説明

エスカレータ用安全装置

【課題】エスカレータが緊急停止した場合に、乗員に対する安全性を向上させることができるエスカレータ用安全装置を提供すること。
【解決手段】エスカレータ用安全装置1は、乗員保護部材12を、エスカレータ100の進行方向に間隔を空けて複数備える。乗員保護部材12は、乗員搬送領域に展開するものである。乗員搬送領域とは、エスカレータ100の一対の欄干102,103と複数の踏段101との間の領域である。エスカレータ用安全装置1は、複数の踏段101を周回させている運転状態から緊急停止した場合に、乗員保護部材12を乗員搬送領域に展開させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータ用安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータでは、例えば、欄干と踏段との間に物が挟まることにより複数の踏段の周回が突然停止された場合などの緊急停止時に、乗員は、複数の踏段が周回していた際の慣性によりバランスを崩してしまうことがある。このため、緊急停止時に乗員を保護するための安全策が講じられたエスカレータも提案されている。その安全策としては、例えば、エスカレータの緊急停止時に、エアバッグにより、バランスを崩した乗員の身体を保護するものがある。
【0003】
エスカレータの緊急停止時の安全策としては、乗員に対する安全性がより高められたものであることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−53576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、エスカレータが緊急停止した場合に、乗員に対する安全性を向上させることができるエスカレータ用安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のエスカレータ用安全装置は、乗員保護部材を、エスカレータの進行方向に間隔を空けて複数備える。乗員保護部材は、乗員搬送領域に展開するものである。乗員搬送領域とは、エスカレータの一対の欄干と複数の踏段との間の領域である。エスカレータ用安全装置は、複数の踏段を周回させている運転状態から緊急停止した場合に、乗員保護部材を乗員搬送領域に展開させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、実施形態1に係るエスカレータ用安全装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、踏段バッグおよび踏段バッグ用点火装置の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、乗降板バッグおよび乗降板バッグ用点火装置の概略構成を示す図である。
【図4】図4は、実施形態2に係るエスカレータ用安全装置の要部の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、安全バーの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明に係るエスカレータ用安全装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の各実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0009】
〔実施形態1〕
実施形態1に係るエスカレータ用安全装置について説明する。図1は、実施形態1に係るエスカレータ用安全装置の概略構成を示す図である。図2は、踏段バッグおよび踏段バッグ用点火装置の概略構成を示す図である。図3は、乗降板バッグおよび乗降板バッグ用点火装置の概略構成を示す図である。なお、図3では、説明の都合上、後述の欄干103および移動手摺105の図示を省略している。以下、「エスカレータ用安全装置」を、単に「安全装置」と称する。実施形態1では、安全装置1は、後述の複数の踏段101を周回させているエスカレータ100、すなわち、駆動しているエスカレータ100が緊急停止した場合に、乗員Rがバランスを崩してしまうことを抑制するものである。ここでいう乗員Rとは、エスカレータ100を利用する者あるいは利用した者であり、エスカレータ100に乗っている人物だけでなく、少なくとも後述の乗降口106,107にいる人物も含んでいる。
【0010】
エスカレータ100は、複数の踏段101と、一対の欄干102,103と、移動手摺104,105を備えている。
【0011】
複数の踏段101は、無端状に連結されている。各踏段101は、エスカレータ100の利用対象、すなわち、乗員Rがエスカレータ100に乗っている際に足場とするものであり、図示しないトラスにより設定された傾斜角度を有して支持されている。各踏段101は、図示しない駆動モータにより乗降口106,107との間の階段状の乗り台として循環移動、すなわち、乗降口106と乗降口107との間を周回しながら移動する。
