説明

ウェビング巻取装置

【課題】回転力の吸収量が変化するまでのロックベースに対するスプールの相対回転角度を360度以上まで設定可能なウェビング巻取装置を得る。
【解決手段】エネルギー吸収ワイヤ90の巻付部96のコイル内側の直径寸法がトーションシャフト30のトーションシャフト本体32よりも大きく設定されている。このため、ロックベース64の回転が規制された状態でスプール18が引出方向に回転しても巻付部96が巻き締まってトーションシャフト本体32に密着するまでエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102が収容部112から引き出されて孔部114の縁でしごかれることがない。したがって、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じてからスプール18が一定角度回転するまでエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102のしごきの開始を遅らせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置を構成するウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたウェビング巻取装置(特許文献1では「シートベルト用リトラクターを」と称している)では、ロックベース(特許文献1では「ロッキングベース」と称している)に対してスプール(特許文献1では「巻取ドラム」と称している)が引出方向に相対回転すると、収容部に収容されたワイヤー体の折返部が収容部の当接面に当接するまでワイヤー体が屈曲路において変形させられる。スプールの引出方向への回転力の一部はワイヤー体の変形に供されて吸収される。
【0003】
ロックベースに対してスプールが一定角度引出方向に回転して、ワイヤー体の折返部が収容部の当接面に当接した後は、屈曲路においてワイヤー体が変形されて回転力の一部が吸収されるのみならず、収容部から折返部を引出すための引出抵抗で回転力の一部が吸収される。
【0004】
このように、下記特許文献1に開示された構成では、ロックベースに対してスプールが引出方向に一定角度相対回転するまでの回転力の吸収量に対して、ロックベースに対してスプールが引出方向に一定角度相対回転してからの回転力の吸収量を大きく設定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−51286の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された構造では、回転力の吸収量が変化するまでのロックベースに対するスプールの相対回転角度を360度(すなわち、1回転)以上に設定することができない。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮して、回転力の吸収量が変化するまでのロックベースに対するスプールの相対回転角度を360度以上まで設定可能なウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、ウェビングの長手方向基端側が係止され、巻取方向に回転することにより前記ウェビングを基端側から巻取り、前記ウェビングが引出されることで前記巻取方向とは反対の引出方向に回転するスプールと、一端側よりも他端側に設定されたスプール側連結部が前記スプールの内側で前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに連結された第1エネルギー吸収部材と、前記第1エネルギー吸収部材の一端側に設定されたロックベース側連結部に相対回転が規制された状態で連結されたロックベースを有すると共に、作動することで前記引出方向への前記ロックベースの回転を規制するロック手段と、一端側が前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに設けられて他端側が前記ロックベースに係止され、一端側が他端側へ引張られて変位することにより前記スプールにおける所定部位にしごかれて変形すると共に、螺旋形状及び渦巻き形状の少なくとも一方の形状に形成されて、内側部分が前記第1エネルギー吸収部材の外周部から離間した状態で内側を前記第1エネルギー吸収部材が貫通した巻付部が一端と他端との間に設定され、一端側に対して他端側が前記引出方向に回転することで前記巻付部が巻き締まる第2エネルギー吸収部材と、を備えている。
【0009】
