説明

エアフィルタ用濾材

【課題】
低圧力損失・高捕集効率であり、かつ、孔径分布のバラツキが小さく均一であり、実用上必要とされる十分な強度を有しているエアフィルタ用濾材を提供することである。
【解決手段】
この課題は、濾材を構成するガラス繊維として、蛍光X線分析を用いてファンダメンタルパラメータ法によって測定したガラス繊維中に存在するマグネシウムとカルシウムとの質量和と、珪素の質量との比率((Mg+Ca)/Si)の値が0.10以下である、平均繊維径が1μm未満のサブミクロンガラス繊維を含有させ、かつ、濾材を構成するガラス繊維にバインダーとフッ素系界面活性剤とを付着させることによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルタ用濾材、特に、半導体、液晶、ナノテクノロジー、バイオ、食品、製薬、医療などの分野で用いるクリーンルームやクリーンベンチ、ビル空調用エアフィルタ、空気清浄機用途などに使用するエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン又はミクロン単位の粒子を効率的に捕集するためには、エアフィルタの捕集技術が用いられている。エアフィルタは、その対象とする粒子径や捕集効率の違いによって、粗塵用フィルタ、中性能フィルタ、準高性能フィルタ、高性能フィルタ(HEPAフィルタ、ULPAフィルタ)などに大別される。このうち、主にクリーンルーム用途などで使用される高性能フィルタとしては、ガラス繊維湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材が広く用いられている。このエアフィルタ用濾材を構成するガラス繊維としては、一般的に、平均繊維径が0.数μmから1μm未満までのガラス繊維(以下、サブミクロンガラス繊維と称する。)、及び、平均繊維径が1μmから数十μm程度までのガラス繊維(以下、ミクロンガラス繊維と称する。)が用いられている。
【0003】
エアフィルタ用濾材の主要な要求特性としては、捕集効率の他に、濾材の通気抵抗を示す圧力損失がある。濾材の捕集効率を上昇させるためには、大きな表面積を有する細径のサブミクロンガラス繊維の配合を増やす必要があるが、同時に濾材の圧力損失も上昇する。高い圧力損失は、吸気ファンの運転負荷を高め、電力消費量の上昇を引き起こすことから、省エネルギーとランニングコスト低減の両方の観点から好ましくない。そのため、低圧力損失と高捕集効率を兼ね備えたエアフィルタ用濾材が要求されている。エアフィルタ用濾材の低圧力損失・高捕集効率のレベルの指標値として、数1の式によって定義するPF値がある。このPF値が高いことは、エアフィルタ用濾材が低圧力損失・高捕集効率であることを示している。なお、透過率[%]=100−捕集効率[%]である。
【数1】

【0004】
エアフィルタの低圧力損失・高捕集効率化の課題に対して、ガラス繊維スラリーを酸性で調製した後、ヘッドボックスにおいてpH調整剤を添加することによってpHを約6〜9にして抄紙する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかし、この方法の実施例においては、濾材の製造時にバインダーが使用されていないことから、ここで得られた濾材は、実使用に必要とされる十分な強度を有していないことが容易に推定される。一方、本発明者らは、ガラス繊維スラリーを調製する際の離解条件を制御することによって繊維の破壊を防ぎ、スラリーの沈降容積を450cm/g以上とする方法について提案している(例えば、特許文献2を参照。)。しかし、この方法においても、バインダー使用時においては、ノーバインダー時に比べてPF値の低下が見られている。
【0005】
エアフィルタ用濾材を構成するガラス繊維は、自己接着力をほとんど有していないため、エアフィルタユニットとして加工したり、実際に通風して使用する場合に必要とされる濾材強度を付与するためには、バインダーによってガラス繊維同士を接着させたりする必要がある。しかし、ガラス繊維にバインダーを付着させると、バインダー皮膜が濾材の細孔を目詰まりさせるために、圧力損失の上昇を引き起こしたり、ガラス繊維がバインダー皮膜中に埋没するために、捕集効率の低下を引き起こして、PF値の低下をもたらしたりする。そのため、高いPF値と十分な濾材強度とを両立させることは、実用的な濾材を製造するうえでの大きな課題となっている。
【0006】
