPAタンパク質抽出バッファー(150mMのNaCl、5mMのβ−メルカプトエタノール、1%のNP40、1%のSDS及び50mMのTris−HCl、pH=8)中に回収する前に、1mlの氷冷PBSにより洗浄した。それらを4℃、回転撹拌にて、20分間インキュベートして、タンパク質を可溶化し、次いでそれらを卓上遠心機にて12,000rpm、4℃、10分間、遠心分離した。沈殿を廃棄し、上清を回収して、ウェスタンブロットによる解析までの間、−70℃にて保存した。
【0050】
サンプルを氷中で解凍し、各種のサンプル中のタンパク質の量を、Bradford法により定量した。20μgの総変性タンパク質(100℃、5分間)を、15%のアクリルアミド:bis−アクリルアミドゲル中、90分間、100V定電圧にて電気泳動することにより分離した。分離されたタンパク質を、トランスファーバッファー(Tris−グリシン、20%メタノール)存在下、90分間、100V定電圧で、ニトロセルロース膜へとトランスファーした。50mlの5%PBS−スキムミルク粉末の存在下で、室温にて最低1時間、回転撹拌にて、膜をブロッキングした。次いで膜を、PBSで1:50に希釈した10mlの抗DLC8ポリクローナル抗体と、1時間、室温にて、撹拌しながらハイブリダイズさせた。この期間の後、20mlの0.05%PBS−Tweenにて、室温にて、各回15分間、膜を3回洗浄した。ペルオキシダーゼにコンジュゲートされ、PBSで1:4000に希釈された2次ウサギ抗lgG抗体とのインキュベーションを、1時間、室温にて撹拌しながら継続した。これを終了後、0.005%PBS−Tweenにて各回15分間、膜を3回洗浄した。最終的に、ECLを用いた化学発光による検出を、通常の手法で、製造者の説明書に従って実行した。
【0051】
分析するための出発サンプルとしては、16時間の間、各種のペプチドに曝すか又は曝さないで、後にASFVに感染した又は感染しなかったベロ細胞に由来する、総可溶性タンパク質抽出物を用いた。
【0052】
一次抗体として、PBS中で1:100に希釈した抗p30モノクローナル抗体及び、PBS中で1:2000に希釈した抗p72モノクローナル抗体を独立の膜において使用した。膜を両方の抗体と共に、回転震盪しながら1時間室温にてインキュベートした。
【0053】
二次抗体として、ペルオキシダーゼへとコンジュゲートされたマウス抗IgG抗体を、両方の場合において用いた。
【0054】
最終的に、各バンド中に存在するタンパク質を定量し、相対化するための化学発光反応の濃度を検出した。
【0055】
1.2.7. ASFVゲノムの検出及び定量
特異的なオリゴヌクレオチド(配列番号10及び配列番号11)及びTaqManプローブ(配列番号12)を用いた定量的リアルタイムPCRにより、ASFVゲノムの検出及び定量を行った。接種16時間後(16hpi)に、0.5pfu/cellのBA71Vを感染又は偽感染させた細胞由来のDNAを抽出し、DNeasy blood and tissue kit(Qiagen)を用いて精製した。260nmにおける吸光度(A260)を測定することにより、DNA濃度及び純度を評価した。
【0056】
増幅混合物は以下のように氷上で調製した:
3μl 鋳型DNA(1μg)
1μl オリゴヌクレオチドOE3F 50pmol
1μl オリゴヌクレオチドOE3R 50pmol
10μl Quantimix Easy Probes Biotools 2X
1μl TaqMan(商標) probe SE2 5pmol
4μl H2O
【0057】
増幅反応は、Rotor Gene 6000(商標)(Corvette Research)中で、以下の表に従って行った:
【0058】
【表2】
【0059】
陽性増幅対照(ASFVウイルス粒子から精製したDNA)及び陰性増幅対照(偽感染細胞由来のDNA)をアッセイに含め、各サンプルから2連を分析した。
【0060】
1.2.8. ASFV感染の間のウイルスの子孫産生に及ぼすペプチド処理の効果
実験前夜に、9×104個のベロ細胞を24ウェルプレート中に播いた。感染1時間前に、各種濃度のCOVA1又はRS28ペプチドを含む300μlのDMEM中で、細胞をインキュベートした。次いで、0.5pfu/cellのASFV BA71V株を用いて細胞を感染又は偽感染させた。接種36時間後(36hpi)に、100μlの培地をウェルから回収し、細胞外のウイルス子孫を分析するまでの間、−80℃にて保存した。感染した細胞をまた、100μlの新鮮なDMEM中に回収した。細胞を3度凍結融解し、細胞内のウイルス子孫を可溶化させ、次いで、使用するまで−80℃にて保存した。細胞内又は細胞外サンプルのウイルス力価を、プレートアッセイにより分析した。手短に言えば、6ウェルプレートに播いたベロ細胞の単層に、ウイルス子孫を含む10倍希釈系列のサンプル500μlを接種した。90分間の吸収期間の後、細胞を新鮮なDMEM5%で2度洗浄し、3ml/ウェルの重層(低融点アガロース2%及びDMEM 2×、v:v)を細胞に加えた。重層物が固化したら、プレートを、37°C、及び5%のCO2にて12日間インキュベートした。次いで、1%のクリスタルバイオレット(5%ホルムアルデヒド溶液中)で細胞を染色し、ウイルスのプラークを視覚化可能にした。ウイルス力価は以下のように計算した:pfu/ml=2×n0 プラーク×10希釈倍率
【0061】
1.2.9 細胞毒性分析。細胞生存率及び増殖アッセイ。
細胞生存率を評価するために、24ウェルプレート中に播いたベロ細胞を、阻害ペプチドCOVA1又は陰性対照RS28を0〜100μMの範囲の濃度で含むDMEM中でインキュベートした。ペプチドとともに24時間インキュベートを行った後、細胞を収穫し、トリパンブルー(Sigma)色素排除アッセイにより、細胞懸濁液中に存在する生存細胞の数を調べた。手短に言えば、0.08%のトリパンブルーを含む20μlのPBSを、等量の細胞懸濁液へと添加し混合した。2分後に、血球計算盤及び通常の光学顕微鏡により、青色の細胞(死細胞)を計数した。
【0062】
細胞増殖を評価するために、96ウェルプレート中に播いた3×104個のベロ細胞を、阻害ペプチドCOVA1又は陰性対照RS28を0〜100μMの範囲の濃度で含む50μlのDMEM中でインキュベートした。36時間のインキュベート後、CellTiter 96 Aqueous(商標)(Promega)アッセイを、製造者の説明書に従って用いて、細胞増殖を調べた。
【0063】
1.3. 結果
1.3.1 抗ウイルスペプチドの設計
異なる領域中に存在するp54及びASFウイルスのラボラトリー分離株の配列をデータベース上にプロットし、比較した。様々な起源から単離された各種ウイルス中に存在するウイルスASFVタンパク質のp54の、この配列分析比較に基づいて、我々はペプチドのセットを設計し(表1)、それは、ほとんどのウイルス分離株中に保存されているコンセンサス配列と、最も適切な隣接配列をそれらの中に含み、異なるウイルス分離株の間でそのタンパク質がバリエーションを有していた(図1)。ペプチドを設計するために、鎖長、疎水性及びプロリン含量を考慮した。プロリンは、溶液中及び凝集体中でcis/trans異性化を受け得る。ペプチドの疎水的な特性は、純化及び沈殿の促進のためには難しいものでもあり得る。いったんペプチドのセットを設計し、我々は、それらのアミノ酸組成によって、可溶性かつ安定であることが予測されたものを合成するよう選択し、細胞へとそれらを輸送するための配列(後述されるような8個のアルギニンテール部)をそれらに付してから、以下のアプローチにより、それらのペプチドの試験を進めた。
【0064】
1.3.2. 核磁気共鳴スペクトルによる相互作用表面の解析
N15による標識と両タンパク質の精製の後に、核磁気共鳴スペクトルを取得した。この実験に用いた方法は、化学シフト摂動法と称される。この方法は、標的タンパク質において観察される化学変化を、それがリガンドと相互作用するときに解析する。まず、両方のタンパク質を精製し、DLC8に関し、Lo等,1998(13)により報告されたものとスペクトルを比較する(図2A)。ASFVタンパク質であるp54の濃度を増加させて存在させたとき、DLC8のスペクトルは変化し、かつ、モチーフの結合に関与するシグナルは徐々に消失した。p54の濃度が0.1当量の場合、最初の消失シグナルは、W54、K9、S88、N61、N23残基に相当する。濃度が0.3当量に達すると、消失シグナルはN33、G59、N23、S86、R60、E15、Y75残基に相当する(図1A)。DLC8及びP54の間で観察される相互作用工程のゆっくりとした相互変化は、これらのタンパク質間の結合が高い親和性で起こることを示唆した。それにもかかわらず、我々は、ある種のペプチドを添加した場合に、この高い親和性の相互作用に干渉することができ、かつ、p54のいかなる濃度においても、そのタンパク質の活性中心に由来する上記された残基のいずれにおいてもDLC8スペクトルの変化が観察されず(図2B)、この相互作用が所定のペプチド配列(表1)によって効果的に阻害され得ることが初めて示された。
【0065】
1.3.3. ベロ細胞におけるペプチドの内在化
参考文献には、ペプチドの末端にアルギニン残基を付加することが、細胞内部へのそれらの浸透を顕著に増加させることが記述されている。その目的で、我々は、8個のアルギニンからなる細胞内送達トランスポーターを組み込ませた。設計したペプチドが細胞内部に効率よく内在化されていることを確認するために、フルオレセイン標識をN末端に組み込んだ。アルギニン細胞内送達トランスポーターを組み込んでいないそれらのペプチドは、細胞内に入ることができなかったのに対し、トランスポーターテール部を組み込んだものは効果的に内在化し、ペプチドと共にインキュベートして1〜3時間後には、微小管中の連続的なパターンで、培養物中に存在するほぼ100%の細胞が染色された(図3)。COVA2ペプチドは、p54において先に記述されたDLC8結合モチーフを含むこの一連の特徴に合致し、ベロ細胞における内在化を直接的に観察するために使用された。
【0066】
図3中に見られるように、ペプチドは効率的に内在化され、その添加6時間後でさえも、直接蛍光顕微鏡法により容易にそれが検出されることが可能であった。
【0067】
COVA2ペプチドの最適濃度は、50及び100μMであり、両濃度の間で顕著な差異はみられなかった。より高い濃度において検出するよりは検出が困難ではあったが、25μMのCOVA2でも検出可能であり、しかし、より低い濃度、すなわち、5μMを下回る濃度では、蛍光顕微鏡によってほとんど検出ができなかった。
【0068】
1.3.4. p54−DLC8結合を阻害するペプチドによる、ASFVによる感染の阻害
本実施例の方法の項に詳述するように、感染は、各種のペプチドに予め曝したベロ細胞の単層ASFVに対し、1pfu/cellで実施した。感染はペプチドの存在下で行うようにし、以下の感染パラメータを分析して、対象のペプチドにおける阻害効果を確認した。
【0069】
1.3.4.1. ウイルス感染の細胞変性効果特性におけるペプチドの効果
ASFV感染は、感染した細胞に対し、非常に特徴的で、かつ、通常の顕微鏡によって細胞変性の影響として容易に検出が可能なダメージを生じる。それは、感染後の早期に開始し、最終的には、進行性の細胞内の空胞化、細胞の輪郭が丸みを帯びること、及び、感染した細胞がそれに対して付着する表面の剥離を導く[9]。
【0070】
各種ペプチドの存在下で感染が進行するとき、ベロ細胞培養物において、感染18時間後の細胞変性効果が普及しているか否かを評価した。この方法を用いて、ペプチド(それらの配列中に、DLC8結合モチーフと、細胞内部へのそれらの取り込みを助けるアルギニン配列とを共に含む)と共にインキュベートした場合の、それらの細胞培養物に対する細胞変性効果の阻害を検証することができた。対照的に、アルギニン配列を有さない対照ペプチドに曝したそれらの細胞は、感染が通常通り進行している細胞において観察されるのと同様の細胞変性効果を示した。