請求項1に記載のウェビング巻取装置では、ロック手段が作動するとロックベースの引出方向への回転が規制される。このロックベースには第1エネルギー吸収部材の一端がロックベースに対する相対回転が規制された状態でロックベースに連結されており、更に、この第1エネルギー吸収部材の一端よりも他端側では、スプールに対する第1エネルギー吸収部材の相対回転が規制された状態でスプールに第1エネルギー吸収部材が連結されている。このため、この状態では、スプールの引出方向への回転が規制され、スプールからのウェビングの引出しが規制される。これにより、ウェビングを装着した乗員の身体が効果的に拘束され、例えば、車両急減速時における車両前方側への乗員の身体の慣性移動が防止又は抑制される。
【0010】
一方、この状態で車両前方へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビングを引張り、これによってスプールに付与される引出方向への回転力が所定の大きさ(少なくとも、第1エネルギー吸収部材の機械的強度を上回る大きさ)を越えると、ロックベース側における第1エネルギー吸収部材の連結部分に対してスプール側における第1エネルギー吸収部材の連結部分が引出方向に相対回転する。この相対回転量だけスプールからのウェビングの引出しが許容され。
【0011】
また、このように第1エネルギー吸収部材においてロックベース側の連結部分に対してスプール側の連結部分が引出方向に相対回転すると、第1エネルギー吸収部材におけるロックベース側の連結部分とスプール側の連結部分との間で捩じり変形が生じる。スプールを引出方向に回転させる力のエネルギーの一部が第1エネルギー吸収部材の捩じり変形に供されて吸収される。
【0012】
一方、本ウェビング巻取装置は第1エネルギー吸収部材とは別に第2エネルギー吸収部材を備えている。第2エネルギー吸収部材は一端側がスプールに対する相対回転が規制された状態でスプールに設けられており、他端側はロックベースに係止される。このため、上述したように、引出方向への回転が規制されたロックベースに対してスプールが引出方向に回転すると、第2エネルギー吸収部材の一端側が他端側に対して相対回転する。
【0013】
この第2エネルギー吸収部材は、このような相対回転で第2エネルギー吸収部材の一端側が他端側へ変位すると、第2エネルギー吸収部材の一端側がスプールの所定部位にしごかれて変形する。但し、第2エネルギー吸収部材の一端側と他端側との間の中間部には、螺旋形状及び渦巻き形状の少なくとも一方の形状に形成された巻付部が設定されており、この巻付部の内側を第1エネルギー吸収部材が貫通している。巻付部の内側部分は第1エネルギー吸収部材の外周部から離間している。
【0014】
このため、ロックベースに対してスプールが引出方向に回転すると、第2エネルギー吸収部材では、先ず、巻付部において巻き締まりが生ずる。このように巻付部が巻き締まっている間は、第2エネルギー吸収部材の一端側が他端側へ変位せず、スプールの所定部位にしごかれることもない。したがって、この状態では、第2エネルギー吸収部材の巻付部における巻き締まりという変形が生ずるものの、第2エネルギー吸収部材の一端側がしごかれて変形することがない。このため、この状態では、第2エネルギー吸収部材の変形によるエネルギーの吸収はないか、または、第2エネルギー吸収部材の変形によるエネルギー吸収量が少ない。
【0015】
回転規制されたロックベースに対してスプールが引出方向に一定角度回転すると第2エネルギー吸収部材の巻付部が第1エネルギー吸収部材に密着する。この状態では、第2エネルギー吸収部材の巻付部がそれ以上巻き締まることができない。この状態からロックベースに対してスプールが更に引出方向に回転すると、第2エネルギー吸収部材における巻付部よりも一端側の部分が他端側へ変位しつつ、スプールの所定部位に第2エネルギー吸収部材の一端側がしごかれて変形する。
【0016】
この状態では、スプールを引出方向に回転させる力のエネルギーの一部が、第1エネルギー吸収部材の捩じり変形と第2エネルギー吸収部材のしごき変形とに供されて吸収される。したがって、この状態では、第1エネルギー吸収部材のみを捩じり変形させていた場合に比べて、大きなエネルギーを吸収することができる(換言すれば、第1エネルギー吸収部材を捩じり変形させつつも第2エネルギー吸収部材のしごき変形させるエネルギーよりも大きなエネルギーの回転力がスプールに付与されないと、スプールは引出方向に回転できない)。
【0017】
このように、本発明に係るウェビング巻取装置では、第1エネルギー吸収部材において捩じり変形が生じてから、ロックベースに対してスプールが一定角度引出方向に相対回転した後に第2エネルギー吸収部材のしごき変形を開始させることができる。しかも、第1エネルギー吸収部材において捩じり変形が生じてから第2エネルギー吸収部材にしごき変形が生じるまでに要するロックベースに対するスプールの相対回転数は、初期状態における巻付部の内側部分と第1エネルギー吸収部材の外周部との間隔と、巻付部における巻き数で簡単に設定できるうえ、その相対回転数を1回転以上に設定することもできる。
【0018】