この課題に対して、本発明者らは、濾材を構成するガラス繊維にバインダーと25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20dyne/cm以下であるフッ素系界面活性剤を付着させる方法(例えば、特許文献3を参照。)、濾材を構成するガラス繊維にバインダーとアセチレン系界面活性剤とを付着させる方法(例えば、特許文献4を参照。)、濾材を構成するガラス繊維にバインダーとエーテル型非イオン界面活性剤を付着させる方法(例えば、特許文献5を参照。)について提案しており、これらの方法を用いることによって、バインダー皮膜による細孔の目詰まりを防ぐことで、エアフィルタを低圧力損失・高捕集効率化できることを示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/094038号
【特許文献2】国際公開第2009/119054号
【特許文献3】特許第3874038号公報
【特許文献4】特開2003−71219号公報
【特許文献5】特開2006−167491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの方法を用いても、非常に高いレベルで低圧力損失・高捕集効率化したエアフィルタ用濾材、例えば、対象粒子径0.10〜0.15μm、面風速5.3cm/秒におけるPF値が11.0以上のガラス繊維エアフィルタ用濾材を安定して製造することは、非常に難しく、更なる改善が求められている。したがって、本発明の課題は、低圧力損失・高捕集効率であり、かつ、孔径分布のバラツキが小さく均一であり、実用上必要とされる十分な強度を有しているエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、濾材を構成するガラス繊維として、蛍光X線分析を用いてファンダメンタルパラメータ法によって測定したガラス繊維中に存在するマグネシウムとカルシウムとの質量和と、珪素の質量との比率((Mg+Ca)/Si)の値が0.10以下である、平均繊維径が1μm未満のサブミクロンガラス繊維を含有させ、かつ、濾材を構成するガラス繊維にバインダーとフッ素系界面活性剤とを付着させることによって解決される。また、濾材を構成するガラス繊維における酸化珪素(SiO)の含有量が50〜70質量%であり、更に、硼珪酸ガラス繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いることによって、実用上必要とされる十分な強度を有しつつ、かつ、孔径分布のバラツキが小さく均一であり、これまでになく高いレベルで低圧力損失・高捕集効率化された、ガラス繊維湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例及び比較例のPF値を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用するサブミクロンガラス繊維は、平均繊維径が1μm未満であるガラス繊維である。当該平均繊維径が1μm未満であるサブミクロンガラス繊維は、蛍光X線分析を用いてファンダメンタルパラメータ法によって測定したガラス繊維中に存在するマグネシウムとカルシウムとの質量和と、珪素の質量との比率(以下、「質量比率(Mg+Ca)/Si」という。)の値が0.10以下である繊維である。この範囲内に入るように特別に設計されたガラス繊維を使用しても、市販のガラス繊維の中からこの範囲内にあるものを選択して使用してもよい。ガラス繊維中における酸化珪素(SiO)の含有量は、40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%でよい。また、主には、硼珪酸ガラス繊維を選択することが好ましい。硼珪酸ガラス繊維であれば、濾剤の製造及び使用において必要とされる耐化学性及び耐熱性に優れているからである。硼珪酸ガラス繊維中における酸化珪素(SiO)の含有量は、40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%、更に好ましくは55〜65質量%である。また、酸化硼素(B)の含有量は、0.5〜40質量%、好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは7.5〜15質量%である。例えば、55〜65質量%の酸化珪素(SiO)を含み、8〜11質量%の酸化硼素(B)を含む硼珪酸ガラス繊維である。
【0013】
本発明において、サブミクロンガラス繊維の質量比率(Mg+Ca)/Siの値を低く抑えることで高いPF値が達成できる理由は、次のとおりと推定される。
【0014】
