説明

ウェブ上の情報をネットワーク可視化する装置及び方法

【課題】多種類のエンティティを持つネットワークを表示する際にユーザが選択した種類のエンティティのみを、該選択エンティティ間の関係性を選択しなかったエンティティの関係性を用いて計算することで、ユーザに分かりやすくネットワーク表示できる装置を提供する。
【解決手段】ウェブ又はデータベースから多種類のエンティティと各エンティティ間の関係性を取得する情報取得部10と、取得したエンティティの中からユーザの選択に従って表示対象とするエンティティの種類を選択する表示選択部20と、選択種類に属するエンティティの関係性の強さを、非選択種類に属するエンティティの関係性を用いて計算する関係性計算部30と、計算した関係性の強さに基づいて、選択種類のエンティティとその関係性をノード及びエッジとして持つネットワークを表示するネットワーク表示部40とを備えたネットワーク可視化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブやデータベースから情報を抽出し、これを処理してネットワークとして可視化するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウェブ上の情報からさまざまなエンティティ間のさまざまな関係性を抽出する技術が研究開発されている。エンティティとは、named entity(固有表現)のことであり、人物名や組織名、地名、商品名等を指す。
【0003】
抽出したエンティティやその関係性を利用する際には、それらをネットワークとして可視化することが行われる。例えば、キーワード間の関係性をネットワークとして表示する、或いは企業間の関係性をネットワークとして表示するシステムがある。この場合、1種類のエンティティからなるネットワークとして可視化することがある。ところが、1種類のエンティティからなるネットワークでは、他のエンティティとの関係性が分からないという問題がある。逆に、多種類のエンティティを同時に表示すると、異なるエンティティが入りまじり、ユーザに分かりにくいという問題がある。
【0004】
従来技術についてさらに説明すると、ネットワークの可視化の手法としては、MDS(MultiDimensional Scaling、多次元尺度構成法)や主成分分析といった数値解析を利用する方法、ばねモデル等の関数最適化を利用する方法がある(非特許文献1参照)。
【0005】
また、ネットワークを可視化するツールも商用もしくは非商用で多数開発されている。例えば、JUNG、TouchGraph、UCINET、Graphviz、ORA、statnet、iPoint、NetMiner、InFlow 等がある。これらは基本的に、大規模なネットワークを見やすく配置することが目的であり、扱えるデータの大きさや見やすさに重点が置かれている。
【0006】
多種類のノード、多種類のエッジから構成されるネットワークに関しては次のような研究やシステムがある。ここでウェブから抽出した情報の場合、エンティティがノード、関係性がエッジに該当する。
【0007】
2種類のノードから構成されるネットワークを、2モードネットワーク、もしくはaffiliation ネットワークと呼び、affiliation 行列の転置行列をかけることで1種類のノードからなるネットワークとして表示できることが知られている(非特許文献2参照)。これを表示することは、UCINET 等のシステムでも可能である。2種類以上の多種類のノードを表示することも可能であるが、上記に述べたように、複数の情報が重ねて表示されるので分かりにくいという問題がある。
【0008】
また、多種類のエッジがあるネットワークはmultiplexsocial network とも呼ばれる。例えば、UCINET では、エッジの種類を選んでネットワークを表示することができるが、これをノードの種類の選択と合わせて効果的に見せる表示は行われていない。
【0009】
情報可視化(information visualization)の研究分野では、いくつかの関連研究が行われている。例えば、複数の種類の関係性からなる社会ネットワークを可視化し、その際に抽象化の程度を変える手法が検討されている(非特許文献3参照)。またグループ化の程度を変えて可視化する手法(非特許文献4)や、表示する領域をノードの属性によって変える手法(非特許文献5)も提案されている。しかしながら、いずれも、ユーザによる表示の選択/非選択と併せた可視化手法を実現するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】山田武士, 大規模なネットワーク構造の可視化, NTT 技術ジャーナル, 2004.
