説明

ウォーム転造装置およびウォーム転造方法

【課題】転造加工中におけるシャフトの回転回数を最適化し、ウォームの精度向上および成形作業の効率向上を図る。
【解決手段】各ロールダイス23の外周部に、凹部40,食い込み歯41,成形歯42および仕上げ歯43を設け、各ロールダイス23の加工歯24の一端側から他端側までの間においてワークにウォームを成形するようにし、加工歯24の一端側から他端側までの長さ寸法を、ワークが10〜35回転する長さ寸法に設定した。よって、転造加工中におけるワークの回転回数を最適化することができ、ワークの中心に亀裂が発生したりワークの表面に剥離が発生したりすることを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの外周面に転造加工によりウォームを成形するウォーム転造装置およびウォーム転造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のワイパ装置やパワーウインド装置等の駆動源としては、電動モータ本体に減速機構を取り付けて1つのユニットとした減速機構付きモータが多く用いられている。このような減速機構付きモータでは、小型で大きな減速比を得られるウォームギヤ機構を減速機構として用いる場合が多く、この場合、モータ構成を簡素化するために、モータ本体のアマチュアシャフトの外周面にウォームを一体に成形するようにしている。
【0003】
アマチュアシャフトの外周面にウォームを一体に成形する方法としては、電動モータ(駆動源)により回転駆動される一対のダイス間にワークとしてのシャフトを挟み込み、これによりシャフトの外周面にウォームを転造する方法が知られている。この方法によれば、切削加工の場合に比して削りカスの排出が無く、加工時間の短縮が図れる等のメリットがある。このような転造加工を行う転造装置としては、例えば、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0004】
特許文献1に記載された転造装置は、駆動源により回転駆動される一対の丸ダイス(ダイス)を備えており、各丸ダイスの加工歯の大きさや形状(モジュール)は、その全周に亘って一定となっている。そして、ワーク(シャフト)を各丸ダイス間に挟み込み、各丸ダイスをそれぞれ同一方向に回転駆動するとともに各丸ダイスを所定圧で徐々に近接させ、これによりワークの外周面にネジ溝等を転造加工するようになっている。
【特許文献1】特開平11―285761号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載された転造装置は、各丸ダイスを複数回回転させてワークの外周面にネジ溝等を転造加工するものであり、各丸ダイスよりも小径のワークは各丸ダイスの回転回数以上の回転をするようになっている。ここで、ワークの仕上がり(出来栄え)を良好な状態とするためには、転造加工中におけるワークの回転回数を最適化する必要があり、ワークの回転回数によっては、以下に示すような問題が生じ得る。
【0006】
つまり、ワークの回転回数を最適値よりも少なくして転造加工を施した場合には、各丸ダイスの加工歯がワークに急激に食い込むため、各丸ダイスの加工歯から伝わる荷重がワークの中心部分に集中し、これにより、ワークの中心部分に中空状の亀裂が発生することがある。これは、完成品の精度低下等を招くことになる。一方、ワークの回転回数を最適値よりも多くして転造加工を施した場合には、各丸ダイスの加工歯のワークへの食い込みが徐々に行われるため、上述のようなワークの中心に亀裂が発生することを防ぐことができる。しかし、各丸ダイスの加工歯がワークに長く接触すること等に起因して、ワークの表面に剥離が発生することがある。これは、転造加工後にバリ取り作業が必要となる等、成形作業の効率低下を招くことになる。
【0007】
