説明

ウレタン変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂硬化物、ウレタン変性エポキシ樹脂の製造方法、及びウレタン変性エポキシ樹脂硬化物の製造方法

【課題】分子量の増大による増粘及び固形化を生ぜしめないとともに、ガラス転移温度(
Tg)の低下を生ぜしめることなく、耐熱性に優れたウレタン変性エポキシ樹脂及びその
硬化物を提供する。
【解決手段】ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹
脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、in-situでウ
レタン変性エポキシ樹脂を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂硬化物、ウレタン変性エポキシ樹脂の製造方法、及びウレタン変性エポキシ樹脂硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は多様な硬化剤が使用でき、多様な硬化物物性が引き出させるので、種々の用途に使用されている。特に、エポキシ樹脂の基本特性の1つである高性能の接着性を生かした分野は工業的に重要な位置を占めている。具体的には、電気絶縁材料(注型、含浸、積層板、封止材)やCFRPのような構造材料のマトリックスレジン、ハニカム構造向けシート状接着剤、構造用接着剤等を例示することができる。
【0003】
一方、非特許文献1には、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて両末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成後、エポキシ樹脂と混合し、ウレタンプレポリマー中の末端イソシアネート基とエポキシ樹脂中の水酸基とを反応させてウレタン変性エポキシ樹脂を製造することが開示されている。このようなウレタン変性エポキシ樹脂によれば、上述したエポキシ樹脂に対して、その引張せん断力を保持したまま、剥離強度を向上させることができる。
【0004】
しかしながら、上記ウレタン変性エポキシ樹脂は、ウレタンプレポリマーとエポキシ樹脂とを反応させて合成されるため、エポキシ樹脂の分子量が増大して、増粘もしくは固形化してしまうため、無溶剤での取り扱いは著しく困難となる。このため、一般的には有機溶剤に溶解し、ワニス化して使用される。そのため、エポキシ樹脂の用途である電気絶縁材料やCFRPのような構造材料のマトリックスレジン、ハニカム構造向けシート状接着剤、構造用接着剤等には不向きである。
【0005】
また、非特許文献2には、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂中でポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とをin-situ反応、すなわちビスフェノールA型エポキシ樹脂中でポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させ、ウレタン変性エポキシ樹脂を得ることが開示されている。
【0006】
しかしながら、このようにして得たウレタン変性エポキシ樹脂は、実際の使用に供する硬化物のガラス転移温度(Tg)が低下するという問題があり、耐熱性、信頼性が不十分であった。結果として、耐熱性が要求される上記構造材料等には適用できないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】時澤 誠, 若林 信克, 佐藤 正一; 日本接着学会誌, 28, [3], 86-91(1992)
【非特許文献2】杉木 友哉,山田 英介,稲垣 慎二;日本接着学会第46回年次大会講演要旨集,p91-92 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分子量の増大による増粘及び固形化を生ぜしめないとともに、ガラス転移温度(Tg)の低下を生ぜしめることなく、耐熱性に優れたウレタン変性エポキシ樹脂及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明は、ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、in-situで製造したことを特徴とする、ウレタン変性エポキシ樹脂に関する。
【0010】
また、本発明は、ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、in-situでウレタン変性エポキシ樹脂を製造した後、硬化させたことを特徴とする、ウレタン変性エポキシ樹脂硬化物に関する。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、ビスフェノールS型エポキシ樹脂中でポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させ、in-situでウレタン変性エポキシ樹脂、具体的にはウレタン変性ビスフェノールS型エポキシ樹脂を合成することによって、驚くべきことに前記ウレタン変性エポキシ樹脂の高粘度化による固形化及びその硬化物のガラス転移温度(Tg)の低下という問題を生ぜしめることなく、高い剥離強度および破壊靭性といったウレタン変性エポキシ樹脂固有の長所は損なわないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
