説明

ウレタン樹脂塗料、その塗装方法、及びその塗装物

【課題】 1種類の塗料で下塗り、中塗り、上塗り機能を有し、1工程の塗装で厳しい環境に適用可能な半光沢の高膜厚塗膜を形成できるウレタン樹脂塗料、その塗装方法、及びその塗装物を提供する。
【解決手段】 塗装物の金属材料1に対して、所定の化学的処理や機械的前処理を実施し、塗装を行うのに適した表面状態にしてから、アクリル樹脂ワニス35〜40重量%、ポリエステル樹脂ワニス3〜7重量%、シリカ系防錆顔料0.5〜2重量%、着色顔料、添加剤、溶剤を含有する主剤と、イソシアネート樹脂ワニスを含有する硬化剤と、シリカ系艶消し剤を含有するフラットベースから構成されるウレタン樹脂塗料で60〜300μmの厚さのウレタン樹脂塗膜2を形成させて塗装物を塗装する。これにより、1種類の塗料を用いた1工程の塗装で厳しい環境に適用可能な半光沢の高膜厚塗膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厳しい環境条件に適用する半光沢のウレタン樹脂塗料、その塗装方法、及びその塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗装物の金属部分の厳しい環境条件に適用する1回塗り高防錆艶有り、すなわち、JIS K 5600 60°鏡面光沢測定におけるグロス70以上のウレタン樹脂塗装方法としては、特許願2003−159854号(防錆塗料およびその塗装物)に示されている方法を出願中である。この出願中の手法で、膜厚60〜300μmに対し、所望の半光沢、すなわち、JIS K 5600 60°鏡面光沢測定におけるグロス30〜60(一般的には40±10)で実施しようとする場合は、光沢を下げる艶消し剤としては体質顔料も兼ねる炭酸カルシウム、硫酸バリウムで調整を実施していたが、グロス10〜80と大きくばらつきを生じていた。
【0003】
このため、同種材料での塗装ではあるが、上塗りの膜厚を40〜80μm程度になるように下塗り塗膜形成し、硬化後に上塗り塗膜を形成していた。このように下塗り−硬化−上塗りのプロセスを実施しなければ半光沢対応ができず、硬化工程無しの1回塗装での60〜300μm対応ができなかった。
【0004】
また、1種類の塗料で下塗り、中塗り、上塗り機能を備え、1工程の塗装で厚い塗膜を形成できる塗装物の塗装方法として、変性ポリオール樹脂47〜57重量%、ポリエステル樹脂、防錆顔料2〜6重量%を含有する主剤と、イソシアネート樹脂を含有する硬化剤とを含有したウレタン樹脂塗料で10〜150μmの厚さのウレタン樹脂塗膜を形成させる塗装方法が特許文献1に示されている。しかし、この特許文献1に示されている手法でも、半光沢にしようとすると、下塗り−半硬化−上塗りのプロセスを実施しなければならず、作業性がかなり落ちることとなるという問題点があった。
【特許文献1】特開2004−189862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、塗装物の金属部分の塗装は、高防錆に重点をおいた半光沢ウレタン樹脂塗装において、適用膜厚範囲を広範囲(60〜300μm)にすると1回の塗装プロセスでのウレタン樹脂塗装は困難であった。
【0006】
本発明は、1種類の塗料で下塗り、中塗り、上塗り機能を有し、1工程の塗装で厳しい環境に適用可能な半光沢の高膜厚塗膜を形成できるウレタン樹脂塗料、その塗装方法、及びその塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るウレタン樹脂塗料は、アクリル樹脂ワニス35〜40重量%、ポリエステル樹脂ワニス3〜7重量%、シリカ系防錆顔料0.5〜2重量%、着色顔料、添加剤、溶剤を含有する主剤と、イソシアネート樹脂ワニスを含有する硬化剤と、シリカ系艶消し剤を含有するフラットベースから構成されることを特徴とする。
【0008】
ここで、主剤とフラットベースと硬化剤とを、主剤:フラットベース:硬化剤=8:2.4〜3.2:1.3〜1.4(重量比)で混合したものとすることもできる。
【0009】
また、本発明に係る塗装方法は、このようなウレタン樹脂塗料を塗装物の金属部材に塗装することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る塗装物は、ウレタン樹脂塗料を金属部材に塗装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高防錆力及び美観を必要とする塗装において1回の塗装で厚膜形成可能なウレタン樹脂塗料で塗装を行うことができるので、工数、作業時間を削減し作業性を向上させることができる。また、環境配慮型塗装系であり、6価クロムや鉛化合物等の有害金属を含まずに高防錆力機能を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗装方法により塗装した塗装物の構成を示す断面図である。
【0014】
本実施形態においては、酸洗鋼板やSPCC材といった金属材料1に対して、塗装に適した表面状態にするため、リン酸亜鉛被膜といった化学的処理やサンドブラスト処理といった機械的前処理を実施し、塗装を行うのに適した表面状態にしてからウレタン樹脂塗料を用いて塗装を行い、ウレタン樹脂塗膜2を60〜300μmの厚さで形成する。
【0015】
本実施形態において用いるウレタン樹脂塗料の成分を図2に示す。
【0016】
ウレタン樹脂塗料は、ベース樹脂としてアクリル樹脂を用いることにより、ウレタン樹脂に要求される色及び光沢の安定は基より、これらの安定性が厳しい環境下においても高レベルで保持することができる。防錆顔料としてはシリカ系のものを適用しているが、この防錆機構は、金属表面のアルカリ性領域に混合酸化物層を形成することにより、保護層として作用するものである。また、体質顔料や防錆顔料着色顔料が混合されている主剤に艶消し剤を同時に混合せずにフラットベースのクリアにシリカ系の艶消し剤を分散することにより、分散状態の均一化が図られ広範囲の膜厚に対しても安定した光沢が得られることになる。
【0017】
上記のウレタン樹脂塗料で以下のような試験を行った。
【0018】
1. 膜厚に対する光沢の変動
膜厚を変化させたときの、膜厚に対する光沢の変動は次のとおりである。
【0019】
膜厚(μm) 50〜100〜150〜200〜250〜300〜350
