説明

エアレイド不織布製造用複合繊維及び高密度エアレイド不織布の製造方法

【課題】熱処理前は平面ジグザグ捲縮形状であって、エアレイドでの加工性および生産性が高く、均一なウェブが得られ、ウェブを熱処理すると繊維がスパイラル捲縮を発現して、ウェブを高度に収縮させることができ、よって繊維が高密度に集積した不織布を得ることができる、エアレイド不織布製造用複合繊維を提供する。
【解決手段】オレフィン系熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した熱融着性複合繊維であって、繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であり、単糸繊度が1〜10dtex、繊維長が3〜20mmであり、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮を有し、エアレイド法で得られたウェブを145℃で熱処理した際のウェブ収縮率が40%以上である、エアレイド不織布製造用複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度で、かつ目付の大きいエアレイド不織布を得ることができる複合繊維に関する。本発明はさらに詳しくは、熱処理前は、平面捲縮である、いわゆるジグザグ捲縮のみを有していて、エアレイドでの加工性と生産性に優れている複合繊維であって、それを用いて製造したエアレイドウェブを熱処理した際には、潜在捲縮が顕在化してスパイラル捲縮を発現することで高度にウェブを収縮させることができ、よって高密度で目付が大きいエアレイド不織布が得られる複合繊維に関する。
本発明はさらに、そのような複合繊維を用いた高密度エアレイド不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理時の収縮率の差を利用してスパイラル捲縮を顕在化させる潜在捲縮性複合繊維が、例えば伸縮性不織布や高クッション性不織布、液体吸収体不織布などとして使用されている。これらは主にカードプロセスでウェブ化され、その後の熱処理によってスパイラル捲縮を発現させ、ウェブを収縮させて不織布化される。よって、該不織布において、繊維はウェブの状態に比べて高密度化し、かつスパイラル捲縮によって繊維間が絡み合った状態となり、これら特性が優れた伸縮性やクッション性、液体吸排出特性をもたらす。
しかし、カードプロセスで得られた不織布は、機械方向と幅方向での繊維の配列の仕方が異なり、物性の等方性に欠けるという欠点があった。特許文献1には、潜在捲縮性複合繊維をカードプロセスでウェブ化し、ウォーターニードル法などで繊維間を絡合させた後に熱処理してスパイラル捲縮を顕在化させることで、弾性回復率が大きい不織布が得られることが報告されている。しかし、この不織布は、繊維が機械方向に配列しているために、機械方向の強度や弾性回復率は優れるものの、幅方向の強度や弾性回復率は著しく低いものであった。
【0003】
特に、液体吸収体不織布では、繊維密度が適度に高いことが重要となる。一般的に、高密度の不織布を得るには、低密度である不織布を高温のカレンダーロールで圧密処理したり、捲縮を付与していないストレート繊維を抄紙法で不織布化したりして得られる。しかしながら、これら不織布の場合には繊維間が過度に密着して熱融着されており、不織布が硬く、また繊維間の孔径が十分ではなく、液体の吸排出には不適となる場合が多かった。
一方、前述の潜在捲縮性複合繊維からなるウェブを熱処理してスパイラル捲縮を顕在化させ、ウェブを収縮させて得られた不織布は、液体の吸排出に適した、やや高い繊維密度を有しており、また、スパイラル捲縮が形成する空隙の孔径が良好な液体吸排出特性をもたらすようで、好適に用いられる。ただし、カードプロセスでは自ずと目付に限界があり、例えば500g/m2以上の高目付の液体吸収体不織布を、高い生産性で安定的に得ることはできなかった。また、カードプロセスで得られたウェブでは、少なからず繊維の自由度に分布があり、自由度の高い部分はより収縮して高密度になり、逆に自由度の低い部分はあまり収縮しないので低密度であるといったように、偏ってウェブが収縮して不均一な地合の不織布になりがちであった。この問題を解決するためには、特許文献1に記載のように、ウェブを熱処理して繊維にスパイラル捲縮を発現させる前に、ウォーターニードル法などの方法で繊維交絡を形成させる必要性があり、これによって、著しく操業性と生産性が低くなっていた。
【0004】
前記した物性の異方性や、高目付品への対応の問題を改善するためには、機械方向と幅方向での繊維配列の差が小さく、かつ容易に高目付不織布が得られる、エアレイドプロセスが有効である。しかし、一般的に潜在捲縮性複合繊維は、エアレイドでの加工性や生産性が極めて低いという問題があった。これは、潜在捲縮性複合繊維は、その断面形状に由来して、少なからず立体的な捲縮、もしくは平面的であっても湾曲した捲縮形状を有しているので嵩高く、繊維が開繊しやすく、開繊した繊維が絡まり合いやすいことに起因する。
特許文献2及び特許文献3には、熱処理前の状態ではジグザグもしくはΩ型の二次元捲縮である潜在捲縮性繊維を、エアレイドプロセスに適用し、ウェブ化の後に立体捲縮を発現させることで嵩高い不織布が得られることが報告されている。これら繊維の捲縮は、エアレイド加工性を改善するために、繊維の捲縮をジグザグもしくはΩ型の二次元捲縮としている。しかし、これら繊維は熱処理によって立体捲縮を発現するものの、その発現力は弱く、ウェブ自体を高い収縮率で収縮させるには至らなかった。よって、不織布の繊維密度は小さく、三次元等方性が十分でなく、十分な伸縮性やクッション性、液体吸収特性を示さなかった。また、繊維を構成する成分としてポリエステル系樹脂が使用されており、液体吸収体不織布として用いる際には、アルカリ性液体には不適であるなど、耐薬品性に劣るという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−127553号公報
【特許文献2】特開2003−166127号公報
【特許文献3】特開2003−171860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術において、潜在捲縮性複合繊維を用いて、伸縮性やクッション性、液体吸収体に優れた不織布を得ようとの試み、及び、潜在捲縮性繊維をエアレイドプロセスに適用しようという試み、エアレイドプロセスで機械方向と幅方向の物性差が小さく、高目付の不織布を得ようという試みが、それぞれなされているが、エアレイドでの加工性および生産性と、ウェブの収縮による繊維の高密度化を、同時に達成するには至らず、更なる改善が要求されていた。
よって、本発明の目的は、熱処理前は平面ジグザグ捲縮形状であって、エアレイドでの加工性および生産性が高く、均一なウェブが得られ、ウェブを熱処理すると繊維がスパイラル捲縮を発現して、ウェブを高度に収縮させることができ、よって繊維が高密度に集積した不織布を得ることができる、高密度エアレイド不織布製造用複合繊維を提供することである。
本発明の目的はまた、上記の複合繊維を用いた高密度エアレイド不織布を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、低融点のオレフィン系熱可塑性樹脂と、それよりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂を、繊維断面において、それぞれの成分の重心が互いに異なるように複合してなる複合繊維によって、エアレイドでの加工性および生産性に優れ、均一なエアレイドウェブが得られ、かつウェブを熱処理した際のスパイラル捲縮の発現性に優れるので、ウェブを高収縮率で収縮させて、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られることを見出した。特に、高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂として分子量分布(数平均分子量/重量平均分子量)が3.5以上のホモポリプロピレンを用いることで、一層優れた効果が達成されることを見出した。本発明者らはこれらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って本発明は、以下の構成を有する。
(1)オレフィン系熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した熱融着性複合繊維であって、繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であり、単糸繊度が1〜10dtex、繊維長が3〜20mmであり、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮を有し、エアレイド法で得られたウェブを145℃で熱処理した際のウェブ収縮率が40%以上である、エアレイド不織布製造用複合繊維。
(2)繊維断面において、複合の形態が半月状の第1成分と半月状の第2成分が張り合わされた並列型である、前記(1)に記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
(3)第1成分がポリプロピレン系共重合体であり、第2成分がホモポリプロピレンである前記(1)または(2)に記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
(4)第2成分のホモポリプロピレンの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が3.5以上である前記(3)に記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
(5)短繊維嵩高性が250cm3/2g以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
(6)エアレイド機でフォーミングした際の排出効率が80%以上であり、フォーミングして得られたウェブ中の欠点数が3個/m2以下である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
(7)オレフィン系熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した熱融着性複合繊維であって、繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であり、単糸繊度が1〜10dtex、繊維長が3〜20mmであり、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮を有し、その捲縮数が6〜14山/2.54cmである熱融着性複合繊維を、エアレイドプロセスにてウェブ化し、得られたウェブを熱処理することを含む、不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、その繊維断面の複合形状が、それぞれの成分の重心が互いに異なる形状であるにも関わらず、熱処理前の段階では、捲縮形状指数が1.05〜1.60の範囲である、完全な平面ジグザグ捲縮の状態であり、かつ捲縮数は14山/2.54cm以下であるので、繊維の嵩高性が小さい。よって、本発明の複合繊維は、エアレイドプロセスで加工する際の、繊維の開繊性や分散性、ドラムスクリーンやスクリーンメッシュからの排出性に優れ、高い生産性で良好な地合のウェブが得ることができる。