なお、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ダイマー酸グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、ジグリシジルエポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等、多数の種類が存在する。
【0013】
したがって、上述したような非特許文献2に記載のビスフェノールA型エポキシ樹脂を、上述したような多数のエポキシ樹脂から選択し、本発明のビスフェノールS型エポキシ樹脂によって置換するのは困難である。また、上述のように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、その硬化物のガラス転移温度(Tg)が低下してしまうことから、同系列のビスフェノールS型エポキシ樹脂を用いた場合においても同様の現象が生じてしまうことが思料される。結果として、当業者において、非特許文献2に記載のビスフェノールA型エポキシ樹脂を、本発明で規定するビスフェノールS型エポキシ樹脂で置換するのは困難である。
【0014】
なお、本発明において、ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、in-situで製造することによってウレタン変性エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)が向上する理由については明確ではないが、以下のように考えることができる。
【0015】
以下の実施例でも説明するように、in-situウレタン変性ビスフェノールS型エポキシ樹脂硬化物の固体13C−NMRを測定し、157ppmに現れるウレタン結合(−NH−CO−O−)炭素に帰属するスペクトルから緩和時間Tを測定すると、緩和時間Tは、in-situウレタン変性量が増加するにしたがって長くなることを見いだした。Tは分子運動性の尺度であるので、Tが長くなると、分子運動性は低くなることを表している。したがって、in-situウレタン変性ビスフェノールS型エポキシ樹脂硬化物のウレタン結合の分子運動性は、ウレタン変性量の増大とともに低下することを示している。ポリウレタン中のウレタン結合は結晶性のハードセグメントなので、ウレタン変性量に比例して結晶性も増大し、そのことがウレタン結合の分子運動性を低下させてガラス転移温度(Tg)が増大したものと考えている。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、分子量の増大による増粘及び固形化を生ぜしめないとともに、ガラス転移温度(Tg)の低下を生ぜしめることなく、耐熱性に優れたウレタン変性エポキシ樹脂及びその硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】破壊靭性を評価するためのコンパクトテンション型の試料形状を示す外観図である。
【図2】曲げ強度および曲げ弾性率を評価する際の試料形状、及び評価態様の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明のウレタン変性エポキシ樹脂及びその硬化物は、ビスフェノールS型エポキシ樹脂を骨格に含むことが必要である。このビスフェノールS型エポキシ樹脂は、この樹脂中で以下に説明するポリオール化合物及びイソシアネート化合物を反応させ、in-situで目的とするウレタン変性エポキシ樹脂を製造することができれば特に限定されるものではない。しかしながら、好ましくは、常温で液状であることが好ましく、かかる観点からエポキシ当量が300(g/eq)以下であることが好ましい。
【0020】
このような液状のビスフェノールS型エポキシ樹脂を用いることによって、以下に説明するように無溶媒下でポリオール化合物及びイソシアネート化合物を反応させることができ、別途溶媒を準備し、かかる溶媒の下で反応を行う必要がない。したがって、ウレタン変性エポキシ樹脂を合成する際の反応系を簡略化することができるとともに、反応に要する操作も簡略化することができる。また、目的とする上記ウレタン変性エポキシ樹脂が別途に準備した溶媒の影響を受けないので、高い剥離強度および破壊靭性を維持したまま、耐熱性等をより向上させることができるようになる。
【0021】
なお、エポキシ当量の下限値は特に限定されるものではないが、165(g/eq)であることが好ましい。エポキシ当量の下限値が165(g/eq)よりも小さいと、最終的に得たウレタン変性エポキシ樹脂及びその硬化物の分子量が十分でなく、その耐熱性のみならず、剥離強度および破壊靭性等の、ウレタン変性エポキシ樹脂本来の特性が劣化してしまう。
【0022】
