説明

ウシアディポネクチンに対する抗体及びウシアディポネクチンの測定方法

【課題】反芻胃の存在のため、摂取したグルコースでなく内因性グルコースを利用しなければならないウシのアディポネクチンを測定するための手段及び方法を提供すること。
【解決手段】ウシアディポネクチンのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有していてもよいアミノ酸配列を有するペプチドを用いてウサギを免疫して得られ、かつウシアディポネクチンとの反応性を有することを特徴とする抗ウシアディポネクチン抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシアディポネクチンに対する抗体に関する。また本発明は、該抗体を含むウシアディポネクチン検出用試薬及び該抗体を用いたウシアディポネクチンの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチン(adipocyte complement-related protein)は脂肪細胞から分泌され、糖代謝に関わるホルモンである。アディポネクチンは244個のアミノ酸からなる分泌タンパク質であり、66アミノ酸のコラーゲン様モチーフを持ち、補体系のC1qやコラーゲンX及びVIIとホモロジーを有している(非特許文献1)。作用としてはインスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など多彩である(非特許文献2)。ヒトやマウスの血中のアディポネクチン濃度は、公知の免疫学的測定法や市販のELISAキットを用いて測定することができるが(特許文献1)、他の動物にその測定法やキットを応用することはできない。
【0003】
一方、ウシはその特徴である反芻胃の存在のため、摂取したグルコースではなく内因性のグルコースを利用しなければならない。このためウシにおいては糖代謝に関わるアディポネクチンも深く関与すると思われる。しかし、ウシアディポネクチンを検出するための手段又は方法は見出されていない。そのため、ウシのアディポネクチンの生理作用については明らかにされておらず、ウシのアディポネクチンを簡便かつ高感度に検出及び定量する測定計が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2005/038458号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Maeda, K. Okubo, I. Shimomura, T. Funahashi, Y. Matsuzawa and K. Matsubara, Biochem. Biophys. Res. Commun. 第221巻第286-289頁, 1996年
【非特許文献2】Y. Arita, S. Kihara, N. Ouchi, K. Maeda, H. Kuriyama, Y. Okamoto, M. Kumada, K. Hotta, M. Nishida, M. Takahashi, T. Nakamura, I. Shimomura, M. Muraguchi, Y. Ohmoto, T. Funahashi, Y.Matsuzawa, Circulation.第105巻第2893-2898頁, 2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ウシアディポネクチンを測定するための手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ウサギにおいてウシアディポネクチンを認識する抗体の作製に成功し、また該抗体を用いることによりウシアディポネクチンを高感度、簡便かつ特異的に検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下の(1)〜(4)である。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有していてもよいアミノ酸配列を有するペプチドを用いてウサギを免疫して得られ、かつウシアディポネクチンとの反応性を有することを特徴とする抗ウシアディポネクチン抗体。
上記抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、又はモノクローナル抗体であってもよい。
(2)ウシ由来サンプルと前記抗体とを接触させ、該サンプル中のウシアディポネクチンと該抗体との結合を検出することを特徴とするウシアディポネクチンの検出方法。
(3)ウシアディポネクチン含有サンプルと前記抗体とを接触させ、該抗体と結合したウシアディポネクチンを解離することを特徴とするウシアディポネクチンの精製方法。
