説明

エアフィルタろ材およびその製造装置

【課題】 繊維径が1μm以下の超極細繊維シートを、合成繊維あるいはグラスファイバーで構成されたフィルタ基材の上に剥離しないように積層して固定させたエアフィルタろ材を折り畳むことによりフィルタを製作する際に、超極細繊維効果を遺憾なく発揮させ、高性能で品質上安定したフィルタを低コストで製作することが課題であった。
【解決手段】 本発明の解決手段は電界紡糸発生部、基材供給部、融着部材供給部、カバー材供給部、加熱・乾燥部、巻き取り部、揮発性溶媒除去装置とから構成したエアフィルタろ材の製造装置によりエアフィルタろ材を製造するようにしたもので、特にフィルタ基材と超極細繊維シートと融着部材およびカバー材の4つの組み合わせからなるエアフィルタろ材を、電界紡糸発生装置と揮発性溶媒除去装置の間で空気を循環させてエネルギーロスを低減させながら連続生産することにより低コストで提供しょうとしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電界紡糸法により製造された超極細繊維シートをフィルタ基材に組み込んだエアフィルタろ材およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体分野、バイオケミカル分野などのクリーンルームや一般空調などに使用される一般的なエアフィルタは捕集効率を高め、目詰まりの減少あるいは長寿命化を計るためエアフィルタろ材に種々工夫が試みられている。
【0003】
そこで、近年超極細繊維の製造方法が開発され、超極細繊維の集合体からなるシートは、従来の繊維からなるシートに比べて比表面積が高く、均一で小さい空孔径を有していることがわかり、超極細繊維を利用したフィルタろ材が開発されるようになってきた。
【0004】
その1つとして、超極細繊維シートを損傷せずに製品化するために超極細繊維シートをフィルタ基材に組み込むことが考えられている。しかし超極細繊維シートをフィルタ基材に低コストで連続的に組み込む手法が難しく最適な製法が強く望まれている。
【0005】
一方、超極細繊維をフィルタろ材として使用するために、電界紡糸法が採用されている。この電界紡糸法は、超極細繊維となりうるポリマー材を揮発性溶媒で溶解した紡糸溶液をノズルから押し出すとともに電界を作用させて繊維化し、フィルタ基材などの積層体上に超極細繊維シートとして形成される方法である。この時、揮発性溶媒は揮発するが、高濃度になると爆発の危険性があったり、外気に飛散すると環境を汚染してしまうためスクラバー等を経由して外気に放出されていた。
【0006】
ここで、電界紡糸法では装置内の温湿度をある一定の範囲に設定する必要があるが、上記の方法では折角一定温湿度にコントロールされた空気は廃棄されるためエネルギーコストのロスの問題が懸念されていた。
【発明の概要】

【発明が解決しょうとする課題】
【0007】
そこで本発明はこれらの課題を解決しょうとしたもので本発明の第1の目的は電界紡糸法により製造された超極細繊維シートをフィルタ基材に組み込んだ際に生じる従来の不利益を解決しようとしたものである。
【0008】
本発明の第2の目的は電界紡糸法により製造された超極細繊維シートをフィルタ基材に組み込んで、低い圧力損失でありながら高効率のエアフィルタろ材を提供しようとしたものである。
【0009】
本発明の第3の目的は揮発性溶媒による環境の汚染を防止すると共に装置内温湿度調整に係るエネルギーコストを低減しようとしたものである。
【0010】
本発明の第4の目的はフィルタろ材を安価に製造しようとしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の解決手段は、フィルタろ材をフィルタ基材と超極細繊維シートと融着繊維シートとカバー材の4つの組み合わせから構成したことを特徴としたものである。
【0012】
本発明の第2の解決手段は、フィルタろ材の製造装置を電界紡糸発生装置、基材供給部、融着部材供給部、カバー材供給部、加熱・乾燥部、巻き取り部、揮発性溶媒除去装置とから構成したことを特徴としたものである。
【0013】
本発明の第3の解決手段は、揮発性溶媒除去装置には揮発性溶媒を吸着除去する機能を持った吸着剤が内蔵されていることを特徴としたものである。
【0014】
本発明の第4の解決手段は、揮発性溶媒除去装置に空気調和装置を接続したことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第5の解決手段は揮発性溶媒除去装置と電界紡糸発生装置を循環空気ダクトにて接続したことを特徴とするものである。