本発明の目的は、転造加工中におけるシャフトの回転回数を最適化し、ウォームの精度向上および成形作業の効率向上を図ることができるウォーム転造装置およびウォーム転造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のウォーム転造装置は、シャフトの外周面に転造加工によりウォームを成形するウォーム転造装置であって、所定方向に回転を行う駆動源と、前記駆動源により駆動され、加工歯が互いに向き合う一対のダイスと、前記各ダイスの対向面に設けられ、互いの底部間距離が前記シャフトの直径寸法よりも大きく設定された凹部と、前記各ダイスの前記各凹部の一端側に設けられ、互いの山頂間距離が前記シャフトの直径寸法よりも小さく設定され、前記シャフトに食い込む食い込み歯と、前記各ダイスの前記各食い込み歯の一端側に設けられ、互いの山頂間距離が前記シャフトの直径寸法よりも小さく設定され、前記シャフトの外周面に前記ウォームを成形する成形歯と、前記各ダイスの前記各成形歯の一端側に設けられ、前記ウォームを仕上げる仕上げ歯とを備え、前記各ダイスの加工歯の一端側から他端側までの長さ寸法を、前記シャフトが10〜35回転する長さ寸法に設定したことを特徴とする。
【0009】
本発明のウォーム転造装置は、前記シャフトは、減速機構付きモータのアマチュアシャフトであることを特徴とする。
【0010】
本発明のウォーム転造方法は、駆動源により駆動される一対のダイス間にシャフトを配置し、前記各ダイスをそれぞれ駆動して前記シャフトの外周面に転造加工によりウォームを成形するウォーム転造方法であって、加工歯の一端側から他端側までの長さ寸法を、前記シャフトが10〜35回転する長さ寸法に設定した前記各ダイスを用い、前記各ダイスに設けられた各凹部間に、前記各ダイスと非接触状態で前記シャフトを配置するシャフト配置工程と、前記各ダイスの前記各凹部の一端側に設けられた食い込み歯により、前記シャフトを前記各ダイス間に導入するシャフト導入工程と、前記各ダイスの前記各食い込み歯の一端側に設けられた成形歯により、前記シャフトの外周面に前記ウォームを成形するウォーム成形工程と、前記各ダイスの前記各成形歯の一端側に設けられた仕上げ歯により、前記ウォームを仕上げるウォーム仕上げ工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明のウォーム転造方法は、前記シャフトは、減速機構付きモータのアマチュアシャフトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各ダイスの対向面に、凹部,食い込み歯,成形歯および仕上げ歯を設け、各ダイスの加工歯の一端側から他端側までの間においてシャフトにウォームを成形するようにし、加工歯の一端側から他端側までの長さ寸法を、シャフトが10〜35回転する長さ寸法に設定したので、転造加工中におけるシャフトの回転回数を最適化することができる。したがって、シャフトの中心に亀裂が発生したりシャフトの表面に剥離が発生したりすることを抑制することができ、ひいては、ウォームの精度向上および成形作業の効率向上を図ることができる。
【0013】
本発明によれば、シャフトは、減速機構付きモータのアマチュアシャフトであり、ウォームの精度向上および作業効率の向上が図れるので、減速機構付きモータの作動時における静粛性の向上、および減速機構付きモータの製造コストの低減を実現することができる。
【0014】
本発明によれば、加工歯の一端側から他端側までの長さ寸法を、シャフトが10〜35回転する長さ寸法に設定した各ダイスを用い、凹部によるシャフト配置工程と、食い込み歯によるシャフト導入工程と、成形歯によるウォーム成形工程と、仕上げ歯によるウォーム仕上げ工程とによって、高精度のウォームを備えたシャフトを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は減速機構付きモータを示す断面図を、図2は本発明に係るウォーム転造装置の要部を示す斜視図を、図3は図2のウォーム転造装置を模式的に示す説明図をそれぞれ表している。
【0017】
図1に示すように、減速機構付きモータ10は、車両用のワイパ装置の駆動源として用いられるものであり、電動モータ本体11と電動モータ本体11に固定される減速機12とを備えている。電動モータ本体11は、所謂ブラシ付き直流モータであり、モータヨーク13とモータヨーク13に回転自在に支持されるシャフト、つまりアマチュアシャフト14を備えており、図示しないバッテリ(電源)から供給される直流電流により作動してアマチュアシャフト14が回転するようになっている。