ガラス繊維湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材を構成する成分の中で、高い捕集効率を達成するために最も重要となる成分は、細径のサブミクロンガラス繊維である。気流とともに濾材中に進入したダスト粒子は、濾材中の繊維表面に付着することによって捕集される。そのため、ダスト粒子の通過を妨げる目の細かいネットワークを形成することが可能であり、かつ、ダスト粒子の衝突確率を高める大きな表面積を有しているサブミクロンガラス繊維が、捕集効率に対して大きく寄与する。このようなサブミクロンガラス繊維の効果を高めるためには、繊維の1本1本が、偏在することなく、濾材中に均一に配置されていることが重要である。
【0015】
湿式不織布の製造工程においては、ガラス繊維が水中に分散され、ガラス繊維スラリーが調製される。このときに、ガラス繊維の表面電荷は高い負電荷を示すが、サブミクロンガラス繊維の質量比率(Mg+Ca)/Siの値が大きくなると、表面電荷が上昇する(負電荷が弱まる。)ことを、本発明者らは見出した。これは、ガラス繊維の大部分を構成する酸化珪素(SiO)は負電荷を示し、一方、改質成分として添加されている酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)は正電荷を示すためであると考えられる。ガラス繊維の負電荷が弱まると、繊維間に働く反撥力が弱まるため、繊維の偏在を防いで均一に配置させるためには不利に働くものと考えられる。また、繊維表面に反対電荷が混在していると、繊維が凝集しやすくなるため、これも、繊維を均一に配置させるためには不利であると考えられる。以上の理由によって、サブミクロンガラス繊維の質量比率(Mg+Ca)/Siを低く抑えることは、サブミクロンガラス繊維の均一な配置をもたらすことによって、濾材の捕集効率を上昇させ、PF値を向上させるものと推定される。また、質量比率(Mg+Ca)/Siの下限値は、0.005以上、更には0.02以上でよい。
【0016】
本発明では、サブミクロンガラス繊維とともにミクロンガラス繊維が併用される。ミクロンガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上のガラス繊維でよいが、好ましくは1μm以上10μm未満のミクロンガラス繊維である。このミクロンガラス繊維は、サブミクロンガラス繊維のような組成上の制限は特にない。これは、ミクロンガラス繊維が、サブミクロンガラス繊維に比べて、エアフィルタ用濾材の捕集効率に対してほとんど影響を及ぼさないためである。ミクロンガラス繊維の繊維径、繊維長、繊維形態などは、エアフィルタ用濾材の圧力損失、強度、剛度などの物性に応じて、適宜選択される。さらに、サブミクロンガラス繊維の効果に影響を及ぼさない範囲であれば、副資材として、天然繊維、有機合成繊維などをガラス繊維中に配合してもよい。
【0017】
全ガラス繊維(サブミクロンガラス繊維+ミクロンガラス繊維)質量に対するサブミクロンガラス繊維の配合量は、目標とする圧力損失・捕集効率などの物性に応じて適宜調整されるが、好ましくは10〜100%であり、より好ましくは30〜95%であり、更に好ましくは40〜85%である。サブミクロンガラス繊維の配合量が10%よりも少ないと、サブミクロンガラス繊維のPF値に対する効果が得られにくい。また、サブミクロンガラス繊維の配合量を100%としてもPF値に対する効果は得られるが、製造時における配合量調整による物性の制御を容易するためには、配合量の設計値を95%以下とすることがより好ましい。
【0018】
本発明で使用するバインダーは、ガラス繊維を接着し実用上必要な引張強さを付与でき、かつ、水又は溶剤に溶解又は分散できる物質であれば、特に限定されない。このような物質としては、例えば、アクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸エステル樹脂、エチレン−アクリル酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用するフッ素系界面活性剤は、分子中のフルオロアルキル基からなる疎水基と、親水基を含有するものである。例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。バインダーとフッ素系界面活性剤とその他の添加剤とを含有する液(以下、バインダー液と称する。)中における、フッ素系界面活性剤の添加量は、バインダーに対する固形分質量比率で0.1〜5%であり、好ましくは0.5〜3%である。フッ素系界面活性剤の添加量が対バインダーで0.1%よりも少ないと、PF値向上の効果が十分に得られない。また、フッ素系界面活性剤の添加量が5%を超えると、添加量増加に見合うだけのPF値上昇の効果が得られないばかりでなく、濾材の引張強さの低下や、撥水処理をしている場合には撥水性の低下などの問題を引き起こす。
【0020】
