説明

エキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類及びその製造方法

【課題】エキソ体比率の高いエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80/20〜100/0であるエキソ型9−又は8−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類を提供する。化合物は下記式(1)で表わされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類及びその工業的に有利な製造方法に関する。
詳細には、アルキル置換基を有していてもよい、カルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80%以上であるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類化合物に関し、また、カルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80%以上であるエキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセンカルボン酸類を原料とし、これを一級アルコールでエステル化、次いで、蟻酸を付加させ、得られた反応生成物をアルカリにより加水分解してエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類を得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋脂環式ヒドロキシカルボン酸類は、近年、半導体微細加工用等の感光性レジスト原料や、また、すぐれた光学特性、耐熱性、耐湿性等を有する光学材料用樹脂原料等としてその有用性が期待されている。特に、光学材料用樹脂原料としては、汎用ポリエステル樹脂に比べ、架橋脂環式化合物からなるポリエステルは物性面で高透明性やガラス転移温度が高くなることが期待できる。特に架橋脂環骨格に直接カルボン酸及びアルコールが結合した構造からなるポリエステルでは更なる高いガラス転移温度を有する特性が期待できる。しかしながら、脂環骨格に直接結合したアルコールは2級アルコールであり、カルボン酸との反応(重縮合)性やエステルとのエステル交換反応性が乏しい。その結果、ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類を原料とするポリエステルは樹脂中にモノマーや低分子量体が残存してしまい高純度且つ高分子量の架橋脂環式ポリエステルを得ることは困難であった。
【0003】
本発明者らは、上記従来技術の問題点を解決しようと鋭意検討を重ねた結果、ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸化合物のカルボキシル基がエンド形であるかエキソ形であるかに注目した。そして、従来知られている、例えば特開平11−240851号公報に開示される製造方法により得られるヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸は、通常、化合物中のエキソ体とエンド体の割合がほぼ半々であること、また、カルボキシル基含有テトラシクロドセン化合物に係る特開2005−272336号公報に開示されているように、エキソ体の割合が一定の割合以上あると、例えば、それを重合して得られる重合体を感放射線性組成物に用いたときに、感度や解像性等のパターニング性能、耐熱性等の特性に充分に優れた樹脂膜が得られる等、一般に、エキソ体とエンド体の異性体では、生理活性、重合活性等その特性が異なり、特に、重合活性において、エキソ体がエンド体より優れていることが知られ、そのような化合物の製法として、例えば、Helvetica chemica Acta, Vol.83(2000),2769ページ〜2782ページ文献には、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸アルキルエステルのエンド・エキソ混合体を加水分解して、エンド体とエキソ体を分離する方法が記載されている。又、特開2005−272336号公報及び特開2006−96723号公報には、3−シアノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン類を加水分解してエキソ形テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸を得る方法が記載されている。
【0004】
そこで、発明者らは、ポリエステル等の樹脂原料用途においても、エキソ体比率の高いエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸が高い重合活性を示す可能性があると考えたが、そのような化合物は知られていない。
さらに、そのようなエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸の製造方法についても知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開平11−240851号公報
【特許文献2】特開2005−272336号公報
【特許文献3】特開2005−272336号公報
【特許文献4】特開2006−096723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記要望に応えるためになされたものであって、エキソ体比率の高いエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類を提供することを課題とする。また、入手容易な脂環式モノオレフィンカルボン酸を原料とし、工業的に容易に収率よく、エキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、一般式(1)
【化1】

一般式(1)
(式中、R〜Rは各々独立して炭素原子数1〜6のアルキル基又は水素原子を示す)
で表される、カルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80/20〜100/0であるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類が提供される。
【0008】
上記一般式(1)において、R〜Rで表される、炭素原子数1〜6のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基であり、好ましくは、炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基である。また、ヒドロキシル基の置換位置は、8位又は9位に置換していることを表す。
