説明

ウェットマスターバッチの製造方法及びタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】凝固物を適度に可塑化した状態で乾燥することができ、さらに加硫後のゴム特性も良好に維持することが可能なウェットマスターバッチの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】ゴムラテックスと、充填剤を水に分散させたスラリーとを混合し、この混合液からゴムと充填剤の混合物を凝固させて脱水する脱水工程5と、脱水工程5で得られた凝固物を乾燥させる乾燥工程6とを有するウェットマスターバッチの製造方法であって、脱水工程5及び乾燥工程6を実行するに当たり、スクリュープレス機の機能を有する脱水部21と、スクリュー押出機の機能を有する乾燥部22とを備え、脱水部21で脱水した凝固物を加熱加圧した状態のまま乾燥部22に供給可能な脱水乾燥装置20を用いて、脱水工程5及び乾燥工程6を一連の工程として連続して実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムラテックスと、カーボンブラック等の充填剤を分散させたスラリーとを用いたウェットマスターバッチの製造方法及びそれを用いたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、分散性や加工性に優れたゴムの製造方法として、特許文献1に示すように、天然ゴムラテックスとカーボンブラック等の充填剤スラリーとを混合し、凝固剤により天然ゴムと充填剤の混合物を凝固させ、得られた凝固物を水から分離し、さらに脱水処理した後に乾燥する、いわゆるウェットマスターバッチ法を用いる方法が知られている。
【0003】
この方法で得られたウェットマスターバッチは、天然ゴムと充填剤とを混練ロール等を用いて混練して得られるドライマスターバッチに比べてゴム成分に対するカーボンブラックの分散性に優れ、加硫後のゴム特性(破断強度、耐摩耗性等)に優れるという利点を有する。
【0004】
しかし、上記凝固物中の水分が多いと、その後、凝固物(ウェットマスターバッチ)に他の薬品を配合したゴム組成物をバンバリーミキサーなどを用いて混練する際に、水分がゴム組成物の表面にしみ出して、ゴム組成物とミキサーのローターとの間で滑りが生じて混練性が低下するおそれがあった。また、凝固物中の水分が多いと、ゴム組成物を加硫する際に、ゴム組成物中の水分が蒸発することでボイド(内部空隙)が生じるおそれも生じていた。
【0005】
上記問題を解決する方法として、特許文献2に示すように、凝固物を多軸押出機に投入し、押出機のバレル内に設置された複数のスクリューで押出すことによって凝固物中の水分を加熱蒸発させて乾燥させる方法が知られている。
【0006】
ところで、一般に、ウェットマスターバッチ法により得られた凝固物は、常温付近ではドライマスターバッチに比べて柔軟性に乏しく硬い。これは、前述のように、ウェットマスターバッチ法においては、ゴム成分に対するカーボンブラックの分散性が優れているため、補強効果が高くなるためと考えられる。
【0007】
そのため、特許文献2においては、前述のごとく、押出しをスムーズに行うためにスクリュー押出機として多軸スクリュー押出機を用い、複数本のスクリューの回転によって凝固物に対して強力なせん断力を与えつつ、凝固物を可塑化して流動性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許登録第2633913号公報
【特許文献2】特開2006−348237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された方法では、水分が蒸発する温度まで凝固物を加熱しようとして、凝固物にせん断変形や伸張変形を繰り返し加えると、ゴム分子の分子鎖が過度に切断されてしまい、加硫後のゴム特性が低下するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、凝固物を適度に可塑化した状態で乾燥することができ、さらに加硫後のゴム特性も良好に維持することが可能なウェットマスターバッチの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、ゴムラテックスと、充填剤を水に分散させたスラリーとを混