本発明においては、バインダーとともにフッ素系界面活性剤も、濾材を構成する必須成分である。前述したとおり、質量比率(Mg+Ca)/Siを低く抑えたサブミクロンガラス繊維を用いた湿式不織布から、PF値の高い濾材を得ることができるが、ここでバインダーを付着させると、質量比率(Mg+Ca)/Siによる効果がほとんど消失してしまう。しかし、ここでバインダーとともにフッ素系界面活性剤を付着させると、質量比率(Mg+Ca)/Siによる効果が再び発現されることを、本発明者らは見出した。この理由としては、濾材を構成するガラス繊維にバインダーを付着させると、水掻き状のバインダー皮膜中にサブミクロンガラス繊維が埋没してしまい、その効果が発揮されなくなるが、ここにフッ素系界面活性剤を添加すると、バインダー液の表面張力が低下することによって、水掻き状のバインダー皮膜が減少し、サブミクロンガラス繊維の効果が再び発現されるためであることが推定される。また、バインダー液の表面張力の低下によって、バインダー液が乾燥固化する際に繊維同士を引き寄せる力を弱めることになり、その結果として均一な繊維の配置の変化を抑えることができることも推定される。
【0021】
本発明で使用するバインダー及びフッ素系界面活性剤は、バインダー液の状態で同時に付与されるが、このバインダー液には、エアフィルタ用濾材に必要とされる物性に応じて、撥水剤、架橋剤、難燃剤などの添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜添加することができる。特に、エアフィルタ用濾材のほとんどの用途においては、ある程度以上の撥水性が必要とされているため、ほとんどの場合において撥水剤が用いられる。撥水剤としては、例えば、フッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤、ワックス系撥水剤、アルキルケテンダイマーなどが挙げられる。撥水剤などの添加剤の添加量は、バインダーに対する固形分質量比率で0〜40%であり、好ましくは1〜30%である。より好ましくは、2〜25%である。
【0022】
バインダー液に含有したバインダーとフッ素系界面活性剤とその他添加剤(以下、バインダー組成物と称する。)との固形分付着量は、全濾材質量に対して1〜15%であり、好ましくは2〜10%、より好ましくは3〜8%である。付着量が1%未満であると、実用上必要とされる引張強さを得ることが難しい。また、付着量が15%を超えると、濾材の空隙を埋めるために圧力損失が上昇し、PF値が低下する。
【0023】
本発明のエアフィルタ用濾材は、湿式抄紙法によって製造する。ここではまず、ガラス繊維を水中に分散し、次いで、得られたガラス繊維スラリーをワイヤー上に積層し、脱水することによって抄紙(シート化)する。このときに用いる抄紙機は、特に限定されないが、できる限り均一に抄紙できるものが選定される。また、分散及び抄紙に用いられる水は、繊維の分散を均一にするために、酸を添加してpHが約2〜4に調整することが好ましい。
【0024】
湿式抄紙したシートにバインダー液を付与する方法としては、含浸、ロール塗工、スプレー塗工、カーテン塗工などの方法が用いられる。バインダー皮膜による濾材の目詰まりを防ぐために、余分に付与されたバインダー液は、負圧吸引などによって除去することが好ましい。その後、バインダー液を付与した湿潤状態のシートは、熱風乾燥機、ロータリードライヤーなどを用いて乾燥して、最終的なエアフィルタ用濾材が得られる。
【0025】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
蛍光X線分析を用いて測定した質量比率(Mg+Ca)/Siの値が0.076である平均繊維径約0.65μmの硼珪酸ガラスからなるサブミクロンガラス繊維(酸化珪素含有量58質量%)65質量%、平均繊維径約2.70μmのミクロンガラス繊維(B−26−R、ラウシャ社製)35質量%に、固形分濃度0.5質量%となるように硫酸酸性pH2.5の水道水を加え、パルパーを用いて離解してガラス繊維スラリーを得た。次に、得られたスラリーを、手抄筒を用いて抄紙して湿紙を得た。次に、アクリル系樹脂バインダー(ボンコートAN−1190、DIC(株)製)とフッ素系界面活性剤(フタージェント110、(株)ネオス製)とフッ素系撥水剤(NKガードS−02、日華化学(株)製)とを固形分質量比率が100/1/5となるように配合したバインダー液を、湿紙に対して含浸付与し、その後130℃の熱風乾燥機で乾燥して、坪量70g/m、全濾材質量に対するバインダー組成物固形分付着量が5.5質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【実施例2】
【0027】