(4)前記抗体を含むことを特徴とするウシアディポネクチン検出用試薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ウシアディポネクチンと反応する抗体が提供される。かかる抗体を用いることにより、サンプル中のウシアディポネクチンを高感度、簡便かつ特異的に検出することができる。この検出結果は、ウシの糖代謝に関する解明に有用である。また本発明の用いることにより、サンプルからウシアディポネクチンを精製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アディポネクチンの既知標準溶液で得られたアッセイシグナルを用いて作成した較正曲線(シグナル対濃度)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ウシアディポネクチンを認識して反応する抗体を提供する。抗体の作製にはマウスアディポネクチンの部分ペプチドを使用しているが、本発明に係る抗体は、従来の抗体とは異なり、ウシアディポネクチンとの反応性を有するという特徴がある。
【0012】
1.抗ウシアディポネクチン抗体
本発明に係る抗ウシアディポネクチン抗体は、マウスアディポネクチンの部分ペプチドを抗原として用いてウサギに免疫することで生起することができる。
【0013】
抗原としては、マウスアディポネクチンの部分ペプチドを使用する。マウスアディポネクチンのヌクレオチド配列はGenBankにアクセッション番号U37222で、アミノ酸配列はアクセッション番号AAA80543で登録されている。具体的には、配列番号3に示されるマウスアディポネクチンのアミノ酸配列において111〜247番のアミノ酸(配列番号1)からなるペプチドを使用する。本発明において、抗原として使用するペプチドは、ウシアディポネクチンに対する抗体を生起するための抗原性を有する限り、配列番号1に示されるアミノ酸配列に1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜5個、好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号1に示されるアミノ酸配列に1〜5個、好ましくは1〜3個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜5個、好ましくは1〜3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、抗原として用いることができる。特に、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1若しくは数個のアミノ酸が保存的置換されていることが好ましい。「保存的置換」とは、当技術分野で公知であり、あるアミノ酸が、そのアミノ酸と類似の性質を示すアミノ酸と置換されることをいう。また例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対し、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列相同性又は同一性を示すアミノ酸配列からなるペプチドもまた抗原として用いることができる。なお、アミノ酸配列の相同性又は同一性は、当技術分野で公知の方法により容易に求めることができる。
【0014】
ウシアディポネクチンに対する抗体を生起するための抗原性とは、抗ウシアディポネクチン抗体を作製することができる抗原としての能力及び抗ウシアディポネクチン抗体と反応することができる能力を意味する。あるペプチドが当該抗原性を有するか否かは、該ペプチドに対する抗体を作製し、作製した抗体が全長の(野生型)ウシアディポネクチンと反応するか否かを検出することによって確認することができる。
【0015】
抗原は、配列番号1に示されるアミノ酸配列に基づいて化学合成してもよいし、あるいはそれをコードする核酸を用いて宿主を形質転換し、該宿主において発現されるペプチドを回収することにより生成することができる。
【0016】
化学合成の場合には、公知のペプチド合成手法に従って、例えば市販のペプチド合成機や市販のペプチド合成用キットを用いて、抗原用のペプチドを合成することができる。また、遺伝子組換え手法を用いる場合には、抗原をコードする核酸を、当技術分野で公知の方法に従って調製し、発現ベクターに連結し、目的の抗原ペプチドが発現し得るように宿主細胞中に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体を培養することによって、抗原ペプチドを調製することができる。
【0017】
使用する抗原ペプチドには、抗原性を高めるため、キャリアタンパク質を結合してもよい。例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン(OVA)などのキャリアタンパク質を結合させることができる。これらのキャリアタンパク質は、当技術分野で公知であり、市販のキットも販売されている。
【0018】
免疫原は、上述のように得られた抗原ペプチド又はキャリアタンパク質と結合した抗原ペプチドをバッファーに溶解して調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等が挙げられる。これらのアジュバントは、単独で又は混合して用いることができる。
【0019】