本発明において、エキソ型とは、上記一般式(1)のカルボキシル基について、エキソ体とエンド体の異性体モル比が、エキソ体/エンド体:80/20〜100/0の範囲、好ましくは、90/10〜100/0の範囲、より好ましくは95/5〜100/0の範囲、最も好ましくは99/1〜100/0の範囲のものを表す。
エキソ/エンド比は、カルボキシル基を公知の方法でシリルエステル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析することによって測定することができる。
【0009】
従って、本発明の一般式(1)で表されるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類としては、具体的には、例えば、
8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン
8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシ−3−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン
8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシ−4−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン
8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシ−4−イソプロピルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン
8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシ−3−メチル−4−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン
などが挙げられる。
【0010】
また、本発明のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類において、そのエキソ/エンド異性体合計の純度は、特に制限はないが、通常、ガスクロマトグラフィー分析法において、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。特にポリエステル原料や感光性レジスト原料として用いる場合は、98%以上が好ましい。
【0011】
このような本発明のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類は、その製造方法については特に制限はないが、しかしながら、工業的に容易に、純度よく製造できる好ましい製造方法としては、下記一般式(2)で表されるエキソ形テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸類のカルボキシル基を一級アルコールでエステル化してアルコキシカルボニルとし、得られたエキソ型カルボン酸エステルにギ酸を付加反応させ、次いで、生成したギ酸エステルを加水分解することにより本発明のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類を得ることができる。
上記の加水分解反応において、ギ酸エステル基とアルコキシカルボニル基が加水分解される。
【化2】

一般式(2)
(式中、R〜Rは一般式1のそれと同じである。)
【0012】
例えば、エキソ型3−カルボキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−8−エンを原料とし、メタノールでエステル化、次いで、ギ酸付加、加水分解してエキソ型8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンを得る場合の反応式は、下記の反応式(1)で示される。
【化3】


反応式(1)
【0013】
また、上記原料である、上記一般式(2)で表されるエキソ形テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−8−エン−3−カルボン酸類は、例えば、特開2006-096723号公報に記載の方法、或いはまた、特開2005-272336号公報に記載の方法により、ジシクロペンタジエンにアクリロニトリル等のビニルシアナイドをディールスアルダー付加させ、得られたシアノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセンをアルカリにより加水分解して得ることができる。
例えば、ジシクロペンタジエンとアクリロニトリルから、エキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−8−エン−3−カルボン酸を得る場合の反応式は、特開2005-272336号公報に記載の如く下記反応式(2)で示される。
【化4】

反応式(2)
【0014】
従って、本発明の一般式(1)で表されるカルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80%以上であるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類の好ましい製造法に用いられる上記一般式(2)で表される原料化合物において、式中、R〜Rは一般式1のそれと同じであり、R〜Rで表される炭素原子数1〜6のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基であり、好ましくは、炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0015】
従って、本発明の一般式(2)で表されるエキソ形テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸類としては、具体的には、例えば、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸
3―メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸
4−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン―3−カルボン酸
4−イソプロピル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸
3−メチル−4−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸
などが挙げられる。
【0016】
このような本発明のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類の好ましい製造方法における原料化合物のエキソ体/エンド体比は、プロトン核磁気共鳴スペクトル分析法、または、カルボキシル基を公知の方法でシリルエステル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析することによって測定されたエキソ体とエンド体の異性体モル比が、エキソ体/エンド体:80/20〜100/0の範囲、好ましくは、90/10〜100/0の範囲、より好ましくは95/5〜100/0の範囲、最も好ましくは99/1〜100/0の範囲のものである。