光沢(グロス) 30〜 35〜 40〜 45〜 50〜 55〜 60
膜厚60〜250μmにおいてはグロス40±10に入る。
【0020】
2.初期塗膜物性試験
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目又はクロスカット+粘着テープ)50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
(3)耐衝撃性:JIS K5600耐衝撃試験(デュポン式)60〜100μm、100〜150μm。
【0021】
3.耐久性試験
3−1塩水噴霧試験:JIS Z2371 塩水噴霧試験2000時間実施後の外観および2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目又はクロスカット+粘着テープ)50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
(3)耐衝撃性:JIS K5600耐衝撃試験(デュポン式)60〜100μm、100〜150μm。
【0022】
3−2耐湿試験:JIS K5600耐湿試験(結露発生50℃、98%RH)2000時間実施後の外観及び2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5400 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目又はクロスカット+粘着テープ)50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
(3)耐衝撃性:JIS K5400耐衝撃試験(デュポン式)60〜100μm、100〜150μm。
【0023】
3−3亜硫酸ガス試験:20ppm、40℃、90%RH、2000時間実施後の外観及び2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目又はクロスカット+粘着テープ)50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
(3)耐衝撃性:JIS K5600耐衝撃試験(デュポン式)60〜100μm、100〜150μm。
【0024】
3−4塩素ガス試験:1ppm、40℃、90%RH、2000時間実施後の外観及び2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目又はクロスカット+粘着テープ)50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
(3)耐衝撃性:JIS K5400耐衝撃試験(デュポン式)60〜100μm、100〜150μm。
【0025】
3−5耐候試験:JIS K5600促進耐候性(サンシャインカーボンアーク灯式)1000時間実施後の外観及び2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目又はクロスカット+粘着テープ)50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
(3)耐衝撃性:JIS K5600耐衝撃試験(デュポン式)60〜100μm、100〜150μm。
【0026】
これらの試験結果を図3、及び図4に示す。
【0027】
図3、及び図4に示す結果から、本実施形態におけるウレタン樹脂塗料により、防錆力および美観の両方の機能を有する高品質な塗膜が得られることがわかる。このことは、厳しい腐食環境下においても安定した品質の塗膜を得ることができることを示すものである。
【0028】
以上説明したように、本実施形態におけるウレタン樹脂塗料は、1種類の塗料で下塗り、中塗り、上塗り機能を有し、1工程の塗装で厳しい環境に適用可能な半光沢の高膜厚塗膜を形成できるものである。
【0029】
本実施形態は、制御盤・配電盤に適用される金属材料である鋼板やSPCC材部品に対して適用することができるし、また、車両を構成する鋼板、SPCC材、アルミ材及びステンレス材にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗装方法により塗装した塗装物の構成を示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態において用いるウレタン樹脂塗料の成分を示す表図。
【図3】本発明の一実施形態における塗装物の初期物性試験結果を示す表図。
【図4】本発明の一実施形態における塗装物の耐久試験結果を示す表図。
【符号の説明】
【0031】
1…金属材料
2…ウレタン樹脂塗膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂ワニス35〜40重量%、ポリエステル樹脂ワニス3〜7重量%、シリカ系防錆顔料0.5〜2重量%、着色顔料、添加剤、溶剤を含有する主剤と、イソシアネート樹脂ワニスを含有する硬化剤と、シリカ系艶消し剤を含有するフラットベースから構成されることを特徴とするウレタン樹脂塗料。
【請求項2】
アクリル樹脂ワニス35〜40重量%、ポリエステル樹脂ワニス3〜7重量%、シリカ系防錆顔料0.5〜2重量%、着色顔料、添加剤、溶剤を含有する主剤と、イソシアネート樹脂ワニスを含有する硬化剤と、シリカ系艶消し剤を含有するフラットベースから構成され、主剤:フラットベース:硬化剤=8:2.4〜3.2:1.3〜1.4(重量比)で混合することを特徴とするウレタン樹脂塗料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のウレタン樹脂塗料を塗装物の金属部材に塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のウレタン樹脂塗料を金属部材に塗装したことを特徴とする塗装物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−111686(P2006−111686A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298733(P2004−298733)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】