合し、この混合液からゴムと充填剤の混合物を凝固させて脱水する脱水工程と、前記脱水工程で得られた凝固物を乾燥させる乾燥工程とを有するウェットマスターバッチの製造方法であって、前記脱水工程及び乾燥工程を実行するに当たり、スクリュープレス機の機能を有する脱水部と、スクリュー押出機の機能を有する乾燥部とを備え、前記脱水部で脱水した前記凝固物を加熱加圧した状態のまま前記乾燥部に供給可能な脱水乾燥装置を用いて、前記脱水工程及び乾燥工程を一連の工程として連続して実行することを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、脱水部で加熱加圧された凝固物を、そのままの状態で乾燥部に送ることが可能となる。すなわち、脱水部で加熱加圧されて軟化した凝固物を、軟化したまま乾燥部に送ることができる。したがって、過度のせん断力がかかることはなく、適度に可塑化された凝固物を得ることができる。
【0013】
本発明では、脱水部から乾燥部に、凝固物を加熱加圧した状態のまま送ることが重要となる。すなわち、脱水工程と乾燥工程とを、別体で設けられたスクリュープレス機とスクリュー押出機とで別々に実行する場合には、凝固物はスクリュープレス機から排出された時点で加熱加圧状態から解放されて速やかに温度が低下する。
【0014】
温度が低下した凝固物は、前述のごとく、常温付近で柔軟性に乏しく硬くなるため、その状態でスクリュー押出機にかけると、凝固物が再び加熱されて適度の粘度になるまでに凝固物に対して過度のせん断力及び熱がかかることになる。その結果、ゴム分子の分子鎖が過度に切断されるとともに、凝固物の熱履歴が大きくなり、加硫後のゴム特性(破壊強度等)が低下することになる。
【0015】
一方、凝固物は、常温付近では硬い状態であるものの、温度が高くなるほど柔らかくなる。よって、本願発明のように、凝固物を軟化した状態で乾燥部に供給することで、凝固物に過度のせん断力が作用するのを防止することができる。さらに、乾燥部に供給された凝固物はすでに加熱加圧された状態となっているため、その分だけ乾燥部における滞留時間を短くすることができ、全体として凝固物にかかる熱履歴を小さくすることが可能となり、加硫後のゴム特性を良好に維持することができる。
【0016】
脱水乾燥装置としては、例えば、別体として設けられたスクリュープレス機と、スクリュー押出機とを用い、スクリュープレス機の出口をスクリュー押出機の入口に接続したものを用いることができる。ただ、脱水乾燥装置としては、前記脱水部と前記乾燥部とが連設され、前記脱水部及び乾燥部を貫通する1本のスクリュー軸を有する構成とするのが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、凝固物は、脱水部から乾燥部に向けてスクリュー軸に沿って移動するため、凝固物の搬送をスムーズに行うことが可能となる。さらに、スクリュー軸が1本で済むため、装置の簡素化及びコンパクト化が可能であり、設備コストを低減することができるというメリットも有する。
【0018】
上記構成において、脱水乾燥装置は、前記脱水部及び乾燥部において、前記スクリュー軸を囲む外筒を備え、乾燥部の外筒部分にミキシングピンが設けられた構成とすることができる。これにより、凝固物に作用するせん断力及び圧力を大きくすることができる。したがって、乾燥部の外筒部分にミキシングピンが設けられていない構成に比べて、乾燥部のスクリュー軸方向長さを短くしながらも、凝固物の乾燥、可塑化が可能となる。
【0019】
すなわち、乾燥部のスクリュー軸方向長さを短くすることで、凝固物が乾燥部に滞留する時間をより短縮することができ、凝固物の熱履歴を小さくして、加硫後のゴム特性をより良好に維持することが可能となる。
【0020】
上記製造方法により得られたウェットマスターバッチは、水分率が低く、また、適度に可塑化されているために混練性に優れている。また、本発明に係るウェットマスターバッチを用いたゴム組成物は水分率が低く、混練性に優れており、ゴム分子鎖が過度に切断されていないことから、加硫後のゴム特性を良好に維持することができる。さらに、このようなゴム組成物を用いることにより、破断強度や耐摩耗性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0021】