【0071】
図5中に示されるように、観察される細胞変性効果の程度は、使用したペプチドの濃度に直接的に比例することが観察された。すなわち、PS19ペプチドの濃度は、25〜100μMの濃度範囲で総合的に細胞変性効果を阻害したが、25μMを下回る濃度では細胞変性効果を阻害するには効果的でなかった。
【0072】
以下の表は、試験した各種のペプチドにおける細胞変性効果の阻害能力と、それらの相当する濃度をまとめたものである。
【0073】
【表3】
【0074】
さらに、それらの修飾を有するDLC8結合モチーフを含むペプチドは、ペプチドの相互作用能力を維持しており、感染の際の細胞変性効果を阻害する場合に効果的であることが実証された。
【0075】
1.3.4.2. 感染した細胞のパーセンテージにおけるペプチドの効果
(抗原p30に対し陽性である)ASFVに感染した細胞数を計数することにより、ペプチドの阻害効果を解析した。これを行うために、ウイルス感染に先立ち、本実施例の方法の項に詳述するように、各種の阻害ペプチド及び対照ペプチドの存在下で、細胞をインキュベートした。
【0076】
図6中に示されるように、感染に先立ってCOVA2ペプチドと共にインキュベーションすることにより、対照ペプチドRS28と共にインキュベートした細胞において得られるデータと比較して、感染した細胞のパーセンテージの劇的な減少がもたらされた。さらに、この減少は、使用したCOVA2ペプチドの濃度に依存的であった。
【0077】
1.3.4.3. ウイルスタンパク質の合成におけるペプチドの効果
特異的な抗体を用いたウェスタンブロットにより、初期及び後期ASFVタンパク質の合成を解析した。すなわち、COVA1ペプチド存在下で、ASFVによる感染が起こるとき、初期(p30)及び後期(p72)のウイルスタンパク質の両方の合成が、投与量依存的に減少することが観察され得た。さらに、この減少は、細胞培養物へと加えられたCOVA1の投与量に依存していた(図7)。
【0078】
1.3.4.4. ウイルスゲノム複製カウントにより測定したペプチドの効果
ベロ細胞を、各種濃度のペプチドと共に上述の通り予めインキュベートし、BA71V ASFV分離株を用いて感染させた。細胞を接種16時間後に回収し、特異的なTaqManプローブ及びオリゴヌクレオチドを用いた定量的リアルタイムPCRにより、ASFVゲノムの複製を解析した[11]。図8中に見られるように、阻害ペプチドであるCOVA1を用いた処理は、ASFVゲノムの複製を投与量依存的に強度に減少させた。同様に、p54−DLC8相互作用に影響しないDLC8結合モチーフ中の変化を含む、その他のブロッキングペプチド(PEP1及びPEP3)と共に予めインキュベートすることによっても、ASFVゲノムの複製の減少がもたらされたが、COVA1配列による処理は、より低濃度のペプチド(25μM)でも効果的であった。ペプチド処理後のウイルスDNAの複製におけるこの減少は、これらのペプチドによる感染の阻害の結果である。すなわち、この感度の良い定量的な方法により、p54−DLC8結合を妨げ、感染を妨げ得るペプチド内部に、インビボにおける感染をより効果的にブロックできる所定の配列が存在することを明確にすることができる(図8)。
【0079】
1.3.4.5. ASFV感染の間のウイルス子孫産生に対するペプチド処理の影響
24ウェルプレート中で生育させた9×104個のベロ細胞を、材料と方法の項に記載の通り、各種濃度のペプチドCOVA1及びRS28により1時間、37℃で処理した。次いで、細胞を、0.5pfu/cellのBA71Vに感染又は偽感染させた。接種36時間後に、感染した細胞培養物由来の細胞外及び細胞内のウイルス子孫を、プラークアッセイにより解析した。図9中に示すように、50μM又はそれより高い濃度のCOVA1存在下で感染が進行する場合に、細胞外(図9B)及び細胞内(図9A)のウイルス力価の統計学的に有意な減少が観察された。それにもかかわらず、各種濃度の陰性対照ペプチドRS28と共にインキュベーションすることは、ウイルス力価に影響を及ぼさず、ウイルス子孫の値は、ペプチド非存在下の感染細胞から得られたものと同様であった。
【0080】
1.3.5. 細胞毒性分析。細胞生存率及び細胞増殖におけるペプチド処理の効果
ペプチドでベロ細胞を処理することに対し、何らかの細胞毒性または副作用が関連するか否かを評価するために、細胞増殖及び細胞生存率アッセイを行った。これらの実験において、各種の濃度のCOVA1ペプチドにて処理を行った後の細胞の増殖値は、陰性対照ペプチドRS28にて処理を行った後の細胞と比較して減少しなかった(図10)。COVA1によって得られる増殖値は、ペプチド非存在下の対照細胞において得られる値と同様であった。また、細胞生存率は、トリパンブルー排除アッセイから判断されるように、各種のペプチド(インヒビター又は対照ペプチド)と共にインキュベーションを行った後に変化しなかった。細胞生存率は、すべての場合において90%前後であった。これらの結果は、本発明に記載するペプチドと共にインキュベーションを行うことが、ベロ細胞の増殖又は生存率のいずれかに影響することがないことを実証する。
【0081】
1.3.5.1. 細胞構造及びDLC8の機能的統合性
我々は、微小管モーターであるダイニンに関連する主要な細胞構造が、ペプチド処理により変化を受けるか否かを試験した。ペプチドの内在化と共に、我々は細胞骨格要素の統合性を解析し、微小管がペプチドCOVA2の存在下で変化を受けないことを観察した(図11)。また、軽鎖ダイニンの微小管における分布パターンは、微小管形成中心(MTOC)に相当する濃縮領域により保存されていた(図11)。ダイニンの機能は、有糸分裂において重要であることが知られており、紡錘体の形成及び染色体の移動に役割を果たすが、細胞分裂には変化がないことを我々は見出した(図12)。
【0082】
1.3.5.2. フルオレセイン標識されたCOVA2ペプチドの細胞分布パターン
フルオレセイン標識したペプチドCOVA2は、DLC8分子全体に対するポリクローナル抗体を用いて染色されたDLC8と同様の分布を示した。DLC8は、細胞質中で、オルガネラ、RNA及びタンパク質の微小管のマイナス末端への(核に向かう)輸送に介在する選択されたカーゴと相互作用し、その機能は、有糸分裂後のゴルジ体等のオルガネラの再配置にとり不可欠である。興味深いことに、COVA2ペプチドは、DLC8分子の動的要素とまさに共局在化していた。蛍光ペプチドは、主として細胞質、細胞突起、糸状仮足及び休止細胞の細胞接触点領域に分布していた。有糸分裂を行っている細胞中で、それは、有糸分裂後期が開始するまで周辺の細胞質領域中に留まる。次いで、核分裂中の細胞及び娘細胞中でCOVA2染色は増加し、有糸分裂後のオルガネラの再分布中には、それらの細胞中、全ての細胞質領域で、非常に強く染色される(図13)。DLC8分子全体を染色する抗体を用いた共局在化のパーセンテージは、有糸分裂後に細胞オルガネラを活発に再配置する細胞中において、より高かった。次いで、それが、細胞中のDLC8より介在される輸送を関連する動的要素の選択的マーカーであることが見いだされた。
【0083】
これらの結果は、(ASFVによる)ウイルス感染が、各種のウイルス分離株におけるウイルスp54中に存在し、両方のタンパク質間の相互作用を阻害するDLC8結合モチーフに基づいて特異的に設計されたペプチドを用いて阻害され得ることを、明確に実証する。この阻害は、細胞変性効果の阻害、感染した細胞数、細胞あたりのウイルスゲノムのコピー数(細胞中にng/μlで見いだされるウイルスの複製における減少を反映する)における大幅な減少、及び、結果的なウイルス産生及びウイルスタンパク質の合成における顕著な低減に反映される。
【0084】
結論として、本発明は、感染を成功させるために不可欠なステップであるダイニンDLC8へとウイルスが結合するための配列に基づいて設計されたペプチドを、最初に使用するものであり、それらのペプチドは、感受性細胞におけるウイルス感染を効果的に阻害し、実証可能な抗ウイルス効果を有することが示される。
【0085】
参考文献
1. Alonso,C.,et al.,African swine fever virus p54 protein interacts with the microtubular motor complex through direct binding to light−chain dynein.J Virol,2001.75(20):p.9819−27.
2. Harrison,A. and S.M.King,The molecular anatomy of dynein.Essays Biochem,2000.35:p.75−87.
3. King,S.M.,Organization and regulation of the dynein microtubule motor.Cell Biol Int,2003.27(3):p.213−5.
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7. Tabares,E.,et al.,Proteins specified by African swine fever virus.II.Analysis of proteins in infected cells and antigenic properties.Arch Virol,1980.66(2):p.119−32.
8. Cobbold,C. and T.Wileman,The major structural protein of African swine fever virus,p73,is packaged into large structures,indicative of viral capsid or matrix precursors,on the endoplasmic reticulum.J Virol,1998.72(6):p.5215−23.
9. Nunes,J.F.,J.D.Vigario, and A.M.Terrinha,Ultrastructural study of African swine fever virus replication in cultures of swine bone marrow cells.Arch Virol,1975.49(1):p.59−66.
10. Martinez−Moreno,M.et al.,Recognition of novel viral sequences that associate with the light chain dynein LC8 identified through a pepscan technique.FEBS Letters 2003.544:262−267.
11. King,D.P.,et al.,Development of a TaqMan PCR assay with internal amplification control for the detection of African swine fever virus.Virol Methods.2003.107:53−61.
12. Rodriguez−Crespo,I.,et al.,Identification of novel cellular proteins that bind to the LC8 dynein light chain using a pepscan technique.,FEBS Lett.503:135−141(2001).
13. Lo,K.W.,et al.,The 8−kDa dynein light chain binds to its targets via a conserved(K/R)XTQT motif.J.Biol.Chem.276:14059−14066(2001).