【0016】
ここで、フィルタ基材は目付40〜100g/mの合成繊維あるいはグラスファイバーから構成されている。
【0017】
また、カバー材は目付20〜100g/mの合成繊維あるいはグラスファイバーから構成されている。
【0018】
さらに、極細繊維シートは電界紡糸により形成したもので、具体的にはノズルから供給した紡糸溶液に対して電界を作用させることにより、延伸して繊維化し、分散した状態でフィルタ基材の表面に吹き付けて極細繊維シートにしたものである。
【0019】
そして、この紡糸溶液はポリマー材を溶解させた溶液である。ポリマー材は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリルニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレン、アラミド、ポリエーテルサルフオン、ポリプロピレンなどが使用される。また紡糸溶液の溶媒は、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどの揮発性溶媒が使用される。しかしポリマー材も揮発性溶媒も上記例に限定される事なく種々のものが使用される。
【0020】
融着部材には加熱により接着の効果を持つ部材、例えば融着繊維シート等が使用される。融着繊維シートはポリアミド、ポリエステル、ポリオレフイン、特殊オレフイン、ポリウレタン、アラミドなどの熱接着シートが使用される。また融着繊維シートに代えてホットメルトパウダー等の融着部材を使用しても何ら本発明の要旨を変更するものではない。
【0021】
次に、電界紡糸発生装置はボックス形状となっており、内部にポリマー材を揮発性溶媒で溶解した紡糸溶液を噴射するノズルが配置されている。ノズル前方の上部と下部に対向して切り欠を設け、その間隙にフィルタ基材が通過するように形成されている。電界紡糸発生装置には給気接続口と排気接続口が形成されている。
【0022】
基材供給部、カバー材供給部はフィルタ基材とカバー材をそれぞれの紙管に巻き取ったものである。
【0023】
融着部材供給部は、融着繊維シート等のシート形状の場合はシートを紙管に巻き取ったものである。またホットメルトパウダー等の融着部材の場合は定量供給装置等を用いて均一に分散させるようにしたものである。
【0024】
巻き取り部はフィルタ基材とカバー材および融着部材を巻き取る機能を備えている。
【0025】
加熱・乾燥部はボックス形状となっており、内部にヒータを備え両側面に入口開口部と出口開口部を形成している。また加熱・乾燥部は加熱ロール等を用いても何ら本発明の要旨を変更するものではない。
【0026】
揮発性溶媒除去装置は内部に揮発性溶媒を吸着除去する機能を持った吸着剤、例えば活性炭フィルタ及びブロワが内蔵されている。揮発性溶媒除去装置には空気調和装置が接続され、また一部の空気を外部へ排気できるようになっている。
【0027】
上記課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、電界紡糸発生装置のノズルから紡糸溶液を噴射する際に、揮発性溶媒除去装置のブロワおよび巻き取り部を駆動する。これにより噴射された紡糸溶液は超極細繊維化されフィルタ基材に連続的に積層されて超極細繊維シートとして形成される。次に超極細繊維シートを積層したフィルタ基材は融着部材、カバー材と重ね合わさり加熱・乾燥部内に入り、融着部材の熱溶融によって、超極細繊維シート、フィルタ基材、カバー材が一体に合体され、エアフィルタろ材として巻き取り部に巻き取られる。
【0028】
このとき、電界紡糸発生装置から排気された空気は、排気接続口に接続された循環空気ダクトを通って揮発性溶媒除去装置に入り、揮発性溶媒除去装置に設置した吸着材にて揮発性溶媒が除去される。そして揮発性溶媒が除去された空気は、空気調和装置から送られた一定温湿度に維持された少量の空気と混合され、電界紡糸発生装置の給気接続口より温湿度が調整された空気として電界紡糸発生装置に供給される。このように揮発性溶媒が除去された空気は再利用されることから、エネルギーコストの低減がはかられる。なお、空気調和装置から取り入れた空気と同等量を外部へ排気し、循環空気の入れ換えを行うこともできる。
【0029】
そして、前記エアフィルタろ材は所定寸法に切断された後ジグザグ状に折り畳んでひだ折り加工され、ろ材間に適宜材質のセパレータまたはビード接着剤を挟み込んで四方形枠に気密に取り付け、エアフィルタとして利用される。
