説明

エスカレータの踏段破損防止装置

【課題】エスカレータの踏段に異物が接触することにより発生する踏段の破損を防止するエスカレータの踏段破損防止装置を提供する。
【解決手段】エスカレータの踏段破損防止装置1は、エスカレータの乗降口近傍に設けられ、乗降口近傍の振動を検出する振動検出計2と、振動検出計2の出力信号に基づいて、エスカレータの乗降口近傍で発生する振動の周期を演算する振動周期演算手段3と、振動周期演算手段3により求められた振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の固有振動周期とを比較し、振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動検出計が検出した振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物が踏段に継続的に接触していると判断する踏段破損判断手段4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータの踏段破損防止装置に係り、特に、エスカレータの乗降口近傍で異物が踏段に接触していることを検出し、エスカレータの踏段の破損を防止するエスカレータの踏段破損防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に、従来のエスカレータの乗降口を断面で示す。図5(a)は、エレベータ乗降口10を側面からみた断面図であり、図5(b)は、図5(a)のA−A断面であり、エレベータ乗降口10を正面からみた断面図である。ここで、エレベータの踏段11は、図5(a)の矢印の方向に進行しているものとする。エスカレータ乗降口10には、移動する踏段11と、櫛プレート13に装着された櫛12とが、間隔を置いて相互に噛み合い異物が混入するのを防止している。すなわち、櫛の先端部16は、接触しないように踏段の溝15に噛み合い挿入される。
【0003】
通常の異物は、踏段の溝15と櫛の先端部16とによりブロックされ相互の隙間に混入することはない。しかし、図5に示すように、例えば、ボルトのような異物14が踏段の溝15と櫛の先端部16との隙間に混入する場合がある。この場合には、エスカレータを停止させて異物14を除去しなければならない。
【0004】
特許文献1には、エスカレータの異物混入検出装置が開示されている。ここでは、エスカレータの乗降口の近傍にエスカレータから発生する騒音を検知する騒音計を設置し、この騒音周期と、エスカレータの踏段が通過するときの固有周期と一致することでエスカレータの乗降口に異物が混入していることを判断する。そして、異物の混入を判断するとエスカレータの停止等の処置が行われる。
【0005】
特許文献2には、乗客コンベヤーの異物検出装置が開示されている。ここでは、乗降口の床板の主枠中間寄りの縁部に取付板が装着されて踏板の桟の相互間の溝内に検出板が配置され、報知装置が、桟の相互間の溝に嵌着した異物に押されることにより発生する検出板の変位を介して動作することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−101663号公報
【特許文献2】特開平11−43279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、エスカレータの踏段に異物が接触しているか否かを的確に判断する装置がなく、接触した異物が一定時間継続して放置されると踏段が破損する虞があった。
【0008】
また、特許文献1のように、騒音計を用いてエスカレータの乗降口に異物が混入していることを判断する技術では、エスカレータ近傍における他の騒音(エスカレータの動作に関係しないエスカレータ近傍の騒音)が踏段の固有騒音周期と一定時間同期した場合にエスカレータの停止等の誤作動に至る虞がある。また、異物の形状は問題ないにもかかわらず、その異物自体が騒音を発生する場合には、エスカレータの停止等の誤作動に至る虞がある。
【0009】
さらに、特許文献2のように、異物の混入を検出板の変位により判断する技術では、例えば、傘の先端などの乗客の所持物の一部が接触しただけで報知装置等の誤作動に至る虞がある。
【0010】
本願の目的は、かかる課題を解決し、エスカレータの踏段に異物が接触することにより発生する踏段の破損を防止するエスカレータの踏段破損防止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るエスカレータの踏段破損防止装置は、エスカレータの乗降口近傍に設けられ、乗降口近傍の振動を検出する振動検出計と、振動検出計の出力信号に基づいて、エスカレータの乗降口近傍で発生する振動周期を演算する振動周期演算手段と、振動周期演算手段により求められた振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の固有振動周期とを比較し、振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動検出計が検出した振動の振幅が通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物が踏段に継続的に接触していると判断する踏段破損判断手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、エスカレータの踏段破損防止装置は、更に、制御装置を備え、制御装置が、一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断した場合には警報発生手段に警報を発報させることが好ましい。
【0013】
さらに、エスカレータの踏段破損防止装置は、制御装置が、警報を発報した後、一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断した場合にはエスカレータ安全装置にエスカレータを停止させることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るエスカレータの踏段破損防止方法は、エスカレータの乗降口近傍に設けられた振動検出計により乗降口近傍の振動を検出するステップと、振動検出計の出力信号に基づいて、エスカレータの乗降口近傍で発生する振動周期を演算するステップと、演算された振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の固有振動周期とを比較するステップと、振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動検出計が検出した振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物が踏段に継続的に接触していると判断するステップと、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、エスカレータの踏段破損防止方法は、一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断される場合には警報を発報することが好ましい。