【0012】
欄干102,103は、エスカレータ100の幅方向において、複数の階段101の両側に設置されている。欄干102,103は、複数の踏段101を挟んで対向して設置されている。
【0013】
移動手摺104,105は、乗員Rが手を掛けるものである。移動手摺104,105は、無端状のベルトであり、欄干102,103のそれぞれの周縁部に移動可能に巻き付けられている。移動手摺104,105は、駆動モータにより各踏段101の移動(移動方向も含む)に同期して移動する。
【0014】
安全装置1は、異常状態検出装置10と、制御装置11と、複数の踏段バッグ12と、複数の乗降板バッグ13と、を備える。以下、実施形態1では、説明の都合上、エスカレータ100の進行方向が下りであるものとして説明する。
【0015】
異常状態検出装置10は、エスカレータ100の異常状態を検出するものである。実施形態1では、異常状態検出装置10は、エスカレータ100に設けられるものである。実施形態1では、異常状態検出装置10は、踏段101と、エスカレータ100のスカートガードパネルとの間に異物が挟まったこと、欄干102,103の下部に設けられた移動手摺入り込み口に乗員Rの手や異物が挟まったこと、踏段101が部分的に持ち上がったことなどを検出するものである。つまり、実施形態1では、異常状態検出装置10は、例えば、乗員Rの身体あるいは荷物がエスカレータ100に挟み込まれた状態である乗員挟込状態や、エスカレータ100の使用時にエスカレータ100を構成する機器に異常が生じた状態である機器異常状態を検出するセンサである。異常状態検出装置10は、乗員挟込状態や機器異常状態に基づいて、複数の踏段101を周回させているエスカレータ100の異常状態を検出した場合に、異常状態検出信号を出力する。
【0016】
制御装置11は、緊急停止装置である。制御装置11は、エスカレータ100を構成する部品である構成部品のうち、駆動モータなどの制御を行うことで、エスカレータ100の運転制御を行うものである。制御装置11は、異常状態検出装置10に電気的に接続されており、異常状態検出信号を入力した場合、すなわち、異常状態検出装置10が異常状態を検出した場合に、このエスカレータ100を緊急停止させるものである。制御装置11は、異常状態検出信号を入力すると、緊急制御信号を出力する。
【0017】
踏段バッグ12は、乗員保護部材である。踏段バッグ12は、異常状態検出装置10が異常状態を検出した場合に、乗員搬送領域に展開することで乗員Rを保護するためのものである。ここでいう乗員搬送領域とは、一対の欄干102,103と複数の踏段101との間の領域である。踏段バッグ12は、エスカレータ100の進行方向に間隔を空けて複数備えられている。踏段バッグ12は、踏段101に、エスカレータ100の進行方向において連続する所定数分の踏段101間隔おきに、実施形態1では、例えば3段おきに設けられている。実施形態1では、踏段バッグ12は、踏段101のクリートライザ101aに設けられている。具体的には、実施形態1では、エスカレータ100の幅方向において、踏段バッグ12がクリートライザ101aの両端部付近にそれぞれ1つずつ設置されている。実施形態1では、踏段バッグ12は、エスカレータ100が緊急停止した場合に、踏段バッグ用点火装置12aにより内部にガス供給されることで、クリートライザ101aから外部に突出し上方に展開および膨張、すなわち、乗員搬送領域に展開および膨張するものである。実施形態1では、踏段バッグ12は、内部にガス供給されると、外見上でブロック状あるいは柱状になるものとされている。実施形態1では、同一の踏段101に設けられている2つの踏段バッグ12が展開および膨張すると、これらの2つ踏段バッグ12は、エスカレータ100の幅方向に連続して位置するものとされている。
【0018】
実施形態1では、踏段バッグ用点火装置12aは、踏段バッグ12が設けられている踏段101において、2つの踏段バッグ12とともに設けられている。具体的には、実施形態1では、踏段バッグ用点火装置12aは、クリートライザ101aの裏面側に設置されており、エスカレータ100の幅方向において、2つの踏段バッグ12の間に配設されている。実施形態1では、踏段バッグ用点火装置12aは、制御装置11に電気的に接続されており、緊急制御信号を入力した場合、すなわち、制御装置11がエスカレータ100を緊急停止させた場合に、点火することで、エスカレータ100の幅方向において踏段バッグ用点火装置12aの両側にそれぞれ配設されている合計2つの踏段バッグ12の内部にガス供給を行う。
【0019】