こうして得られたウェブを熱処理すると、該繊維はその断面形状と、各成分の熱収縮率差に起因して、スパイラル捲縮を発現し、見かけの繊維長が著しく小さくなる。このスパイラル捲縮発現によって、ウェブは高度に収縮して繊維が高密度に集積し、スパイラル捲縮によって繊維間が適度に絡み合うので、伸縮性やクッション性、液体吸排出特性に優れた高密度エアレイド不織布が得られる。
この高密度エアレイド不織布は、エアレイドプロセスで得られているので、例えば500g/m2以上といった高目付不織布を得ることも容易であり、また、機械方向と幅方向での繊維配列の差が極めて小さく、両方向での不織布物性の差が少ないという特徴を有する。更には、高目付で集積させたエアレイドウェブでは、ある角度で垂直方向に配列した繊維が少なからず存在するが、これらの垂直方向に配列した繊維は、熱処理によってウェブが収縮する際に水平方向の収縮力がぶつかり合う作用によって、自らもスパイラル捲縮を発現して収縮しながら、垂直方向に持ち上げられる。こうして、効果的に嵩高化が達成されると共に、不織布の厚み方向に対する伸縮性やクッション性が良好となり、不織布の機械方向と幅方向、厚み方向の、すなわち三次元方向に対して物性差が小さい高密度エアレイド不織布が得られる。これによって、該エアレイド不織布を、例えば液体吸収体として用いた場合には、三次元方向に対して液体の吸排出特性の差が小さいという特徴を見出すことができ、また、クッション材として用いた場合には、いずれの方向に対しても高い圧縮回復特性を有するという特徴を見出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、オレフィン系熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂からなる第2成分で構成される。
第1成分のオレフィン系樹脂は特に限定されるものではなく、ポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィン(エチレン、ブテン−1、オクテン、4−メチルペンテンなど)の共重合体であるポリプロピレン系共重合体、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、ポリメチルペンテンなどが例示できる。
また、第2成分のオレフィン系重合体も特に限定されるものではなく、前述の第1成分のオレフィン系樹脂として例示した樹脂を、同じく使用することができるが、第1成分のオレフィン系樹脂よりは高融点である必要がある。よって、第1成分/第2成分の組み合わせとしては、例えば高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、中密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン系共重合体/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン系重合体、ポリプロピレン系共重合体/ポリプロピレン系共重合体、ポリプロピレン系重合体/ポリメチルペンテンなどを例示することができる。上記例示した樹脂のうち、「ポリプロピレン系重合体」は、ポリプロピレンであっても、ポリプロピレン系共重合体であってもよい。
なお、第1成分及び第2成分として各々、オレフィン系熱可塑性樹脂を一種単独で使用してもよく、また、本発明の効果を妨げない範囲内で、二種以上を混合して使用しても何ら問題ない。更には、必要に応じて種々の性能を発揮させるための添加剤、例えば酸化防止剤や光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤などを適宜添加してもよい。
【0011】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、エアレイドプロセスでフォーミングされてウェブとなる。このウェブを145℃の循環オーブン中で5分間熱処理すると、該複合繊維はスパイラル捲縮を発現して見かけの繊維長さが小さくなり、ウェブは著しく収縮する。この際のウェブの収縮率は40%以上であり、より好ましくは50%以上である。ウェブ収縮率が40%以上であれば、ウェブは高度に収縮するので、繊維を高密度に集積させることができ、かつウェブの収縮によって、単位面積あたりの質量である目付が大きくなり、容易に高目付の高密度エアレイド不織布が得られる。ウェブ収縮率が50%以上であれば、前述の効果がより高いレベルで得られるので好ましい。本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維のウェブ収縮率が、求めるエアレイド不織布を得ようとするには大きすぎる場合には、ウェブの熱処理温度を低くしたり、熱処理時間を短くしたりして、対処可能である。つまり、ウェブ収縮率が大きい方が、エアレイドウェブの熱処理条件の幅が大きくなるので、145℃の循環オーブン中で5分間熱処理した際のウェブ収縮率の上限は特に制限されるものではなく、高ければ高い方が好適である。
ここでエアレイドウェブの収縮率は具体的には、機械方向×幅方向=25cm×25cmの大きさのエアレイドウェブをサンプルとして、145℃の循環オーブン中で5分間熱処理して、ウェブの機械方向と幅方向の各々の収縮率を測定し、それらを平均して求めることができる。
【0012】
エアレイドウェブの該収縮率を40%以上とするためには、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維の、第1成分の融点は、特に制限されるものではないが、80℃〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは120〜145℃の範囲である。一般的に、融点が低いオレフィン系熱可塑性樹脂は、表面摩擦が高い傾向があり、そのような樹脂が繊維表面に存在すると繊維摩擦が高くなり、繊維製造時の操業性を低下させたり、エアレイド加工性を低下させたりするが、第1成分の融点が80℃以上であれば、許容しうる繊維生産性とエアレイド加工性が得られ、融点が120℃以上であれば、十分な繊維生産性とエアレイド加工性が得られる。また、第1成分の融点が高い場合には、熱処理した際の収縮特性が低くなったり、収縮させるのに高温で熱処理する必要があったりするが、第1成分の融点が150℃以下であれば、満足しうる収縮特性が得られ、融点が145℃以下であれば、十分な収縮特性が得られる。
【0013】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維の、第2成分の融点は、特に制限されるものではないが、第1成分のオレフィン系樹脂の融点より高く、140〜200℃の範囲が好ましく、より好ましくは155〜170℃の範囲である。第2成分の融点が低い場合には、熱処理した際にへたって、硬い不織布になりがちであるが、第2成分の融点が140℃以上であれば、満足しうるレベルで熱へたりを抑制することができ、融点が155℃以上であれば、十分なレベルの嵩を維持することができる。また、第2成分の融点が高い場合には、熱処理した際の収縮特性が低くなったり、収縮させるのに高温で熱処理する必要があったりするが、第2成分の融点が200℃以下であれば、満足しうる収縮特性が得られ、融点が170℃以下であれば、十分な収縮特性が得られる。
更には、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維の、第1成分と第2成分の融点差は、特に制限されるものではないが、10℃以上であることが好ましく、より好ましくは20℃以上である。融点差が10℃以上であれば、熱処理による両者の収縮率の差を利用してスパイラル捲縮を発現させることができ、ウェブを高度に収縮させることができる。20℃以上であれば、よりスパイラル捲縮のピッチが小さくなり、更には捲縮の発現力を大きくすることができ、これによってウェブを高度に収縮できるようになる。
【0014】
エアレイドウェブの該収縮率を40%以上とするためには、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を構成するオレフィン系重合体の組み合わせは、前述したもののなかでも、特にポリプロピレン系共重合体/ポリプロピレン(ホモポリプロピレン)の組み合わせが好適である。この組み合わせの場合には、ピッチの小さいスパイラル捲縮を発現して見かけの繊維長さがより小さくなり、また、スパイラル捲縮の発現力が強い。よって、ウェブを熱処理した際に、強いスパイラル捲縮発現力によって、周囲の繊維を巻き込むように変形し、ウェブを高度に収縮させるのである。
また、前述したように、両成分の融点差を大きくした方が高度にウェブを収縮させることができるが、第1成分であるポリオレフィン系共重合体は、低融点であるほど樹脂表面の摩擦が高く、また樹脂同士が膠着しやすく、繊維化が難しくなる傾向である。したがって、第1成分がポリプロピレン系共重合体であり、第2成分がポリプロピレンである複合繊維の、両成分の融点差は、特に制限されるものではないが、10〜40℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。両成分の融点差が10℃以上であれば、スパイラル捲縮発現によってウェブを高度に収縮させることができるので好ましい。また、両者の融点差が40℃以下であれば、第1成分の摩擦が過度に大きくなったり、繊維間で膠着しやすくなったりせず、繊維化の際の操業性、生産性を損ねることがなくなるので好ましい。両者の融点差が20〜30℃の場合には、ウェブを収縮させる特性と、繊維化の際の操業性や生産性のバランスに優れるのでより好ましい。なお、このような融点差の範囲とするためには、適切な共重合組成のポリプロピレン系共重合体を選択すればよい。
【0015】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維からなる、エアレイドウェブの該収縮率を40%以上とするためには、該複合繊維の繊維断面において、第1成分の重心と第2成分の重心がお互いに異なる複合形態であることが重要である。各成分の重心がお互いに異なる複合形態である場合、該複合繊維を熱処理すると、両成分の収縮挙動の差に起因して、大きな収縮率を示す成分を内側に、小さい収縮率を示す成分を外側にして、立体的なスパイラル捲縮を発現するのである。そして、このスパイラル捲縮発現によって、周囲の繊維を巻き込むように、繊維の見かけ長さは著しく小さくなり、ウェブ自体も収縮するのである。このような複合形態としては並列型や偏心鞘芯型、分割型などが例示でき、それぞれ一般的な並列型ノズル、偏心鞘芯型ノズル、分割型ノズルを使用することで得ることができる。
なかでも並列型が、特に半月状の第1成分と半月状の第2成分が張り合わされた並列型が、スパイラル捲縮の発現性に優れるので好ましい。この半月状の第1成分と半月状の第2成分が張り合わされた並列型断面は、一般的な並列型ノズルを用い、かつノズルから吐出される際の、両成分のメルトフローレート(MFR)の差を小さくすることで得られる。
【0016】
ノズルから吐出される第1成分のMFRは、特に制限されるものではないが、好ましくはMFRが5〜100g/10minの範囲、より好ましくは10〜50g/10minの範囲である。また、ノズルから吐出される第2成分のMFRは、特に制限されるものではないが、好ましくはMFRが5〜100g/10minの範囲、より好ましくは10〜50g/10minの範囲である。第1成分、および第2成分のMFRが5g/10min以上であれば、紡糸張力が大きくなりすぎず、断糸の回数を少なくすることができる。第1成分、および第2成分のMFRが100g/10min以下であれば、紡糸張力が小さすぎて紡糸線が不安定になることがなくなり、操業性が向上する。MFRが10〜50g/10minの範囲であれば、特に断糸回数が小さく、良好な操業性が得られるので好適である。