上述のように、ビスフェノールS型エポキシ樹脂が常温で液体であるものを用いることにより、以下に説明するように、目的とするウレタン変性エポキシ樹脂を、無溶媒の下に、in-situで製造することができる。なお、ここでいう常温とは、例えば室温を意味し、具体的には約25℃を意味する。
【0023】
また、上記ウレタン変性エポキシ樹脂を合成するために、上記ビスフェノールS型エポキシ樹脂と反応させるポリオール化合物は、エポキシ樹脂との相溶性に優れるものが好ましく、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールやビスフェノールA等の多価フェノールにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを開環重付加させたポリエーテルポリオール類、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールにヒマシ油をエステル結合させたヒマシ油ポリオール、1,3-ペンタンジオール等の多価アルコールとアジピン酸等の多価カルボン酸を重縮合させたポリエステルポリオール類、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂にジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンを付加したエポキシポリオール、オレイルアルコール2量体等のダイマーアルコール、水酸基含有液状ポリブタジエン等の水酸基含有エラストマー、1,4-ブタンジオール等の多価アルコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールのアジピン酸エステル、などが挙げられる。
【0024】
分子量グレードの豊富さや低価格性などの観点から、エチレングリコールにプロピレンオキサイドを重付加したポリエーテルポリオールや1,4-ブタンジオール等の多価アルコールを用いることが好ましい。
【0025】
また、上記ウレタン変性エポキシ樹脂を合成するために、上記ビスフェノールS型エポキシ樹脂と反応させるポリイソシアネートも、エポキシ樹脂との相溶性に優れるものが好ましく、例えば、トルエンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、各種ポリオールとMDIとを反応させて得られるウレタンプレポリマー類(ポリオール変性MDI)等を挙げることができるが、低分子量で増粘性がなく低価格などの観点からMDIが好ましい。
【0026】
なお、上記ウレタン変性エポキシ樹脂及びその硬化物には、必要に応じて、炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン等の無機フィラーを増量材、補強材として使用できる。
【0027】
上記ウレタン変性エポキシ樹脂は、例えば以下のようにして製造することができる。最初に、ビスフェノールS型エポキシ樹脂を準備し、この樹脂中にポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を添加し、攪拌しながら80℃〜100℃に加熱するとともに数時間保持することによって、目的とするウレタン変性エポキシ樹脂を得る。この際、上記ビスフェノールS型エポキシ樹脂が液状である場合は、無溶媒下で上記反応を行うことができるが、上記ビスフェノールS型エポキシ樹脂が固体である場合は、トルエン等適用な溶媒を用いる。
【0028】
但し、液状のビスフェノールS型エポキシ樹脂を用い、無溶媒下で反応を行うことによって、上述したように、別途溶媒を準備し、かかる溶媒の下で反応を行う必要がない。したがって、ウレタン変性エポキシ樹脂を合成する際の反応系を簡略化することができるとともに、反応に要する操作も簡略化することができる。また、目的とする上記ウレタン変性エポキシ樹脂が別途に準備した溶媒の影響を受けないので、高い剥離強度および破壊靭性を維持したまま、耐熱性等をより向上させることができるようになる。
【0029】
上記合成の過程においては、必要に応じて鎖長延長剤や触媒等を用いることができる。この触媒は、ウレタン結合の生成を十分に完結させる目的のために使用するものである。
【0030】
なお、得られたウレタン変性エポキシ樹脂を硬化させるに際しては、例えば80℃〜160℃の温度に加熱し、数時間保持することによって実施することができる。その他、アミノ系の硬化剤等を用いて硬化させることもできる。アミノ系硬化剤としては、ポリアルキレンポリアミン、アミノエチルピペラジン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ポリオキシアルキレンジアミンの他、これらアミンとモノマー酸やダイマー酸との反応物や、変性ポリアミン等を例示することができる。さらには、必要に応じて、イミダゾール化合物等、汎用の硬化促進剤を用いることもできる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。実施例中に示した特性の評価方法は、次の通りである。
【0032】
(1)ガラス転移温度(Tg) [℃]:周波数1 Hz、昇温速度5 ℃/分の条件下で動的粘弾性測定装置を用いて測定した硬化物の温度分散損失正接曲線のピーク温度から導出した。