【非特許文献2】John Scott, Social Network Analysis: A Handbook (2nd ed.), SAGE publications, 2000.
【非特許文献3】L. Singh, M. Beard, L. Getoor, and M. Blake. Visual mining of multimodal social networks at different abstraction levels. In Proc IV’07, 2007.
【非特許文献4】P. Caravelli, M. Beard, B. Gopolan, L. Singh, and Z. Hu. Generating abstract networks using multi-relational biological data. In Proc IV’09, 2009.
【非特許文献5】A. Aris and B. Shneiderman. Designing semantic substrates for visual network exploration. Information Visualization, Vol. 4, No. 6, pp. 281-300, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、ユーザの要望に応じて、ユーザに分かりやすく、かつ多様な情報を表現できるネットワークの可視化を実現すべく、多種類のエンティティを持つネットワークを表示する際にユーザが指定した種類のエンティティのみを表示することができ、さらに選択されなかったエンティティの関係性を用いて選択されたエンティティ間の関係性を計算することで、よりユーザに分かりやすくネットワークを表示することのできる、ネットワーク可視化技術を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、
ウェブ又はデータベースから多種類のエンティティと各エンティティ間の関係性を取得する情報取得部と、
取得したエンティティの中からユーザの選択に従って表示対象とするエンティティの種類を選択する表示選択部と、
選択した種類に属するエンティティの関係性の強さを、選択しなかった種類に属するエンティティの関係性を用いて計算する関係性計算部と、
計算した関係性の強さに基づいて、選択した種類のエンティティとその関係性をノード及びエッジとして持つネットワークを表示するネットワーク表示部と
を備えたネットワーク可視化装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、情報取得部により、ウェブ又はデータベースから多種類のエンティティと各エンティティ間の関係性を取得し、
表示選択部により、取得したエンティティの中からユーザの選択に従って表示対象となるエンティティを選択し、
関係性計算部により、選択したエンティティの関係性の強さを、選択しなかったエンティティの関係性をも用いて計算し、
ネットワーク表示部により、計算した関係性の強さに基づいてネットワークを表示する
ネットワーク可視化方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、上記ネットワーク可視化装置又は方法における少なくとも情報取得部、表示選択部、関係性計算部、及びネットワーク表示部としてコンピュータを機能させる又はそれら各処理ステップをコンピュータに実行させるプログラム、ならびにこのプログラムを記録したコンピュータ読取可能記録媒体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す機能ブロック図。
【図2】ノード及びエッジの一例について説明する図。
【図3】ネットワーク表示の一例を示す図。
【図4】ネットワーク表示の別の一例を示す図。
【図5】ネットワーク表示のさらに別の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一実施形態を示す。この図1に例示したように本発明のネットワーク可視化システム1は、例えば、ウェブやデータベースから多種類のエンティティと各エンティティ間の関係性を取得する情報取得部10、取得したエンティティの中からユーザの選択に従って表示対象とするエンティティの種類を選択する表示選択部20、ユーザが選択した種類(つまり選択種類)に属するエンティティの関係性の強さを、ユーザが選択しなかった種類(つまり非選択種類)に属するエンティティの関係性を用いて計算する関係性計算部30、および計算した関係性の強さに基づいて、選択した種類のエンティティとその関係性をノード及びエッジとして持つネットワークを表示するネットワーク表示部40を持つ。これら情報取得部10、表示選択部20、関係性計算部30、ネットワーク表示部40は、例えば、コンピュータといった計算機のCPU等の演算処理部やディスプレイ等の出力部、通信部などにより構築でき、またコンピュータをこれら各部として機能させるためのプログラムとして記述することもできる。