そして、第1成分と第2成分のMFRの差を小さくすることが、熱処理によるスパイラル捲縮発現性が高い繊維断面複合形態とするためには好ましい。この第1成分と第2成分のMFRの差は特に限定されるものではないが、10g/10min以下であることが好ましく、より好ましくは5g/10min以下である。両成分のMFR差が10g/10min以下であれば、繊維断面は半月状の2成分が張り合わされた形状に近づき、5g/10min以下であれば、ほぼ完全に半月状の2成分が張り合わされた形状となる。この半月状の2成分が張り合わされた形状となった場合には、両成分の収縮率の差によるスパイラル捲縮の発現が最も顕著になり、該複合繊維で構成されるエアレイドウェブは、高度に収縮する。
【0017】
繊維断面における複合形態が前述のいずれかであれば、繊維断面形状は特に限定されるものではなく、円及び楕円の丸型、三角及び四角の角型、鍵型及び八葉型などの異型、または中空型のいずれをも用いることができる。
【0018】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維の、第1成分と第2成分の複合比は特に限定されるものではないが、第1成分/第2成分=75/25〜35/65(質量%)の範囲であることが好ましく、より好ましくは65/35〜45/55(質量%)の範囲である。低融点成分の比率が高い方が、熱処理した際のスパイラル捲縮発現性が優れる傾向にあり、かかる観点からは第1成分の比率は高い方が好ましい。一方、高融点成分の比率が高い方が、熱処理による繊維の熱へたりが小さくなる傾向にあり、かかる観点からは第2成分の比率は高い方が好ましい。第1成分/第2成分=75/25〜35/65(質量%)の範囲である場合には、熱処理によるスパイラル捲縮発現性と耐熱へたり特性をバランスよく両立でき、は65/35〜45/55(質量%)の範囲である場合には、より高レベルで両立することができる。
【0019】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は捲縮を有する。ここで、該捲縮は、エアレイドでの良好な加工性と高い生産性をもたらすために、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮の形態である。捲縮形状指数のより好ましい範囲は1.10〜1.50の範囲である。
ここで捲縮形状指数は、短繊維の像をデジタル顕微鏡に取り込み、該短繊維の実長と短繊維両末端間距離とを測定することにより、求めることができる。また、合わせて捲縮形状を肉眼で観察することができるが、その捲縮形状は、山谷部が湾曲したΩ型の捲縮形状や、スパイラル状の立体捲縮ではなくて、山谷部が鋭角である平面ジグザグ捲縮の形状が好適である。
本発明の複合繊維のように、繊維断面における各成分の重心がお互いに異なる複合形態である場合、延伸後の両成分の伸張回復率差や、クリンプ付与時、もしくは繊維熱処理、乾燥工程での加熱によって、捲縮形状に微妙な変化を生じ、スパイラルのような立体的な捲縮形状や、平面的であってもΩ型のような湾曲した捲縮形状になり、捲縮形状指数が大きい、丸まった形状になりやすい傾向がある。そして、繊維が立体的な捲縮形状や湾曲した捲縮形状を有する場合には、開繊した繊維同士が絡み合いやすく、これが毛玉状の欠点になったりして、加工性を低下させてしまう。また、開繊した繊維は捲縮形状に由来して嵩高いので、エアレイドのスクリーンメッシュからの繊維排出性が低く、生産性を低下させてしまう。
【0020】
捲縮形状指数が1.60以下の場合には、前述のような問題は生じにくく、満足できるエアレイド加工性が得られ、捲縮形状指数が1.50以下の場合には、十分なエアレイド加工性が得られる。一方、捲縮形状指数があまりに小さい場合には、短繊維はほとんど直線状であり、このような形状の繊維は、エアレイドプロセスの開繊工程において開繊しきれずに繊維束状のままで排出されやすく、多数の欠点を生じて加工性を低下させてしまう。捲縮形状指数が1.05以上であれば、エアレイドプロセスで満足しうるレベルまで開繊でき、捲縮形状指数が1.10以上であれば、十分なレベルまで開繊できる。
このように、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、捲縮形状指数が1.05〜1.60の範囲、より好ましくは1.10〜1.50の範囲である、平面ジグザグの捲縮形状として、繊維の開繊性を高め、繊維同士の絡まりを抑制し、開繊した繊維の嵩高性を低くする必要がある。
【0021】
本発明の、繊維断面における各成分の重心がお互いに異なる複合形態の複合繊維に、立体的な捲縮や湾曲した捲縮を発現させず、捲縮形状指数が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮のみを付与する方法は、特に限定されるものではない。このために、例えば、第2成分に分子量分布が比較的広いポリプロピレン(ホモポリプロピレン)を用いることが有効であり、重量平均分子量/数平均分子量の数値が3.5以上であることが好ましく、より好ましくは4.5以上である。
一般的にポリプロピレンの分子量分布は、GPC法(Gel Permeation Chromatography)で測定される。ゲル状の粒子を充填したカラムに高分子の希薄な溶液を流し、分子の大きさの違いによる流出時間の差を読み取ることで、分子量分布図が得られる。この分子量分布図から重量平均分子量や数平均分子量、粘度平均分子量などの数値が得られるが、重量平均分子量を数平均分子量で除した数値は分散比と呼ばれ、分子量分布の尺度として広く用いられている。重量平均分子量/数平均分子量が1に近い方が、分子量分布が狭いことを示す。
一般的に、繊維用のポリプロピレンは、他の用途、例えばフィルム用などに比べて高MFRである場合が多い。高MFRのポリプロピレンを得る方法としては、比較的分子量の小さいポリプロピレンを重合により製造する方法と、分子量が大きいポリプロピレンを重合により製造し、これを過酸化物変性して、MFRを高める方法、すなわち高MFR化する方法がある。この過酸化物変性によって高MFRのポリプロピレンを得るという方法を採用した場合、高分子鎖の切断による高MFR化は、分子鎖の長さに比例した確立で発生するので、得られた高MFRのポリプロピレンは、分子量分布が狭くなるという特徴があり、これによって紡糸性向上効果や延伸性向上効果が得られることから、過酸化物変性ポリプロピレンは、繊維用として広く使用されている。
【0022】
高融点成分である第2成分として、例えば、過酸化物変性によって得られた、重量平均分子量/数平均分子量の数値が3.0のポリプロピレンを用いた場合、該複合繊維を延伸した後に、押し込み式クリンパーに導入して平面ジグザグ捲縮を付与しようとしても、クリンパーを通過した繊維の捲縮は、平面的ではあるがΩ型に湾曲した形状となってしまう傾向があった。そして、この複合繊維のΩ型捲縮は、経時に伴って次第に湾曲部が丸くなり、捲縮形状指数が大きくなる傾向であった。更には、複合繊維を熱風ドライヤーに通して乾燥した場合にも、同様の現象が見られた。この乾燥後の繊維を5mmにカットしてエアレイド加工を試みたが、繊維同士の絡まりを生じやすく、得られたウェブには毛玉状の欠点が多く見られ、許容しうるレベルではあるものの、十分なレベルの均一性は得られなかった。また、スクリーンメッシュからの排出性も十分なレベルとはならず、許容しうる生産性ではあるものの、十分なレベルには至らなかった。
【0023】
これに対して、重量平均分子量/数平均分子量の数値が3.5以上のポリプロピレンを用いると、明確な理由は不明であるが、クリンパーを通過した繊維は前述したようなΩ型の湾曲した捲縮を発現せず、平面ジグザグ捲縮のみを有していた。かつ、この平面ジグザグ捲縮を有する複合繊維を経時観察したが、捲縮形状は平面ジグザグ捲縮を維持し、更には、この複合繊維を熱風ドライヤーに通して乾燥しても、平面ジグザグ捲縮を維持していた。この乾燥後の繊維を5mmにカットしてエアレイド加工を試みたところ、前述のΩ型の湾曲した捲縮を有する複合繊維に比べて、捲縮形状指数は小さくなり、明らかにエアレイドの加工性と生産性に優れ、良好な地合のウェブを高い生産性で得ることができた。
第2成分であるポリプロピレンの分子量分布が広くなるほど、経時や乾燥によって平面ジグザグ捲縮が丸く湾曲する現象を抑制することができ、重量平均分子量/数平均分子量が3.5以上であれば満足できる抑制効果が得られ、4.5以上であれば十分な抑制効果が得られた。
一方、ポリプロピレンの重量平均分子量/数平均分子量の数値の上限は、特に制限されるものではないが、あまりにも大きすぎると紡糸性が低下する傾向があるので、かかる観点からは10.0以下であることが好ましく、より好ましくは6.0以下である。ポリプロピレンの重量平均分子量/数平均分子量の数値が10.0以下の範囲で、かつ前述の数値範囲以上であれば、満足しうる紡糸性と前述の効果を両立することができるので好ましく、6.0以下であれば十分な紡糸性と前述の効果を両立できるので、更に好ましい。
【0024】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、特に制限されるものではないが、エアレイドでの加工性と生産性を高めるために、平面ジグザグ捲縮の捲縮数を6〜14山/2.54cmとすることが好ましく、より好ましくは8〜12山/2.54cmである。捲縮数が多くなると、捲縮形状が平面ジグザグであっても、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)の数値は大きくなる傾向があるが、捲縮数が6〜14山/2.54cm、より好ましくは8〜12山/2.54cmの範囲であれば、捲縮形状指数を容易に前述の数値範囲とすることができる。捲縮数が14山/2.54cm以下であれば、繊維同士が過度に絡まり合って毛玉状の欠点を生じることがなく、また過度に嵩高くなってスクリーンメッシュからの排出を妨げることもなくなり、良好な地合のウェブが高い生産性で得られる。捲縮数があまりにも小さい場合には、繊維同士が十分に開繊しきれずに繊維束状の欠点を生じやすくなるが、捲縮数が6山/2.54cm以上であれば、繊維の開繊性は良好となり、良好な地合のウェブが得られる。捲縮数が8〜12山/2.54cmの範囲であれば、繊維束状や毛玉状の欠点がない、良好で均一な地合のウェブを、高い生産性で得られるので、より好ましい。
なお、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、後述するように3〜20mmの繊維長に切断されるが、切断した後では捲縮数を測定することが難しいので、捲縮繊維を切断する前の連続繊維の段階で、捲縮数を測定することが望ましい。2.54cm以下の繊維長に切断された後の短繊維しか入手できない場合には、短繊維の繊維長あたりの捲縮数を測定し、この数値を2.54cmあたりに換算して、参考値とすることができる。