【0017】
本発明のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類の好ましい製造方法においては、反応の各工程において生成物の異性体比がほぼ原料化合物の異性体比と変わらず維持されていることが見出された。従って、この事により、目的物のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類のエキソ体/エンド体比は原料のエキソ形テトラシクロドデセンカルボン酸類のエキソ体/エンド体比に依存することが見出された。
このような原料エキソ形テトラシクロドデセンカルボン酸類は、例えば、前記特開2006-096723号公報文献記載の方法によりエキソ体が95〜100%のものを容易に得ることができる。或いは又、エキソ体が95%以上の高エキソ体テトラシクロドデセンカルボン酸類と通常一般のエキソ体が55%程度の低エキソ体テトラシクロドデセンカルボン酸類を適宜混合することにより、エキソ体/エンド体モル比が80/20〜100/0(エキソ体80モル%以上)の任意のエキソ/エンド比のエキソ形テトラシクロドデセンカルボン酸類を得ることが出来る。また、それを原料として用いることにより、本発明の、エキソ体/エンド体モル比が80/20〜100/0(エキソ体80モル%以上)の任意のエキソ/エンド比のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類を得ることが出来る。
また、上記、原料エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸類において、そのエキソ体/エンド体合計の純度は、特に制限はないが、収率、または、生産効率が良い理由により、通常、ガスクロマトグラフィー分析法において、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が望ましい。
【0018】
上記一般式(2)で表されるエキソ形テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸類のカルボキシル基を一級アルコールでエステル化して下記一般式(3)で表されるアルコキシカルボニルとし、得られたエキソ型カルボン酸エステルにギ酸を付加反応させ、次いで、生成したギ酸エステルを加水分解することにより本発明の一般式(1)で表されるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類を得ることができる。
【化5】

一般式(3)
(式中、Rは炭素原子数1〜4の1級アルキル基を示し、R〜Rは一般式(1)のそれと同じである。)
【0019】
本発明のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類の好ましい製造方法においては、先ず、上記原料エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸類のカルボキシル基を酸触媒の存在下に一級アルコールを反応させてエステル化する。
一級アルコールとしては一級の低級アルキルアルコールが好ましく、具体的には、炭素原子数1〜4のメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールを挙げることができる。特に好ましくはメチルアルコールである。
これらのアルコールの添加量は、原料エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸に対し5〜50モル倍の範囲、好ましくは15〜25モル倍の範囲が好ましい。
【0020】
また、酸触媒としては、反応溶液に溶解性のある強酸であれば特に制限はなく、具体的には例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、P−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸が挙げられる。好ましくは有機スルホン酸である。
上記酸触媒の添加量は原料エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸量に対して、0.1〜10重量%の範囲、好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。エステル化の反応温度は、0〜100℃の範囲、好ましくは40〜60℃の範囲である。このような反応条件の下で、反応は、通常、2〜5時間程度で終了する。エステル化反応の終点は、液体クロマトグラフィー分析やガスクロマトグラフィー分析等により確認することができる。
反応終了後、反応終了混合液から目的物を得る精製方法は公知の方法を適宜用いることができる。例えば、反応終了混合液からメタノール等の溶媒を留出させた後、酸触媒をアルカリで中和し、必要に応じて生成した塩を除去するために炭化水素溶媒と水を加えて攪拌した後、水層を分離し、得られた目的物を含む油層を蒸留する。
このようにして、目的物であるカルボン酸エステルは、留出液または溶媒を留出除去した後の蒸留残液として得ることができる。この粗製品は、必要に応じて、再結晶等の適宜手段にて精製して、精製品とすることもできる。
上記方法によれば、原料エキソ形テトラシクロドデセンカルボン酸類に対する目的物の収率は、通常、80〜95モル%程度である。
【0021】
次に、得られたエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルにギ酸を付加反応させ、次いで、生成したギ酸エステルを加水分解することにより本発明のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸類を得ることができる。
この反応においては、出発原料としてエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルに替えてエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸を直接用いることも可能である。しかしながら、出発原料としてエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルを用いれば、目的物のエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸が高収率、高純度で得られるので工業的製法としては好ましい。