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、前記第2エネルギー吸収部材の前記所定部位にしごかれて変形する部分を介して前記巻付部とは反対側に設けられて前記第2エネルギー吸収部材が一定量前記所定部位にしごかれて変形した状態で前記スプールに係合し、前記第2エネルギー吸収部材の変位を規制する規制手段を備えている。
【0019】
請求項2に記載のウェビング巻取装置では、第2エネルギー吸収部材がスプールの所定部位に一定量しごかれて変形すると、第2エネルギー吸収部材に設けられた規制手段がスプールに当接する。このようにスプールに規制手段が当接すると、それ以上の第2エネルギー吸収部材の変位が規制される。第2エネルギー吸収部材の変位は、ロック機構のロックベースに対してスプールが引出方向に相対回転することで生じている。
【0020】
したがって、第2エネルギー吸収部材の変位が規制されることでロックベースに対するスプールの引出方向への相対回転が規制される。これにより、スプールからのウェビングの引出しが規制されると共に、第1エネルギー吸収部材におけるそれ以上の捩じり変形が規制される。
【発明の効果】
【0021】
以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置は、回転力の吸収量が変化するまでのロックベースに対するスプールの相対回転角度を360度以上まで設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置の構成を概略的に示す初期状態での正面断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置の構成を概略的に示す初期状態での側面断面図である。
【図3】第2エネルギー吸収部材が巻き締められた状態を示す図1に対応した正面断面図である。
【図4】第2エネルギー吸収部材が巻き締められた状態を示す図2に対応した側面断面図である。
【図5】第2エネルギー吸収部材がスプールの所定部位にしごかれて変形した状態を示す図1に対応した正面断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係るウェビング巻取装置の構成を概略的に示す初期状態での正面断面図である。
【図7】規制手段が第2エネルギー吸収部材の変位を規制している状態を示す図6に対応した正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1から図7の各図を用いて本発明の各実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態を説明するにあたり、説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、前出の実施の形態にて用いた符号と同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0024】
<第1の実施の形態の構成>
図1にはウェビング巻取装置10の要部の構成が概略的な正面断面図により示されている。
【0025】
この図に示されるように、ウェビング巻取装置10は車体の所定部位に締結固定されるフレーム12を備えている。このフレーム12は一対の脚板14、16を備えている。脚板14、16の各々は平板状に形成されており、各々の厚さ方向に互いに対向している。脚板14と脚板16との間にはスプール18が配置されている。スプール18は軸方向が脚板14と脚板16との対向方向に沿った略円柱形状に形成されており、自らの中心軸線周りに回転可能とされている。
【0026】
スプール18には長尺帯状のウェビング20の長手方向基端部が係止されている。スプール18は自らの中心軸線周り一方である巻取方向に回転すると、ウェビング20をその長手方向基端側から外周部に層状に巻取る。また、ウェビング20を先端側へ引張るとスプール18に巻取られているウェビング20が引出されると共にスプール18が巻取方向とは反対の引出方向に回転する。
【0027】
また、スプール18には複数の肉抜き部22が形成されている。肉抜き部22はスプール18の軸方向や周方向に並ぶように形成されている。各肉抜き部22の間はリブ24によって仕切られており、リブ24におけるスプール18の半径方向外側の端部上に上記のウェビング20が巻き取られることになる。
【0028】
さらに、スプール18にはトーションシャフト収容部26が形成されている。トーションシャフト収容部26は軸方向がスプール18の中心軸線方向に沿った中空形状とされており、その内側には第1エネルギー吸収部材としてのトーションシャフト30が設けられている。トーションシャフト30はトーションシャフト本体32を備えている。トーションシャフト本体32は軸方向がスプール18の中心軸線方向に沿った棒状とされている。このトーションシャフト本体32の脚板14側の端部にはスプール側連結部としてのスプール側係合部34が設けられている。