【0030】
なお、前記エアフィルタろ材はフィルタ基材と超極細繊維シートのみの組合せ、またはフィルタ基材と超極細繊維シートと融着部材の組合せ、フィルタ基材と超極細繊維シートとカバー材の組合せとしても何ら本発明の要旨を変更するものではない。
【発明の効果】
【0031】
本発明に基づいて作られたエアフィルタろ材をエアフィルタとして用いた時に得られる効果および本発明に基づく製造装置を用いた時に得られる効果は次のようになる。
(1)電界紡糸法により製造された超極細繊維シートをフィルタろ材に組み込んだので、超極細繊維シートにより効率的に細かな粒子を精度よく捕集することができ、低い圧力損失でありながら高効率のフィルタろ材を提供できる。
(2)フィルタろ材の寿命が延びることから、取り替え費の低減が計れる。
(3)圧力損失の極端な増加を抑えることができることから、ファンなど駆動運転の省エネ化を計ることができる。
(4)フィルタろ材は各層を一体化して1枚のシートにしたので、フィルタろ材を中高性能フィルタ、準HEPAフィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタとして組み立てる際、超極細繊維シートの割れ、折れ山不良などのトラブルを起こすことがない。
(5)揮発性溶媒を含む循環空気は揮発性溶媒除去装置を経由して再利用されるシステムとなっているので、温湿度調整された空気生成のためのエネルギーコストを低減できる。
(6)本発明のフィルタろ材の製造装置は、超極細繊維を積層したフィルタろ材を連続的に生産でき、エネルギーコストを低減できるので、フィルタろ材を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のエアフィルタろ材の製造装置を示す概略図。
【図2】本発明のエアフィルタろ材を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係るフィルタろ材およびその製造装置について図1および2に基づいて説明する。
【実施例】
図1はフィルタろ材の製造装置の全体構成図である。1はフィルタ基材供給部であり、このフィルタ基材供給部1にはシート状のフィルタ基材2がロール状に巻回されて回転自在に支持されている。そしてフィルタ基材2はフィルタ基材供給部1から繰り出されるようになっている。
【0034】
3は電界紡糸発生装置、内部にポリマー材を揮発性溶媒で溶解した紡糸溶液を噴射するノズル4が配置されている。ノズル4前方の上部と下部に対向して切り欠5、6を設け、その間隙にフィルタ基材2が通過するように形成されている。電界紡糸発生装置の底部には給気接続口7が、側部には排気接続口8が形成されている。
【0035】
9はカバー材供給部でカバー材10がロール状に巻回されて回転自在に支持されている。
【0036】
11は融着部材供給部で本例では融着繊維シート12がロール状に巻回されて回転自在に支持されている。
【0037】
13は巻き取り部でフィルタ基材2とカバー材10および融着繊維シート12を巻き取る機能を備えている。
【0038】
14は加熱・乾燥部で、内部にヒータを備え両側面にシート入口開口部と出口開口部を形成している。
【0039】
15は揮発性溶媒除去装置で内部に揮発性溶媒を吸着除去する機能を備えた吸着材、本例では活性炭フィルタ16とブロワ17が内蔵され、装置15には給気ダクト18と循環空気ダクト19と調和空気ダクト20の各一端が接続されている。調和空気ダクト20の末端には空気調和装置21が取り付けられている。また給気ダクト18から排気ダクト22が分岐して接続されている。
【0040】
給気ダクト18の他端は電界紡糸発生装置3の給気接続口7に接続されている。また、循環空気ダクト19の他端は電界紡糸発生装置3の排気接続口8に接続され、電界紡糸発生装置と揮発性溶媒除去装置の間で空気が循環できるようになっている。
【0041】
23は給気ダクト18と調和空気ダクト20と排気ダクト21に取り付けられた風量調整用ダンパーである。
【0042】
次に前記フィルタろ材の製造装置を使用したフィルタろ材の製造方法について説明する。
【0043】
まず、揮発性溶媒除去装置15のブロワ17を起動し、電界紡糸発生装置3と揮発性溶媒除去装置15の間で空気を循環させる。このとき、空気調和装置21も起動させ、調和空気ダクト20を通して揮発性溶媒除去装置15に導入し、電界紡糸法で必要な装置内の温湿度条件となるように、循環空気の温湿度条件を調整する。