【0033】
(2)破壊靭性 [MN/m2/3]:試験片形状は、得られた硬化物を図1に示すようなコンパクトテンション型とした。なお、プレクラックは剃刀を用いて導入した。測定は、引張り試験機を使用し、室温下、クロスヘッドスピード0.5 mm/分で、プレクラックの両側を引張ることによって測定し、式(1)より破壊靭性値KICを算出した。
KIC=(Pc/ca1/2)×F・・・式(1)
F={(2+b/a)×(0.866+4.64b2/a2+14.72b3/a3-5.6b4/a4)}/(1-b/a)3/2
Pc:荷重[kgf]
c:試験片の厚さ[mm]
【0034】
(3)T型ピール強度およびせん断強度:T型ピール強度測定は、JIS K 6854、せん断強度測定は、JIS K 6850に各々準拠して行った。被着体には、一昼夜トルエンに浸して十分脱脂したスチール鋼板(SPCC)を前記JIS記載の形状に加工したもの用いた。この被着体に、以下に示すような方法で合成したウレタン変性エポキシ樹脂組成物を塗布し、0.2 mmのスペーサーを接着後、以下に示すような硬化反応を行って試験片を調製した。測定は、引張り試験機を使用し、室温下、クロスヘッドスピードは、T型ピール強度の場合は50 mm/分、せん断強度の場合は5 mm/分で各々行った。
【0035】
(4)曲げ強度および曲げ弾性率:試験片には、図2に示すような板状の硬化物を使用した。測定は引張り試験機を使用し、室温下、クロスヘッドスピード1 mm/分で曲げ弾性治具に対し荷重を加えることにより実施した。また、支点間距離は30 mmとした。曲げ強度は、荷重-時間曲線より最大値の荷重Pcを用いて式(2)より算出した。曲げ弾性率は、荷重-時間曲線の初期の傾きmを用いて式(3)より算出した。
σfb=(3PcLν/2Wh2)×9.80665・・・式(2)
σfb:曲げ強さ [MPa]
Pc:曲げ応力の最大値 [kgf]
Lv:支点間距離 [mm]
W:試験片の幅 [mm]
h:試験片の厚み [mm]
Ef=(Lν3/4Wh)×m×9.80665×10-3・・・式(3)
Ef:曲げ弾性率 [GPa]
Lv:支点間距離 [mm]
W:試験片の幅 [mm]
m:荷重-時間曲線の傾き
【0036】
(5)粘度:以下に示すような方法で合成したウレタン変性エポキシ樹脂組成物を 60 ℃で2時間貯蔵した後の粘度をB型粘度計で測定した。
【0037】
(6)固体13C−NMRによるウレタン結合炭素の緩和時間T:硬化物をニッパーで細かな粒状に切断し、直径6mm、長さ21mmのジルコニア製試料管に封入した。これを、固体NMR装置(日本電子(株)製JNN−ECA400)にセットし、回転数9kHzで回転させて、室温にて13C(観測周波数100.5MHz)−NMR測定を行った。Torchia法を用いて、157ppmに表れるウレタン結合炭素の緩和時間Tを測定した。
【0038】
(合成例)
窒素ガス導入管、乾燥管、攪拌機を備えた1000mlの四つ口セパラブルフラスコに、エポキシ当量201 g/eqのビスフェノールS型液状エポキシ樹脂(東都化成(株)製TX-0710(以下、BPSEpと略記))の207.2 g、ポリオールとして水酸基価55.4 mgKOH/gの2官能ポリエーテルポリオール((株)ADEKA製P-2000(以下、PPG2000と略記))の48.01 gを各々仕込み、80 ℃で2時間攪拌した後、ポリイソシアネートとして市販試薬のMDIを11.9 g加え、さらに2時間攪拌し、両末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーを合成した。次に、鎖長延長剤として市販試薬の1,4-ブタンジオール(以下、BDと略記)を2.2 g、および触媒として市販試薬のジラウリル酸ジ-n-ブチル錫(以下、DBTDLと略記)のテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)20倍希釈溶液を0.1 g加えた後、温度を100 ℃に上げ、イソシアネート基(以下、NCO基と略記)の吸収スペクトルが消失するのを、赤外吸収スペクトルを測定することによって確認し、in-situウレタン変性BPSEpの合成を完了した。
【0039】
このときのPPG2000/MDI/BDのモル比は、1/2/1であり、ウレタン変性率は、BPSEp 100 重量部に対し、30 重量部であった。この変性率30重量部のウレタン変性BPSEpは、以下、in-situウレタン変性BPSEp(30phr)と略記する。
【0040】
次に、上記で合成したin-situウレタン変性BPSEp(30phr)の52 gおよび78 gを採取した後、各々にBPSEpを80 gおよび30 g加えて攪拌、希釈することで、in-situウレタン変性BPSEp(10phr)およびin-situウレタン変性BPSEp(20phr)を調製した。
【0041】
(実施例1〜3および比較例1)