乗降板バッグ13は、異常状態検出装置10が異常状態を検出した場合に、乗員Rを保護するためのものである。乗降板バッグ13は、エスカレータ100の乗降口106の足場である乗降板106aの下部、すなわち裏側に設けられている。実施形態1では、乗降板バッグ13は、エスカレータ100が運転状態から緊急停止した場合に、乗降板バッグ用点火装置13aにより内部にガス供給されることで、乗降板106aの上方に展開および膨張するものである。具体的には、乗降板バッグ13は、エスカレータ100が緊急停止した場合に、乗降板バッグ用点火装置13aにより内部にガス供給されることで、乗降板106aから外部に突出し、乗降板106aの上方で展開および膨張する。実施形態1では、乗降板バッグ13は、内部にガス供給されると、外見上でブロック状になるものとされている。実施形態1では、乗降板バッグ13は、展開および膨張すると、乗降板106aの表側のうち少なくとも踏段101側、すなわち、乗員搬送領域側の部分を覆うものとされている。乗降板バッグ13は、エスカレータ100が緊急停止した場合に、乗員搬送領域でバランスを崩し、エスカレータ100の幅方向と直交する方向において、搬送領域内から搬送領域外に出てきた乗員Rを保護するものである。なお、展開および膨張した状態での乗降板バッグ13の大きさは、エスカレータ100の乗降口106周辺のスペースなどの設置条件や、エスカレータ100の傾斜角度などを考慮して、乗員Rを保護するのに適した大きさとすることが好ましい。
【0020】
なお、図1における符号「107a」は、乗降口107の足場である乗降板を示している。
【0021】
実施形態1では、乗降板バッグ用点火装置13aは、乗降板バッグ13とともに、乗降板106aの下部に設けられている。実施形態1では、乗降板バッグ用点火装置13aは、制御装置11に電気的に接続されており、緊急制御信号を入力した場合、すなわち、制御装置11がエスカレータ100を緊急停止させた場合に、点火することで、乗降板バッグ用点火装置13aの側方に配設されている乗降板バッグ13の内部にガス供給を行う。
【0022】
次に、実施形態1に係る安全装置1の動作について説明する。
【0023】
エスカレータ100が運転開始し始めた後、異常状態検出装置10が異常状態を検出すると、異常状態検出装置10は、異常状態検出信号を制御装置11に出力する。制御装置11は、異常状態検出信号を入力すると、エスカレータ100を緊急停止させる。すなわち、複数の踏段101および移動手摺104,105が上階側と下階側との間で周回移動し始めた後、異常状態検出装置10が異常状態を検出すると、制御装置11が複数の踏段101および移動手摺104,105の周回を直ちに停止させる。また、制御装置11は、異常状態検出信号を入力すると、緊急制御信号を踏段バッグ用点火装置12aおよび乗降板バッグ用点火装置13aに出力する。踏段バッグ用点火装置12aおよび乗降板バッグ用点火装置13aは、緊急制御信号を入力すると、それぞれ着火し、踏段バッグ用点火装置12aから踏段バッグ12の内部にガス供給が行われるとともに、乗降板バッグ用点火装置13aから乗降板バッグ13の内部にガス供給が行われる。つまり、安全装置1は、エスカレータ100が複数の踏段101を周回させている運転状態から緊急停止した場合に、踏段バッグ12を乗員搬送領域に展開させるとともに、乗降板バッグ13を乗降板106aの上方に展開させ、展開した踏段バッグ12および乗降板バッグ13をそれぞれ膨張させる。
【0024】
踏段バッグ12が乗員搬送領域に展開および膨張すると、踏段101において、欄干102側に設けられた踏段バッグ12と、欄干103側に設けられた踏段バッグ12とがエスカレータ100の幅方向に連続して位置する。踏段バッグ12はエスカレータ100の進行方向に間隔を空けて複数備えられているため、乗員搬送領域は、欄干102側の複数の踏段バッグ12および欄干103側の複数の踏段バッグ12により、エスカレータ100の進行方向に複数に区画される。つまり、乗員搬送領域は、膨張および展開した複数の踏段バッグ12により、エスカレータ100の進行方向において複数の小区画に区切られる。
【0025】
小区画にいる乗員Rは、エスカレータ100が緊急停止してバランスを崩しそうになっても、その小区画を形成している降り口側の踏段バッグ12、実施形態1では、乗降口106側の踏段バッグ12により受け止められ、保護される。これにより、小区画にいる乗員Rが乗降口106側にバランスを崩してしまうことが抑制される。また、この乗員Rがいる小区画を基準とすると、この基準とされた小区画である基準小区画を形成している乗り口側の踏段バッグ12、実施形態1では、乗降口107側の踏段バッグ12により、基準小区画に対して乗降口107側に隣り合う小区画である乗り口側隣接小区画に乗員Rがいる場合に、乗り口側隣接小区画にいる乗員Rが基準小区画にいる乗員Rに寄りかかることが抑制される。つまり、基準小区画にいる乗員Rが乗降口106側にバランスを崩してしまうことが抑制される。したがって、この点でも、小区画にいる乗員Rが乗降口106側にバランスを崩してしまうことが抑制される。