14. Taylor,W.R.,The classification of amino acid conservation.Journal of Theoretical Biology,119:205−218(1986).
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗ウイルス性化合物の開発、並びに、動物又はヒトにおけるウイルス感染の防止又は治療にそれらを使用するための技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、細胞内寄生体であり、細胞内でそれらの複製サイクルが首尾よく行われ得るようにするために、特定の細胞の機能との統合性を必要とする。ダイニンは、様々なウイルスモデル、例えば、狂犬病ウイルス、ヒト単純ヘルペスウイルスタイプI又はヒト免疫不全ウイルス等におけるウイルス感染の様々なステップに関連する役割を有することが示されている。ダイニンは、微小管のモータータンパク質であり、微小管に関連する細胞内輸送及びエンドソーム経路に介在し、いくつかある機能の中でも特にその機能は、細胞内シグナルの様々な翻訳経路のモジュレーターである。ウイルスは、その内在化及び細胞内輸送のために、また、新しいビリオンが産生されるウイルスファクトリーを形成するため、並びに、これら及びその他のプロセスの協調に必要な細胞のシグナル伝達を制御するために、ダイニンを使用する。
【0003】
特に、アフリカブタコレラウイルス(ASFV)のタンパク質p54は、微小管のモーター複合体の一部である細胞性タンパク質(ダイニンと称される)と相互作用し、その機能は本質的に、細胞内輸送に関連する[1]。この相互作用は、ウイルスのp54タンパク質に対する潜在的な相互作用タンパク質に関してブタマクロファージcDNAライブラリー中の相互作用タンパク質を探索する、酵母(異種系)におけるダブルハイブリッドシステムを用いて見出された。p54のコード配列(E183L遺伝子)は、BA71V分離株の完全配列中に含まれ、NCBIデータベース中に登録番号UI8466で寄託されている。取得し陽性と同定されたクローンを配列決定することにより、それらが、DLC8、LC8、DLC1、DNLC1又はPIN(神経型一酸化窒素合成酵素の阻害タンパク質)と称される、8キロダルトン(kDa)の軽鎖ダイニンの完全なコード配列を含むことが発見された。Sus scrofaにおけるDLC8のコード配列は、NCBIデータベースに番号AF436777で寄託されている。これらの結果は、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降法及び共焦点顕微鏡による両成分の共局在化を含む別のタイプの技術を用いて確認された。それらの結果は、ASFVのp54タンパク質とDLC8との間の相互作用を裏付けるのみであった。
【0004】
DLC8は、進化的に遠い種間(線虫からヒトへ)で高度に保存されているヌクレオチドアミノ酸配列を有するタンパク質である[2,3]。細胞質のダイニンは、微小管を通じて様々な負荷を駆動する、分子モーターのファミリーである。それらは、細胞の外部から内部、核又は核周辺領域への、小胞、エンドソーム及び細胞小器官の輸送を担う。それらは大きな多タンパク質複合体であり、球状の頭部と、動きをもたらすために必要なエネルギーの生成を担うATPアーゼ活性とを有する1〜3個の重鎖により構成される。これらの重鎖には、様々な数の中間鎖及び軽鎖が結合している。後者は、輸送する負荷との直接の相互作用を担っている。これまでに、7つのファミリーの軽鎖が記述されており、その中に、我々はDLC8を見出し得る。DLC8は、インビボで二量体として配置されており、これにより、二つの単量体間で異なる配列からなる2つの同一の結合場所が存在し得る。
【0005】
細胞性タンパク質に関し、細胞性タンパク質との2タイプの選択的結合部位(それによってそれらが相互作用する)が、DLC8について発見されている[12,13]。モチーフの1つである(Lys/Arg)XThrThr(Xは任意のアミノ酸)は、ダイニンの中間鎖、プロアポトーシス分子Bim、Kid1及びSwallow転写因子及び様々な起源由来のいくつかのウイルスタンパク質等の一連の分子とDLC8を結合させる。この結合部位は、DLC8分子の2つの二量体の間に位置する。第2のモチーフは、GIy(Ile/Val)GlnValAspであり、これは、これまでに記述されているように、DLC8を、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)又は、ニューロンの足場タンパク質と結合させる。
【0006】
ウイルスタンパク質のダイニンへの結合に必要とされるアミノ酸残基を同定するために、p54タンパク質のいくつかの切断型断片を酵母系において発現させて試験することにより、DLC8との結合領域が、Tyr149とThr161との間に含まれる13アミノ酸(TyrThrThrThrValThrThrGlnAsnThrAlaSerGlnThr)のp54タンパク質のカルボキシ末端に位置することを調べた[1]。
【0007】
いくつかのウイルスは、宿主細胞内におけるそれらの感染サイクルの様々な場合において、軽鎖ダイニン(DLC8)を利用する。ペプスキャンと呼ばれる技術により、ウイルス由来の様々なタンパク質の直鎖状配列を擬したペプチドを合成して、濾紙上にブロットし、DLC8をプローブとすることにより、どの直鎖状配列がその相互作用に適当であるかを調べた[10]。適当といえるレベルには満たないと思われる直鎖状配列も、理論的には、DLC8との結合に適し得る。これらは、高い頻度でGln(Q)残基を含み、以下の配列において連続するT残基(Thr)を含む場合も多い:
−アフリカブタコレラウイルスのp54タンパク質のTyrAlaSerGlnThrモチーフ
−呼吸器合胞体ウイルスの結合糖タンパク質のTyrSerThrGlnThrモチーフ
−狂犬病ウイルス及びモコラウイルスのPタンパク質、ヒト単純ヘルペスウイルスのヘリカーゼ、アデノウイルスプロテアーゼ、又はA.mooreiエントモポックスウイルスのLysSerThrGlnThrモチーフ
−ヒトパピロウイルスのE4タンパク質、又はワクシニアウイルスポリメラーゼのLysGlnThrGlnThrモチーフ
−ヒトヘルペスウイルスの遺伝子U19のLysGlnThrGlnThrモチーフ
−ヒトコクサッキーウイルスのキャプシドのタンパク質のArgValMetGlnLeuモチーフ等。
【0008】
いくつかの直鎖状ウイルスタンパク質配列が、理論的にDLC8と結合し得ることが判明しているとしても、このことにより、これらの配列の全てが、天然の形態のタンパク質においてその相互作用に好適であり、又は、その分子がインビボでモーター複合体中に統合されるのに適しているはずであることが除外されるものではない。また、それらのウイルス配列は、ウイルス粒子中である程度露出されていることは実証されておらず、それらの推定結合部位が実際にDLC8と結合し得ることも実証されておらず、及び/又は、これらのウイルスタンパク質が、感染時にダイニンに接近し得る細胞内区画、例えば、細胞質ゾル(小胞体又はその他の離れた細胞小器官及び構造体ではない)中で合成されるか否かについても実証されていない。さらに、これらの直鎖状配列のいずれも、いかなる手段によっても所定のタンパク質のDLC8との結合を阻害し得ることが今日まで示されておらず、最終的に、この部位のブロッキングが感染の阻害をもたらし得ることには何の保証もない。実際、上述したように、DLC8分子あたり2つの推定結合部位が存在し、又、任意の所定のウイルスにより代替的に使用され得る、多くのその他の軽鎖及び中間鎖が存在する。要するに、これらの知見の何ひとつとして、この部位の阻害が相互作用を妨害することも、ウイルス感染を妨げ得ることも実証しておらず、上記配列が抗ウイルス性化合物として有用であり得ることを何ら保証しない。
【0009】
さらに、任意のペプチドが抗ウイルス剤として使用される候補であるためには、何らかの手段により、適切に細胞内環境に到達する必要があり、生細胞中において毒性が全くないか、毒性が非常に低いことが保証されねばならない。アミノ酸配列が、ウイルスタンパク質とDLC8との間の結合に関与すると認められ得るという事実は、それらの配列が一次(直鎖状)構造である場合、それらの直鎖状配列が、ウイルスタンパク質とDLC8との相互作用を阻害し得、したがって、それらのアミノ酸配列を含むペプチドが抗ウイルス性化合物として機能し得るということを除外するものではない。タンパク質−タンパク質相互作用をブロックするのに適したペプチド配列を設計するために、(例えば、それらの核磁気共鳴スペクトルにより)両方の相互作用面を分析すべきである。その理由は、直鎖状アミノ酸配列が、細胞内でより複雑な構造で折り畳まれている場合に、例えば、微小管モーター複合体と呼ばれる高分子複合体に結合している場合、DLC8又はウイルスタンパク質のいずれかとの結合に関与するアミノ酸残基を隠す場合があり、したがって、折り畳まれた二次構造のペプチドが何ら抗ウイルス活性を示し得ない、という事実に基づいている。また、インビトロ、又は、酵母のような異種系が結合に関与し得る規定された配列が、ウイルス粒子との関連で顕在化されない場合があり、且つ/又は、離れた細胞小器官及び構造体において合成される場合があり、このことにより、その配列は、哺乳動物細胞における感染時の細胞タンパク質へと接近し得ないこととなる。この場合の全てにおいて、理論的に相互作用をブロックし得るペプチドは、何ら抗ウイルス活性を示さないであろう。さらなる理由は、直鎖状ペプチドが、細胞の細胞質ゾル中に溶解している場合には、凝集体を形成し、その結果、DLC8又はウイルスタンパク質のいずれかとの結合を担うアミノ酸を再び隠してしまい得ることである。それらの凝集したペプチドは、いずれも抗ウイルス特性を示さないであろう。新規抗ウイルスペプチドの設計における別の重要な面は、非感染細胞におけるそれらの毒性に関する。市販の抗ウイルス性薬物は、好ましくは、非感染細胞の細胞生存性及び細胞増殖性に影響を与えることなく、ウイルス感染を防止及び/又は阻害する必要がある。最後に重要なこととして、本発明は、このモチーフ周辺のアミノ酸が、DLC8−ウイルスタンパク質結合領域(特に、それらの疎水性)に関与し、それらが、真の抗ウイルス性化合物とみなされるために、それらペプチドの結合阻害能において重要な役割を果たすことを見出した。ウイルスタンパク質のDLC8との結合の効率的阻害を達成する抗ウイルスペプチドは、細胞の細胞質ゾル中に十分に溶解されている必要があり、したがって、結合モチーフに隣接するアミノ酸の疎水性及びプロリン含量が重要である。
【0010】
これらの全ての理由のために、ウイルスが細胞のダイニンを利用することを妨害することによる、すなわち、ウイルス起源の様々なタンパク質がダイニンを適当に利用することを可能にするその機能又は結合部位のいずれかをブロックすることによる、ウイルスの感染をブロックするための抗ウイルス戦略を作成する必要がある。しかしながら、いくつかの重複する部分アミノ酸配列(それらのウイルス中に存在する)は、DLC8に対する結合モチーフ、例えば、KSTQT又はGIQVDとして繰り返すが、ウイルス−DLC8相互作用が効率的に起こり得るか否かを評価するためには、隣接する残基を調べることも重要である。それらのアミノ酸における具体的な変化を、DLC8との相互作用を無効にするそれらの能力を評価した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
我々は、ウイルスモデル(アフリカブタコレラウイルス,ASFV)を用いることにより、DLC8−ダイニン系の妨害が、感染のブロックを引き起こし、そのことが、本発明の目的を構成する新規な抗ウイルス戦略のための主要な試験を提供することを示した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
我々は、相互作用に関与するタンパク質のいくつかの相互作用ドメインとその隣接配列を比較し、この情報を、対のタンパク質の相互作用の主要なアンタゴニストとして機能するペプチドを設計するために使用した。このペプチドは、相互作用するが、同時に、適切に細胞内環境に到達するためにタグ付けされており、又、抗ウイルス性化合物が、主として、上述の条件:所定の条件においてウイルスタンパク質−DLC8結合を特異的に阻害すること、細胞質ゾル中での接近可能性及び溶解性、凝集体形成が無いこと、及び、細胞生存率と増殖能に障害を及ぼさないこと(細胞毒性が無いこと)、を満たすべき全ての要件を満たすものである。