【0018】
減速機12は、モータヨーク13に固定されるギヤケース15の内部に減速機構としてのウォームギヤ機構16を収容した構造を採っている。ウォームギヤ機構16は、アマチュアシャフト14の外周面に一体に形成されるウォーム17と、出力軸18に支持されてギヤケース15内に回転自在に収容されるウォームホイル19とを備えている。これにより、電動モータ本体11が作動してアマチュアシャフト14が回転すると、その回転はウォームギヤ機構16により所定の回転数にまで減速されて出力軸18から出力される。
【0019】
減速機構付きモータ10においては、アマチュアシャフト14の素材となる外周面に何も成形していない無垢のワークW(シャフト)を転造加工することにより、ワークWの外周面にウォーム17を一体に成形するようになっている。本実施の形態においては、ワークWの素材としてはS35CやS45C等の炭素鋼鋼材を採用し、その直径寸法はφ7(mm)に設定されている。
【0020】
図2および図3に示すように、ウォーム転造装置20は、作業場所の床等(図示せず)に固定されるベース筺体21を備えている。ベース筺体21に一体に設けられたダイス収容部22には、略同一形状に形成された一対のロールダイス(ダイス)23が収容されている。各ロールダイス23は、SKD11等のダイス鋼により略円盤状に形成された転造ダイスであり、それぞれの外周部(対向面)には、ウォーム17を成形するための加工歯24が設けられている。各ロールダイス23は、互いの回転中心軸が平行となるようダイス収容部22内に並べて配置されており、これにより、各ロールダイス23の加工歯24は互いに向き合わされている。
【0021】
各ロールダイス23は、ダイス収容部22内に対向するよう固定された一対の固定ブロック25に、それぞれ回転軸26を介して回転自在に支持されている。各回転軸26は、各固定ブロック25の内部にそれぞれ設けられる駆動源としての電動モータ(図示せず)により回転駆動され、何れも同一の方向(例えば、時計回り方向)に回転するようになっている。このように、本実施の形態においては、各回転軸26を中心に回転する各ロールダイス23を用い、各ロールダイス23の回転駆動のみで転造加工するため、例えば、一対の平ダイスを用いて各平ダイスをスライドさせる転造装置に比して、転造装置自体のコンパクト化を可能としている。
【0022】
各固定ブロック25間には、各ロールダイス23により転造加工されるワークWを支持する支持ブロック27が設けられている。支持ブロック27は、各ロールダイス23の軸方向に平行な方向に貫通する支持孔28を備えている。支持孔28の内径寸法は、ワークWの直径寸法よりも僅かに大きく形成されており、支持孔28は、ワークWを回転自在かつ軸方向に移動自在に支持するようになっている。
【0023】
ベース筺体21には、ワークWを支持ブロック27に向けて供給するためのワーク供給台29が設けられている。ワーク供給台29は断面が略V字形状に形成されており、ワークWをV字形状の溝内に保持して待機させるようになっている。ワーク供給台29には、ワークWを支持ブロック27に向けて移動させるワーク供給シリンダ30が近接配置されている。ワーク供給台29にワークWをセットし、ワーク供給シリンダ30を作動させることで、支持孔28にワークWを挿通させることができ、これにより支持ブロック27がワークWの基端側を支持し、ワークWの先端側が各ロールダイス23間に配置される。
【0024】
ベース筺体21には、転造加工後のワークW、つまりアマチュアシャフト14をダイス収容部22から取り出すための取り出し孔31が設けられている。取り出し孔31は、ダイス収容部22における支持ブロック27の支持孔28と対向する箇所に設けられており、ワーク供給シリンダ30によってアマチュアシャフト14を押し出すことで、アマチュアシャフト14を取り出し孔31に挿通させることができる。
【0025】
ここで、ウォーム17の転造加工を滑らかに行うために、各ロールダイス23の各加工歯24には、それぞれ潤滑油供給装置(図示せず)により潤滑油が供給されるようになっている。