【0029】
このスプール側係合部34は外周形状が多角形や星型、セレーション形状等の非円形とされている。このスプール側係合部34に対応してスプール18の脚板14側には係合孔36が形成されている。係合孔36は内周形状がスプール側係合部34の外周形状と同じ形状(厳密にはスプール側係合部34の外周形状よりも僅かに大きな略相似形状)とされている。
【0030】
また、係合孔36の一端はトーションシャフト収容部26の脚板14側の端部でトーションシャフト収容部26に連通しており、係合孔36の他端はスプール18の脚板14側の端部にて開口している。トーションシャフト30のスプール側係合部34はスプール18の係合孔36に嵌まり込んでおり、これにより、スプール18に対するトーションシャフト30の相対回転が規制されている。
【0031】
また、スプール側係合部34には雌ねじ孔38が形成されている。雌ねじ孔38はスプール側係合部34のトーションシャフト本体32とは反対側の端部にて開口している。この雌ねじ孔38にはアダプタ40の雄ねじ部42が螺合している。アダプタ40はプレート部44を備えている。プレート部44は外周形状が係合孔36の内周形状よりも大きな円板形状とされている。プレート部44は雄ねじ部42と一体に形成されており、雄ねじ部42が雌ねじ孔38に螺合した状態でトーションシャフト30を脚板16側へ変位させようとすると、スプール18の脚板14側の端部がプレート部44に干渉し、これによりトーションシャフト30の脚板16側への変位が規制される。さらに、プレート部44の雄ねじ部42とは反対側の端面からは軸部46がスプール18に対して同軸的に形成されている。
【0032】
一方、脚板14の外側(脚板14の脚板16とは反対側)にはスプリングケース52が設けられており、アダプタ40の軸部46はその先端側がスプリングケース52に入り込んで、軸部46の中心軸線周り(すなわち、スプール18の中心軸線周り)に回転自在にスプリングケース52に支持されている。また、スプリングケース52の内側には付勢手段としての渦巻きばね(図示省略)が設けられている。この渦巻きばねの渦巻き方向外側端はスプリングケース52に直接又は間接的に係止されている。これに対して、渦巻きばねの渦巻き方向内側端は軸部46に直接又は他の部材を介して間接的に係止されている。軸部46が引出方向に回転すると、渦巻きばねは巻き締められ、軸部46を巻取方向に付勢する付勢力が増加する。
【0033】
一方、脚板16の外側(脚板16を介して脚板14とは反対側)にはロック手段としてのロック機構60のハウジング62が設けられている。ハウジング62の内側には、本ウェビング巻取装置10を搭載した車両が急減速した際の車両の加速度(減速度)に反応して作動する所謂「VSIR機構」を構成する各種部品や、スプール18が引出方向に回転した際の加速度が所定の大きさ以上の場合に作動する所謂「WSIR機構」を構成する各種部品が収容されている。
【0034】
また、ロック機構60はロックベース64を備えている。ロックベース64は外周形状が円形の嵌挿部66を備えている。この嵌挿部66に対応してスプール18には嵌挿孔68がスプール18に対して同軸的に形成されている。嵌挿孔68はスプール18における脚板16側の端部にて開口していると共に、開口端とは反対側の底部にてトーションシャフト収容部26が開口している。嵌挿孔68は内径寸法が嵌挿部66の外径寸法に略等しい(厳密には嵌挿部66の外径寸法よりも僅かに大きい)円形とされており、嵌挿部66は嵌挿孔68に嵌挿される。
【0035】
このため、ロックベース64はスプール18に対して同軸的に相対回転できる。このロックベース64に対応してトーションシャフト本体32のスプール側係合部34とは反対側の端部には、ロックベース側連結部としてのロックベース側係合部70が形成されている。このロックベース側係合部70は外周形状が多角形や星型、セレーション形状等の非円形とされている。
【0036】
このロックベース側係合部70に対応してロックベース64には係合孔72が形成されている。係合孔72は軸方向両端がロックベース64の軸方向両端面にて開口していると共に、係合孔72は内周形状がロックベース側係合部70の外周形状と同じ形状(厳密にはロックベース側係合部70の外周形状よりも僅かに大きな略相似形状)とされている。トーションシャフト30のロックベース側係合部70はロックベース64の係合孔72に嵌まり込んでおり、これにより、トーションシャフト30に対するロックベース64の相対回転が規制されている。
【0037】
上述したように、トーションシャフト30はスプール18に対する相対回転が規制されている。したがって、トーションシャフト30に対する相対回転が規制されたロックベース64は、トーションシャフト30を介してスプール18に対する相対回転も規制される。
