説明

ウォブルレベル検出装置及びそれを用いた情報記録再生装置

【課題】簡単な回路でウォブル信号レベルを検出することが可能なウォブル検出装置及びそれを用いた情報記録再生装置を提供する。
【解決手段】ウォブル信号に周波数が同期し、互いに直交する二つの信号にそれぞれウォブル信号を乗算し、更に高域信号成分を除去した結果に対してそれぞれ絶対値化回路121、122で絶対値化する。更に、比較器123により絶対値化回路による絶対値化後の信号レベルの大小比較を行い、信号レベルの大きい方をウォブル信号レベルとして検出する。これにより、ルート演算回路のような回路規模の大きな回路を代用し、回路の簡単化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク等の情報記録媒体の情報トラックに施されたウォブルの信号レベルを検出するウォブルレベル検出装置、特に、ウォブル信号のAGCを行う場合のウォブル信号レベルを検出するウォブルレベル検出装置、及びそれを用いた情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、データの記録(例えば、高密度記録)を行う光学式記録媒体として、現在代表的なものとしてCD(Compact-Disc)、DVD(Digital-Video-Disc)、BD(Blue-ray Disc)等が挙げられる。
【0003】
これらの光学式記録媒体は、いずれもディスク形状であり、その製造段階で予めディスク平面の内周から外周の方向、或いは外周から内周に向けてスパイラル状の案内溝が設けられている。この案内溝は、基本的には所定の振幅と単一の周期をもってそれ自身が微小にうねっており(蛇行、揺動)、これをウォブル(Wobble)と呼ぶ。ディスク上に形成されたウォブルによって得られる信号を逓倍することで基準周波数信号を生成し、これを記録クロックとして使用し(場合によっては再生時も使用)、記録クロックを精度良く生成することが可能となる。
【0004】
また、単一周波数の連続するウォブルに対し、ある特定の変調(MSK信号やHMW信号)を施したウォブル信号を埋め込む事で、ウォブルの再生によりタイミング情報やディスク上の物理的な位置情報(物理アドレス情報、以後ADIPアドレスと呼ぶ)をディスク上から検出する事が可能である。
【0005】
ディスク上のウォブル信号は光ピックアップにより電気信号として検出されるが、ウォブル信号のレベルは、異なるディスク間で異なる。また、同じディスク上でも検出位置によってレベルが異なる。
【0006】
ウォブルから記録クロックを生成する場合、ウォブルからADIPアドレスを検出する場合には、いずれにしてもウォブルに同期した信号を作るためのPLL回路を内部に必要とする。
【0007】
一般に、PLL回路は図5に示すように位相検出器301、ループフィルタ302、VCO303を基本構成としている。ここで、位相検出器としてウォブル信号に対し、キャリア306を乗算する検出方法を用いた場合を考える。
【0008】
この位相比較器を用いたPLL回路の場合、その周波数特性は入力信号のレベル、つまりウォブル信号レベルに影響を受ける。PLLの周波数特性はPLLの引き込み時間、PLL動作の安定度、PLLから生成されるクロックの品位に影響を与えるため、適切な値に設定しておく必要がある。
【0009】
しかし、先に述べたようにウォブルの信号レベルはディスク間やディスク上の位置によって異なっており、ウォブル信号のレベル変動によりPLLの周波数特性が影響を受けないようにAGCによりウォブル信号のレベル変動を吸収する必要がある。なお、図5において304はカウンタ、305はキャリア発生テーブル、307は乗算器、308は低域通過フィルタを示す。
【0010】
なお、ウォブル信号のAGC制御やレベル検出技術としては、例えば、特開2003−59056号公報に記載されたものがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−59056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ウォブルにAGCを行うためには、ウォブル信号のレベル検出が必要である。一般にウォブル信号Wsはその振幅レベルをAとすれば、
Ws=ACOS(ωt)
で表す事ができる。
【0012】
これに対し、直交する2つのキャリア波
C1=SIN(ωt+θ)、C2=COS(ωt+θ)
を内部で生成し、ウォブル信号Wsに乗算する。更に、低域通過フィルタにより周波数2ωの高周波成分を除去する事で検出信号D1、D2が得られる。θはウォブル信号とキャリアとの位相誤差であり、PLLが同期信号を出力していれば、θ=0 となる。D1、D2は以下の通りである。
【0013】
D1=Ws×C1=0.5ASIN(θ)
D2=Ws×C2=0.5ACOS(θ)
ここで、A=2√(D1×D1+D2×D2)の演算によりウォブル信号の振幅レベルAを検出する事ができる。尚、ここで必要となる信号C1、C2、並びにその演算結果D1、D2はADIPアドレス検出における他のブロックで既に生成されているものであり、それらの信号をレベル検出に用いることが可能である。