【0026】
次に、各ロールダイス23の詳細構造について図面を用いて説明する。
【0027】
図4(a),(b)はロールダイスの構造を説明する説明図を、図5(a)〜(d)はロールダイスの加工歯の形状を説明する部分断面図を、図6はロールダイスの加工歯の歯先(山頂)と歯底(谷底)との関係を説明する展開図を、図7(a),(b)は図4(a)のA矢視図およびB矢視図を、図8はロールダイスの外周部に形成される面取り部の形状を説明する展開図をそれぞれ表している。
【0028】
図4に示すように、ロールダイス23の外周部、つまり各ロールダイス23の対向面には、周方向に沿って凹部40が設けられている。凹部40は、ロールダイス23の周方向に向けて、矢印(1)の範囲(範囲角度116°)に亘って設けられている。凹部40の深さ寸法は、図3に示すように、各凹部40を対向配置させた状態のもとで、各凹部40の底部間距離がワークWの直径寸法よりも大きくなる深さ寸法に設定されている。
【0029】
ロールダイス23の凹部40の一端側には、周方向に沿って食い込み歯41が設けられている。食い込み歯41は、ロールダイス23の周方向に向けて、矢印(2)の範囲(範囲角度74°)に亘って設けられている。食い込み歯41の外径寸法は、その全域に亘り、各食い込み歯41を対向配置させた状態のもとで、各食い込み歯41の山頂間距離がワークWの直径寸法よりも小さくなる外径寸法に設定されている。
【0030】
図5(a)に示すように、食い込み歯41の歯先の断面形状は、その全域に亘り70°以下であって、好ましくは50°〜65°の鋭角となっており、無垢のワークW(シャフト)が食い込みやすくなっている。また、図6に示すように、食い込み歯41の始点を0°とした際に、周方向に0°から74°に向かうにつれて、歯先(山頂稜線)の外径寸法が徐々に大きくなるとともに、歯底(谷底稜線)の外径寸法についても徐々に大きくなっている。
【0031】
ここで、各ロールダイス23は、各回転軸26のそれぞれに互いに表裏反対となるよう固定されており、これにより、各ロールダイス23を同一方向に回転駆動することで、各凹部40間にあるワークWに各食い込み歯41がそれぞれ略同時に食い込み始め、ワークWを各食い込み歯41間に導入できるようになっている。
【0032】
ロールダイス23の食い込み歯41の一端側には、周方向に沿って成形歯42が設けられている。成形歯42は、ロールダイス23の周方向に向けて、矢印(3)の範囲(範囲角度121°)に亘って設けられている。成形歯42の外径寸法は、その全域に亘り、各成形歯42を対向配置させた状態のもとで、各成形歯42の山頂間距離がワークWの直径寸法よりも小さくなる外径寸法に設定されている。
【0033】
図5(b)に示すように、成形歯42の歯先の断面形状は、その歯先に平坦部42aが形成されるとともに、図6に示すように、食い込み歯41の始点を0°とした際に、周方向に74°から195°に向かうにつれて、歯先(山頂稜線)の外径寸法は不変で、歯底(谷底稜線)の外径寸法が徐々に大きくなっている。これにより、隣り合う各成形歯42間に塑性変形して入り込んだワークWの一部を徐々に成形していき、ワークWの外周面にウォーム17を成形できるようになっている。
【0034】
ロールダイス23の成形歯42の一端側には、周方向に沿って仕上げ歯43が設けられている。仕上げ歯43は、ロールダイス23の周方向に向けて、矢印(4)の範囲(範囲角度18°)に亘って設けられている。
【0035】
図5(c)に示すように、仕上げ歯43の歯先の断面形状は、その歯先に平坦部43aが形成されるとともに、図6に示すように、食い込み歯41の始点を0°とした際に、周方向に195°から213°に向けて、歯先(山頂稜線)の外径寸法および歯底(谷底稜線)の外径寸法は不変となっている。これにより、隣り合う仕上げ歯43間のウォーム17の表面を、平滑に仕上げることができるようになっている。
【0036】
ロールダイス23の仕上げ歯43の一端側には、周方向に沿って逃げ歯44が設けられている。逃げ歯44は、ロールダイス23の周方向に向けて、矢印(5)の範囲(範囲角度31°)に亘って設けられている。