また、前述のごとく、スクリュープレス機の機能を有する脱水部と、スクリュー押出機の機能を有する乾燥部とを備え、前記脱水部で脱水した前記凝固物を加熱加圧した状態のまま前記乾燥部に供給可能な脱水乾燥装置は、装置のコンパクト化が可能であり、また、合成ゴムや、ウェットマスターバッチ等を効率よく乾燥、可塑化することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ウェットマスターバッチ製造時に、脱水工程及び乾燥工程を実行するに当たり、スクリュープレス機の機能を有する脱水部と、スクリュー押出機の機能を有する乾燥部とを備え、前記脱水部で脱水した前記凝固物を加熱加圧した状態のまま前記乾燥部に供給可能な脱水乾燥装置を用いて、前記脱水工程及び乾燥工程を一連の工程として連続して実行するようにしたため、凝固物を適度に可塑化した状態で乾燥することができ、さらに加硫後のゴム特性も良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るウェットマスターバッチの製造方法を示す工程図
【図2】混合・凝固工程で用いる凝固装置の概略断面図
【図3】脱水工程及び乾燥工程で用いる脱水乾燥装置の概略図
【図4】図3の一部断面拡大図
【図5】実施例の評価結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係るウェットマスターバッチの製造方法を示す工程図である。まず、最初に、ゴムラテックス調製工程1及び充填剤スラリー調整工程2を実施して、ゴムラテックス及び充填剤スラリーを調製する。
【0025】
ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックスのほか、合成ゴムラテックスを使用することも可能である。ゴムラテックスは水等の分散媒によって固形分が10重量%〜40重量%になるように濃度調整するのが好ましい。
【0026】
充填剤としては、カーボンブラック、シリカのほかに、タルク、クレー、その他の無機充填剤等を用いることができる。充填剤としてカーボンブラックを用いる場合、通常、ゴム用充填剤として用いられる種々のグレードを使用することができる。具体的には、SAF、ISAF、HAF、FEF等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することが可能である。充填剤のスラリー濃度は固形分が1重量%〜20重量%が好ましく、3重量%〜15重量%であることがより好ましい。
【0027】
調製したゴムラテックス及び充填剤スラリーは、必要に応じて分散処理を行う。分散処理は、ハイシア(ローター/ステーター)ミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル等を用いて行うことができる。これらの装置は、回転数を高くしたり、処理時間を長くすることにより粒子を微細化することができる。
【0028】
図2は、混合・凝固工程3で使用する凝固装置の一例を示す断面図である。凝固装置8は、凝固槽9と、せん断羽根10とを備えている。本実施形態では、せん断羽根10として、ブレード状の羽根を用いており、ブレードの表面が水平方向を向くように凝固槽9の底面に立設された回転軸11に対して左右対称に配されており、せん断羽根10が水平方向に回転することで混合液に強力なせん断力が作用するようになっている。
【0029】
混合・凝固工程3においては、ゴムラテックス及び充填剤スラリーの両液を凝固槽9に供給した後、あるいは両液を凝固槽9に導入しながら、せん断羽根10を高速(周速で10m/s以上)になるように回転させて混合液にせん断力を作用させつつ攪拌する。これにより、混合液中に多数の凝固物の核が生成する。このように、混合・凝固工程3の初期における、凝固物の核の数がその後の凝固物の形状に大きな影響を与える。
【0030】
すなわち、初期に生成される凝固物の数が多いほど最終的な凝固物の粒径は小さく、大きさが揃ったものとなる。このようにして全体の少なくとも90%以上が粒径1mm〜30mmである凝固物を得ることができる。このようにして得られた凝固物は、粒状物の集合体として見た場合に、流動性に優れ、脱水工程及び乾燥工程に供するのに適したものとなる。
【0031】
凝固剤を添加する場合は、せん断羽根10の回転を開始し、凝固物の生成・成長が落ち着いた段階で添加するのが好ましい。具体的には、せん断羽根10の回転を開始した後、2〜4分経過後ぐらいが好ましい。凝固剤としては、蟻酸などの酸や、硫酸アルミニウム等の金属塩等を使用することができる。