蛍光X線分析を用いて測定した質量比率(Mg+Ca)/Siの値が0.099である平均繊維径約0.65μmの硼珪酸ガラスからなるサブミクロンガラス繊維(酸化珪素含有量58質量%)65質量%、平均繊維径約2.70μmのミクロンガラス繊維(B−26−R、ラウシャ社製)35質量%に、固形分濃度0.5質量%となるように硫酸酸性pH2.5の水道水を加え、パルパーを用いて離解してガラス繊維スラリーを得た。これ以降、実施例1と同じ方法によって、坪量70g/m、バインダー組成物固形分付着量が5.4質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【0028】
[比較例1]
蛍光X線分析を用いて測定した質量比率(Mg+Ca)/Siの値が0.168である平均繊維径約0.65μmのサブミクロンガラス繊維(B−06−F、ラウシャ社製)65質量%、平均繊維径約2.70μmのミクロンガラス繊維(B−26−R、ラウシャ社製)35質量%に、固形分濃度0.5質量%となるように硫酸酸性pH2.5の水道水を加え、パルパーを用いて離解してガラス繊維スラリーを得た。これ以降、実施例1と同じ方法によって、坪量70g/m、バインダー組成物固形分付着量が5.5質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【0029】
[比較例2]
実施例1と同じ方法で得たガラス繊維スラリーと、アクリル系樹脂バインダー(ボンコートAN−1190、DIC(株)製)とフッ素系撥水剤(NKガードS−02、日華化学(株)製)とを固形分質量比率が100/5となるように配合したバインダー液を用いて、実施例1と同じ方法によって、坪量70g/m、バインダー組成物固形分付着量が5.4質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【0030】
[比較例3]
実施例2と同じ方法で得たガラス繊維スラリーと、アクリル系樹脂バインダー(ボンコートAN−1190、DIC(株)製)とフッ素系撥水剤(NKガードS−02、日華化学(株)製)とを固形分質量比率が100/5となるように配合したバインダー液を用いて、実施例1と同じ方法によって、坪量70g/m、バインダー組成物固形分付着量が5.6質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【0031】
[比較例4]
比較例1と同じ方法で得たガラス繊維スラリーと、アクリル系樹脂バインダー(ボンコートAN−1190、DIC(株)製)とフッ素系撥水剤(NKガードS−02、日華化学(株)製)とを固形分質量比率が100/5となるように配合したバインダー液を用いて、実施例1と同じ方法によって、坪量70g/m、バインダー組成物固形分付着量が5.5質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【0032】
[比較例5]
実施例1と同じ方法で得たガラス繊維スラリーを、手抄筒を用いて抄紙して得た湿紙を、バインダー含浸付与せずにそのまま130℃の熱風乾燥機で乾燥して、坪量70g/m、ノーバインダーのエアフィルタ用濾材を得た。
【0033】
[比較例6]
実施例2と同じ方法で得たガラス繊維スラリーを、手抄筒を用いて抄紙して得た湿紙を、バインダー含浸付与せずにそのまま130℃の熱風乾燥機で乾燥して、坪量70g/m、ノーバインダーのエアフィルタ用濾材を得た。
【0034】
[比較例7]
比較例1と同じ方法で得たガラス繊維スラリーを、手抄筒を用いて抄紙して得た湿紙を、バインダー含浸付与せずにそのまま130℃の熱風乾燥機で乾燥して、坪量70g/m、ノーバインダーのエアフィルタ用濾材を得た。
【0035】
実施例及び比較例において得た濾材の評価は、次に示す方法を用いて行った。
【0036】
サブミクロンガラス繊維中に存在する、質量比率(Mg+Ca)/Siの値は、離解前のサブミクロンガラス繊維について、蛍光X線分析計(SEA2210A、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いて、ファンダメンタルパラメータ法によって、マグネシウム、カルシウム及び珪素の存在量(質量%)を測定し、その測定値から計算して求めた。
【0037】
サブミクロンガラス繊維のゼータ電位は、サブミクロンガラス繊維に、固形分濃度0.5質量%となるように硫酸酸性pH2.5の水道水を加え、パルパーを用いて離解して得たガラス繊維スラリーについて、流動電位法によるゼータ電位計(SZP06、ミューテック社製)を用いて測定した。
【0038】
圧力損失は、有効面積100cmの濾材に、空気が面風速5.3cm/秒で通過するときの差圧としてマノメーターを用いて測定した。
【0039】