【0026】
また、乗降板バッグ13が乗降板106aの上方に展開および膨張すると、乗降板106aは、それぞれ乗降板バッグ13によりエスカレータ100の幅方向において欄干102,103との間が覆われる。乗降板106aは、エスカレータ100の幅方向と直交する方向には、乗降板106aの表側のうち少なくとも乗員搬送領域側の部分が覆われる。したがって、万一、乗降口106付近で踏段101に乗っていた乗員Rがバランスを崩して乗降口106側に倒れてしまった場合には、倒れてしまった乗員Rは、展開および膨張した乗降板バッグ13により受け止められ、保護される。
【0027】
以上から、安全装置1では、制御装置11が複数の踏段101を周回させているエスカレータ100を緊急停止させた場合に、踏段101に乗っている乗員Rを保護することができる。したがって、安全装置1では、エスカレータ100が緊急停止した場合に、乗員Rに対する安全性を向上させることができる。
【0028】
また、踏段バッグ12が設けられている踏段101では、エスカレータ100の幅方向において、中央よりも欄干102側と欄干103側との2箇所から踏段バッグ12が乗員搬送領域に展開および膨張するので、踏段101の中央から1つの踏段バッグ12が乗員搬送領域に展開および膨張する安全装置と比べて、踏段バッグ12を膨らませる効率などで優れる。
【0029】
なお、実施形態1では、安全装置1は、踏段バッグ12が踏段101に、エスカレータ100の進行方向において連続する所定数分の踏段101間隔おきに設けられたものとしたが、各踏段101に踏段バッグ12を設けてもよい。この場合、エスカレータ100が緊急停止したときに、エスカレータ100の進行方向において連続する所定数分の踏段101間隔おきに、踏段バッグ12を展開および膨張させればよい。
【0030】
〔実施形態2〕
次に、実施形態2に係る安全装置1について説明する。図4は、実施形態2に係るエスカレータ用安全装置の要部の概略構成を示す図である。図5は、安全バーの動作を示す図である。なお、図4では、説明の都合上、欄干103および移動手摺105の図示を省略している。実施形態2の安全装置1は、踏段バッグ12を備える替わりに、安全バー14を備えている点に特徴がある。この他、実施形態2に係る安全装置1は、実施形態1に係る安全装置1と基本的構成が同一であるので、その説明を省略する。以下、実施形態2では、説明の都合上、エスカレータ100の進行方向が上りであるものとして説明する。
【0031】
安全バー14は、乗員保護部材である。安全バー14は、異常状態検出装置10が異常状態を検出した場合に、乗員Rを保護するためのものである。安全バー14は、エスカレータ100の進行方向に間隔を空けて複数備えられている。安全バー14は、踏段101に、エスカレータ100の進行方向において連続する所定数分の踏段101間隔おきに、例えば3段おきに設けられている。安全バー14は、エスカレータ100の幅方向において欄干102,103のうち踏段101側の部分である内側壁に設けられている。安全バー14は、欄干102,103の内側壁と重なっている状態である格納状態から、乗員搬送領域に展開された状態である展開状態となるものであり、格納状態で、エスカレータ100の幅方向視で、例えば、略横U字状に形成された板状部材である。安全バー14は、格納状態での乗り口側の端部である乗り口側端部、ここでは、乗降口106側の端部に対して、例えば回転軸部材やヒンジ等の連結部材を介して接続され、幅方向視において乗員搬送領域で連結部材周りに回動可能とされている。
【0032】
安全バー14は、付勢部材14aにより乗員搬送領域内でエスカレータ100の降り口側から乗り口側に向けて、ここでは、乗降口107側から乗降口106側に向けて回動する方向に付勢されている。つまり、安全バー14は、付勢部材14aにより欄干102,103の内側壁から乗員搬送領域内でエスカレータ100の降り口側から乗り口側に向かう方向、ここでは、乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動する回動部材である。付勢部材14aは、欄干102,103の内側壁と安全バー14との間に介在する板バネあるいはコイルスプリング等のバネ部材であり、例えば、連結部材に組み込まれたものである。安全バー14は、例えば連結部材に安全バー14の回動範囲を規制する機構である回動範囲規制機構が組み込まれることで、回動可能な範囲が限定されており、エスカレータ100の乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動した場合に、乗員搬送領域内でエスカレータ100の幅方向に沿った配置状態で停止可能なものである。なお、欄干102,103に後述の格納溝が形成されている場合には、安全バー14がエスカレータ100の乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動したときに、欄干102,103の内側壁と安全バー14の乗り口側端部との干渉により、乗員搬送領域内でエスカレータ100の幅方向に沿った配置状態で停止可能とされていてもよい。
