説明

ウルフトーンエリミネーター

【課題】共鳴胴を有する楽器が発生するウルフトーンを除去することができるウルフトーンエリミネーターを提供する。
【解決手段】ウルフトーンエリミネーター100は、共鳴胴を有して、特定周波数の声を生成するとともに、少なくとも一つのウルフトーンを発生する音響装置に設けられる。ウルフトーンエリミネーターは圧電材料102と、少なくとも一つの電極104と、特殊回路とを有する。圧電材料は音響装置の変形を電力に電気化する。電極は電力を転送するために用いられる。特殊回路は、少なくとも一つの電極104、抵抗106及び誘導子108を有し、圧電材料から転送される電力を消耗する。音響装置がウルフトーンを発生する時、特殊回路は音響装置と特殊回路で生成される電共振を消耗して、ウルフトーンを除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルフトーンエリミネーターに関し、特にメカトロニクスの振動吸収を利用するウルフトーンエリミネーターに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、全部の弦楽器は共鳴胴を有して、共鳴胴は特定の基本共振周波数(fundamental resonant frequency)、即ち、共鳴周波数を有する。共鳴胴と楽器自身(基本的に楽器の各構成部件)の振動周波数が接近した場合に、共鳴胴と楽器自身では、共振(resonance)を引き、音量が大きい雑音(ウルフトーン)を発生する。
【0003】
特にヴァイオリン、チェロ、二胡としてはクラシック音楽または中国の伝統音楽の重要な擦弦樂器には、演奏家の弓で弾くことより、樂器に与えられる力学的エネルギーが、駒またはブリッジ(bridge)を介して、楽器自身に転送された。そのとき、通常の音だけではない、また他の周波数の共振が発生可能であって、相違の声は互に衝突するために、一層悪いウルフトーンが発生する。数百年以来、楽器の製造業者も一所懸命その問題を専念して鑑みて鋭意研究を重ね、根本的な解決方法が提出できることを希望していた。ただし、科学的証拠がないことに苦しみ、その点に関する論争は果てしなく定論できなくなった。しかしながら、楽器の製造業者、音楽家及び聴衆は本当に根本的な解決方法を希望している。
【0004】
例えば、図1は、従来技術の音質調整材による雑音を抑える二胡を示す図である。現在、駒下方の弦(短いの部分)と共鳴胴の皮の間に音質調整材を挟むように装着すると、ウルフトーンを抑える効果がある。しかしながら、音質調整材が挟まれることで、二胡の本来の音色、音質も抑えられるようになった。特に二胡の高音の表現が抑えられ、本来の優美、明るい、純粋、晴れやかな音声の感情表現を失った。なお、音質調整材が挟まれることで、本来の音量を下げて、演奏家の演奏技術の表現が影響される。
【0005】
特許文献1に開示されているヴァイオリン属楽器のウルフトーンリムーバでは、ヴァイオリン属楽器のf字孔に設けられる支持体と、支持体に支持されf字孔の一部を覆い得る被着体とを備えた。ヴァイオリン属の楽器に装着することによりウルフトーンの発生を防止し得る。しかしながら、このウルフトーンリムーバでは、ヴァイオリン属楽器に対して、設計されたものであり、原理も違い、制限もある。
【特許文献1】特開2000−293161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、メカトロニクスの振動吸収(electro-mechanical vibration absorption)の原理により、楽器演奏の時に発生されるウルフトーンを除去して、全部の擦弦楽器に応用されるだけではなく、共鳴胴を有する楽器が発生するウルフトーンを除去することができるウルフトーンエリミネーターを提供することを課題とする。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、ウルフトーンを除去するとともに、楽器の音量を揚げて、本来の音色、音質を持って声の純度を向上させたように演奏家の演奏技術の表現が有利になるウルフトーンエリミネーターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のウルフトーンエリミネーターは、共鳴胴を有する音響装置に設けられる。前記音響装置は特定周波数の声を生成する時に、ウルフトーンが発生する。本発明のウルフトーンエリミネーターは、圧電材料と、少なくとも一つの電極と、特殊回路とを有する。圧電材料は音響装置の変形を電力に電気化する。電極は電力を転送するために用いられる。特殊回路は圧電材料から転送される電力を消耗することができる。特殊回路は音響装置がウルフトーンを発生する時、音響装置と特殊回路で共に生成される電共振を消耗して、ウルフトーンを除去する。
【発明の効果】
【0009】
現在の技術に比べ、本発明により提供されるウルフトーンエリミネーターは、ウルフトーンを除去するとともに、楽器の音量を揚げて、楽器の本来の音色、音質を持って声の純度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】音質調整材による雑音を抑える従来技術を示す図である。