調製した免疫原を、静脈内、皮下、腹腔内、又は足蹠に注入することによりウサギに投与して免疫を行う。使用するウサギは、当技術分野で慣用的に用いられているウサギであれば特に限定されるものではなく、例えば日本白色種、ニュージーランド白色種などが挙げられる。免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜5回の免疫を行う。その後、ポリクローナル抗体の場合には、最終の免疫日から20〜90日後に、血清を採取し、免疫アッセイ、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、放射性免疫アッセイ(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採取する。その後は、血清中に存在するウシアディポネクチンに特異的なポリクローナル抗体の反応性を上記の免疫アッセイなどで測定する。抗血清を直接免疫学的測定方法に用いることもできるが、ウシアディポネクチンタンパク質を用いるアフィニティクロマトグラフィー、プロテインA又はプロテインGアフィニティクロマトグラフィーなどを行って、抗血清中の抗体を精製して使用することが好ましい。
【0020】
またモノクローナル抗体を作製する場合は、最終の免疫日から20〜90日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられる。ハイブリドーマを得るため、慣用の方法に従って抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。次に、細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、細胞懸濁液を培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまく。各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して細胞培養を行い、30日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清を、ウシアディポネクチンに反応する抗体が存在するか否かについてスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、又は放射性免疫アッセイ(RIA)等を採用することができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0021】
さらに、上述のようにして作製したウシアディポネクチンに対する反応性を有する抗体分子からの遺伝子を適当な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングすることによって、キメラ抗体(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature, 312: 604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314: 452-454)を作製することができる。また、一本鎖抗体(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883; Ward et al., 1989, Nature 334: 544-546)、F(ab’)2フラグメント、及びFabフラグメントなども、当技術分野で公知の技術を利用して作製することができる。
【0022】
2.ウシアディポネクチンの検出
上述の通り作製した抗体を用いて、サンプル中のウシアディポネクチンを検出することが可能である。この検出は、抗体を用いる測定方法、すなわち免疫学的測定方法であれば、任意の方法に基づいて実施することができる。例えば、ウシアディポネクチンの検出は、免疫組織化学染色法及び免疫電顕法、並びに免疫アッセイ(酵素免疫アッセイ(ELISA、EIA)、蛍光免疫アッセイ、放射性免疫アッセイ(RIA)、免疫クロマト法及びウエスタンブロット法等)などを利用して実施することができる。
【0023】
対象となるサンプルとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ウシに由来する組織又は細胞サンプル(脂肪細胞、心臓、膵臓、腎臓、肝臓等)、生体液サンプル(血液、血清、血漿、尿、髄液、唾液、汗、腹水等)などが挙げられる。例えば、採取の容易性の観点から、血液、血清又は血漿などをサンプルとして用いることが好ましい。
【0024】
本発明の検出方法においては、サンプル中のウシアディポネクチンを、本発明に係る抗体と結合させて、その結合を検出することによって、ウシアディポネクチンを検出する。本発明において「検出」とは、ウシアディポネクチンの存在の有無を検出することだけではなく、ウシアディポネクチンを定量的に検出することも含む。
【0025】
ウシアディポネクチンについての免疫アッセイは、典型的には、試験対象のサンプルを本発明に係る抗体と接触させ、当技術分野で公知の手法を用いて結合した抗体を検出することを含む。「接触」は、サンプル中に存在するウシアディポネクチンと本発明に係る抗体とが結合できるように近接することができる状態にすることを意味し、例えば、液状サンプルと抗体含有溶液とを混合すること、固形サンプルに対して抗体含有溶液を塗布すること、抗体含有溶液に固形サンプルを浸漬することなどの操作が含まれる。
【0026】