上記反応においては、エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルに、好ましくは反応溶媒中、酸触媒の存在下にギ酸を付加反応させた後、このようにして得られた反応生成物をアルカリによって加水分解することによって、目的とする上記一般式(1)で表されるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類を得ることができる。
このような製造方法において、ギ酸は、上記原料であるエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステル1モルに対して、通常、1〜10モル倍、好ましくは1.2〜4モル倍の範囲で用いられる。
上記酸触媒として、好ましくは有機スルホン酸触媒であり、有機スルホン酸触媒としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が用いられるが、好ましくは、トリフルオロメタンスルホン酸が用いられる。このような有機スルホン酸触媒は、原料のエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステル100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部、好ましくは、0.5〜3重量部の範囲で用いられる。
上記製造方法によれば、エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルへのギ酸の付加反応は、常圧下又は加圧下に、40〜100℃の範囲、好ましくは、50〜80℃で行われる。このような反応条件においては、反応は、通常、1〜6時間程度で終了する。
【0022】
また、上記製造方法によれば、上記付加反応に際して、反応溶媒を用いることが好ましい。この反応溶媒としては、水に混和性がなく、原料エステルを溶解するものであれば、特に、制限はないが、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素が挙げられ、中でも芳香族炭化水素が好ましく用いられる。
このような反応溶媒は、原料であるエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステル100重量部に対して、通常、50〜5000重量部、好ましくは、100〜1000重量部の範囲で用いられる。しかし、反応溶媒の量は、上記に限定されるものではない。
また、上記製造方法においては、反応をヒドロキノン、メトキシフェノール、カテコール類、フェノチアジン等の重合禁止剤の存在下に行ってもよい。
【0023】
上記製造方法によれば、このようにして、エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルにギ酸を付加させた後、得られた反応生成物をアルカリによって加水分解することによって、目的とするエキソ型ヒドロキシテトラシクロドデカンカルボン酸を得ることができる。
この加水分解反応は、通常、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)のようなアルカリを、好ましくは、5〜40重量%程度の濃度の水溶液として、これを得られた反応混合物に加え、加熱、攪拌することによって行われる。上記アルカリは、使用する原料エキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルとギ酸との合計量1モルに対して1モル倍以上、好ましくは、1〜4モル倍の範囲で用いられる。
また、加水分解反応は、通常、40〜100℃、好ましくは、60〜80℃の範囲の温度で行われる。このような反応条件の下で、反応は、通常、2〜10時間程度で終了する。
このような加水分解反応の終了後、反応終了混合液から公知の方法を適宜用いて、目的生成物を分離することができる。例えば、得られた反応混合物にトルエン等の水に不溶性の有機溶媒を加えて攪拌した後、副生物等を含む油層を分液等により分離除去する。かくして、目的物を含む水層を得、これに塩酸等の酸を加え、酸性にした後、必要に応じて水と分離する溶媒を加え、水層を分離除去し、油層を得る。必要に応じて油層中に残存するギ酸や前工程で添加した塩酸等の酸を中和するためにアルカリ水溶液を油層に添加し、弱酸性にした後、水層を分離除去する。得られた目的物を含む油層を適宜水洗し、この後、反応生成物を含む油層から溶媒を減圧蒸留等により留去して、目的物の粗製物を得る。この場合は、原料エキソ形テトラシクロドデセンカルボン酸類のエキソ/エンド比とほぼ同一のエキソ/エンド比であるエキソ形ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類が得られる。また、必要に応じて、この粗製物にヘプタン等の溶媒を加えて晶析、或いは、カラム処理することによって、目的物の精製物を得ることができる。
このようにして得られる精製物の純度(ガスクロマトグラフィー分析法)は、通常、90%以上であり、エキソ体/エンド体比は80/20〜100/0、また、原料のエキソ型テトラシクロドデセンカルボン酸エステルに対する収率は、通常、50%〜90%である。
このようにして、上記製造方法によって得られる本発明のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンは、通常、ヒドロキシル基の置換位置及び結合方向の異なる異性体の混合物である。位置異性体としては具体的には、例えば、ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンの場合は、8−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンと9−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンとの混合物である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類はカルボキシル基についてエキソ体/エンド体比が80/20〜100/0の立体異性体比を有する新規化合物であり、重合活性等の反応性が非常に高く、ポリエステル等の樹脂原料として使用した場合、高品質なポリマーの製造が期待できる。
【0025】
(実施例)
〔実施例1〕
エキソ型9−又は 8−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンの合成
【0026】
〔工程1〕
エキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸メチルエステルの合成
攪拌翼、温度計、窒素流入管、冷却管を備えた容量1Lの4つ口フラスコに、エキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸(エキソ体/エンド体比:100/0、ガスクロマトグラフィー分析による)153.0g、p−トルエンスルホン酸水和物7.7g及びメタノール459gを仕込んだ。この溶液を50℃に昇温後、その温度を保持したまま3時間、攪拌下に反応を行った。