【0038】
なお、本実施の形態におけるロック機構60は、ロックベース64に形成されたラチェット部74にロックパウル76が噛み合うことでロックベース64の引出方向への回転、ひいては、スプール18の引出方向への回転を規制する構成とした。しかしながら、ロック機構60は、作動することでロックベース64の引出方向への回転を規制できるのであれば、その具体的な構造に限定されるものではない。したがって、例えば、ロックベース64に対してその回転半径方向に移動可能なロックパウルをロックベース64に設け、このロックパウルが脚板16に形成された内歯のラチェットに噛み合うことでロックベース64の引出方向への回転、ひいては、スプール18の引出方向への回転を規制する構成としてもよい。
【0039】
また、ロックベース64はラチェット部74を備えている。ラチェット部74は外周形状が嵌挿部66の外周形状よりも充分に大きく、嵌挿部66に対して同軸的に形成され、その外周部にはラチェット歯が形成されている。このラチェット部74の半径方向外側にはロックパウル76が設けられている。ロックパウル76はスプール18の中心軸線と同じ向きを軸方向とする軸周りに回動可能に脚板16等に支持されている。ロックパウル76はその回動中心周りの一方に回動すると、ロックパウル76に形成されたラチェット歯がロックベース64のラチェット部74に形成されたラチェット歯に接近して噛み合う。
【0040】
ロックパウル76のラチェット歯がラチェット部74(ロックベース64)のラチェット歯に噛み合うと、ラチェット部74、すなわち、ロックベース64の引出方向への回転が規制され、ひいては、スプール18の引出方向への回転が規制される。このロックパウル76は上述した「VSIR機構」や「WSIR機構」を構成する各種部品に機械的に繋がっており、「VSIR機構」や「WSIR機構」が作動すると、ロックパウル76がその回動中心周りの一方に回動する。
【0041】
また、トーションシャフト30は軸部82を備えている。軸部82はロックベース側係合部70のトーションシャフト本体32とは反対側でトーションシャフト30の軸部46、ひいては、スプール18に対して同軸的に形成されている。この軸部82はハウジング62に形成された軸受部に直接又は間接的に回転自在に支持されている。
【0042】
一方、本ウェビング巻取装置10は第2エネルギー吸収部材としてのエネルギー吸収ワイヤ90を備えている。エネルギー吸収ワイヤ90は全体的に断面円形の棒状又は線状の金属を成形することで形成されている。なお、本実施の形態では、エネルギー吸収ワイヤ90を構成する棒材(又は線材)の断面形状を円形としたが、エネルギー吸収ワイヤ90を構成する棒材(又は線材)の断面形状が円形に限定されるものでなく、多角形や楕円形等の任意の非円形であってもよい。
【0043】
エネルギー吸収ワイヤ90は係止部92を備えている。係止部92に対応してロックベース64には保持孔94が形成されている。保持孔94はロックベース64の回転中心から少なくともトーションシャフト30におけるトーションシャフト本体32の外周部よりも半径方向外側に形成されている。エネルギー吸収ワイヤ90の係止部92は保持孔94に係止されており、これにより、ロックベース64の半径方向、ロックベース64の回転周方向、及びロックベース64の中心軸線に沿った脚板16側から脚板14側への向きのロックベース64に対するエネルギー吸収ワイヤ90の相対変位が規制されている。
【0044】
また、エネルギー吸収ワイヤ90は巻付部96を備えている。巻付部96は1巻き毎にスプール18の中心軸線の向きにエネルギー吸収ワイヤ90を形成する棒材(又は線材)の外径寸法以上にずれる所謂コイル形状(螺旋形状)に形成されており、その一端は係止部92に繋がっている。エネルギー吸収ワイヤ90は係止部92がロックベース64の保持孔94に係止された状態で巻付部96をトーションシャフト30のトーションシャフト本体32が貫通している。また、巻付部96は初期状態で内側の直径寸法がトーションシャフト30におけるトーションシャフト本体32の外周部の直径寸法よりも大きく設定されている。このため、巻付部96を貫通したトーションシャフト本体32の外周面と巻付部96の内周部との間には所定の大きさの隙間が形成される。
【0045】
また、エネルギー吸収ワイヤ90は本体部102を備えている。本体部102は長手方向がスプール18の中心軸線の向きに沿った直線状で、巻付部96の中心軸線に対して半径方向に変位した位置に形成されており、その一端は巻付部96の他端に繋がっている。この本体部102に対応してスプール18には収容部112が形成されている。収容部112はスプール18に形成された複数の肉抜き部22のうち、スプール18の中心軸線の向きに並んだ1列の肉抜き部22を利用して形成されている。収容部112は孔部114を備えている。