【0025】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維の繊維長は3〜20mmであるが、好ましくは4〜10mm、より好ましくは4〜6mmの範囲である。エアレイドの加工性や生産性の観点からは、繊維長は短い方が好ましいが、繊維長が20mmよりも短い場合には、繊維同士の絡まりによる毛玉状欠点の発生は許容しうるレベルであり、また満足しうる生産性が得られる。繊維長が10mm以下であれば、毛玉状欠点は極めて少数となり、生産性も向上する。繊維長が6mm以下であれば、毛玉状欠点はほとんどなくなり、十分な生産性となる。一方、ウェブを高度に収縮させて、繊維が高密度に集積したエアレイド不織布を得るという観点からは、繊維長が長い方が、複合繊維がスパイラル捲縮を発現した際の見かけ長さの変化量が大きくなり、また、スパイラル捲縮発現による繊維の形状変化が周囲の多くの繊維に作用することで、周囲の繊維を巻き込むように変形するようになるので、ウェブを高度に収縮させるようになるので好ましい。繊維長が3mm以上であれば、見かけ長さの変化量は満足しうるレベルとなり、ウェブの収縮率は満足できるレベル、即ち40%以上となり、繊維長が4mm以上であればウェブの収縮率は十分なレベルになる。繊維長が3〜20mmの範囲であれば、満足し得るエアレイドでの加工性と生産性となり、かつウェブを熱処理した際の収縮率が40%以上となり、4〜10mmの範囲であれば加工性と生産性、ウェブの収縮特性のバランスに優れ、4〜6mmの範囲であれば更に良好なバランスとなるのでより好ましい。
【0026】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維の単糸繊度は1〜10dtexであるが、より好ましくは1.5〜5.0dtexの範囲である。単糸繊度が小さい方がピッチの小さいスパイラル捲縮を発現して、見かけ繊維長の変化量が大きくなって繊維を高密度化させられる。一方で、単糸繊度が大きい方が、スパイラル捲縮を発現して変形する際の繊維形状の変形力が大きくなり、周囲の繊維を巻き込むように変形してウェブを高度に収縮させるようになる。単糸繊度が1〜10dtexの範囲であれば、ウェブを形成する繊維がスパイラル捲縮を発現する際に周囲の繊維を巻き込むように変形してウェブが高度に収縮し、かつ細かいスパイラル捲縮を発現するので、高密度のエアレイド不織布が得られる。単糸繊度が1.5〜5.0dtexの範囲である場合には、前述した効果をバランスよく発揮するようになり、より高密度に繊維が集積したエアレイド不織布が得られるので好ましい。
【0027】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、エアレイドでの加工性と生産性を高めるために、短繊維嵩高性が小さい方が好適である。ここで、短繊維嵩高性とは、エアレイド機、例えばDan−web方式のエアレイド機を通過させて開繊した短繊維2gを、内径65mmの1リットルメスシリンダー中で再度エア開繊した後に、20gの錘を乗せて10分間経過した際の、短繊維の容積(cm3/2g)である。短繊維嵩高性の数値は特に制限されるものではないが、250cm3/2g以下であることが好ましく、200cm3/2g以下がより好ましい。なお、短繊維の嵩高性は繊維長に依存し、繊維長が短い方が小さくなる。また、捲縮は立体的な捲縮形状や湾曲した捲縮形状ではなく、捲縮形状指数が小さい、平面ジグザグ捲縮である方が、短繊維嵩高性が小さくなる。そして、捲縮数は少ない方が、単糸繊度は大きい方が、短繊維嵩高性が小さくなる。これらの捲縮形状や捲縮数、繊度などを適切に制御して、短繊維嵩高性を250cm3/2g以下とした場合には、満足できるエアレイド加工性と生産性となり、200cm3/2g以下とした場合には十分なエアレイド加工性と生産性となる。なお、捲縮形状や捲縮数、繊度、繊維長を選択する際には、これまでに前述したように、短繊維嵩高性以外の特性にも影響するので、これらとのバランスを考慮しながら選択することが望ましい。
【0028】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維には、加工適正や製品物性を満たすために、その繊維表面に界面活性剤を付着させることが望ましい。界面活性剤の種類は特に限定されるものではないが、エアレイド加工性や生産性を向上させるためには、繊維間摩擦および繊維−金属間摩擦を低減させ、粘着性が小さい成分で構成された界面活性剤を付着させることが好適である。また、得られた製品の物性を向上させるために界面活性剤を選択することも可能で、例えば液体吸収体不織布として用いる場合には、吸収する液体の性状に合わせて、親水性成分で構成された界面活性剤を選択したり、親油性成分で構成された界面活性剤を選択したり、もしくは液体の特性を阻害しない成分で構成された界面活性剤を選択したりするなど、適宜選択することができる。
界面活性剤の付着量は特に制限されるものではないが、繊維質量に対して0.10〜0.60質量%であることが好ましく、より好ましくは0.20〜0.40質量%の範囲である。付着量が少ない方が、エアレイド加工して得られるウェブの均一性が高まり、欠点数が少なくなる傾向があるが、付着量が0.60質量%以下であれば、満足しうる地合のウェブが得られる。また、付着量があまりにも少ないと、エアレイドプロセスにおいて静電気が発生するなどして操業性を低下させることがあるが、付着量が0.10質量%以上であれば、本発明の複合繊維に十分な制電性をもたらすことが可能となる。付着量が0.20〜0.40質量%の範囲であれば、十分に安定した操業性で、満足できる地合のウェブを得ることができる。
【0029】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、前述したような複合形態や樹脂構成、捲縮形状、捲縮数、繊度、繊維長などを有しているので、エアレイドプロセスでの開繊性に優れ、開繊した繊維同士は絡みにくく、かつスクリーンメッシュからの排出性に優れるので、良好な地合のエアレイドウェブを得ることができる。本発明の複合繊維は、特に制限されるものではないが、フォーミングして得られたエアレイドウェブ中に3個/m2以下しか欠点を発生させないことが好ましく、より好ましくは1個/m2以下である。ここで、エアレイドウェブ中の欠点としては、未開繊の繊維束や繊維同士が絡み合った毛玉状物、スクリーンメッシュに引っかかっていた繊維の集合体がぼた落ちしたような繊維塊などが例示できる。欠点は全くないことが理想ではあるが、欠点数が3個/m2以下であれば、ウェブを熱処理して得られる不織布の物性、品質が許容しうるレベルとなり、1個/m2以下であれば満足しうるレベルとなる。
【0030】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、前述したような複合形態や樹脂構成、捲縮形状、捲縮数、繊度、繊維長などを有しているので、エアレイドプロセスで高い生産性でウェブを得ることができる。本発明の複合繊維は、特に制限されないが、エアレイド機でフォーミングした際の排出効率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ここで、排出効率とはエアレイドでの生産性の指標であり、エアレイド機への短繊維の供給質量に対する、実際に排出された短繊維の質量の比である。排出効率は以下の式で求められる。
排出効率(%)=(排出された短繊維質量(g)/供給した短繊維質量(g))×100
エアレイド生産性が低い短繊維の場合には、スクリーンメッシュから短繊維が排出しきれずに、エアレイド機の中で短繊維が滞留する状況となる。この場合、供給した短繊維に対して、排出された短繊維の質量は少なくなり、排出効率は低下する。つまり、排出効率を評価することで、エアレイド生産性を簡便に知ることができ、排出効率が高い方が、エアレイド生産性が高いことを意味する。
排出効率が80%以上であれば、満足しうる高い生産性でエアレイドウェブが得られ、90%以上であれば、十分な生産性となる。
【0031】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、一般的な溶融紡糸法で未延伸糸を採取し、これを延伸した後に捲縮付与して得られる。溶融紡糸する際には、前述のオレフィン系熱可塑性樹脂を用いる。それらの原料樹脂のMFRは特に制限されるものではなく、前述したような、ノズルから吐出された際の、両成分のMFR、すなわち、好ましくは5〜100g/10min、より好ましくは10〜50g/10minの範囲となるように、適宜選択することが可能である。このような数値範囲となる原料樹脂のMFRとしては、好ましくは1〜100g/10min、より好ましくは5〜50g/10minの範囲が例示できる。
また、両成分の押出温度やノズル温度は特に制限されるものではなく、用いる原料樹脂のMFRや、求めるノズルから吐出された際のMFRを鑑みて、また、紡糸性や未延伸糸延伸性などを鑑みて、適宜選択することができるが、一般的には、押出温度は180〜320℃の範囲、ノズル温度は220〜300℃の範囲が例示できる。
【0032】
紡糸速度も特に制限されるものではないが、300〜1500m/minであることが好ましく、より好ましくは600〜1000m/minである。紡糸速度が300m/min以上であれば、任意の紡糸繊度の未延伸糸を得ようとする際の単孔吐出量を多くし、満足できる生産性が得られるので好ましい。また、紡糸速度が1500m/min以下であれば、次の延伸工程で十分に延伸できる伸度を維持した未延伸糸が得られるので好ましい。紡糸速度が600〜1000m/minの範囲であれば、生産性と延伸性のバランスに優れる未延伸糸が得られるので、特に好ましい。
紡糸ノズルから吐出された繊維状の樹脂を引き取る際には、空気や水、グリセリン等の媒体を介して冷却することで、紡糸工程が安定化するので好ましい。なかでも、空気を用いて冷却する方法が、最も簡略な装置で冷却を実施できるので好適である。
【0033】
次に、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を得るための、延伸方法について説明する。延伸方法についても特に限定されるものではなく、公知のいずれの延伸方法を採用してもよく、金属加熱ロールや金属加熱板を用いた接触加熱による延伸、もしくは温水、沸水、加圧飽和水蒸気、熱風、遠赤外線、マイクロ波、炭酸ガスレーザーを用いた非接触加熱による延伸などを例示できる。中でも、装置の簡便性や操業の容易性、生産性などを考慮すると、金属加熱ロールや温水による延伸が好ましい。
【0034】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を得る際の、延伸温度は特に制限されるものではないが、40〜110℃であることが好ましく、より好ましくは60〜90℃の範囲である。延伸温度が高い方が、ウェブを熱処理した際の、複合繊維のスパイラル捲縮発現性が良好となり、ウェブを高度に収縮さることができる。ただし、延伸温度が高すぎると、隣接する繊維間において、低融点成分である第1成分同士が膠着し、エアレイドでの繊維の開繊性が低下する。延伸温度が40〜110℃の範囲であれば、良好な地合のウェブを高度に収縮させることができ、60〜90℃の範囲であればウェブの均一性と収縮特性を高いレベルで両立することができる。
【0035】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を得る際の、延伸倍率は特に制限されるものではないが、1.5〜4.0倍であることが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0倍の範囲である。延伸倍率が高い方が、ウェブを熱処理した際の、複合繊維のスパイラル捲縮発現性が良好となり、ウェブを高度に収縮さることができ、延伸倍率が1.5倍以上であれば、満足しうる高いウェブ収縮率が得られる。一方、延伸倍率が低い方が、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した際に、立体的な捲縮形状や湾曲した捲縮形状とならず、捲縮形状指数が小さい、完全な平面ジグザグ捲縮になる傾向があるが、延伸倍率が4.0倍以下であれば、捲縮は平面ジグザグの形状を維持しており、エアレイドでの加工性や生産性に優れるので好ましい。延伸倍率が2.0〜3.0倍の範囲の場合には、ウェブを収縮させる特性と、エアレイドでの加工性や生産性を、バランスよく満たすので特に好適である。