【0017】
情報取得部10では、インターネット上のウェブサイトや、予め各種データを蓄積したデータベースなどから、多種類のエンティティとその関係性を取り出す。より具体的には、例えば、まず、コンピュータのキーボード等の入力部(図示なし)を介して予め設定されている種類に属するエンティティを、ウェブサイトやデータベースから検索する。検索されたエンティティは別途のデータベースやメモリ等の記憶部(図示なし)に記憶される。次に、検索された各エンティティ間の関係性を例えば次のように取得する。まず入力部を介して選ばれた2つのエンティティを検索クエリーとしてウェブサイトやデータベースから検索し、得られたページをそのヒット件数とともに記憶部に保存する。続いてヒット件数、並びに得られたページで2つのエンティティがどのくらい近くに出てくるか及びどういったキーワードとともに出てくるかという情報を用い、2つのエンティティの関係性の強さ及び種類を取得する。前者の情報は、例えば、2つのエンティティが共起する箇所を抽出して、エンティティ間の語数、より具体的には例えば最短の語数、を計算することで求めることができる。また、エンティティ間語数の計算と伴に、又はそれに代えて、検索されたページ中に2つのエンティティが何回同時に出現するか及び/又は2つのエンティティが同時に出現するページが何ページあるかを計算する。このデータがエンティティ間の関係性を示す。後者の情報は、例えば、エンティティの間の語やエンティティの前後の語を抽出することで求めることができる。このデータが関係性の種類を示す。後はこれをエンティティの全てのペアに対して繰り返す。一具体例として、特定のキーワード(例えば「発明した」)の周辺にある2つの対象となるエンティティ(例えば人物名と技術名)を探すことで、例えば「エジソン」と「蓄音機」が「発明した」という関係性の種類を持つことが分かり、また「エジソン」と「蓄音機」の間の語数やそれらの共起回数、共起ページ数を求めることで、関係性の強さが分かる。同様に、「出身」「卒業」などのキーワードを手がかりとして用いることで、人物名と地名、人物名と学校名などの関係性の種類と強さを得ることができる。以上により得られた関係性の強さ及び種類はエンティティと対応付けて記憶部等に記憶される。
【0018】
表示選択部20では、ユーザの選択に従ってどの種類のエンティティを表示するか決定する。より具体的には、例えば、ディスプレイ等の表示部(図示なし)に表示された全てのエンティティ種類の中から、ユーザがネットワークとして可視化したいエンティティの種類を入力部を介して選択できる。選択された種類及びそれに属するエンティティは記憶部に記憶される。
【0019】
関係性計算部30では、選ばれた種類のエンティティの関係性の強さ及び種類を計算する。その際に、選ばれなかった種類のエンティティの関係性も用いる。間接的な関係を使って、表示したいノード間のエッジの関係性の強さ及び種類を計算するのである。この処理は詳細に後述するが、端的には、情報取得部10では、2つのエンティティの関係性の強さ及び種類を計算し、関係性計算部30では、表示選択部20で選択されたエンティティの種類によって、情報取得部10で得られた関係性の強さ及び種類を用いて、表示すべきネットワークのエッジつまり関係性の強さ及び種類を計算する。
【0020】
そして、ネットワーク表示部40では、関係性計算部30で計算された関係性の強さを基に、選択された種類のエンティティ(ノード)とその関係性(エッジ)とからなるネットワークを表示する。
【0021】
[関係性の計算]
ここで関係性の計算についてさらに説明する。まず、例えば、A1, A2, B1という2つの種類A, Bの3つのノードがあり、各ノード間にA1-B1-A2というエッジがあるとする。これを、種類Aのノードだけを選択して表示させたいときは、B1を介したエッジも考慮に入れ、A1-A2 と表示する。つまり、選択されなかった種類のノードも含む複数の種類のノードを介した距離A1-B1, B1-A2の計算を行い、これに基づいて、表示する種類AのノードA1, A2における関係性A1-A2の強さの値を計算する。関係性の強さの計算は例えば以下のように行うことができる。
【0022】
表示したいネットワークをG={N,E}とする。Nはノードの集合(上記の例では{A1, A2, B1})、E はエッジの集合(上記の例では{A1-B1-A2})であり、
【0023】
【数1】