【0046】
孔部114は収容部112とされた肉抜き部22のリブ24に形成されている。また、各リブ24の孔部114はスプール18の中心軸線の向きに重なるように形成されており、各孔部114の内径寸法はエネルギー吸収ワイヤ90を形成する棒材(又は線材)の外径寸法以上とされている。エネルギー吸収ワイヤ90の本体部102は各孔部114を通過しており、これにより、本体部102はスプール18に対するスプール18の半径方向及び回転周方向への相対変位が規制されている。
【0047】
収容部112とされた肉抜き部22のうちの1つ(本実施の形態では最も脚板16側の肉抜き部22)はトーションシャフト収容部26に連通しており、エネルギー吸収ワイヤ90の巻付部96と本体部102とを繋ぐ部分が通過している。なお、本実施の形態では、収容部112をウェビング20に設定したが、収容部112はスプール18の周方向に隣り合うウェビング20の間に形成された長手方向がスプール18の中心軸線に沿った孔であってもよい。また、ウェビング20が設定されていないスプール18の場合には、スプール18の外周部とトーションシャフト収容部26の内周部との間に設定された長手方向がスプール18の中心軸線に沿った孔を収容部112としてもよい。
【0048】
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、第1の実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0049】
以上の構成の本実施の形態に係るウェビング巻取装置10では、車両が急減速するとロック機構60の「VSIR機構」が作動する。また、車両が減速するとシートに着座した乗員の身体が車両前方側へ慣性移動しようとして身体に装着しているウェビング20を引張る。このようにウェビング20が引張られるとスプール18が引出方向に回転するが、このスプール18の引出方向への回転加速度が所定の大きさを越えるとロック機構60の「WSIR機構」が作動する。
【0050】
このようにロック機構60の「VSIR機構」及び「WSIR機構」の少なくとも一方が作動すると、ロックパウル76がロックベース64のラチェット部74へ接近するように回動し、ロックパウル76のラチェット歯がロックベース64におけるラチェット部74のラチェット歯に噛み合う。これにより、ロックベース64の引出方向への回転が規制される。
【0051】
ロックベース64はトーションシャフト30に対する相対回転が規制された状態でトーションシャフト30に繋がっており、トーションシャフト30はスプール18に対する相対回転が規制された状態でスプール18に繋がっている。このため、ロックベース64の引出方向への回転が規制されることでスプール18の引出方向への回転が規制され、これにより、スプール18からのウェビング20の引出しが規制される。このようにウェビング20の引出しが規制されることでウェビング20によって乗員の身体を車両前方側へ慣性移動することを効果的に抑制できる。
【0052】
次いで、この状態からスプール18の引出方向への回転力、すなわち、乗員の身体がウェビング20を引張る引張り力がトーションシャフト30におけるトーションシャフト本体32の機械的強度と、エネルギー吸収ワイヤ90において巻付部96のコイル半径を縮径させるように巻付部96を変形させるために要する力の和を上回ると、引出方向への回転が規制されているトーションシャフト30のロックベース側係合部70側に対してトーションシャフト30のスプール側係合部34側が引出方向に相対回転する。
【0053】
これによりトーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じると共に、エネルギー吸収ワイヤ90における巻付部96のコイル半径が縮径するように巻付部96が変形させられる。スプール18の引出方向への回転力、すなわち、乗員の身体がウェビング20を引張る引張り力の一部が、このトーションシャフト本体32の捩じり変形と巻付部96の変形に供されて吸収されると共に、スプール18において生じた捩じり変形分だけスプール18が引出方向に回転する。これにより、スプール18からウェビング20が引出されて、このウェビング20の引出量に相当するストロークだけ乗員の身体が車両前方へ慣性移動できる。
【0054】