免疫アッセイは、液相系及び固相系のいずれで行ってもよい。検出の容易性の点で、固相系を利用することが好ましい。また免疫アッセイの形式も限定されるものではなく、直接固相法の他、サンドイッチ法、競合法などであってもよい。
【0027】
本発明に係る抗ウシアディポネクチン抗体は、変性条件(還元条件)及び非変性条件のいずれにおいてもウシアディポネクチンと特異的に結合し、それを検出することができる。従って、本発明に係る抗体は、還元剤などによるサンプルの前処理を行うことなくウエスタンブロッティングにおいて用いたり、そのほかの様々な形式の免疫アッセイにおいて用いることができる。
【0028】
アッセイの操作法は、公知の方法(Ausubel, F.M.ら編, Short Protocols in Molecular Biology, Chapter 11 "immunology" John Wiley & Sons, Inc. 1995)により行うことができる。また、ウシアディポネクチンと抗体との複合体を、公知の分離手段(クロマト法、塩析法、アルコール沈殿法、酵素法、固相法等)によって分離し、標識のシグナルを検出するようにしてもよい。
【0029】
免疫アッセイの一例として、例えば固相系を利用する場合、抗体を固相支持体又は担体(樹脂プレート、メンブレン、ビーズなど)に固定してもよいし、あるいはサンプルを固定してもよい。例えば、抗体を固相支持体に固定し、支持体を適当なバッファーで洗浄した後、本発明の抗体を用いて処理する。次に固相支持体にバッファーを用いた2回目の洗浄を行って、未結合の抗体を除去する。そして固体支持体上の結合した抗体の量を、慣用的な手段により検出することによって、サンプル中のウシアディポネクチンと抗体との結合を検出することができる。
【0030】
抗体の結合活性は、周知の方法に従って測定しうる。当業者であれば、採用する免疫アッセイの種類及び形式、使用する標識の種類及び標識の対象などに応じて、各アッセイについての有効かつ最適な測定方法を決定することができる。
【0031】
本発明の一実施形態においては、本発明の抗体と、サンプル中に存在するウシアディポネクチンとの反応を容易に検出するために、本発明の抗体を標識することにより該反応を直接検出するか、又は標識二次抗体若しくはビオチン−アビジン複合体等を用いることにより間接的に検出する。本発明で使用可能な標識の例とその検出方法について以下に記載する。
【0032】
酵素免疫アッセイの場合には、例えば、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アミラーゼ等を用いることができる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、グルタルアルデヒド、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。
【0033】
蛍光免疫アッセイの場合には、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等を用いることができる。これらの蛍光標識は、慣用の手法により抗体と結合させることができる。
【0034】
放射性免疫アッセイの場合には、例えば、トリチウム、ヨウ素125及びヨウ素131等を用いることができる。放射性標識は、クロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法により、抗体に結合させることができる。
【0035】
例えば、本発明の抗体を上記のように標識で直接標識する場合には、サンプルを標識した本発明の抗体と接触させて、アディポネクチン−抗体の複合体を形成させる。そして未結合の標識抗体を分離して、結合標識抗体量又は未結合標識抗体量よりサンプル中のアディポネクチン量を測定することができる。
【0036】
また例えば、標識二次抗体を用いる場合には、本発明の抗体とサンプルとを反応させ(1次反応)、得られた複合体にさらに標識二次抗体を反応させる(2次反応)。1次反応と2次反応は逆の順序で行ってもよいし、同時に行ってもよいし、又は時間をずらして行ってもよい。1次反応及び2次反応により、アディポネクチン−本発明の抗体−標識二次抗体の複合体、又は本発明の抗体−アディポネクチン−標識二次抗体の複合体が形成される。そして未結合の標識二次抗体を分離して、結合標識二次抗体量又は未結合標識二次抗体量よりサンプル中のアディポネクチン量を測定することができる。
【0037】
ビオチン−アビジン複合体系を利用する場合には、ビオチン化した抗体とサンプルとを反応させ、得られた複合体に標識を付加したアビジン(アビジン、ストレプトアビジン、エクストラアビジン等)を反応させる。アビジンは、ビオチンと特異的に結合することができるため、アビジンに付加した標識のシグナルを検出することによって、抗体とアディポネクチンとの結合を測定することができる。アビジンに付加する標識は特に限定されるものではないが、例えば酵素標識(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)が好ましい。
【0038】