【0036】
延伸速度も特に制限されるものではないが、延伸工程での生産性を考慮すると50m/min以上である事が好ましく、より好ましくは100m/min以上である。また、延伸工程は1段延伸、2段以上の多段延伸のいずれであってもよい。多段延伸を行う場合には、前述の熱ロール延伸や温水延伸などの延伸方法を組み合わせて実施することも可能であり、各延伸段階の延伸温度は適宜選択することが可能であり、各延伸段階の延伸倍率は、トータルの延伸倍率が所望の倍率となるように、適宜調整することが可能である。
【0037】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維に捲縮を付与する方法は、特に制限されるものではなく、公知の押し込み式クリンパーを用いる方法や、ギア式クリンパーを用いる方法などを例示することができるが、なかでも押し込み式クリンパーを用いる方法が、高速で捲縮を付与することができるので好ましい。クリンパーに繊維を導入する際には、複合繊維を加熱すると、捲縮を付与された後に捲縮の山谷部が湾曲して、いわゆるΩ型の捲縮になりにくく、捲縮形状指数が小さい捲縮形状になるので好ましい。一方で複合繊維を加熱しすぎると、エアレイドウェブを熱処理した際のウェブの収縮率が小さくなってしまう傾向がある。よって、クリンパー導入直前で複合繊維を加温するか否か、そしてどの程度の温度まで加温するかは、ウェブの収縮率と捲縮形状のバランスを考慮して決定することが望ましい。
【0038】
捲縮を付与した後には、繊維に付着した水分を除去するために乾燥工程を設けることが望ましい。その際の乾燥温度は特に制限されるものではないが、50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃の範囲であることがより好ましい。温度が50℃以上であれば繊維を十分に乾燥でき、60℃以上であれば短時間で効率的に乾燥できる。また、温度が90℃以下であれば繊維はジグザグ捲縮を維持し、80℃以下であればウェブを高度に収縮させることができる。乾燥温度が60〜80℃の範囲の場合には、乾燥工程の操業性とウェブの収縮特性を高いレベルで両立できるので、特に好ましい。
【0039】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、前述したように繊維長が3〜20mmであるが、これらの所望の繊維長とする方法は特に限定されるものではなく、公知の方法、例えばロータリーカット方式やギロチンカット方式などのいずれをも採用することができる。
【0040】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維は、空気で短繊維を開繊、分散、堆積させる、いわゆるエアレイドプロセスでウェブに加工される。エアレイドプロセスの方式はいくつかあるが、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方式でもウェブに加工することができる。本発明の複合繊維は、捲縮形状指数が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮の状態であり、かつ捲縮数は6〜14山/2.54cm以下であるので、繊維の開繊性に優れ、かつ各種エアレイド方式におけるスクリーンメッシュからの繊維の排出性に優れ、かつ排出された繊維をコンベアネットなどに積層させる際の繊維の分散性に優れる。一方、立体的な捲縮や平面的であってもΩ型のような湾曲した形状の、捲縮形状指数が1.60より大きい捲縮を有する繊維の場合には、開繊工程において繊維は十分に開繊せずに繊維束状の欠点になりやすく、スクリーンメッシュからの排出性が低いので生産性が低く、また、繊維が滞留するので繊維が絡まり合って毛玉状の繊維塊になりやすく、排出しても均一な排出とはなりにくいので、濃淡が著しいウェブになりやすい。本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を用いた場合には、これら問題が生じにくく、よって、均一で良好な地合のエアレイドウェブを、高い生産性で得ることが可能である。
【0041】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維からなるエアレイドウェブを熱処理すると、該複合繊維は第1成分と第2成分の熱収縮率差に起因してスパイラル捲縮が発現する。このスパイラル捲縮が発現する際の繊維の見かけ長さの収縮によって、ウェブ自体を高度に収縮させ、繊維が高密度に集積した不織布を得ることができる。
エアレイドウェブを熱処理する際の温度は特に制限されるものではなく、使用している複合繊維の樹脂構成や、求める不織布の物性に応じて適宜選択することができるが、好ましい範囲としては120〜150℃の範囲を例示することができる。熱処理の温度が高い方が、本発明の複合繊維のスパイラル捲縮発現性が良好となり、ウェブを高い収縮率で収縮させることができるが、120℃以上の温度で熱処理した際には十分にウェブを収縮させることができる。また、熱処理の温度が低い方が、本発明の複合繊維にスパイラル捲縮を発現させてウェブを収縮させた際に、該複合繊維は繊維形状を維持し、柔軟な不織布が得られるが、150℃以下の温度で熱処理した際には、満足できる柔軟性の不織布を得ることができる。
また、熱処理の方法も特に制限されるものではなく、公知のエアースルー法やフローティング法、ヤンキードライヤー法などの、いずれの熱処理方法をも採用することが可能であるが、熱処理によってウェブを高度に収縮させるためには、なるべくウェブが自由な状態で熱処理することが好ましく、かかる観点からはエア−スルー法を採用した場合には、なるべく循環風量の小さい条件が好適であり、更に好ましくはフローティング法を採用することが好適である。
【0042】
本発明の複合繊維は、エアレイドプロセスでウェブ化することに適している。エアレイドプロセスを採用することで、例えば500g/m2以上の高目付のウェブを、容易に高い生産性で得ることができる。そして、エアレイドウェブを熱処理すると、該複合繊維は第1成分と第2成分の熱収縮率差に起因してスパイラル捲縮を発現し、この際の繊維の見かけ長さの収縮によって、ウェブ自体を高度に収縮させることができる。こうして高度に収縮したウェブは、該複合繊維の低融点成分である第1成分同士が接着していなかったり、もしくは接着が十分でなかったりしても、隣接する繊維同士のスパイラル捲縮が絡み合って交絡を形成するので、一体化して不織布となる。こうして得られた不織布の繊維密度は、特に限定されるものではないが、30mg/cm3以上であることが好ましく、より好ましくは50mg/cm3以上である。ここで、熱処理によってウェブを収縮させて得られた不織布の繊維密度は、一定の面積に切り出した不織布の重量と厚みを測定して、以下の式で算出される。
不織布の繊維密度(mg/cm3)=目付(g/m2)/厚み(mm)
不織布の繊維密度が30mg/cm3以上であれば、繊維が高度に集積して、隣り合う繊維同士が十分に交絡を形成し、かつ、スパイラル捲縮の伸び縮みによって良好な反発性と柔軟性、伸縮性を示し、不織布の繊維密度が50mg/cm3以上であれば、より高いレベルの反発性や柔軟性、伸縮性を示す。
【0043】
一般的に、カードプロセスで得られたウェブおよび不織布は、機械方向に繊維が配列する傾向が強く、機械方向に対する不織布強度は大きいが、幅方向のそれは小さいといった、物性の異方性を示す。対して、エアレイドプロセスで得られたウェブおよび不織布は、繊維の配列の仕方がランダムであり、不織布の機械方向と幅方向で、強度や伸度などの物性差が小さいという特徴を有する。
エアレイドプロセスでウェブを得る際のライン速度は、特に制限されるものではないが、低速である方が機械方向と幅方向での物性の差はより小さくなるので、50m/min以下が好ましく、30m/min以下がより好ましい。
【0044】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維をエアレイドプロセスにてウェブ化すると、該複合繊維の配列は極めてランダムとなる。
例えば500g/m2以上のような、高目付に積層させたエアレイドウェブの場合には、ある角度で垂直方向に配列した繊維が少なからず存在する。これらの垂直方向に配列した繊維は、熱処理によってウェブが収縮する際に、水平方向の収縮力がぶつかり合う作用によって、自らもスパイラル捲縮を発現して収縮しながら、垂直方向に持ち上げられて嵩が向上し、繊維はより垂直方向に配列するようになる。これによって、本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維からなるウェブを、熱処理して得られた高密度不織布は、効率よく嵩高化が達成されると共に、機械方向と幅方向のみならず、高さ方向にも繊維がランダムに配列しており、三次元方向に対して、引張強度や伸度、圧縮回復性、圧縮硬さなどの物性差が小さい、等方的な不織布が得られる。
この、不織布物性が等方的であることによって、例えば、液体吸収体であれば、液体の吸排出が三次元方向に対して均一であるという特徴が得られる。また、クッション材であれば、いずれの方向に対しても高い圧縮回復特性を示すという特徴が得られるなど、カードプロセスで得られた不織布では達成できない特性が得られる。
【0045】
前述したように、本発明の複合繊維からなるエアレイドウェブを熱処理して得られた高密度エアレイド不織布は、液体吸収体として好適に用いることができる。
本発明の複合繊維は、オレフィン系熱可塑性樹脂で構成されており、各種の液体に対して耐薬品性に優れるという特徴を有している。例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維で構成された不織布では、強酸やアルカリ、有機溶剤に対する耐薬品性が低く、油性マジックのインク吸収体には使用できないなど、対象となる液体が制限されてしまう。一方で、耐薬品性に優れるポリプロピレンやポリエチレンなどの、ポリオレフィン系繊維で構成された不織布であれば、耐薬品性に優れるので、多様な液体を、その性状を変化させることなく吸収、貯蔵、排出することができる。
【0046】
また、本発明の複合繊維からなるウェブを熱処理して、該複合繊維にピッチの小さいスパイラル捲縮を発現させ、ウェブを高度に収縮させて、繊維を高密度に集積させた不織布は、繊維が形成するスパイラル形状の内側や、繊維と繊維の間など、毛細管現象を発現するのに適した空隙を有している。加えて、本発明の複合繊維の樹脂構成や複合断面形状、紡糸や延伸の条件などを適切に制御することで、および、該複合繊維からなるウェブの熱処理条件を適切に制御することで、空隙のサイズを調整することも可能である。更には、本発明の複合繊維を熱処理して得られた高密度エアレイド不織布は、繊維が三次元にランダムに配列しているので、三次元方向に対する液体の吸排出特性の差が小さいという特徴を有する。このことは、例えばマジックの芯材に用いた場合には、書く角度による影響を受けにくいとか、芳香剤を除放させる芯材として用いた場合には、あらゆる角度に対しても同様な揮発特性を示すなど、優れた特性をもたらす。