ところで、収容部112に設けられているエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102は巻付部96よりも巻付部96の半径方向外側に位置しているため、本体部102が引出される際には最も脚板16側の孔部114の開口縁で本体部102が巻付部96側へしごかれて変形する。この孔部114の開口縁で本体部102をしごいて本体部102を変形させるために要する力は、既にコイル形状に成形されている巻付部96のコイル半径を更に縮小させる(すなわち、巻付部96を巻き締める)ために要する力よりも大きい。このため、上述したように、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が開始されると、エネルギー吸収ワイヤ90では先ず巻付部96のコイル半径が縮径されるように変形し、この状態ではまだ本体部102が脚板16側へ移動して収容部112から引出されることがない。
【0055】
上記のように図1及び図2に示される初期状態からトーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じ、ロックベース64に対してスプール18が引出方向に一定角度相対回転すると、図3及び図4に示されるように巻付部96が巻き締められ、これにより、巻付部96における巻き数が増加しつつトーションシャフト30のトーションシャフト本体32の外周部にエネルギー吸収ワイヤ90の巻付部96が密着する。この状態からはエネルギー吸収ワイヤ90における巻付部96のコイル半径を縮小するように巻付部96を変形させることができない。
【0056】
このため、この状態からロックベース64に対してスプール18が更に引出方向に回転すると、図5に示されるように、エネルギー吸収ワイヤ90の本体部102が脚板16側へスライドして収容部112から引出されてトーションシャフト30のトーションシャフト本体32に巻き付けられる。上記のように本体部102が収容部112から引出される際には本体部102が最も脚板16側の孔部114の開口縁にしごかれて変形させられる。このため、スプール18の引出方向への回転力(すなわち、乗員の身体がウェビング20を引張る引張力)のうち、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32の捩じり変形に要する力と、孔部114の開口縁で本体部102をしごいて本体部102を変形させるために要する力との和に応じた大きさの力が吸収される。
【0057】
このように、本ウェビング巻取装置10では、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じてロックベース64に対してスプール18が一定角度引出方向に回転してからエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102に変形を生じさせることができ、トーションシャフト30及びエネルギー吸収ワイヤ90で吸収する力(エネルギー)の量を段階的に上昇させることができる。
【0058】
しかも、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じてからエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102に変形が生じるまでに必要なロックベース64に対するスプール18の引出方向への回転角度は、図1及び図2に示される初期状態での巻付部96のコイル半径と、図3及び図4に示されるトーションシャフト本体32への密着状態(巻付部96の巻き締め状態)での巻付部96のコイル半径との差、及び、初期状態での巻付部96の巻き数に基づいて容易に設定できる。
【0059】
さらに、巻付部96のコイル半径及び巻付部96の巻き数の少なくとも一方を大きくすることでトーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じてからエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102に変形が生じるまでに必要なロックベース64に対するスプール18の引出方向への回転角度を簡単に大きくできる。その上、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じてからスプール18が引出方向に1回転した後でも、巻付部96の変形に応じて巻付部96の巻き数が増加することで巻付部96のコイル半径を縮小させるような変形を巻付部96に引き続き生じさせることができる。
【0060】
したがって、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じてからスプール18が引出方向に1回転した後にエネルギー吸収ワイヤ90の本体部102に変形が生じさせてトーションシャフト30及びエネルギー吸収ワイヤ90で吸収する力(エネルギー)の量を段階的に上昇させることができる。
【0061】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0062】
図6には本実施の形態に係るウェビング巻取装置160の構成が前記第1の実施の形態を説明した図1に対応する正面図によって示されている。
【0063】