【0033】
実施形態2では、欄干102,103の内側壁において、安全バー14を格納するための溝である格納溝が形成されており、格納状態の安全バー14が欄干102,103内に収容可能とされている。これにより、実施形態2では、安全バー14の格納状態時における欄干102,103および安全バー14の意匠性を向上させることができる。
【0034】
また、安全バー14は、ロック装置14bにより、例えば、降り口側の端部である降り口側端部、ここでは、乗降口107側の端部が欄干102,103の内側壁に固定されている。ロック装置14bは、制御装置11と電気的に接続されており、制御装置11から緊急制御信号を入力すると、安全バー14の欄干102,103に対する固定を解除する。つまり、安全バー14は、エスカレータ100が緊急停止した場合に、ロック装置14bによる固定が解除される。ロック装置14bとしては、例えば、ソレノイドを適用すればよい。
【0035】
実施形態2の安全装置1では、制御装置11は、異常状態検出信号を異常状態検出装置10から入力すると、緊急制御信号をロック装置14bおよび乗降板バッグ用点火装置13aに出力する。実施形態2の安全装置1では、ロック装置14bが緊急制御信号を入力すると、安全バー14の欄干102,103の内側壁に対する固定を解除し、安全バー14は、付勢部材14aの付勢力により格納状態から展開状態に回動、すなわち、降り口側の乗降口107側から乗り口側の乗降口106側に向かう方向に回動する。
【0036】
実施形態2の安全装置1では、安全バー14が乗員搬送領域に展開すると、欄干102に設けられた安全バー14と、欄干103に設けられた安全バー14とがエスカレータ100の幅方向に連続して位置する。実施形態2の安全装置1では、安全バー14はエスカレータ100の進行方向に間隔を空けて複数備えられているため、乗員搬送領域は、欄干102側の複数の安全バー14および欄干103側の複数の安全バー14により、エスカレータ100の進行方向に複数に区画される。つまり、実施形態2の安全装置1では、乗員搬送領域は、展開した複数の安全バー14により、エスカレータ100の進行方向において複数の小区画に区切られる。
【0037】
実施形態2の安全装置1では、小区画にいる乗員Rは、エスカレータ100が緊急停止してバランスを崩しそうになっても、その小区画を形成している降り口側の安全バー14、ここでは、乗降口107側の安全バー14により受け止められ、保護される。これにより、実施形態2の安全装置1では、小区画にいる乗員Rは、乗降口107側にバランスを崩してしまうことが抑制される。また、実施形態2の安全装置1では、この乗員Rがいる小区画を基準とすると、この基準とされた小区画である基準小区画を形成している乗り口側の安全バー14、実施形態2では、乗降口106側の安全バー14により、基準小区画に対して乗降口106側に隣り合う小区画である乗り口側隣接小区画に乗員Rがいる場合に、乗り口側隣接小区画にいる乗員Rが基準小区画にいる乗員Rに寄りかかることが抑制される。つまり、基準小区画にいる乗員Rが乗降口107側にバランスを崩してしまうことが抑制される。したがって、この点でも、小区画にいる乗員Rが乗降口107側にバランスを崩してしまうことが抑制される。また、実施形態2の安全装置1では、基準小区画にいる乗員Rは、乗降口106側にバランスを崩しそうになっても、基準小区画を形成している乗降口106側の安全バー14により、受け止められ、保護される。つまり、基準小区画にいる乗員Rが乗降口106側にバランスを崩してしまうことが抑制される。したがって、この点でも、小区画にいる乗員Rが乗降口106側にバランスを崩してしまうことが抑制される。
【0038】
なお、実施形態2の乗降板バッグ用点火装置13aが緊急制御信号を入力した場合の乗降板バッグ13の動作および効果については、実施形態1と同様である。
【0039】
以上から、実施形態2の安全装置1では、制御装置11が複数の踏段101を周回させているエスカレータ100を緊急停止させた場合に、踏段101に乗っている乗員Rを保護することができる。したがって、実施形態2の安全装置1では、エスカレータ100が緊急停止した場合に、乗員Rに対する安全性を向上させることができる。
【0040】