反応終了後、反応終了液を濃縮してメタノールを留去させた後、これにトルエン200g及び水250gを添加し、次いで、内温を40℃に保持しながら10%炭酸水素ナトリウム水溶液を滴下して中和し、滴下終了後更に同温度に保持して1時間攪拌を行った。その後、反応混合液から水層を分液除去した後、得られた油層に水200gを加えて攪拌し、再度水層を分液し、同様の操作を2回行った。
水洗後、得られた油層からトルエンを留出させ溜去した後、圧力1.3KPa、留出温度135℃〜138℃の条件で精密蒸留して、目的物を留出させ、ガスクロマトグラフィー分析法による純度99.1%のエキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−8−エン−3−カルボン酸メチル(エキソ体/エンド体比:100/0、ガスクロマトグラフィー分析による)137.9gを液体として得た。
原料テトラシクロドデセンカルボン酸に対する収率は84.3%であった。
【0027】
〔工程2〕
エキソ型9−又は 8−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンの合成
攪拌翼、温度計、窒素流入管、冷却管を備えた容量2Lの4つ口フラスコに、ギ酸27.6g、トリフルオロメタンスルホン酸0.87g及びトルエン43.6gを仕込み、60℃に昇温後、その温度を保持しながら工程1で得たテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸メチルエステル87.2gを2時間かけて滴下した。滴下終了後更に温度60℃で1時間、攪拌下に反応を行った。
反応終了後、反応終了混合液に16%水酸化ナトリウム水溶液270gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、温度80℃に昇温して、その温度を保持したまま3時間攪拌下に反応を行った。加水分解反応終了後、反応混合液にトルエン150gを加えて温度80℃にて1時間攪拌した後、油層を分液除去した。得られた目的物を含む水層に水350g、メチルイソブチルケトン600gを添加した後、17.5%塩酸水溶液243gを50℃で30分かけて滴下し、水溶液を酸性にした。この溶液を温度50℃に保持して2時間攪拌した後、水層を分液除去した。得られた目的物を含む油層に、16%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、水層をpH5程度に調整し、その後1時間攪拌した後、水層を分液除去した。得られた目的物を含む油層に水157gを加え、温度50℃で攪拌した後、水層を分液除去し、同様の操作を2回行った。
水洗後、得られた油層を濃縮して溶媒500gを留出させた後、n−ヘプタン100gを加えて、晶析した。晶析液を室温まで冷却した後、析出した結晶を濾過、乾燥してガスクロマトグラフィー分析法による純度100%のエキソ型8−又は9−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン(エキソ体/エンド体比:100/0、ガスクロマトグラフィー分析による)61.0gを白色固体として得た。
【0028】
1H−NMR同定結果(400MHz、溶媒:DMSO―d6、基準物質:テトラメチルシラン)
0.97(d、1H)、1.06(m、1H)、1.18-1.36(m、4H)、1.40-1.46(m、1H)、1.55-1.74(m、3H)、1.90-1.96(m、1H)、2.03-2.18(m、3H)、2.30(m、1H)、3.47(s、1H)、4.45(s、1H)、11.93(s、1H) (ppm)
【0029】
13C−NMR同定結果(400MHz、溶媒:DMSO―d6、基準物質:テトラメチルシラン)
176.50,176.39,176.37,73.25,68.21,51.93,51.70,48.11,47.91,47.86,47.76,47.63,47.54,47.38,46.95,46.75,44.09,43.29,43.09,40.13,39.92,39.26,38.82,38.75,36.13,35.15,34.85,34.51,33.38,33.29,31.15(ppm)
【0030】
〔比較例1〕
低エキソ体比の9−又は8−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンの合成
攪拌翼、温度計、窒素流入管、冷却管を備えた容量10Lの4つ口フラスコに、ギ酸265.0g、トリフルオロメタンスルホン酸8.4g及びトルエン419gを仕込んだ。
溶液を温度60℃に昇温後、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸メチルエステル(エキソ体/エンド体比:48.2/51.8、ガスクロマトグラフィー分析による)838.0gを温度60℃において2時間かけて滴下した。滴下終了後さらに同温度で1時間攪拌下に反応を行った。
反応終了後、反応終了混合液に16%水酸化ナトリウム水溶液2880gを1時間かけて滴下し、滴下終了後、反応混合液を温度80℃に昇温し、その温度を保持したまま3時間攪拌下に反応した。
加水分解反応終了後、これにトルエン503gを加えて80℃にて1時間攪拌し、油層を分液除去した。得られた水層にメチルイソブチルケトン2514gを添加した後、17.5%塩酸2595gを50℃に保持しながら30分かけて滴下した。50℃でさらに2時間攪拌した後、水層を分液除去した。得られた油層に16%水酸化ナトリウム水溶液384gを滴下し、滴下終了後、1時間攪拌し、水層を分液除去した。
得られた油層に水1508gを加え、50℃で攪拌した後、水層を分液除去した。同様の水洗操作をさらに2回行った。水洗した油層を濃縮して溶媒1114gを留出させ除去し、80℃でn−ヘプタン1400gを添加し、晶析した。晶析液を室温まで冷却した後、析出した固体を濾過、乾燥してガスクロマトグラフィー分析法による純度100%のヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン(エキソ体/エンド体比:62/38、ガスクロマトグラフィー分析による)431.0gを白色固体として得た。
【0031】
1H−NMR同定結果(400MHz、溶媒:DMSO―d6、基準物質:テトラメチルシラン)
0.92-1.06(m、2H)、1.15-1.30(m、3H)、1.36-1.74(m、4H)、1.88-2.14(m、4H)、2.30-2.35(m、1H)、2.54-2.56(m、1H)、3.36-3.47(m、1H)、4.43(s、1H)、11.94(s、1H)(ppm)
【0032】
13C−NMR(400MHz、溶媒:DMSO―d6、基準物質:テトラメチルシラン)