合成例1で合成したin-situウレタン変性BPSEp(10phr)、in-situウレタン変性BPSEp(20phr)及びin-situウレタン変性BPSEp(30phr)に硬化剤として3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン(アルベマール日本(株)製エタキュアー100(以下、DETDAと略記))、硬化促進剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製キュアゾール2E4MZ(以下、2E4MZと略記))を各々、第1表記載の組成で配合後、ラモンドスターラーを用いて60℃で5分間以上攪拌した後、60℃で30分間以上真空脱泡を行った。
【0042】
次に、120℃に予熱しておいた前記特性試験(1)、(2)、(4)用の金型に第1表の各樹脂組成物を流し込み、加熱油圧プレス機を用いて硬化反応を行い脱型して各試験片を得た。
【0043】
続いて、前記特性試験(3)用の2枚の被着体鋼の各々に第1表の各樹脂組成物を塗布して貼り合わせた後、クリップで固定し加熱硬化反応を行った。硬化条件は、いずれも80℃/2h+120℃/2h+160℃/1h+180℃/1hとした。
【0044】
【表1】

【0045】
in-situウレタン変性していない比較例1をブランクとして比較すると、in-situウレタン変性量が増大するにつれ、Tg、T型ピール強度は共に向上した。破壊靭性もin-situウレタン変性BPSEp(10phr)を用いた実施例1では向上し、実施例2及び3では低下したが許容範囲内であった。従って、Tgを低下させずにピール強度および破壊靭性を向上させる、という所期の目的を達成することができた。また、60℃-2時間後の粘度も実施例1では比較例1に比べ上昇したものの、許容範囲内であった。
【0046】
実施例における、固体13C−NMRで測定したウレタン結合炭素の緩和時間T1は、変性量とともに増大したことから、ウレタン結合炭素の分子運動性はウレタン変性量に逆比例して低下したことがわかり、分子運動性の低下がガラス転移温度(Tg)の増大を裏付けた。この分子運動性低下は、結晶性のウレタン結合が増大したことに起因すると考えている。
【0047】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、in-situで製造したことを特徴とする、ウレタン変性エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が300(g/eq)であって、常温で液状であることを特徴とする、請求項1に記載のウレタン変性エポキシ樹脂。
【請求項3】
前記ポリオール化合物は、ポリエーテルポリオール及び1,4-ブタンジオールの少なくとも一方であり、前記ポリイソシアネート化合物は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のウレタン変性エポキシ樹脂。
【請求項4】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、in-situでウレタン変性エポキシ樹脂を製造した後、硬化させたことを特徴とする、ウレタン変性エポキシ樹脂硬化物。
【請求項5】
前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が300(g/eq)であって、常温で液状であることを特徴とする、請求項4に記載のウレタン変性エポキシ樹脂硬化物。
【請求項6】
前記ポリオール化合物は、ポリエーテルポリオール及び1,4-ブタンジオールの少なくとも一方であり、前記ポリイソシアネート化合物は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートであることを特徴とする、請求項4又は5に記載のウレタン変性エポキシ樹脂硬化物。
【請求項7】
固体13C−NMRで測定したウレタン結合炭素の緩和時間T1が、20秒以上であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一に記載のウレタン変性エポキシ樹脂硬化物。
【請求項8】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、ウレタン変性エポキシ樹脂をin-situで製造することを特徴とする、ウレタン変性エポキシ樹脂の製造方法。
【請求項9】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂中で、前記ビスフェノールS型エポキシ樹脂に対して、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、ウレタン変性エポキシ樹脂をin-situで製造した後、硬化することを特徴とする、ウレタン変性エポキシ樹脂硬化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229381(P2010−229381A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137502(P2009−137502)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(304000836)学校法人 名古屋電気学園 (22)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】