【0032】
以上のようにして得られた凝固物は、固液分離工程4にて、固液分離と凝固剤を洗い流す洗浄とを交互に実施した後、水分及び不純物を取り除いた状態で脱水処理を行う(脱水工程5)。
【0033】
図3は、脱水工程5及び乾燥工程6で使用する脱水乾燥装置を示す概略図であり、図4はその一部断面拡大図である。脱水乾燥装置20は、スクリュープレス機の機能を有する脱水部21と、1軸スクリュー押出機の機能を有する乾燥部22とを備え、脱水部21で脱水した凝固物を加熱加圧した状態のまま乾燥部22に供給する構成とされている。すなわち、本発明においては、脱水乾燥装置20を用いて、脱水工程5及び乾燥工程6を一連の工程として連続して実行するようにしている。
【0034】
具体的に、脱水乾燥装置20は、スクリュー軸23と、スクリュー軸23を収容する円筒状の外筒24とを備えている。外筒24は、第一バレル部25と、第二バレル部26とから構成されており、両者を直列配置した状態で接続することで外筒24が構成される。そして、外筒24のうち、第一バレル部25の部分が脱水部21とされ、第二バレル部26の部分が乾燥部22とされる。
【0035】
第一バレル部25には長さ方向に沿ってろ過用開口としてスリット27が複数形成されている。一方、第二バレル部26は円筒状に設けられており、その外周面には蒸気ジャケット28が形成され、第二バレル部26を加熱可能な構成とされている。そして、乾燥部22には、蒸気ジャケット28及び第二バレル部26を貫通して先端部が第二バレル部26の内周面から突出するミキシングピン29が取り付けられている。
【0036】
本実施形態において、ミキシングピン29は、第二バレル部26において、スクリュー軸方向に間隔をおいて2本並べてこれを1列とし、第二バレル部26の周方向に90°間隔で4箇所に設置している。
【0037】
スクリュー軸23は、内部に蒸気流路が設けられ、加熱可能とされている。また、スクリュー軸23のうち、第一バレル部25に囲まれた部分(スクリュー軸の後部分23a)は、後端側から先端側に向けて徐々に径が大きくなるようにテーパ状に形成され、これにより凝固物がスクリュー軸の後側部分23aと第一バレル部25との間で圧縮されるようになっている。
【0038】
脱水乾燥装置20の後端部、すなわち、第一バレル部25の後端部には凝固物の供給口30が設けられており、ここから第一バレル部25内に導入された凝固物は、スクリュー軸23の回転により、第一バレル部25内を前方に送られながら加熱加圧されて脱水される。そして、凝固物は、加熱加圧された状態のまま第二バレル部26内に供給される。なお、凝固物は、脱水部21を出た時点で水分率が10.0%以下であるのが好ましく、5.0%以下であるのがより好ましい。
【0039】
第二バレル部26に導入された凝固物は、スクリュー軸23のうち、第二バレル部26に囲まれた部分(スクリュー軸の前部分23b)の回転により、せん断力を受けつつ排出口31に向かって移動する。このとき、凝固物はすでに加熱加圧された状態であることから、第二バレル部26の(スクリュー軸方向の)長さは、凝固物を常温から加熱する場合に比べて短くすることができる。
【0040】
これにより、凝固物が脱水乾燥装置20内に滞留する時間を短縮することができ、その結果、凝固物の熱履歴を小さくすることが可能となる。また、第二バレル部26の長さを短くする分、ミキシングピン29によって凝固物の可塑化に必要なせん断力を確保するようにしている。
【0041】
第二バレル部26で乾燥された凝固物は、排出口31から排出される。排出口31から排出直後の凝固物の水分率は2.0%以下であることが好ましい。すなわち、本発明では、脱水工程及び乾燥工程を一連の工程として連続して実行しているため、凝固物は均一に乾燥及び可塑化が進行する。したがって、得られた凝固物は品質のばらつきが小さく、水分率2.0%以下であれば問題なく混練することができ、均一なゴム組成物を得ることができる。
【0042】
なお、本実施形態では、第二バレル部26の排出口31にはダイリップは装着されていない。これは、乾燥部22に供給される凝固物がすでに加熱加圧された状態となっているため、その状態からさらに急激に加熱加圧せずとも凝固物の乾燥が十分可能であること、ミキシングピン29によって凝固物の可塑化が可能であること、さらに、ダイリップ装着によって過度のせん断力が凝固物に作用するのを回避するため、等の理由による。