【0044】
次に、電界紡糸発生装置3のノズル4から紡糸溶液の噴射を開始し、巻き取り部13を駆動する。これによりフィルタ基材2が電界紡糸発生装置3の切り欠5を通過するようになると共に噴射された紡糸溶液は超極細繊維化されフィルタ基材2に連続的に積層されて超極細繊維シート24として形成される。
【0045】
次に超極細繊維シートを積層したフィルタ基材2は融着繊維シート12およびカバー材10と重ね合わさり、加熱・乾燥部内に入り融着繊維シート12の熱溶融によって、フィルタ基材2、超極細繊維シート24、カバー材10が一体に合体され、エアフィルタろ材25として巻き取り部13にて巻き取られる。
【0046】
そして、前記製造方法により製作されたエアフィルタろ材25は所定幅寸法に切断された後ジグザグ状に折り畳んでひだ折り加工され、ろ材間に適宜材質のセパレータまたはビード接着剤を挟み込んで四方形枠に気密に取り付け、中高性能フィルタ、準HEPAフィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタが形成される。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態そのままに限定されるものでなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、また前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
空調用フィルタを扱っている業界においては、低い圧力損失で且つ高い捕集効率および長寿命の性能を持ったフィルタを従来から追い求めている。しかしこれらの性能は相反する性能を持ったものであることなどからなかなか理想とするものが生まれてこなかった。そこで近年繊維業界の技術開発により、超極細繊維などが開発されてきたのをきっかけにフィルタ業界でも理想の性能をもった空調用フィルタの開発が注目されている。しかし、超極細繊維を生成する際に必要な温湿度条件を維持しつつ連続的に生産することが難しく、コストが高いことが問題となっていた。そこで本発明はこれらの問題を解決し、その超極細繊維効果を遺憾無く発揮し低圧力損失で高捕集率・長寿命の性能を持ったエアフィルタろ材およびその製造装置を提供しようとしたもので本発明は産業上極めて利用価値の高いものである。
【符号の説明】
【0049】
1・・・フィルタ基材供給部 2・・・フィルタ基材
3・・・電界紡糸発生装置 4・・・ノズル 5、6・・・切り欠
7・・・給気接続口 8・・・排気接続口 9・・・カバー材供給部
10・・・カバー材 11・・・融着部材供給部
12・・・融着繊維シート 13・・・巻き取り部
14・・・加熱・乾燥部 15・・・揮発性溶媒除去装置
16・・・活性炭フィルタ 17・・・ブロワ 18・・・給気ダクト
19・・・循環空気ダクト 20・・・調和空気ダクト
21・・・空気調和装置 22・・・排気ダクト
23・・・風量調整用ダンパー 24・・・超極細繊維シート
25・・・エアフィルタろ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ基材と超極細繊維シートと融着部材およびカバー材の4つの組み合わせから構成したことを特徴としたエアフィルタろ材。
【請求項2】
電界紡糸発生装置、基材供給部、融着部材供給部、カバー材供給部、加熱・乾燥部、巻き取り部、揮発性溶媒除去装置とから構成したことを特徴としたエアフィルタろ材の製造装置。
【請求項3】
揮発性溶媒除去装置には揮発性溶媒を吸着除去する機能を持った吸着剤が内蔵されていることを特徴とした請求項2のエアフィルタろ材の製造装置。
【請求項4】
揮発性溶媒除去装置に空気調和装置を接続したことを特徴とした請求項2のエアフィルタろ材の製造装置。
【請求項5】
揮発性溶媒除去装置と電界紡糸発生装置を循環空気ダクトにて接続したことを特徴とした請求項2のエアフィルタろ材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−580(P2011−580A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160202(P2009−160202)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(390040888)日本エアー・フィルター株式会社 (45)
【Fターム(参考)】