【0037】
図5(d)に示すように、逃げ歯44の歯先の断面形状は、その歯先に平坦部44aが形成されるとともに、図6に示すように、食い込み歯41の始点を0°とした際に、周方向に213°から244°に向かうにつれて、歯先(山頂稜線)の外径寸法および歯底(谷底稜線)の外径寸法が徐々に小さくなっている。これにより、隣り合う各逃げ歯44間からウォーム17が逃げるようにして離れていき、各ロールダイス23間からウォーム17を排出することができるようになっている。ここで、加工歯24は、食い込み歯41,成形歯42,仕上げ歯43および逃げ歯44により構成されている。
【0038】
加工歯24の一端側から他端側までの長さ寸法、つまり、図6に示すように食い込み歯41の始点である0°から逃げ歯44の終点である244°までの長さ寸法は、本実施の形態においては、ワークWの直径寸法φ7(mm)に合わせて約480mmに設定されている。これにより、ワークWは加工歯24の0°〜244°に向けて略22回転するようになっている。
【0039】
各ロールダイス23の外周部の軸方向一端側、つまり、各ロールダイス23を各回転軸26に固定した状態でのワーク供給台29側(図2,3参照)には、各ロールダイス23の周方向に沿って面取り部50がそれぞれ設けられている。各面取り部50は、ワークWの加工時におけるワークWの歩み現象による不具合を抑制するものである。
【0040】
ここで、図4(a)に示すロールダイス23は、図2,3の右側のロールダイス23を示しており、図4(a)の図中上側に面取り部50が形成されている。なお、図2,3の左側のロールダイス23においては、図4(a)の図中下側に面取り部50が形成されることになる。
【0041】
図7の網掛け部分に示すように、面取り部50は、凹部40と食い込み歯41との接続部分側が幅狭に形成されており、逃げ歯44と凹部40との接続部分側が幅広に形成されている。面取り部50は、図8の網掛け部分に示すように、食い込み歯41の始点を0°とした際に、周方向に向けて0°から160°の範囲、つまり食い込み歯41から成形歯42の略後半までの範囲において、幅狭の状態となっている。また、食い込み歯41の始点を0°とした際に、周方向に向けて160°から244°の範囲、つまり成形歯42の略後半から逃げ歯44までの範囲においては、幅狭の状態から幅広の状態に徐々に変化するようになっている。これにより、歩み現象によるワークWの軸方向への移動に伴い、成形歯42ないし逃げ歯44の位置を移動させてウォーム17に追従させることができ、アマチュアシャフト14の軸方向寸法を短くして減速機構付きモータ10の小型化を可能としている。
【0042】
次に、以上のように形成したウォーム転造装置20によるウォーム17の転造手順について、図面を用いて詳細に説明する。
【0043】
図9はウォーム転造装置によるウォームの転造手順を示すフローチャートを、図10(a)〜(d)はウォームの成形過程を説明する説明図を、図11はワークの歩み現象を説明する説明図を、図12(a),(b)はウォームの完全部/不完全部の成形状態を説明する説明図を、図13は各ロールダイスの変形例を説明する説明図を、図14は各ロールダイスによる不合格品発生率を説明する比較グラフをそれぞれ表している。
【0044】
[シャフト配置工程(ステップS1)]
まず、ウォーム転造装置20を初期状態として、各ロールダイス23の各凹部40をそれぞれ対向させておく。これにより、各凹部40間には、各ロールダイス23に非接触の状態でワークWの先端側が配置可能となる。次いで、ワーク供給台29にワークWを載置し、その後、ワーク供給シリンダ30を作動させる。すると、ワーク供給シリンダ30によって、図中矢印(a)の方向にワークWが移動されて、支持ブロック27の支持孔28に挿通される。これにより、ワークWの基端側が支持ブロック27に支持されるとともに、ワークWの先端側が各凹部40間に配置される。
【0045】
[シャフト導入工程(ステップS2)]