【0013】
結論として、本発明は、感染の成功に必要な工程としてウイルスがダイニン−DLC8と結合するその配列(全体又は部分)に基づいて設計された抗ウイルス性ペプチド化合物の使用を初めて開示し、それらのペプチドは、感受性を有する細胞においてウイルス感染を効率的に阻害し、明示可能な抗ウイルス効果を有することが示される。ウイルス−DCL8相互作用の阻害は、ウイルスによる細胞変性効果の阻害及び感染細胞数の劇的な減少に反映される。また、この化合物の抗ウイルス効果は、細胞あたりのウイルスゲノムコピーの減少(これは、細胞中に見られるウイルス複製の減少を反映する(単位ng/μl))に関し、定量的PCRを用いてそれらの相対効率を比較するよう定量的に測定し、その結果としてのウイルス生成及びウイルスタンパク質合成の有意な減少をも測定した。本発明は、感染の進行を防止する、様々なASFV分離株のp54配列に基づいて作製され、抗ウイルス療法の基礎となるペプチドにより例示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】抗ウイルス性ペプチドの設計。多様な起源由来の様々なウイルス分離株中に存在するウイルスASFVタンパク質p54の配列分析の比較に基づき、我々は、保存モチーフを含有させ、様々なウイルス分離株間で違いを有する、ウイルスタンパク質中に実際に存在する配列の中から、最も好ましい隣接配列を選択することにより、一連のペプチドを設計した(表1)。
【図2】相互作用のNMR動態及び活性ペプチドによる阻害。A,NMR解析のための15−N標識DLC8及びp54の取得及び精製。様々な滴定ポイントにおける15N−標識DLC8の1H−15N HSQCスペクトル;B,遊離DLC8;C,遊離DLC8(黒色スペクトル)と2等量(eq)の非標識p54(灰色スペクトル);D,遊離DLC8(黒色スペクトル)と5等量のペプチドPS19(配列番号2)及び2等量の非標識p54(灰色スペクトル);E,遊離DLC8(黒色スペクトル)と5等量のペプチドPS19及び2等量の非標識p54(灰色スペクトル)、及び、2等量の非標識p54(灰色スペクトル)。
【図3】ペプチドの細胞中への内在化の実証。アルギニンリッチ分子トランスポーターと結合した様々な濃度のペプチド構築物と共に1及び3時間インキュベートした、ベロ細胞中でのフルオレセイン標識ペプチドCOVA2(配列番号7)の分布(COVA2)。FITC標識されたペプチド(COVA2)は、100μMのペプチド濃度で細胞に100%内在化される。
【図4】細胞へのウイルス感染並びに本発明のペプチドCOVA1(配列番号6)の活性による感染の阻害の概略図。1.前の晩までに、5%DMEM中、9x104/cm2の密度で培養したベロ細胞。2.ペプチドの内在下のために、300μlの溶液を、DMEM SC中の0〜100μMの範囲の様々なペプチドと共に、37℃にて1時間添加する。3.1pf/細胞のBA71Vによる感染。4.37℃、2時間の吸収。5.11mlのDMEM SCを用いた2回の洗浄による残っているウイルスの除去。6.DMEM+ペプチド条件下での感染後6〜18時間後の感染の経過。7.感染細胞の検出。
【図5】細胞変性効果による抗ウイルス及び対照ペプチドの抗ウイルス活性の比較。抗ウイルス性ペプチド(RS27−配列番号3−及びPS19−配列番号2−)の濃度を上昇させながら(列1及び2)、対照(RS28−配列番号5−及びSS20−配列番号4−)(列3及び4)、並びに、ペプチドの非存在下(列5)における、ASFVの細胞変性効果の阻害についての通常の顕微鏡(倍率100倍)による表示。
【図6】抗ウイルス性ペプチドの処理及び免疫蛍光による感染細胞数。図6Aは、ASFVのp30に対する抗体を用いて標識した、濃度を増加させた阻害剤(COVA2−配列番号7−)及び対照(RS28)と共にインキュベートした、6hpiの感染細胞のパーセンテージを示す。Bは、5μM及び50μMのCOVA2及びRS28ペプチドと共にインキュベートした感染細胞に対する免疫蛍光アッセイの代表的写真を示す。
【図7】抗ウイルス性ペプチドによる処理及びウイルスタンパク質の合成。様々な濃度のCOVA1(配列番号6)ペプチドを1及び3時間用いた、初期(p30)及び後期(p72)タンパク質合成の分析。Aは、p30及びp72タンパク質のウェスタンブロットの代表的ゲルを示し、Bは、密度計による、p30及びp72タンパク質の定量を示す。
【図8】抗ウイルス性ペプチドによる処理及び定量PCRによるASFウイルスDNAの定量。対照ペプチドRS28と比較した、増大濃度の阻害ペプチド(COVA1、PEP1−配列番号9−及びPEP3−配列番号8−)を用いた処理後の、16hpiのASFVのDNA複製に及ぼす影響。その他のDLC8結合配列(PEP1及びPEP3)を含むペプチドも本図面に表し、COVA1配列がより低いペプチド濃度から有効であることを示す。
【図9】ウイルス生成における抗ウイルス性ペプチドの影響。対照ペプチドRS28(白色四角)と比較し、増大濃度の阻害ペプチドCOVA1(黒色四角)を用いた、36hpi後に回収した、細胞内(A)及び細胞外(B)のウイルス力価に及ぼす影響。
【図10】化合物の細胞毒性の欠如。ベロ細胞の増殖指数は、様々な濃度の抗ウイルス性ペプチド(COVA1)及び対照ペプチド(RS28)を36時間インキュベートした後で変化しない。
【図11】ペプチドの内在化後の細胞構造の維持。様々な濃度のCOVA2ペプチドを用いて1及び3時間処理したベロ細胞の共焦点顕微鏡の代表的写真。写真は、非処理細胞において保存されている微小管の細胞骨格構造体(チューブリン)(左欄)及びFITC標識された増大濃度のペプチドで処理された細胞における構造体(右欄)を示す。
【図12】有糸分裂時における形態の維持及び紡錘体の形成。対照(A)及び阻害ペプチドCOVA1(B)を用いて処理したベロ細胞の共焦点顕微鏡の代表的写真。対照(A)及び(B)ペプチド処理された細胞両方の様々な段階の細胞分裂時に、チューブリン繊維は紡錘体を形成する。細胞生存度及び増殖能は、ペプチド処理によって影響されない。
【図13】フルオレセイン標識されたCOVA2ペプチドの細胞分布パターン。ペプチドは、DLC8のカーゴ(cargo)部位の1つと結合し、蛍光ペプチドは、細胞突出部(A)、細胞質輸送部位(A)、及び、DLC8が細胞分裂後の細胞小器官を再配置させる機能をする、有糸分裂後の娘細胞の細胞質(B)等の細胞の動的区画においてDLC8と明確に共局在化する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
多様な起源由来の様々なウイルス分離株中に存在するASFVタンパク質p54の配列分析比較に基づいて、我々は、多くのウイルス分離株中に保存されているコンセンサス配列と、異なるウイルス分離株間(図1)でこのタンパク質が違いをもたらすものの中から最も便利な隣接配列とを含むペプチドセット(表1)を設計した。長さ、疎水性及びプロリン含量が考慮された。プロリンは、溶液中及び凝集体中でcis/trans異性化を受け得る。いったんペプチドセットを選択したならば、我々は、それらのアミノ酸組成によって、可溶性かつ安定であることが予測されるものを合成し、細胞へとそれらを輸送するための配列をそれらに付して、次に、以下の方法によりそれらのペプチドを試験する。
【0016】
核磁気共鳴(NMR)技術は、様々なタンパク質間の相互作用表面の深度分析を可能にする。本発明においては、NMRによって、ASFVタンパク質p54とダイニン軽鎖(DLC8)との間の相互作用を分析した。この分析は、相互作用を詳細に知ることを可能にするデータを提供し、両タンパク質の三次元構造と両方の相互作用表面とを考慮することにより、相互作用に関与する残基を覆うために最適なペプチド配列を絞り込むことを可能にする。DLC8のNMRスペクトルを取得し、ウイルスp54の濃度を増大させながら、両タンパク質間の高親和性相互作用を示すこれらのスペクトルがどのように変化するか(化学シフト)を評価した。それらは相互作用に関与していることから、スペクトルから消えるDLC8の残基によって構成されるタンパク質の活性中心を決定することが可能であった。これらの残基は、以下の通りである:Trp54、Lys9、Ser88、Asn6l、Asn23、Asn33、Gly59、Ser86、Arg60、Glu15、及びTyr75。次に、我々は、相互作用表面に関与する残基と結合し得る及び残基を覆い得るペプチドを選択することができ、次に、この高親和性相互作用をブロックすることにより、どのペプチドが任意の濃度のウイルスタンパク質p54の任意のさらなる結合を防止し得るかについて試験した。
【0017】
本発明は、ウイルスタンパク質の細胞ダイニンとの正確な相互作用が、膜から核周辺領域(正常細胞においてDLC8の最大の蓄積を生じる場所である、微小管形成中心、すなわち、MTOC、に相当する領域)へのウイルスの細胞内輸送を必然的に含む感染にとって重要であることを示し、ASFVによる感染の場合、その場所は、ウイルスファクトリーが位置し、新しいビリオンを組み立てて生じるように、ウイルスタンパク質が合成される場所である。
【0018】
最近では、上述のNMRを用いて行った研究により、p54中に存在する相互作用配列TyrThrThrThrValThrThrGlnAsnThrAlaSerGlnThr(配列番号13)を含むペプチドを予めDLC8に添加することによって、p54のDLC8への結合を阻害し得ることが、我々の研究室において実証することが可能となった。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、感染を防ぐために、ウイルスタンパク質配列、又はその一部を利用することによって、また、いくつかのケースにおいては、ウイルスタンパク質−ダイニン結合に対する抗ウイルス性ペプチドアンタゴニストによる、細胞タンパク質の結合部位の飽和によって、感染時のウイルスによるダイニンの利用を妨害することから構成される。かかるペプチドについて、本発明は、そのペプチド配列を用いて任意の起源の細胞を処理した場合に、それらが、ウイルスタンパク質と軽鎖ダイニンとの作用を妨害することを証明した。例えば、かかるペプチドとしては、以下の14アミノ酸:TyrThrThrThrValThrThrGlnAsnThrAlaSerGInThr(配列番号13)を含むものが挙げられ、また、その配列中、及び様々な動物ウイルスの類似する配列中、又はこのペプチドに機能的に類似する配列中の保存的アミノ酸の変更をも含む。重要なモチーフ(p54−DLC8間の相互作用を維持するアミノ酸配列、ThrAlaSerGlnThr−配列番号14−)に隣接する配列の疎水性が、DLC8へのこのペプチドの結合能を変化させることを見出した。ペプチド配列の設計は、DLC8の三次元構造によって示される疎水性の谷部に位置する特定の部位において、ペプチドはDLC8と結合する必要があるということを考慮すべきである。上述したように、理論的配列はDLC8と結合することが予想されるが、それらのうちのいくつかはDLC8と結合し、その他のものは結合しなかったという事実を考慮して、本発明は、NMRを用いてペプチド配列をさらに絞り込み、阻害ペプチドのセットを選択した。我々は、p54−DLC8相互作用が、それらのNMR相互作用動態によって規定されるように、高親和性相互作用であることを実証した。それでもなお、我々は、いくつかのペプチドを添加することにより、この高親和性相互作用をブロックすることができた。このことは、所定のペプチド配列との結合を妨げることにより、p54−DLC8相互作用を妨害し得ることを初めて示すこととなった(表1)。選択された最適なペプチド配列は、相互作用をブロックすることができたが、その他のものは、NMRにより分析されるp54とDLC8との間の相互作用動態を変化させない、対照ペプチドとして使用した。
【0020】