176.29,175.18,73.16,73.09,51.83,51.60,47.90,47.77,47.74,47.68,47.54,47.30,46.87,46.78,46.66,46.47,44.00,43.98,43.29,43.22,43.02,40.22,40.13,39.92,39.24,39.16,38.72,38.64,38.58,36.78,34.77,34.44,33.29,33.20,32.55,31.38,31.02(ppm)
【0033】
〔比較例2〕
エンド型の9−又は8−ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンの合成
エキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−カルボン酸153.0gに代えてエンド型のテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸(エキソ体/エンド体比:1/99、ガスクロマトグラフィー分析による)153.0gを使用した以外は、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー分析法による純度100%のテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸メチルエステル(エキソ体/エンド体比:1/99、ガスクロマトグラフィー分析による)132.0gを合成した。
次いで、得られたエンド型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸メチルエステル87.2gを用いた以外は実施例1と同様にして合成した結果、ガスクロマトグラフィー分析法による純度100%のエンド型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン(エキソ体/エンド体比:1/99、ガスクロマトグラフィー分析による)52.0gを白色固体として得た。
【0034】
1H−NMR同定結果(400MHz、溶媒:DMSO―d6、基準物質:テトラメチルシラン)
0.98-1.05(m、2H)、1.15-1.43(m、4.5H)、1.47-1.67(m、2.5H)、1.85-2.18(m、4H)、2.34-2.40(m、1H)、2.50-2.65(m、1H)、3.44(d、1H)、4.44(m、1H)、11.95(s、1H)(ppm)
【0035】
13C−NMR(400MHz、溶媒:DMSO―d6、基準物質:テトラメチルシラン)
175.04,175.02,73.16,72.93,68.02,51.77,48.91,47.72,47.57,47.42,47.23,46.60,46.44,46.31,46.09,43.11,43.05,42.99,42.83,42.46,40.14,40.06,39.92,38.64,38.41,37.65,36.93,36.61,35.98,32.88,32.65,32.38,31.21,31.18(ppm)
【0036】
〔参考例1〕
ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンを原料とするポリエステルの重合
攪拌翼、温度計、窒素流入管、ディーンスターク冷却管を備えた容量1Lの4つ口フラスコに、実施例1で得られたエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン11.1g、アニソール22.2g及びp−トルエンスルホン酸1.1gを仕込んだ。
その後、反応溶液を130℃に加熱して4時間攪拌下に反応を行った後、得られた反応液をゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPC)により2時間反応時点及び4時間反応時点で分析したところ、生成した重合体のポリスチレン換算重量平均分子量はそれぞれ、4570、5840であった。結果を表1に示した。
【0037】
〔参考比較例1〕
エキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンに代えて比較例1で得られた低エキソ体ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンを用いた以外は参考例1と同様に反応を行った。
得られた反応液をゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPC)により分析したところ、生成した重合体のポリスチレン換算重量平均分子量はそれぞれ、1780、2110であった。結果を表1に示した。
【0038】
〔参考比較例2〕
エキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンに代えて比較例2で得られたエンド形ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンを用いた以外は参考例1と同様に反応を行った。
得られた反応液をGPCにより分析したところ、生成した重合体のポリスチレン換算重量平均分子量はそれぞれ、640、1060であった。結果を表1に示した。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)

一般式(1)
(式中、R〜Rは各々独立して炭素原子数1〜6のアルキル基又は水素原子を示す)
で表される、カルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80/20〜100/0であるエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類。
【請求項2】
エキソ/エンド比が90/10〜100/0である請求項1に記載のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類。
【請求項3】
下記一般式(2)

一般式(2)
(式中、R〜Rは一般式1のそれと同じである。)
で表されるカルボキシル基のエキソ/エンドモル比が80/20〜100/0であるエキソ型テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸類のカルボキシル基を一級アルコールでエステル化してアルコキシカルボニルとし、得られたエキソ型カルボン酸エステルにギ酸を付加反応させ、次いで、生成したギ酸エステルを加水分解することを特徴とする請求項1記載のエキソ型ヒドロキシ−3−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン類の製造方法。

【公開番号】特開2008−133223(P2008−133223A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321025(P2006−321025)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000243272)本州化学工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】