【0047】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を用いて、エアレイドウェブを得る際には、本発明の複合繊維単体で実施してもよく、他の合成繊維と混合して実施してもよく、他の天然繊維や無機繊維と混合してもよく、繊維状以外の粒子状物と混合して実施しても何ら問題ない。
例えば、吸水性と保水性に優れた液体吸収体不織布を得ようとする際には、パルプや高吸水性樹脂パウダーなどの吸水性と保水性に優れた素材を混合するといった方策を採ることができる。他の素材と混合して実施する際の混合率は、特に制限されるものではないが、なるべく本発明の複合繊維の比率が高い方が、ウェブを高度に収縮させて、高密度のエアレイド不織布を得ることができるので好ましい。複数の繊維を混合してウェブを得る際の、本発明の複合繊維の比率としては、50質量%以上、より好ましくは75質量%以上が例示できる。
ウェブを得る際に混合し得る素材の例として、合成繊維、天然繊維及び粒子状物などが挙げられる。合成繊維としては、ポリプロピレンやポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートなどで構成される単一成分繊維、もしくは融点差のある2種類以上の熱可塑性樹脂を複合した鞘芯複合繊維や偏心鞘芯複合繊維、並列複合繊維、分割断面複合繊維などを例示することができる。また、天然繊維としては、パルプやレーヨンなどのセルロース系繊維、羊毛やカシミヤなどの獣毛繊維などを例示することができる。無機繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維などを例示することができる。粒子状物としては、高吸水性樹脂パウダーなどを例示することができる。
【0048】
本発明のエアレイド不織布製造用複合繊維を用いて、エアレイドウェブを得る際には、単層のウェブとしてもよく、2層以上の多層ウェブとしても何ら問題ない。
エアレイドプロセスでは、複数のフォーミングヘッドを使用して、各フォーミングヘッドに供給する繊維の種類や混合率、量などを適宜選択する事で、容易に多層構造のウェブを得ることが可能である。
例えば、2つのフォーミングヘッドからなるエアレイド機を用い、ウェブの下層を形成する第1ヘッドには、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンからなる鞘芯複合繊維を供給し、ウェブの上層を形成する第2ヘッドには本発明の複合繊維を供給して2層ウェブを形成し、これを135℃で熱処理すると、第2層を形成する本発明の複合繊維が著しく収縮するのに対して、第1層はほとんど収縮しないので、第2層を内側としてカールした不織布が得られる。
また、例えば3つのフォーミングヘッドからなるエアレイド機を用い、ウェブの上下層を形成する第1ヘッド、第3ヘッドには、ウェブ収縮率が0〜10%となる繊維、例えば、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンからなる鞘芯複合繊維を供給し、ウェブの中層を形成する第2ヘッドには、ウェブ収縮率が40%以上となる、本発明の複合繊維を供給し、ウェブの上層/中層/下層の目付比が30〜60/10〜30/30〜60質量%である3層ウェブを形成する。この3層ウェブを135℃で熱処理すると、繊維がスパイラル捲縮を発現してウェブを収縮させ得る中層の目付が小さく、かつその上下をほとんど収縮しないウェブ層で挟まれているので、中層はウェブ全体を収縮させるには至らず、メロンの表面のように、まだらに収縮する。これによって、不織布は内部に大きな空隙を有する構造となり、液体の透過性に優れる吸収性物品用不織布が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法または定義を以下に示す。
(1)熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)
試験温度230℃、試験荷重21.18Nで測定した。(JIS−K−7210「表1」の試験条件14)
(2)単糸繊度
連続繊維を用いて、JIS−L−1015に準じて測定した。なお、3〜20mmに切断された短繊維しか入手できず、測定が困難な場合には、簡便法であるB法に準じて測定した。その際の繊維長は、短繊維の像を形VC2400−IMU 3Dデジタルファインスコープ(オムロン(株)製)を用いて取込み、画像解析によって測定した繊維長を用いた。
(3)捲縮数
連続繊維を用いて、JIS−L−1015に準じて測定した。なお、3〜20mmに切断された短繊維しか入手できず、測定が困難な場合には、繊維長あたりの捲縮数を測定し、この数値を2.54cmあたりに換算して、参考値とした。n=100とした。
(4)捲縮形状指数
短繊維の像を形VC2400−IMU 3Dデジタルファインスコープ(オムロン(株)製)を用いて取込み、短繊維の実長と、両末端間距離を測定し、下記の式により算出した。n=20とした。
捲縮形状指数=短繊維実長/短繊維両末端間距離
また、合わせて捲縮形状を肉眼で観察し、その捲縮形状を官能的に下記の3種類に分類した。
平面ジグザグ:捲縮繊維は平面的であり、かつ山谷部が鋭角である。
Ω型:捲縮繊維は平面的ではあるが、山谷部が湾曲し、丸みを帯びている。
スパイラル:スパイラル状の捲縮であり、捲縮繊維は立体的である。
【0050】
(5)ポリプロピレンの分子量分布
GPC−150C Plus(ウォーターズ社製)にて、TSKgel GMH6−HTおよびTSKgel GMH6−HTLの分離カラムを用いて、重量平均分子量と数平均分子量を測定し、下記の式により算出した。カラム温度は140℃、移動層にはo−ジクロロベンゼン、移動速度は1.0ml/min、試料濃度は0.1質量%、試料注入量は500マイクロリットルとした。
分子量分布=重量平均分子量/数平均分子量
(6)熱可塑性樹脂の融点
DSC−Q10(TA Instruments社製)にて、JIS K7121に記載の方法に準じてDSC測定を実施し、得られたDSC曲線における吸熱ピーク温度を融点とした。
(7)短繊維嵩高性
Dan−web方式のエアレイド機を通過させて開繊した短繊維2gを、内径65mmの1リットルメスシリンダー中で再度エア開繊した後に、20gの錘を乗せた。10分後、短繊維の容積を読み取り、これを短繊維嵩高性(cm3/2g)とした。
【0051】
(8)エアレイド排出効率とウェブの欠点数
600mm幅のドラムフォーマーDW−600(Dan−web社製)、穴型No.1186−000(穴サイズ:1.8mm×25mm、開口率:35.9%)を有するエアレイド機にて、針ロール回転速度1000rpm、ブラシロール回転速度700rpm、ドラム回転速度200rpm、ライン速度5m/min、サクション風速度8m/minの条件で、ウェブの目付が200g/m2となるように短繊維を供給し、3分後にウェブを採取した。得られたウェブを観察し、繊維束状や毛玉状、繊維化塊状の欠点数を数えた。また、得られたウェブの目付を測定し、下記の式によりエアレイド排出効率を算出した。
排出効率(%)=(排出された短繊維質量/供給した短繊維質量)×100
(9)ウェブ収縮率
前述のエアレイドウェブを、機械方向×幅方向=25cm×25cmの長さに切り出し、145℃の循環オーブン中で5分間熱処理して、下記の式により算出した。なお、ウェブの機械方向と幅方向のそれぞれについて測定し、これらを平均した。
ウェブ収縮率(%)=(熱処理前ウェブ長−熱処理後ウェブ長)÷熱処理前ウェブ長×100
(10)不織布物性
前述のウェブ収縮率測定で得られた不織布を切り出し、これの面積と質量、厚みを測定して、下記の式により不織布の目付と繊維密度を算出した。
不織布の目付(g/m2)=不織布質量(g)/不織布面積(m2
不織布の繊維密度(mg/cm3)=目付(g/m2)/厚み(mm)
また、不織布の均一性を、下記の3段階で官能的に評価した。
○:欠点が存在せず、表面に凹凸は見られず、十分な均一性である。
△:欠点が僅かに存在したり、表面に僅かに凹凸が見られたりするが、満足できる均一性である。
×:多数の欠点が存在し、また表面には著しい凹凸が見られ、均一性が劣る。
【0052】
以下、実施例1〜7及び比較例1〜7に示すように、種々の複合繊維を作成し、それらを用いてウェブ化し、種々の不織布を作成した。それらの複合繊維の物性、不織布の物性などを以下の表1〜2に示す。
[実施例1]
融点が130℃、MFRが26g/10minである高密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が162℃、MFRが16g/10min、分子量分布が4.2であるポリプロピレンを第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=50/50質量%で複合して、第1成分押出温度=240℃、第2成分押出温度=270℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、半月状並列型であった。これを50℃の延伸温度で2.0倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥した後も、同様の捲縮形状を維持し、捲縮形状指数は1.28であった。単糸繊度は3.3dtex、捲縮数は9.8山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで6mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は120cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、繊維の開繊性、排出性ともに良好であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。この不織布は柔軟で、三次元のいずれの方向に対してもクッション性に優れていた。
【0053】
[実施例2]
融点が136℃、MFRが18g/10minであるプロピレン−エチレン−ブテン1共重合体(プロピレン/エチレン/ブテン−1の質量比=93/2.5/4.5)を第1成分に配し、融点が162℃、MFRが11g/10min、分子量分布が4.9であるポリプロピレンを第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=50/50質量%で複合して、第1成分押出温度=290℃、第2成分押出温度=270℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、第1成分が第2成分を巻き込んだ並列型であった。これを60℃の延伸温度で3.0倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥した後も、同様の捲縮形状を維持しており、捲縮形状指数は1.39であった。単糸繊度は4.4dtex、捲縮数は8.0山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで6mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は110cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、繊維の開繊性、排出性ともに良好であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。この不織布は、繊維同士は十分には接着していないものの、収縮過程で繊維交絡を形成しており、柔軟で、三次元のいずれの方向に対しても十分な強度を有し、伸縮性や反発性に優れていた。