【0016】
さらに、エスカレータの踏段破損防止方法は、警報が発報された後一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断される場合にはエスカレータを停止させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、エスカレータの踏段破損防止装置は、踏段破損判断手段が、振動周期演算手段により求められた振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の固有振動周期とを比較する。そして、振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動検出計が検出した振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物が踏段に継続的に接触していると判断する。すなわち、エスカレータの乗降口において踏段と櫛との間に挟まった異物が、エスカレータの踏段に接触し、エスカレータの踏段の進行に合わせて発生する振動を検出する。そして、この振動の周期及び振幅から異物が踏段に継続的に接触していると判断することができる。
【0018】
以上のように、本発明に係るエスカレータの踏段破損防止装置によれば、エスカレータの踏段に異物が接触することにより発生する踏段の破損を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を用いて本発明に係るエスカレータの踏段破損防止装置の実施の形態につき、詳細に説明する。
【0020】
図1に、エスカレータの踏段破損防止装置の1つの実施形態の概略構成を示す。また、図2に、エスカレータ乗降口10におけるエスカレータの踏段破損防止装置1の配置を側面から示す。また、図3に、エスカレータ乗降口10における振動センサの取り付け位置を斜視図で示す。図3では、例えばボルトのような異物14が踏段11と櫛12との間に挟まっているものとする。さらに、従来のエスカレータの乗降口を示す図5内に振動センサ2の位置を示す。
【0021】
エスカレータの踏段破損防止装置1は、振動検出計である振動センサ2と、マイクロ・コンピュータ17を構成する振動波形回路7、振動周期演算手段3、及び踏段破損判断手段4と、制御装置19を構成するタイマー18、警報発生手段5、及びエスカレータ安全装置6とから成る。また、踏段破損判断手段4は、踏段通過固有振動周期演算・記憶装置8、及び比較手段9から構成される。
【0022】
振動センサ2は、図2、図3及び図5に示すように、エスカレータ乗降口10の上下左右の4箇所にそれぞれ配置される。そして、振動センサ2は、櫛12に取付けている櫛プレート13の両側面に取付けられ、エスカレータ乗降口10近傍の櫛プレート13を介して伝わる振動を検出する。
【0023】
エスカレータの上部機械室20には、図2に示すように、マイクロ・コンピュータ17及び制御装置19が設置される。そして、マイクロ・コンピュータ17には4箇所に設置された振動センサ2がそれぞれ接続される。
【0024】
マイクロ・コンピュータ17では、まず、振動波形回路7が振動センサ2からの信号を受信して振動波形を整形する。振動周期演算手段3は、振動波形回路7により整形された振動波形について周期性を有するか否かを演算する。周期性を有する場合には、その周期データ及び振動の振幅に関するデータを踏段破損判断手段4に入力する。踏段破損判断手段4は、予め計測された通常運転時におけるエスカレータの踏段11が通過する際の固有振動周期データ及び固有振動の振幅に関するデータを基準値として踏段通過固有振動周期演算・記憶装置8に演算させ記憶させておく。そして、踏段破損判断手段4は、比較手段9に振動周期演算手段3により演算された振動周期と、踏段通過固有振動周期演算・記憶装置8に演算させ記憶させていた固有振動周期とを比較させる。そして、踏段破損判断手段4は、振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動センサ2が検出した振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段11が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物14が踏段11に継続的に接触していると判断する。
【0025】
すなわち、踏段破損判断手段4は、エスカレータ乗降口10の櫛12に挟まった異物14が、エスカレータの踏段11に接触し、エスカレータの踏段11の進行に合わせて発生する振動を検出し、この振動の周期性が通常運転時におけるエスカレータの踏段11が通過する際にエスカレータの踏段11の進行に合わせて発生する固有振動と所定の誤差範囲内で一致することを判断の第1の条件とする。また、振動センサ2が検出した振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段11が通過する際の振幅に対して所定の幅以上であることを判断の第2の条件とする。これは、異物14が踏段11と接触することで、通常運転時におけるエスカレータの踏段11が通過する際にエスカレータの踏段11の進行に合わせて発生する固有振動の振幅よりも振幅が大きくなる現象を捉えたことによる。そして、踏段破損判断手段4は、第1の条件と第2の条件とがAND条件となる場合に異物14が踏段11に継続的に接触していると判断し、制御装置19に異常信号を発信する。
【0026】
これらの判断条件の設定により、乗客の乗降による不規則な振動は第1の条件から排除されて比較の対象とはならない。また、そのエレベータの装置類に特有な振動特性は、予め固有振動周期データ及び振動の振幅データに織り込まれているため、エレベータごとに異なる振動特性の偏差を考慮する必要はない。
【0027】