本発明の方法論的近似は、前記配列のいずれかを含むペプチド配列、又は、その配列中に保存的アミノ酸の変更を有するペプチド配列による任意の起源の任意の処理をも含む。それらは、それら配列の全ての保存的変化を含み、また、現在知られている全てのメカニズムは、これらのペプチドを細胞内に輸送することを目的としており、そのような例としては、以下を挙げることができる:細胞内に輸送される配列と結合した任意のペプチド(アミノカプロン酸又はアミノヘキシン酸付加等);リポソーム、又は、細胞中にペプチドを内在化させる機能を有する任意のその他のビヒクル、例えば、ベクター、特に、アデノウイルス又はレトロウイルス、プラスミド等のウイルスベクター等であって、好ましくは、それらのベクターはタグ配列に結合している。ペプチドによる処理は、ダイニン軽鎖、DLC8タンパク質、又は、それに含まれる任意のアミノ酸配列、又はモチーフ(Lys/Arg)XThrGlnThr又はGly(Ile/Val)GlnValAspを含む任意のペプチド、又はアミノ酸の保存的変更を有するそれらに由来する配列と共に予めインキュベートすることにより、ダイニンに関連する輸送体を使用するダイニン結合モチーフを多く供給するという目的を有する。保存的変更とは、そのタンパク質の負荷、形態又は形成を変更しないものとして規定される。同様に、本発明は、ペプチドを細胞内に内在化するために、その他のペプチド配列、ペプチド輸送体等と結合しているか、又は、リポソーム及びその他のビヒクルと共に供給される前記ペプチドのいずれかを含み、一般的に、任意の起源の細胞について輸送システムが現在知られている。
【0021】
発明の詳細な説明
したがって、本発明の目的は、ウイルスタンパク質のDLC8との結合と競合し得る、様々なウイルス分離株由来のP54配列から選択されるペプチドの抗ウイルス性組成物である。特に、それらのペプチドは、タンパク質及びウイルスのDLC8との結合をインビトロ及びインビボで効率的に防止し、したがって、ウイルス感染を阻害する必要がある。それらのペプチドの中から、ウイルスタンパク質配列又はDLC8配列自体のいずれかより単離された、ウイルスタンパク質−DLC8相互作用に関与する配列に関連するペプチドが選択され得る。それに由来する任意のペプチド(特に、保存的アミノ酸置換を有するもの)も、本発明に含まれ得る[14:Taylor,W.R.]。
【0022】
選択されたペプチドは、DLC8とのウイルス−タンパク質の相互作用の阻害は別として、抗ウイルス保護が求められる細胞とインキュベートする場合、毒性を示さない必要がある。さらに、ウイルスタンパク質又はダイニン軽鎖(DLC8)のいずれかより単離される、DLC8とのウイルスタンパク質の結合に関与する単離ペプチドの多くは、凝集する及び二量体を形成する傾向を示す。それが起こる場合、ペプチドの結合能は非常に低く、結合能が消失さえし得る。その二量体形成及び/又は凝集は、疎水性、全長及びプロリン含量を考慮しながら、それらのペプチド配列中のいくつかのアミノ酸を変更することにより容易に回避することができる。本発明は、それらの変更について詳しく調べ、凝集又は二量体形成を示さず、ウイルス感染が防止又は治療される必要がある細胞に対する毒性が低い、DLC8と高い親和性を示す競合的結合により、DLC8とのウイルスの結合を妨害するペプチドのファミリーを選択した。
【0023】
さらに、選択されたペプチドは、例えば、8個のアルギニンからなるテール部を有し、それらのペプチドが、ウイルス感染を防止又は治療すべき細胞内に侵入することを容易にしている。
【0024】
選択されたペプチドのファミリー(PS19、COVA1、COVA2、PEP1及びPEP3)、それらは全て、P54に関連する配列の一部に由来し、DLC8との結合を担う。本発明のペプチドのファミリーは、配列番号14によって表され、配列番号14のアミノ酸の少なくとも1つの保存的置換によってそれに由来する任意のその他のペプチドを含む。配列番号1によって表されるペプチドのサブファミリーは、細胞へのそれらの非毒性により、特に興味深い。
【0025】
配列番号14又は配列番号1のいずれかにより表されるファミリーのうちの少なくとも1つのペプチドを含む本発明の抗ウイルス性組成物は、任意のその他の活性化合物及び/又は薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤をさらに含んでもよい。
【0026】
ウイルス感染の中で、本発明の抗ウイルス性組成物によって治療され得るものは:ASFV、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、エントモポックスウイルスA.moorei、ワクシニアウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト単純ヘルペスウイルス、モコラウイルス又はAIDSウイルスであり得る。
【0027】
本発明の別の目的は、以下の工程を含むことを特徴とする、抗ウイルス性化合物の選択方法及びそれらの有効性の評価方法に存在する:
a)適当な細胞内送達配列がタグ付けされているか、又は、そのペプチド配列を発現するベクターによって形質転換されている、リポソーム等の既知の送達方法と組み合わせられ、DLC8と結合し得る化合物と細胞培養物とを、予めインキュベート又は予め混合する工程、
b)工程a)において予めインキュベート又は混合された細胞培養物とウイルスを接触させて配置する工程、
c)一定時間後の細胞内のウイルス感染レベルを検出及び定量する工程、
d)DLC8と結合し得る化合物と共に予めインキュベート又は予め混合させることなく、ウイルス感染させた細胞培養物で到達した前記ウイルス感染レベルとの比較を行う工程。
【0028】
本発明の別の主題は、以下の工程を含むことを特徴とする、抗ウイルス性化合物の選択方法及びそれらの有効性の評価方法に存在する:
a)DLC8と結合し得る配列、その部分配列又は、DLC8と結合し得る配列又はその部分配列の少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換により産生される類似配列を含む化合物とウイルスとを、予めインキュベート又は予め混合する工程、
b)工程a)において予めインキュベート又は混合されたウイルスを細胞培養物と接触させて配置する工程、
c)一定時間後の細胞内のウイルス感染レベルを検出及び定量する工程、
d)工程a)の化合物と予めインキュベート又は予め混合させることなく、ウイルス感染させた細胞培養物で到達した前記ウイルス感染レベルとの比較を行う工程。
【0029】
また、本発明のその他の目的は、ダイニン輸送システムと関連する、細胞内のウイルス経路の研究に関する。DLC8と結合し得る一連のペプチドを標識することにより特徴付けられる研究方法もまた本発明の範囲であり、それらペプチドは、例えば、直接蛍光顕微鏡により検出され得る。標識マーカーとして、以下の、細胞研究において利用可能ないずれも選択することができる:フルオレセイン、ローダミン又はその他の蛍光及び非蛍光マーカー、例えば、ビオチン、ヘマグルチニン、c−myc等。二次抗体等が検出用タグとして優先的に使用される。
【0030】
最終的に、本発明は、軽鎖ダイニン(DLC8)スペクトルの変化を測定することによる、リガンドのDLC8との結合の阻害を評価するための方法にも関する。
【0031】
以下の実施例は、本願に含まれる関連する発明を実行する好ましい実施形態であり、範囲を限定することなく、当業者がそれらの関連する発明を、過度の努力を必要とせずに再現することを可能にすることのみを目的として示される。
【0032】
実施例:p54及び、細胞の8kDaのダイニン軽鎖(DLC8)の間の相互作用を妨げるペプチドによる、アフリカブタ熱ウイルス(ASFV)による感染の阻害
【0033】
1.1. 材料
1.1.1 使用した細胞株及び培地
本実施例を通じ、ベロ細胞株をモデルとして使用してきた。感染及びペプチドの内在化の試験は、異数性で培養中に無制限に増殖するこの確立された細胞株において展開した。それは成体アフリカミドリザルの腎臓(Cercopithecus)に由来し、第84113001番に登録されており、European Collection of Cell Cultures(ECACC)を通じて入手した。それらの形態は線維芽細胞型で、常に20未満の工程で用い、凍結保存を保ち、かつ、使用まで液体窒素中に小分けした。この細胞株を、30分間、56℃で不活化した5%ウシ胎仔血清(BFS, Lonza)を補充したDulbecco修飾イーグル培地(DMEM, Lonza)、4mM グルタミン(invitrogen)、200lU/mlのペニシリン及び100mMのストレプトマイシン(Invitrogen)を用いて培養した。細胞の培養条件は、37℃、5%CO2雰囲気であった。定常的に、これらの細胞を1週間に2回、Nunclon(登録商標)(Nunc)にて被覆された75cm2のEasy−T−Flasks培養フラスコ中、1:6で継代培養した。
【0034】
特定の試験要件に応じて、いくつかの形態でDMEM培地を補充した。すなわち、抗生物質、グルタミン又はSBFを含まないものを用いる場合に、我々はDMEM SCと称する。先の段落中に記述された濃度において、別の添加剤を維持して2%のSBFを加える場合、我々は、2%DMEMと称する。
【0035】
寒天プレートのためには、ダルベッコ2X(Gibco)培地を用いた。
【0036】
1.1.2. 使用したウイルス分離株
感染の阻害試験に用いたアフリカブタ熱ウイルスの分離株は、ベロ細胞株での成長に採用されたBA71Vであった[4]。ウイルスのストックを、100μlのアリコートで、−80℃、15%ウシ胎仔血清を補充したDMEM培地中に保存した。それらの使用時に、必要なアリコートを、37℃のバス中で迅速に解凍して、氷中に保存した。
【0037】
1.1.3. 使用した代替可能な材料
・ウイルス分離株のアリコートを保存し、ベロ細胞株を液体窒素中で維持するための、容量1mlのcryotubes(Nalgene)。
・最大容量1000、200及び20μlのマイクロピペット(Gilson)。
・1000、200及び20μl容量の、汚染の可能性を回避するための、フィルター付きでRNaseフリーのマイクロピペットチップ(Arc)。
・容量1.5mlのRNAseフリーのチューブ(Eppendorf)。
・4、6、12及び24ウェルマルチウェル培養プレート(Nunc)。
・直径12mmのカバースリップ(Gever Labs)。
・通常の長方形のスライドグラス(Gever Labs)。
・タンパク質のためのニトロセルロース薄膜、9×7cm(GE Healthcare)。
・Whatmanの濾紙、9×7cm。
【0038】
1.1.4. 使用した抗体及び色素原
・抗p30モノクローナル抗体:Dr.Jose Angel Martinez Escribanoのラボラトリーにて開発され、ASFVの初期タンパク質であるp30を特異的に認識及び検出する。
・E.coliの異種系で発現させた10個のヒスチジン残基に結合させたDLC8タンパク質を用いて免疫したウサギにおいて取得し、後に精製した抗DLC8ポリクローナル抗体。我々の研究室で生成した。
・抗αチューブリンモノクローナル抗体(Sigma)。
・抗p72モノクローナル抗体(抗p73):Ingenasaにより販売されており、後期構造タンパク質の主としてASFVのp72又はp73を特異的に認識及び検出する。
・Alexa594蛍光色素(Molecular Probes)へとコンジュゲートさせたマウス抗IgG抗体。
・Alexa488蛍光色素(Molecular Probes)へとコンジュゲートさせたマウス抗IgG抗体。
・HRPペルオキシダーゼ(GE Healthcare)へとコンジュゲートさせたマウス抗IgG抗体。
・HRPペルオキシダーゼ(GE Healthcare)へとコンジュゲートさせたウサギ抗IgG抗体。
【0039】
1.1.5. その他の試薬
・Triton X−100(Sigma)
・Tween 20(Sigma)
・リン酸緩衝液(PBS)
・BSA,ウシ血清アルブミン(Sigma)
・ECL化学発光試薬(GE Healthcare).
・RNAseフリーの水(Ambion).
・作業表面及び材料からRNAse活性を除くためのRNAseZAP溶液(Ambion)
・フルオレセインを保存するためのマウント試薬であるProLong
・核酸の挿入色素原試薬としてのHoechst3332(Sigma)
・β−メルカプトエタノール、SDS、Trisベース(Sigma)
・NP−40(Fluka)
・NaCl(Duchefa biochemicals).