をノードn の種類(上記の例ではA, B)、
【0024】
【数2】

をエッジe の種類(上記の例では1種類A1-B1-A2)とする。ノードの種類の集合をTn、エッジの種類の集合をTeと置く。
【0025】
表示選択部20により、表示したいノードの種類(上記の例ではA)
【0026】
【数3】

が選ばれたとする。つまり、
【0027】
【数4】

となるノード(上記の例ではA1, A2)
【0028】
【数5】

だけをネットワーク表示部40により表示する。
【0029】
このとき、2つのノードn1、n2 (上記の例ではA1, A2)の関係性の強さは、表示したいネットワークG={N,E}から、n1 とn2 を除く
【0030】
【数6】

となるすべてのノード(上記の例ではB1)およびそれらと接続されたエッジを取り除いたG’={N’,E’}を用いて、次のように計算することができる。
【0031】
【数7】

つまり、n1 とn2 が、
【0032】
【数8】

となるノード(上記の例ではA1, A2)
【0033】
【数9】

を取り除いたネットワークG’上で互いに連結していれば(エッジをたどることで到達できれば)1、そうでなければ0とする。
【0034】
さらに、これを拡張すると、表示したい種類に属するノードn1, n2の関係性の強さを例えば次のように計算することができる。
【0035】
・ノードn1とn2のG’上でのグラフ上の距離又はその逆数
2つのノードがグラフ上でどのくらい近いかを、一方のノードから他方のノードまで最短で何ホップで辿り着けるかにより表すものが距離である。上記の例では、A1, A2の間にはA1-B1, B1-A2という2ホップをカウントできるので、グラフ上の距離は2であり、よってn1とn2の関係性の強さは2又はその逆数の1/2と計算される。
【0036】
・ノードn1とn2のG’上での確率的距離(すなわち、n1からn2へのランダムサーファーの到達確率)
2つのノードがグラフ上でどのくらい近いかを、確率的な遷移を仮定して計算するものである。例えばk本のエッジを持つノードからは、それぞれ1/kずつの確率で遷移が起こると考える。従って、n1からn2に到達する際に分岐が多ければそれだけ確率が低い、つまり距離が遠いことになる。上記の例では、A1からはB1へ延びる1本のエッジ、A2からはB1へ延びる1本のエッジしか経路の選択肢がないので、確率的距離つまり関係性の強さは1×1=1と計算される。仮に2本ずつ分岐があれば、より弱い結合であり、1/2×1/2=1/4と計算される。
【0037】
・ノードn1とn2のG’上でのパスの数
2つのノード間に到達し得るパスが多ければ、関係性が強いと考える。上記の例では、A1-B1-A2と経路が1つしかないので、パスの数つまり関係性の強さは1である。これが2本あれば2と計算される。 ・ノードn1とn2のG’上での共通の近傍ノードの数
2つのノード間に共通するノードが多ければ、関係性が強いと考える。すなわち、2ホップで到達できるパスの数に相当する。上記の例ではB1だけがA1, A2の共通の近傍ノードなのでその数は1であり、よって関係性の強さは1と計算される。これが2つあれば2と計算される。
【0038】
・ノードn1とn2のG’上での共通の近傍ノードの数のJaccard係数、overlap 係数、又はAdamic/Adar 係数(D. Liben-Nowell and J. Kleinberg. The link prediction problem for social networks. In Proc. CIKM, pp. 556-559, 2003参照)
以上の計算手法は一例であって、グラフG’上での2つのノードの関係性の計算手法には更にさまざまなものがあり、そのいずれを用いてもよい。
【0039】
[多種類のエッジへの拡張]
次に、エッジの種類が複数あったときの拡張を考える。簡単のために、上記の関係性の強さの計算の中で、1番目に挙げたグラフ上の距離を用いて考える。
【0040】
エッジが1種類しかないとき(上記の例では1種類A1-B1-A2しかない)、関係性の強さrel(n1,n2)は次のように計算できる。
【0041】
【数10】

ただし、
【0042】
【数11】

は、n1とn2を結ぶ最短パスである。すなわち、最短パスに含まれるエッジごとに1を足していくことで、グラフ上の距離が得られる。上記の例では、A1, A2の最短パスはA1-B1-A2であり、この最短パスに含まれるエッジはA1-B1及びB1-A2なので、2と計算される。
【0043】
これを、多種類のエッジがあるときに拡張すると次のようになる。エッジの種類
【0044】
【数12】