踏段破損判断手段4からの異常信号を受信した制御装置19は、タイマー18の計測により、一定時間(T1)異物14が踏段11に継続的に接触していると判断した場合には、警報発生手段5に警報アナウンスを発報させる。これにより、異物14がエスカレータの乗降口において踏段11と櫛12との間に挟まった異常事態を報知することができる。また、踏段破損判断手段4からの異常信号を受信した制御装置19は、タイマー18の計測により、上記一定時間(T1)経過後さらに一定時間(T2)異物14が踏段11に継続的に接触していると判断した場合には、エスカレータ安全装置6にエスカレータを停止させる。これにより、異常事態の報知に気が付かない場合であっても異物14との接触が進行して踏段11が破損することを防止できる。
【0028】
図4に、エスカレータの踏段破損防止方法をフロー図で示す。まず、エスカレータの乗降口近傍に設けられた振動センサにより振動を検出する(S1)。振動センサ2の出力信号に基づいて、エスカレータの乗降口近傍で発生する振動周期を演算する(S2)。演算された振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段11が通過する際の固有振動周期とが所定の誤差範囲内で一致するか否か比較する(S3)。ここで、所定の誤差範囲内で一致する場合は次のステップに進み、一致しない場合にはS1に戻る。次に、振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段11が通過する際の振幅に対して所定の幅以上であるか否かを比較する(S4)。所定の幅以上である場合は次のステップに進み、越えていない場合にはS1に戻る。そして、S3及びS4が共にYESである場合には、異物14が踏段11に継続的に接触していると判断して異常信号を出力する(S5)。次に、一定時間(T1)異物14が踏段11に継続的に接触しているか否か判断する(S6)。継続している場合には警報を発報し、継続していない場合にはS1に戻る(S7)。さらに、警報を発報した後、さらに一定時間(T2)異物14が踏段11に継続的に接触しているか否か判断する(S8)。継続している場合にはエスカレータを停止させ、継続していない場合にはS6に戻る(S9)。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るエスカレータの踏段破損防止装置の1つの実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】エスカレータ乗降口におけるエスカレータの踏段破損防止装置の配置を示す側面図である。
【図3】エスカレータ乗降口における振動センサの取り付け位置を示す斜視図である。
【図4】エスカレータの踏段破損防止方法を示すフロー図である。
【図5】従来のエスカレータの乗降口を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 エスカレータの踏段破損防止装置、2 振動検出計(振動センサ)、3 振動周期演算手段、4 踏段破損判断手段、5 警報発生手段、6 エスカレータ安全装置、7 振動波形回路、8 踏段通過固有振動周期演算・記憶装置、9 比較手段、10 エスカレータ乗降口、11 踏段、12 櫛、13 櫛プレート、14 異物、15 踏段の溝、16 櫛の先端部、17 マイクロ・コンピュータ、18 タイマー、19 制御装置、20 上部機械室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータの乗降口近傍に設けられ、乗降口近傍の振動を検出する振動検出計と、
振動検出計の出力信号に基づいて、エスカレータの乗降口近傍で発生する振動周期を演算する振動周期演算手段と、
振動周期演算手段により求められた振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の固有振動周期とを比較し、振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動検出計が検出した振動の振幅が通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物が踏段に継続的に接触していると判断する踏段破損判断手段と、
を備えることを特徴とするエスカレータの踏段破損防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエスカレータの踏段破損防止装置であって、更に、制御装置を備え、制御装置は、一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断した場合には警報発生手段に警報を発報させることを特徴とするエスカレータの踏段破損防止装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエスカレータの踏段破損防止装置であって、制御装置は、警報を発報した後、一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断した場合にはエスカレータ安全装置にエスカレータを停止させることを特徴とするエスカレータの踏段破損防止装置。
【請求項4】
エスカレータの乗降口近傍に設けられた振動検出計により乗降口近傍の振動を検出するステップと、
振動検出計の出力信号に基づいて、エスカレータの乗降口近傍で発生する振動周期を演算するステップと、
演算された振動周期と、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の固有振動周期とを比較するステップと、
振動周期が固有振動周期と所定の誤差範囲内で一致し、かつ、振動検出計が検出した振動の振幅が、通常運転時にエスカレータの踏段が通過する際の振幅に対して所定の幅以上である場合には、異物が踏段に継続的に接触していると判断するステップと、
を備えることを特徴とするエスカレータの踏段破損防止方法。
【請求項5】
請求項4に記載のエスカレータの踏段破損防止方法であって、一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断される場合には警報を発報することを特徴とするエスカレータの踏段破損防止方法。
【請求項6】
請求項5に記載のエスカレータの踏段破損防止方法であって、警報が発報された後一定時間異物が踏段に継続的に接触していると判断される場合にはエスカレータを停止させることを特徴とするエスカレータの踏段破損防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−155053(P2009−155053A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335578(P2007−335578)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】