標識シグナルの検出もまた、当技術分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、酵素標識を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。基質は、使用する酵素の種類に応じて異なり、例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、ジアミノベンジジン(DAB)等を、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール、p-ニトロフェニルリン酸塩等を用いることができる。蛍光標識は、例えば蛍光顕微鏡、プレートリーダー等を用いて検出及び定量することができる。放射性標識を用いる場合には、放射性標識の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。
【0039】
本発明に係る抗体はさらに、免疫組織化学染色法(例えば免疫染色法)又は免疫電顕法のように、アディポネクチンのin situ検出のために、組織学的に用いることも可能である。in situ検出は、被験ウシから組織学的サンプルを切除し(組織のパラフィン包埋切片など)、それに標識した抗体を接触させることにより実施しうる。
【0040】
また本発明は、本発明の抗体を含む、ウシアディポネクチンの検出用試薬に関する。本発明の検出用試薬において、抗ウシアディポネクチン抗体は標識されていてもよい。また、抗ウシアディポネクチン抗体は、固相支持体(例えば、メンブレン、ビーズ等)に固定化されていてもよい。
【0041】
検出用試薬には、本発明の抗体の他、免疫学的測定方法を実施するために有用な成分が含まれてもよい。そのような成分としては、例えば、免疫アッセイにおいて使用するための競合物、バッファー、サンプル処理用試薬、標識などが挙げられる。
【0042】
本発明の検出用試薬を用いることによって、上述したウシアディポネクチンの検出を容易かつ簡便に行うことができる。
また、上述のようにサンプル中のウシアディポネクチンを検出及び定量することによって、ウシの糖代謝や脂質代謝を判定することが可能となる。糖代謝については、インスリンクランプ試験で算出されるインスリン感受性とアディポネクチン濃度は相関することが報告されている。そのため、被験ウシのウシアディポネクチンの血中濃度を測定し、正常な糖代謝を示すウシの血中濃度又は多数のウシの平均濃度と比較することによって、糖代謝異常を調べることができる。また、脂質代謝については、アディポネクチン濃度の減少でエネルギー燃焼システムの機能低下が起こり、諸臓器に脂肪が沈着することが考えられる。そのため、被験ウシのウシアディポネクチンの血中濃度を測定し、正常な脂質代謝を示すウシの血中濃度又は多数のウシの平均濃度と比較することによって、脂質代謝異常を調べることができる。
【0043】
3.その他の用途
また本発明の抗体は、上述したように、ウシアディポネクチンと特異的に反応するため、ウシアディポネクチンの精製に用いることができる。抗体に基づくタンパク質の精製方法であれば、当技術分野で公知の任意の精製方法において本発明の抗体を用いることができる。この場合、本発明の抗体は、固相、例えばビーズ、膜などに固定することが好ましい。
【0044】
具体的には、ウシアディポネクチン含有サンプルを、本発明の抗ウシアディポネクチン抗体と接触させて、該抗体にウシアディポネクチンを捕捉させ、抗体に結合したウシアディポネクチンを解離させることによって、精製を行うことができる。
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
以下のようにしてウシアディポネクチンに対する抗体を作製した。抗原として、マウスアディポネクチンの111〜247番のアミノ酸配列からなるペプチドを大腸菌において発現させ、通常のクロマトグラフィー技術によって精製されたマウスアディポネクチンペプチド(ATGen, カタログ番号ADI3001)を使用した。
【0047】
上記の抗原を、雌の日本白色種ウサギ2羽に対して、皮下注射により免疫した。なお、後の力価評価のため、免疫前のウサギの血清を採取した。初回免疫時にはアジュバントとしてFCA(Freund's complete adjuvant)を用い、2回目以降はFICA(Freund's incomplete adjuvant)を用いた。免疫は、初回免疫から2週間おきに4回の追加免疫を行った。4回目の追加免疫から8日後に一次血清を採取し、39日目に二次血清を採取した。
【実施例2】
【0048】
以下のようにして実施例1で作製した抗体含有血清のウシアディポネクチンに対する反応性を評価した。
注射前及び39日目の血清について、ウシアディポネクチンに対する力価を測定した。力価は、ウサギ血清を1/1000〜1/128000の8段階に希釈し、各希釈率でのペプチドに対する反応性を96穴プレートを用いたELISA法により求めた。
【0049】
測定方法の概略は以下のとおりである。
1.プレートコーティング:
コーティング溶液で1μg/mlに希釈した標準アディポネクチンを100μl/ウェルで、検査プレートのマイクロウェル表面にコーティングした。コーティング溶液は0.015M重炭酸ナトリウム、0.035Mの炭酸水素ナトリウムである(pH7.4)。
【0050】
2.プレート洗浄:
コーティング溶液を除去して洗浄緩衝液(1ウェルあたり約400μl)を添加し、そして除去する。この洗浄サイクルを3回繰り返す。洗浄緩衝液は0.05Mのトリス、0.15Mの塩化ナトリウム(pH7.4、0.05%のTween20を含有)。
【0051】
3.プレートブロッキング:
タンパク質及び洗浄剤(洗浄液中5%のスキムミルク)を含有するブロッキング緩衝液をマイクロウェルに添加する(1ウェルあたり300μl)。
【0052】
4.試料及び標準と抗体の反応:
測定用プレートとは別にプレートを用意し、Can get signal(登録商標)(東洋紡)Solution1により5000倍に希釈した抗体(75μl/ウェル)とCan get signal(登録商標)により段階的に1000ng/mlから3.91ng/mlまで希釈した検査標準又はCウシ検査血漿試料(75μl/ウェル)を添加する。マイクロプレートシェーカーを用いて震盪させながら、反応を室温で2時間進行させる。ウシの検査血漿試料は、血液凝固剤としてEDTAを使用し、Can get signal(登録商標)により10倍に希釈した溶液を用いる。
【0053】
5.抗体・抗原溶液の添加:
洗浄に続いて4で調製した抗原抗体反応液を添加し(100μl/ウェル)、マイクロプレートシェーカーを用いて震盪させながら、反応を室温で1時間進行させる。
【0054】
6.二次抗体の添加:
洗浄に続いて、Can get signal(登録商標)(東洋紡)Solution2により10000倍に希釈した、ビオチン標識された、ウサギIgGに特異的なヤギIgG(zymed社)を各ウェルに添加する。
【0055】
7.エクストラアビジン(ExtraAvidin)(SIGMA)の添加:
洗浄に続いて洗浄液で希釈したエクストラアビジンを洗浄液で10000倍に希釈後添加し(100μl/ウェル)、マイクロプレートシェーカーを用いて震盪させながら、反応を室温で1時間進行させる。
【0056】
8.pNPP試薬による色展開:
P-ニトロフェニルリン酸塩(SIGMA)を1mg/mlになるように溶解した反応用緩衝液(0.1Mグリシン、1mM塩化マグネシウム、1mM塩化亜鉛、pH10.4)を添加し(200μl/ウェル)、10分間反応させる。
【0057】
9.NaOHによる反応停止:
反応停止溶液(3N水酸化ナトリウム)を添加し(50μl/ウェル)、吸光度を測定する。吸光度計による色展開は吸光度(405nm)として読まれ検査試料中に存在するウシアディポネクチンの量を示しており、実際の濃度は、検査試料の吸光度を、濃度既知のアディポネクチンを用いて作られた標準曲線に対して読むことにより決定される。
【0058】
10.読み取り:
十分なアッセイシグナルが得られたら、シグナルを、例えばマイクロプレート分光光度計又は蛍光光度計(fluorimeter)で測定する。
【0059】
11.データ処理:
アディポネクチンの既知標準溶液で得られたアッセイシグナルを用いて較正曲線(シグナル対濃度)を構築する。較正曲線を用いて、検査試料中のウシアディポネクチンの濃度を内挿する。
以上の反応に従って得られた較正曲線を図1に、ウシ血漿サンプルの吸光度と濃度を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
図1及び表1の結果から、実施例1で作製された抗体を用いて、ELISA許容限度内でウシアディポネクチンを正確に定量できたことが示された。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号1:マウスアディポネクチンの一部に相当する合成ペプチド
配列番号2:マウスアディポネクチンのヌクレオチド配列
配列番号3:マウスアディポネクチンのアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有していてもよいアミノ酸配列を有するペプチドを用いてウサギを免疫して得られ、かつウシアディポネクチンとの反応性を有することを特徴とする抗ウシアディポネクチン抗体。
【請求項2】
ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
ウシ由来サンプルと請求項1又は2記載の抗体とを接触させ、該サンプル中のウシアディポネクチンと該抗体との結合を検出することを特徴とするウシアディポネクチンの検出方法。
【請求項4】
ウシアディポネクチン含有サンプルと請求項1又は2記載の抗体とを接触させ、該抗体と結合したウシアディポネクチンを解離することを特徴とするウシアディポネクチンの精製方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の抗体を含むことを特徴とするウシアディポネクチン検出用試薬。

【図1】
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【公開番号】特開2010−241744(P2010−241744A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93170(P2009−93170)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】