シャフト配置工程に引き続き、ウォーム転造装置20の電動モータを回転駆動し、各回転軸26を図中矢印(b),(c)の方向にそれぞれ回転させる。すると、ワークWが図中矢印(d)の方向に回転しつつ、その外周部に各ロールダイス23の各食い込み歯41が食い込んでいく。これにより、各ロールダイス23の各食い込み歯41間にワークWが導入される。このとき、各食い込み歯41の始点側の山頂間距離は、ワークWの直径寸法よりも僅かに大きく設定しているため、図10(a)に示すように、ワークWを各食い込み歯41間にスムーズに導入できるようになっている。また、各食い込み歯41の歯先は鋭角となっているので、図10(b)の矢印に示すように、各ロールダイス23からの押圧力をワークWの軸方向へ分散させることができる。
【0046】
[ウォーム成型工程(ステップS3)]
シャフト導入工程に引き続き、各ロールダイス23を継続して回転駆動すると、ワークWの外周部には各成形歯42が位置するようになる。すると、図10(c)の矢印に示すように、隣り合う各成形歯42間にワークWの一部が塑性変形して入り込んでいく。その後、各成形歯42の歯底の外径寸法が徐々に大きくなるので(図5(b)参照)、隣り合う各成形歯42間に入り込むワークWの一部を押し固めてウォーム17が成形されていく。
【0047】
ウォーム17が成形されていくのにしたがって、図9の矢印(e)および図11の矢印に示すように、ワークWがその軸方向へ移動する歩み現象が発生する。ワークWは、図11に示すように、移動距離D1,移動距離D2のように略一定の速度で移動していき、これに伴い、各ロールダイス23の面取り部50が幅広となっていく。これにより、成形歯42ないし逃げ歯44が、順次ウォーム17に追従していき、ウォーム17の基端側(図中左側)にウォーム17の不完全部が成形されるのを抑制することができる(ウォーム追従工程)。
【0048】
[ウォーム仕上げ工程(ステップS4)]
ウォーム成形工程に引き続き、各ロールダイス23を継続して回転駆動すると、成形されたウォーム17の外周部には各仕上げ歯43が位置するようになる。すると、図10(d)に示すように、隣り合う各仕上げ歯43間にウォーム17が隙間無く満たされていく。これにより、ウォーム17の表面が平滑に仕上げられていく。
【0049】
[シャフト排出工程(ステップS5)]
ウォーム仕上げ工程に引き続き、各ロールダイス23を継続して回転駆動すると、仕上げられたウォーム17の外周部には逃げ歯44が位置するようになる。すると、隣り合う各逃げ歯44間からウォーム17が逃げるようにして離れていき、その後、各凹部40間にウォーム17が排出されて、各ロールダイス23間から出来上がったアマチュアシャフト14を排出できるようになる。
【0050】
その後、ワーク供給シリンダ30を作動させて、アマチュアシャフト14を取り出し孔31に向けて移動し、これにより、アマチュアシャフト14をウォーム転造装置20から取り出すことができる。
【0051】
ここで、図12(a)は、ワークWの歩み現象に対して対策を施さず、面取り部50を備えない各ロールダイス23により成形したウォーム17を示し、図12(b)は、上述したように面取り部50を備えた各ロールダイス23により成形したウォーム17を示している。ウォーム17の成形状態について比較したところ、面取り部50を備えない各ロールダイス23を用いた場合には、ウォーム17の基端側には長さ寸法L1の不完全部が成形された。一方、面取り部50を備えた各ロールダイス23を用いた場合には、ウォーム17の基端側に成形される不完全部の長さ寸法をL2に抑えることができた(L2<L1)。
【0052】
なお、図13に示すように、各ロールダイス23の軸方向他端側(図中右側)にも面取り部51を設けることもでき、この場合、面取り部51は、面取り部50に対して各ロールダイス23の表裏側で対象形状となるように形成するようにする。つまり、面取り部50はウォーム17の成形後段で徐々に幅広に変化するのに対し、面取り部51はウォーム17の成形後段で徐々に幅狭に変化するようにする。
【0053】