ごとに、重みw(t)を予め定義する。その上で、関係性の強さrel(n1,n2)を次のように計算する。
【0045】
【数13】

【0046】
すなわち、関係性の種類ごとの重みを最短パスに沿って足しあわせていくことで、関係性の種類を考慮した関係性の強さを計算することができる。仮にA1, A2の間にA1-B1-A2, A1-B2-A2という2種類のエッジないし最短パスがある場合、前者のエッジの重みw(t)を1、後者のエッジの重みw(t)を2と定義すると、関係性の強さは1/(2+1)+1/(2+2)=7/12と計算される。
【0047】
確率的距離、パスの数、共通の近傍の数、共通の近傍の数のJaccard係数/overlap 係数/Adamic/Adar 係数についても同様に、多種類のエッジがある場合には、エッジの種類つまり関係性の種類ごとに重みを予め定義しておき、エッジ、パス、またはノードの数をカウントする際に、それぞれ対応する重みを足し合わせればよい。重みは、試行錯誤によって手動で決めたものを入力部を介して入力するか予め記憶部に記憶させておくか、あるいは機械学習によって自動的に計算させる。
【0048】
このように関係性の強さを、ノードの種類およびエッジの種類を考慮して計算し、その値が閾値を超えるものをネットワーク表示部で表示することになる。
【0049】
[アルゴリズム]
ここで、上述した関係性計算処理を学術コンテンツの可視化に適用する場合のアルゴリズムの一例について述べる。
【0050】
論文は代表的な学術コンテンツであるが、論文には著者、論文掲載誌、学会、キーワードなど関連する複数のエンティティが存在する。これら複数種のエンティティの表示を行うアルゴリズムを持つシステムを実際に構築した。
【0051】
システムはCGI プログラムとして構築した。記述言語はPerl である。ユーザのクエリーに対応する論文情報をCiNii (国立情報学研究所 National Institute of Informatics 論文情報ナビゲータ「サイニー」)より取得し、リアルタイムでネットワークを生成して表示する。
【0052】
図1に例示したシステム構成におけるネットワーク表示部40としては、Wikipedia シソーラスビジュアライザー(http://wikipedia-lab.org/ja/index.php/Wikipedia「シソーラスビジュアライザー」)を用いた。
【0053】
情報取得部10では、ユーザが入力した著者名やキーワードといったクエリーに対する論文リストを、CiNii が提供する論文検索API (http://ci.nii.ac.jp/info/ja/if_opensearch.html)を利用して取得する。CiNii 論文検索では検索結果として論文タイトル、アブストラクト、論文著者氏名、論文掲載誌(論文集、論文誌など)、掲載誌出版者(学会、出版社など)を示すデータが得られる。そこで本システムでは、著者、論文、キーワード、出版物、出版者の5種類のエンティティを抽出して記憶部に記憶させ、これらをノードとして表示する。
【0054】
得られた5種類のエンティティは、図2に示す関係性データに基づいてネットワークに変換される。図2は、本システム例で用いたCiNii 論文検索結果を構成するエンティティ間の関係性を示したものであり、著者と論文間の関係性をauthorize、論文とキーワード間の関係性をhas、論文と出版物間の関係性をpart-of、出版物と出版者間の関係性をpublishとして予め設定して記憶部に記憶させておき、且つ各エンティティ間の近さを算出して記憶部に記憶させ、これらに基づいて前記抽出した各種類のエンティティ間の関係性を示すエッジを生成する。これによりノード及びエッジからなるネットワークを構築できる。ここまでの処理ステップは情報取得部10にて行うことができる。もちろんネットワーク表示部40に抽出したエンティティと関係性データを送ってネットワーク構築させてもよい。
【0055】
続いて表示選択部20では、ユーザの指定に従って5種類のノードのいずれを表示するかを選択する。例えば、全ノードをネットワーク表示部40によりディスプレイに表示させ、マウス等を介した入力に従ってユーザが所望するノードの種類を選択する。このとき、1つだけではなく、複数の種類を選択することも可能である。また、特定の種類のノードを完全にネットワークから削除することもできる。例えば著者−論文のaffiliation ネットワークを可視化したいと考えたとき、キーワードや出版物が構成するネットワークは不要であるため、ユーザによる著書及び論文というノード種類の選択に従って、選択されなかった他の種類に属するノードをネットワークから削除する。
【0056】
関係性計算部30では、ユーザが選択した種類のノード間の関係性を前述したアルゴリズムにより求める。なお、本システム例では関係性計算に確率的距離を用いた。
【0057】
以上のアルゴリズムを持つシステムにより、実際にネットワーク可視化を行った。一例として、クエリーとして「マイニング」を入力した例を示す。本システムでは取得できる論文数を指定でき、ここでは100本とした。図3は5種類の全ノードを表示した場合である。膨大な数のノードが複雑に絡み合っており,ほとんど理解できない状態にある。これを著者ノードのみの表示にしたものが図4である。誰がどのようなコミュニティに所属しているか、構造が見えるようになっていることがわかる。
【0058】
複数の種類を指定することも可能である。図5は著者ノードと出版物ノードのみを表示したものである。ここでは、複数種類のノードを表示するとノード数が多くなるため、構造同値(種類が同じで隣接ノードが同じ)であるノードを一つのノードに集約し、また、出現頻度が低いノードを非表示としている。例えば「マイニング」というテーマでどんな論文誌があるか、また、その論文誌に投稿している人たちはどんな人かが一覧できる。また、ノードをクリックするとCiNii の論文検索に移動する。