【0014】
しかし、上述の演算では乗算回路とルート演算が必要となるため、回路規模が増大してしまう問題があった。
【0015】
本発明の目的は、簡単な回路でウォブル信号レベルを検出することが可能なウォブル検出装置及びそれを用いた情報記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するため、情報トラックに所定情報を示すウォブルが施された情報記録媒体からウォブルを再生し、その再生したウォブル信号の振幅レベルを検出するウォブルレベル検出装置において、前記ウォブル信号に周波数が同期し、互いに直交する二つの信号を生成する第1、第2の信号生成手段と、前記二つの信号に対してそれぞれウォブル信号を乗算する第1、第2の乗算手段と、前記第1、第2の乗算手段の出力からそれぞれ高域信号成分を除去する第1、第2の除去手段と、前記第1、第2の除去手段の出力をそれぞれ絶対値化する第1、第2の絶対値化手段と、前記第1と第2の絶対値化手段の出力信号レベルを比較し、信号レベルの大きい方をウォブル信号レベルとして出力する手段とを備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明においては、ウォブル信号に周波数が同期し、互いに直交する二つの信号にそれぞれウォブル信号を乗算し、更に、その乗算信号の高域信号成分を除去した結果に対してそれぞれ絶対値化する。更に、絶対値化後の信号レベルの大小比較を行い、信号レベルの大きい方をウォブル信号レベルとして検出することで、ルート演算回路のような回路規模の大きな回路を用いることなく、回路の簡単化を実現している。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ルート演算回路の追加が必要ではなく、比較器と絶対値検出回路の追加のみで入力信号のレベル検出が可能となるため、回路ブロックの簡単化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係るディスク記録再生装置の一実施形態を示すブロック図である。図中101は情報記録媒体である光ディスクである。光ディスク101としては、例えば、CD、DVD、BD等である。
【0020】
図2(a)は光ディスクの概略を示す図、図2(b)はその一部を拡大して示す図である。光ディスク101には、図2(b)に示すように内周から外周に向かって、或いは外周から内周に向かってスパイラル状の案内溝(情報トラック)201が設けられている。情報トラック201は上述のように所定の振幅と単一の周期をもってそれ自身がウォブルしている。202は情報ピット、203は光スポットを示す。
【0021】
この光ディスク101に対し光ピックアップ102内の光発生装置103によりレーザ光を照射する。その反射光を光検出装置104で電気信号に変換し、ウォブル検出回路105により適切な信号処理を行うことでウォブル信号を検出する。
【0022】
検出されたウォブル信号は利得可変増幅器106により振幅レベルが調整され、アナログデジタル変換器107によりデジタル信号に変換される。位相誤差検出器108はウォブル信号に対し内部で発生させたキャリア115を乗算器109により乗算処理し、低域通過フィルタ110にて高域のノイズを除去し、位相誤差信号を検出する。
【0023】
位相誤差信号はループフィルタ111により信号処理され、VCO(電圧制御発振器)112を駆動する。VCO112から出力されるクロックに基づいてカウンタ113が動作し、そのカウンタ値に基づいてキャリア発生テーブル114は特定の値を出力し、これが内部キャリア115となる。キャリア発生テーブル114はキャリア115に対し位相がπ/2ずれた信号116を生成する。
【0024】
MSK検出器117はアナログデジタル変換器107によりデジタル化されたウォブル信号に対しキャリア116を乗算器118により乗算処理し、低域通過フィルタ119にて高域のノイズを除去する。その出力に基づいてアドレス検出回路120はウォブル信号に埋め込まれたMSKマークを検出し、ADIPアドレス検出を行う。
【0025】
MSKマーク検出の様子を図3に示す。図3(a)は基本ウォブルであり、ウォブル検出回路105の出力に対応する。図3(b)はMSK信号であるが、これは基本ウォブルに埋め込まれている。
【0026】
図3(c)は内部生成キャリアであり、信号116に対応する。図3(d)は図3(b)のMSK信号と図3(c)のキャリア信号116を乗算した乗算器118の出力に対応する。図3(e)はその乗算器118の出力信号を低域通過フィルタ119にて高域成分を除去した信号を示す。
【0027】
次に、本発明の特徴であるウォブル信号のレベル検出方法を説明する。位相誤差検出器108とMSK検出器117の出力それぞれに対し、絶対値化回路(ABS)121、122により絶対値化処理を行う。絶対値化後の信号に対し、比較器123は大小比較を行い、大きい方をウォブル信号レベル124として出力する。