【0043】
ただ、第二バレル部の出口にダイリップを装着することも可能である。この場合、ダイリップの開口面積、ミキシングピンの配置、及び、第二バレル部の長さ等を適宜調整することで、凝固物が適度に可塑化され、かつ、凝固物に過度のせん断力が作用しないようにする。
【0044】
具体的には、脱水乾燥装置20から排出された凝固物、すなわち、第二バレル部26から排出された凝固物が、排出直後の温度が100℃〜180℃で、JIS K6300に規定するムーニー粘度が60°〜180°の範囲になるように調整することにより、凝固物に過度のせん断力が作用せず、熱履歴を抑制しつつ適度に可塑化された凝固物を得ることができる。
【0045】
以上の工程を経ることにより、乾燥した状態の凝固物、すなわち、ウェットマスターバッチを製造することができる。さらに、ウェットマスターバッチに、その他薬品を配合してバンバリーミキサー等の混練機によって混練することで(混練工程7)、均一に混練されたゴム組成物を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明をその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[混合・凝固工程の実施内容]
本実施例においては、上記ゴムラテックス調製工程1におけるゴムラテックスとして天然ゴムラテックスを使用し、ゴム成分25重量%になるように濃度を調整した。さらに、充填剤スラリー調製工程2における充填剤としてカーボンブラック(東海カーボン社製シースト9)を用い、これをシルバーソン社製撹拌機(フラッシュブレンド)によって3600rpm×30minの条件で水に分散させ、固形分5重量%のスラリーを調製した。
【0048】
その後、混合・凝固工程3において、凝固装置としてカワタ社製スーパーミキサーSM−20を使用し、凝固槽を23℃に温調した状態で、ゴムラテックス8.0Lとカーボンブラックスラリー3.3L(重量比でゴム成分:カーボンブラック=100:50)を同時に投入した。
【0049】
その後、直ちにSM−20のせん断羽根を周速24m/sで回転させて凝固物を生成させた。なお、せん断羽根の回転開始後、2分30秒経過した時点で、凝固剤としてギ酸の10重量%水溶液を混合液中に添加し、pH3〜4になるように調整した。
【0050】
得られた凝固物は、90%以上が粒径1mm〜30mmであった。なお、凝固物の大きさは、ISO 3301−1 JIS Z−8801準拠のステンレス篩により分級し、目開き30mmと目開き1mmにて測定した。
【0051】
[脱水工程及び乾燥工程の実施内容]
本実施例においては、上記実施形態において説明した脱水乾燥装置20を用いて、脱水工程及び乾燥工程を一連の工程として連続して実行した。使用した脱水乾燥装置20としては、脱水部21を構成する第一バレル部25が内径120mm、長さ780mmで、乾燥部22を構成する第二バレル部26が内径120mm、長さ350mmであった。
【0052】
上記構成の脱水乾燥装置20において、スクリュー軸23を95℃に加熱して凝固物を処理した。第一バレル部25から出た脱水後の凝固物の温度は122℃で、水分率は4.0%であった。脱水後の凝固物は、加熱加圧状態のまま、第二バレル部26に供給して乾燥処理を行った。本実施例では、第二バレル部26の加熱温度を変化させて得られた凝固物(ウェットマスターバッチ)について評価を行った(実施例1〜3)。また、第二バレル部26にミキシングピン29を取り付けずに乾燥処理した凝固物についても評価した(実施例4)。
【0053】
一方、上記脱水乾燥装置20の脱水部21と同じ構成の単体のスクリュープレス機(スエヒロEPM社製、品番:V−05型、バレル径120mm、バレル長さL/バレル径D=6.5)を用いて上記と同条件で脱水工程のみを実行したものを比較例1とした。また、このスクリュープレス機と、単体の1軸スクリュー押出機(中田エンヂニアリング社製、品番:60K押出機、バレル径60mm、バレル長さL/バレル径D=10、バレル温度80℃)を用いて、脱水工程と乾燥工程とを別々に実施したものを比較例2とした。
【0054】