これにより、各ロールダイス23の幅寸法(厚み寸法)は、t1(図11参照)からt2に増加(t2>t1)するが、各成形歯42ないし各逃げ歯44が、ウォーム17の軸方向に向けてその略全域に亘り追従するようになり、ウォーム17の先端側(図中右側)にウォーム17の不完全部が形成されることも抑制できるようになる。よって、アマチュアシャフト14の軸方向寸法をさらに短くすることができ、減速機構付きモータ10をより小型化することが可能となる。
【0054】
また、ウォーム17の合否判定を行うべく、ウォーム17の内部組織の状態や表面の状態について確認したところ、図14に示すように、不合格品発生率を所定の品質基準以下に抑制でき、ワークWの中心部分における亀裂の発生(ワーク中心亀裂発生)およびウォーム17の歯底における剥離の発生(ワーク表面剥離発生)の双方を良好に抑制できることが確認できた。
【0055】
ここで、各ロールダイス23を用いた場合、ワーク中心亀裂発生およびワーク表面剥離発生の双方を良好に抑制するには、各ロールダイス23の素材(SKD11等)およびワークWの素材(S35CやS45C等)を考慮すると、図14に示すように、ワークWの回転回数が15〜30回転の範囲となるのが望ましく、このようにすることで、完成品のうちの略全てが品質基準をクリアすることが判った。
【0056】
なお、図14における一点鎖線は、従来例による不合格品発生率を示しており、従来例の各ダイスにおける加工歯はその全周に亘り一定であるため、ワーク中心亀裂発生およびワーク表面剥離発生の何れにおいても品質基準を上回ってしまい、本実施の形態に比して不合格品発生率が高いことが確認された。
【0057】
以上詳述したように、本実施の形態に係るウォーム転造装置20によれば、各ロールダイス23の外周部に、凹部40,食い込み歯41,成形歯42および仕上げ歯43を設け、各ロールダイス23の加工歯24の一端側から他端側までの間においてワークWにウォーム17を成形するようにし、加工歯24の一端側から他端側までの長さ寸法を、ワークWが10〜35回転する長さ寸法に設定したので、転造加工中におけるワークWの回転回数を最適化することができる。したがって、ワークWの中心に亀裂が発生したりワークWの表面に剥離が発生したりすることを抑制することができ、ひいては、ウォーム17の精度向上および成形作業の効率向上を図ることができる。
【0058】
また、本実施の形態に係るウォーム転造装置20によれば、ワークWは、減速機構付きモータ10のアマチュアシャフト14であり、ウォーム17の精度向上および成形作業の効率向上が図れるので、減速機構付きモータ10の作動時における静粛性の向上、および減速機構付きモータ10の製造コストの低減を実現することができる。
【0059】
さらに、本実施の形態に係るウォーム転造方法によれば、加工歯24の一端側から他端側までの長さ寸法を、ワークWが10〜35回転する長さ寸法に設定した各ロールダイス23を用い、凹部40によるシャフト配置工程と、食い込み歯41によるシャフト導入工程と、成形歯42によるウォーム成形工程と、仕上げ歯43によるウォーム仕上げ工程とによって、高精度のウォーム17を備えたアマチュアシャフト14を製造することができる。
【0060】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、減速機構付きモータ10のアマチュアシャフト14にウォーム17を転造するためのウォーム転造装置20を示したが、本発明はこれに限らず、他の用途に用いられるシャフトの外周面に、転造加工によりウォームを成形する際に本発明を適用することもできる。
【0061】
また、上記実施の形態においては、本発明における一対のダイスとして、回転駆動される各ロールダイス23を用いたものを示したが、本発明はこれに限らず、一対のダイスとして、平板状に形成された一対の平ダイスを用いることもできる。この場合、各平ダイスの加工歯をそれぞれ対向配置し、各平ダイスの少なくともいずれか一方を水平方向に相対移動(スライド)させれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】減速機構付きモータを示す断面図である。
【図2】本発明に係るウォーム転造装置の要部を示す斜視図である。
【図3】図2のウォーム転造装置を模式的に示す説明図である。