【0059】
以上のとおり、本発明によれば、ウェブ等から情報を抽出し、それをネットワークとして可視化する際に、上述した各処理ステップを施すことにより、ユーザが指定した種類のエンティティのみを表示する際に、選択されなかった種類のエンティティの関係性を用いて、選択された種類のエンティティ間の関係性を計算することで、多種類のノード、多種類のエッジがある場合の効果的且つユーザフレンドリーなネットワーク可視化を実現することができる。この多種類ノード、多種類エッジのネットワーク可視化は、例えば、ブログやソーシャルネットワークサービス等のソーシャルメディア、さらには論文や特許等の文書における関係性の可視化に有用であり、本発明はさまざまな領域におけるネットワークの可視化に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 情報取得部
20 表示選択部
30 関係性計算部
40 ネットワーク表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ又はデータベースから多種類のエンティティと各エンティティ間の関係性を取得する情報取得部と、
取得したエンティティの中からユーザの選択に従って表示対象とするエンティティの種類を選択する表示選択部と、
選択した種類に属するエンティティの関係性の強さを、選択しなかった種類に属するエンティティの関係性を用いて計算する関係性計算部と、
計算した関係性の強さに基づいて、選択した種類のエンティティとその関係性をノード及びエッジとして持つネットワークを表示するネットワーク表示部と
を備えたネットワーク可視化装置。
【請求項2】
関係性計算部は、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結しているか否かに基づき計算する、請求項1に記載のネットワーク可視化装置。
【請求項3】
関係性計算部は、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結している場合において、選択種類のエンティティ間の前記ネットワーク上でのグラフ上の距離により求める、請求項1又は2に記載のネットワーク可視化装置。
【請求項4】
関係性計算部は、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結している場合において、選択種類のエンティティ間の前記ネットワーク上での確率的距離により求める、請求項1又は2に記載のネットワーク可視化装置。
【請求項5】
関係性計算部は、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結している場合において、選択種類のエンティティ間の前記ネットワーク上でのパスの数により求める、請求項1又は2に記載のネットワーク可視化装置。
【請求項6】
関係性計算部は、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結している場合において、選択種類のエンティティ間の前記ネットワーク上での共通の近傍の数により求める、請求項1又は2に記載のネットワーク可視化装置。
【請求項7】
関係性計算部は、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結している場合において、選択種類のエンティティ間の前記ネットワーク上での共通の近傍の数のJaccard係数、overlap 係数、又はAdamic/Adar 係数により求める、請求項1又は2に記載のネットワーク可視化装置。
【請求項8】
情報取得部により、ウェブ又はデータベースから多種類のエンティティと各エンティティ間の関係性を取得し、
表示選択部により、取得したエンティティの中からユーザの選択に従って表示対象となるエンティティを選択し、
関係性計算部により、選択したエンティティの関係性の強さを、選択しなかったエンティティの関係性をも用いて計算し、
ネットワーク表示部により、計算した関係性の強さに基づいてネットワークを表示する
ネットワーク可視化方法。
【請求項9】
関係性計算部により、選択種類のエンティティ間の関係性の強さを、非選択種類のエンティティおよび該エンティティに接続された関係性を取り除いたネットワーク上で、選択種類のエンティティが互いに連結しているか否かに基づき計算する、請求項8に記載のネットワーク可視化方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載のネットワーク可視化装置における少なくとも情報取得部、表示選択部、関係性計算部、及びネットワーク表示部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項8又は9に記載のネットワーク可視化方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のプログラムを記録したコンピュータ読取可能記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−99002(P2012−99002A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247528(P2010−247528)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】