透過率(粒子透過率ともいう。)は、有効面積100cmの濾材に、ラスキンノズルで発生させた多分散フタル酸ジオクチル(DOP)粒子を含む空気が面風速5.3cm/秒で通過するときの上流及び下流のDOP粒子個数を、レーザーパーティクルカウンター(KC−18、リオン(株)製)を用いて測定し、その個数値から計算して求めた。なお、対象粒子径は、0.10〜0.15μmとした。
【0040】
PF値は、圧力損失及び粒子透過率の値から、数1に示す式を用いて計算した。なお、対象粒子径は、0.10〜0.15μmとした。
【0041】
引張強さは、JIS P 8113:2006「紙及び板紙−引張特性の試験方法−第2部:低速伸張法」に準拠して、引張試験機(ストログラフM1、(株)東洋精機製作所製)を用いて測定した。
【0042】
撥水性は、MIL−STD−282に準拠して、自製の撥水性試験機を用いて測定した。
【0043】
平均孔径及び最大孔径は、多孔質材料自動細孔径測定装置(パームポロメーター、PMI社製)を用いて測定し、比率(最大孔径/平均孔径)の値を計算して求めた。なお、試験液は、フロリナートFC−40(住友スリーエム(株)製)を用いた。
【0044】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示した。また、PF値比較のグラフを図1に示した。
【0045】
ゼータ電位を見ると、質量比率(Mg+Ca)/Siの値が小さいサブミクロンガラス繊維ほど、ゼータ電位の値が低く(負の絶対値が大きく)、すなわち、繊維間に働く反撥力がより大きいことを示している。
【0046】
PF値を見ると、ノーバインダー濾材(比較例5〜7)の場合は、質量比率(Mg+Ca)/Siの値が0.10以下においてPF値が高いが、バインダーと撥水剤とを付着させた濾材(比較例2〜4)の場合は、PF値はほぼ同じになり、質量比率(Mg+Ca)/Siの効果は消失している。しかし、ここにフッ素系界面活性剤を付着させた濾材(実施例1、2及び比較例1)の場合は、再び、質量比率(Mg+Ca)/Siの値が0.10以下において高いPF値となっており、更に、フッ素系界面活性剤を付着させたことによるPF値の上昇の度合も大きい。これらのデータから、サブミクロンガラス繊維の質量比率(Mg+Ca)/Siの値を少なくとも0.10以下に抑えることによって、本発明の意図するPF値に対する効果が、十分に得られることが明らかである。
【0047】
比率(最大孔径/平均孔径)の値は、濾材の孔径分布の均一さを示しており、この値が小さいほど、孔径分布のバラツキが小さく均一であることを示している。質量比率(Mg+Ca)/Siの値が小さくなるほど、比率(最大孔径/平均孔径)の値が小さく、孔径分布がより均一であることを示しており、このことは、サブミクロンガラス繊維の濾材中における配置がより均一であることを示唆している。
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材を構成するガラス繊維として、蛍光X線分析を用いてファンダメンタルパラメータ法によって測定したガラス繊維中に存在するマグネシウムとカルシウムとの質量和と、珪素の質量との比率((Mg+Ca)/Si)の値が0.10以下である、平均繊維径が1μm未満のサブミクロンガラス繊維を含み、かつ、濾材を構成するガラス繊維にバインダーとフッ素系界面活性剤とを付着させたことを特徴とする、エアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記濾材を構成するガラス繊維における酸化珪素(SiO)の含有量が50〜70質量%である、請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記濾材を構成するガラス繊維が硼珪酸ガラス繊維である、請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記濾材の最大孔径と平均孔径との比率(最大孔径/平均孔径)の値が2.4以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
対象粒子径0.10〜0.15μm、面風速5.3cm/秒における、数1の式によって定義するPF値が11.0以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【数1】


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−240311(P2011−240311A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117255(P2010−117255)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】