・Ultra pure low melting point agarose(Invitrogen)
【0040】
1.1.6. 使用したペプチド
ASFV p54タンパク質中の先に記述されるDLC8結合モチーフを含む各種のペプチド、及び、陰性対照として使用するための無関係の配列の別の一連のペプチド(RS27及びSS20ペプチド)を設計した。それらの全てを表1中に記述する。あるペプチドにおいては、以下のようにいくつかの変更が含まれる:
・細胞中へのペプチドの内在化を増加させる目的による、N末端における8個のアルギニン残基(R)の付加[6](RS27;RS28;COVA1;COVA2;PEP3;PEP1)
・蛍光顕微鏡観察により直接的に示される、N末端でのフルオレセインへのコンジュゲート(COVA2;PEP3;PEP1)
・ペプチドの脱離を助け、その凝集を回避するための特定の残基の置換(COVA1、COVA2、PEP1及びPEP3)
・DLC8と相互作用する(PEP3)p54の能力を維持するその部分のための、
ThrAlaSerGlnThrモチーフ内部の残基の置換[1]
【0041】
本実施例に使用される全ての設計されたペプチドは、Sigma−Genosysにより合成した。それらの精製は、全ての場合で純度90%を上回る程度が得られるHPLCによって行われた。ひとたび合成され、精製されると、ペプチドは凍結乾燥物としてラボラトリーに受領された。
【0042】
【表1】
【0043】
1.2. 方法
1.2.1 配列比較分析
異なる領域中に存在するp54及び、Genbank(NCBI)中に登録されたASFウイルスのラボラトリー分離株の配列を、BLASTデータベース上にプロットし、Local Alignment Search Toolを用いて比較した。各種の分離株に由来する各種の配列から、保存されているモチーフと、最も適切な隣接配列が得られた。このペプチド設計のために、鎖長、疎水性及びプロリン含量が考慮された。プロリンは、溶液中及び凝集体中でcis/trans異性化を受け得る。ペプチドの疎水的な特性は、純化及び沈殿の促進のためには難しいものでもあり得る。いったんペプチドのセットを設計し、我々は、それらのアミノ酸組成によって、可溶性かつ安定であることが予測されたものを合成するよう選択し、細胞へとそれらを輸送するための配列(後述されるような8個のアルギニンテール部)をそれらに付した。
【0044】
1.2.2. 核磁気共鳴
N15による標識と、ASFVタンパク質p54及びDLC8の精製の後に、核磁気共鳴スペクトルを取得した。この実験に用いた方法は、化学シフト摂動法と称される。まず、両方のタンパク質を精製し、DLC8に関し、Lo等,1998により報告されたものとスペクトルを比較する(図2)。
【0045】
1.2.3 ペプチドの操作
分子量に従って(表1参照)、ペプチドを、相当する程度の純度のmQ及び滅菌度のH2O容量中に再懸濁して、5mMの濃度の保存溶液を得た。溶液の濁りを回避するためには特別に注意を払い、クロスコンタミネーションの可能性を防ぐために、チップは常にフィルターを伴って使用した。20μlのアリコートを調製し、それらを使用時まで−80℃で保存した。それらを使用するために、解凍はゆっくりと、氷中で行った。
ペプチドを含む希釈標準溶液は、それらの分解を避けるために、細胞培養物へと添加する直前に、DMEM SC培地中の保存溶液から0〜100μMの範囲の濃度で、常に滅菌状態で調製した。
【0046】
1.2.4 細胞培養物中のペプチドによる、p54−DLC8相互作用のブロッキング
実験の前夜、9×104個のベロ細胞を24ウェルプレート中に培養した。翌朝、細胞をDMEM SC中で洗浄し、存在する培地を、各種ペプチドを各種濃度で含む300μlの溶液で置換した。ペプチドと細胞とのインキュベーションは、1時間、37℃、5% CO2にて行い、その後細胞をASFVにて感染させた。細胞を感染させるために、存在する細胞培養液を除去し、細胞あたり1プラークフォーミングユニット(pfu)の感染多重度が得られるために相当する量を含む2% 350μl/ウェルに置き換えた。感染は所望の時間まで、37℃、5%CO2にて行わせることが可能であった。
【0047】
吸着時間(2時間、37℃)後、DMEM SCにて2回洗浄することにより残留するウイルスを除去し、最終的に細胞を、相当する濃度のペプチドを含む300μlの新鮮なDMEM SC中に入れた。実験毎に、解析すべき感染のパラメータに応じて、所望される期間、37℃にて感染を継続させた。このプロセスを図4中に概略で示す。
【0048】
1.2.5 間接的免疫蛍光(IIF)による、ASFVに感染した細胞の検出
予め各種のペプチドに曝した細胞における、ASFVに感染した細胞の検出を、感染6時間後に実行した。ASFVに感染したそれらの細胞を免疫蛍光によって検出するためのIIFの技術は通常的なものであった。概略すれば、細胞を、1mlのPBSで洗浄し、次いで3.8%のPBS−パラホルムアルデヒド溶液にて、室温、10分間固定した。次いで、残留したパラホルムアルデヒドを、1mlのPBSで細胞を3度洗浄することによって除いた。0.2%のPBS−Triton X−100を用いて、15分間、室温にて、細胞膜の透過性を上昇させた。さらにPBSにて3回洗浄後、37℃にて、ブロッキング溶液(3%PBS−BSA)中、45分間、細胞をインキュベートした。検出すべきウイルス抗原として、ASFV p30[5]の初期タンパク質を選択し、PBSで1:200に希釈した抗p30抗体を用いて、1時間、37℃、その検出を行った。細胞をPBSにて3度洗浄し、それらを、PBSで1:300に希釈したマウス抗lgG抗体を有する溶液で、30分間室温にてインキュベートした。細胞をPBS中で洗浄し、最終的にHoechst 3332を有する細胞核のマーキングを取り込ませた。最後に、マウント液としてProlongを用いて、細胞を含むカバースリップをスライド上に載せた。調製物を通常の蛍光顕微鏡(Leica)にて観察し、ウイルス抗原p30に関して陽性の細胞数を計数した。
【0049】
1.2.6. ASFVによる感染の間のウェスタンブロットによる、ウイルスタンパク質の合成の解析
解析されるべきウイルスタンパク質は、感染の最初の段階で発現される初期ASFV p30タンパク質[5]、及び、感染の後期で発現されるp72タンパク質(場合によりp73とも称する)[7、8]であった。ウェスタンブロットは細胞上で行われ、50μlの凍結RIPAタンパク質抽出バッファー(150mMのNaCl、5mMのβ−メルカプトエタノール、1%のNP40、1%のSDS及び50mMのTris−HCl、pH=8)中に回収する前に、1mlの氷冷PBSにより洗浄した。それらを4℃、回転撹拌にて、20分間インキュベートして、タンパク質を可溶化し、次いでそれらを卓上遠心機にて12,000rpm、4℃、10分間、遠心分離した。沈殿を廃棄し、上清を回収して、ウェスタンブロットによる解析までの間、−70℃にて保存した。
【0050】
サンプルを氷中で解凍し、各種のサンプル中のタンパク質の量を、Bradford法により定量した。20μgの総変性タンパク質(100℃、5分間)を、15%のアクリルアミド:bis−アクリルアミドゲル中、90分間、100V定電圧にて電気泳動することにより分離した。分離されたタンパク質を、トランスファーバッファー(Tris−グリシン、20%メタノール)存在下、90分間、100V定電圧で、ニトロセルロース膜へとトランスファーした。50mlの5%PBS−スキムミルク粉末の存在下で、室温にて最低1時間、回転撹拌にて、膜をブロッキングした。次いで膜を、PBSで1:50に希釈した10mlの抗DLC8ポリクローナル抗体と、1時間、室温にて、撹拌しながらハイブリダイズさせた。この期間の後、20mlの0.05%PBS−Tweenにて、室温にて、各回15分間、膜を3回洗浄した。ペルオキシダーゼにコンジュゲートされ、PBSで1:4000に希釈された2次ウサギ抗lgG抗体とのインキュベーションを、1時間、室温にて撹拌しながら継続した。これを終了後、0.005%PBS−Tweenにて各回15分間、膜を3回洗浄した。最終的に、ECLを用いた化学発光による検出を、通常の手法で、製造者の説明書に従って実行した。
【0051】
分析するための出発サンプルとしては、16時間の間、各種のペプチドに曝すか又は曝さないで、後にASFVに感染した又は感染しなかったベロ細胞に由来する、総可溶性タンパク質抽出物を用いた。
【0052】
一次抗体として、PBS中で1:100に希釈した抗p30モノクローナル抗体及び、PBS中で1:2000に希釈した抗p72モノクローナル抗体を独立の膜において使用した。膜を両方の抗体と共に、回転震盪しながら1時間室温にてインキュベートした。
【0053】
二次抗体として、ペルオキシダーゼへとコンジュゲートされたマウス抗IgG抗体を、両方の場合において用いた。
【0054】
最終的に、各バンド中に存在するタンパク質を定量し、相対化するための化学発光反応の濃度を検出した。
【0055】
1.2.7. ASFVゲノムの検出及び定量
特異的なオリゴヌクレオチド(配列番号10及び配列番号11)及びTaqManプローブ(配列番号12)を用いた定量的リアルタイムPCRにより、ASFVゲノムの検出及び定量を行った。接種16時間後(16hpi)に、0.5pfu/cellのBA71Vを感染又は偽感染させた細胞由来のDNAを抽出し、DNeasy blood and tissue kit(Qiagen)を用いて精製した。260nmにおける吸光度(A260)を測定することにより、DNA濃度及び純度を評価した。
【0056】
増幅混合物は以下のように氷上で調製した:
3μl 鋳型DNA(1μg)
1μl オリゴヌクレオチドOE3F 50pmol
1μl オリゴヌクレオチドOE3R 50pmol
10μl Quantimix Easy Probes Biotools 2X
1μl TaqMan(商標) probe SE2 5pmol
4μl H2O
【0057】
増幅反応は、Rotor Gene 6000(商標)(Corvette Research)中で、以下の表に従って行った:
【0058】
【表2】
【0059】
陽性増幅対照(ASFVウイルス粒子から精製したDNA)及び陰性増幅対照(偽感染細胞由来のDNA)をアッセイに含め、各サンプルから2連を分析した。
【0060】
1.2.8. ASFV感染の間のウイルスの子孫産生に及ぼすペプチド処理の効果
実験前夜に、9×104個のベロ細胞を24ウェルプレート中に播いた。感染1時間前に、各種濃度のCOVA1又はRS28ペプチドを含む300μlのDMEM中で、細胞をインキュベートした。次いで、0.5pfu/cellのASFV BA71V株を用いて細胞を感染又は偽感染させた。接種36時間後(36hpi)に、100μlの培地をウェルから回収し、細胞外のウイルス子孫を分析するまでの間、−80℃にて保存した。感染した細胞をまた、100μlの新鮮なDMEM中に回収した。細胞を3度凍結融解し、細胞内のウイルス子孫を可溶化させ、次いで、使用するまで−80℃にて保存した。細胞内又は細胞外サンプルのウイルス力価を、プレートアッセイにより分析した。手短に言えば、6ウェルプレートに播いたベロ細胞の単層に、ウイルス子孫を含む10倍希釈系列のサンプル500μlを接種した。90分間の吸収期間の後、細胞を新鮮なDMEM5%で2度洗浄し、3ml/ウェルの重層(低融点アガロース2%及びDMEM 2×、v:v)を細胞に加えた。重層物が固化したら、プレートを、37°C、及び5%のCO2にて12日間インキュベートした。次いで、1%のクリスタルバイオレット(5%ホルムアルデヒド溶液中)で細胞を染色し、ウイルスのプラークを視覚化可能にした。ウイルス力価は以下のように計算した:pfu/ml=2×n0 プラーク×10希釈倍率
【0061】
1.2.9 細胞毒性分析。細胞生存率及び増殖アッセイ。
細胞生存率を評価するために、24ウェルプレート中に播いたベロ細胞を、阻害ペプチドCOVA1又は陰性対照RS28を0〜100μMの範囲の濃度で含むDMEM中でインキュベートした。ペプチドとともに24時間インキュベートを行った後、細胞を収穫し、トリパンブルー(Sigma)色素排除アッセイにより、細胞懸濁液中に存在する生存細胞の数を調べた。手短に言えば、0.08%のトリパンブルーを含む20μlのPBSを、等量の細胞懸濁液へと添加し混合した。2分後に、血球計算盤及び通常の光学顕微鏡により、青色の細胞(死細胞)を計数した。
【0062】
細胞増殖を評価するために、96ウェルプレート中に播いた3×104個のベロ細胞を、阻害ペプチドCOVA1又は陰性対照RS28を0〜100μMの範囲の濃度で含む50μlのDMEM中でインキュベートした。36時間のインキュベート後、CellTiter 96 Aqueous(商標)(Promega)アッセイを、製造者の説明書に従って用いて、細胞増殖を調べた。
【0063】
1.3. 結果
1.3.1 抗ウイルスペプチドの設計