【0028】
次に、この処理の妥当性を数学的に検証する。まず、位相誤差検出器108とMSK検出器117の出力は、それぞれ上述のD1、D2に対応する。
【0029】
D1=Ws×C1=0.5ASIN(θ)
D2=Ws×C2=0.5ACOS(θ)
絶対値化後、比較器123の結果として検出されるウォブル信号レベルAdはθを−π〜πの範囲で考えれば、
Ad=|0.5ACOS(θ)|(−π/4<θ<π/4,3π/4<θ<π,−π<θ<−3π/4)
Ad=|0.5ASIN(θ)|(π/4<θ<3π/4,−3π/4<θ<−π/4)
である。
【0030】
位相誤差θの値に伴うウォブル信号検出レベルを図4に示す。図4ではウォブル信号レベルの検出結果Ad=0.5Aの時を検出レベル1.0として規格化している。ウォブルとキャリアとの位相誤差θの値により検出誤差は生じるが、PLLが動作していて同期状態にある時は位相誤差が0であるため、ウォブルレベルの正確な検出が可能である。
【0031】
PLLが引き込み過程等にあり非同期状態の状態においては、
|0.5ACOS(θ)|=|0.5ASIN(θ)|
の時に最大検出誤差が生じ、この時、およそ30%の検出誤差が生じる。
【0032】
しかし、非同期状態においてウォブルとキャリアが最大検出誤差が生じるような位相関係状態に常にあるわけではなく、その位相関係は時間と共に変化するため、実際の動作における検出誤差の影響はもっと少ない。この程度の過渡的な検出誤差量であればPLLの動作において実用上問題はない。
【0033】
例えば、内部キャリアの数をもっと増やすことで、この検出誤差の影響を小さくする事も可能である。例えば、π/4ずらしたキャリアを用いることで、最大検出誤差量は約8%にまで減らす事が可能である。
【0034】
検出されたウォブルレベルは基準値比較器125により目標値と比較され、その誤差量はフィルタ126を通過後、デジタルアナログ変換部127によりアナログ値に変換される。そして、利得可変増幅器106の利得量がデジタルアナログ変換部127の出力に応じて変化することでAGCを行う。
【0035】
本実施形態では、AGCのレベル検出のために追加した回路は絶対値化回路121、122と比較器123のみであり、最小限の回路構成でAGCのレベル検出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】光ディスクを示す図である。
【図3】図1の各部の信号を示す信号波形図である。
【図4】本発明の位相誤差変化に伴うウォブル信号検出レベルを示す図である。
【図5】一般的なPLL回路を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
101 光ディスク
102 光ピックアップ
103 光発生装置
104 光検出装置
105 ウォブル検出回路
106 利得可変増幅器
107 アナログデジタル変換器
108 位相誤差検出器
109 乗算器
110 低域通過フィルタ
111 ループフィルタ
112 VCO(電圧制御発振器)
113 カウンタ
114 キャリア発生テーブル
115 内部キャリア
117 MSK検出器
118 乗算器
119 低域通過フィルタ
120 アドレス検出回路
121、122 絶対値化回路
123 比較器
125 基準比較器
126 フィルタ
127 デジタルアナログ変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報トラックに所定情報を示すウォブルが施された情報記録媒体からウォブルを再生し、その再生したウォブル信号の振幅レベルを検出するウォブルレベル検出装置において、前記ウォブル信号に周波数が同期し、互いに直交する二つの信号を生成する第1、第2の信号生成手段と、前記二つの信号に対してそれぞれウォブル信号を乗算する第1、第2の乗算手段と、前記第1、第2の乗算手段の出力からそれぞれ高域信号成分を除去する第1、第2の除去手段と、前記第1、第2の除去手段の出力をそれぞれ絶対値化する第1、第2の絶対値化手段と、前記第1と第2の絶対値化手段の出力信号レベルを比較し、信号レベルの大きい方をウォブル信号レベルとして出力する手段とを備えたことを特徴とするウォブルレベル検出装置。
【請求項2】
情報トラックに所定情報を示すウォブルが施された情報記録媒体に情報を記録又は再生する情報記録再生装置において、請求項1に記載のウォブルレベル検出装置と、前記ウォブル検出装置の出力に基づいてウォブル信号のAGC制御を行う手段と、前記AGC制御手段の出力に基づいて前記所定情報を再生する手段とを有する情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−141335(P2007−141335A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332806(P2005−332806)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】