【図4】(a),(b)は、ロールダイスの構造を説明する説明図である。
【図5】(a)〜(d)は、ロールダイスの加工歯の形状を説明する部分断面図である。
【図6】ロールダイスの加工歯の歯先(山頂)と歯底(谷底)との関係を説明する展開図である。
【図7】(a),(b)は、図4(a)のA矢視図およびB矢視図である。
【図8】ロールダイスの外周部に形成される面取り部の形状を説明する展開図である。
【図9】ウォーム転造装置によるウォームの転造手順を示すフローチャートである。
【図10】(a)〜(d)は、ウォームの成形過程を説明する説明図である。
【図11】ワークの歩み現象を説明する説明図である。
【図12】(a),(b)は、ウォームの完全部/不完全部の成形状態を説明する説明図である。
【図13】各ロールダイスの変形例を説明する説明図である。
【図14】各ロールダイスによる不合格品発生率を説明する比較グラフである。
【符号の説明】
【0063】
10 減速機構付きモータ
11 電動モータ本体
12 減速機
13 モータヨーク
14 アマチュアシャフト
15 ギヤケース
16 ウォームギヤ機構
17 ウォーム
18 出力軸
19 ウォームホイル
20 ウォーム転造装置
21 ベース筺体
22 ダイス収容部
23 ロールダイス(ダイス)
24 加工歯
25 固定ブロック
26 回転軸
27 支持ブロック
28 支持孔
29 ワーク供給台
30 ワーク供給シリンダ
31 取り出し孔
40 凹部
41 食い込み歯
42 成形歯
42a 平坦部
43 仕上げ歯
43a 平坦部
44 逃げ歯
44a 平坦部
50,51 面取り部
W ワーク(シャフト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの外周面に転造加工によりウォームを成形するウォーム転造装置であって、
所定方向に回転を行う駆動源と、
前記駆動源により駆動され、加工歯が互いに向き合う一対のダイスと、
前記各ダイスの対向面に設けられ、互いの底部間距離が前記シャフトの直径寸法よりも大きく設定された凹部と、
前記各ダイスの前記各凹部の一端側に設けられ、互いの山頂間距離が前記シャフトの直径寸法よりも小さく設定され、前記シャフトに食い込む食い込み歯と、
前記各ダイスの前記各食い込み歯の一端側に設けられ、互いの山頂間距離が前記シャフトの直径寸法よりも小さく設定され、前記シャフトの外周面に前記ウォームを成形する成形歯と、
前記各ダイスの前記各成形歯の一端側に設けられ、前記ウォームを仕上げる仕上げ歯とを備え、
前記各ダイスの加工歯の一端側から他端側までの長さ寸法を、前記シャフトが10〜35回転する長さ寸法に設定したことを特徴とするウォーム転造装置。
【請求項2】
請求項1記載のウォーム転造装置において、前記シャフトは、減速機構付きモータのアマチュアシャフトであることを特徴とするウォーム転造装置。
【請求項3】
駆動源により駆動される一対のダイス間にシャフトを配置し、前記各ダイスをそれぞれ駆動して前記シャフトの外周面に転造加工によりウォームを成形するウォーム転造方法であって、
加工歯の一端側から他端側までの長さ寸法を、前記シャフトが10〜35回転する長さ寸法に設定した前記各ダイスを用い、
前記各ダイスに設けられた各凹部間に、前記各ダイスと非接触状態で前記シャフトを配置するシャフト配置工程と、
前記各ダイスの前記各凹部の一端側に設けられた食い込み歯により、前記シャフトを前記各ダイス間に導入するシャフト導入工程と、
前記各ダイスの前記各食い込み歯の一端側に設けられた成形歯により、前記シャフトの外周面に前記ウォームを成形するウォーム成形工程と、
前記各ダイスの前記各成形歯の一端側に設けられた仕上げ歯により、前記ウォームを仕上げるウォーム仕上げ工程とを備えることを特徴とするウォーム転造方法。
【請求項4】
請求項3記載のウォーム転造方法において、前記シャフトは、減速機構付きモータのアマチュアシャフトであることを特徴とするウォーム転造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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