【0054】
[実施例3]
実施例2と同様の樹脂構成で、第1成分押出温度=240℃、第2成分押出温度=290℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、第2成分が第1成分を押し込むような形状の並列型であった。これを60℃の延伸温度で2.2倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥した後も、同様の捲縮形状を維持しており、捲縮形状指数は1.18であった。単糸繊度は2.2dtex、捲縮数は10.2山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は140cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、繊維の開繊性、排出性ともに良好であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。この不織布は、繊維同士は十分には接着していないものの、収縮過程で繊維交絡を形成しており、柔軟で、三次元のいずれの方向に対しても十分な強度を有し、伸縮性や反発性に優れていた。
【0055】
[実施例4]
実施例2と同様の樹脂構成で、第1成分押出温度=240℃、第2成分押出温度=300℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。実施例3と比べると、第2成分押出温度を10℃高く設定しているが、これによって第2成分が高MFR化したために、得られた未延伸糸の断面形状は、半月状の並列型であった。これを80℃の延伸温度で2.5倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥した後も、同様の捲縮形状を維持しており、捲縮形状指数は1.26であった。単糸繊度は2.2dtex、捲縮数は10.6山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は160cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、繊維の開繊性、排出性ともに良好であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。実施例3と比べて、ウェブ収縮率が高く、また不織布密度も大きくなっており、より高密度のエアレイド不織布が得られている。これは、複合断面形状が半月状並列型であること、延伸温度が高いこと、延伸倍率が大きいことに起因していると思われる。この不織布は、繊維同士は十分には接着していないものの、収縮過程で繊維交絡を形成しており、柔軟で、三次元のいずれの方向に対しても十分な強度を有し、伸縮性や反発性に優れていた。
【0056】
[実施例5]
融点が140℃、MFRが11g/10minであるプロピレン−エチレン−ブテン1共重合体(プロピレン/エチレン/ブテン−1の質量比=92/3.5/4.5)を第1成分に配し、融点が160℃、MFRが9g/10min、分子量分布が3.6であるポリプロピレンを第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=50/50質量%で複合して、第1成分押出温度=290℃、第2成分押出温度=310℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、半月状並列型であった。これを80℃の延伸温度で2.5倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であった。これを70℃の循環ドライヤーで乾燥したところ、捲縮の山谷のエッジ部が僅かに緩んだものの、平面ジグザグ型を維持しており、捲縮形状指数は1.42であった。単糸繊度は2.2dtex、捲縮数は12.3山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は240cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、短繊維嵩密度が若干大きい影響か、排出効率が88%まで低下したが、満足しうる開繊性、および排出性であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。この不織布は、繊維同士は十分には接着していないものの、柔軟で、三次元のいずれの方向に対しても十分な強度を有し、伸縮性や反発性に優れていた。
【0057】
[実施例6]
融点が102℃、MFRが23g/10minである低密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が140℃、MFRが11g/10minであるプロピレン−エチレン−ブテン1共重合体(プロピレン/エチレン/ブテン−1の質量比=92/3.5/4.5)を第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=40/60質量%で複合して、第1成分押出温度=200℃、第2成分押出温度=250℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、第1成分が第2成分を巻き込んだ並列型であった。これを60℃の延伸温度で2.5倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であった。これを70℃の循環ドライヤーで乾燥したところ、第2成分にプロピレン−エチレン−ブテン1共重合体を使用した影響で、捲縮の山谷のエッジ部が僅かに緩んだものの、平面ジグザグ型を維持しており、捲縮形状指数は1.54であった。単糸繊度は3.3dtex、捲縮数は11.1山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで4mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は220cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、短繊維嵩密度が若干大きく、繊維表面に摩擦が高い低密度ポリエチレンが露出している影響で、排出効率が86%まで低下したものの、許容しうる開繊性、および排出性であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。この不織布は、繊維表面に低密度ポリエチレンを使用しているので柔軟性に優れ、またスパイラル捲縮に由来して、三次元のいずれの方向に対しても、伸縮性や反発性に優れていた。
【0058】
[実施例7]
融点が164℃、MFRが9g/10min、分子量分布が3.0であるポリプロピレンを第2成分に配した以外は、実施例4と同様の条件で溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、半月状の並列型であった。これを80℃の延伸温度で2.0倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は、平面ジグザグ型であった。これを70℃の循環ドライヤーで乾燥したところ、捲縮の山谷のエッジ部が僅かに緩んだものの、平面ジグザグ型を維持しており、捲縮形状指数は1.56であった。第2成分のポリプロピレンの分子量分布が3.0であり、実施例4の4.9よりも小さいことが原因と考えられる。単糸繊度は2.8dtex、捲縮数は10.4山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は240cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、短繊維嵩密度が若干大きい影響で、排出効率が88%まで低下したものの、許容しうる開繊性、および排出性であった。このウェブを145℃で熱処理すると、複合繊維はスパイラル捲縮を発現してウェブを均一に収縮させ、繊維が高密度に集積した高密度不織布が得られた。この不織布は柔軟性に優れ、またスパイラル捲縮に由来して、三次元のいずれの方向に対しても、伸縮性や反発性に優れていた。
【0059】
[比較例1]
同心鞘芯型ノズルを用いた以外は、実施例1と同様の条件で溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、同心鞘芯型であった。これを実施例1と同様の条件で延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥した後も、同様の捲縮形状を維持しており、捲縮形状指数は1.14であった。単糸繊度は3.3dtex、捲縮数は10.5山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで6mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は100cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、繊維の開繊性、排出性ともに良好であった。このウェブを145℃で熱処理したが、実施例1では複合繊維がスパイラル捲縮を発現して、ウェブを高度に均一に収縮させたのに対して、比較例1の複合繊維はスパイラル捲縮を発現せず、ウェブを高度に収縮させることはできなかった。よって、得られた不織布は非常に繊維密度が小さく、嵩高性に由来する柔らかさは感じるものの、繊維のスパイラル捲縮に由来する柔軟性やクッション性はなかった。
【0060】
[比較例2]
同心鞘芯型ノズルを用いた以外は、実施例2と同様の条件で溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、同心鞘芯型であった。これを、延伸温度を90℃とした以外は実施例2と同様の条件で延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥した後も、同様の捲縮形状を維持しており、捲縮形状指数は1.11であった。単糸繊度は4.4dtex、捲縮数は13.6山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで6mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は140cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、繊維の開繊性、排出性ともに良好であった。このウェブを145℃で熱処理したが、比較例1と同様に、複合繊維はスパイラル捲縮を発現せず、ウェブを高度に収縮させることはできなかった。よって、得られた不織布は非常に繊維密度が小さく、また、繊維間は僅かに接着はしているが十分ではなく、かつ、実施例2のような繊維同士の交絡も形成されていないことから、著しく不織布強度が低かった。そして、繊維のスパイラル捲縮に由来する柔軟性やクッション性はなかった。
【0061】
[比較例3]