なお、比較例2の1軸押出機に供給される凝固物は冷めて硬くなっているため、押出機にかかる負荷を考慮してミキシングピンは用いなかった。その代わり、開口率20%のダイリップを押出機の出口に装着することで、凝固物を加圧して加熱し、さらにせん断力を作用させることで凝固物を乾燥可塑化するようにした。
【0055】
さらに、前述のスクリュープレス機と、単体の2軸スクリュー押出機(神戸製鋼社製、品番:KTX−37、バレル径37mm、バレル長さL/バレル径D=30、バレル温度80℃)を用いて、脱水工程と乾燥工程とを別々に実施したものを比較例3とし、前述のスクリュープレス機を用いて2回脱水工程を繰り返したものを比較例4とした。なお、比較例3では、2軸スクリュー押出機にダイリップは装着せず、スクリュー間に作用する強力なせん断力によって凝固物を乾燥可塑化するようにした。
【0056】
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた凝固物(ウェットマスターバッチ)について水分率及びムーニー粘度を測定した。また、合わせて凝固物の熱履歴を算出した。測定条件あるいは算出方法は以下の通りである。これらの結果を図5に示す。
【0057】
(1)水分率:A&D社製MX−50を用い、JIS K6238−2に準拠して測定。
(2)ムーニー粘度:JIS K6300に準拠して測定。図5には比較例2の値を100とした指数で表示(相対的数値で表示)している。なお、指数表示の下のカッコ内の数字は実測値である。
(3)熱履歴:サンプル投入初期温度(25℃)と排出温度との差に、装置内滞留時間を乗じた値を半分に割った値。
【0058】
[ゴム組成物の作製及び評価]
上記ウェットマスターバッチを用いて、ゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合は、ウェットマスターバッチ150重量部(うちゴム成分100重量部)に対し、ステアリン酸(日本油脂製)1重量部、老化防止剤(モンサント製6PPD)1重量部、亜鉛華(三井金属製亜鉛華1号)3重量部、ワックス(日本精蝋製)1重量部、硫黄(鶴見化学工業製)2重量部、促進剤(三新化学製CBS)1重量部を配合した。
【0059】
ゴム組成物は、神戸製鋼社製B型バンバリーミキサーを用いて混練した。混練後のゴム組成物は、150℃×30minの条件で加硫した後、破断強度及び発熱性の測定を行った。測定条件は以下の通りである。これらの結果を図5に示す。
【0060】
(1)破断強度:JIS K6251に準拠して破断強度を測定。図5には比較例2の値を100とした指数で表示。凝固物の熱履歴が大きくなるほど、あるいは、凝固物に過度のせん断力が作用するほど、数値が小さくなる。
(2)発熱性(tanδ):東洋精機社製スペクトロメーターを用い、初期歪み10%、動的歪み±2%、周波数10Hz、温度60℃の条件下で測定される値(損失正接)。図5には比較例2の値を100とした指数で表示。この値が小さいほど発熱性が低く好ましい。
【0061】
[評価結果]
評価結果を図5の表に示す。図5より、脱水乾燥装置を用いて、脱水工程及び乾燥工程を一連の工程として連続して実行した実施例1〜4は、脱水工程及び乾燥工程を別体のスクリュープレス機とスクリュー押出機を用いて別々に実行した比較例2〜3に比べて破断強度が向上している。一方、tanδ及び熱履歴の数値は、実施例1〜4が比較例2及び3よりも小さくなっており、いずれも実施例1〜4の方が比較例2及び3に比べて良好な結果となった。
【0062】
すなわち、実施例1〜4では、凝固物が軟化した状態で乾燥工程に送られることから、乾燥工程において凝固物に加える熱量が比較例2及び3に比べて小さくて済み、また、凝固物全体に適度なせん断力が作用することになる。それに対して、比較例2及び3では、スクリュープレス機から排出された凝固物はいったん常温近くにまで冷却され、硬い状態でスクリュー押出機に供給されるため、凝固物の熱履歴が大きく、また、凝固物に対して過度のせん断力が作用することになるため、加硫後のゴムの破断強度が低下したと考えられた。
【0063】
また、一般的に、tanδは、ゴム分子末端の数が多くなるほど値が大きくなる。したがって、過度のせん断力が作用する比較例2及び3の方が、実施例1〜4よりもゴム分子鎖が過度に切断され、その結果、tanδ値が大きくなったものと考えられた。
【0064】