なお、実施形態2では、安全バー14がロック装置14bによる固定解除状態で付勢部材14aの付勢力により回動するものとしたが、付勢部材14aおよびロック装置14bを設ける替わりに、安全バー14を回動させるためのモータである回動モータを設け、この回動モータの回転力により安全バー14を回動させてもよい。
【0041】
また、実施形態2の安全装置1は、エスカレータ100が緊急停止した場合に、乗員搬送領域で、乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動する安全バー14を複数備えたものとしたが、エスカレータ100の進行方向において、乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動可能な安全バー14と、乗降口106側から乗降口107側に向かう方向に回動可能な安全バー14を間隔を空けて交互に複数備えておいてもよい。この場合、エスカレータ100の進行方向が上りであって、エスカレータ100が緊急停止したときには、乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動可能な安全バー14を回動させ、エスカレータ100の進行方向が下りであって、エスカレータ100が緊急停止したときには、乗降口106側から乗降口107側に向かう方向に回動可能な安全バー14を回動させればよい。
【0042】
また、各安全バー14に、乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動し展開状態となる機能と、乗降口106側から乗降口107側に向かう方向に回動し展開状態となる機能とを併せて持たせてもよい。この場合、エスカレータ100の進行方向が上りであって、エスカレータ100が緊急停止したときには、安全バー14を乗降口107側から乗降口106側に向かう方向に回動させ、エスカレータ100の進行方向が下りであって、エスカレータ100が緊急停止したときには、安全バー14を乗降口106側から乗降口107側に向かう方向に回動させればよい。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
1 安全装置
10 異常状態検出装置
11 制御装置
12 踏段バッグ(乗員保護部材)
12a 踏段バッグ用点火装置
13 乗降板バッグ
13a 乗降板バッグ用点火装置
14 安全バー(乗員保護部材、回動部材)
14a 付勢部材
14b ロック装置
100 エスカレータ
101 踏段
102 欄干
103 欄干
106 乗降口
106a 乗降板
107 乗降口
107a 乗降板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータの一対の欄干と複数の踏段との間の領域である乗員搬送領域に展開する乗員保護部材を、前記エスカレータの進行方向に間隔を空けて複数備え、
前記複数の踏段を周回させている運転状態から緊急停止した場合に、前記乗員保護部材を前記乗員搬送領域に展開させる
ことを特徴とするエスカレータ用安全装置。
【請求項2】
前記乗員保護部材は、前記踏段に設けられ、前記緊急停止した場合に、内部にガス供給されることで前記踏段のクリートライザから前記乗員搬送領域に展開および膨張する踏段バッグである
ことを特徴とする請求項1に記載のエスカレータ用安全装置。
【請求項3】
前記乗員保護部材は、前記エスカレータの幅方向において前記欄干のうち前記踏段側の部分である内側壁に設けられ、前記内側壁から前記乗員搬送領域内で前記エスカレータの降り口側から乗り口側に向かう方向に回動し、前記乗員搬送領域内で前記エスカレータの幅方向に沿った配置状態で停止可能な回動部材であり、
前記回動部材は、
付勢部材により前記乗員搬送領域内で前記エスカレータの降り口側から乗り口側に向けて回動する方向に付勢されており、
ロック装置により前記内側壁に固定され、前記緊急停止した場合に、前記ロック装置による固定が解除される
ことを特徴とする請求項1に記載のエスカレータ用安全装置。
【請求項4】
前記エスカレータの乗降板に設けられ、前記緊急停止した場合に、内部にガス供給されることで前記乗降板の上方に展開および膨張する乗降板バッグをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエスカレータ用安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60250(P2013−60250A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198828(P2011−198828)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】