実施例7の未延伸糸を、80℃の延伸温度で2.8倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は、山谷のエッジ部が湾曲したΩ型であり、これを70℃の循環ドライヤーで乾燥すると、エッジ部の湾曲はより顕著になり、捲縮形状指数は1.82まで大きくなり、いわゆるΩ型の形状であった。第2成分のポリプロピレンの分子量分布が3.0と小さいことと、実施例7と比較して、延伸倍率が高いことが原因と考えられる。単糸繊度は2.0dtex、捲縮数は10.9山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は270cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化しようとしたが、繊維同士が絡まり、また、嵩高性が高いのでスクリーンメッシュから排出しきれずに繊維が滞留し、排出効率が58%まで低下し、かつ得られたウェブには毛玉状、繊維塊状の欠点が多数見られた。このウェブを145℃で熱処理したところ、欠点が存在するので、ウェブの収縮は均一ではなく、得られた不織布は、密度を測定することが困難であるほどの凹凸があり、満足できる地合ではなかった。
【0062】
[比較例4]
特開平2−127553号公報の実施例2に記載の方法に倣って、融点が140℃、MFRが11g/10minのプロピレン−エチレン−ブテン1共重合体(プロピレン/エチレン/ブテン−1の質量比=92/3.5/4.5)を第1成分に配し、融点が164℃、MFRが8.5g/10min、分子量分布が5.0のポリプロピレンを第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=50/50質量%で複合して、第1成分押出温度=280℃、第2成分押出温度=280℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、第2成分が第1成分を押し込むような形状の並列型であった。これを70℃の延伸温度で3.5倍に延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は、平面的ではあるものの、山谷のエッジ部が湾曲したΩ型であった。これは、クリンプ付与工程で延伸張力が開放される際に、3.5倍という高倍率で延伸しているので、両成分の弾性回復率の差が大きくなったためと考えられる。これを70℃の循環ドライヤーで乾燥したところ、弾性回復率差による形状変化がより顕在化して、捲縮の山谷が顕著に湾曲した、Ω型となった。捲縮形状指数は1.88であった。単糸繊度は1.7dtex、捲縮数は18.0山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は、Ω型の捲縮形状と、18.0山/2.54cmという捲縮数の多さの影響で、330cm3/2gと極めて大きかった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化しようとしたが、繊維同士が絡まり、また、嵩高性が高いのでスクリーンメッシュから排出しきれずに繊維が滞留し、排出効率が46%まで低下し、かつ得られたウェブには毛玉状、繊維塊状の欠点が多数見られた。このウェブを145℃で熱処理したところ、欠点が存在するので、ウェブの収縮は均一ではなく、得られた不織布は、密度を測定することが困難であるほどの凹凸があり、満足できる地合ではなかった。
【0063】
[比較例5]
特開平11−61614号公報の実施例7に記載の方法に倣って、融点が136℃、MFRが18g/10minのプロピレン−エチレン−ブテン1共重合体(プロピレン/エチレン/ブテン−1の質量比=93/2.5/4.5)を第1成分に配し、融点が165℃、MFRが22g/10min、分子量分布が3.0のポリプロピレンを第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=50/50質量%で複合して、第1成分押出温度=240℃、第2成分押出温度=260℃、ノズル温度=260℃の条件で、並列型ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、第2成分が第1成分を押し込むような形状の並列型であった。得られた未延伸糸を、種々条件を調整しながら延伸して、捲縮数が6.1山/2.54cmのスパイラル捲縮を発現させた。捲縮形状指数は1.66であった。これをロータリーカッターで8mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は、スパイラルの捲縮形状と、8mmという繊維長の長さの影響で、280cm3/2gと極めて大きかった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化しようとしたが、スパイラルの捲縮形状の影響によって短繊維が開繊しきれず、開繊しても繊維同士の絡まりを生じやすく、また、繊維長が長く、嵩高性が高いのでスクリーンメッシュから排出しきれずに繊維が滞留し、排出効率が44%まで低下し、かつ得られたウェブには毛玉状、繊維塊状の欠点が多数見られた。このウェブを145℃で熱処理したところ、欠点が存在するので、ウェブの収縮は均一ではなく、得られた不織布は、密度を測定することが困難であるほどの凹凸があり、満足できる地合ではなかった。
【0064】
[比較例6]
特開2003−171860号公報の実施例3に記載の方法に倣って、融点が130℃、MFRが26g/10minの高密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が256℃、極限粘度(IV値)が0.64のポリエチレンテレフタレートを第2成分に配し、これらを第1成分/第2成分=50/50質量%で複合して、第1成分押出温度=250℃、第2成分押出温度=290℃、ノズル温度=260℃の条件で、偏心鞘芯中空ノズルを用いて溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面形状は、芯成分である第2成分が偏心しており、かつ中空部を有するものであった。得られた未延伸糸を、70℃の温水中にて3.0倍で延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。クリンパーから出てきた繊維の捲縮形状は平面ジグザグであり、捲縮形状指数は1.21であった。単糸繊度は2.4dtex、捲縮数は11.2山/2.54cmであった。これをロータリーカッターで5mmにカットして、エアレイド不織布製造用複合繊維とした。短繊維嵩高性は、芯成分に剛直性が高いポリエチレンテレフタレートを用いている影響か、同程度の繊度、繊維長、捲縮数、捲縮形状を有するポリオレフィン系複合繊維に比べて高く、230cm3/2gであった。
得られた複合繊維をエアレイドプロセスでウェブ化したところ、排出効率が91%、ウェブ中の欠点数は2個/m2であり、満足しうる生産性で、満足しうる均一性のウェブが得られた。このウェブを145℃で熱処理したところ、繊維はスパイラル捲縮を発現して、嵩高い不織布は得られるものの、実施例に記載したポリオレフィン系複合繊維にように、ウェブを全体的に収縮させるには至らず、繊維が高密度に集積した不織布を得ることはできなかった。更に、165℃での熱処理も試みたが、やはりウェブを全体的に収縮させるには至らず、繊維が高密度に集積した不織布を得ることはできなかった。得られた不織布は非常に繊維密度が小さく、嵩高性に由来する柔らかさは感じるものの、繊維のスパイラル捲縮に由来する柔軟性やクッション性はなかった。
【0065】
[比較例7]
特開平2−127553号公報の実施例2に記載の方法に倣って試作した比較例4の延伸糸を、65mmにカットして、カード不織布製造用複合繊維とした。これの捲縮形状指数は1.94であった。また、短繊維嵩高性は、繊維が過度に絡み合うので、測定不可であった。
得られた複合繊維をミニチュアカード機でウェブ化した。なお、200g/m2のウェブを得ることはできないので、複数のウェブを積層して200g/m2とした。このウェブを145℃で熱処理したところ、繊維はスパイラル捲縮を発現したが、繊維の配列が機械方向に偏っているので、ウェブは機械方向には大きく収縮するものの、幅方向の収縮率は小さいものであった。また、ウェブにおいて、厚み方向に配列した繊維は皆無であり、収縮過程において繊維が垂直方向に持ち上げられるような挙動も見られなかった。よって、収縮して得られた不織布は、機械方向の強度や伸縮性、反発性は高いものの、幅方向や厚み方向については著しく低いものであった。更には、また、ウェブにおける繊維の自由度の僅かな分布を反映して、収縮挙動が偏る傾向であり、表面には僅かに凹凸が見られるなど、収縮した高密度不織布の均一性は許容しうるレベルではあるが、十分に満足できるものではなかった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した熱融着性複合繊維であって、繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であり、単糸繊度が1〜10dtex、繊維長が3〜20mmであり、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮を有し、エアレイド法で得られたウェブを145℃で熱処理した際のウェブ収縮率が40%以上である、エアレイド不織布製造用複合繊維。
【請求項2】
繊維断面において、複合の形態が半月状の第1成分と半月状の第2成分が張り合わされた並列型である、請求項1記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
【請求項3】
第1成分がポリプロピレン系共重合体であり、第2成分がホモポリプロピレンである請求項1又は2記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
【請求項4】
第2成分のホモポリプロピレンの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が3.5以上である請求項3記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
【請求項5】
短繊維嵩高性が250cm3/2g以下である請求項1〜4のいずれか1項記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
【請求項6】
エアレイド機でフォーミングした際の排出効率が80%以上であり、フォーミングして得られたウェブ中の欠点数が3個/m2以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載のエアレイド不織布製造用複合繊維。
【請求項7】
オレフィン系熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点のオレフィン系熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した熱融着性複合繊維であって、繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であり、単糸繊度が1〜10dtex、繊維長が3〜20mmであり、捲縮形状指数(短繊維実長/短繊維末端間距離)が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮を有し、その捲縮数が6〜14山/2.54cmである熱融着性複合繊維を、エアレイドプロセスにてウェブ化し、得られたウェブを熱処理することを含む、不織布の製造方法。

【公開番号】特開2009−280920(P2009−280920A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131090(P2008−131090)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】