その他の比較例に関して、比較例1は、スクリュープレス機から排出された凝固物の水分率が高く、次工程でうまく混練できなかったため、加硫後のゴム特性については評価しなかった。また、比較例4については、スクリュープレス機の脱水処理を繰り返して2回実施したため、最終的な凝固物の排出温度が209℃まで上昇した。その結果、水分率は1.5%であったものの、熱履歴が大きくなりすぎたため、加硫ゴム特性について比較例2と対比した場合、破断強度は低下し、tanδの値は大きくなった。
【0065】
実施例において、ミキシングピンを用いた実施例1〜3では、乾燥部の外筒温度が90℃〜150℃という幅広い温度範囲で乾燥処理が可能であり、かつ加硫後のゴム特性が優れていることが確認された。これは、乾燥部に供給される凝固物が全体的に軟化した状態となっており、過度のせん断力が作用しにくくなっているためと考えられた。また、ミキシングピンを用いなかった実施例4でも、乾燥部の加熱温度を調整することで実施例1〜3と同程度の加硫ゴム特性を得ることができることが確認された。
【0066】
なお、1軸スクリュー押出機を用いた比較例2と、2軸スクリュー押出機を用いた比較例3とでは、後者の方が破断強度は低くなった。これは、2軸スクリュー押出機では凝固物に対してスクリュー軸の回転により必然的に強力なせん断力がかかるため、ゴム分子鎖の過度の切断が発生し、さらに熱履歴も大きくなったためと考えられた。
【符号の説明】
【0067】
1 ゴムラテックス調製工程
2 充填剤スラリー調製工程
3 混合・凝固工程
4 固液分離工程
5 脱水工程
6 乾燥工程
7 混練工程
8 凝固装置
9 凝固槽
10 せん断羽根
11 回転軸
20 脱水乾燥装置
21 脱水部
22 乾燥部
23 スクリュー軸
24 外筒
25 第一バレル部
26 第二バレル部
27 スリット
28 蒸気ジャケット
29 ミキシングピン
30 供給口
31 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックスと、充填剤を水に分散させたスラリーとを混合し、この混合液からゴムと充填剤の混合物を凝固させて脱水する脱水工程と、前記脱水工程で得られた凝固物を乾燥させる乾燥工程とを有するウェットマスターバッチの製造方法であって、前記脱水工程及び乾燥工程を実行するに当たり、スクリュープレス機の機能を有する脱水部と、スクリュー押出機の機能を有する乾燥部とを備え、前記脱水部で脱水した前記凝固物を加熱加圧した状態のまま前記乾燥部に供給可能な脱水乾燥装置を用いて、前記脱水工程及び乾燥工程を一連の工程として連続して実行することを特徴とするウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記脱水乾燥装置は、前記脱水部と前記乾燥部とが連設され、前記脱水部及び乾燥部を貫通する1本のスクリュー軸を有することを特徴とする請求項1記載のウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記脱水乾燥装置は、前記脱水部及び乾燥部において、前記スクリュー軸を囲む外筒を備え、乾燥部の外筒部分にミキシングピンが設けられたことを特徴とする請求項2記載のウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とするウェットマスターバッチ。
【請求項5】
請求項4記載のウェットマスターバッチを用いたことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5記載のゴム組成物を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項7】
スクリュープレス機の機能を有する脱水部と、スクリュー押出機の機能を有する乾燥部とを備え、前記脱水部で脱水した前記凝固物を加熱加圧した状態のまま前記乾燥部に供給可能であることを特徴とする脱水乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131943(P2012−131943A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286868(P2010−286868)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】