この図に示されるように、ウェビング巻取装置160はエネルギー吸収ワイヤ90に代わる第2エネルギー吸収部材としてのエネルギー吸収ワイヤ162を備えている。エネルギー吸収ワイヤ162は本体部102の巻付部96とは反対側の端部に規制手段を構成する規制片164が設けられている。本実施の形態では規制片164は外径寸法が本体部102の外径寸法よりも大きな円柱形状とされ、本体部102に対して略同軸的に形成されている。なお、本実施の形態では規制片164の形状を円柱形状とした。しかしながら、規制片164は外周形状が本体部102の外周形状よりも大きければよく、例えば、規制片164の外周形状は多角形や楕円形状等の非円形であってもよい。
【0064】
また、本ウェビング巻取装置160のスプール18には収容部112に代わる収容部172を備えている。収容部172は孔部114の他に孔部174を含めて構成されている。本ウェビング巻取装置160では収容部172とされた肉抜き部22のリブ24のうち、最も脚板16側のリブ24に孔部114が形成されており、最も脚板16側のリブ24よりも脚板14側のリブ24には孔部114に代えて孔部174が形成される。孔部174は外周形状が規制片164の外周形状よりも大きな円形とされており、規制片164が孔部174を通過できる。しかしながら、外周形状が本体部102よりも大きな規制片164は、最も脚板16側のリブ24の孔部114を通過できない。
【0065】
このため、図7に示されるように、孔部114が形成されたリブ24の脚板14側の面に規制片164が当接すると、これ以上本体部102が脚板16側へ移動することはできない。このため、この状態では、これ以上スプール18がロックベース64に対して引出方向へ相対回転することができず、スプール18からのウェビング20の引出しが規制されると共に、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32における捩じり変形を止めることができる。
【符号の説明】
【0066】
10 ウェビング巻取装置
18 スプール
20 ウェビング
30 トーションシャフト(第1エネルギー吸収部材)
32 トーションシャフト本体
34 スプール側係合部(スプール側連結部)
60 ロック機構(ロック手段)
70 ロックベース側係合部(ロックベース側連結部)
90 エネルギー吸収ワイヤ(第2エネルギー吸収部材)
96 巻付部
160 ウェビング巻取装置
162 エネルギー吸収ワイヤ(第2エネルギー吸収部材)
164 規制片(規制手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングの長手方向基端側が係止され、巻取方向に回転することにより前記ウェビングを基端側から巻取り、前記ウェビングが引出されることで前記巻取方向とは反対の引出方向に回転するスプールと、
一端側よりも他端側に設定されたスプール側連結部が前記スプールの内側で前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに連結された第1エネルギー吸収部材と、
前記第1エネルギー吸収部材の一端側に設定されたロックベース側連結部に相対回転が規制された状態で連結されたロックベースを有すると共に、作動することで前記引出方向への前記ロックベースの回転を規制するロック手段と、
一端側が前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに設けられて他端側が前記ロックベースに係止され、一端側が他端側へ引張られて変位することにより前記スプールにおける所定部位にしごかれて変形すると共に、螺旋形状及び渦巻き形状の少なくとも一方の形状に形成されて、内側部分が前記第1エネルギー吸収部材の外周部から離間した状態で内側を前記第1エネルギー吸収部材が貫通した巻付部が一端と他端との間に設定され、一端側に対して他端側が前記引出方向に回転することで前記巻付部が巻き締まる第2エネルギー吸収部材と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記第2エネルギー吸収部材の前記所定部位にしごかれて変形する部分を介して前記巻付部とは反対側に設けられて前記第2エネルギー吸収部材が一定量前記所定部位にしごかれて変形した状態で前記スプールに係合し、前記第2エネルギー吸収部材の変位を規制する規制手段を備える請求項1に記載のウェビング巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60135(P2013−60135A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200644(P2011−200644)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】