【図2】本発明を二胡に応用された実施形態を示す図である。
【図3】本発明のウルフトーンエリミネーターのメカトロニクスの振動吸収原理の説明図である。
【図4】図3に示す原理による二重周波数の振動吸収の効果を有するメカトロニクスの振動吸収回路を示す図である。
【図5】図3に示す原理による多重周波数の振動吸収の効果を有するメカトロニクスの振動吸収回路を示す図である。
【図6】従来技術による音質調整材と本発明のメカトロニクスの振動吸収回路とを使用する時の音及びウルフトーンの比較スペクトログラムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1と図2を参照する。図2は本発明を二胡に応用された実施形態を示す図である。二胡は駒200、内弦301、外弦302及び皮400を有する。共鳴胴の正面側には、皮400が貼られている。駒200は、内弦301、外弦302と皮400の間に設けられる。図2は、二胡に設けられる本発明のウルフトーンエリミネーター100、駒200、内弦301、外弦302および皮400の位置関係図である。二胡では、駒200を介して、内弦301、外弦302の振動を皮400に伝え、共鳴胴で音量を増大して共鳴する。二胡に関することでは、「駒は二胡の半分である」という俗語がある。それため、本発明の実施例では、ウルフトーンエリミネーター100は駒200と皮400の間に設けられるが、これに限定されることではなく、実際の状況に基づいて、共鳴胴の内部に設けてもよい。例えばチェロの場合、共鳴胴の内部または外部に設けてもよい。
【0013】
図3を参照する。図3は本発明のウルフトーンエリミネーター100のメカトロニクスの振動吸収原理の説明図である。本発明では、振動吸収(vibration absorption)の原理に基づいて、ウルフトーンエリミネーター100にメカトロニクスの振動吸収(electro-mechanical vibration absorption)の能力が提供される。本発明により、ウルフトーンエリミネーター100を音響装置(楽器)に設けられ、音響装置をメーンシステムとと考え、ウルフトーンエリミネーター100をサブシステムと考えている。メーンシステムがウルフトーンを発生する時、サブシステムとは電共振を生成する。本発明により、ウルフトーンエリミネーター100は、備える特殊回路で前記音響装置と前記特殊回路で生成される電共振の電力を消耗することができる。本発明の特殊回路は2次回路(second order circuit)であり、以下の式1で算出される。
[式1]
【数1】

図3に示すように、図3の左側図は、ウルフトーンエリミネーター100の等価回路を示し、図3の右側図は、参照用の類似のメカニカルの振動吸収システムを示す。図3を参照して、本発明の振動吸収の原理について詳細に説明する。
【0014】
圧電材料102は、力学的なエネルギーと電力とを互に変換することができる材料であり、前述のように、駒200と皮400の間に設けられることができる。圧電材料102は、システム全体の変形(振動)を吸収して、前記変形を電力に電気化する。圧電材料102は電荷保存の能力または電荷放電の能力を有するために、回路中の等価容量Cに相当する(メカニカルの振動吸収システム中のスプリングKに相当する)。電極104は圧電材料102から放電される電荷(電力)を前記特殊回路へ転送するために用いられる。抵抗R106は回路中でメカニカルの振動吸収システム中のc(damping)に相当する。誘導子L108は、抵抗106のような電気の流れを妨げるものであり、また、電流を安定化させることができるものである。例えば、濾波、電荷保存、電荷放電、共振等の功能を有し、メカニカルの振動吸収システム中の質量Mに相当する。
【0015】
前述では本発明を簡単に説明する実施形態であるが、図4に示すように、本発明では、実際のシステム全体(例えば、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ二胡、中胡、高胡等)の必要に対して、システム全体に二重周波数の振動吸収の効果を有する回路を発展することができる。なお、図5に示すように、さらに多重周波数の振動吸収の効果を有するメカトロニクスの振動吸収回路を発展することができる。その上、前述の図4または図5のメカトロニクスの振動吸収回路では、回路中の各素子を調整して、振動吸収の対象周波数を決定することができる。それで、本発明は、弦楽器に適用のみではなく、共鳴胴を有する楽器で引く共振より、発生されるウルフトーンを除去することができる。図4、図5中の各素子記号の説明は、C:等価容量、R:抵抗、L:誘導子、i:電流。
【0016】
なお、例えば、前述の二胡では、本発明のウルフトーンエリミネーター100を駒に統合させ、または駒の一部にするのがよい。例えば前述のチェロでは、本発明のウルフトーンエリミネーター100をブリッジに統合させ、またはブリッジの一部にするのがよい。