異なる領域中に存在するp54及びASFウイルスのラボラトリー分離株の配列をデータベース上にプロットし、比較した。様々な起源から単離された各種ウイルス中に存在するウイルスASFVタンパク質のp54の、この配列分析比較に基づいて、我々はペプチドのセットを設計し(表1)、それは、ほとんどのウイルス分離株中に保存されているコンセンサス配列と、最も適切な隣接配列をそれらの中に含み、異なるウイルス分離株の間でそのタンパク質がバリエーションを有していた(図1)。ペプチドを設計するために、鎖長、疎水性及びプロリン含量を考慮した。プロリンは、溶液中及び凝集体中でcis/trans異性化を受け得る。ペプチドの疎水的な特性は、純化及び沈殿の促進のためには難しいものでもあり得る。いったんペプチドのセットを設計し、我々は、それらのアミノ酸組成によって、可溶性かつ安定であることが予測されたものを合成するよう選択し、細胞へとそれらを輸送するための配列(後述されるような8個のアルギニンテール部)をそれらに付してから、以下のアプローチにより、それらのペプチドの試験を進めた。
【0064】
1.3.2. 核磁気共鳴スペクトルによる相互作用表面の解析
N15による標識と両タンパク質の精製の後に、核磁気共鳴スペクトルを取得した。この実験に用いた方法は、化学シフト摂動法と称される。この方法は、標的タンパク質において観察される化学変化を、それがリガンドと相互作用するときに解析する。まず、両方のタンパク質を精製し、DLC8に関し、Lo等,1998(13)により報告されたものとスペクトルを比較する(図2A)。ASFVタンパク質であるp54の濃度を増加させて存在させたとき、DLC8のスペクトルは変化し、かつ、モチーフの結合に関与するシグナルは徐々に消失した。p54の濃度が0.1当量の場合、最初の消失シグナルは、W54、K9、S88、N61、N23残基に相当する。濃度が0.3当量に達すると、消失シグナルはN33、G59、N23、S86、R60、E15、Y75残基に相当する(図1A)。DLC8及びP54の間で観察される相互作用工程のゆっくりとした相互変化は、これらのタンパク質間の結合が高い親和性で起こることを示唆した。それにもかかわらず、我々は、ある種のペプチドを添加した場合に、この高い親和性の相互作用に干渉することができ、かつ、p54のいかなる濃度においても、そのタンパク質の活性中心に由来する上記された残基のいずれにおいてもDLC8スペクトルの変化が観察されず(図2B)、この相互作用が所定のペプチド配列(表1)によって効果的に阻害され得ることが初めて示された。
【0065】
1.3.3. ベロ細胞におけるペプチドの内在化
参考文献には、ペプチドの末端にアルギニン残基を付加することが、細胞内部へのそれらの浸透を顕著に増加させることが記述されている。その目的で、我々は、8個のアルギニンからなる細胞内送達トランスポーターを組み込ませた。設計したペプチドが細胞内部に効率よく内在化されていることを確認するために、フルオレセイン標識をN末端に組み込んだ。アルギニン細胞内送達トランスポーターを組み込んでいないそれらのペプチドは、細胞内に入ることができなかったのに対し、トランスポーターテール部を組み込んだものは効果的に内在化し、ペプチドと共にインキュベートして1〜3時間後には、微小管中の連続的なパターンで、培養物中に存在するほぼ100%の細胞が染色された(図3)。COVA2ペプチドは、p54において先に記述されたDLC8結合モチーフを含むこの一連の特徴に合致し、ベロ細胞における内在化を直接的に観察するために使用された。
【0066】
図3中に見られるように、ペプチドは効率的に内在化され、その添加6時間後でさえも、直接蛍光顕微鏡法により容易にそれが検出されることが可能であった。
【0067】
COVA2ペプチドの最適濃度は、50及び100μMであり、両濃度の間で顕著な差異はみられなかった。より高い濃度において検出するよりは検出が困難ではあったが、25μMのCOVA2でも検出可能であり、しかし、より低い濃度、すなわち、5μMを下回る濃度では、蛍光顕微鏡によってほとんど検出ができなかった。
【0068】
1.3.4. p54−DLC8結合を阻害するペプチドによる、ASFVによる感染の阻害
本実施例の方法の項に詳述するように、感染は、各種のペプチドに予め曝したベロ細胞の単層ASFVに対し、1pfu/cellで実施した。感染はペプチドの存在下で行うようにし、以下の感染パラメータを分析して、対象のペプチドにおける阻害効果を確認した。
【0069】
1.3.4.1. ウイルス感染の細胞変性効果特性におけるペプチドの効果
ASFV感染は、感染した細胞に対し、非常に特徴的で、かつ、通常の顕微鏡によって細胞変性の影響として容易に検出が可能なダメージを生じる。それは、感染後の早期に開始し、最終的には、進行性の細胞内の空胞化、細胞の輪郭が丸みを帯びること、及び、感染した細胞がそれに対して付着する表面の剥離を導く[9]。
【0070】
各種ペプチドの存在下で感染が進行するとき、ベロ細胞培養物において、感染18時間後の細胞変性効果が普及しているか否かを評価した。この方法を用いて、ペプチド(それらの配列中に、DLC8結合モチーフと、細胞内部へのそれらの取り込みを助けるアルギニン配列とを共に含む)と共にインキュベートした場合の、それらの細胞培養物に対する細胞変性効果の阻害を検証することができた。対照的に、アルギニン配列を有さない対照ペプチドに曝したそれらの細胞は、感染が通常通り進行している細胞において観察されるのと同様の細胞変性効果を示した。
【0071】
図5中に示されるように、観察される細胞変性効果の程度は、使用したペプチドの濃度に直接的に比例することが観察された。すなわち、PS19ペプチドの濃度は、25〜100μMの濃度範囲で総合的に細胞変性効果を阻害したが、25μMを下回る濃度では細胞変性効果を阻害するには効果的でなかった。
【0072】
以下の表は、試験した各種のペプチドにおける細胞変性効果の阻害能力と、それらの相当する濃度をまとめたものである。
【0073】
【表3】
【0074】
さらに、それらの修飾を有するDLC8結合モチーフを含むペプチドは、ペプチドの相互作用能力を維持しており、感染の際の細胞変性効果を阻害する場合に効果的であることが実証された。
【0075】
1.3.4.2. 感染した細胞のパーセンテージにおけるペプチドの効果
(抗原p30に対し陽性である)ASFVに感染した細胞数を計数することにより、ペプチドの阻害効果を解析した。これを行うために、ウイルス感染に先立ち、本実施例の方法の項に詳述するように、各種の阻害ペプチド及び対照ペプチドの存在下で、細胞をインキュベートした。
【0076】
図6中に示されるように、感染に先立ってCOVA2ペプチドと共にインキュベーションすることにより、対照ペプチドRS28と共にインキュベートした細胞において得られるデータと比較して、感染した細胞のパーセンテージの劇的な減少がもたらされた。さらに、この減少は、使用したCOVA2ペプチドの濃度に依存的であった。
【0077】
1.3.4.3. ウイルスタンパク質の合成におけるペプチドの効果
特異的な抗体を用いたウェスタンブロットにより、初期及び後期ASFVタンパク質の合成を解析した。すなわち、COVA1ペプチド存在下で、ASFVによる感染が起こるとき、初期(p30)及び後期(p72)のウイルスタンパク質の両方の合成が、投与量依存的に減少することが観察され得た。さらに、この減少は、細胞培養物へと加えられたCOVA1の投与量に依存していた(図7)。
【0078】
1.3.4.4. ウイルスゲノム複製カウントにより測定したペプチドの効果
ベロ細胞を、各種濃度のペプチドと共に上述の通り予めインキュベートし、BA71V ASFV分離株を用いて感染させた。細胞を接種16時間後に回収し、特異的なTaqManプローブ及びオリゴヌクレオチドを用いた定量的リアルタイムPCRにより、ASFVゲノムの複製を解析した[11]。図8中に見られるように、阻害ペプチドであるCOVA1を用いた処理は、ASFVゲノムの複製を投与量依存的に強度に減少させた。同様に、p54−DLC8相互作用に影響しないDLC8結合モチーフ中の変化を含む、その他のブロッキングペプチド(PEP1及びPEP3)と共に予めインキュベートすることによっても、ASFVゲノムの複製の減少がもたらされたが、COVA1配列による処理は、より低濃度のペプチド(25μM)でも効果的であった。ペプチド処理後のウイルスDNAの複製におけるこの減少は、これらのペプチドによる感染の阻害の結果である。すなわち、この感度の良い定量的な方法により、p54−DLC8結合を妨げ、感染を妨げ得るペプチド内部に、インビボにおける感染をより効果的にブロックできる所定の配列が存在することを明確にすることができる(図8)。
【0079】
1.3.4.5. ASFV感染の間のウイルス子孫産生に対するペプチド処理の影響
24ウェルプレート中で生育させた9×104個のベロ細胞を、材料と方法の項に記載の通り、各種濃度のペプチドCOVA1及びRS28により1時間、37℃で処理した。次いで、細胞を、0.5pfu/cellのBA71Vに感染又は偽感染させた。接種36時間後に、感染した細胞培養物由来の細胞外及び細胞内のウイルス子孫を、プラークアッセイにより解析した。図9中に示すように、50μM又はそれより高い濃度のCOVA1存在下で感染が進行する場合に、細胞外(図9B)及び細胞内(図9A)のウイルス力価の統計学的に有意な減少が観察された。それにもかかわらず、各種濃度の陰性対照ペプチドRS28と共にインキュベーションすることは、ウイルス力価に影響を及ぼさず、ウイルス子孫の値は、ペプチド非存在下の感染細胞から得られたものと同様であった。
【0080】
1.3.5. 細胞毒性分析。細胞生存率及び細胞増殖におけるペプチド処理の効果
ペプチドでベロ細胞を処理することに対し、何らかの細胞毒性または副作用が関連するか否かを評価するために、細胞増殖及び細胞生存率アッセイを行った。これらの実験において、各種の濃度のCOVA1ペプチドにて処理を行った後の細胞の増殖値は、陰性対照ペプチドRS28にて処理を行った後の細胞と比較して減少しなかった(図10)。COVA1によって得られる増殖値は、ペプチド非存在下の対照細胞において得られる値と同様であった。また、細胞生存率は、トリパンブルー排除アッセイから判断されるように、各種のペプチド(インヒビター又は対照ペプチド)と共にインキュベーションを行った後に変化しなかった。細胞生存率は、すべての場合において90%前後であった。これらの結果は、本発明に記載するペプチドと共にインキュベーションを行うことが、ベロ細胞の増殖又は生存率のいずれかに影響することがないことを実証する。
【0081】
1.3.5.1. 細胞構造及びDLC8の機能的統合性
我々は、微小管モーターであるダイニンに関連する主要な細胞構造が、ペプチド処理により変化を受けるか否かを試験した。ペプチドの内在化と共に、我々は細胞骨格要素の統合性を解析し、微小管がペプチドCOVA2の存在下で変化を受けないことを観察した(図11)。また、軽鎖ダイニンの微小管における分布パターンは、微小管形成中心(MTOC)に相当する濃縮領域により保存されていた(図11)。ダイニンの機能は、有糸分裂において重要であることが知られており、紡錘体の形成及び染色体の移動に役割を果たすが、細胞分裂には変化がないことを我々は見出した(図12)。
【0082】
1.3.5.2. フルオレセイン標識されたCOVA2ペプチドの細胞分布パターン
フルオレセイン標識したペプチドCOVA2は、DLC8分子全体に対するポリクローナル抗体を用いて染色されたDLC8と同様の分布を示した。DLC8は、細胞質中で、オルガネラ、RNA及びタンパク質の微小管のマイナス末端への(核に向かう)輸送に介在する選択されたカーゴと相互作用し、その機能は、有糸分裂後のゴルジ体等のオルガネラの再配置にとり不可欠である。興味深いことに、COVA2ペプチドは、DLC8分子の動的要素とまさに共局在化していた。蛍光ペプチドは、主として細胞質、細胞突起、糸状仮足及び休止細胞の細胞接触点領域に分布していた。有糸分裂を行っている細胞中で、それは、有糸分裂後期が開始するまで周辺の細胞質領域中に留まる。次いで、核分裂中の細胞及び娘細胞中でCOVA2染色は増加し、有糸分裂後のオルガネラの再分布中には、それらの細胞中、全ての細胞質領域で、非常に強く染色される(図13)。DLC8分子全体を染色する抗体を用いた共局在化のパーセンテージは、有糸分裂後に細胞オルガネラを活発に再配置する細胞中において、より高かった。次いで、それが、細胞中のDLC8より介在される輸送を関連する動的要素の選択的マーカーであることが見いだされた。
【0083】
これらの結果は、(ASFVによる)ウイルス感染が、各種のウイルス分離株におけるウイルスp54中に存在し、両方のタンパク質間の相互作用を阻害するDLC8結合モチーフに基づいて特異的に設計されたペプチドを用いて阻害され得ることを、明確に実証する。この阻害は、細胞変性効果の阻害、感染した細胞数、細胞あたりのウイルスゲノムのコピー数(細胞中にng/μlで見いだされるウイルスの複製における減少を反映する)における大幅な減少、及び、結果的なウイルス産生及びウイルスタンパク質の合成における顕著な低減に反映される。
【0084】
結論として、本発明は、感染を成功させるために不可欠なステップであるダイニンDLC8へとウイルスが結合するための配列に基づいて設計されたペプチドを、最初に使用するものであり、それらのペプチドは、感受性細胞におけるウイルス感染を効果的に阻害し、実証可能な抗ウイルス効果を有することが示される。
【0085】
参考文献
1. Alonso,C.,et al.,African swine fever virus p54 protein interacts with the microtubular motor complex through direct binding to light−chain dynein.J Virol,2001.75(20):p.9819−27.