【0017】
図6を参照する。図6は従来技術による音質調整材と本発明のメカトロニクスの振動吸収回路とを使用する時の音及びウルフトーンの比較スペクトログラムである。従来技術による音質調整材を挟むように装着することは、本発明と同様にウルフトーン(すなわち図に示す問題が起こる周波数)を抑える役割ができるが、本発明に比べ、音質調整材を挟む二胡の音量が小さくなる。なお、本発明者の試験結果より、本発明のメカトロニクスの振動吸収の使用では、高周波数(4k〜12kHz)の音量が従来技術より6.3dB高くなる。
【0018】
それ故に、本発明のウルフトーンエリミネーターにより、顕著的な効果で二胡本来の音色の純度を向上させ、声の聴感も綺麗になる。本発明者の試験結果、音階中の各音の調和程度もよくて、各音の音量を平均的に表現することができた。また、本発明によれば、ウルフトーンを除去するとともに、相対的に高周波数の音量も揚げることができる。二胡の本来の音色、音質を持って声の純度を向上させるだけではなく、更に透明、一致、飽満な楽器の音色が得られる。二胡の本来の優美、明るい、純粋、動きな、晴れやかな音声の感情表現ができ、演奏家の演奏技術の表現の一助とする役割を果たす。
【0019】
当該分野の技術を熟知するものが理解できるように、本発明の好適な実施形態を前述の通り開示したが、これらは決して本発明を限定するものではない。本発明の主旨と範囲を脱しない範囲内で各種の変更や修正を加えることができる。従って、本発明の特許請求の範囲は、このような変更や修正を含めて広く解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0020】
10 音質調整材
100 ウルフトーンエリミネーター
102 圧電材料
104 電極
106 抵抗
108 誘導子
200 駒
301 内弦
302 外弦
400 皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共鳴胴を有して、特定周波数の声を生成するとともに、少なくとも一つのウルフトーンを発生する音響装置に設けられるウルフトーンエリミネーターであって、
前記音響装置の変形を電力に電気化する圧電材料と、
前記電力を転送するために用いられる少なくとも一つの電極と、
前記圧電材料から転送される電力を消耗する特殊回路とを有して、
前記特殊回路は、前記音響装置がウルフトーンを発生する時、前記音響装置と前記特殊回路で生成される電共振を消耗して、前記ウルフトーンを除去することを特徴とするウルフトーンエリミネーター。
【請求項2】
前記圧電材料は石英、酸化亜鉛、チタン酸ジルコン酸鉛または他の圧電効果を有する材料であることを特徴とする請求項1に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項3】
前記特殊回路は、少なくとも一つの抵抗を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項4】
前記特殊回路は、少なくとも一つの誘導子を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項5】
前記音響装置は、駒及び皮を有する二胡、中胡または高胡であることを特徴とする請求項1に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項6】
前記圧電材料は、前記駒及び前記皮の間に設けられることを特徴とする請求項5に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項7】
前記圧電材料、前記電極及び前記特殊回路は、前記駒に統合され、または前記駒の一部になることを特徴とする請求項5に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項8】
前記音響装置は、ブリッジ及び少なくとも一つの表板を有する弦楽器であることを特徴とする請求項1に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項9】
前記圧電材料は、前記表板に接触することを特徴とする請求項10に記載のウルフトーンエリミネーター。
【請求項10】
前記圧電材料、前記電極及び前記特殊回路は、前記ブリッジに統合され、または前記ブリッジの一部になることを特徴とする請求項10に記載のウルフトーンエリミネーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−95710(P2011−95710A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91836(P2010−91836)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(503378235)国立台湾科技大学 (32)
【Fターム(参考)】