2. Harrison,A. and S.M.King,The molecular anatomy of dynein.Essays Biochem,2000.35:p.75−87.
3. King,S.M.,Organization and regulation of the dynein microtubule motor.Cell Biol Int,2003.27(3):p.213−5.
4. Enjuanes,L.,et al.,Titration of African swine fever(ASF)virus.J Gen Virol,1976.32(3):p.471−7.
5. Afonso,C.L.,et al.,Characterization of p30,a highly antigenic membrane and secreted protein of African swine fever virus.Virology,1992.189(1):p.368−73.
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7. Tabares,E.,et al.,Proteins specified by African swine fever virus.II.Analysis of proteins in infected cells and antigenic properties.Arch Virol,1980.66(2):p.119−32.
8. Cobbold,C. and T.Wileman,The major structural protein of African swine fever virus,p73,is packaged into large structures,indicative of viral capsid or matrix precursors,on the endoplasmic reticulum.J Virol,1998.72(6):p.5215−23.
9. Nunes,J.F.,J.D.Vigario, and A.M.Terrinha,Ultrastructural study of African swine fever virus replication in cultures of swine bone marrow cells.Arch Virol,1975.49(1):p.59−66.
10. Martinez−Moreno,M.et al.,Recognition of novel viral sequences that associate with the light chain dynein LC8 identified through a pepscan technique.FEBS Letters 2003.544:262−267.
11. King,D.P.,et al.,Development of a TaqMan PCR assay with internal amplification control for the detection of African swine fever virus.Virol Methods.2003.107:53−61.
12. Rodriguez−Crespo,I.,et al.,Identification of novel cellular proteins that bind to the LC8 dynein light chain using a pepscan technique.,FEBS Lett.503:135−141(2001).
13. Lo,K.W.,et al.,The 8−kDa dynein light chain binds to its targets via a conserved(K/R)XTQT motif.J.Biol.Chem.276:14059−14066(2001).
14. Taylor,W.R.,The classification of amino acid conservation.Journal of Theoretical Biology,119:205−218(1986).
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号14又はそれに由来し、少なくとも1つのアミノ酸の保存的変化を有し、DLC8タンパク質と結合し得る任意の配列によって表されるファミリーに関連するペプチドを含む抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
配列番号1又はそれに由来し、少なくとも1つのアミノ酸の保存的変化を有し、DLC8タンパク質と結合し得る任意の配列によって表されるファミリーに関連するペプチドを含む請求項1に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、前記ペプチドの細胞中への内在化を増大させるための手段をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
前記ペプチドを細胞中へ内在化させるための手段が、8個のアルギニンのテール部に存在する請求項3に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号3、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9から選択される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが配列番号2である請求項1に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項7】
別の活性化合物及び/又は任意の薬学的に許容されるビヒクル、賦形剤、担体又は希釈剤をも含んでなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項8】
ASFV、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、エントモポックスウイルスA.moorei、ワクシニアウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト単純ヘルペスウイルス、モコラウイルス又はAIDSウイルスから選択されるウイルスに起因する感染の治療に有用である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項9】
配列番号14又は配列番号1、又は、それらに由来し、少なくとも1つのアミノ酸の保存的変化を有し、DLC8タンパク質と結合し得る任意の配列のいずれかによって表されるファミリーに関連するペプチドであって、蛍光マーカーによって又は好ましくは、二次抗体、蛍光マーカー及び色素原によってそれを検出可能にする任意の一般的に使用されるタグによって検出可能となるようにコンジュゲート化されているペプチド。
【請求項10】
配列番号7、配列番号8及び配列番号9から選択される請求項9に記載のペプチド。
【請求項11】
以下の工程を含むことを特徴とする抗ウイルス性化合物の選択方法及びそれらの有効性の評価方法:
a)DLC8、その部分配列又は、DLC8又はその部分配列と結合し得る、少なくとも1つのアミノ酸配列の保存的置換により産生される類似の配列と結合し得る化合物と細胞培養物とを、予めインキュベート又は予め混合する工程、
b)工程a)において予めインキュベート又は混合された細胞培養物とウイルスを接触させて配置する工程、
c)一定時間後の細胞内のウイルス感染レベルを検出及び定量する工程、
d)DLC8と結合し得る化合物と共に予めインキュベート又は予め混合させることなく、別の方法によりウイルス感染させた細胞培養物で到達した前記ウイルス感染レベルとの比較を行う工程。
【請求項12】
配列番号14又は配列番号1のいずれかによって表されるファミリーに関連するペプチドの1つを、トレース可能なマーカーで直接標識し、ペプチドと結合したマーカーによって放たれるシグナルを具体的に測定することによりそれを検出する方法、又は、二次抗体における第2段階のマーカーによって間接的に検出する方法等の任意の現在使用されている方法による、ペプチドの、特にウイルス起源のペプチドの、細胞内への内在化及び細胞質輸送の評価方法。
【請求項13】
配列番号14又は配列番号1のいずれかによって表されるファミリーに関連するペプチドのうちの1つ又は該ペプチドに特異的な二次抗体を、トレース可能なマーカーで標識し、ペプチド又は抗体のいずれかと結合したマーカーによって放たれるシグナルを測定することによってそれを検出する、細胞中のダイニンの細胞生物学及びその機能の研究方法。
【請求項14】
前記ペプチド又は抗体が、フルオレセイン、ローダミン、又は、直接蛍光顕微鏡による検出を可能にする当技術分野において公知の任意のその他の蛍光マーカー等の蛍光分子により標識される請求項12又は13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチド又は抗体が、ビオチン、ヘマグルチニン、c−myc又はGST等の任意の非蛍光マーカーにより標識される請求項12又は13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドが、配列番号7、配列番号8及び配列番号9から選択される請求項12乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含むことにより特徴付けられる、抗ウイルス性化合物の選択方法及びその抗ウイルス効率の評価方法:
a)対照スペクトルとして、DLC8タンパク質単独のRMNスペクトルを取得する工程、
b)ウイルスタンパク質とDLC8との間の相互作用が可能となるのに十分な時間、DLC8をウイルスタンパク質と予めインキュベートし、次に、ウイルスタンパク質と結合したDLC8のRMNスペクトルを取得する工程、
c)初めに、抗ウイルス性化合物−DLC8相互作用が可能となるのに十分な時間、DLC8を抗ウイルス性化合物と予めインキュベートし、次に、ウイルスタンパク質を添加して、DLC8−ウイルスタンパク質相互作用が可能となるのに十分な時間インキュベートし、次に、DLC8スペクトルを取得する工程、
d)工程c)において得られたスペクトルを、工程a)又はb)において得られたスペクトルと比較する工程であって、工程c)において得られるスペクトルが、工程a)の対照スペクトルと最も類似していれば、最も強力な結合阻害活性が検出される、前記工程。
【請求項1】
配列番号14又はそれに由来し、少なくとも1つのアミノ酸の保存的変化を有し、DLC8タンパク質と結合し得る任意の配列によって表されるファミリーに関連するペプチドを含む抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
配列番号1又はそれに由来し、少なくとも1つのアミノ酸の保存的変化を有し、DLC8タンパク質と結合し得る任意の配列によって表されるファミリーに関連するペプチドを含む請求項1に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、前記ペプチドの細胞中への内在化を増大させるための手段をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
前記ペプチドを細胞中へ内在化させるための手段が、8個のアルギニンのテール部に存在する請求項3に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号3、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9から選択される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが配列番号2である請求項1に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項7】
別の活性化合物及び/又は任意の薬学的に許容されるビヒクル、賦形剤、担体又は希釈剤をも含んでなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項8】
ASFV、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、エントモポックスウイルスA.moorei、ワクシニアウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト単純ヘルペスウイルス、モコラウイルス又はAIDSウイルスから選択されるウイルスに起因する感染の治療に有用である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項9】
配列番号14又は配列番号1、又は、それらに由来し、少なくとも1つのアミノ酸の保存的変化を有し、DLC8タンパク質と結合し得る任意の配列のいずれかによって表されるファミリーに関連するペプチドであって、蛍光マーカーによって又は好ましくは、二次抗体、蛍光マーカー及び色素原によってそれを検出可能にする任意の一般的に使用されるタグによって検出可能となるようにコンジュゲート化されているペプチド。
【請求項10】
配列番号7、配列番号8及び配列番号9から選択される請求項9に記載のペプチド。
【請求項11】
以下の工程を含むことを特徴とする抗ウイルス性化合物の選択方法及びそれらの有効性の評価方法:
a)DLC8、その部分配列又は、DLC8又はその部分配列と結合し得る、少なくとも1つのアミノ酸配列の保存的置換により産生される類似の配列と結合し得る化合物と細胞培養物とを、予めインキュベート又は予め混合する工程、
b)工程a)において予めインキュベート又は混合された細胞培養物とウイルスを接触させて配置する工程、
c)一定時間後の細胞内のウイルス感染レベルを検出及び定量する工程、
d)DLC8と結合し得る化合物と共に予めインキュベート又は予め混合させることなく、別の方法によりウイルス感染させた細胞培養物で到達した前記ウイルス感染レベルとの比較を行う工程。
【請求項12】
配列番号14又は配列番号1のいずれかによって表されるファミリーに関連するペプチドの1つを、トレース可能なマーカーで直接標識し、ペプチドと結合したマーカーによって放たれるシグナルを具体的に測定することによりそれを検出する方法、又は、二次抗体における第2段階のマーカーによって間接的に検出する方法等の任意の現在使用されている方法による、ペプチドの、特にウイルス起源のペプチドの、細胞内への内在化及び細胞質輸送の評価方法。
【請求項13】
配列番号14又は配列番号1のいずれかによって表されるファミリーに関連するペプチドのうちの1つ又は該ペプチドに特異的な二次抗体を、トレース可能なマーカーで標識し、ペプチド又は抗体のいずれかと結合したマーカーによって放たれるシグナルを測定することによってそれを検出する、細胞中のダイニンの細胞生物学及びその機能の研究方法。
【請求項14】
前記ペプチド又は抗体が、フルオレセイン、ローダミン、又は、直接蛍光顕微鏡による検出を可能にする当技術分野において公知の任意のその他の蛍光マーカー等の蛍光分子により標識される請求項12又は13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチド又は抗体が、ビオチン、ヘマグルチニン、c−myc又はGST等の任意の非蛍光マーカーにより標識される請求項12又は13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドが、配列番号7、配列番号8及び配列番号9から選択される請求項12乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含むことにより特徴付けられる、抗ウイルス性化合物の選択方法及びその抗ウイルス効率の評価方法:
a)対照スペクトルとして、DLC8タンパク質単独のRMNスペクトルを取得する工程、
b)ウイルスタンパク質とDLC8との間の相互作用が可能となるのに十分な時間、DLC8をウイルスタンパク質と予めインキュベートし、次に、ウイルスタンパク質と結合したDLC8のRMNスペクトルを取得する工程、
c)初めに、抗ウイルス性化合物−DLC8相互作用が可能となるのに十分な時間、DLC8を抗ウイルス性化合物と予めインキュベートし、次に、ウイルスタンパク質を添加して、DLC8−ウイルスタンパク質相互作用が可能となるのに十分な時間インキュベートし、次に、DLC8スペクトルを取得する工程、
d)工程c)において得られたスペクトルを、工程a)又はb)において得られたスペクトルと比較する工程であって、工程c)において得られるスペクトルが、工程a)の対照スペクトルと最も類似していれば、最も強力な結合阻害活性が検出される、前記工程。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2011−502110(P2011−502110A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530422(P2010−530422)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064155
【国際公開番号】WO2009/053340
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(510115627)インスティトゥト ナシオナル デ インベスティガシオン イグリエガ テクノロヒア アグラリア イグリエガ アリメンタリア (1)
【出願人】(510115638)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064155
【国際公開番号】WO2009/053340
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(510115627)インスティトゥト ナシオナル デ インベスティガシオン イグリエガ テクノロヒア アグラリア イグリエガ アリメンタリア (1)
【出願人】(510115638)
【Fターム(参考)】
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